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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】抗ウイルス剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 65/48 20090101AFI20241018BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20241018BHJP
   A61K 36/9062 20060101ALI20241018BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
A01N65/48
A01P1/00
A61K36/9062
A61P31/12
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020178055
(22)【出願日】2020-10-23
(65)【公開番号】P2021070689
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2019194142
(32)【優先日】2019-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度~令和2年度、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センター「イノベーション創出強化研究推進事業」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】591060980
【氏名又は名称】岡山県
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鳴坂 義弘
(72)【発明者】
【氏名】畑中 唯史
(72)【発明者】
【氏名】鳴坂 真理
(72)【発明者】
【氏名】森本 隼人
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特表平05-504937(JP,A)
【文献】特開2019-131536(JP,A)
【文献】特開2018-118959(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0170928(US,A1)
【文献】アグリバイオ,2019年,3(4),P.93-95
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 65/
A01P 1/
A61K 36/
A61P 31/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物精製物を含む抗ウイルス剤であって、
前記植物精製物が月桃由来のプロアントシアニジン精製物からなり、かつ分子量が8500以上25000以下のプロアントシアニジンを有効成分として含むことを特徴とする抗ウイルス剤。
【請求項2】
前記プロアントシアニジンの分子量が10000以上25000以下である、請求項1に記載の抗ウイルス剤。
【請求項3】
前記プロアントシアニジンの末端構造におけるエピカテキンとカテキンの割合の合計に対するエピカテキンの割合が95%以上である、請求項1又は2に記載の抗ウイルス剤。
【請求項4】
前記プロアントシアニジンの分子量が10000以上25000以下であり、かつ前記プロアントシアニジンの末端構造におけるエピカテキンとカテキンの割合の合計に対するエピカテキンの割合が99%以上である、請求項1に記載の抗ウイルス剤。
【請求項5】
植物ウイルス及び動物ウイルスからなる群から選択される少なくとも1種のウイルスに対して用いられる請求項1から4のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
【請求項6】
前記植物ウイルスが、トバモウイルス属ウイルス、ベゴモウイルス属ウイルス、ポティウイルス属ウイルス、ククモウイルス属ウイルス、カルラウイルス属ウイルス及びポテックスウイルス属ウイルスからなる群から選択される少なくとも1種である請求項5に記載の抗ウイルス剤。
【請求項7】
前記動物ウイルスが、インフルエンザウイルス、ノロウイルス、コロナウイルス、豚コレラウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、エイズウイルス(HIV)及びバキュロウイルスからなる群から選択される少なくとも1種である請求項5に記載の抗ウイルス剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロアントシアニジンを有効成分として含む抗ウイルス剤に関する。
【背景技術】
【0002】
糸状菌病、細菌病、植物ウイルス病等により引き起こされる植物病害による世界の農業生産量の損失は15%にも及び、そのうち植物ウイルス病による作物生産量の損失額は年間6兆円を超えると予想されている。植物ウイルス病は農作物に様々な異常を引き起こし、収量及び品質に大きな被害を与えている。植物ウイルスに対しては、日本においてレンテミンが農薬登録されているものの、特効薬となる化学農薬は存在しない(レンテミンは、野田食菌工業(株)の登録商標。農薬登録第15584号、第17774号、第19439号、第19440号)。そこで、媒介生物の防除や弱毒ウイルスの接種など時間と手間をかけた耕種的防除を行って、植物ウイルス病の被害を軽減させているのが実情である。
【0003】
インフルエンザウイルス等の動物ウイルスは、生体内に長期間潜伏感染して重大な影響を与える。特に鳥インフルエンザウイルスについては、ヒトからヒトへ感染を可能とする変異インフルエンザウイルスによるパンデミックの発生が懸念されており、これを防ぐ簡便で新しい技術が求められている。
【0004】
特許文献1には、リンゴ未熟果又はホップ苞に由来するプロアントシアニジン系ポリフェノールを含有するウイルス不活性化剤が記載されており、抗インフルエンザウイルス活性を有するとされている。また、特許文献2には、クロトン(Croton)種から得られるプロアントシアニジンポリマー組成物が記載されており、平均分子量が約700~約3000のプロアントシアニジンポリマーを含む水溶性画分を単離したこと、対象ウイルスとしてRSウイルス、インフルエンザウイルス等が例示されており、動物やヒトにin vivo投与した場合に抗ウイルス効果を発揮するとされている。
【0005】
しかしながら、これら特許文献1及び2には、アルピニア属植物から得られる特定分子量のプロアントシアニジンを有効成分とした抗ウイルス剤についての記載はなく、また当該プロアントシアニジンが優れた抗ウイルス活性を発現することについての記載もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2006/115123A1
【文献】特許第3448052号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、植物ウイルス及び動物ウイルスの感染を効果的に抑制することのできるプロアントシアニジンを有効成分とした抗ウイルス剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、植物精製物を含む抗ウイルス剤であって、前記植物精製物がアルピニア属植物抽出物からなり、かつ分子量が8500以上のプロアントシアニジンを有効成分として含むことを特徴とする抗ウイルス剤を提供することによって解決される。
【0009】
このとき、前記アルピニア属植物抽出物が月桃抽出物であることが好適である。植物ウイルス及び動物ウイルスからなる群から選択される少なくとも1種のウイルスに対して用いられることが好適な実施態様である。前記植物ウイルスが、トバモウイルス属ウイルス、ベゴモウイルス属ウイルス、ポティウイルス属ウイルス、ククモウイルス属ウイルス、カルラウイルス属ウイルス及びポテックスウイルス属ウイルスからなる群から選択される少なくとも1種であることが好適であり、前記動物ウイルスが、インフルエンザウイルス、ノロウイルス、コロナウイルス、豚コレラウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、エイズウイルス(HIV)及びバキュロウイルスからなる群から選択される少なくとも1種であることが好適である。
【発明の効果】
【0010】
非可食性アルピニア属植物を利用することにより、特定分子量のプロアントシアニジンを有効成分とした抗ウイルス剤を提供することができる。これにより、植物ウイルスの感染を効果的に抑制できるため、植物ウイルスによる病害を防除し、作物の生産性向上に寄与することが可能になる。また、動物ウイルスの感染を効果的に抑制できるため、インフルエンザウイルス等の動物ウイルス感染症の予防に非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】プロアントシアニジン精製物について、ポリスチレンを標品としてHPLCにより分子量測定を行った結果を示した図である。
図2】プロアントシアニジン精製物について、カーボンNMR分析した結果を示した図である。
図3】フロログルシノール及び酸触媒を用いて月桃由来のプロアントシアニジンの末端構造を分析した結果を示す図である。なお、図中の記号の意味は以下の通りである。Asc;アスコルビン酸、Phl;フロログルシノール、EC-Phl;エピカテキンフロログルシノール付加物、C-Phl;カテキンフロログルシノール付加物、C;カテキン、EC;エピカテキン、EGC;エピガロカテキン、ECg;エピカテキンガレート、EGCg;エピカテキンガレート、B1;プロシアニジンB1、B2;プロシアニジンB2、Cga;クロロゲン酸、1-3;m/z 701を示す未同定ピーク。
図4】プロアントシアニジン精製物(1000ppm)について、ベンサミアーナタバコの葉におけるトマトモザイクウイルス(ToMV)に対する防除価を示した図である。
図5】各濃度のプロアントシアニジン精製物について、インフルエンザウイルスに対する感染価を示した図である。
図6】各濃度のプロアントシアニジン精製物について、ネコカリシウイルスに対する感染価を示した図である。
図7】末端構造の異なるプロアントシアニジン精製物(シマ月桃及び月桃雑種;333ppm)について、ベンサミアーナタバコの葉におけるトマトモザイクウイルス(ToMV)に対する防除価を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の抗ウイルス剤は、植物精製物を含む抗ウイルス剤であって、前記植物精製物がアルピニア属植物抽出物からなり、かつ分子量が8500以上のプロアントシアニジンを有効成分として含むことを特徴とする。後述する実施例と比較例との対比から明らかなように、ナス科作物のモデル実験植物ベンサミアーナタバコの葉において、トマトモザイクウイルス(ToMV)を機械接種して、抗植物ウイルス活性を評価したところ、リンゴ由来のプロアントシアニジン(分子量8353)及び茶葉粉末由来のプロアントシアニジン(分子量1881、1210)と比較して、アルピニア属植物である月桃由来のプロアントシアニジン(沖縄県国頭郡産シマ月桃;分子量14772、沖縄県中頭郡産シマ月桃;分子量131140、奄美大島産シマ月桃;分子量10674)では、防除価に有意な差が認められた。また、動物ウイルスであるA型インフルエンザウイルス(H1N1)に接触させて、抗動物ウイルス活性を評価したところ、リンゴ由来のプロアントシアニジン(分子量8353)及び茶葉粉末由来のプロアントシアニジン(分子量1881、1210)と比較して、アルピニア属植物である月桃由来のプロアントシアニジン(分子量14772)では、ウイルス感染抑制に有意な差が認められた。このように、アルピニア属植物抽出物からなり、かつ分子量が一定以上のプロアントシアニジンを有効成分として含むことにより、植物ウイルス及び動物ウイルスの感染を効果的に抑制できることは驚くべきことである。
【0013】
本発明において「プロアントシアニジン」とは、カテキンやエピカテキンといったフラバン-3-オール類が複数結合した化合物である。プロアントシアニジンの構造は、NMR等の公知の分析方法により特定することができる。本発明の抗ウイルス剤は、アルピニア属植物抽出物からなり、かつ分子量が一定以上のプロアントシアニジンを有効成分として含むものであり、当該抽出物は、完全な精製物であっても、粗精製物であってもよい。また、本発明において「プロアントシアニジン精製物」は、透析等により不純物を取り除いた後のプロアントシアニジンを含むものであり、当該プロアントシアニジンを含む液であっても乾燥物であってもよい。
【0014】
アルピニア(Alpinia)属植物抽出物としては、月桃、クマタケラン、アオノクマタケラン及びヤクチ等、並びにこれらの交雑種から得られる抽出物が挙げられる。非可食性バイオマスを利用できる観点からも好適に採用される。本発明において、月桃には、沖縄県のシマ月桃、奄美大島のシマ月桃等のシマ月桃(Alpinia zerumbet (Pers.) B.L.Burtt & R.M.Sm.)、北大東島及び宮古島等のタイリン月桃(ハナソウカ)、タチバナ月桃、台湾のタイリン月桃、ウライ月桃、及び屯鹿月桃等、並びにこれらの交雑種が含まれる。また、クマタケランには、クマタケラン(Alpinia formosana)、シマクマタケラン(Alpinia boninensis)及びイリオモテクマタケラン(Alpinia flabellata)等、並びにこれらの交雑種が含まれる。中でも、アルピニア属植物抽出物が月桃抽出物であることがより好適である。
【0015】
本発明の抗ウイルス剤は、分子量が8500以上のプロアントシアニジンを有効成分として含むものである。上記説明したように、分子量が一定以上であることで、植物ウイルス及び動物ウイルスの感染を効果的に抑制することができる。プロアントシアニジンの分子量としては、9000以上であることが好ましく、10000以上であることがより好ましく、11000以上であることが更に好ましく、12000以上であることが特に好ましく、13000以上であることが最も好ましい。プロアントシアニジンの分子量は、通常、25000以下である。プロアントシアニジンの分子量は、ポリスチレン等を標品とした高速液体クロマトグラフ(HPLC)等による公知の方法により求めることができる。
【0016】
有効成分としてのプロアントシアニジンは、末端構造が実質的にエピカテキンであることが好ましい。ここで「実質的に」とは、末端構造におけるエピカテキンとカテキンの割合の合計に対するエピカテキンの割合が、少なくとも95%以上(例えば、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)であることを意味する。このような末端構造を有するプロアントシアニジンの例としては、シマ月桃由来のプロアントシアニジンが挙げられる。
【0017】
本発明の抗ウイルス剤は、アルピニア属植物から抽出されて得られる植物精製物を含む。抽出方法としては、アルピニア属植物搾汁液からエタノールで抽出する方法、又はアセトニトリルで溶出する方法が好適に採用される。エタノールによる抽出を行う場合、エタノール濃度は、通常、40%~80%であり、好ましくは、60%~80%である。一方、アセトニトリルによる溶出を行う場合、アセトニトリル濃度は、通常、5%以上、好ましくは5%~30%であり、より好ましくは5%~20%である。40%以上の濃度のアセトニトリルを用いてもよいが、抽出物において非活性成分の割合が高まることが考えられる。
【0018】
アルピニア属植物搾汁液に含まれるプロアントシアニジンの濃度としては、通常、0.1mg/ml以上であり、0.5mg/ml以上であることが好ましく、1mg/ml以上であることがより好ましく、5mg/ml以上であることが更に好ましく、10mg/ml以上であることが特に好ましい。一方、アルピニア属植物搾汁液に含まれるプロアントシアニジンの濃度は、通常、50mg/ml以下である。
【0019】
本発明の抗ウイルス剤は、植物ウイルス及び動物ウイルスからなる群から選択される少なくとも1種のウイルスに対して用いられることが好ましい。植物ウイルスに対して用いる場合、レンテミンなどの既知の薬剤と組み合わせて用いることができる。また、植物ウイルスは、虫媒感染する例もあることから、既知の殺虫剤、殺ダニ剤、抗菌剤などと組み合わせて用いることもできる。更に、植物病害の防除効果が阻害されない限り、他の任意成分を含んでもよい。他の任意成分としては、例えば、展着剤、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、滑沢剤、稀釈剤、賦形剤等を挙げることができる。
【0020】
本発明の抗ウイルス剤の植物への施用方法は特に制限されず、例えば、散布、塗布、浸漬などが挙げられる。また、植物組織培養を行っている場合には、その培地への添加なども考えられる。本発明の抗ウイルス剤が施用されている領域では非常に高い感染防除効果が認められることから、施用方法としては、散布や塗布などによる植物体の全体や葉への施用、種子や球根などへの浸漬が好ましい。本発明の抗ウイルス剤は、施用された部位の周辺部位においても、植物病害に対する防除効果を示すことができる点で有利である。
【0021】
植物ウイルスに対して用いる場合、本発明の抗ウイルス剤の剤型は、施用方法などに応じて各種の形態を採ることができる。例えば、乳剤、油剤、エアゾール、フロアブル剤などの液剤の他、水和剤、水溶剤、粉剤、粒剤、錠剤などが挙げられる。散布などにより植物体へ施用する場合には、液剤、又は施用時に液状にすることができる剤型が好ましい。施用量は、植物病害に対して防除効果を発現する量であれば特に制限はなく、当業者であれば、適宜調整することができる。
【0022】
上記液剤として使用する場合、プロアントシアニジン精製物の濃度としては、植物ウイルスの感染を効果的に抑制できるのであれば特に限定されず、0.1mg/ml以上であることが好ましく、0.5mg/ml以上であることがより好ましい。一方、薬害等を生じさせないようにする観点から、プロアントシアニジン精製物の濃度は、通常、30mg/ml以下である。
【0023】
植物への施用時期は特に制限されないが、予防的な防除が最も有効である。具体的には、育苗期から収穫前にかけての施用が有効である。また、抗ウイルス剤の施用回数に、特に制限はない。
【0024】
本発明の抗ウイルス剤を適用する植物ウイルスとしては、例えば、トバモウイルス属ウイルス、ベゴモウイルス属ウイルス、ポティウイルス属ウイルス、ククモウイルス属ウイルス、カルラウイルス属ウイルス、ポテックスウイルス属ウイルス、カルモウイルス属ウイルス、ネポウイルス属ウイルス、クリニウイルス属ウイルス、トスポウイルス属ウイルスなどが挙げられる。中でも、トバモウイルス属ウイルス、ベゴモウイルス属ウイルス、ポティウイルス属ウイルス、ククモウイルス属ウイルス、カルラウイルス属ウイルス及びポテックスウイルス属ウイルスからなる群から選択される少なくとも1種に対して好適に適用される。トバモウイルス属ウイルスとしては、例えば、タバコモザイクウイルス(TMV)、トマトモザイクウイルス(ToMV)、キュウリ緑斑モザイクウイルス(KGMMV)、トウガラシマイルドモットルウイルス(PMMoV)、スイカ緑斑モザイクウイルス(CGMMV)などが挙げられ、ベゴモウイルス属ウイルスとしては、例えば、トマト黄化葉巻ウイルス(TYLCV)などが挙げられ、ポティウイルス属ウイルスとしては、例えば、タバコエッチウイルス(TEV)、カブモザイクウイルス(TuMV)などが挙げられ、ククモウイルス属ウイルスとしては、例えば、キュウリモザイクウイルス(CMV)などが挙げられ、カルラウイルス属ウイルスとしては、例えば、ジャガイモMウイルス(PVM)が挙げられ、ポテックスウイルス属ウイルスとしては、例えば、オオバコモザイクウイルス(P1AMV)、ジャガイモXウイルス(PVX)、ペピーノモザイクウイルス(PepMV)などが挙げられ、カルモウイルス属ウイルスとしては、例えば、メロンえそ斑点ウイルス(MNSV)などが挙げられるが、これらに制限されない。中でも、各種モザイクウイルスやジャガイモXウイルスなどの感染により発症するモザイク病に対して好適に適用される。
【0025】
本発明の抗ウイルス剤を施用する植物としては、上記ウイルスが感染する植物であれば特に制限はないが、例えば、タバコ、トマト、トウガラシ、ナス、キュウリ、メロン、スイカ、リンゴ、ネギ、タマネギ、ニラ、ピーマン、ジャガイモ、イネ、オオムギ、カボチャ、ハクサイ、キャベツ、カブ、カリフラワー、チンゲンサイ、レタス、イチゴ、インゲンマメ、ダイズ、ウメ、モモ、ブドウ、花卉類(キク、バラ、カーネーション、チューリップ、カトレア、シンビジウム、トルコギキョウ、スターチス、ガーベラ、ユリなど)等が挙げられる。このように本発明の抗ウイルス剤は、ナス科植物、ウリ科植物、アブラナ科植物、バラ科、イネ科植物など広範囲に適用することができる。植物ウイルスと宿主植物との関係については、日本植物病名データベース(農業生物資源ジーンバンク)を参照のこと。
【0026】
本発明の抗ウイルス剤を動物ウイルスに対して用いる場合、アルピニア属植物から抽出されて得られる植物精製物をそのまま適用しても構わないが、経口剤又は非経口剤として適用することができる。経口剤としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、シロップ剤、ドリンク剤等が挙げられ、非経口剤としては、注射剤、軟膏剤、クリーム剤、スプレー剤等が挙げられる。適用量は、動物ウイルスの感染を抑制できる量であれば特に制限はなく、当業者であれば、適宜調整することができる。
【0027】
上記経口剤又は非経口剤として適用する場合、プロアントシアニジン精製物の濃度としては、動物ウイルスの感染を効果的に抑制できるのであれば特に限定されず、0.001mg/ml以上であることが好ましく、0.05mg/ml以上であることがより好ましく、0.1mg/ml以上であることが更に好ましい。一方、薬害等を生じさせないようにする観点から、プロアントシアニジン精製物の濃度は、通常、30mg/ml以下である。
【0028】
上記経口剤又は非経口剤として適用する場合、動物ウイルスへの感染抑制効果が阻害されない限り、他の任意成分を含んでいてもよい。他の任意成分としては、例えば、賦形剤、統合剤、潤滑剤、膨化剤、被覆剤、香料、防腐剤、酸化防止剤、緩衝剤等が挙げられる。
【0029】
本発明の抗ウイルス剤を適用する動物ウイルスとしては、例えば、インフルエンザウイルス、ノロウイルス、コロナウイルス、豚コレラウイルス、アデノウイルス、ロタウイルス、RSウイルス、ヘルペスウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、エイズウイルス(HIV)、バキュロウイルス、昆虫ポックスウイルス、サイポウイルス等が挙げられる。中でも、インフルエンザウイルス、ノロウイルス、コロナウイルス、豚コレラウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、エイズウイルス(HIV)及びバキュロウイルスからなる群から選択される少なくとも1種に対して好適に適用することができる。特に、インフルエンザウイルスの予防に貢献するとともに、インフルエンザの予防に役立ち、養鶏業に貢献できる。さらに、変異インフルエンザウイルスによるパンデミック発生についても予防できる。したがって、本発明の抗ウイルス剤は、インフルエンザウイルス等の動物ウイルス感染症の予防剤として好適に用いられる。
【実施例
【0030】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。
【0031】
[実施例1]月桃由来プロアントシアニジン精製物の調製
沖縄県国頭郡産シマ月桃(以下、特に断りがない限り、単に「沖縄県産シマ月桃」とも称する)の搾汁液(120ml)を、逆相担体(日本ウォーターズ(株)製Sep-Pak C18(35cc))にかけ、超純水(100ml)で洗浄した後、20%アセトニトリル(100ml)で、溶出した画分を得た。得られた画分に含まれるアセトニトリルを、エバポレーター(50℃、15分)にて留去したのち、残った溶液を、分画分子量10,000の透析膜(スペクトラム社製)に入れ、蒸留水(4L×4回)に対して透析した。得られた透析内液を、凍結乾燥(4日間)し、月桃由来プロアントシアニジン精製物(492.7mg)を得た。
【0032】
[比較例1]リンゴ由来プロアントシアニジン精製物の調製
リンゴポリフェノール(DHC社製、4カプセル内容物1.06g)を、超純水10mlに懸濁し、50mlチューブに入れ、99.9℃にセットした恒温攪拌装置(エッペンドルフ社製、サーモミキサーコンフォート)で、毎分750回転、10分攪拌した。チューブを遠心(8,000g×30分)し、不溶物を除いた抽出液上清を、逆相担体(日本ウォーターズ(株)製Sep-Pak C18(20cc))にかけ、超純水(50ml)で洗浄した後、20%アセトニトリル(50ml)で、溶出した画分を得た。得られた画分に含まれるアセトニトリルを、エバポレーター(50℃、15分)にて留去したのち、残った溶液を、分画分子量3,500の透析膜(スペクトラム社製)に入れ、蒸留水(4L×4回)に対して透析した。得られた透析内液を、凍結乾燥(4日間)し、リンゴ由来プロアントシアニジン精製物(240.5mg)を得た。
【0033】
[比較例2]茶葉由来プロアントシアニジン精製物の調製
岡山県新見市産茶葉粉末(10.7g)を、1gあたり超純水10mlに懸濁し、50mlチューブに入れ、99.9℃にセットした恒温攪拌装置(エッペンドルフ社製、サーモミキサーコンフォート)で、毎分750回転、10分攪拌した。チューブを遠心(8,000g×30分)し、不溶物を除いた抽出液上清を、逆相担体(日本ウォーターズ(株)製Sep-Pak C18(35cc))にかけ、超純水(100ml)で洗浄した後、20%アセトニトリル(100ml)で、溶出した画分を得た。得られた画分に含まれるアセトニトリルを、エバポレーター(50℃、15分)にて留去したのち、残った溶液を、分画分子量1,000の透析膜(スペクトラム社製)に入れ、蒸留水(4L×4回)に対して透析した。得られた透析内液を、凍結乾燥(4日間)し、茶葉由来プロアントシアニジン精製物(72.0mg)を得た。
【0034】
[実施例2]プロアントシアニジンの分子量測定
実施例1、比較例1及び2で得られた上記3つのプロアントシアニジン精製物を、50mM塩化リチウムを溶解させたジメチルホルムアミドで、1mg/mlに溶解した。これらサンプルを、50mM塩化リチウムを溶解させたジメチルホルムアミドを溶媒とし、UV検出器(日本ウォーターズ(株)製2489、検出波長265nm及び283nm)を備え、サイズ排除クロマトグラフィー用カラム(東ソー(株)製α-3000)を装着した高速液体クロマトグラフ(日本ウォーターズ(株)製e2695)分析(流速0.6ml/ml、カラム温度40℃、注入量25μL)を行った。サンプルとともに、有機溶媒系サイズ排除クロマトグラフィー用標準ポリスチレン重合物(東ソー(株)製PStQuick E及びPStQuick F)についても分析した。標準ポリスチレン重合物の分子量の対数を縦軸、265nmで検出されたピークトップ保持時間を横軸にとり、検量線をたてた。この検量線と、3種のプロアントシアニジン精製物のピークトップ保持時間から、沖縄県産シマ月桃由来プロアントシアニジン精製物の分子量は14,772、リンゴ由来プロアントシアニジン精製物は8,353、茶葉由来プロアントシアニジン精製物は1,881及び1,210と見積もられた。得られた結果を表1及び図1にまとめて示す。
【0035】
【表1】
【0036】
[実施例3] プロアントシアニジンの構造の解析
(1)活性本体の構造
実施例1と同様の操作を行い、透析内液の凍結乾燥物を得た。これをアセトンに溶解し、C13カーボンNMRにて構造を推定した(図2)。その結果、文献(Thomas L. Eberhardt et al., J. Agric. Food Chem. 42(1994)1704-1708)に報告されているプロアントシアニジンのC13カーボンNMRデータとよく一致した。以上の結果から、活性本体がプロアントシアニジンであると裏付けられた。
【0037】
(2)末端構造
沖縄県産シマ月桃、リンゴ摘果由来サプリメント、茶葉から精製したプロアントシアニジン凍結乾燥粉末3mgに50μlの超純水を加え溶解した。フロログルシノール溶液は、1Lの0.1N塩酸メタノール(v/v)にフロログルシノール50gとアスコルビン酸10gを加えることで作成し、4℃で冷却しておいた。各プロアントシアニジン溶液に冷えた500μlのフロログルシノール溶液を加え混合したのち、2本の1.5mlマイクロチューブに等分し、一方は直ちに等量の200mM酢酸ナトリウムを加え、酸分解反応を停止させた。残りのサンプルは、50℃に温めておいた水にフローターで固定したサンプルチューブを20分間温めた。20分後、温浴したサンプル溶液に200mM酢酸ナトリウム水溶液を同量加え酸分解反応を停止させた。遠心(15000rpm, 15分, 室温)を行い、上清400μlを回収し、0.22μl孔遠心用カラムフィルター(Millipore, 0.22μm pore size, hydrophilic PVDF, 0.5ml volume, non-sterile)で遠心ろ過し、ろ過抽出物を逆相HPLCに供試した。
【0038】
HPLC分析は、Atlanitis T3カラム(孔3μm. 2.5mm×100mm, Waters, Manchester, U.K.)とガードカラムが取り付けられた島津UFLC装置を用いて実施した。HPLCシステムには、DGU-20A 3Rデッカサー;2台のLC-20ADポンプ;SIL-20AC HTオートインジェクター;SPD-M20A検出器;CTO-20ACカラムオーブンが用いられた。Atlantisカラムは、カラムオーブンを用いて40℃に維持された。成分の分離は、2種類の溶媒を用いた濃度勾配溶出法により行われた。その時に用いた溶媒A液は、0.1%ギ酸、溶媒B液はアセトニトリルである。溶媒B液の勾配濃度は、分析開始から3分間は1%、その後2分間で1%から6%に変化、その後10分間で6%から18%に変化、その後5分間で55%までに上昇させ、その直後1%に減少させ、最後に2分間1%で維持した。MS分析は、ネガティブモードにより行われた。他はデフォルト設定である。
【0039】
HPLCピークの同定は、化学標品であるエピカテキン、カテキン、エピカテキン-3-ガレート、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、プロシアニジンB1、プロシアニジンB2、プロシアニジンB3、プロシアニジンB5、カテキンフロログルシノール付加物、エピカテキンフロログルシノール付加物の溶出速度との比較及びMSによる分子量の特定の2つにより行った。プロアントシアニジンの構成ユニットの同定:伸長構造は、フロログルシノールと結合したカテキン類によって決定し、末端構造の特定はフロログルシノール反応後にもともとのプロアントシアニジン溶液に放出されるフラバン3オールを調べることにより行った。
【0040】
その結果を図3に示す。沖縄県産シマ月桃由来のプロアントシアニジンでは、酸触媒を用いたフロログルシノール反応を通し、プロアントシアニジンの伸長ユニットに対応する産物としてエピカテキンフロログルシノール付加物が検出された。一方、プロアントシアニジンの最末端ユニットに対応するフラバン 3-オールモノマーとしてエピカテキンが検出された。カテキンモノマーは、微量ピークとして検出された。エピカテキンは、フラバン 3-オールモノマーのピーク比の99.5%以上を占めていたことから、シマ月桃由来のプロアントシアニジンは、エピカテキンのみがC4-C8インターフラバン結合で縮合したエピカテキン単純縮合型であることを明らかにした。
【0041】
茶葉由来のプロアントシアニジンは、フロログルシノール反応を通し、末端ユニットに対応する(エピ)カテキンフロログルシノール付加物の2つが検出された。さらに、フラバン3-オールとして、カテキン、エピカテキン、エピガロカテキン、エピガロカテキン 3-ガレート、エピカテキン 3-ガレートが検出された。カテキンを末端とするプロアントシアニジンの割合は約2%であり、大半はエピカテキン類であった(カテキンを末端とするプロアントシアニジンとエピカテキンを末端とするプロアントシアニジンの割合で言えば、約6:94であった)。このことから、茶葉由来のプロアントシアニジンは、エピカテキン類を末端構造として有する(エピ)カテキン縮合型であることが示された。
【0042】
リンゴ摘果由来のプロアントシアニジンは、フロログルシノール反応により、エピカテキンフロログルシノール付加物が主要ピークとして検出された。また、フラバン3-オールモノマーとしてエピカテキンとカテキンの両方が検出された。このことから、リンゴ摘果由来プロアントシアニジンの伸長ユニットはエピカテキンであり、その末端構造はカテキン又はエピカテキンであることが分かった。カテキンを末端とするプロアントシアニジンとエピカテキンを末端とするプロアントシアニジンの割合は、約3:7であった。
【0043】
以上の結果、シマ月桃由来のプロアントシアニジンと茶葉やリンゴ摘果由来のプロアントシアニジンは、末端の構造が異なることが判明した。
【0044】
なお、月桃雑種(宮古島産のタイリン月桃)についても検証したところ、リンゴ摘果由来のプロアントシアニジンと同様、カテキン末端とするプロアントシアニジンとエピカテキンとする末端プロアントシアニジンの割合は、約3:7であった。
【0045】
[実施例4]プロアントシアニジン濃度の測定
実施例1と同様の操作で得られた凍結乾燥物を蒸留水に溶解し、月桃由来検量線用精製プロアントシアニジンとした。プロアントシアニジンの定量については、沖らの報告(沖智之ら、Nippon Shokuhin Kagaku Kogaku Kaishi Vol.60, No6, 301-309(2013))に記載された4-ジメチルアミノシンナムアルデヒド(DMAC)を用いる方法におおむね従った。すなわち、検量線用プロアントシアニジン水溶液(10mg/ml)を、アッセイ溶液A(エタノール:メタノール:2-プロパノール=90:5:5)で、20倍希釈したものを、さらにアッセイ溶液B(アッセイ溶液A:水=95:5)で、2倍希釈系列を作成し、検量線用サンプルとした。実施例1における月桃搾汁液、比較例1におけるリンゴポリフェノール抽出液上清、比較例2における茶葉粉末抽出液上清を、アッセイ溶液A(エタノール:メタノール:2-プロパノール=90:5:5)で、20倍希釈したものを、測定用サンプルとした。
【0046】
DMAC溶液は、濃塩酸(3ml)を、上記アッセイ溶液A(27ml)に添加後、氷上で15分冷却した溶液にDMAC(30mg)を添加し、攪拌により溶解し、使用直前まで氷上で保管し、DMAC溶液とした。
【0047】
96穴マイクロプレートのウェルに、検量線用及び測定用サンプルを、それぞれ40μlずつ分注し、8連マイクロピペッターを用いて、サンプルを添加したウェルに、DMAC溶液を200μlずつ添加し、プレート上面にプレートシールを貼付し、庫内温度を30℃に設定したプレートリーダー中で攪拌して20分間放置後、各ウェルの640nmにおける吸光度を測定した。検量線用サンプルから得られた吸光度値と濃度から検量線を作成し、実施例1における月桃搾汁液、比較例1におけるリンゴポリフェノール抽出液上清、比較例2における茶葉粉末抽出液上清に含まれるプロアントシアニジンを定量した。その結果、月桃搾汁液に含まれるプロアントシアニジンは、12.3mg/ml、リンゴポリフェノール抽出液上清に含まれるプロアントシアニジンは、39.4mg/ml、茶葉粉末抽出液上清に含まれるプロアントシアニジンは、26.5mg/mlと見積もられた。
【0048】
また、実施例1における月桃搾汁液20%アセトニトリル画分、比較例1におけるリンゴポリフェノール抽出液上清20%アセトニトリル画分、比較例2における茶葉粉末抽出液上清20%アセトニトリル画分を、アッセイ溶液A(エタノール:メタノール:2-プロパノール=90:5:5)で、20倍希釈したものを、測定用サンプルとし、上記と同様にプロアントシアニジンを定量した。その結果、月桃搾汁液20%アセトニトリル画分に含まれるプロアントシアニジンは、20.4mg/ml、リンゴポリフェノール抽出液上清20%アセトニトリル画分に含まれるプロアントシアニジンは、13.9mg/ml、茶葉粉末抽出液上清20%アセトニトリル画分に含まれるプロアントシアニジンは、30.9mg/mlと見積もられた。
【0049】
[実施例5] 抗ウイルス活性の分析
(1)抗植物ウイルス活性
トマトモザイクウイルス(ToMV)-ベンサミアーナタバコ評価系を用いて評価した。すなわち、終濃度0.01%のマイリノー(展着剤)を添加したプロアントシアニジン精製物水溶液(1,000ppm=1,000μg/ml)を、ベンサミアーナタバコの葉に噴霧処理を行い、その3日後に、ToMVウイルスを接種した。ウイルスの接種は、ToMV-GFP(緑色蛍光蛋白質GFPを付加したGFP発現ウイルス)のプラスミド(pTLBN.G3)2μgについて、AmpliCap-MaxTMT7 High Yield Message Maker Kitsを用いてRNAを転写合成し、RNA転写物を40倍に希釈して、カーボランダムを用いてベンサミアーナタバコ葉に10μLを2ヶ所に塗布することにより行った。ウイルスの接種から3日後に、GFPの蛍光斑点(ToMVの感染、増殖部位に一致する)をカウントし、無処理区のカウントと比較することにより、ウイルスの感染抑制率(防除価)を検定して前記精製物水溶液の評価を行った。その結果、リンゴ由来プロアントシアニジン及び茶葉由来プロアントシアニジンと比較して、月桃由来プロアントシアニジンは、有意に発病抑制が認められた。得られた結果を図4にまとめて示す。
【0050】
感染抑制率(防除価)は、以下の式により算出した。
感染抑制率(防除価)%=100-{(処理植物の蛍光斑点数の平均)/(未処理植物の蛍光斑点数の平均)}×100。
【0051】
(2)抗インフルエンザウイルス活性
(a)沖縄県産シマ月桃由来プロアントシアニジン精製物、リンゴ由来プロアントシアニジン精製物、茶葉由来プロアントシアニジン精製物の濃度をあわせ、A型インフルエンザウイルス(H1N1)溶液と接触させ、室温下で30分間静置した。その後、イヌ腎臓尿細管上皮細胞(MDCK細胞)の培養液に添加し、36℃、5%CO2の条件下、4~7日間培養後、顕微鏡にて細胞変性効果の有無を確認し、Reed-Muench法によりウイルス感染価を算出した。得られた結果を表2及び図5にまとめて示す。なお、抗インフルエンザウイルス活性に対する検定は、(株)ファルコバイオシステムズにて実施した。
【0052】
【表2】
【0053】
(b)試験溶液(100ppm沖縄県産シマ月桃由来プロアントシアニジン)及び対照溶液(リン酸緩衝液;D-PBS(-))を1.08mlずつチューブに分注した。そこにD-PBS(-)を用いて調製したインフルエンザウイルスH1N1溶液(1×106~5×106pfu/ml)0.12mlを混合し、試験液とした。試験液はよく攪拌後、室温下で静置した。5、10、20分間経過後、試験液から0.12ml溶液を回収し、SCDLP培地1.08mlと混合し反応を停止した。反応停止後の溶液をさらにSCDLP培地を用いて10倍ずつ段階希釈し、10倍段階希釈系を作成した。10倍段階希釈液を事前に播種し準備したイヌ腎臓尿細管上皮細胞(MDCK細胞)に1ml滴下し、37℃、5%CO2下で1時間感染処理を行った。ウイルス感染後、細胞上清を0.8%オキソイド寒天溶液に置換し、37℃、5%CO2下で1~2日間培養した。プラークの形成を目視で確認した後、5%グルタルアルデヒド溶液で固定し、メチレンブルー染色を行い、形成されたプラーク数の測定データをもとにウイルス感染力価を測定した。以上の結果、100ppm月桃由来プロアントシアニジン区では、インフルエンザウイルスに対して20分間で99.9%のウイルス量の減少が認められた。なお、抗インフルエンザウイルス活性に対する検定は株式会社プロテクティアにて実施した。得られた結果を表3に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
(3)抗ネコカリシウイルス活性
10ppm、100ppm、1000ppmに調製した沖縄県産シマ月桃由来プロアントシアニジン精製物をネコカリシウイルス(Feline calicivirus)(ノロウイルスの代替えウイルス)溶液と接触させ、室温下で30分間静置した。その後、ネコ腎由来株化細胞(CRFK細胞)の培養液に添加し、36℃、5%CO2の条件下で4~7日間培養後、顕微鏡にて細胞変性効果(CPE)の有無を確認し、Reed-Muench法によりウイルス感染価を算出した。得られた結果を表4及び図6にまとめて示した。対照物質として、D-PBS(-)(富士フイルム和光純薬)を用いた。以上の結果、100ppm及び1000ppmの月桃由来プロアントシアニジン区では、ネコカリシウイルスに対して30分間で99.99%以上のウイルス量の減少が認められた。なお、抗ネコカリシウイルス(ノロウイルス)活性に対する検定は、(株)ファルコバイオシステムズにて実施した。
【0056】
【表4】
【0057】
(4)抗コロナウイルス活性
試験溶液(100ppm及び500ppmの沖縄県産シマ月桃由来プロアントシアニジン)及び対照溶液(リン酸緩衝液)を豚感染性コロナウイルス(Porcine epidemic diarrhea virus)溶液と接触させ、室温下で30分間静置した。その後、アフリカミドリザル腎臓上皮由来株化細胞(vero細胞)の培養液に添加し、37℃、5%CO2の条件下で5日間培養後、顕微鏡にて細胞変性効果(CPE)の有無を確認し、ウイルス力価(TCID50)を算出した。得られた結果を表5示した。
【0058】
【表5】
【0059】
以上の結果、100ppm及び500ppmの月桃由来プロアントシアニジン区では、ともに開始後30分で99.99%以上のウイルス量の減少が認められた。なお、抗コロナウイルス活性に対する検定は、(株)食環境衛生研究所にて実施した。
減少率(%)={(対照区-試験区)/対照区}×100。
【0060】
(5)プロアントシアニジンの末端構造と抗ウイルス活性の関係
333ppmの沖縄県産シマ月桃由来プロアントシアニジン溶液又は月桃雑種(宮古島産タイリン月桃)由来プロアントシアニジン溶液を、ToMV-ベンサミアーナタバコ評価系を用いて評価した。すなわち、終濃度0.01%のマイリノー(展着剤)を添加したプロアントシアニジン溶液を、ベンサミアーナタバコの葉に噴霧処理を行い、その3日後に、ToMVウイルスを接種した。ウイルスの接種は、ToMV-GFP(緑色蛍光蛋白質GFPを付加したウイルス)のプラスミド(pTLBN.G3)2μgについて、AmpliCap-MaxTM T7 High Yield Message Maker Kitsを用いてRNAを転写合成し、RNA転写物を30倍に希釈して、カーボランダムを用いてベンサミアーナタバコ葉に10μlを2ヶ所に塗布することにより行った。ウイルスの接種から3日後に、GFPの蛍光斑点(ToMVの感染、増殖部位に一致する)をカウントし、ウイルスの感染抑制率を検定して検体の評価を行った。その結果、シマ月桃由来プロアントシアニジン(エピカテキン単純縮合型)は、月桃雑種由来プロアントシアニジン(カテキンを末端とするプロアントシアニジンとエピカテキンを末端とするプロアントシアニジンの割合は、約3:7)よりも強いウイルス感染抑制効果が認められた(図7)。
【0061】
なお、感染抑制率は、以下の式から算出した。
感染抑制率(防除価)%=100-{(処理植物の蛍光斑点数の平均)/(未処理植物の蛍光斑点数の平均)}×100。
【0062】
(6)プロアントシアニジンの分子量と抗ウイルス活性の関係
分子量が異なるシマ月桃由来プロアントシアニジン溶液(奄美大島産シマ月桃;分子量10674、沖縄県中頭郡産シマ月桃;分子量約13114)を、ToMV-ベンサミアーナタバコ評価系を用いて評価した。すなわち、終濃度0.01%のマイリノー(展着剤)を添加した1000ppmのプロアントシアニジン溶液を、ベンサミアーナタバコの葉に噴霧処理を行い、その3日後に、ToMVウイルスを接種した。ウイルスの接種は、ToMV-GFP(緑色蛍光蛋白質GFPを付加したウイルス)のプラスミド(pTLBN.G3)2μgについて、AmpliCap-MaxTM T7 High Yield Message Maker Kitsを用いてRNAを転写合成し、RNA転写物を30倍に希釈して、カーボランダムを用いてベンサミアーナタバコ葉に10μlを2ヶ所に塗布することにより行った。ウイルスの接種から3日後に、GFPの蛍光斑点(ToMVの感染、増殖部位に一致する)をカウントし、ウイルスの感染抑制率を検定して検体の評価を行った。
【0063】
その結果、奄美大島及び沖縄県中頭郡のシマ月桃に由来するプロアントシアニジンのウイルス感染抑制率は、それぞれ93.4%、97.4%であった。分子量が10000以上であるプロアントシアニジンではウイルス感染抑制率が高いことが判明したが、中でも、より分子量の大きい沖縄県中頭郡産シマ月桃に由来するプロアントシアニジンのウイルス感染抑制率が高かった。実施例5(1)の沖縄県国頭郡産シマ月桃のウイルス感染抑制率をも考慮すると、分子量が大きいプロアントシアニジンの方がウイルス感染抑制率が高いと考えられる。
【0064】
なお、感染抑制率は、以下の式から算出した。
感染抑制率(防除価)%=100-{(処理植物の蛍光斑点数の平均)/(未処理植物の蛍光斑点数の平均)}×100。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上説明したように、本発明によれば、植物ウイルスの感染を効果的に抑制できるため、植物ウイルスによる病害を防除し、作物の生産性向上に寄与することが可能になる。また、動物ウイルスの感染を効果的に抑制できるため、インフルエンザウイルス等の動物ウイルス感染症の予防に非常に有用である。このため、本発明は、農業分野及び医療分野等に大きく貢献し得るものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7