(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】長距離夜行バスのシート構造
(51)【国際特許分類】
B60N 2/34 20060101AFI20241018BHJP
B60N 2/22 20060101ALI20241018BHJP
B60N 2/42 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
B60N2/34
B60N2/22
B60N2/42
(21)【出願番号】P 2023198102
(22)【出願日】2023-11-22
【審査請求日】2023-11-27
(73)【特許権者】
【識別番号】508069187
【氏名又は名称】有限会社タカギ
(73)【特許権者】
【識別番号】506199776
【氏名又は名称】株式会社高知駅前観光
(73)【特許権者】
【識別番号】518096700
【氏名又は名称】高知駅前トラベル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】518096711
【氏名又は名称】高知駅前ハイヤー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085648
【氏名又は名称】田中 幹人
(72)【発明者】
【氏名】梅原 國利
(72)【発明者】
【氏名】梅原 章利
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-162978(JP,A)
【文献】特開平10-250426(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/34
B60N 2/22
B60N 2/42
B60N 2/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ座面と背もたれを有する前シートと後シートからなる一対のシートを所定のフレーム内に組付けてシートユニットとし
て、長距離夜行バス内の長手方向に複数設置し、
一対のシートの背もたれを起立させて、一対のシートを水平方向の略同列上に水平設置
することにより、乗客が一対のシートに着座可能とし、
前シートを後シートの上部空間に移動させるとともに、一対のシートの背もたれを水平状態にリクライニングさせて、一対のシートを鉛直方向の略同列上に鉛直設置
することにより、乗客が一対のシートに任意の姿勢で横になって就寝可能とし、
鉛直設置時において、一対のシートの背もたれの開放端部に頭部防護柵を鉛直方向・上向きに起立させて設置すること
により、
前方からの衝撃を受けて前方に飛び出そうとする乗客の脚部を受け止めるとともに、
後方からの衝撃を受けて後方に飛び出そうとする乗客の頭部を受け止めることによって、
就寝状態の乗客の頭部への衝撃を緩和し、かつ、水平設置時において、頭部防護柵を回動させて、一対のシートの背もたれの背面に設置可能としたことを特徴とする長距離夜行バスのシート構造。
【請求項2】
頭部防護柵を、背もたれの開放端部に回動自在に軸着するとともに、鉛直設置時において鉛直方向・上向きに固定可能とする請求項1記載の長距離夜行バスのシート構造。
【請求項3】
頭部防護柵は、左右両方向の下端に、先端が開放した左右一対の防護枠端杆を突設してなり、該防護枠端杆を背もたれの開放端部に回動自在に軸支してなる請求項2記載の長距離夜行バスのシート構造。
【請求項4】
背もたれの開放端部の左右両端に防護枠フランジを突設し、該防護枠フランジに防護枠端杆を回動自在に軸支する請求項3記載の長距離夜行バスのシート構造。
【請求項5】
左右一対の防護枠端杆間に防護枠固定杆を架設し、頭部防護柵を背もたれの開放端部に鉛直方向・上向きに起立させた状態において、防護枠固定杆を背もたれの開放端部に付設した固定手段に固定することによって、頭部防護柵を固定する請求項4記載の長距離夜行バスのシート構造。
【請求項6】
固定手段として、ラッチ機構を使用する請求項5記載の長距離夜行バスのシート構造。
【請求項7】
頭部防護柵は、所定形状の防護枠本体と、防護枠本体の左右両方向の下端に突設した左右一対の防護枠端杆と、防護枠本体の一面を覆蓋して固定した防護パネルと、防護パネルを覆蓋して固定した防護緩衝材を有する請求項6記載の長距離夜行バスのシート構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は路線バスや貸切バス等として、夜間に就寝を伴って長時間乗車をする各種の長距離夜行バスにおいて、シート数を減らすことなく、かつ、周辺乗客、特には後席の乗客に気兼ねをすることなく、シートをフラットにして横たわることが可能で、快適な夜間就寝を実現するとともに、昼間着座時及び夜間就寝時の双方において、危険回避のための急ブレーキや、走行中,駐・停車中を問わず故障や事故に巻き込まれたり、他車との接触事故や衝突事故等の様々な原因による種々の衝撃に対して高い安全性を確保したシート構造に関する。
【背景技術】
【0002】
高速道路の全国的な整備拡充と相俟って、時間の有効活用が可能な夜間を利用した各種の長距離夜行バスが広く普及している。これらの就寝を前提として夜間に長時間乗車をする長距離夜行バスを利用する乗客の主たる選択基準は、「運賃」,「快適性」,「運行スケジュール」である。
【0003】
快適性の有無は、疲労度や到着地での活動に影響する重要な要素であり、特に夜間就寝時において後席の乗客に負担や我慢を強いたり気兼ねをすることなく、又自らも我慢を強いられることなくリラックスするため、よりフラットに近い状態までリクライニング可能なシートへの要望が大きい。この要望を満たすためにシートのサイズや間隔に余裕を持たせ、フラットに近い状態のシートを実現可能なリクライニング機構を装備すれば、シートの快適性は向上するものの、必然的に1シート当たり設置面積の拡大を伴うこととなり、設置可能なシート数が減少することとなる。
【0004】
これを具体的に検証すると、現状の前後のシートSの間隔Dは
図67(a)に示すように、900mm~970mm程度に留まるため、前席のシートSのリクライニング角度αは
図67(b)に示すように120度程度が殆どであり、フラット(180度)になるものは存在せず、如何に足置き台や背もたれの構造を工夫したとしても快適な夜間就寝を可能とするシート構造を実現することができなかった。そのため、長時間乗車となる長距離夜行バスでは、シートSをリクライニングさせて足を伸ばしたとしても、根本的なシート構造に起因して足先位置と頭部位置が水平とならず、足先を下方として斜めに着座することとなり、常に身体が下方向にずり落ちようとするため、睡眠が取りにくかったり、足がむくんでしまうこととなる。また、場合によってはエコノミークラス症候群を発症するのではないかとの不安も生じてしまう。
【0005】
加えて、後席の乗客BPは、前席の乗客FPがシートSをリクライニングさせることによって、活動が制約されることとなり、不快な思いをすることもあって、快適性が損なわれることとなる。近時はこのリクライニングが原因となって、乗客間の争いに発展することも複数件報告されている。
【0006】
仮に
図67(a)に示す現状の900mm~970mm程度の前後のシートSの間隔Dを、
図68(b)に示すように、1900mm~2000mm程度の前後のシートSの間隔D1に広げれば、
図68(c)に示すように、後席の乗客に気兼ねすることなく、足を伸ばし、シートSをフラットに近い状態までリクライニングさせることも可能となる。しかしながら、その場合は1シート当たり設置面積の拡大を招くこととなり、
図68(a)に示す現状のシートSが長距離夜行バスの長さ方向に6席設置可能なスペースに、
図68(b)に示すように半数の3席しか設置することができない。そのため、長距離夜行バスに設置可能なシート数は半減することとなる。
【0007】
長距離夜行バスは、他の交通機関に比べて割安な運賃が他の交通手段と差別化するための大きなセールスポイントとなっており、市場経済の下にバス会社間の熾烈な価格競争に曝されている現状では、安易な運賃の値上げは客離れを招いてしまう。運賃を一定とすれば、収益性は「シート数×乗車率」によって決定されるため、快適性を向上させるためにシート数を減らせば、直ちに収益性が悪化することとなり、採用することは困難である。
【0008】
上記した長距離夜行バス事情に鑑み、本発明者らは十分なリクライニングを可能とするために必要なシートの設置スペース(バスの床面積)に着目し、同一の設置スペースを複数のシートで共用して利用することについての着想を得た。この着想に基づき鋭意研究の結果、特許文献1に示す、それぞれ座面と背もたれを有する前シートと後シートからなる一対のシートを所定のフレーム内に組付け、一対のシートを水平方向の略同列上に水平設置可能とするとともに、前シートを後シートの上部空間に移動させて、一対のシートを鉛直方向の略同列上に鉛直設置可能としたシートユニットを、バスの床面に敷設したレール上に摺動可能に設置する長距離夜行バスのシート構造の発明(以下、「文献1発明」という)を提供している。
【0009】
文献1発明によれば、一対のシートを鉛直方向に設置することによって、一対のシートの設置エリアを前シート及び後シート双方の専用エリアとして共用することが可能となる。即ち、シートを設置するスペースを一対のシートで共有することによって、シート数を犠牲とすることなく、夜間の就寝状態において一対のシートの背もたれをそれぞれ十分にリクライニングさせてフラットなシートを提供することが可能となり、従来困難視されていた収益性と快適性を同時に達成することができる。
【0010】
この文献1発明を実施して、
図66に示す長距離夜行バス1として一般的に使用されている全長L1:11990mm,運転席隔壁6~後部隔壁7までの長さL2:10310mm,運転席隔壁6~非常口ドア5の開放部までの長さL3:8530mm,運転席隔壁6から最前列の一対のシート30aまでの長さL4:460mm,最後部のトイレT部分の寸法(横幅TW×長さTL):1150mm×1700mm,室内幅寸法W1:2310mmを例として、長さ方向に設置可能な文献1発明にかかる一対のシート30のシート数について検証する。
【0011】
文献1発明にかかる一対のシート30によって鉛直設置時の設置スペースを共有化したとしても、背もたれをフラットな状態までリクライニングさせ、レッグレストを展開したフラット化したシートを設置するためのスペース(特には長さ寸法)、具体的にはフラット化したシートの長さ寸法SLとして前記した1900mm~2000mm(
図68(b)参照)を必要とすることに相違ない。フラット化した一対のシート30の長さ寸法SLを1900mmに、前後方向の一対のシート間の間隔L5として50mmを付加すると、前後方向に4組の一対のシートを設置するためには、7800mm(1950mm×4)の長さ寸法を必要とする。そのため、図に示すように、後方にトイレTを設置した一方の窓側区域ではスペースが不足するため、4組目の一対のシート30bを設置することができない。一方、残る中央区域、他方の窓側区域には4組目の一対のシート30c,30dを設置することは可能ではあるものの、トイレ横のスペースAを使用することとなり、トイレ横のスペースAに他のシートを設置することができなくなってしまう。
【0012】
トイレ横のスペースAは2000mm以上の長さ寸法を有するものの、エンジンルームの隔壁部分が車内に隆起しており高さ寸法が不足するため、文献1発明の一対のシート30を設置することができない。そこで、本発明者らはフラット化可能な単独のシートを中央区域と他方の窓側区域に設置するようにしている。そのため、
図66に示す状態では、文献1発明にかかる一対のシートを前後方向に3列×横方向に3列設置した18シート(2シート×横3列×前後3列)にトイレ横のスペースAに設置する単独の2シート(図示略)を加えた合計20シートしか設置することができない。即ち、鉛直設置時において、4列目の一対のシート30b,30c,30dは、トイレTやトイレ横のスペースAに設置する単独のシート(図示略)が障害となって、フラットな状態に配置することができないこととなり、シート数の減少を来し、収益性を確保することが困難となる。
【0013】
なお、長距離夜行バスでありながら、乗客増を達成するためトイレTを除外し、席数を増加させているバスも多数存在している。これに対し、本願発明は最低限の快適性を確保し、運行スケジュールを守るため、又バス運行会社の責務としてトイレTを装備することを前提としている。
【0014】
営業車両としての運行を可能とする収益性を確保するためには、
図66に示す一対のシート30の設置において、少なくとも文献1発明にかかる一対のシート30を前後方向に4列×横方向に3列設置した24シート(2シート×横3列×前後4列)にトイレ横のスペースAに設置した単独の2シート(図示略)を加えた合計26シートを設置する必要がある。
【0015】
前記したとおり、特定平面積のバス床面2に設置可能な文献1発明にかかる一対のシート30の数は、専ら鉛直設置時におけるフラット化したシートの長さ寸法SLによって決定されることとなる。一方、文献1発明では、鉛直設置時に前シートを後シートの上部空間に移動させるため、水平設置時(着座状態)における前シートの設置スペースは、鉛直設置時には不要であり、いわば、バス1の前後方向における一対のシート30間等に余剰スペースθ(一対のシート30間のスペース及び運転席隔壁6と先頭の一対のシート30間のスペース)として残ることとなる(
図60参照)。本発明者らは、一対のシート30の設置数を確保して文献1発明を実施するために、この余剰スペースθに着目した。そのため、
図60に示すように、バス1の床面2に敷設した所定長さの左右一対のレール120上にフレームを摺動可能に設置し、着座状態の水平設置時には、
図62に示すように、フレームの後端をレールの後端まで摺動させた状態で固定するとともに、フラットなシートを実現することによって増加する設置面積を確保するため、就寝状態の鉛直設置時には
図63,
図64に示すように、一対のシートの背もたれをフラットな状態までリクライニングさせ、かつ、レッグレストを水平に展開させた状態で、フレームの先端をレールの先端まで摺動させて固定するようにした。即ち、フレームをレール先端まで摺動させて、前記した余剰スペースθを利用して一対のシートの先端部(レッグレスト)をレールから突出させている。
【0016】
これにより、
図63,
図64に示すように、鉛直設置時において所定数の一対のシートをバスの長手方向に密接させて設置することが可能となり、シート数の減少を来すことなく、フラットなシートを設置することを可能とした。これにより、前記したバス全長L1:11990mmの長距離夜行バスにおいて、一対のシート30として24シート(一対のシート×幅方向3列×長手方向4列)を設置した状態を示している。なお、図示は省略したが、トイレ横のスペースAにもフラット化可能な独立した2シートを設置することが可能であり、前記した24シートと併せて、26シートを設置することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
長距離夜行バスに限らず、営業車両としてバスを運行するに際して、快適性や収益性に先んじて考慮すべき最も大切なことは、走行中,駐・停車中を問わず乗客の安全確保に他ならない。文献1発明は、快適性を向上させるため夜間走行時において、一対のシートを設置するスペースを、前シートと後シートで共有することによってフラットなシートを実現するとともに、シート数を確保するためレール上にシートユニットを摺動可能に設置している。この特徴的構成と走行中,駐・停車中の安全性確保,操作性や使い勝手等々について実車に基づいて多面的に検証し、試行錯誤を積み重ねた。その結果、本発明者らは、文献1発明を営業車両として実際に運行するために、具体的なシートユニットの水平設置から鉛直設置への変位構造及び摺動構造を開発・提供するとともに、主として安全性確保の観点から、新たに解決すべき2つの課題についての知見を得た。
【0019】
[第1の課題]
本発明は、脚を伸ばして横たわることが可能なフラットなシートによって快適性を実現した上で、シート数の確保によって収益性を担保するために、前シートと後シートからなる一対のシートを所定のフレーム内に組付けたシートユニットを、レール上に摺動可能に設置し、所定の位置で固定している。第1の課題は、このシートユニットのレールからの脱線防止手段の必要性についての知見に基づく。シートユニットはレール上に摺動可能に設置されているため、本発明では水平設置時及び鉛直設置時の双方において、レール上の所定の位置に、シートユニットとレールをプランジャ等の所定の固定手段で鉛直方向に連結することによって脱着可能に固定している。なお、本願発明で採用したシートユニットとレールの固定手段の詳細については後述する。
【0020】
バスの走行中には、常に危険回避のための急ブレーキや、走行中,駐・停車中を問わず故障や事故に巻き込まれたり、他車との接触事故や衝突事故等の様々な原因による種々の衝撃を受ける可能性を有している。この衝撃がシートユニットに対して水平方向、即ち二次元方向にのみ作用するのであれば、多くの場合はシートユニットとレールを鉛直方向に固定する固定手段によって吸収・緩和することが可能であり、シートユニットがレールから脱線することを防止できる。しかしながら、固定手段の限界を超える大きな衝撃が作用する場合には、レールからの脱線を免れない。また、走行中,駐・停車中を問わずバスは常に水平状態にあるわけではなく、道路にはアップ・ダウンの起伏があり、更に危険回避のための急ブレーキや、走行中,駐・停車中を問わず故障や事故に巻き込まれたり、他車との接触事故や衝突事故等の様々な原因による種々の衝撃は水平方向のみならず、鉛直方向や斜め方向、即ち、予見不可能な三次元方向から生じる。
【0021】
これらの知見に基づき、本発明は、フェイルセーフの観点から、走行中,駐・停車中を問わず急ブレーキや事故等の様々な原因による衝撃は必ず起きるとの前提に立って、水平設置時及び鉛直設置時の双方の所定の位置において、脱線の原因となり得る上下方向や水平方向のみならず、鉛直方向や斜め方向、即ち、予見不可能な三次元方向からのいかなる衝撃を受けた場合においても、レールからのシートユニットの脱線防止手段を提供することを第1の課題としている。
【0022】
[第2の課題]
高速道路では乗客のシートベルト着用が、道路交通法により義務付けられており、文献1発明にかかる長距離夜行バスは夜間高速道路を走行するため、当然ながら3点式シートベルトを設置している。そのため、水平設置時における着座状態では、走行中,駐・停車中を問わず急ブレーキや事故等の様々な原因による種々の衝撃を受けた非常時においても、乗客は3点式シートベルトによってシートに拘束されているため、シート外に投げ出されることはない。即ち、着座状態であれば、急ブレーキや事故等の様々な原因による二次元方向からの衝撃に対しては勿論、予見不可能な三次元方向からの衝撃に対してもシートベルトが衝撃に対向する位置に存在するため、乗客がシートベルトによる拘束から離脱することはない。
【0023】
一方、鉛直設置時における就寝状態では、乗客はフラットなシートに横臥,伏臥,仰臥等の任意の姿勢で横になって就寝しているため、二次元方向からや三次元方向からの予見不可能な衝撃を受けると、シートベルトが対向する位置に存在せずに、シートベルトの守備範囲を超える事態が生じてしまうことも考えられる。即ち、鉛直設置時における就寝状態では、乗客の身長方向(頭部方向,脚部方向)の安全性をシートベルトではカバーすることができず、乗客が装着したシートベルトから抜け出てしまう怖れがある。具体的には、急ブレーキや前方からの衝突によって衝撃を受けると乗客には前方への慣性力が作用し、後方からの衝撃を受けると乗客には後方への慣性力が作用することとなる。更に、斜め方向や側方からの三次元方向からの衝撃を受けると慣性力が複雑に絡み合って作用することとなる。
【0024】
例えば、後方への慣性力が作用し、乗客がシートから後方に投げ出されると、後ろの乗客の脚部に衝突することとなり、前方への慣性力が作用して前方に投げ出されると、後方の乗客の脚部が前方の乗客の頭部に衝突することとなる。よって、鉛直設置時における乗客の頭部を直接カバーする安全手段が、文献1発明を営業車両として運行するためには必須となる。
【0025】
これらの知見に基づき、本発明は、フェイルセーフの観点から、走行中,駐・停車中を問わず急ブレーキや事故等の様々な原因による衝撃は必ず起きるとの前提に立って、鉛直設置時において、前後方向等の二次元方向からの衝撃や、予見不可能な三次元方向からの衝撃に対して、シートベルトによる安全確保に加味して、これらの衝撃がシートベルトによる保持を超え、乗客がシートベルトからバスの前後方向等の二次元方向や三次元方向に抜け出てしまう場合であっても乗客の安全、特には最も大切な頭部の安全を確保する手段を提供することを第2の課題としている。
【0026】
そこで本発明は、文献1発明を実車に適用するに際して新たに知見を得た第1の課題及び第2の課題、特には第2の課題を解決することによって、シートをフラットにして横たわる快適な夜間就寝を実現するとともに、昼間着座時及び夜間就寝時の双方において走行中,駐・停車中を問わず急ブレーキや事故等の様々な原因による衝撃に対して高い安全性を確保したシート構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0027】
第2の課題を解決するために、鉛直設置時において、走行中,駐・停車中を問わず急ブレーキや事故等の種々の原因による衝撃を受けた際の乗客の姿勢と、鉛直設置時におけるシートの設置状況との関係について研究を進める中で、シートの背もたれを利用することについての着想を得て本発明に想到した。
【0028】
本発明は、請求項1により、それぞれ座面と背もたれを有する前シートと後シートからなる一対のシートを所定のフレーム内に組付けてシートユニットとして、長距離夜行バス内の長手方向に複数設置し、一対のシートの背もたれを起立させて、一対のシートを水平方向の略同列上に水平設置することにより、乗客が一対のシートに着座可能とし、前シートを後シートの上部空間に移動させるとともに、一対のシートの背もたれを水平状態にリクライニングさせて、一対のシートを鉛直方向の略同列上に鉛直設置することにより、乗客が一対のシートに任意の姿勢で横になって就寝可能とし、鉛直設置時において、一対のシートの背もたれの開放端部に頭部防護柵を鉛直方向・上向きに起立させて設置することにより、前方からの衝撃を受けて前方に飛び出そうとする乗客の脚部を受け止めるとともに、後方からの衝撃を受けて後方に飛び出そうとする乗客の頭部を受け止めることによって、就寝状態の乗客の頭部への衝撃を緩和し、かつ、水平設置時において、頭部防護柵を回動させて、一対のシートの背もたれの背面に設置可能とした長距離夜行バスのシート構造を基本として提供する。
【0029】
そして、請求項2により、頭部防護柵を、背もたれの開放端部に回動自在に軸着するとともに、鉛直設置時において鉛直方向・上向きに固定可能とする構成を提供するとともに、請求項3により、頭部防護柵は、左右両方向の下端に、先端が開放した左右一対の防護枠端杆を突設してなり、該防護枠端杆を背もたれの開放端部に回動自在に軸支してなる構成を提供する。
【0030】
請求項4により、背もたれの開放端部の左右両端に防護枠フランジを突設し、該防護枠フランジに防護枠端杆を回動自在に軸支する構成を、請求項5により、左右一対の防護枠端杆間に防護枠固定杆を架設し、頭部防護柵を背もたれの開放端部に鉛直方向・上向きに起立させた状態において、防護枠固定杆を背もたれの開放端部に付設した固定手段に固定することによって、頭部防護柵を固定する構成を提供する。
【0031】
請求項6により、固定手段として、ラッチ機構を使用する構成を提供する。
【0032】
請求項7により、頭部防護柵は、所定形状の防護枠本体と、防護枠本体の左右両方向の下端に突設した左右一対の防護枠端杆と、防護枠本体の一面を覆蓋して固定した防護パネルと、防護パネルを覆蓋して固定した防護緩衝材を有する構成を提供する。
【発明の効果】
【0033】
以上記載した本発明によれば、前シートを後シートの上部空間に移動させて、一対のシートを鉛直方向の略同列上に鉛直設置可能とすることにより、シート数を減少させることなく、シートをフラットにして横たわることが可能となり、快適な夜間就寝を実現することができる。そのため、乗客からの要望の大きい夜間就寝時において後席の乗客に負担や我慢を強いたり気兼ねをすることなく、又自らも我慢を強いられることなくリラックスするために、よりフラットに近い状態までリクライニング可能なシートを、シート数を減らすことなく実現することができる。
【0034】
そして、鉛直設置時、即ち、夜間に乗客がフラットなシートに横臥,伏臥,仰臥等の任意の姿勢で横になって就寝している状態での走行中,駐・停車中を問わず急ブレーキや事故等の種々の原因による二次元方向からや三次元方向からの予見不可能でシートベルトが対向する位置に存在しないような衝撃を受けたことによって、乗客がシートから離脱して前方や後方に投げ出されるようなことがあったとしても、一対のシートの背もたれの開放端部に頭部防護柵を鉛直方向・上向きに起立させて設置しているため、この頭部防護柵によって乗客の頭部を保護することが可能である。
【0035】
具体的には、急ブレーキや衝突等によって前方からの衝撃を受けて前方への慣性力が乗客に作用したとしても、慣性力によって前方に飛び出そうとする乗客の脚部は1つ前のシートに設置した頭部防護柵によって受け止められて停止するため、1つ前のシートの乗客に脚部が衝突することを防ぐことができる。また、後方からの衝突等によって後方からの衝撃を受けて後方への慣性力が乗客に作用したとしても、慣性力によって後方に飛び出そうとする乗客の頭部はシートに設置した頭部防護柵に装備した防護パネルを覆蓋して固定した防護緩衝材によって受け止められて保護される。
【0036】
頭部防護柵は、背もたれの開放端部に回動自在に軸着されており、鉛直設置時において鉛直方向・上向きに固定可能とするとともに、水平設置時には、頭部防護柵を回動させて、背もたれの背面に設置するため、水平設置時、即ち、昼間に乗客がシートに着座した状態での走行において、頭部防護柵の存在が支障となることはない。頭部防護柵は必要に応じて、背もたれの開放端部に鉛直方向・上向きに起立させて設置することが可能である。
【0037】
よって、本発明によれば、フェイルセーフの観点から、走行中,駐・停車中を問わず急ブレーキや事故等の様々な原因による衝撃は必ず起きるとの前提に立って、鉛直設置時において、乗客の頭部を保護することが可能となり、営業車両としてバスを運行するに際して、快適性や収益性に先んじて考慮すべき最も大切な乗客の安全を担保できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】シートユニットの水平設置時における斜視図。
【
図2】シートユニットの鉛直設置時における斜視図。
【
図3】水平設置時における一対のシートの側面概略図。
【
図7】鉛直設置時における一対のシートの側面概略図。
【
図8】鉛直設置時における一対のシートの側面概略図。
【
図9】水平設置時の支持体と前支柱との関係を示す要部説明図。
【
図10】鉛直設置時の支持体と前支柱との関係を示す要部説明図。
【
図11】前シートの上昇時の支持体と前支柱との関係を示す要部説明図。
【
図12】前シートの上昇完了時の支持体と前支柱との関係を示す要部説明図。
【
図13】前シートの上昇完了時の座面枠の摺動状態の要部説明図。
【
図14】鉛直設置時における前シートの要部正面図。
【
図15】鉛直設置時における前シートの要部背面図。
【
図17】鉛直設置時における一対のシートの正面図。
【
図18】前シートの上昇完了時の座面の要部平面図。
【
図19】前シートの上昇完了時の座面枠の摺動状態の要部平面図。
【
図20】前シートの上昇完了時の座面枠の摺動完了後の要部平面図。
【
図21】背もたれ枠を座面枠に所定角度で固定した状態を示す要部説明図。
【
図22】背もたれ枠を座面枠に回動可能な状態を示す要部説明図。
【
図23】(a)(b)(c)座面連結板と背もたれ連結板の連結状態を示す説明図。
【
図24】(a)(b)前シートの背もたれの要部説明図。
【
図25】(a)(b)後シートの背もたれの要部説明図。
【
図26】後シートの縮小変更前の構造を示す要部説明図。
【
図28】後シートの縮小変更途中の構造を示す要部説明図。
【
図30】後シートの縮小変更後の構造を示す要部説明図。
【
図35】(a)前方第1係止具(後方第1係止具)の斜視図,(b)前方第2係止具(後方第2係止具)の斜視図。
【
図45】レールの前方第1係止具と基材の前方窓部の係合状態を示す要部斜視図。
【
図46】一対のレールの後方第1係止具と一対の基材の後方窓部の係合状態を示す要部斜視図。
【
図47】水平設置時のバス床面とレール及び基材の関係を示す側面図。
【
図48】鉛直設置時のバス床面とレール及び基材の関係を示す側面図。
【
図49】水平設置時のバス床面とレール及び基材の関係を示す部分側断面図。
【
図50】水平設置時におけるレールと基材の固定状態を示す要部断面図。
【
図51】鉛直設置時におけるレールと基材の固定状態を示す要部断面図。
【
図52】シートユニットの水平設置時における側面図。
【
図53】前後2つのシートユニットの水平設置時における側面図。
【
図54】前後2つのシートユニットの水平設置時における斜視図。
【
図55】前後2つのシートユニットの鉛直設置時における斜視図。
【
図56】鉛直設置時における頭部防護柵の使用状態を示す側面図。
【
図57】鉛直設置時における頭部防護柵の作用説明図。
【
図60】一対のレールの敷設状態を示すバスの平面図。
【
図61】鉛直設置時におけるフレームの設置状態を示すバスの側面図。
【
図62】水平設置時におけるフレームの設置状態を示すバスの側面図。
【
図63】鉛直設置時におけるシートユニットの設置状態を示すバスの平面図。
【
図64】鉛直設置時におけるシートユニットの設置状態を示すバスの側面図。
【
図65】(a)飛出防止板を収納した運転席隔壁の要部側面図,(b)飛出防止板を収納した運転席隔壁の要部斜視図,(c)飛出防止板を設置した運転席隔壁の要部側面図,(d)飛出防止板を設置した運転席隔壁の要部斜視図。
【
図66】文献1発明の鉛直設置時におけるシートユニットの設置状態を示すバスの平面図。
【
図67】(a)従来のシートの間隔を示す説明図,(b)リクライニング時のシートの間隔を示す説明図。
【
図68】(a)従来のシートの間隔を示す説明図,(b)シートの間隔を広げた説明図,(c)シートの間隔を広げた場合のリクライニング時の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に、第1の課題及び第2の課題を解決するための本発明にかかる長距離夜行バスのシート構造の実施形態を図面に基づいて説明する。本発明が対象とする長距離夜行バス1は、就寝を伴う夜間の長距離走行を伴うバスであれば特に限定はないが、主として都市間交通のために就寝を伴う夜間の長距離走行を伴う大型の路線バス又は貸切バスを対象としており、本実施形態におけるバス全長のサイズ等は前記したとおりである。なお、本発明にかかる長距離夜行バス1は、そのサイズや乗車人数に限定があるわけではなく、中型、或いは小型のバスであってもよい。
【0040】
図3は本発明にかかる前シート10と後シート20からなる一対のシート30の水平設置時における側面概略図である。前シート10及び後シート20は、それぞれ座面11,21の後端部に所定角度で前後方向にリクライニング(傾倒)可能な背もたれ12,22を有している。また、座面11,21の前端部、具体的には後述する座面枠50,25の前端部に、それぞれ折り畳み可能な着座脚19,29と、それぞれ折り畳み・伸展可能で先端部にフットレスト機能を具備したレッグレスト13,23を垂下して装備している。
【0041】
前シート10及び後シート20からなる一対のシート30を強度部材であるフレーム40に組付けてシートユニット110としている。フレーム40は、それぞれ左右一対の基材41と桁材42を所定高さを保持して、それぞれ左右一対の前支柱43及び後支柱44で連結するとともに、左右一対の桁材42を前後方向に所定幅を保持して所定数の梁材で連結してなり、中空の略直方体状に構成している。
【0042】
図60に示すように、長距離夜行バス1の床面2に所定間隔で敷設した左右一対のレール120上に、シートユニット110を摺動可能に設置する。本実施形態では、左右一対のレール120を相互に長手方向の通路を介在させて幅方向に、一方の窓側区域,中央区域,他方の窓側区域に3列並列させるとともに、長手方向に各列4組を設置した。なお、最後部のトイレ横のスペースAには、5組目の一対のシート30を設置するスペースが残っていない。そこで、スペースAには、前シート10又は後シート20と同様にフラットな状態まで背もたれをリクライニング可能な構造の単独のシート(図示略)を、4組目のシートユニット110の後方に2席設置することが可能である。その場合、長距離夜行バス1におけるシート数は26席[2席(シートユニット110)×3列(幅方向)×4列(長手方向)+2席(単独のシート,図示略)]となる。
【0043】
本発明は夜間走行時における就寝時間帯以外は、
図3に示すように、一対のシート30を構成する前シート10と後シート20を水平方向の略同列上に設置した状態とし、乗客は座面11,21に着座して乗車する(以下、この状態を「着座状態」という)。そして、夜間走行時における就寝時間帯は、
図7,
図8に示すように、前シート10を後シート20の上部空間に移動させて、一対のシート30を構成する前シート10と後シート20を鉛直方向の略同列上に設置し、背もたれ12,22を水平状態にリクライニングさせるとともにレッグレスト13,23を伸展させて、座面11,21、背もたれ12,22、レッグレスト13,23を水平な、略180度のフラットな状態とし、乗客は就寝のため横臥,伏臥,仰臥等のそれぞれ任意の楽な姿勢で乗車する(以下、この状態を「就寝状態」という)。
【0044】
これにより、一対のシート30の設置エリアを前シート10及び後シート20双方の専用エリアとして、それぞれ単独で利用可能となる。即ち、前シート10及び後シート20の水平方向のスペースを開放し、該開放したスペースを利用して、後シート20や他の一対のシートに干渉することなく、前シート10の背もたれ12を水平状態にリクライニングし、レッグレスト13を伸展させることができる。同様に後シート20も後方に設置した一対のシート30の前シート10や他の一対のシートに干渉することなく、後シート20の背もたれ22を水平状態にリクライニングし、レッグレスト23を伸展させることができる。
【0045】
なお、水平方向の略同列上とは、一対のシート30を構成する前シート10と後シート20間においても、又長距離夜行バス1内の幅方向及び長手方向に複数設置した一対のシート30間相互においても、前シート10の水平方向の前後に後シート20が存在し、又後シート20の水平方向の前後に前シート10が存在する状態、即ち、前シート10と後シート20が同一平面上の前後に位置している状態をいう(
図3参照)。
【0046】
また、鉛直方向の略同列上とは、一対のシート30を構成する前シート10と後シート20間においても、又長距離夜行バス1内の幅方向及び長手方向に複数設置した一対のシート30間相互においても、前シート10の水平方向の前後に後シート20が存在せず、又後シート20の水平方向の前後に前シート10が存在しない状態、即ち、後シート20の略真上に前シート10が位置している状態、敷衍すれば、前シート10と後シート20が鉛直方向において、設置スペースの全部又は一部を共有して並存している状態をいう(
図7,
図8参照)。
【0047】
本発明は、それぞれ座面11,21と背もたれ12,22を有する前シート10と後シート20からなる一対のシート30を所定のフレーム40内に組付けてシートユニット110を構成し、一対のシート30を水平方向の略同列上に水平設置して着座状態とするとともに、前シート10を後シート20の上部空間に移動させて、一対のシート30を鉛直方向の略同列上に鉛直設置して就寝状態とすることを基本としている。そこで、先ず、本発明にかかる一対のシート30の実施形態を、着座状態の水平設置から、就寝状態の鉛直設置に変位させる工程に従って、図に基づいて順次説明する。本実施形態では、前シート10を後シート20の上部空間に移動させる手段として、フレーム40の前支柱43を利用する。即ち、前シート10の座面11を前支柱43に昇降可能に装着し、前シート10の座面11を、水平設置時の状態から前支柱43に沿って上昇させて後シート20の上部空間に鉛直設置するようにしている。
【0048】
[工程1/
図3,
図7~
図10,
図14~
図17等]
図3は水平設置時における一対のシート30の側面概略図である。フレーム40内に組付けられた一対のシート30の前シート10及び後シート20は、それぞれ座面11,21の後端部を前支柱43,後支柱44に支持され、着座脚19,29を床面2に接地させるとともに、背もたれ12,22を所定角度で座面11,21に支持させている。この水平設置時において、乗客は前シート10及び後シート20にそれぞれ着座することができる。
【0049】
図7,
図8は鉛直設置時における一対のシート30の側面概略図である。フレーム40内に組付けられた一対のシート30の前シート10は後シート20の上部空間に移動するとともに、背もたれ12,22をリクライニングさせてフラットな状態にして固定されており、一対のシート30は鉛直方向の略同列上に鉛直設置されている。この鉛直設置時において、乗客は一対のシート30の前シート10及び後シート20にそれぞれ横臥,伏臥,仰臥等の任意の楽な姿勢で横たわって就寝することができる。
【0050】
図14は鉛直設置時における前シート10の要部正面図、
図15はその要部背面図、
図16は
図14の要部拡大図、
図17は鉛直設置時における一対のシート30の正面図である。前シート10の座面11は、
図14~
図17に示すように、クッション14を載置する座面枠50と、座面枠50の左右両端の下面に固定した一対のスライドガイド51と、座面枠50の下面のスライドガイド51の内側の領域に固定した左右一対のスライドレール52と、スライドレール52を摺動可能に嵌合したレールガイド53と、上面にレールガイド53を固定し、左右両端に一対の昇降部55aを有する支持体55とから構成されている。この就寝状態においては、前シート10の着座脚19は、座面枠50の下面に折り畳んで収納している(
図14,
図17参照)。なお、15はステイであり、前シート10の伸展させたレッグレスト13を支持するものであって、不使用時は支持体55の上面凹部に収納されている。なお、
図14~
図17において、前シート10の背もたれ12は図示を省略している。
【0051】
図9は水平設置時における、
図10は鉛直設置時における支持体55と前支柱43との関係を示す要部説明図である。両図において支持体55以外の座面11を構成する部材の図示は省略している。両図に示すように、左右一対の前支柱43は、それぞれ開口部を相互に対面させた中空凹部43aを有し、上下両側端に車輪55bを装着した昇降部55aが中空凹部43a内を上下方向に走行可能である。
【0052】
図3,
図9に示す水平設置時において、前シート10の座面11は、後シート20側の基端部、具体的には支持体55を前支柱43の中空凹部43aに昇降可能に装着しており、座面11は前支柱43から前方の領域に位置している。なお、着座状態において、前シート10は適宜の手段でフレーム40の基材41や床面2に固定されている。
【0053】
[工程2/
図4,
図10,
図11,
図18等]
図3,
図9に示す水平設置時から、
図4の矢印Yに示すように前シート10の座面11を前支柱43に沿って上方に移動させるには、前シート10をフレーム40や床面2への固定から開放した後、着座脚19を折り畳んで座面11の下面に収納し、
図10,
図11に示すように、前支柱43の中空凹部43a内で昇降部55aの車輪55bを走行させ、支持体55を前支柱43に沿って上昇させることにより、前シート10の座面11を前支柱43に沿って上方に上昇させる。なお、前シート10の移動手段は人力又は適宜の機械装置や補助手段を利用して行えばよく、その手段に限定はない。
【0054】
前支柱43の中空凹部43a内には、座面11を所定の高さ位置に案内するため、昇降部55aの上昇位置を規制するストッパ45が所定の箇所に設置されるとともに、前支柱43の背面の所定位置にはストッパ45に隣接してガイド台70が突設されている。ガイド台70の上面は前支柱43より幅広に形成されており、対面する前支柱43方向に向けて、即ち、前支柱43の内側に向けて突出している。
【0055】
前支柱43に沿って昇降部55aの車輪55bをストッパ45に衝接するまで走行させることにより、座面11は
図4,
図10,
図12に示すように鉛直設置時における所定の高さまで上昇する。
図18は所定高さまで上昇した座面11の要部平面図であり、座面11は前支柱43の前方向Mに位置しており、スライドガイド51はガイド台70と接していない。よって、所定高さまで上昇した状態の座面11はガイド台70に載置されておらず、未だ前支柱43に固定されていない。また、
図4に示すように水平設置時と同様に前支柱43より前方に位置しており、未だ後シート20の鉛直方向の略同列上に位置していない。
【0056】
[工程3/
図4,
図6,
図13,
図18~
図20等]
そこで、
図4,
図18に示す昇降部55aの上昇位置において、スライドレール52を支持体55の上面に固定したレールガイド53内を摺動させて後方向U(後シート20方向)に摺動させる。なお、レールガイド53の対向する側壁内面には、レールガイド53内に嵌合するスライドレール52の抜け止め用突部53aが、それぞれ長手方向に突設されている(
図16参照)。この左右一対の抜け止め用突部53aによって、スライドレール52の両側面を挟持している。
【0057】
昇降部55aの上昇位置において、ガイド台70の上面は、座面枠50の左右両端の下面に固定した一対のスライドガイド51と同じか、僅かに低い位置にあり、
図19に示すようにスライドガイド51はガイド台70上を摺動可能である。そのため、支持体55は、スライドガイド51がガイド台70に当接し、或いは僅かな間隙を残す高さ位置までストッパ45によって規制されて上昇している。この状態から、
図13,
図20に示すように座面11の座面枠50,座面枠50の上面に載置したクッション14,座面枠50の下面に固定したスライドレール52及びスライドガイド51が支持体55から、後方向U(後シート20方向)に所定長さだけ摺動するとともに、スライドガイド51がガイド台70上に載置される。これにより、座面11は
図6の矢印X及び
図20に示すように水平設置時における前支柱43より前方の位置から前支柱43の後方の位置に所定量だけ移動し、後シート20の鉛直方向の略同列上に位置することとなる。この状態において座面11はスライドガイド51を介してガイド台70によって所定の高さ位置に支持される。
【0058】
なお、スライドガイド51は長尺部材であり、ガイド台70に載置する構成でもよいが、安全性を高めるためスライドガイド51の下面に鍵状の係合部(図示略)を形成し、ガイド台70の後端部に係止し、或いは他の適宜の固定手段によって着脱可能に固定することが望ましい。一対のスライドガイド51は、座面枠50の摺動を案内するとともに、摺動後の座面枠50をガイド台70に安定して載置する作用を果たす。
【0059】
上記した構成の一対のシート30によれば、前支柱43を使用して前シート10を後シート20の上部空間に移動させることができる。なお、鉛直設置時における前シート10への進入及び離脱は、後支柱44等の適宜の箇所に階段やステップ等の昇降手段(図示略)を付設して行う。
【0060】
[工程4/
図21~
図23等]
次に、前シート10を後シート20の上部空間に移動させた一対のシート30を安定、かつ、安全に固定する構成について工程4,工程5として説明する。即ち、前シート10及び後シート20の座面11,21と背もたれ12,22を所定の角度にリクライニングさせて固定する構成、特には鉛直設置時において、座面11,21と背もたれ12,22が水平状態となるように安定、かつ、安全に固定する実施形態について説明する。この構成は前シート10と後シート20において共通するため、本実施形態では前シート10を例として説明し、後シート20については前シート10との相違点についてのみ説明する。
【0061】
先ず、背もたれ12の背もたれ枠80を座面11の座面枠50に所定角度で固定可能に連結する構成について、
図21~
図23に基づいて説明する。
図21は背もたれ枠80を座面枠50に所定角度で固定した状態を示す要部説明図、
図22は背もたれ枠80を座面枠50に回動可能な状態を示す要部説明図、
図23(a)(b)(c)は座面連結板56と背もたれ連結板66の連結状態を示す説明図である。
【0062】
座面連結板56は所定形状、例えば矩形状の板材からなる強度部材であって、クッション14を装備する座面枠50の基端部の両側にそれぞれ突設されている。座面連結板56には、座面連結孔57が穿設されるとともに、その円周方向の外周の所定の位置に座面連結孔57より径小の基準固定孔58が穿設されている。背もたれ連結板66は座面連結板56と略同一形状の板材からなる強度部材であって、背もたれクッション81を装備する背もたれ枠80の基端部の両側にそれぞれ突設されている。背もたれ連結板66には、背もたれ連結孔67が穿設されるとともに、その円周方向の外周に背もたれ連結孔67より径小の複数の選択固定孔68(図示例では選択固定孔68a,68b,68cの3個)が円弧状に位置を異にして穿設されている。なお、複数の選択固定孔68の個数や配置角度は任意の個数や角度を選択すればよい。
【0063】
左右一対の座面連結板56の座面連結孔57間に連結杆59を挿通して座面連結板56を回動不能に固定するとともに、連結杆59の両端をそれぞれ左右一対の背もたれ連結板66の背もたれ連結孔67に連通させて、背もたれ連結板66を座面連結板56に対して回動可能に遊嵌する。そして、背もたれ連結孔67から突出した連結杆59の両端をキャップ59b等の適宜の手段で覆蓋する。背もたれ連結孔67は連結杆59より僅かに経大であり、背もたれ連結板66は連結杆59を中心として回動可能である。この状態では座面連結板56と背もたれ連結板66は固定されておらず、背もたれ枠80も座面枠50に固定されていない。
【0064】
座面連結板56に穿設した基準固定孔58と、背もたれ連結板66に穿設した複数の選択固定孔68とは、背もたれ連結板66が回動することによって、基準固定孔58に対して選択固定孔68を構成するそれぞれの選択固定孔68a,68b,68cが順次に対面して連通するものであり、この連通している基準固定孔58と選択固定孔68a(選択固定孔68b,68c)に第1固定ピン65を挿通することにより、座面連結板56と背もたれ連結板66を所定角度で固定すること、即ち座面枠50に対して背もたれ枠80を所定角度で固定することができる。
【0065】
連結杆59の略中央部に垂設したブラケット59aには、所定長さの棒状の回動杆61が回動可能に軸支されており、この回動杆61に所定間隔を空けて、左右一対の索条62の一端を固定するとともに、索条62の他端に左右一対の第1固定ピン65がそれぞれ弾性部材63を介在させて、座面連結板56の基準固定孔58に臨んで固定されている。そして、回動杆61の一端部にはストラップ64等の適宜の操作手段を連結している。第1固定ピン65は常時は弾性部材63に付勢されて、
図21に示すように基準固定孔58及び基準固定孔58に対面している選択固定孔68a(68b,68c)に挿通されて、座面連結板56と背もたれ連結板66を所定角度で固定している(
図21参照)。
【0066】
この
図21に示す状態から、例えばストラップ64等の適宜の操作手段を操作して、矢印Zに示すように回動杆61を回動させることにより、索条62が弾性部材63に抗して回動杆61方向に引っ張られ、第1固定ピン65が選択固定孔68a(68b,68c)から抜落し、座面連結板56に対して背もたれ連結板66が連結杆59を軸として回動可能な状態となる(
図22参照)。なお、この状態でも第1固定ピン65は座面連結板56の基準固定孔58内には挿通された状態を保持している。
【0067】
図23(a)は、水平設置時における着座状態の座面枠50と背もたれ枠80の位置関係(
図3参照)を保持するため、基準固定孔58と選択固定孔68aに第1固定ピン65を挿通して座面連結板56と背もたれ連結板66を固定している。これにより、座面連結板56と背もたれ連結板66、即ち座面枠50と背もたれ枠80は着座姿勢に適した角度に保持される。
【0068】
図23(b)は、前シート10の上昇作業時において座面枠50と背もたれ枠80の位置関係(
図4参照)を保持するため、基準固定孔58と選択固定孔68bに第1固定ピン65を挿通して座面連結板56と背もたれ連結板66とを固定している。これにより、背もたれ12が前シート10の上昇作業時の障害となることがない。また、水平設置時における着座状態において、前シート10及び後シート20の背もたれ12,22をリクライニングさせる際に選択固定孔68bを利用することができる。
【0069】
図23(c)は、鉛直設置時における就寝状態の座面枠50と背もたれ枠80の位置関係(
図5~
図7参照)を保持するため、基準固定孔58と選択固定孔68cに第1固定ピン65を挿通して座面連結板56と背もたれ連結板66が略水平となるように固定している。これにより、座面連結板56と背もたれ連結板66、即ち、座面枠50と背もたれ枠80は就寝姿勢に適した略水平状態に保持される。
【0070】
[工程5/
図6~
図8,
図24,
図25等]
前記した鉛直設置時において、前支柱43を利用して、前シート10を後シート20の上部空間に移動させて、スライドガイド51を介して座面枠50をガイド台70に載置する作業を行う前には、
図23(C)に示すように座面連結板56と背もたれ連結板66を基準固定孔58と選択固定孔68cを連通させて第1固定ピン65で固定し、座面枠50と背もたれ枠80を略水平状態に保持する。或いは、座面枠50をスライドガイド51を介してガイド台70に載置する作業完了後に、背もたれ枠80を前記した作業によって水平状態に保持するようにしてもよい。これにより、座面枠50はガイド台70によって支持されるとともに、背もたれ枠80の基端部は座面枠50に略水平状態に保持されているものの、背もたれ枠80の先端部は開放された状態で後支柱44間に位置している。
【0071】
図24(a)(b)は、前シート10の背もたれ12の要部説明図であり、図に示すように、背もたれ12を構成する強度部材である背もたれ枠80の両側部の所定箇所には、操作杆82で伸縮操作可能な左右一対の第2固定ピン85を装備している。81は背もたれ枠80に装備するクッションである。
図6に示すように、鉛直設置時において、第2固定ピン85と対面する後支柱44の内面には、それぞれ第2固定ピン85が進入可能な背もたれ固定孔83が穿設されており、
図24(b)に示すように、操作杆82を操作して第2固定ピン85を伸長させて、前記背もたれ固定孔83に挿通することにより、背もたれ枠80を後支柱44に固定することができる。
図24(a)は、操作杆82を操作して第2固定ピン85を縮小させて背もたれ枠80内に収納することにより、背もたれ枠80を後支柱44から開放することができる。更に、
図7に示すように、前シート10のレッグレスト13を水平方向に繰り出して、ステイ15を使用して水平状態に保持している。これにより、前シート10の鉛直設置が完了する。なお、86は着座時における身体進退の動作や、鉛直設置時における背もたれ12の操作を補助するために握持するハンドルである。
【0072】
同様にして、後シート20の背もたれ枠90を水平状態に保持する。後シート20の座面連結板56と背もたれ連結板66の固定手段及びレッグレスト23の水平方向への保持手段は、前シート10と同一の構成であるため、その説明を省略する。なお、後シート20の背もたれ枠90を水平状態とした場合、背もたれ枠90は後支柱44間に位置しない。そこで、後シート20の背もたれ枠90の背面には、
図25,
図8に示すように、回動自在な支持脚35を装備しており、鉛直設置時には背もたれ枠90から支持脚35を回動させて繰り出して、床面2に倒伏不能に設置することにより、背もたれ枠90の先端部を支持する。なお、91は背もたれ枠90に装備するクッション、96は着座時における身体進退の動作や、鉛直設置時における背もたれ22の操作を補助するために握持するハンドルである。
【0073】
図8に示す状態において、前シート10の座面枠50のスライドガイド51は、前支柱43に固着した強度部材であるガイド台70に載置されており、加えてスライドガイド51とガイド台70を係合させることによって、更に安定して載置することができる。また、背もたれ枠80の基端部は、背もたれ枠80に固着した背もたれ連結板66を介して、座面枠50に固着した座面連結板56と第1固定ピン65によって強固に固定されているとともに、背もたれ枠80の両側部に装備した第2固定ピン85によって後支柱44に強固に固定されている。そのため、前シート10は後シート20の鉛直方向に安定、かつ、安全に固定されている。
【0074】
同様に後シート20の座面枠25は、支持脚36によって床面2に支持されており、背もたれ枠90の基端部は背もたれ枠90に固着した背もたれ連結板66を介して、座面枠25に固着した座面連結板56と第1固定ピン65によって強固に固定されているとともに、背もたれ枠90の背面に装備した支持脚35によって床面2に支持されている。そのため、後シート20は前シート10の鉛直方向に安定、かつ、安全に固定されている。
【0075】
[工程6/
図8,
図26~
図31等]
図3に示す水平設置時の状態から、前シート10を前支柱43に沿って上昇させて後シート20の上部空間に変位させるとともに、前シート10及び後シート20の座面11,21と背もたれ12,22を水平状態に固定した
図7に示す状態に基づき、鉛直設置時において、前シート10及び後シート20の上部空間の高さ寸法に余裕がなく窮屈であること、即ち、長距離夜行バス1の構造上、特に室内高さ寸法の制約から乗客が寝返り等の身体の動静を行うために必要な高さ寸法を確保することができず、快適な夜間就寝を可能とするためのリラックスした姿勢を保持することが困難であることについて、具体的に検証する。
【0076】
前記した全長11990mm,室内幅寸法2310mmで幅方向に3列のシートを並列させた長距離夜行バス1を例にとると、窓際の両側のシートの天井部にはエアコンのダクトや荷物棚が存在するため、床面2と荷物棚間の室内高さ寸法H(
図7参照)は、1550mm~1570mmのものが標準である。1550mmの室内高さ寸法H内に文献1発明のシートを設置する場合、鉛直設置時には後シートの座面21の上端から床面2までの高さ寸法H3(着座状態時の後シート20の高さ寸法,
図7,
図17参照)を400mm(座面21の下面から床面2までの高さ寸法H4の280mm+座面21の高さ寸法H5の120mm)、後シート20の鉛直方向に移動させた前シート10の座面11の高さ寸法H6を120mmとすると、後シート20と前シート10の上部空間の高さ寸法H1+H2(
図7参照)は1030mm(H-H4-H5-H6=1550mm-280mm-120mm-120mm)となる。この高さ寸法H1+H2の1030mmの空間を均等に利用すると、鉛直設置時における前シート10の上部空間の高さ寸法H2及び後シート20の上部空間の高さ寸法H1(
図7参照)は、それぞれ515mm(1030÷2)となる。
【0077】
また、床面2と荷物棚間の室内高さ寸法Hが1450mmに留まる場合、他の寸法が同一とすると、前記した後シート20と前シート10の上部空間の高さ寸法H1+H2(
図7参照)は930mm(1450mm-400mm-120mm)となる。この高さ寸法H1+H2の930mmの空間を均等に利用すると、鉛直設置時における前シート10の上部空間の高さ寸法H2及び後シート20の上部空間の高さ寸法H1(
図7参照)は、それぞれ465mm(930÷2)となる。長距離夜行バス1の室内幅寸法2310mmに対して、フレームに組み付けられた一対のシートの幅寸法は480mm程度となるため、465mmの高さ寸法H1,H2は、前シート10及び後シート20の幅寸法よりも低くなってしまう。
【0078】
就寝状態で乗客が寝返り等の身体の動静を行うためには、経験則に照らして580mm程度の高さ寸法の上部空間が存在することが望ましく、少なくとも前シート10及び後シート20の幅寸法480mmを超える高さ寸法H1,H2の上部空間が存在しなければ身体を横たえることも困難となる。文献1発明によって前シート10と後シート20が就寝のためにフラットに近い状態となったとしても、そのままでは、上部空間の高さ寸法H1,H2が不足し、快適な夜間就寝を可能とするためのリラックスした姿勢を保持することが困難である。なお、幅方向に3列並列させた中央のシートは上部にエアコンのダクトや荷物棚が存在しないため、床面2と天井間の高さ寸法は1800mmと余裕があり、鉛直設置時における前シート10及び後シート20の上部空間の高さ寸法として580mm以上を確保することが可能であるが、一対のシートとしては中央のシートと窓際の両側のシートと同一構成,同一サイズのシートを共通して用いることが汎用性に優れている。
【0079】
一方、後シート20の座面21と床面2との間の高さ寸法H3は、
図3に示すような水平設置時における着座状態では、足裏を床面2に着けて座面に腰を下ろした姿勢を保持するために必要不可欠であるものの、鉛直設置時における就寝状態では、足裏を床面2に降ろす必要がないため、その必要性が薄い。具体的には、長距離夜行バス1の窓際側の床面2には、高さ130mm,幅140mmのヒータ用のエアコンダクト100が敷設されていることが多いため、後シート20の座面21の上端から床面2までの寸法H3(着座状態時のシートの高さ寸法,
図7,
図17参照)400mmから、座面21の高さ寸法H5の120mm及び前記したエアコンダクト100の高さ寸法130mmを除いた150mm(400mm-120mm-130mm=150mm)は、鉛直設置時には不要である。また、エアコンダクト100が床面2に設置されていない長距離夜行バス1では、後シート20の座面21の下端から床面2までの寸法H4の280mm(H3-H5)を上部空間の拡大に利用することが可能である。よって、本発明は後シート20の座面21と床面2との間の高さ寸法H3を鉛直設置時には縮小変更可能として、縮小した寸法を後シート20の上部空間の高さ寸法H1及び前シート10の上部空間の高さ寸法H2の拡大に利用することにより、鉛直設置時における一対のシート30の上部空間の高さ寸法を拡大することができる。以下に、その手段を
図8,
図26~
図31に基づいて説明する。
【0080】
図8は鉛直設置時における一対のシート30の側面概略図、
図26は後シート20の縮小変更前の構造を示す要部説明図、
図27はその斜視図、
図28は縮小変更途中の後シート20の構造を示す要部説明図、
図29はその斜視図、
図30は縮小変更後の後シート20の構造を示す要部説明図、
図31はその斜視図である。図に示すように、後シート20の座面21において、クッション24を載置する座面枠25は、座面上枠26と、フレーム40の基材41に固定した座面下枠27とを起倒自在な座面脚28で連結して構成している。よって、座面脚28を起立状態とすることにより、座面上枠26と座面下枠27は一定距離離間し(
図26,
図27参照)、一方、座面脚28を倒伏状態とすることにより座面上枠26と座面下枠27は接近する(
図30,
図31参照)。
【0081】
座面脚28は、それぞれ下端を座面下枠27に回動自在に軸着するとともに、上端を座面上枠26に回動自在に軸着した左右一対の座面前脚28aと座面後脚28bとからなり、この左右一対の座面前脚28a及び座面後脚28bの中間部には、それぞれ鍔部28cを突設している。また、座面下枠27の所定箇所には、鍔部28cを着脱自在に支持する支持台座27aが突設されている。よって、座面脚28の起立時には、鍔部28cは支持台座27aに着座して座面上枠26を安定した角度で支持しており、座面21は乗客の体重に対する耐荷重性を保持している。
【0082】
左右一対の座面後脚28b間には脚連結杆37を架設するとともに、座面下枠27の所定箇所には座面脚28が起立し、鍔部28cが支持台座27aに着座している状態において、脚連結杆37を脱着自在に固定するC型部材等の適宜の固定手段33を装備している。よって、座面脚28の起立時には、脚連結杆37が固定手段33によって固定されている。そのため、この固定手段33及び前記した鍔部28cを支持する支持台座27aによって、座面21は乗客の体重を安定して支持するための着座状態の保持機能を有し、そのために必要な十分な耐荷重性を保持している。
【0083】
図7に示すように、鉛直設置時における就寝状態において、後シート20の座面21と床面2との間の高さ寸法H3を縮小変更するには、
図28,
図29に示すように固定手段33から脚連結杆37を開放し、座面上枠26を前支柱43方向に回動させることにより、座面前脚28aと座面後脚28bは座面下枠27を起点として前支柱43方向に回動し、
図30,
図31に示すように座面上枠26が座面下枠27に接近し、
図8に示す状態となる。座面上枠26の前支柱43方向の端部には座面上枠26が座面下枠27に接近した際に座面上枠26を支持するための所定高さの支持脚36が垂設されており、この支持脚36が床面2に接地することにより、座面上枠26の回動が停止する。この支持脚36及び座面前脚28a及び座面後脚28bによって、座面21は乗客の体重を安定して支持するための十分な耐荷重性を保持している。
【0084】
このように鉛直設置時において座面上枠26を座面下枠27に接近させることによって、
図7に示す後シート20の座面21と床面2との間の高さ寸法H3を、
図8に示すように後シート20の座面21と床面2との間の高さ寸法H3αに縮小変更することができる。この縮小した分の寸法(H3-H3α)によって、鉛直設置時における後シート20の上部空間の高さ寸法H1(後シート20の座面21と前シート10の裏面間の寸法)を拡大することができる。あるいは、この縮小した分の寸法によって、前シート10の上昇位置を下げることにより、前シート10の上部空間の高さ寸法H2(前シート10の座面11と荷物棚や天井間の寸法)の拡大を図ることが可能である。この縮小した分の寸法(H3-H3α)は、鉛直設置時における後シート20の上部空間の高さ寸法H1と前シート10の上部空間の高さ寸法H2に均等に利用してもよいし、どちらか一方のみ、或いは両者に任意の配分割合で利用してもよい。
【0085】
そして、水平設置時には鉛直設置時と逆の手順によって、座面脚28を起立させることにより、
図8に示す後シート20の座面21と床面2との間の高さ寸法H3αを、
図7に示すように後シート20の座面21と床面2との間の高さ寸法H3に復帰させることができる。よって、鉛直設置時における一対のシート30の上部空間の高さ寸法を拡大することができる。
【0086】
拡大幅を床面2と荷物棚間の高さ寸法が1550mmの長距離夜行バス1の実車に基づいて試算すると、長距離夜行バス1の窓側の両サイドには、前記したとおり、高さ寸法H8が130mmのエアコンダクト100が敷設されているため、本発明による縮小寸法H7は150mm(H3:400mm-H5:120mm-H8:130mm=H7:150mm)となる。この縮小寸法150mmを鉛直設置時における後シート20及び前シート10の上部空間の拡大のために均等に75mm(150mm×1/2)ずつ利用すると、それぞれの上部空間の高さ寸法H1,H2の515mmに拡大した高さ寸法H7(150mm)の1/2の75mmがそれぞれ加味されるため、上部空間の高さ寸法H1α,H2αは590mm(H1,H2:515mm+H7×1/2:75mm)となり(
図8参照)、就寝状態で乗客が寝返り等の身体の動静を行うために必要な580mm程度を超える高さ寸法の上部空間を実現することができる。
【0087】
また、床面2と荷物棚間の高さ寸法Hが1450mmであって、鉛直設置時の後シート20及び前シート10の上部空間高さ寸法が465mmとなる長距離夜行バス1の実車の後方のエリアにおいて、前記した本発明による150mmの縮小寸法H7を鉛直設置時における後シート20及び前シート10の上部空間の拡大のために均等に75mm(150mm×1/2)ずつ利用すると、それぞれの上部空間の高さ寸法H1α,H2αは、前記465mmの高さ寸法に拡大した寸法H7(150mm)の1/2の75mmがそれぞれ加味されるため540mm(H1,H2:465mm+H7×1/2:75mm)となり、後シート20及び前シート10の幅寸法480mmを超える高さ寸法の上部空間を実現することができ、就寝状態での利用が可能となる。また、拡大幅を床面と荷物棚間の高さ寸法に関わらず、一対のシートを全て共通の構成とすることができ、汎用性を持たせることが可能である。
【0088】
一対のシート30を就寝状態の鉛直設置から、着座状態の水平設置に変位させるには、前記した着座状態の水平設置から、就寝状態の鉛直設置に変位させる工程を逆に行えばよい。一対のシート30を着座状態の水平設置から、就寝状態の鉛直設置に変位させる構成については特に限定はなく、前記した構成はその一例であって、他の構成を適宜採用可能である。なお、前記した構成は、文献1発明を営業車両として運行するために、鉛直設置時において、一対のシート30の上部空間の高さ寸法を拡大し、一対のシート30へ出入りする開口領域を確保するとともに、一対のシート30を安定、かつ、安全に固定するために新たに本発明者らが提供した構成である。
【0089】
本発明は前記した着座状態の水平設置と、就寝状態の鉛直設置を変位可能なシートユニット110をバスの床面2に敷設した所定長さのレール120上に摺動可能に設置する長距離夜行バスのシート構造を、営業車両として実際に運行するために要求される前記した第1の課題及び第2の課題を解決するものである。これらの課題の要旨は次のとおりである。
第1の課題:水平設置時及び鉛直設置時の双方において、走行中,駐・停車中を問わず急ブレーキや事故等の様々な原因による種々の衝撃をシートユニット110が受けた場合においてもレール120からの脱線を防止すること。
第2の課題:鉛直設置時において、急ブレーキや事故等の様々な原因による種々の衝撃をシートユニット110が受け、就寝状態の乗客がシートユニット110から抜け出してしまうような場合であっても乗客の安全、特には最も大切な頭部の安全を確保すること。
【0090】
以下に、第1の課題を解決する手段を図面に示す実施形態に基づいて説明する。なお、床面2に付設されたヒータ用のエアコンダクト100(
図17参照)については省略して説明する。本発明ではシートユニット110を、
図60に示す長距離夜行バス1の床面2に所定間隔で敷設した左右一対で所定長さのレール120上に摺動可能に設置する。
図32は一対のレール120の平面図、
図33はレール120の側面図、
図34はその中央縦断面図である。レール120は、長手方向全域の上面が開口した所定長さの断面コ字状の強度部材であり(
図50,
図51参照)、左右一対のレール120を床面2に所定幅で敷設する。敷設に際しては、
図47~
図51に示すように、床面2に埋設された強度部材である長尺の埋設部材3にレール底面120aをボルト121,ナット122等の適宜の固定具で固定する。既存のバスであれば、床面2に埋設された既存のシートを固定するための埋設部材3を利用することが可能である。
【0091】
図32~
図34に示すように、左右一対のレール120は同一構成であって、それぞれレール底面120aの前端に前方第1係止具130を、レール底面120aの後端に後方第1係止具140をそれぞれ突設するとともに、前方第1係止具130から所定距離離間したレール底面120aに後方第2係止具145を、後方第1係止具140と後方第2係止具145の間のレール底面120aに前方第2係止具135をそれぞれ突設してある。
【0092】
図35(a)は、前方第1係止具130と後方第1係止具140の斜視図であり、それぞれ略直角に曲成した鉤部130a,140aを有する同一形状である。前方第1係止具130をレール底面120aに固定するには、
図35に示すように、前方第1係止具130の中央部に穿設した固定軸孔131に挿通して固定した固定軸132を、
図45に示すようにレール120の先端部のレール側面120bに軸架することによって固定する。後方第1係止具140についても同様の構成でレール底面120aに固定する(
図46参照)。なお、前方第1係止具130と後方第1係止具140の固定手段に特に限定はなく、例えばその底面をレール底面120aに溶接する等適宜の手段を選択すればよい。
【0093】
図35(b)は、前方第2係止具135と後方第2係止具145の斜視図であり、それぞれ略直角に曲成した鉤部135a,145aを有する同一形状であり、レール底面120aに溶接等の適宜の手段で固定する。なお、前方第1係止具130,前方第2係止具135,後方第1係止具140,後方第2係止具145の4個の鉤部130a,135a,140a,145aは同一の高さ寸法を有しており、その頂部がレール側面120bより高く、レール側面120bから頂部が僅かに突出している(
図33,
図34参照)。
【0094】
そして、前方第1係止具130と、前方第2係止具135は、それぞれ鉤部130a,135aをレール後方向Uに曲成して設置しており、後方第1係止具140と後方第2係止具145は、それぞれ鉤部140a,145aをレール前方向Mに曲成して設置している。その結果、前方第1係止具130の鉤部130aと後方第2係止具145の鉤部145aは対面して配置され、前方第2係止具135の鉤部135aと後方第1係止具140の鉤部140aは対面して配置されている。また、レール底面120aの適宜の位置には基材41の摺動を容易とするため摩擦係数の低い樹脂材等からなる1又は複数の摺動補助板125を敷設している。実施形態では、
図32,
図34に示すように、前方第1係止具130と後方第2係止具145の間に1枚,後方第1係止具140と前方第2係止具135の間に1枚、後方第2係止具145と前方第2係止具135の間に2枚の摺動補助板125を敷設している。
【0095】
図32,
図50,
図51に示すように、左右一対のレール側面120bの所定位置に、それぞれ所定長さのレールフランジ127を水平方向に突設し、その先端部近傍に鉛直設置時のフレーム40を固定するための前方レール固定孔128を穿設するとともに、後端部近傍に水平設置時のフレーム40を固定するための後方レール固定孔129を穿設している。
【0096】
次に、前記した構成のシートユニット110を構成するフレーム40の左右一対の基材41の構成を説明する。
図36は基材41の側面図、
図37はその底面図、
図38はその斜視図、
図39はその要部断面図、
図40はその要部斜視図である。図に示すように、基材41は所定長さの中空矩形材であって、レール120の内部に嵌合し、レール底面120aに敷設した摺動補助板125を介して摺動可能である。
図38,
図39,
図40に示すように、基材41の前端面は閉塞した前方閉塞面41aとして形成するとともに、前方閉塞面41aに所定面積の前方窓部46aを開口形成してある。更に、前方閉塞面41aの外面に前方第1係止具130と衝接する前方第1緩衝具48aを付設し、前方閉塞面41aの内面に後方第2係止具145と衝接する前方第2緩衝具48bを付設している。
【0097】
図38,
図46に示すように、基材41の後端面は閉塞した後方閉塞面41bとして形成するとともに、後方閉塞面41bに所定面積の後方窓部46bを開口形成してある。更に、後方閉塞面41bの外面に後方第1係止具140と衝接する後方第1緩衝具49aを付設し、後方閉塞面41bの内面に前方第2係止具135と衝接する後方第2緩衝具49bを付設する。これらの前方第1緩衝具48a,前方第2緩衝具48b,後方第1緩衝具49a,後方第2緩衝具49bは同一の形状であって、ゴム等の適宜の弾性素材から形成されている。
【0098】
図37,
図38,
図40,
図44に示すように、基材41は基材底面41cの前端部から長手方向の所定位置まで所定幅の前方開溝部47aを開口形成するとともに、基材底面41cの後端部から長手方向の所定位置まで所定幅の後方開溝部47bを開口形成している。また、
図36,
図41,
図42に示すように、左右一対の基材41の側面の所定位置に、断面逆L字状の基材フランジ150をそれぞれ水平方向に突設し、その中央部に基材41をレール120のレールフランジ127に固定するための基材固定孔155(
図38,
図50,
図51参照)を穿設している。
【0099】
本発明は、上記構成のシートユニット110、具体的にはフレーム40の左右一対の基材41を、基材41の基材底面41cに開口形成された前方開溝部47aにレール底面120aに突設した後方第2係止具145を挿通するとともに、後方開溝部47bに前方第2係止具135を挿通させて設置する。これにより、基材41は前方開溝部47a及び後方開溝部47bの開溝長さの範囲において、レール120を摺動可能である(
図44参照)。加えて、基材41はレール120上の所定の位置において、摺動不能にレール120に固定し、かつ、脱線不能にレール120に係止する。以下に、所定の位置として、水平設置時及び鉛直設置時におけるレール120と基材41との関係について説明する。
【0100】
[水平設置時]
図41は水平設置時におけるレール120と基材41の斜視図、
図44はその平断面図、
図46は一対のレール120の後方第1係止具140と一対の基材41の後方窓部46bの係合状態を示す要部斜視図である。図に示すように、水平設置時においては、基材41をレール120の後端まで摺動させた状態で、基材フランジ150の中央部に穿設した基材固定孔155(
図50,
図51参照)と、レールフランジ127の後端部近傍に穿設した後方レール固定孔129が連通する構成である。
図50は水平設置時におけるレール120と基材41の固定状態を示す要部断面図であり、図に示すように基材固定孔155と後方レール固定孔129を固定具としてのプランジャ160で脱着可能に固定する。図において、3は埋設部材であって、長距離夜行バス1の床面2に埋設された長尺の強度部材であってレール底面120aをボルト121,ナット122等の適宜の固定具で固定している。なお、後方レール固定孔129の穿設箇所のレール底面120aには、
図32に示すように摺動補助板125は敷設されていない。
【0101】
基材41、即ちシートユニット110は、
図41に示す状態において、レール120上に摺動不能に固定され、水平設置時の位置決めがなされている。この水平設置時において、基材41の後方閉塞面41bの外面に付設した後方第1緩衝具49aをレール120に突設した後方第1係止具140に衝接させるとともに、後方窓部46bに後方第1係止具140の鉤部140aを外側から侵入させることによって基材41をレール120に係止するとともに、前方閉塞面41aの内面に付設した前方第2緩衝具48bを後方第2係止具145に衝接させるとともに、前方窓部46aから後方第2係止具145の鉤部145aを内側から突出させることによって係止する。
【0102】
よって、水平設置時において、基材41はレール120に突設した後方第1係止具140の鉤部140aが基材41の後方窓部46bの外側から侵入して係止するとともに、後方第2係止具145の鉤部145aが基材41の前方窓部46aに内側から侵入して、基材41、即ちシートユニット110を脱線不能にレール120に係止する。
【0103】
[鉛直設置時]
図42は鉛直設置時におけるレール120と基材41の斜視図、
図43はその側面図、
図45はレール120の前方第1係止具130と基材41の前方窓部46aの係合状態を示す要部斜視図である。
図41に示す水平設置時から、鉛直設置時にシートユニット110の位置を変位させるには、基材固定孔155と後方レール固定孔129を固定しているプランジャ160を取り外し、基材41をレール120の前端まで摺動させる。鉛直設置時においては、基材41をレール120の前端まで摺動させた状態で、基材フランジ150の中央部に穿設した基材固定孔155(
図50,
図51参照)と、レールフランジ127の前端部近傍に穿設した前方レール固定孔128が連通する構成である。
図51は鉛直設置時におけるレール120と基材41の固定状態を示す要部断面図であり、図に示すように基材固定孔155と前方レール固定孔128を固定具としてのプランジャ160で脱着自在に固定する。図において、125は摺動補助板であって、レール底面120aにビス124等の適宜の固定具で固定している。なお、前方レール固定孔128の穿設箇所のレール底面120aには、基材41をレール底面120aに固定するためのボルト121,ナット122等の固定具は存在しない。
【0104】
基材41、即ちシートユニット110は、
図42に示す状態において、レール120上に摺動不能に固定され、鉛直設置時の位置決めがなされている。この鉛直設置時において、基材41の前方閉塞面41aの外面に付設した前方第1緩衝具48aをレール120に突設した前方第1係止具130に衝接させるとともに、前方窓部46aに前方第1係止具130の鉤部130aを外側から侵入させることによって基材41をレール120に係止するとともに、後方閉塞面41bの内面に付設した後方第2緩衝具49bを前方第2係止具135に衝接させるとともに、後方窓部46bから前方第2係止具135の鉤部135aを内側から突出させることによって係止する。
【0105】
よって、鉛直設置時において、基材41はレール120に突設した前方第1係止具130の鉤部130aが基材41の前方窓部46aの外側から侵入して係止するとともに、前方第2係止具135の鉤部135aが基材41後方窓部46bに内側から侵入して、基材41、即ちシートユニット110を脱線不能にレール120に係止する。
【0106】
以上記載した本発明によれば、シートユニット110は、水平設置時及び鉛直設置時の双方において、レール120上の所定の位置に、摺動不能に固定されているとともに、レール120から脱線不能に係止されている。よって、バスの走行中に、危険回避のための急ブレーキや、走行中,駐・停車中を問わず事故に巻き込まれたり、他車との接触事故や衝突事故によって二次元方向のみならず、固定手段の限界を超える大きな衝撃が作用する場合や、脱線の原因となり得る上下方向や水平方向のみならず予見不可能な三次元方向からの衝撃を受けた場合においても、レール120からのシートユニット110の脱線を防止することができ、フェイルセーフを実現することができ、実車として走行する際に何より要求され、大切な安全性を確保することが可能となる。
【0107】
次に、第2の課題を解決する手段を図面に示す実施形態に基づいて説明する。本発明では、乗客がフラットなシートに横臥,伏臥,仰臥等の任意の姿勢で横になって就寝する鉛直設置時において、一対のシート30の前シート10の背もたれ12の開放端部12aと、後シート20の背もたれ22の開放端部22aの双方にそれぞれに頭部防護柵170を鉛直方向・上向きに起立させて設置する。
図58は頭部防護柵170の斜視図、
図59は頭部防護柵170の設置方法を示す説明図である。
【0108】
頭部防護柵170は、
図58に示すように所定形状の防護枠本体175と、防護枠本体175の左右両方向の下端に突設した左右一対の防護枠端杆180と、防護枠本体175の一面を覆蓋して固定した防護パネル185と、防護パネル185を覆蓋して固定した防護緩衝材190から構成されている。そして、一対のシート30を構成する前シート10の背もたれ12の開放端部12a、具体的には強度部材である背もたれ枠80、及び後シート20の背もたれ22の開放端部22a、具体的には強度部材である背もたれ枠90の左右両端に防護枠フランジ195を突設し、防護枠フランジ195の軸195aに防護枠端杆180を回動自在に軸支することにより、頭部防護柵170を、背もたれ12,22の開放端部12a,22aに回動自在に軸着する。なお、防護枠フランジ195を突設する部材は、強度部材であれば、背もたれ枠80,90に限ることなく、背もたれ12,22の任意の箇所や、背もたれ12,22を構成する任意の部材でよい。
【0109】
左右一対の防護枠端杆180間に防護枠固定杆200を架設し、頭部防護柵170を背もたれ12,22の開放端部12a,22aに鉛直方向・上向きに起立させた状態において、防護枠固定杆200を背もたれ12,22の開放端部12a,22aに付設したラッチ機構205外の背もたれ12,22の開放端部12a,22aに突設した固定手段に着脱自在に固定することによって、頭部防護柵170を固定する。図示例では、防護枠固定杆200を収納する収納受け具205aと防護枠固定杆200を収納受け具205aに固定するための固定レバー205bからなるラッチ機構205を採用したが、防護枠固定杆200を固定できれば公知の固定手段から適宜選択することが可能である。よって、頭部防護柵170は
図59に示すように、背もたれ12,22の開放端部12a,22aにおいて防護枠フランジ195を中心として回動可能であり、かつ、鉛直設置時において、一対のシート30を構成する前シート10の背もたれ12の開放端部12a、及び後シート20の背もたれ22の開放端部22aに鉛直方向・上向きに起立させて着脱自在に固定できる。
【0110】
図2はシートユニット110の鉛直設置時における斜視図、
図55は前後2つのシートユニット110の鉛直設置時における斜視図である。図に示すように、頭部防護柵170は鉛直設置時において、上方に位置する前シート10の背もたれ12の開放端部12a及び下方に位置する後シート20の背もたれ22の開放端部22a(
図2,
図55参照)に鉛直方向・上向きに起立した状態で固定して使用する。
【0111】
図56に示すように、フラットな一対のシート30に横臥,伏臥,仰臥等の任意の姿勢で横になって就寝する乗客Pの頭部は、その背後に起立している頭部防護柵170によって保護されている。そのため、シートユニット110の鉛直設置時において、走行中,駐・停車中の事故等の様々な原因による二次元方向からの衝撃や三次元方向からの衝撃によって、乗客Pに後方への慣性力が作用し、乗客Pがシートベルトから後方に抜け出してしまう場合であっても、乗客Pの頭部は頭部防護柵170の防護緩衝材190によって保護されるとともに、後方の乗客Pの脚部に衝突することがなく、双方の乗客Pの安全が確保される。
【0112】
一方、シートユニット110の鉛直設置時において、急ブレーキや、走行中,駐・停車中の事故等の様々な原因による二次元方向からの衝撃や三次元方向からの衝撃によって、乗客Pに前方への慣性力が作用し、乗客Pがシートベルトから前方に抜け出してしまう場合であっても、乗客Pの頭部は頭部防護柵170の防護緩衝材190によって保護されているため、
図57に示すように後方の乗客Pの脚部が頭部防護柵170によってブロックされ、前方の乗客Pの頭部が後方の乗客Pの脚部の衝突によって負傷したり、後方の乗客Pが前シート10又は後シート20から落下することを防止することができ、双方の乗客Pの安全を確保することができる。
【0113】
図57に示すように、乗客Pに前方への慣性力が作用する場合、最前列に設置したシートユニット110を除く、2列目以降のシートユニット110の乗客Pは、それぞれ前方のシートユニット110に固定した頭部防護柵170によって、前方への飛び出しが防止できる。しかしながら、最前列のシートユニット110の乗客Pは、前方にシートユニット110がなく、即ち、頭部防護柵170が存在しないため、慣性力によって前方に放り出されることとなる。そこで、バスに装備されている運転席を乗客Pから隔離するための運転席隔壁6を利用し、最前列のシートユニット110の乗客Pのための安全装置として、飛出防止板215を設置する。
【0114】
図65(a)は飛出防止板215を収納した運転席隔壁6の要部側面図、
図65(b)はその要部斜視図、
図65(c)は飛出防止板215を設置した運転席隔壁6の要部側面図、
図65(d)はその要部斜視図である。図に示すように、飛出防止板215は所定面積の矩形状であり、不使用時、即ち水平設置時には、
図65(a)(b)に示すように、運転席隔壁6の内面に形成したポケット状の収納室220に収納する。この収納時において飛出防止板215の頂部は運転席隔壁6と同じかそれより低い位置にあるように収納する。
【0115】
一方、使用時、即ち鉛直設置時には、
図65(c)(d)に示すように、飛出防止板215を収納室220から取り出して、収納室220に隣接して設置したポケット状の設置室225に挿入して、飛出防止板215を運転席隔壁6から突出した高さ、具体的には
図56,
図57に示すように、前シート10の乗客Pの脚部より高い位置に設置して、適宜の手段で固定する。設置室225は、収納室220と略同じ高さ位置に底部225aを有しており、設置室225に挿入した飛出防止板215は、底部225aに載置されて運転席隔壁6から所定高さ突出している。そして、この運転席隔壁6及び飛出防止板215は幅方向に3列配置された最前列のシートユニット110の前方にそれぞれ配置する。
【0116】
運転席隔壁6及び飛出防止板215によって、
図57に示すように、乗客Pに前方への慣性力が作用する場合、最前列に設置したシートユニット110における後シート20の乗客Pは運転席隔壁6によって、前シート10の乗客Pは、飛出防止板215によって前方への飛び出しが防止できる。
【0117】
上記構成の頭部防護柵170によって、一対のシート30を構成する前シート10の背もたれ12と、後シート20の背もたれ22をそれぞれ水平状態にリクライニングさせて使用する鉛直設置時における乗客Pの頭部への衝撃を緩和することができる。
【0118】
図1はシートユニット110の水平設置時における斜視図、
図52はその側面図、
図53は前後2つのシートユニット110の水平設置時における側面図、
図54はその斜視図である。図に示すように、水平設置時において、頭部防護柵170を防護枠フランジ195を中心として回動させ、前シート10及び後シート20の背もたれ12,22に密着させた状態で、面ファスナー等の適宜の手段で固定して収納する。そのため、頭部防護柵170は、水平設置時において乗客Pがシートユニット110に着座する際の障害となることはない。
【産業上の利用可能性】
【0119】
以上記載した本発明によれば、前シートを後シートの上部空間に移動させて、一対のシートを鉛直方向の略同列上に鉛直設置可能とすることにより、シート数を減少させることなく、シートをフラットにして横たわることが可能となり、快適な夜間就寝を実現することができる。そのため、乗客からの要望の大きい夜間就寝時において後席の乗客に負担や我慢を強いたり気兼ねをすることなく、又自らも我慢を強いられることなくリラックスするために、よりフラットに近い状態までリクライニング可能なシートを、シート数を減らすことなく実現することができる。
【0120】
そして、鉛直設置時、即ち、夜間に乗客がフラットなシートに横臥,伏臥,仰臥等の任意の姿勢で横になって就寝している状態での走行中,駐・停車中を問わず急ブレーキや事故等の種々の原因による二次元方向からや三次元方向からの予見不可能でシートベルトが対向する位置に存在しないような衝撃を受けたことによって、乗客がシートから離脱して前方や後方に投げ出されるようなことがあったとしても、一対のシートの背もたれの開放端部に頭部防護柵を鉛直方向・上向きに起立させて設置しているため、この頭部防護柵によって乗客の頭部を保護することが可能である。
【0121】
具体的には、急ブレーキや衝突等によって前方からの衝撃を受けて前方への慣性力が乗客に作用したとしても、慣性力によって前方に飛び出そうとする乗客の脚部は1つ前のシートに設置した頭部防護柵によって受け止められて停止するため、1つ前のシートの乗客に脚部が衝突することを防ぐことができる。また、後方からの衝突等によって後方からの衝撃を受けて後方への慣性力が乗客に作用したとしても、慣性力によって後方に飛び出そうとする乗客の頭部はシートに設置した頭部防護柵に装備した防護パネルを覆蓋して固定した防護緩衝材によって受け止められて保護される。
【0122】
頭部防護柵は、背もたれの開放端部に回動自在に軸着されており、鉛直設置時において鉛直方向・上向きに固定可能とするとともに、水平設置時には、頭部防護柵を回動させて、背もたれの背面に設置するため、水平設置時、即ち、昼間に乗客がシートに着座した状態での走行において、頭部防護柵の存在が支障となることはない。頭部防護柵は必要に応じて、背もたれの開放端部に鉛直方向・上向きに起立させて設置することが可能である。
【0123】
よって、本発明によれば、フェイルセーフの観点から、走行中,駐・停車中を問わず急ブレーキや事故等の様々な原因による衝撃は必ず起きるとの前提に立って、鉛直設置時において、乗客の頭部を保護することが可能となり、営業車両としてバスを運行するに際して、快適性や収益性に先んじて考慮すべき最も大切な乗客の安全を担保できる。
【符号の説明】
【0124】
1…長距離夜行バス
2…床面
3…埋設部材
5…非常口ドア
6…運転席隔壁
7…後部隔壁
10…前シート
11…座面
12…背もたれ
13…レッグレスト
14…クッション
15…ステイ
19…着座脚
20…後シート
21…座面
22…背もたれ
23…レッグレスト
24…クッション
25…座面枠
26…座面上枠
27…座面下枠
27a…支持台座
28…座面脚
28a…座面前脚
28b…座面後脚
28c…鍔部
29…着座脚
30,30a,30b,30c,30d…一対のシート
33…固定手段
35,36…支持脚
37…脚連結杆
40…フレーム
41…基材
41a…前方閉塞面
41b…後方閉塞面
41c…基材底面
42…桁材
43…前支柱
43a…中空凹部
44…後支柱
45…ストッパ
46a…前方窓部
46b…後方窓部
47a…前方開溝部
47b…後方開溝部
48a…前方第1緩衝具
48b…前方第2緩衝具
49a…後方第1緩衝具
49b…後方第2緩衝具
50…座面枠
51…スライドガイド
52…スライドレール
53…レールガイド
53a…抜け止め用突部
55…支持体
55a…昇降部
55b…車輪
56…座面連結板
57…座面連結孔
58…基準固定孔
59…連結杆
59a…ブラケット
59b…キャップ
61…回動杆
62…索条
63…弾性部材
64…ストラップ
65…第1固定ピン
66…背もたれ連結板
67…背もたれ連結孔
68,68a,68b,68c…選択固定孔
70…ガイド台
80…(前シート10の)背もたれ枠
81…(背もたれ枠80の)クッション
82…操作杆
83…背もたれ固定孔
85…第2固定ピン
86…(背もたれ枠80の)ハンドル
90…(後シート20の)背もたれ枠
91…(背もたれ枠90の)クッション
96…(背もたれ枠90の)ハンドル
100…エアコンダクト
110…シートユニット
120…レール
120a…レール底面
120b…レール側面
121…ボルト
122…ナット
124…ビス
125…摺動補助板
127…レールフランジ
128…前方レール固定孔
129…後方レール固定孔
130…前方第1係止具
130a…鉤部
131…固定軸孔
132…固定軸
135…前方第2係止具
135a…鉤部
140…後方第1係止具
140a…鉤部
145…後方第2係止具
145a…鉤部
150…基材フランジ
155…基材固定孔
160…プランジャ
170…頭部防護柵
175…防護枠本体
180…防護枠端杆
185…防護パネル
190…防護緩衝材
195…防護枠フランジ
200…防護枠固定杆
205…ラッチ機構
205a…収納受け具
205b…固定レバー
215…飛出防止板
220…収納室
225…設置室
225a…(設置室の)底部
T…トイレ
A…トイレ横のスペース
P…乗客
H,H1,H2,H3,H4,H5,H6,H7,H8…高さ寸法
M…前方向
U…後方向
θ…余剰スペース
【要約】 (修正有)
【課題】昼間着座時及び夜間就寝時の双方において走行中,駐・停車中を問わず急ブレーキや事故等に起因する衝撃に対して高い安全性を確保した長距離夜行バスのシート構造を提供する。
【解決手段】それぞれ座面と背もたれを有する前シートと後シートからなる一対のシートを所定のフレーム内に組付けてシートユニット110とし、一対のシートを水平方向の略同列上に水平設置可能とし、前シートを後シートの上部空間に移動させるとともに、一対のシートの背もたれを水平状態にリクライニングさせて、一対のシートを鉛直方向の略同列上に鉛直設置可能とし、鉛直設置時において、一対のシートの背もたれの開放端部に頭部防護柵170を鉛直方向・上向きに起立させて設置する長距離夜行バスのシート構造を提供する。
【選択図】
図56