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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】地盤改良の品質管理システム
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
E02D3/12 102
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024139616
(22)【出願日】2024-08-21
【審査請求日】2024-08-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000140694
【氏名又は名称】株式会社加藤建設
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100205682
【弁理士】
【氏名又は名称】高嶋 一彰
(72)【発明者】
【氏名】牧野 貴哉
(72)【発明者】
【氏名】椛嶋 陽平
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特許第7041435(JP,B1)
【文献】特許第5074293(JP,B2)
【文献】特開2013-28923(JP,A)
【文献】特許第6835376(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースマシンとして機能する建設機械のブーム及びアームの先端部に油圧アクチュエータの駆動力に基づきチェーンを介して上下方向へ周回移動する混合撹拌翼を有する混合撹拌ヘッドを備えた地盤改良装置により、原地盤を掘削しながら固化材と混合撹拌して前記原地盤の強度の増加を図る地盤改良を行うにあたり、全地球航法衛星システムを利用してグローバル座標系における前記混合撹拌ヘッドの位置座標を演算し、当該位置座標を基に、前記地盤改良を行う施工予定領域の施工区間全体図と、前記施工予定領域を区割りした仮想区割り図とを用いて、前記地盤改良の施工管理を行う地盤改良の品質管理システムであって、
前記地盤改良装置は、
測位衛星から送信された衛星信号を受信する複数の受信アンテナと、
前記ベースマシンから前記混合撹拌ヘッドまでの水平距離を計測する計測手段と、
前記衛星信号に基づき演算された前記ベースマシンの位置座標と前記計測手段の計測結果とに基づき、前記混合撹拌ヘッドの平面位置及び貫入深度を演算する演算装置と、
前記混合撹拌ヘッドの平面位置をリアルタイムにて視覚的に認識可能な画像によって前記仮想区割り図上に表示する表示手段と、
前記仮想区割り図において細分化された仮想区割りブロックと、前記施工区間全体図において前記仮想区割りブロックと同サイズ以下に細分化された施工区間全体ブロックとに、前記混合撹拌ヘッドの平面位置における前記固化材の注入量、及び前記チェーンの累積移動距離を、それぞれ施工記録値として記録する記録手段と、
を備え、
前記演算装置は、
施工開始時に、これから施工を開始する前記仮想区割りブロックの中心座標と重なる前記施工区間全体ブロックの前記施工記録値を、前記中心座標が位置する前記仮想区割りブロックに反映し、
前記仮想区割りブロック及び前記施工区間全体ブロックにおいて、前記固化材の注入量、及び前記チェーンの累積移動距離のそれぞれの実測値を、前記施工記録値に累積記録値として加算し、
前記仮想区割りブロックにおける前記固化材の注入量、及び前記チェーンの累積移動距離のそれぞれの前記施工記録値を、設計上の前記固化材の注入量及び前記チェーンの累積移動距離をそれぞれ前記仮想区割りブロックの数で除して前記仮想区割りブロックに分布された閾値と比較することにより、施工品質の合否を判定し、この判定結果を前記表示手段において着色により表示する、
ことを特徴とする地盤改良の品質管理システム。
【請求項2】
請求項1に記載の地盤改良の品質管理システムであって、
前記演算装置は、
前記混合撹拌翼が原地盤を混合撹拌する際に混合状態が良好となる時間を判定時間として演算又は記録し、
前記仮想区割り図に投影された前記混合撹拌ヘッドの平面位置が前記判定時間以上前記仮想区割りブロック上に位置する場合、前記平面位置の範囲内における前記仮想区割りブロックに記録された前記施工記録値を平均処理する、
ことを特徴とする地盤改良の品質管理システム。
【請求項3】
請求項2に記載の地盤改良の品質管理システムであって、
前記判定時間は、設計上の前記チェーンの累積移動距離に基づいて算出される混合状態が良好と判断される時間である、
ことを特徴とする地盤改良の品質管理システム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の地盤改良の品質管理システムであって、
前記演算装置は、前記固化材の注入量の前記施工記録値と、前記チェーンの累積移動距離の前記施工記録値とを、複合的に判断して合否判定を行う、
ことを特徴とする地盤改良の品質管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上下方向に周回移動する混合撹拌翼を有する混合撹拌ヘッドを備えてなる地盤改良装置により、原地盤を掘削しながら固化材と混合撹拌して原地盤の強度の増加を図る地盤改良の品質管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
混合撹拌ヘッドを備えた地盤改良装置を用いて行う従来の地盤改良の品質管理システムとしては、例えば以下の特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
この従来の地盤改良の品質管理システムでは、GNSS(全地球航法衛星システム)を利用してグローバル座標系における現在位置を検出し、この位置情報を基に、混合撹拌ヘッドの水平掘進に際して、地盤改良を行う施工予定領域を平面視にて区割りした仮想区割り図を用いて、混合撹拌翼の回転数や固化材の注入量と共に、混合撹拌ヘッドの移動軌跡や移動速度をリアルタイムで視認可能とした。これにより、オペレータの経験や能力等に関係なく常に計画位置に合わせた掘進を可能とし、不経済な施工を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第7041435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の地盤改良の品質管理システムでは、混合撹拌ヘッドの各位置において、固化材の注入量及びチェーンの累積移動距離が定量化されていない。このため、固化材の注入量及びチェーンの累積移動距離が所定量を充足しているか否かは、施工区割り全体で前記所定量を充足しているか否かでもって判断されていた。これにより、例えば施工区割りの一部において、部分的な改良不足が生じ、また、一部に過剰な改良が発生していたとしても、施工区割り全体として前記所定量を充足していれば改良品質は良好なものと判断されてしまい、過不足の少ない良好な改良品質を担保する点において、なおも改善の余地が残されていた。
【0006】
そこで、本発明は、前記従来の地盤改良方法の技術的課題に鑑みて案出されたものであって、過不足の少ない良好な改良品質を担保することができる地盤改良の品質管理システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、第1の態様として、ベースマシンとして機能する建設機械のブーム及びアームの先端部に油圧アクチュエータの駆動力に基づきチェーンを介して上下方向へ周回移動する混合撹拌翼を有する混合撹拌ヘッドを備えた地盤改良装置により、原地盤を掘削しながら固化材と混合撹拌して前記原地盤の強度の増加を図る地盤改良を行うにあたり、全地球航法衛星システムを利用してグローバル座標系における前記混合撹拌ヘッドの位置座標を演算し、当該位置座標を基に、前記地盤改良を行う施工予定領域の施工区間全体図と、前記施工予定領域を区割りした仮想区割り図とを用いて、前記地盤改良の施工管理を行う地盤改良の品質管理システムであって、前記地盤改良装置は、測位衛星から送信された衛星信号を受信する複数の受信アンテナと、前記ベースマシンから前記混合撹拌ヘッドまでの水平距離を計測する計測手段と、前記衛星信号に基づき演算された前記ベースマシンの位置座標と前記計測手段の計測結果とに基づき、前記混合撹拌ヘッドの平面位置及び貫入深度を演算する演算装置と、前記混合撹拌ヘッドの平面位置をリアルタイムにて視覚的に認識可能な画像によって前記仮想区割り図上に表示する表示手段と、前記仮想区割り図において細分化された仮想区割りブロックと、前記施工区間全体図において前記仮想区割りブロックと同サイズ以下に細分化された施工区間全体ブロックとに、前記混合撹拌ヘッドの平面位置における前記固化材の注入量、及び前記チェーンの累積移動距離を、それぞれ施工記録値として記録する記録手段と、を備え、前記演算装置は、施工開始時に、これから施工を開始する前記仮想区割りブロックの中心座標と重なる前記施工区間全体ブロックの前記施工記録値を、前記中心座標が位置する前記仮想区割りブロックに反映し、前記仮想区割りブロック及び前記施工区間全体ブロックにおいて、前記固化材の注入量、及び前記チェーンの累積移動距離のそれぞれの実測値を、前記施工記録値に累積記録値として加算し、前記仮想区割りブロックにおける前記固化材の注入量、及び前記チェーンの累積移動距離のそれぞれの前記施工記録値を、設計上の前記固化材の注入量及び前記チェーンの累積移動距離をそれぞれ前記仮想区割りブロックの数で除して前記仮想区割りブロックに分布された閾値と比較することにより、施工品質の合否を判定し、この判定結果を前記表示手段において着色により表示する、ことを特徴としている。
【0008】
このように、本発明では、施工開始時において、これから施工を開始する仮想区割りブロックの中心座標が重なる施工区割り全体ブロックの施工記録値を前記中心座標が位置する仮想区割りブロックへと反映させる。このため、例えば混合撹拌ヘッドが隣接する仮想区割りへはみ出すことにより当該隣接する仮想区割りの施工時において部分的に施工済となってしまっている場合など、既に施工済となった施工記録に応じて累積記録値を調整することが可能となる。これにより、固化材の注入量やチェーンの累積移動距離について、過剰な改良が抑制されて、ロスの少ない地盤改良を行うことができる。
【0009】
また、着色による合否判定によって改良品質の過不足が可視化されることで、改良施工中に当該改良品質の過不足を調整することが可能となる。これにより、過不足の少ない良好な地盤改良を担保することができる。
【0010】
また、前記地盤改良の品質管理システムの別の態様として、前記演算装置は、前記混合撹拌翼が原地盤を混合撹拌する際に混合状態が良好となる時間を判定時間として演算又は記録し、前記仮想区割り図に投影された前記混合撹拌ヘッドの平面位置が前記判定時間以上前記仮想区割りブロック上に位置する場合、前記平面位置の範囲内における前記仮想区割りブロックに記録された前記施工記録値を平均処理する、ことが望ましい。
【0011】
固化材の注入量、及びチェーンの累積移動距離を単純な加算処理によって累積してしまうと、例えば混合撹拌ヘッドの貫入時には過剰となり、混合撹拌ヘッドの引抜時には不足が生じるなど、仮想区割りブロックに過不足となる累積記録値が記録されてしまい、実態の混合状態と違いが生じるおそれがある。そこで、本発明では、混合撹拌ヘッドが所定時間(判定時間)以上仮想区割りブロック上に位置していた場合には、累積記録値を平均処理することで、適切な改良品質管理を行うことができる。
【0012】
また、混合撹拌ヘッドが仮想区割りブロックを移動した直後に前記平均処理を行うと、改良が不十分な状態でも均質な改良と判定されてしまうおそれがある。そこで、本発明によれば、混合状態が良好となる時間を、前記平均処理するまでの判定時間として設定することで、良好な改良品質を担保することができる。
【0013】
また、前記地盤改良の品質管理システムのさらに別の態様として、前記判定時間は、設計上の前記チェーンの累積移動距離に基づいて算出される混合状態が良好と判断される時間である、ことが望ましい。
【0014】
このように、本発明では、設計上のチェーンの累積移動距離に基づいて算出される混合状態が良好と判断される時間を判定時間として設定することによって、混合撹拌ヘッドの撹拌能力や原地盤の土質を加味した適切な改良品質を確保することができる。
【0015】
また、判定時間は、混合撹拌ヘッドの撹拌能力に応じて判定時間を都度演算することも可能であるが、固定値である所定値とすることで、改良体品質の面で安全側に設定することが可能となり、さらには制御内容を簡素化することが可能となる。これにより、演算に必要な処理能力の軽減及びシステム構築に係る費用を削減することができる。
【0016】
また、前記地盤改良の品質管理システムの別の態様として、前記演算装置は、前記固化材の注入量の前記施工記録値と、前記チェーンの累積移動距離の前記施工記録値とを、複合的に判断して合否判定を行う、ことも可能である。
【0017】
このように、本発明では、固化材の注入量の累積記録値と、チェーンの累積移動距離の累積記録値とを、複合的に判断して合否判定を行う。このため、パラメータごとの合否判定を確認することなく改良施工を進めることが可能となり、オペレータの労力(負担)を軽減することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、施工開始時において、これから施工を開始する仮想区割りブロックの中心座標が重なる施工区割り全体ブロックの施工記録値を前記中心座標が位置する仮想区割りブロックに反映させるため、既に施工済となった施工記録に応じて累積記録値を調整する、すなわち、仮想区割り上における固化材の注入量やチェーン累積移動距離の施工記録を把握して施工をすることが可能となり、トレンチャの横行速度や固化材の注入量を正確に調整することができる。これにより、固化材の注入量やチェーンの累積移動距離について過剰な改良が抑制され、ロスの少ない地盤改良を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る地盤改良装置のシステム構成図である。
図2図1に示すトレンチャの正面図である。
図3】地盤改良装置に設置されたモニター画面の画像図である。
図4】本発明に係る地盤改良の品質管理システムの制御ブロック図である。
図5図4に示す制御ブロック図に基づいて実行される品質管理制御に係るフローチャートである。
図6図5に示す制御フローチャートの第1ステップの概念図である。
図7図5に示す制御フローチャートの第6ステップの概念図である。
図8】本発明に係る地盤改良の品質管理システムの変形例を示す図であり、地盤改良装置に設置されたモニター画面の画像図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明に係る地盤改良の品質管理システムの実施形態を、図面に基づいて詳述する。
【0021】
(地盤改良装置のシステム構成)
図1は、本実施形態に係る地盤改良の品質管理システムが実装された地盤改良装置のシステム構成図を示している。図2は、図1に示すトレンチャの正面図を示している。なお、以下の説明においては、図1の上側であって鉛直方向上側を「上」、図1の下側であって鉛直方向下側を「下」として説明する。
【0022】
本実施形態に係る地盤改良装置は、図1に示すように、建設機械であるバックホウ1を母機(ベースマシン)として構成されていて、履帯1bの上部に旋回可能に設けられたベース1aの前部に、ブーム2及びアーム3が回動可能に連結されると共に、このブーム2及びアーム3の先端に、混合撹拌ヘッドであるトレンチャ4が着脱可能に設けられている。そして、このバックホウ1は、図1に示すような設計改良深度Hまでトレンチャ4を地中に貫入し、ブーム2及びアーム3を操作してトレンチャ4を前後に水平掘進させることにより、土壌の掘削と共に固化材の混合撹拌を行う。
【0023】
トレンチャ4は、図2に示すように、フレーム40の上部に設けられた油圧モータ44によって回転駆動される駆動輪41と、フレーム40の下端部に設けられた従動輪42と、に無端状のドライブチェーン43が巻き掛けられることで構成されている。そして、ドライブチェーン43の外周側には、複数の混合撹拌翼45が概ね等間隔(等ピッチ)に装着されていて、当該各混合撹拌翼45には、幅方向に沿って複数のカッター刃46が並列に配置されている。また、フレーム40の下部には、下方へ向けて固化材を吐出する複数の固化材吐出部47が設けられていて、例えばグラウトポンプなど図示外のポンプによって配管48を通じて圧送されたスラリ状又は粉体状の固化材が固化材吐出部47から吐出される。かかる構成から、本発明の油圧アクチュエータに相当する油圧モータ44により回転駆動される駆動輪41の回転に伴いドライブチェーン43と共に各混合撹拌翼45が上下方向へ周回移動しつつ、固化材吐出部47から固化材が吐出されることによって、地盤の掘削と共に、この掘削された原土と固化材との撹拌混合が行われる。
【0024】
また、バックホウ1のベース1aの前部に設けられた、オペレータの運転操作に供するキャビン(運転室)1cの後部には、測位衛星DS(例えばGPS衛星など)から送信された衛星信号(GNSS信号)を受信する複数(本実施形態においては2つ)のGNSS受信アンテナAN1と、地盤改良の施工現場内の固定基地局FB又は公共基地局CBにて観測された衛星信号(GNSS信号)を受信する無線受信アンテナAN2と、を備える。このGNSS受信アンテナAN1及び無線受信アンテナAN2は、いずれもキャビン1cの後方に配置される後述の演算装置PUに電気的に接続される。なお、このGNSS受信アンテナAN1及び無線受信アンテナAN2は、本発明に係る受信アンテナに包含される。
【0025】
また、バックホウ1のキャビン1cの後部には、バックホウ1の傾斜角を検出する角度センサAS0,AS1,AS2,AS3の角度検出信号や、各GNSS受信アンテナAN1及び無線受信アンテナAN2で受信した衛星信号に基づいて、トレンチャ4の平面位置、貫入深度及び掘進速度などを演算する演算手段である演算装置PUが設けられている。また、キャビン1cには、演算装置PUの演算結果を表示する表示手段として、例えば図3に示すようなモニター画面MDが設置されている。
【0026】
以上のような構成に基づき、本実施形態に係る地盤改良装置は、例えば図1に示すように、貫入したトレンチャ4を完全に抜き上げることなく所定の折り返しラインR1,R2で折り返して平面視ほぼN字状の移動軌跡を形成するように、いわゆる一筆書きで連続的に平面移動させることにより水平掘進を行う。なお、かかる水平掘進において直行掘進と斜行掘進はオーバーラップするように行われ、区画内が漏れなく掘削され、かつ固化材が撹拌混合されるようになっている。
【0027】
(画面モニターの構成)
図3は、地盤改良装置に設置されたモニター画面MDの画像図を示している。
【0028】
モニター画面MDは、例えば図3に示すように、演算装置PUにより演算された演算結果を表示する複数の表示窓F1~F14を表示項目毎にレイアウトして表示するものである。なお、図3に示す画面表示は一例であり、同図に示す項目の全てが表示されている必要はなく、また、必要に応じて任意の表示項目を追加して表示することも可能であり、品質管理を行う管理項目等に応じて任意に変更することができる。
【0029】
すなわち、本実施形態で例示するモニター画面MDは、主たる管理項目を示す比較的大きな3つの表示窓F1,F2,F3が、画面中央部に並列に表示されている。表示窓F1は、施工区画におけるトレンチャ4の平面位置、及び羽根切り回数(ドライブチェーン43の累積移動距離)の進捗状況を画像表示している。表示窓F2は、施工区画におけるトレンチャ4の平面位置、及び固化材流入量の進捗状況を画像表示している。表示窓F3は、改良体の断面を表示し、トレンチャ4の貫入状態、及び改良体の品質状態を画像表示している。なお、各表示窓F1~F3に示す後述の着色表示については、図示の便宜上、着色の違いをハッチングの模様の違いにより表示している。
【0030】
表示窓F1,F2は、それぞれグローバル座標系によって示される施工領域を任意に区割りした単位区画であって、グローバル座標系においてトレンチャ4の有効混合撹拌幅E(図2参照)以下の任意のメッシュ(例えば10cm)Mxが切られた仮想区割り図VMに、トレンチャ4の投影面を重ねて表示したものである。そして、仮想区割り図VMでは、各表示窓F1,F2の左上に示される色分けをもって各メッシュMxを3段階に着色して表示することで、リアルタイムで改良体の品質(進捗状況)を管理することが可能となっている。
【0031】
なお、本実施形態では、改良品質を20%、70%、100%の3つの段階に分けて着色処理を行う態様を例示するが、当該段階の数については、地盤改良の品質管理の仕様等に応じて任意に変更することができる。また、本実施形態では、100%を上限として改良品質を段階分けしているが、例えば110%、120%のように、100%以上の段階を設定することで、どの程度過剰な施工が行われているかを確認できるメリットがあるため、上限を100%以上に設定することも可能である。
【0032】
また、モニター画面MDは、表示窓F1~F3の下部に、計画された改良深度である設計深度を数値表示する表示窓F4と、実際の改良深度である実施深度を数値表示する表示窓F5と、設計深度と実施深度の差分を数値表示する表示窓F6と、実施深度のうち最大深度である実施最大深度を数値表示する表示窓F7と、トレンチャ4の鉛直度(傾斜角度)を数値表示する表示窓F8と、を表示する。
【0033】
さらに、モニター画面MDには、表示窓F3の右側に、施工を行う区画番号を表示する表示窓F9と、ドライブチェーン43(図2参照)の移動速度(回転速度)を数値表示する表示窓F10と、ドライブチェーン43の累積移動距離を数値表示する表示窓F11と、計画された固化材の設計流量を数値表示する表示窓F12と、改良実施に伴い混入された固化材の積算流量を数値表示するF13と、トレンチャ4から排出される固化材の瞬時流量を数値表示する表示窓F14と、油圧モータ44(図2参照)で発生する油圧を数値表示する表示窓F15と、が縦一列に表示されている。なお、表示窓F14の下部であってモニター画面MDの右下には、施工終了ボタンFSWが配置されている。
【0034】
(演算装置の構成)
図4は、本実施形態に係る演算装置PUの制御ブロック図を示している。
【0035】
すなわち、演算装置PUは、例えば図4に示すように、区割りに関する情報が記録された区割り情報記録部B1と、改良範囲全体についての情報が記録された改良範囲全体記録部B2と、を有している。区割り情報記録部B1には、区割りの座標、仮想区割り図VMにて細分化された仮想区割りブロックVBのブロックサイズ、深度、固化材注入量(スラリー量)及びドライブチェーン43の累積移動距離(以下、「チェーン累積移動距離」と略称する。)等の施工記録値が格納されている。同様に、改良範囲全体記録部B2には、改良範囲となる施工区間全体の座標、施工区間全体図WMにおいて仮想区割りブロックVBと同サイズ以下に細分化された施工区間全体ブロックWBのブロックサイズ、深度、固化材注入量及びチェーン累積移動距離等の施工記録値が格納されている。
【0036】
また、演算装置PUは、トレンチャ4の位置情報を演算するトレンチャ位置情報演算部B3と、固化材瞬時流量記録部B4と、瞬時チェーン速度記録部B5と、を有している。トレンチャ位置情報演算部B3では、バックホウ1のキャビン1cの後部に設けられた、傾斜計(本実施形態では角度センサAS0,AS1,AS2,AS3)の角度検出信号と、各GNSS受信アンテナAN1及び無線受信アンテナAN2によって受信した衛星信号と、に基づいて、トレンチャ4の平面位置(座標)を演算する。固化材瞬時流量記録部B4では、トレンチャ4に設けられた固化材流量計SFによって計測された固化材の瞬時流量を記録する。瞬時チェーン速度記録部B5では、トレンチャ4に設けられたチェーン回転計RTによって計測されたドライブチェーン43の回転数に基づいて算出されるドライブチェーン43の瞬時速度を記録する。
【0037】
また、演算装置PUは、仮想区割りブロックVB及び施工区間全体ブロックWBにおける各ブロック単位の固化材の注入量(瞬時流量)及びドライブチェーン43の瞬時速度(移動距離)の各実測値(以下、「累積記録値」という。)を演算する実測値演算部B6と、トレンチャ4の平面位置における各ブロック単位の固化材注入量及びチェーン累積移動距離の記録値(以下、「施工記録値」という。)に固化材の瞬時流量及びドライブチェーン43の瞬時速度(移動距離)の各累積記録値を加算する実測値加算部B7と、を有している。実測値演算部B6では、固化材瞬時流量記録部B4から入力された固化材の瞬時流量、及び瞬時チェーン速度記録部B5から入力されたドライブチェーン43の瞬時速度に基づき、トレンチャ位置情報演算部B3で演算されたトレンチャ4の位置(座標)に対応する各ブロック単位の固化材の瞬時流量、及びドライブチェーン43の瞬時速度(移動距離)の実測値である累積記録値を演算する。実測値加算部B7では、実測値演算部B6から入力された各ブロック単位の固化材の瞬時流量、及びドライブチェーン43の瞬時速度の各累積記録値を、それぞれ区割り情報記録部B1及び改良範囲全体記録部B2から入力された各ブロック単位の施工記録値に加算する。ここで、実測値加算部B7には、仮想区割りブロックVBの中心座標Q(図6参照)と重なる施工区間全体ブロックWBを判断する重複箇所判断部B8の判断結果に基づき、仮想区割りブロックVBの中心座標Qと重なる施工区間全体ブロックWBの施工記録値が、前記中心座標Qが位置する仮想区割りブロックVBに反映(フィードバック処理)される。
【0038】
また、演算装置PUは、トレンチャ4の平面位置に基づき各ブロックにおいてトレンチャ4が通過する(位置する)経過時間Txを判断する経過時間判断部B9と、トレンチャ4の平面位置における各ブロックの固化材注入量及びチェーン累積移動距離の各施工記録値をそれぞれ平均処理して平均処理値を算出する平均処理部B10と、固化材注入量及びチェーン累積移動距離の各施工記録値又は各平均処理値を記録する処理値記録部B11と、を有している。経過時間判断部B9では、仮想区割りブロックVB及び施工区間全体ブロックWBの各ブロックにおいてトレンチャ4が通過する(位置する)経過時間Txと、カウンタ時間設定部B12に設定された閾値である所定時間Tpとを比較し、トレンチャ4が通過する(位置する)経過時間Txが所定時間Tpに達したか否かを判断する。なお、所定時間Tpとは、各混合撹拌翼45(図2参照)が原地盤を混合撹拌する際に混合状態が良好となる所定の時間である。平均処理部B10では、トレンチャ4の平面位置における各ブロックの固化材注入量及びチェーン累積移動距離の施工記録値を、トレンチャ4の平面位置において重なる各ブロックの数量で除すことによって、各ブロックにおける固化材注入量及びチェーン累積移動距離について平均処理を行う。処理値記録部B11では、所定時間Tpが未経過であって前記平均処理が実行されていない場合には、固化材注入量及びチェーン累積移動距離の施工記録値を処理値Sxとして記録し、所定時間Tpの経過によって前記平均処理が実行された場合には、平均処理部B10から入力された固化材注入量及びチェーン累積移動距離の平均処理値を処理値Sxとして記録する。
【0039】
また、演算装置PUは、仮想区割りブロックVBの閾値に基づいて改良品質を着色によって判定する着色判定部B13を有している。着色判定部B13では、処理値記録部B11から入力された各ブロックの固化材流量及びチェーン累積移動距離の処理値Sxと、閾値記録部B14に記録された各ブロックの固化材流量及びチェーン累積移動距離の閾値Spとを比較して、各ブロックの処理値Sxが各ブロックの閾値Spに達したか否かを判断する。具体的には、「Sx=0.2Sp」だと「20%」、「Sx=0.7Sp」だと「70%」、「Sx=Sp」だと「100%」と判断し、この到達の程度割合(20%、70%、100%)により配色が決定される(図3参照)。なお、着色判定部B13の判定結果は、モニター画面MDへと常時出力されて、バックホウ1を操作するオペレータが視認可能となっている。
【0040】
(品質管理制御フロー)
図5は、図4に示す制御ブロック図に基づいて実行される品質管理制御に係るフローチャートを示している。
【0041】
演算装置PUでは、図5に示すように、まず第1ステップS1において、これから施工を行う区画(区割り)の仮想区割り図VMにおける仮想区割りブロックVBに対して、施工区間全体ブロックWBの施工記録値のフィードバック処理を行う。これにより、施工を開始する区画(区割り)の仮想区割りブロックVBに、当該仮想区割りブロックVBの中心座標Qと重なる施工区間全体ブロックWBの固化材注入量及びチェーン累積移動距離の各施工記録値が反映される。
【0042】
次に、第2ステップS2において、仮想区割りブロックVB及び施工区間全体ブロックWBにおける各ブロック単位の累積記録値(固化材の瞬時流量及びドライブチェーン43の瞬時速度(移動距離))を演算する。続いて、第3ステップS3において、前記第2ステップS2で演算した各ブロック単位の累積記録値(固化材の瞬時流量及びドライブチェーン43の瞬時速度(移動距離))を、トレンチャ4の平面位置における各ブロック単位の固化材注入量及びチェーン累積移動距離の施工記録値に加算する。
【0043】
次に、第4ステップS4において、仮想区割りブロックVB及び施工区間全体ブロックWBにおいてトレンチャ4の平面位置に含まれる各ブロックについて、カウンタをインクリメント(1UP)する。そして、第5ステップS5において、前記第4ステップS4でカウントされた、仮想区割りブロックVB及び施工区間全体ブロックWBの各ブロックにトレンチャ4が通過する(位置する)経過時間Txが閾値である所定時間Tpに達したか否か、つまり「Tx=Tp」であるか否かを判断する。
【0044】
ここで、第5ステップS5で「No」、すなわちトレンチャ4が各ブロックにおいて所定時間Tpを経過していない場合は、後述する第7ステップS7へ移行する一方、第5ステップS5で「Yes」、すなわちトレンチャ4が各ブロックにおいて所定時間Tpを経過した場合には、次の第6ステップS6において、各ブロックの施工記録値(固化材流量及びチェーン累積移動距離)について、それぞれ平均処理を行い、固化材流量及びチェーン累積移動距離の各平均処理値を算出する。
【0045】
続いて、第7ステップS7において、前記第6ステップS6で平均処理が行われた場合には、前記各平均処理値が、それぞれ仮想区割りブロックVB及び施工区間全体ブロックWBにおける各ブロックの施工記録値として記録される。また、前記第5ステップS5において「No」と判断された場合は、前記平均処理は実行されず、固化材流量及びチェーン累積移動距離の各実測値が、それぞれ仮想区割りブロックVB及び施工区間全体ブロックWBにおける各ブロックの施工記録値として記録される。
【0046】
その後、第8ステップS8において、仮想区割りブロックVBの各ブロックの施工記録値に基づき、当該各ブロックの固化材流量及びチェーン累積移動距離についてそれぞれ着色判定処理を行うことにより、本制御フローが終了する。
【0047】
(施工記録値のフィードバック処理)
図6は、図5に示す制御フローチャートの第1ステップS1における施工記録値のフィードバック処理の概念図を示している。なお、図6においては、仮想区割りブロックVBを実線で示し、施工区間全体ブロックWBを破線で示している。
【0048】
前記制御フローの第1ステップS1にて行われる施工記録値のフィードバック処理は、例えば図6に示すように、施工を開始する区画(区割り)の仮想区割りブロックVB(VB1~VB6)において、当該仮想区割りブロックVB(VB1~VB6)の中心座標Q(Q1~Q6)と重なる施工区間全体ブロックWB(WB1~WB6)の固化材注入量及びチェーン累積移動距離の各施工記録値が反映されることとなる。
【0049】
具体的には、例えば図6に示すように、第1仮想区割りブロックVB及び第2仮想区割りブロックVB2には、第1仮想区割りブロックVBの中心座標Q1と及び第2仮想区割りブロックVB2の中心座標Q2とが重なる第1施工区間全体ブロックWB1の固化材注入量及びチェーン累積移動距離の各施工記録値が反映される。第3仮想区割りブロックVB3には、第3仮想区割りブロックVB3の中心座標Q3と重なる第3施工区間全体ブロックWB3の固化材注入量及びチェーン累積移動距離の各施工記録値が反映される。第4仮想区割りブロックVB4には、第4仮想区割りブロックVB4の中心座標Q4と重なる第4施工区間全体ブロックWB4の固化材注入量及びチェーン累積移動距離の各施工記録値が反映される。第5仮想区割りブロックVB5には、第5仮想区割りブロックVB5の中心座標Q5と重なる第5施工区間全体ブロックWB5の固化材注入量及びチェーン累積移動距離の各施工記録値が反映される。第6仮想区割りブロックVB6には、第6仮想区割りブロックVB6の中心座標Q6と重なる第6施工区間全体ブロックWB6の固化材注入量及びチェーン累積移動距離の各施工記録値が反映される。
【0050】
以上のようなフィードバック処理を行うことで、各区画(区割り)の施工中に当該区画(区割り)をはみ出して施工が行われていた場合でも、当該はみ出しにより施工された区画(区割り)の施工時において、前記はみ出しにより行われた施工記録が反映され、当該区画(区割り)の過剰な改良を抑制することが可能となる。
【0051】
(累積記録値の平均処理)
図7は、固化材注入量及びチェーン累積移動距離の累積記録値を施工記録値に単に加算処理した場合の問題点を表したモニター画面MDの画像図を示している。
【0052】
実際の改良体は結果として全ての位置で同等の強度を有するものとなるため、改良品質については問題ないが、固化材注入量及びチェーン累積移動距離の施工記録値を各累積記録値の単なる加算処理をもって管理してしまうと、図7に示すように、トレンチャ4が各ブロックを通過する経過時間により、改良体の改良品質が均質とならないおそれがある。
【0053】
例えば図7(a)のように、3つの管理ブロック(第1の管理ブロックPB、第2の管理ブロックSB及び第3の管理ブロックTB)の各管理ブロックをそれぞれ6分で施工することとした場合、第1の管理ブロックPBからその後12分をかけて残余の第2の管理ブロックSB及び第3の管理ブロックTBを施工することになるが、図7(b)、図7(c)、図7(d)のように、第1の管理ブロックPBから各ブロック1列ずつに施工を進めていくと、トレンチャ4が第1の管理ブロックPBと重複する部分について、各図に示すように徐々に着色が濃くなり、第1の管理ブロックPBの後半領域がより多く混合撹拌されてしまうこととなる。一方、トレンチャ4が第3の管理ブロックTBまで進んだところでトレンチャ4を速やかに引き抜いてしまった場合は、図7(e)に示すように、第3の管理ブロックTBでは、終端に近いほど混合撹拌量が少なくなってしまう問題がある。
【0054】
これに対し、トレンチャ4は混合撹拌翼45を上下方向に周回移動させることによって固化材を混合撹拌するため、トレンチャ4の平面視においては、前方の改良土は後方へ移動し、後方の改良土は前方へ移動することとなる。そこで、本実施形態では、固化材注入量及びチェーン累積移動距離の各施工記録値について前記平均処理を行うことにより、実態に則した品質管理を行うことが可能となる。
【0055】
一方、現場の土質によっては、投影されたトレンチャ4の平面位置で混合撹拌し難い土質があり、必ずしも前記平均処理を行ってよいとは限られない。そこで、例えば前記平均処理を実施して良い改良深度を演算装置PUに事前に記録させておくことで、混合撹拌が不十分な状態で平均処理が実施されるのを回避することが可能となり、より実態に則した品質管理を行うことができる。
【0056】
また、前述したように、貫入したトレンチャ4を完全に引き抜くことなく所定の折り返しラインR1,R2(図1参照)で折り返して平面視ほぼN字状の移動軌跡を形成するように、いわゆる一筆書きで連続的に平面移動させるN字施工を行う場合は、水平掘進において直行掘進と斜行掘進とがオーバーラップするように行われる。そこで、往復して行う前記N字施工では、固化材注入量及びチェーン累積移動距離の各施工記録値に各累積記録値を単純加算してしまうと着色判定で大きな偏りを生じてしまうおそれがあるため、前記平均処理を行うことにより、より効果的な品質管理を行うことができる。なお、前記N字施工に係る重複部分の施工については、経過時間Txを半分に設定することが望ましい。これにより、前記N字施工に係る重複部分についての過剰な施工を抑制することが可能となる。
【0057】
(カウンタの閾値の設定方法)
前述したように、カウンタの閾値である所定時間Tpは、混合撹拌翼45が原地盤を混合撹拌する際に混合状態が良好となる時間を判定時間として設定される。具体的には、例えば以下の計算に基づいて設定される。
【0058】
一般的に、チェーンの累積移動距離に相関する羽根切り回数50(回/m)を満たす時間であれば、混合状態は良好となる。
【0059】
例えば設計羽根切り回数が50(回/m)、区画(区割り)寸法が5(m)×5(m)×改良深度7(m)、トレンチャ4の平面寸法が厚み1(m)×幅1(m)、ドライブチェーン43のチェーン長が14(m)、混合撹拌翼45の数量が14(枚)、ドライブチェーン43の設計チェーン速度が1(m/秒)である場合、
混合撹拌翼45の撹拌翼ピッチは、
チェーン長14(m)÷撹拌翼枚数14(枚)=1.0(m/枚)
となる。
すると、1秒間に通過する撹拌翼は、
設計チェーン速度1(m/秒)÷撹拌翼ピッチ1.0(m/枚)=1(枚/秒)
となる。
つまり、混合撹拌翼45がチェーン累積移動距離1.0(m)あたりに通過する時間は1(秒/枚)かかることになる。
また、区画(区割り)あたりの設定チェーン累積移動距離は、設計羽根切り回数50(回/m)を、区画(区割り)寸法5(m)×5(m)×改良深度7(m)をトレンチャ4の幅1(m)で除したものに撹拌翼ピッチ1(m)を乗じて得られる8750(m)となる。
よって、トレンチャ4の平面寸法あたりの設定チェーン累積移動距離については、8750(m)を区画(区割り)寸法5(m)×5(m)×改良深度7(m)で除して得られる350(m)となり、1枚の混合撹拌翼45が通過するチェーン累積移動距離は1.0(m)であるため、トレンチャ4の平面寸法あたりの所要時間は、350(秒)となる。
さらに、前記平均処理の判定は、トレンチャ4の進行方向に対して0.1(m)毎に判定しているため、トレンチャ4の平面寸法あたりの所要時間350(秒)にトレンチャ4の厚み1(m)で除して得られた進行方向の距離0.1(m)を乗じて得られる35(秒)となる。
以上の計算から、上記の条件では、トレンチャ4の平面位置において35(秒)が経過していれば、均質な改良体となっていると考えてよい。
【0060】
なお、設計チェーン速度については、土質を考慮して決定する必要があるが、区画(区割り)全体として平均チェーン速度が1.0(m/秒)以下になる場合はほとんどなく、また、計測値が1.0(m/秒)より大きい場合には安全側となるため、問題はないと考えられる。
【0061】
(着色判定閾値の設定方法)
例えば区画(区割り)寸法が5(m)×5(m)×7(m)、区画(区割り)の設計固化材量が45000(L)、トレンチャ4の平面寸法が1(m)×1(m)、ブロック寸法が0.1(m)×0.1(m)を施工条件とする。
【0062】
当該施工条件における固化材注入量の閾値は、以下の計算式で求められる。
当該施工条件において、各ブロックの個数は、区画(区割り)寸法(5(m)×5(m))をブロック寸法(0.1(m)×0.1(m))で除して、2500(個)となる。
すると、単位ブロックあたりの設計固化材量は、区画(区割り)の設計固化材量45000(L)をブロック数2500(個)で除して、18(L/ブロック)が着色判定閾値となる。
【0063】
一方、上記施工条件におけるチェーン累積移動距離の閾値は、以下の計算式で求められる。
区画(区割り)あたりの設定チェーン累積移動距離は、設計羽根切り回数50(回/m)を、施工度量5(m)×5(m)×7(m)をトレンチャ4の幅1(m)×1(m)で除したものに撹拌翼ピッチ1(m)を乗じて8750(m)となる。
すると、単位ブロックあたりの設計チェーン累積移動距離は、区画(区割り)の設計チェーン累積移動距離8750(m)をブロック数2500(個)で除して、3.5(m/ブロック)が着色判定閾値となる。
【0064】
なお、改良深度が区画(区割り)の端部で異なる場合には、各ブロックの着色判定閾値は、区画(区割り)の端部の深度を直線で結んだ各ブロックの改良下端を各ブロックの設計改良下端として、当該深度を前記固化材注入量及びチェーン累積移動距離に乗じて平均の深度で除することで算出することができる。
【0065】
(各ブロックの累積記録値の算出方法)
例えばトレンチャ4の混合撹拌翼45の撹拌翼幅が1(m)、トレンチャ4の厚さが1(m)、各ブロックの幅が0.1(m)、各ブロックの厚さが0.1(m)、区画(区割り)あたりの設計固化材量が45000(L)、作業量が50(m/h)、区画(区割り)寸法が5(m)×5(m)×7(m)を施工条件とする。
【0066】
固化材の瞬時流量の計測値が、
区画(区割り)あたりの設計固化材量45000(L)÷(区画(区割り)寸法5(m)×5(m)×7(m)÷作業量が50(m/h)×60)≒215(L/分)
と設計上の固化材の瞬時流量と同じであった場合、
トレンチャ4が位置するブロック数は、
トレンチャ4の平面寸法(1(m)×1(m))÷ブロック寸法(0.1(m)×0.1(m))=100(個)
したがって、固化材の瞬時流量の計測値215(L/分)をブロック数100(個)で除して2.15(L/分・個)、1(秒)あたりに換算して、固化材量の累積記録値は0.036(L/秒・個)となる。
【0067】
同様に、チェーンの瞬時速度の計測値が1.0(m/秒)の場合、チェーンの瞬時速度1.0(m/秒)をブロック数100(個)で除することで、チェーンの累積記録値は0.01(m/個)となる。
【0068】
(本実施形態の作用効果)
以上のように、本実施形態に係る地盤改良の品質管理システムは、仮想区割りブロックVBのみならず、施工区間全体ブロックWBにも施工記録値を記録することとして、前記制御フローの第1ステップS1で示すように、次回以降の施工開始時において、これから施工を開始する仮想区割りブロックVBの中心座標Qが重なる施工区割り全体ブロックWBの施工記録値を前記中心座標Qが位置する仮想区割りブロックVBへと反映させるフィードバック処理を行う。このため、例えば施工時にトレンチャ4が隣接する仮想区割りへとはみ出してしまうことで当該隣接する仮想区割りの施工時において部分的に施工済となってしまっている場合など、既に施工済となっている固化材注入量及びチェーン累積移動距離の各施工記録値をこれから施工を開始する仮想区割りブロックVBに反映(フィードバック)させることで、当該施工を開始する仮想区割りブロックVBにおいて、固化材注入量及びチェーン累積移動距離の各施工記録値を調整することが可能となる。これにより、仮想区割りブロックVBにおける過剰な改良が抑制されて、ロスの少ない地盤改良を行うことができる。
【0069】
しかも、本実施形態では、前記制御フローの第8ステップS8で示すように、着色処理による合否判定によって、改良品質の過不足を可視化することができる。このため、施工中にバックホウ1を操作するオペレータは、前記着色処理による合否判定に従い、改良品質の過不足を調整することが可能となる。これにより、過不足の少ない良好な地盤改良を担保することができる。
【0070】
また、この際、固化材注入量及びチェーン累積移動距離の施工記録値に対する各累積記録値の加算にあたり、固化材注入量及びチェーン累積移動距離の各累積記録値を単純な加算処理で累積してしまうと、例えばトレンチャ4の貫入時には過剰となり、トレンチャ4の引抜時には不足が生じるなど、仮想区割りブロックVBに過不足となった施工記録値が記録されてしまうおそれがある。
【0071】
そこで、本実施形態では、トレンチャ4が仮想区割りブロックVB上において閾値である所定時間Tp以上位置していた場合には、固化材注入量及びチェーン累積移動距離の各施工記録値を平均処理することで、より適切な改良品質管理を行うことができる。
【0072】
なお、前記所定時間Tp未満、例えばトレンチャ4が仮想区割りブロックVB移動直後に前記平均処理を行ってしまった場合は、未だ改良が不十分の状態でも均質と判定されてしまうおそれがある。
【0073】
そこで、本実施形態では、混合状態が良好となる時間を前記平均処理するまでの判定時間として設定し、仮想区割りブロックVBにおいてトレンチャ4が判定時間である所定時間Tp以上位置していた際に、前記平均処理を行うこととした。このように、混合状態が良好となる前記所定時間Tpを前記平均処理されるまでの判定時間として設定することにより、良好な改良品質を担保することができる。
【0074】
また、本実施形態では、設計上のチェーン累積移動距離に基づいて算出された混合状態が良好と判断される時間を判定時間として設定することによって、トレンチャ4の撹拌能力や原地盤の土質を加味した適切な改良品質を確保することができる。
【0075】
また、この際、判定時間は、トレンチャ4の撹拌能力に応じて判定時間を都度演算することも可能であるが、固定値である所定値とすることで、改良体品質の面で安全側に設定することが可能となり、さらには制御内容を簡素化することが可能となる。これにより、演算に必要な処理能力の軽減及びシステム構築に係る費用を削減することができる。
【0076】
(変形例)
図8は、本発明に係る地盤改良の品質管理システムの他例を示す図であって、バックホウ1に設置されたモニター画面MDの画像図を示している。
【0077】
例えば図8に示すように、前記実施形態に係る表示窓F1と表示窓F2を統合し、一つの表示窓F16において、固化材注入量の合否とチェーン累積移動距離の合否とを複合的(総合的)に判断して着色処理による合否判定を行うことも可能である。具体的には、例えば表示窓F16の上部に表示される表示窓F17に固化材注入量の合否判定である「固化材判定」を表示すると共に、表示窓F17に隣接して表示される表示窓F18にチェーン累積移動距離の合否判定である「チェーン累積判定」を表示する。そして、図8の図示によれば、表示窓F17の固化材判定に「×」が表示され、表示窓F18のチェーン累積判定に「〇」が表示されており、総合的な判定を行う表示窓F16の着色表示は「70%」の表示となっている。これは、チェーン累積判定は「100%」に達しており合格となっているが、固化材判定は「70%」であるため、仮想区割りブロックには、低い方の判定(「70%」の判定)を反映させている。これにより、バックホウ1を操作するオペレータは、モニター画面MDに表示される1つの表示窓F16で、固化材注入量とチェーン累積移動距離の両パラメータの合否判定を確認することができる。
【0078】
以上のように、本変形例では、固化材注入量の施工記録値とチェーン累積移動距離の施工記録値とを複合的に判断して合否判定を行う構成とした。このため、バックホウ1を操作するオペレータは、前記実施形態のように複数の表示窓F1,F2(図3参照)に表示される各パラメータの合否判定をそれぞれ確認することなく改良施工を進めることが可能となり、オペレータの労力(負担)を軽減することができる。
【0079】
本発明は、前記実施形態において例示した構成に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、適用する地盤改良の品質管理システムの仕様等に応じて自由に変更することができる。
【0080】
例えば、前記実施形態で例示したモニター画面MDの表示態様は一例に過ぎず、各表示窓のレイアウト及び表示形式、メッシュの粗さなど、適用する地盤改良の品質管理システムの仕様等に応じて任意に変更可能である。
【0081】
また、測位衛星DSについても、前記実施形態で例示したGPSのほかにも、例えばGLONASS、BeiDou、ガリレオ、みちびき、NAVICなど、測位に供するあらゆる測位衛星が含まれる。
【符号の説明】
【0082】
1…バックホウ(ベースマシン)
2…ブーム
3…アーム
4…トレンチャ(混合撹拌ヘッド)
43…ドライブチェーン
44…油圧モータ(油圧アクチュエータ)
45…混合撹拌翼
AN1…GNSSアンテナ(受信アンテナ)
AN2…無線受信アンテナ(受信アンテナ)
AS1…角度センサ(計測手段)
AS2…角度センサ(計測手段)
AS3…角度センサ(計測手段)
DS…測位衛星
MD…モニター画面(表示手段)
PU…演算装置
VM…仮想区割り図
VB…仮想区割りブロック
WM…施工区間全体図
WB…施工区間全体ブロック
Q…中心座標
Tp…所定時間(判定時間)
【要約】
【課題】過不足の少ない良好な改良品質を担保することができる地盤改良の品質管理システムを提供する。
【解決手段】本発明に係る地盤改良の品質管理システムでは、施工区間全体ブロックWBに記録された固化材注入量及びチェーン累積移動距離の各施工記録値を、これから施工を開始する仮想区割りブロックVBに反映(フィードバック)することにより、当該施工を開始する仮想区割りブロックVBにおいて、固化材注入量及びチェーン累積移動距離の各施工記録値を調整することが可能となる。これにより、仮想区割りブロックVBにおける過剰な改良が抑制され、ロスの少ない地盤改良を行うことができる。
【選択図】図6
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8