(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】化成処理用金属着色液及び金属着色処理方法
(51)【国際特許分類】
C23C 22/23 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
C23C22/23
(21)【出願番号】P 2020116562
(22)【出願日】2020-07-06
【審査請求日】2023-05-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000232656
【氏名又は名称】日本表面化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006828
【氏名又は名称】YKK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】長沢 壮平
(72)【発明者】
【氏名】香取 光臣
(72)【発明者】
【氏名】保坂 美沙子
(72)【発明者】
【氏名】瓜田 侑己
(72)【発明者】
【氏名】荒 亮多
【審査官】菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2008-0035851(KR,A)
【文献】特開2004-169120(JP,A)
【文献】特開昭54-107438(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104894552(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過マンガン酸若しくはその塩と、
無機酸及びその塩のいずれか一方又は両方と、
縮合リン酸塩と、
を含み、
前記過マンガン酸若しくはその塩が、過マンガン酸、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸亜鉛、過マンガン酸マグネシウム、過マンガン酸カルシウム、過マンガン酸アンモニウム、又はこれらの組み合わせであり、
前記無機酸及びその塩が、リン酸、硫酸、硝酸、炭酸、塩酸、及びこれらの塩、又はこれらの組み合わせであり、
前記縮合リン酸塩が、ピロリン酸カリウムとトリポリリン酸ナトリウムとの組み合わせであり、
前記過マンガン酸若しくはその塩の含有量が、0.5~50g/Lであり、
前記無機酸及びその塩の含有量が、0.5~100g/Lであり、
前記縮合リン酸塩の含有量が、1~150g/Lであ
り、
処理対象の金属が、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、鉄、鉄合金、亜鉛及び亜鉛合金からなる群から選択される少なくとも1種である、
化成処理用金属着色液。
【請求項2】
更に、オキソ酸若しくはその塩を含む請求項1に記載の化成処理用金属着色液。
【請求項3】
前記オキソ酸若しくはその塩が、過塩素酸、塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸、臭素酸、ホウ酸、若しくはこれらの塩、又はこれらの組み合わせである請求項2に記載の化成処理用金属着色液。
【請求項4】
前記オキソ酸若しくはその塩の合計含有量が、0.5~100g/Lである請求項2又は3に記載の化成処理用金属着色液。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の化成処理用金属着色液を使用して、金属に対して化成処理によって着色を行う工程を含む金属着色処理方法。
【請求項6】
前記金属に対して化成処理によって着色を行う工程において、前記金属を前記化成処理用金属着色液に10℃~80℃で30秒~20分間浸漬することで前記金属を着色する請求項
5に記載の金属着色処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化成処理用金属着色液及び金属着色処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の金属、特にアルミニウム又はアルミニウム合金の着色において、黄色~茶色系の色調を得るには陽極酸化や陽極酸化皮膜に染料を吸着させる方法が一般的である。
【0003】
例えば、特許文献1には、アルミニウム又はアルミニウム合金の素地表面に形成した電解発色又は自然発色による発色皮膜を、電解着色可能な皮膜構造とした後、電解着色を行って、色を重ね合わせて新たな色調の皮膜を得ることを特徴とするアルミニウム及びアルミニウム合金の電解着色方法が開示されている。そして、このような構成によれば、従来の電解着色方法では得られない様々な中間色を含む種々の色調を得ることができる電解着色方法を提供することができる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭60-110895号公報
【文献】特許第6004217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来、金属表面を黄色~茶色系の色調に着色するには、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金であればアルマイトを利用する必要があった。すなわち、金属表面を黄色~茶色系の色調に着色するには、酸化膜を表面に有する金属を利用する必要があり、処理工程が多く、処理効率の改善が望まれている。
【0006】
また、特許文献2には、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面を金色に着色する処理剤について開示しているが、金属表面を化成処理によって黄色~茶色系の色調に着色するには更なる研究・開発の余地があった。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑み、良好な処理効率で金属表面を黄色~茶色系の色調に着色することが可能な化成処理用金属着色液及び金属着色処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、過マンガン酸若しくはその塩と、無機酸及びその塩のいずれか一方又は両方と、縮合リン酸塩とを含む化成処理用金属着色液により処理を行うことで、良好な処理効率で金属表面を黄色~茶色系の色調に着色することが可能となることを見出した。
【0009】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、過マンガン酸若しくはその塩と、無機酸及びその塩のいずれか一方又は両方と、縮合リン酸塩とを含む化成処理用金属着色液である。
【0010】
本発明の化成処理用金属着色液は一実施形態において、前記過マンガン酸若しくはその塩が、過マンガン酸、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸亜鉛、過マンガン酸マグネシウム、過マンガン酸カルシウム、過マンガン酸アンモニウム、又はこれらの組み合わせである。
【0011】
本発明の化成処理用金属着色液は別の一実施形態において、前記無機酸及びその塩が、リン酸、硫酸、硝酸、炭酸、塩酸、及びこれらの塩、又はこれらの組み合わせである。
【0012】
本発明の化成処理用金属着色液は更に別の一実施形態において、前記縮合リン酸塩が、ピロリン酸カリウム、トリポリリン酸ナトリウム、又はこれらの組み合わせである。
【0013】
本発明の化成処理用金属着色液は更に別の一実施形態において、前記過マンガン酸若しくはその塩の含有量が、0.5~50g/Lである。
【0014】
本発明の化成処理用金属着色液は更に別の一実施形態において、前記無機酸及びその塩の含有量が、0.5~100g/Lである。
【0015】
本発明の化成処理用金属着色液は更に別の一実施形態において、前記縮合リン酸塩の含有量が、1~150g/Lである。
【0016】
本発明の化成処理用金属着色液は更に別の一実施形態において、更に、オキソ酸若しくはその塩を含む。
【0017】
本発明の化成処理用金属着色液は更に別の一実施形態において、前記オキソ酸若しくはその塩が、過塩素酸、塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸、臭素酸、ホウ酸、若しくはこれらの塩、又はこれらの組み合わせである。
【0018】
本発明の化成処理用金属着色液は更に別の一実施形態において、前記オキソ酸若しくはその塩の合計含有量が、0.5~100g/Lである。
【0019】
本発明の化成処理用金属着色液は更に別の一実施形態において、処理対象の金属が、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、鉄、鉄合金、亜鉛、亜鉛合金、マグネシウム、及びマグネシウム合金からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0020】
本発明は別の一側面において、本発明の化成処理用金属着色液を使用して、金属に対して化成処理によって着色を行う工程を含む金属着色処理方法である。
【0021】
本発明の金属着色処理方法は一実施形態において、前記金属に対して化成処理によって着色を行う工程において、前記金属を前記化成処理用金属着色液に10℃~80℃で30秒~20分間浸漬することで前記金属を着色する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、良好な処理効率で金属表面を黄色~茶色系の色調に着色することが可能な化成処理用金属着色液及び金属着色処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の化成処理用金属着色液及び金属着色処理方法の実施形態について説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0024】
〔化成処理用金属着色液〕
本発明の実施形態に係る化成処理用金属着色液は、過マンガン酸若しくはその塩と、無機酸及びその塩のいずれか一方又は両方と、縮合リン酸塩とを含む。過マンガン酸若しくはその塩と、無機酸及びその塩のいずれか一方又は両方と、縮合リン酸塩とを含む化成処理用金属着色液を用いることで、処理対象の金属を当該化成処理用金属着色液に浸漬するだけで、金属表面に皮膜(着色皮膜)を形成することができ、これにより黄色~茶色系の色調に着色することができる。このため、金属表面を黄色~茶色系の色調に着色する際に、当該金属の表面に酸化膜を形成しておく必要もなく、電解によって着色する必要もなくなり、処理効率が良好となる。また、本発明の実施形態に係る化成処理用金属着色液によれば、金属表面に形成する皮膜(着色皮膜)の密着性も良好となる。
【0025】
(処理対象の金属)
本発明の実施形態に係る化成処理用金属着色液で表面を着色する対象となる金属(処理対象の金属)としては、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、鉄、鉄合金、亜鉛、亜鉛合金、マグネシウム、及びマグネシウム合金からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。処理対象の金属は、当該金属自体であってもよく、例えば、鉄系材料や鉄系部品などの金属基材の表面に形成された、当該金属のメッキであってもよい。
【0026】
(過マンガン酸若しくはその塩)
過マンガン酸若しくはその塩としては、過マンガン酸、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸亜鉛、過マンガン酸マグネシウム、過マンガン酸カルシウム、過マンガン酸アンモニウム、又はこれらの組み合わせを用いることができる。また、過マンガン酸若しくはその塩としては、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウムがより好ましい。
【0027】
本発明の実施形態に係る化成処理用金属着色液における過マンガン酸若しくはその塩の含有量は、処理対象の金属の種類、及び、どの程度の黄色~茶色系の色調に着色するかによるが、例えば、0.5~50g/Lとすることができる。基本的には、過マンガン酸若しくはその塩の含有量が少ないほど、金属表面を薄い黄色~濃い黄色系の色調に着色することができる。また、過マンガン酸若しくはその塩の含有量が多いほど、金属表面を薄い茶色~濃い茶色系の色調に着色することができる。過マンガン酸若しくはその塩の含有量は、1~30g/Lであることがより好ましく、2~20g/Lであることがより好ましい。
【0028】
本発明の実施形態に係る化成処理用金属着色液は、後述のように、オキソ酸若しくはその塩等を含んでもよいが、これらの成分を含まない化成処理用金属着色液の場合、特にアルミニウム、アルミニウム合金などの金属表面を、より美観に優れた黄色~茶色系の色調に着色することができる。
【0029】
(無機酸及びその塩)
無機酸及びその塩は、リン酸、硫酸、硝酸、炭酸、塩酸、及びこれらの塩、又はこれらの組み合わせであるのが好ましい。リン酸、硫酸、硝酸、炭酸、塩酸の塩としては、これらの金属塩、又はアンモニウム塩などを用いることができる。また、無機酸及びその塩としては、リン酸三ナトリウム、硝酸、硝酸銅、塩化亜鉛がより好ましい。
【0030】
本発明の実施形態に係る化成処理用金属着色液における無機酸及びその塩の含有量は、処理対象の金属の種類、及び、どの程度の黄色~茶色系の色調に着色するかによるが、例えば、0.5~100g/Lとすることができる。基本的には、無機酸及びその塩の含有量が少ないほど、金属表面を薄い黄色~濃い黄色系の色調に着色することができる。また、無機酸及びその塩の含有量が多いほど、金属表面を薄い茶色~濃い茶色系の色調に着色することができる。無機酸及びその塩の含有量は、1~30g/Lであることがより好ましく、2~20g/Lであることがより好ましい。
【0031】
(縮合リン酸塩)
縮合リン酸塩は、ピロリン酸カリウム、トリポリリン酸ナトリウム、又はこれらの組み合わせであるのが好ましい。縮合リン酸塩の含有量は、処理対象の金属の種類、及び、どの程度の黄色~茶色系の色調に着色するかによるが、例えば、1~150g/Lとすることができる。基本的には、縮合リン酸塩の含有量が少ないほど、金属表面を薄い黄色~濃い黄色系の色調に着色することができる。また、縮合リン酸塩が多いほど、金属表面を薄い茶色~濃い茶色系の色調に着色することができる。縮合リン酸塩は、3~50g/Lであることがより好ましく、4~40g/Lであることがより好ましい。
【0032】
(オキソ酸若しくはその塩)
本発明の実施形態に係る化成処理用金属着色液は、更に、オキソ酸若しくはその塩を含んでもよい。本発明の実施形態に係る化成処理用金属着色液は、オキソ酸若しくはその塩を含んでも、良好な処理効率で前述の処理対象の金属表面を黄色~茶色系の色調に着色することができる。また、本発明の実施形態に係る化成処理用金属着色液は、オキソ酸若しくはその塩を含むことにより、特に銅、銅合金、鉄、鉄合金、亜鉛、亜鉛合金などの金属の表面を、より美観に優れた黄色~茶色系の色調に着色することができる。
【0033】
オキソ酸若しくはその塩が、過塩素酸、塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸、臭素酸、ホウ酸、若しくはこれらの塩、又はこれらの組み合わせであるのが好ましい。過塩素酸、塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸、臭素酸、ホウ酸の塩としては、これらの金属塩、又はアンモニウム塩などを用いることができる。
【0034】
本発明の実施形態に係る化成処理用金属着色液におけるオキソ酸若しくはその塩の合計含有量は、0.5~100g/Lとすることができる。基本的には、オキソ酸若しくはその塩の合計含有量が少ないほど、金属表面を薄い黄色~濃い黄色系の色調に着色することができる。また、オキソ酸若しくはその塩の合計含有量が多いほど、金属表面を薄い茶色~濃い茶色系の色調に着色することができる。オキソ酸若しくはその塩の合計含有量は、1~50g/Lであることがより好ましく、10~30g/Lであることがより好ましい。
【0035】
(水性媒体)
本発明の実施形態に係る化成処理用金属着色液は、前述の各種成分に、水性媒体を混合したものであってもよい。水性媒体は、水を主成分とする媒体を示す。水性媒体としては、例えば、水を主成分とし、水と混和可能なアルコール等の有機溶媒を含む媒体が挙げられる。水性媒体は、本発明の実施形態に係る化成処理用金属着色液の調製の際、化成処理用金属着色液の保存の際、又は金属表面を着色した後において、当該金属の着色表面の何らかの特性向上のために有利に作用する各種の成分、又は本発明の効果を実質的に阻害しない各種成分を、必要に応じて含むことができる。例えばpH調整剤、保存安定剤等は、そのような成分の具体例である。
【0036】
〔金属着色処理方法〕
次に、本発明の実施形態に係る金属着色処理方法について詳述する。まず、本発明の実施形態に係る化成処理用金属着色液が入った浴槽を準備する。次に、浴槽中の化成処理用金属着色液の温度を制御しながら、処理対象の金属を化成処理用金属着色液に浸漬する。所定時間経過後、浴槽から処理対象の金属を引き上げることで、金属表面が黄色~茶色系の色調に着色された金属を得る。このように、本発明の実施形態に係る金属着色処理方法によれば、処理対象の金属を化成処理用金属着色液に浸漬するだけで、黄色~茶色系の色調に着色することができる。このため、金属表面を黄色~茶色系の色調に着色する際に、当該金属の表面に酸化膜を形成しておく必要もなく、電解によって着色する必要もなくなり、処理効率が良好となる。
【0037】
また、本発明の実施形態に係る金属着色処理方法において、処理対象の金属を化成処理用金属着色液に浸漬する以外に、例えば、化成処理用金属着色液を用いた吹き付け工程によって、処理対象の金属の表面に化成処理用金属着色液を接触させて、処理対象の金属の表面を着色してもよい。
【0038】
化成処理用金属着色液による処理温度は、10~80℃の範囲が好ましく、10~60℃の範囲がより好ましく、30~60℃の範囲が更により好ましい。処理温度が10℃以上であると表面処理の反応速度が増し、80℃以下であると蒸発による化成処理用金属着色液の液面の低下を抑制することができる。
【0039】
化成処理用金属着色液による処理時間は、30秒~20分間の範囲が好ましく、1分~20分間の範囲がより好ましく、1分~10分間の範囲が更により好ましい。基本的には、処理時間が短いほど、金属表面を薄い黄色~濃い黄色系の色調に着色することができる。また、処理時間が長いほど、金属表面を薄い茶色~濃い茶色系の色調に着色することができる。
【0040】
金属表面処理を行う際、あらかじめ処理対象の金属の脱脂、活性化、表面調整を行うことで、処理対象の金属の外観、耐食性及び化成処理用金属着色液との反応性を向上させることが可能である。
【0041】
金属表面処理後に、ケイ素、樹脂及びワックスからなる群のうちの1種以上を含有するコーティング剤にて後処理を行っても良い。所望の金属表面の色調に影響を与えない範囲において、これらコーティング剤に特に限定はなく、アクリル樹脂、オレフィン樹脂、アルキド樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリプロピレン、メタクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン、ポリアミド、ポリカーボネート等の樹脂類やケイ酸塩、コロイダルシリカ等を成分とするコーティング剤を用いても良い。これらの樹脂濃度は、0.01~800g/Lが好ましいが、適切な濃度は樹脂の種類により異なる。コーティング剤としては、具体的には、コスマーコート(商品名、関西ペイント(株))、ハイシール272(商品名、日本表面化学(株))、ストロンJSコート(商品名、日本表面化学(株))、トライナーTR-170(商品名、日本表面化学(株))、フィニガード(商品名、Coventya社)等が挙げられる。アクリル樹脂としては、具体的には、ヒロタイト(商品名、日立化成(株))、アロセット(商品名、(株)日本触媒)等があり、オレフィン樹脂については、フローセン(商品名、住友精化(株))、PES(商品名、日本ユニカー(株))、ケミパール(商品名、三井化学(株))、サンファイン(商品名、旭化成(株))等が挙げられる。
【0042】
本発明の実施形態に係る化成処理用金属着色液は、金属表面を、所望の色に着色させる、所望の美観を付与する、又は識別性を付与する等の目的で使用することができる。このような処理対象の金属の形態としては、あらゆるものを用いることができ、特に限定されないが、例えば、装飾品、ボタンやファスナー等のファスニング部材、車載用部品等を用いることができる。また、当該処理対象の金属の形状についても限定されず、あらゆる形状のものを用いることができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例を示すが、これらは本発明をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0044】
〔試験例1:アルミニウム、アルミニウム合金の着色試験〕
(実施例1~83、90、91)
試験片(処理対象の金属片)として、JIS A5052(アルミニウム-マグネシウム合金)、A2017(アルミニウム-銅合金)、ADC12(アルミダイキャスト)を準備し、当該試験片の表面に、脱脂、水洗を順に行った。
次に、表1~6、8に示す液組成の化成処理用金属着色液を入れた浴槽を準備した。化成処理用金属着色液の水性媒体は純水を使用した。
次に、浴槽中の化成処理用金属着色液を表1~6、8に示す温度に制御した状態で、試験片を浸漬した。表1~6、8に示す時間だけ浸漬させた後、試験片を取り出した。次に、試験片の表面を水洗し、続いて乾燥した。
【0045】
なお、実施例90及び91については、浸漬により皮膜(着色皮膜)を形成した後の試験片を水洗し、コーティング処理を行い、乾燥した。実施例90のコーティング処理にはストロンJSコート(日本表面化学(株)製コーティング剤)、実施例91のコーティング処理にはTR-170(日本表面化学(株)製コーティング剤)を使用した。
【0046】
〔試験例2:銅、銅合金の着色試験〕
(実施例84~85)
試験片(処理対象の金属片)として、JIS C2600P(真鍮)、C1100P(純銅)を準備し、当該試験片の表面に、脱脂、水洗を順に行った。
次に、表7に示す液組成の化成処理用金属着色液を入れた浴槽を準備した。化成処理用金属着色液の水性媒体は純水を使用した。
次に、浴槽中の化成処理用金属着色液を表7に示す温度に制御した状態で、試験片を浸漬した。表7に示す時間だけ浸漬させた後、試験片を取り出した。次に、試験片の表面を水洗し、続いて乾燥した。
【0047】
〔試験例3:亜鉛、亜鉛合金の着色試験〕
(実施例86~87)
試験片(処理対象の金属片)として、JIS ZDC2(亜鉛ダイキャスト)及び亜鉛めっき材を準備し、当該試験片の表面に、脱脂、水洗を順に行った。当該亜鉛めっき材は、JISで規定されるJIS SPCC(圧延鋼板)を基材として、膜厚8μmのジンケート亜鉛メッキを施したものである。また、当該ジンケート亜鉛メッキの光沢剤として、日本表面化学(株)製9000ABSを使用した。
次に、表7に示す液組成の化成処理用金属着色液を入れた浴槽を準備した。化成処理用金属着色液の水性媒体は純水を使用した。
次に、浴槽中の化成処理用金属着色液を表7に示す温度に制御した状態で、試験片を浸漬した。表7に示す時間だけ浸漬させた後、試験片を取り出した。次に、試験片の表面を水洗し、続いて乾燥した。
【0048】
〔試験例4:鉄、鉄合金の着色試験〕
(実施例88)
試験片(処理対象の金属片)として、JIS SPCC(圧延鋼板)を準備し、当該試験片の表面に、脱脂、水洗を順に行った。
次に、表7に示す液組成の化成処理用金属着色液を入れた浴槽を準備した。化成処理用金属着色液の水性媒体は純水を使用した。
次に、浴槽中の化成処理用金属着色液を表7に示す温度に制御した状態で、試験片を浸漬した。表7に示す時間だけ浸漬させた後、試験片を取り出した。次に、試験片の表面を水洗し、続いて乾燥した。
【0049】
〔試験例5:マグネシウム、マグネシウム合金の着色試験〕
(実施例89)
試験片(処理対象の金属片)として、JIS AZ31(マグネシウム-亜鉛合金)を準備し、当該試験片の表面に、脱脂、水洗を順に行った。
次に、表7に示す液組成の化成処理用金属着色液を入れた浴槽を準備した。化成処理用金属着色液の水性媒体は純水を使用した。
次に、浴槽中の化成処理用金属着色液を表7に示す温度に制御した状態で、試験片を浸漬した。表7に示す時間だけ浸漬させた後、試験片を取り出した。次に、試験片の表面を水洗し、続いて乾燥した。
【0050】
〔試験例6〕
(比較例1~4)
試験片(処理対象の金属片)として、表9に示す金属を準備し、当該試験片の表面に、脱脂、水洗を順に行った。
次に、表9に示す液組成の化成処理用金属着色液を入れた浴槽を準備した。化成処理用金属着色液の水性媒体は純水を使用した。
次に、浴槽中の化成処理用金属着色液を表9に示す温度に制御した状態で、試験片を浸漬した。表9に示す時間だけ浸漬させた後、試験片を取り出した。次に、試験片の表面を水洗し、続いて乾燥した。
【0051】
〔各種評価〕
実施例1~91及び比較例1~4で作製した試験片について、色調評価及び密着性評価を以下の通り行った。
【0052】
(色調評価)
試験片の表面の色調は、目視により評価した。評価基準を以下に示す。
A:均一で美観に優れた処理外観を有する黄色
B:均一で美観に優れた処理外観を有するAよりも濃い黄色
C:均一で美観に優れた処理外観を有するAよりも薄い黄色
D:均一で美観に優れた処理外観を有する茶色
E:均一で美観に優れた処理外観を有するDよりも濃い茶色
F:均一で美観に優れた処理外観を有するDよりも薄い茶色
G:着色なし
【0053】
(密着性評価)
試験片の表面に、カッターで10×10マス(合計100マス)の切り込みを入れ、セロテープ(登録商標)を貼って剥がした際に、着色皮膜が剥がれなかったマス目の数をカウントした。1マス分のサイズは、縦×横=1mm×1mmであった。
各表には、(着色皮膜が剥がれなかったマス目の数)/100で示しており、着色皮膜が剥がれなかったマス目の数が大きいほど着色皮膜の密着性が高いことを示している。
【0054】
実施例1~91及び比較例1~4について、試験条件及び評価結果を表1~9に示す。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
以上の結果から、実施例1~91のように、過マンガン酸若しくはその塩と、無機酸及びその塩のいずれか一方又は両方と、縮合リン酸塩とを含む化成処理用金属着色液によれば、良好な処理効率で金属表面を黄色~茶色系の色調に着色することができることが確認された。
一方、比較例1~4のように、化成処理用金属着色液が過マンガン酸若しくはその塩と、無機酸及びその塩のいずれか一方又は両方と、縮合リン酸塩とを含まないと、金属表面を黄色~茶色系の色調に着色することができないことが確認された。