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  • 特許-赤外線放射装置 図1A
  • 特許-赤外線放射装置 図1B
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  • 特許-赤外線放射装置 図2A
  • 特許-赤外線放射装置 図2B
  • 特許-赤外線放射装置 図3
  • 特許-赤外線放射装置 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】赤外線放射装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/10 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
H05B3/10 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021066575
(22)【出願日】2021-04-09
(65)【公開番号】P2022161627
(43)【公開日】2022-10-21
【審査請求日】2024-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100091524
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 充夫
(72)【発明者】
【氏名】宇治野 智大
【審査官】礒部 賢
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-017433(JP,A)
【文献】国際公開第2014/192478(WO,A1)
【文献】特開2012-225829(JP,A)
【文献】特開2021-044192(JP,A)
【文献】国際公開第2019/225726(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/00 - 3/86
H01K 1/00 - 13/06
F27D 11/00 - 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線を射出する赤外線放射装置であって、
放射される前記赤外線の放射方向とその放射面とのなす角度によって、放射される前記赤外線の波長領域が変化する前記放射面を有する放射部と、
内壁面が反射層で構成された半球状の形状を有し、その球心の位置に配置されて前記赤外線を射出する第1出射部を有し、前記放射部の前記放射面を前記第1出射部に向けた状態で前記放射部を筐体空間内に配置する筐体と、
前記筐体の前記第1出射部に対する前記放射部の前記放射面の前記角度を調整する角度調整部とを備える赤外線放射装置。
【請求項2】
内壁面を反射層で構成され、半球状の前記筐体における平面に対して面対称に配置した半球状の反射部材をさらに設け、前記反射部材における前記第1出射部と対向する位置に、前記筐体の前記第1出射部の入射面と平行な入射面を有する第2出射部を備える、請求項1に記載の赤外線放射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の波長領域のみの赤外線を被加熱物に照射して加熱する赤外線放射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特定の波長領域に吸収特性を有する被加熱物を加熱する加熱装置として、特定の波長領域の赤外線を放射する赤外線放射装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図4は特許文献1の概略構成図である。特許文献1で開示されている構成は、以下のような構成である。
【0004】
赤外線放射装置101は、内壁を反射層103で構成された円筒状の外管104の内部空間に、特定の波長領域の赤外線を放射する特性を有する放射部102が配置されている。外管104には、外管104内の放射部102から放射された赤外線を外管104外に射出するための出射部105が設置されている。出射部105は、赤外線を透過する材料で構成されており、出射部105の外周面のうち、外管104内側に位置する入射面105aから入射した赤外線を、出射部105の入射面105aと反対側に位置する出射面105bから射出する。出射部105では、入射面105aと出射面105bと以外の外周面において、赤外線を内側に全反射させることで、入射面105aから入射した赤外線を出射面105bまで導く。よって、放射部102から放射された特定の波長領域の赤外線は、直接出射部105の入射面105aに到達するか、あるいは外管104内の反射層103で反射され、出射部105の入射面105aに到達すると、出射部105によって、出射面105bまで導かれ、外部の出射面105b近傍に局在的に赤外線を射出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-17433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1の構成では、赤外線放射装置から射出する赤外線の波長領域を変更できないため、吸収波長領域が異なる材料に合わせて、個別に赤外線放射装置の作製、及び、加熱設備への付け替えが必要であり、コストと作業者の負担とが増加する、という問題がある。
【0007】
本発明は、このような点を鑑み、射出する赤外線の波長領域が変化する赤外線放射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の1つの態様にかかる赤外線放射装置は、
赤外線を射出する赤外線放射装置であって、
放射される前記赤外線の放射方向とその放射面とのなす角度によって、放射される前記赤外線の波長領域が変化する前記放射面を有する放射部と、
内壁面が反射層で構成された半球状の形状を有し、その球心の位置に配置されて前記赤外線を射出する第1出射部を有し、前記放射部の前記放射面を前記第1出射部に向けた状態で前記放射部を筐体空間内に配置する筐体と、
前記筐体の前記第1出射部に対する前記放射部の前記放射面の前記角度を調整する角度調整部とを備える。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明の前記態様の赤外線放射装置によれば、放射部の放射面の角度を角度調整部で調整することで、複数の材料の吸収波長領域に対応できるため、吸収波長領域が異なる材料に対応するための赤外線放射装置の製作コストと加熱設備への付け替えの作業者の負担とを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】本発明の第1実施形態における赤外線放射装置を側面から見た概略構成図
図1B】本発明の第1実施形態における赤外線放射装置を正面から見た概略構成図
図1C】放射面における放射角度αを説明するための、本発明の第1実施形態における赤外線放射装置を側面から見た概略構成の部分拡大図
図2A】放射面における放射角度10°で放射される赤外線の放射率スペクトルを示す図
図2B】放射角度によって放射される赤外線の波長領域が変化する放射面における放射率スペクトルと放射角度の関係を示す図
図3】本発明の第2実施形態における赤外線放射装置の概略構成図
図4】従来の赤外線放射装置の概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0012】
図1A及び図1Bは、それぞれ、本発明の第1実施形態における赤外線放射装置1を側面と正面から見た概略構成図である。
【0013】
赤外線放射装置1は、筐体3と、放射部2と、角度調整部5とを少なくとも備えて、赤外線20を射出する。赤外線放射装置1は、さらに、出力制御部10と、角度調整制御部6とを備えている。
【0014】
筐体3は、内壁面が鏡面などの反射層4で覆われている半球状の形状をしており、半球状の筐体空間3d内のその球心3aと頂点3bとを結ぶ線3c上の位置に、円形平板状の放射部2を配置している。反射層4は、Au、Ag、Cu、又は、鏡面研磨したSUS等の金属によって形成される。
放射部2は、出力制御部10によって供給された電力によって加熱され、その表面から赤外線20を放射する。
【0015】
筐体3は、その球心3aの位置に、中心軸が線3c沿いとなるように、赤外線20を透過する円形平板状の第1出射部7を備えている。放射部2の放射面9を第1出射部7に向けた状態で、放射部2を筐体3の筐体空間3d内に配置している。第一出射部7は、CaF、BaF、MgF、又は、SiO等の紫外から10μm前後に至る赤外領域において、透過性の高い材料によって形成される。よって、放射部2から放射され第1出射部7に到達した赤外線20は、第1出射部7から前記線3cの延長線沿いに筐体3外へ射出され、被加熱物としてのワーク8に照射される。放射部2の第1出射部7側に面している表面は、詳細は後述するが、特定の波長領域の赤外線20を放射し、さらにその赤外線20の放射方向と放射面9とのなす角度αによって、放射される赤外線20の波長領域が変化する放射面9を有している。放射部2における放射面9以外の表面は、任意の材料で構成されているが、放射率の低い材料で構成されていることが望ましい。放射率の低い材料としては、Au、Ag、Cu、W、又は、Mo等の金属が用いられる。
放射部2は、赤外線20の放射方向と放射面9とのなす角度α、すなわち、第1出射部7の入射面7aに平行な面に対する赤外線20の放射面9の角度αを調整できるように角度調整部5が接続されている。角度調整部5を制御する角度調整制御部6によって、第1出射部7の入射面7aに平行な面に対して放射面9が平行なときの角度αを0°としたときに、例えば、-80°~80°の間の任意の角度に放射面9の角度αを調整することができる。放射面9の角度αが、80°~90°(ただし、80°は除く。)又は-80°~-90°(ただし、-80°は除く。)のとき、放射される赤外線20における波長領域の変化が、数%以下と小さい。このため、放射面9の角度αが-80°~80°までの範囲であれば、放射面9の角度における波長領域の変化特性を十分に活用することができる。
角度調整部5の一例としては、2本のSUS製のロッドが用いられる。放射部2の裏面において、放射部2の中点を通る、放射部2の回転軸に垂直な線上における放射部2の両端部の位置に、放射面9に対してロッドが垂直になるように、2本のロッドの端部をそれぞれ取り付ける。角度αを変化させるときは、2本のロッドのうちの一方のロッドを出射部7方向に、他方のロッドを出射部7と反対側の方向に、同時に等距離だけ動かすことにより、角度αを任意に調整することができる。
角度調整制御部6の一例としては、放射部2と同じ大きさのプレートを、放射部2と平行になるように、2本のロッド(角度調整部5)の放射部2と反対側の端部にそれぞれ取り付ける。そして、プレートの角度を、角度αと同じ回転方向に変更できるように、プレートに回転機構を設ける。放射部2とプレートとは、2本のロッドである角度調整部5で接続されているため、プレートの角度を任意に調整することで、放射部2の角度αも同じように調整することができる。
放射部2の直径の長さは、角度調整部5によって放射部2の角度αを変化させたときに、筐体3と干渉しない長さに設定される。第1出射部7の直径の長さは、放射部2を第1出射部7の入射面7aに平行な面に対して、角度αの絶対値が最大となる角度だけ傾けたとき、すなわち、本第1実施形態では±80°傾けたときの第1出射部7の入射面7aに平行な面に対する射影となる楕円の短径の長さ以下に設定される。
【0016】
本第1実施形態では、一例として放射部2と第1出射部7とのそれぞれの形状は円形状にしているが、正方形状、又は直方形状でも構わない。そのときの放射部2の各辺の長さは、角度調整部5によって放射部2の角度αを変化させたときに、筐体3と干渉しない長さに設定される。第1出射部7の各辺の長さは、円形状のときと同様に、放射部2を第1出射部7の入射面7aに平行な面に対して、角度αの絶対値が最大となる角度だけ傾けたとき、すなわち、本第1実施形態では±80°傾けたときの第1出射部7の入射面7aに平行な面に対する射影部分のそれぞれに対応する辺の長さ以下に設定される。
【0017】
なお、角度調整部5により、放射部2を調整できる最大の角度αは、放射面9から放射される赤外線20の特性又は放射部2の大きさ等を鑑みて設定される。
【0018】
ここで、特定の波長領域の赤外線20を放射する放射部2の詳細について記述する。一般的な赤外線放射体から放射される赤外線20の波長分布は、プランクの法則に従い、絶対温度によって一意的に決まる完全黒体の熱輻射スペクトルと、金属又は誘電体などで構成される赤外線放射体の発熱部の材料が持つ固有の放射率スペクトルとの積によって決まる。完全黒体の熱輻射スペクトルはブロードな波長分布を示し、材料が持つ放射率スペクトルも、材料によっては特定の波長に偏りのある分布を示すものの、特定の材料を構成する分子が持つ官能基の吸収波長と同程度の狭帯域なピークを持つような波長分布の赤外線を放射することは難しかった。しかし、近年、発熱部の表面構造を微細加工し、放射率スペクトルを制御する研究が盛んに行われている。放射率制御に用いられている構造としては、金属と誘電体との2層の薄膜層の上に金属の孔又は突起を2次元平面状に周期的に配列した構造、又は、金属層の上に屈折率の異なる2種類の誘電体を交互に積層した積層構造などがある。このように、赤外線放射体の発熱部の表面の微細構造を設計することによって、任意の波長において狭帯域にピークを持つ波長分布の赤外線20を放射することが可能となる。
【0019】
さらに、上記のような特定の波長領域の赤外線20を放射するように、表面に微細構造を施した放射面9における放射角度αによって、放射する赤外線20の波長領域が変化する特性を有する微細構造がある。
【0020】
図2Aは、金属層の上に2種類の誘電体を交互に複数層積層したある多層構造体について、多層構造体の放射面9に垂直な方向から10°傾いた方向に放射される赤外線をシミュレーションで解析した、
放射率スペクトルのグラフである。波長3.3μm付近に高い放射率を示すピークがあり、特定の波長領域の赤外線を放射する特性を示していることがわかる。多層構造体の金属層としては、Au、Ag,Cu,W,又は、Mo等の金属によって形成され、膜厚は100~500nm程度に設定される。多層構造体の2種類の誘電体としては、Si,Ge、SiO,TiO、Al、HfO、又は、SiC等から選択され、それぞれの膜厚は、100nm程度から数μmの間に設定される。
【0021】
また、図2Bは、同じ多層構造体において、横軸を放射される赤外線の波長、縦軸を赤外線の放射角度α、赤外線の放射率を明暗で表したコンター図である。
【0022】
図2Bを見てわかる通り、放射面9に対する放射角度αが0°から90°まで変化するにつれて、放射面9から出射部7の方向へ放射する赤外線20の波長領域である、図2Aで示されている放射率のピークの位置が長波長側から短波長側に推移している。
このように、放射角度αによって赤外線の波長領域が変化する放射面9を有する放射部2において、第1出射部7の入射面7aの平面に対する放射面9の角度αを角度調整部5で調整することで、任意の波長領域の赤外線20を第1出射部7から射出することができる。
【0023】
放射部2から放射され、第1出射部7から射出されず、反射層4で反射された赤外線は、筐体3内で多重反射し、放射部2に再び吸収されることで、筐体3内に一定程度閉じ込めることができるため、赤外線の利用効率を向上することができる。
【0024】
前記第1実施形態によれば、放射部2の放射面9の角度αを角度調整制御部6の制御の下に角度調整部5で調整することで、複数の材料の吸収波長領域に対応できるため、吸収波長領域が異なる材料に対応するための赤外線放射装置の製作コストと加熱設備への付け替えの作業者の負担とを削減することができる。
図3は、本発明の第2実施形態における赤外線放射装置1の構成図である。
【0025】
第2実施形態では、第1実施形態の赤外線放射装置1に対して、内壁面が鏡面などの反射層12で構成され、半球状の筐体3の平面3eに対して、面対称に配置されている半球状の反射部材11をさらに備えている。
【0026】
反射部材11は、線3cの延長線上の第1出射部7に対向する位置に、筐体3の第1出射部7の入射面7aと平行な入射面13aを有しかつ赤外線を通過させる第2出射部13を有している。放射部2から放射され、第1出射部7を通過し、第2出射部13に到達した赤外線を、第2出射部13を透過して反射部材11外へ射出する。第2出射部13は、出射部7を通過した赤外線を透過する材料で構成されているか、又は、入射面としての入射口を持ちかつ貫通して開口している。
【0027】
第2実施形態によれば、第1実施形態の作用効果に加えて、以下の作用効果を奏することができる。すなわち、放射部2の放射面9から放射され、第1出射部7を通過した赤外線の一部は、第2出射部13に到達し、第2出射部13から射出されワーク8に照射される。第1出射部7の線3c沿いではなく、線3cに対して傾斜して入り、第1出射部7を通過したが第2出射部13の方向に向かわない赤外線は、反射部材11の反射層12で反射され、反射部材11内あるいは筐体3内で多重反射し、一部を放射部2で吸収させることで、一定程度閉じ込めることができる。このように、放射面9と第1出射部7と第2出射部13とを結んだ方向に沿う角度で放射された赤外線を、第2出射部13の下方に局所的に照射することができる。
【0028】
なお、前記様々な実施形態又は変形例のうちの任意の実施形態又は変形例を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。また、実施形態同士の組み合わせ又は実施例同士の組み合わせ又は実施形態と実施例との組み合わせが可能であると共に、異なる実施形態又は実施例の中の特徴同士の組み合わせも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の前記態様にかかる赤外線放射装置は、様々な吸収波長領域を有する材料に合わせた波長の赤外線を放射して被加熱物を加熱できるため、低コスト且つ高効率で所望の熱処理を実施できる。そのため、本発明の前記態様にかかる赤外線放射装置は、高効率な加熱装置として、工業製品又は家電製品の製造工程又は各種電子部品の製造工程における乾燥炉、焼成炉、キュア炉、又はリフロー炉などの各種熱処理を行う熱処理装置に適用できる。
【符号の説明】
【0030】
1 赤外線放射装置
2 放射部
3 筐体
3a 球心
3b 頂点
3c 球心と頂点とを結ぶ線
3d 筐体空間
3e 平面
4 反射層
5 角度調整部
6 角度調整制御部
7 第1出射部
7a 入射面
8 ワーク
9 放射面
10 出力制御部
11 反射部材
12 反射層
13 第2出射部
13a 入射面
20 赤外線
101 赤外線放射装置
102 放射部
103 反射層
104 外管
105 出射部
105a 入射面
105b 出射面
α 出射部の入射面に対する放射面のなす角度
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3
図4