IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スパイバー株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-改変フィブロイン架橋体を製造する方法 図1
  • 特許-改変フィブロイン架橋体を製造する方法 図2
  • 特許-改変フィブロイン架橋体を製造する方法 図3
  • 特許-改変フィブロイン架橋体を製造する方法 図4
  • 特許-改変フィブロイン架橋体を製造する方法 図5
  • 特許-改変フィブロイン架橋体を製造する方法 図6
  • 特許-改変フィブロイン架橋体を製造する方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】改変フィブロイン架橋体を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/113 20060101AFI20241018BHJP
   C07K 14/435 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
C07K1/113 ZNA
C07K14/435
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019225765
(22)【出願日】2019-12-13
(65)【公開番号】P2021095346
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】508113022
【氏名又は名称】Spiber株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100211100
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】坂田 一樹
(72)【発明者】
【氏名】佐野 明子
(72)【発明者】
【氏名】白川 誠司
(72)【発明者】
【氏名】シャファート オリバー セイエッド
(72)【発明者】
【氏名】クダシェワ アリナ
(72)【発明者】
【氏名】北原 奈緒
【審査官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/194224(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/022163(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/194249(WO,A1)
【文献】特表2008-530540(JP,A)
【文献】特開2012-219100(JP,A)
【文献】Prion,2008年,2:4,pp.145-153
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-1/36
C07K 14/00-14/825
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
改変フィブロインが分子間で架橋された改変フィブロイン架橋体を製造する方法であって、
前記改変フィブロインに光を照射して、酸化反応によりジスルフィド結合を形成させることで、前記改変フィブロイン架橋体を得る架橋工程を備え、
前記改変フィブロインは、そのアミノ酸配列が天然由来のフィブロインのアミノ酸配列とは異なるフィブロインであり、
前記改変フィブロインがシステイン残基を有し、
前記改変フィブロインのシステイン残基の総数が1以上6以下であり、
前記改変フィブロインが、式1:[(A) モチーフ-REP] 、又は式2:[(A) モチーフ-REP] -(A) モチーフで表されるドメイン配列を含む、方法。
[式1及び式2中、(A) モチーフは4~27アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A) モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が80%以上である。REPは10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは10~300の整数を示す。複数存在する(A) モチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]
【請求項2】
前記架橋工程が、前記改変フィブロインに、光増感剤の存在下で、光を照射することにより行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記光増感剤がケトン類である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記架橋工程が、前記改変フィブロインと、該改変フィブロインを溶解させる溶媒とを含む改変フィブロイン溶液に光を照射することにより行われる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記溶媒が、ジメチルスルホキシド又はヘキサフルオロ-2-プロパノールである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記改変フィブロインの分子量が90kDa以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記改変フィブロインが、改変クモ糸フィブロインである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
記ドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、前記ドメイン配列のN末端及び/又はC末端の近傍に位置するREP中に、システイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法
【請求項9】
記ドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中に1以上6以下のシステイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法
【請求項10】
前記改変フィブロインが、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にヒスチジンタグ配列を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記光の波長が315~400nmである、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記架橋工程において、前記光を15分間以上照射する、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改変フィブロイン架橋体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質の耐久性、物性向上等を目的として、タンパク質を分子架橋する方法が広く知られている。具体的には、例えば、糖類等の所定の架橋剤を用いてタンパク質を架橋する方法についての報告がある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】特開第2018-150364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、改変フィブロインには、架橋反応の進行を妨げる複数の構造的要因がある。例えば、改変フィブロインは分子が規則正しく並んだ結晶性の部分と、不規則な構造の非結晶性部分が内在しており、複雑な高次構造を形成している。加えて、改変フィブロインは、イオン結合、静電結合、水素結合等の相互作用に関連する領域を比較的多く持つため、分子が結束する力が比較的強くなっている。これらの構造的要因から、改変フィブロインを分子間で架橋する反応を制御することは困難であった。
【0005】
改変フィブロインの架橋反応では、反応が制御できなくなると、制御の効かない架橋が繰り返されて、溶媒不溶性のゲル状物質が生成する場合があり、結果として、目的とする改変フィブロインの架橋体を効率良く得ることが困難であった。
【0006】
本発明の目的は、ゲル化等の副反応を抑制しながら、改変フィブロインが分子間で架橋された架橋体を効率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、例えば、以下の各発明に関する。
[1]
システイン残基を有する改変フィブロインが分子間で架橋された改変フィブロイン架橋体を製造する方法であって、
前記改変フィブロインに光を照射して、酸化反応によりジスルフィド結合を形成させることで、前記改変フィブロイン架橋体を得る架橋工程を備える、方法。
[2]
前記架橋工程が、前記改変フィブロインに、光増感剤の存在下で、光を照射することにより行われる、[1]に記載の方法。
[3]
前記光増感剤がケトン類である、[2]に記載の方法。
[4]
前記架橋工程が、前記改変フィブロインと、該改変フィブロインを溶解させる溶媒とを含む改変フィブロイン溶液に光を照射することにより行われる、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]
前記溶媒が、ジメチルスルホキシド又はヘキサフルオロ-2-プロパノールである、[4]に記載の方法。
[6]
前記改変フィブロインの分子量が90kDa以上である、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]
前記改変フィブロインが、改変クモ糸フィブロインである、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]
前記改変フィブロインが、式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含み、
前記ドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、前記ドメイン配列のN末端及び/又はC末端の近傍に位置するREP中に、システイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有する、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[式1及び式2中、(A)モチーフは4~27アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が80%以上である。REPは10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは10~300の整数を示す。複数存在する(A)モチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]
[9]
前記改変フィブロインが、式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含み、
前記ドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中に1以上16未満のシステイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有する、[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
[式1及び式2中、(A)モチーフは4~27アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が80%以上である。REPは10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは10~300の整数を示す。複数存在する(A)モチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]
[10]
前記改変フィブロインが、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にヒスチジンタグ配列を含む、[1]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11]
前記光の波長が315~400nmである、[1]~[10]のいずれかに記載の方法。
[12]
前記接触時間が15分間以上であることを特徴とする[1]~[11]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ゲル化等の副反応を抑制しながら、改変フィブロインが分子間で架橋された架橋体を効率よく製造する方法を提供することができる。本発明の製造方法によれば、例えば、ヒスチジン残基等の他のアミノ酸残基を含む改変フィブロインであっても、システイン残基同士を選択的に反応させることが可能である。したがって、本発明の製造方法は、ヒスチジンタグを含む改変フィブロインの架橋に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】フィブロインのドメイン配列の一例を示す模式図である。
図2】試験例1におけるGPCによる分子量の測定結果を示すグラフである。
図3】試験例1におけるSDS-PAGEによる分子量の測定結果を示すグラフである。
図4】試験例2におけるGPCによる分子量の測定結果を示すグラフである。
図5】試験例2におけるSDS-PAGEによる分子量の測定結果を示すグラフである。
図6】試験例3におけるGPCによる分子量の測定結果を示すグラフである。
図7】試験例4におけるGPCによる分子量の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
〔改変フィブロイン架橋体の製造方法〕
本実施形態に係る製造方法は、システイン残基を有する改変フィブロインに光を照射して、酸化反応によりジスルフィド結合を形成させることで、改変フィブロイン架橋体を得る架橋工程を備える。改変フィブロイン架橋体は、システイン残基を有する改変フィブロインが分子間で架橋されたものである。架橋工程において照射された光によって、システイン残基のチオール基(-SH基)が活性化され、活性化された-SH基がジスルフィド結合を形成することによって、システイン残基を有する改変フィブロイン同士を架橋して、改変フィブロイン架橋体が生成する。
【0012】
本実施形態に係る製造方法によれば、システイン残基と、光反応に関与し得る性質をもつアミノ酸残基(例えば、ヒスチジン残基、チロシン残基)とを含む改変フィブロインにおいても、システイン残基を選択的に反応させることができる。そのため、システイン残基を反応ターゲットとした選択的な反応が可能となり。結果として改変フィブロイン架橋体を効率よく得ることができる。
【0013】
グルタルアルデヒド、イソシアネート、カルボジイミド、N-ヒドロキシスクシンイミド等の架橋剤を使用してタンパク質を架橋する方法では、反応後に、未反応の架橋剤を除去する操作を行う場合があるのに対し、本実施形態に係る製造方法では、光反応を利用するため、例えば、毒性の高い架橋剤を使用する必要がなく、より簡便に架橋体を得ることができるという利点も有する。更に、本実施形態に係る製造方法では、架橋反応の時間をより短縮することができるという利点も有する。
【0014】
<架橋工程>
架橋工程では、システイン残基を有する改変フィブロイン(システイン残基含有改変フィブロイン)に光を照射して、酸化反応によりジスルフィド結合を形成させることで、改変フィブロイン架橋体を得る。
【0015】
架橋工程は、架橋反応がより一層促進されやすくなる観点から、システイン残基含有改変フィブロインに、光増感剤の存在下で光を照射することにより行われてもよい。光増感剤を用いることにより、システイン残基におけるチオール基が特異的に活性され、反応をより選択的に進めやすくなる傾向がある。
【0016】
光増感剤は、一般的なものが使用可能であり、特に限定されない。光増感剤は、反応効率をより一層高める観点から、ケトン類であることが好ましい。ケトン類としては、ベンゾフェノン、アントラキノン、カンファキノン、4-(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、チオキサントン誘導体、置換ベンゾイル安息香酸、2,4-ジエチルオキサンテンー9-オン、アントラキノン含有カルボン酸、ブロモメチル―アントラキノン、アントラキノンスルホン酸、ジベンゾスベレノンが挙げられる。
【0017】
架橋工程において使用する光増感剤の量は、システイン残基含有改変フィブロイン100質量部に対して、0.05~20質量部であってよく、0.5~5質量部であってよい。
【0018】
架橋工程において、光を照射する時間(光反応時間)は、15分間以上であることが好ましく、30分間以上であることがより好ましく、例えば、1時間以上、5時間以上、10時間以上、15時間以上又は18時間以上であってもよい。光反応時間は、例えば、30時間以下、又は25時間以下であってよい。
【0019】
架橋工程において、照射する光の波長は特に制限されないが、紫外線領域である200~400nmであることが好ましく、315~400nmであることがより好ましい。
【0020】
架橋反応のスケールは特に制限されないが、工業的な製造の観点から、システイン残基含有改変フィブロインの量は、10mg以上であることが好ましく、100mg以上であることがより好ましく、500mg以上であることがさらに好ましい。
【0021】
架橋工程において、光を照射する際の温度は、特に限定されないが、例えば、25℃以上、40℃以上、又は80℃以上であってよく、25℃以下、10℃以下、又は0℃以下であってよい。
【0022】
システイン残基含有改変フィブロインに光を照射する方法としては、例えば、システイン残基含有改変フィブロインそのものを固体の状態で光を照射する方法、システイン残基含有改変フィブロインを溶解している溶媒とを含む改変フィブロイン溶液に光を照射する方法、システイン残基含有改変フィブロインを含むゲルに対して光を照射する方法が挙げられる。
【0023】
一実施形態に係る製造方法において、架橋工程は、例えば、システイン残基含有改変フィブロインと、該システイン残基含有改変フィブロインとを溶解している溶媒とを含む改変フィブロイン溶液に光を照射することにより行われてよい。一実施形態に係る製造方法は、架橋工程の前に、システイン残基含有改変フィブロインを溶媒に溶解して改変フィブロイン溶液を得る溶解工程を更に備えていてよい。
【0024】
改変フィブロイン溶液は、システイン残基含有改変フィブロインとこれを溶解している溶媒(溶解用溶媒)とを含んでいる。改変フィブロイン溶液は、不可避的な含有成分、例えば、タンパク質に含まれている夾雑物等を含むものであってもよい。改変フィブロイン溶液は、上述した光増感剤を更に含んでいてよい。改変フィブロイン溶液は、システイン残基含有改変フィブロインと、光増感剤と、これらを溶解している溶媒とを含むものであってもよい。
【0025】
溶媒としては、水、ヘキサフルオロイソプロパノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ギ酸等が挙げられる。反応後の精製がより容易になりやすい観点、システイン残基含有改変フィブロインを、変性剤を添加することなく、溶解することができ、望まない副反応をより抑制しやすい観点等から、溶媒は、ジメチルスルホキシド、ヘキサフルオロイソプロパノール又はこれらの組み合わせであることが好ましい。工業的な観点、改変フィブロインを溶解しやすい観点、及び沸点が低く、後述する回収工程における減圧乾燥がより容易になる観点から、溶媒はヘキサフルオロイソプロパノールであることが好ましい。
【0026】
溶媒に溶解させるシステイン残基含有改変フィブロインとしては、精製されたシステイン残基含有改変フィブロインを用いてもよく、目的とするシステイン残基含有改変フィブロインを発現した宿主細胞中のシステイン残基含有改変フィブロインを用いてもよい。精製されたシステイン残基含有改変フィブロインは、システイン残基含有改変フィブロインを発現した宿主細胞から精製されたシステイン残基含有改変フィブロインであってよい。宿主細胞中のシステイン残基含有改変フィブロインを目的とするシステイン残基含有改変フィブロインとして溶解させる場合、宿主細胞と溶媒とを接触させて、当該宿主細胞中のシステイン残基含有改変フィブロインを溶媒に溶解させる。宿主細胞は、目的とするシステイン残基含有改変フィブロインを発現したものであればよく、例えば、無傷の細胞であってもよく、破壊処理等の処理を行った後の細胞であってもよい。また、既に簡単な精製処理を行った細胞であってもよい。
【0027】
システイン残基含有改変フィブロインを発現した宿主細胞からシステイン残基含有改変フィブロインを精製する方法としては、特に限定されないが、例えば、公知の方法(例えば、特許第6077570号公報及び特許第6077569号公報に記載されている方法)を用いることができる。
【0028】
システイン残基含有改変フィブロインは、例えば、室温で溶解してもよいし、種々の加熱温度に保持して、システイン残基含有改変フィブロインを溶媒に溶解させてもよい。加熱温度の保持時間は、特に限定されないが、1分以上であってよく、工業的生産を考慮すると、1~120分が好ましく、5~60分がより好ましく、10~30分がさらに好ましい。加熱温度の保持時間は、例えば、システイン残基含有改変フィブロインが十分に溶解し、かつ夾雑物(目的とするシステイン残基含有改変フィブロイン以外のもの)の溶解が少ない条件で、適宜設定してよい。
【0029】
システイン残基含有改変フィブロインを発現した宿主細胞中のシステイン残基含有改変フィブロインを溶解する場合、溶媒の添加量は、宿主細胞の重量(g)に対する、溶媒(mL)の比(体積(mL)/重量(g))として、1~100倍であってよく、1~50倍であってよく、1~25倍であってよく、1~10倍であってよく、1~5倍であってよい。
【0030】
改変フィブロイン溶液におけるシステイン残基含有改変フィブロインの含有量は、例えば、改変フィブロイン溶液の全質量を基準として、5質量%以上35質量%以下、又は0.1質量%以上50質量%以下であってよい。
【0031】
改変フィブロイン架橋体の生成(システイン残基含有改変フィブロインの架橋)はGPCで確認することができる。システイン残基含有改変フィブロインを溶解させた溶液がカラム内を流れていくと、大きな分子は一定時間におけるカラム内での移動距離が短いために早い時間で溶出し、小さな分子はカラム内での移動距離が長くなるために、溶出される時間が遅くなる。上記のように、分子をそれらの大きさによりで分離することで架橋反応の進行を確かめることができる。
【0032】
システイン残基含有改変フィブロインの架橋はSDS-PAGEで確認することもできる。反応後に得られる反応混合物を分析すると、反応前のシステイン残基含有改変フィブロインの多量体に相当するバンドが確認できる。
【0033】
架橋工程では、改変フィブロイン架橋体を、その他の成分を含む反応混合物として得てもよい。当該反応混合物は、改変フィブロイン架橋体を含む各種成形体の原料としてそのまま用いてもよく、必要により、反応混合物から、その他の成分を分離(除去)してから、成形体の原料として用いてもよい。
【0034】
本実施形態に係る製造方法では、システイン残基を導入する位置、導入するシステイン残基の数等を制御することによって、ゲル化の抑制が容易であり、工業的な改変フィブロイン架橋体の製造に好適に用いることができる。
【0035】
<回収工程>
本実施形態に係る製造方法は、改変フィブロイン架橋体を回収する回収工程を更に備えていてよい。例えば、架橋工程において、改変フィブロイン架橋体が、その他の成分を含む反応混合物として得られる場合、回収工程は、反応混合物から、その他の成分(例えば、溶媒、光増感剤)を除去することを含んでいてよい。
【0036】
条件によっては濃縮等を行うことにより、アミノ酸残基(例えば、システイン残基以外のアミノ酸残基)が副反応(例えば、更なる架橋反応)を引き起こす場合があるため、反応混合物から、その他の成分(例えば、光増感剤、溶媒)の一部又は全部を分離することが望ましい。
【0037】
架橋工程が、改変フィブロイン溶液に光を照射することにより行われる場合、架橋工程後に、回収工程として、改変フィブロイン架橋体及び溶媒を含む反応混合物から、溶媒を除去してよい。
【0038】
反応混合物から溶媒を除去する方法としては、例えば、減圧乾燥等の方法により、溶媒を揮発させる方法が挙げられる。
【0039】
溶媒を除去する方法としては、例えば、改変フィブロイン架橋体及び溶媒等のその他の成分を含む反応混合物に、改変フィブロイン架橋体に対する貧溶媒を添加することにより、改変フィブロイン架橋体を沈殿させる方法が挙げられる。貧溶媒の種類は、改変フィブロイン架橋体を溶解しにくい性質があるものであってよく、改変フィブロイン架橋体の種類等に応じて適宜選択してよい。貧溶媒としては、例えば、ヘキサフルオロイソプロパノールを除くアルコール、ケトン、エステル、エーテル、ベンゼン、トルエン類が挙げられる。
【0040】
溶媒を除去する前に、必要に応じて、反応混合物から、不溶物を除去してもよい。反応混合物から、不溶物を除去する方法としては、遠心分離、ドラムフィルター、プレスフィルター等のフィルターろ過等、一般的な方法が挙げられる。フィルターろ過による場合、セライト、珪藻土等のろ過助剤及びプリコート剤等を併用することにより、反応混合物から不溶物をより効率的に除去することができる。
【0041】
改変フィブロイン架橋体は、必要により成形した後に、水等で洗浄することにより、その他の成分(例えば、光増感剤、溶媒)を除去してもよい。
【0042】
(改変フィブロイン)
本実施形態に係る改変フィブロインは、式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。改変フィブロインは、ドメイン配列のN末端側及びC末端側のいずれか一方又は両方に更にアミノ酸配列(N末端配列及びC末端配列)が付加されていてもよい。N末端配列及びC末端配列は、これに限定されるものではないが、典型的には、フィブロインに特徴的なアミノ酸モチーフの反復を有さない領域であり、100残基程度のアミノ酸からなる。
【0043】
本明細書において「改変フィブロイン」とは、そのアミノ酸配列が天然由来のフィブロインのアミノ酸配列とは異なるフィブロインを意味する。本明細書でいう「天然由来のフィブロイン」は、そのアミノ酸配列が自然に存在する昆虫又はクモ類等が産生するフィブロインと同一であるフィブロインを意味する。天然由来のフィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。
【0044】
天然由来のフィブロインとしては、例えば、昆虫又はクモ類が産生するフィブロインが挙げられる。
【0045】
昆虫が産生するフィブロインとしては、例えば、ボンビックス・モリ(Bombyx mori)、クワコ(Bombyx mandarina)、天蚕(Antheraea yamamai)、柞蚕(Anteraea pernyi)、楓蚕(Eriogyna pyretorum)、蓖蚕(Pilosamia Cynthia ricini)、樗蚕(Samia cynthia)、栗虫(Caligura japonica)、チュッサー蚕(Antheraea mylitta)、ムガ蚕(Antheraea assama)等のカイコが産生する絹タンパク質、スズメバチ(Vespa simillima xanthoptera)の幼虫が吐出するホーネットシルクタンパク質が挙げられる。
【0046】
昆虫が産生するフィブロインのより具体的な例としては、例えば、カイコ・フィブロインL鎖(GenBankアクセッション番号M76430(塩基配列)、AAA27840.1(アミノ酸配列))が挙げられる。
【0047】
クモ類が産生するフィブロインとしては、例えば、オニグモ、ニワオニグモ、アカオニグモ、アオオニグモ及びマメオニグモ等のオニグモ属(Araneus属)に属するクモ、ヤマシロオニグモ、イエオニグモ、ドヨウオニグモ及びサツマノミダマシ等のヒメオニグモ属(Neoscona属)に属するクモ、コオニグモモドキ等のコオニグモモドキ属(Pronus属)に属するクモ、トリノフンダマシ及びオオトリノフンダマシ等のトリノフンダマシ属(Cyrtarachne属)に属するクモ、トゲグモ及びチブサトゲグモ等のトゲグモ属(Gasteracantha属)に属するクモ、マメイタイセキグモ及びムツトゲイセキグモ等のイセキグモ属(Ordgarius属)に属するクモ、コガネグモ、コガタコガネグモ及びナガコガネグモ等のコガネグモ属(Argiope属)に属するクモ、キジロオヒキグモ等のオヒキグモ属(Arachnura属)に属するクモ、ハツリグモ等のハツリグモ属(Acusilas属)に属するクモ、スズミグモ、キヌアミグモ及びハラビロスズミグモ等のスズミグモ属(Cytophora属)に属するクモ、ゲホウグモ等のゲホウグモ属(Poltys属)に属するクモ、ゴミグモ、ヨツデゴミグモ、マルゴミグモ及びカラスゴミグモ等のゴミグモ属(Cyclosa属)に属するクモ、及びヤマトカナエグモ等のカナエグモ属(Chorizopes属)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質、並びにアシナガグモ、ヤサガタアシナガグモ、ハラビロアシダカグモ及びウロコアシナガグモ等のアシナガグモ属(Tetragnatha属)に属するクモ、オオシロカネグモ、チュウガタシロカネグモ及びコシロカネグモ等のシロカネグモ属(Leucauge属)に属するクモ、ジョロウグモ及びオオジョロウグモ等のジョロウグモ属(Nephila属)に属するクモ、キンヨウグモ等のアズミグモ属(Menosira属)に属するクモ、ヒメアシナガグモ等のヒメアシナガグモ属(Dyschiriognatha属)に属するクモ、クロゴケグモ、セアカゴケグモ、ハイイロゴケグモ及びジュウサンボシゴケグモ等のゴケグモ属(Latrodectus属)に属するクモ、及びユープロステノプス属(Euprosthenops属)に属するクモ等のアシナガグモ科(Tetragnathidae科)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質が挙げられる。スパイダーシルクタンパク質としては、例えば、MaSp(MaSp1及びMaSp2)、ADF(ADF3及びADF4)等の牽引糸タンパク質、MiSp(MiSp1及びMiSp2)等が挙げられる。
【0048】
クモ類が産生するフィブロインのより具体的な例としては、例えば、fibroin-3(adf-3)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47010(アミノ酸配列)、U47855(塩基配列))、fibroin-4(adf-4)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47011(アミノ酸配列)、U47856(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 1[Nephila clavipes由来](GenBankアクセッション番号AAC04504(アミノ酸配列)、U37520(塩基配列))、major angu11ate spidroin 1[Latrodectus hesperus由来](GenBankアクセッション番号ABR68856(アミノ酸配列)、EF595246(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 2[Nephila clavata由来](GenBankアクセッション番号AAL32472(アミノ酸配列)、AF441245(塩基配列))、major anpullate spidroin 1[Euprosthenops australis由来](GenBankアクセッション番号CAJ00428(アミノ酸配列)、AJ973155(塩基配列))、及びmajor ampullate spidroin 2[Euprosthenops australis](GenBankアクセッション番号CAM32249.1(アミノ酸配列)、AM490169(塩基配列))、minor ampullate silk protein 1[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14589.1(アミノ酸配列))、minor ampullate silk protein 2[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14591.1(アミノ酸配列))、minor ampullate spidroin-like protein[Nephilengys cruentata](GenBankアクセッション番号ABR37278.1(アミノ酸配列)等が挙げられる。
【0049】
天然由来のフィブロインのより具体的な例としては、更に、NCBI GenBankに配列情報が登録されているフィブロインを挙げることができる。例えば、NCBI GenBankに登録されている配列情報のうちDIVISIONとしてINVを含む配列の中から、DEFINITIONにspidroin、ampullate、fibroin、「silk及びpolypeptide」、又は「silk及びprotein」がキーワードとして記載されている配列、CDSから特定のproductの文字列、SOURCEからTISSUE TYPEに特定の文字列の記載された配列を抽出することにより確認することができる。
【0050】
「改変フィブロイン」は、本発明で特定されるアミノ酸配列を有するものであれば、天然由来のフィブロインに依拠してそのアミノ酸配列を改変したもの(例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列を改変することによりアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、また天然由来のフィブロインに依らず人工的にアミノ酸配列を設計したもの(例えば、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより所望のアミノ酸配列を有するもの)であってもよい。なお、改変フィブロインのアミノ酸配列を改変したものも、そのアミノ酸配列が天然由来のフィブロインのアミノ酸配列とは異なるものであれば、改変フィブロインに含まれる。
【0051】
本明細書において「ドメイン配列」とは、フィブロイン特有の結晶領域(典型的には、アミノ酸配列の(A)モチーフに相当する。)と非晶領域(典型的には、アミノ酸配列のREPに相当する。)を生じるアミノ酸配列であり、式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるアミノ酸配列を意味する。ここで、(A)モチーフは4~27アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が80%以上である。REPは10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは10~300の整数を示す。mは、20~300の整数であることが好ましく、30~300の整数であることがより好ましい。複数存在する(A)モチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。
【0052】
(A)モチーフは、(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が80%以上であればよいが、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。ドメイン配列中に複数存在する(A)モチーフは、少なくとも7つがアラニン残基のみで構成されることが好ましい。アラニン残基のみで構成されるとは、(A)モチーフが、(Ala)(Alaはアラニン残基を示し、kは4~27の整数、好ましくは4~20の整数、より好ましくは4~16の整数を示す。)で表されるアミノ酸配列を有することを意味する。
【0053】
REPは、10~200アミノ酸残基から構成される。REPを構成するアミノ酸残基の1以上が、グリシン残基、セリン残基、及びアラニン残基からなる群より選択されるアミノ酸残基であってよい。すなわち、REPは、グリシン残基、セリン残基、及びアラニン残基からなる群より選択されるアミノ酸残基を含んでいてよい。
【0054】
REPを構成するアミノ酸残基の1以上が、疎水性アミノ酸残基であってよい。すなわち、REPは、疎水性アミノ酸残基を含んでいることが好ましい。疎水性アミノ酸残基とは、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基を意味する。アミノ酸残基の疎水性指標(ハイドロパシー・インデックス、以下「HI」とも記す。)については、公知の指標公知の指標(Hydropathy index:Kyte J,&Doolittle R(1982)“A simple method for displaying the hydropathic character of a protein”,J.Mol.Biol.,157,pp.105-132)を使用する。疎水性アミノ酸残基としては、例えば、イソロイシン(HI:4.5)、バリン(HI:4.2)、ロイシン(HI:3.8)、フェニルアラニン(HI:2.8)、メチオニン(HI:1.9)、アラニン(HI:1.8)が挙げられる。
【0055】
本実施形態に係る改変フィブロインにおいて、ドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、REP中にシステイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有する。
【0056】
ドメイン配列は、REP中のグリシン残基、セリン残基、又はアラニン残基と隣り合う位置に、システイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有していることが好ましく、REP中のグリシン残基と隣り合う位置に、システイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有していることがより好ましい。この場合、システイン残基の側鎖の可動範囲が広いため、システイン残基の側鎖に存在するメルカプト基(-SH)が、分子内又は分子間でジスルフィド結合を形成しやすくなり、物性をより一層向上させることができる。REP中のシステイン残基は、グリシン残基、セリン残基、又はアラニン残基と、グリシン残基、セリン残基、又はアラニン残基との間に位置していてよく、セリン残基と、グリシン残基との間に位置していてよい。
【0057】
ドメイン配列は、REP中の疎水性アミノ酸残基と隣り合う位置に、システイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有していることが好ましい。この場合、分子間で疎水性アミノ酸残基同士が疎水的相互作用により固定されることで、システイン残基におけるメルカプト基(-SH)がジスルフィド結合を形成しやすくなり、物性をより一層向上させることができる。REP中のシステイン残基は、疎水性アミノ酸残基の隣に位置していてよく、疎水性アミノ酸残基と、疎水性アミノ酸残基以外のアミノ酸残基との間に、位置していてもよく、疎水性アミノ酸残基と、グリシン残基、セリン残基、又はアラニン残基との間に位置していてよく、疎水性アミノ酸残基と、グリシン残基との間に位置していてよい。疎水性アミノ酸残基は、イソロイシン残基、バリン残基、ロイシン残基、フェニルアラニン残基、メチオニン残基、及びアラニン残基からなる群より選択される1種であってよい。
【0058】
ドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、ドメイン配列のN末端及び/又はC末端の近傍に位置するREP中に、システイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有していてよい。この場合、分子鎖が長くなるため、物性向上が期待できる。本明細書において、ドメイン配列のN末端の近傍に位置するREPとは、ドメイン配列のN末端から1~3番目に位置するREPを意味する。例えば、システイン残基は、ドメイン配列のN末端から1~2番目に位置するREP中に位置していてよい。本明細書において、ドメイン配列のC末端の近傍に位置するREPとは、ドメイン配列のC末端から1~3番目に位置するREPを意味する。例えば、システイン残基は、ドメイン配列のC末端から1~2番目に位置するREP中に位置していてよい。システイン残基は、ドメイン配列の最もN末端側及び/又は最もC末端側に位置するREP中に位置していることが好ましい。
【0059】
ドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の中央又は中央近傍にシステイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有していてよい。本明細書において、REP中のアミノ酸配列の中央近傍とは、REPの中央に位置するアミノ酸残基(中央に位置するアミノ酸残基が2つ存在する場合はN末端側のアミノ酸残基)からN末端側に向かって1~5番目の位置、又はREPの中央に位置するアミノ酸残基(中央に位置するアミノ酸残基が2つ存在する場合はC末端側のアミノ酸残基)から1~5番目の位置を示す。例えば、システイン残基は、REPの中央に位置していてもよく、REPの中央に位置するアミノ酸残基からN末端側、又はC末端側に向かって1~3番目又は1~2番目に位置していてもよい。
【0060】
改変フィブロインは、REPのアミノ酸配列中に、GPGXXモチーフ(Gはグリシン残基、Pはプロリン残基、Xはグリシン残基以外のアミノ酸残基を示す。)を含むことが好ましい。REP中にこのモチーフが含まれることにより、改変フィブロインの伸度を向上させることができる。
【0061】
改変フィブロインが、REP中にGPGXXモチーフを含む場合、GPGXXモチーフ含有率は、特に制限されるものではないが、1%以上であってよく、3%以上、5%以上、10%以上、又は20%以上であってもよい。この場合、改変フィブロイン繊維の応力がより一層高くなる。GPGXXモチーフ含有率の上限に特に制限はなく、50%以下であってよく、30%以下であってもよい。
【0062】
本明細書において、「GPGXXモチーフ含有率」は、以下の方法により算出される値である。式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロインにおいて、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるGPGXXモチーフの個数の総数を3倍した数(即ち、GPGXXモチーフ中のG及びPの総数に相当)をcとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)モチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をdとしたときに、GPGXXモチーフ含有率はc/dとして算出される。
【0063】
GPGXXモチーフ含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としているのは、「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列」(REPに相当する配列)には、フィブロインに特徴的な配列と相関性の低い配列が含まれることがあり、mが小さい場合(つまり、ドメイン配列が短い場合)、GPGXXモチーフ含有率の算出結果に影響するので、この影響を排除するためである。なお、REPのC末端に「GPGXXモチーフ」が位置する場合、「XX」が例えば「AA」の場合であっても、「GPGXXモチーフ」として扱う。
【0064】
図1は、フィブロインのドメイン配列を示す模式図である。図1を参照しながらGPGXXモチーフ含有率の算出方法を具体的に説明する。まず、図1に示したフィブロインのドメイン配列(「[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフ」タイプである。)では、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(図1中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、cを算出するためのGPGXXモチーフの個数は7であり、cは7×3=21となる。同様に、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(図1中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、当該配列から更に(A)モチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数dは50+40+10+20+30=150である。次に、cをdで除すことによって、c/d(%)を算出することができ、図1のフィブロインの場合21/150=14.0%となる。
【0065】
改変フィブロインは、REPの疎水性度が、-0.8以上であることが好ましく、-0.7以上であることがより好ましく、0以上であることが更に好ましく、0.3以上であることが更により好ましく、0.4以上であることが特に好ましい。REPの疎水性度の上限に特に制限はなく、1.0以下であってよく、0.7以下であってもよい。
【0066】
本明細書において、「REPの疎水性度」は、以下の方法により算出される値である。式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロインにおいて、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(図1の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域の各アミノ酸残基の疎水性指標の総和をeとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)モチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をfとしたときに、REPの疎水性度はe/fとして算出される。REPの疎水性度の算出において、「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
【0067】
ドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、REP中に1以上16未満のシステイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有していてよい。これにより、システイン残基を介した反応がより一層制御しやすくなり、ゲル化を含む副反応の進行がより一層抑制されやすくなる。したがって、ゲル化を含む副反応を抑制するためにはREPに挿入したことに相当するシステイン残基の総数は、1以上16未満であることが好ましい。REP中に挿入したことに相当するシステイン残基の総数は、1以上12以下、1以上10以下、1以上8以下、1以上8未満、1以上6以下、1以上4未満、又は2以上4以下であってもよい。ドメイン配列中のREP一つあたりのシステイン残基数は、例えば、1~3であってよく、1~2であってよく、1であってよい。
【0068】
本実施形態に係る改変フィブロインのシステイン残基の総数は、1以上16未満、1以上12以下、1以上10以下、1以上8以下、1以上6以下、又は2以上4以下であってもよい。
【0069】
本実施形態に係る改変フィブロインは、上述したREP中のシステイン残基に関する改変に加え、天然由来のフィブロインと比較して、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変が更にあってもよい。
【0070】
本実施形態に係る改変フィブロインの分子量は、特に限定されないが、例えば、10kDa以上700kDa以下であってよい。本実施形態に係る改変フィブロインの分子量は、例えば、10kDa以上、30kDa以上、60kDa以上、90kDa以上、150kDa以上、200kDa以上、300kDa以上、又は500kDa以上であってよく、600kDa以下、500kDa以下、400kDa以下、300kDa以下、又は200kDa以下であってよい。分子量が大きくなることで反応に必要とされるエネルギーが増加し活性化エネルギーが大きくなる、複数種類のアミノ酸のうち、特に活性化されたもののみが反応する状況を作ることが期待される。また、強度等機械的物性を得る面でも分子量の高い分子量のフィブロインを用いることがよく、90kDa以上、150kDa以上、200kDa以上、300kDa以上、又は500kDa以上が好ましい。
【0071】
改変フィブロインの分子量は、SDS-PAGEにより得られる測定値である。
【0072】
本実施形態に係る改変フィブロインのより具体的な例として、(i)配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、又は配列番号6で表されるアミノ酸配列を含む、改変フィブロイン、(ii)配列番号7、配列番号8、配列番号9、又は配列番号10で表されるアミノ酸配列を含む、改変フィブロイン、又は(iii)配列番号28で表されるアミノ酸配列を含む改変フィブロインを挙げるこができる。
【0073】
配列番号1で示されるアミノ酸配列(PRT1)は、配列番号11で示されるアミノ酸配列(PRT11)に対し、ドメイン配列の最もN末端側に位置するREPに、システイン残基を1カ所挿入したものである。
【0074】
配列番号2で示されるアミノ酸配列(PRT2)は、配列番号12で示されるアミノ酸配列(PRT12)に対し、ドメイン配列の最もN末端側に位置するREPに、システイン残基を1カ所挿入したものである。
【0075】
配列番号3で示されるアミノ酸配列(PRT3)は、配列番号12で示されるアミノ酸配列(PRT12)に対し、ドメイン配列の最もN末端側に位置するREP及び最もC末端側に位置するREPに、システイン残基をそれぞれ1カ所挿入したものである。
【0076】
配列番号4で示されるアミノ酸配列(PRT4)は、配列番号12で示されるアミノ酸配列(PRT12)に対し、ドメイン配列のN末端側及びC末端側それぞれから1番目及び2番目に位置するREP中に、それぞれ1カ所ずつシステイン残基が挿入されたものである。
【0077】
配列番号5で示されるアミノ酸配列(PRT5)は、配列番号12で示されるアミノ酸配列(PRT12)に対し、ドメイン配列のN末端側及びC末端側それぞれから1~4番目に位置するREP中に、それぞれ1カ所ずつシステイン残基が挿入されたものである。
【0078】
配列番号6で示されるアミノ酸配列(PRT6)は、配列番号12で示されるアミノ酸配列(PRT12)に対し、ドメイン配列のN末端側及びC末端側それぞれから1~8番目に位置するREP中に、それぞれ1カ所ずつシステイン残基が挿入されたものである。
【0079】
配列番号7で示されるアミノ酸配列(PRT7)は、配列番号13で示されるアミノ酸配列(PRT13)に対し、ドメイン配列の最もN末端側及び最もC末端側それぞれに位置するREPに、システイン残基を1カ所ずつ挿入したものである。
【0080】
配列番号8で示されるアミノ酸配列(PRT8)は、配列番号14で示されるアミノ酸配列(PRT14)に対し、ドメイン配列の最もN末端側及び最もC末端側それぞれに位置するREPに、システイン残基を1カ所ずつ挿入したものである。
【0081】
配列番号9で示されるアミノ酸配列(PRT9)は、配列番号14で示されるアミノ酸配列(PRT14)に対し、ドメイン配列のN末端側及びC末端側それぞれから1~4番目に位置するREP中に、それぞれ1カ所ずつシステイン残基が挿入されたものである。
【0082】
配列番号10で示されるアミノ酸配列(PRT10)は、配列番号14で示されるアミノ酸配列(PRT14)に対し、ドメイン配列のN末端側及びC末端側それぞれから1~8番目に位置するREP中に、それぞれ1カ所ずつシステイン残基が挿入されたものである。
【0083】
配列番号28で示されるアミノ酸配列(PRT28)は、配列番号30で示されるアミノ酸配列(PRT30)に対し、ドメイン配列の最もC末端側に位置するREPに、システイン残基を1カ所挿入したものである。
【0084】
(i)の改変フィブロインは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、又は配列番号6で示されるアミノ酸配列のみを有するものであってもよい。(ii)の改変フィブロインは、配列番号7、配列番号8、配列番号9、又は配列番号10で示されるアミノ酸配列のみを有するものであってもよい。(iii)の改変フィブロインは、配列番号28で示されるアミノ酸配列のみを有するものであってもよい。
【0085】
上述の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
【0086】
タグ配列として、例えば、他の分子との特異的親和性(結合性、アフィニティ)を利用したアフィニティタグを挙げることができる。アフィニティタグの具体例として、ヒスチジンタグ(Hisタグ)を挙げることができる。Hisタグは、ヒスチジン残基が4から10個程度並んだ短いペプチドで、ニッケル等の金属イオンと特異的に結合する性質があるため、金属キレートクロマトグラフィー(chelating metal chromatography)による改変フィブロインの単離に利用することができる。タグ配列の具体例として、例えば、配列番号25又は配列番号26で示されるアミノ酸配列(Hisタグを含むアミノ酸配列)が挙げられる。
【0087】
また、グルタチオンに特異的に結合するグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、マルトースに特異的に結合するマルトース結合タンパク質(MBP)等のタグ配列を利用することもできる。
【0088】
さらに、抗原抗体反応を利用した「エピトープタグ」を利用することもできる。抗原性を示すペプチド(エピトープ)をタグ配列として付加することにより、当該エピトープに対する抗体を結合させることができる。エピトープタグとして、HA(インフルエンザウイルスのヘマグルチニンのペプチド配列)タグ、mycタグ、FLAGタグ等を挙げることができる。エピトープタグを利用することにより、高い特異性で容易に改変フィブロインを精製することができる。
【0089】
さらにタグ配列を特定のプロテアーゼで切り離せるようにしたものも使用することができる。当該タグ配列を介して吸着したタンパク質をプロテアーゼ処理することにより、タグ配列を切り離した改変フィブロインを回収することもできる。
【0090】
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(iii)配列番号15(PRT15)、配列番号16(PRT16)、配列番号17(PRT17)、配列番号18(PRT18)、配列番号19(PRT19)、若しくは配列番号20(PRT20)で示されるアミノ酸配列を含む、改変フィブロイン、(iv)配列番号21(PRT21)、配列番号22(PRT22)、配列番号23(PRT23)、若しくは配列番号24(PRT24)で示されるアミノ酸配列を含む、改変フィブロイン、又は(v)配列番号29(PRT29)で示されるアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0091】
(iii)の改変フィブロインは、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、又は配列番号20で示されるアミノ酸配列のみを有するものであってもよい。
【0092】
配列番号15(PRT15)、配列番号16(PRT16)、配列番号17(PRT17)、配列番号18(PRT18)、配列番号19(PRT19)、又は配列番号20(PRT20)で示されるアミノ酸配列を含む、改変フィブロインのGPGXXモチーフ含有率は、それぞれ40.2%、39.9%、39.9%、39.7%、39.3%、及び38.6%であり、いずれも10%以上である。
【0093】
(iv)の改変フィブロインは、配列番号21、配列番号22、配列番号23、若しくは配列番号24で示されるアミノ酸配列のみを有するものであってもよい。
【0094】
配列番号21(PRT21)、配列番号22(PRT22)、配列番号23(PRT23)、又は配列番号24(PRT24)で示されるアミノ酸配列を含む、改変フィブロインのGPGXXモチーフ含有率は、それぞれ39.9%、39.9%、39.3%、及び38.6%であり、いずれも10%以上である。
【0095】
(iii)の改変フィブロインは、配列番号29(PRT29)で示されるアミノ酸配列のみを有するものであってよい。配列番号29(PRT29)で示されるアミノ酸配列を含む、改変フィブロインのGPGXXモチーフ含有率は、32である。
【0096】
上述の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0097】
〔核酸〕
一実施形態に係る核酸は、上記改変フィブロインをコードする。核酸の具体例として、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、又は配列番号28で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロイン、又はこれらのアミノ酸配列のN末端及びC末端のいずれか一方若しくは両方に配列番号25又は配列番号26で示されるアミノ酸配列(タグ配列)を結合させた改変フィブロイン等をコードする核酸が挙げられる。
【0098】
一実施形態に係る核酸は、上記改変フィブロインをコードする核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含む改変フィブロインをコードする核酸である。当該核酸によりコードされる改変フィブロインの上記ドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、REP中にシステイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有する。
【0099】
「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。「ストリンジェントな条件」は、低ストリンジェントな条件、中ストリンジェントな条件及び高ストリンジェントな条件のいずれでもよい。低ストリンジェントな条件とは、少なくとも85%以上の同一性が配列間に存在する時のみハイブリダイゼーションが起こることを意味し、例えば、0.5%SDSを含む5×SSCを用い、42℃でハイブリダイズする条件が挙げられる。中ストリンジェントな条件とは、少なくとも90%以上の同一性が配列間に存在する時のみハイブリダイゼーションが起こることを意味し、例えば、0.5%SDSを含む5×SSCを用い、50℃でハイブリダイズする条件が挙げられる。高ストリンジェントな条件とは、少なくとも95%以上の同一性が配列間に存在する時のみハイブリダイゼーションが起こることを意味し、例えば、0.5%SDSを含む5×SSCを用い、60℃でハイブリダイズする条件が挙げられる。
【0100】
〔宿主及び発現ベクター〕
一実施形態に係る発現ベクターは、上記核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する。調節配列は、宿主における組換えタンパク質の発現を制御する配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合配列、転写終結配列等)であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。発現ベクターの種類は、プラスミドベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、人工染色体ベクター等、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。
【0101】
一実施形態に係る宿主は、上記発現ベクターで形質転換されたものである。宿主として、原核生物、並びに酵母、糸状真菌、昆虫細胞、動物細胞及び植物細胞等の真核生物のいずれも好適に用いることができる。
【0102】
発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製が可能、又は宿主の染色体中への組込みが可能で、一実施形態に係る核酸を転写できる位置にプロモーターを含有しているものが好適に用いられる。
【0103】
細菌等の原核生物を宿主として用いる場合は、一実施形態に係る発現ベクターは、原核生物中で自立複製が可能であると同時に、プロモーター、リボソーム結合配列、一実施形態に係る核酸及び転写終結配列を含むベクターであることが好ましい。プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。
【0104】
原核生物としては、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属等に属する微生物を挙げることができる。
【0105】
エシェリヒア属に属する微生物として、例えば、エシェリヒア・コリ BL21(ノバジェン社)、エシェリヒア・コリ BL21(DE3)(ライフテクノロジーズ社)、エシェリヒア・コリ BLR(DE3)(メルクミリポア社)、エシェリヒア・コリ DH1、エシェリヒア・コリ GI698、エシェリヒア・コリ HB101、エシェリヒア・コリ JM109、エシェリヒア・コリ K5(ATCC 23506)、エシェリヒア・コリ KY3276、エシェリヒア・コリ MC1000、エシェリヒア・コリ MG1655(ATCC 47076)、エシェリヒア・コリ No.49、エシェリヒア・コリ Rosetta(DE3)(ノバジェン社)、エシェリヒア・コリ TB1、エシェリヒア・コリ Tuner(ノバジェン社)、エシェリヒア・コリ Tuner(DE3) (ノバジェン社)、エシェリヒア・コリ W1485、エシェリヒア・コリ W3110(ATCC 27325)、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli) XL1-Blue、エシェリヒア・コリ XL2-Blue等を挙げることができる。
【0106】
ブレビバチルス属に属する微生物として、例えば、ブレビバチルス・アグリ、ブレビバチルス・ボルステレンシス、ブレビバチルス・セントロポラスブレビバチルス・フォルモサス、ブレビバチルス・インボカツス、ブレビバチルス・ラチロスポラス、ブレビバチルス・リムノフィルス、ブレビバチルス・パラブレビス、ブレビバチルス・レウスゼリ、ブレビバチルス・サーモルバー、ブレビバチルス・ブレビス47(FERM BP-1223)、ブレビバチルス・ブレビス47K(FERM BP-2308)、ブレビバチルス・ブレビス47-5(FERM BP-1664)、ブレビバチルス・ブレビス47-5Q(JCM8975)、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31(FERM BP-1087)、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31-S(FERM BP-6623)、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31-OK(FERM BP-4573)、ブレビバチルス・チョウシネンシスSP3株(Takara社製)等を挙げることができる。
【0107】
セラチア属に属する微生物として、例えば、セラチア・リクエファシエンス(Serratia liquefacience)ATCC14460、セラチア・エントモフィラ(Serratia entomophila)、セラチア・フィカリア(Serratia ficaria)、セラチア・フォンティコーラ(Serratia fonticola)、セラチア・グリメシ(Serratia grimesii)、セラチア・プロテアマキュランス(Serratia proteamaculans)、セラチア・オドリフェラ(Serratia odorifera)、セラチア・プリムシカ(Serratia plymuthica)、セラチア・ルビダエ(Serratia rubidaea)等を挙げることができる。
【0108】
バチルス属に属する微生物として、例えば、バチルス・サチラス(Bacillus subtilis)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)等を挙げることができる。
【0109】
ミクロバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム ATCC15354等を挙げることができる。
【0110】
ブレビバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ブレビバクテリウム・ディバリカタム(コリネバクテリウム・グルタミカム)ATCC14020、ブレビバクテリウム・フラバム(コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14067)ATCC13826,ATCC14067、ブレビバクテリウム・インマリオフィラム(Brevibacterium immariophilum)ATCC14068、ブレビバクテリウム・ラクトフェルメンタム(コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869)ATCC13665,ATCC13869、ブレビバクテリウム・ロゼウムATCC13825、ブレビバクテリウム・サッカロリティカム(Brevibacterium saccharolyticum)ATCC14066、ブレビバクテリウム・チオゲニタリスATCC19240、ブレビバクテリウム・アルバムATCC15111、ブレビバクテリウム・セリヌムATCC15112等を挙げることができる。
【0111】
コリネバクテリウム属に属する微生物として、例えば、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)ATCC6871,ATCC6872、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ATCC13032、コリネバクテリウム・グルタミカム ATCC14067、コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム(Corynebacterium acetoacidophilum)ATCC13870、コリネバクテリウム・アセトグルタミカムATCC15806、コリネバクテリウム・アルカノリティカムATCC21511、コリネバクテリウム・カルナエATCC15991、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13020,ATCC13032,ATCC13060、コリネバクテリウム・リリウムATCC15990、コリネバクテリウム・メラセコーラATCC17965、コリネバクテリウム・サーモアミノゲネスAJ12340(FERMBP-1539)、コリネバクテリウム・ハーキュリスATCC13868等を挙げることができる。
【0112】
シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物として、例えば、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、シュードモナス・ブラシカセラム(Pseudomonas brassicacearum)、シュードモナス・フルバ(Pseudomonas fulva)、及びシュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)D-0110等を挙げることができる。
【0113】
上記宿主細胞への発現ベクターの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができる。例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,69,2110 (1972)〕、プロトプラスト法(特開昭63-248394号公報)、又はGene,17,107(1982)やMolecular & General Genetics,168,111(1979)に記載の方法等を挙げることができる。
【0114】
ブレビバチルス属に属する微生物の形質転換は、例えば、Takahashiらの方法(J.Bacteriol.,1983,156:1130-1134)や、Takagiらの方法(Agric.Biol.Chem.,1989,53:3099-3100)、又はOkamotoらの方法(Biosci.Biotechnol.Biochem.,1997,61:202-203)により実施することができる。
【0115】
一実施形態に係る核酸を導入するベクター(以下、単に「ベクター」という。)としては、例えば、pBTrp2、pBTac1、pBTac2(いずれもベーリンガーマンハイム社より市販)、pKK233-2(Pharmacia社製)、pSE280(Invitrogen社製)、pGEMEX-1(Promega社製)、pQE-8(QIAGEN社製)、pKYP10(特開昭58-110600号公報)、pKYP200〔Agric.Biol.Chem.,48,669(1984)〕、pLSA1〔Agric.Biol.Chem.,53,277(1989)〕、pGEL1〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,82,4306(1985)〕、pBluescript II SK(-)(Stratagene社製)、pTrs30〔Escherichiacoli JM109/pTrS30(FERM BP-5407)より調製〕、pTrs32〔Escherichia coli JM109/pTrS32(FERM BP-5408)より調製〕、pGHA2〔Escherichia coli IGHA2(FERM B-400)より調製、特開昭60-221091号公報〕、pGKA2〔Escherichia coli IGKA2(FERM BP-6798)より調製、特開昭60-221091号公報〕、pTerm2(US4686191、US4939094、US5160735)、pSupex、pUB110、pTP5、pC194、pEG400〔J.Bacteriol.,172,2392(1990)〕、pGEX(Pharmacia社製)、pETシステム(Novagen社製)等を挙げることができる。
【0116】
宿主としてEscherichia coliを用いる場合は、pUC18、pBluescriptII、pSupex、pET22b、pCold等を好適なベクターとして挙げることができる。
【0117】
ブレビバチルス属に属する微生物に好適なベクターの具体例として、枯草菌ベクターとして公知であるpUB110、又はpHY500(特開平2-31682号公報)、pNY700(特開平4-278091号公報)、pHY4831(J.Bacteriol.,1987,1239-1245)、pNU200(鵜高重三、日本農芸化学会誌1987,61:669-676)、pNU100(Appl.Microbiol.Biotechnol.,1989,30:75-80)、pNU211(J.Biochem.,1992,112:488-491)、pNU211R2L5(特開平7-170984号公報)、pNH301(Appl.Environ.Microbiol.,1992,58:525-531)、pNH326、pNH400(J.Bacteriol.,1995,177:745-749)、pHT210(特開平6-133782号公報)、pHT110R2L5(Appl.Microbiol.Biotechnol.,1994,42:358-363)、又は大腸菌とブレビバチルス属に属する微生物とのシャトルベクターであるpNCO2(特開2002-238569号公報)等を挙げることができる。
【0118】
プロモーターとしては、宿主細胞中で機能するものであれば制限されない。例えば、trpプロモーター(Ptrp)、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター、T7プロモーター等の大腸菌又はファージ等に由来するプロモーターを挙げることができる。またPtrpを2つ直列させたプロモーター(Ptrp×2)、tacプロモーター、lacT7プロモーター、let Iプロモーターのように人為的に設計改変されたプロモーター等も用いることができる。
【0119】
リボソーム結合配列であるシャイン-ダルガノ(Shine-Dalgarno)配列と開始コドンとの間を適当な距離(例えば6~18塩基)に調節したプラスミドを用いることが好ましい。発現ベクターにおいて、上記核酸の発現には転写終結配列は必ずしも必要ではないが、構造遺伝子の直下に転写終結配列を配置することが好ましい。
【0120】
真核生物の宿主としては、例えば、酵母、糸状真菌(カビ等)及び昆虫細胞を挙げることができる。
【0121】
酵母としては、例えば、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属、クリベロマイセス(Kluyveromyces)属、トリコスポロン(Trichosporon)属、シワニオミセス(Schwanniomyces)属、ピキア(Pichia)属、キャンディダ(Candida)属、ヤロウィア属及びハンゼヌラ属等に属する酵母を挙げることができる。より具体的には、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、クリベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、クリベロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、トリコスポロン・プルランス(Trichosporon pullulans)、シワニオマイセス・アルビウス(Schwanniomyces alluvius)、シワニオマイセス・オシデンタリス(Schwanniomyces occidentalis)、キャンディダ・ユーティリス(Candida utilis)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)ピキア・アングスタ(Pichia angusta)、ピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)、ピキア・ポリモルファ(Pichia polymorpha)、ピキア・スチピチス(Pichia stipitis)、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)等を挙げることができる。
【0122】
酵母を宿主細胞として用いる場合の発現ベクターは通常、複製起点(宿主における増幅が必要である場合)及び大腸菌中でのベクターの増殖のための選抜マーカー、酵母における組換えタンパク質発現のためのプロモーター及びターミネーター、並びに酵母のための選抜マーカーを含むことが好ましい。
【0123】
発現ベクターが非組込みベクターの場合、さらに自己複製配列(ARS)を含むことが好ましい。これにより細胞内における発現ベクターの安定性を向上させることができる(Myers、A.M.、et al.(1986)Gene 45:299-310)。
【0124】
酵母を宿主として用いる場合のベクターとしては、例えば、YEP13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)、YCp50(ATCC37419)、YIp、pHS19、pHS15、pA0804、pHIL3Ol、pHIL-S1、pPIC9K、pPICZα、pGAPZα、pPICZ B等を挙げることができる。
【0125】
プロモーターとしては、酵母中で発現できるものであれば制限されない。例えば、ヘキソースキナーゼ等の解糖系の遺伝子のプロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、gal 1プロモーター、gal 10プロモーター、ヒートショックポリペプチドプロモーター、MFα1 プロモーター、CUP 1プロモーター、pGAPプロモーター、pGCW14プロモーター、AOX1プロモーター、MOXプロモーター等を挙げることができる。
【0126】
酵母への発現ベクターの導入方法としては、酵母にDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、エレクトロポレーション法(Methods Enzymol.,194,182(1990))、スフェロプラスト法(Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,81,4889(1984))、酢酸リチウム法(J.Bacteriol.,153,163(1983))、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,75,1929(1978)記載の方法等を挙げることができる。
【0127】
糸状真菌としては、例えば、アクレモニウム(Acremonium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ウスチラーゴ(Ustilago)属、トリコデルマ(Trichoderma)属、ノイロスポラ(Neurospora)属、フザリウム(Fusarium)属、フミコーラ(Humicola)属、ペニシリウム(Penicillium)属、マイセリオフトラ(Myceliophtora)属、ボトリティス(Botryts)属、マグナポルサ(Magnaporthe)属、ムコア(Mucor)属、メタリチウム(Metarhizium)属、モナスカス(Monascus)属、リゾプス(Rhizopus)属、及びリゾムコア属に属する菌等を挙げることができる。
【0128】
糸状真菌の具体例として、アクレモニウム・アラバメンゼ(Acremonium alabamense)、アクレモニウム・セルロリティカス(Acremonium cellulolyticus)、アスペルギルス・アクレアツス(アキュレータス)(Aspergillus aculeatus)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・サケ(Aspergillus sake)、アスペルギルス・ゾジエ(ソーヤ)(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・テュビゲンシス(Aspergillus tubigensis)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・パラシチクス(Aspergillus parasiticus)、アスペルギルス・フィクム(フィキュウム)(Aspergillus ficuum)、アスペルギルス・フェニクス(Aspergillus phoeicus)、アスペルギルス・フォエチズス(フェチダス)(Aspergillus foetidus)、アスペルギルス・フラーブス(Aspergillus flavus)、アスペルギルス・フミガタス(Aspergillus fumigatus)、アスペルギルス・ヤポニクス(ジャポニカス)(Aspergillus japonicus)、トリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)、トリコデルマ・ハージアヌム(Trichoderma harzianum)、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reseei)、クリソスポリウム・ルクノエンス(Chrysosporium lucknowense)、サーモアスクス(Thermoascus)、スポロトリクム(Sporotrichum)、スポロトリクム・セルロフィルム(Sporotrichum cellulophilum)、タラロマイセス(Talaromyces)、チエラビア・テレストリス(Thielavia terrestris)、チラビア(Thielavia)、ノイロスポラ・クラザ(Neurospora crassa)、フザリウム・オキシスポーラス(Fusarium oxysporus)、フザリウム・グラミネルム(Fusarium graminearum)、フザリウム・ベネナツム(Fusarium venenatum)、フミコーラ・インソレンス(Humicola insolens)、ペニシリウム・クリゾゲナム(Penicillium chrysogenum)、ペニシリウム・カマンベルティ(Penicillium camemberti)、ペニシリウム・カネセンス(Penicillium canescens)、ペニシリウム・エメルソニ(Penicillium emersonii)、ペニシリウム・フニクロスム(Penicillium funiculosum)、ペニシリウム・グリゼオロゼウム(Penicillium griseoroseum)、ペニシリウム・パープロゲナム(Penicillium purpurogenum)、ペニシリウム・ロケフォルチ(Penicillium roqueforti)、マイセリオフトラ・サーモフィルム(Myceliophtaora thermophilum)、ムコア・アンビグス(Mucor ambiguus)、ムコア・シイルシネロイデェス(Mucor circinelloides)、ムコア・フラギリス(Mucor fragilis)、ムコア・ヘマリス(Mucor hiemalis)、ムコア・イナエクイスポラス(Mucor inaequisporus)、ムコア・オブロンジエリプティカス(Mucor oblongiellipticus)、ムコア・ラセモサス(Mucor racemosus)、ムコア・レクルバス(Mucor recurvus)、ムコア・サトゥルニナス(Mocor saturninus)、ムコア・サブティリススミウス(Mocor subtilissmus)、オガタエア・ポリモルファ(Ogataea polymorpha)、ファネロケーテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)、リゾムコア・ミーヘイ(Rhizomucor miehei)、リゾムコア・プシルス(Rhizomucor pusillus)、リゾプス・アルヒザス(Rhizopus arrhizus)等を挙げることができる。
【0129】
宿主が糸状真菌である場合のプロモーターとしては、解糖系に関する遺伝子、構成的発現に関する遺伝子、加水分解に関する酵素遺伝子等いずれであってもよく、具体的にはamyB、glaA、agdA、glaB、TEF1、xynF1tannasegene、No.8AN、gpdA、pgkA、enoA、melO、sodM、catA、catB等を挙げることができる。
【0130】
糸状真菌への発現ベクターの導入は、従来公知の方法を用いて行うことができる。例えば、Cohenらの方法(塩化カルシウム法)[Proc.Natl.Acad.Sci.USA,69:2110(1972)]、プロトプラスト法[Mol.Gen.Genet.,168:111(1979)]、コンピテント法[J.Mol.Biol.,56:209(1971)]、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0131】
昆虫細胞として、例えば、鱗翅類の昆虫細胞が挙げられ、より具体的には、Sf9、及びSf21等のスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)由来の昆虫細胞、並びに、High 5等のイラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)由来の昆虫細胞等が挙げられる。
【0132】
昆虫細胞を宿主として用いる場合のベクターとしては、例えば、夜盗蛾科昆虫に感染するウイルスであるアウトグラファ・カリフォルニカ・ヌクレアー・ポリヘドロシス・ウイルス(Autographa californica nuclear polyhedrosis virus)等のバキュロウイルス(Baculovirus Expression Vectors, A Laboratory Manual,W.H.Freeman and Company,New York(1992))を挙げることができる。
【0133】
昆虫細胞を宿主として用いる場合には、例えばカレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、Baculovirus Expression Vectors, A Laboratory Manual,W.H.Freeman and Company, New York(1992)、Bio/Technology,6,47(1988)等に記載された方法によって、ポリペプチドを発現することができる。すなわち、組換え遺伝子導入ベクター及びバキュロウイルスを昆虫細胞に共導入して昆虫細胞培養上清中に組換えウイルス(発現ベクター)を得た後、さらに組換えウイルスを昆虫細胞に感染させ、ポリペプチドを発現させることができる。該方法において用いられる遺伝子導入ベクターとしては、例えば、pVL1392、pVL1393、pBlueBacIII(ともにInvitorogen社製)等を挙げることができる。
【0134】
組換えウイルスを調製するための、昆虫細胞への組換え遺伝子導入ベクターとバキュロウイルスの共導入方法としては、例えば、リン酸カルシウム法(特開平2-227075号公報)、リポフェクション法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84,7413(1987))等を挙げることができる。
【0135】
一実施形態に係る組換えベクターは、形質転換体選択のための選択マーカー遺伝子をさらに含有していることが好ましい。例えば、大腸菌においては、選択マーカー遺伝子としては、テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン等の各種薬剤に対する耐性遺伝子を用いることができる。栄養要求性に関与する遺伝子変異を相補できる劣性の選択マーカーも使用できる。酵母においては、選択マーカー遺伝子として、ジェネティシンに対する耐性遺伝子を用いることができ、栄養要求性に関与する遺伝子変異を相補する遺伝子、LEU2、URA3、TRP1、HIS3等の選択マーカーも使用できる。糸状真菌においては、選択マーカー遺伝子として、niaD(Biosci.Biotechnol.Biochem.,59,1795-1797(1995))、argB(Enzyme Microbiol Technol,6,386-389,(1984)),sC(Gene,84,329-334,(1989))、ptrA(BiosciBiotechnol Biochem,64,1416-1421,(2000))、pyrG(BiochemBiophys Res Commun,112,284-289,(1983)),amdS(Gene,26,205-221,(1983))、オーレオバシジン耐性遺伝子(Mol Gen Genet,261,290-296,(1999))、ベノミル耐性遺伝子(Proc Natl Acad Sci USA,83,4869-4873,(1986))及びハイグロマイシン耐性遺伝子(Gene,57,21-26,(1987))からなる群より選ばれるマーカー遺伝子、ロイシン要求性相補遺伝子等が挙げられる。また、宿主が栄養要求性変異株の場合には、選択マーカー遺伝子として当該栄養要求性を相補する野生型遺伝子を用いることもできる。
【0136】
一実施形態に係る発現ベクターで形質転換された宿主の選択は、上記核酸に選択的に結合するプローブを用いたプラークハイブリダイゼーション及びコロニーハイブリダイゼーション等で行うことができる。当該プローブとしては、上記核酸の配列情報に基づき、PCR法によって増幅した部分DNA断片をラジオアイソトープ又はジゴキシゲニンで修飾したものを用いることができる。
【0137】
〔改変フィブロインの製造方法〕
本実施形態に係る改変フィブロインは、上記発現ベクターで形質転換された宿主により、上記核酸を発現させる工程を含む方法により、製造することができる。発現方法としては、直接発現のほか、モレキュラー・クローニング第2版に記載されている方法等に準じて、分泌生産、融合タンパク質発現等を行うことができる。酵母、動物細胞、昆虫細胞により発現させた場合には、糖又は糖鎖が付加されたポリペプチドとして改変フィブロインを得ることができる。
【0138】
本実施形態に係る改変フィブロインは、例えば、上記発現ベクターで形質転換された宿主を培養培地中で培養し、培養培地中に本実施形態に係る改変フィブロインを生成蓄積させ、該培養培地から採取することにより製造することができる。上記宿主を培養培地中で培養する方法は、宿主の培養に通常用いられる方法に従って行うことができる。
【0139】
上記宿主が、大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物である場合、上記宿主の培養培地として、該宿主が資化し得る炭素源、窒素源及び無機塩類等を含有し、該宿主の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0140】
炭素源としては、該宿主が資化し得るものであればよく、例えば、グルコース、フラクトース、スクロース、及びこれらを含有する糖蜜、デンプン及びデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、並びにエタノール及びプロパノール等のアルコール類を用いることができる。
【0141】
窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム及びリン酸アンモニウム等の無機酸又は有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、並びにペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕及び大豆粕加水分解物、各種発酵菌体及びその消化物を用いることができる。
【0142】
無機塩としては、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅及び炭酸カルシウムを用いることができる。
【0143】
大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物の培養は、例えば、振盪培養又は深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行うことができる。培養温度は、例えば、15~40℃である。培養時間は、通常16時間~7日間である。培養中の培養培地のpHは3.0~9.0に保持することが好ましい。培養培地のpHの調整は、無機酸、有機酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム及びアンモニア等を用いて行うことができる。
【0144】
また、培養中必要に応じて、アンピシリン及びテトラサイクリン等の抗生物質を培養培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
【0145】
昆虫細胞の培養培地としては、一般に使用されているTNM-FH培地(Pharmingen社製)、Sf-900 II SFM培地(Life Technologies社製)、ExCell400、ExCell405(いずれもJRH Biosciences社製)、Grace’s Insect Medium(Nature,195,788(1962))等を用いることができる。
【0146】
昆虫細胞の培養は、例えば、培養培地のpH6~7、培養温度25~30℃等の条件下で、培養時間1~5日間とすることができる。また、培養中必要に応じて、ゲンタマイシン等の抗生物質を培養培地に添加してもよい。
【0147】
宿主が植物細胞の場合、形質転換された植物細胞をそのまま培養してもよく、また植物の器官に分化させて培養することができる。該植物細胞を培養する培地としては、一般に使用されているムラシゲ・アンド・スクーグ(MS)培地、ホワイト(White)培地、又はこれらの培地にオーキシン、サイトカイニン等、植物ホルモンを添加した培地等を用いることができる。
【0148】
動物細胞の培養は、例えば、培養培地のpH5~9、培養温度20~40℃等の条件下で、培養時間3~60日間とすることができる。また、培養中必要に応じて、カナマイシン、ハイグロマイシン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0149】
上記発現ベクターで形質転換された宿主を用いて改変フィブロインを生産する方法としては、該改変フィブロインを宿主細胞内に生産させる方法、宿主細胞外に分泌させる方法、及び宿主細胞外膜上に生産させる方法がある。使用する宿主細胞、及び生産させる改変フィブロインの構造を変えることにより、これらの各方法を選択することができる。
【0150】
例えば、改変フィブロインが宿主細胞内又は宿主細胞外膜上に生産される場合、ポールソンらの方法(J.Biol.Chem.,264,17619(1989))、ロウらの方法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,86,8227(1989)、Genes Develop.,4,1288(1990))、又は特開平5-336963号公報、国際公開第94/23021号等に記載の方法を準用することにより、改変フィブロインを宿主細胞外に積極的に分泌させるように変更させることができる。すなわち、遺伝子組換えの手法を用いて、改変フィブロインの活性部位を含むポリペプチドにシグナルペプチドを付加した形で発現させることにより、改変フィブロインを宿主細胞外に積極的に分泌させることができる。
【0151】
上記発現ベクターで形質転換された宿主により生産された改変フィブロインは、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法で単離及び精製することができる。例えば、改変フィブロインが、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、宿主細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液にけん濁した後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー及びダイノミル等により宿主細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法、すなわち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)-セファロース、DIAION HPA-75(三菱化成社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(Pharmacia社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の方法を単独又は組み合わせて使用し、精製標品を得ることができる。
【0152】
上記クロマトグラフィーとしては、フェニル-トヨパール(東ソー)、DEAE-トヨパール(東ソー)、セファデックスG-150(ファルマシアバイオテク)を用いたカラムクロマトグラフィーが好ましく用いられる。
【0153】
また、改変フィブロインが細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に宿主細胞を回収後、破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分として改変フィブロインの不溶体を回収する。回収した改変フィブロインの不溶体は蛋白質変性剤で可溶化することができる。該操作の後、上記と同様の単離精製法により改変フィブロインの精製標品を得ることができる。
【0154】
改変フィブロイン、又は改変フィブロインに糖鎖の付加された誘導体が細胞外に分泌された場合には、培養上清から改変フィブロイン又はその誘導体を回収することができる。すなわち、培養物を遠心分離等の手法により処理することにより培養上清を取得し、該培養上清から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製標品を得ることができる。
【0155】
<改変フィブロイン架橋体の用途>
改変フィブロイン架橋体は、例えば、各種成形体の原料として用いることができる。改変フィブロイン架橋体を含む成形体は、例えば、改変フィブロイン架橋体を含むタンパク質溶液を成形する工程(成形工程)を含む方法によって製造することができる。当該成形体の形状としては、特に限定されないが、例えば、繊維、フィルム、モールド成形体、ゲル、多孔質体、パーティクル等を挙げることができる。
【0156】
タンパク質溶液は、例えば、改変フィブロイン架橋体を溶媒に溶解することによって得ることができる。溶媒としては、例えば、ギ酸、ジメチルスルホキシド、ヘキサフルオロ-2-プロパノール、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、水が挙げられる。タンパク質溶液は、例えば、改変フィブロイン架橋体及び溶媒以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、改変フィブロイン架橋体以外のタンパク質等が挙げられる。
【0157】
タンパク質溶液中の改変フィブロイン架橋体の含有量、及び、タンパク質溶液中のタンパク質の総含有量は、成形体の形状等に応じて、適宜調整されてよい。これらを調整する方法としては、特に限定されないが、例えば、タンパク質溶液の蒸留により溶媒を揮発させることにより、改変フィブロイン架橋体濃度又はタンパク質濃度を高める方法、溶解工程でタンパク質濃度の高いものを使用する方法、又は溶媒の添加量をタンパク質の量に対し、少なくする方法等が挙げられる。
【0158】
改変フィブロイン架橋体を含む成形体が繊維である場合、成形工程は、例えば、タンパク質溶液を紡糸することによって行われてよい。この場合のタンパク質溶液は、紡糸に適した粘度に調整されたものであってよい。紡糸に適した粘度は、一般に40℃で1000~50,000cP(センチポイズ)であってよい。粘度は、例えば京都電子工業社製の商品名“EMS粘度計”を使用して測定できる。
【0159】
改変フィブロイン架橋体を含む成形体が繊維である場合、必要により、タンパク質溶液中のタンパク質の総含有量(濃度)を、紡糸が可能な濃度及び粘度に調整してよい。タンパク質の総含有量、及び、タンパク質溶液の粘度を調整する方法は特に限定されない。また、紡糸方法としては、湿式紡糸等が挙げられる。紡糸に適した濃度及び粘度に調整されたタンパク質溶液をドープ液として、凝固液に付与すると、タンパク質が凝固する。この際、タンパク質溶液を糸状の液体として凝固液に付与することで、タンパク質が糸状に凝固し、糸(未延伸糸)が形成できる。未延伸糸の形成は、例えば特許第5584932号公報に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0160】
以下、湿式紡糸の例を示すが、紡糸の方法は特に限定されず、湿式紡糸、乾式紡糸、乾湿式紡糸等であってよい。
【0161】
湿式紡糸-延伸
(a)湿式紡糸
凝固液は、脱溶媒できる溶液であればよい。凝固液はメタノール、エタノール、2-プロパノール等の炭素数1~5の低級アルコール又はアセトンを使用するのが好ましい。凝固液は、水を含んでいてもよい。凝固液の温度は、紡糸の安定性の観点から、5~30℃が好ましい。
【0162】
タンパク質溶液を糸状の液体として付与する方法は、特に限定されないが、例えば紡糸用の口金から脱溶媒槽の凝固液に押し出す(吐出する)方法が挙げられる。タンパク質が凝固することにより未延伸糸が得られる。タンパク質溶液を凝固液に押し出す(吐出する)場合の押出し(吐出)速度は、口金の直径及びタンパク質溶液の粘度等に応じて適宜設定できるが、例えば、直径0.1~0.6mmのノズルを有するシリンジポンプの場合、紡糸の安定性の観点から、押し出し(吐出)速度は1ホール当たり、0.2~6.0mL/hであってよく、1ホール当たり、1.4~4.0mL/hであってよい。凝固液を入れる脱溶媒槽(凝固液槽)の長さは特に限定されないが、例えば長さは200~500mmであってよい。タンパク質の凝固により形成された未延伸糸の引き取り速度は例えば1~14m/分、滞留時間は例えば0.01~0.15分であってよい。未延伸糸の引き取り速度は、脱溶媒の効率の観点から、1~3m/分であってよい。タンパク質の凝固により形成された未延伸糸は、さらに凝固液において延伸(前延伸)をしてもよいが、凝固液に用いる低級アルコールの蒸発を抑える観点から、凝固液を低温に維持し、未延伸糸の状態で凝固液から引き取ってもよい。
【0163】
(b)延伸
上述する方法で得られた未延伸糸を、さらに延伸する工程を含むこともできる。延伸は一段延伸でもよいし、2段以上の多段延伸でもよい。多段で延伸すると、分子を多段で配向させ、トータル延伸倍率も高くすることができるため、タフネスの高い繊維の製造に適している。
【0164】
改変フィブロイン架橋体を用いて作製する成形体がフィルム(原料フィルム)である場合は、必要により、タンパク質溶液をフィルム化が可能な濃度及び粘度に調整してよい。タンパク質をフィルム化する方法としては、特に限定されないが、タンパク質溶液を溶媒に耐性のある平板に所定の厚さに塗布して、塗膜を形成させ、塗膜から溶媒を除去することで、所定の厚さのフィルムを得る方法等が挙げられる。
【0165】
所定の厚さのフィルムを形成する方法としては、例えばキャスト法が挙げられる。キャスト法によりフィルムを形成する場合には、平板に、タンパク質溶液をドクターコート、ナイフコーター等の冶具を用いて数ミクロン以上の厚さにキャストしてキャスト膜を形成し、その後減圧乾燥又は脱溶媒槽への浸漬により溶媒を脱離することにより原料フィルム(ポリペプチドフィルム)を得ることができる。原料フィルムの形成は、特許第5678283号公報に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0166】
改変フィブロイン架橋体質を用いて作製する成形体がモールド成形体(原料モールド成形体)である場合、原料モールド成形体を形成する方法は、特に限定されない。例えば、改変フィブロイン架橋体を含む乾燥タンパク質粉末を加圧成形機導入した後、ハンドプレス機等を用いて加圧及び加熱を行うことで、乾燥タンパク質粉末が、モールド成形に必要な温度に達し、原料モールド成形体を得ることができる。また、原料モールド成形体の形成は、特許文献(WO2017/047503号)に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0167】
改変フィブロイン架橋体を用いて作製する成形体がゲルである場合、ゲルを形成する方法は、特に限定されない。例えば、改変フィブロイン架橋体を溶解用溶媒に溶解させてタンパク質溶液を得る工程(溶解工程)と、得られたタンパク質溶液中の溶解溶媒を水溶性溶媒に置換する工程(置換工程)とを含む方法によって、改変フィブロイン架橋体を含むゲルを製造することができる。改変フィブロイン架橋体を含むゲルを製造する方法は、溶解工程と置換工程との間に、タンパク質溶液を所定の形状に保持する工程を含んでいてもよいし、置換工程後に、得られたゲルを所定の形状にカットする工程を含んでいてもよい。タンパク質溶液を所定の形状に保持する工程は、例えば、タンパク質溶液を所定の形状の型枠に流し込むことにより行うことができる。ゲルの形成は、例えば、特許第5782580号に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0168】
改変フィブロイン架橋体を用いて作製する成形体が多孔質体である場合、必要により、タンパク質溶液を多孔質化が可能な濃度及び粘度に調整してよい。多孔質体を形成する方法は、特に限定されない。例えば、多孔質化に好適な濃度及び粘度に調整されたタンパク質溶液に発泡剤を適量添加し、溶媒を除去することで原料多孔質体を得る方法、又は特許第5796147号に記載されている方法に準じて行うこと等が挙げられる。
【0169】
改変フィブロイン架橋体を用いて作製する成形体がパーティクルである場合、パーティクルを形成する方法は、特に限定されない。パーティクルは、例えば、上述したドープ液を用い、ドープ液中の溶媒を水溶性溶媒に置換することによりタンパク質の水溶液を得る工程と、タンパク質の水溶液を乾燥する工程とを含む方法によって得られる。水溶性溶媒は、水を含む溶媒をいい、例えば、水、水溶性緩衝液、生理食塩水等が挙げられる。水溶性溶媒に置換する工程は、ドープ液を透析膜内に入れ、水溶性溶媒中に浸漬し、水溶性溶媒を1回以上入れ替える方法により行われることが好ましい。具体的には、ドープ液を透析膜に入れ、ドープ液の100倍以上の量の水溶性溶媒(1回分)の中に3時間静置し、この水溶性溶媒入れ替えを計3回以上繰り返すことがより好ましい。透析膜は、タンパク質を透過しないものであればよく、例えばセルロース透析膜等であってよい。水溶性溶媒の置換を繰り返すことにより、ドープ液中に存在していた溶媒の量をゼロに近づけることができる。水溶性溶媒に置換する工程の後半では、透析膜は使用しなくてもよい。タンパク質の水溶液を乾燥する工程は、真空凍結乾燥を用いることが好ましい。真空凍結乾燥時の真空度は、好ましくは200パスカル(Pa)以下、より好ましくは150パスカル以下、更に好ましくは100パスカル以下である。凍結乾燥後のパーティクルにおける水分率は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下である。
【0170】
本実施形態に係る製造方法において、架橋反応を制御することにより、例えば、タンパク質の物性(例えば、タンパク質の耐久性)の程度をコントロールすることができる。
【実施例
【0171】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0172】
〔改変フィブロインの製造〕
(1)発現ベクターの作製
システイン残基を有する改変フィブロインとして、配列番号16で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(PRT16)、配列番号29で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(PRT29)、及び配列番号32で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(PRT32)を設計した。
【0173】
システイン残基を有しない改変フィブロインとして、配列番号27で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(PRT27)及び配列番号30で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(PRT30)を設計した。
【0174】
配列番号16で示されるアミノ酸配列(PRT16)は、配列番号27で示されるアミノ酸配列(PRT27)に対し、ドメイン配列のREP中に、システイン残基を1カ所挿入したものである。配列番号16で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロインのシステイン残基の総数は1である。配列番号16で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロインの分子量は100kDaである。
【0175】
配列番号29で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(PRT29)は、配列番号30で示されるアミノ酸配列(PRT30)に対し、ドメイン配列の最もC末端側に位置するREPに、システイン残基を1カ所挿入したものである。配列番号29で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロインのシステイン残基の総数は1である。配列番号29で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロインの分子量は300kDaである。
【0176】
配列番号32で示されるアミノ酸配列(PRT32)は、配列番号27で示されるアミノ酸配列(PRT27)に対し、ドメイン配列のREP中に、システイン残基を2カ所挿入したものである。配列番号32で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロインのシステイン残基の総数は2である。配列番号32で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロインの分子量は50kDaである。
【0177】
上述した各アミノ酸配列を有する改変フィブロインをコードする核酸を合成した。当該核酸には、5’末端にNdeIサイト、終止コドン下流にEcoRIサイトを付加した。この核酸をクローニングベクター(pUC118)にクローニングした。その後、同核酸をNdeI及びEcoRIで制限酵素処理して切り出した後、タンパク質発現ベクターpET-22b(+)に組換えて発現ベクターを得た。
【0178】
(2)タンパク質の製造
得られた発現ベクターで、大腸菌BLR(DE3)を形質転換した。当該形質転換大腸菌を、アンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養した。当該培養液を、アンピシリンを含む100mLのシード培養用培地(表1)にOD600が0.005となるように添加した。培養液温度を30℃に保ち、OD600が5になるまでフラスコ培養を行い(約15時間)、シード培養液を得た。
【表1】
【0179】
当該シード培養液を500mLの生産培地(表2)を添加したジャーファーメンターにOD600が0.05となるように添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにした。
【0180】
【表2】
【0181】
生産培地中のグルコースが完全に消費された直後に、フィード液(グルコース455g/1L、Yeast Extract 120g/1L)を1mL/分の速度で添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにし、20時間培養を行った。その後、1Mのイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を培養液に対して終濃度1mMになるよう添加し、改変フィブロインを発現誘導させた。IPTG添加後20時間経過した時点で、培養液を遠心分離し、菌体を回収した。IPTG添加前とIPTG添加後の培養液から調製した菌体を用いてSDS-PAGEを行い、IPTG添加に依存した目的とする改変フィブロインサイズのバンドの出現により、目的とする改変フィブロインの発現を確認した。
【0182】
(3)タンパク質の精製
IPTGを添加してから2時間後に回収した菌体を20mM Tris-HCl buffer(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の菌体を約1mMのPMSFを含む20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)に懸濁させ、高圧ホモジナイザー(GEA Niro Soavi社製)で細胞を破砕した。破砕した細胞を遠心分離し、沈殿物を得た。得られた沈殿物を、高純度になるまで20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の沈殿物を100mg/mLの濃度になるように8M グアニジン緩衝液(8M グアニジン塩酸塩、10mM リン酸二水素ナトリウム、20mM NaCl、1mM Tris-HCl、pH7.0)で懸濁し、60℃で30分間、スターラーで撹拌し、溶解させた。溶解後、透析チューブ(三光純薬株式会社製のセルロースチューブ36/32)を用いて水で透析を行った。透析後に得られた白色の凝集タンパク質を遠心分離により回収し、凍結乾燥機で水分を除き、凍結乾燥粉末を回収することにより、粉末状の改変フィブロイン(PRT16、PRT29、PRT27、及びPRT32)を得た。
【0183】
〔試験例1:改変フィブロイン架橋体の製造1〕
(システイン残基を有する改変フィブロインを用いた反応)
実施例1
システイン残基を有する改変フィブロイン(システイン残基がREP中に1つ入ったアミノ酸配列を有する改変フィブロイン)PRT16を20mg、ヘキサフルオロイソプロパノール(セントラル硝子株式会社製)を1mLガラス容器内に加え、改変フィブロインPRT16を、ヘキサフルオロイソプロパノールに溶解させて、改変フィブロイン溶液を調製した。室温(25℃)で撹拌しながら、改変フィブロイン溶液に、365nmの紫外線を20時間照射(SPECTROLINE社製、MODELEN-160l/J、100V)して反応を行った。溶媒の留去後、減圧乾燥を行うことにより、生成物を得た。これを実施例1の試料として後の分析に使用した。
【0184】
比較例1-1
システイン残基を有する改変フィブロイン(システイン残基がREP中に1つ入ったアミノ酸配列を有する改変フィブロイン)PRT16を比較例1-1の試料として後の分析に使用した。
【0185】
(システイン残基を有さない改変フィブロインを用いた反応)
比較例1-2
システイン残基を有さない改変フィブロインPRT27を20mg用いたこと以外は実施例1と同様にして反応を行った。溶媒の留去後、減圧乾燥を行うことにより、生成物を得た。これを比較例1-2の試料として後の分析に使用した。
【0186】
比較例1-3
システイン残基を有さない改変フィブロインPRT27を比較例1-3の試料として後の分析に使用した。
【0187】
(GPCによる生成物の分子量の確認)
GPC(Gel Permeation Chromatograph)による分子量の測定は、次に示す条件で行った。上記実施例及び比較例で得られた改変フィブロインの乾燥粉末を0.2w/v%となるように溶媒(2mM トリフルオロ酢酸ナトリウムを含むヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP))に溶解させた。得られた改変フィブロイン溶液を0.45μm孔径のテフロン(登録商標)フィルターで吸引ろ過し、GPCの試料とした。
【0188】
GPCによるサイズ排除クロマトグラフィー(Forte,ワイエムシィ社製)を用いて、試料の分子量分画を行った。条件は以下に示すとおりである。図2に測定結果を示す。
カラム;YMC-GPC T10M-40(ポリスチレンゲル,ワイエムシィ社製)
流速:10mL/分
キャリア:2mM トリフルオロ酢酸ナトリウムを含むHFIP
【0189】
GPC測定により、システイン残基を有する改変フィブロインに光を照射して得たサンプル(実施例1)は、光を照射しなかったサンプル(比較例1-1)と比べて、分子量が増大していることが確認された。一方、システイン残基を有さない改変フィブロインに光を照射して得たサンプル(比較例1-2)では、分子量の増大は確認されず、改変フィブロイン分子の分解が確認された(比較例1-2と、比較例1-3との対比)。
【0190】
(SDS-PAGEによる生成物の分子量の確認)
実施例及び比較例のサンプルについて、SDS-PAGEによる生成物の分子量の分析を行った。図3に結果を示す。図3中のレーン1は、標準品(STD)、レーン2は実施例1、レーン3は比較例1-1、レーン4は比較例1-2、レーン5は比較例1-3の結果を示す。
【0191】
システイン残基を有する改変フィブロインPRT16に、光を照射して得た生成物(実施例1)については、GPC及びSDS-PAGEによる分析の両方で、システイン残基における硫黄原子同士でのジスルフィド結合形成による分子量増大が確認された。
【0192】
一方、システイン残基を有さない改変フィブロインPRT27に、光を照射しても、分子量の増大は起こらなかった(比較例1-2と比較例1-3との比較)。このことから、改変フィブロインの光を用いた分子量増大反応においてはシステイン同士のジスルフィド結合形成が必要であることが明らかとなった。さらに、システインとタグ配列に含まれるヒスチジンが共存する状況でシステインを選択的に反応させられることから、本発明における反応は、産業的に利用可能性のあるタグ配列含有蛋白の架橋に適しているといえる。
【0193】
〔試験例2:光増感剤の存在下における架橋反応〕
配列番号16で表されるアミノ酸配列を有する改変フィブロインPRT16(システイン残基を有する改変フィブロイン)を20mg、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンを0.2mg、ヘキサフルオロイソプロパノール(セントラル硝子株式会社製)を1mLガラス容器内に入れ、改変フィブロイン及び2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンをヘキサフルオロイソプロパノールに溶解させて、改変フィブロイン溶液を得た。室温(25℃)で撹拌しながら、改変フィブロイン溶液に365nmの紫外線を所定の時間照射(SPECTROLINE社製、MODEL EN-160l/J、100V)して反応を行なった。溶媒の留去後、メタノールによる3回の洗浄(50mL×3、富士フィルム和光純薬株式会社製)を行い、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンを除去した。更に、減圧乾燥を行う事により、生成物を得た。紫外線を15分、30分、45分、60分及び90分照射して得られた試料をそれぞれ実施例2-1、実施例2-2、実施例2-3、実施例2-4及び実施例2-5として、後の分析に用いた。
【0194】
(GPCによる生成物の分子量の確認)
GPCによる生成物の分子量の確認は、実施例2-2、実施例2-3、実施例2-4、実施例2-5で得られた生成物を対象として、試験例1と同様の条件で実施した。図4に結果を示す。またPRT16を比較例2として用いた。
【0195】
光増感剤の存在下で、光を照射した場合には、光増感剤の存在しない条件と比べて目的の反応が効率よく生成することが確認できた。紫外線照射時間45分までは照射時間が長くなることで得られる架橋体が増加し、それ以降減少する傾向が見られた。
【0196】
〔SDS-PAGEによる生成物の分子量の確認〕
SDS-PAGEによる分子量の測定を、実施例2-1、実施例2-2、実施例2-3、実施例2-4、実施例2-5で得られた生成物を対象として、試験例1と同様の条件で、実施した。図5に結果を示す。またPRT16を比較例2として分析に用いた。図5中のレーン1は標準品(STD)、レーン2は実施例2-1(光照射時間:15分)、レーン3は実施例2-2(光照射時間:30分)、レーン4は実施例2-3(光照射時間:45分)、レーン5は実施例2-4(光照射時間:60分)、レーン6は実施例2-5(光照射時間:90分)、レーン7は比較例2(光照射なし)の結果を示す。
【0197】
SDS-PAGEによる分析でも、分子量の増大が確認された。実施例2-1の結果より、15分からでも架橋体が得られることがわかる。
【0198】
〔試験例3:改変フィブロイン架橋体の製造2〕
システイン残基を有する改変フィブロインPRT29を500mg、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンを5mg、ヘキサフルオロイソプロパノール(セントラル硝子株式会社製)を25mLガラス容器内に加え、改変フィブロイン及び2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンをヘキサフルオロイソプロパノールに溶解して、改変フィブロイン溶液を得た。室温(25℃)で撹拌しながら、改変フィブロイン溶液に365nmの紫外線を2時間照射(アズワン製、1-5479-03 ハンディー UVランプ 長波長336×82.3×65mm LUV16)して反応を行なった。溶媒の留去後、メタノールによる3回の洗浄(50mL×3、富士フィルム和光純薬株式会社製)を行い、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンを除去した。更に、減圧乾燥を行う事により、生成物を得た。得られた試料を実施例3の試料として後の分析に用いた。また、PRT29を比較例3の試料として後の分析に用いた。
【0199】
上記の結果は光増感剤によって反応性を向上させることで、例えばヒスチジンなど目的とする以外のアミノ酸架橋反応が起こり、選択性低下の可能性が見込まれるところ、逆にシステインの架橋反応の選択性が向上したことを示している。
【0200】
(GPCによる生成物の分子量の確認)
実施例1で用いた改変フィブロインPRT16と配列の異なり、かつ親水性が高い改変フィブロインPRT29を用い、また、スケールを大きくした条件においても目的の架橋体が得られた。結果を図6に示す。
【0201】
〔試験例4:改変フィブロイン架橋体の製造3〕
分子内にシステイン残基を2個有する改変フィブロインPRT32を20mg、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンを0.2mg、ヘキサフルオロイソプロパノール(セントラル硝子株式会社製)を1mLガラス容器内に加え、改変フィブロイン及び2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンをヘキサフルオロイソプロパノールに溶解させて、改変フィブロイン溶液を得た。室温(25℃)で撹拌しながら、改変フィブロイン溶液に365nmの紫外線を2時間照射(SPECTROLINE社製、MODEL EN-160l/J、100V)して反応を行なった。溶媒の留去後、減圧乾燥を行う事により、生成物を得た。得られた試料を実施例4として後の分析に用いた。
また、反応前のPRT32を比較例4の試料として分析に用いた。
【0202】
(GPCによる生成物の分子量の確認)
GPCによる生成物の分子量の確認は、試験例1と同様の条件で実施した。図7に結果を示す。
【0203】
1分子内に2つのシステインを有する分子を用いた当該反応においても、タンパク質内のシステインに含まれる硫黄原子同士の反応が進行し、分子量の増大したタンパク質が生成していることが確認できた。
【0204】
同一分子内に2つのシステインを有する分子を用いた当該反応においても、改変フィブロイン内のシステイン残基に含まれる硫黄原子同士の反応が進行し、分子量の増大した改変フィブロイン(改変フィブロイン架橋体)が生成していることが確認できた。
【0205】
〔試験例5:イソシアネートを用いた反応〕
システイン残基を有する改変フィブロイン(システイン残基がREP中に1つ入ったアミノ酸配列を有する改変フィブロイン)PRT16と、ヘキサメチレンジイソシアネートとを用い、これらを溶媒(ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP))存在下で、反応させた。これによりゲル状物質が生成した。
【0206】
(結果)
システイン残基を有する改変フィブロインPRT16に、光を照射した条件では、目的とする架橋体が生成し、単離できた。一方、イソシアネートを用いた条件では、ゲル状物質の形成が確認され、収率が大きく低下し、様々な種類の生成物の混合物ができ、単離が困難になることが確認された。また、GPCでの分析では目的とした架橋体のピークを確認することができなかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
0007573254000001.app