(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】アイアンゴルフクラブ
(51)【国際特許分類】
A63B 53/04 20150101AFI20241018BHJP
A63B 60/54 20150101ALI20241018BHJP
A63B 102/32 20150101ALN20241018BHJP
【FI】
A63B53/04 E
A63B60/54
A63B102:32
(21)【出願番号】P 2020169650
(22)【出願日】2020-10-07
【審査請求日】2023-10-02
(73)【特許権者】
【識別番号】591002382
【氏名又は名称】株式会社遠藤製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001759
【氏名又は名称】弁理士法人よつ葉国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100093687
【氏名又は名称】富崎 元成
(74)【代理人】
【氏名又は名称】町田 光信
(74)【代理人】
【識別番号】100168468
【氏名又は名称】富崎 曜
(72)【発明者】
【氏名】岡田 誠
(72)【発明者】
【氏名】笠原 信行
(72)【発明者】
【氏名】山田 翔
【審査官】渡辺 慶人
(56)【参考文献】
【文献】特許第4494927(JP,B2)
【文献】特開2016-055121(JP,A)
【文献】国際公開第99/036132(WO,A1)
【文献】特開2005-137794(JP,A)
【文献】特開2010-259801(JP,A)
【文献】特開2009-125379(JP,A)
【文献】特開2008-018008(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0045130(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0261540(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 49/00 - 60/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールが打撃されるフェース面(10F)を有するフェース部(10)と、
フェース背面(10B)側に凹部(27)が形成されたヘッド本体部(20)と、
前記
凹部(27)内に充填される振動防止材(30、30A、30B、30C)とを備えたアイアンゴルフクラブのヘッドにおいて、
前記振動防止材(30、30A、30B、30C)は、前記ヘッドの重心(CG)から前記凹部の壁面(26a)へ垂直に投影した重心投影点(CGP)を中心とし所定半径(R)を持った円の内部領域(A0)の外側に充填され
、
前記振動防止材(30、30A、30B、30C)の前記フェース部(10)のトウ部(21)側の充填高さ(Y1)は、前記重心投影点(CGP)の高さ(YCG)より高い
ことを特徴とするアイアンゴルフクラブ。
【請求項2】
請求項1に記載のアイアンゴルフクラブにおいて、
前記振動防止材(30、30A、30B、30C)は、前記円の内部領域(AO)に重複しないように前記フェース部(10)のトウ部(21)及びソール部(24)に沿って前記
凹部(27)内に充填されている
ことを特徴とするアイアンゴルフクラブ。
【請求項3】
請求項2に記載のアイアンゴルフクラブにおいて、
前記振動防止材(30、30A、30B、30C)の前記トウ部(21)側の充填高さ(Y1)は、前記ソール部(24)側の充填高さ(Y2)より高い
ことを特徴とするアイアンゴルフクラブ。
【請求項4】
請求項
3に記載のアイアンゴルフクラブにおいて、
前記振動防止材(30、30A、30B、30C)の前記ソール部(24)側の充填高さ(Y2)は、前記重心投影点(CGP)の高さ(YCG)から前記半径(R)を除いた高さ(YCG-R)より低い
ことを特徴とするアイアンゴルフクラブ。
【請求項5】
請求項1から
4の何れか1項に記載のアイアンゴルフクラブにおいて、
前記円の内部領域(A0)の前記半径(R)は、前記重心投影点(CGP)についての前記フェース面(10F)のリーディングエッジを基準としたときの重心高さ(YG)の25%から70%の範囲内の長さである
ことを特徴とするアイアンゴルフクラブ。
【請求項6】
請求項
1に記載のアイアンゴルフクラブにおいて、
前記振動防止材(30、30A、30B、30C)のショア硬度は、A25からA70の範囲内の硬度である
ことを特徴とするアイアンゴルフクラブ。
【請求項7】
請求項
1に記載のアイアンゴルフクラブにおいて、
前記振動防止材(30、30A、30B、30C)の材質は、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、又はシリル基含有特殊ポリマーである
ことを特徴とするアイアンゴルフクラブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイアンゴルフクラブに関する。更に詳しくはヘッドの反発係数を低下させずに打球音の改善を行うことが可能なアイアンゴルフクラブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ウッド、アイアンで飛距離を追及する場合、用具の技術的な面から言えば、反発係数(COR)を大きくする方法がある。反発係数を大きくする手段としては、ボールとのインパクトでフェース部を撓み易くすることである。フェース部を撓みやすくするための要素としては、フェース部の板厚を薄くする方法等が知られている。
【0003】
その薄肉化のために高強度、高硬度な材料がヘッドに用いられる。このような高強度、高硬度な材料から成るヘッドを備えたゴルフクラブにおいては、ボールを打撃する際に、打球音が高すぎて不快となる。この問題を解決する方法として、例えば、内部空洞を形成する金属製のフェースとヘッド本体とから成り、この内部空洞の空間には非金属の合成樹脂からなる吸振材、ゲル等を詰めたゴルフクラブのヘッドが公知である(例えば、特許文献1及び2を参照。)。
【0004】
また、キャビティバック構造のアイアンにおいて、フェースの裏面に、ゴム、樹脂等の振動吸振材を貼り付けたものが提案されている(例えば特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-39061号公報
【文献】特開2005-143761号公報
【文献】特開平9-322952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した打球音を改善する為には、打球音の振動を低減させる防振が最も効果的である。しかしながら、従来の上記防振方法は、ヘッドの反発係数を低下させるというデメリットがある。
【0007】
そこで、本発明は上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであり、その目的は、ヘッドの反発係数を低下させずに打球音の改善を行うことが可能なアイアンゴルフクラブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係るアイアンゴルフクラブは、ボールが打撃されるフェース面(10F)を有するフェース部(10)と、フェース背面(10B)側に凹部(27)が形成されたヘッド本体部(20)と、前記中空構造(27)内に充填される振動防止材(30、30A、30B、30C)とを備えたアイアンゴルフクラブのヘッドにおいて、前記振動防止材(30、30A、30B、30C)は、前記ヘッドの重心(CG)から前記凹部の壁面(26a)へ垂直に投影した重心投影点(CGP)を中心とし所定半径(R)を持った円の内部領域(A0)の外側に充填されていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係るアイアンゴルフクラブの第2の特徴は、前記振動防止材(30、30A、30B、30C)は、前記円の内部領域(AO)に重複しないように前記フェース部(10)のトウ部(21)及びソール部(24)に沿って前記中空構造(27)内に充填されていることである。
【0010】
本発明に係るアイアンゴルフクラブの第3の特徴は、前記振動防止材(30、30A、30B、30C)の前記トウ部(21)側の充填高さ(Y1)は、前記ソール部(24)側の充填高さ(Y2)より高いことである。
【0011】
本発明に係るアイアンゴルフクラブの第4の特徴は、前記振動防止材(30、30A、30B、30C)の前記トウ部(21)側の充填高さ(Y1)は、前記重心投影点(CGP)の高さ(YCG)より高いことである。
【0012】
本発明に係るアイアンゴルフクラブの第5の特徴は、前記振動防止材(30、30A、30B、30C)の前記ソール部(24)側の充填高さ(Y2)は、前記重心投影点(CGP)の高さ(YCG)から前記半径(R)を除いた高さ(YCG-R)より低いことである。
【0013】
本発明に係るアイアンゴルフクラブの第6の特徴は、前記円の内部領域(A0)の前記半径(R)は、前記重心投影点(CGP)についての前記フェース面(10F)のリーディングエッジを基準としたときの重心高さ(YG)の25%から70%の範囲内の長さである。
【0014】
本発明に係るアイアンゴルフクラブの第7の特徴は、前記振動防止材(30、30A、30B、30C)のショア硬度は、A25からA70の範囲内の硬度である。
【0015】
本発明に係るアイアンゴルフクラブの第8の特徴は、前記振動防止材(30、30A、30B、30C)の材質は、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、又はシリル基含有特殊ポリマーである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るアイアンゴルフクラブによれば、ヘッドの反発係数を低下させずに打球音の改善を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係るアイアンゴルフクラブのヘッド部の正面図である。
【
図5】振動防止材の充填位置・範囲と充填禁止範囲を示す説明図である。
【
図6】振動防止材の充填位置・範囲と「反発係数及び打球音の振動減衰効果」との間の相関関係を検証するための検証試験に使用されるヘッド本体部の第1サンプルから第3サンプルを示す説明図である。
【
図7】振動防止材の充填位置・範囲と「反発係数及び打球音の振動減衰効果」との間の相関関係を検証するための検証試験に使用されるヘッド本体部の第4サンプルから第6サンプルを示す説明図である。
【
図8】振動防止材の充填位置・範囲と「反発係数及び打球音の振動減衰効果」との間の相関関係を検証するための検証試験に使用されるヘッド本体部の第7サンプルから第9サンプルを示す説明図である。
【
図9】振動防止材の充填位置・範囲と「反発係数及び打球音の振動減衰効果」との間の相関関係を検証するための検証試験に使用されるヘッド本体部の第10サンプルを示す説明図である。
【
図10】第1サンプルから第5サンプルを使用した各アイアンゴルフクラブのヘッド部について反発係数(COR)と打球音の振動減衰効果を測定した結果を示す説明図である。
【
図11】第6サンプルから第10サンプルを使用した各アイアンゴルフクラブのヘッド部について反発係数(COR)と打球音の振動減衰効果を測定した結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0019】
図1及び
図2は、本発明の一実施形態に係るアイアンゴルフクラブのヘッド部100を示す説明図である。なお、
図1はアイアンゴルフクラブのヘッド部100の正面図である。
図2は
図1のA-A断面図である。
【0020】
図1に示されるように、このアイアンゴルフクラブのヘッド部100(以下「ヘッド部100」という。)は、ゴルフボールを打撃するフェース面10Fを有するフェース部10と、フェース部10が溶接されるとフェース部10の背面側にポケット部27(
図2)が形成されるヘッド本体部20とを具備して構成され、前部にトウ部21と、上部にトップ部22と、後部にヒール部23と、地面に接する下部にソール部24と、シャフト40側にシャフト接続部であるホーゼル部25とを有している。以下、各構成について説明する。
【0021】
フェース部10の表面(フェース面10F)には、ゴルフボールにスピン(回転)を与えるための複数(例えば13個)のスコアライン18が形成されている。スコアライン18は所定の幅W及び所定の深さDを有し、縦方向(トップ部22からソール部24に到る方向)に沿って所定のピッチPで形成されている。
【0022】
フェース部10は、例えばSAE8655等のニッケルモリブデン鋼を鍛造加工して作られている。フェース部10の板厚については、例えば1.9mmである。一方、ヘッド本体部20は、例えばS20C等の低炭素鋼を鍛造加工して作られている。
【0023】
図2に示されるように、フェース部10の裏側(フェース背面10B)にはポケット部27が形成されている。このポケット部27は、元々ヘッド部100の裏側全面を覆っていたキャビティ底壁26aの一部分(トップ部22側の点線部)が切削されたことにより形成されたものである。その結果、フェース部10の裏側にはキャビティ開口26b(
図3)が形成されている。
【0024】
ポケット部27には、打球音を改善するための振動防止材30が充填されている。つまり、本発明に係るアイアンゴルフクラブは、飛距離追求型のアイアンゴルフクラブでありながら打球音の大きさ・響きを小さくするという効果(以下「打球音の振動減衰効果」ともいう。)を有している。振動防止材30については、打球音を改善するのに適した硬度が選定され、且つ反発係数を低下させずに打球音の改善を行う適切なポケット部27内の位置・範囲に充填されている。振動防止材30の充填位置・範囲については
図5を参照しながら後述する。なお、本実施形態における振動防止材30の充填前の厚みは、2mmである。従って、ポケット部27の開口幅については2mmよりも若干小さくなっている。
【0025】
また、重心CGと、重心CGをフェース面10Fに投影した時の重心フェース面投影点CGFと、重心CGをキャビティ底壁26aに投影した時の重心ポケット投影点CGPについては、Z座標が異なるのみで、Z座標を無視したXY座標面(二次元平面)上では同一点(等価点)となる。従って、Z座標が無視できる場合、重心フェース面投影点CGF、及び重心ポケット投影点CGPについても重心CGと記載する場合がある。
【0026】
また、本実施形態に係る座標系については、所定のライ角θ(
図1)でシャフトの軸線LSを地面に垂直にした状態で、地面に平行なフェース面10F上の軸線をX軸とし、そのX軸に垂直なフェース面10F上の軸線をY軸と、X軸とY軸の双方に垂直な軸線をZ軸とする三次元座標系である。また、重心高さYGは、フェース面10Fのリーディンエッジから重心フェース投影点CGFに到るY軸方向の距離として規定される。
【0027】
図3は、
図2におけるヘッド本体部20のA矢視図である。
図3に示されるように、キャビティ底壁26aの一部分(トップ部22側)が切削されたことにより、キャビティ開口26bが形成されている。また、ソール部24とキャビティ底壁26aとの間には段差が形成されている。ソール部24は紙面の手前側(+Z方向)に張り出している。
【0028】
図4は、
図2におけるヘッド本体部20のB矢視図である。
図4に示されるように、キャビティ底壁26aとトウ部21、ソール部24及びヒール部23との間には段差がそれぞれ形成されている。これにより、フェース部10がヘッド本体部20に溶接される場合、ポケット部27が形成されることになる。
【0029】
図5は、振動防止材30の充填位置・範囲と非充填範囲を示す説明図である。「非充填範囲」は、反発係数の低下を最小限にするために振動防止材30を充填しないポケット部27内の領域である。定量的には重心ポケット投影点CGPを中心とし所定の半径Rを持つ円の内部領域(以下「非充填円A0」という。)によって規定される。従って、振動防止材30はこの非充填円A0に重複しないように、非充填円A0を避けてポケット部27内に充填されることになる。
【0030】
なお、非充填円A0の大きさを表す半径Rは、例えば重心高さYGの割合(%)によって規定される。重心高さYGの割合(%)としては、フェース部10の板厚及びポケット部27の開口幅に応じて、25%~70%の範囲内から適宜選定される。本実施形態では、重心高さYGの51.5%を、非充填円A0の半径Rとしている。なお、重心高さYGは、フェース面10Fのリーディングエッジを基準としたときのY軸方向に沿った高さである。
【0031】
振動防止材30の「充填位置」については、ポケット部27内のトウ部21及びソール部24に沿った非充填円A0に重複しない領域である。また、振動防止材30の「充填範囲」については、ポケット部27の最下点を基準としたときのY軸方向に沿ったトウ部側充填高さY1およびソール部側充填高さY2によって規定される。トウ部側充填高さY1は、ソール部側充填高さY2に比べ高くなるように設定されている。従って、振動防止材30のトウ部側充填範囲A1は、ソール部側充填範囲A2よりも広くなっている。
【0032】
なお、トウ部側充填範囲A1の上部が平坦でない場合のトウ部側充填高さY1は、例えば上部の高さの平均値を採用することが可能である。ソール部側充填範囲A2の上部が平坦でない場合も同様である。
【0033】
また、トウ部側充填高さY1は、重心ポケット投影点CGPのポケット部27の最下点を基準としたときのY軸方向に沿った重心高さYCGより高くなるように設定されている。一方、ソール部側充填高さY2は、重心高さYCGから非充填円A0の半径Rを除いた高さより低くなるように設定されている。これは、トウ部21側にソール部24より多くの振動防止材30が充填されることを示している。トウ部21側により多くの振動防止材30を充填した方が、反発係数の低下を最小限にし、打球音の振動減衰効果をより高くすることが可能となる。これについては
図10及び
図11を参照しながら後述する。
【0034】
図6は、振動防止材30の充填位置・範囲と「反発係数及び打球音の振動減衰効果」との間の相関関係を検証するための検証試験に使用されるヘッド本体部の第1サンプルから第3サンプルを示す説明図である。なお、第1サンプルは反発係数の目標となる従来のヘッド本体部であり、第2サンプルは打球音の振動減衰効果の目標となる従来のヘッド本体部である。
【0035】
図6(a)に示されるように、第1サンプルは、振動防止材30をポケット部27に何も充填しない従来のヘッド本体部である。振動防止材30がポケット部27に存在しないため、打球音の振動減衰効果はないが、反発係数はサンプル中で最大になる。従って、第1サンプル及び第2サンプルを除く他のサンプルにおいては、第1サンプルの反発係数に出来る限り等しくなるように、振動防止材30はポケット部27に充填されることになる。
【0036】
図6(b)に示されるように、第2サンプルは、振動防止材30をポケット部27の全体に充填した従来のヘッド本体部である。振動防止材30がポケット部27の全体に充填されているため、打球音の振動減衰効果はサンプル中で最大となる反面、反発係数はサンプル中で最小になる。従って、第1サンプルを除く他のサンプルにおいては、第2サンプルの打球音の振動減衰効果に出来る限り等しくなるように、振動防止材30はポケット部27に充填されることになる。
【0037】
なお、本実施形態で使用される振動防止材については、振動防止材の硬度が反発係数および打球音の振動減衰効果に及ぼす影響を検証するため、ショア硬度A25、A50、A70の振動防止材が使用されている。第2サンプル~第7サンプルにおいて使用される振動防止材30は、ショア硬度A70の樹脂である。この振動防止材30は、例えばシリコーンポッティング剤から成るシリコーン樹脂(株式会社スリーボンド製の商品番号TB1230)を使用することができる。
【0038】
図6(c)に示されるように、第3サンプルでは、振動防止材30がポケット部27内のトウ部21及びソール部24に沿って非充填円A0に重複しないように充填されている。この場合、トウ部側充填高さY1が重心ポケット投影点CGPより高い位置(Y1>YCG)にあり、且つソール部側充填高さY2が非充填円A0に干渉しない高さ(Y2<YCG-R)である。なお、本実施形態においては便宜上、非充填円A0より下方(ソール部24側)に位置する振動防止材30の充填高さ(<YCG-R)を「ソール部側充填高さ」と言うこととする。また、非充填円A0の最下点高さ(=YCG-R)より高い非充填円A0より左側(トウ部21側)に位置する振動防止材30の充填高さを「トウ部側充填高さ」と、同じく非充填円A0の最下点高さ(=YCG-R)より高い非充填円A0より右側(ヒール部23側)に位置する振動防止材30の充填高さを「ヒール部充填高さ」とそれぞれ言うこととする。
【0039】
図7は、振動防止材30の充填位置・範囲と「反発係数及び打球音の振動減衰効果」との間の相関関係を検証するための検証試験に使用されるヘッド本体部の第4サンプルから第6サンプルを示す説明図である。
【0040】
図7(a)に示されるように、第4サンプルは、ポケット部27の非充填円A0の両側に振動防止材30を充填したヘッド本体部20である。
【0041】
図7(b)に示されるように、トウ部側充填高さY1がゼロであり、且つソール部側充填高さY2が非充填円A0に干渉しない高さ(Y2<YCG-R)に振動防止材30が充填されたヘッド本体部20である。
【0042】
図7(c)に示されるように、第6サンプルは、トウ部側充填高さY1がソール部側充填高さY2より高く、重心ポケット投影点CGPより下方(Y2<Y1<YCG)に位置し、且つソール部側充填高さY2が非充填円A0に干渉しない高さ(Y2<YCG-R)に振動防止材30が充填されたヘッド本体部20である。
【0043】
図8は、振動防止材30,30A,30Bの充填位置・範囲と「反発係数及び打球音の振動減衰効果」との間の相関関係を検証するための検証試験に使用されるヘッド本体部の第7サンプルから第9サンプルを示す説明図である。
【0044】
図8(a)に示されるように、第7サンプルは、トウ部側充填高さY1が重心ポケット投影点CGPより上方(Y1>YCG)に位置し、且つソール部側充填高さY2がゼロであるヘッド本体部20である。
【0045】
図8(b)に示されるように、第8サンプルは、第3サンプルと同様に、振動防止材30Aが非充填円A0に干渉することなく、トウ部側充填高さY1が重心ポケット投影点CGPより高い位置(Y1>YCG)にあり、且つソール部側充填高さY2が非充填円A0に干渉しない高さ(Y2<YCG-R)となるように、ポケット部27内に充填されている。第8サンプルで使用される振動防止材30Aは、ショア硬度A25の樹脂である。この振動防止材30Aとしては、例えば株式会社スリーボンド製の商品番号TB1530Pのシリル基含有特殊ポリマーから成る樹脂を使用することができる。
【0046】
図8(c)に示されるように、第9サンプルも第3サンプルと同様に、振動防止材30Bが非充填円A0に干渉することなく、トウ部側充填高さY1が重心ポケット投影点CGPより高い位置(Y1>YCG)にあり、且つソール部側充填高さY2が非充填円A0に干渉しない高さ(Y2<YCG-R)となるように、ポケット部27内に充填されている。第9サンプルで使用される振動防止材30Bは、ショア硬度A50の樹脂である。この振動防止材30Bとしては、例えばウレタン樹脂を使用することができる。
【0047】
図9は、振動防止材30Cの充填位置・範囲と「反発係数及び打球音の振動減衰効果」との間の相関関係を検証するための検証試験に使用されるヘッド本体部の第10サンプルを示す説明図である。
【0048】
第10サンプルも第3サンプルと同様に、振動防止材30Cが非充填円A0に干渉することなく、トウ部側充填高さY1が重心CGより高い位置(Y1>YCG)にあり、且つソール部側充填高さY2が非充填円A0に干渉しない高さ(Y2<YCG-R)である。第10サンプルで使用される振動防止材30Cは、ショア硬度A50の樹脂である。この振動防止材30Cとしては、株式会社十川ゴム製のシリコーン樹脂を使用することができる。
【0049】
図10及び
図11は、上記第1サンプルから第10サンプルを使用した各アイアンゴルフクラブのヘッド部について反発係数(COR)と打球音の振動減衰効果を測定した結果を示す説明図である。なお、打球音の振動曲線については、各アイアンゴルフクラブのヘッド部に金属球を衝突させ、そのとき発生する衝突音をマイクで集音し、マイクから出力される音圧に係る電気信号を時系列に信号処理装置に取り込むことにより取得したものである。従って、打球音の振動曲線の横軸は時間軸である。縦軸は音圧である。
【0050】
測定結果1は、「ポケット部27が空である」上記第1サンプルに係る従来のアイアンゴルフクラブのヘッド部についての反発係数および打球音の振動減衰効果を示している。反発係数は0.815であり全てのサンプル中で最も良い結果であった。従って、本発明のアイアンゴルフクラブのヘッド部100は、上記第1サンプルに係る反発係数(0.815)を目標値としている。一方、打球音の振動減衰効果については打球音の大きさ及び収束時間(響き時間)が、全てのサンプル中で最も悪い結果であった。なお、ここで言う「打球音の大きさ」とは、打球時の音圧の時系列信号(振動曲線)をフーリエ変換したときの振幅を意味している。また「打球音の収束時間(響き時間)」とは、打球時の音圧の時系列信号において音圧が最大ピーク値に達してからゼロ近傍に収束するまでに要した時間を意味している。
【0051】
測定結果2は、「ポケット部27の全体に振動防止材30が充填された」上記第2サンプルに係る従来のアイアンゴルフクラブのヘッド部についての反発係数および打球音の振動減衰効果を示している。従って、上記第2サンプルに係る打球音の収束時間(響き時間)は、上記第1サンプルに係る打球音の収束時間(響き時間)よりも短くなっている。また、上記第2サンプルに係る打球音の大きさは、上記第1サンプルに係る打球音の大きさよりも小さくなっている。従って、本発明のアイアンゴルフクラブのヘッド部100は、上記第2サンプルに係る打球音の振動減衰効果を目標としている。一方、上記第2サンプルに係る反発係数は、全てのサンプル中で最も悪い結果であった。
【0052】
測定結果3は、「振動防止材30が非充填円A0に干渉することなく、トウ部側充填高さY1が重心ポケット投影点CGPより高い位置(Y1>YCG)にあり、且つソール部側充填高さY2が非充填円A0に干渉しない高さ(Y2<YCG-R)である」上記第3サンプルに係る本発明のアイアンゴルフクラブのヘッド部100についての反発係数および打球音の振動減衰効果を示している。上記第3サンプルに係る反発係数は上記第1サンプルと同じ値となった。これから、上記第3サンプルに係る振動防止材30のポケット部27内における充填位置・範囲は、反発係数を低下させないことが分かる。
【0053】
一方、上記第3サンプルに係る打球音の振動減衰効果については、目標である第2サンプルに係る打球音の振動減衰効果に近く非常に良好である。これから、上記第3サンプルの充填防止材30の充填位置・範囲は、打球音の改善に対し効果があることが分かる。
【0054】
測定結果4は、「非充填円A0の両側に振動防止材30が充填された」上記第4サンプルに係る本発明のアイアンゴルフクラブのヘッド部100についての反発係数および打球音の振動減衰効果を示している。上記第4サンプルに係る反発係数は、上記第1サンプルより若干低くなっているが同等レベルである。これから、上記第4サンプルに係る振動防止材30のポケット部27内における充填位置・範囲は、反発係数を殆ど低下させないことが分かる。
【0055】
一方、上記第4サンプルに係る打球音の振動減衰効果について、打球音の収束時間(響き時間)は上記第1サンプルと同様な特性を示す反面、打球音の大きさは上記第1サンプルより小さくなり、全体的に良好である。これから、上記第4サンプルの充填防止材30の充填位置・範囲は、打球音の改善に対し効果があることが分かる。
【0056】
測定結果5は、「トウ部側充填高さY1がゼロであり、且つソール部側充填高さY2が非充填円A0に干渉しない高さ(Y2<YCG-R)である」上記第5サンプルに係るアイアンゴルフクラブのヘッド部についての反発係数および打球音の振動減衰効果を示している。上記第5サンプルに係る反発係数は、上記第4サンプルより若干低くなっているが同等レベルである。これから、上記第5サンプルに係る振動防止材30のポケット部27内における充填位置・範囲は、反発係数を殆ど低下させないことが分かる。
【0057】
一方、上記第5サンプルに係る打球音の振動減衰効果について、打球音の収束時間(響き時間)は上記第3サンプルと同様な特性を示す反面、打球音の大きさは上記第4サンプルより大きく、全体的にあまり良くない。これから、上記第5サンプルの充填防止材30の充填位置・範囲は、打球音の改善に対しあまり効果がないことが分かる。
【0058】
測定結果6は、「トウ部側充填高さY1が重心ポケット投影点CGPより下方(Y2<Y1<YCG)に位置し、且つソール部側充填高さY2が非充填円A0に干渉しない高さ(Y2<YCG-R)に振動防止材30が充填された」上記第6サンプルに係るアイアンゴルフクラブのヘッド部についての反発係数および打球音の振動減衰効果を示している。上記第6サンプルに係る反発係数は、上記第1サンプルと同じ値となった。これから、上記第6サンプルに係る振動防止材30のポケット部27内における充填位置・範囲は、反発係数を低下させないことが分かる。
【0059】
一方、上記第6サンプルに係る打球音の振動減衰効果について、打球音の大きさ及び収束時間(響き時間)はともに上記第1サンプルと同様な傾向を示し、全体的にあまり良くない。これから、上記第6サンプルに係る充填防止材30の充填位置・範囲は、打球音の改善に対しあまり効果がないことが分かる。
【0060】
測定結果7は、「トウ部側充填高さY1が重心ポケット投影点CGPより上方(Y1>YCG)に位置し、且つソール部側充填高さY2がゼロである」上記第7サンプルに係るアイアンゴルフクラブのヘッド部についての反発係数および打球音の振動減衰効果を示している。上記第7サンプルに係る反発係数は、第1サンプルと同じ値となった。これから、第7サンプルの振動防止材30のポケット部27内における充填位置・範囲は、反発係数を低下させないことが分かる。
【0061】
一方、上記第7サンプルに係る打球音の振動減衰効果について、打球音の大きさ及び収束時間(響き時間)はともに上記第1サンプルと同様な傾向を示し、全体的にあまり良くない。これから、上記第7サンプルに係る振動防止材30の充填位置・範囲は、打球音の改善に対しあまり効果がないことが分かる。
【0062】
ここまでの測定結果をまとめると、測定結果2と測定結果4から、ポケット部27に振動防止材30の非充填円A0を設けることは、振動防止材30による反発係数の低下を最小限に止めると共に、打球音の大きさ及び収束時間(響き時間)を改善する効果があることが分かる。
【0063】
また、測定結果3と測定結果4から、振動防止材30がトウ部21側に充填されている場合、ヒール部23側よりソール部24側に振動防止材30が充填されている方が打球音の振動減衰効果が高くなる(打球音の大きさ及び収束時間(響き時間)を改善する)ことが分かる。
【0064】
また、測定結果3と測定結果5から、振動防止材30がソール部24のみでトウ部21側に充填されていない場合、打球音の振動減衰効果が弱まることが分かる。これから、振動防止材30は少なくともトウ部21側に充填されていなければならない。
【0065】
また、測定結果3と測定結果6から、振動防止材30のトウ部側充填高さY1は重心ポケット投影点の高さYCGより高い方が打球音の振動減衰効果が高くなることが分かる。
【0066】
また、上記測定結果4と測定結果7から、振動防止材30のソール部側充填高さY2がゼロの場合、打球音の振動減衰効果は弱まることが分かる。これから、トウ部21側とソール部24側に振動防止材30が充填されている場合、打球音の振動減衰効果がより高くなる。
【0067】
続いて、振動防止材のショア硬度が反発係数(COR)及び打球音の振動減衰効果に及ぼす影響について説明する。
【0068】
図11の測定結果8は、「上記第3サンプルにおいて振動防止材30を振動防止材30Aに変更したものである」上記第8サンプルに係る本発明のアイアンゴルフクラブのヘッド部100についての反発係数および打球音の振動減衰効果を示している。なお、振動防止材30Aはショア硬度A25のシリル基含有特殊ポリマーから成る樹脂(株式会社スリーボンド製の商品番号TB1530P)である。因みに、振動防止材30は、ショア硬度A70のシリコーンポッティング剤から成る樹脂(株式会社スリーボンド製の商品番号TB1230)である。
【0069】
上記第8サンプルに係る反発係数は、上記第3サンプルに比べ0.815から0.814に若干低下しているものの、上記第4サンプルと同等レベルの反発係数を有している。これから、振動防止材のショア硬度をA70(シリコーン樹脂)からA25(シリル基含有特殊ポリマー)に変更した場合であっても、上記第8サンプルに係る振動防止材30Aの充填位置・範囲は、反発係数を殆ど低下させないことが分かる。
【0070】
一方、上記第8サンプルに係る打球音の振動減衰効果について、上記第3サンプルに比べ打球音の大きさ及び収束時間(響き時間)が若干増加しているものの、第4サンプルと同等レベルの打球音の振動減衰効果を有している。これから、振動防止材のショア硬度をA70(シリコーン樹脂)からA25(シリル基含有特殊ポリマー)に変更した場合であっても、上記第8サンプルに係る振動防止材30Aの充填位置・範囲は、打球音の改善に対し効果があることが分かる。
【0071】
測定結果9は、「上記第3サンプルにおいて振動防止材30を振動防止材30Bに変更したものである」上記第9サンプルに係る本発明のアイアンゴルフクラブのヘッド部100についての反発係数および打球音の振動減衰効果を示している。なお、振動防止材30Bはショア硬度A50のウレタンから成る樹脂である。
【0072】
上記第9サンプルに係る反発係数は、0.815のままであり上記第3サンプルに比べ低下していない。これから、振動防止材のショア硬度をA70(シリコーン樹脂)からA50(ウレタン樹脂)に変更した場合であっても、上記第9サンプルに係る振動防止材30Bの充填位置・範囲は、反発係数を低下させないことが分かる。
【0073】
一方、上記第9サンプルに係る打球音の振動減衰効果についても、打球音の大きさ及び収束時間(響き時間)は上記第3サンプルと同等レベルであり、上記第3サンプルに比べ打球音の振動減衰効果は弱まっていない。これから、振動防止材のショア硬度をA70(シリコーン樹脂)からA50(ウレタン樹脂)に変更した場合であっても、上記第8サンプルに係る振動防止材30Aの充填位置・範囲は、打球音の改善に対し効果があることが分かる。
【0074】
測定結果10は、「上記第3サンプルにおいて振動防止材30を振動防止材30Cに変更したものである」上記第9サンプルに係る本発明のアイアンゴルフクラブのヘッド部100についての反発係数および打球音の振動減衰効果を示している。なお、振動防止材30Cはショア硬度A50のシリコーンから成る樹脂(株式会社十川ゴム製)である。
【0075】
上記第10サンプルに係る反発係数は、0.815のままであり上記第3サンプルに比べ低下していない。これから、振動防止材のショア硬度をA70(シリコーン樹脂)からA50(シリコーン樹脂)に変更した場合であっても、上記第9サンプルに係る振動防止材30Cの充填位置・範囲は、反発係数を低下させないことが分かる。
【0076】
一方、上記第10サンプルに係る打球音の振動減衰効果についても、打球音の大きさ及び収束時間(響き時間)は第3サンプルと同等レベルであり、上記第3サンプルに比べ打球音の振動減衰効果は弱まっていない。これから、振動防止材のショア硬度をA70(シリコーン樹脂)からA50(シリコーン樹脂)に変更した場合であっても、上記第10サンプルに係る振動防止材30Cの充填位置・範囲は、打球音の改善に対し効果があることが分かる。
【0077】
以上、測定結果3及び測定結果8~10から、振動防止材の硬度についてはショア硬度A25以上の範囲、好ましくはショア硬度A50~A70の範囲内にある場合、反発係数を低下させずに打球音を改善することが可能となることが分かる。
【0078】
以上、図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係るアイアンゴルフクラブのヘッド部100について説明してきたが、本発明は上記実施形態だけに限定されるものではない。すなわち、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲内において種々の変更・修正を加えることが可能である。例えば、本発明はポケット部27を有さない、密閉された中空構造を有するキャビティバックのアイアンゴルフクラブに対しても適用可能である。
【0079】
また、非充填円A0の半径Rについては、フェース面10Fのリーディングエッジを基準としたときの重心高さYGに代えて、他の基準値、例えばポケット部27の最下点を基準としたときの重心高さYCGを使用することも可能である。
【符号の説明】
【0080】
10 フェース部
20 ヘッド本体部
21 トウ部
22 トップ部
23 ヒール部
24 ソール部
25 ホーゼル部
26 キャビティ部
26a キャビティ底壁
27 ポケット部
30 振動防止材
100 アイアンゴルフクラブのヘッド部
A0 非充填円
CG 重心
CGF 重心フェース面投影点
CGP 重心ポケット投影点
R 充填禁止円の半径
Y1 トウ部側充填高さ
Y2 ヒール部側充填高さ
YG リーディングエッジを基準としたときの重心高さ
YCG ポケット部の最下点を基準としたときの重心高さ