(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】対象要素の順位付けシステム及び方法、プログラム
(51)【国際特許分類】
G06N 99/00 20190101AFI20241018BHJP
G06F 17/16 20060101ALI20241018BHJP
G06F 17/18 20060101ALI20241018BHJP
G06N 7/01 20230101ALI20241018BHJP
【FI】
G06N99/00 180
G06F17/16 Z
G06F17/18 Z
G06N7/01
(21)【出願番号】P 2020202263
(22)【出願日】2020-12-04
【審査請求日】2023-11-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「フォトニック意思決定メカニズムの創成」委託研究、産業技術強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】堀 裕和
(72)【発明者】
【氏名】内山 和治
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 誠
【審査官】大倉 崚吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-199288(JP,A)
【文献】特開2008-084151(JP,A)
【文献】成瀬誠 ほか,"2.光を利用した革新的コンピューティング技術 2-1 光を用いた意思決定メカニズム", 電子情報通信学会誌,Vol. 103,No. 3,2020年03月01日,p. 290-297
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 3/00-99/00
G06F 17/16
G06F 17/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
n個の対象要素をその出力結果に応じて所定の評価順に順位付けする対象要素の順位付けシステムにおいて、
一の入力が物理的制約に基づく相関により分岐した確率分布のパターンから、擬似的なシューベルト類に対応するn×nの行列類を取得する行列類取得手段と、
上記行列類取得手段により取得された行列類を、より上位になるにつれて高評価になる行方向の要素名軸に割り当てられた対象要素名と、より上位になるにつれて高評価になる評価順位軸に割り当てられた評価順位とが互いに対応付けられてなる対応点からなるn×nの行列として構成する行列構成手段と、
所定のアルゴリズムに基いて、上記対象要素名又は上記評価順位を入れ替えることにより上記行列を更新する行列更新手段とを備え、
上記行列構成手段は、上記行列類取得手段により順次取得される上記行列類を上記行列更新手段により更新された上記行列に構成することを繰り返し実行することにより、各対象要素名の最終的な評価順位を特定すること
を特徴とする対象要素の順位付けシステム。
【請求項2】
上記行列構成手段により構成された行列を構成する各対応点から、第1対応点と、上記対象要素名が上記第1対応点より下位であると共に上記評価順位が上記第1対応点より上位である第2対応点とを検出する対応点検出手段を更に備え、
上記行列更新手段は、上記対応点検出手段により検出された第1対応点に対応する第1対象要素と、第2対応点に対応する第2対象要素についてそれぞれ結果を出力させ、得られた出力結果に基づいて、上記第1対応点と上記第2対応点の対象要素名又は評価順位を入れ替えることにより上記行列を更新するアルゴリズムに基づくこと
を特徴とする請求項1記載の対象要素の順位付けシステム。
【請求項3】
上記行列更新手段は、上記行列の更新を繰り返すことにより、上記要素名軸及び上記評価順位軸に対して対角線状に漸近してきた上記対応点に基づいて、各対象要素名の最終的な評価順位を特定すること
を特徴とする請求項2記載の対象要素の順位付けシステム。
【請求項4】
上記行列更新手段は、上記第1対象要素の出力結果が上記第2対象要素の出力結果よりも劣位である場合には、上記第1対応点と上記第2対応点の対象要素名を入れ替え、上記第1対象要素の出力結果が上記第2対象要素の出力結果よりも優位である場合には、上記第1対応点と上記第2対応点の評価順位を入れ替えること
を特徴とする請求項2又は3記載の対象要素の順位付けシステム。
【請求項5】
上記行列構成手段は、上記行列類取得手段により取得されたシューベルト類に対応するn×nの行列類を、行方向又は列方向に一の対応点のみ有するn×nの行列として構成すること
を特徴とする請求項1~4記載の対象要素の順位付けシステム。
【請求項6】
上記行列類取得手段は、局所的に光信号が入力されたフォトクロミック化合物結晶内において分岐した出力光のパターンから、擬似的なシューベルト類に対応するn×nの行列類を取得すること
を特徴とする請求項1~5のうち何れか1項記載の対象要素の順位付けシステム。
【請求項7】
上記行列更新手段は、上記行列の更新を繰り返すことにより、上記要素名軸及び上記評価順位軸に対して対角線状に漸近してきた対応点の局所的な漸近度合の差異に基づいて、互いに同等の評価順位になる対象要素を判別すること
を特徴とする請求項3~6のうち何れか1項記載の対象要素の順位付けシステム。
【請求項8】
上記行列更新手段は、上記行列の更新を繰り返す過程で、上記第1対応点と上記第2対応点とにおける対象要素名又は評価順位の入れ替え頻度を求め、求めた入れ替え頻度に基づいて上記対応点の漸近度合を判別すること
を特徴とする
請求項3記載の対象要素の順位付けシステム。
【請求項9】
n個の対象要素をその出力結果に応じて所定の評価順に順位付けする対象要素の順位付け方法において、
一の入力が物理的制約に基づく相関により分岐した確率分布のパターンから、擬似的なシューベルト類に対応するn×nの行列類を取得する行列類取得ステップと、
上記行列類取得ステップにより取得した行列類を、より上位になるにつれて高評価になる行方向の要素名軸に割り当てられた対象要素名と、より上位になるにつれて高評価になる評価順位軸に割り当てられた評価順位とが互いに対応付けられてなる対応点からなるn×nの行列として構成する行列構成ステップと、
所定のアルゴリズムに基いて、上記対象要素名又は上記評価順位を入れ替えることにより上記行列を更新する行列更新ステップとを有し、
上記行列構成ステップは、上記行列類取得ステップにより順次取得する上記行列類を上記行列更新ステップにより更新した上記行列に構成することを繰り返し実行することにより、各対象要素名の最終的な評価順位を特定すること
を特徴とする対象要素の順位付け方法。
【請求項10】
n個の対象要素をその出力結果に応じて所定の評価順に順位付けする対象要素の順位付けプログラムにおいて、
一の入力が物理的制約に基づく相関により分岐した確率分布のパターンから、擬似的なシューベルト類に対応するn×nの行列類を取得する行列類取得ステップと、
上記行列類取得ステップにより取得した行列類を、より上位になるにつれて高評価になる行方向の要素名軸に割り当てられた対象要素名と、より上位になるにつれて高評価になる評価順位軸に割り当てられた評価順位とが互いに対応付けられてなる対応点からなるn×nの行列として構成する行列構成ステップと、
所定のアルゴリズムに基いて、上記対象要素名又は上記評価順位を入れ替えることにより上記行列を更新する行列更新ステップとを有し、
上記行列構成ステップは、上記行列類取得ステップにより順次取得する上記行列類を上記行列更新ステップにより更新した上記行列に構成することを繰り返し実行することにより、各対象要素名の最終的な評価順位を特定することをコンピュータに実行させること
を特徴とする対象要素の順位付けプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、n個の対象要素をその出力結果に応じて高評価順に順位付けする上で好適な対象要素の順位付けシステム及び方法、プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
期待値を最大化する解を探索する問題の代表例として、バンディット問題がある。このバンディット問題とは、貰える合計報酬の期待値を最大化することを目的とし、プレイヤーはn種類の異なる行動選択肢から一つの選択肢を選択する動作を繰り返す。各選択の後は毎回、選択した行動に依存する確率分布から選ばれた結果がプレイヤーの報酬として与えられる。
【0003】
仮に複数のスロットマシーンのような遊技機が存在し、各遊技機のレバーを引くことにより、ある確率分布の下でコイン(報酬)がもらえるものとする。このコインが出る確率分布(当選確率)が遊技機毎に異なる場合であって、かつプレイヤーはその当選確率が分からない場合を考えてみる。このとき、各遊技機の当選確率を知る最も一般的な方法としては、とりあえず各遊技機を多数回に亘り順にプレイし、実際に最も報酬が大きかった遊技機が、最も当選確率が高いものと判断する。
【0004】
しかしながら、かかる方法では、実際に最も当選確率の高い遊技機を特定する上で相当の回数に亘り遊技機をプレイしなければならず、結果として多くの投資が必要となる。逆に、早々に遊技機の試し打ちを打ち切ってしまうと、肝心の当たり台を見逃してしまう虞もある。このように、バンディット問題は、従来より「探索」と「決断」に難しいジレンマが存在していた。この問題は多本腕バンディット問題として知られ、ワイヤレス通信における周波数の割当てや、データセンターでの計算資源の割当て、巡回セールスマン問題、ロボット制御、Web広告等、様々な応用展開が期待されることから、各種研究が行われている。
【0005】
バンディット問題の解探索を行う上で、遊技者が通信ネットワークを介して、配信サーバから遊技機の履歴情報を取得し、遊戯機の予測、選択を行うための遊技支援システムが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この特許文献1の開示技術によれば、大量な履歴情報が必要であるため、探索解を得るまでに長時間が費やされるこという問題点があった。即ち、従来においては、バンディット問題の解を自動的に探索して求めるための決定的なアルゴリズムが特段提案されていないのが現状であった。情報量が増大の一途を辿る昨今において、大量の情報から高速かつ効率的に、組み合わせバンディット問題の解を求めるための社会的要請が高くなると考えられるが、これについて特段の解決策が提案されていなかった。
【0006】
ちなみに近年においては、このようなバンディット問題の解探索を行う上で、アメーバの生存本能に着想を得た計算手法が提案され、既存の並べ替えアルゴリズムを大きく上回る性能が示されている。自然に着想を得たこの計算原理は、全体量を一定として、部分の変化を均等に他の部分に反映させる、いわゆる綱引きモデルが根幹となっている。
【0007】
同様の原理に基づき、不規則に信号強度が変化する不規則信号を発信する半導体レーザを利用した計算手法も提案されている(例えば、特許文献2参照。)。このような電気的、物理的信号系を用いることにより、情報量が増大の一途を辿る昨今において、大量の情報から高速かつ効率的に、組み合わせバンディット問題の解を求めることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2019-153059号公報
【文献】特開2009-233155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
バンディット問題等の解探索を行う上で、上述した遊技機のような互いに異なる結果を出力するn個の対象要素が存在していた場合において、先ずは出力結果が高くなるほど高評価になるように順位付けをすることが重要となる。このような順位付けをする上で、数式を利用する方法も考えられるが、計算量が膨大になり、特に対象要素数nが多くなる場合には、計算時間が膨大になってしまうという問題点があった。このため、このような数式を利用することなく、n個の対象要素をその出力結果に応じて高評価順に順位付けする方法が従来より望まれていたが、特許文献1、2にはかかる技術については特段提案されていないのが現状であった。
【0010】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、n個の対象要素をその出力結果に応じて高評価順に順位付けする上で、特に高速かつ簡便に順位付けをすることが可能な、対象要素の順位付けシステム及び方法、プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上述した課題を解決するために、n個の対象要素をその出力結果に応じて高評価順に順位付けする対象要素の順位付け方法において、一の入力が物理的制約に基づく相関により分岐した確率分布のパターンから、擬似的なシューベルト類に対応するn×nの行列類を取得し、これをより上位になるにつれて高評価になる行方向の要素名軸に割り当てられた対象要素名と、より上位になるにつれて高評価になる評価順位軸に割り当てられた評価順位とが互いに対応付けられてなる対応点からなるn×nの行列として構成し、この行列中の特異点に対応する対象要素について出力結果を検証することにより行列を更新することを繰り返し行うことで、各対象要素名の最終的な評価順位を特定することが可能な対象要素の順位付け方法を発明した。
【0012】
第1発明に係る対象要素の順位付けシステムは、n個の対象要素をその出力結果に応じて所定の評価順に順位付けする対象要素の順位付けシステムにおいて、一の入力が物理的制約に基づく相関により分岐した確率分布のパターンから、擬似的なシューベルト類に対応するn×nの行列類を取得する行列類取得手段と、上記行列類取得手段により取得された行列類を、より上位になるにつれて高評価になる行方向の要素名軸に割り当てられた対象要素名と、より上位になるにつれて高評価になる評価順位軸に割り当てられた評価順位とが互いに対応付けられてなる対応点からなるn×nの行列として構成する行列構成手段と、所定のアルゴリズムに基いて、上記対象要素名又は上記評価順位を入れ替えることにより上記行列を更新する行列更新手段とを備え、上記行列構成手段は、上記行列類取得手段により順次取得される上記行列類を上記行列更新手段により更新された上記行列に構成することを繰り返し実行することにより、各対象要素名の最終的な評価順位を特定することを特徴とする。
【0013】
第2発明に係る対象要素の順位付けシステムは、第1発明において、上記行列構成手段により構成された行列を構成する各対応点から、第1対応点と、上記対象要素名が上記第1対応点より下位であると共に上記評価順位が上記第1対応点より上位である第2対応点とを検出する対応点検出手段を更に備え、上記行列更新手段は、上記対応点検出手段により検出された第1対応点に対応する第1対象要素と、第2対応点に対応する第2対象要素についてそれぞれ結果を出力させ、得られた出力結果に基づいて、上記第1対応点と上記第2対応点の対象要素名又は評価順位を入れ替えることにより上記行列を更新するアルゴリズムに基づくことを特徴とする。
【0014】
第3発明に係る対象要素の順位付けシステムは、第2発明において、上記行列更新手段は、上記行列の更新を繰り返すことにより、上記要素名軸及び上記評価順位軸に対して対角線状に漸近してきた上記対応点に基づいて、各対象要素名の最終的な評価順位を特定することを特徴とする。
【0015】
第4発明に係る対象要素の順位付けシステムは、第2発明又は第3発明において、上記行列更新手段は、上記第1対象要素の出力結果が上記第2対象要素の出力結果よりも劣位である場合には、上記第1対応点と上記第2対応点の対象要素名を入れ替え、上記第1対象要素の出力結果が上記第2対象要素の出力結果よりも優位である場合には、上記第1対応点と上記第2対応点の評価順位を入れ替えることを特徴とする。
【0016】
第5発明に係る対象要素の順位付けシステムは、第1発明~第4発明において、上記行列構成手段は、上記行列類取得手段により取得されたシューベルト類に対応するn×nの行列類を、行方向又は列方向に一の対応点のみ有するn×nの行列として構成することを特徴とする。
【0017】
第6発明に係る対象要素の順位付けシステムは、第1発明~第5発明において、上記行列類取得手段は、局所的に光信号が入力されたフォトクロミック化合物結晶内において分岐した出力光のパターンから、擬似的なシューベルト類に対応するn×nの行列類を取得することを特徴とする。
【0018】
第7発明に係る対象要素の順位付けシステムは、第3発明~第6発明において、上記行列更新手段は、上記行列の更新を繰り返すことにより、上記要素名軸及び上記評価順位軸に対して対角線状に漸近してきた対応点の局所的な漸近度合の差異に基づいて、互いに同等の評価順位になる対象要素を判別することを特徴とする。
【0019】
第8発明に係る対象要素の順位付けシステムは、第3発明において、上記行列更新手段は、上記行列の更新を繰り返す過程で、上記第1対応点と上記第2対応点とにおける対象要素名又は評価順位の入れ替え頻度を求め、求めた入れ替え頻度に基づいて上記対応点の漸近度合を判別することを特徴とする。
【0020】
第9発明に係る対象要素の順位付け方法は、n個の対象要素をその出力結果に応じて所定の評価順に順位付けする対象要素の順位付け方法において、一の入力が物理的制約に基づく相関により分岐した確率分布のパターンから、擬似的なシューベルト類に対応するn×nの行列類を取得する行列類取得ステップと、上記行列類取得ステップにより取得した行列類を、より上位になるにつれて高評価になる行方向の要素名軸に割り当てられた対象要素名と、より上位になるにつれて高評価になる評価順位軸に割り当てられた評価順位とが互いに対応付けられてなる対応点からなるn×nの行列として構成する行列構成ステップと、所定のアルゴリズムに基いて、上記対象要素名又は上記評価順位を入れ替えることにより上記行列を更新する行列更新ステップとを有し、上記行列構成ステップは、上記行列類取得ステップにより順次取得する上記行列類を上記行列更新ステップにより更新した上記行列に構成することを繰り返し実行することにより、各対象要素名の最終的な評価順位を特定することを特徴とする。
【0021】
第10発明に係る対象要素の順位付けプログラムは、n個の対象要素をその出力結果に応じて所定の評価順に順位付けする対象要素の順位付けプログラムにおいて、一の入力が物理的制約に基づく相関により分岐した確率分布のパターンから、擬似的なシューベルト類に対応するn×nの行列類を取得する行列類取得ステップと、上記行列類取得ステップにより取得した行列類を、より上位になるにつれて高評価になる行方向の要素名軸に割り当てられた対象要素名と、より上位になるにつれて高評価になる評価順位軸に割り当てられた評価順位とが互いに対応付けられてなる対応点からなるn×nの行列として構成する行列構成ステップと、所定のアルゴリズムに基いて、上記対象要素名又は上記評価順位を入れ替えることにより上記行列を更新する行列更新ステップとを有し、上記行列構成ステップは、上記行列類取得ステップにより順次取得する上記行列類を上記行列更新ステップにより更新した上記行列に構成することを繰り返し実行することにより、各対象要素名の最終的な評価順位を特定することをコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
上述した構成からなる本発明によれば、n個の対象要素をその出力結果に応じて高評価順に順位付けする上で、数式を利用することなく実現することができる。特に本発明によれば幾何学的な行列における各構成要素の並べ替えを繰り返すのみで探索解を得ることができることから、極めて処理量を低く抑えることができる。その結果、n個の対象要素の順位付けの探索解をより高速かつ簡便に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明を適用した対象要素の順位付けシステムの全体構成を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明を適用した順位付けシステム1の動作コンセプトについて説明するための図である。
【
図3】
図3は、本発明を適用した順位付けシステム1の動作コンセプトについて説明するための他の図である。
【
図4】
図4は、各対象要素に対して、対象要素名が対応点を介して関連付けられる例を示す図である。
【
図5】
図5は、実際に量子化した確率分布のパターンから、擬似的なシューベルト類に対応するn×nの行列類を取得した例を示す図である。
【
図6】
図6は、特異点の同定方法について説明するための図である。
【
図7】
図7は、本発明を適用した順位付けシステムにおける各構成要素において実行する動作の流れを示す図である。
【
図8】
図8は、最初にまとめて、一の入力を分岐部に入力して分岐生成された確率分布のパターンからn×nの行列を複数個に亘り生成する例を示す図である。
【
図9】
図9は、本発明を適用した順位付けシステムにより検証、更新を行った行列の数に対する要素名軸及び上記評価順位軸にプロットされる対応点の変化傾向を示す図である。
【
図10】
図10(a)は、要素名軸及び評価順位軸に対して対角線状に漸近してくる対応点の例を示す図である、
図10(b)は、対角線状に漸近することなく広がりを持ったブロックのまま収束する対応点の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を適用した対象要素の順位付けシステムについて図面を参照しながら詳細に説明をする。
【0025】
図1は、本発明を適用した対象要素の順位付けシステム1の全体構成を示す図である。順位付けシステム1は、一の入力に対して物理的制約に基づく相関によりこれを分岐させる分岐部2と、分岐部2により分岐させた出力を検出する出力検出部3と、出力検出部により検出された情報に基づいて対象要素の順位付けを実際に行う解析装置4と、解析装置4に接続されたn個の対象要素5-1、5-2、・・・5-nにより構成される。
【0026】
分岐部2は、例えば一種類の分子からなる完全な単結晶として、フォトクロミック化合物結晶で構成される。このフォトクロミック化合物結晶は、局所的な光信号が入力された場合に可逆的な色調変化を示す化合物であり、その色調変化は可逆的な光異性化反応に基づく。このフォトクロミック化合物結晶に対して光信号が入力された場合、その光の作用により一種類の分子が化学結合を組み換え、それによって吸収スペクトルが可逆的に変化する性質を持つ。このようなフォトクロミック化合物結晶に局所的な光信号を入力した場合、近接場光相変化における光異性化反応とこれを妨げる歪みの発生の相関現象が起きる結果、この入力された光信号の分岐パターンは完全なランダムなものでは無く、物理的制約の下での高度な相関を持った状態で分岐する。
【0027】
分岐部2は、このフォトクロミック化合物結晶で構成される以外に、一の入力に対して物理的制約に基づく相関によりこれを分岐させるものであればいかなるデバイスに代替されるものであってもよく、例えば高次の量子相関を持つ半導体レーザの出力光を利用してもよい。また流下する一つの水の流れを分岐させる、自然界にある滝に代替されるものであってもよい。
【0028】
出力検出部3は、分岐部2による分岐された出力を検出し、これを解析装置4へと伝送する役割を担う。出力検出部3は、仮に分岐部2がフォトクロミック化合物結晶で構成される場合には、その出力光を検出することが可能な光ファイバープローブで構成してもよいし、出射されてくる光を検出するカメラ又はスペクトルカメラにより構成されていてもよい。
【0029】
解析装置4は、パーソナルコンピュータ(PC)、タブレット型端末、スマートフォン、ウェアラブル端末、携帯電話機、その他各種演算が可能なCPU(Central Processing Unit)が実装された電子機器で構成されている。解析装置4は、出力検出部3により検出された分岐部2からの出力に基づき、擬似的なシューベルト類に対応するn×nの行列類を取得する。また解析装置4は、この取得したn×nの行列類に基づいて後述する演算を行うことにより、各対象要素5にそれぞれ対応する対象要素名に最終的な評価順位を特定する動作を担う。解析装置4は、実際にこの演算を行う過程で、何れかの各対象要素5-1、5-nにそれぞれ結果を出力させ、その出力解を得た上で解探索を行う場合がある。このため、解析装置4は、対象要素5-1~5-nに対して、有線通信又は無線通信により通信可能となるように通信インターフェースが実装されている必要がある。
【0030】
対象要素5は、順位付けシステム1が順位付けする対象であり、対象要素5-1~5-nが互いに影響を受けることなく独立して結果を出力するものであればいかなるもので構成されていてもよい。対象要素5は、例えばスロットマシーンやパチンコ台のように「当たり」や「外れ」等のように2値の結果を出すものであってもその当選確率が台毎に異なるものであれば、出力結果はその当選確率に支配されることになる。対象要素5は、同様にワイヤレス通信における周波数の割当てや、データセンターでの計算資源の割当て、巡回セールスマン問題、Web広告等における各対象物も含まれる。
【0031】
次に、本発明を適用した順位付けシステム1の動作コンセプトについて説明をする。本発明を適用した順位付けシステム1は、
図2に示すように、注目する現象に対して、ある価値軸に対する順位付け構造を埋め込むことにより、当該現象の順序構造を特定するものである。注目する現象としては、上述したように独立して結果を出力する対象要素5-1~5-nがある。この対象要素5-1~5-nはそれぞれが出力結果を互いに独立して出力し続けるものの、当初の段階では、いかなる対象要素5の出力結果が優れており、いかなる対象要素5の出力結果が劣っているのかは誰にも分からない状態となっている。このため、順位付けシステム1により、対象要素5-1~5-nについて、出力結果が優れているほど高評価となるように、また出力結果が劣っているほど低評価となるように順位付けをする。
【0032】
例えば、
図3に示すように、対象要素5-1~5-6が互いに当選確率が異なるスロットマシーンであるものとする。当初の段階では、これらスロットマシーンとしての対象要素5-1~5-6の当選確率は誰にも分からないことから、これら対象要素5-1~5-6を高評価順に順位付けをすることができない状態にある。本発明を適用した順位付けシステム1では、このような出力結果(当選確率)が未知である対象要素5-1~5-6を高評価順に1位~6位まで順位付けを以下の方法に基づいて行う。
【0033】
図3に示すように出力結果(当選確率)が未知である対象要素5-1~5-6に対して、文字の意味が決まっていない6種の対象要素名A~Fがあるものとする。順位付けシステム1では、対象要素5-1~5-6による実際の出力結果と、このような対象要素名A~Fからなる6種の文字の当選確率とを比較する。そして出力結果が得られた範囲内で、対象要素5-1~5-6と、対象要素名A~Fからなる6種の文字との間で構造を特定することで、対象要素5-1~5-6に対してそれぞれ順位付けを行っていく。ここでいう要素名軸(縦軸)の対象要素名は、平均順位で並べ替えたスロット名とする行列と考えてもよく、また横軸はその順位の頻度と考えてもよい。
【0034】
かかる場合には、例えば
図4に示すように、対象要素5-1~5-6に対して、当初は仮の名前が付けられている対象要素名A~Fとが互いに対応付けられてなる対応点からなる6×6の行列で表される。この行列は、縦軸の要素名軸には、対象要素名A~Fが、また横軸の評価順位軸には、対象要素5-1~5-6が配列している。対象要素5-1~5-6が現時点においていかなる対象要素名A~Fが付けられているのかは、この対応点を介して関連付けられ、例えば
図4(a)の例では、対象要素5-2に対して、対象要素名Aが対応点を介して関連付けられ、また、対象要素5-5に対しては対象要素名Bが対応点を介して関連付けられている。これらの対象要素5-1~5-6は、当初において、対象要素名A~Fという名前を振り、対象要素名の順位を最初は適当に割り振る。
【0035】
本発明を適用した順位付けシステム1では、この行列をいわゆる擬似的なシューベルト類に対応する6×6の行列類に見立て、いわゆるシューベルトカルキュラスに基づいて構造推定を行う。実際に、この構造推定を行う上で、対象要素5-1~5-6について出力結果を出力させることになるが、その出力結果の出力回数は、極力少数で抑えることができる。対象要素5-1~5-6について出力させた結果に基づいて、対象要素5-1~5-6又は対象要素名A~Fを並び替える、行列の更新を繰り返し実行する。その結果、この行列の更新を繰り返すことにより、
図4(b)に示すように、要素名軸及び評価順位軸に対して対角線状に漸近してきた対応点に基づいて、各対象要素5-1~5-6に対して、各対象要素名A~Fが対応点を介して最終的に割り当てられる。これにより、要素名軸及び評価順位軸に対して対角線状に漸近してきた対応点に基づいて、各対象要素名の最終的な評価順位を特定することができる。
【0036】
ちなみに、対象要素名は仮にA~Fの6種とする場合を例に挙げて説明をしたが、これに限定されるものでは無く、例えば各対象要素名に「1位」、「2位」、・・・「6位」等のようにより上位になるにつれて高評価になるような名前を付けてもよい。これにより、上述した行列の更新を繰り返し実行した結果、要素名軸及び評価順位軸に対して対角線状に漸近してきた対応点に基づいて、各対象要素5-1~5-6に対して各対象要素名(「1位」、「2位」、・・・「6位」)を対応点を介して最終的に割り当てることができる。その結果、各対象要素5-1~5-6に対してそれぞれ高評価順に対象要素名(「1位」、「2位」、・・・「6位」)を介して順位付けをすることができる。即ち、各対象要素5-1~5-6が上から何番目にあることが多かったか、その確率をプロットしたものが、
図4(a)であり、これを平均順位で縦に並べ替えたものが
図4(b)となる。
【0037】
図5は、本発明を適用した順位付けシステム1における各構成要素において実行する動作の流れを示している。
【0038】
実際にこのような順位付けを行う場合には、
図5に示すように、先ず一の入力が物理的制約に基づく相関により分岐した確率分布のパターンを得るところから始まる。かかる場合には、例えばフォトクロミック化合物結晶で構成された分岐部2に対して局所的な光信号を入力する。分岐部2に入力された光信号は、
図5に示すように物理的制約の下での高度な相関を持った状態で分岐する。この分岐された光は、例えば光ファイバープローブ等で構成される出力検出部3によりそれぞれ検出される。
【0039】
出力検出部3により検出された光に基づいて確率分布のパターンを形成する。実際に分岐部2から出射される光は、この分岐部2の出力平面上において、その強度に応じた濃淡の分布として表される。この光強度の濃淡を出力検出部3を介して検出することにより、
図5に示すように平面上における確率分布のパターンとして表される。
【0040】
解析装置4は、このような確率分布のパターンを取得し、これを量子化する。ここでいる量子化とは、確率分布のパターンを構成する画像の各画素を、複数個に亘りグルーピングしたブロック単位で、画素の輝度を平均化することをいう。解析装置4は、この量子化した確率分布のパターンから、擬似的なシューベルト類に対応するn×nの行列類を取得する。
【0041】
図6は、実際に量子化した確率分布のパターンから、擬似的なシューベルト類に対応するn×nの行列類を取得した例を示している。量子化した確率分布のパターンをそのまま、要素名軸(縦軸)と、評価順位軸(横軸)における対応点に投影させる。その結果、量子化した確率分布がより高い領域において対応点がプロットされることになる。
【0042】
実際にシューベルト類に対応する行列を作るためには、
図6(a)に示すように行方向又は列方向に一の対応点のみ有するn×nの行列に整理する必要がある。量子化した確率分布のパターンをそのまま投影させた結果、行方向又は列方向に、2以上の対応点が存在している場合には、いずれか一方を削除する等の整理が必要となる。そのような整理を経て得られたn×nの行列の要素名軸には、対象要素名が仮に「1位」、「2位」、・・・「n位」まで、上から順に割り当てられている。同様に評価順位軸には、評価順位が仮に「1位」、「2位」、・・・「n位」まで、右から順に割り当てられている。実際に行列を構成する場合には、白紙のn×nの行列があり、その一点に光子が到来したとき、その点と同一な行と同一な列の光センサーをオフにする。これをn回繰り返すことで、一つの行列が構成される。
【0043】
このような対応点について、
図6(b)に示すように、その対応点が存在する行及び列を塗りつぶした場合、塗りつぶしがなされない白紙の領域が出てくる。当該領域は特異点となる。即ち、白紙の行列に
図6(b)に示すように、行列の対応点を描き、次に各対応点から要素名軸にそって下側を塗りつぶし、評価順位軸にそって右側を塗りつぶす。ここで塗りつぶされずに残るところが特異点となる。本来であれば、
図6(d)に示すように、評価順位が仮に「1位」、「2位」、・・・「n位」に対して、対象要素名が仮に「1位」、「2位」、・・・「n位」が過誤なく割り当てられた場合、要素名軸及び評価順位軸に対して対応点が対角線状に漸近してくる。これに対して、要素名軸及び評価順位軸に対して対応点が対角線状に漸近していない場合には、対象要素名の割り当てに関して誤りがあるか、或いは評価順位の割り当てについて誤りがあるものと考えることができる。このような対象要素名又は評価順位の誤りがある領域が上述した特異点になる。
【0044】
本発明においては、
図6(c)に示すように特異点の同定を行う。そして、この同定した特異点について実際に対象要素5-1~5-nについて結果を出力させることで検証を行い、対象要素名又は評価順位を入れ替えることにより行列を更新することを繰り返し行う。この行列の更新を繰り返し行うことにより、
図6(d)に示すように要素名軸及び評価順位軸に対して対応点が徐々に対角線状に漸近してくる。
【0045】
特異点の同定は、
図7に示すように右下向きでつながっている2つの行にある第1対応点31a、第2対応点31bに着目する。この第1対応点31a、第2対応点31bは、行列の更新を繰り替えることにより対応点を漸近させようとしている対角線の方向に対して逆方向になっていることが前提となる。
図6の例において、対応点を漸近させようとしている対角線の方向は、右上の方向となっているため、特異点として同定しようとする対応点31a、31bを結ぶ線分は、右下方向となる。
【0046】
このような第1対応点31a、第2対応点31bを検出する際には、先ず上の行から検証を行い、特定したある第1対応点31aに対して、対象要素名が第1対応点31aより下位であると共に評価順位が第1対応点31aより上位である第2対応点31bが存在するか否かを調べる。その結果、このような条件を満たす第2対応点31bが存在しない場合には、この特定した第1対応点31aには特異点が無いものと判別し、次の行にある対応点を第1対応点31aとし、同様に第2対応点31bの有無に関して調査する。これに対して、特定した第1対応点31aに対して上述の条件を満たす第2対応点31bが存在する場合には、以下に説明する対象要素5により出力結果を出させることによる検証を行う。
【0047】
この検証では、第1対応点31aに対応する第1対象要素5aと、第2対応点31bに対応する第2対象要素5bについてそれぞれ結果を出力させる。ここでいう第1対応点31aに対応する第1対象要素5aは、この第1対応点31aに対応する対象要素名に紐付けられた対象要素5である。また第2対応点31bに対応する第1対象要素5bは、この第1対応点31bに対応する対象要素名に紐付けられた対象要素5である。各対象要素名に対して対象要素5が紐付くかを予め設定してくことが前提となる。
【0048】
これらの第1対象要素5a、第2対象要素5bによる出力結果を比較する。その結果、第1対象要素5aの出力結果が第2対象要素5bの出力結果よりも劣位である場合には、名前の付け方に関して誤りがあることを示しており、かかる場合には、第1対応点31aと第2対応点31bの対象要素名を入れ替える。一方、第1対象要素5aの出力結果が第2対象要素5bの出力結果よりも優位である場合には、評価順位に関して誤りがあることを示しており、かかる場合には、第1対応点31aと第2対応点31bの評価順位を入れ替える。対象要素5が例えばスロットマシーンであれば、各第1対象要素5a、第2対象要素5bにひかせ、当選したか否かで優劣判定を行うようにしてもよい。
【0049】
ちなみに、第1対象要素5a、第2対象要素5bによる各出力結果が互いに優劣判定ができない場合には、行列を更新することなくそのまま何もしない。
【0050】
このように、実際に対象要素5により結果を出力させて検証を行うことで、n×nの行列をより現実の対象要素5の出力結果に近付けることが可能となる。行列の更新を行った後、次の行にある対応点を第1対応点31aとし、同様に第2対応点31bの有無に関して同様に調査する。このような第1対応点31a、第2対応点31bの同定、これらに対応する第1対象要素5a、第2対象要素5bによる各出力結果の優劣判定、更には行列の更新の各プロセスを繰り返し行い、n×nの行列を構成する最下位の行を除くすべての行まで行った後、その行列については更新が終了となる。
【0051】
なお、上述した実施の形態においては、最上位の行から始まり、上の行から下の行に向けて行列更新を行っていくが、これに限定されるものでは無い。逆に最下位の行から始まり、下の行から上の行に向けて行列更新を行うようにしてもよい。
【0052】
この行列の更新が終わった後、上述と同様に一の入力を分岐部2に入力し、そこから分岐生成された確率分布のパターンから、n×nの新たな行列を取得し、この取得した新たな行列に対して同様に第1対応点31a、第2対応点31bの同定、対象要素5による各出力結果の優劣判定、更には行列の更新の各プロセスを実行する。このとき、n×nの行列を構成する要素名軸の対象要素名、評価順位軸の評価順位は、更新された後の要素名軸、評価順位軸を利用する。そして、更新された後の要素名軸、評価順位軸について、この取得した新たな行列による更新を行い、要素名軸の対象要素名、評価順位軸の評価順位の入れ替えを行う。更に次に取得されるn×nの新たな行列についても、その最新の更新された要素名軸、評価順位軸について、同様のプロセスを進めることを繰り返し実行する。
【0053】
推定パターンを正しく修正すれば、要素名軸、評価順位軸の上位から下位の関係が一致するようになる。隣接する行(又は列)の対象要素5における対象要素名又は評価順位に、上位、下位関係の誤りがある場合は、対象要素名又は評価順位に誤りがあることになる。要素名軸、評価順位軸の何れに誤りであるかは、実際に対象要素5を評価し、その評価結果に応じて対象要素名又は評価順位を入れ替える。この入れ替えた結果を置換行列として保存しておき、その後は、その入れ替えた置換行列を、これ以降において検証、更新する残りの行列に反映させる。
【0054】
なお、前回の行列の更新が終わった後、一の入力を分岐部2に入力して分岐生成された確率分布のパターンを得ることを都度行う場合に限定されるものでは無い。例えば
図8に示すように、最初にまとめて、一の入力を分岐部2に入力して分岐生成された確率分布のパターンからn×nの行列を複数個に亘り生成して解析装置4内にこれらを全て格納しておく。そして、解析装置4内において格納した行列を一つずつ順に読み出して上述した検証と更新を行う。かかる場合において、ある行列について更新が行われた場合、解析装置4内に格納されている残りの全ての行列の要素名軸の対象要素名、評価順位軸の評価順位についてもその更新内容が反映される。そして、残りの行列について同様に検証と更新を行う場合には、その更新内容が反映された要素名軸の対象要素名、評価順位軸の評価順位をベースに行い、ここで新たに更新が行われた場合には、解析装置4内に格納されている残りの全ての行列にその更新内容が同様に反映されることとなる。このような処理動作を繰り返し行っていくこととなる。
【0055】
図9は、本発明を適用した順位付けシステム1により検証、更新を行った行列の数に対する要素名軸及び上記評価順位軸にプロットされる対応点の変化傾向を示している。つまり、この
図9では、縦軸を対象要素名とし、それぞれが上から何番目にあることが多かったかをカウントしてプロットを作り、さらに、これを平均順位で縦に並べ替えたものである。行列の更新を繰り返すことにより、要素名軸及び評価順位軸に対して対応点が徐々に対角線状に漸近してくるのが分かる。これは対象要素名に示される順位と、評価順位とが徐々に一致してくるのが示されている。各対象要素名には、それぞれ対象要素5が紐付けられている。その対象要素名に示される順位が実際の評価順位と一致するということは、その対象要素5に紐付けられた対象要素名に示される順位が実際の評価順位と一致することを意味するものである。つまり、今まで未知であった対象要素5の順位が、対象要素名に示される順位であることが示されていることに他ならない。
【0056】
ちなみに、この検証、更新を行う行列の数は、多ければ多いほど、より対角線に対して対応点が漸近してくるので、より正確な探索解が得られることは言うまでもない。但し、どの程度まで検証、更新すべき行列の数を増やすかは、システム側、ユーザ側の判断で自由に決めることができる。
図9の例では行列数が1000であっても、順位付けのマクロな傾向はある程度理解することができるのが分かる。この行列の更新を繰り返す過程で、第1対応点31aと第2対応点31bとにおける対象要素名又は評価順位の入れ替え頻度を求めるようにしてもよい。求めた入れ替え頻度が徐々に低くなるほど、対応点が対角線状に漸近していることに他ならない。このため、この入れ替え頻度を求めることで、逆に対角線状への対応点の漸近度合を判別することも可能となる。
【0057】
解析装置4は、このようにして要素名軸及び評価順位軸に対して対角線状に漸近してきた対応点から、対象要素名の最終的な評価順位を特定し、これを表示画面等を介してユーザに表示することができる。ユーザは、その表示画面に示された結果から、各対象要素5の最終的な評価順位を理解することが可能となる。
【0058】
このように、本発明を適用した順位付けシステム1によれば、n個の対象要素をその出力結果に応じて高評価順に順位付けする上で、数式を利用することなく実現することができる。特に本発明によれば幾何学的な行列における各構成要素の並べ替えを繰り返すのみで探索解を得ることができることから、極めて処理量を低く抑えることができる。その結果、n個の対象要素の順位付けの探索解をより高速かつ簡便に得ることができる。
【0059】
特に本発明によれば、一の入力が物理的制約に基づく相関により分岐した確率分布のパターンから行列を構成する。つまり、この得られるパターンは、物理的制約を受けることから、自然界の多様性が秩序を持つように、高度な相関を有する。これにより、完全にランダムなパターンに基づいて行列を構成する場合と比較して,高速な並べ替えを実現することができる。これは、いわゆるシューベルトカルキュラスに基づくものといえる。
【0060】
また行列を構成する要素名軸及び評価順位軸の双方からの並べ替えにより、パターン列全体の対角行列への漸近が可能となり、順位の推定の収束判定を容易に行うことができる。仮に対応点の漸近度合を自動的に判別することができれば、その収束判定そのものを自動化することができる。なお、対角行列のみならず、反対角行列へ漸近する場合も上述した概念に含まれることは勿論である。
【0061】
なお、上述した実施の形態においては、互いに異なる結果を出力する対象要素5について、その出力結果に応じて高評価順に順位付けする場合を例にとり説明をしたが、これに限定されるものでは無い。本発明により、互いに同様の結果を出力する対象要素5を特定することもできる。
【0062】
例えば
図10(a)に示すように、行列の更新を繰り返すことにより、要素名軸及び評価順位軸に対して対角線状に漸近してくる対応点もあれば、
図10(b)に示すように、対角線状に漸近することなく広がりを持ったブロックのまま収束する対応点も出てくる。このような対角線状に漸近することなく広がりを持ったブロックのまま収束する対応点は、互いに同様の結果を出力するものであり、順位付けができない、換言すればほぼ同順位であることを示唆するものである。
図10(b)の例の場合は、実際の対象要素5の出力結果を見ても分かるように、同様の結果を出力する対象要素5が複数含まれているのが分かる。このため、本発明によれば、対角線状に漸近してきた対応点の局所的な漸近度合の差異に基づいて、互いに同等の評価順位になる対象要素を判別することができる。対角線状に漸近している領域にある対象要素5は、出力結果が明らかに相違し、明確に順位付けを行うことができる。これに対して、対角線状に漸近することなく広がりを持ったブロック領域にある対象要素5は、出力結果がほぼ同様であり、互いに同順位である旨を理解することができる。
【0063】
実際にはこのような漸近度合は、解析装置4において自動的に判別するようにしてもよい。かかる場合には、行列の更新を繰り返すことにより得られた
図9に示すような対応点の分布画像から漸近度合を既存の画像処理技術を利用して自動的に判別するようにしてもい。
【0064】
また、上述した実施の形態においては、高評価順に順位付けする場合を例にとり説明をしたが、これに限定されるものでは無く、予め決めた所定の評価順に順位付けするようにしてもよい。かかる場合には、例えば低評価順に順位付けしてもよいし、予めユーザ側又はシステム側が決めた評価順に順位付けするようにしてもよいことは勿論である。
【符号の説明】
【0065】
1 順位付けシステムシステム
2 分岐部
3 出力検出部
4 解析装置
5 対象要素
31 対応点