(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】LCLフィルタ寿命診断装置及びLCLフィルタ寿命診断方法
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20241018BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H02M7/48 R
(21)【出願番号】P 2021015829
(22)【出願日】2021-02-03
【審査請求日】2024-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【氏名又は名称】清井 洋平
(74)【代理人】
【氏名又は名称】来田 義弘
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 一徳
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-76194(JP,A)
【文献】国際公開第2013/183118(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単相又は三相の系統電源と接続される系統連系変換器に用いられるLCLフィルタの寿命を診断するためのLCLフィルタ寿命診断装置であって、
前記系統電源の系統電圧及び系統電流から、前記LCLフィルタのキャパシタに印加されるキャパシタ電圧を演算するキャパシタ電圧演算手段と、
前記キャパシタ電圧と、前記系統連系変換器のインバータ回路から前記系統電源側に出力されるインバータ出力電圧から、前記キャパシタのリプル電流を演算するリプル電流演算手段と、
前記キャパシタ電圧と前記リプル電流をそれぞれ高速フーリエ変換して周波数成分毎に分離する高速フーリエ変換手段と、
周波数成分毎に分離された前記キャパシタ電圧を周波数成分毎に分離された前記リプル電流で除して、前記キャパシタにおけるインピーダンスの周波数特性を演算する周波数特性演算手段と、
前記インピーダンスの周波数特性から、前記キャパシタにおける等価直列抵抗及びキャパシタンスを演算するESR及びキャパシタンス演算手段と、
予め設定された寿命判定基準と、前記等価直列抵抗及び前記キャパシタンスを比較して、前記キャパシタの寿命を判定する寿命判定手段とを備えたことを特徴とするLCLフィルタ寿命診断装置。
【請求項2】
請求項1記載のLCLフィルタ寿命診断装置において、前記キャパシタ電圧演算手段は、前記LCLフィルタの系統側インダクタのインダクタンスと、前記系統電流から、前記系統側インダクタに印加される系統側インダクタ電圧を求め、前記系統電圧と前記系統側インダクタ電圧から、前記キャパシタ電圧を算出し、前記リプル電流演算手段は、前記キャパシタ電圧と前記インバータ出力電圧から、前記LCLフィルタのインバータ側インダクタに印加されるインバータ側インダクタ電圧を求め、該インバータ側インダクタ電圧と、前記インバータ側インダクタのインダクタンスからインバータ側電流を求めて、該インバータ側電流と前記系統電流から前記リプル電流を算出することを特徴とするLCLフィルタ寿命診断装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のLCLフィルタ寿命診断装置において、前記周波数特性演算手段は、周波数成分毎に分離された前記キャパシタ電圧を周波数成分毎に分離された前記リプル電流で除して求められる周波数成分毎のインピーダンス値を最小二乗法により近似して前記インピーダンスの周波数特性曲線を作成し、前記ESR及びキャパシタンス演算手段は、前記インピーダンスの周波数特性曲線に基づいて、前記等価直列抵抗及び前記キャパシタンスを算出することを特徴とするLCLフィルタ寿命診断装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1記載のLCLフィルタ寿命診断装置において、前記寿命判定手段は、前記等価直列抵抗及び前記キャパシタンスのいずれか一方又は双方が前記寿命判定基準を満たさない時に、前記キャパシタは寿命であると判定することを特徴とするLCLフィルタ寿命診断装置。
【請求項5】
単相又は三相の系統電源と接続される系統連系変換器に用いられるLCLフィルタの寿命を診断するためのLCLフィルタ寿命診断方法であって、
前記系統電源の系統電圧及び系統電流から、前記LCLフィルタのキャパシタに印加されるキャパシタ電圧を演算する第1の工程と、
前記キャパシタ電圧と、前記系統連系変換器のインバータ回路から前記系統電源側に出力されるインバータ出力電圧から、前記キャパシタのリプル電流を演算する第2の工程と、
前記キャパシタ電圧と前記リプル電流をそれぞれ高速フーリエ変換して周波数成分毎に分離する第3の工程と、
周波数成分毎に分離された前記キャパシタ電圧を周波数成分毎に分離された前記リプル電流で除して、前記キャパシタにおけるインピーダンスの周波数特性を演算する第4の工程と、
前記インピーダンスの周波数特性から、前記キャパシタにおける等価直列抵抗及びキャパシタンスを演算する第5の工程と、
予め設定された寿命判定基準と、前記等価直列抵抗及び前記キャパシタンスを比較して、前記キャパシタの寿命を判定する第6の工程とを備えたことを特徴とするLCLフィルタ寿命診断方法。
【請求項6】
請求項5記載のLCLフィルタ寿命診断方法において、前記第1の工程では、前記LCLフィルタの系統側インダクタのインダクタンスと、前記系統電流から、前記系統側インダクタに印加される系統側インダクタ電圧を求め、前記系統電圧と前記系統側インダクタ電圧から、前記キャパシタ電圧を算出し、前記第2の工程では、前記キャパシタ電圧と前記インバータ出力電圧から、前記LCLフィルタのインバータ側インダクタに印加されるインバータ側インダクタ電圧を求め、該インバータ側インダクタ電圧と、前記インバータ側インダクタのインダクタンスからインバータ側電流を求めて、該インバータ側電流と前記系統電流から前記リプル電流を算出することを特徴とするLCLフィルタ寿命診断方法。
【請求項7】
請求項5又は6記載のLCLフィルタ寿命診断方法において、前記第4の工程では、周波数成分毎に分離された前記キャパシタ電圧を周波数成分毎に分離された前記リプル電流で除して求められる周波数成分毎のインピーダンス値を最小二乗法により近似して前記インピーダンスの周波数特性曲線を作成し、前記第5の工程では、前記インピーダンスの周波数特性曲線に基づいて、前記等価直列抵抗及び前記キャパシタンスを算出することを特徴とするLCLフィルタ寿命診断方法。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか1記載のLCLフィルタ寿命診断方法において、前記第6の工程では、前記等価直列抵抗及び前記キャパシタンスのいずれか一方又は双方が前記寿命判定基準を満たさない時に、前記キャパシタは寿命であると判定することを特徴とするLCLフィルタ寿命診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に太陽光発電若しくは風力発電等のパワーコンディショナ、無効電力補償装置及び回生の必要なモータ駆動システム等に用いられる系統連系変換器内のLCLフィルタの寿命を、電流センサを用いることなく診断することができるLCLフィルタ寿命診断装置及びLCLフィルタ寿命診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パワーコンディショナ、無効電力補償装置及び回生の必要なモータ駆動システム等では系統連系変換器が使用されている。系統連系変換器から系統側に流出する高調波電流の抑制のためにはフィルタ用の連系インダクタのインピーダンスを増やす必要があり、連系インダクタの大型化とコストの増大を招くという問題がある。そこで、連系インダクタの小型化と低コスト化を図るため、キャパシタ(コンデンサ)を組み合わせたLCLフィルタが用いられているが、インダクタに比べキャパシタは劣化スピードが早く、系統連系変換器の信頼性低下を招くという課題がある。さらに、キャパシタが劣化するとLCLフィルタの周波数特性が変化し、高調波電流を十分に抑制できなくなるだけでなく、LCL変換器の動作が不安定になるおそれがある。これらの課題に対し、例えば特許文献1~3では、キャパシタの寿命(劣化)を診断するためのモニタリング手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第9389263号明細書
【文献】米国特許第9488686号明細書
【文献】米国特許第9653984号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1~3では、キャパシタに流入するリプル電流を電流センサで測定(モニタリング)することにより、キャパシタの寿命を診断しているため、電流センサの追加コストが必要になるという課題がある。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、電流センサを用いることなく、キャパシタの寿命診断の指標である等価直列抵抗(ESR)とキャパシタンスの双方をモニタリングすることができ、LCLフィルタ用キャパシタの高精度な寿命診断を実現して、LCLフィルタを備えた系統連系変換器の信頼性を向上させ、低コスト化及び普及拡大を図り、省エネルギー化に貢献できるLCLフィルタ寿命診断装置及びLCLフィルタ寿命診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的に沿う第1の発明に係るLCLフィルタ寿命診断装置は、単相又は三相の系統電源と接続される系統連系変換器に用いられるLCLフィルタの寿命を診断するためのLCLフィルタ寿命診断装置であって、
前記系統電源の系統電圧及び系統電流から、前記LCLフィルタのキャパシタに印加されるキャパシタ電圧を演算するキャパシタ電圧演算手段と、
前記キャパシタ電圧と、前記系統連系変換器のインバータ回路から前記系統電源側に出力されるインバータ出力電圧から、前記キャパシタのリプル電流を演算するリプル電流演算手段と、
前記キャパシタ電圧と前記リプル電流をそれぞれ高速フーリエ変換して周波数成分毎に分離する高速フーリエ変換手段と、
周波数成分毎に分離された前記キャパシタ電圧を周波数成分毎に分離された前記リプル電流で除して、前記キャパシタにおけるインピーダンスの周波数特性を演算する周波数特性演算手段と、
前記インピーダンスの周波数特性から、前記キャパシタにおける等価直列抵抗及びキャパシタンスを演算するESR及びキャパシタンス演算手段と、
予め設定された寿命判定基準と、前記等価直列抵抗及び前記キャパシタンスを比較して、前記キャパシタの寿命を判定する寿命判定手段とを備える。
【0006】
第1の発明に係るLCLフィルタ寿命診断装置において、前記キャパシタ電圧演算手段は、前記LCLフィルタの系統側インダクタのインダクタンスと、前記系統電流から、前記系統側インダクタに印加される系統側インダクタ電圧を求め、前記系統電圧と前記系統側インダクタ電圧から、前記キャパシタ電圧を算出し、前記リプル電流演算手段は、前記キャパシタ電圧と前記インバータ出力電圧から、前記LCLフィルタのインバータ側インダクタに印加されるインバータ側インダクタ電圧を求め、該インバータ側インダクタ電圧と、前記インバータ側インダクタのインダクタンスからインバータ側電流を求めて、該インバータ側電流と前記系統電流から前記リプル電流を算出することができる。
【0007】
第1の発明に係るLCLフィルタ寿命診断装置において、前記周波数特性演算手段は、周波数成分毎に分離された前記キャパシタ電圧を周波数成分毎に分離された前記リプル電流で除して求められる周波数成分毎のインピーダンス値を最小二乗法により近似して前記インピーダンスの周波数特性曲線を作成し、前記ESR及びキャパシタンス演算手段は、前記インピーダンスの周波数特性曲線に基づいて、前記等価直列抵抗及び前記キャパシタンスを算出することが好ましい。
【0008】
第1の発明に係るLCLフィルタ寿命診断装置において、前記寿命判定手段は、前記等価直列抵抗及び前記キャパシタンスのいずれか一方又は双方が前記寿命判定基準を満たさない時に、前記キャパシタは寿命であると判定することが好ましい。
【0009】
前記目的に沿う第2の発明に係るLCLフィルタ寿命診断方法は、単相又は三相の系統電源と接続される系統連系変換器に用いられるLCLフィルタの寿命を診断するためのLCLフィルタ寿命診断方法であって、
前記系統電源の系統電圧及び系統電流から、前記LCLフィルタのキャパシタに印加されるキャパシタ電圧を演算する第1の工程と、
前記キャパシタ電圧と、前記系統連系変換器のインバータ回路から前記系統電源側に出力されるインバータ出力電圧から、前記キャパシタのリプル電流を演算する第2の工程と、
前記キャパシタ電圧と前記リプル電流をそれぞれ高速フーリエ変換して周波数成分毎に分離する第3の工程と、
周波数成分毎に分離された前記キャパシタ電圧を周波数成分毎に分離された前記リプル電流で除して、前記キャパシタにおけるインピーダンスの周波数特性を演算する第4の工程と、
前記インピーダンスの周波数特性から、前記キャパシタにおける等価直列抵抗及びキャパシタンスを演算する第5の工程と、
予め設定された寿命判定基準と、前記等価直列抵抗及び前記キャパシタンスを比較して、前記キャパシタの寿命を判定する第6の工程とを備える。
【0010】
第2の発明に係るLCLフィルタ寿命診断方法において、前記第1の工程では、前記LCLフィルタの系統側インダクタのインダクタンスと、前記系統電流から、前記系統側インダクタに印加される系統側インダクタ電圧を求め、前記系統電圧と前記系統側インダクタ電圧から、前記キャパシタ電圧を算出し、前記第2の工程では、前記キャパシタ電圧と前記インバータ出力電圧から、前記LCLフィルタのインバータ側インダクタに印加されるインバータ側インダクタ電圧を求め、該インバータ側インダクタ電圧と、前記インバータ側インダクタのインダクタンスからインバータ側電流を求めて、該インバータ側電流と前記系統電流から前記リプル電流を算出することができる。
【0011】
第2の発明に係るLCLフィルタ寿命診断方法において、前記第4の工程では、周波数成分毎に分離された前記キャパシタ電圧を周波数成分毎に分離された前記リプル電流で除して求められる周波数成分毎のインピーダンス値を最小二乗法により近似して前記インピーダンスの周波数特性曲線を作成し、前記第5の工程では、前記インピーダンスの周波数特性曲線に基づいて、前記等価直列抵抗及び前記キャパシタンスを算出することが好ましい。
【0012】
第2の発明に係るLCLフィルタ寿命診断方法において、前記第6の工程では、前記等価直列抵抗及び前記キャパシタンスのいずれか一方又は双方が前記寿命判定基準を満たさない時に、前記キャパシタは寿命であると判定することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
第1の発明に係るLCLフィルタ寿命診断装置及び第2の発明に係るLCLフィルタ寿命診断方法は、電流センサを用いることなく、系統電圧、系統電流及びインバータ出力電圧からLCLフィルタでのキャパシタのリプル電流を算出し、そのリプル電流とキャパシタ電圧をそれぞれ高速フーリエ変換(FFT)して周波数成分を抽出し、キャパシタにおけるインピーダンスの周波数特性を求め、ESRとキャパシタンスの双方をモニタリングすることにより、低コストでありながら高精度な寿命診断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るLCLフィルタ寿命診断装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】同装置及び同装置で用いられるLCLフィルタ寿命診断方法が適用される系統連系変換器の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
続いて、本発明を具体化した実施の形態について説明し、本発明の理解に供する。
図1に示す本発明の一実施の形態に係るLCLフィルタ寿命診断装置10及びLCLフィルタ寿命診断方法は、
図2に示す系統連系変換器11に適用されて、系統連系変換器11に用いられるLCLフィルタ13の寿命(厳密にはLCLフィルタ13内のキャパシタ14の寿命)を、電流センサを用いることなく診断するものである。
図2において、三相の系統電源(交流電源)15と接続された系統連系変換器11は、例えば太陽光発電若しくは風力発電等の発電電力を直流電力として図示しない電力負荷へ供給し、余った発電電力を交流電力として系統電源15へ送電(売電)するものであり、太陽光発電若しくは風力発電等のシステムではパワーコンディショナとも呼ばれる。系統連系変換器11は、LCLフィルタ13とインバータ回路16を有している。系統電源15とインバータ回路16の間に配置されるLCLフィルタ13は、系統電源15側に配置される系統側インダクタ(系統側リアクトル、インダクタンスL
S)17とインバータ回路16側に配置されるインバータ側インダクタ(インバータ側リアクトル、インダクタンスL
I)18が直列接続され、その直列接続点にキャパシタ(C)14の一端が接続されることにより、系統側インダクタ17、インバータ側インダクタ18及びキャパシタ14がT字形に配置されたものである。このLCLフィルタ13により、系統側インダクタ17を小型化しつつ、系統連系変換器11から系統電源15側に流出する高調波電流を抑制することができる。
【0016】
図1、
図2に示すように、LCLフィルタ寿命診断装置10は、系統電源15の系統電圧V
S及び系統電流I
Sから、LCLフィルタ13のキャパシタ14に印加されるキャパシタ電圧V
Cを演算するキャパシタ電圧演算手段20を有する。具体的には、キャパシタ電圧演算手段20は、LCLフィルタ13の系統側インダクタ17のインダクタンスL
Sと、系統電流I
Sから、系統側インダクタ17に印加される系統側インダクタ電圧V
LSを求め、系統電圧V
Sと系統側インダクタ電圧V
LSから、キャパシタ電圧V
Cを算出する。
次に、LCLフィルタ寿命診断装置10は、キャパシタ電圧V
Cと、系統連系変換器11のインバータ回路16から系統電源15側に出力されるインバータ出力電圧V
Iから、キャパシタ14のリプル電流I
Cを演算するリプル電流演算手段21を有する。具体的には、リプル電流演算手段21は、キャパシタ電圧V
Cとインバータ出力電圧V
Iから、LCLフィルタ13のインバータ側インダクタ18に印加されるインバータ側インダクタ電圧V
LIを求め、インバータ側インダクタ電圧V
LIと、インバータ側インダクタ18のインダクタンスL
Iからインバータ側電流I
Iを求めて、インバータ側電流I
Iと系統電流I
Sからリプル電流I
Cを算出する。
また、LCLフィルタ寿命診断装置10は、キャパシタ電圧V
Cとリプル電流I
Cをそれぞれ高速フーリエ変換して周波数成分毎に分離する高速フーリエ変換手段22を有する。
【0017】
さらに、LCLフィルタ寿命診断装置10は、周波数成分毎に分離されたキャパシタ電圧VC(f)を周波数成分毎に分離されたリプル電流IC(f)で除して、キャパシタ14におけるインピーダンスZC(f)の周波数特性を演算する周波数特性演算手段23と、周波数特性演算手段23で求められたインピーダンスZC(f)の周波数特性から、キャパシタ14における等価直列抵抗(ESR)及びキャパシタンスを演算するESR及びキャパシタンス演算手段24を有する。ここで、周波数特性演算手段23としては、周波数成分毎に分離されたキャパシタ電圧VC(f)を周波数成分毎に分離されたリプル電流IC(f)で除して求められる周波数成分毎のインピーダンス値を最小二乗法により近似してインピーダンスZC(f)の周波数特性曲線を作成するものが好適に用いられ、ESR及びキャパシタンス演算手段24は、作成されたインピーダンスZC(f)の周波数特性曲線に基づいて、等価直列抵抗及びキャパシタンスを算出することができる。
【0018】
そして、LCLフィルタ寿命診断装置10は、予め設定された寿命判定基準と、等価直列抵抗及びキャパシタンスを比較して、キャパシタ14の寿命を判定する寿命判定手段25を有する。寿命判定手段25は、等価直列抵抗及びキャパシタンスのいずれか一方又は双方が寿命判定基準を満たさない時に、キャパシタ14が寿命であると判定することができる。そして、このキャパシタ14の寿命により、LCLフィルタ13の寿命を診断することができる。寿命判定手段25は、例えば、健全な(初期の)等価直列抵抗の値の2倍及び健全な(初期の)キャパシタンスの値の0.8倍を、等価直列抵抗及びキャパシタンスの寿命判定基準として、求められた等価直列抵抗の値が、健全な(初期の)等価直列抵抗の値の2倍超になった時、或いは、求められたキャパシタンスの値が、健全な(初期の)キャパシタンスの値の0.8倍未満(健全なキャパシタンスの値より20%超減少)になった時に、寿命であると判定することが好ましいが、寿命判定基準は、これに限定されるものではない。
【0019】
LCLフィルタ寿命診断装置10としては、RAM、CPU、ROM等を備えた従来公知の演算器(即ち、コンピュータ又はマイコンボード)を用いることができる。そして、LCLフィルタ寿命診断方法を実行するプログラム(ソフトウェア)が、LCLフィルタ寿命診断装置10にインストールされ、実行されることにより、LCLフィルタ寿命診断装置10を上記のキャパシタ電圧演算手段20、リプル電流演算手段21、高速フーリエ変換手段22、インピーダンスの周波数特性演算手段23、ESR及びキャパシタンス演算手段24及び寿命判定手段25として機能させることができる。
【0020】
以下、本発明の一実施の形態に係るLCLフィルタ寿命診断装置10で用いられるLCLフィルタ寿命診断方法を各手段の動作に基づいて説明する。
図3に示すように、まず、キャパシタ電圧演算手段20で、LCLフィルタ13の系統側インダクタ17のインダクタンスL
Sと、系統電流I
Sから、系統側インダクタ17に印加される系統側インダクタ電圧V
LSを求め、系統電圧V
Sと系統側インダクタ電圧V
LSから、キャパシタ電圧V
Cを算出する(以上、第1の工程)。
次に、リプル電流演算手段21で、第1の工程(キャパシタ電圧演算手段20)で求めたキャパシタ電圧V
Cと、インバータ出力電圧V
Iから、LCLフィルタ13のインバータ側インダクタ18に印加されるインバータ側インダクタ電圧V
LIを求め、インバータ側インダクタ電圧V
LIと、インバータ側インダクタ18のインダクタンスL
Iからインバータ側電流I
Iを求めて、インバータ側電流I
Iと系統電流I
Sからリプル電流I
Cを算出する(以上、第2の工程)。
次に、高速フーリエ変換手段22で、第1の工程(キャパシタ電圧演算手段20)で求めたキャパシタ電圧V
Cと、第2の工程(リプル電流演算手段21)で求めたリプル電流I
Cをそれぞれ高速フーリエ変換して周波数成分毎に分離する(以上、第3の工程)。
【0021】
次に、周波数特性演算手段23で、第3の工程(高速フーリエ変換手段22)で周波数成分毎に分離されたキャパシタ電圧VC(f)を、同じく第3の工程(高速フーリエ変換手段22)で周波数成分毎に分離されたリプル電流IC(f)で除して、キャパシタ14におけるインピーダンスZC(f)の周波数特性を求める。このとき、周波数特性演算手段23は、周波数成分毎に分離されたキャパシタ電圧VC(f)を周波数成分毎に分離されたリプル電流IC(f)で除して求められる周波数成分毎のインピーダンス値を最小二乗法により近似してインピーダンスZC(f)の周波数特性曲線を作成することが好ましい。なお、周波数特性曲線を最小二乗法以外の方法で近似できる場合は、その他の近似方法を用いてもよい(以上、第4の工程)。
次に、ESR及びキャパシタンス演算手段24で、第4の工程(周波数特性演算手段23)で求めたインピーダンスZC(f)の周波数特性から、キャパシタ14における等価直列抵抗及びキャパシタンスを求める。このとき、インピーダンスZC(f)の周波数特性曲線が作成されていれば、それに基づいて、等価直列抵抗及びキャパシタンスを容易に算出することができる(以上、第5の工程)。
次に、寿命判定手段25で、予め設定された寿命判定基準と、第5の工程(ESR及びキャパシタンス演算手段24)で求められた等価直列抵抗及びキャパシタンスを比較して、キャパシタ14の寿命を判定する。このとき、等価直列抵抗及びキャパシタンスのいずれか一方でも寿命判定基準を満たさない時に、キャパシタ14が寿命であると判定することにより、キャパシタ14の寿命を的確に判断することができ、LCLフィルタ13の寿命を診断することができる(以上、第6の工程)。
【0022】
以上説明したように、LCLフィルタ寿命診断装置10及びLCLフィルタ寿命診断方法を用いることにより、電流センサを用いることなく、対象となる系統連系変換器11のLCLフィルタ13内のキャパシタ14における等価直列抵抗及びキャパシタンスをモニタリングして、キャパシタ14の寿命を的確に判定し、それに基づいてLCLフィルタ13の寿命を診断することができる。また、このように電流センサを用いないLCLフィルタ寿命診断装置10及びLCLフィルタ寿命診断方法は、LCLフィルタを備えた系統連系変換器に容易に適用することができ、低コストで精度の高い寿命診断を実現して系統連系変換器の信頼性を向上させ、低コスト化及び普及拡大を図り、省エネルギー化にも貢献することができる。
【0023】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載した構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。
なお、上記実施の形態では、系統連系変換器に対して、三相の系統電源から交流電力が入力される場合について説明したが、系統電源は単相でもよい。また、上記実施の形態では、太陽光発電若しくは風力発電等のシステムで使用される系統連系変換器(パワーコンディショナ)に対して本発明を適用する場合について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、例えば無効電力補償装置や、回生の必要なモータ駆動システム等に用いられる系統連系変換器に対しても適用することができる。
【符号の説明】
【0024】
10:LCLフィルタ寿命診断装置、11:系統連系変換器、13:LCLフィルタ、14:キャパシタ、15:系統電源(交流電源)、16:インバータ回路、17:系統側インダクタ、18:インバータ側インダクタ、20:キャパシタ電圧演算手段、21:リプル電流演算手段、22:高速フーリエ変換手段、23:周波数特性演算手段、24:ESR及びキャパシタンス演算手段、25:寿命判定手段