(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】ノズル
(51)【国際特許分類】
B05B 1/04 20060101AFI20241018BHJP
B05C 5/00 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
B05B1/04
B05C5/00 101
(21)【出願番号】P 2021015963
(22)【出願日】2021-02-03
【審査請求日】2024-01-09
(73)【特許権者】
【識別番号】592243553
【氏名又は名称】株式会社タカギ
(74)【代理人】
【識別番号】100114959
【氏名又は名称】山▲崎▼ 徹也
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 貴博
(72)【発明者】
【氏名】鳥原 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】芳川 敏康
【審査官】土谷 秀人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-114673(JP,A)
【文献】実開昭60-140676(JP,U)
【文献】特開昭61-004555(JP,A)
【文献】特表2013-503040(JP,A)
【文献】特表平8-504673(JP,A)
【文献】国際公開第2019/084633(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 1/00
B05C 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
給水器具の先端に取り付けられるノズル本体を備え、
前記ノズル本体が、
流体を流通させるべく前記ノズル本体に先細状となるように貫通形成された中央流路と、
前記中央流路の壁面に溝状に形成され、前記中央流路の軸心に沿うと共に前記ノズル本体の吐水側端面に開口する少なくとも一つの溝流路と、を有するノズル。
【請求項2】
前記中央流路および前記溝流路を合せた流路の前記軸心に垂直な断面積が、前記吐水側端面の側ほど小さく形成してある請求項1に記載のノズル。
【請求項3】
前記吐水側端面における前記溝流路の開口形状が、前記軸心から最も離れた位置で二つの辺が交差して形成される角部を有する請求項1または2に記載のノズル。
【請求項4】
前記中央流路および前記溝流路の前記軸心に垂直な断面視において、前記中央流路の中央輪郭線が円形であり、前記溝流路が、前記角部を形成するように交差する二つの第1輪郭線と、当該第1輪郭線の夫々の端部と前記中央流路とを接続する第2輪郭線とで構成されている請求項3に記載のノズル。
【請求項5】
前記第2輪郭線が、前記溝流路の外側に曲率中心を持つ曲線で構成される請求項4に記載のノズル。
【請求項6】
前記吐水側端面に、前記軸心に沿う方向視において、前記角部から前記軸心の径方向外側に延出する切欠部が形成されている請求項3から5の何れか一項に記載のノズル。
【請求項7】
前記溝流路が前記軸心を中心とした対向方向に夫々一つ形成されている請求項1から6の何れか一項に記載のノズル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水などの流体を所定の吐水流勢を維持したまま広範囲に吐水可能なノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このようなノズルに関連する技術としては、例えば以下の特許文献1(〔請求項1〕および明細書第4欄21行目乃至48行目、
図2~
図3等参照)に示すものがある。
【0003】
特許文献1に係る技術は、流体の流通方向に沿った下流側ほど縮径される円錐状の流路(3)を備えている。この流路の先端には、軸心に対して対向方向に配置した二つのポケット部(10)が形成されている。これらポケット部は、円錐状の流路の内面を外径方向に穿つように形成される。ただし、ノズルの吐水側端部においては二つのポケット部は集約され、一つの円形の出口(6)が形成される。つまり、円錐状の流路(3)を先端部近傍で軸心を中心に対称方向に拡径し、その後、ノズル先端の出口で再び円形に絞る構造である。
【0004】
このように、ノズル先端の出口近傍において流路の開口面積を最小とし、かつ、流体の流れ方向をポケット部が規定することで流体どうしの圧縮状態を生成するものである。この圧力制御によって流路中の夫々の位置を流れる流体の流通方向が決定され、出口から吐水された流体が扇形の流水域を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1のノズルは、円形出口の上流側において異形の内壁面を有するポケット部を形成しておき、出口に向かう流体どうしを圧縮させて吐水方向を決定するものである。この様な機構で吐水形状を扇形にするものは、特許文献1の他にも数多く存在する。例えば、流路を円錐状に形成しつつ出口形状を楕円にすると、容易に扇形の吐水形状を得ることができる。
【0007】
ただし、これらの技術は何れも、出口における流体圧力を極度に高めるものであり、吐水形状はある程度制御できるものの、出口部で生じる圧力損失のために吐水流の勢いが削がれることとなる。従来技術の機構では、流速など吐水流勢の確保と吐水流形の確保とは相反するものであり、両者を所定水準以上に確保したい場合には、ノズル内径を大型化して流量そのものを増大する等の必要があった。
【0008】
このように、従来技術のノズルでは未だ改善されるべき余地があり、吐水流勢が強く広角度の吐水流を形成可能なノズルが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(特徴構成)
本発明に係るノズルの特徴構成は、給水器具の先端に取り付けられるノズル本体を備え、前記ノズル本体が、流体を流通させるべく前記ノズル本体に先細状となるように貫通形成された中央流路と、前記中央流路の壁面に溝状に形成され、前記中央流路の軸心に沿うと共に前記ノズル本体の吐水側端面に開口する少なくとも一つの溝流路と、を有する点にある。
【0010】
(効果)
本構成では、ノズル本体に中央流路を形成すると共に、ノズル本体の吐水側端面に開口する溝流路を中央流路の壁面に少なくとも一つ形成している。この溝流路は、中央流路の外方に偏位した状態で形成され、これらを中央流路の軸心にそって見た場合に、中央流路の輪郭と溝流路の輪郭とが異なるものとなる。そのため、溝流路から吐水される流体が溝流路の壁面との間で生じさせる表面張力等の力と、中央流路の壁面に沿って吐水される流体が中央流路の壁面との間で生じさせる表面張力等の力とが異なるものとなる。
【0011】
本構成の溝流路は、中央流路の壁面に沿って溝状に形成されるから、中央流路の断面積に溝流路の断面積が加えられることになる。これは、流路断面積がノズル先端に向かうほど急激に窄まるといった従来技術のノズルとは異なり、中央流路の断面積の縮小をむしろ緩和するものである。つまり、本構成のノズルでは、流体どうしを圧縮させ、圧力の大小関係に基づいて流体の吐水方向を決定するものではなく、溝流路の壁面と流体との間に作用する表面張力によって、流体を中央流路から溝流路の側に引き付けようとするものである。よって本構成ノズルであれば、ノズル先端で圧力損失が生じず、流体の吐水流勢が維持され、吐水方向を適切に広げることができる。
【0012】
(特徴構成)
本発明に係るノズルにおいては、前記中央流路および前記溝流路を合せた流路の前記軸心に垂直な断面積を、前記吐水側端面の側ほど小さく形成することができる。
【0013】
(効果)
本構成であれば、流路の断面積の縮小に伴って流体の流勢が向上するため、流体の吐水速度が高く設定され、勢いのある吐水流を得ることができる。
【0014】
(特徴構成)
本発明に係るノズルにおいては、前記吐水側端面における前記溝流路の開口形状が、前記軸心から最も離れた位置で二つの辺が交差して形成される角部を有するものであれば好都合である。
【0015】
(効果)
ノズル本体の吐水側端面での溝流路の開口形状が、二つの辺が交差して角部を形成するものであれば、流体が溝流路から吐水される際に、二辺の近傍に存在する溝流路の壁面との接触の影響を受けた流体が、角部に対して軸心から更に遠ざかる方向に吐水される。これにより、流体の吐水方向の広がりをより広く確保することができる。
【0016】
(特徴構成)
本発明に係るノズルにおいては、前記中央流路および前記溝流路の前記軸心に垂直な断面視において、前記中央流路の中央輪郭線が円形であり、前記溝流路を、前記角部を形成するように交差する二つの第1輪郭線と、当該第1輪郭線の夫々の端部と前記中央流路とを接続する第2輪郭線と、で構成することができる。
【0017】
(効果)
本構成では、特に溝流路の角部が二つの第1輪郭線で形成され、これら第1輪郭線と中央流路の円形の中央輪郭線とが溝流路の第2輪郭線で接続される。つまり、吐水形状に大きく寄与する角部の形状が二本の第1輪郭線によって規定され、これら第1輪郭線と中央流路の中央輪郭線とを接続するように第2輪郭線が配置される。
【0018】
これにより、吐水形状が所期のものとなるように先ず第1輪郭線によって角部の形状を決定し、さらに第1輪郭線と中央流路の中央輪郭線とを滑らかに接続することができる。本構成であれば、中央流路に係る吐水形状と、角部に係る広がりを持たせた吐水形状とを連続的に変化させることができる。
【0019】
(特徴構成)
本発明に係るノズルにおいては、前記第2輪郭線を、前記溝流路の外側に曲率中心を持つ曲線で構成することができる。
【0020】
(効果)
本構成であれば、溝流路の角部の角度をより鋭角に構成することができる。よって、吐水される流体は溝流路の二つの面の影響をより強く受け、吐水流の広がり角度がさらに大きいものとなる。
【0021】
(特徴構成)
本発明に係るノズルにおいては、前記吐水側端面に、前記軸心に沿う方向視において、前記角部から前記軸心の径方向外側に延出する切欠部を形成することができる。
【0022】
(効果)
本構成の切欠部を形成することで、流路を流通する流体は、切欠部と角部が交差する箇所で最初に流路から吐水される。一方、中央流路のうち切欠部とは交差せずノズルの吐水側端面と交差する部位から吐水される流体は、切欠部を通過する流体に比べて少し遅れて吐水される。この結果、切欠部の近傍を通過する流体は、流路の中央を通過する流体に比べて早いタイミングでノズルから離間する。
【0023】
流体が切欠部の部位で離間する際の流体に作用する圧力をみた場合、流体が拘束されている中央側の圧力に比べ、流路の内面による拘束が無くなった切欠部側の圧力が一気に低下する。この結果、切欠部を通過した流体の吐水方向は、軸心から遠ざかる方向に急変する。
【0024】
また、溝流路の終端部に到達した流体は、二つの第1輪郭線によって形成される角部の内壁との間に表面張力を発生させ、角部を通過する際には、さらに角部の側に移動することで流体の表面積を減少させようとする。加えて、角部には切欠部が軸心の径方向外側に連接されているから、流水は切欠部の底部に沿って径方向外側に移動し、自身の表面積を小さく維持しようとする。
【0025】
このように切欠部を設けることで、角部を通過した流体は吐水流束の中心に対して切欠部の方向にさらに広がった形となる。
【0026】
(特徴構成)
本発明に係るノズルにおいては、前記溝流路を、前記軸心を中心とした対向方向に夫々一つ形成することができる。
【0027】
(効果)
軸心を挟んだ対向方向に溝流路を夫々設けることで、吐水流体が大きく扇状に広がったものにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】第1実施形態に係るノズルの外観を示す斜視図
【
図2】第1実施形態に係るノズルの概要を示す分解斜視図
【
図3】第1実施形態に係るノズルの形状を示す断面図
【
図4】第1実施形態に係るノズルの先端部形状を示す一部断面斜視図
【
図5】第1実施形態に係るノズルの開口形状を示す説明図
【
図6】第2実施形態に係るノズルの先端部形状を示す一部断面斜視図
【
図7】第2実施形態に係るノズルの吐水形状を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0029】
(概要)
本発明のノズルNは、水などの流体を所定の速度を維持したまま広範囲に吐水するものである。以下、図面を参照しつつ本願発明のノズルNの実施形態につき説明する。
【0030】
〔第1実施形態〕
図1乃至
図5に第1実施形態に係るノズルNを示す。
図1および
図2に示すように、当該ノズルNは、各種の給水器具の先端に取り付けられるノズル本体N1を備えている。ノズル本体N1の中心部には、軸心Xの方向に沿って流体を流通させる流路Rが貫通形成してある。
図3に示すように、流路Rは複数の絞り部30を介して吐水側端面1に近付くほど内径が縮小する。これにより、単に下流側ほど流体の圧力を高めるだけでなく、接続部として機能するノズル本体N1の基端側形状を確保しつつ、先端側で求められる流路Rの傾斜状態を最適化することができる。
【0031】
ノズル本体N1の吐水側端面1の近傍には、内径を大きく絞った出口側絞り部31が形成され、ここで流体の圧力および流勢がさらに増大する。
【0032】
出口側絞り部31のさらに先端側の流路Rは、ノズルNから吐水された流体の流勢および形状を規定する部位として機能する。以降においては、単に流路Rという場合にはこの先端側のものを意味するものとする。
【0033】
図2に示すように、ノズル本体N1のうち軸心Xに沿った中央部から基端側は、例えば二分割された半筒状の第1カバーC1と第2カバーC2で覆われる。具体的には、先ず、流通・止水ボタンBをノズル本体N1に挿入し、第1カバーC1のリング状部分32をノズル本体N1の筒状端部33に挿通しつつ第1カバーC1をノズル本体N1に位置合わせする。次に、第2カバーC2の爪部34をノズル本体N1の側壁部35の縁部に係止させつつ第2カバーC2をノズル本体N1に位置合わせする。第1カバーC1および第2カバーC2の夫々にはノズル本体N1の表面各部に対して位置固定可能な凹凸部が形成されている。第2カバーC2の取り付けにより、第1カバーC1および第2カバーC2の縁部どうしが当接状態となりノズル本体N1が覆われる。
【0034】
ノズル本体N1のうち軸心Xに沿った中央部から先端側には、円筒状の第3カバーC3が取り付けてある。第3カバーC3は、基端側の円筒開口部36を、第1カバーC1と第2カバーC2で形成される筒状の端部に外挿させて取り付ける。これにより、ノズル本体N1の先端側領域の周囲が取り囲まれ、吐水側端面1などが他物との衝突から保護される。
【0035】
尚、
図1(a)(b)には、第3カバーC3として完全な円筒形のものと、先端が楕円断面を有するものとを併記してある。楕円断面の第3カバーC3は、第1カバーC1および第2カバーC2に対して回転規制された状態で取り付け可能であり、楕円の長径方向と吐水の広がり方向とを一致させてある。よって、吐水を開始する前に第3カバーC3の形状により吐水方向を確認することができる。
【0036】
(ノズル本体)
本実施形態のノズル本体N1にあっては、特に、先端側の流路Rの形状に特徴を有する。
図4に示すように、当該流路Rは、ノズル本体N1の中央に貫通形成された中央流路R1と、この中央流路R1の内壁面R11に溝状に形成された溝流路R2とを有する。
【0037】
溝流路R2は、中央流路R1の軸心Xに沿って延出し、ノズル本体N1の吐水側端面1に達している。
図4では、溝流路R2は、出口側絞り部31の下流側直下の部位から形成してある。また、溝流路R2は、軸心Xを挟んで対向する位置に各一つ形成してある。本構成であれば、後述するように吐水方向を大きく広げることができ、特にこの場合、軸心Xを中心にして二方向に広がった扇状の吐水形状を得ることができる。ただし、溝流路R2は、中央流路R1に対して一つだけ設けてもよく、求められる吐水形状に応じて任意の数だけ設けるとよい。
【0038】
(中央流路)
図3乃至
図5に示すように、ノズル本体N1に形成される中央流路R1は何れの位置においても軸心Xに垂直な断面形状が略円形である。その断面積F1は、中央流路R1の先端側ほど小さくなる。また、軸心Xを含む断面視においては、中央流路R1は先細の円錐状を呈する。
【0039】
図4に示すように、中央流路R1の対向する内壁面R11がなす角度をノズル角度D1と称する。ノズル角度D1は、狭すぎると流体の圧力や流勢を高める効果が低下し、大き過ぎると流体の圧損が増大して吐水効率が下がるうえ、流路Rの長さが短くなって溝流路R2を形成する領域が確保できなくなる。
【0040】
ノズル角度D1の具体的な大きさについては以下のとおりである。例えば流体が水である場合、流勢を維持するためには、ノズル角度D1は1度以上、15度以下が望ましく、中でも5度以上、10度以下がより望ましい。一方、吐水形状をより広げるにはノズル角度D1が10度以上、45度以下が望ましく、特に、15度以上、30度以下がより望ましい。よって、これらを勘案すると、流勢と吐水形状の双方ともが満足できるノズル角度D1としては15度が望ましい。
【0041】
(溝流路)
図4および
図5には、中央流路R1の内壁面R11のうち軸心Xを挟んで対向する位置に溝流路R2を形成する例を示す。
図5に示すように、溝流路R2は、中央流路R1の一部から軸心Xに対して外方に突出した状態に形成される。ここでは溝流路R2の断面形状は略三角形を呈し、軸心Xから最も遠い位置には二つの面R21が交差して角部2が形成される。二つの面R21は例えば平面であり、これら二つの面R21の交差角度すなわち角部角度D2は鋭角になるように構成してある。
【0042】
二つの面R21は、溝流路R2の全長に亘って形成される角部2の全てと軸心Xとを含む平面を挟んで対称となるように構成するのが好ましい。対称配置であれば、角部2を通過した流体は、軸心Xに対して正反対の方向に遠ざかるように吐水される。
【0043】
図5に示すように流路Rの任意の位置を軸心Xに沿って見た場合、溝流路R2の輪郭は、第1輪郭線E1および第2輪郭線E2(波線表示)で構成される。第1輪郭線E1は、鋭角状の角部2を形成するよう交差した二つの輪郭線である。二つの面R21が平面の場合、第1輪郭線E1は直線となる。尚、角部2には丸みを持たせない方が、表面張力による流体の角部2への引き付け効果が高まる。よって、角部2は例えばR0.05mm以下に形成するのが望ましい。
【0044】
第2輪郭線E2は、第1輪郭線E1の端部と中央流路R1の円形の中央輪郭線E3とを滑らかに接続する部分である。ここでの第2輪郭線E2は、流路Rの外側に曲率中心Pを持つ曲線で構成してある。第2輪郭線E2の曲率としては、例えば、輪郭線E2の曲率半径が中央流路R1の直径の約60%となるように構成してある。具体的には、中央流路R1の直径が1.6mmであり、輪郭線E2の曲率半径が1mmである。
【0045】
本構成にあっては、吐水形状が所期の広がりを持つように先ず第1輪郭線E1によって角部2の形状を決定し、さらに第1輪郭線E1と中央流路R1の中央輪郭線E3とを曲線状の第2輪郭線E2で滑らかに接続する。これにより、流体が流路Rを流下する際に中央流路R1から溝流路R2に移動し易くなり、吐水側端面1における角部2に対して流体を確実に供給することができる。よって、角部2における表面張力の効果が確実に発揮され、吐水の広がり角度が非常に大きなものとなる。
【0046】
吐水側端面1における角部角度D2は、吐水の広がりを決定するうえで非常に重要である。具体的な角度としては、軸心Xの近傍の吐水流勢と角部2から広がった吐水の流勢とを略等しくするために、角部角度D2を45度以上90度以下にするのが望ましい。特に、55度以上80度以下であれば吐水の流勢は吐水領域の全般において略均一なものとなる。
【0047】
尚、角部角度D2は、溝流路R2の延出方向に沿った各位置では異なるものとなる。流通方向の上手側では、角部2は中央流路R1の内壁面R11を僅かに彫り込んだ状態で形成されるから、角部角度D2は例えば鈍角となる。一方、溝流路R2の下手側に位置するほど、中央流路R1の内壁面R11からの掘り込み深さは大きくなり、角部角度D2は下手側ほど小さい鋭角となる。吐水側端面1では、中央流路R1の軸心Xに垂直な断面積F1は最小となり、中央流路R1の内径に対する溝流路R2の掘り込み深さの割合が最大となるから、中央流路R1の断面積F1に対する一つの溝流路R2の断面積F2の比率が最大となる。
【0048】
(中央流路と溝流路との相関)
中央流路R1および溝流路R2を合せた流路Rの軸心Xに垂直な断面積は、吐水側端面1の側ほど小さくなるように形成される。これにより、流路Rの断面積の縮小に伴って流体の流勢が高まり、例えば、流速の大きな吐水流を得ることができる。
【0049】
また、広がりを持った吐水につき、中央付近の吐水量と広がり周辺付近の吐水量とを調整するには、中央流路R1の断面積F1と溝流路R2の断面積F2との比率に留意するとよい。具体的には、吐水側端面1における(溝流路R2の断面積F2の合計)/(中央流路R1の断面積F1)の値を24%~33%に設定するのがよい。
【0050】
上記のとおり、本構成のノズルNにおいて、吐水流勢はノズル角度D1およびノズルNの吐水側端面1における流路Rの開口面積で決定される。また、吐水の広がり形状は、溝流路R2の角部角度D2と、中央流路R1の断面積F1および溝流路R2の断面積F2によって決定される。尚、吐水流勢に係る要素と広がり形状に係る要素との相互の従属性は低いためノズルNの形状設計は容易となる。
【0051】
(ノズル本体の製造方法)
ノズル本体N1は、例えば、樹脂材料を用いた射出成形により得ることができる。中央流路R1および溝流路R2は吐水側端面1に向けて縮小するから、ノズル本体N1の基端部の側から一つの入れ子を挿入して流路Rを形成することができ、金型の構成が簡略化される。尚、樹脂材料の他に、アルミニウム材料を用いたアルミダイカストによる成形も可能である。
【0052】
〔第2実施形態〕
図6に、第2実施形態に係るノズル本体N1を示す。ここでは、吐水側端面1に、軸心Xに沿う方向視において、角部2から外側に延出する切欠部Kを形成してある。具体的には、左右の角部2から軸心Xの径方向に沿って直線状に延出し、当該延出方向に沿った断面視において略三角形状の断面を有している。切欠部Kを形成する二つの側面K1は平面である。この二つの側面K1の交線は底部3となる。底部3は、溝流路R2の角部2に連接させておく。また、切欠部Kの延出方向に沿った断面視において、底部3には曲線状の部位を形成しないのが好ましい。このように切欠部Kを設けることで、流水が角部2から底部3に回り込み易くなり、吐水方向の広がりが大きくなる。
【0053】
切欠部Kの具体的寸法としては、中央流路R1および溝流路R2の端部開口面積にもよるが、深さは、例えば吐水側端面1から0.6~0.8mmとするのが好ましい。また、吐水側端面1における切欠部Kの幅は、例えば0.9~1.1mmとするのが好ましい。
【0054】
このような切欠部Kを形成することで、流路Rを流通する流体のうち溝流路R2を流通する流体が、角部2と切欠部Kが交差する位置で最初にノズル本体N1から離間する。一方、中央流路R1のうち切欠部Kとは交差せず吐水側端面1と交差する部位から吐水される流体は、切欠部Kを通過する流体に比べてノズル本体N1からの離間が少し遅れる。
【0055】
溝流路R2を通過し、切欠部Kの部位でノズル本体N1から最も早く離間した流体に作用する圧力をみた場合、未だ流体が拘束されている中央流路R1の圧力に比べて、早期に離間した流体の圧力は小さい。よって、切欠部Kを通過した流体には軸心Xから遠ざかる方向に圧力が作用し、吐水方向は軸心Xから遠ざかる方向に急変する。
【0056】
また、溝流路R2の終端部に到達した流体は、二つの第1輪郭線E1に係る面R21との間に生じる表面張力によって表面積を減少させようと角部2の側に引き付けられる。さらに、角部2を通過する際には、角部2に連接された切欠部Kの側面K1との間に発生する表面張力によって、自身の表面積を小さく維持しようと径方向外側に移動する。
【0057】
このように切欠部Kを設けることで、角部2を通過した流体の吐出方向がさらに広がる。この場合でも、流通する流体の内部で極端な圧力上昇が生じることはなく、吐水流勢を落とさずに扇形に広がった吐水形状を得ることができる。特に、軸心Xに対して対向配置される二つの切欠部Kの方向を一直線上に揃えることで、扇形の吐水領域がより平面的となり、軸心Xを挟んで左右均等に広がった扇形を得ることができる。
【0058】
尚、切欠部Kの形状としては、側面K1を平面で構成する他に曲面で構成しても良い。その場合、底部3から吐水側端面1に近付くにつれて側面K1どうしの幅がラッパ状に広くなるものであっても良いし、反対にU字状のごとく吐水側端面1に近付くほど幅は増大するものの、幅の増加割合が次第に減少するものであっても良い。
【0059】
切欠部Kの延出方向は、軸心Xに対して垂直方向である他に、角部2から軸心Xとは反対方向に離れるにつれて中央流路R1に沿う流通方向の下手側或いは上手側に偏位するものであっても良い。特に、流通方向の下手側に変位する場合には、角部2の近傍では流通方向下手側に沿って切欠部Kが延出し、角部2から離間するに伴って軸心Xに対して直角方向に近付くように偏向するようなラッパ状に形成することができる。要するに、角部2を通過する流体が切欠部Kの側面K1との間で表面張力を発揮し易い構成とし、吐水方向を効果的に広げ得るものであれば何れの構成であっても良い。
【0060】
〔実施例〕
図7には、第2実施形態に係るノズルNと、従来型のノズルを用いた場合の吐水形状の異なりを示す。
【0061】
従来形状のノズルとしては、ノズル本体の先端に半球状の空間を形成し、その先端部に略楕円型の開口部を設けたものである。また、開口部の外側には、断面が台形状であって開口部の長手方向に延出する溝を設けてある。
【0062】
従来型ノズルの場合には、開口部における長径方向の両端部からやや広がった状態にまとまった流量の流体が分散吐出され、当該吐出流の外側に、開口部の長径方向の両端部を起点としてやや流量の少ない吐水領域が形成される。
【0063】
一方、第2実施形態のノズルNを用いた場合には、双方の角部2を起点として扇形に広がった吐水流が形成される。特に、扇形の双方の外縁部には流量が多く流勢のある吐水領域が形成された。
【0064】
〔第3実施形態〕
溝流路R2の数は二つに限定されるものではなく、一つであってもよいし、三つ以上であってもよい。溝流路R2が一つであっても平面状に広がった吐水形状を得ることができる。また、三つの溝流路R2を、軸心Xに対して周方向に三等分した位置に設けた場合には、三角柱状の吐水形状を得ることができるし、溝流路R2を五つ形成した場合には星形の筒状吐水を得ることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明に係るノズルは、ノズル本体の内部に各種の流体を流通させる流路が貫通形成され、ノズル本体の先端で圧力を高めたのち吐水方向を所定方向に広げるものに広く適用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 吐水側端面
2 角部
E1 第1輪郭線
E2 第2輪郭線
E3 中央輪郭線
K 切欠部
N ノズル
N1 ノズル本体
R 流路
R1 中央流路
R2 溝流路
X 軸心