(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】腎障害の予防剤または治療剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/26 20060101AFI20241018BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20241018BHJP
A61K 31/05 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
A61K31/26
A61P13/12
A61K31/05
(21)【出願番号】P 2021527337
(86)(22)【出願日】2020-01-17
(86)【国際出願番号】 JP2020001598
(87)【国際公開番号】W WO2020255464
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2019114970
(32)【優先日】2019-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517139820
【氏名又は名称】特定非営利活動法人日本バイオストレス研究振興アライアンス
(74)【代理人】
【識別番号】110003797
【氏名又は名称】弁理士法人清原国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】糟野 健司
(72)【発明者】
【氏名】岩野 正之
(72)【発明者】
【氏名】淀井 淳司
【審査官】植原 克典
(56)【参考文献】
【文献】SHOKEIR, A A et al.,Activation of Nrf2 by ischemic preconditioning and sulforaphane in renal ischemia/reperfusion injury,Physiol Res,2015年,Vol.64, No.3,p.313-323
【文献】RYOO, I G et al.,Inhibitory role of the KEAP1-NRF2 pathway in TGFβ1-stimulated renal epithelial transition to fibrob,PLoS One,2014年,Vol.9, No.4,e93265
【文献】GUERRERO-BELTRAN C E et al.,Sulforaphane, a natural constituent of broccoli, prevents cell death and inflammation in nephropathy,J Nutr Biochem,2012年,Vol.23, No.5,p.494-500
【文献】前田 章光,急性腎障害,月刊薬事,2018年,Vol.60, No.4,p.77-81
【文献】NEGRETTE-GUZMAN, M et al.,Sulforaphane attenuates gentamicin-induced nephrotoxicity: role of mitochondrial protection,Evid Based Complement Alternat Med,2013年,Vol.2013,Article ID 135314
【文献】副島 昭典,急性腎不全,日本臨床,2002年,第60巻, 増刊号4,p.636-641
【文献】SHANG, G et al.,Sulforaphane attenuation of experimental diabetic nephropathy involves GSK-3 beta/Fyn/Nrf2 signaling,J Nutr Biochem,2015年,Vol.26,p.596-606
【文献】GUERRERO-BELTRAN C E et al.,Tert-butylhydroquinone pretreatment protects kidney from ischemia-reperfusion injury,J Nephrol,2012年,Vol.25, No.1,p.84-89
【文献】PEREZ-ROJAS J M et al.,Preventive effect of tert-butylhydroquinone on cisplatin-induced nephrotoxicity in rats,Food Chem Toxicol,2011年,Vol.49, No.10,p.2631-2637
【文献】LI, H et al.,Attenuation of glomerular injury in diabetic mice with tert-butylhydroquinone through nuclear factor,Am J Nephrol,2011年,Vol.33, No.4,p.289-297
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/122、31/26
A61K45/00
A61P13/12、43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
BIOSIS/MEDLINE/CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオレドキシン誘導剤を有効成分として含有している、
急性腎障害から慢性腎臓病への移行を防ぐ治療剤であって、
前記チオレドキシン誘導剤は、スルフォラファン、tert-ブチルヒドロキノン、または、これらの塩であり、
前記チオレドキシン誘導剤により、腎細胞の細胞周期におけるG
2
期からM期への進行停止状態が解除され、チオレドキシンが腎細胞から排出されることで生じる慢性腎臓病を治療する、急性腎障害から慢性腎臓病への移行を防ぐ治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腎障害の予防剤または治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
腎障害は、死亡率が高く、かつ、予後不良な疾患である。例えば、重症の急性腎障害(acute kidney injury:AKI)では、死亡率が50%を上回る。
【0003】
急性腎障害から慢性腎臓病へ移行(AKI to CKD transition)すると、当該患者の一部は、透析を受ける必要がある。急性腎障害から慢性腎臓病への移行によって透析が必要になった患者の数は、日本国内の透析患者の数の約1/4(約8万人)に達するとされている。
【0004】
急性腎障害から慢性腎臓病へ移行するメカニズムについては、研究が進められており、腎細胞の細胞周期がG2期からM期へ進行せずに停止することが、急性腎障害から慢性腎臓病へ移行させるメカニズムの1つであると報告されている(非特許文献1参照)。
【0005】
また、腎障害は、様々に分類され得、腎障害の例として、急性腎障害から慢性腎臓病への移行、カルシニューリンインヒビター腎症、糖尿病性腎臓病、腎硬化症、および、腎移植に伴う腎障害などの虚血あるいは酸化ストレスあるいは腎間質の線維化による腎障害が挙げられる。
【0006】
上述した状況にあって、腎障害の予防剤および治療剤の開発に注目が集まっている。心臓手術に伴う急性腎障害に関しては、現在、p53の阻害剤(QPI-1002)にて患者を処置する方法の開発が進められており、当該方法に関しては、現在、第III相治験が実施されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Li Yang et al., “Epithelial cell cycle arrest in G2/M mediates kidney fibrosis after injury” Nature Medicine, Vol.16, No.5, May 2010, p535-543
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述のようなp53の阻害剤を用いる技術は、発癌リスクを増加させるなど、多くの副作用を有している。それ故に、腎障害の新たな予防剤または治療剤の開発が、求められている。
【0009】
本発明の一態様は、腎障害の新たな予防剤または治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る腎障害の予防剤または治療剤は、チオレドキシン誘導剤を有効成分として含有している。
【0011】
本発明の一態様に係る腎障害の予防剤または治療剤では、上記チオレドキシン誘導剤は、スルフォラファン、tert-ブチルヒドロキノン、または、これらの誘導体もしくは塩である。
【0012】
本発明の一態様に係る腎障害の予防剤または治療剤では、上記腎障害は、初期の慢性腎障害である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、腎障害の新たな予防剤または治療剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施例に係るチオレドキシン誘導剤が有する、チオレドキシンのmRNAの発現増強効果を示すグラフである。
【
図2】本発明の実施例に係るチオレドキシン誘導剤が有する、チオレドキシンのタンパク質の発現増強効果を示すグラフである。
【
図3】本発明の実施例において、チオレドキシンを強制発現することによる、急性腎障害から慢性腎臓病への移行抑制効果を示す像である。
【
図4】本発明の実施例に係るチオレドキシン誘導剤が有する、腎間質の線維化抑制効果を示す像である。
【
図5】本発明の実施例に係るチオレドキシン誘導剤が有する、CTGFのmRNAおよびTGF-βのmRNAの発現抑制効果を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施例に係るチオレドキシン誘導剤が有する、血液中の血清クレアチニンの濃度上昇の抑制効果を示すグラフである。
【
図7】本発明の実施例に係るチオレドキシン誘導剤が有する、急性腎障害から慢性腎臓病への移行抑制効果、具体的にはリン酸化ヒストンH3タンパク質の濃度上昇の抑制効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態及び実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態及び実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。本明細書中、数値範囲に関して「A~B」と記載した場合、当該記載は「A以上B以下」を意図する。
【0016】
〔1.腎障害の予防剤または治療剤〕
本発明の一実施形態に係る腎障害の予防剤または治療剤は、チオレドキシン誘導剤を有効成分として含有している。
【0017】
上記腎障害の具体例としては、急性腎障害(例えば、発症後の急性腎障害)、および、慢性腎障害を挙げることができる。慢性腎障害は、初期の慢性腎障害であることが好ましい。初期の慢性腎障害の具体例としては、例えば、急性腎障害から慢性腎臓病への移行、急性腎障害、カルシニューリンインヒビター腎症、糖尿病性腎臓病、腎硬化症、および、腎移植に伴う腎障害などの虚血あるいは酸化ストレスあるいは腎間質の線維化による腎障害を挙げることができる。
【0018】
本明細書において「予防剤」とは、予防効果をもたらす薬剤を意図する。上記予防効果とは、以下に例示される効果を意図するが、これらに限定されるものではない。
【0019】
(a)予防剤を投与しなかった場合と比較して、腎障害に係る1つ以上の症状の発症を防止する、または、発症のリスクを低減する。
【0020】
(b)予防剤を投与しなかった場合と比較して、腎障害に係る1つ以上の症状の再発を防止する、または、再発のリスクを低減する。
【0021】
(c)予防剤を投与しなかった場合と比較して、腎障害に係る1つ以上の症状の兆候が生じることを防止する、または、兆候が生じるリスクを低減する。
【0022】
本明細書において「治療剤」とは、治療効果をもたらす薬剤を意図する。上記治療効果とは、以下に例示される効果を意図するが、これらに限定されるものではない。
【0023】
(d)治療剤を投与しなかった場合と比較して、腎障害に係る1つ以上の症状の重症度を低減する。
【0024】
(e)治療剤を投与しなかった場合と比較して、腎障害に係る1つ以上の症状の重症度の増加、または、症状の進行を防止する。
【0025】
(f)治療剤を投与しなかった場合と比較して、腎障害に係る1つ以上の症状の重症度の増加速度、または、症状の進行速度を低減する。
【0026】
本発明の一実施形態に係る腎障害の予防剤または治療剤は、より具体的に、(g)急性腎障害の予防剤もしくは治療剤、または、(h)慢性腎臓病へ移行する急性腎障害(例えば、慢性腎臓病へ移行する前の急性腎障害、または、慢性腎臓病へ移行中の急性腎障害)の予防剤もしくは治療剤、であってもよい。
【0027】
本実施の形態の腎障害の治療剤は、チオレドキシン誘導剤を有効成分として含有している。チオレドキシン誘導剤は、チオレドキシン(thioredoxin:TRX)タンパク質の量を増加させ得るものであればよく、チオレドキシン誘導剤の作用機序は限定されない。例えば、チオレドキシン誘導剤は、チオレドキシンmRNAの転写量を増加させるものであってもよく、チオレドキシンmRNAの分解を減少させるものであってもよく、チオレドキシンタンパク質の翻訳量を増加させるものであってもよく、チオレドキシンタンパク質の分解を減少させるものであってもよい。
【0028】
上記チオレドキシン誘導剤は、より具体的に、以下のものであってもよい:
(1)スルフォラファン(1-isothiocyanato-4-(methylsulfinyl)-butane);
(2)tert-ブチルヒドロキノン(2-(1,1-Dimethylethyl)-1,4-benzenediol);(3)上述した(1)~(2)の誘導体または塩。
【0029】
本明細書において、「誘導体」とは、特定の化合物に対して、当該化合物の分子内の一部が、他の官能基または他の原子と置換されることにより生じる化合物群を意図する。上記他の官能基の例としては、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアルキル基、アリールアルコキシ基、アリールアルキルチオ基、アリールアルケニル基、アリールアルキニル基、アリル基、アミノ基、置換アミノ基、シリル基、置換シリル基、シリルオキシ基、置換シリルオキシ基、アリールスルフォニルオキシ基、アルキルスルフォニルオキシ基、ニトロ基などが挙げられる。上記他の原子の例としては、炭素原子、水素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、ハロゲン原子などが挙げられる。
【0030】
本明細書において、「塩」とは、医薬品として被験体に投与することが生理学的に許容されうる塩であるならば、限定されない。塩の例としては、アルカリ金属塩(カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩など)、アンモニウム塩、有機塩基塩(トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ピリジン塩、ピコリン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン塩など)、有機酸塩(酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、蟻酸塩、トルエンスルホン酸塩、トリフルオロ酢酸塩など)、無機酸塩(塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、燐酸塩など)を挙げられる。
【0031】
上記チオレドキシン誘導剤は、公知の手法により製造することができる。勿論、市販のチオレドキシン誘導剤を用いることも可能である。
【0032】
本発明の一実施形態に係る腎障害の予防剤または治療剤は、上述した有効成分(チオレドキシン誘導剤)以外の成分を含有していてもよい。有効成分以外の成分は、薬学的に許容され得る成分であればよく、例えば、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、防腐剤、抗酸化剤、高分子量重合体、賦形剤、溶媒、安定化剤などであり得る。
【0033】
上記緩衝剤の例としては、リン酸またはリン酸塩、ホウ酸またはホウ酸塩、クエン酸またはクエン酸塩、酢酸または酢酸塩、炭酸または炭酸塩、酒石酸または酒石酸塩、ε-アミノカプロン酸、トロメタモールなどが挙げられる。上記リン酸塩としては、リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウムなどが挙げられる。上記ホウ酸塩としては、ホウ砂、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウムなどが挙げられる。上記クエン酸塩としては、クエン酸ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウムなどが挙げられる。上記酢酸塩としては、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどが挙げられる。上記炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられる。上記酒石酸塩としては、酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウムなどが挙げられる。
【0034】
上記pH調整剤の例としては、塩酸、リン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。
【0035】
上記等張化剤の例としては、イオン性等張化剤(塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなど)、非イオン性等張化剤(グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マンニトールなど)が挙げられる。
【0036】
上記防腐剤の例としては、ベンザルコニウム塩化物、ベンザルコニウム臭化物、ベンゼトニウム塩化物、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クロロブタノールなどが挙げられる。
【0037】
上記抗酸化剤の例としては、アスコルビン酸、トコフェノール、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、エリソルビン酸ナトリウム、没食子酸プロピル、亜硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0038】
上記高分子量重合体の例としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール、アテロコラーゲンなどが挙げられる。
【0039】
上記賦形剤の例としては、乳糖、白糖、D-マンニトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール、デンプン、結晶セルロースなどが挙げる。
【0040】
上記溶媒の例としては、生理的食塩水、アルコールなどが挙げられる。
【0041】
本発明の一実施形態に係る腎障害の予防剤または治療剤に含まれる有効成分の量は、特に限定されない。本発明の一実施形態に係る腎障害の予防剤または治療剤に含まれる有効成分の量は、例えば、薬剤の総重量に対して、0.001重量%~100重量%であってもよく、0.01重量%~100重量%であってもよく、0.1重量%~100重量%であってもよく、0.1重量%~95重量%であってもよく、0.1重量%~90重量%であってもよく、0.1重量%~80重量%であってもよく、0.1重量%~70重量%であってもよく、0.1重量%~60重量%であってもよく、0.1重量%~50重量%であってもよく、0.1重量%~40重量%であってもよく、0.1重量%~30重量%であってもよく、0.1重量%~20重量%であってもよく、0.1重量%~10重量%であってもよい。
【0042】
本発明の一実施形態に係る腎障害の予防剤または治療剤に含まれる有効成分以外の成分の量は、特に限定されない。本発明の一実施形態に係る腎障害の予防剤または治療剤に含まれる有効成分以外の成分の量は、例えば、薬剤の総重量に対して、0重量%~99.999重量%であってもよく、0重量%~99.99重量%であってもよく、0重量%~99.9重量%であってもよく、5重量%~99.9重量%であってもよく、10重量%~99.9重量%であってもよく、20重量%~99.9重量%であってもよく、30重量%~99.9重量%であってもよく、40重量%~99.9重量%であってもよく、50重量%~99.9重量%であってもよく、60重量%~99.9重量%であってもよく、70重量%~99.9重量%であってもよく、80重量%~99.9重量%であってもよく、90重量%~99.9重量%であってもよい。
【0043】
本発明の一実施形態に係る腎障害の予防剤または治療剤の投与対象は、特に限定されず、ヒトであってもよく、非ヒト動物(例えば、家畜、愛玩動物、および、実験動物)であってもよい。非ヒト動物としては、例えば、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、および、ラットなどが挙げられる。
【0044】
本発明の一実施形態に係る腎障害の予防剤または治療剤は、任意の投与経路によって投与対象に投与され得る。投与経路の例としては、経口投与、非経口投与、経皮投与、経粘膜投与、経静脈投与、経筋注投与、経皮下注投与が挙げられる。したがって、本発明の一実施形態に係る腎障害の予防剤または治療剤の剤型は、内服薬、外用薬、または、注射剤などであり得る。
【0045】
本発明の一実施形態に係る腎障害の予防剤または治療剤を投与する場合、所望の効果が得られるならば、投与間隔に制限はない。上記投与間隔は、例えば、1時間に1回、6時間に1回、12時間に1回、1日間に1回、1週間に1回、2週間に1回、3週間に1回、1箇月間に1回、2箇月間に1回、3箇月間に1回、4箇月間に1回、5箇月間に1回、6箇月間に1回、または、1年間に1回であり得る。
【0046】
〔2.その他〕
<1>チオレドキシン誘導剤を有効成分として含有している腎障害の予防剤または治療剤を被験体(例えば、ヒト、または、非ヒト動物)に投与する工程を有する、腎障害の予防方法または治療方法。
【0047】
<2>上記チオレドキシン誘導剤は、スルフォラファン、tert-ブチルヒドロキノン、または、これらの誘導体もしくは塩である、<1>に記載の腎障害の予防方法または治療方法。
【0048】
<3>上記腎障害は、初期の慢性腎障害(例えば、急性腎障害から慢性腎臓病への移行、カルシニューリンインヒビター腎症、糖尿病性腎臓病、腎硬化症、および、腎移植に伴う腎障害などの虚血あるいは酸化ストレスあるいは腎間質の線維化による腎障害)である、<1>または<2>に記載の腎障害の予防方法または治療方法。
【0049】
<4>腎障害の予防剤または治療剤の製造のためのチオレドキシン誘導剤の使用。
【0050】
<5>上記チオレドキシン誘導剤は、スルフォラファン、tert-ブチルヒドロキノン、または、これらの誘導体もしくは塩である、<4>に記載の使用。
【0051】
<6>上記腎障害は、初期の慢性腎障害(例えば、急性腎障害から慢性腎臓病への移行、カルシニューリンインヒビター腎症、糖尿病性腎臓病、腎硬化症、および、腎移植に伴う腎障害などの虚血あるいは酸化ストレスあるいは腎間質の線維化による腎障害)である、<4>または<5>に記載の使用
【実施例】
【0052】
〔1.チオレドキシン誘導剤によるチオレドキシンの発現誘導〕
マウス尿細管細胞を、公知の培地の中で、培養プレート上にて培養した。マウス尿細管細胞が培養プレートの底面を所定の細胞密度にて覆った時点にて、DMSO(dimethyl sulfoxide)に溶解したチオレドキシン誘導剤(具体的には、最終濃度が0.125μM、または、0.25μMになるようにスルフォラファン(SFN)、または、最終濃度が5μM、または、10μMになるようにtert-ブチルヒドロキノン(tBHQ))を、培地に加えた。また、対照試験として、マウス近位尿細管細胞が培養プレートの底面を所定の細胞密度にて覆った時点にて、上述した試験と同量のDMSOを、培地に加えた。
【0053】
DMSOに溶解したチオレドキシン誘導剤、または、DMSOを培地に加えた後、マウス尿細管細胞を37℃にて24時間培養し、次いで、マウス尿細管細胞を回収した。
【0054】
TOYOBO社製のMagExtractor(登録商標) MFX-200を用いて、マウス尿細管細胞からTotal RNAを精製した。次いで、TOYOBO社製のReverTra Ace(登録商標) qPCR RT kitを用いて、当該Total RNAをcDNAに逆転写し、後述するプローブを用いて、Total RNAに含まれているチオレドキシンのmRNA量およびβ-アクチンのmRNA量を定量した。
【0055】
チオレドキシンのmRNAの定量には、プローブとして、Sigma-Ardrich社製の「SYBR GREEN probe FOR Thioredoxin(TRX)」を用いた。一方、β-アクチンのmRNA量の定量には、プローブとして、Sigma-Ardrich社製の「SYBR GREEN probe FOR β-Actin」を用いた。
【0056】
β-アクチンのmRNA量には、変化が無いと考えられる。そこで、β-アクチンのmRNA量に基づいて、チオレドキシンのmRNA量を補正した。
【0057】
図1に試験結果を示す。
図1から明らかなように、スルフォラファンおよびtert-ブチルヒドロキノンは、共に、チオレドキシンのmRNAの発現を増強した。また、チオレドキシンのmRNAの発現増強効果は、スルフォラファンおよびtert-ブチルヒドロキノンの量に依存していた。
【0058】
〔2.チオレドキシン誘導剤による、In vivoでのチオレドキシンの発現誘導〕
In vivoでのチオレドキシン誘導剤の効果を確認するために、チオレドキシン誘導剤を投与したマウス体内の腎臓における、チオレドキシンのタンパク質を定量化した。なお、当該試験では、虚血再灌流障害を加えたマウスと、虚血再灌流障害を加えなかったマウスと、を用いた。
【0059】
野生型のC57BL/6マウスの腎動脈にクリップを掛け30分後に開放することにより、当該マウスに虚血再灌流障害を加えた。その後、急性腎障害から慢性腎臓病への移行を最もよく観察できる14日間を経過させることにより、急性腎障害から慢性腎臓病への移行を引き起こした。14日が経過する間、毎日、朝夕、当該マウスの皮下に、チオレドキシン誘導剤(具体的には、スルフォラファン(SFN)30μg/1匹/1日、または、tert-ブチルヒドロキノン(tBHQ)1mg/1匹/1日)を注射した。
【0060】
また、比較対照のため急性腎障害を引き起こさない野生型のC57BL/6マウス(腎動脈にクリップ掛けを行っていないマウス)を用い、14日間にわたって、毎日、朝夕、当該マウスの皮下に、チオレドキシン誘導剤(具体的には、スルフォラファン(SFN)30μg/1匹/1日、または、tert-ブチルヒドロキノン(tBHQ)1mg/1匹/1日)を注射した。
【0061】
一方、チオレドキシン誘導剤の対照として、野生型のC57BL/6マウス(腎動脈にクリップ掛けを行ったマウスおよび腎動脈にクリップ掛けを行っていないマウス)を用い、14日間にわたって、毎日、朝夕、当該マウスの皮下に、生理食塩水(Saline)を注射した。
【0062】
14日間が経過した後に、各マウスから、腎臓、血液、および、尿を採取した。
【0063】
チオレドキシン誘導剤がチオレドキシンのタンパク質の量に与える影響を調べるために、腎臓の組織溶解液をウエスタンブロット法によって解析し、組織溶解液に含まれるチオレドキシンタンパク質を抗チオレドキシン抗体で検出した。検出されたシグナルの強度に基づいて、チオレドキシンのタンパク質を定量化した。なお、β-アクチンを内因性のコントロールとして用い、抗チオレドキシン抗体によって検出されたシグナルの強度を、抗β-アクチン抗体によって検出されたシグナルの強度にて除することによって、データの補正を行った。
【0064】
図2に試験結果を示す。なお、
図2において、「Non-AKI」は、虚血再灌流障害を加えなかったマウスの試験結果を示し、「AKI-to-CKD」は、虚血再灌流障害を加えたマウスの試験結果を示す。生理食塩水を注射したマウスでは、チオレドキシンタンパク質の発現量は少なかった。一方、チオレドキシン誘導剤を注射したマウスでは、生理食塩水を注射したマウスと比較して、チオレドキシンタンパク質の発現量が増加していた。
【0065】
虚血再灌流障害を加えたマウスにチオレドキシン誘導剤を注射した場合と、虚血再灌流障害を加えなかったマウスにチオレドキシン誘導剤を注射した場合とを比較すると、虚血再灌流障害を加えたマウスにチオレドキシン誘導剤を注射した場合の方が、虚血再灌流障害を加えなかったマウスにチオレドキシン誘導剤を注射した場合よりも、チオレドキシンタンパク質の発現量が増加していた。
【0066】
〔3.腎臓にてチオレドキシンを強制発現するトランスジェニックマウス、腎障害の発症阻害〕
急性腎障害が発症した後、急性腎障害から慢性腎臓病へ移行(AKI to CKD transition)する。このとき、腎細胞の細胞周期がG2期からM期へ進行せずに停止することが、急性腎障害から慢性腎臓病への移行の原因であると考えられている。腎細胞の細胞周期がG2期からM期へ進行せずに停止すると、リン酸化されたヒストンH3の量が増加することが知られている。このことは、リン酸化されたヒストンH3の量の増加が、急性腎障害から慢性腎臓病への移行を検知するためのマーカーとして機能することを示している。
【0067】
本試験では、腎臓にてチオレドキシンを強制発現するトランスジェニックマウスに対して、人工的に急性腎障害を発症させる処置を施した場合、急性腎障害から慢性腎臓病への移行が生じるか否か、確認した。
【0068】
本試験には、論文「Kasuno K, Nakamura H, Ono T, Muso E, Yodoi J. Protective roles of thioredoxin, a redox-regulating protein, in renal ischemia/reperfusion injury. Kidney Int 64: 1273-1282, 2003」に記載の、腎臓にてチオレドキシンを強制発現するトランスジェニックマウスを用いた(TRX-Tg)。一方、対照試験には、野生型のC57BL/6マウスを用いた(Wt)。
【0069】
腎虚血再潅流障害(renal ischemia reperfusion injury)によって、急性腎障害のモデルマウスを作製することができる。そこで、上述したマウス(TRX-Tg、および、Wt)に腎虚血再潅流障害を加え、これによって、上述したマウスに急性腎障害を発症させるための処置を施した。
【0070】
まず、マウスの腎動脈にクリップを掛け30分後に開放することにより、虚血再灌流障害を引き起こした。虚血再灌流障害を引き起こしてからG2期からM期への停止が最もよく観察できた12時間後に、マウスから腎臓を取り出し、当該腎臓を、抗リン酸化ヒストンH3抗体を用いて染色した。一次抗体である抗リン酸化ヒストンH3抗体としては、abcam社製の「Anti-HistonH3」を用い、二次抗体としては、ヒストファイン シンプルステインを用いた。また、染色法は、一般的な免疫染色法にしたがった。
【0071】
免疫染色法の手順の概略を説明すると、以下のとおりである:
(1)脱パラフィン処理、脱キシレン処理、および、水洗処理、
(2)3% 過酸化水素水処理(10分間)、
(3)水洗処理、
(4)抗原賦活化(レンジ強にて5分間、および、レンジ弱にて10分間)、
(5)冷却処理、および、水洗処理、
(6)PBS洗浄処理、
(7)ブロッキング処理(5分間)、
(8)一次抗体処理(1000倍希釈の一次抗体を用い、4℃にて、一昼夜)、
(9)PBS洗浄処理、
(10)二次抗体処理(30分間)、
(11)PBS洗浄処理、
(12)染色処理、
(13)脱水処理、透徹処理、および、封入処理。
【0072】
図3に試験結果を示す。
図3から明らかなように、腎臓にてチオレドキシンを強制発現するトランスジェニックマウスでは、野生型のC57BL/6マウスと比較して、リン酸化ヒストンH3の量が少なかった。このことは、チオレドキシンの強制発現により腎細胞において細胞周期がG
2期からM期へ進行し、これによって、急性腎障害から慢性腎臓病への移行が抑制されていることを示している。
【0073】
〔4.チオレドキシン誘導剤の投与による、腎障害の発症阻害〕
野生型のC57BL/6マウスの腎動脈にクリップを掛け30分後に開放することにより、虚血再灌流障害を加えた。その後、急性腎障害から慢性腎臓病への移行を最もよく観察できる14日間を経過させることにより、急性腎障害から慢性腎臓病への移行を引き起こした。経過中の14日間毎日、朝夕、当該マウスの皮下に、チオレドキシン誘導剤(具体的には、スルフォラファン(SFN)30μg/1匹/1日、または、tert-ブチルヒドロキノン(tBHQ)1mg/1匹/1日)を注射した。一方、対照試験では、14日間にわたって、毎日、朝夕、当該マウスの皮下に、生理食塩水(Saline)を注射した。虚血再灌流障害を加えてから14日後に、当該マウスから、腎臓、血液、および、尿を採取した。
【0074】
採取した試料を用いて、以下の<A>~<C>に示すように、腎臓の線維化、および、腎臓の機能について試験した。
【0075】
<A.マッソントリクローム染色>
腎間質の線維化は、急性腎障害から慢性腎臓病への移行の原因の一つと考えられている。そこで、採取した腎臓を用いて、マッソントリクローム染色にしたがい、腎間質の線維化が生じているか否か確認した。マッソントリクローム染色は、一般的な方法にしたがった。マッソントリクローム染色の手順の概略を説明すると、以下のとおりである:
(1)脱パラフィン処理、脱キシレン処理、および、水洗処理、
(2)第一媒染剤処理(20分間~30分間)、
(3)水洗処理、
(4)ワイゲルトの鉄へマトキシリン処理(3分間~20分間)、
(5)水洗処理、
(6)色だし用の水洗処理(10分間)、
(7)第二媒染剤処理(30秒間)、
(8)水洗処理(1分間)、
(9)1%酢酸処理、
(10)0.75%オレンジG液処理(1分間)、
(11)1%酢酸処理、
(12)マッソン染色液処理(20分間~30分間)、
(13)1%酢酸処理、
(14)2.5%リンタングステン酸液処理(15分間~30分間)、
(15)1%酢酸処理、
(16)アニリン青処理(3分間~30分間)、
(17)1%酢酸処理、
(18)脱水処理、透徹処理、および、封入処理。
【0076】
図4に試験結果を示す。なお、
図4において、「Non AKI」は、虚血再灌流障害を加えなかったマウスの試験結果を示し、「AKI-to-CKD」は、虚血再灌流障害を加えたマウスの試験結果を示す。また像のうち、左側はマッソントリクローム染色を行った腎臓切片の像であり、右側は前記像を閾値一定で青色のみをチャンネル表示した白黒画像である。生理食塩水を注射したマウスでは、虚血再灌流障害を加えることによって、14日後に腎臓の広い領域にて腎間質の線維化(
図4中、マッソントリクローム染色の青色部分、すなわち閾値一定で青色のみをチャンネル表示した白黒画像の黒い部分)が観察された。一方、チオレドキシン誘導剤を注射したマウスでは、生理食塩水を注射したマウスと比較して、虚血再灌流障害を加えたときに14日後の腎間質の線維化が観察される領域(
図4中、マッソントリクローム染色の青色部分、すなわち閾値一定で青色のみをチャンネル表示した白黒画像の黒い部分)が減少していた。
【0077】
<B.CTGF(Connective tissue growth factor)およびTGF-β(Transforming Growth Factor-β)の発現>
腎間質の線維化は、CTGFおよびTGF-βによって促進されると考えられている。そこで、採取した腎臓を用いて、CTGFおよびTGF-βのmRNAの発現量を測定した。
【0078】
TOYOBO社製のMagExtractor(登録商標) MFX-200を用いて、採取した腎臓からTotal RNAを精製した。次いで、TOYOBO社製のReverTra Ace(登録商標) qPCR RT kitを用いて、当該Total RNAをcDNAに逆転写し、後述するプローブを用いて、Total RNAに含まれているCTGFのmRNA量、TGF-βのmRNA量およびβ-アクチンのmRNA量を定量した。
【0079】
CTGFのmRNAの定量には、プローブとして、Sigma-Ardrich社製の「Connective tissue growth factor(CTGF)」を用いた。また、TGF-βのmRNAの定量には、プローブとして、同社の「Transforming GrowthFactor-β(TGF-β)」を用いた。一方、β-アクチンのmRNA量の定量には、プローブとして、Sigma-Ardrich社製の「SYBR GREEN probe FOR β-Actin」を用いた。またチオレドキシン誘導剤として、SFNおよびtBHQを用いた。
【0080】
β-アクチンのmRNA量には、変化が無いと考えられる。そこで、β-アクチンのmRNA量に基づいて、CTGFおよびTGF-βのmRNA量を補正した。
【0081】
図5に試験結果を示す。
図5において、「Non AKI」は、虚血再灌流障害を加えなかったマウスの試験結果を示し、「AKI」は、虚血再灌流障害を加えたマウスの試験結果を示す。生理食塩水を注射したマウスでは、虚血再灌流障害を加えることによって、14日後のCTGFのmRNA量が増加した。一方、チオレドキシン誘導剤を注射したマウスでは、虚血再灌流障害を加えることによって生じる14日後のCTGFのmRNA量の増加が、抑制された。また、生理食塩水を注射したマウスでは、虚血再灌流障害を加えることによって、14日後のTGF-βのmRNA量も増加した。一方、チオレドキシン誘導剤を注射したマウスでは、虚血再灌流障害を加えることによって生じる14日後のTGF-βのmRNA量の増加が、抑制された。
【0082】
<C.血清クレアチニンの濃度>
腎臓の機能が正常であるか否かは、血液中に含まれる血清クレアチニンの濃度に基づいて判定することができる。血清クレアチニンの濃度は慢性腎臓病の診断基準となっている。そこで、採取した尿を用いて、血液中に含まれる血清クレアチニンの濃度を測定した。
【0083】
血清クレアチニンの濃度は、TOSHIBA TBA-2000FRを用い、公知の酵素法にしたがって測定した。
【0084】
図6に試験結果を示す。なお、
図6において、「Non-AKI」は、虚血再灌流障害を加えなかったマウスの試験結果を示し、「AKI-to-CKD」は、虚血再灌流障害を加えたマウスの試験結果を示す。生理食塩水を注射したマウスでは、虚血再灌流障害を加えることによって、14日後の血液中に含まれる血清クレアチニンの濃度が上昇した。一方、チオレドキシン誘導剤を注射したマウスでは、生理食塩水を注射したマウスと比較して、虚血再灌流障害を加えたときに生じる14日後の血液中に含まれる血清クレアチニンの濃度上昇が抑制された。
<D.リン酸化ヒストンの濃度>
チオレドキシン誘導剤が細胞周期をG
2期からM期へ進行させ、これによって、急性腎障害から慢性腎臓病への移行が抑制されるかを調べるために、腎臓の組織溶解液をウエスタンブロット法によって解析し、組織溶解液に含まれるリン酸化ヒストンH3タンパク質を抗リン酸化ヒストンH3抗体で検出した。検出されたシグナルの強度に基づいて、リン酸化ヒストンH3のタンパク質を定量化した。なお、β-アクチンを内因性のコントロールとして用い、抗リン酸化ヒストンH3抗体によって検出されたシグナルの強度を、抗β-アクチン抗体によって検出されたシグナルの強度にて除することによって、データの補正を行った。
【0085】
図7に試験結果を示す。なお、
図7において、「Non-AKI」は、虚血再灌流障害を加えなかったマウスの試験結果を示し、「AKI-to-CKD」は、虚血再灌流障害を加えたマウスの試験結果を示す。生理食塩水を注射したマウスでは、虚血再灌流障害を加えることによって、14日後の腎臓に含まれるリン酸化ヒストンH3の濃度が上昇した。一方、チオレドキシン誘導剤を注射したマウスでは、生理食塩水を注射したマウスと比較して、虚血再灌流障害を加えたときに生じる14日後の腎臓に含まれるリン酸化ヒストンH3の濃度上昇が抑制された。このことは、チオレドキシン誘導剤により腎細胞において細胞周期がG
2期からM期へ進行し、これによって、急性腎障害から慢性腎臓病への移行が抑制されていることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、腎障害の予防および治療に利用することができる。