(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】天然ガスに含まれる二酸化炭素の処理方法、およびそれで使用する水分散体
(51)【国際特許分類】
B01D 53/14 20060101AFI20241018BHJP
B01D 53/62 20060101ALI20241018BHJP
B01D 53/78 20060101ALI20241018BHJP
C01B 32/50 20170101ALI20241018BHJP
【FI】
B01D53/14 210
B01D53/62
B01D53/78
C01B32/50
(21)【出願番号】P 2023074923
(22)【出願日】2023-04-28
【審査請求日】2023-04-28
(32)【優先日】2022-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500002423
【氏名又は名称】株式会社ジョンクェルコンサルティング
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】落合 茂
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-171706(JP,A)
【文献】特開2021-133318(JP,A)
【文献】特開2022-039025(JP,A)
【文献】特許第7458100(JP,B1)
【文献】特表2017-507771(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0121491(US,A1)
【文献】米国特許第5997833(US,A)
【文献】特表2019-525887(JP,A)
【文献】特表2018-530425(JP,A)
【文献】特開平08-024571(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0001265(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/14-53/18
B01D 53/34-53/73,53/74-53/85,53/92,53/96
C01B 32/00-32/991
C10L 3/00-3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ガスに含まれる二酸化炭素の処理方法であって、
水酸化マグネシウムと、アセトニトリルと、を含む水分散体を準備することと、
前記水分散体と前記天然ガスとを接触させることと、
前記水酸化マグネシウムと前記二酸化炭素とを反応させることと、を備え、
前記水分散体は、金属水酸化物をさらに含み
(但し、前記水分散体はヘキサメチルリン酸トリアミドを含むことを除く)、前記金属水酸化物は、水酸化バリウム、水酸化亜鉛、水酸化ナトリウム、および水酸化カルシウムを含む、ことを特徴とする二酸化炭素の処理方法。
【請求項2】
前記金属水酸化物は、前記水酸化マグネシウムと、前記アセトニトリルと、を含む水分散体に対して、1重量%以上、100重量%以下含まれる、ことを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素の処理方法。
【請求項3】
前記アセトニトリルは、前記水酸化マグネシウムと、前記アセトニトリルと、を含む水分散体中に10重量%以上、40重量%以下含まれる、ことを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素の処理方法。
【請求項4】
前記水酸化マグネシウムと前記二酸化炭素との反応は、前記水分散体を攪拌しながら行われる、ことを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素の処理方法。
【請求項5】
前記水分散体の準備は、
酸化マグネシウムを水に分散させて分散体を準備すること、
前記分散体に、前記アセトニトリルと、前記金属水酸化物と、を投入すること、を備える、ことを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素の処理方法。
【請求項6】
前記酸化マグネシウムは100nm以下の平均粒径(D50)を有する、ことを特徴とする請求項5に記載の二酸化炭素の処理方法。
【請求項7】
前記水酸化マグネシウムと前記二酸化炭素との反応生成物を金属マグネシウム中で加熱して、グラフェンを形成することをさらに含む、ことを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素の処理方法。
【請求項8】
請求項1に記載の二酸化炭素の処理方法で使用する水分散体であって、
前記水分散体は、水と、水酸化マグネシウムと、アセトニトリルと、水酸化バリウムと、水酸化亜鉛と、水酸化ナトリウムと、水酸化カルシウムと、を含む
(但し、前記水分散体はヘキサメチルリン酸トリアミドを含むことを除く)、ことを特徴とする水分散体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ガスに含まれる二酸化炭素の処理方法、およびそれで使用する水分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ガスは、燃焼するときに発生する二酸化炭素の発熱量当りの発生量が少ないため、化石エネルギの中で環境への負荷が少ない燃料とされている。世界的に環境問題への対応やエネルギ資源の多様化への対策が求められる中、天然ガスは石油の代替燃料として注目されている。
【0003】
ガス田や油田から産出される天然ガスは、主成分のメタンに加えて、多くの場合二酸化炭素を含んでいる。そのため、天然ガスは、それに含まれる二酸化炭素が除去された後に、液化天然ガス等の原料としての製品ガスとして利用される。
【0004】
一方、種々のガスに含まれる二酸化炭素の除去または回収する技術としては、吸収液を用いた化学吸収法、物理吸収法、膜分離法、吸着法等が知られている。特許文献1は、水酸化マグネシウムおよびアセトニトリルを含む水分散体を用いて、二酸化炭素を処理する技術を開示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1は、天然ガスに含まれる二酸化炭素を処理することを開示しているが、二酸化炭素の除去の前後で天然ガスに含まれる炭化水素の含有量の変化について検討されていない。
【0007】
本発明の目的は、二酸化炭素の除去の前後で天然ガスに含まれる炭化水素の含有量の減少を抑制することができる二酸化炭素の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、
天然ガスに含まれる二酸化炭素の処理方法であって、
水酸化マグネシウムと、アセトニトリルと、を含む水分散体を準備することと、
前記水分散体と前記天然ガスとを接触させることと、
前記水酸化マグネシウムと前記二酸化炭素とを反応させることと、を備え、
前記水分散体は、金属水酸化物をさらに含み(但し、前記水分散体はヘキサメチルリン酸トリアミドを含むことを除く)、前記金属水酸化物は、水酸化バリウム、水酸化亜鉛、水酸化ナトリウム、および水酸化カルシウムを含む、ことを特徴とする二酸化炭素の処理方法が、提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、二酸化炭素の除去の前後で天然ガスに含まれる炭化水素の含有量の減少を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
[天然ガスに含まれる二酸化炭素の処理方法]
本実施形態に係る天然ガスに含まれる二酸化炭素の処理方法は、水酸化マグネシウムと、アセトニトリルと、を含む水分散体を準備することと、水分散体と天然ガスとを接触させることと、水酸化マグネシウムと二酸化炭素とを反応させることと、を含む。さらに、水分散体は、水酸化バリウム、水酸化亜鉛、水酸化ナトリウム、および水酸化カルシウムを含む金属水酸化物を含む。これにより、天然ガスに含まれる二酸化炭素を除去できるとともに、二酸化炭素の除去処理の前後で天然ガスに含まれる炭化水素の含有量の減少を抑制することができる。さらに、天然ガスから二酸化炭素を除去する際の処理速度を調節することもできる。
【0012】
<天然ガス>
本実施形態に係る天然ガスは、炭化水素、および二酸化炭素を含むものである。天然ガスに含まれる炭化水素は、主にメタンで構成されており、メタン以外の炭化水素としては、エタン、プロパン、イソブタン、n-ブタン、イソペンタン、n-ペンタン、およびヘキサン等が含まれる。また、天然ガスに含まれるメタンの濃度は、一実施形態において、80体積%以上、さらに別の実施形態において90体積%以上、さらに別の実施形態において95体積%以上であり得る。また、天然ガスは、窒素等の不純物も含み得る。
【0013】
天然ガスに含まれる二酸化炭素の濃度は、特に限定されるものでなく、一実施形態において1体積%以上、別の実施形態において2体積%以上、さらに別の実施形態において10体積%以上、さらに別の実施形態において20体積%以上、さらに別の実施形態において40体積%以上であり得る。また、二酸化炭素の濃度は、一実施形態において70体積%以下、別の実施形態において65体積%以下、さらに別の実施形態において60体積%以下、さらに別の実施形態において55体積%以下、さらに別の実施形態において50体積%以下であり得る。これにより、十分な吸収速度および吸収量で、水分散体に二酸化炭素は吸収され得る。本実施形態に係る二酸化炭素の処理方法は、このような濃度の二酸化炭素を含む天然ガスから、二酸化炭素を除去することができるので、高濃度の二酸化炭素を含むガス田等からの天然ガスも処理の対象とすることができる。
【0014】
<水分散体を準備すること>
本実施形態に係る水分散体は、水と、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)と、アセトニトリル(CH3CN)と、水酸化マグネシウム以外の金属水酸化物と、を含む。水分散体の調整において、構成成分の混合の順番は特に限定されない。例えば、水分散体は、水と水酸化マグネシウムとの分散体にアセトニトリル、および金属水酸化物を添加して形成されても、水とアセトニトリルとの混合液に水酸化マグネシウムまたは水酸化マグネシウム前駆体、および金属水酸化物を添加して形成されても、水と、金属水酸化物との分散体に水酸化マグネシウムまたは水酸化マグネシウム前駆体、およびアセトニトリルを添加して形成されても、水酸化マグネシウム、アセトニトリル、および金属水酸化物の分散体に水を添加して形成されてもよい。
【0015】
水と、水酸化マグネシウムと、アセトニトリルと、を含む水分散体中の水酸化マグネシウムの濃度は特に限定されるものでない。水酸化マグネシウムの濃度は内数であり、水酸化マグネシウムと、アセトニトリルと、を含む水分散体中に含まれる、水酸化マグネシウムの割合である。水酸化マグネシウムの濃度は、その固形分含有量として、一実施形態において1重量%以上、別の実施形態において5重量%以上、さらに別の実施形態において10重量%以上、さらに別の実施形態において20重量%以上、さらに別の実施形態において30重量%以上であり得る。これにより、水分散体における二酸化炭素の吸収効率が向上する。また、水酸化マグネシウムの濃度は、その固形分含有量として、一実施形態において80重量%以下、別の実施形態において70重量%以下、さらに別の実施形態において60重量%以下、さらに別の実施形態において50重量%以下、さらに別の実施形態において40重量%以下であり得る。これにより、水分散体が適切な粘度となり、水酸化マグネシウムと二酸化炭素との反応が均一となる。
【0016】
水と、水酸化マグネシウムと、アセトニトリルと、を含む第1水分散体中のアセトニトリルの濃度は特に限定されるものでない。アセトニトリルの濃度は内数であり、第1水分散体中に含まれるアセトニトリルの割合である。アセトニトリルの濃度は、一実施形態において1重量%以上、別の実施形態において5重量%以上、さらに別の実施形態において10重量%以上、さらに別の実施形態において20重量%以上であり得る。また、アセトニトリルの濃度は、一実施形態において60重量%以下、別の実施形態において50重量%以下、さらに別の実施形態において40重量%以下、さらに別の実施形態において30重量%以下であり得る。これにより、水分散体における二酸化炭素の吸収速度の調節が容易になる。
【0017】
なお、水酸化マグネシウムと、アセトニトリルと、を含む水分散体を、水と、水酸化マグネシウムと、アセトニトリルと、金属水酸化物と、を含む水分散体と区別するために、第1水分散体と呼ぶことがある。
【0018】
水と、水酸化マグネシウムと、アセトニトリルと、を含む水分散体に対する金属水酸化物の濃度は特に限定されるものでない。金属水酸化物の合計の濃度は外数であり、第1水分散体に対する金属水酸化物の合計の割合である。金属水酸化物の合計の濃度は、固形分含有量として、一実施形態において1重量%以上、別の実施形態において5重量%以上、さらに別の実施形態において10重量%以上、さらに別の実施形態において30重量%以上であり得る。また、金属含有化合物の濃度は、一実施形態において100重量%以下、別の実施形態において90重量%以下、さらに別の実施形態において70重量%以下、さらに別の実施形態において60重量%以下であり得る。また、特定の理論に縛られるわけでないが、金属水酸化物は二酸化炭素に作用して、二酸化炭素からマグネシウムの炭酸塩の生成を促進させることができるものであり、水分散体における二酸化炭素の吸収速度の調節が容易になる。
【0019】
また、金属水酸化物は、水酸化バリウム、水酸化亜鉛、水酸化ナトリウム、および水酸化カルシウムを含むものであるが、一実施形態において、金属水酸化物中の水酸化バリウムの割合は、内数であり、一実施形態において1重量%以上、別の実施形態において5重量%以上、さらに別の実施形態において10重量%以上、さらに別の実施形態において30重量%以上であり得る。また、水酸化バリウムの割合は、一実施形態において99重量%以下、別の実施形態において80重量%以下、さらに別の実施形態において60重量%以下、さらに別の実施形態において50重量%以下であり得る。水酸化バリウムが水分散体に含有されていることにより、二酸化炭素の吸収速度が向上するとともに、二酸化炭素の除去処理の前後で天然ガスに含まれる炭化水素の含有量の減少を抑制することができる。
【0020】
(水酸化マグネシウムの分散体)
一実施形態において、水分散体は、予め水と水酸化マグネシウムとの分散体を作製し、その分散体にアセトニトリル、および金属水酸化物を投入して形成される。水と水酸化マグネシウムとの分散体は、水に酸化マグネシウムまたは水酸化マグネシウムを添加して形成され得る。または、水と水酸化マグネシウムとの分散体として、市販の水と水酸化マグネシウムとの分散体が使用され得る。
【0021】
一実施形態において、水と水酸化マグネシウムとの分散体は、上述の水分散体における水酸化マグネシウム濃度となるように、酸化マグネシウム(MgO)を水に投入し、所定の温度で撹拌されて調整される。調整時の温度および撹拌については、特に限定されるものでなく、常温(例えば、25±15℃)で行われ得る。
【0022】
酸化マグネシウムの純度は、一実施形態において80重量%以上、別の実施形態において90重量%以上、さらに別の実施形態において95重量%以上とすることができる。これにより、水分散体における二酸化炭素の吸収効率が向上する。
【0023】
一実施形態において、酸化マグネシウムは粉末であり得る。酸化マグネシウムの平均粒径(D50)は、一実施形態において500nm以下、別の実施形態において300nm以下、さらに別の実施形態において200nm以下、さらに別の実施形態において100nm以下、さらに別の実施形態において80nm以下である。また、酸化マグネシウムの平均粒径(D50)は、一実施形態において1nm以上、別の実施形態において10nm以上、さらに別の実施形態において20nm以上、さらに別の実施形態において30nm以上、さらに別の実施形態において40nm以上である。酸化マグネシウムがこのような平均粒径を有することで、水分散体中に生成する水酸化マグネシウムと、二酸化炭素との反応が向上する。平均粒径(D50)は、レーザー回折・散乱法に基づく体積基準の粒度分布により得られる値であり、D50値は累積50%での粒径(メジアン径)を意味する。
【0024】
水は、溶媒として機能するもので、特に限定されるものでない。水の由来としては特に限定されず、水道水、地下水、蒸留水、イオン交換水等を用いることができる。
【0025】
(アセトニトリル)
水分散体に含まれるアセトニトリルの純度は、特に限定されるものでない。アセトニトリルの純度は、一実施形態において90重量%以上、別の実施形態において95重量%以上、さらに別の実施形態において98重量%以上、さらに別の実施形態において99重量%以上とすることができる。これにより、水分散体における二酸化炭素の吸収速度の調節が向上する。
【0026】
(金属水酸化物)
水分散体に含まれる各々の金属水酸化物の純度は、特に限定されるものでない。一実施形態において、金属水酸化物の純度は、いずれも、80重量%以上、別の実施形態において90重量%以上、さらに別の実施形態において95重量%以上とすることができる。これにより、水分散体における二酸化炭素の吸収効率が向上する。
【0027】
一実施形態において、各金属水酸化物は粉末であり得る。各金属水酸化物の平均粒径(D50)は、一実施形態において1000μm以下、別の実施形態において700μm以下、さらに別の実施形態において500μm以下、さらに別の実施形態において100μnm以下、さらに別の実施形態において50μm以下、さらに別の実施形態において10μm以下である。また、各金属水酸化物の平均粒径(D50)は、一実施形態において1μm以上、別の実施形態において2μm以上、さらに別の実施形態において3μm以上、さらに別の実施形態において4μm以上、さらに別の実施形態において5μm以上、さらに別の実施形態において6μm以上である。金属水酸化物がこのような平均粒径を有することで、二酸化炭素の吸収速度が向上する。平均粒径(D50)は、レーザー回折・散乱法に基づく体積基準の粒度分布により得られる値であり、D50値は累積50%での粒径(メジアン径)を意味する。
【0028】
一実施形態において、水分散体は、水酸化マグネシウムと、アセトニトリルと、を含む第1水分散体を作製し、その第1水分散体に、金属水酸化物を投入して形成される。金属水酸化物は水との分散体として、第1水分散体に投入してもよい。金属水酸化物と水との分散体は、第1水分散体における上述の金属水酸化物の濃度となるように、金属水酸化物を水に投入し、所定の温度で撹拌されて調整される。調整時の温度および撹拌については、特に限定されるものでなく、常温(例えば、25±15℃)で行われ得る。また、金属水酸化物と水との分散体として、市販の金属水酸化物と水との分散体が使用され得る。
【0029】
(添加物)
一実施形態において、水と、水酸化マグネシウムと、アセトニトリルと、金属水酸化物と、を含む水分散体は、さらに、種々の添加物、例えば分散剤を含むことができる。分散剤の材料は特に制限されるものでなく、例えば、無機化合物の分散剤、高分子界面活性剤等が例示される。これにより、水酸化マグネシウムの固形分濃度が高い場合でも、水酸化マグネシウムの分散性が向上し、水酸化マグネシウムと二酸化炭素との反応が均一となる。一実施形態において、分散剤は、水と水酸化マグネシウムとの分散体の作製において、水酸化マグネシウムまたは酸化マグネシウムを投入する前に予め水に投入し、次いで水酸化マグネシウムまたは酸化マグネシウムを投入することで、水酸化マグネシウムを均一に分散させることができる。
【0030】
<水分散体と天然ガスとを接触および反応させること>
本実施形態に係る天然ガスの接触および反応では、二酸化炭素を含む天然ガスが、上述の水分散体と接触させられ、水分散体中の水酸化マグネシウムと反応させられる。天然ガスを水分散体と接触および反応させる方法は、特に限定されないが、天然ガスを水分散体に吹き付ける方法、天然ガスを水分散体中にバブリングにより導入する方法、天然ガス中に水分散体を散布する方法、天然ガスと水分散体とを向流接触させる方法等が例示される。
【0031】
一実施形態において、天然ガスの接触および反応の際の水分散体の温度は、特に限定されるものでなく、常温(例えば、25±15℃)で行われ得る。これにより、二酸化炭素の吸収速度や吸収量が向上し得る。また、水分散体を撹拌しながら、天然ガスと水分散体とを接触および反応させてもよい。天然ガスの導入速度は、特に限定されるものでなく、水分散体の二酸化炭素の処理速度に応じて決定され得る。
【0032】
また、天然ガスの圧力は、特に限定されるものでなく、例えば、大気圧以上の圧力とすることができる。これにより、二酸化炭素の吸収速度や吸収量が向上し得る。なお、天然ガスの圧力を大気圧未満の圧力とすることもできる。
【0033】
<生成物>
本実施形態に係る天然ガスの接触および反応では、炭酸マグネシウムが生成する。炭酸マグネシウムは、ろ過等の従来公知の方法によって回収することができる。炭酸マグネシウムは、床材、耐火、消火組成物、化粧品、粉塵、歯磨き粉、充填材、プラスチック中の煙抑制剤、ネオプレンゴム中の補強剤、乾燥剤、食品中の色保持、投影スクリーン用のマットホワイトコーティング等で利用され得る。
【0034】
一実施形態において、炭酸マグネシウムは、金属マグネシウム中において所定温度(例えば、600℃)で加熱されると、グラフェンと酸化マグネシウムの混合物が形成される。混合物は、水および酸性水溶液の少なくとも1つと混合し、ろ過等することにより、グラフェンがマグネシウム含有液と分離され得る。グラフェンは、導電性、光学特性、スピン輸送、磁場効果等有し、電子デバイス構成要素として利用され得る。一方、マグネシウム含有液は、本実施形態に係る水分散液の一部として再利用され得る。
【0035】
<実施形態のまとめ>
本明細書の開示は、以下の天然ガスに含まれる二酸化炭素の処理方法、および水分散体を含む。
【0036】
(項目1)
天然ガスに含まれる二酸化炭素の処理方法であって、
水酸化マグネシウムと、アセトニトリルと、を含む水分散体を準備することと、
前記水分散体と前記天然ガスとを接触させることと、
前記水酸化マグネシウムと前記二酸化炭素とを反応させることと、を備え、
前記水分散体は、金属水酸化物をさらに含み、前記金属水酸化物は、水酸化バリウム、水酸化亜鉛、水酸化ナトリウム、および水酸化カルシウムを含む、ことを特徴とする二酸化炭素の処理方法。
【0037】
(項目2)
前記金属水酸化物は、前記水酸化マグネシウムと、前記アセトニトリルと、を含む水分散体に対して、1重量%以上、100重量%以下含まれる、ことを特徴とする項目1に記載の二酸化炭素の処理方法。
【0038】
(項目3)
前記アセトニトリルは、前記水酸化マグネシウムと、前記アセトニトリルと、を含む水分散体中に10重量%以上、40重量%以下含まれる、ことを特徴とする項目1または項目2に記載の二酸化炭素の処理方法。
【0039】
(項目4)
前記水酸化マグネシウムと前記二酸化炭素との反応は、前記水分散体を攪拌しながら行われる、ことを特徴とする項目1から項目3のいずれか1項目に記載の二酸化炭素の処理方法。
【0040】
(項目5)
前記水分散体の準備は、
酸化マグネシウムを水に分散させて分散体を準備すること、
前記分散体に、前記アセトニトリルと、前記金属水酸化物と、を投入すること、を備える、ことを特徴とする項目1から項目4のいずれか1項目に記載の二酸化炭素の処理方法。
【0041】
(項目6)
前記酸化マグネシウムは100nm以下の平均粒径(D50)を有する、ことを特徴とする項目5に記載の二酸化炭素の処理方法。
【0042】
(項目7)
前記水酸化マグネシウムと前記二酸化炭素との反応生成物を金属マグネシウム中で加熱して、グラフェンを形成する、ことを特徴とする項目1から項目6のいずれか1項目に記載の二酸化炭素の処理方法。
【0043】
(項目8)
項目1から項目6のいずれか1項目に記載の二酸化炭素の処理方法で使用する水分散体であって、
前記水分散体は、水と、水酸化マグネシウムと、アセトニトリルと、水酸化バリウムと、水酸化亜鉛と、水酸化ナトリウムと、水酸化カルシウムと、を含む、ことを特徴とする水分散体。
【実施例】
【0044】
以下に、実施例により本実施形態を説明する。しかしながら、本実施形態は、その要旨を超えない限り、以下の実施例には限定されない。
【0045】
(実施例1)
水酸化マグネシウムの濃度が分散体におけるその固形分含有量で12重量%となるように、酸化マグネシウムを水に混合して、水と水酸化マグネシウムの分散体を調製した。酸化マグネシウムは、純度99.8%で、50nmの平均粒径(D50)を有するものを使用した。次いで、水と、水酸化マグネシウムと、アセトニトリルと、を含む第1水分散体を調製するために、第1水分散体におけるアセトニトリルの濃度が、26重量%となるように、上記の水と水酸化マグネシウムの分散体にアセトニトリルを投入した。アセトニトリルは、純度99重量%以上のものを使用した。
【0046】
次に、水と水酸化マグネシウムとアセトニトリルとの第1水分散体に対する、水酸化バリウムの濃度が19重量%、水酸化亜鉛の濃度が12重量%、水酸化ナトリウムの濃度が19重量%、水酸化カルシウムの濃度が9重量%となるように、水酸化バリウム、水酸化亜鉛、水酸化ナトリウム、および水酸化カルシウムを第1水分散体に投入して、水分散体を調整した。また、水酸化バリウムは平均粒径4.5μm、水酸化亜鉛は平均粒径6から9μm、水酸化ナトリウムは平均粒径0.7mm、水酸化カルシウムは平均粒径10μmの粉末を使用した。
【0047】
調製した水分散体を処理容器に入れ、密閉した。処理容器のガス入口を天然ガス源に接続し、容器のガス出口をガスクロマトグラフ(ヒューレット・パッカード社製)に接続した。次いで、処理容器に天然ガスを導入し、処理容器内の水分散体を500rpmで攪拌しながら、5分間、水分散体と天然ガスとを接触させた。その後、処理容器内の処理後の天然ガスをガスクロマトグラフに導入し、成分を分析した。処理前の天然ガスは、メタンを96.99モル%、二酸化炭素を1.14モル%、窒素を0.34モル%、およびエタン、プロパン、イソブタン、n-ブタン、イソペンタン、n-ペンタン、およびヘキサン等の炭化水素、および他の不純物を1.53モル%含むものを使用した。
【0048】
処理後の天然ガスに含まれる二酸化炭素の濃度は0.018モル%であり、処理前の天然ガスに含まれていた二酸化炭素の99.98%が除去された。また、処理後の天然ガスに含まれるメタンの濃度は97.97モル%であり、天然ガスから二酸化炭素が除去されたため、メタンの濃度は処理前より高くなっているが、処理前後で、天然ガスに含まるメタンの含有量の低減は抑制されていた。これにより、天然ガスから二酸化炭素が除去されるとともに、二酸化炭素の除去処理の前後で天然ガスに含まれる主成分であるメタンの含有量の減少を抑制することができた。また、天然ガスに含まれる他の炭化水素成分であるエタン、およびプロパン等の含有量の低減も抑制されていた。
【0049】
(実施例2)
実施例1の水分散体と含まれる成分および濃度は同一で、各成分の量を3倍にした水分散体を調製した。調製した水分散体を実施例1で使用した処理容器の2倍の容量を有する処理容器に入れ、密閉した。処理容器のガス入口を天然ガス源に接続し、処理容器のガス出口をガスクロマトグラフ(ヒューレット・パッカード社製)に接続した。処理容器に実施例1で使用したものと同じ天然ガスを導入し、処理容器内の水分散体を1000rpmで攪拌しながら、5分間、水分散体と天然ガスとを接触させた。その後、処理容器内の処理後の天然ガスをガスクロマトグラフに導入し、成分を分析した。
【0050】
処理後の天然ガスに含まれる二酸化炭素の濃度は0.008モル%であり、処理前の天然ガスに含まれていた二酸化炭素の99.96%が除去された。また、処理後の天然ガスに含まれるメタンの濃度は97.95モル%であり、天然ガスから二酸化炭素が除去されたため、メタンの濃度は処理前より高くなっているが、処理前後で、天然ガスに含まるメタンの含有量の減少は抑制されていた。これにより、天然ガスから二酸化炭素が除去されるとともに、二酸化炭素の除去処理の前後で天然ガスに含まれる主成分であるメタンの含有量の減少を抑制することができた。また、天然ガスに含まれる他の炭化水素成分であるエタン、およびプロパン等の含有量の低減も抑制されていた。
【0051】
以上、発明の実施形態について説明したが、発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。