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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】2軸4舵船
(51)【国際特許分類】
   B63H 25/38 20060101AFI20241018BHJP
   B63H 5/08 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
B63H25/38 B
B63H5/08
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023182170
(22)【出願日】2023-10-24
【審査請求日】2023-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000107365
【氏名又は名称】ジャパン・ハムワージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨田 和志
(72)【発明者】
【氏名】細萱 和敬
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-91293(JP,A)
【文献】特開2016-97711(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0120555(KR,A)
【文献】特開2022-39021(JP,A)
【文献】特開平6-48394(JP,A)
【文献】特開2002-104288(JP,A)
【文献】中国実用新案第2892669(CN,Y)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 25/06ー 25/40
B63H 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
推力システムと推力システムを制御する操船システムを備え、
推力システムは、一対の相反する方向に回転するプロペラ軸と、各プロペラ軸に装備して船尾に配置した左右一対の相反する翼角を有する推進プロペラと、各推進プロペラの後方に配置した左右一対の高揚力舵と、各高揚力舵をそれぞれ駆動する複数の舵取機を備え、
操船システムは、左右の推進プロペラが前進方向に一定回転する状態で、各舵取機により各高揚力舵のそれぞれを独立して種々の角度に作動させ、各推進プロペラに対応する一対の高揚力舵の舵角の組合せを変えることによって、各推進プロペラのプロペラ後流の方向を制御して船体に作用する船尾回りの推力の作用方向を制御する操舵制御装置を備え、
操舵制御装置は、低速域操船において、左右の推進プロペラが前進方向に低速で一定回転する状態で、一方の推進プロペラに対応する一対の高揚力舵を後進舵角に整定し、他方の推進プロペラに対応する一対の高揚力舵を前進舵角に整定し、その場回頭操船を行う低速その場回頭機能部を有することを特徴とする2軸4舵船。
【請求項2】
推力システムと推力システムを制御する操船システムを備え、
推力システムは、一対の相反する方向に回転するプロペラ軸と、各プロペラ軸に装備して船尾に配置した左右一対の相反する翼角を有する推進プロペラと、各推進プロペラの後方に配置した左右一対の高揚力舵と、各高揚力舵をそれぞれ駆動する複数の舵取機を備え、
操船システムは、左右の推進プロペラが前進方向に一定回転する状態で、各舵取機により各高揚力舵のそれぞれを独立して種々の角度に作動させ、各推進プロペラに対応する一対の高揚力舵の舵角の組合せを変えることによって、各推進プロペラのプロペラ後流の方向を制御して船体に作用する船尾回りの推力の作用方向を制御する操舵制御装置を備え、
操舵制御装置は、低速域操船において、左右の推進プロペラが前進方向に低速で一定回転する状態で、一方の推進プロペラに対応する一対の高揚力舵を対称の舵角に維持しつつ後進舵角範囲内で舵角を増加また減少させる制御を行い、他方の推進プロペラに対応する一対の高揚力舵を対称の舵角に維持しつつ前進舵角範囲内で舵角を増加また減少させる制御を行い、船体に作用する船尾回りのモーメントを制御して、低速域操船における回頭速度を調整する回頭速度調整機能部を有することを特徴とする2軸4舵船。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2軸推進で各推進プロペラの後方に一対の高揚力舵を有する2軸4舵船に関し、容易な操船を可能にする技術に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に示す2軸2舵船は、船体の後部に左右一対のプロペラを並設し、船体の後部に左右一対のプロペラより後方で且つ船体の中心側よりに左右一対の舵を並設しており、一対の舵は、相対向する内舷側の第1ガイド面と、互いに対向しない外舷側の第2ガイド面を有し、第2ガイド面の外舷方向への膨らみを第1ガイド面の内舷方向への膨らみより突出させている。
【0003】
また、特許文献2に示す二軸船は、船体の船尾部に船体幅方向に間隔を隔てて設けられた左右一対のスケグ部を有し、スケグ部の後端に配した左右一対のプロペラと、船尾部にプロペラ後方の位置に設けた左右一対の舵を備え、舵が船体幅方向に沿って延びて軸廻りに回動可能な可動フィンを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-195302
【文献】特開2012-35786
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、2軸2舵は、フェリーや旅客船、艦艇、巡視船などの中高速船から、浅喫水もしくは幅広貨物船において採用されることが多い。2軸の各プロペラは内舷側もしくは外舷側の相反する方向に回転し、プロペラ後流も相反する方向の旋回流となるので、2軸2舵船の操舵に係る流体力は複雑であり、船体運動の推定は容易ではない。
【0006】
旋回操船において一方の軸のプロペラを前進方向に回転させ、他方の軸のプロペラを後進方向に回転させることで旋回が容易となるが、主機関の反転や操舵が煩雑となるので、方向制御とスピード制御の操船性能の向上が求められている。また、一方の主機関が作動不能となり、他方の主機関のみで操船する場合の操舵は複雑であり、2軸船において容易な操船性が要求されている。
【0007】
2軸船と同様に、船尾に一対のポッドプロペラを採用するものがある。ポッドプロペラが360度回転することにより操船性能が良いと言われる反面、プロペラの後方に舵がないので、保針性能は高くない。
【0008】
本発明は上記の課題を解決するものであり、方向制御とスピード制御を容易に行える操船性能に優れた2軸4舵船を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を解決するために、本発明の2軸4舵船は、推力システムと推力システムを制御する操船システムを備え、推力システムは、一対の相反する方向に回転するプロペラ軸と、各プロペラ軸に装備して船尾に配置した左右一対の相反する翼角を有する推進プロペラと、各推進プロペラの後方に配置した左右一対の高揚力舵と、各高揚力舵をそれぞれ駆動する複数の舵取機を備え、操船システムは、左右の推進プロペラが前進方向に一定回転する状態で、各舵取機により各高揚力舵のそれぞれを独立して種々の角度に作動させ、各推進プロペラに対応する一対の高揚力舵の舵角の組合せを変えることによって、各推進プロペラのプロペラ後流の方向を制御して船体に作用する船尾回りの推力の作用方向を制御する操舵制御装置を備え、操舵制御装置は、低速域操船において、左右の推進プロペラが前進方向に低速で一定回転する状態で、一方の推進プロペラに対応する一対の高揚力舵を後進舵角に整定し、他方の推進プロペラに対応する一対の高揚力舵を前進舵角に整定し、その場回頭操船を行う低速その場回頭機能部を有することを特徴とする。
【0011】
上記した課題を解決するために、本発明の2軸4舵船は、推力システムと推力システムを制御する操船システムを備え、推力システムは、一対の相反する方向に回転するプロペラ軸と、各プロペラ軸に装備して船尾に配置した左右一対の相反する翼角を有する推進プロペラと、各推進プロペラの後方に配置した左右一対の高揚力舵と、各高揚力舵をそれぞれ駆動する複数の舵取機を備え、操船システムは、左右の推進プロペラが前進方向に一定回転する状態で、各舵取機により各高揚力舵のそれぞれを独立して種々の角度に作動させ、各推進プロペラに対応する一対の高揚力舵の舵角の組合せを変えることによって、各推進プロペラのプロペラ後流の方向を制御して船体に作用する船尾回りの推力の作用方向を制御する操舵制御装置を備え、操舵制御装置は、低速域操船において、左右の推進プロペラが前進方向に低速で一定回転する状態で、一方の推進プロペラに対応する一対の高揚力舵を対称の舵角に維持しつつ後進舵角範囲内で舵角を増加また減少させる制御を行い、他方の推進プロペラに対応する一対の高揚力舵を対称の舵角に維持しつつ前進舵角範囲内で舵角を増加また減少させる制御を行い、船体に作用する船尾回りのモーメントを制御して、低速域操船における回頭速度を調整する回頭速度調整機能部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上記構成により、本発明の2軸4舵船では、各推進プロペラに対応する一対の高揚力舵の舵角の組合せを変えることによって、各推進プロペラから生じるプロペラ後流のそれぞれを独立して一対の高揚力舵で確実に制御し、船体に作用する船尾回りの推力の作用方向を制御するので、2軸船において容易で安定した操船性を実現できる。
【0013】
一般に低速域では舵の効きが悪く、一時的に主機関の出力を上げてプロペラ後流を強くする操作を行うが、本発明の2軸4舵船では不要である。
【0014】
すなわち、本発明の2軸4舵船では、低速域操船において、左右の推進プロペラが前進方向に低速で一定回転する状態で、一方の推進プロペラに対応する一対の高揚力舵を後進舵角に整定することで、船尾の一方の舷側において後進推力が作用し、他方の推進プロペラに対応する一対の高揚力舵を前進舵角に整定することで、船尾の他方の舷側において前進推力が作用するので、主機関の逆転操作や出力増操作を必要とせずに、低速域でその場回頭操船を実現できる。
【0015】
また、本発明の2軸4舵船では、低速域操船において、左右の推進プロペラが前進方向に低速で一定回転する状態で、一方の推進プロペラに対応する一対の高揚力舵の舵角を後進舵角範囲内で制御することで、船尾の一方の舷側において作用する後進推力の大きさを調整でき、他方の推進プロペラに対応する一対の高揚力舵の舵角を前進舵角範囲内で制御することで、船尾の他方の舷側において作用する前進推力を調整でき、主機関の逆転操作や出力増操作を必要とせずに、船体に作用する船尾回りのモーメントを制御して、低速域操船における回頭速度を調整するので、船首の方向制御と回頭のスピード制御を容易に行える操船性能を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態における2軸4舵船の推力システム、操船システムを示す模式図
図2】同実施の形態における推力システムの概要を示す模式図
図3】同実施の形態における船尾部および船首部の構成を示す側面図
図4】同実施の形態における操舵制御装置の操船スタンドを示す模式図
図5】同実施の形態における操船スタンドの構成を示すブロック図
図6】同実施の形態における高揚力舵の稼働範囲を示す模式図
図7】同実施の形態における(a)前進、(a)ホバー、(c)後進の各操船での高揚力舵の組み合せ舵角と推進方向を示す模式図
図8】同実施の形態における(d)前進左旋回、(e)前進左回頭、その場左回頭(+スラスター推力)、(f)その場右回頭(+スラスター推力)、(g)後進左旋回の各操船での高揚力舵の組み合せ舵角と推進方向を示す模式図
図9】同実施の形態における(h)前進右旋回、(i)前進右回頭、その場右回頭(+スラスター推力)、(j)その場左回頭(+スラスター推力)、(k)後進右旋回の各操船での高揚力舵の組み合せ舵角と推進方向を示す模式図
図10】同実施の形態における低速域操船での(n)その場右回頭、(m)その場左回頭の各操船での高揚力舵の組み合せ舵角と推進方向を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
(実施例の構成)
本実施の形態における2軸4舵船は、図1から図5に示すように、推力システム100と推力システム100を制御する操船システム(操舵制御装置)200を備えている。
【0018】
推力システム100は、船体110の船尾に配置した一対の相反する方向に回転するプロペラ軸110a、110bと、各プロペラ軸110a、110bに装備して船尾に配置した左右一対の相反する翼角を有する推進プロペラ101a、101bと、各推進プロペラ101a、101bの後方に配置した右舷側の左右一対の高揚力舵102a、102bと左舷側の左右一対の高揚力舵103a、103bを備えている。
【0019】
各高揚力舵102a、102b、103a、103bは、それぞれアウトボード(外舷側)へ105°、インボード(内舷側)へ35°転舵可能に構成されている。そして、双方の推進プロペラ101a、101bを前進方向に回転させたままで、右舷側の一対の高揚力舵102a、102bまたは左舷側の一対の高揚力舵103a、103bのそれぞれを独立して種々の角度に作動させ、両舷の一対の高揚力舵102a、102b、103a、103bの舵角の組合せを変えることによって、プロペラ後流を目的とする望ましい方向に分配し、それぞれの方向の推力を自在に変えることができる。
【0020】
従って、両舷の推進プロペラ101a、101bのプロペラ後流を制御して船尾回りの推力を360°全方向にわたって制御することで、船の前後進、停止、前進旋回、後進旋回等の操船を行わせ、船の運動を自由に制御することができる。
【0021】
さらに、推力システム100は、高揚力舵102a、102b、103a、103bを駆動するロータリーベーン舵取機104a、104b、105a、105bと、ロータリーベーン舵取機104a、104b、105a、105bを制御する舵制御装置(サーボアンプ)106a、106b、107a、107bと、船体110の船首側に配置した船首スラスター108および船首スラスター108を制御するスラスター制御装置109と、各推進プロペラ101a、101bを駆動する主機関111a、111bを有している。
【0022】
また、ロータリーベーン舵取機104a、104b、105a、105bのそれぞれには、ポンプユニット151a、151b、152a、152bと舵角発信器153a、153b、154a、154bとフィードバックユニット155a、155b、156a、156bが接続しており、フィードバックユニット155a、155b、156a、156bが舵制御装置106a、106b、107a、107bに接続している。
【0023】
操舵制御装置をなす操船システム200は、操船スタンド250に格納されており、スタンド筺体に以下のものを一体的に備えている。ジャイロコンパス251のジャイロ方位を表示するジャイロ方位表示部252と、GPSコンパスを用いたオートパイロットによる操縦モードで操船するオート操船部253と、ジョイスティックレバー254による操縦モードで操船するジョイスティック操船部255と、手動操舵輪256による操縦モードで操船する手動操船部257と、ノンフォローアップ操舵レバー258a、258b、258c、258dによる操縦モードで操船するノンフォローアップ操船部259と、モード切替スイッチ260により各操船部の切替を行うモード切替部261を備えている。
【0024】
さらに、画面にタッチパネルを配したディスプレイ装置262と、ディスプレイ装置262に映す画像を制御する画像制御部263と、緊急停船釦264を操作することにより全ての操縦モードに優先して船舶を緊急に停船させる操縦モードで操船する緊急停船部265と、舵制御装置106a、106b、107c、107dを介してロータリーベーン舵取機104a、104b、105a、105bに指示舵角を与える舵角指示部280と、航海用電子海図をディスプレイ装置262に表示する電子海図表示部282と、自船の予定航路を航海用電子海図上に設定するコースライン設定部283と、コースラインに対する自船の位置ずれを解消する針路補正部284と、低速域での操船に切り替える低速域操船切替釦285と、低速域での操船を行う低速域操船部286を備えている。
【0025】
画像制御部263は、航海用電子海図を映す海図表示画像266と、ジャイロ方位を映すジャイロ方位表示画像267と、ジャイロ方位表示部252をモニター画面上でタッチ操作するための方位表示部操作画像268と、オート操船部253をモニター画面上でタッチ操作するためのオート操船操作画像269を選択的に表示し、あるいは同時に表示する。
【0026】
ジョイスティック操作部255は、ジョイスティックレバー254がX-Y方向の何れの方向へも操作可能に構成されており、ジョイスティックレバー254の傾倒方向で船体の指令運動方向を制御し、傾倒方向における傾倒角度で船首尾方向指令速度および船体回頭方向指令速度を制御するものである。
【0027】
ジョイスティック操船部255は、両舷の一対の高揚力舵102a、102b、103a、103bの舵角をそれぞれジョイスティックレバー254の傾倒方向に応じて設定した舵角に制御し、かつ両舷の高揚力舵102a、102b、103a、103bの舵角を組合せることで、プロペラ後流の推力を目的方向に向けて転向し、各ロータリーベーン舵取機104a、104b、105a、105bにより両舷の一対の高揚力舵102a、102b、103a、103bのそれぞれの舵角を外舷側へ105°、内舷側へ35°の範囲で制御する。(図6参照)
高揚力舵102a、102b、103a、103bの基本的な舵角の組合せ、およびジョイスティックレバー254の状態と、その呼称及びプロペラ後流線と運動方向を、図7図9において説明する。
【0028】
図7図9中で、舵は水平断面で示してあり、その横あるいは下方に各々の舵の舵角を示している。舵角は右に取るのが正(+)、左に取るのが負(-)として表示し、これらの舵角の組み合わせに対する呼称を掲げている。プロペラ後流は、細い矢印線で、又、それによる船の推進方向を太い中抜き矢印線で画いている。
【0029】
以下において示す舵角は本実施の形態における例示であって、発明を限定するものではない。以下において、両舷の一対の高揚力舵102a、102bと一対の高揚力舵103a、103bは同じパターンとなり、以下に述べる左舷舵と右舷舵は両舷の一対の高揚力舵102a、102b、103a、103bのそれぞれにおける左舷舵と右舷舵である。
【0030】
図7に示す(a)「前進」は両舷の一対の高揚力舵102a、102b、103a、103bにおいて左舷舵0°、右舷舵0°である。同様に、(b)「ホバー」(船体のその場停止)は左舷舵-75°、右舷舵+75°であり、(c)「後進」は左舷舵-105°、右舷舵+105°である。
【0031】
図8に示す(d)「前進左旋回」は左舷舵-35°、右舷舵-35°であり、(e)「前進左回頭」は左舷舵-70°、右舷舵-35°であり、(f)「後進左寄せ」は左舷舵-105°、右舷舵+45°から+75°であり、(g)「後進左旋回」は左舷舵-105°、右舷舵+75°から+105°である。
【0032】
図9に示す(h)「前進右旋回」は左舷舵+35°、右舷舵+35°であり、(i)「前進右回頭」は左舷舵+35°、右舷舵+70°であり、(j)「後進右寄せ」は左舷舵-45°から-75°、右舷舵+105°であり、(k)「後進右旋回」は左舷舵-75°から-105°、右舷舵+105°である。
【0033】
また、(e)「前進左回頭」時に右舷方向に向けて船首スラスター108のスラスター推力を加えることで、左回頭速度をより大きくすると、「その場左回頭」となり、(i)「前進右回頭」時に左舷方向に向けて船首スラスター108のスラスター推力を加えることで、右回頭速度を大きくすると、「その場右回頭」とすることができる。
【0034】
同様に、(f)「後進左寄せ」時に左舷方向に向けて船首スラスター108のスラスター推力を加えることで、右回頭速度を大きくすると、「その場右回頭」となり、(j)「後進右寄せ」時に右舷方向に向けて船首スラスター108のスラスター推力を加えることで、左回頭速度を大きくすると、「その場左回頭」となる。
【0035】
さらに、船首方位を維持しつつ船体を正横方向に移動させる操舵は以下のように行う。例えば、(f)「後進左寄せ」時に右舷方向に向けて船首スラスター108のスラスター推力を加えることで、左横移動となり、(j)「後進右寄せ」時に左舷方向に向けて船首スラスター108のスラスター推力を加えることで、右横移動となる。
【0036】
このように、両舷に一対の高揚力舵102a、102bと103a、103bを配し、船首スラスター108を装備する2軸4舵船は、各推進プロペラ101a、101bbに対応する両舷の一対の高揚力舵102a、102bと103a、103bの舵角の組合せを種々に変えることによって、各推進プロペラ101a、101bから生じるプロペラ後流のそれぞれを独立して一対の高揚力舵102a、102bと103a、103bで確実に制御し、船体に作用する船尾回りの推力の作用方向を制御するので、2軸船において容易で安定した操船性を実現できる。
【0037】
また、低速域操船を行う場合には、低速域操船切替釦285を押すことにより、低速域での操船を行う低速域操船部286を起動する。低速域操船部286は、低速その場回頭機能部287と回頭速度調整機能部288を有しており、低速域操船部286の起動によりジョイスティックレバー254による舵角制御が低速域操船モードとなる。
【0038】
オート操船部253は、GPSコンパス、電子海図システムにより自船の現在位置情報、誘導経路情報、停船保持位置情報に基づいて自船を予め定めた設定針路に誘導制御する。
【0039】
緊急停船部265は、緊急時に緊急停止釦264を押すと、ジョイスティックレバー254でいかなる操船状態を指示していようとも、あるいは他の操縦モードで操船していても、現在の操船に係る舵角をキャンセルして、左舷舵103を取舵方向(上から見て時計回りの方向)に、右舷舵102を面舵方向(上から見て反時計回りの方向)に、それぞれハードオーバー(舵いっぱい)まで転舵させ、船に制動力を与えて停止させる。
【0040】
手動操船部257は、手動操舵輪256の回転操作により二枚の高揚力舵102、103の舵角を制御して操船する。
【0041】
ノンフォローアップ操船部259は、ノンフォローアップ操舵レバー258a、258bを左右に操作している時間に応じて右舷もしくは左舷に舵を切る。
【0042】
以下、上記構成における作用を説明する。
【0043】
ジョイスティックによる操縦モード
モード切替スイッチ260を操作してジョイスティックによる操縦モードを選択する。ジョイスティック操船部255は、ジョイスティックレバー254によって船体の指令運動方向、船首尾方向指令推力、船幅方向指令推力を指令する。
【0044】
この操船において、両舷に一対の高揚力舵102a、102bと103a、103bを配し、船首スラスター108を装備する2軸4舵船は、各推進プロペラ101a、101bbに対応する両舷の一対の高揚力舵102a、102bと103a、103bの舵角の組合せを種々に変えることによって、各推進プロペラ101a、101bから生じるプロペラ後流のそれぞれを独立して一対の高揚力舵102a、102bと103a、103bで確実に制御し、船体に作用する船尾回りの推力の作用方向を360゜の全方向にわたって制御するので、2軸船において容易で安定した操船性を実現できる。
【0045】
この操船においては、推進器推力の反転(プロペラ逆転)が不要であり、主機関は常に前進回転のままであらゆる操船制御が行え、主機関の回転数を加減せずとも、両舵の舵角を加減して、そのときのプロペラ回転数に対応した前進最大速度から後進最大速度まで無段階にきめ細かく船速を制御することができる。
【0046】
一般に低速域では舵の効きが悪く、一時的に主機関の出力を上げてプロペラ後流を強くする操作を行うが、本実施の形態に係る2軸4舵船では不要である。
【0047】
本実施の形態に係る2軸4舵船で、港内や輻輳海域において低速航行中に低速域操船を行う場合には、低速域操船切替釦285を押すことにより、低速域での操船を行う低速域操船部286を起動する。低速域操船部286の起動によりジョイスティックレバー254による舵角制御が低速域操船モードとなる。
【0048】
低速域操船モードでは、ジョイスティックレバー254の傾倒により旋回方向を指示し、低速その場回頭機能部287により左右の推進プロペラ101a、101bが前進方向に定速で一定回転する状態で両舷の一対の高揚力舵102a、102b、103a、103bの舵角を整定する。
【0049】
例えば、図10に示す(n)「その場右回頭」の操船は、右舷の一方の推進プロペラ101bに対応する右舷の一対の高揚力舵103a、103bを後進舵角、ここでは-105°、+105°に整定することで、船尾の右舷側において後進推力が作用する。そして、左舷の他方の推進プロペラ101aに対応する一対の高揚力舵102a、102bを前進舵角、ここでは0°、0°に整定することで、船尾の左舷側において前進推力が作用するので、主機関111a、111bの逆転操作や出力増操作を必要とせずに、低速域でその場右回頭操船を実現できる。この操船においては、基本的に船首スラスター108のスラスター推力は必要ないが、場合によっては船首スラスター108のスラスター推力を利用する。
【0050】
また、図10に示す(m)「その場左回頭」の操船は、右舷の一方の推進プロペラ101bに対応する右舷の一対の高揚力舵103a、103bを前進舵角、ここでは0°、0°に整定することで、船尾の右舷側において前進推力が作用する。そして、左舷の他方の推進プロペラ101aに対応する一対の高揚力舵102a、102bを後進舵角、ここでは-105°、+105°に整定することで、船尾の左舷側において後進推力が作用するので、主機関111a、111bの逆転操作や出力増操作を必要とせずに、低速域でその場左回頭操船を実現できる。
【0051】
低速域操船モードでは、左右の推進プロペラ101a、101bが前進方向に低速で一定回転する状態で、回頭速度調整機能部288によりジョイスティックレバー254の傾倒角度により船首の方向制御と回頭のスピード制御を行う。
【0052】
例えば、図10に示す(n)「その場右回頭」の操船中において、ジョイスティックレバー254の傾倒角度に応じて、右舷の一方の推進プロペラ101bに対応する右舷の一対の高揚力舵103a、103bを対称の舵角に維持しつつ後進舵角範囲内、ここでは-75°から-105°、+75°から+105°の範囲で増加また減少させる制御を行うことで、船尾の右舷側において後進推力が増減する。
【0053】
また、図10に示す(n)「その場右回頭」の操船中において、ジョイスティックレバー254の傾倒角度に応じて、左舷の他方の推進プロペラ101aに対応する左舷の一対の高揚力舵102a、102bを対称の舵角に維持しつつ前進舵角範囲内、ここでは-75°から0°、+75°から0°の範囲で増加また減少させる制御を行うことで、船尾の左舷側において前進推力が増減する。
【0054】
ここでは、両舷側の一対の高揚力舵102a、102bと一対の高揚力舵103a、103bを同時に制御する構成でも、どちらか一方を制御する構成でもよい。図10に示す(b)「その場左回頭」の操船も同様であり、説明は省略する。
【0055】
このように、主機関111a、111bの逆転操作や出力増操作を必要とせずに、船体に作用する船尾回りのモーメントを制御して、低速域操船における回頭速度を調整するので、船首の方向制御と回頭のスピード制御を容易に行える操船性能を実現できる。
【0056】
緊急停船部による操縦モード
緊急停船釦264を押すことの一挙動で、緊急停船部265を起動し、全ての操縦モードに優先して船舶を緊急に停船させることができる。すなわち、ジョイスティックレバー254の操舵モードにかかわらず、あるいは他の操縦モードにかかわらず、緊急停船部265によってクラッシュアスターンモード(両舷の一対の高揚力舵102a、102b、103a、103bにおいて、左舷舵は左舷105°、右舷舵は右舷105゜に舵を取る「ASTERN」)に切換えて、非常に大きな制動力と後進力を発生させるので、プロペラ逆転による操船よりもはるかに短い時間、短い距離で船体を停止させることができる。
【0057】
また、クラッシュアスターンモードにおいても、主機関111a、111bを止めて後進再始動をする必要がないため、操船中にいわゆる無制御状態となることがないので、航行における事態ヘのすばやい対応が可能である。
【0058】
尚、緊急停船部265による操船中に、船の特性、外乱等により旋回を起した場合や、または必要によって船首方位を含めて進行力向を変えたい場合には、そのままジョイスティックレバー254を操作すれば通常のジョイスティック操作と同様に、ジョイスティックレバー254によって自在に操船して避行航行することができる。
【0059】
オートパイロットによる操縦モード
通常航行操船では、モード切替スイッチ260を操作してオートパイロットによる操縦モードを選択する。
【0060】
ディスプレイ装置262のモニター画面上にオート操船操作画像269を表示し、モニター画面上のタッチ操作によりオート操船部253に自船の位置、進みたい方位、到達したい位置ないし船首尾線方位を入力し、設定した針路で船を自動誘導操船する。
【0061】
さらに、電子海図表示部282によりディスプレイ装置262のモニター画面上に海図表示画像266として航海用電子海図を表示し、コースライン設定部283により自船の予定航路を航海用電子海図上に設定する。
【0062】
オート操船部253は、自船の現在位置情報、誘導経路情報、停船保持位置情報に基づいて適宜に舵角を制御する。オートパイロットは、オート操船操作画像269において設定した進みたい方位また船首尾線方位としてジャイロコンパスが示す針路を保持する。
【0063】
手動による操縦モード
モード切替スイッチ260を操作して手動操舵輪256による操縦モードを選択する。この操縦モードでは、手動操舵輪256の回転操作により両舷のそれぞれの一対の高揚力舵102a、102b、103a、103bの舵角を手動操船部257に指示し、二枚の高揚力舵102a、102b、103a、103bの舵角を制御して操船する。
【0064】
ノンフォローアップの操縦モード
モード切替スイッチ260を操作してノンフォローアップ操縦レバー258a、258bによる操縦モードを選択する。この操縦モードでは、ノンフォローアップ操船部259により、ノンフォローアップ操舵レバー258a、258bのそれぞれを左右に操作している時間に応じて、ノンフォローアップ操舵レバー258a、258bのそれぞれに対応する各ロータリーベーン舵取機104a、104b、105a、105bが右舷もしくは左舷に舵を切る。
【符号の説明】
【0065】
100 推力システム
101 推進プロペラ
102a、102b、103a、103b 高揚力舵
104a、104b、105a、105b ロータリーベーン舵取機
106a、106b、107a、107b 舵制御装置
108 船首スラスター
109 スラスター制御装置
110 船体
110a、110b プロペラ軸
151a、151b、152a、152b ポンプユニット
153a、153b、154a、154b 舵角発信器
155a、155b、156a、156b フィードバックユニット
200 操船システム
250 操船スタンド
251 ジャイロコンパス
252 ジャイロ方位表示部
253 オート操船部
254 ジョイスティックレバー
255 ジョイスティック操船部
256 手動操舵輪256
257 手動操船部257
258a、258b ノンフォローアップ操舵レバー
259 ノンフォローアップ操船部
260 モード切替スイッチ
261 モード切替部
262 ディスプレイ装置
263 画像制御部
264 緊急停船釦
265 緊急停船部
266 海図表示画像
267 ジャイロ方位表示画像
268 方位表示部操作画像
269 オート操船操作画像
280 舵角指示部
282 電子海図表示部
283 コースライン設定部
285 低速域操船切替釦
286 低速域操船部
287 低速域その場回頭機能部
288 回頭速度調整機能部
【要約】      (修正有)
【課題】方向制御とスピード制御を容易に行える操船性能に優れた2軸4舵船を提供する。
【解決手段】一対の相反する方向に回転するプロペラ軸と、各に装備して船尾に配置した左右一対の相反する翼角を有する推進プロペラ101a、bと、各推進プロペラ101a、bの後方に配置した左右一対の高揚力舵102a、b、103a、bと、各高揚力舵102a、b、103a、bをそれぞれ駆動する複数の舵取機104a、b、105a、bを備え、左右の推進プロペラ101a、bが前進方向に一定回転する状態で、各舵取機104a、b、105a、bにより各高揚力舵102a、b、103a、bのそれぞれを独立して作動させ、各推進プロペラ101a、bに対応する一対の高揚力舵104a、bまたは105a、bの舵角の組合せを変えることによって、各推進プロペラ101a、bのプロペラ後流の方向を制御して船体に作用する船尾回りの推力の作用方向を制御する。
【選択図】図2
図1
図2
図3
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図10