(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】無電解めっき用触媒付与液、触媒付与方法、及び、無電解めっき方法
(51)【国際特許分類】
C23C 18/18 20060101AFI20241018BHJP
C23C 18/34 20060101ALI20241018BHJP
C23C 18/44 20060101ALI20241018BHJP
C23C 18/48 20060101ALI20241018BHJP
H01L 21/50 20060101ALI20241018BHJP
H01L 23/14 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
C23C18/18
C23C18/34
C23C18/44
C23C18/48
H01L21/50 H
H01L23/14 Z
(21)【出願番号】P 2023185887
(22)【出願日】2023-10-30
【審査請求日】2023-10-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梶山 笑理
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 寛生
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 典彦
(72)【発明者】
【氏名】前田 祥明
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 佳
(72)【発明者】
【氏名】長尾 敏光
【審査官】黒木 花菜子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第114075662(CN,A)
【文献】特開昭60-175549(JP,A)
【文献】特開2006-002217(JP,A)
【文献】特開2001-107257(JP,A)
【文献】特開2001-254182(JP,A)
【文献】特開2021-172862(JP,A)
【文献】特開2018-048382(JP,A)
【文献】特開2015-147987(JP,A)
【文献】特開昭64-068478(JP,A)
【文献】特開2012-117111(JP,A)
【文献】特開2008-019457(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/18
C23C 18/44
C23C 18/34
H01L 23/14
H01L 21/50
C23C 18/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)カチオン性ポリマー及びカチオン性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種のカチオン性化合物、及び
(B)金属触媒
を含有し、
前記(B)金属触媒は、Pd、Au、Ag及びPtからなる群より選択される少なくとも1種を含み、
pHは5以下であ
り、
前記(A)カチオン性化合物の含有量は、0.01mg/L~1000mg/Lであり、
前記(B)金属触媒の含有量は、0.01mg/L~100mg/Lである、
無電解めっき用触媒付与液。
【請求項2】
前記(A)カチオン性化合物は、ポリエチレンイミン、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド二酸化硫黄共重合体、メチルジアリルアミン塩酸塩重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体、ジシアンジアミド・ポリアルキレンポリアミン重縮合物、ジシアンジアミド型カチオン樹脂、アリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩重合体、アリルアミン塩酸塩重合体、アリルアミン重合体、塩化O-〔2-ヒドロキシ3-(トリメチルアンモニオ)プロピル〕ヒドロキシエチルセルロース、ポリリジン、カチオン化グアーガム、ココナットアミンアセテート、テトラデシルアミンアセテート、オクタデシルアミンアセテート、ジデシルジメチルアンモニウムクロリド、ヤシアルキルトリメチルアンモニウムクロライド、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、及び塩化ステアリルトリメチルアンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の触媒付与液。
【請求項3】
前記(B)金属触媒は、Pdを含む、請求項1に記載の触媒付与液。
【請求項4】
さらに、(C)有機酸及び無機酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸を含有する、請求項1に記載の触媒付与液。
【請求項5】
前記(C)酸は、酢酸、蟻酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、フマール酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、フッ化水素酸、メタンスルホン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、及びホウ酸からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項
4に記載の触媒付与液。
【請求項6】
さらに、(D)塩化物を含有する、請求項1に記載の触媒付与液。
【請求項7】
前記(D)塩化物は、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化リチウム、トリクロロアセトアルデヒド、及び二酸化塩素からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項
6に記載の触媒付与液。
【請求項8】
前記(D)塩化物の含有量は、0.01~200g/Lである、請求項
6に記載の触媒付与液。
【請求項9】
前記無電解めっきは、無電解パラジウムめっき、無電解パラジウム合金めっき、無電解ニッケルめっき、無電解ニッケル合金めっき、無電解銀めっき、無電解銀合金めっき、無電解金めっき、及び無電解金合金めっきからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の触媒付与液。
【請求項10】
前記無電解めっきは、表面に絶縁性領域及び導電性領域を備える基板に対するめっきである、請求項1に記載の触媒付与液。
【請求項11】
(1)請求項1~
10のいずれか1項に記載の触媒付与液と、被めっき物とを接触させる工程を備える、無電解めっき用触媒付与方法。
【請求項12】
(1)請求項1~
10のいずれか1項に記載の触媒付与液と、被めっき物とを接触させる工程、及び
(2)無電解めっき処理する工程
を順に備える、無電解めっき方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解めっき用触媒付与液、触媒付与方法、及び、無電解めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板、半導体パッケージ、電子部品等のエレクトロニクス関連分野において、製造時における最終工程の一つに、導体回路、端子部分等に無電解めっきを行う処理がある。そして、基板の金属材料上に無電解めっきを行う際に、めっき析出性等を向上させる目的で、触媒核となるパラジウム等の金属触媒を、金属材料上に置換反応にて析出させる触媒付与処理を行うことがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
銅回路等の金属材料上に無電解めっき処理を行う際には、例えば、10~100mg/Lのパラジウムを含む触媒付与液に、被めっき材を浸漬させる必要がある。しかしながら、近年、パラジウムをはじめとする金属触媒の価格高騰により、触媒付与液における金属触媒の低濃度化が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、パラジウム濃度を低下させた場合、銅回路上に十分な触媒核が形成されないため、無電解めっきが析出するための触媒として十分な作用が発揮されず、めっきの析出性が低下するという問題があることを見出した。
【0006】
また、本発明者らは、めっきの析出性を向上させるためにパラジウム触媒付与液への浸漬時間を長くした場合に、銅回路上へ十分なパラジウム触媒を吸着させることは可能であるが、同時に絶縁体の表面へもパラジウム触媒が吸着しやすくなり、めっきが拡がるために十分なパターン性を得ることが困難となるという問題があることを見出した。
【0007】
このように、従来の触媒付与液では、触媒付与液中の金属触媒濃度が低い場合に、金属材料上のめっき析出性、及び、めっきのパターン性のいずれかが不十分であった。
【0008】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、金属材料上のめっき析出性及びパターン性に優れた無電解めっき皮膜を形成するために有用である触媒付与液を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、(A)カチオン性ポリマー及びカチオン性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種のカチオン性化合物、及び(B)金属触媒を含有する、無電解めっき用触媒付与液を用いることによって、金属材料上のめっき析出性及びパターン性に優れた無電解めっき皮膜を形成することができることを見出した。本発明者らは、このような知見に基づき、さらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、以下の構成を包含する。
【0010】
項1.(A)カチオン性ポリマー及びカチオン性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種のカチオン性化合物、及び
(B)金属触媒
を含有する、無電解めっき用触媒付与液。
【0011】
項2.前記(A)カチオン性化合物は、ポリエチレンイミン、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド二酸化硫黄共重合体、メチルジアリルアミン塩酸塩重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体、ジシアンジアミド・ポリアルキレンポリアミン重縮合物、アリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩重合体、アリルアミン塩酸塩重合体、アリルアミン重合体、塩化O-〔2-ヒドロキシ3-(トリメチルアンモニオ)プロピル〕ヒドロキシエチルセルロース、ポリリジン、カチオン化グアーガム、ココナットアミンアセテート、テトラデシルアミンアセテート、オクタデシルアミンアセテート、ジデシルジメチルアンモニウムクロリド、ヤシアルキルトリメチルアンモニウムクロライド、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、及び塩化ステアリルトリメチルアンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1に記載の触媒付与液。
【0012】
項3.前記(A)カチオン性化合物の含有量は、0.01~10000mg/Lである、項1又は2に記載の触媒付与液。
【0013】
項4.前記(B)金属触媒は、Pdを含む、項1~3のいずれか1項に記載の触媒付与液。
【0014】
項5.前記(B)金属触媒の含有量は、0.01~1000mg/Lである、項1~4のいずれか1項に記載の触媒付与液。
【0015】
項6.酸性である、項1~5のいずれか1項に記載の触媒付与液。
【0016】
項7.pHは5以下である、項6に記載の触媒付与液。
【0017】
項8.さらに、(C)有機酸及び無機酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸を含有する、項1~7のいずれか1項に記載の触媒付与液。
【0018】
項9.前記(C)酸は、酢酸、蟻酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、フマール酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、フッ化水素酸、メタンスルホン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、及びホウ酸からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項8に記載の触媒付与液。
【0019】
項10.さらに、(D)塩化物を含有する、項1~9のいずれか1項に記載の触媒付与液。
【0020】
項11.前記(D)塩化物は、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化リチウム、トリクロロアセトアルデヒド、及び二酸化塩素からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項10に記載の触媒付与液。
【0021】
項12.前記(D)塩化物の含有量は、0.01~200g/Lである、項10又は11に記載の触媒付与液。
【0022】
項13.前記無電解めっきは、無電解パラジウムめっき、無電解パラジウム合金めっき、無電解ニッケルめっき、無電解ニッケル合金めっき、無電解銀めっき、無電解銀合金めっき、無電解金めっき、及び無電解金合金めっきからなる群より選択される少なくとも1種である、項1~12のいずれか1項に記載の触媒付与液。
【0023】
項14.前記無電解めっきは、表面に絶縁性領域及び導電性領域を備える基板に対するめっきである、項1~13のいずれか1項に記載の触媒付与液。
【0024】
項15.(1)項1~14のいずれか1項に記載の触媒付与液と、被めっき物とを接触させる工程を備える、無電解めっき用触媒付与方法。
【0025】
項16.(1)項1~14のいずれか1項に記載の触媒付与液と、被めっき物とを接触させる工程、及び
(2)無電解めっき処理する工程
を順に備える、無電解めっき方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明の無電解めっき用触媒付与液は、金属材料上のめっき析出性及びパターン性に優れた無電解めっき皮膜を形成するために有用である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本明細書において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「のみからなる」、「実質的にのみからなる」、及び「のみからなる」のいずれも包含する。
【0028】
本明細書において、「A~B」との数値範囲の表記は、「A以上且つB以下」を意味する。
【0029】
1.触媒付与液
本発明の無電解めっき用触媒付与液(以下、本明細書において、「本発明の触媒付与液」、又は、「触媒付与液」と示すこともある。)は、(A)カチオン性ポリマー及びカチオン性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種のカチオン性化合物(以下、単に「(A)カチオン性化合物」とも示すこともある。)、及び(B)金属触媒を含有する。上記構成を有する本発明の触媒付与液は、(B)金属触媒と共に、(A)カチオン性ポリマー及びカチオン性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種のカチオン性化合物を含有することにより、被めっき物の表面に十分に触媒付与を行うことができるため、優れためっきの析出性を示すことができ、且つ、絶縁体の表面へのパラジウム触媒の吸着を抑制することができるため、めっきの拡がりを抑制することができ、十分なパターン性を示すことができ、且つ、銅表面の腐食が抑制される。以下、本発明について詳細に説明する。
【0030】
(A)カチオン性化合物
(A)カチオン性化合物は、静電相互作用を介して絶縁部上に吸着し得る限り、特に限定されない。(A)カチオン性化合物としては、具体的には、例えば、ポリエチレンイミン、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド二酸化硫黄共重合体、メチルジアリルアミン塩酸塩重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体、ジシアンジアミド・ポリアルキレンポリアミン重縮合物、ジシアンジアミド型カチオン樹脂、アリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩重合体、アリルアミン塩酸塩重合体、アリルアミン重合体、塩化O-〔2-ヒドロキシ3-(トリメチルアンモニオ)プロピル〕ヒドロキシエチルセルロース、ポリリジン、カチオン化グアーガム、ココナットアミンアセテート、テトラデシルアミンアセテート、オクタデシルアミンアセテート、ジデシルジメチルアンモニウムクロリド、ヤシアルキルトリメチルアンモニウムクロライド、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、及び塩化ステアリルトリメチルアンモニウム等が挙げられる。これらの中でも、金属材料上のめっき析出性及びパターン性により優れた無電解めっき皮膜を形成する観点から、カチオン性ポリマーが好ましく、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド二酸化硫黄共重合体、メチルジアリルアミン塩酸塩重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体、アリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩重合体、アリルアミン塩酸塩重合体、アリルアミン重合体がより好ましい。
【0031】
(A)カチオン性化合物の具体例としては、例えば、下記一般式で表される化合物等が挙げられる。
【0032】
【化1】
[式中、nは10~1500の整数を示し、lは1以上の整数を示し、mは2以上の整数を示す。l及びmの数値範囲の上限は、後述するカチオン性ポリマーの好ましい重量平均分子量の数値範囲と矛盾しない限り、特に限定されない。また、Rは、炭素数8~18のアルキル基を示す。]
【0033】
(A)カチオン性化合物の分子量は特に限定されない。(A)カチオン性化合物がカチオン性ポリマーである場合、重量平均分子量は、1000~1000000が好ましい。
【0034】
(A)カチオン性化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
本発明の触媒付与液中の(A)カチオン性化合物の含有量は、特に限定されない。(A)カチオン性化合物の含有量は、金属材料上のめっき析出性及びパターン性により優れた無電解めっき皮膜を形成する観点から、0.01~10000mg/Lが好ましく、0.1~5000mg/Lがより好ましく、1~1000mg/Lがさらに好ましい。含有量が上記範囲内である場合に、めっき液の泡立ちを抑制することができ、製造コストも削減することができる。
【0036】
(B)金属触媒
(B)金属触媒に含まれる金属は、無電解めっきを触媒し得る限り特に限定されない。(B)金属触媒に含まれる金属としては、例えば遷移金属が挙げられ、より具体的にはPd、Cu、Au、Ag、Pt等が挙げられる。これらの中でも、金属材料上のめっき析出性及びパターン性により優れた無電解めっき皮膜を形成する観点から、Pdが好ましい。
【0037】
(B)金属触媒は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
本発明の触媒付与液中の(B)金属触媒の含有量は、特に限定されない。(B)金属触媒の含有量としては、金属材料上のめっき析出性及びパターン性により優れた無電解めっき皮膜を形成する観点から、0.01~1000mg/Lが好ましく、0.05~500mg/Lがより好ましく、0.1~100mg/Lがさらに好ましい。本発明の触媒付与液によれば、金属触媒の使用量が少ない場合(例えば、触媒付与液中の含有量が20mg/L以下)にも、金属材料上のめっき析出性及びパターン性により優れた無電解めっき皮膜を形成することができるため、無電解めっき皮膜の形成コストを削減することができる。
【0039】
(C)酸
本発明の触媒付与液は、酸性であることが好ましい。本発明の触媒付与液が酸性であることにより、(A)カチオン性化合物のカチオン性をより有効に利用することができ、具体的には、(B)金属触媒が絶縁物上に吸着することを抑制することができるため、金属材料上のめっき析出性及びパターン性に優れた無電解めっき皮膜を形成し易い。本明細書において、酸性であるとは、pHが7未満であることを意味し、好ましくはpHが6.9以下又は6.8以下であることを意味する。
【0040】
本発明の触媒付与液のpHとしては、特に限定されないが、金属材料上のめっき析出性及びパターン性に優れた無電解めっき皮膜を形成する観点から、5以下が好ましく、3以下がより好ましく、1以下がさらに好ましい。
【0041】
本発明の触媒付与液を、上述のように酸性とする観点から、本発明の触媒付与液は、(A)カチオン性化合物及び(B)金属触媒の他に、(C)有機酸及び無機酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸(本明細書において、単に「(C)酸」とも示す。)を含有していてもよい。本発明の触媒付与液は、(C)酸を含有することによって、(A)カチオン性化合物のカチオン性を有効に利用することができ、具体的には、(B)金属触媒が絶縁性領域上に吸着することを抑制することができるため、金属材料上のめっき析出性及びパターン性に優れた無電解めっき皮膜を形成し易い。
【0042】
(C)酸は、触媒付与液に可溶性である限り、特に限定されない。(C)酸としては、具体的には、酢酸、蟻酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、フマール酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、フッ化水素酸、メタンスルホン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、及びホウ酸等が挙げられる。これらの中でも、金属材料上のめっき析出性及びパターン性に優れた無電解めっき皮膜を形成する観点から、グリコール酸、硫酸、塩酸、メタンスルホン酸が好ましい。
【0043】
(C)酸は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
(C)酸を含む場合、その含有量は、pH上記範囲内にある限り特に限定されない。
【0045】
(D)塩化物
本発明の触媒付与液は、上記化合物の他に、(D)塩化物を含有していてもよい。通常、触媒付与液に金属材料を長時間浸漬させる場合、金属触媒による腐食が発生し得る。しかしながら、本発明の触媒付与液は、(D)塩化物を含有する場合に、処理工程における金属材料の腐食をより抑制しながら、金属材料上のめっき析出性及びパターン性に優れた無電解めっき皮膜の形成を可能にすることができる。さらに、(D)塩化物を含有する触媒付与液を用いた場合は、(D)塩化物を用いない場合と比較して、金属材料上の無電解めっき皮膜のパターン性をより一層向上させることができる。
【0046】
(D)塩化物は、触媒付与液に可溶性である限り、特に限定されない。(D)塩化物としては、例えば、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化リチウム、トリクロロアセトアルデヒド、及び二酸化塩素等が挙げられる。これらの中でも、金属材料上のめっき析出性及びパターン性に優れた無電解めっき皮膜を形成する観点から、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウムが好ましい。
【0047】
(D)塩化物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
(D)塩化物を含む場合、その含有量は特に限定されないが、0.01~200g/Lが好ましく、1~100g/Lがより好ましく、3~50g/Lがさらに好ましい。塩化物が多すぎる場合、金属材料それ自体が溶解し易くなるためにむしろ腐食の進行を促進させるか、又は、金属材料上に塩化物が形成されるために金属触媒の置換反応の妨げになる。また、塩化物が少なすぎる場合には、触媒付与液中の塩化物イオンが不足することによって、金属材料の腐食を十分に抑制することが困難となる。
【0049】
本発明の触媒付与液は、溶媒として主に水を含有することが好ましい。本発明の触媒付与液は、水以外の溶媒も含有していてもよい。本発明の触媒付与液に含まれ得る水以外の溶媒としては、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール類;エチレングリコールジメチルエーテル、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等が挙げられる。水以外の溶媒も含有する場合、その含有量は特に限定されないが、溶媒100質量%に対して、5質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましい。水以外の溶媒の含有量の上限が上記範囲であることにより、溶媒の疎水性によるカチオン性化合物の効果の低下がより抑制される。
【0050】
本発明の触媒付与液には、その他必要に応じて、各種の添加剤を配合することができる。添加剤としては、例えば安定剤、pH緩衝剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0051】
安定剤として、例えば硝酸鉛、酢酸鉛等の鉛塩;硝酸ビスマス、酢酸ビスマス等のビスマス塩;チオ硫酸ナトリウム等の硫黄化合物等を1種単独又は2種以上混合して添加することができる。安定剤を添加する場合、その添加量は、特に限定的ではないが、例えば、0.01~100mg/L程度とすることができる。
【0052】
pH緩衝剤として、例えば酢酸、ホウ酸、リン酸、亜リン酸、炭酸、クエン酸、フタル酸、シュウ酸それらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等を1種単独又は2種以上混合して添加することができる。pH緩衝剤を添加する場合、その添加量は特に限定的ではないが、浴安定性等の観点から、0.002~1mol/L程度とすることができる。
【0053】
界面活性剤として、上記カチオン性界面活性剤以外に、例えばノニオン性、アニオン性、両性等の各種界面活性剤を用いることができる。例えば、芳香族又は脂肪族スルホン酸アルカリ塩、芳香族又は脂肪族カルボン酸アルカリ金属塩等が挙げられる。界面活性剤は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。界面活性剤を添加する場合、その添加量は特に限定的ではないが、例えば0.01~1000mg/L程度とすることができる。
【0054】
2.触媒付与方法
本発明は、その一態様において、(1)本発明の触媒付与液と、被めっき物とを接触させる工程を含む、触媒核を含む無電解めっき対象材料を製造する方法、或いは、無電解めっき対象材料を触媒付与処理する方法(本明細書において、「本発明の方法1」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0055】
被めっき物は、金属が表面に露出している材料である限り、特に限定されない。例えば、素材として、ガラス繊維強化エポキシ、ポリイミド、PET等のプラスチック類、ガラス、セラミック、金属酸化物、金属、紙、合成又は天然繊維などの材質を1種で又は組み合わせてなるものであり、その形状としては、板、フィルム、布状、繊維状、チューブ等のいずれであってもよい。
【0056】
被めっき物として、具体的には、例えばプリント配線板、半導体パッケージ、電子部品、セラミック基板等が挙げられる。これらの材料において、表面に露出している金属は、配線を構成し得る。
【0057】
表面に露出している金属としては、例えば、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、銀、銀合金、金、金合金、白金、白金合金、モリブデン、タングステン等が挙げられる。これらの内で、銅合金、銀合金、金合金及び白金合金としては、それぞれ、例えば、銅、ニッケル、銀、金又は白金を50質量%以上含む合金に対して適用できる。
【0058】
上記のように、被めっき物は、その表面に絶縁性領域及び導電性領域を備えるものであることが好ましい。この場合に、本発明の方法1によって、(A)カチオン性化合物が予め絶縁性領域上に吸着し、使用した(B)金属触媒の一部又は全部が導電性領域上に効率よく吸着される。すなわち、本発明の方法1によって、被めっき物の導電性領域(特に、表面金属)上に、効率よく(B)金属触媒を含む触媒核が形成される。このため、本発明の方法1によれば、後続の無電解めっき処理工程において、金属材料上のめっき析出性を確保しながら、パターン性に優れた無電解めっき皮膜を形成し易い。
【0059】
本発明の方法1により、このような触媒が付与された材料、具体的には、表面に絶縁性領域及び導電性領域を備える基材、及び、前記導電性領域上の金属触媒1を有し、前記金属触媒1の絶縁性領域上への付着が抑制された材料(基板)、を得ることができる。このような触媒が付与された材料である、被めっき物を無電解めっき処理することにより、めっき析出性及びパターン性(選択析出性)がより優れた無電解めっき皮膜を形成することができる。金属触媒を含む触媒核は、表面活性化の目的であるので、その厚みは、例えば0.05μm以下、0.005~0.05μmとすることができる。
【0060】
被めっき物は、脱脂処理、ソフトエッチング処理等の前処理が施されたものであることが好ましい。
【0061】
本発明の触媒付与液を被めっき物に接触させるための具体的な方法については、特に限定的ではないが、通常は、本発明の触媒付与液中に被めっき物を浸漬すればよい。その他、被めっき物の表面に該触媒付与液を塗布、噴霧する方法等によっても触媒付与処理を行うことができる。
【0062】
本発明の触媒付与液を浸漬法によって行う場合には、本発明の触媒付与液の液温は、通常、10~90℃程度が好ましく、20~40℃程度がより好ましく、25~35℃がさらに好ましい。
【0063】
処理時間については、10秒~20分程度が好ましく、30秒~5分程度がより好ましく、1分~3分がさらに好ましい。
【0064】
3.無電解めっき方法
本発明は、その一態様において、(1)本発明の触媒付与液と、被めっき物とを接触させる工程、及び(2)無電解めっき処理する工程を順に備える、無電解めっき皮膜を含む材料を製造する方法、或いは、被めっき物を無電解めっきする方法(本明細書において、「本発明の方法2」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0065】
工程(1)については、上記「2.触媒付与方法」の通りである。
【0066】
(2)無電解めっき処理する工程における無電解めっき処理は、工程(1)で得られた触媒が付与された材料(被めっき物)を、無電解めっき液と接触させることにより行うことができる。
【0067】
無電解めっき処理の前に、被めっき物上の(A)カチオン性化合物の一部又は全部を除去してもよい。(A)カチオン性化合物の除去は、通常の水洗処理により行うことができる。
【0068】
無電解めっき液としては特に限定はなく、自己触媒性の無電解めっき液を用いることができる。例えば、無電解パラジウムめっき液、無電解パラジウム合金めっき液、無電解銅めっき液、無電解銅合金めっき液、無電解ニッケルめっき液、無電解ニッケル合金めっき液、無電解銀めっき液、無電解銀合金めっき液、無電解金めっき液、無電解金合金めっき液等を用いることができる。これらの無電解めっき液の具体的な組成については、特に限定はなく、還元剤成分を含む公知の組成の自己触媒性の無電解めっき液を用いればよい。めっき条件についても、使用するめっき液の種類に応じて、通常のめっき条件に従えばよい。
【0069】
本発明の方法2の工程(2)において、好適な無電解めっき液として、無電解パラジウムめっき液、無電解パラジウム合金めっき液、無電解ニッケルめっき液、無電解ニッケル合金めっき液、無電解銀めっき液、無電解銀合金めっき、無電解金めっき液、及び無電解金合金めっき液等が挙げられる。工程(2)で無電解ニッケルめっき液又は無電解ニッケル合金めっき液を使用した場合は、さらに無電解銀めっき、無電解銀合金めっき、無電解金めっき、又は無電解金合金めっきを行うことが好ましい。また工程(2)で無電解ニッケルめっき液又は無電解ニッケル合金めっき液を使用した場合は、さらに無電解パラジウムめっき又は無電解パラジウム合金めっきを行うことが好ましく、これに続いてさらに無電解金めっき又は無電解金合金めっきを行うことがより好ましい。また工程(2)で無電解パラジウムめっき液又は無電解パラジウム合金めっき液を使用した場合は、さらに無電解金めっき又は無電解金合金めっきを行うことが好ましい。また工程(2)で無電解パラジウムめっき液、無電解パラジウム合金めっき液、無電解ニッケルめっき液、無電解ニッケル合金めっき液、無電解銀めっき液、無電解銀合金めっき液、無電解金めっき液、又は無電解金合金めっき液のみを用いることも可能である。
【0070】
本発明の方法2により、めっき析出性及びパターン性(選択析出性)がより優れた無電解めっき皮膜を形成することができる。本発明の方法2により、このような無電解めっき皮膜を供える材料、具体的には、表面に絶縁性領域及び導電性領域を備える基材、前記導電性領域上の金属触媒1、及び、前記金属触媒1上の皮膜2を有し、前記金属触媒1及び/又は前記皮膜2の絶縁性領域上での形成が抑制された材料(基板)、を得ることができる。
【実施例】
【0071】
以下に実施例及び比較例を示して本発明をより詳しく説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0072】
(触媒付与液の調製)
溶媒としての水に、表1に示す原料を表1に示す割合で順次添加し、各実施例及び比較例の触媒付与液を500mL調製した。
【0073】
(評価試験)
以下の評価試験では、被めっき物を前処理(酸性脱脂、ソフトエッチング)した後に、調製した上記触媒付与液により金属表面上に触媒核を形成し、次いで無電解ニッケルめっき又は無電解パラジウムめっき、最後に無電解金めっきの順に処理した。各処理の詳細は、特に断りのない限り以下の通りである。各工程間に流水水洗1分処理を実施した。
【0074】
(a)酸性脱脂
硫酸及び界面活性剤を含有する酸性脱脂液(商標名:ICPクリーンS-135K)に、40℃で5分間浸漬した。
【0075】
(b)ソフトエッチング
過硫酸ナトリウム100g/Lと、98%硫酸10mL/Lとを含有する水溶液中に、室温で1分間浸漬した。
【0076】
(c)触媒付与処理
表1に示す条件で上記触媒付与液に浸漬した。具体的には、pHとしては、実施例1~41及び比較例1~5で1以下を、実施例42~48及び比較例6で6.8を用いた。また、浸漬時間としては、実施例1~34及び比較例1~4で1分を、実施例35~48及び比較例5、6で3分を用いた。処理温度としては、いずれの触媒付与液においても30℃を用いた。
【0077】
(d-1)無電解ニッケルめっき
無電解ニッケルめっき液(商標名:ICPニコロンFPF、奥野製薬工業株式会社製)中に、84℃で25分間浸漬して、膜厚4μmのめっき皮膜を得た。
【0078】
(d-2)無電解パラジウムめっき
無電解パラジウムめっき液(商標名:トップパラスPD、奥野製薬工業株式会社製)中に、65℃で5分間浸漬して、膜厚0.1μmのめっき皮膜を得た。
【0079】
(e)無電解金めっき
無電解金めっき液(商標名:トップパラスAU、奥野製薬工業株式会社製)中に、80℃で1分間浸漬して、膜厚0.05μmのめっき皮膜を得た。
【0080】
試験例1:めっき析出性の評価
被めっき物として、樹脂基材上にオーバーレジストタイプの微小銅パッド(φ60~130μm、パッド数30個)を有するBGA樹脂基板を用意した。当該BGA樹脂基板に対して、上記の処理工程にて無電解めっきを施した。無電解めっき後の微小パッドについて、顕微鏡観察(300倍)により無電解めっきの析出状態を観察した。以下の評価基準に従って評価した。
〇:未析出が全くない
△:わずかに未析出が認められた
×:未析出が多数生じた
【0081】
試験例2:パターン性の評価
被めっき物として、樹脂基材上に微細配線(L/S=50/50μm)を有するBGA樹脂基板を用意した。当該BGA樹脂基板に対して、上記の処理工程にて無電解めっきを施した。無電解めっき後のL/S=50/50μmの配線パターン部分について、顕微鏡観察(1000倍)により無電解めっきの拡がりの有無を観察した。以下の評価基準に従って評価した。
〇:めっき拡がりが全くない
△:僅かにめっき拡がりが認められた
×:めっき拡がりが多数生じた
【0082】
結果を表1~7に示す。
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【要約】
【課題】金属材料上のめっき析出性及びパターン性に優れた無電解めっき皮膜を形成するために有用である触媒付与液を提供する。
【解決手段】(A)カチオン性ポリマー及びカチオン性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種のカチオン性化合物、及び
(B)金属触媒
を含有する、無電解めっき用触媒付与液。
【選択図】なし