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特許7573344マスクブランク、転写用マスクの製造方法、及び半導体デバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】マスクブランク、転写用マスクの製造方法、及び半導体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/80 20120101AFI20241018BHJP
   G03F 1/32 20120101ALI20241018BHJP
   G03F 1/54 20120101ALI20241018BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20241018BHJP
   G01N 23/227 20180101ALN20241018BHJP
【FI】
G03F1/80
G03F1/32
G03F1/54
H01L21/302 105A
G01N23/227
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023111188
(22)【出願日】2023-07-06
(62)【分割の表示】P 2019050514の分割
【原出願日】2019-03-18
(65)【公開番号】P2023145473
(43)【公開日】2023-10-11
【審査請求日】2023-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103676
【弁理士】
【氏名又は名称】藤村 康夫
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 博明
(72)【発明者】
【氏名】大久保 亮
(72)【発明者】
【氏名】野澤 順
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-232191(JP,A)
【文献】特開2016-035546(JP,A)
【文献】特開2016-167052(JP,A)
【文献】国際公開第2017/077915(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/20-1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、パターン形成用薄膜とハードマスク膜がこの順に積層した構造を備えるマスクブランクであって、
前記ハードマスク膜は、ケイ素と酸素を含有する材料からなり、
前記ハードマスク膜をX線光電子分光法で分析して得られるN1sのナロースペクトルの最大ピークが検出下限値以下であり、
前記ハードマスク膜をX線光電子分光法で分析して得られるO1sナロースペクトルが532eV以上の結合エネルギーで最大ピークを有し、
前記ハードマスク膜をX線光電子分光法で分析して得られるSi2pのナロースペクトルが103eV以上103.5eV以下の結合エネルギーで最大ピークを有する
ことを特徴とするマスクブランク。
【請求項2】
前記ハードマスク膜の表面をX線光電子分光法で分析して得られるSi2pのナロースペクトルで最大ピークとなる結合エネルギーと、前記ハードマスク膜の内部をX線光電子分光法で分析して得られるSi2pのナロースペクトルで最大ピークとなる結合エネルギーとの差が0.2eV以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のマスクブランク。
【請求項3】
前記ハードマスク膜の表面をX線光電子分光法で分析して得られるO1sのナロースペクトルで最大ピークとなる結合エネルギーと、前記ハードマスク膜の内部をX線光電子分光法で分析して得られるO1sのナロースペクトルで最大ピークとなる結合エネルギーとの差が0.1eV以下である
ことを特徴とする請求項1または2に記載のマスクブランク。
【請求項4】
前記ハードマスク膜は、ケイ素と酸素の含有比率(原子%)が、Si:O=1:2未満であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項5】
前記ハードマスク膜は、X線光電子分光法で分析して得られるO1sのナロースペクトルが533eV未満の結合エネルギーで最大ピークを有することを特徴とする請求項1からのいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項6】
前記ハードマスク膜は、X線光電子分光法で分析して得られるSi2pのナロースペクトルが97eV以上100eV以下の結合エネルギーの範囲でピークを有さないことを特徴とする請求項1からのいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項7】
前記ハードマスク膜は、酸素の含有量が60原子%以上であることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項8】
前記ハードマスク膜は、ケイ素と酸素とからなる材料、または窒素を除く非金属元素および半金属元素から選ばれる1以上の元素とケイ素と酸素とからなる材料で形成されていることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項9】
前記パターン形成用薄膜は、クロム、タンタルおよびニッケルから選ばれる1以上の元素を含有する材料からなることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項10】
前記パターン形成用薄膜は、遮光膜であることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項11】
前記基板と前記遮光膜の間に位相シフト膜を備えることを特徴とする請求項10記載のマスクブランク。
【請求項12】
前記パターン形成用薄膜は、吸収体膜であることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項13】
請求項1から12のいずれかに記載のマスクブランクを用いる転写用マスクの製造方法であって、
前記ハードマスク膜上に形成された転写パターンを有するレジスト膜をマスクとし、エッチングにより、前記ハードマスク膜に転写パターンを形成する工程と、
前記転写パターンが形成されたハードマスク膜をマスクとし、エッチングにより、前記パターン形成用薄膜に転写パターンを形成する工程とを有することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の転写用マスクの製造方法によって製造した転写用マスクを用い、半導体デバイスを形成する基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程を備えることを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクブランク、このマスクブランクを用いる転写用マスクの製造方法、及
び、このマスクブランクから製造された転写用マスクを用いる半導体デバイスの製造方法
に関する。
【背景技術】
【0002】
ハーフトーン型の位相シフトマスクのマスクブランクとして、透光性基板上に金属シリ
サイド系材料からなるハーフトーン位相シフト膜、クロム系材料からなる遮光膜、無機系
材料からなるエッチングマスク膜(ハードマスク膜)が積層された構造を有するマスクブ
ランクが以前より知られている(例えば、特許文献1参照)。このマスクブランクを用い
て位相シフトマスクを製造する場合、先ず、マスクブランクの表面に形成したレジストパ
ターンをマスクとしてフッ素系ガスによるドライエッチングでエッチングマスク膜をパタ
ーニングし、次にエッチングマスク膜をマスクとして塩素と酸素の混合ガスによるドライ
エッチングで遮光膜をパターニングし、さらに遮光膜のパターンをマスクとしてフッ素系
ガスによるドライエッチングで位相シフト膜をパターニングする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2004/090635号公報
【文献】特許第6158460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているようなマスクブランクにおいて、クロム系化合物からなる
遮光膜は、位相シフト膜を透過した露光光を所定以下の光量に低下させる遮光性能を備え
ることが求められる。このマスクブランクから位相シフトマスクを作製する際、遮光膜に
遮光帯を含むパターンが形成される。そして、位相シフト膜と遮光膜の積層構造で所定の
光学濃度を満たすことが求められる。同時に、この遮光膜には、位相シフト膜をフッ素系
ガスのドライエッチングによってパターニングして位相シフトパターンを形成するときに
エッチングマスクとして機能することが求められる。位相シフトマスクの完成段階では、
遮光膜には遮光パターン等の比較的疎なパターンが形成されるのが一般的である。しかし
、マスクブランクから位相シフトマスクを製造する途上において、遮光膜は位相シフト膜
に微細な転写パターンである位相シフトパターンを形成するときにエッチングマスクとし
て機能する必要がある。このため、遮光膜においても微細パターンを高い寸法精度で形成
できることが望まれる。
【0005】
クロム系材料からなる遮光膜のドライエッチングでは、塩素系ガスと酸素ガスとの混合
ガス(酸素含有塩素系ガス)がエッチングガスとして用いられる。一般に、この酸素含有
塩素系ガスをエッチングガスに用いるドライエッチングは、異方性エッチングの傾向が小
さく、等方性エッチングの傾向が大きい。
【0006】
一般に、ドライエッチングによって薄膜にパターンを形成する場合、エッチングが膜の
厚さ方向のみならず、薄膜に形成されるパターンの側壁方向へのエッチング、いわゆるサ
イドエッチングが進む。このサイドエッチングの進行を抑制するために、ドライエッチン
グの際、基板の薄膜が形成されている主表面の反対側からバイアス電圧を掛け、エッチン
グガスが膜の厚さ方向により多く接触するように制御することがこれまでも行われている
。フッ素系ガスのようにイオン性のプラズマになる傾向が大きいエッチングガスを用いる
イオン主体のドライエッチングの場合には、バイアス電圧を掛けることよるエッチング方
向の制御性が高く、エッチングの異方性が高められるため、エッチングされる薄膜のサイ
ドエッチング量を微小にできる。
【0007】
一方、酸素含有塩素系ガスによるドライエッチングの場合、酸素ガスはラジカル性のプ
ラズマになる傾向が高いため、バイアス電圧を掛けることによるエッチング方向の制御の
効果が小さく、エッチングの異方性を高めることが難しい。このため、酸素含有塩素系ガ
スを用いるドライエッチングによって、クロム系材料からなる遮光膜にパターンを形成す
る場合、サイドエッチング量が大きくなりやすい。
【0008】
有機系材料からなるレジストパターンをエッチングマスクとして、酸素含有塩素系ガス
を用いたドライエッチングでクロム系材料の遮光膜をパターニングする場合、レジストパ
ターンは、上方からエッチングされて減退していく。このとき、パターンの側壁方向もエ
ッチングされて減退する。このため、レジスト膜に形成するパターンの幅は、予めサイド
エッチングによる減退量を見込んで設計されている。さらに、レジスト膜に形成するパタ
ーンの幅は、クロム系材料の遮光膜のサイドエッチング量も見込んで設計されている。
【0009】
近年、クロム系材料の遮光膜の上に、酸素含有塩素系ガスのドライエッチングに対し、
クロム系材料との間で十分なエッチング選択性を有する材料からなる、エッチングマスク
膜(ハードマスク膜)を設けたマスクブランクが用いられ始めている。このマスクブラン
クでは、レジストパターンをマスクとするドライエッチングによってハードマスク膜にパ
ターンを形成する。そして、パターンが形成されたハードマスク膜をマスクとし、酸素含
有塩素系ガスのドライエッチングを遮光膜に対して行い、遮光膜にパターンを形成する。
このハードマスク膜は、フッ素系ガスのドライエッチングでパターニング可能な材料で形
成されるのが一般的である。フッ素系ガスのドライエッチングは、イオン主体のエッチン
グであるため、異方性エッチングの傾向が大きい。このため、位相シフトパターンが形成
されたハードマスク膜におけるパターン側壁のサイドエッチング量は小さい。また、フッ
素系ガスのドライエッチングの場合、ハードマスク膜にパターンを形成するためのレジス
トパターンにおいても、サイドエッチング量が小さくなる傾向がある。このため、クロム
系材料の遮光膜についても、酸素含有塩素系ガスのドライエッチングにおけるサイドエッ
チング量が小さいことが望まれる。
【0010】
このクロム系材料の遮光膜におけるサイドエッチング量を小さくする手段として、酸素
含有塩素系ガスのドライエッチングにおいて、酸素含有塩素系ガス中の塩素系ガスの混合
比率を大幅に高めることが検討されている。塩素系ガスは、イオン性のプラズマになる傾
向が大きいからである。塩素系ガスの比率を高めた酸素含有塩素系ガスを用いたドライエ
ッチングでは、クロム系材料の遮光膜のエッチングレートが低下することは避けられない
。このクロム系材料の遮光膜のエッチングレートの低下を補うために、ドライエッチング
時に掛けられるバイアス電圧を大幅に高くする(以下、塩素系ガスの比率を高めた酸素含
有塩素系ガスを用い、かつ高いバイアス電圧を掛けた状態下で行われるドライエッチング
のことを、「酸素含有塩素系ガスの高バイアスエッチング」という。)ことも検討されて
いる。
【0011】
この酸素含有塩素系ガスの高バイアスエッチングによるクロム系材料の遮光膜に対する
エッチングレートは、従来のエッチング条件でのドライエッチングを行う場合と遜色ない
レベルである。エッチング時に生じる遮光膜のサイドエッチング量も従来よりも小さくす
ることができる。
【0012】
さらに、クロム系材料の遮光膜における結合や組成を検討し調整等することによって、
転写パターンが形成されたハードマスク膜をマスクとし、酸素含有塩素系ガスをエッチン
グガスに用い、かつ高バイアスエッチング条件で遮光膜をパターニングした場合、形成さ
れた遮光膜のパターンのサイドエッチング量を大幅に低減することができ、この結果位相
シフト膜に精度よく微細なパターンを形成することができる(特許文献2)。
【0013】
しかし、位相シフト膜に形成すべきパターンのさらなる微細化が求められており、その
ためには上述した遮光膜のパターンのサイドエッチング量を大幅に低減する等の技術のみ
では十分ではない。また、遮光膜等のパターン形成用薄膜に形成すべきパターンやハード
マスク膜に形成すべきパターンのさらなる微細化およびパターン品質の向上が求められて
いる。これらのことは、パターン形成用薄膜である遮光膜を有するバイナリマスクや、パ
ターン形成用薄膜である吸収体膜を有する反射型マスクにおいても同様である。
【0014】
上述した問題の解決のため、本発明では、基板上に、遮光膜等のパターン形成用薄膜と
ハードマスク膜がこの順に積層した構造を備えるマスクブランクに関し、遮光膜等のパタ
ーン形成用薄膜に形成すべきパターンやハードマスク膜に形成すべきパターンのさらなる
微細化およびパターン品質の向上が可能なマスクブランクを提供する。特に、本発明は、
高バイアスエッチング条件に適した優れた性能を有するハードマスク膜を有し、パターン
形成用薄膜に形成すべきパターンのさらなる微細化およびパターン品質の向上が可能なマ
スクブランクを提供する。また、本発明は、このマスクブランクを用いることにより、パ
ターン形成用薄膜に精度よく微細なパターンを形成することが可能な転写用マスクの製造
方法を提供する。さらに、その転写用マスクを用いる半導体デバイスの製造方法を提供す
る。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は上記の課題を解決する手段として、以下の構成を有する。
【0016】
(構成1)
基板上に、パターン形成用薄膜とハードマスク膜がこの順に積層した構造を備えるマス
クブランクであって、
前記ハードマスク膜は、ケイ素と酸素を含有する材料からなり、
前記ハードマスク膜は、X線光電子分光法で分析して得られるSi2pのナロースペク
トルが103eV以上の結合エネルギーで最大ピークを有し、
前記ハードマスク膜は、X線光電子分光法で分析して得られるN1sのナロースペクト
ルの最大ピークが検出下限値以下であり、
前記ハードマスク膜は、ケイ素と酸素の含有比率(原子%)が、Si:O=1:2未満
である
ことを特徴とするマスクブランク。
【0017】
(構成2)
前記ハードマスク膜は、X線光電子分光法で分析して得られるO1sのナロースペクト
ルが532eV以上の結合エネルギーで最大ピークを有することを特徴とする請求項1記
載のマスクブランク。
(構成3)
前記ハードマスク膜は、X線光電子分光法で分析して得られるO1sのナロースペクト
ルが533eV未満の結合エネルギーで最大ピークを有することを特徴とする請求項1ま
たは2に記載のマスクブランク。
【0018】
(構成4)
前記ハードマスク膜の表面をX線光電子分光法で分析して得られるSi2pのナロース
ペクトルで最大ピークとなる結合エネルギーと、前記ハードマスク膜の内部をX線光電子
分光法で分析して得られるSi2pのナロースペクトルで最大ピークとなる結合エネルギ
ーとの差が0.2eV以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のマ
スクブランク。
(構成5)
前記ハードマスク膜の表面をX線光電子分光法で分析して得られるO1sのナロースペ
クトルで最大ピークとなる結合エネルギーと、前記ハードマスク膜の内部をX線光電子分
光法で分析して得られるO1sのナロースペクトルで最大ピークとなる結合エネルギーと
の差が0.1eV以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のマスク
ブランク。
【0019】
(構成6)
前記ハードマスク膜は、X線光電子分光法で分析して得られるSi2pのナロースペク
トルが97eV以上100eV以下の結合エネルギーの範囲でピークを有さないことを特
徴とする請求項1から5のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成7)
前記ハードマスク膜は、酸素の含有量が60原子%以上であることを特徴とする請求項
1から6のいずれかに記載のマスクブランク。
【0020】
(構成8)
前記ハードマスク膜は、ケイ素と酸素とからなる材料、または窒素を除く非金属元素お
よび半金属元素から選ばれる1以上の元素とケイ素と酸素とからなる材料で形成されてい
ることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成9)
前記パターン形成用薄膜は、クロム、タンタルおよびニッケルから選ばれる1以上の元
素を含有する材料からなることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のマスクブ
ランク。
【0021】
(構成10)
前記パターン形成用薄膜は、遮光膜であることを特徴とする請求項1から9のいずれか
に記載のマスクブランク。
(構成11)
前記基板と前記遮光膜の間に位相シフト膜を備えることを特徴とする請求項10記載の
マスクブランク。
(構成12)
前記パターン形成用薄膜は、吸収体膜であることを特徴とする請求項1から9のいずれ
かに記載のマスクブランク。
【0022】
(構成13)
請求項1から12のいずれかに記載のマスクブランクを用いる転写用マスクの製造方法
であって、
前記ハードマスク膜上に形成された転写パターンを有するレジスト膜をマスクとし、フ
ッ素系ガスを用いたドライエッチングにより、前記ハードマスク膜に転写パターンを形成
する工程と、
前記転写パターンが形成されたハードマスク膜をマスクとし、塩素を含有するガスを用
いたドライエッチングにより、前記パターン形成用薄膜に転写パターンを形成する工程と
を有することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【0023】
(構成14)
前記塩素を含有するガスを用いたドライエッチングは、塩素系ガスの比率を高めた酸素
含有塩素系ガスを用い、かつ高いバイアス電圧を掛けた状態下で行われるドライエッチン
グであることを特徴とする請求項13記載の転写用マスクの製造方法。
(構成15)
前記塩素を含有するガスを用いたドライエッチングは、酸素含有しない塩素系ガスを用
い、かつ高いバイアス電圧を掛けた状態下で行われるドライエッチングであることを特徴
とする請求項13記載の転写用マスクの製造方法。
【0024】
(構成16)
請求項13から15のいずれかに記載の転写用マスクの製造方法によって製造した転写
用マスクを用い、半導体デバイスを形成する基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転
写する工程を備えることを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0025】
以上の構成を有する本発明のマスクブランクによれば、基板上に、遮光膜等のパターン
形成用薄膜とハードマスク膜がこの順に積層した構造を備えるマスクブランクに関し、遮
光膜等のパターン形成用薄膜に形成すべきパターンやハードマスク膜に形成すべきパター
ンのさらなる微細化およびパターン品質の向上が可能なマスクブランクを提供できる。特
に、本発明は、高バイアスエッチング条件に適した優れた性能を有するハードマスク膜を
有し、パターン形成用薄膜に形成すべきパターンのさらなる微細化およびパターン品質の
向上が可能なマスクブランクを提供できる。また、本発明は、このマスクブランクを用い
ることにより、パターン形成用薄膜に精度よく微細なパターンを形成することが可能な転
写用マスクの製造方法を提供できる。さらに、その転写用マスクを用いる半導体デバイス
の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】マスクブランクの実施形態の断面概略図である。
図2】位相シフトマスクの製造工程を示す断面概略図である。
図3】実施例1に係るマスクブランクに対し、XPS分析(深さ方向化学結合状態分析)を行った結果(Si2pナロースペクトル)を示す図である。
図4】実施例1に係るマスクブランクに対し、XPS分析(深さ方向化学結合状態分析)を行った結果(N1sナロースペクトル)を示す図である。
図5】実施例1に係るマスクブランクに対し、XPS分析(深さ方向化学結合状態分析)を行った結果(O1sナロースペクトル)を示す図である。
図6】反射型マスクブランクの実施形態の断面概略図である。
図7】反射型マスクの製造工程を示す断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の各実施の形態について説明するが、まず本発明に至った経緯について説
明する。
本発明者は、ハードマスク膜に形成されるパターンのさらなる微細化およびパターン品
質の向上について研究した。その結果、以下のことが判明した。
第1に、ケイ素と酸素を含有する材料からなるハードマスク膜は、ケイ素(Si)と酸
素(O)の含有比率(原子%)が、Si:O=1:2未満である(酸素欠損しているSi
膜である)<条件1>と、Si:O=1:2である(酸素欠損していないSiO
である)場合に比べ、フッ素系ガスに対するエッチングレートが大きく、ハードマスク膜
が速くきれいにエッチング加工できることがわかった。
【0028】
第2に、ケイ素と酸素を含有する材料からなるハードマスク膜は、酸化度の低いSi-
O結合の存在比率が高い場合、あるいは酸素と結合していないケイ素の結合(Si-Si
結合)の存在比率が高い場合、酸素含有塩素系ガスによるドライエッチングの耐性が大き
く低下することが判明した。このドライエッチングの耐性が低下すると、微細パターンが
形成されたハードマスク膜をマスクとし、酸素含有塩素系ガスによるドライエッチングで
パターン形成用薄膜(遮光膜等)をパターニングする途上で、ハードマスク膜の微細パタ
ーンのエッジ形状が悪化していく現象や、微細パターンの側壁のサイドエッチングが進行
する現象が顕著になる。この場合、ハードマスク膜に微細なパターンを高精度に形成され
ていても、そのハードマスク膜のパターンをマスクとするドライエッチングをパターン形
成用薄膜に対して行っているときに、ハードマスク膜のパターン形状が悪化していく現象
が生じる。これに起因して、パターン形成用薄膜に微細なパターンを精度よく形成するこ
とができないという問題が生じてしまう。
【0029】
このハードマスク膜の酸素含有塩素系ガスによるドライエッチングに対する耐性の低下
は、高バイアスエッチング条件の場合に顕著であった。一般に、薄膜をドライエッチング
する際には、化学反応によるエッチングと物理的作用によるエッチングの両方が行われる
。化学反応によるエッチングは、プラズマ状態のエッチングガスが薄膜の表面に接触し、
薄膜中のケイ素または金属元素と結合して低沸点の化合物(例えばSiF、CrO
等)を生成して昇華するプロセスで行われる。化学反応によるエッチングでは、他の
元素(例えば、O、N等)と結合状態にあるケイ素または金属元素に対しその結合を断ち
切らせて低沸点の化合物を生成する。これに対し、物理的なエッチングは、バイアス電圧
によって加速されたエッチングガス中のイオン性のプラズマが薄膜の表面に衝突すること
(この現象を「イオン衝撃」ともいう。)で、薄膜表面のケイ素または金属元素を含む各
元素を物理的にはじき飛ばし(このとき元素間の結合が断ち切られる。)、そのケイ素ま
たは金属元素と低沸点の化合物を生成して昇華するプロセスで行われる。
【0030】
高バイアスエッチングは、通常条件のドライエッチングに比べて物理的作用によるドラ
イエッチングを高めたものである。物理的作用によるエッチングは、膜厚方向へのエッチ
ングに対して大きく寄与するが、パターンの側壁方向へのエッチングにはあまり寄与しな
い。これに対し、化学反応によるエッチングは、膜厚方向へのエッチング及びパターンの
側壁方向へのエッチング(サイドエッチング)のいずれにも寄与するものである。
【0031】
上述の酸素含有塩素系ガスによるドライエッチングに対するハードマスク膜の耐性が低
下する問題を解消するには、ハードマスク膜を酸化度の低いSi-O結合の存在比率が低
い、あるいはSi-Si結合の存在比率が低い材料で形成する必要がある。さらになる研
究の結果、ハードマスク膜を構成する材料の結合の存在比率を測る指標としてX線光電子
分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)で分析して得られるSi2pナロ
ースペクトルを用いればよいという考えに至った。具体的には、ハードマスク膜を、その
ハードマスク膜に対してX線光電子分光法で分析したときに得られるSi2pナロースペ
クトルが103eV以上の結合エネルギーで最大ピークを有するように調整すればよい<
条件2>ということが分かった。このようなSi2pナロースペクトルが得られるハード
マスク膜は、ケイ素(Si)と酸素(O)の含有比率(原子%)が、Si:O=1:2未
満であっても、酸化度の低いSi-O結合の存在比率が低い、あるいは酸素と結合してい
ないケイ素の結合(Si-Si結合)の存在比率が低いといえる。
【0032】
ケイ素(Si)と酸素(O)とは、様々な結合形態を取りうる。たとえば、1つのケイ
素(Si)に1つの酸素が結合する形態、1つのケイ素(Si)に2つの酸素が結合する
形態、1つのケイ素(Si)に3つの酸素が結合する形態、1つのケイ素(Si)に4つ
の酸素が結合する形態などが挙げられる。また、ケイ素(Si)と酸素(O)と水素(H
)とは、様々な結合形態を取りうる。たとえば、1つのケイ素(Si)に3つの酸素(O
)と1つの水素(H)が結合する形態、1つのケイ素(Si)に1つの酸素(O)と1つ
の水素(H)が結合する形態、1つのケイ素(Si)に2つの酸素(O)と1つの水素(
H)が結合する形態などが挙げられる。このため、ハードマスク膜の組成を特定すること
で、膜内部の各構成元素の結合形態を特定することは難しい。
【0033】
一方、窒化ケイ素膜に対してX線光電子分光法で分析を行って得られるSi2pナロー
スペクトルが最大ピークとなる結合エネルギーとなる位置は、酸化ケイ素膜に対してX線
光電子分光法で分析を行って得られるSi2pナロースペクトルで最大ピークの結合エネ
ルギーとなる位置と比較的近い。このため、ケイ素と酸素を含有する材料からなるハード
マスク膜が窒素を含有していると、そのハードマスク膜が酸化度の低いSi-O結合の存
在比率が高い、あるいはSi-Si結合の存在比率が高い場合であっても、Si-N結合
の存在によって、Si2pナロースペクトルの最大ピークが103eV以上の結合エネル
ギーの位置になることがある。これでは、Si2pナロースペクトルの最大ピークの結合
エネルギーの位置を指標として使用できない。
【0034】
この問題を考慮した結果、ハードマスク膜に対してX線光電子分光法で分析を行って得
られるN1sナロースペクトルの最大ピークが検出下限値以下であれば<条件3>、ハー
ドマスク膜の窒素の有無によってSi2pナロースペクトルの最大ピークとなる結合エネ
ルギーの位置には影響を与えることがないという結論にいたった。
【0035】
以上の鋭意検討の結果、ケイ素と酸素を含有するハードマスク膜が上記の3つの条件、
すなわち、<条件1>ケイ素(Si)と酸素(O)の含有比率(原子%)が、Si:O=
1:2未満であること、<条件2>X線光電子分光法で分析したときに得られるSi2p
ナロースペクトルが103eV以上の結合エネルギーで最大ピークを有すること、<条件
3>N1sナロースペクトルの最大ピークが検出下限値以下であること、を全て満たすも
のであれば、パターン形成用薄膜に形成すべきパターンやハードマスク膜に形成すべきパ
ターンのさらなる微細化およびパターン品質の向上が可能という結論に至った。
【0036】
このようなハードマスク膜は、エッチング時間が短くてすむ分、レジストを薄くできる
。また、レジストを薄くできる分だけ、より微細なレジストパターンの倒れを防止でき、
より微細なレジストパターンの形成を実現できる。さらに、上記のように、ハードマスク
膜が速くエッチング加工できる。これにより、ハードマスク膜のパターンの側壁ラフネス
およびラインエッジラフネスが小さく、きれい(平滑)な側壁を有するハードマスク膜の
パターンを形成できる。その結果、ハードマスク膜のパターン品質を向上できる。
【0037】
なお、ある膜のエッチングレートが増大すると、その膜をパターニングするときのエッ
チングタイムが短くなる。その膜をパターニングするときのエッチングタイムが短くなる
と、その膜の側壁がエッチングガスに晒される時間が短くなり、サイドエッチング量が減
少することにつながる。
また、ある膜のエッチングレートが速くなる場合、膜厚方向のエッチングタイムが短縮
され、ある膜の側壁がエッチングガスに晒される時間が短くなる。これにより、側壁ラフ
ネスが小さく、きれい(平滑)な側壁を有するパターンを形成できる。
【0038】
上記の効果および状態を得るためには、ケイ素と酸素を含有する材料からなるハードマ
スク膜は、酸素の含有量は、66.5原子%以下であると好ましく、66.0原子%以下
であるとより好ましく、65.5原子%以下であるとさらに好ましい。酸素の含有量が多
すぎると、上記の効果および状態が得られにくい。
【0039】
上記第1、第2および第3の三つの効果および状態を得るためには、ケイ素と酸素を含
有する材料からなるハードマスク膜の酸素の含有量は、60原子%以上であると好ましく
、62原子%以上であるとより好ましく、64原子%以上であるとさらに好ましい。酸素
の含有量が少なすぎると、上記の効果および状態が得られにくい。
【0040】
上記の効果および状態を得るためには、ケイ素と酸素を含有する材料からなるハードマ
スク膜のケイ素の含有量は、30原子%以上であると好ましく、31原子%以上であると
より好ましく、32原子%以上であるとさらに好ましい。ケイ素の含有量が少なすぎると
、上記の効果および状態が得られにくい。
また、上記の効果および状態を得るためには、ケイ素と酸素を含有する材料からなるハ
ードマスク膜は、ケイ素の含有量は、40原子%以下であると好ましく、39原子%以下
であるとより好ましく、38原子%以下であるとさらに好ましい。ケイ素の含有量が多す
ぎると、上記の効果および状態が得られにくい。
【0041】
ケイ素と酸素を含有する材料からなるハードマスク膜は、ケイ素(Si)と酸素(O)
の含有比率(原子%)が、Si:O=1:2未満である(酸素欠損しているSiO膜で
ある)場合、酸素欠損部分は、例えば、高真空状態でもなお成膜室内に存在する元素、例
えば、N、C等の原子がわずかに入ると考えられる。
【0042】
なお、薄膜の特性(エッチング速度やパターン品質(エッチング加工品質・加工精度、
側壁ラフネス、ラインエッジラフネス)などの特性を含む)は、その薄膜の組成だけで決
まるものではない。その薄膜の膜密度や結晶状態なども薄膜の特性を左右する要素である
。このため、スパッタリングで薄膜を成膜するときの諸条件を調整して、その薄膜が所定
の特性となるように成膜する。例えば、薄膜を成膜する際における成膜室内の圧力、スパ
ッタターゲットに印加する電力、ターゲットと被成膜基板との間の距離等の位置関係など
多岐に渡る諸条件を調整して、その薄膜が所定の特性となるように成膜する。また、これ
らの成膜条件は成膜装置に固有のものであり、その薄膜が所定の特性となるように適宜調
整されるものである。
薄膜を反応性スパッタリングで成膜する場合、貴ガスと反応性ガス(酸素ガス)の混合
ガスの比率を調整することが有効であるが、それだけに限られることではない。
【0043】
酸素欠損しているSiO膜の形成方法としては、例えば、SiOターゲットを用い
てスパッタ法で成膜する方法が挙げられる。
酸素欠損していないSiO膜の形成方法としては、例えば、Siターゲットを用い、
ガスを用いてスパッタ法で成膜する方法が挙げられる。
【0044】
上記の効果および状態を得るためには、少なくとも、X線光電子分光法(XPS:X-ra
y Photoelectron Spectroscopy)で分析して得られるSi2pナロースペクトルが103
.5eV以下の間の結合エネルギーで最大ピークを有すること、が好ましい。このことは
、ハードマスク膜が、高酸化のSi-O結合だけでなく、低酸化のSi-O結合やSi-
Si結合も存在していることを意味している。
【0045】
上記の条件に加え、ハードマスク膜をX線光電子分光法で分析して得られるO1sナロ
ースペクトルが532eV以上の間の結合エネルギーで最大ピークを有することが好まし
い。このことは、ハードマスク膜中に高酸化のSi-O結合等の高酸化物が多く存在する
ことを意味している。上記の条件に加え、ハードマスク膜をX線光電子分光法で分析して
得られるO1sナロースペクトルが533eV未満の間の結合エネルギーで最大ピークを
有することが好ましい。このことは、ハードマスク膜に低酸化のSi-O結合等の低酸化
物が存在していることを意味している。
【0046】
ケイ素と酸素を含有する材料からなるハードマスク膜は、X線光電子分光法で分析して
得られるSi2pナロースペクトルが97eV以上100eV以下の結合エネルギーの範
囲でピークを有さないこと(検出限界値以下である。)ことが好ましい。ハードマスク膜
のSi2pナロースペクトルが97eV以上100eV以下の結合エネルギーの範囲でピ
ークを有する場合、ハードマスク膜にSi-Si結合が一定以上の比率で存在することに
なり、好ましくない。
【0047】
なお、ケイ素と酸素を含有する材料からなるハードマスク膜は、Si-Si結合を積極
的に有している(例えば、Si-Si結合の面積強度はSi-O結合の面積強度の半分以
上から同程度あり、Si-O結合とSi-Si結合の双方がかなりの割合で存在している
)場合、ハードマスク膜は、X線光電子分光法で分析して得られるSi2pのナロースペ
クトルが103eV未満の結合エネルギーで最大ピークを有し、かつ、97eV以上10
0eV以下の間の結合エネルギーでSi-Si結合の最大ピークを有している。
【0048】
ケイ素と酸素を含有する材料からなるハードマスク膜は、ハードマスク膜の表面をX線
光電子分光法で分析して得られるSi2pのナロースペクトルで最大ピークとなる結合エ
ネルギーと、前記ハードマスク膜の内部をX線光電子分光法で分析して得られるSi2p
のナロースペクトルで最大ピークとなる結合エネルギーとの差が0.2eV以下であるこ
とが好ましい。また、ケイ素と酸素を含有する材料からなるハードマスク膜は、ハードマ
スク膜の表面をX線光電子分光法で分析して得られるO1sのナロースペクトルで最大ピ
ークとなる結合エネルギーと、前記ハードマスク膜の内部をX線光電子分光法で分析して
得られるO1sのナロースペクトルで最大ピークとなる結合エネルギーとの差が0.1e
V以下であることが好ましい。ハードマスク膜のSi2pのナロースペクトルおよびO1
sのナロースペクトルのいずれにおいても、膜の厚さ方向(深さ方向)で結合エネルギー
がより小さい(好ましくは実質同じ)であることが、ハードマスク膜のエッチング加工時
に高い制御性を得るためには、好ましい。
【0049】
以下、図面に基づいて、上述した本発明の詳細な構成を説明する。なお、各図において
同様の構成要素には同一の符号を付して説明を行う。
【0050】
<第1の実施形態>
[マスクブランクとその製造]
〈マスクブランク〉
図1に、マスクブランクの第1の実施形態の概略構成を示す。図1に示すマスクブラン
ク100は、透光性基板1における一方の主表面上に、位相シフト膜2、遮光膜3(パタ
ーン形成用薄膜)、及び、ハードマスク膜4がこの順に積層された構成である。また、マ
スクブランク100は、ハードマスク膜4上に、必要に応じてレジスト膜を積層させた構
成であってもよい。以下、マスクブランク100の主要構成部の詳細を説明する。
【0051】
[透光性基板]
透光性基板1は、リソグラフィーにおける露光工程で用いられる露光光に対して透過性
が良好な材料からなる。このような材料としては、合成石英ガラス、アルミノシリケート
ガラス、ソーダライムガラス、低熱膨張ガラス(SiO-TiOガラス等)、その他
各種のガラス基板を用いることができる。特に、合成石英ガラスを用いた基板は、ArF
エキシマレーザー光(波長:約193nm)に対する透過性が高いので、マスクブランク
100の透光性基板1として好適に用いることができる。
【0052】
尚、ここで言うリソグラフィーにおける露光工程とは、このマスクブランク100を用
いて作製された位相シフトマスクを用いて行なわれるリソグラフィーにおける露光工程で
あり、以下において露光光とはこの露光工程で用いられる露光光であることとする。この
露光光としては、ArFエキシマレーザー光(波長:193nm)、KrFエキシマレー
ザー光(波長:248nm)、i線光(波長:365nm)のいずれも適用可能であるが
、露光工程における位相シフトパターンの微細化の観点からは、ArFエキシマレーザー
光を露光光に適用することが望ましい。このため、以下においてはArFエキシマレーザ
ー光を露光光に適用した場合についての実施形態を説明する。
【0053】
[位相シフト膜]
位相シフト膜2は、露光転写工程で用いられる露光光に対して所定の透過率を有し、か
つ位相シフト膜2を透過した露光光と、位相シフト膜2の厚さと同じ距離だけ大気中を透
過した露光光とが、所定の位相差となるような光学特性を有する。
【0054】
このような位相シフト膜2は、ここではケイ素(Si)を含有する材料で形成されてい
ることとする。また位相シフト膜2は、ケイ素の他に、窒素(N)を含有する材料で形成
されていることが好ましい。このような位相シフト膜2は、フッ素系ガスを用いたドライ
エッチングによってパターニングが可能であり、後述の遮光膜3を構成するCrOCN膜
等に対して、十分なエッチング選択性を有する材料を用いる。
【0055】
また位相シフト膜2は、フッ素系ガスを用いたドライエッチングによってパターニング
が可能であれば、さらに、半金属元素、非金属元素、金属元素から選ばれる1以上の元素
を含有していてもよい。
このうち、半金属元素は、ケイ素に加え、いずれの半金属元素であってもよい。非金属
元素は、窒素に加え、いずれの非金属元素であってもよく、例えば酸素(O)、炭素(C
)、フッ素(F)及び水素(H)から選ばれる一以上の元素を含有させると好ましい。金
属元素は、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、チタン(Ti)、タンタル(Ta
)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、
コバルト(Co)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、ルテニウム(Ru)、スズ(S
n)、ホウ素(B)、ゲルマニウム(Ge)が例示される。
【0056】
このような位相シフト膜2は、例えばMoSiNで構成され、露光光(例えばArFエ
キシマレーザー光)に対する所定の位相差(例えば、140[deg]~190[deg
]、好ましくは150[deg]~180[deg])と所定の透過率(例えば、1%~
30%)を満たすように、位相シフト膜2の屈折率n、消衰係数k及び膜厚がそれぞれ選
定され、その屈折率n及び消衰係数kとなるように膜材料の組成や膜の成膜条件が調整さ
れている。
【0057】
[遮光膜]
遮光膜3は、クロムおよびタンタルから選ばれる少なくとも1以上の元素を含有する材
料からなることが好ましい。遮光膜3の膜構造は、単層構造および2層以上の積層構造の
いずれでもよい。積層構造の場合は、露光光あるいは欠陥検査を行うときの検査光に対し
て反射率低減を行う反射低減効果をもたせることができる。また、単層構造の遮光膜およ
び2層以上の積層構造の遮光膜の各層は、膜または層の厚さ方向でほぼ同じ組成である構
成であっても、層の厚さ方向で組成傾斜した構成であってもよい。クロムおよびタンタル
から選ばれる少なくとも1以上の元素を含有する膜は、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガス
(酸素含有塩素系ガス)、実質的に酸素ガスを含まない塩素系ガスを用いるドライエッチ
ングでパターイングができる膜である。
【0058】
遮光膜3は、クロムを含有する材料で形成することが好ましい。遮光膜3を形成するク
ロムを含有する材料としては、クロム金属の他、クロム(Cr)に酸素(O)、窒素(N
)、炭素(C)、ホウ素(B)およびフッ素(F)から選ばれる1つ以上の元素を含有す
る材料が挙げられる。一般に、クロム系材料は、酸素含有塩素系ガスでエッチングされる
が、クロム金属はこのエッチングガスに対するエッチングレートがあまり高くない。酸素
含有塩素系ガスのエッチングガスに対するエッチングレートを高める点を考慮すると、遮
光膜3を形成する材料としては、クロムに酸素、窒素、炭素、ホウ素およびフッ素から選
ばれる1つ以上の元素を含有する材料が好ましい。また、遮光膜3を形成するクロムを含
有する材料にモリブデン(Mo)、インジウム(In)およびスズ(Sn)のうち1つ以
上の元素を含有させてもよい。モリブデン、インジウムおよびスズのうち1つ以上の元素
を含有させることで、酸素含有塩素系ガスに対するエッチングレートをより速くすること
ができる。なお、クロムを含有する材料で遮光膜3を形成した場合は、ケイ素の含有量は
、5原子%以下であることが好ましく、3原子%以下であるとより好ましく、実質的に含
有していないとさらに好ましい。ケイ素を含有すると酸素含有塩素系ガスに対するエッチ
ングレートが低下し、遮光膜3のドライエッチング上好ましくないからである。
【0059】
また、遮光膜3がタンタルを含有する材料の場合は、タンタル金属の他、タンタルに窒
素、酸素、ホウ素および炭素から選ばれる1つ以上の元素を含有させた材料などが挙げら
れる。例えば、Ta、TaN、TaO、TaON、TaBN、TaBO、TaBON、T
aCN、TaCO、TaCON、TaBCN、TaBOCN等が挙げられる。また、遮光
膜3の遮光層としてTaやTaNを用いる場合は、TaやTaNは露光光に対して反射率
が高いため、その遮光層の上にTaOなどからなる反射防止層を設けた積層構造とするこ
とが望ましい。なお、タンタルを含有する材料で遮光膜3を形成した場合は、タンタル含
有材料へのケイ素の含有量は、5原子%以下であることが好ましく、3原子%以下である
とより好ましく、実質的に含有していないとさらに好ましい。なお、遮光膜3を上記のタ
ンタルを含有する材料で形成し、その遮光膜3がハードマスク膜4をマスクとするドライ
エッチングでパターニングされる場合、エッチングガスには、酸素を含まない塩素系ガス
が用いられる。
【0060】
遮光膜3は、アモルファス構造あるいは微結晶構造であることが、表面粗さ、および形
成された遮光パターンのラインエッジラフネス(LER:Line Edge Roughness)を低減
する上で好ましい。
【0061】
遮光膜3は、スパッタリングにより形成することが好ましく、DCスパッタリング、R
Fスパッタリングおよびイオンビームスパッタリングなどのいずれのスパッタリング法も
適用可能である。またマグネトロンスパッタリング方式であっても、デュアル(Dual)マ
グネトロン方式であっても、コンベンショナル方式であってもよい。スパッタリングで遮
光膜3を形成することにより、遮光膜3をアモルファスあるいは微結晶構造の膜にするこ
とができる。なお、成膜装置はインライン型でも枚葉型でも構わない。
【0062】
遮光膜3は、位相シフト膜2との積層構造で、露光光に対して2.0よりも大きい光学
濃度(OD)を確保することが求められる。光学濃度は2.8以上であると好ましく、3
.0以上であるとより好ましい。
【0063】
[ハードマスク膜]
ハードマスク膜4は、ケイ素と酸素とからなる材料、または窒素を除く非金属元素およ
び半金属元素から選ばれる1以上の元素とケイ素と酸素とからなる材料で形成されている
。この場合のハードマスク膜4には、いずれの半金属元素を含有してもよい。この半金属
元素の中でも、ホウ素、ゲルマニウム、アンチモンおよびテルルから選ばれる1以上の元
素を含有させると、ハードマスク膜4をスパッタリング法で成膜するときにターゲットと
して用いるケイ素の導電性を高めることが期待できるため、好ましい。非金属元素として
は、炭素(C)、フッ素(F)および水素(H)を挙げることができる。
【0064】
ハードマスク膜4は、遮光膜3の表面に接して設けられている。ハードマスク膜4は、
遮光膜3をエッチングする際に用いられるエッチングガスに対してエッチング選択性を有
する材料で形成された膜である。このハードマスク膜4は、遮光膜3にパターンを形成す
るためのドライエッチングが終わるまでの間、エッチングマスクとして機能することがで
きるだけの膜の厚さがあれば十分であり、基本的に光学特性の制限を受けない。このため
、ハードマスク膜4の厚さは遮光膜3の厚さに比べて大幅に薄くすることができる。
【0065】
ハードマスク膜4の厚さは、20nm以下であることが求められ、15nm以下である
と好ましく、10nm以下であるとより好ましい。ハードマスク膜4の厚さが厚すぎると
、ハードマスク膜4に遮光パターンを形成するドライエッチングにおいてエッチングマス
クとなるレジスト膜の厚さが必要になってしまうためである。ハードマスク膜4の厚さは
、2nm以上であることが求められ、3nm以上であると好ましい。ハードマスク膜4の
厚さが薄すぎると、酸素含有塩素系ガスによる高バイアスエッチングの条件によっては、
遮光膜3に遮光パターンを形成するドライエッチングが終わる前に、ハードマスク膜4の
パターンが消失する恐れがあるためである。
【0066】
そして、このハードマスク膜4にパターンを形成するフッ素系ガスによるドライエッチ
ングにおいてエッチングマスクとして用いる有機系材料のレジスト膜は、ハードマスク膜
4のドライエッチングが終わるまでの間、エッチングマスクとして機能するだけの膜の厚
さがあれば十分である。このため、ハードマスク膜4を設けていない構成よりも、ハード
マスク膜4を設けたことによって大幅にレジスト膜の厚さを薄くすることができる。
【0067】
ハードマスク膜4は、ケイ素と酸素を含有する材料で形成される場合、有機系材料のレ
ジスト膜との密着性が低い傾向があるため、ハードマスク膜4の表面をHMDS(Hexame
thyldisilazane)処理(または同等の処理を単独もしくはHMDS処理と併用で)を施し
、表面の密着性を向上させることが好ましい。
【0068】
ハードマスク膜4は、アモルファス構造あるいは微結晶構造であることが、表面粗さ、
および形成された遮光パターンのラインエッジラフネス(LER:Line Edge Roughness
)を低減する上で好ましい。
【0069】
ハードマスク膜4は、スパッタリングにより形成することが好ましく、DCスパッタリ
ング、RFスパッタリングおよびイオンビームスパッタリングなどのいずれのスパッタリ
ング法も適用可能である。またマグネトロンスパッタリング方式であっても、デュアル(
Dual)マグネトロン方式であっても、コンベンショナル方式であってもよい。スパッタリ
ングでハードマスク膜4を形成することにより、ハードマスク膜4をアモルファスあるい
は微結晶構造の膜にすることができる。なお、成膜装置はインライン型でも枚葉型でも構
わない。
ターゲットの材料は、ケイ素が主成分であればよく、ケイ素単体からなるターゲットや
、ケイ素と酸素を含むターゲット、SiOターゲット等を用いることができる。
【0070】
[レジスト膜]
マスクブランク100において、ハードマスク膜4の表面に接して、有機系材料のレジ
スト膜が100nm以下の膜厚で形成されていることが好ましい。DRAM hp32n
m世代に対応する微細パターンの場合、遮光膜3に形成すべき遮光パターンに、線幅が4
0nmのSRAF(Sub-Resolution Assist Feature)が設けられることがある。しかし
、この場合でも上述のようにハードマスク膜4を設けたことによってレジスト膜の膜厚を
抑えることができ、これによってこのレジスト膜で構成されたレジストパターンの断面ア
スペクト比を1:2.5と低くすることができる。したがって、レジスト膜の現像時、リ
ンス時等にレジストパターンが倒壊や脱離することを抑制することができる。なお、レジ
スト膜は、膜厚が80nm以下であることがより好ましい。レジスト膜は、電子線描画露
光用のレジストであると好ましく、さらにそのレジストが化学増幅型であるとより好まし
い。
【0071】
[マスクブランクの製造手順]
以上の構成のマスクブランク100は、次のような手順で製造する。先ず、透光性基板
1を用意する。この透光性基板1は、端面及び主表面が所定の表面粗さ(例えば、一辺が
1μmの四角形の内側領域内において自乗平均平方根粗さRqが0.2nm以下)に研磨
され、その後、所定の洗浄処理及び乾燥処理を施されたものである。
【0072】
次に、この透光性基板1上に、スパッタリング法によって位相シフト膜2を成膜する。
位相シフト膜2を成膜した後には、所定の加熱温度でのアニール処理を行う。次に、位相
シフト膜2上に、スパッタリング法によって上記の遮光膜3を成膜する。そして、遮光膜
3上にスパッタリング法によって、上記のハードマスク膜4を成膜する。スパッタリング
法による各層の成膜においては、各層を構成する材料を所定の組成比で含有するスパッタ
リングターゲット及びスパッタリングガスを用いる。さらに必要に応じて希ガスと反応性
ガスとの混合ガスをスパッタリングガスとして用いた成膜を行う。この後、このマスクブ
ランク100がレジスト膜を有するものである場合には、必要に応じてハードマスク膜4
の表面に対してHMDS(Hexamethyldisilazane)処理を施す。そして、HMDS処理が
されたハードマスク膜4の表面上に、スピンコート法等の塗布法によってレジスト膜を形
成し、マスクブランク100を完成させる。
【0073】
〈位相シフトマスクの製造方法〉
次に、本実施の形態における位相シフトマスクの製造方法を、図1に示す構成のマスク
ブランク100を用いた、ハーフトーン型位相シフトマスクの製造方法を例に説明する。
【0074】
先ず、マスクブランク100のハードマスク膜4上にレジスト膜をスピン塗布法によっ
て形成する。次に、そのレジスト膜に対して、位相シフト膜2に形成すべき第1のパター
ン(位相シフトパターン)を電子線で露光描画する。その後、レジスト膜に対してPEB
処理、現像処理、ポストベーク処理等の所定の処理を行い、レジスト膜に第1のパターン
(レジストパターン5a)を形成する(図2(a)参照)。
【0075】
次に、レジストパターン5aをマスクとして、フッ素系ガスを用いてハードマスク膜4
のドライエッチングを行い、ハードマスク膜4に第1のパターン(ハードマスクパターン
4a)を形成する(図2(b)参照)。この後、レジストパターン5aを除去する。なお
、ここで、レジストパターン5aを除去せず残存させたまま、遮光膜3のドライエッチン
グを行ってもよい。この場合では、遮光膜3のドライエッチングの際にレジストパターン
5aが消失する。
【0076】
次に、ハードマスクパターン4aをマスクとして、酸素含有塩素系ガスを用いた高バイ
アスエッチングを行い、遮光膜3に第1のパターン(遮光パターン3a)を形成する(図
2(c)参照)。遮光膜3に対する酸素含有塩素系ガスによるドライエッチングは、従来
よりも塩素系ガスの混合比率の高いエッチングガスを用いる。遮光膜3のドライエッチン
グにおける酸素含有塩素系ガスの混合比率は、エッチング装置内(チャンバー内)でのガ
ス流量比で、塩素系ガス:酸素ガス=10以上:1であることが好ましく、15以上:1
であるとより好ましく、20以上:1であるとより好ましい。塩素系ガスの混合比率の高
いエッチングガスを用いることにより、ドライエッチングの異方性を高めることができる
。また、遮光膜3のドライエッチングにおいて、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスの混
合比率は、エッチングチャンバー内でのガス流量比で、塩素系ガス:酸素ガス=40以下
:1であることが好ましい。
【0077】
また、この遮光膜3に対する酸素含有塩素系ガスのドライエッチングでは、透光性基板
1の裏面側から掛けるバイアス電圧も従来よりも高くする。エッチング装置によって、バ
イアス電圧を高める効果に差はあるが、例えば、このバイアス電圧を印加したときの電力
[W]は、15[W]以上であると好ましく、20[W]以上であるとより好ましく、3
0[W]以上であるとさらに好ましい。バイアス電圧を高めることにより、酸素含有塩素
系ガスのドライエッチングの異方性を高めることができる。
【0078】
続いて、遮光パターン3aをマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングを
行い、位相シフト膜2に第1のパターン(位相シフトパターン2a)を形成し、かつハー
ドマスクパターン4aを除去する(図2(d)参照)。
次に、遮光パターン3a上にレジスト膜をスピン塗布法によって形成する。そのレジス
ト膜に対して、遮光膜3に形成すべき第2のパターン(遮光パターン)を電子線で露光描
画する。その後、現像処理等の所定の処理を行い、第2のパターン(遮光パターン)を有
するレジスト膜(レジストパターン6b)を形成する(図2(e)参照)。
【0079】
次に、レジストパターン6bをマスクとして、酸素含有塩素系ガスを用いたドライエッ
チングを行い、遮光膜3に第2のパターン(遮光パターン3b)を形成する(図2(f)
参照)。なお、このときの遮光膜3のドライエッチングは、酸素含有塩素系ガスの混合比
率及びバイアス電圧について従来の条件で行ってもよい。
さらに、レジストパターン6bを除去し、洗浄等の所定の処理を経て、位相シフトマス
ク200を得る(図2(g)参照)。
【0080】
なお、上記の製造工程中のドライエッチングで使用される塩素系ガスとしては、Clが
含まれていれば特に制限はない。たとえば、塩素系ガスとして、Cl、SiCl、C
HCl、CHCl、CCl、BCl等があげられる。また、上記の製造工程中
のドライエッチングで使用されるフッ素系ガスとしては、Fが含まれていれば特に制限は
ない。たとえば、フッ素系ガスとして、CHF、CF、C、C、SF
等があげられる。特に、Cを含まないフッ素系ガスは、ガラス基板に対するエッチングレ
ートが比較的低いため、ガラス基板へのダメージをより小さくすることができる。
【0081】
以上の工程により製造された位相シフトマスク200は、透光性基板1上に、透光性基
板1側から順に位相シフトパターン2a、及び遮光パターン3bが積層された構成を有す
る。
【0082】
以上、説明した位相シフトマスクの製造方法では、図1を用いて説明したマスクブラン
ク100を用いて位相シフトマスク200を製造している。このような位相シフトマスク
の製造では、遮光膜3に位相シフトパターン(位相シフト膜2に形成すべき微細パターン
)を形成するドライエッチングの工程である図2(c)の工程において、等方性エッチン
グの傾向を有する酸素含有塩素系ガスによるドライエッチングを適用している。さらに、
この図2(c)の工程における酸素含有塩素系ガスによるドライエッチングは、酸素含有
塩素系ガスの塩素系ガスの比率が高く、かつ高いバイアスを掛けるエッチング条件で行う
。これにより、遮光膜3のドライエッチング工程において、エッチングレートの低下を抑
制しつつ、エッチングの異方性の傾向を高めることが可能となる。これにより、遮光膜3
に位相シフトパターンを形成するときのサイドエッチングが低減される。
これに加え、本発明では、高バイアスエッチング条件に適した優れた性能を有するハー
ドマスク膜4を適用することによって、ハードマスク膜4に形成すべきパターンのさらな
る微細化およびパターン品質の向上が可能となり、この結果、遮光膜3に形成すべきパタ
ーンのさらなる微細化およびパターン品質の向上が可能となる。
【0083】
そして、遮光膜3のサイドエッチングが低減され、かつ、遮光膜3に形成すべきパター
ンのさらなる微細化およびパターン品質の向上が図られ高精度に形成された位相シフトパ
ターンを有する遮光パターン3aをエッチングマスクとし、位相シフト膜2をフッ素系ガ
スでドライエッチングすることにより、位相シフトパターン2aを高精度に形成すること
ができる。以上の作用により、パターン精度が良好な位相シフトマスク200を作製する
ことができる。
【0084】
〈半導体デバイスの製造方法〉
次に、上述の製造方法により作製された位相シフトマスクを用いる半導体デバイスの製
造方法について説明する。半導体デバイスの製造方法は、上述の製造方法によって製造さ
れたハーフトーン型の位相シフトマスク200を用いて、基板上のレジスト膜に対して位
相シフトマスク200の転写パターン(位相シフトパターン2a)を露光転写することを
特徴としている。このような半導体デバイスの製造方法は、次のように行う。
【0085】
先ず、半導体デバイスを形成する基板を用意する。この基板は、例えば半導体基板であ
ってもよいし、半導体薄膜を有する基板であってもよいし、さらにこれらの上部に微細加
工膜が成膜されていてもよい。そして、用意した基板上にレジスト膜を成膜し、このレジ
スト膜に対して、上述の製造方法によって製造されたハーフトーン型の位相シフトマスク
200を用いてパターン露光を行う。これにより、位相シフトマスク200に形成された
転写パターンをレジスト膜に露光転写する。この際、露光光としては、転写パターンを構
成する位相シフト膜2に対応する露光光を用いることとし、例えばここではArFエキシ
マレーザー光を用いる。
【0086】
さらに、転写パターンが露光転写されたレジスト膜を現像処理してレジストパターンを
形成したり、このレジストパターンをマスクにして基板の表層に対してエッチング加工を
施したり、不純物を導入する処理等を行う。処理が終了した後には、レジストパターンを
除去する。以上のような処理を、転写用マスクを交換しつつ基板上において繰り返し行い
、さらに必要な加工処理を行うことにより、半導体デバイスを完成させる。
【0087】
以上のような半導体デバイスの製造においては、上述の製造方法によって製造されたハ
ーフトーン型の位相シフトマスクを用いることにより、基板上に初期の設計仕様を十分に
満たす精度のレジストパターンを形成することができる。このため、このレジスト膜のパ
ターンをマスクとして、レジスト膜下の下層膜をドライエッチングして回路パターンを形
成した場合、精度不足に起因する配線短絡や断線のない高精度の回路パターンを形成する
ことができる。
【0088】
<第2の実施形態>
[マスクブランクとその製造]
本発明の第2の実施形態に係るマスクブランクは、パターン形成用薄膜が遮光膜である
バイナリマスク(転写用マスク)を製造するために用いられるマスクブランクである。但
し、この第2の実施形態に関わる係るマスクブランクは、掘込レベンソン型位相シフトマ
スク、あるいはCPL(Chromeless Phase Lithography)マスクを製造するためのマスク
ブランクとしても用いることができる。
本発明の第2の実施形態に係るマスクブランクは、第1の実施形態に係るマスクブラン
クにおける位相シフト膜2を除いた態様である。ただし、この第2の実施形態に係る遮光
膜3は、その遮光膜3のみで、第1の実施形態の位相シフト膜2と遮光膜3の積層構造で
求められていた光学濃度(OD)を満たすことが求められる。本発明の第2の実施形態に
係るマスクブランクの製造方法は、第1の実施形態に係るマスクブランクにおける位相シ
フト膜2の製造工程および加工工程(エッチング工程)を除いた態様である。
本発明の第2の実施形態に係るマスクブランクにおいて、基板1、遮光膜3、及び、ハ
ードマスク膜4等のすべての構成は、上記第1の実施形態に係るマスクブランクで記載し
たすべての構成と同様である。
【0089】
<第3の実施形態>
[マスクブランクとその製造]
本発明の第3の実施形態に係るマスクブランクは、パターン形成用薄膜が吸収体膜(位
相シフト機能を有する場合を含む)である反射型マスク(転写用マスク)を製造するため
に用いられるマスクブランクである。
【0090】
図6は、本発明の第3の実施形態に係る反射型マスクブランクの構成を説明するための
模式図である。図6に示されるように、反射型マスクブランク300は、基板11と、多
層反射膜12と、保護膜13と、EUV(Extreme Ultra Violet)光を吸収する吸収体膜
14と、ハードマスク膜(エッチング用ハードマスク即ちエッチングマスク)15とを有
し、これらがこの順で積層される。多層反射膜12は、第1主表面(表面)側に形成され
、露光光であるEUV光を反射する。保護膜13は、多層反射膜12を保護するために設
けられる。保護膜13は、後述する吸収体膜14をパターニングする際に使用するエッチ
ャント、及び洗浄液に対して耐性を有する材料で形成される。ハードマスク膜15は、吸
収体膜14をエッチングする際のマスクとなる。また、基板11の第2主表面(裏面)側
には、通常、静電チャック用の裏面導電膜16が形成される。
【0091】
以下、各層ごとに説明をする。
【0092】
[基板]
基板11としては、EUV光による露光時の熱による吸収体パターンの歪みを防止する
ため、0±5ppb/℃の範囲内の低熱膨張係数を有するものが好ましく用いられる。こ
の範囲の低熱膨張係数を有する素材として、例えば、SiO-TiO系ガラス、多成
分系ガラスセラミックス等を用いることができる。
【0093】
[多層反射膜]
多層反射膜12は、後述する反射型マスク400において、EUV光を反射する機能を
付与するものである。多層反射膜12は、屈折率の異なる元素を主成分とする各層が周期
的に積層された多層膜の構成を有する。
【0094】
一般的に、多層反射膜12として、高屈折率材料である軽元素又はその化合物の薄膜(
高屈折率層)と、低屈折率材料である重元素又はその化合物の薄膜(低屈折率層)とが交
互に40から60周期程度積層された多層膜が用いられる。多層膜は、基板11側から高
屈折率層と低屈折率層をこの順に積層した高屈折率層/低屈折率層の積層構造を1周期と
して複数周期積層してもよいし、基板11側から低屈折率層と高屈折率層をこの順に積層
した低屈折率層/高屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層してもよい。なお、
多層反射膜12の最表面の層(即ち多層反射膜12の基板11と反対側の表面層)は、高
屈折率層であることが好ましい。上述の多層膜において、基板11に、高屈折率層と低屈
折率層をこの順に積層した積層構造(高屈折率層/低屈折率層)を1周期として複数周期
積層する場合、最上層が低屈折率層となる。多層反射膜12の最表面の低屈折率層は、容
易に酸化されてしまうので、多層反射膜12の反射率が減少する。反射率の減少を避ける
ため、最上層の低屈折率層上に、高屈折率層を更に形成して多層反射膜12とすることが
好ましい。一方、上述の多層膜において、基板11に、低屈折率層と高屈折率層をこの順
に積層した積層構造(低屈折率層/高屈折率層)を1周期として、複数周期積層する場合
は、最上層が高屈折率層となる。この場合には、高屈折率層を更に形成する必要がない。
【0095】
本実施形態において、高屈折率層としては、ケイ素(Si)を含む層が採用される。S
iを含む材料としては、Si単体の他に、Siに、ボロン(B)、炭素(C)、窒素(N
)、及び/又は酸素(O)を含むSi化合物を用いることができる。Siを含む層を高屈
折率層として使用することによって、EUV光の反射率に優れたEUVリソグラフィー用
反射型マスク400が得られる。また、本実施形態において、基板11としてはガラス基
板が好ましく用いられる。Siはガラス基板との密着性においても優れている。また、低
屈折率層としては、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、及び
白金(Pt)から選ばれる金属単体、又はこれらの合金が用いられる。例えば波長13n
mから14nmのEUV光に対する多層反射膜12としては、好ましくはMo膜とSi膜
を交互に40から60周期程度積層したMo/Si周期積層膜が用いられる。なお、多層
反射膜12の最上層である高屈折率層をケイ素(Si)で形成し、当該最上層(Si)と
Ru系保護膜13との間に、ケイ素と酸素とを含むケイ素酸化物層を形成することができ
る。ケイ素酸化物層を形成することにより、反射型マスク400の洗浄耐性を向上させる
ことができる。
【0096】
多層反射膜12の形成方法は当該技術分野において公知である。例えばイオンビームス
パッタリング法により、多層反射膜12の各層を成膜することができる。上述したMo/
Si周期多層膜の場合、例えばイオンビームスパッタリング法により、先ずSiターゲッ
トを用いて厚さ4nm程度のSi膜を基板11上に成膜し、その後Moターゲットを用い
て厚さ3nm程度のMo膜を成膜する。このSi膜/Mo膜を1周期として、40から6
0周期積層することにより、多層反射膜12を形成する。なお、多層反射膜12の最表面
の層はSi層であることが好ましい。
【0097】
[保護膜]
保護膜13は、後述する反射型マスク400の製造工程におけるドライエッチング及び
洗浄から多層反射膜12を保護するために、多層反射膜12の上に形成される。また、電
子線(EB)を用いた位相シフトパターンの黒欠陥修正の際に、保護膜13によって多層
反射膜12を保護することができる。保護膜13を、単層あるいは2層以上の多層の積層
構造とすることができる。例えば、保護膜13の最下層と最上層を、Ruを含有する物質
からなる層とし、最下層と最上層との間に、Ru以外の金属、若しくは合金を介在させた
構造とすることができる。保護膜13の材料としては、ルテニウムを主成分として含む材
料、例えばRu金属単体、Ruにチタン(Ti)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)
、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、ホウ素(B)、ランタン(La)、コバ
ルト(Co)、レニウム(Re)などの金属を含有したRu合金を用いることができる。
また、これらの保護膜13の材料は、窒素を更に含むことができる。これらの材料の中で
、特にTiを含有したRu系保護膜を用いることが好ましい。Tiを含有したRu系保護
膜を用いる場合には、多層反射膜12の表面からRu系保護膜への多層反射膜構成元素で
あるケイ素の拡散が小さくなる。そのため、マスク洗浄時の表面荒れが少なくなり、膜は
がれも起こしにくくなるという特徴がある。表面荒れの低減は、EUV露光光に対する反
射率低下防止に直結する。そのため、表面荒れの低減は、EUV露光の露光効率改善、及
びスループット向上のために重要である。
【0098】
保護膜13の厚さは、その保護膜13としての機能を果たすことができる限り特に制限
されない。EUV光の反射率の観点から、保護膜13の厚さは、好ましくは、1.0nm
から8.0nm、より好ましくは、1.5nmから6.0nmである。
【0099】
保護膜13の形成方法として、公知の膜形成方法を特に制限なく採用することができる
。保護膜13の形成方法の具体例として、スパッタリング法及びイオンビームスパッタリ
ング法が挙げられる。
【0100】
[吸収体膜]
保護膜13の上に、EUV光を吸収するための吸収体膜14が形成される。吸収体膜1
4の材料としては、EUV光を吸収する機能を有し、酸素含有塩素系ガス、あるいは酸素
ガスを含まない塩素系ガスを用いるドライエッチングにより加工が可能な材料を用いる。
酸素含有塩素系ガスを用いるドライエッチングで吸収体膜14をパターニングする場合に
好適な材料としては、例えば、第1の実施形態の遮光膜3を形成する材料で用いられたク
ロム(Cr)を含有する材料が挙げられる。一方、酸素を含まない塩素系ガスを用いるド
ライエッチングで吸収体膜14をパターニングする場合に好適な材料としては、例えば、
タンタル(Ta)を含有する材料、ニッケル(Ni)を含有する材料、コバルト(Co)
を含有する材料が挙げられる。
【0101】
吸収体膜14を形成するタンタル(Ta)を含有する材料としては、タンタル金属の他
、タンタルに窒素、酸素、ホウ素および炭素から選ばれる1つ以上の元素を含有させたT
a系材料が挙げられる。例えば、Ta、TaN、TaO、TaON、TaBN、TaBO
、TaBON、TaCN、TaCO、TaCON、TaBCN、TaBOCN等が挙げら
れる。このほか、吸収体膜14を形成する材料として、タンタル(Ta)及びチタン(T
i)を含むTaTi系材料も適用可能である。そのようなTaTi系材料としては、Ta
Ti合金、並びに、該TaTi合金に酸素、窒素、炭素及びホウ素のうち少なくとも一つ
を含有したTaTi化合物が挙げられる。TaTi化合物としては、例えば、TaTiN
、TaTiO、TaTiON、TaTiCON、TaTiB、TaTiBN、TaTiB
O、TaTiBON、及びTaTiBCONなどが挙げられる。
【0102】
吸収体膜14を形成するニッケル(Ni)を含有する材料として、ニッケル(Ni)単
体又はNiを主成分として含むニッケル化合物を用いる。NiはTaに比べてEUV光の
消衰係数が大きく、塩素(Cl)系ガスでドライエッチングすることが可能な材料である
。Niの13.5nmにおける屈折率nは約0.948、消衰係数kは約0.073であ
る。これに対して、従来の吸収体膜の材料の例であるTaBNの場合、屈折率nは約0.
949、消衰係数kは約0.030である。
【0103】
ニッケル化合物としては、ニッケルに、ホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、酸素
(O)、リン(P)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ルテニウ
ム(Ru)、ロジウム(Rh)、テルル(Te)、パラジウム(Pd)、タンタル(Ta
)及びタングステン(W)を添加した化合物が挙げられる。ニッケルに、これらの元素を
添加することにより、エッチング速度を速めて加工性を向上させること、及び/又は洗浄
耐性を向上させることができる。これらのニッケル化合物のNi含有比率は50原子%以
上100原子%未満であることが好ましく、80原子%以上100原子%未満であること
がより好ましい。
【0104】
一方、吸収体膜14をコバルト(Co)及び/又はニッケル(Ni)を含む構成とする
ことにより、消衰係数kを0.035以上とすることができ、吸収体膜の薄膜化が可能と
なる。また、吸収体膜14をアモルファス金属とすることにより、エッチング速度を速め
たり、パターン形状を良好にしたり加工特性を向上させることが可能となる。このアモル
ファス金属としては、コバルト(Co)及びニッケル(Ni)のうち少なくとも1以上の
元素に、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、ジ
ルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、イットリウム(Y)及びリン(P)のうち少
なくとも1以上の元素(X)を添加したものが挙げられる。
【0105】
上述の吸収体膜14は、公知の方法、例えばDCスパッタリング法、又はRFスパッタ
リング法などのマグネトロンスパッタリング法により形成することができる。
【0106】
吸収体膜14は、バイナリー型の反射型マスクブランク300のための、EUV光の吸
収を目的とした吸収体膜14であることができる。また、吸収体膜14は、位相シフト型
の反射型マスクブランク300のための、EUV光の位相差を考慮した位相シフト機能を
有する吸収体膜14であることができる。
【0107】
EUV光の吸収を目的とした吸収体膜14の場合、吸収体膜14に対するEUV光の反
射率が2%以下となるように、膜厚が設定される。
【0108】
位相シフト機能を有する吸収体膜14の場合、吸収体膜14が形成されている部分では
、EUV光を吸収して減光しつつパターン転写に悪影響がないレベルで一部の光を反射さ
せる。一方、吸収体膜14が形成されていないフィールド部からの反射光は、保護膜13
を介して多層反射膜12から反射される。位相シフト機能を有する吸収体膜14により、
吸収体膜14が形成されている部分と、フィールド部からの反射光との間で、所望の位相
差を形成することができる。吸収体膜14は、吸収体膜14からの反射光と多層反射膜1
2(フィールド部)からの反射光との位相差が160°から200°となるように形成さ
れる。180°近傍の反転した位相差の光同士がパターンエッジ部で干渉し合うことによ
り、投影光学像の像コントラストが向上する。その像コントラストの向上にともなって解
像度が上がり、露光量裕度、焦点裕度等の露光に関する各種裕度が拡がる。パターン及び
露光条件にもよるが、一般的には、この位相シフト効果を十分得るための反射率の目安は
、絶対反射率で1%以上、多層反射膜12(保護膜13付き)に対する反射比で2%以上
である。
【0109】
吸収体膜14は単層の膜であることができる。また、吸収体膜14は2層以上の複数の
膜からなる多層膜であることができる。吸収体膜14が単層膜の場合は、マスクブランク
製造時の工程数を削減できて生産効率が上がるという特徴がある。吸収体膜14が多層膜
の場合には、上層膜が、光を用いたマスクパターン検査時の反射防止膜になるように、そ
の光学定数と膜厚を適当に設定する。このことにより、光を用いたマスクパターン検査時
の検査感度が向上する。このように、多層膜の吸収体膜14を用いることによって、吸収
体膜14に様々な機能を付加させることが可能となる。吸収体膜14が位相シフト機能を
有する吸収体膜14の場合には、多層膜の吸収体膜14を用いることによって、光学面で
の調整の範囲が拡がり、所望の反射率が得やすくなる。また、 多層膜の吸収体膜14の
一部(最上層)として、後述する本発明のハードマスク膜15を用いる態様とすることも
できる。
【0110】
ニッケル化合物の吸収体膜14の表面には、酸化層を形成することが好ましい。ニッケ
ル化合物の酸化層を形成することにより、得られる反射型マスク400の吸収体パターン
14aの洗浄耐性を向上させることができる。酸化層の厚さは、1.0nm以上が好まし
く、1.5nm以上がより好ましい。また、酸化層の厚さは、5nm以下が好ましく、3
nm以下がより好ましい。Ni酸化層の厚さが1.0nm未満の場合には薄すぎて効果が
期待できず、5nmを超えるとマスク検査光に対する表面反射率に与える影響が大きくな
り、所定の表面反射率を得るための制御が難しくなる。
【0111】
酸化層の形成方法は、吸収体膜が成膜された後のマスクブランクに対して、温水処理、
オゾン水処理、酸素を含有する気体中での加熱処理、酸素を含有する気体中での紫外線照
射処理及びOプラズマ処理等を行うことなどが挙げられる。
【0112】
[ハードマスク膜]
吸収体膜14上にはハードマスク膜15が形成される。ハードマスク膜15の材料、膜
厚等のすべて内容は、上記第1の実施形態で説明したハードマスク膜4の材料、膜厚等の
すべて内容と同様である。
【0113】
なお、NiはTaに比べて塩素系ガスのドライエッチング速度が遅い。そのため、Ni
を含む材料からなる吸収体膜14上に直接レジスト膜11を形成しようとすると、レジス
ト膜11を厚くしなければならず、微細なパターンを形成することが難しい。一方、吸収
体膜14上にSiを含む材料からなるハードマスク膜15を形成することにより、レジス
ト膜11の厚さを厚くすることなく、吸収体膜14のエッチングを行うことが可能となる
。したがって、ハードマスク膜15を用いることにより、微細な吸収体パターン4aを形
成できる。
これに加え、本発明に係るケイ素と酸素を含む材料からなるハードマスク膜15は従来
に比べより性能に優れる。本発明では、高バイアスエッチング条件に適した優れた性能を
有するハードマスク15膜を適用することによって、ハードマスク膜15に形成すべきパ
ターンのさらなる微細化およびパターン品質の向上が可能となり、この結果、吸収体膜1
4に形成すべきパターンやのさらなる微細化およびパターン品質の向上が可能となる。
【0114】
ハードマスク膜15の膜厚は、転写パターンを精度よく吸収体膜14に形成するエッチ
ングマスクとしての機能を得る観点から、2nm以上であることが望ましい。また、ハー
ドマスク膜15の膜厚は、レジスト膜17の膜厚を薄くする観点から、20nm以下が望
ましく、15nm以下であることがより望ましい。
【0115】
[裏面導電膜]
基板11の第2主表面(裏面)側(多層反射膜12形成面の反対側)には、一般的に、
静電チャック用の裏面導電膜16が形成される。静電チャック用の裏面導電膜16に求め
られる電気的特性は通常100Ω/square以下である。裏面導電膜16は、例えば
マグネトロンスパッタリング法又はイオンビームスパッタリング法により、クロム、タン
タル等の金属及び合金のターゲットを使用して形成することができる。代表的な裏面導電
膜16の材料は、光透過型マスクブランクなどのマスクブランク製造でよく用いられるC
rN及びCrである。裏面導電膜16の厚さは、静電チャック用としての機能を満足する
限り特に限定されないが、通常10nmから200nmである。また、この裏面導電膜1
6はマスクブランク300の第2主表面側の応力調整も兼ね備えている。裏面導電膜16
は、第1主表面側に形成された各種膜からの応力とバランスをとって、平坦な反射型マス
クブランク300が得られるように調整されている。
【0116】
〈反射型マスク及びその製造方法〉
本実施形態の反射型マスクブランク300を使用して、反射型マスク400を製造する
ことができる。
【0117】
反射型マスクブランク300を準備して、その第1主表面のハードマスク膜15の上に
、レジスト膜17を形成する(反射型マスクブランク300としてレジスト膜17を備え
ている場合は不要)(図7(a))。
次に、このレジスト膜17に所望のパターンを描画(露光)し、更に現像、リンスする
ことによって、所定のレジストパターン17aを形成する(図7(b))。
【0118】
このレジストパターン17aをマスクとしてハードマスク膜15をエッチングしてエッ
チングマスクパターン15aを形成する(図7(c))。
次に、レジストパターン17aをアッシング及びレジスト剥離液などで除去する。その
後、エッチングマスクパターン15aをマスクにしてドライエッチングを行うことにより
、吸収体膜14がエッチングされ、吸収体パターン14aが形成される(図7(d))。
その後、エッチングマスクパターン15aをドライエッチングによって除去する(図7
(e))。最後に、酸性及び/又はアルカリ性の水溶液を用いたウェット洗浄を行う。
【0119】
ハードマスク膜15がケイ素(Si)を含む材料からなる場合は、ハードマスク膜15
のパターンの形成、及びエッチングマスクパターン15aの除去のためのエッチングガス
としては、CF、CHF、C、C、C、C、CH
CHF、C、SF及びF等のフッ素系ガス、並びにフッ素系ガスと、He、
、N、Ar、C及びO等との混合ガス(これらを総称して「フッ素含有ガ
ス」という。)を挙げることができる。
【0120】
吸収体膜14のエッチングガスとしては、Cl、SiCl、CHCl及びCCl
等の塩素系のガス、塩素系ガス及びHeを所定の割合で含む混合ガス、並びに塩素系ガ
ス及びArを所定の割合で含む混合ガス等を挙げることができる。吸収体膜14のエッチ
ングにおいて、エッチングガスに実質的に酸素が含まれていないので、Ru系保護膜に表
面荒れが生じることがない。本明細書において、「エッチングガスに実質的に酸素が含ま
れていない」とは、エッチングガス中の酸素の含有量が5原子%以下であることを意味す
る。
【0121】
なお、エッチングマスクパターン15aの形成直後にレジストパターン17aを除去せ
ず、レジストパターン17a付きエッチングマスクパターン15aをマスクとして吸収体
膜14をエッチングする方法もある。この場合は、吸収体膜14をエッチングする際にレ
ジストパターン17aが自動的に除去され、工程が簡略化されるという特徴がある。一方
、レジストパターン17aが除去されたエッチングマスクパターン15aをマスクとして
吸収体膜14をエッチングする方法では、エッチングの途中に消失するレジストからの有
機生成物(アウトガス)の変化ということがなく、安定したエッチングができるという特
徴がある。
【0122】
以上の工程により、シャドーイング効果が少なく、且つ側壁ラフネスの少ない高精度微
細パターンを有する反射型マスク400が得られる。
【0123】
〈半導体装置の製造方法〉
本実施形態の反射型マスク400を使用してEUV露光を行うことにより、半導体デバ
イスを形成する基板上に、反射型マスク400上の吸収体パターン14aに基づく所望の
転写パターン形成することができる。
【実施例
【0124】
以下、実施例により、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。
【0125】
〈実施例1〉
[マスクブランクの製造]
図1を参照し、主表面の寸法が約152mm×約152mmで、厚さが約6.35mm
の合成石英ガラスからなる透光性基板1を準備した。この透光性基板1は、端面及び主表
面が所定の表面粗さ(Rqで0.2nm以下)に研磨され、その後、所定の洗浄処理及び
乾燥処理が施されている。
【0126】
次に、枚葉式DCスパッタリング装置内に透光性基板1を設置し、モリブデン(Mo)
とケイ素(Si)との混合焼結ターゲット(Mo:Si=11原子%:89原子%)を用
い、アルゴン(Ar)、窒素(N)及びヘリウム(He)の混合ガスをスパッタリング
ガスとする反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、透光性基板1上に、モ
リブデン、ケイ素及び窒素からなる位相シフト膜2を69nmの厚さで形成した。
【0127】
次に、この位相シフト膜2が形成された透光性基板1に対して、位相シフト膜2の膜応
力を低減するため、及び表層に酸化層を形成するための加熱処理を行った。具体的には、
加熱炉(電気炉)を用いて、大気中で加熱温度を450℃、加熱時間を1時間として、加
熱処理を行った。位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM193)を用いて
、加熱処理後の位相シフト膜2の波長193nmの光に対する透過率と位相差を測定した
ところ、透過率が6.0%、位相差が177.0度(deg)であった。
【0128】
次に、枚葉式DCスパッタリング装置内に位相シフト膜2が形成された透光性基板1を
設置し、クロム(Cr)ターゲットを用いて、アルゴン(Ar)、二酸化炭素(CO
、窒素(N)及びヘリウム(He)の混合ガス雰囲気での反応性スパッタリング(DC
スパッタリング)を行った。これにより、位相シフト膜2に接して、クロム、酸素、炭素
及び窒素からなる遮光膜(CrOCN膜)3を43nmの膜厚で形成した。
【0129】
次に、上記遮光膜(CrOCN膜)3が形成された透光性基板1に対して、加熱処理を
施した。具体的には、ホットプレートを用いて、大気中で加熱温度を280℃、加熱時間
を5分として、加熱処理を行った。加熱処理後、位相シフト膜2及び遮光膜3が積層され
た透光性基板1に対し、分光光度計(アジレントテクノロジー社製 Cary4000)
を用い、位相シフト膜2と遮光膜3の積層構造のArFエキシマレーザーの光の波長(約
193nm)における光学濃度を測定したところ、3.0以上であることが確認できた。
【0130】
次に、枚葉式RFスパッタリング装置内に、位相シフト膜2及び遮光膜3が積層された
透光性基板1を設置し、二酸化ケイ素(SiO)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)
ガス(圧力0.03Pa)をスパッタリングガスとし、RF電源の電力を1.5kWとし
て、RFスパッタリングにより遮光膜3の上に、ケイ素及び酸素からなるハードマスク膜
4を15nmの厚さで形成した。さらに所定の洗浄処理を施し、実施例1のマスクブラン
ク100を製造した。
【0131】
このケイ素及び酸素からなるハードマスク膜4は、後述するように、フッ素系ガスに対
するエッチングレートが大きく、ハードマスク膜が速くきれいにエッチング加工できるこ
とがわかった。
このケイ素及び酸素からなるハードマスク膜4は、膜の密度が相対的に低くなる(低密
度になる)傾向を有し、ケイ素(Si)と酸素(O)の含有比率(原子%)が、Si:O
=1:2未満である(酸素欠損しているSiO膜である)ことがわかった。
【0132】
別の透光性基板1の主表面上に同条件で位相シフト膜2、遮光膜3及びハードマスク膜
4を形成したマスクブランク100を準備した。そのマスクブランク100に対し、X線
光電子分光法(XPS,RBS補正有り)で分析を行った。この結果、ハードマスク膜4
の各構成元素の含有量は、平均値でSi:35原子%、O:65原子%であることがわか
った。
【0133】
また、この実施例1の透光性基板1、位相シフト膜2、遮光膜3及びハードマスク膜4
に対するX線光電子分光法での分析結果として得られた、Si2pナロースペクトルの深
さ方向化学結合状態分析の結果を図3に、N1sナロースペクトルの深さ方向化学結合状
態分析の結果を図4に、O1sナロースペクトルの深さ方向化学結合状態分析の結果を図
5に、それぞれ示す。
【0134】
ハードマスク膜4に対するX線光電子分光法での分析では、マスクブランク100(ハ
ードマスク膜4)の表面に向かってX線を照射してハードマスク膜4から放出される光電
子のエネルギー分布を測定し、Arガススパッタリングでハードマスク膜4を所定時間だ
け掘り込み、掘り込んだ領域のハードマスク膜4の表面に対してX線を照射してハードマ
スク膜4から放出される光電子のエネルギー分布を測定するというステップを繰り返すこ
とで、ハードマスク膜4、遮光膜3、位相シフト膜2及び透光性基板1の順に膜厚方向の
分析を行う。なお、このX線光電子分光法での分析では、X線源に単色化Al(1486
.6eV)を用い、光電子の検出領域は100μmφ、検出深さが約4~5nm(取り出
し角45deg)の条件で行った(以降の他の実施例及び比較例とも同様。)。
【0135】
図3図5における各深さ方向化学結合状態分析では、Arガススパッタリングをする
前(スパッタリング時間:0min)におけるハードマスク膜4の最表面の分析結果が「
0.00minのプロット」に、ハードマスク膜4の最表面から1.00minだけAr
ガススパッタリングで掘り込んだ後におけるハードマスク膜4の厚さ方向の位置での分析
結果が「1.00minのプロット」に、それぞれ示されている。
【0136】
図3図5における各深さ方向化学結合状態分析では、ハードマスク膜4の最表面から
4.00minだけArガススパッタリングで掘り込んだ後における遮光膜3の厚さ方向
の位置での分析結果が「4.00minのプロット」に示されている。また、ハードマス
ク膜4の最表面から9.00minだけArガススパッタリングで掘り込んだ後における
遮光膜3の厚さ方向の位置での分析結果が「9.00minのプロット」に示されている
。また、ハードマスク膜4の最表面から14.00minだけArガススパッタリングで
掘り込んだ後における遮光膜3の厚さ方向の位置での分析結果が「14.00minのプ
ロット」に示されている。
【0137】
図3図5における各深さ方向化学結合状態分析では、ハードマスク膜4の最表面から
19.00minだけArガススパッタリングで掘り込んだ後における位相シフト膜2の
厚さ方向の位置での分析結果が「19.00minのプロット」に示されている。ハード
マスク膜4の最表面から24.00minだけArガススパッタリングで掘り込んだ後に
おける位相シフト膜2の厚さ方向の位置での分析結果が「24.00minのプロット」
に示されている。ハードマスク膜4の最表面から30.00minだけArガススパッタ
リングで掘り込んだ後における位相シフト膜2の厚さ方向の位置での分析結果が「30.
00minのプロット」に示されている。ハードマスク膜4の最表面から44.00mi
nだけArガススパッタリングで掘り込んだ後における透光性基板1の厚さ方向の位置で
の分析結果が「44.00minのプロット」に示されている。
【0138】
図3図5の各ナロースペクトルにおけるグラフの縦軸のスケールは同じではない。図
3のSi2pナロースペクトルの中で「9.00minのプロット」と「14.00mi
nのプロット」の各ナロースペクトルは、ほかのプロットのSi2pナロースペクトルに
比べて縦軸のスケールを大きく拡大している。すなわち、図3のSi2pナロースペクト
ルの「9.00minのプロット」と「14.00minのプロット」の各ナロースペク
トルにおける振動の波は、ピークの存在が表れているのではなく、ノイズが表れているだ
けである。この結果は、遮光膜3の各Si2pナロースペクトルに対応する厚さ方向の位
置では、ケイ素の含有量が検出下限値以下であることを示している。
【0139】
図4のN1sナロースペクトルの中で「0.00minのプロット」、「1.00mi
nのプロット」および「44.00minのプロット」の各ナロースペクトルも、ほかの
プロットのN1sナロースペクトルに比べて縦軸のスケールを大きく拡大している。すな
わち、図3のN1sナロースペクトルの「0.00minのプロット」、「1.00mi
nのプロット」および「44.00minのプロット」の各ナロースペクトルにおける振
動の波は、ピークの存在が表れているのではなく、ノイズが表れているだけである(すな
わち、検出下限値以下である。)。この結果は、ハードマスク膜4および透光性基板1の
各N1sナロースペクトルに対応する厚さ方向の位置では、窒素の含有量が検出下限値以
下であることを示している。
【0140】
図3の「4.00minのプロット」のSi2pナロースペクトルも、「0.00mi
nのプロット」と「1.00minのプロット」の各ナロースペクトルに比べて縦軸のス
ケールを拡大している。すなわち、「4.00minのプロット」のSi2pナロースペ
クトルには、わずかにピークが検出されていることを示している。この結果は、「4.0
0minのプロット」に対応する遮光膜4の厚さ方向の位置では、その上に存在していた
ハードマスク膜5の影響をわずかに受けてピークが検出されたものと思われる。
【0141】
なお、遮光膜3の最表面から1.00minだけArガススパッタリングで掘り込んだ
後におけるハードマスク膜4の厚さ方向の位置での分析結果は、ハードマスク膜4の表層
部を除いた部分の測定結果である。
【0142】
図3のSi2pナロースペクトルの結果から、この実施例1のハードマスク膜4は、1
03~103.5eVの間の結合エネルギー(103.4eV)で最大ピークを有してい
ることがわかる。この結果は、Si-O結合が一定比率以上で存在していること(酸化度
の高いSi―O結合が主体であること)を意味しており、酸化度の低いSi-O結合やS
i-Si結合の存在比率が低いことを意味している。
【0143】
図3のハードマスク膜4のSi2pナロースペクトル(「0.00minのプロット」
と「1.00minのプロット」の各ナロースペクトル)のそれぞれ結果から、この実施
例1のハードマスク膜4は、97~100eVの間の結合エネルギーで波形が実質的に平
坦であり、ピークを有していない(検出下限値以下である。)ことがわかった。この結果
は、ハードマスク膜4からSi-Si結合が検出されなかったことを意味している。
【0144】
図3のSi2pナロースペクトルの結果から、この実施例1のハードマスク膜4は、最
表面(0.00min)の最大ピーク位置と、膜内部(1.00min)の最大ピーク位
置との間で、0.2eV弱の差に収まっていることがわかる。この差が相対的に小さいこ
とは、ハードマスク膜のエッチング加工時に高い制御性を得るためには、好ましいことが
わかった。
【0145】
図4のN1sナロースペクトルの結果から、この実施例1のハードマスク膜4は、最大
ピークが検出下限値以下であることがわかった。この結果は、実施例1のハードマスク膜
4からSi-N結合を含め、窒素と結合した原子が検出されなかったことを意味している
。以上のように、この実施例1のハードマスク膜4は、以下の3つの条件を同時に満たす
材料で形成されていることがわかった。すなわち、ケイ素(Si)と酸素(O)の含有比
率が、Si:O=1:2未満(1:1.86)であり、条件1を満たす。Si2pナロー
スペクトルが103~103.5eVの間の結合エネルギー(103.4eV)で最大ピ
ークを有し、条件2を満たす。さらに、N1sナロースペクトルの最大ピークが検出下限
値以下であり、条件3を満たす。
【0146】
図5のO1sナロースペクトルの結果から、この実施例1のハードマスク膜4は、53
2~533eVの間の結合エネルギーで最大ピークを有していることがわかる。このこと
は、高酸化物(酸化度の高いSi-O結合)が一定比率以上で存在していること(SiO
が主体であること)を意味している。
また、図5のO1sナロースペクトルの結果から、この実施例1のハードマスク膜4は
、最表面(0.00min)の最大ピーク位置と、膜内部(1.00min)の最大ピー
ク位置との間で、差はほとんどない(0.05eV未満)ことがわかる。この差が相対的
に小さいことは、ハードマスク膜のエッチング加工時に高い制御性を得るためには、好ま
しいことがわかった。
【0147】
[位相シフトマスクの製造]
次に、この実施例1のマスクブランク100を用い、以下の手順で実施例1のハーフト
ーン型の位相シフトマスク200を製造した。最初に、ハードマスク膜4の表面にHMD
S処理を施した。
【0148】
続いて、スピン塗布法によって、ハードマスク膜4の表面に接して、電子線描画用化学
増幅型レジストからなるレジスト膜を膜厚70nm(従来は80nm)で形成した。次に
、このレジスト膜に対して、位相シフト膜2に形成すべき位相シフトパターンである第1
のパターンを電子線描画し、所定の現像処理及び洗浄処理を行い、第1のパターンを有す
るレジストパターン5aを形成した(図2(a)参照)。この第1のパターンは、光半透
過膜2に形成すべき微細なパターン(線幅35nm以下(従来は40nm以下)のSRA
Fパターン等)を含むパターン(位相シフトパターン)である。ハードマスク膜4上に形
成されたレジストパターン5aは、レジストパターンの倒れが認められない良好なもので
あった。
【0149】
次に、レジストパターン5aをマスクとし、CFガスを用いたドライエッチングを行
い、ハードマスク膜4に第1のパターン(ハードマスクパターン4a)を形成した(図2
(b)参照)。
【0150】
このとき、ケイ素及び酸素からなるハードマスク膜4は、フッ素系ガスに対するエッチ
ングレートが大きく、ハードマスク膜が速く高精度にエッチング加工できることがわかっ
た。
ハードマスク膜4のエッチングレートは、ハードマスク膜4の膜厚およびエッチングタ
イムから算出した結果、後述する比較例1のハードマスク膜4に比べフッ素系ガスに対す
るエッチングレートが相対的に大きかった。
また、ハードマスクパターン4aを走査型電子顕微鏡(SEM)で観測したところ、側
壁の断面は滑らかであった。
【0151】
次に、レジストパターン5aを除去した。続いて、ハードマスクパターン4aをマスク
とし、塩素ガス(Cl)と酸素ガス(O)の混合ガス(ガス流量比 Cl:O
13:1)を用いたドライエッチング(バイアス電圧を印加したときの電力が50[W]
の高バイアスエッチング)を行い、遮光膜3に第1のパターン(遮光パターン3a)を形
成した(図2(c)参照)。なお、遮光膜3のエッチング時間(トータルエッチングタイ
ム)は、遮光膜3のエッチング開始から位相シフト膜2の表面が最初に露出するまでの時
間(ジャストエッチングタイム)の1.5倍の時間とした。すなわち、ジャストエッチン
グタイムの50%の時間(オーバーエッチングタイム)だけ追加でオーバーエッチングを
行った。このオーバーエッチングを行うことで、遮光膜3のパターン側壁の垂直性を高め
ることが可能となる。
【0152】
なお、オーバーエッチング終了後のハードマスクパターン4aを走査型電子顕微鏡(S
EM)で観測したところ、パターンの側壁と表面(パターンの底面と対向する側の面(パ
ターンの上面))の間のエッジはシャープ(角が丸まっていない)であった。また、ハー
ドマスクパターン4aの側壁の断面は滑らかであった。
【0153】
次に、遮光パターン3aをマスクとし、フッ素系ガス(SF+He)を用いたドライ
エッチングを行い、位相シフト膜2に第1のパターン(位相シフトパターン2a)を形成
し、かつ同時にハードマスクパターン4aを除去した(図2(d)参照)。
【0154】
次に、遮光パターン3a上に、スピン塗布法によって、電子線描画用化学増幅型レジス
トからなるレジスト膜を膜厚150nmで形成した。次に、レジスト膜に対して、遮光膜
に形成すべきパターン(遮光帯パターンを含むパターン)である第2のパターンを露光描
画し、さらに現像処理等の所定の処理を行い、遮光パターンを有するレジストパターン6
bを形成した(図2(e)参照)。
続いて、レジストパターン6bをマスクとして、塩素ガス(Cl)と酸素ガス(O
)の混合ガス(ガス流量比 Cl:O=4:1)を用いたドライエッチングを行い、
遮光膜3に第2のパターン(遮光パターン3b)を形成した(図2(f)参照)。
さらに、レジストパターン6bを除去し、洗浄等の所定の処理を経て、位相シフトマス
ク200を得た(図2(g)参照)。
【0155】
製造された転写用マスク200(ハーフトーン型位相シフトマスク)に対してマスク欠
陥検査装置で欠陥検査を行ったところ、位相シフトパターン2aのCD精度およびライン
エッジラフネスがともに要求されたレベルを満たしていることが確認された。
【0156】
[パターン転写性能の評価]
以上の手順を得て作製された位相シフトマスク200に対し、AIMS193(Car
l Zeiss社製)を用いて、波長193nmの露光光で半導体デバイス上のレジスト
膜に露光転写したときにおける転写像のシミュレーションを行った。このシミュレーショ
ンの露光転写像を検証したところ、設計仕様を十分に満たしていた。この結果から、この
実施例1の位相シフトマスク200を露光装置のマスクステージにセットし、半導体デバ
イス上のレジスト膜に露光転写したとしても、最終的に半導体デバイス上に形成される回
路パターンは高精度で形成できるといえる。
【0157】
〈比較例1〉
[マスクブランクの製造]
比較例1は、ハードマスク膜4をケイ素(Si)と酸素(O)の含有比率(原子%)が
、Si:O=1:2である(酸素欠損していないSiO膜である)として、マスクブラ
ンクの製造および転写用マスクの製造を行ったものであり、ハードマスク膜4の特性とそ
の成膜方法以外は実施例1と同じである。以下、実施例1と相違する箇所について説明す
る。
【0158】
実施例1と同様の手順で遮光膜3まで形成した後、ケイ素(Si)ターゲットを用い、
アルゴン(Ar)ガス及び酸素(O)ガスをスパッタリングガスとして、RFスパッタ
リングを行うことにより、遮光膜3の上に厚さ15nmのケイ素及び酸素からなるハード
マスク膜4を形成した。形成したハードマスク膜の組成は、Si:O=1:2(原子%比
)であった。この組成はXPSにより測定した。
【0159】
このハードマスク膜4は、後述するように、フッ素系ガスに対するエッチングレートが
実施例1に比べ小さく、ハードマスク膜が速くきれいにエッチング加工できるとは言えな
いことがわかった。
このハードマスク膜4は、膜の密度が相対的に高くなる(高密度になる)傾向を有し、
ケイ素(Si)と酸素(O)の含有比率(原子%)が、Si:O=1:2である(酸素欠
損していないSiO膜である)ことがわかった。
【0160】
実施例1と同様の手順でこの比較例1のマスクブランクのSi2pナロースペクトル、
N1sナロースペクトルおよびO1sナロースペクトルをそれぞれ取得した。Si2pナ
ロースペクトルの結果(図示せず)から、この比較例1のハードマスク膜4は、103.
5eVを超える結合エネルギー(103.8eV)で最大ピークを有していることがわか
った。この結果は、Si-O結合の存在比率が非常に高いことを意味している。また、S
i2pナロースペクトル(図示せず)の結果から、この比較例1のハードマスク膜4は、
97~100eVの間の結合エネルギーで波形が実質的に平坦であり、ピークを有してい
ない(検出下限値以下である。)ことがわかった。この結果は、ハードマスク膜4からS
i-Si結合が検出されなかったことを意味している。
【0161】
N1sナロースペクトルの結果(図示せず)から、この比較例1のハードマスク膜4は
、最大ピークが検出下限値以下であることがわかった。この結果は、比較例1のハードマ
スク膜4ではSi-N結合を含め、窒素と結合した原子の存在比率が検出されなかったこ
とを意味している。以上のように、この比較例1のハードマスク膜4は、ケイ素(Si)
と酸素(O)の含有比率が、Si:O=1:2であり、条件1を満たさず、Si2pナロ
ースペクトルが103.5eVを超える結合エネルギー(103.8eV)で最大ピーク
を有し、条件2も満たさないものであった。この比較例1のハードマスク膜4は、N1s
ナロースペクトルの最大ピークが検出下限値以下であり、条件3のみ満たすものであった
【0162】
O1sナロースペクトルの結果(図示せず)から、この比較例1のハードマスク膜4は
、532~533eVの間の結合エネルギーで最大ピークを有していることがわかった。
この結果は、高酸化物(Si-O結合)が少なくとも一定比率以上存在していること(S
iOが主体であること)を意味している。
【0163】
[位相シフトマスクの製造]
次に、この比較例1のマスクブランク100を用い、実施例1と同様にしてハーフトー
ン型の位相シフトマスク200を製造した。最初に、ハードマスク膜4の表面にHMDS
処理を施した。
【0164】
次に、実施例1と同様にして、第1のパターンを有するレジストパターン5aを形成し
た(図2(a)参照)。
【0165】
次に、レジストパターン5aをマスクとし、CFガスを用いたドライエッチングを行
い、ハードマスク膜4に第1のパターン(ハードマスクパターン4a)を形成した(図2
(b)参照)。
【0166】
このとき、ハードマスク膜4は、フッ素系ガスに対するエッチングレートが実施例1に
比べ小さく、ハードマスク膜が速く高精度にエッチング加工できるとは言えないことがわ
かった。
ハードマスク膜4のエッチングレートは、ハードマスク膜4の膜厚およびエッチングタ
イムから算出した結果、前述した実施例1のハードマスク膜4に比べフッ素系ガスに対す
るエッチングレートが相対的に小さかった。
また、ハードマスクパターン4aを走査型電子顕微鏡(SEM)で観測したところ、側
壁の断面は実施例1比べ滑らかではなかった。
【0167】
次に、レジストパターン5aを除去した。続いて、ハードマスクパターン4aをマスク
とし、塩素ガス(Cl)と酸素ガス(O)の混合ガス(ガス流量比 Cl:O
13:1)を用いたドライエッチング(バイアス電圧を印加したときの電力が50[W]
の高バイアスエッチング)を行い、遮光膜3に第1のパターン(遮光パターン3a)を形
成した(図2(c)参照)。このとき、実施例1と同様にオーバーエッチングを行った。
【0168】
なお、オーバーエッチング終了後のハードマスクパターン4aを走査型電子顕微鏡(S
EM)で観測したところ、パターンの側壁と表面都の間のエッジはシャープ(角が丸まっ
ていない)であった。また、ハードマスクパターン4aの側壁の断面は滑らかではなかっ
た。
【0169】
その後、実施例1と同じ条件で実施例1と同様の手順を経て、転写用マスク200(ハ
ーフトーン型位相シフトマスク)を製造した。
製造された比較例1の転写用マスク200(ハーフトーン型位相シフトマスク)に対し
てマスク欠陥検査装置で欠陥検査を行ったところ、位相シフトパターン2aのCD精度お
よびラインエッジラフネスがともに要求されたレベルを満たせていないことが判明した。
【0170】
〈比較例2〉
[マスクブランクの製造]
比較例2は、ハードマスク膜4を、Si-Si結合の存在比率が比較的高い材料で形成
して、マスクブランクの製造および転写用マスクの製造を行ったものであり、ハードマス
ク膜4の特性とその成膜方法以外は実施例1と同じである。以下、実施例1と相違する箇
所について説明する。
【0171】
実施例1と同様の手順で遮光膜3まで形成した後、ケイ素(Si)のターゲットを用い
、酸素(O)とアルゴン(Ar)ガスをスパッタリングガスとして、スパッタリングを
行うことにより、遮光膜3の上に厚さ15nmのSiO膜からなるハードマスク膜4を
形成した。この比較例2のハードマスク膜4の組成は、Si:O=38.5:61.5(
原子%比)であった。この組成はXPSにより測定した。
【0172】
実施例1と同様の手順でこの比較例2のマスクブランクのSi2pナロースペクトル、
N1sナロースペクトルおよびO1sナロースペクトルをそれぞれ取得した。このSi2
pナロースペクトルの結果(図示せず)から、この比較例2のハードマスク膜4は、97
eV~100eVの間の結合エネルギー(99.2eV)と、103eV未満の結合エネ
ルギー(102.7eV)でそれぞれピークを有していることがわかった。
【0173】
さらに、この比較例2のハードマスク膜4は、Si2pのナロースペクトルにおいて、
Si-Si結合の面積強度はSi-O結合の面積強度の半分以上から同程度あり、Si-
O結合とSi-Si結合の双方がかなりの割合で存在しているものであることもわかった
【0174】
[位相シフトマスクの製造]
次に、この比較例1のマスクブランク100を用い、実施例1と同様にしてハーフトー
ン型の位相シフトマスク200を製造した。最初に、ハードマスク膜4の表面にHMDS
処理を施した。
【0175】
次に、実施例1と同様にして、第1のパターンを有するレジストパターン5aを形成し
た(図2(a)参照)。
【0176】
次に、レジストパターン5aをマスクとし、CFガスを用いたドライエッチングを行
い、ハードマスク膜4に第1のパターン(ハードマスクパターン4a)を形成した(図2
(b)参照)。
【0177】
このとき、ハードマスク膜4は、フッ素系ガスに対するエッチングレートが実施例1の
ハードマスク膜4よりも大きかった。このため、ハードマスク膜4が速く高精度にエッチ
ング加工できることがわかった。
【0178】
次に、レジストパターン5aを除去した。続いて、ハードマスクパターン4aをマスク
とし、塩素ガス(Cl)と酸素ガス(O)の混合ガス(ガス流量比 Cl:O
13:1)を用いたドライエッチング(バイアス電圧を印加したときの電力が50[W]
の高バイアスエッチング)を行い、遮光膜3に第1のパターン(遮光パターン3a)を形
成した(図2(c)参照)。このとき、実施例1と同様にオーバーエッチングを行った。
【0179】
なお、オーバーエッチング終了後のハードマスクパターン4aを走査型電子顕微鏡(S
EM)で観測したところ、パターンの側壁と表面の間のエッジは角が丸まっていた。また
、ハードマスクパターン4aの側壁の断面は滑らかではなかった。このように、ハードマ
スクとしての機能が大きく下がる(塩素系ガスに対するエッチング耐性が大きく低下する
、特に高バイアスエッチング条件でさらにエッチング耐性が大きく低下する)傾向にある
ことがわかった。このため、このハードマスクパターン4aをマスクとするドライエッチ
ングで加工された遮光パターン3aは、CD精度およびラインエッジラフネスは悪化して
いた。さらに、この遮光パターン3aをマスクとするドライエッチングで加工された位相
シフトパターン2aも、CD精度およびラインエッジラフネスは悪化していた。
【0180】
その後、実施例1と同じ条件で実施例1と同様の手順を経て、転写用マスク200(ハ
ーフトーン型位相シフトマスク)を製造した。
製造された比較例2の転写用マスク200(ハーフトーン型位相シフトマスク)に対し
てマスク欠陥検査を行ったところ、位相シフトパターン2aのCD精度およびラインエッ
ジラフネスがともに要求されたレベルを満たせていないことが判明した。
【符号の説明】
【0181】
1 透光性基板
2 位相シフト膜
2a 位相シフトパターン
3 遮光膜
3a,3b 遮光パターン
4 ハードマスク膜
4a ハードマスクパターン
5a レジストパターン
6b レジストパターン
11 基板
12 多層反射膜
13 保護膜
14 吸収体膜(位相シフト膜)
15 ハードマスク膜
16 裏面導電膜
100 マスクブランク
200 位相シフトマスク
300 反射型マスクブランク
400 反射型マスク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7