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特許7573355非水電解液の製造装置および非水電解液の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】非水電解液の製造装置および非水電解液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20241018BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20241018BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/0569
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018199868
(22)【出願日】2018-10-24
(65)【公開番号】P2020068106
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-06-15
【審判番号】
【審判請求日】2023-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】合庭 健太
(72)【発明者】
【氏名】中村 彰
(72)【発明者】
【氏名】八尾 英也
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】岩間 直純
【審判官】山本 章裕
(56)【参考文献】
【文献】特表2000-505042(JP,A)
【文献】特開昭63-035413(JP,A)
【文献】米国特許第6379556(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/05 - 10/0587
H01G11/00 - 11/86
H01M 6/00 - 6/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸エステル中に分解して酸を生成し得るアルカリ金属塩電解質が溶解されたアルカリ金属塩電解質含有液を通液して非水電解液を得るための、弱塩基性陰イオン交換樹脂が収容されたイオン交換部を有し、
前記弱塩基性陰イオン交換樹脂が、スチレン系樹脂を基体とし、弱塩基性陰イオン交換基として三級アミノ基を有するとともに、アルカリ金属塩電解質含有液処理前における総イオン交換容量が0.1~3.0eq/L-Rである
ことを特徴とする非水電解液の製造装置。
【請求項2】
前記スチレン系樹脂が、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体である請求項1に記載の非水電解液の製造装置。
【請求項3】
前記非水電解液がリチウムイオン電池用電解液である請求項1または請求項2に記載の非水電解液の製造装置。
【請求項4】
非水電解液を製造する方法であって、
炭酸エステル中に分解して酸を生成し得るアルカリ金属塩電解質が溶解されたアルカリ金属塩電解質含有液を、弱塩基性陰イオン交換樹脂が収容されたイオン交換部に通液して非水電解液を得る酸吸着工程を有し、
前記弱塩基性陰イオン交換樹脂が、スチレン系樹脂を基体とし、弱塩基性陰イオン交換基として三級アミノ基を有するとともに、アルカリ金属塩電解質含有液処理前における総イオン交換容量が0.1~3.0eq/L-Rである
ことを特徴とする非水電解液の製造方法。
【請求項5】
前記スチレン系樹脂が、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体である請求項4に記載の非水電解液の製造方法。
【請求項6】
前記非水電解液がリチウムイオン電池用電解液である請求項4または請求項5に記載の非水電解液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液の製造装置および非水電解液の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池においては、電解液として、有機非水溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )などのリチウム系電解質を溶解させた非水電解液が用いられている。
【0003】
しかしながら、上記電解液を構成する溶媒及びリチウム系電解質中には微量の水分が残留しており、この水分は、上記LiPF6 等のリチウム系電解質と反応して、例えば以下の反応式(1)~(3)に示すようにフッ化水素(HF)等を生成する。
(1)LiPF6+H2O → LiF+2HF+POF3
(2)POF3+H2O → POF2(OH)+HF
(3)POF2(OH)+H2O → POF(OH)2+HF
【0004】
電解液中に上記フッ化水素(フッ酸)等の酸性不純物が存在する場合、リチウムイオン電池の電池容量や充放電のサイクル特性を低下させたり、電池内部の腐食を生じやすくなる(特許文献1(特開2011-71111号公報)等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-71111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このため、従来より、電解液中からフッ酸等の酸性不純物を除去する方法が望まれるようになっており、係る酸性不純物を除去する方法として、三級アミン構造を有する陰イオン交換基(三級アミノ基)等を含む弱塩基性陰イオン交換樹脂にリチウムイオン電池用電解液を接触させる方法が考えられる。
【0007】
しかしながら、本発明者等が検討したところ、上記弱塩基性陰イオン交換樹脂をリチウムイオン電池用電解液と接触させたときに、電解液中の炭酸エステル溶媒により上記三級アミノ基が四級アンモニウム基に変性される四級化反応を生じることが判明した。
上記四級化反応により陰イオン交換基が変性すると、吸着性が向上して電解液中の酸性不純物のみならず他の成分も吸着し易くなることから、酸性不純物を選択的に除去することが困難になる。
【0008】
このような状況下、本発明は、リチウムイオン電池用電解液等の非水電解液中に含まれるフッ酸等の酸性不純物をアミノ基を有する弱塩基性陰イオン交換樹脂により吸着して精製処理する際に、弱塩基性陰イオン交換基である三級アミノ基の四級アンモニウム基への変性を効果的に抑制しつつ容易に精製処理することが可能な非水電解液の製造装置を提供するとともに、非水電解液の製造方法を提供することを目的とするものである。
【0009】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、炭酸エステル中にアルカリ金属塩電解質が分散されたアルカリ金属塩電解質含有液を通液して非水電解液を得るための、弱塩基性陰イオン交換樹脂が収容されたイオン交換部を有し、前記弱塩基性陰イオン交換樹脂が、スチレン系樹脂を基体とし、弱塩基性陰イオン交換基として三級アミノ基を有するとともに、アルカリ金属塩電解質含有液処理前における総イオン交換容量が0.1~3.0eq/L-Rである非水電解液の製造装置により、上記技術課題を解決し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)炭酸エステル中に分解して酸を生成し得るアルカリ金属塩電解質が溶解されたアルカリ金属塩電解質含有液を通液して非水電解液を得るための、弱塩基性陰イオン交換樹脂が収容されたイオン交換部を有し、
前記弱塩基性陰イオン交換樹脂が、スチレン系樹脂を基体とし、弱塩基性陰イオン交換基として三級アミノ基を有するとともに、アルカリ金属塩電解質含有液処理前における総イオン交換容量が0.1~3.0eq/L-Rである
ことを特徴とする非水電解液の製造装置、
(2)前記スチレン系樹脂が、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体である上記(1)に記載の非水電解液の製造装置、
(3)前記非水電解液がリチウムイオン電池用電解液である上記(1)または(2)に記載の非水電解液の製造装置、
(4)非水電解液を製造する方法であって、
炭酸エステル中に分解して酸を生成し得るアルカリ金属塩電解質が溶解されたアルカリ金属塩電解質含有液を、弱塩基性陰イオン交換樹脂が収容されたイオン交換部に通液して非水電解を得る酸吸着工程を有し、
前記弱塩基性陰イオン交換樹脂が、スチレン系樹脂を基体とし、弱塩基性陰イオン交換基として三級アミノ基を有するとともに、アルカリ金属塩電解質含有液処理前における総イオン交換容量が0.1~3.0eq/L-Rである
ことを特徴とする非水電解液の製造方法、
(5)前記スチレン系樹脂が、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体である上記(4)に記載の非水電解液の製造方法、
(6)前記非水電解液がリチウムイオン電池用電解液である上記(4)または(5)に記載の非水電解液の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、非水電解液中に含まれるフッ酸等の酸性不純物をアミノ基を有する弱塩基性陰イオン交換樹脂により吸着して精製処理する際に、弱塩基性陰イオン交換基である三級アミノ基の四級アンモニウム基への変性を効果的に抑制しつつ容易に精製処理することが可能な非水電解液の製造装置を提供し得るとともに、非水電解液の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る非水電解液の製造装置の構成を説明するための図である。
図2】本発明に係る非水電解液の製造装置の形態例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る非水電解液の製造装置は、炭酸エステル中にアルカリ金属塩電解質が分散されたアルカリ金属塩電解質含有液を通液して非水電解液を得るための、弱塩基性陰イオン交換樹脂が収容されたイオン交換部を有し、
前記弱塩基性陰イオン交換樹脂が、スチレン系樹脂を基体とし、弱塩基性陰イオン交換基として三級アミノ基を有するとともに、アルカリ金属塩電解質含有液処理前における総イオン交換容量が0.1~3.0eq/L-Rである
ことを特徴とするものである。
【0014】
図1は、本発明に係る非水電解液の製造装置の構成例を示すものである。
【0015】
図1に示すように、本発明に係る非水電解液の製造装置1は、炭酸エステル中にリチウム系電解質等のアルカリ金属塩電解質を分散したアルカリ金属塩電解質含有液Sを通液して非水電解液を得るための、弱塩基性陰イオン交換樹脂を収容したイオン交換部2を有している。
【0016】
本発明に係る非水電解液の製造装置において、炭酸エステルとしては、環状炭酸エステルおよび鎖状炭酸エステルから選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0017】
環状炭酸エステルとしては、エチレンカーボネート(炭酸エチレン)、プロピレンカーボネート(炭酸プロピレン)等から選ばれる一種以上を挙げることができ、鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート(炭酸ジメチル)、ジエチルカーボネート(炭酸ジエチル)、エチルメチルカーボネート(炭酸エチルメチル)等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0018】
本発明に係る非水電解液の製造装置において、アルカリ金属塩電解質としては、リチウム系電解質を挙げることができ、リチウム系電解質としては、LiPF6、LiClO4、LiBF4 、LiAsF6 、LiSbF6 、LiAlCl4 、LiCF3SO3等から選ばれる一種以上を挙げることができ、電池性能を考慮した場合、LiPF6 が好適である。
本発明に係る非水電解液の製造装置において、非水電解液としては、リチウムイオン電池用電解液が好適である。
【0019】
本発明に係る非水電解液の製造装置において、アルカリ金属塩電解質含有液中のアルカリ金属塩濃度は、0.5~2.0mol/Lが好ましく、0.5~1.2mol/Lがより好ましく、0.8~1.2mol/Lがさらに好ましい。
【0020】
アルカリ金属塩電解質含有液の調製方法も特に制限されないが、例えば、炭酸エステル中にアルカリ金属塩電解質を、不活性ガス雰囲気下で添加、溶解することにより調製することができる。
【0021】
本発明に係る非水電解液の製造装置は、アルカリ金属塩電解質含有液(未精製の非水電解液)を通液する、弱塩基性陰イオン交換樹脂が収容されたイオン交換部を有している。
【0022】
本発明に係る非水電解液の製造装置において、イオン交換部で使用する弱塩基性陰イオン交換樹脂は、スチレン系樹脂を基体として有するものである。
【0023】
本出願書類において、スチレン系樹脂とは、スチレン又はスチレン誘導体を単独または共重合した、スチレン又はスチレン誘導体に由来する構成単位を50質量%以上含む樹脂を意味する。
【0024】
上記スチレン誘導体としては、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、エチルスチレン、i-プロピルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレン等から選ばれる一種以上が挙げられる。
【0025】
スチレン系樹脂としては、スチレンまたはスチレン誘導体の単独または共重合体を主成分とするものであれば、共重合可能な他のビニルモノマーとの共重合体であってもよく、このようなビニルモノマーとしては、例えば、o-ジビニルベンゼン、m-ジビニルベンゼン、p-ジビニルベンゼン等のジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート等の多官能性モノマーや、(メタ)アクリロニトリル、メチル(メタ)アクリレート等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0026】
上記共重合可能な他のビニルモノマーとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレン重合数が4~16のポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼンがより好ましく、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートがより好ましく、ジビニルベンゼンがさらに好ましい。
【0027】
本発明に係る非水電解液の製造装置において、イオン交換部で使用する弱塩基性陰イオン交換樹脂は、弱塩基性陰イオン交換基として三級アミノ基を有している。
【0028】
上記三級アミノ基としては、下記一般式(I)
【化1】
(ただし、R1基およびR2基は炭素数1~3の炭化水素基であって互いに同一であっても異なっていてもよく、*は基体または基体へ結合するための結合基との結合部位を示す。)
で表されるものを挙げることができる。
【0029】
上記一般式(I)で表される弱塩基性陰イオン交換基において、R1基およびR2基は炭素数1~3の炭化水素基である。
1基またはR2基としては、アルキル基およびアルケニル基から選ばれる一種以上を挙げることができ、アルキル基であることが好ましい。
1基またはR2基として、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基およびプロピレン基から選ばれる一種以上を挙げることができ、メチル基であることが好ましい。
上記一般式(I)で表される弱塩基性陰イオン交換基において、R1基およびR2基は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0030】
上記一般式(I)で表される弱塩基性陰イオン交換基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基等を挙げることができ、ジメチルアミノ基であることが好ましい。
【0031】
上記一般式(I)において、*は、上記一般式(I)で表される弱塩基性陰イオン交換基と、基体または基体へ結合するための結合基との結合部位を示す。
【0032】
上記一般式(I)で表される弱塩基性陰イオン交換基は、スチレン系樹脂からなる基体に対し、下記一般式(II)に示すように、適宜結合基であるR3基を介して結合していることが好ましい。
【化2】
(ただし、R1基およびR2基は炭素数1~3の炭化水素基であって互いに同一であっても異なっていてもよく、R3基は炭素数1~3の炭化水素基であり、*は基体との結合部位を示す。)
【0033】
上記R1基およびR2基としては、上述したものと同様のものを挙げることができる。
上記R3基は炭素数1~3の炭化水素基であり、R3基としては、アルキレン基およびアルケニレン基から選ばれる一種以上を挙げることができ、アルキレン基であることが好ましい。
3基として、具体的には、メチレン基 (-CH2-)、エチレン基(-CH2CH2CH2-)、 プロピレン基(-CH2CH2CH2-)等から選ばれる一種以上を挙げることができ、メチレン基が好ましい。
【0034】
上記一般式(I)で表される弱塩基性陰イオン交換基は、スチレン又はスチレン誘導体に置換基として導入することにより、スチレン系樹脂中に導入することができる。
【0035】
本発明に係る非水電解液の製造装置において、イオン交換部で使用する弱塩基性陰イオン交換樹脂は、アルカリ金属塩電解質含有液処理前における総イオン交換容量が0.1~3.0eq/L-Rであるものである。
【0036】
本発明に係る非水電解液の製造装置において、イオン交換部で使用する弱塩基性陰イオン交換樹脂は、アルカリ金属塩電解質含有液処理前における総イオン交換容量が、0.1~3.0eq/L-Rであるものであり、0.5~2.5eq/L-Rであるものが好ましく、1.0~2.0eq/L-Rであるものがより好ましい。
【0037】
本出願書類において、総イオン交換容量は、後述する方法により算出される値を意味する。
アミノ基を弱塩基性陰イオン交換基とする弱塩基性陰イオン交換樹脂において、上記総イオン交換容量は、一級アミノ基、二級アミノ基、三級アミノ基および四級アンモニウム基を合計したイオン交換容量を意味する。
【0038】
本発明に係る非水電解液の製造装置は、弱塩基性陰イオン交換樹脂として、スチレン系樹脂を基体とし、弱塩基性陰イオン交換基として三級アミノ基を有するとともに、アルカリ金属塩電解質含有液処理前における総イオン交換容量が上記範囲内にあるものを採用することにより、アルカリ金属塩電解質含有液中に含まれるフッ酸等の酸性不純物をアミノ基を有する弱塩基性陰イオン交換樹脂により吸着して精製処理する際に、弱塩基性陰イオン交換基である三級アミノ基の四級アンモニウム基への変性を効果的に抑制しつつ容易に精製処理することができる。
【0039】
本出願書類において、上記総イオン交換容量は、湿潤状態、アルカリ金属塩電解質含有液処理前における弱塩基性陰イオン交換樹脂において、陰イオン交換樹脂を塩酸で完全に塩化物イオン形に変換した後、エタノールで過剰の塩酸を洗浄し、アンモニア水を流した時に流出した塩化物イオンの量をアミノ基交換容量とし、次に硝酸ナトリウム溶液を流した時に流出した塩化物イオンの量を中性塩分解容量としたときに、アミノ基交換容量と中性塩分解容量の合計を総イオン交換容量とする。
【0040】
イオン交換部に収容される弱塩基性陰イオン交換樹脂は、ゲル型構造、マクロポーラス(MR)型構造、ポーラス型構造のいずれの構造を有するものであってもよく、マクロポーラス型構造を有するものが好ましい。
【0041】
弱塩基性陰イオン交換樹脂のサイズは特に制限されないが、その調和平均径が、
300~1000μmであるものが好ましく、400~800μmであるものがより好ましく、500~700μmであるものがさらに好ましい。
【0042】
このような弱塩基性陰イオン交換樹脂は、市販品であってもよく、例えば、三菱化学(株)製ダイヤイオンWA30や、オルガノ(株)製 ORLITE DS-6等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0043】
本発明に係る非水電解液の製造装置において、イオン交換部内に収容される弱塩基性陰イオン交換樹脂の収容形態は、アルカリ金属塩電解質含有液と弱塩基性陰イオン交換樹脂とが接触し得る形態であれば特に制限されない。
例えば、イオン交換部が、アルカリ金属塩電解質含有液を通液し得る弱塩基性陰イオン交換樹脂を充填したカラムまたは槽であってもよい。
また、イオン交換部は、アルカリ金属塩電解質含有液を通液するためのポンプを備えたものであってもよい。
【0044】
本発明に係る非水電解液の製造装置において、アルカリ金属塩電解質含有液をイオン交換部内の弱塩基性陰イオン交換装置に通液する通液速度(液空間速度)は、アルカリ金属塩電解質含有液中の酸性不純物を除去し得る速度から適宜選定すればよい。
【0045】
上記弱塩基性陰イオン交換樹脂による処理は、例えば、先ず、処理すべきアルカリ金属塩電解質含有液を構成する炭酸エステル溶媒で予め弱塩基性陰イオン交換樹脂を洗浄した後、約40~80℃で減圧下にて乾燥し、次いで、再度処理すべきアルカリ金属塩電解質含有液を構成する炭酸エステル溶媒で弱塩基性陰イオン交換樹脂を膨潤した上で、カラムに充填する。
その上で、常法に従い逆洗・押出し操作等を行った後、処理すべき電解液を好ましくはSV(流量/イオン交換樹脂体積比)1~100hr-1、より好ましくはSV2~50hr-1、さらに好ましくはSV5~20hr-1で通液することにより行うことができる。
【0046】
本発明に係る非水電解液の製造装置においては、上記イオン交換部から得られる酸吸着処理液中のフッ酸等の酸性不純物の含有量が、20質量ppm以下であることが好ましく、10質量ppm以下であることがより好ましく、5質量ppm以下であることがさらに好ましい。
なお、本出願書類において、上記酸性不純物量は、中和滴定法により測定した値を意味する。
【0047】
本発明によれば、イオン交換部に収容する弱塩基性陰イオン交換樹脂として、スチレン系樹脂を基体とし、弱塩基性陰イオン交換基として三級アミノ基を有するとともに、上記式により算出される総イオン交換容量が上記範囲内にあるものを採用することにより、非水電解液中に含まれるフッ酸等の酸性不純物をアミノ基を有する弱塩基性陰イオン交換樹脂により吸着して精製処理する際に、弱塩基性陰イオン交換基である三級アミノ基の四級アンモニウム基への変性を効果的に抑制しつつ容易に精製処理することが可能な非水電解液の製造装置を提供することができる。
【0048】
次に、本発明に係る非水電解液の製造方法について説明する。
本発明に係る非水電解液の製造方法は、炭酸エステル中にアルカリ金属塩電解質が分散されたアルカリ金属塩電解質含有液を、弱塩基性陰イオン交換樹脂が収容されたイオン交換部に通液して非水電解液を得る酸吸着工程を有し、前記弱塩基性陰イオン交換樹脂が、スチレン系樹脂を基体とし、弱塩基性陰イオン交換基として三級アミノ基を有するとともに、アルカリ金属塩電解質含有液処理前における総イオン交換容量が0.1~3.0eq/L-Rであることを特徴とするものである。
【0049】
本発明に係る非水電解液の製造方法は、実質的に、本発明に係る製造装置を用いて非水電解液を製造するものであることから、製造方法の詳細は、上述した本発明に係る製造装置の使用形態の説明と共通する。
【0050】
本発明によれば、イオン交換部に収容する弱塩基性陰イオン交換樹脂として、スチレン系樹脂を基体とし、弱塩基性陰イオン交換基として三級アミノ基を有するとともに、アルカリ金属塩電解質含有液処理前における総イオン交換容量が上記範囲内にあるものを採用することにより、非水電解液中に含まれるフッ酸等の酸性不純物を三級アミノ基を有する弱塩基性陰イオン交換樹脂により吸着して精製処理する際に、弱塩基性陰イオン交換基である三級アミノ基の四級アンモニウム基への変性を効果的に抑制しつつ容易に精製処理可能な非水電解液の製造方法を提供することができる。
【実施例
【0051】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【0052】
(実施例1)
図2に示す非水電解液の製造装置1としてリチウムイオン電池用電解液の製造装置を用いて電解液を調製した。
すなわち、先ず、図2に示すように、非水電解液の製造装置(リチウムイオン電池用電解液の製造装置)1を構成するイオン交換部2として、スチレン-ジビニルベンゼンを基体とし、弱塩基性陰イオン交換基としてジメチルアミノ基を有する弱塩基性陰イオン交換樹脂を充填したカラムを用意した。
次いで、上記カラムに対し、エチレンカーボネートおよびジメチルカーボネートを体積比で1:1の割合で混合した混合溶媒にLiPFを1mol/Lとなるように溶解した電解液Sを、ポンプPを用いて10 -1 の通液速度で15日間通液し、通液後の電解液をタンクTに貯蔵した。
上記通液前後における、弱塩基性陰イオン交換樹脂の総イオン交換容量を以下の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0053】
<総イオン交換容量の測定方法>
陰イオン交換樹脂を塩酸で完全に塩化物イオン形に変換した後、エタノールで過剰の塩酸を洗浄し、アンモニア水を流した時に流出した塩化物イオンの量をアミノ基交換容量とし、次に硝酸ナトリウム溶液を流した時に流出した塩化物イオンの量を中性塩分解容量とする。アミノ基交換容量と中性塩分解容量を合わせた量を総イオン交換容量とする。
【0054】
上記総イオン交換容量は全イオン交換基量(一級アミノ基~三級アミノ基と四級アンモニウム基の総量)を示し、中性塩分解容量は四級アンモニウム基量を示す。
表1においては、電解液処理前後における中性塩分解容量およびアミノ基交換容量も併記する。
また、表1においては、下記式により算出した官能基の総量に占める四級アンモニウム基の割合も併記する。
官能基の総量に占める四級アンモニウム基の割合(%)=(中性塩分解容量(eq/L-R)/総イオン交換容量(eq/L-R))×100
【0055】
(実施例2~実施例4)
イオン交換部2を構成するカラムに充填する弱塩基性陰イオン交換樹脂として、スチレン-ジビニルベンゼンを基体とし、弱塩基性陰イオン交換基としてジメチルアミノ基を有する弱塩基性陰イオン交換樹脂であって、各々表1に示す総イオン交換容量を有するものを用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン電池用電解液の製造装置1を各々構成した。
次いで、実施例1と同様にして、上記カラムに対し、エチレンカーボネートおよびジメチルカーボネートを体積比で1:1の割合で混合した混合溶媒にLiPF6を1mol/Lとなるように溶解した電解液Sを、ポンプPを用いて10 -1 の通液速度で15日間通液し、通液後の電解液をタンクTに貯蔵した。
上記通液前後における、弱塩基性陰イオン交換樹脂の総イオン交換容量を実施例1と同様の方法で測定した。結果を表1に示す。
表1においては、電解液処理前後における中性塩分解容量、アミノ基交換容量および官能基の総量に占める四級アンモニウム基の割合についても、実施例1と同様に併記する。
【0056】
(比較例1)
弱塩基性陰イオン交換樹脂として、アクリル系樹脂を基体とし、弱塩基性陰イオン交換基としてジメチルアミノ基を有するものを用いた以外は、実施例1と同様にして、弱塩基性陰イオン交換樹脂を充填したカラムに対し電解液Sを通液し、通液前後における弱塩基性陰イオン交換樹脂の総イオン交換容量および中性塩分解容量を測定した。
結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1より、実施例1~実施例4においては、炭酸エステル中にリチウム系電解質を分散したリチウム系電解質含有液中の酸性不純物の除去処理を、スチレン系樹脂を基体とし、弱塩基性陰イオン交換基として三級アミノ基を有するとともに、上記式により算出されるアミノ基交換容量が上記範囲内にあるものを採用することにより、リチウムイオン電池用電解液中に含まれるフッ酸等の酸性不純物を三級アミノ基を有する弱塩基性陰イオン交換樹脂により吸着して精製処理する際に、弱塩基性陰イオン交換基である三級アミノ基の四級アンモニウム基への変性を効果的に抑制しつつ容易に精製処理し得ることが分かる。
【0059】
一方、表1より、比較例1においては、炭酸エステル中にリチウム系電解質を分散したリチウム系電解質含有液中の酸性不純物の除去処理を、上記特定の弱塩基性陰イオン交換樹脂を用いて行っていないために、三級アミノ基の四級アンモニウム基への変性(四級化反応)を抑制し難いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、非水電解液中に含まれるフッ酸等の酸性不純物をアミノ基を有する弱塩基性陰イオン交換樹脂により吸着して精製処理する際に、弱塩基性陰イオン交換基である三級アミノ基の四級アンモニウム基への変性を効果的に抑制しつつ容易に精製処理することが可能な非水電解液の製造装置を提供し得るとともに、非水電解液の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 非水電解液の製造装置
2 酸吸収装置
図1
図2