(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】非水電解液の製造装置および非水電解液の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20241018BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20241018BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/0569
(21)【出願番号】P 2018199869
(22)【出願日】2018-10-24
【審査請求日】2021-06-15
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】合庭 健太
(72)【発明者】
【氏名】中村 彰
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】岩間 直純
【審判官】山本 章裕
(56)【参考文献】
【文献】特表2000-505042(JP,A)
【文献】特表2003-535007(JP,A)
【文献】特開平10-029971(JP,A)
【文献】狩野直樹、二瓶誠、今泉洋,OT-for-OH交換反応を用いた陰イオン交換樹脂の反応性,RADIOISOTOPES,日本,1996年,Vol. 45,pp. 613-618
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/05 - 10/0587
H01G11/00 - 11/86
H01M 6/00 - 6/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸エステル中に分解して酸を生成し得るアルカリ金属塩電解質が溶解されたアルカリ金属塩電解質含有液を通液して非水電解液を得るための、弱塩基性陰イオン交換樹脂が収容されたイオン交換部を有し、
前記弱塩基性陰イオン交換樹脂が、スチレン系樹脂を基体とし、弱塩基性陰イオン交換基として、下記一般式(I)
(ただし、R
1基およびR
2基は炭素数1~3の炭化水素基であって互いに同一であっても異なっていてもよく、*は基体または基体へ結合するための結合基との結合部位を示す。)
で表される三級アミノ基を有する
ことを特徴とする非水電解液の製造装置。
【請求項2】
前記スチレン系樹脂が、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体である請求項1に記載の非水電解液の製造装置。
【請求項3】
前記弱塩基性陰イオン交換基が、下記一般式(II)
(ただし、R
1基およびR
2基は炭素数1~3の炭化水素基であって互いに同一であっても異なっていてもよく、R
3基は炭素数1~3の炭化水素基であり、*は基体との結合部位を示す。)
で表される三級アミノ基である請求項1または請求項2に記載の非水電解液の製造装置。
【請求項4】
前記一般式(I)または一般式(II)で表される弱塩基性陰イオン交換基が、ジメチルアミノメチル基である請求項1~請求項3のいずれかに記載の非水電解液の製造装置。
【請求項5】
前記非水電解液がリチウムイオン電池用電解液である請求項1~請求項4のいずれかに記載の非水電解液の製造装置。
【請求項6】
非水電解液を製造する方法であって、
炭酸エステル中に分解して酸を生成し得るアルカリ金属塩電解質が溶解されたアルカリ金属塩電解質含有液を、弱塩基性陰イオン交換樹脂が収容されたイオン交換部に通液して非水電解液を得る酸吸着工程を有し、
前記弱塩基性陰イオン交換樹脂が、スチレン系樹脂を基体とし、弱塩基性陰イオン交換基として、下記一般式(I)
(ただし、R
1基およびR
2基は炭素数1~3の炭化水素基であって互いに同一であっても異なっていてもよく、*は基体または基体へ結合するための結合基との結合部を示す。)
で表される三級アミノ基を有する
ことを特徴とする非水電解液の製造方法。
【請求項7】
前記スチレン系樹脂が、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体である請求項6に記載の非水電解液の製造方法。
【請求項8】
前記弱塩基性陰イオン交換基が、下記一般式(II)
(ただし、R
1基およびR
2基は炭素数1~3の炭化水素基であって互いに同一であっても異なっていてもよく、R
3基は炭素数1~3の炭化水素基であり、*は基体との結合部位を示す。)
で表される三級アミノ基である請求項6または請求項7に記載の非水電解液の製造方法。
【請求項9】
前記一般式(I)または一般式(II)で表される弱塩基性陰イオン交換基が、ジメチルアミノメチル基である請求項6~請求項8のいずれかに記載の非水電解液の製造方法。
【請求項10】
前記非水電解液がリチウムイオン電池用電解液である請求項6~請求項9のいずれかに記載の非水電解液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液の製造装置および非水電解液の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池においては、電解液として、炭酸エステル溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )などのリチウム系電解質を溶解させた非水電解液が用いられている。
【0003】
しかしながら、上記電解液を構成する炭酸エステル溶媒及びリチウム系電解質中には微量の水分が残留しており、この水分は、上記LiPF6 等のリチウム系電解質と反応して、例えば以下の反応式(1)~(3)に示すようにフッ化水素(HF)等を生成する。
(1)LiPF6+H2O → LiF+2HF+POF3
(2)POF3+H2O → POF2(OH)+HF
(3)POF2(OH)+H2O → POF(OH)2+HF
【0004】
電解液中に上記フッ化水素(フッ酸)等の酸性不純物が存在する場合、リチウムイオン電池の電池容量や充放電のサイクル特性を低下させたり、電池内部の腐食を生じやすくなる(特許文献1(特開2011-71111号公報)等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このため、従来より、電解液中からフッ酸等の酸性不純物を除去する方法が望まれるようになっており、係る酸性不純物を除去する方法として、三級アミン構造を有する陰イオン交換基(三級アミノ基)を含む弱塩基性陰イオン交換樹脂にリチウムイオン電池用電解液を接触させる方法が考えられる。
【0007】
しかしながら、本発明者等が検討したところ、水中と異なり非水電解液中では、上記弱塩基性陰イオン交換樹脂の種類によってはフッ酸等の酸性不純物の除去性能が上手く発揮できず、目標とする電解液の品質まで達しない場合があることが判明した。
【0008】
このような状況下、本発明は、フッ酸等の酸性不純物を効果的に吸着してその含有量を低減したリチウムイオン電池用電解液等の非水電解液を容易に調製し得る非水電解液の製造装置を提供するとともに、非水電解液の製造方法を提供することを目的とするものである。
【0009】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、炭酸エステル中にアルカリ金属塩電解質が分散されたアルカリ金属塩電解質含有液を通液して非水電解液を得るための、弱塩基性陰イオン交換樹脂が収容されたイオン交換部を有し、前記弱塩基性陰イオン交換樹脂が、スチレン系樹脂を基体とするとともに弱塩基性陰イオン交換基として特定の三級アミノ基を有する非水電解液の製造装置により、上記技術課題を解決し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)
炭酸エステル中に分解して酸を生成し得るアルカリ金属塩電解質が溶解されたアルカリ金属塩電解質含有液を通液して非水電解液を得るための、弱塩基性陰イオン交換樹脂が収容されたイオン交換部を有し、
前記弱塩基性陰イオン交換樹脂が、スチレン系樹脂を基体とし、弱塩基性陰イオン交換基として、下記一般式(I)
(ただし、R
1基およびR
2基は炭素数1~3の炭化水素基であって互いに同一であっても異なっていてもよく、*は基体または基体へ結合するための結合基との結合部位を示す。)
で表される三級アミノ基を有する
ことを特徴とする非水電解液の製造装置、
(2)前記スチレン系樹脂が、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体である上記(1)に記載の非水電解液の製造装置、
(3)前記弱塩基性陰イオン交換基が、下記一般式(II)
(ただし、R
1基およびR
2基は炭素数1~3の炭化水素基であって互いに同一であっても異なっていてもよく、R
3基は炭素数1~3の炭化水素基であり、*は基体との結合部位を示す。)
で表される三級アミノ基である上記(1)または(2)に記載の非水電解液の製造装置、
(4)前記一般式(I)または一般式(II)で表される弱塩基性陰イオン交換基が、ジメチルアミノメチル基である上記(1)~(3)のいずれかに記載の非水電解液の製造装置、
(5)前記非水電解液がリチウムイオン電池用電解液である上記(1)~(4)のいずれかに記載の非水電解液の製造装置、
(6)非水電解液を製造する方法であって、
炭酸エステル中に分解して酸を生成し得るアルカリ金属塩電解質が溶解されたアルカリ金属塩電解質含有液を、弱塩基性陰イオン交換樹脂が収容されたイオン交換部に通液して非水電解液を得る酸吸着工程を有し、
前記弱塩基性陰イオン交換樹脂が、スチレン系樹脂を基体とし、弱塩基性陰イオン交換基として、下記一般式(I)
(ただし、R
1基およびR
2基は炭素数1~3の炭化水素基であって互いに同一であっても異なっていてもよく、*は基体または基体へ結合するための結合基との結合部を示す。)
で表される三級アミノ基を有する
ことを特徴とする非水電解液の製造方法、
(7)前記スチレン系樹脂が、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体である上記(6)に記載の非水電解液の製造方法、
(8)前記弱塩基性陰イオン交換基が、下記一般式(II)
(ただし、R
1基およびR
2基は炭素数1~3の炭化水素基であって互いに同一であっても異なっていてもよく、R
3基は炭素数1~3の炭化水素基であり、*は基体との結合部位を示す。)
で表される三級アミノ基である上記(6)または(7)に記載の非水電解液の製造方法、
(9)前記一般式(I)または一般式(II)で表される弱塩基性陰イオン交換基が、ジメチルアミノメチル基である上記(6)~(8)のいずれかに記載の非水電解液の製造方法、
(10)前記非水電解液がリチウムイオン電池用電解液である上記(6)~(9)のいずれかに記載の非水電解液の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、フッ酸等の酸性不純物を効果的に吸着してその含有量を低減した非水電解液を容易に調製し得る非水電解液の製造装置を提供するとともに、非水電解液の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る非水電解液の製造装置の構成を説明するための図である。
【
図2】本発明に係る非水電解液の製造装置の形態例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る非水電解液の製造装置は、炭酸エステル中にアルカリ金属塩電解質が分散されたアルカリ金属塩電解質含有液を通液して非水電解液を得るための、弱塩基性陰イオン交換樹脂が収容されたイオン交換部を有し、
前記弱塩基性陰イオン交換樹脂が、スチレン系樹脂を基体とし、弱塩基性陰イオン交換基として、下記一般式(I)
【化5】
(ただし、R
1基およびR
2基は炭素数1~3の炭化水素基であって互いに同一であっても異なっていてもよく、*は基体または基体へ結合するための結合基との結合部位を示す。)
で表される三級アミノ基を有する
ことを特徴とするものである。
【0014】
図1は、本発明に係る非水電解液の製造装置の構成例を示すものである。
【0015】
図1に示すように、本発明に係る非水電解液の製造装置1は、炭酸エステル中にリチウム系電解質等のアルカリ金属塩電解質が分散されたアルカリ金属塩電解質含有液Sを通液して非水電解液を得るための、弱塩基性陰イオン交換樹脂が収容されたイオン交換部2を有している。
【0016】
本発明に係る非水電解液の製造装置において、炭酸エステルとしては、環状炭酸エステルおよび鎖状炭酸エステルから選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0017】
環状炭酸エステルとしては、エチレンカーボネート(炭酸エチレン)、プロピレンカーボネート(炭酸プロピレン)等から選ばれる一種以上を挙げることができ、鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート(炭酸ジメチル)、ジエチルカーボネート(炭酸ジエチル)、エチルメチルカーボネート(炭酸エチルメチル)等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0018】
本発明に係る非水電解液の製造装置において、アルカリ金属塩電解質としては、リチウム系電解質を挙げることができ、リチウム系電解質としては、LiPF6、LiClO4、LiBF4 、LiAsF6 、LiSbF6 、LiAlCl4 、LiCF3SO3 等から選ばれる一種以上を挙げることができ、電池性能を考慮した場合、LiPF6 が好適である。
本発明に係る非水電解液の製造装置において、非水電解液としては、リチウムイオン電池用電解液が好適である。
【0019】
本発明に係る非水電解液の製造装置において、アルカリ金属塩電解質含有液中のアルカリ金属塩電解質濃度は、0.5~2.0mol/Lが好ましく、0.5~1.2mol/Lがより好ましく、0.8~1.2mol/Lがさらに好ましい。
【0020】
アルカリ金属塩電解質含有液の調製方法も特に制限されないが、例えば、炭酸エステル中にアルカリ金属塩電解質を、不活性ガス雰囲気下で添加、溶解することにより調製することができる。
【0021】
本発明に係る非水電解液の製造装置は、アルカリ金属塩電解質含有液(未精製の非水電解液)を通液する、弱塩基性陰イオン交換樹脂を収容したイオン交換部を有している。
【0022】
本発明に係る非水電解液の製造装置において、イオン交換部で使用する弱塩基性陰イオン交換樹脂は、スチレン系樹脂を基体として有するものである。
【0023】
本出願書類において、スチレン系樹脂とは、スチレン又はスチレン誘導体を単独または共重合した、スチレン又はスチレン誘導体に由来する構成単位を50質量%以上含む樹脂を意味する。
【0024】
上記スチレン誘導体としては、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、エチルスチレン、i-プロピルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレン等が挙げられる。
【0025】
スチレン系樹脂としては、スチレンまたはスチレン誘導体の単独または共重合体を主成分とするものであれば、共重合可能な他のビニルモノマーとの共重合体であってもよく、このようなビニルモノマーとしては、例えば、o-ジビニルベンゼン、m-ジビニルベンゼン、p-ジビニルベンゼン等のジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート等の多官能性モノマーや、(メタ)アクリロニトリル、メチル(メタ)アクリレート等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0026】
上記共重合可能な他のビニルモノマーとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレン重合数が4~16のポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼンがより好ましく、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートがより好ましく、ジビニルベンゼンがさらに好ましい。
【0027】
本発明に係る非水電解液の製造装置において、イオン交換部で使用する弱塩基性陰イオン交換樹脂は、スチレン系樹脂を基体とし、弱塩基性陰イオン交換基として、下記一般式(I)
【化6】
(ただし、R
1基およびR
2基は炭素数1~3の炭化水素基であって互いに同一であっても異なっていてもよく、*は基体または基体へ結合するための結合基との結合部位を示す。)
で表される三級アミノ基を有している。
【0028】
上記一般式(I)で表される弱塩基性陰イオン交換基において、R1基およびR2基は炭素数1~3の炭化水素基である。
R1基またはR2基としては、アルキル基およびアルケニル基から選ばれる一種以上を挙げることができ、アルキル基であることが好ましい。
R1基またはR2基として、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基およびプロピレン基から選ばれる一種以上を挙げることができ、メチル基であることが好ましい。
上記一般式(I)で表される弱塩基性陰イオン交換基において、R1基およびR2基は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0029】
上記一般式(I)で表される弱塩基性陰イオン交換基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基等を挙げることができ、ジメチルアミノ基であることが好ましい。
【0030】
上記一般式(I)において、*は、上記一般式(I)で表される弱塩基性陰イオン交換基と、基体または基体へ結合するための結合基との結合部位を示す。
【0031】
上記一般式(I)で表される弱塩基性陰イオン交換基は、スチレン系樹脂からなる基体に対し、下記一般式(II)に示すように、適宜結合基であるR
3基を介して結合していることが好ましい。
【化7】
(ただし、R
1基およびR
2基は炭素数1~3の炭化水素基であって互いに同一であっても異なっていてもよく、R
3基は炭素数1~3の炭化水素基であり、*は基体との結合部位を示す。)
【0032】
上記R1基およびR2基としては、上述したものと同様のものを挙げることができる。
上記R3基は炭素数1~3の炭化水素基であり、R3基としては、アルキレン基およびアルケニレン基から選ばれる一種以上を挙げることができ、アルキレン基であることが好ましい。
R3基として、具体的には、メチレン基 (-CH2-)、エチレン基(-CH2CH2CH2-)、 プロピレン基(-CH2CH2CH2-)等から選ばれる一種以上を挙げることができ、メチレン基が好ましい。
【0033】
上記一般式(I)で表される弱塩基性陰イオン交換基は、スチレン又はスチレン誘導体に置換基として導入することにより、スチレン系樹脂中に導入することができる。
【0034】
イオン交換部に収容される弱塩基性陰イオン交換樹脂は、ゲル型構造、マクロポーラス(MR)型構造、ポーラス型構造のいずれの構造を有するものであってもよく、マクロポーラス型構造を有するものが好ましい。
【0035】
弱塩基性陰イオン交換樹脂のサイズは特に制限されないが、その調和平均径が、300~1000μmであるものが好ましく、400~800μmであるものがより好ましく、500~700μmであるものがさらに好ましい。
【0036】
また、弱塩基性陰イオン交換樹脂としては、その湿潤状態の総イオン交換容量が、0.1~3.0(eq/L-R)であるものが好ましく、0.5~2.5(eq/L-R)であるものがより好ましく、1.0~2.0(eq/L-R)であるものがさらに好ましい。
【0037】
このような弱塩基性陰イオン交換樹脂は、市販品であってもよく、例えば、三菱化学(株)製ダイヤイオンWA30や、オルガノ(株)製ORLITE DS-6等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0038】
本発明に係る非水電解液の製造装置において、イオン交換部内に収容される弱塩基性陰イオン交換樹脂の収容形態は、アルカリ金属塩電解質含有液と弱塩基性陰イオン交換樹脂とが接触し得る形態であれば特に制限されない。
例えば、イオン交換部が、アルカリ金属塩電解質含有液を通液し得る弱塩基性陰イオン交換樹脂を充填したカラムまたは槽であってもよい。
また、イオン交換部は、アルカリ金属塩電解質含有液を通液するためのポンプを備えたものであってもよい。
【0039】
本発明に係る非水電解液の製造装置において、アルカリ金属塩電解質含有液をイオン交換部内の弱塩基性陰イオン交換装置に通液する通液速度(液空間速度)は、アルカリ金属塩電解質含有液中の酸性不純物を除去し得る速度から適宜選定すればよい。
【0040】
上記弱塩基性陰イオン交換樹脂による処理は、例えば、先ず、処理すべきアルカリ金属塩電解質含有液を構成する炭酸エステル溶媒で予め弱塩基性陰イオン交換樹脂を洗浄した後、約40~80℃で減圧下にて乾燥し、次いで、再度処理すべきアルカリ金属塩電解質含有液を構成する炭酸エステル溶媒で弱塩基性陰イオン交換樹脂を膨潤した上で、カラムに充填する。その上で、常法に従い逆洗・押出し操作等を行った後、処理すべき電解液を好ましくはSV(流量/イオン交換樹脂体積比)1~100hr-1、より好ましくはSV2~50hr-1、さらに好ましくはSV5~20hr-1で通液することにより行うことができる。
【0041】
本発明に係る非水電解液の製造装置においては、上記イオン交換部から得られる酸吸着処理液中のフッ酸等の酸性不純物の含有量が、20質量ppm以下であることが好ましく、10質量ppm以下であることがより好ましく、5質量ppm以下であることがさらに好ましい。
なお、本出願書類において、上記酸性不純物量は、中和滴定法により測定した値を意味する。
【0042】
本発明によれば、イオン交換部に収容する弱塩基性陰イオン交換樹脂として、スチレン系樹脂を基体とし、三級アミン構造を有する特定の弱塩基性陰イオン交換基を有するものを採用することにより、電解液中の酸性不純物を効果的に吸着除去することができる。
【0043】
このため、本発明によれば、フッ酸等の酸性不純物を効果的に吸着してその含有量を低減した非水電解液を容易に調製し得る非水電解液の製造装置を提供することができる。
【0044】
次に、本発明に係る非水電解液の製造方法について説明する。
本発明に係る非水電解液の製造方法は、炭酸エステル中にアルカリ金属塩電解質が分散されたアルカリ金属塩電解質含有液を、弱塩基性陰イオン交換樹脂が収容されたイオン交換部に通液して非水電解液を得る酸吸着工程を有し、前記弱塩基性陰イオン交換樹脂が、スチレン系樹脂を基体とし、弱塩基性陰イオン交換基として、下記一般式(I)
【化8】
(ただし、R
1基およびR
2基は炭素数1~3の炭化水素基であって互いに同一であっても異なっていてもよく、*は基体または基体へ結合するための結合基との結合部を示す。)
で表される三級アミノ基を有することを特徴とするものである。
【0045】
本発明に係る非水電解液の製造方法は、実質的に、本発明に係る製造装置を用いて非水電解液を製造するものであることから、製造方法の詳細は、上述した本発明に係る製造装置の使用形態の説明と共通する。
【0046】
本発明によれば、フッ酸等の酸性不純物を効果的にその含有量を低減した非水電解液を容易に調製し得る非水電解液の製造方法を提供することができる。
【実施例】
【0047】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【0048】
(実施例1)
図2に示す非水電解液の製造装置1としてリチウムイオン電池用電解液の製造装置を用いて電解液を調製した。
すなわち、先ず、
図2に示すように、非水電解質の製造装置(リチウムイオン電池用電解液の製造装置)1を構成するイオン交換部2として、スチレン-ジビニルベンゼンを基体とし、弱塩基性陰イオン交換基としてジメチルアミノ基を有する弱塩基性陰イオン交換樹脂(マクロポーラス型)を充填したカラムを用意した。
次いで、上記カラムに対し、エチレンカーボネート(EC)およびジメチルカーボネート(DMC)を体積比で1:1の割合で混合した混合溶媒にLiPF
6を1mol/Lとなるように溶解した電解液Sを、ポンプPを用いて40
hr
-1
の速度で通液し、通液後の電解液をタンクTに貯蔵した。
上記通液前後における、電解液中のフッ酸濃度を以下の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0049】
<フッ酸濃度の測定方法>
水酸化ナトリウムによる中和滴定から算出した水素イオン濃度を全てフッ酸に換算してフッ酸濃度とした。
【0050】
(比較例1)
弱塩基性陰イオン交換樹脂として、アクリル系樹脂を基体とし、弱塩基性陰イオン交換基としてジメチルアミノ基を有するもの(ゲル型)を用いた以外は、実施例1と同様にして、弱塩基性陰イオン交換樹脂を充填したカラムに対し電解液Sを通液し、通液前後における、電解液中のフッ酸濃度を測定した。
結果を表1に示す。
【0051】
(比較例2)
弱塩基性陰イオン交換樹脂として、スチレン-ジビニルベンゼンを基体とし、弱塩基性陰イオン交換基としてポリアミン基を有するもの(マクロポーラス型)を用いた以外は、実施例1と同様にして、弱塩基性陰イオン交換樹脂を充填したカラムに対し電解液Sを通液し、通液前後における、電解液中のフッ酸濃度を測定した。
結果を表1に示す。
【0052】
(比較例3)
弱塩基性陰イオン交換樹脂として、アクリル系樹脂を基体とし、弱塩基性陰イオン交換基としてポリアミン基を有するもの(マクロポーラス型)を用いた以外は、実施例1と同様にして、弱塩基性陰イオン交換樹脂を充填したカラムに対し電解液Sを通液し、通液前後における、電解液中のフッ酸濃度を測定した。
結果を表1に示す。
【0053】
【0054】
(参考例1)
エチレンカーボネート(EC)およびジメチルカーボネート(DMC)を体積比で1:1の割合で混合した混合溶媒にLiPF6を1mol/Lとなるように溶解した電解液に代えて、フッ酸を濃度100質量ppmとなるように溶解した水を通液した以外は、実施例1と同様にして、弱塩基性陰イオン交換樹脂を充填したカラムに対し上記水溶液を通液し、通液前後における、電解液中のフッ酸濃度を測定した。
結果を表2に示す。
【0055】
(参考例2)
エチレンカーボネート(EC)およびジメチルカーボネート(DMC)を体積比で1:1の割合で混合した混合溶媒にLiPF6を1mol/Lとなるように溶解した電解液に代えて、フッ酸を濃度100質量ppmとなるように溶解した水を通液した以外は、比較例1と同様にして、弱塩基性陰イオン交換樹脂を充填したカラムに対し上記水溶液を通液し、通液前後における、電解液中のフッ酸濃度を測定した。
結果を表2に示す。
【0056】
(参考例3)
エチレンカーボネート(EC)およびジメチルカーボネート(DMC)を体積比で1:1の割合で混合した混合溶媒にLiPF6を1mol/Lとなるように溶解した電解液に代えて、フッ酸を濃度100質量ppmとなるように溶解した水を通液した以外は、比較例2と同様にして、弱塩基性陰イオン交換樹脂を充填したカラムに対し上記水溶液を通液し、通液前後における、電解液中のフッ酸濃度を測定した。
結果を表2に示す。
【0057】
(参考例4)
エチレンカーボネート(EC)およびジメチルカーボネート(DMC)を体積比で1:1の割合で混合した混合溶媒にLiPF6を1mol/Lとなるように溶解した電解液に代えて、フッ酸を濃度100質量ppmとなるように溶解した水を通液した以外は、比較例3と同様にして、弱塩基性陰イオン交換樹脂を充填したカラムに対し上記水溶液を通液し、通液前後における、電解液中のフッ酸濃度を測定した。
結果を表2に示す。
【0058】
【0059】
表1より、実施例1においては、炭酸エステル中にリチウム系電解質を分散したリチウム系電解質含有液中の酸性不純物の除去処理を、スチレン系樹脂を基体とする特定の弱塩基性陰イオン交換樹脂を用いて行っているために、酸性不純物を効果的に除去し得ることが分かる。
【0060】
一方、表1より、比較例1~比較例3においては、炭酸エステル中にリチウム系電解質を分散したリチウム系電解質含有液中の酸性不純物の除去処理を、上記特定の弱塩基性陰イオン交換樹脂を用いて行っていないために、酸性不純物の効果的な除去が困難であることが分かる。
【0061】
また、表2に示す参考例1~参考例4の結果より、水中の酸性不純物を除去する場合には、イオン交換樹脂の種類に拘わらず酸性不純物を効果的に除去し得ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、フッ酸等の酸性不純物を効果的に吸着してその含有量を低減した非水電解液を容易に調製し得る非水電解液の製造装置を提供するとともに、非水電解液の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 非水電解液の製造装置
2 酸吸収装置