IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日産自動車株式会社の特許一覧 ▶ ルノー エス.ア.エス.の特許一覧 ▶ 国立大学法人九州大学の特許一覧

特許7573391熱エネルギー発生方法および熱エネルギー発生システム
<>
  • 特許-熱エネルギー発生方法および熱エネルギー発生システム 図1
  • 特許-熱エネルギー発生方法および熱エネルギー発生システム 図2
  • 特許-熱エネルギー発生方法および熱エネルギー発生システム 図3
  • 特許-熱エネルギー発生方法および熱エネルギー発生システム 図4
  • 特許-熱エネルギー発生方法および熱エネルギー発生システム 図5
  • 特許-熱エネルギー発生方法および熱エネルギー発生システム 図6
  • 特許-熱エネルギー発生方法および熱エネルギー発生システム 図7
  • 特許-熱エネルギー発生方法および熱エネルギー発生システム 図8
  • 特許-熱エネルギー発生方法および熱エネルギー発生システム 図9
  • 特許-熱エネルギー発生方法および熱エネルギー発生システム 図10
  • 特許-熱エネルギー発生方法および熱エネルギー発生システム 図11
  • 特許-熱エネルギー発生方法および熱エネルギー発生システム 図12
  • 特許-熱エネルギー発生方法および熱エネルギー発生システム 図13
  • 特許-熱エネルギー発生方法および熱エネルギー発生システム 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】熱エネルギー発生方法および熱エネルギー発生システム
(51)【国際特許分類】
   F24V 30/00 20180101AFI20241018BHJP
【FI】
F24V30/00 302
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020143595
(22)【出願日】2020-08-27
(65)【公開番号】P2022038887
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-05-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2019年8月28日、公益社団法人日本金属学会のウェブサイト(https://confit.atlas.jp/guide/event-img/jim2019autumn/3I08-17/public/pdf?type=in)にて電気通信回線(インターネット)を通じて発表 公益社団法人日本金属学会2019年秋期(第165回)講演大会、公益社団法人日本金属学会、令和1(2019)年9月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】市川 靖
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀和
(72)【発明者】
【氏名】内村 允宣
(72)【発明者】
【氏名】中村 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 悦男
(72)【発明者】
【氏名】林 理香
【審査官】岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-075656(JP,A)
【文献】国際公開第2018/230447(WO,A1)
【文献】特開2013-199678(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24V 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素吸蔵脱蔵特性が異なる2つ以上の材料を有する水素吸蔵合金を基準温度および基準圧力に対し加温および減圧して、前記水素吸蔵合金の表面の不純物を離脱させ、
前記水素吸蔵合金と水素ガスとを含む系の気相部を、前記基準温度よりも高い第1温度かつ前記基準圧力よりも高い第1圧力に加温および加圧して、前記水素吸蔵合金の2つ以上の合金相に水素を吸蔵させ、
前記系の前記気相部を、前記基準温度よりも高く前記第1温度よりも低い第2温度かつ前記第1圧力よりも低い第2圧力に維持して、前記水素吸蔵合金の1つ以上の合金相の水素放出と、他の1つ以上の合金相の水素吸蔵とを反復的に行わせ、
前記水素吸蔵合金の単位質量当たりの発熱量の振動が振幅のしきい値未満になったときに、前記系の前記気相部の圧力を前記基準圧力に戻し、かつ温度を前記基準温度に下げて、過剰熱の発生を停止させる、熱エネルギー発生方法。
【請求項2】
水素吸蔵脱蔵特性が異なる2つ以上の材料を有する水素吸蔵合金を基準温度および基準圧力に対し加温および減圧して、前記水素吸蔵合金の表面の不純物を離脱させ、
前記水素吸蔵合金と水素ガスとを含む系の気相部を、前記基準温度よりも高い第1温度かつ前記基準圧力よりも高い第1圧力に加温および加圧して、前記水素吸蔵合金の2つ以上の合金相に水素を吸蔵させ、
前記水素吸蔵合金の単位質量当たりの発熱量が振幅のしきい値以上の振動を開始するまで、前記系の前記気相部を、前記基準温度よりも高く前記第1温度よりも低い第2温度かつ前記第1圧力よりも低い第2圧力に維持して、前記水素吸蔵合金の1つ以上の合金相の水素放出と、他の1つ以上の合金相の水素吸蔵とを反復的に行わせる、熱エネルギー発生方法。
【請求項3】
前記水素吸蔵合金の単位質量当たりの発熱量の振動が振幅のしきい値未満になったときに、前記系の前記気相部の圧力を前記基準圧力に戻し、かつ温度を前記基準温度に下げて、過剰熱の発生を停止させる、請求項2記載の熱エネルギー発生方法。
【請求項4】
前記水素放出と前記水素吸蔵とを反復的に行っている場合に、前記系の前記気相部の温度または圧力の上昇を感知したときに、前記系の前記気相部の温度または圧力の少なくとも一方を低下させる、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱エネルギー発生方法。
【請求項5】
水素吸蔵機能を有する発熱材料と、
前記発熱材料を加熱するヒーターと、
前記発熱材料に対して水素ガスを供給する水素ガス供給装置と、
前記発熱材料と前記水素ガスとを含む系の気相部の温度を検知する温度センサーと、
前記系の前記気相部の圧力を検知する圧力センサーと、
前記系の前記気相部の温度および圧力を制御する制御装置と、を有し、
前記制御装置は、
前記系の前記気相部を基準温度よりも高い第1温度かつ基準圧力よりも高い第1圧力の雰囲気下に所定時間以上維持した後、前記発熱材料の単位質量当たりの発熱量が振幅のしきい値以上の振動を開始するまで、前記系の前記気相部を前記基準温度よりも高く前記第1温度よりも低い第2温度かつ前記第1圧力よりも低い第2圧力の雰囲気下に維持する制御を実行可能である、熱エネルギー発生システム。
【請求項6】
前記制御装置は、前記発熱材料の単位質量当たりの発熱量が振幅のしきい値以上の振動を開始した場合に、前記系の前記気相部の温度または圧力の上昇を感知したときに、前記系の前記気相部の温度または圧力の少なくとも一方を低下させる制御を実行可能である、請求項5記載の熱エネルギー発生システム。
【請求項7】
前記制御装置は、前記発熱材料の単位質量当たりの発熱量の振動が振幅のしきい値未満になったときに、前記系の前記気相部の圧力を前記基準圧力に戻し、かつ温度を前記基準温度に下げて、過剰熱の発生を停止させる制御を実行可能である、請求項5または6記載の熱エネルギー発生システム。
【請求項8】
前記発熱材料は、水素吸蔵脱蔵特性が異なる2つ以上の材料を有する水素吸蔵合金から形成され、水素ガスの存在下で加熱させて水素を吸蔵させて水素化物合金となり、この水素化物合金の相転移の繰り返しによって前記水素の吸蔵および脱蔵が繰り返される結果、過剰熱を発生する、請求項5~7のいずれか1項に記載の熱エネルギー発生システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱エネルギー発生方法および熱エネルギー発生システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、過剰熱を発することができる熱エネルギー発生装置が提案されている(特許文献1を参照)。特許文献1に開示された発熱装置は、水素系ガス導入路から容器内部に水素系ガスを導入し、発熱材料(発熱体)に水素を吸蔵させた後、ヒーターにより発熱体を加熱すると共に、真空引きするように構成されている。この発熱装置は、発熱体の異種物質界面を水素が量子拡散により透過することによって、発熱体を加熱するときのヒーターによる加熱温度以上の非常に大量の熱(過剰熱)を発生させている。このような発熱材料が有する水素吸蔵能を利用した過剰熱は、環境問題の観点から、今後様々な方面において有効な新規の熱源として期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/230447号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
過剰熱を利用しうることについては特許文献1に開示されているものの、発熱材料が過剰熱を発生しうるメカニズムは完全には明らかとはなっていない。このため、過剰熱を確実に発生させることが難しいのが実情である。
【0005】
そこで、本発明は、過剰熱の発生を確実なものとしうる熱エネルギー発生方法および熱エネルギー発生システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明が属する水素吸蔵材料の分野においては、水素の吸蔵量、吸脱蔵のしやすさ、および発熱量の大きさに注目して研究が進められており、過渡的な発熱現象については十分な検討が進められていなかった。本願の発明者らは、水素吸蔵材料からなる発熱材料の過渡的な発熱現象について鋭意研究したところ、過剰熱がパルス的に発生すること、および発熱振動現象が材料の相変化により発生することを見出した。そして、発熱材料に対する操作方法を特定することによって、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明の一形態によれば、水素吸蔵脱蔵特性が異なる2つ以上の材料を有する水素吸蔵合金を用いる熱エネルギー発生方法が提供される。熱エネルギー発生方法において、まず、水素吸蔵脱蔵特性が異なる2つ以上の材料を有する水素吸蔵合金を基準温度および基準圧力に対し加温および減圧して、前記水素吸蔵合金の表面の不純物を離脱させる。次に、前記水素吸蔵合金と水素ガスとを含む系の気相部を、前記基準温度よりも高い第1温度かつ前記基準圧力よりも高い第1圧力に加温および加圧して、前記水素吸蔵合金の2つ以上の合金相に水素を吸蔵させる。そして、前記系の前記気相部を、前記基準温度よりも高く前記第1温度よりも低い第2温度かつ前記第1圧力よりも低い第2圧力に維持して、前記水素吸蔵合金の1つ以上の合金相の水素放出と、他の1つ以上の合金相の水素吸蔵とを反復的に行わせる。前記水素吸蔵合金の単位質量当たりの発熱量の振動が振幅のしきい値未満になったときに、前記系の前記気相部の圧力を前記基準圧力に戻し、かつ温度を前記基準温度に下げて、過剰熱の発生を停止させる。
また、熱エネルギー発生方法において、まず、水素吸蔵脱蔵特性が異なる2つ以上の材料を有する水素吸蔵合金を基準温度および基準圧力に対し加温および減圧して、前記水素吸蔵合金の表面の不純物を離脱させる。次に、前記水素吸蔵合金と水素ガスとを含む系の気相部を、前記基準温度よりも高い第1温度かつ前記基準圧力よりも高い第1圧力に加温および加圧して、前記水素吸蔵合金の2つ以上の合金相に水素を吸蔵させる。そして、前記水素吸蔵合金の単位質量当たりの発熱量が振幅のしきい値以上の振動を開始するまで、前記系の前記気相部を、前記基準温度よりも高く前記第1温度よりも低い第2温度かつ前記第1圧力よりも低い第2圧力に維持して、前記水素吸蔵合金の1つ以上の合金相の水素放出と、他の1つ以上の合金相の水素吸蔵とを反復的に行わせる。
【0008】
また、本発明の他の形態によれば、水素吸蔵機能を有する発熱材料を用いる熱エネルギー発生システムが提供される。熱エネルギー発生システムは、水素吸蔵機能を有する発熱材料と、前記発熱材料を加熱するヒーターと、前記発熱材料に対して水素ガスを供給する水素ガス供給装置と、前記発熱材料と前記水素ガスとを含む系の気相部の温度を検知する温度センサーと、前記系の前記気相部の圧力を検知する圧力センサーと、前記系の前記気相部の温度および圧力を制御する制御装置と、を有する。前記制御装置は、前記系の前記気相部を基準温度よりも高い第1温度かつ基準圧力よりも高い第1圧力の雰囲気下に所定時間以上維持した後、前記発熱材料の単位質量当たりの発熱量が振幅のしきい値以上の振動を開始するまで、前記系の前記気相部を前記基準温度よりも高く前記第1温度よりも低い第2温度かつ前記第1圧力よりも低い第2圧力の雰囲気下に維持する制御を実行可能である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る熱エネルギー発生方法および熱エネルギー発生システムによれば、パルス的に発生する過剰熱を確実に発生させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る熱エネルギー発生システムの概略を示すブロック図である。
図2】熱エネルギー発生システムにおける発熱装置の一構成例を示す図である。
図3】パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系の水素吸蔵合金から形成された発熱材料について、水素ガス(H)フローの条件下における示差走査熱量(DSC)測定(保持温度450℃、サンプリング間隔10秒)を行った結果を示すグラフである。
図4】パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系の水素吸蔵合金から形成された発熱材料について、発熱の水素圧力依存性(熱流束-LogPH2)を示すグラフである。
図5】ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系合金の状態図である。
図6】Ni10Zrの水素吸蔵および脱蔵の特性を表す圧力-組成等温(PCT)曲線を示すグラフである。
図7】Ni10Zrの水素吸蔵による結晶構造変化を、その場X線回折(in-situ XRD)を用いて調べた結果を示すグラフである。
図8図3に示される水素ガス(H)フローの条件下における示差走査熱量(DSC)測定(保持温度450℃)を長時間行った結果を示すグラフである。
図9】分析結果から想定される、パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系の水素吸蔵合金の断面構造を模式的に示す図である。
図10】パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系の水素吸蔵合金から形成された発熱材料について、水素ガス(H)フローの条件下における示差走査熱量(DSC)測定(保持温度450℃、サンプリング間隔1秒)を行った結果を示すグラフである。
図11】パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系の水素吸蔵合金から形成された発熱材料について、水素ガス(H)フローの条件下における示差走査熱量(DSC)測定(保持温度200℃、サンプリング間隔1秒)を行った結果を示すグラフである。
図12】パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系の水素吸蔵合金の水素吸蔵および脱蔵の特性を表す圧力-組成等温(PCT)曲線を示すグラフである。
図13】熱エネルギー発生システムの動作の一実施形態を説明するフローチャートである。
図14】熱エネルギー発生システムの動作の他の実施形態を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ここで示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するために例示するものであって、本発明を限定するものではない。よって、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者などにより考え得る実施可能な他の形態、実施例および運用技術などは全て本発明の範囲、要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0012】
また、本明細書に添付する図面は、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺、縦横の寸法比、形状などについて、実物から変更し模式的に表現される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【0013】
なお、本明細書において、「第1」、「第2」などの序数詞を付すこともある。しかし、これら序数詞に関する特段の説明がない限りは、説明の便宜上、構成要素を識別するために付したものであって、数または順序を特定するものではない。
【0014】
本発明の一形態は、水素吸蔵脱蔵特性が異なる2つ以上の材料を有する水素吸蔵合金を用いる熱エネルギー発生方法である。熱エネルギー発生方法において、まず、基準温度および基準圧力に対し加温および減圧して、水素吸蔵合金の表面の不純物を離脱させる(第1ステップ)。
【0015】
次に、水素吸蔵合金と水素ガスとを含む系の気相部を、基準温度よりも高い第1温度かつ基準圧力よりも高い第1圧力に加温および加圧して、水素吸蔵合金の2つ以上の合金相に水素を吸蔵させる(第2ステップ)。
【0016】
そして、系の気相部を、基準温度よりも高く第1温度よりも低い第2温度かつ第1圧力よりも低い第2圧力に維持して、水素吸蔵合金の1つ以上の合金相の水素放出と、他の1つ以上の合金相の水素吸蔵とを反復的に行わせる(第3ステップ)。本形態に係る水素吸蔵合金は、水素ガス(H)の存在下で加熱されることによって、非常に大きな発熱量を外部に放出する。このような水素吸蔵合金は、発熱材料として、熱エネルギー発生システムに好適に適用される。
【0017】
なお、発熱材料が非常に大量の熱(過剰熱)を発生しうるメカニズムは完全には明らかとはなっていない。ただし、本発明者らは、上記メカニズムに関して、水素化物合金の相転移の繰り返しによって水素の吸蔵および脱蔵が繰り返される結果、上述したような大量の発熱が生じるものと推測している。
【0018】
基準温度および基準圧力は、いわゆる常温および常圧であり、具体的には、基準温度は25℃、基準圧力は0.1MPa(約1atm)である。
【0019】
第1ステップにおいて、水素吸蔵合金に対して前処理(真空脱気および加熱離脱)を実施し、合金表面からの不純物を取り除く。前処理は、基準温度および基準圧力に対し加温および減圧して行う。温度は、特に限定されないが、例えば、約200℃である。圧力は、特に限定されないが、例えば、真空(1.0×10-2Paオーダー)である。加温および減圧を保持する時間についても特に限定されないが、例えば、50~100分である。
【0020】
第2ステップにおいて、水素吸蔵合金の2つ以上の合金相に水素を吸蔵させる。水素吸蔵は、水素吸蔵合金と水素ガスとを含む系の気相部を、基準温度よりも高い第1温度かつ基準圧力よりも高い第1圧力に加温および加圧して行う。第1温度および第1圧力は使用する水素吸蔵合金によって異なるため特に限定されないが、第1温度は、例えば、400~800℃であり、第1圧力は、例えば、0.1MPa(abs)(約1atm)よりも高く、1MPa(abs)(約10atm)以下の範囲の圧力である。第1温度および第1圧力を保持する時間は使用する水素吸蔵合金の水素吸蔵速度特性によって異なるため特に限定されないが、例えば、1~60時間である。
【0021】
第3ステップにおいて、水素吸蔵合金の1つ以上の合金相の水素放出と、他の1つ以上の合金相の水素吸蔵とを反復的に行わせ、振動発熱現象を確実に生じさせる。振動発熱現象は、水素吸蔵合金と水素ガスとを含む系の気相部を、基準温度よりも高く第1温度よりも低い第2温度かつ第1圧力よりも低い第2圧力に維持して行う。第2温度および第2圧力は使用する水素吸蔵合金によって異なるため特に限定されないが、第2温度は、例えば、200~800℃未満(ただし、第1温度よりも低いこと)であり、第2圧力は、例えば、0.01MPa(abs)(約0.1atm)~0.3MPa(abs)(約3atm)(ただし、第1圧力よりも低いこと)である。なお、第2温度および第2圧力を保持しても、振動発熱は、経過時間とともに振動幅が徐々に小さくなるものの、100時間程度継続する。
【0022】
[発熱材料]
発熱材料は、水素吸蔵脱蔵特性が異なる2つ以上の材料を有する水素吸蔵合金から形成される。発熱材料は、水素ガスの存在下で加熱させて水素を吸蔵させて水素化物合金となり、この水素化物合金の相転移の繰り返しによって水素の吸蔵および脱蔵が繰り返される結果、過剰熱を発生する。本形態の発熱材料は、水素ガスの存在下で過剰熱を発生しうる限りにおいて特に限定されないが、例えば、パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系、パラジウム(Pd)-二酸化ケイ素(SiO)系、銅(Cu)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系、銅(Cu)-ニッケル(Ni)-二酸化ケイ素(SiO)系、ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系、アルミニウム(Al)-ニッケル(Ni)系の材料等を例示できる。
【0023】
例えば、パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系の水素吸蔵合金は、パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系合金をメルトスピニング法(溶融急冷法)によって非晶質(アモルファス)リボンとした後、大気中で酸化処理を行い、さらに粉砕処理を行って作製される。メルトスピニング法は、高温で溶融した合金を高速回転する銅製ロール表面上に吹き付けることによって、結晶化時間よりも非常に短い時間の間に急冷し、非晶質リボンを得る方法である。非晶質リボンを酸化処理することによって、構成元素のジルコニウム(Zr)が酸化したZrOが生成するとともパラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)がナノ金属粒子として析出した微細構造が形成される。
【0024】
パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系の水素吸蔵合金の一例として、メルトスピニング法を用いて、パラジウム(Pd):ニッケル(Ni):ジルコニウム(Zr)=4:31:65の原子比で作成した合金を450℃、60時間空気中で焼成することにより、発熱材料を調製した。発熱材料は、例えば、厚さが約35μm、長さが30~300μmの大きさの板形状を有する。
【0025】
調製した発熱材料について、下記の測定条件により、水素ガス(H)0.1MPaフローの条件下における示差走査熱量(DSC)測定を実施した。
・DSC測定条件
試料量:40mg
昇温範囲:室温~800℃
昇温速度:5℃/min
ガス流量:H 120mL/min
保持温度:250~800℃
保持時間:2時間
・DSC測定の手順
測定前日以前に、下記と同じ手順で空試料でのベースライン測定を行った(毎回ではない);
測定前処理として,10-3Pa以下になるまで真空脱気を行った(所要時間は2~3分);
気流中で室温から所定温度まで昇温し、その温度で保持する測定を実施した。
【0026】
このDSC測定の結果を図3に示す。ここで、図3は、DSC測定の際の保持温度を450℃に設定して行った測定の結果を示すグラフである。DSC測定のサンプリング間隔は10秒にした。
【0027】
図3に示すように、発熱材料の温度を450℃まで上げた場合には、Hフローの場合に非常に大きい発熱現象(過剰熱の発生)が継続的に確認された。さらに、振動的な発熱が発生しており、過剰熱がパルス的に発生することが確認された。すなわち、パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系の発熱材料は、水素ガス(H)と接触することにより非常に大きい発熱現象(過剰熱の発生)を継続的に示し、かつ、周期的または非周期的な発熱を振動的に繰り返す材料であることが確認された。
【0028】
図4は、パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系の水素吸蔵合金から形成された発熱材料について、発熱の水素圧力依存性(熱流束-LogPH2)を示すグラフである。
【0029】
図4に示すように、パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系の発熱材料は、水素分圧と発熱量とが反比例しており、これは、水素脱蔵に伴う相変化の発熱量が増加していると解釈される。
【0030】
発熱材料に振動的な発熱を生じさせるためには、まず、前処理として、真空脱気および加熱離脱をして合金表面からの不純物を取り除いておくことが必要である。ついで、加熱しながら、水素ガス(H)を合金へ供給して吸蔵させ、水素化物合金状態にする。水素化物合金の相転移の繰り返し、すなわち、水素吸蔵および水素脱蔵の繰り返しに起因する反応によって過剰熱が発生する。特定のガス種(水素ガス(H))での圧力下においてのみ、過剰熱が発生する。水素の吸脱蔵時に圧力および温度の変化を伴う。
【0031】
次に、水素吸脱蔵による合金材料の相変化について説明する。
【0032】
図5は、ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系合金の状態図、図6は、Ni10Zrの水素吸蔵および脱蔵の特性を示すグラフ、図7は、Ni10Zrの水素吸蔵による結晶構造変化を、その場X線回折(in-situ XRD)を用いて調べた結果を示すグラフである。
【0033】
図5の状態図に示すように、ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系合金は多数の相を有しているため、温度および組成によっては相変化する。
【0034】
Ni10Zrの水素吸蔵および脱蔵の特性は、図6に示す圧力-組成等温(PCT)曲線によって表される。図6の縦軸は平衡水素圧(MPa)を示し、横軸は水素濃度を示している。水素濃度は、金属原子1個当たり吸蔵される水素原子数(H/M)によって表される。図6に示すように、温度が150℃または180℃においては、水素吸蔵時において圧力がほぼ一定の領域であるプラトーが1段存在し(図において右向き矢印)、水素脱蔵時においてプラトーが2段存在する(図において左向き矢印)。
【0035】
図7に符号(a)によって示される範囲では、水素吸蔵によってピーク位置が低角側にシフトしており、水素固溶により結晶構造が膨張していることが確認された。符号(b)は構造相の変化を示し、符号(c)は合金相へ戻ることを示し、符号(d)は、可逆的な相変態を示している。
【0036】
発熱材料の振動発熱現象が生じるメカニズムは完全には明らかとはなっていない。ただし、本発明者らは、上記メカニズムに関して、発熱材料の振動発熱現象は固溶相の範囲で生じるものと推測している。
【0037】
図8は、図3に示される水素ガス(H)フローの条件下における示差走査熱量(DSC)測定(保持温度450℃)を長時間行った結果を示すグラフである。試料量は6.8mgである。
【0038】
本発明者らは、発熱材料の振動発熱現象が生じるメカニズムに関して、おおむね以下のように推測している。
【0039】
(1)2相の水素吸蔵合金に対し、高圧(例えば、1MPa)、高温(例えば、800℃)下で、水素を吸蔵させる。水素を吸蔵した状態がエネルギー的に安定した状態である。
【0040】
(2)上記(1)からエネルギー状態をずらし(圧力を常圧(0.1MPa)程度に下げる、温度を200℃などの中温度に下げる)、エネルギー的に不安定な状態Aをつくる。
【0041】
(3)相1と相2とでは、水素吸脱蔵のスピードがもともと異なっている。つまり、相1および相2は、それぞれエネルギー的にバランスする点(平衡点)が異なっている。このため、片方の相(相1)が水素を放出しても、もう片方(相2)は吸蔵し、片方(相1)が水素を放出できなくなるまで続き、平衡状態からずれた状態Bとなり反応がとまる。
【0042】
(4)ここから逆に、水素の放出(相2)と、水素の吸蔵(相1)とが始まり、平衡に向かう。しかし、平衡を通り過ぎ、状態Aでとまる。つまり、エネルギー状態は、状態A→平衡→状態B→平衡→状態A→・・・(繰り返し)・・・→最終的に平衡(これが80h~100h程度継続する)。
【0043】
(5)水素を放出するときに発熱するため、発熱がパルス的に発生する。これによって、発熱材料の振動発熱現象が生じる。
【0044】
(6)水素の吸蔵および脱蔵を繰り返すうちに、水素吸蔵合金であった材料が徐々に吸蔵機能がない単なる合金になっていく。図8に示したように、振動発熱は、振動幅が徐々に小さくなるものの、100時間程度継続する。
【0045】
図9は、分析結果から想定される、パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系の水素吸蔵合金の断面構造を模式的に示す図である。
【0046】
試料分析は、X線回折(XRD)による結晶相の同定、走査透過型電子顕微鏡(STEM)、エネルギー分散型X線分光法(EDS)、透過型電子顕微鏡(TEM)等によるナノ構造解析、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)による組成分析等を行った。
【0047】
パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系の水素吸蔵合金について、結晶相としてNiZrとZrOから構成されており、主としてNiZrの周りを、主としてZrOが被覆した構造である。内部のNiZr中には、ナノサイズのPd(またはZrPd)が存在していると推定された。ZrOは、厚さが約3~7μmと推定された。ZrO中にもナノサイズのPd(またはZrPd)およびNi(またはNiZr)が存在していると推定された。NiZrとZrOとの界面には、ナノサイズのPd(またはZrPd)およびNi(またはNiZr)がバンド状に存在していると推定された。
【0048】
図10は、図3と同様に、パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系の水素吸蔵合金から形成された発熱材料について、水素ガス(H)フローの条件下における示差走査熱量(DSC)測定(保持温度450℃)を行った結果を示すグラフである。ただし、DSC測定のサンプリング間隔は1秒にした点で、図3の測定結果と異なる。図11は、示差走査熱量(DSC)測定(保持温度200℃、サンプリング間隔1秒)を行った結果を示すグラフである。図12は、パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系の水素吸蔵合金の水素吸蔵および脱蔵の特性を表す圧力-組成等温(PCT)曲線を示すグラフである。図12の縦軸は平衡水素圧(MPa)を示し、横軸は水素吸蔵量(wt%)を示している。
【0049】
図10図11、および図12からわかるように、パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系の水素吸蔵合金は、保持温度200~450℃の範囲では、水素を脱蔵しやすい高温になるほど振動幅が大きいことが確認された。
【0050】
[熱エネルギー発生システム]
上述した発熱材料は、熱を利用する種々の用途に適用可能な熱エネルギー発生システムとして用いることができる。すなわち、本発明の他の形態によれば、水素吸蔵機能を有する発熱材料を用いる熱エネルギー発生システムもまた提供される。
【0051】
図1は、本発明の一実施形態に係る熱エネルギー発生システム10の概略を示すブロック図である。
【0052】
図1に示すように、熱エネルギー発生システム10は、水素吸蔵機能を有する発熱材料20と、発熱材料20を加熱するヒーター30と、発熱材料20に対して水素ガスを供給する水素ガス供給装置40と、発熱材料20と水素ガスとを含む系の気相部の温度を検知する温度センサー50と、系の気相部の圧力を検知する圧力センサー60と、系の気相部の温度および圧力を制御する制御装置70と、を有する。制御装置70は、系の気相部を基準温度よりも高い第1温度かつ基準圧力よりも高い第1圧力の雰囲気下に所定時間以上維持した後、発熱材料20の単位質量当たりの発熱量が振幅のしきい値以上の振動を開始するまで、系の気相部を基準温度よりも高く第1温度よりも低い第2温度かつ第1圧力よりも低い第2圧力の雰囲気下に維持する制御を実行可能である。
【0053】
熱エネルギー発生システム10は、発熱材料20に対して不活性ガスを供給する不活性ガス供給装置80をさらに有する。
【0054】
基準温度、基準圧力、第1温度、第1圧力、第2温度、および第2圧力のそれぞれは、熱エネルギー発生方法において説明したものと同じである。
【0055】
熱エネルギー発生システム10の停止時においては、発熱装置21に配置された発熱材料20に対して、不活性ガス供給装置80が窒素ガスなどの不活性ガスを供給する。
【0056】
熱エネルギー発生システム10の使用時(熱の供給時)においては、発熱装置21に配置された発熱材料20に対して、水素ガス供給装置40が水素ガスを供給する。ヒーター30は、発熱装置21に配置された発熱材料20を加熱する。ヒーター30は、セラミックヒーターなどの公知の加熱部材を使用でき、設定された温度に加熱制御される。温度センサー50は、熱電対や測温抵抗体などの公知の温度検知部材を使用でき、発熱装置21内の上記気相部の温度を検知する。圧力センサー60は、ひずみゲージ式センサーなどの公知の圧力検知部材を使用でき、発熱装置21内の上記気相部の圧力を検知する。
【0057】
制御装置70は、制御部、モニター、および操作部などを有し、ヒーター30、水素ガス供給装置40、温度センサー50、圧力センサー60、および不活性ガス供給装置80などに接続されている。制御部はCPUやメモリーを含み、プログラムにしたがって、ヒーター30や水素ガス供給装置40等の制御や、温度センサー50および圧力センサー60からの温度・圧力に関する信号の各種演算処理を行う。メモリーは、予め各種プログラムや各種データを格納しておくROM、作業領域として一時的にプログラムやデータを記憶するRAM等を備えている。操作部は、タッチパネル等を備えており、各種指示の入力に使用される。
【0058】
発熱材料20は、水素吸蔵脱蔵特性が異なる2つ以上の材料を有する水素吸蔵合金から形成され、水素ガスの存在下で加熱させて水素を吸蔵させて水素化物合金となり、この水素化物合金の相転移の繰り返しによって水素の吸蔵および脱蔵が繰り返される結果、過剰熱を発生する、
熱エネルギー発生システム10の使用時(熱の供給時)において、発熱装置21に配置された発熱材料20は、水素ガス(H)の存在下で加熱されることにより、非常に大きな発熱量を外部に放出する。このようにして発熱材料20から放出された大量の熱は、発熱システムの外部に位置する熱消費部90に供給される。なお、発熱材料20が非常に大量の熱(過剰熱)を発生しうるメカニズムは完全には明らかとはなっていない。発熱材料20による大量の発熱は水素ガス(H)の存在下でのみ生じることから、本発明者らは、上記発熱のメカニズムとして、水素化物合金の相転移の繰り返しによって水素の吸蔵および脱蔵が繰り返される結果、上述したような大量の発熱が生じるものと推測している。
【0059】
ここで、発熱材料20が配置された発熱装置21は、任意の構成を有することができ、例えば発熱材料20を保持する容器でありうる。また、発熱装置21は、発熱材料20と水素ガス(H)との接触面積を大きくするために、セラミックハニカムまたはメタルハニカムのようなハニカム構造を有し、ハニカムセルの流路表面に発熱材料20を保持することもできる。
【0060】
発熱装置21で発生する熱を熱消費部90に供給するためには、発熱装置21と熱消費部90とを熱的に結合することができる。この場合、伝熱によって発熱装置21から熱消費部90に熱を供給すること、暖められたガスを介して発熱装置21から熱消費部90に熱を供給すること、熱媒体を用いて発熱装置21から熱消費部90に熱を供給すること等ができる。流体である熱媒体を用いる場合、発熱装置21は、熱交換器として一般に採用される形状を有することができる。すなわち発熱装置21は、発熱材料20が配置され、水素ガス(H)が流通するようにされた流路と、熱媒体が流通するようにされた流路とを有することができる。なお、熱媒体としては、冷却水などの加熱対象物そのものを用いることもできる。
【0061】
水素ガス供給装置40は、水素ガスを供給する任意の装置、例えば水素ガスを保持しているタンク、水素ガス(H)を外部から得て発熱材料20に供給するためのポンプおよび配管等を備えることができる。この水素ガス(H)は、発熱装置21に配置された発熱材料20が加熱された際に当該発熱材料20に吸蔵されて発熱反応を生じさせるためのものである。水素ガス(H)は水素ガスの状態でタンクに保持されていてもよいし、例えばメタノールやバイオマスの改質によって随時生成するガスであってもよい。なお、水素ガス供給装置40は、重水素ガス(D)を供給するものであってもよい。水素ガス供給装置40はまた、発熱装置21を真空引きするために、真空ポンプを備えている。
【0062】
不活性ガス供給装置80は、不活性ガスを供給する任意の装置、例えば窒素ガスを保持しているタンク、窒素ガス(N)を外部から得て発熱材料20に供給するためのポンプおよび配管等を備えることができる。この窒素ガス(N)は、熱エネルギー発生システム10の停止時に、発熱装置21に配置された発熱材料20の活性化を防ぎ、種々の配管や機器類の防湿等を図るためのものである。
【0063】
図2は、熱エネルギー発生システム10における発熱装置21の一構成例を示す図である。
【0064】
発熱装置21は、発熱材料20と、発熱材料20を保持する収納容器22と、収納容器22内に連通する入口側バルブ23と、収納容器22内に連通する出口側バルブ24と、を有する。収納容器22は、例えばステンレスから形成され、パイプ形状ないしボンベ形状を有する。収納容器22は、中央部にヒーター30を挿入配置する中空孔25が形成されている。ヒーター30は、その外周面を中空孔25の内周面に接触させた状態に配置される。発熱材料20は、水素吸蔵合金のパウダーを粗く固めたペレット形状を有する。発熱材料20は、メッシュ部材26によって保持され、収納容器22内に収納保持される。発熱材料20内には、水素ガス(H)が通通する通気孔27が形成される。入口側バルブ23および出口側バルブ24は、水素ガス供給装置40および不活性ガス供給装置80に接続されている。入口側バルブ23および出口側バルブ24のそれぞれは、制御装置70からの制御信号によって開閉制御される。
【0065】
次に、熱エネルギー発生方法を具現化した熱エネルギー発生システム10の動作を説明する。
【0066】
図13は、熱エネルギー発生システム10の動作の一実施形態を説明するフローチャートである。
【0067】
まず、出口側バルブ24を閉じ、入口側バルブ23を開き、発熱材料20に対して前処理(真空脱気および加熱離脱)を実施し、合金表面からの不純物を取り除く(ステップS10)。前処理は、基準温度(25℃)および基準圧力(0.1MPa(約1atm))に対し加温および減圧して行う。温度は、例えば、約200℃である。圧力は、例えば、真空(1.0×10-2Paオーダー)である。加温および減圧を保持する時間は、例えば、50~100分である。
【0068】
前処理が終了すると、出口側バルブ24を閉じ、入口側バルブ23を開き、水素ガス供給装置40から、水素ガス(H)(または重水素ガス(D))を発熱材料20に加圧供給する(ステップS11)。制御装置70は、発熱材料20と水素ガスとを含む系の気相部を基準温度よりも高い第1温度かつ基準圧力よりも高い第1圧力の雰囲気下に所定時間以上維持する(ステップS12)。このステップS12において、水素吸蔵合金の2つ以上の合金相に水素が吸蔵される。第1温度は、400~800℃の範囲であり、例えば、800℃である。第1圧力は、0.1MPa(abs)(約1atm)よりも高く、1MPa(abs)(約10atm)以下の範囲の圧力であり、例えば、1MPa(abs)(約10atm)である。第1温度および第1圧力を保持する時間は、1~60時間であり、例えば、1時間である。
【0069】
第1温度および第1圧力を保持する時間の経過後、入口側バルブ23を閉じ、出口側バルブ24を開き、発熱材料20と水素ガスとを含む系の気相部を基準温度よりも高く第1温度よりも低い第2温度かつ第1圧力よりも低い第2圧力の雰囲気下に維持する(ステップS13)。このステップS13において、発熱材料20の1つ以上の合金相の水素放出と、他の1つ以上の合金相の水素吸蔵とが反復的に行われる。これによって、発熱材料20は、振動発熱現象が生じ始まる(図3を参照)。第2温度は、例えば、200~800℃未満(ただし、第1温度よりも低いこと)の範囲であり、例えば、450℃である。第2圧力は、0.01MPa(abs)(約0.1atm)~0.3MPa(abs)(約3atm)(ただし、第1圧力よりも低いこと)の範囲であり、例えば、0.1MPa(abs)(約1atm)である。
【0070】
制御装置70は、発熱材料20が周期的あるいは非周期的な発熱を振動的に繰り返し始めたか否かを判断する(ステップS14)。この判断を行うのは、発熱材料20の振動発熱現象が安定して発生するまで待機し、発熱装置21で発生した過剰熱を熱消費部90に供給するためである。ステップS14の判断は、具体的には、発熱材料20の単位質量当たりの発熱量が振幅のしきい値以上の振動を開始したか否かを判断する。発熱材料20の充填量、ヒーター30に供給した電力量は既知である。また、発熱材料20の比熱も既知である。例えば、主成分のニッケル(Ni)およびジルコニウム(Zr)の比熱Cpはそれぞれ、440[J/(kg*K)]、301[J/(kg*K)]であるので、組成に応じて発熱材料20の比熱を算出できる。制御装置70は、あるサンプリング期間内Δt[sec]の温度上昇量ΔT[K]を計測値から得て、組成に応じた比熱Cpを用いて、発熱材料20の単位質量あたりの発熱量[W/kg]=Cp*ΔT/Δtにより算出する。振幅のしきい値は、例えば、10mW/gである。
【0071】
発熱材料20の単位質量当たりの発熱量が振幅のしきい値以上の振動を開始するまで(ステップS14:NO)、系の気相部は、第2温度かつ第2圧力の雰囲気下に維持される(ステップS13)。
【0072】
一方、制御装置70は、発熱材料20の単位質量当たりの発熱量が振幅のしきい値以上の振動を開始したと判断すると(ステップS14:YES)、発熱材料20の振動発熱現象が安定して発生しているため、発熱装置21は、周期的あるいは非周期的な振動的な発熱を継続する(ステップS15)。発熱装置21で発生した過剰熱は、熱消費部90に供給され、熱消費部90において利用される。
【0073】
発熱装置21で発生した過剰熱を熱消費部90において利用していると、振動発熱は、経過時間とともに振動幅が徐々に小さくなる。長期間(例えば、3か月等)経過すると、発熱材料20は、周期的あるいは非周期的な振動的な発熱が収束し、発熱しなくなる。
【0074】
制御装置70は、発熱材料20が周期的あるいは非周期的な発熱を収束させたか否かを判断する(ステップS16)。ステップS16の判断は、具体的には、発熱材料20の単位質量当たりの発熱量が振幅のしきい値未満になったか否かを判断する。振幅のしきい値は、例えば、10mW/gである。
【0075】
発熱材料20の単位質量当たりの発熱量が振幅のしきい値以上の振動を継続しているとき(ステップS16:NO)、発熱装置21は、周期的あるいは非周期的な振動的な発熱を続ける(ステップS15)。
【0076】
一方、制御装置70は、発熱材料20の単位質量当たりの発熱量が振幅のしきい値未満になったと判断すると(ステップS16:YES)、発熱材料20は、周期的あるいは非周期的な振動的な発熱が収束し、発熱しなくなっているため、発熱装置21の停止処理を行う(ステップS17)。制御装置70は、入口側バルブ23を開き、不活性ガス供給装置80から、窒素ガス(N)を発熱材料20に加圧供給する。これにより、処理を終了する。
【0077】
図14は、熱エネルギー発生システム10の動作の他の実施形態を説明するフローチャートである。
【0078】
他の実施形態の動作(ステップS20~S25)は、上述した一実施形態の動作(ステップS10~S15)と同じである。そのため、説明は一部省略する。
【0079】
発熱材料20の単位質量当たりの発熱量が振幅のしきい値以上の振動を開始した場合(ステップS24:YES)、発熱装置21は、周期的あるいは非周期的な振動的な発熱を継続する(ステップS25)。発熱装置21で発生した過剰熱は、熱消費部90に供給され、熱消費部90において利用される。
【0080】
発熱装置21で発生した過剰熱を熱消費部90において利用しているとき、制御装置70は、発熱材料20と水素ガスとを含む系の気相部の温度または圧力の上昇を感知したか否かを判断する(ステップS26)。他の実施形態では、気相部の圧力の上昇を感知する場合を例に挙げる。ステップS26の判断は、具体的には、気相部の圧力の上昇速度がしきい値以上で上昇したか否かを判断する。圧力の上昇速度のしきい値は、例えば、10Pa/秒である。なお、気相部の温度の上昇を感知する場合、温度の上昇速度のしきい値は、合金成分の比率により幅はあるものの、一例として、4℃/minである。
【0081】
気相部の圧力の上昇速度がしきい値未満のとき(ステップS26:NO)、制御装置70は、発熱材料20が周期的あるいは非周期的な発熱を収束させたか否かを判断し(ステップS27)、判断結果に応じて停止処理を行う(ステップS28)。ステップS27およびステップS28の処理は、上述した一実施形態の動作(ステップS16およびステップS17)と同じである。そのため、説明は省略する。
【0082】
一方、制御装置70は、気相部の圧力の上昇速度がしきい値以上になったと判断すると(ステップS26:YES)、真空ポンプ等を作動させて、気相部を減圧する(ステップS29)。気相部は可能な限り減圧することが好ましい。例えば、図4のグラフにおいて左端付近の圧力の0.01MPa(abs)(約0.1atm)(Log(PH2)値=-1.0)である。一定時間経過後、気相部の減圧を停止し、出口側バルブ24を閉じ、入口側バルブ23を開き、水素ガス供給装置40から、水素ガス(H)(または重水素ガス(D))を発熱材料20に加圧供給し、圧力を復元する(ステップS30)。復元する圧力は、ステップS23において設定した第2圧力である。図13のステップS13と同様に、第2圧力は、0.01MPa(abs)(約0.1atm)~0.3MPa(abs)(約3atm)(ただし、第1圧力よりも低いこと)の範囲であり、例えば、0.1MPa(abs)(約1atm)である。ステップS26、ステップS29およびステップS30の処理は、発熱材料20の振動発熱現象を助長し、周期的あるいは非周期的な振動的な過剰熱を長期にわたって継続させるための制御である。図4に示されるとおり、水素分圧と発熱量とが反比例しており、これは、水素脱蔵に伴う相変化の発熱量が増加していると解釈される。したがって、減圧を振動の発熱のタイミングに合わせることによって、発熱量を増やせることができる。このようなメカニズムによって発熱材料20の振動発熱現象を助長できる。
【0083】
発熱材料20の振動発熱現象を助長する制御が終了すると、処理は、ステップS27に進む。制御装置70は、発熱材料20が周期的あるいは非周期的な発熱を収束させたか否かを判断し(ステップS27)、判断結果に応じて停止処理を行う(ステップS28)。
【0084】
なお、ステップS26およびステップS29では、気相部の圧力の上昇を感知したときに、気相部の圧力を低下させる制御を行っているが、温度を低下させてもよいし、圧力および温度の両者を低下させてもよい。また、気相部の温度の上昇を感知したときに、気相部の温度を低下させたり、圧力を低下させたり、温度および圧力の両者を低下させてもよい。
【0085】
以上説明したように、水素吸蔵脱蔵特性が異なる2つ以上の材料を有する水素吸蔵合金を用いる熱エネルギー発生方法は、まず、基準温度および基準圧力に対し加温および減圧して、水素吸蔵合金の表面の不純物を離脱させる(第1ステップ)。次に、水素吸蔵合金と水素ガスとを含む系の気相部を、基準温度よりも高い第1温度かつ基準圧力よりも高い第1圧力に加温および加圧して、水素吸蔵合金の2つ以上の合金相に水素を吸蔵させる(第2ステップ)。そして、系の気相部を、基準温度よりも高く第1温度よりも低い第2温度かつ第1圧力よりも低い第2圧力に維持して、水素吸蔵合金の1つ以上の合金相の水素放出と、他の1つ以上の合金相の水素吸蔵とを反復的に行わせる(第3ステップ)。
【0086】
このように構成した熱エネルギー発生方法によれば、前処理を含めた制御が特定されるため、パルス的に発生する過剰熱を確実に発生させることができる。水素吸蔵合金を発熱材料20として用いることによって、非常に大きな発熱量を利用することが可能となる。
【0087】
熱エネルギー発生方法において、水素放出と水素吸蔵とを反復的に行っている場合に(第3ステップ)、系の気相部の温度または圧力の上昇を感知したときに、系の気相部の温度または圧力の少なくとも一方を低下させる。このように構成することによって、水素吸蔵合金の振動発熱現象を助長し、周期的あるいは非周期的な振動的な過剰熱を長期にわたって継続させることができる。従来、過剰熱がパルス的に発生することは知られていなかったため、温度や圧力を一定に保とうとする操作では過剰発熱を積極的に得られなかった。上記のように構成することによって、発生した過剰熱をさらに大きく引き出すことができる。
【0088】
熱エネルギー発生方法において、水素吸蔵合金の単位質量当たりの発熱量の振動が振幅のしきい値未満になったときに、系の気相部の圧力を基準圧力に戻し、かつ温度を基準温度に下げて、過剰熱の発生を停止させる。このように構成することによって、熱エネルギーの発生を停止する制御が特定されるため、パルス的に発生する過剰熱を無駄なく利用することが可能となる。
【0089】
熱エネルギー発生システム10は、水素吸蔵機能を有する発熱材料20と、発熱材料20を加熱するヒーター30と、発熱材料20に対して水素ガスを供給する水素ガス供給装置40と、発熱材料20と水素ガスとを含む系の気相部の温度を検知する温度センサー50と、系の気相部の圧力を検知する圧力センサー60と、系の気相部の温度および圧力を制御する制御装置70と、を有する。制御装置70は、系の気相部を基準温度よりも高い第1温度かつ基準圧力よりも高い第1圧力の雰囲気下に所定時間以上維持した後、発熱材料20の単位質量当たりの発熱量が振幅のしきい値以上の振動を開始するまで、系の気相部を基準温度よりも高く第1温度よりも低い第2温度かつ第1圧力よりも低い第2圧力の雰囲気下に維持する制御を実行可能である。
【0090】
このように構成した熱エネルギー発生システム10によれば、パルス的に発生する過剰熱を確実に発生させることができ、非常に大きな発熱量を利用することが可能となる。
【0091】
熱エネルギー発生システム10において、制御装置70は、発熱材料20の単位質量当たりの発熱量が振幅のしきい値以上の振動を開始した場合に、系の気相部の温度または圧力の上昇を感知したときに、系の気相部の温度または圧力の少なくとも一方を低下させる制御を実行可能である。このように構成することによって、発熱材料20の振動発熱現象を助長し、周期的あるいは非周期的な振動的な過剰熱を長期にわたって継続させることができ、非常に大きな発熱量を利用することが可能となる。
【0092】
熱エネルギー発生システム10において、制御装置70は、発熱材料20の単位質量当たりの発熱量の振動が振幅のしきい値未満になったときに、系の気相部の圧力を基準圧力に戻し、かつ温度を基準温度に下げて、過剰熱の発生を停止させる制御を実行可能である。このように構成することによって、熱エネルギーの発生を停止する制御が特定されるため、パルス的に発生する過剰熱を無駄なく利用することが可能となる。
【0093】
熱エネルギー発生システム10において、発熱材料20は、水素吸蔵脱蔵特性が異なる2つ以上の材料を有する水素吸蔵合金から形成され、水素ガスの存在下で加熱させて水素を吸蔵させて水素化物合金となり、この水素化物合金の相転移の繰り返しによって水素の吸蔵および脱蔵が繰り返される結果、過剰熱を発生する。このように、発熱材料20が水素吸蔵脱蔵特性が異なる2つ以上の材料を有する水素吸蔵合金から形成されることによって、十分な発熱量を安定的に得ることができる。
【符号の説明】
【0094】
10 熱エネルギー発生システム、
20 発熱材料、
21 発熱装置、
22 収納容器、
23 入口側バルブ、
24 出口側バルブ、
25 中空孔、
26 メッシュ部材、
27 通気孔、
30 ヒーター、
40 水素ガス供給装置、
50 温度センサー、
60 圧力センサー、
70 制御装置、
80 不活性ガス供給装置、
90 熱消費部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14