(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】画像形成装置
(51)【国際特許分類】
B65H 29/70 20060101AFI20241018BHJP
B65H 9/00 20060101ALI20241018BHJP
B65H 85/00 20060101ALI20241018BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
B65H29/70
B65H9/00 A
B65H85/00
B41J2/01 305
(21)【出願番号】P 2020145577
(22)【出願日】2020-08-31
【審査請求日】2023-07-03
(31)【優先権主張番号】P 2020013683
(32)【優先日】2020-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【氏名又は名称】大菅 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【氏名又は名称】天田 昌行
(72)【発明者】
【氏名】椎名 健介
(72)【発明者】
【氏名】内藤 拓
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-099601(JP,A)
【文献】特開2014-234258(JP,A)
【文献】特開2001-089004(JP,A)
【文献】特開2008-233172(JP,A)
【文献】実開平04-029558(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 29/54-29/70
B65H 9/00
B65H 85/00
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流側搬送手段によって斜行補正してから搬送した印刷媒体を、下流側搬送手段の搬送面に保持し、前記下流側搬送手段により搬送される前記印刷媒体に印字手段からインクを吐出して印字する画像形成装置において、
前記上流側搬送手段から前記下流側搬送手段に向けて搬送される前記印刷媒体を、前記印字手段に接触しない状態に形状付けして搬送するカール抑制搬送手段を備え、
前記カール抑制搬送手段を、前記上流側搬送手段と前記下流側搬送手段の間での前記印刷媒体の弛みを妨げない位置に配置し
、
前記上流側搬送手段と前記カール抑制搬送手段は、前記印刷媒体の搬送方向で部分的に重なる関係にあることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記印刷媒体の搬送方向で、前記カール抑制搬送手段は、前記下流側搬送手段よりも前記上流側搬送手段に近い位置にあることを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記上流側搬送手段の搬送力が前記カール抑制搬送手段の搬送力よりも大きく、且つ前記カール抑制搬送手段の搬送速度が前記上流側搬送手段の搬送速度以上であることを特徴とする請求項1
又は2記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記カール抑制搬送手段は、前記印刷媒体を搬送するときに、搬送方向に対して垂直な方向の複数の箇所で前記印刷媒体に圧接し、該複数箇所の間では前記印刷媒体に圧接しないことを特徴とする請求項1から
3のいずれか1項記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記カール抑制搬送手段は、前記印刷媒体の搬送経路の両側に位置する軟質部と硬質部を有し、前記軟質部と前記硬質部が圧接して前記印刷媒体を挟む圧接状態と、前記軟質部と前記硬質部が離間する離間状態とに動作可能であり、
前記カール抑制搬送手段を制御する制御部は、印刷時に前記圧接状態にさせ、印刷完了後に前記離間状態にさせることを特徴とする請求項1から
4のいずれか1項記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記軟質部と前記硬質部はそれぞれ、前記印刷媒体の搬送方向に対して垂直な軸を中心として回転するローラであり、前記圧接状態で印刷停止した場合に、前記制御部は、次の印刷開始前に前記圧接状態で前記ローラを予備回転させることを特徴とする請求項
5記載の画像形成装置。
【請求項7】
上流側搬送手段によって斜行補正してから搬送した印刷媒体を、下流側搬送手段の搬送面に保持し、前記下流側搬送手段により搬送される前記印刷媒体に印字手段からインクを吐出して印字する画像形成装置において、
前記上流側搬送手段から前記下流側搬送手段に向けて搬送される前記印刷媒体を、前記印字手段に接触しない状態に形状付けして搬送するカール抑制搬送手段を備え、
前記カール抑制搬送手段を、前記上流側搬送手段と前記下流側搬送手段の間での前記印刷媒体の弛みを妨げない位置に配置し、
前記カール抑制搬送手段は、前記印刷媒体の搬送経路の両側に位置して前記印刷媒体の搬送方向に対して垂直な軸を中心として回転する第1ローラと第2ローラを有し、前記第1ローラと前記第2ローラが圧接して前記印刷媒体を挟む圧接状態と、前記第1ローラと前記第2ローラが離間する離間状態とに動作可能であり、
前記第2ローラは、前記搬送方向に対して垂直な方向に位置を異ならせて大径部と小径部を有し、
前記大径部と前記小径部の間に、前記大径部から前記小径部に向けて外径を小さくする接続部を有し、
前記第1ローラと前記第2ローラの前記圧接状態で、前記第1ローラと前記大径部により前記印刷媒体を挟み、且つ前記搬送方向に延びる前記印刷媒体の幅端部領域
が、前記大径部と重ならず
に前記接続部に沿う形状になることを特徴とす
る画像形成装置。
【請求項8】
前記第1ローラと前記接続部の間に、前記第1ローラと前記第2ローラの前記圧接状態で前記大径部から前記小径部に向けて間隔が広くなる隙間を有し、前記印刷媒体の前記幅端部領域の側縁が前記第1ローラと前記第2ローラの少なくとも1つから離間して前記隙間内に位置することを特徴とする請求項
7記載の画像形成装置。
【請求項9】
前記第2ローラの前記大径部から前記接続部にかけて段差の無い形状であることを特徴とする請求項
7又は8記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、用紙などの印刷媒体に印刷を行う画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置では、印刷の際に、用紙などの印刷媒体を適切な状態で印刷部に搬送することが求められる。例えば、インクジェット方式の印刷装置で、搬送方向の中央部よりも前端部がインクジェットヘッド側に突出するカール状態(端部上がり形状)の用紙が印刷部まで搬送されると、当該用紙の前端部がインクジェットヘッドに接触する可能性がある。用紙がインクジェットヘッドに接触すると、インクジェットヘッドのノズル部に損傷が生じたり、用紙にインク汚れが付着したりするおそれがある。その対策として、印刷部の上流側にカール付け手段を備える技術が知られている(例えば、特許文献1)。カール付け手段は、所定以上の曲率を持たせた状態で用紙を挟みながら搬送することによって、用紙を端部上がり形状とは反対側に湾曲させて、用紙の前端がインクジェットヘッドに接触しないようにさせるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
画像形成装置では、搬送方向で印刷部の上流側に、用紙の斜行を補正してから搬送させるレジストローラが設けられる。停止した状態のレジストローラに用紙の先端が当接して用紙が弛み、レジストローラの軸方向と用紙先端が平行になって斜行補正される。続いて、レジストローラの回転が開始され、斜行補正済みの用紙を搬送する。用紙搬送終了直後にレジストローラを停止し、次に送られてくる用紙の斜行補正を行う。また、印刷部には、用紙を搬送面に吸着保持しながら用紙搬送を行う搬送ベルトが設けられる。ここで、レジストローラによる用紙搬送速度に対して搬送ベルトによる用紙搬送速度が大きすぎると、印刷部における用紙の挙動が安定せずに、印字ズレや印字ムラが発生してしまう。搬送ベルトの用紙搬送速度よりもレジストローラの用紙搬送速度を大きく設定し、レジストローラと搬送ベルトの間で用紙を軽く弛ませながら搬送することで、印字ズレや印字ムラを防止できる。
【0005】
特許文献1の画像形成装置では、用紙の搬送方向で、斜行補正手段(上述したレジストローラに相当)と搬送ベルトの間にカール付け手段を設けている。カール付け手段は、搬送ベルトの直前(斜行補正手段から離れた位置)に配置されている。このような位置にカール付け手段を設けると、斜行補正手段と搬送ベルトの間で用紙が適切な弛み形状を形成することが妨げられ、用紙搬送精度が低下する。その結果、印刷品質が悪化するおそれがある。また、用紙を弛み可能にさせる領域が斜行補正手段の存在によって制限されると、用紙の弛み曲線が急になり、用紙の折れが発生するおそれがある。
【0006】
また、カール付け手段によって用紙の幅方向の全体を挟むと、用紙に皺などの変形が発生しやすくなる。特許文献1の画像形成装置のように、搬送ベルトの直前にカール付け手段を設けると、カール付け手段で発生した用紙変形が残存した状態で印刷が行われ、印刷品質が悪化するおそれがある。
【0007】
本発明は以上の問題点に鑑みてなされたものであり、印刷媒体を高精度に搬送可能で、印刷品質に優れる画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上流側搬送手段によって斜行補正してから搬送した印刷媒体を、下流側搬送手段の搬送面に保持し、前記下流側搬送手段により搬送される前記印刷媒体に印字手段からインクを吐出して印字する画像形成装置において、前記上流側搬送手段から前記下流側搬送手段に向けて搬送される前記印刷媒体を、前記印字手段に接触しない状態に形状付けして搬送するカール抑制搬送手段を備え、前記カール抑制搬送手段を、前記上流側搬送手段と前記下流側搬送手段の間での前記印刷媒体の弛みを妨げない位置に配置し、前記上流側搬送手段と前記カール抑制搬送手段は、前記印刷媒体の搬送方向で部分的に重なる関係にあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の画像形成装置によれば、上流側搬送手段と下流側搬送手段の間で、カール抑制搬送手段により妨げられずに印刷媒体が適正な弛み形状を形成できるので、印刷媒体を高精度に搬送して優れた印刷品質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】画像形成装置の用紙搬送構造を示す図である。
【
図3】斜行補正搬送装置とデカール装置の配置を示す図である。
【
図4】デカール装置の動作を示す断面図であり、(A)は圧接状態、(B)は離間状態を示す。
【
図6】画像形成装置の動作制御を示すフローチャートである。
【
図7】斜行補正搬送装置の変形例を示す断面図である。
【
図8】第2の形態のデカール装置を示す斜視図である。
【
図9】第2の形態のデカール装置の一部を示す正面図である。
【
図10】第2の形態のデカール装置の一部を示す断面図である。
【
図11】第2の形態のデカール装置で用紙を搬送している状態を示す断面図である。
【
図12】第2の形態のデカール装置を構成する第2ローラの変形例を示す正面図である。
【
図13】第2の形態のデカール装置を構成する第2ローラの変形例を示す正面図である。
【
図14】第2の形態のデカール装置と異なる比較例を示す断面図である。
【
図15】第3の形態のデカール装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明の実施の形態に係る画像形成装置10の概略構成を示している。
図5は、画像形成装置10における制御系の概略を示している。画像形成装置10は、インクジェット方式の印刷装置であり、印刷媒体である用紙Pに対して、印字手段であるインクジェットヘッド14からインクを吐出させて印刷する。
図1中の二点鎖線は、画像形成装置10における用紙Pの搬送経路を表しており、搬送経路に沿って複数設けたローラなどを用いて用紙Pを搬送する。画像形成装置10は制御部50(
図5)を備え、以下に述べる用紙Pの搬送や印刷やその他の動作は、制御部50の制御に基づいて行われる。
【0012】
図1に示すように、画像形成装置10は給紙部11を備え、給紙部11に設けた給紙トレイ(図示略)に印刷前の用紙Pが積層される。印刷を行う際に、用紙Pが給紙部11から給紙側搬送路T1を経由して循環搬送路T2に送られる。循環搬送路T2はループ状に形成され、反転部12によって用紙Pを逆行させて表裏を反対にして搬送することができる。
【0013】
画像形成装置10の内部には、循環搬送路T2に送られた用紙Pに対する印刷処理を行う印刷部13が設けられる。印刷部13は複数のインクジェットヘッド14を備えており、循環搬送路T2上を搬送される用紙Pに対して、各インクジェットヘッド14からインクを吐出させて印字を行う。循環搬送路T2の途中の反転部12により用紙Pを逆行させることで、用紙Pの表裏に印刷を行うことができる。
【0014】
印刷部13は、インクジェットヘッド14の下方にヘッド下搬送ユニット16を有している。印刷部13では、ヘッド下搬送ユニット16によって用紙Pを吸着保持しながら所定速度で搬送し、インクジェットヘッド14から用紙Pにインクを吐出して印字する。ヘッド下搬送ユニット16で搬送される用紙Pの横幅方向を主走査方向F1、主走査方向F1に対して垂直な用紙Pの搬送方向を副走査方向F2とする。副走査方向F2のうち、給紙側搬送路T1(給紙部11)が位置する側を用紙搬送の上流側、排紙側搬送路T3(排紙部15)が位置する側を用紙搬送の下流側、とする。
【0015】
ヘッド下搬送ユニット16は、搬送ベルト17と、ベルト駆動ローラ18と、複数の従動ローラ19,20,21とを有する。搬送ベルト17は、ベルト駆動ローラ18と複数の従動ローラ19,20,21とに掛け渡される無端(ループ形状)の帯状体であり、ベルト駆動ローラ18と従動ローラ19の間で略水平な搬送面17aを形成する。搬送面17aは循環搬送路T2の一部を構成しており、給紙側搬送路T1から搬入された用紙Pが搬送面17a上に載せられる。
【0016】
ベルト駆動ローラ18はベルト駆動部51(
図5)によって回転駆動される。ベルト駆動部51は、モータと、該モータの駆動力をベルト駆動ローラ18に伝達する伝達機構などにより構成されている。ベルト駆動ローラ18が回転すると搬送ベルト17に駆動力が伝達されて、搬送ベルト17が従動ローラ19,20,21による案内を受けながら周回動作し、搬送面17a上に支持した用紙Pを、副走査方向F2の上流側から下流側に移動させる。従動ローラ19,20,21は、搬送ベルト17を介してベルト駆動ローラ18に従動して回転する。
【0017】
搬送ベルト17には、表裏を貫通する複数の吸引孔(図示略)が形成されている。ヘッド下搬送ユニット16は、ベルト駆動ローラ18と従動ローラ19の間の搬送面17aの下方に吸引ファン22を備えている。吸引ファン22はファン駆動部52(
図5)によって回転駆動され、吸引ファン22の回転によって上方から下方へ向かう気流が生じる。吸引ファン22を回転させると、複数の吸引孔を通して搬送面17aの上方空間から空気を吸引する力(負圧)が発生し、吸引孔に働く負圧によって用紙Pが搬送面17aに吸着保持される。吸引ファン22を駆動させながらベルト駆動ローラ18を回転駆動することにより、用紙Pを搬送面17aに吸着保持しながら搬送することができる。
【0018】
ヘッド下搬送ユニット16の下流側に設けたフリッパ23によって、用紙Pを循環搬送路T2で循環させるか、排紙側搬送路T3に移動させるかを切り替える。印刷部13での印刷済みの用紙Pは、循環搬送路T2に続く排紙側搬送路T3に送られる。排紙側搬送路T3の出口部分に排紙部15を備え、排紙部15に設けた排紙トレイ(図示略)によって印刷済みの用紙Pを回収する。
【0019】
なお、
図1にはそれぞれ1つの給紙側搬送路T1と1つの排紙側搬送路T3のみを示しているが、循環搬送路T2に接続する複数の給紙側搬送路や複数の排紙側搬送路を備えていてもよい。例えば、複数の用紙サイズに対応する複数の給紙トレイを設け、各給紙トレイに対応する複数の給紙側搬送路が途中で合流するように構成してもよい。
【0020】
図2以降を参照して、画像形成装置10における用紙搬送の詳細を説明する。
図2は、給紙側搬送路T1と循環搬送路T2の合流箇所付近における用紙搬送構造を示している。
図3は、この用紙搬送構造を構成する斜行補正搬送装置30とデカール装置40とヘッド下搬送ユニット16の配置関係を示している。副走査方向F2の上流側に位置する斜行補正搬送装置30が上流側搬送手段を構成し、下流側に位置するヘッド下搬送ユニット16(搬送ベルト17)が下流側搬送手段を構成し、斜行補正搬送装置30とヘッド下搬送ユニット16の間に位置するデカール装置40がカール抑制搬送手段を構成する。
【0021】
図2に示すように、ヘッド下搬送ユニット16の上流側には、用紙Pの斜行を補正してから用紙搬送を行う斜行補正搬送装置30が設けられている。斜行補正搬送装置30の近傍には、斜行補正搬送装置30に用紙Pを誘導する用紙ガイド部25A,25Bを備える。給紙側搬送路T1に沿って給紙部11から送られた用紙Pは、用紙ガイド部26A,26Bの間と、用紙ガイド部25A,25Bの間を通って斜行補正搬送装置30に誘導される。また、循環搬送路T2を循環した用紙Pは、用紙ガイド部27A,27Bの間と、用紙ガイド部25A,25Bの間を通って斜行補正搬送装置30に誘導される。
【0022】
斜行補正搬送装置30は、用紙搬送路(循環搬送路T2)の上下に振り分けて配置したローラ対(レジストローラ)によって構成されている。より詳しくは、斜行補正搬送装置30は、上方に位置する第1ローラ31と、下方に位置する第2ローラ32とを備えている。第1ローラ31は、主走査方向F1に延びる軸部33の外径側に、軸部33よりも大径の用紙接触部34を有している。
図3に示すように、用紙接触部34は、主走査方向F1に所定の間隔を空けて配置した複数(6つ)の分割接触部34a,34b,34c,34d,34e,34fで構成されている。
【0023】
用紙接触部34の外周面に第2ローラ32の外周面が接している。用紙接触部34よりも第2ローラ32の方が硬質な材質で形成されている。第2ローラ32と用紙接触部34の材質は任意に選択可能である。一例として、用紙接触部34をゴム製、第2ローラ32を金属製にすることができる。
【0024】
第1ローラ31と第2ローラ32はそれぞれ、主走査方向F1に向く軸線を中心として回動可能に支持されており、レジストローラ駆動部53(
図5)によって回転駆動される。レジストローラ駆動部53は、モータと、該モータの駆動力を伝達する伝達機構などにより構成されており、第1ローラ31と第2ローラ32を同速で回転させる。
【0025】
印刷部13で印刷を行うときには、制御部50は、レジストローラ駆動部53を通じて、第1ローラ31と第2ローラ32の回転と停止を制御する。駆動させるときの第1ローラ31と第2ローラ32の回転方向は、用紙Pを上流側から下流側に移動させる順送方向である。
【0026】
より詳しくは、用紙ガイド部25A,25Bに沿って斜行補正搬送装置30に用紙Pが誘導されるときに、制御部50は第1ローラ31と第2ローラ32の回転を停止させる。停止状態の第1ローラ31(用紙接触部34)と第2ローラ32に対して用紙Pの前端が当接し、用紙Pが弛む。正規の用紙搬送方向(副走査方向F2)に対して斜めになった状態の用紙Pが斜行補正搬送装置30に達した場合には、停止した第1ローラ31及び第2ローラ32によって進行が制限された用紙Pが後方から押されることによって、用紙Pの前端が第1ローラ31及び第2ローラ32の軸方向と平行になる。つまり、用紙Pの斜行が補正される。
【0027】
続いて、斜行補正が完了する所定のタイミングで、制御部50がレジストローラ駆動部53を制御して、第1ローラ31と第2ローラ32を回転駆動させる。斜行補正された用紙Pが、回転駆動される第1ローラ31(用紙接触部34)と第2ローラ32の間に入り、第1ローラ31と第2ローラ32による摩擦力で下流側に用紙Pが送られる。下流側への用紙Pの搬送が終了した直後に、制御部50がレジストローラ駆動部53を制御して第1ローラ31と第2ローラ32の回転を停止させ、次に斜行補正搬送装置30へ搬送される用紙Pの斜行補正に備える。このように、斜行補正搬送装置30は、用紙Pの斜行を補正してから、斜行補正搬送装置30の下流側に位置するヘッド下搬送ユニット16に向けて用紙Pを搬送する。
【0028】
図2に示すように、ヘッド下搬送ユニット16の従動ローラ19の近傍には、ヘッド下搬送ユニット16と共に下流側搬送手段を構成する用紙吸着ガイドローラ36が設けられている。用紙吸着ガイドローラ36は、搬送ベルト17の搬送面17aの直上に位置しており、搬送面17a側に向けて用紙Pを押さえて吸着保持させやすくする用紙ガイドとして機能する。
【0029】
斜行補正搬送装置30を通過して印刷部13に達した用紙Pは、搬送面17aに密着して上方へ浮き上がらずに、インクジェットヘッド14の下方を搬送されることが求められる。特に、副走査方向F2の端部が中央部よりも上方に突出する端部上がり形状(用紙Pを側方から見て下向きの凸形状)のカールが用紙Pに生じていると、搬送面17aから浮き上がった用紙Pの端部がインクジェットヘッド14に接触する可能性がある。この場合、用紙Pに接触されたインクジェットヘッド14のヘッド面に損傷が生じたり、インクジェットヘッド14から用紙Pにインクが付着して用紙Pが汚れたりするおそれがある。
【0030】
図2に示すように、用紙吸着ガイドローラ36よりも下流側、且つインクジェットヘッド14よりも上流側に、用紙浮き検知装置37が設けられている。用紙浮き検知装置37は、搬送面17aの上方に位置する周知のセンサなどからなり、搬送面17aからの用紙Pの浮き上がりを検知する。用紙浮き検知装置37からの検知信号が制御部50に入力される。搬送面17aからの用紙Pの浮き上がりが用紙浮き検知装置37を介して検知されると、制御部50は、用紙Pの搬送を停止させて、インクジェットヘッド14への用紙Pの接触や、用紙Pの詰まりなどを未然に防ぐ処理を行う。しかし、用紙搬送が高速になると、浮き上がった状態の用紙Pがインクジェットヘッド14に達する前に停止させることが難しくなる。また、用紙Pの浮き上がり検知の度に印刷を停止する処理を行うと、印刷効率が悪化してしまう。
【0031】
搬送面17aからの用紙Pの浮き上がりを生じにくくさせるために、本実施形態の画像形成装置10は、用紙Pにおける端部上がり形状のカールを防ぐカール抑制搬送手段であるデカール装置40を備えている。デカール装置40は、副走査方向F2の端部が中央部よりも下方に向く端部下がりの形状付けを用紙Pに対して行い、インクジェットヘッド14への接触が生じやすい端部上がり形状のカールを防ぐものである。
【0032】
デカール装置40は、用紙搬送路(循環搬送路T2)の両側に振り分けて配置したローラ対(デカールローラ)によって構成されている。より詳しくは、デカール装置40は、上方に位置する第1ローラ41と、下方に位置する第2ローラ42とを備えている。
【0033】
第1ローラ41は、主走査方向F1に延びる軸部43の外径側に、軸部43よりも大径の用紙接触部44を有している。
図3に示すように、用紙接触部44は、主走査方向F1に所定の間隔を空けて配置した複数(6つ)の分割接触部44a,44b,44c,44d,44e,44fで構成されている。用紙接触部44は、弾性変形可能な軟質の材質(スポンジなどの弾性体)で形成されている。第2ローラ42は、第1ローラ41における用紙接触部44よりも小径の円柱状の軸部材であり、用紙接触部44に比して硬質の材質(金属など)で形成されている。つまり、用紙接触部44がデカール装置40における軟質部を構成し、第2ローラ42がデカール装置40における硬質部を構成している。
【0034】
第1ローラ41は、第2ローラ42に対する軸間距離を変化させる(接近及び離間させる)動作を行うことが可能である。第1ローラ41を第2ローラ42に接近させると、用紙接触部44と第2ローラ42の硬さ及び直径の差(第2ローラ42の方が、硬く且つ小径である)によって、自由状態(初期状態)の用紙接触部44の外形形状よりも内側に第2ローラ42が入り込み、用紙接触部44が第2ローラ42によって内径側(軸部43側)に押し込まれて弾性変形した圧接状態(
図4(A))になる。第1ローラ41を第2ローラ42から離間させると、第2ローラ42による用紙接触部44の押圧が解除されて、用紙接触部44の変形が解除された離間状態(
図4(B))になる。
【0035】
第1ローラ41と第2ローラ42はそれぞれ、主走査方向F1に向く軸線を中心として回動可能に支持されており、デカールローラ駆動部54(
図5)によって回転駆動される。デカールローラ駆動部54は、モータと、該モータの駆動力を伝達する伝達機構などにより構成されており、第1ローラ41と第2ローラ42を同速で回転させる。また、デカールローラ駆動部54は、デカール装置40を圧接状態(
図4(A))と離間状態(
図4(B))に動作させる。
【0036】
印刷部13で印刷を行うときには、制御部50は、デカールローラ駆動部54を制御してデカール装置40を圧接状態にさせると共に、デカールローラ駆動部54によって第1ローラ41と第2ローラ42を回転駆動させる。このときの第1ローラ41と第2ローラ42の回転方向は、用紙Pを上流側から下流側に移動させる順送方向である。
【0037】
回転駆動される第1ローラ41(用紙接触部44)と第2ローラ42の間を用紙Pが通過する際に、用紙Pは、硬質の第2ローラ42の外面に沿う上向きの凸形状になるように形状付けられる(
図4(A)参照)。従って、デカール装置40から印刷部13に向けて搬送される用紙Pは、副走査方向F2の前端部が上向きにならず(端部上がり形状にならず)にカールが抑制された状態で進行して、ヘッド下搬送ユニット16の位置に到達する。ヘッド下搬送ユニット16に到達した用紙Pは、用紙吸着ガイドローラ36によって搬送ベルト17の搬送面17aに押し付けられ、搬送ベルト17に吸着されながら下流側へ搬送される。そして、搬送面17a上に保持された用紙Pに向けてインクジェットヘッド14からインクを吐出して印字する。
【0038】
デカール装置40の効果で端部上がり形状のカールが抑制された用紙Pは、副走査方向F2の前端部が搬送ベルト17から浮き上がってインクジェットヘッド14に接触することなく、搬送面17a上に適正に保持された状態で搬送ベルト17により搬送される。これにより、インクジェットヘッド14にダメージを与えたり、用紙Pのインク汚れを生じたりせずに、優れた印刷品質で印刷を行うことができる。
【0039】
斜行補正搬送装置30による用紙搬送速度をV1、ヘッド下搬送ユニット16による用紙搬送速度をV2とした場合、制御部50は、V1>V2になるように、印刷動作中のレジストローラ駆動部53とベルト駆動部51の駆動を制御する。
【0040】
用紙Pの種類にもよるが、副走査方向F2での斜行補正搬送装置30から搬送ベルト17までの距離は、画像形成装置10で使用する一般的な用紙Pの長さよりも小さい。そのため、用紙Pは、斜行補正搬送装置30の第1ローラ31(用紙接触部34)と第2ローラ32により挟まれる状態を維持しながら、搬送ベルト17の搬送面17a上に達する。ここで、V1<V2であると、搬送ベルト17によって用紙Pが急激に引っ張られて用紙Pの搬送精度が安定しなくなり、印字ズレや印字ムラが発生するおそれがある。これとは異なり、V1>V2に設定することで、斜行補正搬送装置30からヘッド下搬送ユニット16にかけての用紙Pの搬送が安定し、印刷品質を悪化させるような用紙Pの挙動を防止できる。
【0041】
V1>V2に設定すると、単位時間あたりのヘッド下搬送ユニット16による用紙搬送量よりも、単位時間あたりの斜行補正搬送装置30による用紙搬送量の方が大きくなる。この用紙搬送量の差によって、斜行補正搬送装置30とヘッド下搬送ユニット16の間で用紙Pの弛みが発生する。言い換えれば、斜行補正搬送装置30とヘッド下搬送ユニット16の間で、用紙Pを適切に弛ませることが必要になる。例えば、斜行補正搬送装置30から搬送された用紙Pの弛みが阻害されるような構造であると、印刷部13に向けて用紙Pがスムーズに進行できなくなったり、用紙Pが折れ曲がったりする。
【0042】
画像形成装置10は、上流側搬送手段である斜行補正搬送装置30と下流側搬送手段であるヘッド下搬送ユニット16及び用紙吸着ガイドローラ36との間に、カール抑制搬送手段であるデカール装置40を備えている。
図2及び
図3に示すように、用紙搬送方向である副走査方向F2において、デカール装置40は斜行補正搬送装置30の下流側の直近に位置している。より詳しくは、斜行補正搬送装置30における用紙接触部34とデカール装置40における用紙接触部44の互いの一部が、用紙搬送方向である副走査方向F2で重なる位置関係にある。
【0043】
用紙搬送に関する3つの基準位置K1,K2,K3を
図2に示した。基準位置K1,K2,K3はそれぞれ、斜行補正搬送装置30と、デカール装置40と、ヘッド下搬送ユニット16及び用紙吸着ガイドローラ36とが、用紙Pに対して搬送力を付与する位置を示している。なお、ヘッド下搬送ユニット16は、搬送面17a全体で用紙Pに対する搬送力を与えるが、用紙吸着ガイドローラ36によって用紙Pが搬送ベルト17に押し付けられる箇所が、ヘッド下搬送ユニット16における用紙搬送の始点となるため、当該箇所を基準位置K3として設定している。
図2では、基準位置K1を、用紙接触部34が第2ローラ32に接触する位置と、軸部33の中心軸とを結んだ仮想線として表している。また、基準位置K2を、用紙接触部44が第2ローラ42に接触する位置と、軸部43の中心軸とを結んだ仮想線として表している。また、基準位置K3を、用紙吸着ガイドローラ36が搬送ベルト17に接触する位置と、用紙吸着ガイドローラ36の中心軸とを結んだ仮想線として表している。
【0044】
このように、上流側搬送手段(斜行補正搬送装置30)とカール抑制搬送手段(デカール装置40)と下流側搬送手段(ヘッド下搬送ユニット16及び用紙吸着ガイドローラ36)における用紙搬送の基準位置K1,K2,K3を設定する。そして、副走査方向F2における、基準位置K1から基準位置K2までの距離をL1、基準位置K2から基準位置K3までの距離をL2、基準位置K1から基準位置K3までの距離をL3、とする(
図2及び
図3参照)。斜行補正搬送装置30に対するデカール装置40の近接配置に関する要件として、距離L1<距離L2であり、且つ距離L1が距離L3の35%以下となるように設定する。なお、本実施形態では、距離L1(
図2及び
図3参照)を、20mm程度に設定している。
【0045】
このように斜行補正搬送装置30に対してデカール装置40を近接した位置に配置することで、上流側の搬送手段である斜行補正搬送装置30から下流側の搬送手段である搬送ベルト17までの中間領域がデカール装置40によって分断されず、斜行補正搬送装置30及びデカール装置40で構成される上流側の用紙保持部分から、搬送ベルト17と用紙吸着ガイドローラ36で構成される下流側の用紙保持部分までの間に十分なスペースを確保できる。用紙Pは、当該スペース内で、折れ曲がりや極端な曲率での湾曲を生じずに無理なく弛むことができ、斜行補正搬送装置30及びデカール装置40からヘッド下搬送ユニット16に向けて最適化された軌跡で用紙Pを搬送することができる。従って、斜行補正搬送装置30の下流側にデカール装置40を備えていながら、斜行補正搬送装置30とヘッド下搬送ユニット16及び用紙吸着ガイドローラ36との間での用紙Pの弛みを妨げずに、ヘッド下搬送ユニット16での安定した用紙搬送を実現して、高品質な印刷を行うことができる。
【0046】
特に、上流側搬送手段(斜行補正搬送装置30)とカール抑制搬送手段(デカール装置40)と下流側搬送手段(ヘッド下搬送ユニット16及び用紙吸着ガイドローラ36)の3つの要素の位置関係として、上流側搬送手段からカール抑制搬送手段までの距離(距離L1)が、上流側搬送手段から下流側搬送手段までの距離(距離L3)の35%以下という要件を満たすことで、カール抑制搬送手段から下流側搬送手段までの間で用紙Pの十分な弛み量を確保し、用紙Pの弛み曲線が急にならず、スムーズな軌跡で高精度に用紙Pを搬送できる。
【0047】
副走査方向F2での斜行補正搬送装置30とデカール装置40の間隔を小さくするほど、デカール装置40の下流側のスペースが広くなり、ヘッド下搬送ユニット16及び用紙吸着ガイドローラ36の手前での用紙Pの弛み形状の自由度が高くなる。この観点から、デカール装置40はできるだけ斜行補正搬送装置30に接近させて配置することが好ましい。
【0048】
図3に示すように、斜行補正搬送装置30における用紙接触部34と、デカール装置40における用紙接触部44をそれぞれ、主走査方向F1に間隔を空けた分割接触部34a~34fと分割接触部44a~44fで構成し、複数の分割接触部34a~34fと複数の分割接触部44a~44fが主走査方向F1で交互に並ぶ(用紙接触部34と用紙接触部44の互いの一部が副走査方向F2で重なる)凹凸嵌合構造にしている。この構造により、機構的な制約の範囲内で斜行補正搬送装置30とデカール装置40を副走査方向F2で最大限に接近させている。
【0049】
具体的には、主走査方向F1において、分割接触部34aを挟む位置に分割接触部44aと分割接触部44bを設け、分割接触部34bを挟む位置に分割接触部44bと分割接触部44cを設け、分割接触部34c及び分割接触部34dを挟む位置に分割接触部44cと分割接触部44dを設け、分割接触部34eを挟む位置に分割接触部44dと分割接触部44eを設け、分割接触部34fを挟む位置に分割接触部44eと分割接触部44fを設けている。
【0050】
なお、用紙搬送方向における上流側搬送手段(斜行補正搬送装置30に相当)とカール抑制搬送手段(デカール装置40に相当)と下流側搬送手段(ヘッド下搬送ユニット16及び用紙吸着ガイドローラ36に相当)の位置関係は、本実施形態の構成に限定されるものではない。例えば、本実施形態の用紙接触部34や用紙接触部44とは異なり、上流側搬送手段を構成するレジストローラと、カール抑制搬送手段を構成するデカールローラがそれぞれ、主走査方向F1の全域に連続する一様な円筒形状である場合、互いのローラを
図3のような凹凸嵌合構造にはできないため、副走査方向F2での上流側搬送手段とカール抑制搬送手段の間隔は本実施形態よりも大きくなる。しかし、このような条件下でも、上流側搬送手段とカール抑制搬送手段を可能な範囲で近接させた配置にすることで、所要の効果を得ることができる。
【0051】
具体的には、副走査方向F2で、少なくとも、下流側搬送手段(ヘッド下搬送ユニット16及び用紙吸着ガイドローラ36)よりも上流側搬送手段(斜行補正搬送装置30)に近い位置(上流側搬送手段から下流側搬送手段までの中間点よりも上流側)に、カール抑制搬送手段(デカール装置40)を配置することが望ましい。すなわち、
図2の構成において、距離L1<距離L2を満たすことが望ましい。より好ましくは、上流側搬送手段からカール抑制搬送手段までの距離(距離L1)が、上流側搬送手段から下流側搬送手段までの距離(距離L3)の35%以下という上述の要件を満たすように構成すればよい。これらの要件を満たすことで、カール抑制搬送手段と下流側搬送手段の間で用紙Pを適切に弛ませることができる。
【0052】
近接した位置関係の斜行補正搬送装置30とデカール装置40の間には、用紙Pの弛みを許容するスペースが少ない。そのため、斜行補正搬送装置30とデカール装置40を接近配置させる場合、用紙Pの折れ曲がりなどが発生しないように、斜行補正搬送装置30とデカール装置40の間での用紙搬送の状態に留意する必要がある。
【0053】
斜行補正搬送装置30とデカール装置40の間で適切な用紙搬送を実現するために、以下の条件を満たすことが好ましい。まず、斜行補正搬送装置30による用紙搬送力をR1、デカール装置40による用紙搬送力をR2とした場合、R1>R2とする。また、斜行補正搬送装置30による用紙搬送速度をV1、デカール装置40による用紙搬送速度をV3とした場合、V1≦V3(但し、V1とV3の速度差は5%以内)とする。上述のように、斜行補正搬送装置30による用紙搬送速度V1と搬送ベルト17による用紙搬送速度V2をV1>V2に設定するため、V2<V1≦V3となる。
【0054】
斜行補正搬送装置30とデカール装置40が近接していると、斜行補正搬送装置30が用紙Pを繰り出した直後にデカール装置40が用紙Pを引っ張る。ここで、R1>R2に設定することで、デカール装置40が用紙Pを下流側へ引っ張ろうとする力に抗して、斜行補正搬送装置30が用紙Pを確実に保持する状態が維持されるので、斜行補正搬送装置30の主導により搬送精度を保つことができる。また、V1≦V3にすることで、斜行補正搬送装置30とデカール装置40の間での用紙Pの弛みが抑制される。従って、斜行補正搬送装置30とデカール装置40の間では、用紙Pが所定のテンションを保った状態で弛みを抑制され、用紙Pの折れ曲がりを防いで高精度な用紙搬送を実現することができる。
【0055】
さらにV1≦V3の速度差を5%以内にすることで、用紙Pの後端が斜行補正搬送装置30を抜けた後の用紙Pの速度変動を抑えて、印刷処理での画像ムラの発生を抑制できる。
【0056】
斜行補正搬送装置30やデカール装置40における用紙搬送力は、第1ローラ31(用紙接触部34)と第2ローラ32の間の圧接力や摩擦係数、第1ローラ41(用紙接触部44)と第2ローラ42の間の圧接力や摩擦係数などによって決まる。従って、R1>R2を満たす材質や形状で斜行補正搬送装置30とデカール装置40を形成する。
【0057】
V1≦V3の関係は、制御部50によるレジストローラ駆動部53とデカールローラ駆動部54の駆動制御によって実現できる。制御部50は、V1≦V3になるように、印刷動作中のレジストローラ駆動部53とデカールローラ駆動部54の駆動を制御する。
【0058】
画像形成装置10は、様々な用紙幅の用紙Pへの印刷に対応している。画像形成装置10で印刷可能な用紙幅の例を、
図3にP1~P6として示した。P1は長形3号サイズの用紙幅(120mm)、P2はB5サイズの用紙幅(182mm)、P3はA4サイズの用紙幅(210mm)、P4は角型2号サイズの用紙幅(240mm)、P5はB4サイズの用紙幅(257mm)、P6はA3サイズの用紙幅(297mm)である。
【0059】
図3に示すように、斜行補正搬送装置30とデカール装置40はそれぞれ、P1~P6の全ての用紙幅に対して、用紙幅の全体に圧接するのではく、用紙幅の一部に圧接し他の部分には圧接しないように、主走査方向F1における用紙接触部34と用紙接触部44の配置を設定している。用紙接触部34と用紙接触部44はそれぞれ、P1~P6の全ての用紙幅に対して、主走査方向F1に位置を異ならせた複数箇所(2箇所以上)で圧接するように構成されている。
【0060】
カール抑制用の手段(ローラなど)を、主走査方向F1で用紙幅全体に亘って連続的に圧接させる構成では、用紙Pの歪みや撓みなどを吸収せずに一様に湾曲させることになるので、用紙Pに皺が発生しやすい。これに対し、デカール装置40では、主走査方向F1に間隔を空けて複数の用紙接触部44(分割接触部44a~44f)を配置し、用紙幅の全体ではなく一部を用紙圧接領域にすることで、用紙Pに皺が発生しにくくなる効果が得られる。
【0061】
さらに、上述したように、主走査方向F1で間隔を空けて設けた用紙接触部44(分割接触部44a~44f)の間に、斜行補正搬送装置30の用紙接触部34(分割接触部34a~34f)が位置する構造にすることで、斜行補正搬送装置30とデカール装置40を副走査方向F2で接近させやすくなる。つまり、斜行補正搬送装置30とデカール装置40を、副走査方向F2で部分的に重なる位置まで接近させることができる。
【0062】
また、デカール装置40においては、第1ローラ41(用紙接触部44)と第2ローラ42による用紙圧接領域が、主走査方向F1での用紙幅端部を含むことで、用紙幅端部のカール(用紙の角隅部のカール)を確実に抑制できる。例えば、
図3に示すように、本実施形態では、用紙幅P2の両端部と用紙幅P3の両端部がそれぞれ、分割接触部44b及び分割接触部44eの主走査方向F1の範囲(用紙圧接領域)に含まれており、用紙幅P6の両端部が、分割接触部44a及び分割接触部44fの主走査方向F1の範囲(用紙圧接領域)に含まれている。従って、用紙幅P2,P3,P6の用紙に対する用紙幅端部のカール抑制効果が高い。
【0063】
一方、デカール装置40における用紙接触部44は軟質材からなるため、用紙幅端部のエッジ形状に繰り返し圧接することで、用紙接触部44が削れて摩耗しやすくなる。そのため、第1ローラ41(用紙接触部44)と第2ローラ42による用紙圧接領域が、主走査方向F1での用紙幅端部を含まないように設定することで、用紙接触部44の耐久性を向上させることができる。例えば、本実施形態では、用紙幅P1,P4,P5のそれぞれの両端部が、主走査方向F1で用紙接触部44からずれた位置にあり、第1ローラ41(用紙接触部44)と第2ローラ42による圧接領域に含まれていない。従って、用紙幅P1,P4,P5の用紙に対する用紙接触部44の耐久性に優れている。
【0064】
第1ローラ41(用紙接触部44)と第2ローラ42が、用紙幅端部を圧接領域に含まず、且つ用紙幅端部に近い位置まで圧接するように構成することで、用紙Pに対するカール抑制効果と、用紙接触部44の耐久性向上とを両立させることができる。具体的には、用紙幅端部から2mmの余白を空けた位置まで第1ローラ41(用紙接触部44)と第2ローラ42を圧接させることが好ましい。本実施形態では、用紙幅P1に対する分割接触部44c及び分割接触部44dの配置が、当該条件を満たしている。
【0065】
図2に示すように、デカール装置40の上流側には、斜行補正搬送装置30に用紙Pを誘導する用紙ガイド部25A,25Bが設けられている。用紙ガイド部25A,25Bは上下で対をなしており、デカール装置40の直前まで配設されている。斜行補正搬送装置30やデカール装置40から遠い上流側では、用紙ガイド部26A,26Bと用紙ガイド部27A,27Bの両方を通って搬送される用紙Pを受け入れ可能なように、用紙ガイド部25A,25Bの間隔が広くなっている。斜行補正搬送装置30からデカール装置40に至る下流側では、用紙ガイド部25A,25Bの間隔が狭まっており、この幅狭部分での用紙ガイド部25A,25Bの間隔は約2mmである。この2mmの間を用紙Pが通過して、デカール装置40に達する。
【0066】
主走査方向F1での用紙Pの端部に、紙面の基準位置からの突出量が2mmを超えるような大きなカールが生じている場合、当該用紙Pは用紙ガイド部25A,25Bによりガイドされるため、突出量2mmの状態でデカール装置40まで搬送される。デカール装置40において、用紙Pに対する第1ローラ41と第2ローラ42の圧接領域が用紙幅端部から2mmの余白を空けていれば、用紙Pが突出量2mmの状態であっても用紙幅端部を圧接することが無いので、第1ローラ41と第2ローラ42の摩耗を防止できる。そのため、デカール装置40では、用紙幅端部から2mmの余白を空けて圧接させる設定にすることで、各ローラ41,42の摩耗を防止しながら実用上十分なカール抑制効果を得られる。
【0067】
以上の画像形成装置10の動作を、
図6のフローチャートを参照して説明する。印刷ジョブの実行指示が制御部50に入力されると、
図6のフローチャートの制御に入る。
【0068】
最初に、制御部50は、デカール装置40が離間状態にあるか否かをチェックする(ステップS1)。デカール装置40が離間状態にある場合(ステップS1のYES)、制御部50は、デカールローラ駆動部54に対して、第1ローラ41を第2ローラ42に接近移動させるように指示して、デカール装置40を圧接状態にさせる(ステップS2)。デカール装置40が圧接状態にある場合(ステップS1のNO)、制御部50はデカールローラ駆動部54に対して、第1ローラ41及び第2ローラ42を回転駆動させるように指示して、デカール装置40に予備回転を行わせる(ステップS3)。
【0069】
ステップS2又はステップS3の完了後、制御部50は、給紙部11から印刷部13に用紙Pを搬送する用紙搬送動作と、印刷部13における印刷処理とを行わせる(ステップS4)。
【0070】
ステップS4での用紙搬送動作は、レジストローラ駆動部53による第1ローラ31及び第2ローラ32の回転駆動(ローラ停止状態での斜行補正と、斜行補正後のローラ駆動の繰り返し)、デカールローラ駆動部54による第1ローラ41及び第2ローラ42の回転駆動、ベルト駆動部51による搬送ベルト17の周回駆動、などによって行われる。このときの、斜行補正搬送装置30とデカール装置40とヘッド下搬送ユニット16の駆動は、上述した搬送条件(R1>R2、V2<V1≦V3)を満たすように実行される。また、制御部50は、ファン駆動部52によって吸引ファン22を駆動させ、搬送ベルト17の搬送面17aに用紙Pを吸着保持しながら搬送を行わせる。ステップS4での印刷処理は、印刷ジョブに基づいて、搬送面17a上を搬送される用紙Pに対してインクジェットヘッド14からインクを吐出することで行う。印刷後の用紙Pは、排紙部15まで搬送されて回収される。
【0071】
制御部50は、印刷ジョブが完了したか否かをチェックする(ステップS5)。印刷ジョブが未完了の状態では(ステップS5のNO)、ステップS4の用紙搬送動作及び印刷処理を継続させる。
【0072】
印刷ジョブが完了すると(ステップS5のYES)、制御部50は、デカールローラ駆動部54に対して、第1ローラ41を第2ローラ42から離間移動させるように指示して、デカール装置40を離間状態にさせる(ステップS6)。そして、
図6の制御から抜ける。
【0073】
ステップS6でデカール装置40を離間状態にさせることで、印刷完了後は用紙接触部44が第2ローラ42による押圧を受けずに解放され、用紙接触部44の変形(永久ひずみ)を防止することができる。
【0074】
ステップS6での動作を実行して正常に印刷完了処理が行われた場合は、次回の印刷ジョブは、デカール装置40が離間状態を維持した状態で開始される。つまり、ステップS1での判定がYESになる。
【0075】
これに対し、印刷動作中の停電などの原因により、デカール装置40が圧接状態のままで印刷が停止する可能性もある。この場合、用紙接触部44が第2ローラ42による押圧を受けて変形した状態(
図4(A))が継続される。ここで、次回の印刷ジョブの実行前に、ステップS3でのデカール装置40の予備回転を行うと、用紙接触部44の変形が均されて元の形状に近づく復元動作が生じる。仮に、用紙接触部44の一部が凹状の永久ひずみを生じたままの状態でステップS4の用紙搬送を行うと、用紙Pがデカール装置40を円滑に通過せずに用紙搬送精度が低下してしまう。これに対し、デカール装置40の予備回転によって用紙接触部44の形状を復元させることで、ステップS4での用紙搬送精度の低下を防止できる。
【0076】
図7は、デカール装置40に加えて、斜行補正搬送装置30が用紙Pのカールを抑制する機能を有する変形例を示している。斜行補正搬送装置30の第2ローラ35は、外周部に小型の凸部35aを有する拍車型のローラである。第2ローラ35の回転方向に所定の間隔で複数の凸部35aが設けられている。各凸部35aは、主走査方向F1(第2ローラ35の回転軸方向)に長く延びている。第2ローラ35の凸部35aは、用紙接触部34よりも硬質の材質からなっている。
【0077】
斜行補正搬送装置30が下流側に用紙Pを搬送する際に、用紙Pは、第2ローラ35の凸部35aによって押圧されながら第1ローラ31の用紙接触部34に圧接する。用紙Pは、曲率の大きい凸部35aの先端で押圧されることで、用紙接触部34への圧接部分が上向きの凸形状になるように形状付けられる。つまり、斜行補正搬送装置30が、端部下がりの形状付けを用紙Pに対して行い、インクジェットヘッド14への接触が生じやすい端部上がり形状のカールを抑制する。
【0078】
図7の変形例では、副走査方向F2で近接配置した斜行補正搬送装置30とデカール装置40の両方が用紙Pのカール抑制に寄与するので、カール抑制効果が高い。
【0079】
上述したように、カール抑制用の手段(ローラなど)を、主走査方向F1で用紙幅全体に亘って連続的に圧接させる構成では、用紙Pに皺が発生しやすくなる。しかし、斜行補正搬送装置30における用紙Pの圧接領域と、デカール装置40における用紙Pの圧接領域は、副走査方向F2での位置が異なるので、用紙幅全体に亘って連続的に圧接する構成にはならない。従って、斜行補正搬送装置30とデカール装置40の両方にカール抑制機能を持たせても、用紙Pの皺の発生を抑えることができる。
【0080】
以上説明した通り、本実施形態の画像形成装置10では、斜行補正搬送装置30とヘッド下搬送ユニット16の間での用紙Pの弛みを妨げないように、斜行補正搬送装置30に近接した位置にデカール装置40を配置している。これにより、用紙Pを高精度に搬送させて優れた印刷品質を実現できる。
【0081】
なお、上記実施形態では、用紙Pを両側から挟むローラ対によって構成されるデカール装置40を用いているが、本発明におけるカール抑制搬送手段の構成はこれに限定されない。例えば、ローラ対からなるデカール装置40に代えて、搬送ベルトと、該搬送ベルトに用紙を押し付けるローラとの組み合わせなどを用いてもよい。
【0082】
図8から
図11は、上述したデカール装置40とは異なる第2の形態のデカール装置60を示している。デカール装置60を搭載する画像形成装置の全体的な構成は、上述した画像形成装置10と同様であり、デカール装置60以外の構成要素については図示を省略している。画像形成装置におけるデカール装置60の配置条件などは、上述したデカール装置40と共通である。
【0083】
デカール装置60は、用紙搬送路の上下に振り分けて配置した第1ローラ61と第2ローラ62とを備えている。第1ローラ61と第2ローラ62はいずれも主走査方向F1に延びており、第1ローラ61は軸線X1(
図9及び
図10)を中心として回転可能に支持され、第2ローラ62は軸線X2(
図9及び
図10)を中心として回転可能に支持されている。軸線X1と軸線X2は平行であり、いずれも主走査方向F1に延びている。第1ローラ61は、デカールローラ駆動部(図示略)によって、第2ローラ62に対する軸間距離を変化させる(接近及び離間させる)動作を行う。また、第1ローラ61と第2ローラ62はそれぞれ、デカールローラ駆動部によって回転駆動される。
図8から
図11はいずれも、第1ローラ61を第2ローラ62に接近させた圧接状態を示している。
【0084】
第1ローラ61は、軸線X1に沿って延びる軸部63の外径側に、軸部63よりも大径の用紙接触部64を有している。用紙接触部64は、弾性変形可能な軟質の材質(スポンジなどの弾性体)で形成された軟質部である、第2ローラ62は、第1ローラ61における用紙接触部64よりも小径の円柱状の軸部材であり、用紙接触部64に比して硬質の材質(金属など)で形成された硬質部である。
【0085】
用紙接触部64は、主走査方向F1に所定の間隔を空けて配置した複数(6つ)の分割接触部64a,64b,64c,64d,64e,64fで構成されている。各分割接触部64a,64b,64c,64d,64e,64fの外周面は、外部からの力によって変形していない初期状態で、軸線X1を中心とする円筒形状である。
【0086】
第2ローラ62は軸線X2に沿って延びており、主走査方向F1に位置を異ならせて大径部65と小径部66を有している。第2ローラ62の長さの大部分を大径部65が占めており、小径部66は、後述する用紙P10の幅端部領域に対応する一部のみに形成されている。大径部65は、軸線X2を中心とする円柱形状であり、外径サイズが一定の外周面を有している。小径部66は、大径部65よりも小径の円柱形状であり、大径部65と同軸上に位置している。
【0087】
第2ローラ62はさらに、大径部65と小径部66を接続する湾曲接続部67を有している。湾曲接続部67は、軸線X2に沿う方向で大径部65の側から小径部66の側に進むにつれて徐々に外径を小さくしており、軸線X2を軸とする回転対称性を有する形状である。より詳しくは、
図11に示すように、湾曲接続部67は、軸線X2に沿う断面内で凸の湾曲を有する面であり、大径部65から湾曲接続部67にかけて段差が無く滑らかに連続し、小径部66と湾曲接続部67が接続する境界部68では角のある形状になっている。湾曲接続部67は、大径部65から離れるにつれて軸線X2に対する傾きを大きくしており、境界部68において、概ね軸線X2に対して垂直な向きで小径部66と交わる。
【0088】
第2ローラ62では、搬送方向(副走査方向F2)に延びる用紙P10の幅端部領域(主走査方向F1での用紙幅の端部付近)に対応する位置に、小径部66及び湾曲接続部67を設ける。
図8から
図11の構成例で搬送対象としている用紙P10は、両側の幅端部領域が第1ローラ61の分割接触部64aと分割接触部64fの位置を通る横幅を有している。そして、第2ローラ62には、分割接触部64aに対応する位置と分割接触部64fに対応する位置のそれぞれに、小径部66及び湾曲接続部67を設けている。第2ローラ62のうち、分割接触部64aに対応する位置を第1の位置、分割接触部64fに対応する位置を第2の位置、とする。
【0089】
図8から
図11には、第1の位置における小径部66及び湾曲接続部67のみを示しているが、第2の位置にも同様に小径部66及び湾曲接続部67が形成されている。第1の位置の小径部66及び湾曲接続部67と、第2の位置の小径部66及び湾曲接続部67は、用紙P10の中心線Q(
図8参照)に関して対称な構成である。中心線Qは、主走査方向F1で用紙P10の中心を通り、副走査方向F2に延びる仮想線である。つまり、第2ローラ62は、主走査方向F1における大径部65の両側に一対の湾曲接続部67が互いに逆向きに形成され、一対の湾曲接続部67の両側に一対の小径部66が形成された構成である。一対の小径部66のさらに外側は、第2ローラ62の軸端付近まで大径部65が続いている。主走査方向F1での一対の小径部66のそれぞれの長さは、対応する分割接触部64a及び分割接触部64fの長さよりも短く、分割接触部64aや分割接触部64fの長さの範囲内に各小径部66が収まっている(
図9及び
図10参照)。
【0090】
図9及び
図10に示すように、第1ローラ61を第2ローラ62に接近させると、用紙接触部64と第2ローラ62の硬さ及び直径の差(第2ローラ62の方が、硬く且つ小径である)によって、自由状態(初期状態)の用紙接触部64の外形形状よりも内側に第2ローラ62が入り込み、用紙接触部64が第2ローラ62によって内径側(軸部63側)に押し込まれて弾性変形した圧接状態になる。この圧接状態において、用紙接触部64のうち分割接触部64aと分割接触部64fのそれぞれの一部が、小径部66によって形成された第2ローラ62外面上の凹部内に入り込む。
【0091】
図11に示すように、用紙接触部64で第2ローラ62の凹部内に入り込む部分は、湾曲しながら大径部65側から小径部66側に向けて突出量を徐々に大きくする湾曲変形部69を形成する。用紙接触部64は弾性変形性と共に所定の形状維持性も有しているので、第2ローラ62の境界部68に密着するほどには変形せず、湾曲変形部69は、第2ローラ62の湾曲接続部67の曲率よりも緩やかな曲率で小径部66に向かう形になる。これにより、第1ローラ61側の湾曲変形部69と、第2ローラ62側の小径部66及び湾曲接続部67との間に、境界部68を頂点とする略三角状の隙間Mが形成される。
【0092】
圧接状態で回転駆動される第1ローラ61の用紙接触部64と第2ローラ62との間を用紙P10が通過する際に、用紙P10のうち搬送方向(副走査方向F2)に延びる幅端部領域は、
図11に示すように形状付けられる。主走査方向F1での用紙P10の幅は、一対の湾曲接続部67の間の大径部65の長さよりも大きく、用紙P10の幅端部領域は大径部65と重ならずに小径部66側に位置する。これにより、用紙P10の幅端部領域は、用紙接触部64と湾曲接続部67に挟まれて下向き(軸線X2側)に湾曲される。第2ローラ62の小径部66は、湾曲接続部67に沿って湾曲された用紙P10には接触しないように、外径サイズ及び主走査方向F1での位置が設定されている。言い換えれば、用紙P10の幅端部領域に対して接触しない逃し形状の部分として小径部66が構成されている。湾曲接続部67に沿って湾曲された用紙P10は、主走査方向F1での最外縁である側縁Eを隙間M内に位置させており、側縁Eは第1ローラ61の用紙接触部64と第2ローラ62のいずれにも接触していない。
【0093】
図11は、分割接触部64aに対応する第1の位置での用紙P10の状態を示しているが、分割接触部64fに対応する第2の位置でも、用紙P10は同様の状態になる。第2の位置では、湾曲接続部67の向き及び小径部66の位置が
図11を左右反転させた構成になり、これに応じて用紙P10の幅端部領域の形状も
図11を左右反転させたものになる。
【0094】
デカール装置60は、上述したデカール装置40と同様に、用紙P10のうち、主走査方向F1に延びる前縁側や後縁側の端部(搬送方向の端部)にカール付けを行って、インクジェットヘッド側に向くカールの発生を抑制させるという基本機能を有する。デカール装置60ではさらに、
図11に示すように、副走査方向F2に延びる用紙P10の両側の幅端部領域(横幅方向の端部)にも同様のカール付けを行って、インクジェットヘッド側に向くカールの発生を抑制することができる。つまり、用紙P10に対して、主走査方向F1を軸とする2辺のカール付けと、副走査方向F2を軸とする2辺のカール付けの両方を行い、4辺が全てカール付けされた状態にできる。用紙P10をデカール装置60からヘッド下搬送ユニット16(
図1及び
図2参照)に搬送したときに、用紙P10の4辺が搬送面17a側に向けてカール付けされていることにより、吸着効果を高めて高精度で安定した搬送を実現できる。
【0095】
一般的に、デカール装置における弾性体ローラ(用紙接触部64に相当)は、用紙に湾曲した形状を形成しやすくするために、比較的軟らかい材質を使用する必要があり、耐摩耗性の確保が課題となる。特に、弾性体ローラのうち、用紙の幅端部領域におけるエッジ(用紙P10の側縁Eに相当)に接触する部分の摩耗が顕著であり、摩耗が進むと用紙に対するカール付けの性能が低下してしまう。デカール装置以外の用紙搬送手段でも、用紙のエッジとの擦れによるローラの摩耗は生じ得る。しかし、デカール装置の場合、比較的軟らかい弾性体ローラを高い接触圧で用紙に接触させるという理由により、弾性体ローラの摩耗が特に生じやすい条件下にあり、その対策が求められる。
【0096】
本実施形態のデカール装置60では、第2ローラ62に大径部65と小径部66を設けて、用紙P10の幅端部領域を、大径部65と重ならず小径部66側に位置させるように構成している。これにより、第1ローラ61と第2ローラ62で用紙P10を挟んだときに、第1ローラ61の用紙接触部64に対する用紙P10の幅端部領域の接触圧を低減させ、用紙P10の側縁Eとの擦れによる用紙接触部64の摩耗や損傷を防いで耐久性を向上させることができる。
【0097】
特に、大径部65から小径部66に進むにつれて用紙接触部64との間隔を大きくする形状(対向する湾曲変形部69よりも曲率が大きい形状)の湾曲接続部67を設け、用紙接触部64と湾曲接続部67との間に、大径部65から小径部66に向けて間隔が広くなる隙間Mを形成している。そして、この隙間M内に用紙P10の側縁Eを位置させている。これにより、用紙P10の側縁Eを用紙接触部64から離間させて、用紙接触部64を摩耗から確実に保護することができる。
【0098】
図11に示すように、隙間Mのうちでも、用紙接触部64と第2ローラ62の間隔が最も大きい(隙間Mの幅が最も広い)境界部68付近に用紙P10の側縁Eが位置しているので、側縁Eを用紙接触部64から確実に離間させることができる。
【0099】
なお、
図11の構成では、用紙P10の側縁Eが第1ローラ61(用紙接触部64)と第2ローラ62の両方から離間しているが、摩耗が生じやすい側のローラ(用紙接触部64)から側縁Eが離間していれば当該ローラの保護効果が得られるので、隙間Mにおいて側縁Eが2つのローラの少なくとも1つから離間するという要件を満たしていればよい。
【0100】
また、デカール装置60では、第1ローラ61と第2ローラ62で用紙P10を挟んだときに、用紙P10の幅端部領域が湾曲接続部67に沿う形状になる。湾曲接続部67は大径部65から小径部66に向けて外径を小さくしており、用紙P10の幅端部領域を湾曲接続部67に沿う形状にさせることで、用紙P10の折れ曲がりや不規則な変形を防いで、用紙P10の幅端部領域を最適にカール付けすることができる。
【0101】
第2ローラ62は、大径部65から湾曲接続部67にかけて段差が無く滑らかに連続しており、第2ローラ62のうち用紙P10や用紙接触部64に接触する部分には、段差や角のような急激に面の向きが変わる箇所(稜線)が存在しない。これにより、第2ローラ62は、用紙接触部64を局所的に摩耗させたり、用紙P10に折れ曲がりのような不可逆的な変形を生じさせたりすることを防止できる。なお、第2ローラ62の境界部68は、隙間Mの最奥部分に位置しており、用紙P10と用紙接触部64のいずれにも接触しないので、境界部68の形状が用紙P10と用紙接触部64に影響を及ぼすことはない。
【0102】
図14は、比較例のデカール装置60’を示している。デカール装置60’の第2ローラ62’は、外径サイズが一定の部分のみで形成されており、本実施形態の小径部66や湾曲接続部67に相当する部分を有していない。軟質の第1ローラ61’と硬質の第2ローラ62’との間に用紙P10’を挟むと、第1ローラ61’には用紙P10’に接触する部分と第2ローラ62’に接触する部分との間に段差が生じ、当該段差部分が用紙P10’の側縁E’に接触する。第1ローラ61’の段差部分と側縁E’との間に強い圧力が加わる状態で用紙P10’を搬送するため、第1ローラ61’のうち側縁E’との接触部分が摩耗しやすくなる。また、強い圧力がかかっている箇所を鋭利な側縁E’が通過することで、第1ローラ61’に切れ込みが入る可能性もある。
【0103】
この比較例に対し、本実施形態のデカール装置60は、第2ローラ62の大径部65で用紙P10の幅端部領域を挟まず、しかも、隙間M内に位置する用紙P10の側縁Eが用紙接触部64に接触しないので、用紙接触部64が用紙P10から局所的に負荷を受ける箇所がなく、用紙接触部64の耐摩耗性を著しく向上させることができる。
【0104】
画像形成装置が複数の用紙幅の使用に対応している場合、デカール装置60による効果をいずれの用紙幅の用紙に適用させるかは、適宜選択できる。
【0105】
まず、第1ローラ61のように主走査方向F1で用紙接触部64が間欠的(部分的)に存在している場合、用紙接触部64が存在する範囲に幅端部領域が位置する用紙が、デカール装置60の適用対象となる。用紙接触部64が存在しない領域に幅端部領域が位置する用紙については、用紙の側縁による用紙接触部64の摩耗が元々生じない。また、このような用紙の幅端部領域に対応する位置に第2ローラ62の小径部66や湾曲接続部67を設けたとしても、小径部66や湾曲接続部67に対向する位置に用紙接触部64が存在しないので、用紙の幅端部領域をカール付けする圧力を加えることができない。
【0106】
例えば、
図3に示す画像形成装置10の場合、用紙幅がP1,P4,P5の用紙については、幅端部領域が第1ローラ41の用紙接触部44と重ならない位置にあるため、デカール装置60のような構成の適用対象から外れる。
【0107】
デカール装置60は、画像形成装置において最も使用頻度が高い用紙幅の用紙に適用するのが好適である。搬送する用紙の枚数が多いほど、用紙の側縁との擦れを起因とする用紙接触部64の摩耗が生じやすくなるため、使用頻度が高い用紙幅の用紙に対応させてデカール装置60を構成することにより、デカール装置60の有用性が高くなる。
【0108】
また、用紙幅の大小関係については、用紙幅が狭い用紙よりも広い用紙に対してデカール装置60を適用することが好ましい。用紙幅が狭い用紙の幅端部領域に対応させて小径部66や湾曲接続部67を設けた場合、用紙幅が広い用紙を搬送する際に、主走査方向F1において、用紙幅が広い用紙の途中(幅端部領域ではない位置)に小径部66や湾曲接続部67が存在することになる。ここで、第1ローラ61と第2ローラ62で用紙を挟む力が強い場合、用紙幅が広い用紙の途中部分が小径部66や湾曲接続部67に押し付けられて、凹みなどの変形を生じる可能性を考慮する必要がある。
【0109】
図8のデカール装置60では、主走査方向F1の両端に配した分割接触部64a,64fに対応する位置に小径部66及び湾曲接続部67を設けている。そのため、幅端部領域が分割接触部64a,64fに達する幅広の用紙P10を搬送する場合にのみ小径部66及び湾曲接続部67が機能し、用紙P10よりも用紙幅が小さい用紙を搬送する際には、小径部66及び湾曲接続部67が影響を及ぼさない。
【0110】
但し、分割接触部64a,64fよりも内側の分割接触部64b,64c,64d,64eに対応する位置に小径部66及び湾曲接続部67を設ける構成を選択することを排除するものではない。例えば、用紙幅が大きい用紙P10の使用頻度が低く、これよりも用紙幅が小さい用紙の使用頻度が高い場合、使用頻度が高い方の用紙に対する効果(用紙接触部64の摩耗抑制、用紙の幅端部領域のカール付け)を優先して、分割接触部64b,64eの位置、あるいは分割接触部64c,64dの位置に、小径部66及び湾曲接続部67を設けてもよい。
【0111】
図12は、デカール装置60を構成する変形例の第2ローラ62Aを示している。第2ローラ62Aは、大径部65と小径部66を接続する部分として、テーパ接続部70を有している。テーパ接続部70は、大径部65から小径部66に進むにつれて外径を徐々に小さくする円錐台状であり、側面視で軸線X2に対する傾斜角が一定である点において、上述した湾曲接続部67とは異なっている。大径部65とテーパ接続部70の間は、湾曲部71によって段差が無く滑らかに接続されている。小径部66とテーパ接続部70が接続する境界部72は角のある形状になっている。小径部66の両側に対称的に一対のテーパ接続部70と一対の湾曲部71が形成されている。
【0112】
圧接状態で回転駆動される第1ローラ61の用紙接触部64(
図12では省略している)と第2ローラ62Aとの間を用紙P11が通過する際に、搬送方向に延びる用紙P11の幅端部領域が、テーパ接続部70と湾曲部71に沿ってカール付けされる。このカール付けによって、インクジェットヘッド側に向くカールの発生を抑制させることができる。
【0113】
また、主走査方向F1での用紙P11の最外縁である側縁Eが、第1ローラ61の用紙接触部64と第2ローラ62Aの大径部65に挟まれた状態ではなくなるため、用紙接触部64に対する側縁Eの接触圧を低減させ、用紙接触部64の摩耗を抑制する効果が得られる。
【0114】
さらに、大径部65からテーパ接続部70にかけて、湾曲部71を介して段差が無く滑らかに連続しており、第2ローラ62Aのうち用紙P11や用紙接触部64に接触する部分には段差や角が存在しない。従って、第2ローラ62Aは、用紙接触部64を局所的に摩耗させたり、用紙P11に折れ曲がりのような不可逆的な変形を生じさせたりすることを防止できる。また、用紙P11の側縁Eは境界部72まで達していないので、境界部72によって用紙P11が屈曲するおそれもない。
【0115】
上述した第2ローラ62の湾曲接続部67は、小径部66に近づくにつれて軸線X2に対する傾斜が大きくなる形状であり、側縁Eを収容する隙間M(
図11参照)を形成しやすい。特に、湾曲変形部69の曲率よりも湾曲接続部67の曲率を大きく設定することで、隙間Mを広くして側縁Eが用紙接触部64に接触しない状態を得ることができる。
【0116】
湾曲接続部67とは異なり、テーパ接続部70は軸線X2に対する傾斜が一定である。そのため、軸線X2に対するテーパ接続部70の傾斜角が小さい場合には、第1ローラ61の用紙接触部64を第2ローラ62Aに圧接させた際に、弾性変形した用紙接触部64がテーパ接続部70にほとんど追従する形状になり、用紙接触部64とテーパ接続部70の間に隙間が形成されにくい可能性がある。しかしながら、第2ローラ62Aを用いた構成は、大径部65に相当する外径サイズの第2ローラ62’で用紙P10’の側縁E’を挟む
図14の比較例よりも、用紙P10の側縁E付近への用紙接触部64の接触圧が低減されるので、用紙接触部64の摩耗を抑制する効果が得られる。
【0117】
また、軸線X2に対するテーパ接続部70の傾斜角を大きくするほど、用紙接触部64がテーパ接続部70の傾きに追従して変形する度合いが低くなる。その結果、用紙接触部64とテーパ接続部70の間に、
図11の隙間Mのような隙間を形成することも可能である。この隙間は、境界部72を頂点として、用紙接触部64と小径部66とテーパ接続部70で囲まれる略三角状になり、当該隙間内に用紙P11の側縁Eを位置させることで、側縁Eが用紙接触部64に接触しない構成にできる。これにより、用紙接触部64の摩耗をより確実に防ぐことができる。
【0118】
テーパ接続部70の好適な傾斜角は、用紙接触部64の材質(軟らかさ)、大径部65から小径部66までの距離、大径部65と小径部66の外形サイズの差、などの条件によっても異なるが、一例として、軸線X2に対するテーパ接続部70の傾斜角を45度以上に設定すると、用紙接触部64の摩耗低減に関して優れた効果を得ることができる。
【0119】
図13に示す変形例の第2ローラ62Bは、大径部65と小径部66をテーパ接続部70及び湾曲部71で接続しており、これらの各部の機能は上述の第2ローラ62Aと共通している。
図13に示す用紙P11は、画像形成装置の搬送経路で搬送される最大幅の用紙であり、この用紙P11が通過する領域までが搬送経路における通紙部分である。通紙部分よりも主走査方向F1の外側(
図13の左手方向)では、第2ローラ62Bを用いて用紙を挟む必要がない。これに応じて、第2ローラ62Bは、小径部66を通紙部分の外側にそのまま延長させた構成にしている。
【0120】
以上で説明したデカール装置60では、第2ローラ62(62A,62B)の大径部65と小径部66を、外径の大きさが徐々に変化する接続部(湾曲接続部67、テーパ接続部70)で接続している。当該構成により、用紙の幅端部領域の形状を適切に設定してカール付けさせることができる。これとは異なり、大径部65に隣接する位置に小径部66を設ける構成でも、用紙の側縁Eとの擦れによる第1ローラ61の用紙接触部64の摩耗を抑制する効果を得ることが可能である。従って、用紙接触部64の摩耗を防ぐという点に着目した場合、大径部65と小径部66の間に湾曲接続部67やテーパ接続部70を備えない形態の第2ローラ62(62A,62B)を用いることも可能である。
【0121】
なお、湾曲接続部67やテーパ接続部70を備えずに、主走査方向F1に対して垂直な面で大径部65と小径部66を接続する場合でも、当該垂直な面と大径部65との境界は段差の無い滑らかな湾曲形状にすることが好ましい。これにより、大径部65の端部に沿って用紙が折れ曲がることや、用紙接触部64に局所的な負荷がかかることを防止できる。
【0122】
デカール装置60では、第2ローラ62(62A,62B)の小径部66を、軸線X2を中心とする円筒状の外面形状にしているが、小径部66の形状はこれに限定されない。小径部66は、デカール装置60を通る用紙に対して接触させない部分であるため、第2ローラ62(62A,62B)の強度を確保して回転駆動に支障が生じない範囲で、任意の形状にすることが可能である。
【0123】
図15及び
図16は、第3の形態のデカール装置80を示している。デカール装置80の基本的な構造は、上述のデカール装置40,60と共通しており、用紙搬送路の上下に振り分けて配置した第1ローラ81と第2ローラ82とを備えている。第1ローラ81は、主走査方向F1に延びる軸線X1を中心として回転可能に支持され、第2ローラ82は、主走査方向F1に延びる軸線X2を中心として回転可能に支持され、それぞれがデカールローラ駆動部(図示略)によって回転駆動される。第1ローラ81は、デカールローラ駆動部によって、第2ローラ82に対する軸間距離を変化させる(接近及び離間させる)動作を行う。
図15と
図16は、第1ローラ81を第2ローラ82に接近させた圧接状態を示している。
【0124】
第1ローラ81は、軸部83の外径側に、軸部83よりも大径の用紙接触部84を有している。用紙接触部84は、弾性変形可能な軟質の材質(スポンジなどの弾性体)で形成されている。第2ローラ82は、第1ローラ81における用紙接触部84よりも小径の円柱状の軸部材であり、用紙接触部84と同様に弾性変形可能な軟質の材質(スポンジなどの弾性体)で形成されている。つまり、デカール装置80は、第1ローラ81の用紙接触部84と第2ローラ82が同程度の硬さの軟質部である点が、上述のデカール装置40,60とは異なっている。
【0125】
デカール装置80のように用紙接触部84と第2ローラ82の硬さ(軟らかさ)が同程度である場合にも、用紙接触部84に比して第2ローラ82の方が小径であることによって、第1ローラ81を第2ローラ82に接近させると、自由状態(初期状態)の用紙接触部84の外形形状よりも内側に第2ローラ82が入り込んで、
図15及び
図16に示す圧接状態になる。なお、圧接状態において、用紙接触部84だけでなく、第2ローラ82の側が上下方向へ僅かに撓んでもよい。
【0126】
用紙接触部84に対して第2ローラ82が入り込むことで、回転駆動される第1ローラ81(用紙接触部84)と第2ローラ82の間を用紙P12が通過する際に、用紙P12は、第2ローラ82の外面に沿う上向きの凸形状になるように形状付けられる(
図15参照)。その結果、用紙P12は、副走査方向F2の前端部が上向きにならずにカールが抑制された状態で搬送される。つまり、デカール装置80は、用紙P12のうち、主走査方向F1に延びる前縁側や後縁側の端部(搬送方向の端部)にカール付けを行って、インクジェットヘッド側に向くカールの発生を抑制させるという基本機能を有する。
【0127】
図示を省略しているが、用紙接触部84は、主走査方向F1に所定の間隔を空けて配置した複数の分割接触部で構成されている。
図15及び
図16に示しているのは、複数の分割接触部のうちの1つである。各分割接触部の外周面は、外部からの力によって変形していない初期状態で、軸線X1を中心とする円筒形状である。
【0128】
図16に示すように、第2ローラ82は、大径部85と小径部86と湾曲接続部87を有している。大径部85、小径部86、湾曲接続部87はそれぞれ、上述した第2ローラ62の大径部65、小径部66、湾曲接続部67と同様の形状及び寸法を有している。つまり、軸線X2を中心とする大径の円柱形状である大径部85と小径の円柱形状である小径部86との間を、大径部85の側から小径部86の側に進むにつれて徐々に外径を小さくする湾曲接続部87で接続している。湾曲接続部87は、軸線X2に沿う断面内で凸の湾曲を有する面であり、大径部85から湾曲接続部87にかけて段差が無く滑らかに連続している。
【0129】
第2ローラ62の長さの大部分を大径部85が占めている。小径部86と湾曲接続部87は、第1ローラ81の用紙接触部84(分割接触部)に対応する位置に設けられている。特に、搬送方向(副走査方向F2)に延びる用紙P12の幅端部領域(主走査方向F1での用紙幅の端部付近)に対応する位置に、小径部86及び湾曲接続部87が位置している。
【0130】
図16には、用紙P12の両側の幅端部領域のうち一方に対応する位置の小径部86及び湾曲接続部87のみを示しているが、用紙P12の両側の幅端部領域のうち他方に対応する位置にも同様に小径部86及び湾曲接続部87が形成されている。これら2箇所の小径部86及び湾曲接続部87は、主走査方向F1で用紙P12の中心を通る中心線に関して対称な構成である。
【0131】
図16に示すように、第1ローラ81と第2ローラ82の圧接状態で、用紙接触部84の一部が、小径部86によって形成された第2ローラ82外面上の凹部内に入り込み、当該箇所では第1ローラ81と第2ローラ82の接触圧が低減される。そして、用紙P12がデカール装置80を通る際に、用紙P12の幅端部領域が、第2ローラ82の大径部85とは重ならずに小径部86側に位置している。つまり、用紙P12の幅端部領域が、第2ローラ82の大径部85による押し付けを受けずに、用紙接触部84と第2ローラ82の間の接触圧が低減された領域を通る。
【0132】
これにより、第1ローラ81と第2ローラ82で用紙P12を挟んだときに、第1ローラ81の用紙接触部84及び第2ローラ82に対する用紙P12の幅端部領域の接触圧が低減される。特に、デカール装置80では、用紙接触部84と第2ローラ82の両方が弾性体からなるため、接触圧を低減させて用紙P12の側縁との擦れによる摩耗や損傷を防ぐことで、用紙接触部84と第2ローラ82の両方の耐久性向上に顕著な効果が得られる。
【0133】
用紙接触部84と小径部86及び湾曲接続部87との間には、上述したデカール装置60における隙間M(
図11参照)と同様に、用紙P12の厚さよりも所定以上広い間隔の隙間が形成されている。この隙間内に用紙P12の側縁が位置しており、用紙P12の側縁が用紙接触部84と第2ローラ82の少なくとも1つから離間している。これにより、用紙接触部84や第2ローラ82を摩耗から確実に保護することができる。なお、用紙接触部84と第2ローラ82がいずれも摩耗しやすい弾性体であるため、隙間内で用紙P12の側縁が用紙接触部84と第2ローラ82の両方から離間するように構成することが望ましい。
【0134】
また、第1ローラ81と第2ローラ82で用紙P12を挟んだときに、用紙P12の幅端部領域が湾曲接続部87に沿う形状になり、インクジェットヘッド側に向くカールの発生を抑制することができる。つまり、用紙P12に対して、主走査方向F1を軸とする2辺のカール付けと、副走査方向F2を軸とする2辺のカール付けの両方を行い、4辺が全てカール付けされた状態にできる。
【0135】
第2ローラ82を用紙接触部84と同等の硬さの弾性体にすることで、湾曲接続部87に沿って用紙P12の幅端部領域を形状付けする際に、用紙接触部84だけでなく、第2ローラ82の側にもある程度の可撓性を持たせることができる。さらに、第2ローラ82の大径部85から湾曲接続部87にかけて、段差が無く滑らかに連続した形状にしている。これらの構成によって、デカール装置80では、小径部86及び湾曲接続部87の付近において、用紙接触部84の局所的な摩耗や、用紙P12の折れ曲がりなどを防止する効果が非常に高くなっている。
【0136】
以上、添付図面に基づく実施の形態及び変形例によって本発明を説明したが、本発明は上述の実施の形態や変形例には限定されず、要旨を逸脱しない範囲で種々の変更や応用を行うことが可能である。上述の実施の形態において、添付図面に図示されている構成や制御等については、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。以下に、本願の出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[付記1]
上流側搬送手段によって斜行補正してから搬送した印刷媒体を、下流側搬送手段の搬送面に保持し、前記下流側搬送手段により搬送される前記印刷媒体に印字手段からインクを吐出して印字する画像形成装置において、
前記上流側搬送手段から前記下流側搬送手段に向けて搬送される前記印刷媒体を、前記印字手段に接触しない状態に形状付けして搬送するカール抑制搬送手段を備え、
前記カール抑制搬送手段を、前記上流側搬送手段と前記下流側搬送手段の間での前記印刷媒体の弛みを妨げない位置に配置したことを特徴とする画像形成装置。
[付記2]
前記印刷媒体の搬送方向で、前記カール抑制搬送手段は、前記下流側搬送手段よりも前記上流側搬送手段に近い位置にあることを特徴とする付記1記載の画像形成装置。
[付記3]
前記上流側搬送手段と前記カール抑制搬送手段は、前記印刷媒体の搬送方向で部分的に重なる関係にあることを特徴とする付記1又は2記載の画像形成装置。
[付記4]
前記上流側搬送手段の搬送力が前記カール抑制搬送手段の搬送力よりも大きく、且つ前記カール抑制搬送手段の搬送速度が前記上流側搬送手段の搬送速度以上であることを特徴とする付記1から3のいずれかに記載の画像形成装置。
[付記5]
前記カール抑制搬送手段は、前記印刷媒体を搬送するときに、搬送方向に対して垂直な方向の複数の箇所で前記印刷媒体に圧接し、該複数箇所の間では前記印刷媒体に圧接しないことを特徴とする付記1からの4のいずれかに記載の画像形成装置。
[付記6]
前記カール抑制搬送手段は、前記印刷媒体の搬送経路の両側に位置する軟質部と硬質部を有し、前記軟質部と前記硬質部が圧接して前記印刷媒体を挟む圧接状態と、前記軟質部と前記硬質部が離間する離間状態とに動作可能であり、
前記カール抑制搬送手段を制御する制御部は、印刷時に前記圧接状態にさせ、印刷完了後に前記離間状態にさせることを特徴とする付記1から5のいずれかに記載の画像形成装置。
[付記7]
前記軟質部と前記硬質部はそれぞれ、前記印刷媒体の搬送方向に対して垂直な軸を中心として回転するローラであり、前記圧接状態で印刷停止した場合に、前記制御部は、次の印刷開始前に前記圧接状態で前記ローラを予備回転させることを特徴とする付記6記載の画像形成装置。
[付記8]
前記カール抑制搬送手段は、前記印刷媒体の搬送経路の両側に位置して前記印刷媒体の搬送方向に対して垂直な軸を中心として回転する第1ローラと第2ローラを有し、前記第1ローラと前記第2ローラが圧接して前記印刷媒体を挟む圧接状態と、前記第1ローラと前記第2ローラが離間する離間状態とに動作可能であり、
前記第2ローラは、前記搬送方向に対して垂直な方向に位置を異ならせて大径部と小径部を有し、
前記搬送方向に延びる前記印刷媒体の幅端部領域を、前記大径部と重ならず前記小径部側に位置させて、前記圧接状態の前記第1ローラと前記第2ローラにより前記印刷媒体を挟むことを特徴とする付記1から5のいずれかに記載の画像形成装置。
[付記9]
前記第2ローラは、前記大径部と前記小径部の間に、前記大径部から前記小径部に向けて外径を小さくする接続部を有し、
前記第1ローラと前記第2ローラの前記圧接状態で、前記印刷媒体の前記幅端部領域が前記接続部に沿う形状になることを特徴とする付記8記載の画像形成装置。
[付記10]
前記第1ローラと前記接続部の間に、前記第1ローラと前記第2ローラの前記圧接状態で前記大径部から前記小径部に向けて間隔が広くなる隙間を有し、前記印刷媒体の前記幅端部領域の側縁が前記第1ローラと前記第2ローラの少なくとも1つから離間して前記隙間内に位置することを特徴とする付記9記載の画像形成装置。
[付記11]
前記第2ローラの前記大径部から前記接続部にかけて段差の無い形状であることを特徴とする付記9又は10記載の画像形成装置。
【符号の説明】
【0137】
10 :画像形成装置
11 :給紙部
13 :印刷部
14 :インクジェットヘッド(印字手段)
15 :排紙部
16 :ヘッド下搬送ユニット(下流側搬送手段)
17 :搬送ベルト
17a :搬送面
30 :斜行補正搬送装置(上流側搬送手段)
31 :第1ローラ
32 :第2ローラ
34 :用紙接触部
34a~34f :分割接触部
35 :第2ローラ
35a :凸部
36 :用紙吸着ガイドローラ(下流側搬送手段)
37 :検知装置
40 :デカール装置(カール抑制搬送手段)
41 :第1ローラ
42 :第2ローラ(硬質部)
44 :用紙接触部(軟質部)
44a~44f :分割接触部
50 :制御部
60 :デカール装置(カール抑制搬送手段)
61 :第1ローラ
62 :第2ローラ(硬質部)
64 :用紙接触部(軟質部)
64a~64f :分割接触部
65 :大径部
66 :小径部
67 :湾曲接続部(接続部)
70 :テーパ接続部(接続部)
71 :湾曲部
80 :デカール装置(カール抑制搬送手段)
81 :第1ローラ
82 :第2ローラ
84 :用紙接触部
85 :大径部
86 :小径部
87 :湾曲接続部(接続部)
E :用紙の側縁
P :用紙(印刷媒体)
P10 :用紙(印刷媒体)
P11 :用紙(印刷媒体)
P12 :用紙(印刷媒体)
M :隙間
T1 :給紙側搬送路
T2 :循環搬送路
T3 :排紙側搬送路