(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】木質構造部材とサッシの取合い構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/94 20060101AFI20241018BHJP
E06B 5/16 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
E04B1/94 H
E06B5/16
(21)【出願番号】P 2020172120
(22)【出願日】2020-10-12
【審査請求日】2023-08-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2020年度日本建築学会大会学術講演梗概集、日本建築学会 発行日 令和2年7月20日 新建築、第95巻10号 株式会社新建築社 発行日 令和2年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 智紀
(72)【発明者】
【氏名】森田 武
(72)【発明者】
【氏名】広田 正之
(72)【発明者】
【氏名】奥山 孝之
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-225130(JP,A)
【文献】特開2020-101021(JP,A)
【文献】特開2020-097847(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/94
E06B 5/16
E04B 1/58
E06B 9/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷重を支持する集成材からなる芯材と、
前記芯材の外側に設けられ、吸熱性および断熱性を有する無機質材料からなる第2燃え止まり層と、
前記第2燃え止まり層の外側に設けられ、加熱により増厚して断熱性を発現するシート状の第1燃え止まり層とを備える木質構造部材の外側に取り付けられるサッシの取合い部の構造であって、
前記第2燃え止まり層は、強化石膏ボードを厚さ方向に積層して構成されており、
前記第1燃え止まり層は、耐火シートで構成されており、
前記サッシは、
前記第1燃え止まり層の外側に設けられた木製の下地材に
、アルミニウム製の下地材を介して取り付けられ
ており、
火災加熱時に、前記木製の下地材が炭化することで、前記耐火シートが発泡可能な発泡しろが形成されるとともに、前記アルミニウム製の下地材が融解することで、前記耐火シートの発泡を妨げる要素がなくなるものであることを特徴とする木質構造部材とサッシの取合い構造。
【請求項2】
前記木製の下地材の厚さが8mm以上であることを特徴とする請求項1に記載の木質構造部材とサッシの取合い構造。
【請求項3】
前記サッシは、
前記木製の下地材を挟んでビスで
前記芯材に取り付けられることを特徴とする請求項1または2に記載の木質構造部材とサッシの取合い構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば耐火シートを用いた木質構造部材とサッシの取合い構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、本特許出願人は、耐火性能を有する木質構造部材として、「スリム耐火ウッド(登録商標)」を開発し、柱と梁において国土交通大臣認定を受けている。この木質構造部材は、荷重支持部材である木材の周囲に耐火被覆材として強化石膏ボード15mm厚2枚と耐火シート2mm厚1枚を張り、その上に木材の化粧材を設けた構成である。
【0003】
このような構成に関し、本特許出願人は既に特許文献1を提案している。この特許文献1に記載の耐火集成材は、荷重を支持する集成材からなる芯材と、芯材の外側に設けられ、吸熱性および断熱性を有する無機質材料からなる第2燃え止まり層と、第2燃え止まり層の外側に設けられ、加熱により増厚して断熱性を発現するシート状の第1燃え止まり層と、第1燃え止まり層の外側に設けられる仕上げ材とを備えるものである。第2燃え止まり層、第1燃え止まり層、仕上げ材がそれぞれ上記の木質構造部材の強化石膏ボード、耐火シート、化粧材に相当する。
【0004】
ところで、柱や梁にはサッシや間仕切り壁などの二次部材が取り付く場合が多い。上記の木質構造部材の柱や梁に二次部材が取り付いた構造においては、所定の耐火性能を確保する必要がある。特に、二次部材との取合い部に関しては、耐火性能が低下しない仕様とすることが求められる。ここで、上記の木質構造部材の柱と梁にサッシが取り付いた場合、以下のような要因により、サッシの取合い部やその周囲で所定の耐火性能を担保できないおそれがある。
【0005】
(1)火災加熱中にサッシが耐火シートの発泡を阻害し、所定の耐火性能を担保できない。
(2)サッシを取り付けるためのビスが火災加熱中に熱橋となり、荷重支持部材の木材の炭化が進行する。
(3)火災加熱中に融解したサッシが耐火性能の低下を引き起こす。
【0006】
このため、サッシの取合い部やその周囲で所定の耐火性能を確保することが求められていた。
【0007】
一方、耐火構造に関連する従来の技術として、例えば、ビス頭に耐火塗料を塗布することで、熱橋を防止するようにした技術が知られている(例えば、特許文献2を参照)。また、耐火補修を目的として窓枠内にモルタルを充填し、窓枠および窓枠が取り合う部材の耐火性能を向上するようにした技術が知られている(例えば、特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-129431号公報
【文献】特開2007-327213号公報
【文献】特開2011-12496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、耐火性能を確保することができる木質構造部材とサッシの取合い構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る木質構造部材とサッシの取合い構造は、荷重を支持する集成材からなる芯材と、芯材の外側に設けられ、吸熱性および断熱性を有する無機質材料からなる第2燃え止まり層と、第2燃え止まり層の外側に設けられ、加熱により増厚して断熱性を発現するシート状の第1燃え止まり層とを備える木質構造部材の外側に取り付けられるサッシの取合い部の構造であって、サッシは、第1燃え止まり層の外側に設けられた木製の下地材に取り付けられることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る他の木質構造部材とサッシの取合い構造は、上述した発明において、木製の下地材の厚さが8mm以上であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る他の木質構造部材とサッシの取合い構造は、上述した発明において、サッシは、木製の下地材を挟んで固着具で芯材に取り付けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る木質構造部材とサッシの取合い構造によれば、荷重を支持する集成材からなる芯材と、芯材の外側に設けられ、吸熱性および断熱性を有する無機質材料からなる第2燃え止まり層と、第2燃え止まり層の外側に設けられ、加熱により増厚して断熱性を発現するシート状の第1燃え止まり層とを備える木質構造部材の外側に取り付けられるサッシの取合い部の構造であって、サッシは、第1燃え止まり層の外側に設けられた木製の下地材に取り付けられるので、火災加熱中にサッシが残存しても、木製の下地材が炭化することで、第1燃え止まり層は正常な機能を発揮することができる。したがって、サッシの取合い部の耐火性能を確保することができるという効果を奏する。
【0014】
また、本発明に係る他の木質構造部材とサッシの取合い構造によれば、木製の下地材の厚さが8mm以上であれば、木製の下地材が炭化することで第1燃え止まり層(例えば耐火シート)が加熱により増厚し、耐火性能を確保できるという効果を奏する。
【0015】
また、本発明に係る他の木質構造部材とサッシの取合い構造によれば、サッシは、木製の下地材を挟んで固着具で芯材に取り付けられるので、サッシと芯材の間に木製の下地材を挟みこむことにより、芯材に対するビスなどの固着具の挿入長さが短くなり、ビスの熱橋による芯材の炭化の進行を軽減することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明に係る木質構造部材とサッシの取合い構造の実施の形態を示す概略断面図である。
【
図3】
図3は、試験体の温度測定位置を示す図である。
【
図4】
図4は、試験体Aのサッシの取合い構造の芯材温度を示す図である。
【
図5】
図5は、試験体Aのビス廻りの芯材表面の状況を示す写真図である。
【
図6】
図6は、試験体Bのビス廻りの芯材表面の状況を示す写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係る木質構造部材とサッシの取合い構造の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0018】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る木質構造部材とサッシの取合い構造10は、木質構造部材12の外側に取り付けられるサッシ14の取合い部の構造である。
【0019】
木質構造部材12は、荷重を支持する集成材からなる芯材16と、芯材16の外側表面に設けられ、吸熱性および断熱性を有する無機質材料からなる第2燃え止まり層18と、第2燃え止まり層18の外側表面に設けられ、加熱により増厚して断熱性を発現するシート状の第1燃え止まり層20と、第1燃え止まり層20の外側に設けられる仕上げ材22とを備える。芯材16、第2燃え止まり層18、第1燃え止まり層20の各間は接着剤等で接合される。本実施の形態の木質構造部材12は、上記の「スリム耐火ウッド(登録商標)」からなる柱を想定しているが、本発明はこれに限るものではない。
【0020】
第2燃え止まり層18は、強化石膏ボード18Aを厚さ方向に2枚積層して構成されている。第1燃え止まり層20は、加熱により発泡する発泡性の耐火シート20Aで構成されている。強化石膏ボード1枚の厚さは15mm程度、耐火シートの厚さは2mm程度を想定しているが、本発明はこれに限るものではない。耐火シート20Aの外側表面には、防水用の防水シート24が厚さ方向に2枚積層して接合されている。防水シート24は省略可能である。仕上げ材22は、木製の化粧材で構成されており、木製の胴縁26を介して最外側の防水シート24の外側表面に取り付けられる。
【0021】
サッシ14は、アルミニウム製の枠体であり、木質構造部材12の外側の一部に取り付けられる。サッシ14の取り付け箇所には、仕上げ材22は設けられていない。この箇所の耐火シート20Aと防水シート24の間には、矩形断面の木製の下地材28が設けられる。下地材28は、芯材16の所定深さまで貫通するビス30(固着具)と、接着剤で周囲に固定される。下地材28は、例えば構造用合板(スギ)などの木質材料を用いて構成することができる。下地材28の厚さDは、厚いほど好ましいが、1時間の耐火性能を確保するために後述するように8mm以上が望ましい。
【0022】
最外側の防水シート24の外側表面には、金属製(例えば鋼製)の下地材32が設けられる。サッシ14は、この下地材32の外側に取り付けられる。下地材32は、芯材16の所定深さまで貫通するビス34(固着具)で固定される。ビス30、34は、例えばステンレスねじで構成することができる。木製の下地材28を固定するビス30を省略して、ビス34で2つの下地材28、32の両方を芯材16に対して取り付けてもよい。
【0023】
本実施の形態によれば、火災加熱中にサッシ14が残存しても、木製の下地材28が炭化することで、耐火シート20Aが発泡可能となり、耐火シート20Aの正常な機能を発揮することができる。したがって、サッシ14の取合い部の耐火性能を確保することができる。また、木製の下地材28を設けることにより、芯材16に対してサッシ14を取り付けるビス30、34の挿入長さが短くなり、ビス30、34の熱橋による芯材16の炭化の進行を軽減することができる。
【0024】
(本発明の効果の検証)
次に、本発明の効果を検証するために行った試験および結果について説明する。
【0025】
試験体として、
図1のような断面形状の試験体を作製した。
図2に、試験体の仕様を示す。この図に示すように、木製の下地材28として、試験体Aでは構造用合板(スギ)8mm厚を、試験体Bでは15mm厚を用いた。下地材28の取付方法は、ビス30と接着剤(酢酸ビニル樹脂系接着剤)の併用とした。また、防水シート24は2mm厚の防水シート(ゴムアスファルト系)を用いた。なお、有機量を大きくすることで厳しい条件下で耐火試験を行うという目的で、防水シート24は2層張り付けることとした。
【0026】
サッシ14にはアルミサッシ(ビル用サッシ)を用いた。アルミサッシの取付方法としては、まず木製の下地材28の裏面に接着剤を塗布し、その後、防水シート24を貼り付けた。この下地材28を耐火シート20Aの表面に張り付けてからビス30で留付けた。その後、鋼製の下地材32を木製の下地材28部分にビス34で留付けて、鋼製の下地材32にアルミサッシ本体をビスで取り付けた。また、鋼製の下地材32とアルミサッシが取り合う部分にはシーリング材(ゴムアスファルト系シーリング材)を注入した。なお、アルミサッシにガラス等は設置せず、アルミサッシ枠のみを再現した。
【0027】
このように製作した試験体A、Bに対する耐火実験を行い、試験体内部の温度を測定した。これにより、アルミサッシ枠が取り合う部分の1時間の耐火性能と、サッシ取付用ビス34の熱橋としての影響を調べた。
図3に、試験体における温度測定位置を示す。
図4に、各測定位置の芯材温度の時間推移を示す。この図に示すように、サッシ取合部の芯材温度は最大120.1℃となり、芯材16が炭化する温度まで至らなかった。
【0028】
図5および
図6に、火災加熱後の試験体の外観と、試験体からサッシを撤去した後のビス廻りの芯材表面の外観を示す。これらの図に示すように、試験体A、Bともにサッシ取付用ビス34(ステンレスビス、L=90mm)の廻りの芯材16は変色していたが炭化はしていなかった。加熱後に手で引き抜くことができるビスはなかった。このため、加熱後もビス34の引抜き耐力は十分に残存していたと考えられる。
【0029】
これらの実験結果より、サッシ14が燃え残ったとしても、木製の下地材28が炭化することで耐火シート20Aが発泡できるだけの隙間が生じるので、サッシ取合い部やその周囲についても、柱や梁単体と同様の耐火性能を担保することができる。また、サッシ取付用のビス34が芯材16に到達していても、熱橋により芯材16の炭化が進行することはなく、ビス34の引抜き耐力も残存する。
【0030】
木製の下地材28の厚さDが大きくなれば、断熱性能が上がるため、サッシ取合い部の耐火性能は向上すると考えられる。また、木製の下地材28の厚さDを大きくした場合でも下地材28の入隅部は炭化するので、耐火シート20Aの発泡しろができ、耐火性能は担保される。したがって、木製の下地材28の厚さDを8mm以上確保すれば、幅の寸法を変えたとしても耐火性能は担保されると考えられる。
【0031】
上記の実験では、アルミサッシ取付用の下地材32は鋼製であったため、火災加熱後も残存した。このアルミサッシ取付用の下地材32にアルミ等の高温で融解するような材料を用いることで、火災加熱時には融解し耐火シート20Aの発泡を妨げる要素をなくすことが可能となる。
【0032】
以上説明したように、本発明に係る木質構造部材とサッシの取合い構造によれば、荷重を支持する集成材からなる芯材と、芯材の外側に設けられ、吸熱性および断熱性を有する無機質材料からなる第2燃え止まり層と、第2燃え止まり層の外側に設けられ、加熱により増厚して断熱性を発現するシート状の第1燃え止まり層とを備える木質構造部材の外側に取り付けられるサッシの取合い部の構造であって、サッシは、第1燃え止まり層の外側に設けられた木製の下地材に取り付けられるので、火災加熱中にサッシが残存しても、木製の下地材が炭化することで、第1燃え止まり層は正常な機能を発揮することができる。したがって、サッシの取合い部の耐火性能を確保することができる。
【0033】
また、本発明に係る他の木質構造部材とサッシの取合い構造によれば、木製の下地材の厚さが8mm以上であれば、木製の下地材が炭化することで第1燃え止まり層(例えば耐火シート)が加熱により増厚し、耐火性能を確保できる。
【0034】
また、本発明に係る他の木質構造部材とサッシの取合い構造によれば、サッシは、木製の下地材を挟んで固着具で芯材に取り付けられるので、サッシと芯材の間に木製の下地材を挟みこむことにより、芯材に対するビスなどの固着具の挿入長さが短くなり、ビスの熱橋による芯材の炭化の進行を軽減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
以上のように、本発明に係る木質構造部材とサッシの取合い構造は、耐火性の木質構造部材の外側にサッシを取り付ける場合に有用であり、特に、サッシの取合い部の耐火性能を確保するのに適している。
【符号の説明】
【0036】
10 木質構造部材とサッシの取合い構造
12 木質構造部材
14 サッシ
16 芯材
18 第2燃え止まり層
18A 強化石膏ボード
20 第1燃え止まり層
20A 耐火シート
22 仕上げ材
24 防水シート
26 胴縁
28,32 下地材
30,34 ビス(固着具)
D 厚さ