(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】エネルギー線管
(51)【国際特許分類】
H01J 35/16 20060101AFI20241018BHJP
H01J 35/18 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
H01J35/16
H01J35/18
(21)【出願番号】P 2020182959
(22)【出願日】2020-10-30
【審査請求日】2023-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100206966
【氏名又は名称】崎山 翔一
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 銀治
(72)【発明者】
【氏名】清水 亮迪
(72)【発明者】
【氏名】石井 淳
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-009753(JP,A)
【文献】特許第6683903(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 35/16-35/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口が形成されていると共に、前記開口を画定する縁部を含んでいる筐体部と、
前記開口の開口方向から見た場合に前記開口を覆っていると共に、エネルギー線を透過する窓を含んでいる窓部と、
前記窓部を前記筐体部に対して固定すると共に、前記筐体部と前記窓部とに囲まれた内部空間を封止する封止部と、を備え、
前記窓部は、エネルギー線を透過する窓と、前記窓を保持している窓保持部材とを含んでおり、
前記封止部は、前記窓部の表面のうち前記開口の縁に沿った枠状の領域に配置されており、
前記縁部における前記筐体部の厚さをd、前記領域における前記窓保持部材の厚さをt、前記領域の幅をwとした場合において、
w/d≧1、及び、t/d≧0.3の関係式が満たされて
おり、
前記封止部は、ロウ付けによって形成されている、エネルギー線管。
【請求項2】
開口が形成されていると共に、前記開口を画定する縁部を含んでいる筐体部と、
前記開口の開口方向から見た場合に前記開口を覆っていると共に、エネルギー線を透過する窓を含んでいる窓部と、
前記窓部を前記筐体部に対して固定すると共に、前記筐体部と前記窓部とに囲まれた内部空間を封止する封止部と、を備え、
前記窓部は、エネルギー線を透過する窓と、前記窓を保持している窓保持部材とを含んでおり、
前記封止部は、前記窓部の表面のうち前記開口の縁に沿った枠状の領域に配置されており、
前記縁部における前記筐体部の厚さをd、前記領域における前記窓保持部材の厚さをt、前記領域の幅をwとした場合において、
w/d≧1、及び、t/d≧0.3の関係式が満たされており、
前記開口の縁に沿って設けられていると共に前記筐体部に溶接によって固定されている枠部をさらに備え、
前記封止部は、前記窓保持部材と前記枠部とを固定している
、エネルギー線管。
【請求項3】
前記枠部は、前記開口の開口方向から見た場合に、前記窓保持部材よりも外側において前記筐体部に固定されている、請求項
2に記載のエネルギー線管。
【請求項4】
前記封止部は、前記開口方向から見て、前記内部空間と重なって位置している、請求項
2又は
3に記載のエネルギー線管。
【請求項5】
前記窓保持部材は、前記開口の開口方向において前記縁部に対向している端部を含んでいる、請求項1から
4のいずれか一項に記載のエネルギー線管。
【請求項6】
0.5mm≦d≦20mmの関係式と、
0.5mm≦t≦10mmの関係式と、
1.0mm≦w≦20mmの関係式と、の少なくとも1つが満たされている、請求項1から
5のいずれか一項に記載のエネルギー線管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー線管に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー線を照射又は入射するエネルギー線管が知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1には、エネルギー線を放出させる透過型のエネルギー線管が記載されている。このエネルギー線管は、筐体部と筐体部に設けられた窓部とを備えている。窓部は、エネルギー線を透過する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エネルギー線管において、筐体部の内部空間は封止されている。上記エネルギー線管において内部空間は、真空状態に保たれている。しかし、内部空間の封止状態は、様々な要因によって生じる応力によって損なわれるおそれがある。例えば、真空封止する際においては、加熱工程が行われる場合が多い。この加熱工程において、エネルギー線管は高温に加熱された後に常温に戻される。この際、窓部と筐体部との熱膨張係数との差に起因した熱応力が、窓部を筐体部に固定する固定部分に生じる場合がある。この場合、熱応力によって、上記固定部分に歪みが生じるおそれがある。上記固定部分における歪みの発生によって、当該固定部分が破損し、内部空間の封止状態が損なわれるおそれがある。例えば、製造時において封止状態が損なわれれば、生産効率の低下が生じ得る。
【0005】
本発明の一つの態様は、内部空間の封止状態が損なわれることが抑制され得るエネルギー線管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つの態様におけるエネルギー線管は、筐体部と窓部と封止部とを備えている。筐体部には、開口が形成されていると共に、開口を画定する縁部を含んでいる。窓部は、開口の開口方向から見た場合に開口を覆っていると共に、エネルギー線を透過する窓を含んでいる。封止部は、窓部を筐体部に対して固定すると共に、筐体部と窓部とに囲まれた内部空間を封止する。封止部は、窓部における開口の縁に沿った枠状の領域に配置されている。領域における窓部の厚さをt、領域の幅をw、縁部における筐体部の厚さをdとした場合において、w/d≧1、及び、t/d≧0.3の関係式が満たされている。
【0007】
上記一つの態様において、エネルギー線管は、窓部を筐体部に対して固定する上記封止部を備えている。エネルギー線管が上記関係式を満たすように構成される場合、内部空間の封止状態が損なわれ難い。
【0008】
上記一つの態様において、封止部は、ロウ付けによって形成されていてもよい。この場合、内部空間が製造容易な構成において封止され得る。
【0009】
上記一つの態様において、開口の縁に沿って設けられていると共に筐体部に溶接によって固定されている枠部をさらに備えてもよい。封止部は、窓部と枠部とを固定していてもよい。この場合、内部空間が容易に封止され得る。
【0010】
上記一つの態様において、枠部は、開口の開口方向から見た場合に、窓部よりも外側において筐体部に固定されていてもよい。この場合、枠部と筐体部とが容易に溶接され得る。
【0011】
上記一つの態様において、窓部は、開口の開口方向において縁部に対向している端部を含んでいてもよい。この場合、窓部と筐体部との間における変位が抑制される。このため、内部空間の封止状態が損なわれ難い。
【0012】
上記一つの態様において、0.5mm≦d≦20mmの関係式と、0.5mm≦t≦10mmの関係式と、1.0mm≦w≦20mmの関係式と、の少なくとも1つが満たされていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一つの態様は、内部空間の封止状態が損なわれることが抑制され得るエネルギー線管を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態におけるエネルギー線発生装置を示す断面図である。
【
図7】エネルギー線管に付与される応力を説明するための図である。
【
図8】(a)~(c)は、比較例のエネルギー線管において窓部に生じたクラックを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有している要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0016】
まず、
図1及び
図2を参照して、本実施形態におけるエネルギー線管の構成を説明する。
図1は、本実施形態におけるエネルギー線発生装置の構成を示す概略図である。
図2は、本実施形態におけるエネルギー線管の縦断面図である。
図1及び
図2に示されるように、エネルギー線発生装置100は、例えば、X線を照射するX線発生装置である。X軸方向、Y軸方向、Z軸方向は、互いに直交している。本実施形態において、X線は、Z軸方向に照射される。エネルギー線発生装置100は、装置筐体1と、電源部2と、エネルギー線管3とを備えている。
【0017】
装置筐体1は、筒部材10と、電源部ケース20と、を備える。筒部材10は、金属により形成されている。筒部材10は、その一方の端部に開口10aが形成され、他方の端部に開口10bが形成されている円筒状を呈する。筒部材10は、開口10aにエネルギー線管3の一部が挿入されている。
【0018】
筒部材10の一方の端部には、エネルギー線管3の取付フランジ3aが当接され且つネジ等で固定されている。エネルギー線管3は、筒部材10の開口10aにて固定され、開口10aを封止している。筒部材10の内部には、液状の電気絶縁性物質である絶縁油11が封入されている。
【0019】
電源部2は、エネルギー線管3に電力を供給する。電源部2は、上述した電源部ケース20に加えて、絶縁ブロック21と、昇圧回路22と、制御基板23と、を有している。電源部ケース20は、絶縁ブロック21と、昇圧回路22と、制御基板23とを収容している。絶縁ブロック21は、モールド成形された固形の絶縁材料、例えば絶縁樹脂であるエポキシ樹脂からなる。昇圧回路22は、絶縁ブロック21中にモールドされている。昇圧回路22は、高電圧Vを発生させる。絶縁ブロック21は、昇圧回路22を絶縁材料により封止している。制御基板23は、エネルギー線発生装置100の動作を制御する。制御基板23は、エネルギー線の発生に関する制御を行う。制御基板23は、例えばエネルギー線管3に供給する電圧又は電流の制御、及び、昇圧回路22の駆動を制御する。制御基板23は、絶縁ブロック21中にモールドされた内部基板23aと、絶縁ブロック21の外部に配置された外部基板23bとを有している。
【0020】
電源部2には、筒部材10の他方の端部が固定されている。それにより、筒部材10の開口10bが封止され、絶縁油11が筒部材10の内部に気密に封入される。開口10bは、開口10aの反対側に位置する。
【0021】
エネルギー線発生装置100は、高電圧給電部4をさらに備えている。高電圧給電部4は、絶縁ブロック21上に配置されている。高電圧給電部4は、昇圧回路22及び制御基板23に電気的に接続された円筒状のソケットを含んでいる。エネルギー線管3は、高電圧給電部4を介して電源部2に電気的に接続されている。これと共に、高電圧給電部4は、昇圧回路22及び制御基板23に電気的に接続された状態で絶縁ブロック21に固定されている。
【0022】
エネルギー線管3は、後述する内部空間Rにおいて発生したX線を外部に照射するX線管である。エネルギー線管3は、絶縁バルブ6とヘッド部7とを備えている。絶縁バルブ6は、絶縁性材料により形成されている。絶縁性材料としては、例えばガラス、セラミック等が挙げられる。絶縁バルブ6は、例えば、ガラス又はセラミックからなる。絶縁バルブ6は、筒部材10に挿入されている。ヘッド部7は、金属を含んでいる。金属材料としては、例えばステンレス鋼、コバール等が挙げられる。ヘッド部7は、例えば、ステンレス鋼又はコバールからなる。絶縁バルブ6とヘッド部7とは、内部空間Rを形成している。内部空間Rは、真空空間となるように封止されている。エネルギー線管3は、内部空間R内に、電子銃110をさらに備えている。電子銃110は、電位的にエネルギー線管3の陰極に相当し、電子ビームBを発生し、出射する。
【0023】
電子銃110は、絶縁バルブ6に固定されている。絶縁バルブ6は、エネルギー線管3の管軸に沿って延在する円筒状を呈している。絶縁バルブ6は、ヘッド部7に対向する底部6aを有している。底部6aには、電子銃110の給電等に用いるステムピンSが設けられている。ステムピンSは、底部6aを貫通しており、内部空間Rの所定位置で電子銃110を支持する。ステムピンSは、エネルギー線管3の絶縁バルブ6の底部6aから内部空間Rの外部に突出し、高電圧給電部4に電気的に接続されている。
【0024】
電子銃110は、ヒータ111と、カソード112と、第一グリッド電極113と、第二グリッド電極114と、を有している。ヒータ111は、通電によって発熱するフィラメントにより形成されている。カソード112は、ヒータ111による加熱によって電子を放出する。第一グリッド電極113は、カソード112から放出される電子の量を制御する。第二グリッド電極114は、第一グリッド電極113を通過した電子をターゲットTに向けて集束する。第二グリッド電極114は、円筒状を呈している。第一グリッド電極113は、カソード112と第二グリッド電極114との間に配置されている。エネルギー線管3は、筒部材10の一方の端部に固定されている。
【0025】
ヘッド部7は、電位的にエネルギー線管3の陽極に相当する。ヘッド部7は、X線の出射方向軸と同軸の円筒状を呈する。X線の出射方向軸は、Z軸に相当する。ヘッド部7には、内部空間Rの一部を構成する中空部7aが形成されている。ヘッド部7は、中空部7aの電子銃110側において、出射方向軸と同軸の絶縁バルブ6と連通している。本実施形態においては、ヘッド部7を接地電位とし、電源部2からはマイナスの高電圧が高電圧給電部4を介してエネルギー線管3の電子銃110に供給される。電源部2によってエネルギー線管3に付与される電圧は、例えば-10kV~-500kVである。
【0026】
次に、
図2から
図4を参照して、エネルギー線管の構造についてさらに詳細に説明する。
図3は、エネルギー線管3のヘッド部7を示している。
図4は、ヘッド部7の部分拡大図である。
図3及び
図4に示されているように、ヘッド部7は、筐体部40と窓部50と枠部60とを備えている。内部空間Rは、筐体部40と窓部50とに囲まれている。筐体部40と窓部50と枠部60とは、内部空間Rの一部を形成している。
【0027】
筐体部40は、筒状を呈している。例えば、筐体部40は、円筒状を呈している。筐体部40は、Z軸方向に延在している。筐体部40には、一方の端部側に開口40aが形成され、他方の端部側に開口40bが形成されている。筐体部40は、開口40aを画定する縁部41を含んでいる。縁部41は、筐体部40の一方側端面において、全周にわたり、深さhとなるようにザグリ加工された円環状の平面部である。縁部41は、エネルギー線管3の管軸方向と交わる方向に沿って延びる平面状の底面45と、エネルギー線管3の管軸方向に沿って延びる側面46とを含んでいる。本実施形態において、エネルギー線管3の管軸方向は、Z軸方向に相当する。開口40a,40bは、Z軸方向に開口している。換言すれば、開口40a,40bの開口方向は、Z軸方向である。筐体部40の開口40a,40bは、内部空間Rに連続している。開口40aは、内部空間Rの縁に位置している。筐体部40は、金属を含んでいる。筐体部40は、主に金属材料によって形成されている。金属材料としては、例えばステンレス鋼が挙げられる。筐体部40は、例えばステンレス鋼からなる。
【0028】
窓部50は、エネルギー線を透過する窓を構成する。窓部50は、Z軸方向から見た場合に開口40aを覆っている。窓部50は、端部51と、中央部52とを含んでいる。端部51は、縁端領域である。中央部52は、端部51に囲まれており、後述する窓53が配置される中央領域である。窓部50には、中央部52の略中心に貫通孔Hが形成されている。貫通孔Hは、電子ビームBの通過孔である。中央部52は、端部51に連続している。端部51は、枠状の領域であって、Z軸方向において縁部41に対向している。例えば、端部51は、円環状を呈している。中央部52は、Z軸方向から見た場合に、開口40aを覆っている。本実施形態においては、端部51と中央部52とは一体の部材であり、厳密な境界をもって区分されるものではなく、窓部50におけるおおよその領域を定義したものである。中央部52は、Z軸方向において縁部41に面していない。窓部50は、ターゲットTと、窓53と、窓保持部材54とを含んでいる。
図2に示されているように、ターゲットTは、窓53の内部空間R側の面上に設けられており、電子銃110からの電子ビームBの照射によってX線を発生する。ターゲットTは、例えばタングステン等が挙げられる。ターゲットTは、例えばタングステンからなる。
【0029】
窓53は、エネルギー線を透過する。窓53は、中央部52に配置されている。窓53は、貫通孔Hを塞いで、封止している。換言すれば、窓53は、中央部52の一部を構成している。窓53は、円板形状を呈している。窓53は、内部空間R側においてターゲットTを保持している。本実施形態において、エネルギー線管3は、透過型のX線管であり、ターゲットTにおいて発生したX線は、窓53を透過して外部に照射される。窓53は、例えば、エネルギー線に対して透過性の高い材料で形成されている。窓53の材料としては、例えば、ベリリウム、ダイヤモンド等が挙げられる。窓53は、例えば、ベリリウム又はダイヤモンドからなる。
【0030】
窓保持部材54は、窓部50の本体部を構成し、窓53を保持している。窓保持部材54によって、窓53が位置決めされる。窓保持部材54は、円板形状を呈している。本実施形態において、窓保持部材54は、端部51と中央部52とによって構成されている。つまり、窓保持部材54は、Z軸方向において、端部51において縁部41に対向しており、中央部52において開口40aを覆っている。窓保持部材54は、例えば、金属材料からなる。金属材料としては、例えばモリブデン等が挙げられる。窓保持部材54は、例えば、モリブデンからなる。
【0031】
枠部60は、窓部50を筐体部40に固定する。枠部60は、縁部41に沿って連続して設けられており、枠状を呈している。枠部60は、分断されることなく枠状に連続して形成されている。例えば、枠部60は、円環状を呈している。
図4に示されているように、枠部60は、窓部50の窓保持部材54と筐体部40の縁部41とに固定されている。この結果、内部空間Rは、気密に封止されている。枠部60は、例えば、金属材料からなる。金属材料としては、例えばコバール等が挙げられる。枠部60は、例えば、コバールからなる。筐体部40の熱膨張係数は、窓部50の熱膨張係数よりも大きい。筐体部40の熱膨張係数は、窓保持部材54の熱膨張係数よりも大きい。本実施形態において、筐体部40の縁部41の熱膨張係数は、窓53、窓保持部材54、及び枠部60の熱膨張係数よりも大きい。枠部60の熱膨張係数は、窓保持部材54の熱膨張係数とほぼ等しい。窓53の熱膨張係数は、筐体部40、窓保持部材54及び枠部60のいずれの熱膨張係数よりも小さい。枠部60の熱膨張係数は、窓保持部材54の熱膨張係数とほぼ等しい。窓53の熱膨張係数は、筐体部40、窓保持部材54及び枠部60のいずれの熱膨張係数よりも小さい。
【0032】
枠部60は、第一枠部61と、第二枠部62とを含んでいる。本実施形態において、第一枠部61と第二枠部62とは、それぞれ、枠状を呈しており、一体に形成されている。第一枠部61と第二枠部62とは、Z軸方向に直交するX軸方向及びY軸方向において、同一平面上に位置している。
【0033】
第一枠部61は、筐体部40の縁部41に固定されている。第一枠部61は、エネルギー線管3の管軸から離れる方向側の端部において、枠部60の外縁61aを形成している。縁部41は、第一枠部61の他方側の面と対向する底面45と、外縁61aと対向する側面46とを有している。第一枠部61は、例えば、溶接によって筐体部40に接合されている。第一枠部61は、外縁61a側の端部領域において、例えば、レーザ溶接によって筐体部40に接合されている。第一枠部61の少なくとも一部は、Z軸方向から見た場合に、窓部50よりも外側に位置している。外縁61a側の端部領域は、Z軸方向から見た場合に、窓部50よりも外側に位置している。第一枠部61の少なくとも一部は、Z軸方向から見た場合に、窓部50に覆われることなく、露出している。よって、レーザ溶接において、レーザが窓部50に遮られることなく溶接部に照射される。
【0034】
第二枠部62は、Z軸方向から見た場合に、中央部52と重なるように配置されている。換言すれば、第二枠部62は、Z軸方向から見た場合に、開口40aと重なる領域内に配置されている。第二枠部62は、Z軸方向から見た場合に、縁部41と重なっていない。第二枠部62は、窓部50に固定されている。第二枠部62は、内部空間R側における窓部50の表面50aのうち、中央部52に相当する部位に接合されている。表面50aは、窓部50の表面のうち開口40aに対向する面である。
【0035】
本実施形態において、ヘッド部7は、封止部70をさらに備えている。封止部70は、固定部材71を含んでおり、内部空間Rを封止すると共に枠部60と窓部50とを固定している固定部材71により封止されている。封止部70の固定部材71は、第二枠部62と窓部50との間に配置されている。封止部70の固定部材71は、第二枠部62の一方側の面と窓部50の表面50aとを接合している。封止部70の固定部材71は、表面50aのうち開口40aの縁に沿った枠状の領域αに配置されている。枠状の領域αは、連続している。領域αは、中央部52に位置する。換言すれば、封止部70の固定部材71は、分断されることなく連続してエネルギー線管3の管軸を囲っている。封止部70の固定部材71は、例えば、円環形状を呈している。封止部70は、例えば、ロウ付けによって形成されている。換言すれば、枠部60は、例えば、ロウ付けによって窓部50に接合されている。この場合、固定部材71は、ロウ材によって構成されている。ロウ材としては、例えば、合金が挙げられる。例えば、合金としては、銀ロウが挙げられる。
【0036】
エネルギー線管3において、縁部41における筐体部40の厚さをd、領域αにおける窓部50の厚さをt、領域αの幅をwとした場合において、w/d≧1、及び、t/d≧0.3の関係式が満たされている。筐体部40の厚さdは、内部空間Rの内側から外側における筐体部40の厚さである。筐体部40の厚さdは、例えば、筐体部40のうち、開口方向に直交するX軸方向又はY軸方向において内部空間Rを囲む部分の厚さである。窓部50の厚さtは、例えば、Z軸方向における窓保持部材54の厚さである。領域αの幅wは、Z軸方向に直交する方向において連続する1つの部分の長さである。領域αの幅wは、例えば、Z軸方向と直交する方向における封止部70の固定部材71の幅と同一である。封止部70の固定部材71の幅は、Z軸方向に直交する方向の断面における連続する1つの部分において、断面方向の長さである。領域αの幅wは、例えば、枠形状の封止部70の固定部材71の枠幅と同一である。
【0037】
筐体部40の厚さdが大きいほど、筐体部40の強度が向上する。筐体部40の厚さdが小さいほど、筐体部40の重さ及び材料費が低減される。筐体部40の厚さdは、例えば、0.5mm≦d≦20mmの関係式を満たしている。換言すれば、筐体部40の厚さdは、例えば、0.5mm以上20mm以下である。この場合、筐体部40における強度と重さ及び材料費とのバランスが図られる。厚さdは、さらに好ましくは、10mm以下である。筐体部40の厚さdが0.5mm以上10mm以下である場合、筐体部40における強度が確保されつつ、重さ及び材料費がさらに低減され得る。
【0038】
筐体部40の厚さdは、例えば、0.5mm≦d≦20mmの関係式を満たしている。厚さdは、さらに好ましくは、10mm以下である。窓部50の厚さtは、例えば、0.5mm≦t≦10mmの関係式を満たしている。厚さtは、さらに好ましくは、7mm以下である。領域αの幅wは、例えば、1.0mm≦w≦20mmの関係式を満たしている。幅wは、さらに好ましくは、15mm以下である。幅wは、さらに好ましくは、3mm以上である。
【0039】
次に、
図5及び
図6を参照して、エネルギー線管の製造方法の一部を説明する。
図5及び
図6は、エネルギー線管の製造工程を示す図である。
【0040】
まず、
図5に示されているように、ターゲットTを設けた窓53と、窓保持部材54と、枠部60とが、互いに接続される。矢印A1は、窓53が窓保持部材54に取り付けられる方向を示している。矢印A2は、窓保持部材54が枠部60に取り付けられる方向を示している。窓53は、窓保持部材54の中央部52の中央に固定される。枠部60は、窓保持部材54に対してロウ付けによって固定される。具体的には、窓保持部材54に対して第二枠部62の一方側の面と、ロウ付けによって固定される。この際、窓53と直交する方向において、窓保持部材54と第二枠部62とが重ね合わされる。ロウ付けは、例えば、600~1000℃で行われる。
【0041】
次に、窓53と、窓保持部材54と、枠部60とが互いに接続されたユニット80に対して、真空加熱処理が行われる。真空加熱処理は、例えば、200~1000℃で行われる。
【0042】
次に、
図6に示されているように、ユニット80が筐体部40に対して固定される。矢印A3は、ユニット80が筐体部40に取り付けられる方向を示している。これによって、ユニット80が筐体部40の縁部41に嵌め込まれる。ユニット80が筐体部40の縁部41に嵌め込まれている状態において、枠部60と筐体部40とが溶接によって固定される。具体的には、枠部60の第一枠部61と筐体部40とが、レーザによって溶接される。ユニット80と筐体部40との接合は、室温で行われる。
【0043】
次に、ユニット80と筐体部40とが接続されたユニット90に絶縁バルブ6などを組み合わせた後に、内部空間Rが真空引きされる。この際の加熱工程は、例えば、200~650℃で行われる。エネルギー線管3は、加熱工程によって内部空間Rが真空引きされた後に封止され、室温に冷却される。以上の工程が行われることによって、エネルギー線管3が製造される。
【0044】
次に、エネルギー線管3の作用効果について説明する。
図7は、エネルギー線管3の封止部70にかかる力を示している。例えば、エネルギー線管3が高温環境下に置かれた場合、筐体部40は、Z軸方向と直交する方向に熱膨張する。枠部60は、底面45において筐体部40に固定されている。枠部60は、領域αにおいて、固定部材71によって窓部50に固定されている。筐体部40の熱膨張係数が、窓部50及び枠部60の熱膨張係数よりも大きい場合、同じ加熱条件下において、筐体部40は、窓部50及び枠部60よりも相対的に大きく膨張する。換言すれば、筐体部40は、窓部50及び枠部60よりも相対的に大きく変形する。換言すれば、窓部50及び枠部60は、筐体部40よりも熱によって相対的に変形し難い。このため、筐体部40と窓部50及び枠部60の熱膨張係数差に起因した力A4及び力A5が、封止部70に付与される。
【0045】
力A4及び力A5は、Z軸方向と直交する方向において互いに逆向きに生じる力である。このため、力A4,A5による応力が封止部70にかかる。この応力は、剪断応力である。この応力の大きさが封止部70の機械的強度を上回る場合、封止部70において亀裂等の損傷が生じ、内部空間Rの封止状態が損なわれるおそれがあった。
【0046】
領域αにおける剪断応力は、Z軸方向と直交する方向に封止部70に付与される力を領域αの面積によって除算した値である。このため、領域αの面積が大きいほど剪断応力が小さく、封止状態が損なわれるが解消されると考えられる。しかしながら、調査研究の結果、領域αの面積が大きいほど、クラックの発生によって窓部50が破損する頻度が高くなった。クラックが発生することにより、内部空間Rの封止状態が損なわれるおそれがある。
【0047】
本願発明者は、様々な条件のエネルギー線管において、加熱工程によって内部空間Rの真空引きを行った。例えば、領域αにおける窓部50の厚さをt、領域αの幅をw、内部空間の内側から外側における筐体部の厚さをdとした場合において、t、d、及び、wをパラメータとして複数のサンプルを作成し、各サンプルに対して加熱工程による真空引きをする実験を行った。同一のパラメータについても複数のサンプルを作成した。これらのサンプルにおいて、窓部50の窓保持部材54は、モリブデンによって形成されており、封止部70は銀ロウによって形成されていた。
【0048】
この結果、t=1mm、d=4.5mm、w=3.5mmであるエネルギー線管において、封止部70が破損した。t=1mm、d=4.5mm、w=6mmであるエネルギー線管と、窓部50が破損した。t=1mm、d=4.5mm、w=9mmであるエネルギー線管とにおいて、窓部50が破損した。t=2mm、d=4.5mm、w=6mmであるエネルギー線管においては、封止部70も窓部50も破損しなかった。
【0049】
図8(a)から
図8(c)は、比較例のエネルギー線管のおいて窓部に生じたクラックを説明するための図である。筐体部40と窓部50との間における接合強度が高すぎる場合、窓部50にクラックが生じ得る。この比較例の構成では、エネルギー線管が封止部70の代わりに封止部200を備えている。封止部200は、Z軸方向と直交する方向において封止部70の幅よりも大きい幅を有している点において、封止部70と相違する。換言すれば、この比較例における領域αの幅wは、エネルギー線管3に領域αの幅wよりも大きい。この封止部200を備える構成において、上述した製造方法によって複数のエネルギー線管を製造した。この場合、多くのエネルギー線管において、
図8(a)及び
図8(b)に示されているように封止部200の内周縁200aに沿ってクラックC1が生じた。いくつかのエネルギー線管においては、
図8(c)に示されているように、Z軸方向から見た場合に内周縁200aの内側において、窓部50にクラックC2が生じた。
【0050】
本願発明者は、上記実験に基づいて、上述したt、d、及び、wについてパラメータを変更して、窓部50に付与される応力と、封止部70に付与される応力をシミュレーションした。その結果、R/d≧1、及び、t/d≧0.3の関係式を満たす場合に、窓部50におけるクラックが発生し難いことが判明した。換言すれば、この関係式が満たされるエネルギー線管3は、窓部50におけるクラックの発生が抑制されるため、内部空間Rの封止が損なわれることが抑制され得る。
【0051】
筐体部40の厚さdが大きいほど、筐体部40の強度が向上する。筐体部40の厚さdが小さいほど、筐体部40の重さ及び材料費が低減される。筐体部40の厚さdは、例えば、0.5mm≦d≦20mmの関係式を満たしている。換言すれば、筐体部40の厚さdは、例えば、0.5mm以上20mm以下である。この場合、筐体部40における強度と重さ及び材料費とのバランスが図られる。厚さdは、さらに好ましくは、10mm以下である。筐体部40の厚さdが0.5mm以上10mm以下である場合、筐体部40における強度が確保されつつ、重さ及び材料費がさらに低減され得る。
【0052】
窓部50の厚さtが大きいほど、窓部50の強度が向上すると共に熱伝導性も向上する。窓部50の厚さtが小さいほど、材料費が低減されると共に窓53を通過するエネルギー線の焦点径が縮小され得る。窓部50の厚さtは、例えば、0.5mm≦t≦10mmの関係式を満たしている。換言すれば、窓部50の厚さtは、例えば、0.5mm以上10mm以下である。この場合、窓部50における強度及び熱伝導性と材料費及び焦点径とのバランスが図られる。厚さtは、さらに好ましくは、1mm以上である。厚さtは、さらに好ましくは、7mm以下である。窓部50の厚さtが1mm以上7mm以下である場合、窓部50における強度及び熱伝導性と材料費及び焦点径とのバランスがさらに高度に図られる。
【0053】
領域αの幅wが大きいほど、内部空間Rの封止の強度が向上する。領域αの幅wが小さいほど、材料費が低減されると共に窓部50と筐体部40と間の接合強度が抑制され得る。領域αの幅wは、例えば、1.0mm≦w≦20mmの関係式を満たしている。換言すれば、領域αの幅wは、例えば、1.0mm以上20mm以下である。この場合、容易に封止状態を形成できる共に、材料費及び窓部50と筐体部40と間の接合強度と、封止強度とのバランスが図られる。幅wは、さらに好ましくは、15mm以下である。幅wは、さらに好ましくは、3mm以上である。幅wが3mm以上であれば、ロウ付けによってさらに安定して封止状態が確保され得る。領域αの幅wが3mm以上15mm以下である場合、さらに容易に封止状態を形成できると共に、材料費及び窓部50と筐体部40と間の接合強度と、封止強度とのバランスがさらに高度に図られる。
【0054】
エネルギー線管3において、封止部70はロウ付けによって形成される。この場合、内部空間Rが製造容易な構成において封止され得る。
【0055】
枠部60は、開口40aの縁に沿って設けられていると共に筐体部40に溶接によって固定されている。封止部70は、窓部50と枠部60とを固定している。この場合、内部空間Rが容易に封止され得る。
【0056】
枠部60は、Z軸方向から見た場合に、窓部50よりも外側において筐体部40に固定されている。この場合、枠部60と筐体部40とが容易に溶接され得る。
【0057】
窓部50は、Z軸方向において縁部41に対向している端部51を含んでいる。この場合、例えば窓部50に対して、筐体部40側に押し付けるような外部からの応力βが加えられても、窓部50は縁部41によって支持されるため、窓部50と筐体部40との間における変位が抑制されている。このため、内部空間Rの封止状態が損なわれ難い。さらに、窓部50を透過するエネルギー線の出射条件の変化も抑制され得る。
【0058】
以上、本発明の実施形態及び変形例について説明してきたが、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0059】
例えば、エネルギー線管は、エネルギー線発生装置に設けられたエネルギー線管3に限定されない。例えば、エネルギー線が外部からエネルギー線管に照射されて検出を行う、エネルギー線検出管であってもよい。この場合、エネルギー線は、窓部50からエネルギー線管の内部空間Rに入射する。
【0060】
本実施形態では、窓保持部材54は、枠部60を介して筐体部40に固定されている。しかし、窓保持部材54が、筐体部40に直接固定されていてもよい。
【符号の説明】
【0061】
3…エネルギー線管、40a…開口、40…筐体部、41…縁部、50…窓部、50a…表面、51…端部、53…窓、60…枠部、70…封止部、R…内部空間、t,d…厚さ、w…幅、α…領域。