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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】窒化タンタルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/06 20060101AFI20241018BHJP
   B01J 27/24 20060101ALI20241018BHJP
   B01J 35/39 20240101ALI20241018BHJP
【FI】
C01B21/06 A
B01J27/24 M
B01J35/39
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020186768
(22)【出願日】2020-11-09
(65)【公開番号】P2021109822
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2023-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2020003682
(32)【優先日】2020-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀口 加織
(72)【発明者】
【氏名】高野 美育
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 将治
(72)【発明者】
【氏名】一坪 幸輝
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-164732(JP,A)
【文献】国際公開第2019/031592(WO,A1)
【文献】特開2018-162190(JP,A)
【文献】特開2007-022858(JP,A)
【文献】LAASSIRI, Said et al.,Nitrogen transfer properties in tantalum nitride based materials,Catalysis Today,2016年07月05日,vol.286,pp.147-154
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B
B01J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ta 2 5 を、窒素ガス及びアンモニアガスの混合ガスの雰囲気にて焼成する工程を含み、
混合ガス中の窒素ガスとアンモニアガスとの体積比( 窒素/ アンモニア) が0.2~8である、
窒化タンタル(Ta 3 5 の製造方法。
【請求項2】
焼成温度が800~950℃ である、請求項1記載の窒化タンタル(Ta 3 5 の製造方法。
【請求項3】
平均粒子径が2μm以下であり、かつBET比表面積が10.0~302gである、窒化タンタル(Ta 3 5
【請求項4】
酸素の含有量が2.0質量% 以下である、請求項記載の窒化タンタル(Ta 3 5
【請求項5】
鉄の含有量が30質量ppm以下である、請求項3又は4記載の窒化タンタル(Ta 3 5
【請求項6】
クロムの含有量が10質量ppm以下である、請求項のいずれか1項に記載の窒化タンタル(Ta 3 5
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化タンタルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化タンタル(Ta35)は、光触媒材料、例えば水を水素と酸素に分解できる酸素生成用光触媒として注目されており、例えば、酸化タンタルをアンモニアガス雰囲気下で焼成することで製造されている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-156673号公報
【文献】特開2017-164732号公報
【文献】特開2002-233769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
窒化タンタルを光触媒材料として使用する場合、窒化タンタルにはより高い光触媒活性が求められている。かかる要求に応えるには、窒化タンタルの粒子径をより小さく、比表面積をより大きくすることが有利である。特許文献1では、窒化タンタルを粉砕することで、窒化タンタルの小粒径化及び高比表面積化を図っているが、粉砕時において異物混入や酸化が懸念される。
本発明の課題は、粒子径が小さく、比表面積の大きな窒化タンタル及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討した結果、タンタル化合物を焼成して窒化タンタルを製造する際の雰囲気を窒素ガス及びアンモニアガスの混合ガスとしたうえで、その混合ガス中の窒素ガス/アンモニアガスの体積比を特定値以下に制御することにより、必ずしも粉砕を要せずとも、粒子径が小さく、比表面積の大きな窒化タンタルが得られることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔8〕を提供するものである。
〔1〕タンタル化合物を、窒素ガス及びアンモニアガスの混合ガスの雰囲気にて焼成する工程を含み、
混合ガス中の窒素ガスとアンモニアガスとの体積比(窒素/アンモニア)が9以下である、
窒化タンタルの製造方法。
〔2〕タンタル化合物が酸化タンタルである、前記〔1〕記載の窒化タンタルの製造方法。
〔3〕焼成温度が800~950℃である、前記〔1〕又は〔2〕記載の窒化タンタルの製造方法。
〔4〕BET比表面積が10.0m2/g 以上である、窒化タンタル。
〔5〕平均粒子径が2μm以下である、前記〔4〕記載の窒化タンタル。
〔6〕酸素の含有量が2.0質量%以下である、前記〔4〕又は〔5〕記載の窒化タンタル。
〔7〕鉄の含有量が30質量ppm以下である、前記〔4〕~〔6〕のいずれか一に記載の窒化タンタル。
〔8〕クロムの含有量が10質量ppm以下である、前記〔4〕~〔7〕のいずれか一に記載の窒化タンタル。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、粒子径が小さく、比表面積の大きな窒化タンタルを工業的に有利に製造することができる。しかも、本発明によれば、未粉砕でも窒化タンタルの小粒径化及び高比表面積化が可能であるため、高純度の窒化タンタルを得ることができる。したがって、本発明の窒化タンタルは、光触媒材料として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔窒化タンタルの製造方法〕
本発明の窒化タンタルの製造方法は、タンタル化合物を、窒素ガス及びアンモニアガスの混合ガスの雰囲気にて焼成する工程を含み、混合ガス中の窒素ガスとアンモニアガスとの体積比(窒素/アンモニア)が9以下であることを特徴とする。
【0009】
(タンタル化合物)
タンタル化合物としては、例えば、酸化タンタル、ハロゲン化タンタル、タンタル酸又はその塩、タンタル錯体を使用することができる。中でも、生産効率の観点から、酸化タンタルが好ましい。なお、タンタル化合物は、化学合成しても、市販品を使用してもよい。
【0010】
タンタル化合物は、バルクでも、粉末でも構わないが、小粒径化、高比表面積化の観点から、粉末が好ましい。タンタル化合物の大きさは、所望する窒化タンタルの粒子径に応じて適宜選択することが可能であるが、例えば、より一層の小粒径化、高比表面積化の観点から、平均粒子径が、好ましくは2μm以下、より好ましくは1.8μm以下、更に好ましくは1.5μm以下のものを使用する。なお、平均粒子径の下限値は特に限定されず、適宜選択可能であるが、0.05μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましく、0.2μm以上が更に好ましい。ここで、本明細書において「平均粒子径」とは、JIS R 1629「ファインセラミックス原料のレーザ回折・散乱法による粒子径分布測定方法」に準拠して試料の粒度分布を体積基準で作成したときに積算分布曲線の50%に相当する粒子径(D50)を意味する。レーザ回折・散乱法による粒子径分布測定装置として、例えば、マイクロトラックMT3300EX II(マイクロトラック・ベル社製)を使用することができる。なお、所望の粒子径のタンタル化合物を得るために、タンタル化合物を粉砕してもよい。粉砕には、媒体粉砕機を使用することが可能であり、例えば、遊星ボールミル、ボールミル、ディスクミル等のミルを挙げることができる。
【0011】
(混合ガス)
混合ガスは、窒素ガス及びアンモニアガスからなるものである。
窒素ガスとしては、例えば、純度99.9容積%以上の窒素ボンベガス、液化窒素を使用することができる。また、アンモニアガスとしては、例えば、純度99.8質量%以上の液化アンモニアを使用することができる。
【0012】
混合ガス中の窒素ガスとアンモニアガスとの体積比(窒素/アンモニア)は9以下であるが、小粒径化、高比表面積化の観点から、好ましくは0.1~9であり、より好ましくは0.2~8.5であり、更に好ましくは0.2~8であり、より更に好ましくは0.2~7である。
【0013】
混合ガスの供給方法としては、所定量の窒素ガスと所定量のアンモニアガスを混合して焼成装置に供給しても、両者を別個の配管から焼成装置に供給してもよい。
また、窒素ガス及びアンモニアガスは、両者の体積比が上記範囲内となるように、各ガスの供給速度を、通常0.01~100L/min、好ましくは0.05~10L/min、更に好ましくは0.1~5L/minの範囲内で制御される。
【0014】
(焼成)
焼成に使用する装置は、焼成温度に耐え得る装置であれば特に限定されないが、例えば、管状炉、電気炉、バッチ式キルン、ロータリーキルンを挙げることができる。
焼成は、混合ガスの雰囲気であれば、混合ガスの流通下で行っても、混合ガスに置換した密閉空間で行っても構わない。中でも、窒化反応促進の観点から、混合ガスの流通下で行うことが好ましい。
【0015】
焼成は、常圧で行えばよく、加圧又は真空とすることを要しない。
焼成温度は、窒化反応促進の観点から、通常800~950℃であり、好ましくは800~900℃である。
焼成時間は、反応スケールにより一様ではないが、通常1~60時間、好ましくは5~40時間、更に好ましくは10~30時間である。
【0016】
タンタル化合物を焼成後、焼成物を冷却してもよく、例えば、常温(20±15℃)まで冷却することができる。
【0017】
このようにして窒化タンタルを製造することができるが、得られる窒化タンタルは、Ta35単相である。また、本発明においては、未粉砕でも小粒径化及び高比表面積化が可能であるため、高純度の窒化タンタルを得ることができる。具体的には、本発明方法により製造される窒化タンタルは、後記において述べる物性を具備することができる。なお、窒化タンタルをより小粒径化したい場合には、窒化タンタルを粉砕しても構わないが、粉砕には異物混入防止可能な粉砕媒体を使用することが望ましい。また、酸化防止の観点から、粉砕は、例えば、不活性ガスの雰囲気下、常温(20℃±15℃)で行うことが好ましい。粉砕条件は、粉砕装置の種類や製造スケール等により適宜設定することができる。
【0018】
〔窒化タンタル〕
本発明の窒化タンタルは、BET比表面積が従来に比して大きいこと特徴とする、具体的には、窒化タンタルのBET比表面積は10.0m2/g以上であるが、10.3m2/g以上が好ましく、10.5m2/g以上がより好ましく、10.7m2/g以上が更に好ましい。かかるBET比表面積の上限値は特に限定されないが、生産効率の観点から、 100m2/g以下が好ましく、50m2/g以下がより好ましく、30m2/g以下が更に好ましい。ここで、本明細書において「BET比表面積」とは、BET法(ガス分子の吸着を利用して表面積を測定する手法)により測定された表面積を意味し、例えば、流動式比表面積自動測定装置(フローソーブIII2305、島津製作所製)を用いて測定することができる。
【0019】
また、本発明の窒化タンタルは、小粒径である。具体的には、窒化タンタルの平均粒子径は、通常2μm以下であるが、1.8μm以下がより好ましく、1.5μm以下が更に好ましい。なお、かかる平均粒子径の下限値は特に限定されないが、生産効率の観点から、0.05μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましく、0.2μm以上が更に好ましい。なお、ここでいう「平均粒子径」は、上記において説明したとおりである。
【0020】
更に、本発明の窒化タンタルは、高純度であることを特徴とする。例えば、本発明の窒化タンタル中の酸素、鉄、クロムといった不純物の含有量が極めて少ない。
本発明の窒化タンタル中の酸素の含有量は、通常2.0質量%であり、好ましくは1.8質量%以下であり、更に好ましくは1.5質量%以下である。なお、窒化タンタル中の酸素の含有量の下限値は特に限定されず、0質量%であっても構わない。
また、本発明の窒化タンタル中の鉄の含有量は、通常30質量ppm以下であり、好ましくは20質量ppm以下であり、より好ましくは15質量ppm以下であり、更に好ましくは12質量ppm以下である。なお、窒化タンタル中の鉄の含有量の下限値は特に限定されず、0質量ppmでもよい。
更に、本発明の窒化タンタル中のクロムの含有量は、通常10質量ppm以下であり、好ましくは5質量ppm以下であり、より好ましくは3質量ppm以下であり、更に好ましくは1質量ppm以下である。なお、窒化タンタル中のクロムの含有量の下限値は特に限定されず、0質量ppmでも構わない。
窒化タンタル中の酸素、鉄及びクロムの含有量は、後掲の実施例に記載の方法により測定するものとする。
【0021】
本発明の窒化タンタルは、上記したBET比表面積等となれば適宜の方法で製造することが可能であるが、所望の窒化タンタルを簡便に製造できる点で、本発明の製造方法が有用である。
【実施例
【0022】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0023】
1.鉱物相の同定
粉末X線回折装置(ブルカー・エイエックスエス株式会社製、Bruker D8 advance)を用いて測定し、得られたX線回折パターンより鉱物相の同定を行った。
【0024】
2.BET比表面積の測定
窒化タンタルのBET比表面積は、流動式比表面積自動測定装置(フローソーブIII2305、島津製作所製)により測定した。
【0025】
3.平均粒子径の測定
JIS R 1629「ファインセラミックス原料のレーザ回折・散乱法による粒子径分布測定方法」に準拠して窒化タンタルの粒度分布を体積基準で作成し、積算分布曲線の50%に相当する粒子径(D50)を求めた。なお、レーザ回折・散乱法による粒子径分布測定装置として、マイクロトラックMT3300EX II(マイクロトラック・ベル社製)を使用した。
【0026】
4.不純物の分析
(1)酸素の分析
窒化タンタル粉末をグローブボックス内で試料カプセルに充填し、酸素窒素同時分析装置(TCH-600、LECOジャパン社製)により酸素含有量を測定した。
【0027】
(2)鉄及びクロムの分析
窒化タンタル粉末0.1gを、フッ化水素酸(フッ化水素酸(超高純度試薬)と超純水を1:1混合)1mL、及び過酸化水素(原子吸光分析用)1mLと共に容器に入れ、マイクロ波分解システム(MARS6、CEM Japan社製)を用いて180℃で5時間、マイクロ波分解を行った。得られた溶液に、4%ホウ酸溶液(ホウ酸(EDM Millipore Corporation)を用いて作製)10mL及び硝酸1.38(関東化学社製)2.5mLを添加した後、50mLにメスアップした。この溶液をICP質量分析装置(Agilent 7900ICP-MS、アジレント・テクノロジー社製)で測定し、鉄及びクロムの含有量を算出した。
【0028】
5.使用原料
下記の実施例及び比較例においては、酸化タンタル(Ta25、三井金属社製)を原料として用いた。平均粒子径(D50)は、1.1μmであった。
【0029】
実施例1
酸化タンタルを5g秤量し、管状炉に仕込んだ。管状炉内に、表1に示す割合で混合した窒素ガスとアンモニアガスの混合ガスを流通させ、850℃まで2時間で昇温し、20時間保持して焼成し鉱物を得た。得られた鉱物について、粉末X線回折装置を用いて測定し、得られたX線回折パターンより鉱物相の同定を行い、Ta35単相であることを確認した。また、窒化タンタルのBET比表面積及び平均粒子径を測定し、不純物の分析を行った。その結果を表1に示す。
【0030】
実施例2~5
表1に示す割合の混合ガスを流通させたこと以外は、実施例1と同様の操作により、鉱物を得た。得られた鉱物について、実施例1と同様に鉱物相の同定を行い、Ta35単相であることを確認した。また、窒化タンタルのBET比表面積及び平均粒子径を測定し、不純物の分析を行った。その結果を表1に示す。
【0031】
比較例1
アンモニアガスのみを用いたこと以外は、実施例1と同様の操作により、鉱物を得た。得られた鉱物について、実施例1と同様に鉱物相の同定を行い、Ta35単相であることを確認した。また、窒化タンタルのBET比表面積及び平均粒子径を測定し、不純物の分析を行った。その結果を表1に示す。
【0032】
比較例2
表1に示す割合の混合ガスを流通させたこと以外は、実施例1と同様の操作により、鉱物を得た。得られた鉱物について、実施例1と同様に鉱物相の同定を行ったところ、TaONであることを確認した。そのため、BET比表面積及び平均粒子径の測定を断念した。
【0033】
【表1】
【0034】
比較例1から、窒素ガスを含まない、アンモニアガスのみの雰囲気であると、窒化タンタルが得られたとしても、粒子径が大きく、BET比表面積が小さくなることがわかる。
比較例2から、窒素ガス及びアンモニアガスの混合ガスの雰囲気であっても、混合ガス中の窒素ガス/アンモニアガスの体積比が9を超えると、窒化タンタルが得られないことがわかる。
これに対し、実施例1~5から、窒素ガス及びアンモニアガスの混合ガスの雰囲気としたうえで、その混合ガス中の窒素ガス/アンモニアガスの体積比を9以下に制御することにより、粉砕を要することなく、2μm以下の小粒径、かつ10.0m2/g 以上の高比表面積の窒化タンタルが得られることがわかる。しかも、得られた窒化タンタルは、酸素、鉄及びクロムといった不純物が少なく、高純度であることが分かる。