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特許7573434温度計測値処理装置、発熱体検知装置、温度計測値処理方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】温度計測値処理装置、発熱体検知装置、温度計測値処理方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01J 5/48 20220101AFI20241018BHJP
   G01V 8/10 20060101ALI20241018BHJP
   G01V 8/20 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
G01J5/48 A
G01V8/10 S
G01V8/20 Q
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020211639
(22)【出願日】2020-12-21
(65)【公開番号】P2022098225
(43)【公開日】2022-07-01
【審査請求日】2023-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 祐成
(72)【発明者】
【氏名】中本 洋平
(72)【発明者】
【氏名】安達 丈泰
(72)【発明者】
【氏名】布目 好教
(72)【発明者】
【氏名】増子 宏大
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-251924(JP,A)
【文献】特開2001-108758(JP,A)
【文献】特開2017-058213(JP,A)
【文献】特開2012-225694(JP,A)
【文献】特開2016-216038(JP,A)
【文献】特開平7-293970(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 5/00- 5/90
G01V 1/00-99/00
G01J 1/00- 1/60
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度センサから所定の検知範囲の放射温度分布を表す複数の計測値を取得する取得部と、
複数の前記計測値の標準偏差及び複数の前記計測値の平均値を算出する標準偏差算出部と、
複数の前記計測値の前記平均値から複数の前記計測値の前記標準偏差に定数を乗じた値を減じることにより前記検知範囲の背景温度を算出する背景温度算出部と、
前記標準偏差に所定の係数を乗じて閾値を算出する閾値算出部と、
前記背景温度と前記閾値とに基づく数値範囲に複数の前記計測値が含まれているか否かを判定する判定部と、
前記判定部の判定結果を出力する出力部と、
を備え、
前記複数の計測値の中に所定の除外範囲に含まれている計測値が存在する場合、前記閾値算出部は、前記所定の係数として適用する値を、前記複数の計測値の中に所定の除外範囲に含まれている計測値が存在しない場合に適用する値よりも小さくして、前記閾値を算出し、
前記所定の除外範囲は、前記検知範囲内に熱源が存在するか否かを判定可能に定められた所定の閾値以上の範囲である、
温度計測値処理装置。
【請求項2】
前記計測値が所定の除外範囲に含まれている場合、
当該所定の除外範囲に含まれている計測値を、他の計測値のうちの最低の値に置き換えた後に、
前記標準偏差算出部は、前記標準偏差を算出し、かつ、
前記背景温度算出部は、前記背景温度を算出する
請求項1に記載の温度計測値処理装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記除外範囲に含まれている前記計測値が、前記数値範囲に含まれていないと判定する
請求項2に記載の温度計測値処理装置。
【請求項4】
前記閾値算出部は、複数の前記計測値の状態に応じて前記係数の値を変更する
請求項1からのいずれか1項に記載の温度計測値処理装置。
【請求項5】
前記係数が、人体の検出に適した値に設定されている
請求項1からのいずれか1項に記載の温度計測値処理装置。
【請求項6】
所定の検知範囲の放射温度分布を表す複数の計測値を出力する温度センサと、
温度計測値処理装置と、を備え、
前記温度計測値処理装置が、
前記温度センサから複数の前記計測値を取得する取得部と、
複数の前記計測値の標準偏差及び複数の前記計測値の平均値を算出する標準偏差算出部と、
複数の前記計測値の前記平均値から複数の前記計測値の前記標準偏差に定数を乗じた値を減じることにより前記検知範囲の背景温度を算出する背景温度算出部と、
前記標準偏差に所定の係数を乗じて閾値を算出する閾値算出部と、
前記背景温度と前記閾値とに基づく数値範囲に複数の前記計測値が含まれているか否かを判定する判定部と、
前記判定部の判定結果を出力する出力部と
を有し、
前記複数の計測値の中に所定の除外範囲に含まれている計測値が存在する場合、前記閾値算出部は、前記所定の係数として適用する値を、前記複数の計測値の中に所定の除外範囲に含まれている計測値が存在しない場合に適用する値よりも小さくして、前記閾値を算出し、
前記所定の除外範囲は、前記検知範囲内に熱源が存在するか否かを判定可能に定められた所定の閾値以上の範囲である、
発熱体検知装置。
【請求項7】
温度センサから所定の検知範囲の放射温度分布を表す複数の計測値を取得するステップと、
複数の前記計測値の標準偏差及び複数の前記計測値の平均値を算出するステップと、
複数の前記計測値の前記平均値から複数の前記計測値の前記標準偏差に定数を乗じた値を減じることにより前記検知範囲の背景温度を算出するステップと、
前記標準偏差に所定の係数を乗じて閾値を算出するステップと、
前記背景温度と前記閾値とに基づく数値範囲に複数の前記計測値が含まれているか否かを判定するステップと、
前記判定の結果を出力するステップと、
を含み、
前記複数の計測値の中に所定の除外範囲に含まれている計測値が存在する場合、前記閾値を算出するステップでは、前記所定の係数として適用する値を、前記複数の計測値の中に所定の除外範囲に含まれている計測値が存在しない場合に適用する値よりも小さくして、前記閾値を算出し、
前記所定の除外範囲は、前記検知範囲内に熱源が存在するか否かを判定可能に定められた所定の閾値以上の範囲である、
温度計測値処理方法。
【請求項8】
温度センサから所定の検知範囲の放射温度分布を表す複数の計測値を取得するステップと、
複数の前記計測値の標準偏差及び複数の前記計測値の平均値を算出するステップと、
複数の前記計測値の前記平均値から複数の前記計測値の前記標準偏差に定数を乗じた値を減じることにより前記検知範囲の背景温度を算出するステップと、
前記標準偏差に所定の係数を乗じて閾値を算出するステップと、
前記背景温度と前記閾値とに基づく数値範囲に複数の前記計測値が含まれているか否かを判定するステップと、
前記判定の結果を出力するステップと、
をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記複数の計測値の中に所定の除外範囲に含まれている計測値が存在する場合、前記閾値を算出するステップでは、前記所定の係数として適用する値を、前記複数の計測値の中に所定の除外範囲に含まれている計測値が存在しない場合に適用する値よりも小さくして、前記閾値を算出し、
前記所定の除外範囲は、前記検知範囲内に熱源が存在するか否かを判定可能に定められた所定の閾値以上の範囲である、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、温度計測値処理装置、発熱体検知装置、温度計測値処理方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、2次元に配置された赤外線検出素子を有する赤外線検出装置から出力された2次元データに基づき、熱源を検出する装置の一例が記載されている。特許文献1に記載されている装置では、赤外線検出装置から時系列で出力された2次元データに基づき検出空間の背景温度が算出され、その背景温度からあらかじめ設定された閾値以上はなれたデータが熱源として抽出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-225694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の装置では、閾値が、赤外線検出装置の暗視野ノイズの1.5倍の値にあらかじめ設定されているので、背景温度が、温度差が閾値未満となるように熱源の温度に近づいた場合、熱源であると判定することができなくなるという課題があった。
【0005】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであって、背景温度の変化に対してロバスト性を向上させることができる温度計測値処理装置、発熱体検知装置、温度計測値処理方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示に係る温度計測値処理装置は、温度センサから所定の検知範囲の放射温度分布を表す複数の計測値を取得する取得部と、複数の前記計測値の標準偏差を算出する標準偏差算出部と、複数の前記計測値に基づいて前記検知範囲の背景温度を算出する背景温度算出部と、前記標準偏差に所定の係数を乗じて閾値を算出する閾値算出部と、前記背景温度と前記閾値とに基づく数値範囲に複数の前記計測値が含まれているか否かを判定する判定部と、前記判定部の判定結果を出力する出力部と、を備える。
【0007】
本開示に係る発熱体検知装置は、所定の検知範囲の放射温度分布を表す複数の計測値を出力する温度センサと、温度計測値処理装置とを備え、前記温度計測値処理装置が、前記温度センサから複数の前記計測値を取得する取得部と、複数の前記計測値の標準偏差を算出する標準偏差算出部と、複数の前記計測値に基づいて前記検知範囲の背景温度を算出する背景温度算出部と、前記標準偏差に所定の係数を乗じて閾値を算出する閾値算出部と、前記背景温度と前記閾値とに基づく数値範囲に複数の前記計測値が含まれているか否かを判定する判定部と、前記判定部の判定結果を出力する出力部とを有する。
【0008】
本開示に係る温度計測値処理方法は、温度センサから所定の検知範囲の放射温度分布を表す複数の計測値を取得するステップと、複数の前記計測値の標準偏差を算出するステップと、複数の前記計測値に基づいて前記検知範囲の背景温度を算出するステップと、前記標準偏差に所定の係数を乗じて閾値を算出するステップと、前記背景温度と前記閾値とに基づく数値範囲に複数の前記計測値が含まれているか否かを判定するステップと、前記判定の結果を出力するステップと、を含む。
【0009】
本開示に係るプログラムは、温度センサから所定の検知範囲の放射温度分布を表す複数の計測値を取得するステップと、複数の前記計測値の標準偏差を算出するステップと、複数の前記計測値に基づいて前記検知範囲の背景温度を算出するステップと、前記標準偏差に所定の係数を乗じて閾値を算出するステップと、前記背景温度と前記閾値とに基づく数値範囲に複数の前記計測値が含まれているか否かを判定するステップと、前記判定の結果を出力するステップと、をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0010】
本開示の温度計測値処理装置、発熱体検知装置、温度計測値処理方法およびプログラムによれば、背景温度の変化に対してロバスト性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の実施形態に係る発熱体検知装置の構成例を示すブロック図である。
図2図1に示す温度計測値処理装置2の第1動作例を示すフローチャートである。
図3図1に示す温度計測値処理装置2の第1動作例を説明するための模式図である。
図4図1に示す温度計測値処理装置2の第1動作例を説明するための模式図である。
図5図1に示す温度計測値処理装置2の第1動作例を説明するための模式図である。
図6図1に示す温度計測値処理装置2の第2動作例を示すフローチャートである。
図7図1に示す温度計測値処理装置2の第2動作例を説明するための模式図である。
図8図1に示す温度計測値処理装置2の第2動作例を説明するための模式図である。
図9図1に示す温度計測値処理装置2の第2動作例を説明するための模式図である。
図10】本開示の実施形態に係るコンピュータの構成を示す概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態に係る温度計測値処理装置、発熱体検知装置、温度計測値処理方法およびプログラムについて、図面を参照して説明する。図1は、本開示の実施形態に係る発熱体検知装置の構成例を示すブロック図である。図2は、図1に示す温度計測値処理装置2の第1動作例を示すフローチャートである。図3図5は、図1に示す温度計測値処理装置2の第1動作例を説明するための模式図で図6は、図1に示す温度計測値処理装置2の第2動作例を示すフローチャートである。図7図9は、図1に示す温度計測値処理装置2の第2動作例を説明するための模式図である。なお、各図において同一または対応する構成には同一の符号を用いて説明を適宜省略する。
【0013】
(発熱体検知装置の構成)
図1に示すように、発熱体検知装置10は、温度センサ1と、温度計測値処理装置2とを備える。
【0014】
温度センサ1は、例えばサーモパイルアレイセンサ等の赤外線検出素子と、光学係と、赤外線検出素子の出力信号の処理回路等を備えたセンサユニットであり、検知範囲3の放射温度分布を表す複数の計測値T(x,y)(℃)を時系列で繰り返し出力する。図1に示す例では、温度センサ1は、検知範囲3を縦4分割、横4分割した16の部分領域(あるいは温度セル)4毎に放射温度を計測し、放射温度の計測値T(x,y)(x=0、1、2、3、y=0、1、2、3)を出力する。ここで、xおよびyは部分領域4の横(水平)座標値および縦(垂直)座標値である。なお、検知範囲3は、室外に設定されていてもよいが、この例では室内に設定されているものとする。また、計測値T(x,y)は、2次元の配列であり、温度を画素値、要素番号を画素座標値とする熱画像を表す信号である。以下では、2次元の配列を、適宜、画像ともいう。
【0015】
温度計測値処理装置2は、温度センサ1が出力した計測値T(x,y)に基づき、部分領域4毎に人体等の発熱体が存在するか否かを判定し、判定した結果を出力する装置である。温度計測値処理装置2は、コンピュータと、そのコンピュータの周辺回路や周辺装置等を用いて構成され、そのコンピュータ等のハードウェアと、そのコンピュータが実行するプログラム等のソフトウェアとの組み合わせから構成される機能的構成として、取得部21と、標準偏差算出部22と、背景温度算出部23と、閾値算出部24と、判定部25と、出力部26とを備える。なお、以下では検出対象の発熱体が人体である場合を例として本実施形態について説明する。ただし、検出対象の発熱体は、人体に限定されない。
【0016】
取得部21は、温度センサ1から検知範囲3の放射温度分布を表す複数の計測値T(x,y)を、例えば所定の周期で繰り返し取得する。
【0017】
標準偏差算出部22は、複数の計測値T(x,y)の標準偏差σ(℃)を算出する。その際、標準偏差算出部22は、複数の計測値(x,y)の平均温度(平均値)Tave(℃)を算出する。
【0018】
背景温度算出部23は、複数の計測値T(x,y)に基づいて検知範囲3(検知範囲3が設定されている部屋)の背景温度Tb(℃)を算出する。背景温度Tbは、例えば、壁や床の温度等に対応し、平均温度Tave(℃)、最低温度Tmin(=min T(x,y))(℃)、もしくは、部屋全体の温度分布が正規分布になると仮定し、温度分布の標準偏差σを用いてTmin=Tave-3σ等とすることができる。
【0019】
なお、標準偏差算出部22と背景温度算出部23は、計測値T(x,y)が所定の除外範囲(例えばある温度以上の範囲、ある温度以下の範囲等)に含まれている場合、当該計測値T(x,y)を除外した後または他の値に置き換えた後に、標準偏差σ(および平均温度Tave)と背景温度Tbを算出してもよい。例えば、室内にヒータ等の高温熱源が存在する場合、複数の計測値T(x,y)の一部が高温を示すため、室内の温度分布を正確に計測できないときがある。このような場合に、計測値T(x,y)が所定の除外範囲内(例えば35℃以上)の値であるとき、当該計測値T(x,y)を、例えば、計算対象から除外したり、最低温度Tminに置き換えたりした後に、標準偏差算出部22は平均温度Taveと標準偏差σを算出し、背景温度算出部23は背景温度Tbを算出することがきる。
【0020】
閾値算出部24は、標準偏差σに所定の係数Kを乗じて閾値Shuman(℃)を算出する。閾値算出部24は、閾値Shumanを、式Shuman=K・σにて算出する。ここで、係数Kは、予め設定した実数の定数である。係数Kは、実験、シミュレーション等に基づいて決定することができる。また、判定部25は、背景温度Tbと閾値Shumanとに基づく数値範囲に、複数の計測値T(x,y)が含まれているか否かを判定する。
【0021】
なお、判定部25における数値範囲は、例えば、「Tb+Shuman以上の範囲」とすることができる。あるいは、例えば、閾値Shumanを下限閾値Shuman1(=K1・σ)と上限閾値Shuman2(=K2・σ)の2個とし、数値範囲を、「Tb+Shuman1以上かつTb+Shuman2以下の範囲」等とすることができる。
【0022】
なお、判定部25は、判定の際、例えば、計測値T(x,y)から背景温度Tbを差し引いた差分温度画像Tdiff(x,y)=T(x,y)-Tb(℃)を作成することで、背景温度Tbを0℃として規格化し、人体判定の閾値Shuman以上となったものを人体として判定し、温度センサ1の出力と同じ配列数の人体画像H(x,y)に人体かどうか2値化して保存し、判定結果とすることができる。この場合、判定部25は、下式にて人体かどうかを判定することになる。
【0023】
【数1】
【0024】
ここで、H(x,y)=1は人体であると判定されたことを示し、H(x,y)=0は人体ではないと判定されたことを示す。
【0025】
なお、判定部25は、標準偏差σと背景温度Tbを計算する際に除外範囲に含まれている計測値T(x,y)の除外や置き換えを標準偏差算出部22と背景温度算出部23が行った場合、除外範囲に含まれている計測値T(x,y)が、数値範囲に含まれていないと判定する(人体ではないと判定する)ことができる。
【0026】
また、閾値算出部24は、複数の計測値T(x,y)の状態に応じて標準偏差σに乗じる係数Kの値を変更してもよい。例えば、ある除外閾値(例えば35℃)以上の計測値T(x,y)(温度セル)が存在する場合、閾値算出部24は、係数Kの値を変更することで、閾値Shumanを変更することができる。例えば、ヒータのような高温熱源が存在する場合、赤外線を室内に放出するため、室内温度が高く見積もられる場合がある。その場合、背景温度と人体温度との温度差が小さくなるので、人体判定の閾値Shumanを小さくするように、標準偏差σに乗じる係数(比例定数)を変更する。
【0027】
出力部26は、判定部25の判定結果(人体画像H(x,y))を出力する。本実施形態の温度計測値処理装置2は、例えば温度センサ1と一体的に構成(例えば温度センサ1内の処理回路に含まれる形で構成)することができ、この場合、出力部26は、例えば所定形式のシリアル信号として判定部25の判定結果を外部に出力することができる。あるいは、温度計測値処理装置2は、空気調和機等のコントローラ内に含まれる形で構成することができ、この場合、出力部26は、そのコントローラが実行する他のプログラムモジュール等に対してデータを引き渡す形で判定結果を出力することができる。
【0028】
(温度計測値処理装置2の第1動作例)
次に、図2図5を参照して、図1に示す温度計測値処理装置2の第1動作例について説明する。図2に示す処理は、例えば所定の周期で繰り返し実行される。図2に示す処理が開始されると、まず、取得部21が、温度センサ1から検知範囲3の放射温度分布を表す複数の計測値T(x,y)を取得する(ステップS1)。この例では、取得部21が、図3に示す計測値T(x,y)を取得したものとする。図3は、計測値T(x,y)の各要素の値を模式的に示す。図3に示す例では、x=2、y=1、2、3の3個の要素の値が30℃で、他の要素の値は25℃である。
【0029】
次に、標準偏差算出部22が、複数の計測値T(x、y)の平均温度Taveと標準偏差σを算出する(ステップS2)。図3に示す例の場合、平均温度Tave=25.9℃、標準偏差σ=1.95℃である。
【0030】
次に、背景温度算出部23が、複数の計測値T(x、y)に基づいて検知範囲3の背景温度Tbを算出する(ステップS3)。この例では、背景温度算出部23は、背景温度Tbを、式Tb=Tave-3σ(=20.1℃)で算出したとする。
【0031】
次に、閾値算出部24が、標準偏差σに所定の係数Kを乗じて閾値Shumanを算出する(ステップS4)。この例では、閾値算出部24は、式Shuman=K・σで1つの閾値を算出したとする。なお、係数Kは、室内空間の場合、背景温度Tb=Tave-3σとしたとき、おおむね3.5~4.5程度(Tb=Taveとしたときは0.5~1.5程度)の値が人体の検出に適した値であった。この例ではK=4(Shuman=7.1℃)として説明する。
【0032】
次に、判定部25は、背景温度Tbと閾値Shumanとに基づく数値範囲に複数の計測値T(x,y)が含まれているか否かを判定する(ステップS5)。この例では、判定部25は、まず、差分温度画像Tdiff(x,y)(=T(x,y)-Tb)を算出する。図4は、差分温度画像Tdiff(x,y)の算出結果を模式的に示す。そして、判定部25は、差分温度画像Tdiff(x,y)の各要素と、閾値Shuman(=7.1)を比較し、Tdiff(x,y)≧ShumanのときH(x,y)=1、Tdiff(x,y)<ShumanのときH(x,y)=0として、判定結果を表す人体画像H(x,y)を算出する。図5は、人体画像H(x,y)の算出結果を模式的に示す。図5に示す例では、x=2、y=1、2、3の3個の要素が人体であると判定されている。
【0033】
次に、出力部26が、判定結果(人体画像H(x,y))を出力する(ステップS6)。
【0034】
(第1動作例による作用・効果)
第1動作例によれば、部屋の温度分布に合わせて人体判定の閾値Shumanが変更されるため、閾値Shumanを定数とする場合と比較して、室内環境等の変化に対してロバストな発熱体検出技術(人体検知技術)を提供することができる。
【0035】
(温度計測値処理装置2の第2動作例)
次に、図6図9を参照して、図1に示す温度計測値処理装置2の第2動作例について説明する。第2動作例は、ヒータ等の高温熱源が室内に存在する場合の動作例である。図6に示す処理は、例えば所定の周期で繰り返し実行される。図6に示す処理が開始されると、まず、取得部21が、温度センサ1から検知範囲3の放射温度分布を表す複数の計測値T(x,y)を取得する(ステップS1)。この例では、取得部21が、図7に示す計測値T(x,y)を取得したものとする。図7は、計測値T(x,y)の各要素の値を模式的に示す。図7に示す例では、x=2、y=1、2、3の3個の要素の値が30℃で、x=0、y=1、2の2個の要素の値が35℃で、他の要素の値は25℃である。
【0036】
次に、標準偏差算出部22が、計測値T(x、y)が所定の除外範囲に含まれている場合、当該計測値T(x、y)を除外した後または他の値に置き換えた後に、複数の計測値T(x、y)の標準偏差σを算出する(ステップS2a)。この例では、除外範囲を「35℃以上の範囲」とし、除外範囲に含まれている場合、最低温度Tmin(=25℃)への置き換えが行われるものとする。図7に示す例の場合、x=0、y=1、2の2個の要素の値が35℃から25℃に置き換えられた後、平均温度Taveと標準偏差σが算出される。図7に示す例の場合、平均温度Tave=25.9℃、標準偏差σ=1.95℃である。
【0037】
次に、背景温度算出部23が、計測値T(x、y)が所定の除外範囲に含まれている場合、当該計測値T(x、y)を除外した後または他の値に置き換えた後に、複数の計測値T(x、y)に基づいて検知範囲3の背景温度Tbを算出する(ステップS3a)。この例では、背景温度算出部23は、標準偏差算出部22が2つの部分領域4の温度を35℃から25℃に置き換えた後算出した平均温度Taveと標準偏差σに基づき、式Tb=Tave-3σ(=20.1℃)で背景温度Tbを算出したとする。
【0038】
次に、閾値算出部24が、標準偏差σに所定の係数Kを乗じて閾値Shumanを算出する(ステップS4a)。ただし、ステップS4aで、閾値算出部24は、複数の計測値の状態に応じて係数Kの値を変更する。この例では、閾値算出部24が、除外閾値(例えば35℃)以上の計測値T(x,y)が存在するか否かを判定し、除外閾値以上の計測値(x,y)があると判定して、除外閾値以上の計測値(x,y)がないときの係数K=4(Shuman=7.1℃)を、あるときの係数K=3.5(Shuman=6.8℃)に変更したとする。
【0039】
次に、判定部25は、背景温度Tbと閾値Shumanとに基づく数値範囲に複数の計測値T(x,y)が含まれているか否かを判定する(ステップS5a)。ただし、ステップS5aで、判定部25は、ステップS2aとステップS3aで使用された除外範囲に含まれている計測値T(x、y)は、背景温度Tbと閾値Shumanとに基づく数値範囲に含まれていないと判定する。この例では、判定部25は、まず、差分温度画像Tdiff(x,y)(=T(x,y)-Tb)を算出する。図8は、差分温度画像Tdiff(x,y)の算出結果を模式的に示す。そして、判定部25は、差分温度画像Tdiff(x,y)の各要素と、閾値Shuman(=6.8)を比較し、Tdiff(x,y)≧ShumanのときH(x,y)=1、Tdiff(x,y)<ShumanのときH(x,y)=0として、判定結果を表す人体画像H(x,y)を算出する。その際、判定部25は、除外範囲「35℃以上の範囲」に含まれているx=0、y=1、2の2個の計測値T(x、y)は、背景温度Tbと閾値Shumanとに基づく数値範囲に含まれていないと判定し、対応する人体画像H(x,y)の各要素の値を「0」にする。図9は、人体画像H(x,y)の算出結果を模式的に示す。図9に示す例では、x=2、y=1、2、3の3個の要素が人体であると判定されている。
【0040】
次に、出力部26が、判定結果(人体画像H(x,y))を出力する(ステップS6)。
【0041】
(第2動作例による作用・効果)
第2動作例によれば、第1動作例の効果に加え、室内にヒータ等の高温熱源等が存在する場合でも、人体を正しく検知することができる。
【0042】
(その他の実施形態)
以上、本開示の実施の形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、標準偏差に代えて、サンプルのばらつきを示す他の指標を用いてもよい。
【0043】
〈コンピュータ構成〉
図10は、少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成を示す概略ブロック図である。
コンピュータ90は、プロセッサ91、メインメモリ92、ストレージ93、および、インタフェース94を備える。
上述の温度計測値処理装置は、コンピュータ90に実装される。そして、上述した各処理部の動作は、プログラムの形式でストレージ93に記憶されている。プロセッサ91は、プログラムをストレージ93から読み出してメインメモリ92に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、プロセッサ91は、プログラムに従って、上述した各記憶部に対応する記憶領域をメインメモリ92に確保する。
【0044】
プログラムは、コンピュータ90に発揮させる機能の一部を実現するためのものであってもよい。例えば、プログラムは、ストレージに既に記憶されている他のプログラムとの組み合わせ、または他の装置に実装された他のプログラムとの組み合わせによって機能を発揮させるものであってもよい。なお、他の実施形態においては、コンピュータは、上記構成に加えて、または上記構成に代えてPLD(Programmable Logic Device)などのカスタムLSI(Large Scale Integrated Circuit)を備えてもよい。PLDの例としては、PAL(Programmable Array Logic)、GAL(Generic Array Logic)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等が挙げられる。この場合、プロセッサによって実現される機能の一部または全部が当該集積回路によって実現されてよい。
【0045】
ストレージ93の例としては、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disc Read Only Memory)、半導体メモリ等が挙げられる。ストレージ93は、コンピュータ90のバスに直接接続された内部メディアであってもよいし、インタフェース94または通信回線を介してコンピュータ90に接続される外部メディアであってもよい。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ90に配信される場合、配信を受けたコンピュータ90が当該プログラムをメインメモリ92に展開し、上記処理を実行してもよい。少なくとも1つの実施形態において、ストレージ93は、一時的でない有形の記憶媒体である。
【0046】
<付記>
本開示の実施形態に記載の温度計測値処理装置2は、例えば以下のように把握される。
【0047】
(1)第1の態様に係る温度計測値処理装置2は、温度センサ1から所定の検知範囲3の放射温度分布を表す複数の計測値を取得する取得部21と、複数の前記計測値の標準偏差σを算出する標準偏差算出部22と、複数の前記計測値に基づいて前記検知範囲3の背景温度Tbを算出する背景温度算出部23と、前記標準偏差σに所定の係数Kを乗じて閾値Shumanを算出する閾値算出部24と、前記背景温度Tbと前記閾値Shumanとに基づく数値範囲に複数の前記計測値が含まれているか否かを判定する判定部25と、前記判定部25の判定結果を出力する出力部26と、を備える。この態様および以下の各態様によれば、温度分布に合わせて人体等の発熱体判定の閾値Shumanが変更されるため、閾値Shumanを定数とする場合と比較して、室内環境等の変化に対してロバストな発熱体検出技術を提供することができる。
【0048】
(2)第2の態様に係る温度計測値処理装置2は、(1)の温度計測値処理装置2であって、前記計測値が所定の除外範囲に含まれている場合、当該計測値を除外した後または他の値に置き換えた後に、前記標準偏差算出部22は、前記標準偏差σを算出し、かつ、前記背景温度算出部23は、前記背景温度Tbを算出する。この構成によれば、ヒータ等の高温熱源が存在する場合でも、温度分布を正しく計測することができ、閾値Shumanの値を適切に設定することができる。
【0049】
(3)第3の態様に係る温度計測値処理装置2は、(2)の温度計測値処理装置2であって、前記判定部25は、前記除外範囲に含まれている前記計測値が、前記数値範囲に含まれていないと判定する。
【0050】
(4)第4の態様に係る温度計測値処理装置2は、(1)~(3)の温度計測値処理装置2であって、前記閾値算出部24は、複数の前記計測値の状態に応じて前記係数の値を変更する。この構成によれば、閾値Shumanの値を適切に設定することができる。
【0051】
(5)第5の態様に係る温度計測値処理装置2は、(1)~(4)の温度計測値処理装置2であって、前記係数Kが、人体の検出に適した値に設定されている。
【符号の説明】
【0052】
1 温度センサ
2 温度計測値処理装置
3 検知範囲
10 発熱体検知装置
21 取得部
22 標準偏差算出部
23 背景温度算出部
24 閾値算出部
25 判定部
26 出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10