IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日本アクアの特許一覧

特許7573450建築物の断熱方法および建築物用断熱材ならびにウレタンフォーム形成用の吹付システム
<>
  • 特許-建築物の断熱方法および建築物用断熱材ならびにウレタンフォーム形成用の吹付システム 図1
  • 特許-建築物の断熱方法および建築物用断熱材ならびにウレタンフォーム形成用の吹付システム 図2
  • 特許-建築物の断熱方法および建築物用断熱材ならびにウレタンフォーム形成用の吹付システム 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】建築物の断熱方法および建築物用断熱材ならびにウレタンフォーム形成用の吹付システム
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/76 20060101AFI20241018BHJP
   E04F 15/18 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
E04B1/76 400H
E04F15/18 E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021010282
(22)【出願日】2021-01-26
(65)【公開番号】P2022114125
(43)【公開日】2022-08-05
【審査請求日】2023-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】505015587
【氏名又は名称】株式会社日本アクア
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】中村 文隆
(72)【発明者】
【氏名】永田 和久
(72)【発明者】
【氏名】江川 慎一
(72)【発明者】
【氏名】山森 博人
【審査官】吉村 庄太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-279318(JP,A)
【文献】特開昭58-153561(JP,A)
【文献】特開2016-089537(JP,A)
【文献】特開昭61-011179(JP,A)
【文献】米国特許第04530468(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/76
E04F 15/18
C08J 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物に断熱層を形成するための方法であって、
ポリイソシアネート化合物を含む主剤と、ポリオール化合物を含む硬化剤とを混合吹き付けする作業と、
ブローイング材を吹き込む作業と、
を断熱層の形成予定箇所に対して同時に行って、前記ブローイング材を含んだ発泡体からなる断熱層を形成し、
前記ブローイング材の少なくとも一部が、ウレタンフォームの廃材または残材の粉砕物であることを特徴とする、
建築物の断熱方法。
【請求項2】
前記主剤と硬化剤とを混合吹き付けするスプレーガンに、前記ブローイング材を吹き込むブローイングホースを取り付けてあることを特徴とする、
請求項1に記載の建築物の断熱方法。
【請求項3】
前記スプレーガンの吹き付け軌跡の途上で、前記ブローイングホースによるブローイング材を合流させてから、前記形成予定箇所に到達させることを特徴とする、
請求項に記載の建築物の断熱方法。
【請求項4】
ポリイソシアネート化合物からなる主剤、
ポリオール化合物からなる硬化剤、および、
ブローイング材、
を少なくとも混合してなる発泡体からなり、
前記ブローイング材の少なくとも一部が、ウレタンフォームの廃材または残材の粉砕物であることを特徴とする、
建築物用断熱材。
【請求項5】
ウレタンフォームを形成するための吹付システムであって、
ポリイソシアネート化合物からなる主剤を送り出す、第1の供給路と、
ポリオール化合物からなる硬化剤を送り出す、第2の供給路と、
ブローイング材を送り出す、第3の供給路と、
を少なくとも具備することを特徴とする、
ウレタンフォーム形成用の吹付システム。
【請求項6】
前記第1の供給路および第2の供給路を設けたスプレーガンから吐き出した前記主剤および硬化剤の混合液と、
ブローイングホースからなる前記第3の供給路から送り出したブローイング材と、を気中で混合するよう構成したことを特徴とする、
請求項5に記載のウレタンフォーム形成用の吹付システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、現場吹付式のウレタンフォームと、ブローイング材とを混合してなる、建築物用の断熱方法および断熱材ならびにウレタンフォーム形成用の吹付システムに関する。
【背景技術】
【0002】
出願人は、現場発泡式の吹き付けに用いた低密度連続気泡構造を呈する硬質ウレタンフォームの廃材または残材の再利用先として、これらの粉砕物をブローイング材として断熱層を形成する発明を着想している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6002195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ブローイング工法による断熱層の形成箇所は、主に建築物の天井裏や床下に限られ、またブローイング工法によって得られる断熱性能が地域によっては過剰な性能となることから、用途が極めて限定されていた。
【0005】
よって、本発明は、ブローイング材の用途を拡張することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべくなされた本願の第1発明は、建築物に断熱層を形成するための方法であって、ポリイソシアネート化合物からなる主剤と、ポリオール化合物からなる硬化剤とを混合吹き付けする作業と、ブローイング材を吹き込む作業と、を断熱層の形成予定箇所に対して同時に行って、前記ブローイング材を含んだ発泡体からなる断熱層を形成し、前記ブローイング材の少なくとも一部が、ウレタンフォームの廃材または残材の粉砕物であることを特徴とする。
また、本願の第2発明は、前記第1発明において、前記主剤と硬化剤とを混合吹き付けするスプレーガンに、前記ブローイング材を吹き込むブローイングホースを取り付けてあることを特徴とする。
また、本願の第3発明は、前記第2発明において、前記スプレーガンの吹き付け軌跡の途上で、前記ブローイングホースによるブローイング材を合流させてから、前記形成予定箇所に到達させることを特徴とする。
また、本願の第4発明は、ポリイソシアネート化合物を含む主剤、ポリオール化合物を含む硬化剤、および、ブローイング材、を少なくとも混合してなる発泡体からなり、前記ブローイング材の少なくとも一部が、ウレタンフォームの廃材または残材の粉砕物である、建築物用断熱材に係る発明である。
また、本願の第5発明は、ウレタンフォームを形成するための吹付システムであって、ポリイソシアネート化合物を含む主剤を送り出す、第1の供給路と、ポリオール化合物を含む硬化剤を送り出す、第2の供給路と、ブローイング材を送り出す、第3の供給路と、を少なくとも具備することを特徴とする。
また、本願の第6発明は、前記第5発明において、前記第1の供給路および第2の供給路を設けたスプレーガンから吐き出した前記主剤および硬化剤の混合液と、ブローイングホースからなる前記第3の供給路から送り出したブローイング材と、を気中で混合するよう構成したことを特徴とする。

【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、以下に記載する効果のうち少なくとも何れか1つの効果を奏する。
(1)ブローイング材を、天井裏だけで無く、壁や天井などの断熱層にも使用できる。
(2)従来、壁、床および天井の断熱に用いていた、現場発泡式のウレタンフォームにブローイング材を混合させることにより、現場発泡式のウレタンフォームの形成に用いる各原料の使用量を抑えることができる。
(3)吹き付け側のウレタンフォームの自己接着力によって、ブローイング材が形成予定箇所に確実に吹き込まれるため、施工途中にブローイング材の落下や跳ね返りを抑制できる。
(4)ブローイング材に、断熱層または断熱材として形成されたウレタンフォームの廃材または残材の粉砕物を用いることで、資源の再利用化につながり、環境に配慮した断熱工法を提供できる。
(5)吹き付け軌跡の途上でブローイング材が合流するように構成することでスプレーされた主剤および硬化剤の混合液が、予めブローイング材を取り込んだ状態で形成予定箇所に吹き付けられることとなり、より均一にブローイング材を含んだ状態で発泡された断熱層の形成が可能となる。
(6)従来の天井裏などの断熱層の形成に用いるブローイング材は、経年による沈下でもって断熱層の厚みが減少する問題があり、特に壁断熱への適用には適さなかったところ、本発明では、吹き付け側のウレタンフォームとの混合使用によってブローイング材の沈下が発生しないため、ブローイング材の沈下に伴う断熱性能の低下を抑制できる。
(7)従来の天井裏などの断熱層の形成に用いるブローイング材は透湿抵抗が低いため防露措置を行う必要があるところ、本発明では、吹き付け側のウレタンフォームに透湿抵抗の高い原料を用いた場合に、防露措置の省略も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る吹付システムの一例を示す概略図。
図2】実験結果を示す表。
図3】本発明に係る建築物用断熱材の発泡体の切断面を示す写真。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施例について説明する。
【実施例
【0010】
<1>全体構成
本発明は、断熱層の形成予定箇所に対し、スプレー発泡による吹き付け作業と、ブローイング材の吹き込み作業とを同時に行うことで、現場発泡される発泡体の内部にブローイング材を混合させた態様の断熱層を形成することを要旨とする。
以下、各作業の詳細について説明する。
【0011】
<2>吹き付け作業(スプレー発泡作業)
吹き付け作業は、断熱層の形成予定箇所に対し、ポリイソシアネート化合物を含む主剤と、ポリオール化合物を含む硬化剤とを混合吹き付けする作業である。
主剤および硬化剤には、断熱材として使用されるJIS A9526のA種1、A種1H、A種2、A種2H、A種3、B種等の独立気泡構造硬質ウレタンフォームを含む各種のウレタンフォームの形成に使用されている公知の材料を用いることができる。
主剤および硬化剤を混合吹き付けするための装置は、例えば、公知の二液混合式のスプレーガンを用いることができる。
【0012】
<3>吹き込み作業(ブローイング作業)
吹き込み作業は、断熱層の形成予定箇所に対し、ブローイング材を吐出する作業である。
ブローイング材は、天井裏や床下などで断熱層を形成する際に適用されるブローイング工法で使用される、粒状や綿状を呈する材料である。
ブローイング材は、グラスウール、セルロースファイバー、上記<2>の吹き付け作業でも使用可能なウレタンフォームなどを用いることができる。
その中でも、別現場での断熱工事で発生したウレタンフォーム製の断熱材や、家具、寝具等に用いられるウレタンフォームの廃材や残材を粒状に粉砕したものをブローイング材として再利用すると、資源の節約が可能となる点で好ましい。
また、スプレー発泡による吹き付け作業と、ブローイングによる吹き込み作業とで使用するウレタンフォームは異種でも同種であってもよい。
なお、両者が同一原料で形成されたものであれば、完成後の発泡体の内部において、比重、密度、熱伝導率などをより均一に保持しやすいものと考えられる。
【0013】
<4>各原料の供給方法
前記した吹き付け作業と吹き込み作業について、形成予定箇所への各原料の供給方法は、ポリイソシアネート化合物からなる主剤を送り出す第1の供給路と、ポリオール化合物からなる硬化剤を送り出す第2の供給路と、ウレタンフォームを少なくとも含むブローイング材を送り出す第3の供給路と、を少なくとも具備した構成の範囲で、あらゆる方法を採用することができる。
すなわち、上記吹付システムは、各供給路を一体化した一つの装置で実現するものでもよいし、複数の装置を任意に組み合わせて実現するものであっても良い。
吹付システムの一例としては、前記第1の供給路および第2の供給路として、二液混合式のスプレーガンに備えたポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とを混合するミキシングチャンバー(「混合機」ともいう。)を用い、さらに、前記第3の供給路として、ブローイング材を吐出するブローイングホースを用いた構成が考えられる。
当該構成では、スプレーガンから送り出したポリイソシアネート化合物とポリオール化合物との混合液に対し、ブローイングホースから送り出したブローイング材とを気中で混合させることで、発泡体内部にブローイング材を含んだウレタンフォームを形成する。
【0014】
また、従来のスプレーガンと、ブローイングホースとを個別に用意する場合、スプレーガンを手にして吹き付け作業を行う作業員と、ブローイングホースを手にしてブローイング材を吐出する作業員とを別々に配備して、各員が共働しながら作業を行う方法や、スプレーガンに予めブローイングホースを取り付けておく方法などを採用することができる。
【0015】
また、スプレーガンによる主剤および硬化剤の吐出と、ブローイングホースによるブローイング材の吐出とは、それぞれ別の運転スイッチを設ける態様や、ブローイングホースの吐出口の近くに個別にコックを追加する態様などを選択することができる。
【0016】
さらに、スプレーガンのトリガーと連動するように、ブローイングホースからの吐出の有無を切り換える機構や、スプレーガンによる主剤および硬化剤の吐出とブローイング材の吐出の時間をずらす機構等を設けるなどして、一つの運転スイッチで両方の材料の吐き出しを制御可能な態様とすると、作業効率の向上や、より均一にブローイング材を混合させた断熱材の形成が期待できるため、より望ましい。
【0017】
<5>各原料の吐出設定
各吐出口の位置関係、ブローイングホースの孔径、ブローイング材の粒径などは、所望の発泡体が得られる範囲で適宜設定すればよい。
なお、ブローイングホースの孔径は、従来のブローイング工法で使用する場合よりも小さめに設定しておくことが望ましい。
これは、従来の孔径の場合、ブローイング材の拡散範囲が、スプレーガンによる主剤および硬化剤の拡散範囲よりも大きくなりやすく、吹き付けする原料でブローイング材を捕捉しにくいことや、ブローイング材が形成予定箇所で跳ね返りやすくなるためである。
また、ブローイング材の粒径も、従来のブローイング工法で使用する場合よりも小さめに設定しておくことが望ましい。
これは、従来の粒径のままとすると、前記したブローイングホースの孔径を小さくした設計変更によって、ブローイング材がホースの中で詰まりやすくなってしまう問題を回避するためである。
【0018】
<6>各原料の吐出軌跡(図1
本発明は、図1に示すように、スプレーガン10から吐き出される主剤および硬化剤の混合液Aの吹き付け軌跡の途上で、ブローイング材Bが合流するような態様としてもよい。
上記態様とすることにより、スプレーされた主剤および硬化剤の混合液Aが、予めブローイング材Bを取り込んだ状態で形成予定箇所に吹き付けられることとなり、より均一にブローイング材Bを含んだ状態で発泡された断熱層の形成が可能となる。
【0019】
<7>性能比較(図2図3
従来のスプレー発泡のみによるウレタンフォーム(従来例)と、スプレー発泡によるウレタンフォームと、ブローイング材とを本発明に係る方法で一体成形したウレタンフォーム(実施例)について、熱伝導率および密度の対比実験を行った。
今回の対比実験で用いた各断熱材は以下の表1の通りである。
[表1]
上記1.の吹き付け側断熱材のみからなる従来の断熱層(従来例)と、上記1.および2.の組合せで実施した本発明に係る断熱層(実施例)についての熱伝導率および密度の計測結果を図2に示す。
図2に示す通り、従来例と、実施例との間で、躯体側、中央部、表面側の何れの箇所においても、熱伝導率および密度に大きな差異は見られなかった。
また、前記した実施例1に係る発泡体の切断面の写真を図3に示す。
図3に示す発泡体は、上層から下層に向けて、表面側、中央部、躯体側となっており、何れの層にも、ブローイング材の粒が確認でき、発泡体の内部に均一にブローイング材Bが混合されている状態が確認できる。
【0020】
以上の実験結果により、本発明に係る構成によれば、従来例と同程度の断熱性能を得つつ、ブローイング材の使用量に応じて、吹き付け側の各原料の削減効果を得ることができる点が確認できた。
また、ブローイング材について、過去の現場で発生したウレタンフォームの残材や廃材などを用いた場合、資源のリサイクル性を高めることができ、より環境に配慮した断熱工法を提供することができる。
【0021】
<8>その他
本発明は、建築物の壁断熱の用途に限られず、建築物の床断熱や天井断熱のほか、屋上断熱などの外断熱の用途等でも使用することができる。
なお、天井断熱の施工時には、壁断熱等と比較して、ブローイング材が重力の影響等によって落下しやすくなることが予想されるため、予め天井面に対し、接着剤を塗布する方法や、静電気を帯電させておく方法などによって、ブローイング材が表面に留まりやすい状態を確保しておくことが望ましい。
【符号の説明】
【0022】
10 スプレーガン
20 ブローイングホース
A 混合液
B ブローイング材
図1
図2
図3