(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】内面ビードの剥がれ抑制方法
(51)【国際特許分類】
B23K 13/00 20060101AFI20241018BHJP
B23K 13/08 20060101ALI20241018BHJP
B23K 13/06 20060101ALI20241018BHJP
B21C 37/08 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
B23K13/00 A
B23K13/08 520
B23K13/06 A
B21C37/08 C
(21)【出願番号】P 2021013480
(22)【出願日】2021-01-29
【審査請求日】2023-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000231110
【氏名又は名称】JFE建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】谷口 佳広
(72)【発明者】
【氏名】高橋 博文
【審査官】杉田 隼一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-147939(JP,A)
【文献】特開平10-249547(JP,A)
【文献】特開平01-178380(JP,A)
【文献】特開2014-188569(JP,A)
【文献】特開2020-182971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 13/00
B23K 13/08
B23K 13/06
B21C 37/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯鋼を多段の成形ロールによりオープン管に成形する工程と、
前記オープン管の端面溶接部を高周波誘導加熱コイルにより加熱する工程と、
加熱された前記端面溶接部をスクイズロールにより圧着する工程と、
インピーダーを液化不活性ガスにより冷却する工程と、
前記液化不活性ガスによる冷却の際に不活性ガスを発生させる工程と、
前記不活性ガスを前記端面溶接部に吹き付ける工程とを含
み、
前記インピーダーは外筒ホルダを備えると共に前記オープン管の内側に配置され、
前記インピーダーと前記外筒ホルダの間には環状隙間を形成し、
前記インピーダーは前記外筒ホルダの内径に対し偏心して配置される
ことを特徴とする溶接鋼管の内面ビード剥がれ抑制方法。
【請求項2】
請求項1に記載する溶接鋼管の内面ビード剥がれ抑制方法において
、
前記外筒ホルダの一方の端部は前記端面溶接部に対して上流側に位置し、
前記外筒ホルダの他方の端部には前記液化不活性ガスを注入する冷却用ノズルが接続され
る
ことを特徴とする溶接鋼管の内面ビード剥がれ抑制方法。
【請求項3】
請求項2に記載する溶接鋼管の内面ビード剥がれ抑制方法において
、
前記環状隙間の広い隙間が前記
端面溶接部側に位置するように配置される
ことを特徴とする溶接鋼管の内面ビード剥がれ抑制方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載する溶接鋼管の内面ビード剥がれ抑制方法において、
前記オープン管に成形する溶接鋼管は、ステンレスパイプである
ことを特徴とする溶接鋼管の内面ビード剥がれ抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯鋼を円筒状に曲げて高周波誘導電流によって加熱し、帯鋼の両端部を溶接する溶接鋼管の製造方法であって、パイプ管内に発生する内面ビードの剥がれ抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属の管を製造する方法の一つとして、金属帯板を円筒状に成形してオープン管を形成し、オープン管の両端面を溶接して管形状とする、溶接鋼管の製造方法が一般的に知られている。このような製造方法における溶接工程は、オープン管の端面を高周波誘導加熱コイルにより溶融温度まで高め、スクイズロールでオープン管の両端面を圧接溶接することにより行われる。また、このような溶接方法においては、オープン管の両端面を圧接溶接する際に、溶接痕の盛り上がりである溶接ビードが発生する。
【0003】
例えば、特許文献1には、溶接鋼管内面に発生した溶接ビード(内面ビード)を、治具によって圧潰し、溶接鋼管内面を平滑にする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示すような溶接鋼管の内面ビード平滑化装置は、溶接鋼管の内面ビードを容易かつ確実に平滑化することができる。一方で、溶接鋼管の製品としての仕様上、内面ビードを許容するものの製造については、このような内面ビードを圧潰する工程や、切削等の既知の内面ビードを除去する工程は不要であった。
【0006】
しかしながら、溶接鋼管の内壁面に発生した内面ビードは、酸化度合いのばらつき等が原因となって、部分的に内壁面から剥がれる場合があり、このような部分的な剥がれが生じると、溶接鋼管切断の際に、刃物の破損等のトラブルにつながる場合があった。また、溶接鋼管の切断後においても、剥がれた内面ビードが管内に残存し搬送時のトラブルにもなり得る。
【0007】
そこで、本発明は上記の事項に鑑みてなされたものであり、内面ビードの切削や圧潰を行うことなく内面ビードの形状を安定させ、内面ビードの部分的な剥がれを抑制することができる、溶接鋼管の内面ビードの剥がれ抑制方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、上記課題を達成するためになされたものであって、下記を特徴とするものである。
【0009】
本発明に係る溶接鋼管の内面ビード剥がれ制御方法は、帯鋼を多段の成形ロールによりオープン管に成形する工程と、前記オープン管の端面溶接部を高周波誘導加熱コイルにより加熱する工程と、加熱された前記端面溶接部をスクイズロールにより圧着する工程と、インピーダーを液化不活性ガスにより冷却する工程と、前記液化不活性ガスによる冷却の際に不活性ガスを発生させる工程と、前記不活性ガスを前記端面溶接部に吹き付ける工程とを含み、前記インピーダーは外筒ホルダを備えると共に前記オープン管の内側に配置され、前記インピーダーと前記外筒ホルダの間には環状隙間を形成し、前記インピーダーは前記外筒ホルダの内径に対し偏心して配置されることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る溶接鋼管の内面ビード剥がれ制御方法において、前記外筒ホルダの一方の端部は前記端面溶接部に対して上流側に位置し、前記外筒ホルダの他方の端部には前記液化不活性ガスを注入する冷却用ノズルが接続されると好適である。
【0011】
本発明に係る溶接鋼管の内面ビード剥がれ制御方法において、前記環状隙間の広い隙間が前記溶接部側に位置するように配置されると好適である。
【0012】
本発明に係る溶接鋼管の内面ビード剥がれ抑制方法において、前記オープン管に成形する溶接鋼管は、ステンレスパイプであると好適である。
【0013】
上記発明の概要は、本発明に必要な特徴の全てを列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた発明となり得る。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、内面ビードの切削や圧潰を行うことなく内面ビードの形状を安定させ、内面ビードの部分的な剥がれを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態に係る溶接鋼管の製造工程を示すフロー図
【
図6】内面ビードの剥がれにより切断不良となる溶接鋼管の一例を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0017】
図1は、本実施形態に係る溶接鋼管の製造工程を示すフロー図、
図2は、本実施形態に係る溶接工程を示す斜視図、
図3は、内面ビードの剥がれの一例を示す斜視図、
図4は、
図3のA-A断面図、
図5は、
図3のB-B断面図、
図6は、内面ビードの剥がれにより切断不良となる溶接鋼管の一例を示す斜視図、
図7は、本実施形態に係る溶接工程を示す断面図である。
【0018】
本実施形態に係る内面ビードの剥がれ抑制方法は、
図1に示す工程により行われ、溶接鋼管の製造方法の一部に含まれる。本実施形態に係る溶接鋼管は、ステンレス鋼管、炭素鋼鋼管、合金鋼鋼管等を含む。
【0019】
先ず、本実施形態における溶接鋼管の製造方法について概略説明を行う。なお、以下の説明において、上流、下流とは、溶接鋼管の製造工程において、成形機内で鋼材が進行する方向に対する上流、下流を意味する。
【0020】
本実施形態における溶接鋼管の製造方法は、先ず、
図1に示すように、造管する管外径に合わせ、鋼板を所定の幅に切断し溶接鋼管の材料となる帯鋼を準備する。その後、必要であれば切断された帯鋼の長手方向の端部を既に成形機に装入されている終端部に溶接し、連続的に溶接鋼管を製造できる長さの帯鋼を準備する。次に、平らな帯鋼を成形機に装入し、多段の成形ロールで徐々に円管状に成形する。円管状に成形された帯鋼は、その幅方向の両端部が対向し、
図2に示すような一部が開いた筒状のオープン管1に成形される。一部が開いた筒状のオープン管1は、
図2に示すように、スクイズロール3によって両端面1a、1bが押しつけられ、接触点1cを作る。
【0021】
スクイズロール3の上流には、
図2に示すように、オープン管1の外周を取り巻くように高周波誘導加熱コイル2が設置されており、高周波誘導加熱コイル2には高周波電流が流れている。そのため、高周波誘導加熱コイル2から高周波の磁界が発生し、オープン管1には接触点1cに沿って渦電流が流れる。このとき発生する渦電流のジュール熱により、接触点1cは急速加熱され、溶融温度まで達する。高周波誘導加熱コイル2によって加熱され溶融した接触点1cは、スクイズロール3を通過する際に圧着され、接合することで両端面1a、1b同士の溶接が完了する。その後、溶接された鋼管1dは、切断や矯正等、また必要であれば熱処理等の工程を経て、各種の検査が行われ完成に至る。
【0022】
次に、本実施形態における溶接工程について詳細説明を行う。
【0023】
図2に示すように、オープン管1の内側にはインピーダー4が挿入されている。インピーダー4は、
図7に示すように、高周波誘導加熱コイル2の内側を通過し、インピーダー4の下流側の端部は、接触点1cの僅かに上流側に位置する。インピーダー4の下流側の端部は形状を問わず、
図7に示すように、傾斜を有する形状であっても構わない。インピーダー4は、フェライトや電磁鋼板等の強磁性体の材料からなり、高周波誘導加熱コイル2が発生する磁束を集め、接触点1cを効率よく加熱する。なお、渦電流の発生によってインピーダー4自体が高温に発熱するため、後述するように、インピーダー4を冷却する必要がある。
【0024】
上述した手順により溶接された鋼管1dの内面には、スクイズロール3により圧接された際、両端面1a、1bのつなぎ目に、
図3に示すように、線状の内面ビード10が発生する。溶接された鋼管1dの断面に発生した内面ビード10は、通常であれば
図4に示すように、溶接された鋼管1dの内面から略一定の高さhに形成される。完成された溶接鋼管の利用用途によっては、このような内面ビード10が存在していても問題とならない場合があり、このような場合には、切削や圧潰による内面ビード10を除去する工程を省くことができる。本実施形態において、内面ビード10の高さhは、溶接された鋼管1dの外内径に関らず、一例として1.2mmとなる。
【0025】
一方で、内面ビード10は
図5に示すように、線状に形成された内面ビード10の一部に剥がれgが生じる場合がある。このような部分的な剥がれgが発生する原因は、内面ビード10の酸化度合いのばらつき等であると推測されている。なお、このような部分的な剥がれgが生じると、
図6に示すように、溶接された鋼管1dの切断の際、パイプカッター等の刃物20が内面ビード10に当たらず、内面ビード10を切断できない場合がある。このように、切断工程を経ても溶接された鋼管1dが完全に分離されていない場合、刃物20の破損や、後の工程において製造設備の故障等のトラブルが生ずる恐れがある。そのため、後述するように、内面ビード10の除去を行わない場合には、内面ビード10の酸化抑制及び剥がれgの抑制を行う必要がある。
【0026】
次に、高温に発熱したインピーダー4の冷却方法について説明を行う。
【0027】
図2に示すように、インピーダー4の外側には円筒状の外筒ホルダ5が設置され、インピーダー4と外筒ホルダ5との間には、環状隙間6を形成する。インピーダー4は、外筒ホルダ5の内径に対し偏心するように設置されており、環状隙間6も同様に、径方向の一部に広く開いた隙間6aを有する。隙間6aは、
図2及び7に示すように、オープン管1の接触点1cの位置する角度と略同角度に位置する。また、外筒ホルダ5の下流側の端部は、インピーダー4の端面よりも下流側であって、接触点1cよりも僅かに上流側に位置する。外筒ホルダ5の下流側の端部は形状を問わず、
図7に示すように、傾斜を有する形状であっても構わない。
【0028】
外筒ホルダ5の上流側には、冷却用ノズル7が設置され、冷却ノズル7は図示しない液体窒素供給源に接続されている。液体窒素供給源より供給される液体窒素は、冷却用ノズル7を介してインピーダー4に吹き付けられ、インピーダー4を冷却する。インピーダー4に吹き付けられた液体窒素は気化して不活性ガスとなり、環状隙間6に供給されインピーダー4全体を冷却する。インピーダー4を冷却した不活性ガスは、その後、外筒ホルダ5の下流側よりオープン管1内に放出される。なお、冷却用ノズル7と外筒ホルダ5との接続部は、図示しないが、不活性ガスが上流側に流れないように、外筒ホルダ5の上流側の端面を塞ぐように接続されている。本実施形態において、冷却に用いる液化不活性ガスは液体窒素として説明を行ったが、これに限らず、液化ヘリウム等の液化不活性ガスを用いても構わない。
【0029】
次に、内面ビード10の酸化抑制方法及び剥がれ抑制方法について説明を行う。
【0030】
一般的に、鋼材の溶接時において、溶融金属中に空気中の窒素や酸素が溶解すると、気孔等の溶接欠陥の原因となることが知られている。そのため、溶融金属と反応を起こさないシールドガスを溶接部周辺に充満させ、溶融金属と空気との接触を断つ方法が知られている。上述の通り、インピーダー4を冷却させた際に発生した不活性ガスは、外筒ホルダ5の下流側よりオープン管1内に放出されるため、溶融箇所を覆うシールドガスになり得る。
【0031】
また、上述の通り、外筒ホルダ5の下流側端部は溶融箇所である接触点1cよりも僅かに上流に位置し、環状隙間6の広く開いた隙間6aは接触点1cの位置する側と同じ角度にあることから、接触点1cの付近から不活性ガスを放出することができ、溶融箇所を効率よく不活性ガスで覆うことができる。なお、一般的に環状隙間を流れる流体は、同心の環状隙間よりも、偏心した環状隙間の場合により多くの流量が流れるため、オープン管1内に十分に不活性ガスを送ることができる。また、隙間6aから噴出する不活性ガスには気化圧力がかかるため、噴出した不活性ガスによって内面ビード10は押圧され、線状で安定した形状の内面ビード10が形成される。
【0032】
以上のように、本実施形態においては、インピーダー4の冷却によって発生した不活性ガスを利用し、溶融金属から空気を遮断して溶接欠陥を防ぐと共に、不活性ガスの気化圧力によって、安定した形状の内面ビード10を形成し、内面ビード10の剥がれgを抑制することができる。
【0033】
なお、上記では外筒ホルダ5の下流側端面は円筒の切断面である場合について説明を行ったが、外筒ホルダ5の下流側端面の形状はこれに限らず、接触点1cに向けて積極的に不活性ガスを吹き付けるノズル状の形態であっても構わない。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0034】
1 オープン管
1a、1b 端面
1c 接触点
1d 溶接された鋼管
2 高周波誘導加熱コイル
3 スクイズロール
4 インピーダー
5 外筒ホルダ
6 環状隙間
6a 広く開いた隙間
7 冷却用ノズル
10 内面ビード
20 刃物
h (内面ビードの)高さ
g (内面ビードの)剥がれ