(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】船舶監視装置、船舶監視方法および船舶監視プログラム
(51)【国際特許分類】
G08G 3/00 20060101AFI20241018BHJP
G16Y 10/40 20200101ALI20241018BHJP
G16Y 20/20 20200101ALI20241018BHJP
G16Y 40/10 20200101ALI20241018BHJP
【FI】
G08G3/00 A
G16Y10/40
G16Y20/20
G16Y40/10
(21)【出願番号】P 2021074146
(22)【出願日】2021-04-26
【審査請求日】2024-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000182030
【氏名又は名称】若築建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002918
【氏名又は名称】弁理士法人扶桑国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野田 明
(72)【発明者】
【氏名】吉住 雄二
【審査官】秋山 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-036958(JP,A)
【文献】国際公開第2019/121237(WO,A1)
【文献】特開2019-204396(JP,A)
【文献】特開平10-288663(JP,A)
【文献】特開2019-040329(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 3/00
G16Y 10/40
G16Y 20/20
G16Y 40/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
港湾に対して入港する船舶の位置情報および船種を検出し、
前記港湾における過去の複数の入港船舶のそれぞれについての位置情報および船種を入力として船種ごとに航路を学習した学習済みモデルを用いて、前記船舶についての位置情報および船種の検出結果を基に前記船舶の航路を予測する、処理部、
を有する船舶監視装置。
【請求項2】
前記学習済みモデルは、前記複数の入港船舶のそれぞれについての所定数以上の位置情報を入力とした学習によって生成され、
前記処理部は、前記船舶についての前記所定数の位置情報に基づいて前記船舶の航路を予測する、
請求項1記載の船舶監視装置。
【請求項3】
前記処理部は、前記船舶の航路予測において、現時刻より後の複数の時刻のそれぞれにおける前記船舶の予測位置を出力する、
請求項1または2記載の船舶監視装置。
【請求項4】
前記処理部はさらに、前記複数の時刻のそれぞれにおける前記予測位置を海図上に示した画像の表示情報を出力する、
請求項3記載の船舶監視装置。
【請求項5】
前記処理部は、前記船舶の航路予測において、現時刻から所定時間後における前記船舶の位置を予測し、所定の確率以上で予測される位置の範囲を示す予報円を海図上に示した画像の表示情報を出力する、
請求項1または2記載の船舶監視装置。
【請求項6】
前記複数の入港船舶のそれぞれについての位置情報および船種は、前記港湾の付近で前記複数の入港船舶から送信されたAIS(Automatic Identification System)データから取得される、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の船舶監視装置。
【請求項7】
前記処理部はさらに、前記船舶の航路の予測結果に基づいて、前記船舶が前記港湾の所定領域に到達する到達時刻を算出し、前記到達時刻に基づいて前記所定領域にある船舶を退避させる時刻を算出する、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の船舶監視装置。
【請求項8】
コンピュータが、
港湾に対して入港する船舶の位置情報および船種を検出し、
前記港湾における過去の複数の入港船舶のそれぞれについての位置情報および船種を入力として船種ごとに航路を学習した学習済みモデルを用いて、前記船舶についての位置情報および船種の検出結果を基に前記船舶の航路を予測する、
船舶監視方法。
【請求項9】
コンピュータに、
港湾に対して入港する船舶の位置情報および船種を検出し、
前記港湾における過去の複数の入港船舶のそれぞれについての位置情報および船種を入力として船種ごとに航路を学習した学習済みモデルを用いて、前記船舶についての位置情報および船種の検出結果を基に前記船舶の航路を予測する、
処理を実行させる船舶監視プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶監視装置、船舶監視方法および船舶監視プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の航行の際には、AIS(Automatic Identification System)データなどによって他船の位置や速度、方向を把握し、他船の航路を予測することで、自船の安全な航行が可能になる。また、船舶の航路を自動的に予測・推定することも考えられている。例えば、船舶の種類ごとに船舶の運動特性を学習し、その学習結果に基づいて、航跡データを損失した区間における船舶の航跡を推定する推定システムが提案されている。
【0003】
一方、海上工事においても、工事区域に接近する船舶を警戒する必要がある。工事区域に船舶が接近した場合には、その船舶に警告する、あるいは工事の作業船を退避させるといった対処がなされる。船舶の航路を予測する技術は、このような目的のためにも有用である。これに関連する技術として、例えば、入港する船舶からのAISデータを用いて、船舶が工事の施工位置周辺を航行する時刻を推定し、その時刻に基づいて作業船を施工位置から退避すべきか否かを判定する支援システムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-185785号公報
【文献】特開2019-40329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
港湾において工事が施工される場合には、その港湾を航行する船舶の航路を予測することで、船舶が工事区域に接近するかの判定や、接近する時刻の推定を行うことができる。この場合、港湾における船舶の航路を正確に予測することが重要となる。ここで、上記のように船舶の運動特性を考慮して船舶の航路を予測した場合、港湾ごとに地形などの特徴が異なることから、港湾によっては航路の予測精度が低下するという問題がある。
【0006】
1つの側面では、本発明は、港湾における船舶の航路予測精度を向上させることが可能な船舶監視装置、船舶監視方法および船舶監視プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの案では、次のような処理部を有する船舶監視装置が提供される。この船舶監視装置において、処理部は、港湾に対して入港する船舶の位置情報および船種を検出し、港湾における過去の複数の入港船舶のそれぞれについての位置情報および船種を入力として船種ごとに航路を学習した学習済みモデルを用いて、船舶についての位置情報および船種の検出結果を基に船舶の航路を予測する。
【0008】
また、1つの案では、上記の船舶監視装置と同様の処理をコンピュータが実行する船舶監視方法が提供される。
さらに、1つの案では、上記の船舶監視装置と同様の処理をコンピュータに実行させる船舶監視プログラムが提供される。
【発明の効果】
【0009】
1つの側面では、港湾における船舶の航路予測精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施の形態に係る船舶監視装置の構成例および処理例を示す図である。
【
図2】第2の実施の形態に係る船舶監視システムの構成例を示す図である。
【
図3】監視サーバのハードウェア構成例を示す図である。
【
図4】船舶監視システム内の各装置が備える処理機能の構成例を示す図である。
【
図5】航路予測AIの基本的な処理を説明するための図である。
【
図6】港湾別の航路学習処理を説明するための図である。
【
図7】監視対象の船舶の抽出処理について説明するための図である。
【
図9】監視対象の船舶が警戒ラインに到達した場合の処理について説明するための図である。
【
図10】監視対象の船舶が工事区域に進入すると予測される場合の処理について説明するための図である。
【
図11】作業船の退避完了を判定する処理の例を示す図である。
【
図12】監視対象抽出処理の例を示すフローチャートである。
【
図13】船舶の接近監視処理の例を示すフローチャート(その1)である。
【
図14】船舶の接近監視処理の例を示すフローチャート(その2)である。
【
図15】船舶の接近監視処理についての変形例を示すフローチャートである。
【
図16】第3の実施の形態に係る船舶監視システムの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
〔第1の実施の形態〕
図1は、第1の実施の形態に係る船舶監視装置の構成例および処理例を示す図である。
図1に示す船舶監視装置10は、記憶部11と処理部12を有する。記憶部11は、例えば、船舶監視装置10が備える図示しない記憶装置の記憶領域として実現される。処理部12は、例えば、船舶監視装置10が備える図示しないプロセッサとして実現される。
【0012】
記憶部11には、船舶の航路を予測するための学習済みモデル11aが記憶される。処理部12は、特定の港湾(港湾Aとする)に対して入港する船舶の航路を、学習済みモデル11aを用いて予測する。これにより、船舶監視装置10は、港湾Aにおける船舶の航路を予測することができる。例えば、港湾Aで海上工事が施工されている場合、船舶監視装置10は、海上工事の現場に接近する可能性のある船舶の航路を予測することができる。
【0013】
学習済みモデル11aは、次のように生成される。
図1の上側に示すように、港湾における過去の複数の入港船舶のそれぞれについての位置情報および船種を入力として、船種ごとに航路が学習される。この学習のための入力データとして、航路予測の対象と同じ港湾Aにおける過去の入港船舶についての位置情報(絶対座標)および船種が用いられる。
【0014】
ここで、船種ごとに航路の学習が行われることで、例えば船種ごとの動きの特徴が反映された学習済みモデル11aを生成できる。しかし、港湾によって地形などの特徴が異なるので、船種ごとの航路のとり方(速度や方向など)や、入港時刻の遅延の仕方が異なる。
【0015】
本実施の形態では、航路予測の対象と同じ港湾Aにおける過去の入港船舶についての位置情報および船種を用いて学習が行われ、学習済みモデル11aが生成される。そして、この学習済みモデル11aを用いて、同じ港湾Aに入港する船舶の航路が予測される。このため、港湾Aの特徴に応じた正確な航路予測が可能となる。
【0016】
船舶監視装置10の処理部12は、次のような手順によって航路予測を行う。ここでは例として、
図1の左下に示すように、港湾Aの位置1において海上工事が施工されているとする。この状態で、処理部12は、港湾Aに入港する船舶2を検出したとする。すると、処理部12は、その船舶2の位置情報および船種を検出する。船舶2の位置情報および船種は、例えば、船舶2から送信されるAISデータから取得可能である。
【0017】
次に、処理部12は、学習済みモデル11aを用いて、船舶2についての位置情報および船種の検出結果を基に、船舶2の航路を予測する。予測される航路の例として、例えば、所定時間後の船舶2の位置2aが予測される。また、航路予測処理は、実際には、学習済みモデル11aのデータのうち、船舶2の船種に対応するデータを用いて実行される。
【0018】
以上の処理により、港湾における船舶の航路予測の精度を向上させることができる。例えば、港湾の工事区域に接近する船舶の航路予測の精度を向上させることができる。
〔第2の実施の形態〕
次に、第1の実施の形態における航路予測処理を利用して、工事区域の作業船を退避させる時刻を算出可能な船舶監視システムについて説明する。
【0019】
図2は、第2の実施の形態に係る船舶監視システムの構成例を示す図である。
図2に示す船舶監視システムは、監視サーバ100、現場端末200および退避場端末300を含む。監視サーバ100、現場端末200および退避場端末300は、ネットワーク400を介して互いに接続されている。
【0020】
監視サーバ100は、港湾の内部において護岸工事、浚渫工事などの海上工事が施工されている状況において、工事の安全な施工を可能にするための支援処理を実行するサーバ装置である。具体的には、監視サーバ100は、工事現場に接近する船舶を監視し、その監視結果に基づいて、作業船を工事現場から退避させる適切な退避時刻を算出する。監視サーバ100は、例えばWebサーバ機能を備え、現場端末200に対して退避時刻などの各種の情報を通知するための表示情報を送信する。
【0021】
港湾付近での海上工事の現場は船舶の航路に近い場合も多く、そのような場合には船舶が工事現場に接近するたびに作業船を退避させることで、船舶の航路や工事作業員の安全が確保されている。このような工事現場では、接近する船舶を目視で監視したり、船舶の入出港の予定表を参照することで、作業船を退避させる時刻を判断していた。監視サーバ100は、このような作業船の退避時刻を自動的に判断するものであり、これによって船舶の航行や工事作業の安全性を確保しつつ、工事現場での作業効率を向上させる。
【0022】
現場端末200は、工事現場の作業船、または工事現場付近の陸上施設に設置される端末装置である。現場端末200には、AIS受信機201と表示装置202が接続されている。
【0023】
AIS受信機201は、港湾の付近を航行する船舶からのAISデータを受信するための装置であり、AISデータを受信するためのアンテナ、アンテナによる受信信号を処理する処理装置などを含む。AISデータには、船舶の識別符号、船名、位置情報(例えば緯度、経度などの絶対座標情報)が含まれる。AIS受信機201は、受信したAISデータを現場端末200に送信する。
【0024】
現場端末200は、受信したAISデータの内容を、港湾付近の航行が検知された船舶に関する船舶情報として監視サーバ100に送信する。監視サーバ100は、現場端末200から受信した船舶情報に基づいて工事現場に接近する船舶の航路を予測し、その予測結果に基づいて船舶が工事現場付近を通過する時刻を予測する。監視サーバ100は、船舶の通過予測時刻に基づき、作業船が退避するためにかかる時間を考慮して、適切な退避開始時刻を算出して現場端末200に通知する。
【0025】
なお、AISデータは、船舶情報を取得するための情報の一例である。AISデータの送信機を備えない小型船からは、例えば、GPS(Global Positioning System)情報が船舶の識別情報とともに受信することで、船舶情報を取得することができる。
【0026】
表示装置202は、監視サーバ100から受信した表示情報などを表示する。
退避場端末300は、作業船が工事現場から退避する際の退避先となる退避場所付近に設置される端末装置である。退避場端末300には、カメラ301が接続される。カメラ301は、退避場所に進入する作業船を撮影する。退避場端末300は、撮影された画像を解析することで、退避場所に対する作業船の移動が完了したかを判定し、移動が完了した場合にその旨を監視サーバ100に通知する。なお、カメラ301の画像解析は作業船の移動完了の判定方法の一例であり、例えば、作業船のGPS情報に基づいて作業船の移動完了が判定されてもよい。
【0027】
図3は、監視サーバのハードウェア構成例を示す図である。監視サーバ100は、例えば、
図3に示すようなコンピュータとして実現される。
図3に示す監視サーバ100は、プロセッサ101、RAM(Random Access Memory)102、HDD(Hard Disk Drive)103、グラフィックインタフェース(I/F)104、入力インタフェース(I/F)105、読み取り装置106および通信インタフェース(I/F)107を備える。
【0028】
プロセッサ101は、監視サーバ100全体を統括的に制御する。プロセッサ101は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)またはPLD(Programmable Logic Device)である。また、プロセッサ101は、CPU、MPU、DSP、ASIC、PLDのうちの2以上の要素の組み合わせであってもよい。
【0029】
RAM102は、監視サーバ100の主記憶装置として使用される。RAM102には、プロセッサ101に実行させるOS(Operating System)プログラムやアプリケーションプログラムの少なくとも一部が一時的に格納される。また、RAM102には、プロセッサ101による処理に必要な各種データが格納される。
【0030】
HDD103は、監視サーバ100の補助記憶装置として使用される。HDD103には、OSプログラム、アプリケーションプログラム、および各種データが格納される。なお、補助記憶装置としては、SSD(Solid State Drive)などの他の種類の不揮発性記憶装置を使用することもできる。
【0031】
グラフィックインタフェース104には、表示装置104aが接続されている。グラフィックインタフェース104は、プロセッサ101からの命令にしたがって、画像を表示装置104aに表示させる。
【0032】
入力インタフェース105には、入力装置105aが接続されている。入力インタフェース105は、入力装置105aから出力される信号をプロセッサ101に送信する。入力装置105aとしては、キーボードやポインティングデバイスなどがある。ポインティングデバイスとしては、マウス、タッチパネル、タブレット、タッチパッド、トラックボールなどがある。
【0033】
読み取り装置106には、可搬型記録媒体106aが脱着される。読み取り装置106は、可搬型記録媒体106aに記録されたデータを読み取ってプロセッサ101に送信する。可搬型記録媒体106aとしては、光ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリなどがある。
【0034】
通信インタフェース107は、ネットワーク400を介して現場端末200、退避場端末300などの他の装置との間でデータの送受信を行う。
以上のようなハードウェア構成によって、監視サーバ100の処理機能を実現することができる。なお、現場端末200および退避場端末300も、
図3のような構成のコンピュータとして実現することができる。
【0035】
図4は、船舶監視システム内の各装置が備える処理機能の構成例を示す図である。
まず、現場端末200は、船舶情報送信部211と情報表示処理部212を備える。船舶情報送信部211と情報表示処理部212の処理は、例えば、現場端末200が備える図示しないプロセッサが所定のプログラムを実行することで実現される。
【0036】
船舶情報送信部211は、AIS受信機201によって受信されたAISデータを取得し、AISデータに基づく船舶情報を生成して監視サーバ100に送信する。船舶情報には少なくとも、船名、船種(船舶の種別)、位置情報が含まれる。また、船舶情報には、船舶の速度、方向がさらに含まれてもよい。
【0037】
情報表示処理部212は、監視サーバ100から表示情報を受信し、表示情報に基づく画像を表示装置202に表示させる。表示情報としては、例えば、検知された船舶の位置や予測航路が示された。港湾付近の海図や、工事の施工現場付近における船舶の通過予測時刻に基づいて算出された、作業船の退避開始時刻を示す情報などが、監視サーバ100から受信される。
【0038】
次に、退避場端末300は、退避船舶検出部311を備える。退避船舶検出部311の処理は、例えば、退避場端末300が備える図示しないプロセッサが所定のプログラムを実行することで実現される。退避船舶検出部311は、カメラ301によって撮影された画像を解析することで、退避場所に対する作業船の移動が完了したかを判定し、移動が完了した場合にその旨を監視サーバ100に通知する。この判定機能は、例えば、撮影画像から、そこに写っている船舶の種別と船舶の位置とを検出する船舶識別AIによって実現される。
【0039】
次に、監視サーバ100は、学習モデル記憶部111、入出港リスト記憶部112および監視対象記憶部113を備える。これらの学習モデル記憶部111、入出港リスト記憶部112および監視対象記憶部113は、RAM102、HDD103など、監視サーバ100が備える記憶装置の記憶領域として実現される。
【0040】
また、監視サーバ100はさらに、航行履歴取得部121、航路学習部122、船舶情報受信部123、監視対象抽出部124、接近監視処理部125、情報通知部126および退避監視処理部127を備える。これらの航行履歴取得部121、航路学習部122、船舶情報受信部123、監視対象抽出部124、接近監視処理部125、情報通知部126および退避監視処理部127の処理は、例えば、監視サーバ100が備えるプロセッサ101が所定のプログラムを実行することで実現される。
【0041】
監視サーバ100においては、監視対象とされた船舶の航路予測が航路予測AI(Artificial Intelligence)を用いて実行される。航行履歴取得部121、航路学習部122および学習モデル記憶部111は、航路予測AIの学習モデルを生成するための学習機能として設けられる。一方、後述する接近監視処理部125は、生成された学習モデルを用いて航路予測を実行するための推論機能として設けられる。
【0042】
航行履歴取得部121は、工事が施工される港湾における過去の船舶の航行履歴を取得する。航行履歴には少なくとも、船舶の船種、船舶の航跡上の複数の位置(絶対座標)、各位置に対応する時刻の情報が含まれる。また、航行履歴にはこの他に、各位置における速度や方向が含まれてもよい。
【0043】
この航行履歴としては、主として、過去に航行した船舶から送信されたAISデータを用いることができる。特に、大型船ではAISデータを送信することが義務付けられていることから、例えば港湾を管理する管理者から過去のAISデータを航行履歴として取得することは容易である。一方、小型船などのAISデータの送信機能を備えない船舶については、例えば、乗員が保有する携帯端末(スマートフォンなど)によって検出されたGPS情報を利用することができる。国によっては、小型船の安全性確保のためにGPS情報などの位置情報の収集や配布を推進していることから、このような位置情報を航行履歴として利用することも可能である。
【0044】
航路学習部122は、取得された航行履歴を用いて船舶の航路を学習することで、学習モデルを生成し、生成された学習モデルを示すデータ(学習モデルデータ)を学習モデル記憶部111に登録する。この学習では、航行履歴が船種別に分類され、船種ごとに航路の学習が行われる。したがって、学習モデルデータも船種別に生成され、学習モデル記憶部111に登録される。
【0045】
船舶情報受信部123は、海上工事の施工中において、現場端末200の船舶情報送信部211から送信された船舶情報を受信する。前述のように、船舶情報には少なくとも、船名、船種、位置情報が含まれる。また、船舶情報には、船舶の速度、方向がさらに含まれてもよい。
【0046】
入出港リスト記憶部112には、工事が施工される港湾における入出港リストが記憶される。監視対象抽出部124は、船舶情報が受信された船舶を入出港リスト記憶部112内の入出港リストと照合することで、これらの船舶の中から工事現場に接近する可能性のある船舶を監視対象として抽出する。この処理では、船舶情報が受信された船舶の中から、入出港リストにおいて現時刻を含む所定期間に入港する予定の船舶が、監視対象として抽出される。抽出された船舶についての船舶情報は、監視対象記憶部113に登録される。監視対象記憶部113には、監視対象とされた船舶についての船舶情報が蓄積される。
【0047】
接近監視処理部125は、監視対象記憶部113に蓄積された船舶情報に基づき、監視対象の船舶の動きを監視する。このとき、接近監視処理部125は、学習モデル記憶部111に記憶された学習モデルデータを用いて、監視対象の船舶の航路を予測する。この航路予測では、船舶の船種に対応する学習モデルデータが使用される。また、航路予測の結果としては、所定時間後における船舶の予測位置が出力される。
【0048】
接近監視処理部125は、所定時間後における船舶の予測位置が所定の警戒ラインを超えて接近した場合には、船舶が接近していることを、情報通知部126を介して現場端末200に警告する。さらに、接近監視処理部125は、所定時間後における船舶の予測位置が工事現場を含む工事区域に含まれる場合には、その予測位置での船舶の到達予測時刻に基づいて、工事現場から作業船を退避させる退避開始時刻を算出する。
【0049】
情報通知部126は、接近監視処理部125や退避監視処理部127からの依頼に応じて、各種の表示情報を現場端末200に送信して情報を表示させる。例えば、情報通知部126は、接近監視処理部125によって算出された退避開始時刻を示す表示情報を現場端末200に送信する。また、情報通知部126は、接近監視処理部125の処理結果に基づき、海図上に船舶の位置を示した表示情報や、その海図上に監視対象の船舶の予測位置を示した表示情報を、現場端末200に送信することもできる。
【0050】
退避監視処理部127は、算出された退避開始時刻を過ぎた船舶について、退避場端末300からの情報に基づいて退避場所への退避が完了したかを監視し、退避が完了した場合には、情報通知部126に退避完了を示す表示情報を送信させる。
【0051】
ところで、作業船を工事現場から退避場所に移動させるには、ある程度の時間がかかる。このため、工事現場に船舶が接近した際には、作業船の退避にかかる時間を考慮して退避時刻を決定することが望まれる。このような退避時刻を正確に決定するためには、作業船の退避が必要となる工事区域に船舶が進入する時刻を正確に予測できることが重要となる。
【0052】
船舶の進入時刻を予測する方法としては、例えば、船舶の入出港スケジュールを記載した入出港リストを参照する方法が考えられる。しかし、船舶の実際の入出港時刻は、バースの空き待ち状況や天候などの様々な理由によってずれる場合が多く、そのずれ幅も大きい。例えば、数時間にわたるバースの空き待ちが発生することもある。したがって、この方法では船舶が工事区域に進入する時刻を正確に予測することは難しい。
【0053】
このため、実際には、工事現場に接近する船舶を目視で監視することで、工事区域への船舶の進入時刻を予測する方法がとられることが多い。しかし、この方法でも船舶の進入時刻を正確に予測することは難しい。このため、安全のために時間に余裕をとり、作業船を早めに退避させるようにすることが多いが、退避時刻を早めることで工事を施工できる時間が短くなってしまうという問題がある。
【0054】
そこで、本実施の形態では、航路予測AIを用いて、工事現場に接近する船舶の航路が予測される。前述のように、航路予測AIは、工事が施工される港湾における過去の航行履歴を基に事前に学習された学習モデルを用いて、航行中の船舶の移動状況に応じてその船舶の航路を予測する。以下、
図5、
図6を参照しながら航路予測AIについて説明する。
【0055】
図5は、航路予測AIの基本的な処理を説明するための図である。
まず、航路学習部122による学習処理について説明する。航路学習部122は、航行履歴取得部121によって取得された航行履歴のデータ(航行履歴データ)を用いて船舶の航跡を学習することで、学習モデルを生成する。前述のように、航行履歴データには少なくとも、船舶の船種、船舶の航跡上の複数の位置(絶対座標)、各位置に対応する時刻の情報が含まれる。ただし、航行履歴データには、少なくともn組以上(n≧2)の位置および時刻の組み合わせが登録されるものとする。これは、直前のn個の位置情報の入力に対して所定時間後の予測位置を出力するような予測器が学習されるからである。
【0056】
航路学習部122は、取得された航行履歴データを、記載された船種ごとに分類する(ステップS11)。
図5の例では、航行履歴データが3種類の船種ごとに分類されたとする。航路学習部122は、分類された航行履歴データをそれぞれ用いて、船種ごとに個別に航跡の学習を行う(ステップS12a~S12c)。
【0057】
航跡の学習では、上記のように複数組(n組以上)の位置および時刻の組み合わせを含む時系列データに基づき、例えば、LSTM(Long-Short Term Memory)を用いた時系列データの学習モデルが構築される。このような学習により、直前のn組の位置および時刻の組み合わせを含む情報の入力に対して、所定時間後の予測位置を出力するような予測器を示す学習モデルのデータが生成される。本実施の形態では例として、m1秒後の予測位置と、m2秒後の予測位置とを出力する予測器の学習モデルデータが生成されるものとする(ただし、m2>m1)。このような学習モデルデータが船種ごとに生成されて、学習モデル記憶部111に登録される。
【0058】
次に、生成された学習モデルデータを用いた航路予測(推論)について説明する。監視対象記憶部113には、監視対象として抽出された船舶ごとに生成される船舶情報レコードを含む管理テーブルが登録される。船舶情報レコードには、現場端末200から送信された船舶情報の内容が、船舶ごとにまとめて登録される。したがって、船舶情報レコードには少なくとも、船名、船種に対応付けて、位置(絶対座標)と時刻との組み合わせが1組以上登録される。
【0059】
本実施の形態において、接近監視処理部125は、監視対象の船舶が抽出されると、その船舶の航路予測を開始する。
図5に示すように、接近監視処理部125は、ある船舶の航路予測を行う場合、この船舶に対応する船舶情報レコード113aを参照する。接近監視処理部125は、船舶情報レコード113aに基づいて船種を判別する(ステップS21)。
【0060】
次に、接近監視処理部125は、判別された船種に対応する学習モデルデータを学習モデル記憶部111から選択して読み出す。これとともに、接近監視処理部125は、船舶情報レコード113aから直近のn組の位置と時刻の組み合わせを読み出し、読み出されたデータを、選択された学習モデルデータを用いて構築された予測器に入力して、航路予測(推論)を行う(ステップS22)。この航路予測により、現時刻から所定時間後における船舶の予測位置が出力される。本実施の形態では、現時刻からm1秒後の予測位置と、m2秒後の予測位置とが出力される。
【0061】
このように、航行履歴データを用いて船種ごとに航跡の学習が行われることで、高精度な航路の予測器を生成することが可能となる。
なお、この予測器には上記のように、直近のn個の位置の情報が入力されればよい。これらのn個の位置は、時間的に等間隔で検出されたものでなくてよい。これは、AISデータが時間的に等間隔で送信されるものではないためである。ただし、例えば、船舶情報に位置と時刻に加えて速度、または速度と方向とが記載されている場合には、これらの情報に基づく補間演算によって、一定時間間隔で検出された位置の情報が疑似的に生成されてもよい。この場合、航行履歴データにも位置および時刻に加えて速度、または速度と方向とが記載され、これらの情報に基づく補間演算によって、一定時間間隔で検出された位置の情報が疑似的に生成され、生成された位置の情報を用いて学習が行われればよい。
【0062】
また、学習および航路予測の際に、入力データとして位置および時刻に加えて速度と方向の少なくとも一方が含まれ、これらの情報も用いて学習および航路予測が行われるようにしてもよい。これにより、位置と時刻のみ使用した場合と比較して、航路予測の精度を向上させることができる。
【0063】
例えば速度と方向の両方が用いられる場合、航路学習部122に入力される航行履歴データには、位置、時刻、速度および方向の組み合わせがn組以上記載され、このような航行履歴データを用いて学習が行われる。また、接近監視処理部125は、入力される船舶情報レコードの中から、位置、時刻、速度および方向についての直近のn組の組み合わせを抽出して、航路予測を行う。
【0064】
図6は、港湾別の航路学習処理を説明するための図である。上記のように、学習モデルは、過去の航跡を学習することで船舶の航路を予測するものである。このため、予測結果は教師データである航跡に依存するが、この航跡は、港湾の形状や地形、目的地に大きく依存する。そこで、本実施の形態では、港湾別の航行履歴データを用いて、各港湾における航路予測用の学習モデルが個別に生成される。
【0065】
図6では、港湾H1と港湾H2のそれぞれについて個別に学習が行われる場合について例示している。航路学習部122は、港湾H1の付近を航行した船舶についての航行履歴データを用いて、船種ごとに航跡を学習する。これにより、港湾H1に関する船種ごとの学習モデルデータが生成される。また、航路学習部122は、港湾H2の付近を航行した船舶についての航行履歴データを用いて、船種ごとに航跡を学習する。これにより、港湾H2に関する船種ごとの学習モデルデータが生成される。
【0066】
港湾H1に対応する航行履歴データについては、例えば、港湾H1の管理者によって収集されたデータを取得することが可能である。同様に、港湾H2に対応する航行履歴データについては、例えば、港湾H2の管理者によって収集されたデータを取得することが可能である。
【0067】
また、航行履歴取得部121は、例えば、全国から収集された航行履歴データの中から、航行履歴データに記載された位置情報(絶対座標)に基づいて、港湾H1,H2にそれぞれ対応する航行履歴データを抽出してもよい。例えば、港湾H1を含む領域の範囲(「第1の範囲」とする)と、港湾H2を含む領域の範囲(「第2の範囲」とする)があらかじめ設定される。航行履歴取得部121は、収集された航行履歴データの中から、位置情報が示す位置が第1の範囲に含まれるデータのみを抽出し、抽出されたデータを用いて港湾H1についての学習を行う。同様に、航行履歴取得部121は、収集された航行履歴データの中から、位置情報が示す位置が第2の範囲に含まれるデータのみを抽出し、抽出されたデータを用いて港湾H2についての学習を行う。
【0068】
このように、各港湾の付近を航行した船舶についての航行履歴データを用いて港湾ごとに個別に学習が行われることで、港湾の形状や地形に合致した航路予測が可能な学習モデルを生成でき、その学習モデルを用いることで高精度な航路予測を実行可能になる。
【0069】
次に、
図7~
図10を参照しながら、上記の航路予測AIを用いて作業船の退避時刻を算出する処理について説明する。
図7は、監視対象の船舶の抽出処理について説明するための図である。
図7に示す海
図130は、ある港湾の付近を示している。破線の丸印で示した工事区域Z1は、工事現場を含む領域であり、船舶が進入した場合に作業船の退避が必要となる領域を示している。例えば、工事区域Z1は、工事現場を中心とした所定半径の円として定義される。
【0070】
また、
図7に示す設定領域Z2は、監視対象とする船舶の候補を抽出するための領域であり、少なくとも、外海から工事区域Z1付近へ航行する船舶が通過する、港湾の入り口付近の領域を含むように設定される。設定領域Z2の設定位置は、工事区域Z1の位置に応じて変更されてもよい。
【0071】
監視対象抽出部124は、直近の一定時間内に船舶情報受信部123によって受信された船舶情報の中から、位置情報が示す位置が設定領域Z2に含まれる船舶情報を抽出する。監視対象抽出部124は、抽出された各船舶情報に記載された船名を、入出港リスト記憶部112内の入出港リスト112aに記載された入港予定の船舶(入港船)の船名と照合する。このとき、入出港リスト112aに記載された入港船のうち、入港予定時刻が現時刻を含む一定期間に含まれる入港船が照合の対象となる。この一定期間としては、例えば、入港時刻の遅延を考慮して、現時刻の数日前を起点とした期間が用いられる。監視対象抽出部124は、抽出された各船舶情報に記載された船名の中から、照合対象の入港船の船名と一致するものを抽出する。これにより、監視対象の船舶が抽出される。
【0072】
図7の例では、受信した船舶情報に基づき、設定領域Z2の内部に位置する船舶131~135が抽出される。さらに、入出港リスト112aとの照合によって船舶131,132が監視対象として新たに抽出されたとする。この場合、船舶131,132にそれぞれ対応する船舶情報レコードが、監視対象記憶部113に記憶された管理テーブルに登録される。船舶情報レコードには、対応する船舶の船舶情報に基づき、船名、船種、位置および時刻が登録される。
【0073】
このような船舶情報レコードの登録により、対応する船舶は監視対象(航跡の追尾対象)として設定され、その船舶についての一定時間後の位置の予測が開始される。実際には、船舶情報レコードの登録後に同じ船舶の船舶情報が受信されるたびに、船舶情報に含まれる位置および時刻が船舶情報レコードに追加登録される。そして、所定数以上の組み合わせ(n組以上)の位置および時刻が登録されると、位置の予測が開始される。
【0074】
図8は、予測位置の表示処理例を示す図である。前述のように、接近監視処理部125は、現時刻からm1秒後およびm2秒後の各予測位置を算出する。このとき、海
図130上に監視対象の船舶についてのm1秒後およびm2秒後の各予測位置を示した表示情報が生成され、現場端末200に送信される。現場端末200は、受信した表示情報に基づき、各予測位置が示された海
図130の画像を表示装置202に表示させる。これにより、予測針路をわかりやすい形式で表示させることができる。
【0075】
本実施の形態では、例として、予測位置に加えて、予測位置を中心とした一定範囲を示す「予報円」が表示される。
図8では例として、船舶131,132のそれぞれについての予測位置および予報円が示されている。例えば船舶132に関して、m1秒後の予測位置132aとm2秒後の予測位置132bが示されている。さらに、予測位置132aを中心とした予報円132a1と、予測位置132bを中心とした予報円132b1とが示されている。
【0076】
予報円は、m1秒後、m2秒後において所定の確率以上で予測される位置の範囲を示す。例えば、m1秒後の予測位置に対応する予報円は、m1秒後に実際に船舶の位置が含まれる確率が概ね95%以上となる範囲を示す。また、m2秒後の予測位置に対応する予報円は、m2秒後に実際に船舶の位置が含まれる確率が概ね90%以上となる範囲を示す。
【0077】
ここで、m1秒後、m2秒後の予測位置に対応する予報円の大きさは、例えば、船種に応じて異なる大きさとされてもよい。これは、船種によって移動時の特徴が異なるため、予測位置の精度が異なるからである。例えば、タンカーはあらかじめ決められた航路上を航行する場合が多いが、タグボートは作業の内容に応じて頻繁に針路を変更するので、タンカーより航路を予測しにくい。そこで、タグボートについての所定時間後の予報円の大きさを、タンカーより大きく表示する。例えば、m1秒後の予測位置に対応する予報円の半径を、タンカーについては25mとし、タグボートについては50mとする。また、m2秒後の予測位置に対応する予報円の半径を、タンカーについては60mとし、タグボートについては120mとする。
【0078】
なお、上記の例では、監視対象の船舶についての航路予測が開始されると、m1秒後、m2秒後の予測位置とともに、各予測位置に対応する予報円を海図上に表示した。このような予測位置や予報円の表示方法としては次のような方法が採用されてもよい。例えば、船舶の予測位置(例えばm2秒後の予測位置)が後述する警戒ラインを超えた場合に、予測位置に加えて予報円の表示を開始してもよい。また、監視対象の船舶のうち、予測位置が警戒ラインを超えた船舶については、予測位置や予報円を他の船舶より強調して表示してもよい。また、船種や船舶の動きの特徴などに応じて予測位置や予報円の表示方法、あるいは表示の有無を変えてもよい。その一例としては、速度が閾値以上の船舶、あるいは一定以上の大きさの船舶など、比較的リスクの高い船舶についてのみ予報円を表示してもよい。
【0079】
図9は、監視対象の船舶が警戒ラインに到達した場合の処理について説明するための図である。接近監視処理部125は、所定時間後の船舶の予測位置が、海図上にあらかじめ設定された警戒ラインを超えたかを監視する。
図9に例示するように、警戒ラインL1は、工事区域Z1に接近している船舶を特定するためのラインであり、外海から工事区域Z1の方向へ航行する船舶が通過する経路をまたぐように設定される。「警戒ラインL1を超える」とは、船舶の予測位置が警戒ラインL1をまたいで工事区域Z1に近い方向に移動することを示す。
【0080】
接近監視処理部125は、船舶の予測位置が警戒ラインL1を超えた場合には、情報通知部126を介して現場端末200に警告を行う。これにより、現場端末200のユーザに対して、船舶が工事区域Z1に接近していることを通知することができる。警告の方法としては、例えば、
図9に示すように、船舶が工事現場に接近しつつあることを警告する警告表示画像141が、船舶の予測位置や予報円が表示された海
図130上に重畳表示される。警告表示画像141には、接近しつつある船舶の船名や線種の情報が含まれてもよい。
【0081】
警戒ラインL1を超えたか否かは、例えば、m2秒後の予測位置を用いて判定されればよい。
図9の例では、船舶132についてのm1秒後の予測位置132aとm2秒後の予測位置132bとが表示されており、これらのうち予測位置132bが警戒ラインL1を超えた場合を示している。
【0082】
図10は、監視対象の船舶が工事区域に進入すると予測される場合の処理について説明するための図である。接近監視処理部125は、所定時間後の船舶の予測位置が工事区域Z1に含まれるようになった場合には、その予測位置での船舶の到達予測時刻に基づいて、工事現場から作業船を退避させる退避開始時刻を算出する。
【0083】
工事区域Z1に含まれるか否かを判定するための予測位置としては、例えば、m2秒後の予測位置が用いられればよい。
図10の例では、船舶132についてのm1秒後の予測位置132aとm2秒後の予測位置132bとが表示されており、これらのうち予測位置132bが工事区域Z1に含まれる場合を示している。
【0084】
ここで、作業船が退避を開始してから所定の退避場所への退避を完了するまでにかかる時間をtとする。また、予測位置が工事区域Z1に含まれるようになる時刻をT1とする。この場合、退避開始時刻T2は次の式(1)にしたがって算出される。
T2=T1-t ・・・(1)
接近監視処理部125は、式(1)にしたがって退避開始時刻T2を算出し、情報通知部126を介して現場端末200に通知して表示させる。これにより、現場端末200のユーザに対して、作業船を退避させるべき時刻を通知することができる。退避開始時刻T2の表示方法としては、例えば
図10に示すように、予測位置などが表示された海
図130の画面上に退避開始時刻T2を示した時刻表示画像142を重畳表示する方法を採用可能である。
【0085】
また、現時刻をT0とすると、下記の式(2)の条件を満たす場合、現時刻が退避開始時刻T2に達しており、作業船の即座の退避が必要となる。このため、接近監視処理部125は式(2)の条件を満たす場合、情報通知部126を介して、現場端末200に対して作業船の退避開始を指示する。図示しないが、この指示は例えば、退避開始を指示する文言を示す指示画像を表示することで行われる。
T0+t≦T2 ・・・(2)
以上の手順により、作業船が退避するのにかかる時間を考慮した適切な退避開始時刻を算出して、現場端末200のユーザに通知することができる。このような退避開始時刻の算出のために、前述のように、工事現場が存在する港湾における航行履歴を用いた学習により生成され、しかも船種別に学習された学習モデルを用いた高精度な航路予測が行われる。このため、退避開始時刻の算出精度を向上させることができる。
【0086】
なお、上記の
図7~
図10の例では、監視対象の船舶が抽出されると、その船舶についての所定時間後の位置の予測処理が開始された。しかし、他の例として、監視対象の船舶が抽出された時点では、まだ位置の予測処理が開始されなくてもよい。この場合、例えば、監視対象の船舶について実際の位置が警戒ラインL1を超えた場合に、位置の予測処理が開始されてもよい。
【0087】
図11は、作業船の退避完了を判定する処理の例を示す図である。退避監視処理部127は、算出された退避開始時刻を過ぎた船舶について、退避場端末300からの情報に基づいて退避場所への退避が完了したかを監視する。退避場端末300の退避船舶検出部311は、例えば、カメラ301によって撮影された画像に基づいて、退避場所に対する船舶の退避が完了したかを判定する。
【0088】
図11に示すカメラ画像150は、カメラ301によって退避場所を含む領域を撮影したことで得られる画像の一例である。退避船舶検出部311は、例えば、画像認識処理により、カメラ画像150から船舶が写っている領域を検出するとともに、その船舶の船種を判別する。退避船舶検出部311は、船舶として作業船を検出した場合に、カメラ画像150において作業船が写っている領域(船舶領域)を特定する。
図11の例では、カメラ画像150に写っている作業船151が検出され、その作業船151についての船舶領域152が矩形によって表される場合を示している。
【0089】
一方、カメラ画像150には、退避場所を示す設定領域153があらかじめ設定される。
図11の例では、設定領域153が矩形領域として設定されている。退避船舶検出部311は、例えば、検出された船舶領域152の少なくとも一部が設定領域153に含まれる場合に、退避場所に対する作業船151の退避が完了したと判定する。例えば、船舶領域152の全体の面積のうち、設定領域153と重複している領域の割合が所定割合以上である場合に、作業船151の退避が完了したと判定される。
【0090】
退避船舶検出部311は、作業船の退避完了を判定すると、その旨を監視サーバ100に通知する。監視サーバ100の退避監視処理部127は、この通知を受けると、情報通知部126に退避完了を示す表示情報を現場端末200に対して送信させる。これにより、現場端末200のユーザは、退避が指示された作業船について、その後に退避が完了したことを確実に認識でき、作業効率が向上する。
【0091】
なお、上記のような画像認識は、作業船の退避完了を判定するための一例であり、これに限定されるものではない。例えば、作業船のGPS情報に基づいて退避完了が判定されてもよい。
【0092】
次に、監視サーバ100の処理についてフローチャートを用いて説明する。
図12は、監視対象抽出処理の例を示すフローチャートである。
[ステップS31]監視対象抽出部124は、直近の一定時間内に船舶情報受信部123によって受信された船舶情報を取得する。
【0093】
[ステップS32]監視対象抽出部124は、取得した船舶情報の中から、位置情報が示す船舶の位置が所定領域(前述の設定領域Z2)に含まれる船舶情報を抽出する。
[ステップS33]監視対象抽出部124は、入出港リスト112aを参照し、ステップS32で抽出された船舶情報の中から、入港予定時刻が現時刻を含む一定期間に含まれる入港船の船舶情報を抽出する。
【0094】
[ステップS34]監視対象抽出部124は、ステップS33で抽出された船舶情報のうち、船舶情報レコードが監視対象記憶部113の管理テーブルに登録されていない船舶の船舶情報について、新たな船舶情報レコードを生成して管理テーブルに登録する。監視対象抽出部124は、この管理テーブルに対して、船舶情報に記載された内容を登録する。これにより、新たに監視対象として抽出された船舶についての船舶情報レコードが監視対象記憶部113の管理テーブルに登録される。
【0095】
なお、船舶情報レコードには、少なくとも船名、船種、位置、時刻の情報が登録される。以下の説明では、これらの情報のうち位置および時刻を含む情報を「計測位置情報」と記載する。例えば学習時に位置および時刻に加えて方向および速度が用いられた場合、船舶情報レコードの計測位置情報には、船舶情報から抽出された方向および速度の情報も登録される。この場合、以下の
図13、
図14の処理でも計測位置情報には位置および時刻の情報に加えて方向および速度の情報も追加登録される。
【0096】
図13、
図14は、船舶の接近監視処理の例を示すフローチャートである。
図13、
図14の処理は、新たに監視対象として抽出された船舶についての船舶情報レコードが監視対象記憶部113の管理テーブルに登録された場合に、その船舶を処理対象として実行される。
【0097】
[ステップS41]接近監視処理部125は、監視対象の船舶についての次の船舶情報の受信待ち状態となる。一定時間内に次の船舶情報が受信された場合、処理がステップS42に進められる。一方、一定時間内に次の船舶情報が受信されなかった場合、対応する船舶は監視対象から除外され、接近監視処理が終了する。
【0098】
[ステップS42]接近監視処理部125は、受信された次の船舶情報から計測位置情報を抽出し、監視対象の船舶についての船舶情報レコードに追加登録する。なお、前述のように、計測位置情報には少なくとも位置および時刻の情報が含まれる。
【0099】
[ステップS43]このステップS43の処理は、船舶情報レコードに計測位置情報がn組以上登録されている場合に実行される。船舶情報レコードに登録された計測位置情報がn組より少ない場合には、処理がステップS41に進められ、次の船舶情報の受信待ち状態となる。
【0100】
ステップS43において、接近監視処理部125は、学習モデル記憶部111に登録された学習モデルデータの中から、船舶情報レコードに登録された船種に対応する学習モデルデータを取得する。また、接近監視処理部125は、船舶情報レコードから直近のn組の計測位置情報を抽出し、抽出された計測位置情報を入力として、取得された学習モデルデータを用いた航路予測処理を実行する。これにより、m1秒後およびm2秒後における船舶の予測位置(絶対座標)が出力される。
【0101】
[ステップS44]出力された予測位置を現場端末200に表示させる処理が実行される。例えば、接近監視処理部125は、海図上にm1秒後およびm2秒後における予測位置および予報円を示した画像の表示情報を生成し、情報通知部126に受け渡して現場端末200への送信を依頼する。情報通知部126は、依頼に応じて表示情報を現場端末200に送信する。現場端末200の情報表示処理部212は、受信した表示情報に基づく画像を表示装置202に表示させる。
【0102】
[ステップS45]接近監視処理部125は、所定時間後(ここではm2秒後とする)における予測位置が警戒ライン(
図9参照)を超えたかを判定する。警戒ラインを超えた場合、処理がステップS46に進められる。一方、警戒ラインを超えていない場合、処理がステップS41に進められ、次の船舶情報の受信待ち状態となる。
【0103】
[ステップS46]現場端末200に対する警告処理が実行される。例えば、接近監視処理部125は、ステップS44で表示させている画像上に、船舶が接近していることを示す警告表示画像を重畳する。このような警告表示画像が重畳された画像の表示情報が、情報通知部126から現場端末200に送信され、表示情報に基づく画像が表示装置202に表示される。
【0104】
[ステップS47]接近監視処理部125は、所定時間後(ここではm2秒後とする)における予測位置が工事区域(前述の工事区域V1)に含まれるかを判定する。予測位置が工事区域に含まれる場合、処理がステップS48に進められる。一方、予測位置が工事区域に含まれない場合、処理がステップS41に進められ、次の船舶情報の受信待ち状態となる。
【0105】
[ステップS48]接近監視処理部125は、退避完了までにかかる時間tと、現時刻からm2秒後の時刻T1とに基づき、前述の式(1)を用いて作業船の退避開始時刻T2を算出する。
【0106】
[ステップS49]接近監視処理部125は、現時刻T0が、算出された退避開始時刻T2に達したかを判定する。前述の式(2)の条件を満たす場合に、現時刻T0が退避開始時刻T2に達したと判定される。退避開始時刻に達した場合、処理がステップS51に進められ、退避開始時刻に達していない場合、処理がステップS50に進められる。
【0107】
[ステップS50]退避開始時刻T2を現場端末200に通知する処理が実行される。例えば、接近監視処理部125は、ステップS44で表示させている画像上に、算出された退避開始時刻T2を示す時刻表示画像を重畳する。このような時刻表示画像が重畳された画像の表示情報が、情報通知部126から現場端末200に送信され、表示情報に基づく画像が表示装置202に表示される。なお、この場合には、ステップS46の警告表示画像は表示されなくてよい。以上のステップS50の処理が完了すると、処理がステップS41に進められ、次の船舶情報の受信待ち状態となる。
【0108】
[ステップS51]作業船の退避開始を現場端末200に指示する処理が実行される。例えば、接近監視処理部125は、ステップS44で表示させている画像上に、作業船の退避開始を指示する指示画像を重畳する。このような指示画像が重畳された画像の表示情報が、情報通知部126から現場端末200に送信され、表示情報に基づく画像が表示装置202に表示される。なお、この場合には、ステップS46の警告表示画像は表示されなくてよい。
【0109】
[ステップS52]ステップS51の処理が完了すると、退避監視処理部127による監視処理が開始される。この監視処理では、退避場端末300から送信される退避完了情報が監視される。退避場端末300の退避船舶検出部311により、退避場所への作業船の退避が完了したことを検出すると、退避完了情報を監視サーバ100に送信する。退避監視処理部127によって退避完了情報が受信されると、処理がステップS53に進められる。
【0110】
[ステップS53]退避監視処理部127は、作業船の退避が完了したことを示す画像の表示情報を生成し、情報通知部126を介して現場端末200に送信する。これにより、退避の完了が現場端末200に通知される。現場端末200の情報表示処理部212は、受信した表示情報に基づく画像を表示装置202に表示させる。
【0111】
ところで、
図13の処理の一部を、次の
図15のように変形することができる。
図15では、船舶の現在位置が警戒ラインを超えた場合に船舶の航路予測を開始する点で
図13とは異なる。
【0112】
図15は、船舶の接近監視処理についての変形例を示すフローチャートである。
図15では、
図13と処理内容が同じ処理ステップには同じ符号を付して示している。
図15に示す変形例では、
図13に示したステップS43~S46の代わりに、次のようなステップS61~S63の処理が実行される。
【0113】
[ステップS61]接近監視処理部125は、監視対象の船舶の現在位置が警戒ラインを超えたかを判定する。警戒ラインを超えた場合、処理がステップS62に進められる。一方、警戒ラインを超えていない場合、処理がステップS41に進められ、次の船舶情報の受信待ち状態となる。
【0114】
[ステップS62]接近監視処理部125は、学習モデル記憶部111に登録された学習モデルデータの中から、船舶情報レコードに登録された船種に対応する学習モデルデータを取得する。また、接近監視処理部125は、船舶情報レコードから直近のn組の計測位置情報を抽出し、抽出された計測位置情報を入力として、取得された学習モデルデータを用いた航路予測処理を実行する。これにより、m1秒後およびm2秒後における船舶の予測位置(絶対座標)が出力される。
【0115】
[ステップS63]出力された予測位置を現場端末200に表示させる処理が実行される。例えば、接近監視処理部125は、海図上にm1秒後およびm2秒後における予測位置および予報円を示した画像の表示情報を生成し、情報通知部126に受け渡して現場端末200への送信を依頼する。情報通知部126は、依頼に応じて表示情報を現場端末200に送信する。現場端末200の情報表示処理部212は、受信した表示情報に基づく画像を表示装置202に表示させる。
【0116】
〔第3の実施の形態〕
上記の第2の実施の形態では、航路予測AIについての学習機能と推論機能とが、監視サーバ100という同じ装置に設けられていたが、これらは別の装置に設けられてもよい。例えば、次の
図16に示すように、推論機能が現場端末に設けられてもよい。
【0117】
図16は、第3の実施の形態に係る船舶監視システムの構成例を示す図である。なお、
図16では、
図4と同じ構成要素には同じ符号を付して示しており、その説明を省略する。
図16に示すように、第3の実施の形態に係る船舶監視システムは、学習サーバ500、現場端末200aおよび退避場端末300を含む。
【0118】
学習サーバ500は、
図4の監視サーバ100の処理機能のうち、航路予測AIの学習機能のみを備えるサーバ装置である。すなわち、学習サーバ500は、学習モデル記憶部111、航行履歴取得部121および航路学習部122を備える。
【0119】
現場端末200aは、
図4の現場端末200に対して、さらに船舶の監視、作業船の退避開始時刻の算出、作業船の退避の監視の各機能を設けた端末装置である。したがって、現場端末200aは、航路予測AIの推論機能も備えている。
図16に示すように、現場端末200aは、学習モデル記憶部111a、入出港リスト記憶部112、監視対象記憶部113、監視対象抽出部124、接近監視処理部125、退避監視処理部127、船舶情報取得部211aおよび情報表示処理部212aを備える。
【0120】
学習モデル記憶部111aには、学習サーバ500での学習によって生成され、学習モデル記憶部111に登録された学習モデルデータが、学習モデル記憶部111からコピーされて登録される。したがって、接近監視処理部125による航路予測処理は、学習モデル記憶部111aに登録された学習モデルデータを用いて実行される。
【0121】
船舶情報取得部211aは、AIS受信機201によって受信されたAISデータを取得し、AISデータに基づく船舶情報を生成して監視対象抽出部124に受け渡す。
情報表示処理部212aは、接近監視処理部125や退避監視処理部127から表示情報を受け取り、表示情報に基づく画像を表示装置202に表示させる。
【0122】
なお、上記の各実施の形態に示した装置(例えば、船舶監視装置10、監視サーバ100、現場端末200,200a、退避場端末300、学習サーバ500)の処理機能は、コンピュータによって実現することができる。その場合、各装置が有すべき機能の処理内容を記述したプログラムが提供され、そのプログラムをコンピュータで実行することにより、上記処理機能がコンピュータ上で実現される。処理内容を記述したプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録しておくことができる。コンピュータで読み取り可能な記録媒体としては、磁気記憶装置、光ディスク、半導体メモリなどがある。磁気記憶装置には、ハードディスク装置(HDD)、磁気テープなどがある。光ディスクには、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、ブルーレイディスク(Blu-ray Disc:BD、登録商標)などがある。
【0123】
プログラムを流通させる場合には、例えば、そのプログラムが記録されたDVD、CDなどの可搬型記録媒体が販売される。また、プログラムをサーバコンピュータの記憶装置に格納しておき、ネットワークを介して、サーバコンピュータから他のコンピュータにそのプログラムを転送することもできる。
【0124】
プログラムを実行するコンピュータは、例えば、可搬型記録媒体に記録されたプログラムまたはサーバコンピュータから転送されたプログラムを、自己の記憶装置に格納する。そして、コンピュータは、自己の記憶装置からプログラムを読み取り、プログラムにしたがった処理を実行する。なお、コンピュータは、可搬型記録媒体から直接プログラムを読み取り、そのプログラムにしたがった処理を実行することもできる。また、コンピュータは、ネットワークを介して接続されたサーバコンピュータからプログラムが転送されるごとに、逐次、受け取ったプログラムにしたがった処理を実行することもできる。
【符号の説明】
【0125】
1,2a 位置
2 船舶
10 船舶監視装置
11 記憶部
11a 学習済みモデル
12 処理部
A 港湾