IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越ポリマー株式会社の特許一覧

特許7573483熱伝導部材およびそれを備えるバッテリー
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】熱伝導部材およびそれを備えるバッテリー
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/652 20140101AFI20241018BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20241018BHJP
   H01M 10/653 20140101ALI20241018BHJP
   H01M 10/651 20140101ALI20241018BHJP
   H01M 10/647 20140101ALI20241018BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20241018BHJP
   H01M 10/6556 20140101ALI20241018BHJP
   H01M 10/6568 20140101ALI20241018BHJP
【FI】
H01M10/652
H01M10/613
H01M10/653
H01M10/651
H01M10/647
H01M10/625
H01M10/6556
H01M10/6568
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021083704
(22)【出願日】2021-05-18
(65)【公開番号】P2022177444
(43)【公開日】2022-12-01
【審査請求日】2023-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】安藤 均
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-207759(JP,A)
【文献】国際公開第2019/176344(WO,A1)
【文献】特表2019-530251(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/652
H01M 10/613
H01M 10/653
H01M 10/651
H01M 10/647
H01M 10/625
H01M 10/6556
H01M 10/6568
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源と冷却部材との間に介在させて前記熱源から前記冷却部材へと熱を移動させることのできる熱伝導部材であって、
弾性シートと、
前記弾性シートの厚さ方向の表側の面と裏側の面に交互に露出しながら前記弾性シートの面内の所定方向に蛇行して進行するように備えられる熱伝導フィルムと、
を備え、
前記弾性シートは、その厚さ方向の少なくとも一方の面において、水平面に対して鋭角に傾斜する第1傾斜面を備える傾斜部位を前記所定方向に複数並んで備え、
前記熱伝導フィルムは、前記傾斜部位の一部若しくは全部を被覆しており、かつ前記所定方向の全部若しくは主な部分が前記弾性シートの前記厚さ方向の断面において前記厚さ方向に対して鋭角に傾斜する第2傾斜面を備えるように前記弾性シートに備えられていることを特徴とする熱伝導部材。
【請求項2】
前記第1傾斜面は、前記弾性シートの前記所定方向の第1の位置を境に傾斜方向を反転させ、前記水平面に対して異なる方向に傾斜していることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導部材。
【請求項3】
前記第1傾斜面は、前記第1の位置を境に傾斜方向を反転させ、前記所定方向の端部に向かって下方傾斜していることを特徴とする請求項2に記載の熱伝導部材。
【請求項4】
前記第1傾斜面は、前記第1の位置を境に傾斜方向を反転させ、前記所定方向の端部に向かって上方傾斜していることを特徴とする請求項2に記載の熱伝導部材。
【請求項5】
前記第1傾斜面の前記水平面に対して成す鋭角は、0度を超えて45度以下の範囲であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の熱伝導部材。
【請求項6】
前記第2傾斜面は、前記弾性シートの前記所定方向の第2の位置を境に傾斜方向を反転させ、前記弾性シートの前記厚さ方向に対して異なる方向に傾斜していることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の熱伝導部材。
【請求項7】
前記第2傾斜面は、前記第2の位置を境に傾斜方向を反転させ、前記所定方向の端部に向かって倒れるように傾斜していることを特徴とする請求項6に記載の熱伝導部材。
【請求項8】
前記第2傾斜面は、前記第2の位置を境に傾斜方向を反転させ、前記第2の位置に向かって倒れるように傾斜していることを特徴とする請求項6に記載の熱伝導部材。
【請求項9】
前記第2傾斜面の前記厚さ方向に対して成す鋭角は、0度を超えて45度以下の範囲であることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の熱伝導部材。
【請求項10】
前記熱伝導フィルムは、前記弾性シートの内部において非接着部位を有することを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の熱伝導部材。
【請求項11】
前記非接着部位が隙間を形成していることを特徴とする請求項10に記載の熱伝導部材。
【請求項12】
前記熱伝導フィルムは炭素フィルム若しくは炭素含有樹脂フィルムであることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の熱伝導部材。
【請求項13】
前記弾性シートは、発泡シートであることを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載の熱伝導部材。
【請求項14】
前記弾性シートは、シリコーンゴムシートであることを特徴とする請求項1から13のいずれか1項に記載の熱伝導部材。
【請求項15】
前記熱源は1または2以上のバッテリーセルであり、かつ前記冷却部材は前記バッテリーセルを入れた筐体であり、請求項1から14のいずれか1項に記載の熱伝導部材を前記バッテリーセルと前記筐体との間に介在させていることを特徴とするバッテリー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導部材およびそれを備えるバッテリーに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、航空機、船舶あるいは家庭用若しくは業務用電子機器の制御システムは、より高精度かつ複雑化してきており、それに伴って、回路基板上の小型電子部品の集積密度が増加の一途を辿っている。この結果、回路基板周辺の発熱による電子部品の故障や短寿命化を解決することが強く望まれている。
【0003】
回路基板からの速やかな放熱を実現するには、従来から、回路基板自体を放熱性に優れた材料で構成し、ヒートシンクを取り付け、あるいは冷却ファンを駆動するといった手段を単一で若しくは複数組み合わせて行われている。これらの内、回路基板自体を放熱性に優れた材料、例えばダイヤモンド、窒化アルミニウム(AlN)、立方晶窒化ホウ素(cBN)などから構成する方法は、回路基板のコストを極めて高くしてしまう。また、冷却ファンの配置は、ファンという回転機器の故障、故障防止のためのメンテナンスの必要性や設置スペースの確保が難しいという問題を生じる。これに対して、放熱フィンは、熱伝導性の高い金属(例えば、アルミニウム)を用いた柱状あるいは平板状の突出部位を数多く形成することによって表面積を大きくして放熱性をより高めることのできる簡易な部材であるため、放熱部品として汎用的に用いられている。
【0004】
ところで、現在、世界中で、地球環境への負荷軽減を目的として、従来からのガソリン車あるいはディーゼル車を徐々に電気自動車に転換しようとする動きが活発化している。特に、フランス、オランダ、ドイツをはじめとする欧州諸国の他、中国でも、電気自動車の普及が進行してきている。電気自動車の普及には、高性能バッテリーの開発の他、多数の充電スタンドの設置などが必要となる。特に、リチウム系の自動車用バッテリーの充放電機能を高めるための技術開発は重要である。上記自動車バッテリーは、摂氏60度以上の高温下では充放電の機能を十分に発揮できないことが良く知られている。また、現在、バッテリーの高速かつ非接触での充電を実現する試験が進行しており、バッテリーの寿命を損なわないように、バッテリーの過充電に伴う発熱への対処も必要になる。このような事情から、先に説明した回路基板と同様、バッテリーにおいても、放熱性を高めることが重要視されている。
【0005】
上述した熱源からの放熱を促進するための熱伝導部材としては、例えば、熱伝導性に優れる薄いシートを樹脂製のシートの表裏方向に交互に露出させるように備える部材が知られている(特許文献1,2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-201534号公報
【文献】特開2012-031242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来から公知の熱伝導部材には次のような課題がある。熱源と冷却部材との間に熱伝導部材を介在させる場合、熱源から冷却部材への熱伝導性能を上げるには、熱伝導部材と熱源あるいは冷却部材との密着が重要である。このため、熱伝導部材の厚さ方向に加圧して熱伝導部材を圧縮するのが好ましい。しかし、熱伝導部材における厚さ方向の経路を構成する熱伝導フィルム(熱伝導経路)の一部が不規則に変形等してしまい破損する危険性がある。これは、熱伝導部材が圧縮される際に、熱伝導フィルムが当該圧縮に追随できないからである。熱伝導フィルムを断面視にて波形としても、あるいは台形と逆台形とを繰り返す形状としても、熱伝導フィルムの形状は、熱伝導部材の厚さ方向の圧縮に抵抗となる形状である。このため、熱伝導フィルムの破損を低減することは依然として難しい。また、一般的に、熱伝導部材に接する熱源の面が平滑でないことが多いため、熱源の非平滑面にも対応してクッション性を発揮でき、もって良好な熱伝導性を発揮できるようにするのが好ましい。このように、放熱性に優れた熱伝導部材またはそれを備えたバッテリーの開発の成功は、「すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する」という本出願人の持続可能な開発目標の達成にも資する。
【0008】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、熱伝導経路の破損を低減すると共に良好な熱伝導性を発揮できるようにすることを可能とする熱伝導部材およびバッテリーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記目的を達成するための一実施形態に係る熱伝導部材は、
熱源と冷却部材との間に介在させて前記熱源から前記冷却部材へと熱を移動させることのできる熱伝導部材であって、
弾性シートと、
前記弾性シートの厚さ方向の表側の面と裏側の面に交互に露出しながら前記弾性シートの面内の所定方向に蛇行して進行するように備えられる熱伝導フィルムと、
を備え、
前記弾性シートは、その厚さ方向の少なくとも一方の面において、水平面に対して鋭角に傾斜する第1傾斜面を備える傾斜部位を前記所定方向に複数並んで備え、
前記熱伝導フィルムは、前記傾斜部位の一部若しくは全部を被覆しており、かつ前記所定方向の全部若しくは主な部分が前記弾性シートの前記厚さ方向の断面において前記厚さ方向に対して鋭角に傾斜する第2傾斜面を備えるように前記弾性シートに備えられている。
(2)別の実施形態に係る熱伝導部材において、好ましくは、前記第1傾斜面は、前記弾性シートの前記所定方向の第1の位置を境に傾斜方向を反転させ、前記水平面に対して異なる方向に傾斜していても良い。
(3)別の実施形態に係る熱伝導部材において、好ましくは、前記第1傾斜面は、前記第1の位置を境に傾斜方向を反転させ、前記所定方向の端部に向かって下方傾斜していても良い。
(4)別の実施形態に係る熱伝導部材において、好ましくは、前記第1傾斜面は、前記第1の位置を境に傾斜方向を反転させ、前記所定方向の端部に向かって上方傾斜していても良い。
(5)別の実施形態に係る熱伝導部材において、好ましくは、前記第1傾斜面の前記水平面に対して成す鋭角は、0度を超えて45度以下の範囲でも良い。
(6)別の実施形態に係る熱伝導部材において、好ましくは、前記第2傾斜面は、前記弾性シートの前記所定方向の第2の位置を境に傾斜方向を反転させ、前記弾性シートの前記厚さ方向に対して異なる方向に傾斜していても良い。
(7)別の実施形態に係る熱伝導部材において、好ましくは、前記第2傾斜面は、前記第2の位置を境に傾斜方向を反転させ、前記所定方向の端部に向かって倒れるように傾斜していても良い。
(8)別の実施形態に係る熱伝導部材において、好ましくは、前記第2傾斜面は、前記第2の位置を境に傾斜方向を反転させ、前記第2の位置に向かって倒れるように傾斜していても良い。
(9)別の実施形態に係る熱伝導部材において、好ましくは、前記第2傾斜面の前記厚さ方向に対して成す鋭角は、0度を超えて45度以下の範囲でも良い。
(10)別の実施形態に係る熱伝導部材において、好ましくは、前記熱伝導フィルムは、前記弾性シートの内部において非接着部位を有していても良い。
(11)別の実施形態に係る熱伝導部材において、好ましくは、前記非接着部位が隙間を形成していても良い。
(12)別の実施形態に係る熱伝導部材において、好ましくは、前記熱伝導フィルムは炭素フィルム若しくは炭素含有樹脂フィルムであっても良い。
(13)別の実施形態に係る熱伝導部材において、好ましくは、前記弾性シートは、発泡シートであっても良い。
(14)別の実施形態に係る熱伝導部材において、好ましくは、前記弾性シートは、シリコーンゴムシートであっても良い。
(15)上記目的を達成するための一実施形態に係るバッテリーでは、前記熱源は1または2以上のバッテリーセルであり、かつ前記冷却部材は前記バッテリーセルを入れた筐体であり、上述のいずれかの熱伝導部材を前記バッテリーセルと前記筐体との間に介在させている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、熱伝導経路の破損を低減すると共に良好な熱伝導性を発揮できるようにすることを可能とする熱伝導部材およびバッテリーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、第1実施形態に係る熱伝導部材の平面図、右側面図および正面図を示す。
図2図2は、図1におけるA-A線断面図およびその一部Bの拡大図を示す。
図3A図3Aは、図1の熱伝導部材の表側の面に、熱源の一例としてのバッテリーセルを複数個載せる状況を一部拡大断面図にて示す。
図3B図3Bは、図1の熱伝導部材の表側の面に、熱源の一例としてのバッテリーセルを複数個載せた状況を一部拡大断面図にて示す。
図4A図4Aは、第2実施形態に係る熱伝導部材の正面図を示す。
図4B図4Bは、第2実施形態に係る熱伝導部材を、図1におけるA-A線と同様の切断線にて切断したときの断面図およびその一部Bの拡大図を示す。
図5A図5Aは、第3実施形態に係る熱伝導部材の正面図を示す。
図5B図5Bは、第3実施形態に係る熱伝導部材を、図1におけるA-A線と同様の切断線にて切断したときの断面図およびその一部Bの拡大図を示す。
図6A図6Aは、第4実施形態に係る熱伝導部材の正面図を示す。
図6B図6Bは、第4実施形態に係る熱伝導部材を、図1におけるA-A線と同様の切断線にて切断したときの断面図およびその一部Bの拡大図を示す。
図7A図7Aは、第5実施形態に係る熱伝導部材の正面図を示す。
図7B図7Bは、第5実施形態に係る熱伝導部材を、図1におけるA-A線と同様の切断線にて切断したときの断面図およびその一部Bの拡大図を示す。
図8図8は、熱伝導部材の製造方法の第1実施形態を概略フローで示す。
図9図9は、第1実施形態に係る製造方法の弾性シートセット工程をより具体的に説明するための断面図を示す。
図10図10は、図9に続く貫通口形成工程および平板工程をより具体的に説明するための断面図を示す。
図11図11は、図10に続く熱伝導フィルム固定工程をより具体的に説明するための断面図を示す。
図12図12は、第2実施形態に係る製造方法の貫通口形成工程および平板工程を説明するための断面図を示す。
図13図13は、第3実施形態に係る製造方法の貫通口形成工程を説明するための断面図を示す。
図14図14は、第4実施形態に係る製造方法の貫通口形成工程を説明するための断面図を示す。
図15図15は、第5実施形態に係る製造方法の熱伝導フィルム固定工程を説明するための断面図を示す。
図16図16は、第6実施形態に係る製造方法の平板工程および熱伝導フィルム固定工程を説明するための平面図を示す。
図17図17は、熱伝導部材を備えるバッテリーの縦断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の各実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する各実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、各実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0013】
<熱伝導部材>
(第1実施形態)
最初に、本発明に係る熱伝導部材の第1実施形態について説明する。
【0014】
図1は、第1実施形態に係る熱伝導部材の平面図、右側面図および正面図を示す。図2は、図1におけるA-A線断面図およびその一部Bの拡大図を示す。「断面図」は、特筆しない限り、熱伝導部材をその厚さ方向に切断したときの断面図をいう。これは、他の実施形態でも同様である。
【0015】
この実施形態に係る熱伝導部材1は、熱源と冷却部材との間に介在させて、熱源から冷却部材へと熱を移動させることのできる部材である。熱伝導部材1は、弾性シート10と、弾性シート10の厚さ方向の表側の面と裏側の面に交互に露出しながら弾性シート10の面内の所定方向に蛇行して進行するように備えられる熱伝導フィルム20と、を備える。この実施形態では、「面内の所定方向」は、弾性シート10の平面視にて略長方形の長辺の方向(長さ方向ともいう。)である。「面内の所定方向」は、弾性シート10の平面視にて略長方形の短辺の方向でも良い。熱伝導フィルム20は、上述のように、弾性シート10の厚さ方向の両側の面(表側の面と裏側の面)に交互に露出しながら弾性シート10を蛇行パスするように、弾性シート10に備えられている。
【0016】
熱伝導部材1は、その厚さ方向の表側の面において、熱伝導フィルム20に被覆された部位と、熱伝導部材20に被覆されていない部位と、を所定方向(長辺の方向)に向かって交互に並べた形態を有する。上述の熱伝導フィルム20に被覆された部位の当該厚さ方向反対側は、熱伝導フィルム20に被覆されていない。また、上述の熱伝導フィルム20に被覆されていない部位の当該厚さ方向反対側は、熱伝導フィルム20に被覆されている。熱伝導部材1の表側の面において熱伝導フィルム20にて覆われていない部位は、弾性シート10に挿入されたシート片11である。シート片11は、弾性シート10と同様、弾性変形可能なシートである。この実施形態では、弾性シート10は、シート片11を含む構成体である。
【0017】
弾性シート10は、弾性シート10の厚さ方向の少なくとも一方の面(この実施形態では、表側の面とする)において、水平面Hに対して鋭角に傾斜する第1傾斜面18を備えた傾斜部位12を所定方向(長辺の方向)に複数並んで備える。傾斜部位12は、弾性シート10の厚さ方向両側のいずれか一方の面に、第1傾斜面18を有する。この実施形態では、傾斜部位12は、弾性シート10の表側の面のみに第1傾斜面18を有する。熱伝導部材1の厚さ方向の表側の面は、シート片11も含めて、第1傾斜面18を有する傾斜部位12を複数備える。一方、熱伝導部材1の厚さ方向の裏側の面は、第1傾斜面18を有していない、水平面Hと略平行な面である。熱伝導部材1の厚さ方向の少なくとも一方の面に第1傾斜面18を備えると、熱伝導性フィルム20にかかる負荷を軽減でき、最終的には、良好な熱伝導性を発揮できるという効果が得られる。なお、第1傾斜面18が徐々に熱源との接触面を増加させる状況を通じ、熱伝導性が経時的に高くなる付加的効果も期待できる。
【0018】
第1傾斜面18に平行な面Lが水平面Hに対して成す鋭角は、好ましくは0度を超えて45度以下の範囲、さらに好ましくは0度を超えて30度以下の範囲である。これは、他の実施形態でも同様である。第1傾斜面18は、好ましくは、第1の位置から熱伝導部材1の長さ方向の端部に向かって、徐々に傾斜角度を大きくするように形成されている。熱伝導部材1の表側の面において、熱伝導部材1の被覆部位および非被覆部位の全てが傾斜部位12である必要はない。例えば、熱伝導部材1の長さ方向の中央の位置Cおよびその近傍には、傾斜部位12が備えられていない。熱伝導フィルム20に被覆されている傾斜部位12の数は、熱伝導フィルム20に被覆されている部位の全体の数に対して半分以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上存在する。傾斜部位12は、中央の位置Cおよびその近傍を除く領域に形成されている。また、この実施形態では、第1傾斜面18は、弾性シート10の所定方向の第1の位置(長さ方向の中央の位置C)を境に傾斜方向を反転させ、水平面Hに対して異なる方向に傾斜している。さらに、第1傾斜面18は、好ましくは、中央の位置Cを境に傾斜方向を反転させ、熱伝導部材1の長さ方向の端部に向かって下方傾斜している。ここで、「反転」は、第1の位置または第2の位置から熱伝導部材1を折り畳み、傾斜を変化させる状況をいう。これは、以後の実施形態でも同様である。
【0019】
熱伝導フィルム20は、傾斜部位12の一部を被覆している。熱伝導フィルム20は、熱伝導部材1の長さ方向の主な部分が弾性シート10の厚さ方向の断面において厚さ方向Vに対して鋭角に傾斜する第2傾斜面28を備えるように弾性シート10に備えられている。
【0020】
この実施形態では、第2傾斜面28は、好ましくは、弾性シート10の所定方向(長さ方向)の第2の位置(この実施形態では第1の位置と同じ中央の位置C)を境に傾斜方向を反転させ、弾性シート10の厚さ方向に対して異なる方向に傾斜している。また、第2傾斜面28は、好ましくは、第2の位置を境に傾斜方向を反転させ、熱伝導部材1の長さ方向の端部に向かって倒れるように傾斜している。第2傾斜面28に平行な面Sの厚さ方向Vに対して成す鋭角は、好ましくは0度を超えて45度以下の範囲、さらに好ましくは0度を超えて30度以下の範囲である。これは、他の実施形態でも同様である。第2傾斜面28は、好ましくは、第2の位置から上記長さ方向の端部に向かって、徐々に傾斜角度を大きくし、端部側へとより倒れこむように形成されている。なお、第2の位置は、第1の位置と同じ位置でなくとも良い。このように、第2傾斜面28を熱伝導部材1の内部に形成すると、熱伝導部材1を熱源と冷却部材との間に挟んで圧縮した際に、熱伝導部材1の内部に存在する熱伝導フィルム20の長さ方向にかかる負荷を軽減でき、熱伝導フィルム20の破損リスクを低減できる。
【0021】
熱伝導部材1の内部において、全ての熱伝導フィルム20が傾斜している必要はない。例えば、熱伝導部材1の長さ方向の中央の位置Cおよびその近傍では、熱伝導フィルム20が厚さ方向Vに平行でも良い。熱伝導部材1の内部に存在する熱伝導フィルム20の第2傾斜面28の数は、熱伝導部材1の内部に存在する熱伝導フィルム20の全体の数に対して半分以上、好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上存在する。この実施形態では、第2傾斜面28は、中央の位置Cおよびその近傍を除く領域に形成されている。
【0022】
弾性シート10の重要な機能は、熱伝導部材1に、変形容易性と回復力を付与することである。回復力は、弾性シート10の弾性変形性に起因する。変形容易性は、弾性シート10の柔軟性に起因する。
【0023】
弾性シート10は、好ましくは、熱伝導フィルム20を保持する機能を有するシート状部材である。弾性シート10の形状は、特に制約はないが、好ましくは、厚さの小さな直方体の形状である。この実施形態における弾性シート10は、厚さ方向、幅方向、長さ方向の順に長い直方体の形状である。弾性シート10は、その厚さに制約はないが、好ましくは0.2~20mm、より好ましくは0.5~10mmの厚さを有する。また、弾性シート10の厚さは、熱伝導フィルム20の厚さより大きいのが好ましい。弾性シート10は、好ましくは、その厚さ方向に熱伝導フィルム20を貫通させて凹凸を繰り返すよう配置させることにより熱伝導フィルム20を保持する。すなわち、弾性シート10は、熱源と対向する面および冷却部材と対向する面において、所定間隔を空けて熱伝導フィルム20が露出するように、熱伝導フィルム20を保持する(図1,2を参照)。
【0024】
弾性シート10は、好ましくは、シリコーンゴム、ウレタンゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、天然ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ニトリルゴム(NBR)あるいはスチレンブタジエンゴム(SBR)等の熱硬化性エラストマー; ウレタン系、エステル系、スチレン系、オレフィン系、ブタジエン系、フッ素系等の熱可塑性エラストマー、あるいはそれらの複合物等を含むように構成される。弾性シート10は、熱伝導フィルム20を伝わる熱によって溶融あるいは分解等せずにその形態を維持できる程度の耐熱性の高い材料から構成されるのが好ましい。この実施形態では、弾性シート10は、より好ましくは、ウレタン系エラストマー中にシリコーンを含浸したもの、あるいはシリコーンゴムにより構成される。この実施形態では、弾性シート10は、シリコーンゴムシートである。弾性シート10は、その熱伝導性を少しでも高めるために、ゴム中にAl、AlN、cBN、hBN、ダイヤモンドの粒子等に代表されるフィラーを分散して構成されていても良い。弾性シート10は、より好ましくは、その内部に気泡を含むクッション性の高いスポンジである。この実施形態では、弾性シート10は、発泡シートである。また、「弾性シート」は、柔軟性に富み、熱源の表面に密着可能に弾性変形可能な部材を意味し、かかる意味では「クッション部材」、「クッションシート」或いは「ゴム状弾性体」と読み替えることもできる。
【0025】
熱伝導フィルム20は、好ましくは、弾性シート10よりも熱伝導性に優れる。熱伝導フィルム20の材料は、特に制約はないが、好ましくは、金属、炭素若しくはセラミックスの少なくとも1つを含み、可撓性を有する部材である。熱伝導フィルム20は、より好ましくは、炭素フィルム若しくは炭素含有樹脂フィルムである。熱伝導フィルム20は、好ましくは、90質量%以上を炭素から構成されるフィルムである。例えば、熱伝導フィルム20に、樹脂を焼成して成るグラファイト製のフィルムを用いることもできる。ただし、熱伝導フィルム20は、炭素と樹脂とを含むフィルムであっても良い。その場合、樹脂は、合成繊維でも良く、その場合には、樹脂として好適にはアラミド繊維を用いることができる。本願でいう「炭素」は、グラファイト、グラファイトより結晶性の低いカーボンブラック、ダイヤモンド、ダイヤモンドに近い構造を持つダイヤモンドライクカーボン等の炭素(元素記号:C)から成る如何なる構造のものも含むように広義に解釈される。熱伝導フィルム20は、この実施形態では、樹脂に、グラファイト繊維やカーボン粒子を配合分散した材料を硬化させた薄いフィルムとすることができる。熱伝導フィルム20は、メッシュ状に編んだカーボンファイバーであっても良く、さらには混紡してあっても混編みしてあっても良い。なお、グラファイト繊維、カーボン粒子あるいはカーボンファイバーといった各種フィラーも、すべて、炭素フィラーの概念に含まれる。また、熱伝導フィルム20は、「熱伝導シート」と称しても良い。
【0026】
熱伝導フィルム20を炭素と樹脂とを備えるフィルムとする場合には、当該樹脂が熱伝導フィルム20の全質量に対して50質量%を超えていても、あるいは50質量%以下であっても良い。すなわち、熱伝導フィルム20は、熱伝導に大きな支障が無い限り、樹脂を主材とするか否かを問わない。樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂を好適に使用できる。熱可塑性樹脂としては、熱源からの熱を伝導する際に溶融しない程度の高融点を備える樹脂が好ましく、例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、芳香族ポリアミド(アラミド繊維)等を好適に挙げることができる。樹脂は、熱伝導フィルム20の成形前の状態において、炭素フィラーの隙間に、例えば粒子状あるいは繊維状に分散している。熱伝導フィルム20は、炭素フィラー、樹脂の他、熱伝導をより高めるためのフィラーとして、Al、AlNあるいはダイヤモンドを分散していても良い。また、樹脂に代えて、樹脂よりも柔軟なゴムを用いても良い。熱伝導フィルム20は、また、上述のような炭素に代えて若しくは炭素と共に、金属および/またはセラミックスを含むフィルムとすることができる。金属としては、アルミニウム、銅、それらの内の少なくとも1つを含む合金などの熱伝導性の比較的高いものを選択できる。また、セラミックスとしては、Al、AlN、cBN、hBNなどの熱伝導性の比較的高いものを選択できる。
【0027】
熱伝導フィルム20は、導電性に優れるか否かは問わない。熱伝導フィルム20の熱伝導率は、好ましくは10W/mK以上、より好ましくは1000w/mk以上である。この実施形態では、熱伝導フィルム20は、好ましくは、グラファイト製のフィルムであり、熱伝導性と導電性に優れる材料から成る。熱伝導フィルム20は、湾曲性(若しくは屈曲性)に優れるフィルムであるのが好ましく、その厚さに制約はないが、0.02~3mmが好ましく、0.03~0.5mmがより好ましい。熱伝導フィルム20は、好ましくは、弾性シート10の表側の面および裏側の面から少なくとも厚さ分だけ突出している。
【0028】
図3Aは、図1の熱伝導部材の表側の面に、熱源の一例としてのバッテリーセルを複数個載せる状況を一部拡大断面図にて示す。図3Bは、図1の熱伝導部材の表側の面に、熱源の一例としてのバッテリーセルを複数個載せた状況を一部拡大断面図にて示す。
【0029】
熱伝導部材1を複数個のバッテリーセル30と、不図示のバッテリーの筐体(冷却部材の一例)との間に挟むと、熱伝導部材1の傾斜部位12は、変形し、または動くことができる。複数個のバッテリーセル30にて形成される熱源の面が熱伝導部材1の傾斜部位12に接すると、傾斜部位12は、上記熱源の面と傾斜部位12との最初の接触部位(縁部13,22)を中心にわずかに回転させるような力Fを受ける(図3Bを参照)。このため、傾斜部位12は、熱伝導部材1の長さ方向の中央の位置Cに向かってわずかに立ち上がる方向に動く。特に、バッテリーセル30にて形成される上記熱源の面に凹凸が存在する場合には、上記熱源の面における凹部と凸部との境界に縁部13,22が保持され、傾斜部位12が力Fに起因して回動しやすくなる。
【0030】
この実施形態では、熱伝導フィルム20は、好ましくは、弾性シート10の内部において非接着部位を有している。より具体的には、弾性シート10の内部において、熱伝導フィルム20の両側に存在する弾性シート10の少なくとも一方の弾性シート10との間が接着されていない部分が存在する。この実施形態では、弾性シート10におけるシート片11と熱伝導フィルム20とが非接着状態で、シート片11以外の弾性シート10と熱伝導フィルム20とが接着状態である。この実施形態では、さらに、非接着部位の一部には隙間Gが形成されている。このように、熱伝導部材1の内部において熱伝導フィルム20と弾性シート10との間が完全に接着されていないと、熱伝導フィルム20で被覆された傾斜部位12が比較的自由に動きやすくなる。この結果、バッテリーセル30の底面と傾斜部位12の一部を被覆している熱伝導フィルム20との接触面積が経時的に増大しやすくなる。バッテリーセル30を熱伝導部材1に載せた時点から時間の経過にしたがって当該接触面積の増大がゆっくりと進行すると、バッテリーセル30をバッテリーの筐体にセット後、バッテリーの使用に伴いバッテリーセルが発熱したときに、当該接触面積の増大に伴う熱抵抗の減少が徐々に生じて、効果的な放熱効果を得ることができる。なお、隙間Gは必須ではなく、熱伝導フィルム20と弾性シート10とが接着せずに、単に密着していても良い。これは他の実施形態でも同様である。
【0031】
バッテリーセル30が熱伝導部材1に載置された際、第2傾斜面28は、熱伝導部材1の厚さ方向Vに近づく方向に変化する。しかし、その変化は、好ましくは、第2傾斜面28を厚さ方向Vに完全一致させない程度のわずかな変化である。第2傾斜面28に平行な面Sと厚さ方向Vとの成す角度は、第1傾斜面18に平行な面Lと水平面Hとなす角度より大きい方が好ましい。第1傾斜面18がバッテリーセル30の底面に略平行となっても、第2傾斜面28が上記厚さ方向Vに対して傾斜を維持しやすいからである。
【0032】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る熱伝導部材の第2実施形態について説明する。
【0033】
図4Aは、第2実施形態に係る熱伝導部材の正面図を示す。図4Bは、第2実施形態に係る熱伝導部材を、図1におけるA-A線と同様の切断線にて切断したときの断面図およびその一部Bの拡大図を示す。
【0034】
第2実施形態に係る熱伝導部材1aは、第1実施形態に係る熱伝導部材1の第1傾斜面18を備えるシート片11に代えて、水平面Hに平行な面を熱伝導部材1aの表側の面に露出するシート片11aを備える。熱伝導部材1aは、シート片11に代えてシート片11aを備える点を除き、熱伝導部材1と同様の構成を有する。
【0035】
熱伝導部材1aは、その表側の面に、熱伝導フィルム20にて覆われた傾斜部位12を複数備える。当該傾斜部材12同士の間には、シート片11aが存在する。このように、熱伝導フィルム20にて覆われた領域の全部若しくは主要部を傾斜部位12として、シート片11aを傾斜部位12としなくとも、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0036】
(第3実施形態)
次に、本発明に係る熱伝導部材の第3実施形態について説明する。
【0037】
図5Aは、第3実施形態に係る熱伝導部材の正面図を示す。図5Bは、第3実施形態に係る熱伝導部材を、図1におけるA-A線と同様の切断線にて切断したときの断面図およびその一部Bの拡大図を示す。
【0038】
第3実施形態に係る熱伝導部材1bは、第1実施形態に係る熱伝導部材1の第1傾斜面18を備えるシート片11に代えて、熱伝導部材1bの厚さ方向表側の面および裏側の面の両方に第1傾斜面18,18を備えるシート片11bを備える。ただし、熱伝導部材1bの長さ方向の中央の位置Cおよびその近傍のシート片11bには、第1傾斜面18は設けられていない。熱伝導部材1bは、シート片11に代えてシート片11bを備える点を除き、熱伝導部材1と同様の構成を有する。
【0039】
熱伝導部材1bの裏側の面における第1傾斜面18は、第1の位置を境に傾斜方向を反転させ、所定方向(熱伝導部材1bの長さ方向)の端部に向かって上方傾斜している。図5Aおよび図5Bでは、熱伝導部材1bの裏側の面における第1傾斜面18に平行な面L’は水平面Hに対して下方傾斜している。しかし、熱伝導部材1bを上下反転して、裏側の面を表側の面にしたときに、第1傾斜面18は、上方に向かって登るように傾斜している。したがって、熱伝導部材1bの厚さ方向の表側の面と裏側の面とでは、第1傾斜面18の上下傾斜方向は逆となっている。
【0040】
熱伝導部材1bは、その表側の面に第1傾斜面18を備える傾斜部位12を備えると共に、裏側の面に第1傾斜面18を備える傾斜部位12bを備える。傾斜部位12の第1傾斜面18は、熱伝導フィルム20にて覆われている。傾斜部位12bの厚さ方向裏側にある第1傾斜面18も熱伝導フィルム20に覆われている。このように、熱伝導部材1bの厚さ方向両面に第1傾斜面18,18を備えると、第1実施形態と同様、熱伝導性フィルム20にかかる負荷を軽減できるという効果が得られる。また、付加的効果として、熱源および冷却部材の両方に対して、徐々に熱伝導性が高くなる効果も得られる。
【0041】
(第4実施形態)
次に、本発明に係る熱伝導部材の第4実施形態について説明する。
【0042】
図6Aは、第4実施形態に係る熱伝導部材の正面図を示す。図6Bは、第4実施形態に係る熱伝導部材を、図1におけるA-A線と同様の切断線にて切断したときの断面図およびその一部Bの拡大図を示す。
【0043】
第4実施形態に係る熱伝導部材1cは、第1実施形態に係る熱伝導部材1のシート片11に代えて、シート片11cを備える。多くのシート片11cは、熱伝導部材1cの表側の面のみに第1傾斜面18を備える。第1傾斜面18は、第1の位置を境に傾斜方向を反転させ、所定方向(熱伝導部材1cの長さ方向)の端部に向かって上方傾斜している。第1傾斜面18に平行な面L’は水平面Hに対して鋭角を成す点は、第1実施形態と共通する。また、多くの第2傾斜面28は、第2の位置を境に傾斜方向を反転させ、第2の位置に向かって倒れるように傾斜している。第2傾斜面28の傾斜角度は、好ましくは、第2の位置から上記長さ方向の端部に向かうほど、徐々に大きくなる。
【0044】
熱伝導部材1cの表側の面における第1傾斜面18は、第1の位置を境に傾斜方向を反転させ、熱伝導部材1cの両端部に向かって高くなるように傾斜している。第1傾斜面18の傾斜角度は、好ましくは、第2の位置から上記長さ方向の端部に向かうほど、徐々に大きくなる。熱伝導部材1cの厚さ方向の裏側の面は、熱伝導部材1と同様、水平面Hにほぼ平行な面である。第2傾斜面28は、第1実施形態の第2傾斜面28と異なる方向に傾斜している。熱伝導部材1cは、シート片11に代えてシート片11cを備える点、第1傾斜面18の傾斜方向が逆方向である点、および第2傾斜面28の傾斜方向が逆方向である点を除き、熱伝導部材1と同様の構成を有する。熱伝導部材1cの表側の面から熱源を接触させると、傾斜部位12cは立ち上がる方向にわずかに変形若しくは回動する。この結果、傾斜部位12を覆う熱伝導フィルム20と熱源との接触面積は経時的に徐々に大きくなる。
【0045】
(第5実施形態)
次に、本発明に係る熱伝導部材の第5実施形態について説明する。
【0046】
図7Aは、第5実施形態に係る熱伝導部材の正面図を示す。図7Bは、第5実施形態に係る熱伝導部材を、図1におけるA-A線と同様の切断線にて切断したときの断面図およびその一部Bの拡大図を示す。
【0047】
第5実施形態に係る熱伝導部材1dは、第2実施形態に係る熱伝導部材1aと同様、熱伝導部材1dの厚さ方向両側が水平面Hと略平行なシート片11dを備える。複数の傾斜部位12dの第1傾斜面18は、熱伝導部材1dの厚さ方向表側の面において、第1の位置を境に傾斜方向を反転させ、熱伝導部材1dの長さ方向両端に向かって一律に下方傾斜あるいは上方傾斜するのではなく、下方傾斜する部分と上方傾斜する部分とを混在して備える。また、第2傾斜面28は、第2の位置を境に傾斜方向を反転させ、熱伝導部材1dの長さ方向両端に向かって全て倒れるように傾斜する、あるいは第2の位置に向かって全て倒れるように傾斜するのではなく、長さ方向両端に向かって倒れるように傾斜している部分と、第2の位置に向かって倒れるように傾斜している部分とを混在させている。このように、第1傾斜面18の傾斜方向および第2傾斜面28の傾斜方向を熱伝導部材1dの長さ方向の場所によって変えても、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0048】
<熱伝導部材の製造方法>
(第1実施形態)
最初に、本発明に係る熱伝導部材の製造方法の第1実施形態について説明する。
【0049】
図8は、熱伝導部材の製造方法の第1実施形態を概略フローで示す。以後、「熱伝導部材の製造方法」を、単に「製造方法」と称する場合がある。
【0050】
第1実施形態に係る製造方法は、前述の第1実施形態に係る熱伝導部材1を製造する方法の一例である。熱伝導部材1の製造方法は、治具の曲面に、弾性シート10をセットする弾性シートセット工程(ST100)と、治具の曲面にセットされた弾性シート10の上方から垂直下方に向けて弾性シート10を貫通するように刃を入れ、弾性シート10の面内の所定方向に並ぶ複数の貫通口を形成する貫通口形成工程(ST200)と、複数の貫通口を形成した弾性シートを治具から外して弾性シートの曲面を平らにする平板工程(ST300)と、熱伝導フィルム20を弾性シート10の表裏に露出させるように固定する熱伝導フィルム固定工程(ST400)と、を含む。
【0051】
平板工程(ST300)により、弾性シート10は、その厚さ方向の表側の面の主な部分に傾斜部位12を備え得る。ただし、傾斜部位12の形成が足りない場合あるいは傾斜部位12がほとんど形成されない場合には、平板工程(ST300)の後に、傾斜部位12を形成する傾斜部位形成工程(ST350)を実施しても良い。また、熱伝導フィルム固定工程(ST400)の後に、シート片11の第1傾斜面18の形成が不十分である場合には、シート片11に傾斜部位12を形成する傾斜部位形成工程(ST500)を実施しても良い。ST350およびST500は、オプションの工程であるため、図8では点線で示されている。さらに、弾性シートセット工程(ST100)の前若しくは後に、弾性シート10の表側の面であって熱伝導フィルム20にて被覆する部分に第1傾斜面18を形成する第1傾斜面形成工程を実施しても良い。
【0052】
図9は、第1実施形態に係る製造方法の弾性シートセット工程をより具体的に説明するための断面図を示す。図10は、図9に続く貫通口形成工程および平板工程をより具体的に説明するための断面図を示す。図11は、図10に続く熱伝導フィルム固定工程をより具体的に説明するための断面図を示す。
【0053】
(1)弾性シートセット工程(ST100)
まず、内方に窪む凹状曲面を有する治具40を用意する。治具40の凹状曲面41には、凹状の曲面を維持するようなゴム42を予め敷いておくのが好ましい。次に、治具40のゴム42の上に、弾性シート10をセットする。弾性シート10は、ゴム42を挟んで、凹状曲面41の曲面を転写する状態で湾曲した状態にて治具40にセットされる。
【0054】
(2)貫通口形成工程(ST200)
次に、貫通口形成器60を用意する。貫通口形成器60は、湾曲状の弾性シート10の厚さ分以上を貫通可能な長さの刃61を備える。貫通口形成器60は、刃61の先端を弾性シート10に向けた状態にて両矢印Pで示すように往復駆動され、刃61を湾曲状の弾性シート10の上から下に向けて貫通させる。なお、刃61のみが両矢印Pに示すように往復駆動されても良い。この結果、弾性シート10には、貫通口(「切り込み」と称しても良い。)50が形成される。貫通口形成器60は、1つの貫通口50を形成後、矢印Mの方向に走査され、両矢印Pの方向に往復駆動される。この結果、貫通口50は、弾性シート10の湾曲している長さ方向に一定間隔おきに形成される。なお、刃61は、好ましくは、弾性シート10を貫通するが、ゴム42を貫通しない程度に駆動される。
【0055】
(3)平板工程(ST300)
貫通口50の形成が終了すると、弾性シート10を治具40から外して、平板状にする。貫通口50を有する平板状の弾性シート10を、以後、「プレシート70」と称することがある。プレシート70は、好ましくは、治具40から外して平らな場所に載置しただけで平板状になる。ただし、治具40から外した後に、シートの両端に加重して平らにしてプレシート70を形成しても良い。プレシート70は、平板状にした後、表側の面の一部に、第1傾斜面18を備える形態になる。このとき、第1傾斜面18が不十分な場合、ST350を実施しても良い。また、プレシート70は、その厚さ方向に対して鋭角に傾斜し、かつプレシート70の長さ方向両側に倒れこむように傾斜する貫通口50を備える。この実施形態では、プレシート70の長さ方向中央およびその近傍の貫通口50は傾斜していない。貫通口50は、プレシート70の長さ方向中央を境に傾斜方向を反転させ、長さ方向両端に向かって倒れこみ、かつ長さ方向両端に向かうにつれて厚さ方向に対する傾斜角度を大きくする。
【0056】
(4)熱伝導フィルム固定工程(ST400)
プレシート70の形成後、熱伝導フィルム20をプレシート70に固定する工程が行われる。熱伝導フィルム固定工程(ST400)は、熱伝導フィルム20をプレシート70の片面(表側の面)に敷く熱伝導フィルム敷設工程(ST410)と、熱伝導フィルム20の上から貫通口に向けてシート片11を挿入するシート片挿入工程(ST420)と、を含む。
【0057】
(4.1)熱伝導フィルム敷設工程(ST410)
この工程では、プレシート70の表側の面は、熱伝導フィルム20にて覆われる。
【0058】
(4.2)シート片挿入工程(ST420)
この工程では、熱伝導フィルム20越しに、貫通口50にシート片11が挿入される。シート片11は、好ましくは、貫通口50の幅を押し広げながら貫通口50に挿入される。また、一部を除く多くのシート片11は、予め、第1傾斜面18が形成されている。ただし、第1傾斜面18が不十分な傾斜である場合には、ST500が実施されても良い。シート片11の貫通口50への挿入によって、挿入方向側に熱伝導フィルム20が露出する。熱伝導フィルム20の一部に接着剤を塗布してからシート片挿入工程(ST420)を実施することで、接着剤を塗布していない部位にて熱伝導フィルム20と弾性シート10とを非接着状態とすることができる。なお、弾性シート10の厚さ方向両面と熱伝導フィルム20とは接着されているのが好ましい。こうして、第1傾斜面18と第2傾斜面28を備えた熱伝導部材1が完成する。
【0059】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る熱伝導部材の製造方法の第2実施形態について説明する。ただし、第2実施形態において、第1実施形態と共通する部分については、その説明を省略する。以下、第1実施形態と異なる点について主に説明する。
【0060】
図12は、第2実施形態に係る製造方法の貫通口形成工程および平板工程を説明するための断面図を示す。
【0061】
第2実施形態において第1実施形態と大きく異なる点は、治具40の曲面を凸状曲面45としていることである。このため、弾性シートセット工程(ST100)および貫通口形成工程(ST200)では、弾性シート10は、その長さ方向略中央部分を治具40の外方に向かって突出させるように湾曲した状態で治具40にセットされる。
(1)貫通口形成工程(ST200)
第1実施形態にて用いたものと同様の貫通口形成器60を用意する。貫通口形成器60は、刃61の先端を弾性シート10に向けた状態にて両矢印Pで示すように往復駆動され、刃61を湾曲状の弾性シート10の上から下に向けて貫通させる。刃61のみが両矢印Pに示すように往復駆動されても良い点は第1実施形態と同様である。この結果、弾性シート10には、貫通口(「切り込み」と称しても良い。)50が形成される。貫通口形成器60は、1つの貫通口50を形成後、矢印Mの方向に走査され、両矢印Pの方向に往復駆動される。この結果、貫通口50は、弾性シート10の湾曲している長さ方向に一定間隔おきに形成される。
【0062】
(2)平板工程(ST300)
貫通口50の形成が終了すると、プレシート71を治具40から外して、平板状にする。プレシート71は、好ましくは、治具40から外して平らな場所に載置しただけで平板状になる。ただし、治具40から外した後に、シートの中央部分に加重して平らにしてプレシート71を形成しても良い。プレシート71は、平板状にした後、表側の面の一部に、第1傾斜面18を備える形態になる。このとき、第1傾斜面18が不十分な場合、ST350を実施しても良い。また、プレシート71は、その厚さ方向に対して鋭角に傾斜し、かつプレシート71の長さ方向中央に倒れこむように傾斜する貫通口50を備える。この実施形態では、プレシート71の長さ方向中央およびその近傍の貫通口50は傾斜していない。貫通口50は、プレシート71の長さ方向中央を境に傾斜方向を反転させ、長さ方向中央に向かって倒れこみ、かつ長さ方向両端に向かうにつれて厚さ方向に対する傾斜角度を大きくする。
【0063】
平板工程(ST300)後の工程は、第1実施形態と同様である。こうして、第1傾斜面18と第2傾斜面28を備えた熱伝導部材1cが完成する。
【0064】
(第3実施形態)
次に、本発明に係る熱伝導部材の製造方法の第3実施形態について説明する。ただし、第3実施形態において、第1実施形態および第2実施形態と共通する部分については、その説明を省略する。以下、第1実施形態および第2実施形態と異なる点について主に説明する。
【0065】
図13は、第3実施形態に係る製造方法の貫通口形成工程を説明するための断面図を示す。
【0066】
第3実施形態において第1実施形態と大きく異なる点は、治具40の曲面を凸部と凹部とを有するうねった曲面46としていることである。このため、弾性シートセット工程(ST100)および貫通口形成工程(ST200)では、弾性シート10は、治具40のうねった曲面46に沿ってうねった状態で治具40にセットされる。
【0067】
貫通口形成工程(ST200)
第1実施形態にて用いたものと同様の貫通口形成器60を用意する。貫通口形成器60は、刃61の先端を弾性シート10に向けた状態にて両矢印Pで示すように往復駆動され、刃61を湾曲状の弾性シート10の上から下に向けて貫通させる。刃61のみが両矢印Pに示すように往復駆動されても良い点は第1実施形態と同様である。この結果、弾性シート10には、貫通口(「切り込み」と称しても良い。)50が形成される。貫通口形成器60は、1つの貫通口50を形成後、矢印Mの方向に走査され、両矢印Pの方向に往復駆動される。この結果、貫通口50は、弾性シート10の湾曲している長さ方向に一定間隔おきに形成される。
【0068】
平板工程(ST300)後の工程は、第1実施形態および第2実施形態と同様である。こうして、第1傾斜面18と第2傾斜面28を備えた熱伝導部材1dが完成する。
【0069】
(第4実施形態)
次に、本発明に係る熱伝導部材の製造方法の第4実施形態について説明する。ただし、第4実施形態において、第1実施形態と共通する部分については、その説明を省略する。以下、第1実施形態と異なる点について主に説明する。
【0070】
図14は、第4実施形態に係る製造方法の貫通口形成工程を説明するための断面図を示す。
【0071】
第4実施形態において第1実施形態と大きく異なる点は、刃61を複数備える貫通口形成器60aを用いていることである。刃61の数を貫通口50と同数とすることによって、貫通口形成器60aを水平方向に走査することなく、両矢印P方向に往復駆動するだけで複数の貫通口50を同時形成可能となる。かかる貫通口形成器60aは、第2実施形態および第3実施形態にて使用することもできる。貫通口形成工程(ST200)後の工程は、第1実施形態と同様である。こうして、第1傾斜面18と第2傾斜面28を備えた熱伝導部材1が完成する。
【0072】
(第5実施形態)
次に、本発明に係る熱伝導部材の製造方法の第5実施形態について説明する。ただし、第5実施形態において、第1実施形態と共通する部分については、その説明を省略する。以下、第1実施形態と異なる点について主に説明する。
【0073】
図15は、第5実施形態に係る製造方法の熱伝導フィルム固定工程を説明するための断面図を示す。
【0074】
第5実施形態において第1実施形態と大きく異なる点は、シート片11が弾性シート10と部分的に接続されていて、開閉式の蓋を閉めるようにシート片11を貫通口50に挿入して熱伝導部材1を製造することである。
【0075】
(1)貫通口形成工程(ST200)
この工程では、刃先端面が略U字型の刃61を有する貫通口形成器60が用いられる。このため、この工程では、弾性シート10の短辺方向の一端(図15の紙面奥行き方向の一部)を弾性シート10に接続した状態のシート片11と貫通口50とが形成される。
(2)熱伝導フィルム固定工程(ST400)
貫通口50とシート片11とを備えたプレシート70aの形成後、熱伝導フィルム20をプレシート70aに固定する工程が行われる。熱伝導フィルム固定工程(ST400)は、熱伝導フィルム20をプレシート70aの片面(表側の面)に敷く熱伝導フィルム敷設工程(ST410)と、熱伝導フィルム20の上から貫通口50に向けてシート片11を回動させて挿入するシート片挿入工程(ST420)と、を含む。
【0076】
(2.1)熱伝導フィルム敷設工程(ST410)
この工程では、プレシート70aの表側の面は、熱伝導フィルム20にて覆われる。この工程は、シート片11が貫通口50から離れる方向に退避した状態で行われる。
【0077】
(2.2)シート片挿入工程(ST420)
この工程では、熱伝導フィルム20越しに、貫通口50にシート片11が挿入される。シート片11は、退避された状態から、矢印R方向に回動して貫通口50に挿入される。シート片11は、好ましくは、貫通口50の幅を押し広げながら貫通口50に挿入される。また、一部を除く多くのシート片11は、予め、第1傾斜面18が形成されている。ただし、第1傾斜面18が不十分な傾斜である場合には、ST500が実施されても良い。弾性シートセット工程(ST100)および平板工程(ST300)は、第1実施形態と同様である。以上説明したように、シート片挿入工程(ST420)を経て、第1傾斜面18と第2傾斜面28を備えた熱伝導部材1は完成する。
【0078】
(第6実施形態)
次に、本発明に係る熱伝導部材の製造方法の第6実施形態について説明する。ただし、第6実施形態において、第1実施形態と共通する部分については、その説明を省略する。以下、第1実施形態と異なる点について主に説明する。
【0079】
図16は、第6実施形態に係る製造方法の平板工程および熱伝導フィルム固定工程を説明するための平面図を示す。
【0080】
第6実施形態において第1実施形態と大きく異なる点は、シート片11を形成することなく、貫通口80を拡げた状態にして、熱伝導フィルム20を、貫通口80を順に縫うように挿通させて熱伝導部材1を製造することである。
【0081】
弾性シートセット工程(ST100)、貫通口形成工程(ST200)および平板工程(ST300)は、第1実施形態と同様である。傾斜部位12は、熱伝導フィルム固定工程(ST400)の前までに形成される。例えば、ST350の工程をST400の前に実行することができる。また、ST100の直前若しくは直後、またはST200の直後に傾斜部位12を形成しても良い。
【0082】
(1)熱伝導フィルム固定工程(ST400)
熱伝導フィルム固定工程(ST400)は、貫通口80を備えたプレシート70bをその長さ方向に引っ張り、貫通口80を拡げる貫通口拡張工程(ST430)と、拡張された貫通口80を縫うように熱伝導フィルム20を挿通する熱伝導フィルム挿通工程(ST440)と、を含む。
【0083】
(1.1)貫通口拡張工程(ST430)
この工程では、プレシート70bをその長さ方向に引っ張り(矢印Qを参照)、貫通口80の幅を拡張する工程である。熱伝導フィルム20を貫通口80に挿通しやすいようにする必要からである。
【0084】
(1.2)熱伝導フィルム挿通工程(ST440)
この工程では、プレシート70bをその長さ方向に引っ張った状態で、熱伝導フィルム20は、貫通口80を順に挿通され(矢印Tを参照)、プレシート70bの表側の面と裏側の面とに順に露出させて固定される。熱伝導フィルム20が全ての貫通口80を挿通すると、プレシート70bは、矢印Q方向への引っ張りを解除され、元の長さに戻される。こうして、第1傾斜面18と第2傾斜面28を備えた熱伝導部材1は完成する。
【0085】
<バッテリー>
本発明に係るバッテリーの実施形態について説明する。
【0086】
図17は、熱伝導部材を備えるバッテリーの縦断面図を示す。ここで、「縦断面図」は、バッテリーの筐体内部の上方開口面から底部へと垂直に切断する図を意味する。
【0087】
この実施形態に係るバッテリー90において、熱源は1または2以上のバッテリーセル30である。また、冷却部材はバッテリーセル30を入れた筐体91である。前述の熱伝導部材1は、バッテリーセル30と筐体91との間に介在している。以下、バッテリー90の構造について説明する。
【0088】
この実施形態において、バッテリー90は、例えば、電気自動車用のバッテリーであって、多数のバッテリーセル30を備える。バッテリー90の好適な例としては、リチウムイオンバッテリーを挙げることができる。バッテリー90は、一方に開口する有底型の筐体91を備える。筐体91は、好ましくは、アルミニウム若しくはアルミニウム基合金から成る。バッテリーセル30は、筐体91の内部94に配置される。バッテリーセル30の上方には、電極(不図示)が突出して設けられている。複数のバッテリーセル30は、好ましくは、筐体91内において、その両側からネジ等を利用して圧縮する方向に力を与えられて、互いに密着するようになっている(不図示)。筐体91の底部92には、冷却水95を流すために、1または複数の水冷パイプ93が備えられている。バッテリーセル30は、筐体91の一部を構成する底部92(冷却部材の一例)との間に、熱伝導部材1を挟むようにして、筐体91内に配置される。
【0089】
上記構造のバッテリー90では、バッテリーセル30は、熱伝導部材1を通じて筐体91に伝熱して、水冷によって効果的に除熱される。なお、冷却水95は、「冷却媒体」あるいは「冷却剤」と読み替えても良い。冷却水95に代えて、液体窒素、エタノール等の有機溶剤を用いても良い。
【0090】
バッテリーセル30を筐体91内にセットした状態では(図17を参照)、熱伝導部材1は、バッテリーセル30と、水冷パイプ93を備える底部92(筐体91の一部)との間において、熱伝導部材1の厚さ方向に圧縮される。この結果、バッテリーセル30からの熱は、熱伝導フィルム20、底部92、水冷パイプ93、冷却水95へと伝わりやすくなる。バッテリー90は、熱伝導部材1に代えて、先述の熱伝導部材1a,1b,1c,1dを備えていても良い。
【0091】
上述の実施形態では、バッテリーセル30を縦にしてその下端に熱伝導部材1を接触せしめている状況について説明したが、バッテリーセルの構造および配置の形態は、これに限定されない。例えば、パウチ袋内にバッテリー液を封入したバッテリーセルの側面を熱伝導部材1の熱伝導フィルム20に接触させるように、バッテリーセルを配置しても良い。
【0092】
<その他実施形態>
上述のように、本発明の好適な各実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されることなく、種々変形して実施可能である。
【0093】
例えば、第1実施形態に係る熱伝導部材1において、第1傾斜面18を、第4実施形態に係る熱伝導部材1cの第1傾斜面18のように第1の位置を境に傾斜方向を反転させ、熱伝導部材1cの長さ方向の端部に向かって上方傾斜させても良い。また、第4実施形態に係る熱伝導部材1cにおいて、第1傾斜面18を、第1実施形態に係る熱伝導部材1の第1傾斜面18のように第1の位置を境に傾斜方向を反転させ、熱伝導部材1cの長さ方向の端部に向かって下方傾斜させても良い。このように、各実施形態に係る熱伝導部材1,1a,1b,1c,1d(以後、熱伝導部材1等ともいう。)の構成要素は、組み合わせ不可能な場合を除き、自由に組み合わせ可能である。
【0094】
上述の各実施形態では、第1の位置と第2の位置は、共に熱伝導部材1等の長さ方向の中央の位置Cである。しかし、第1の位置または第2の位置は、それぞれ異なり、かつ中央の位置C以外の位置でも良い。また、第1傾斜面18または第2傾斜面28は、熱伝導部材1等の長さ方向すべての部位にて傾斜していても良い。
【0095】
熱伝導部材1等において、好ましくは、熱伝導フィルム20は、弾性シート10の厚さ方向表裏両面と接着されていて、弾性シート10の厚さ方向の内部において全く接着されていないか、若しくは部分的に接着されている。しかし、熱伝導フィルム20は、弾性シート10といずれの位置においても完全に接着されていても良い。
【0096】
また、弾性シート10は、その形状に特に制約はなく、少なくともバッテリーセル30と対向する面および底部92と対向する面において、所定間隔を空けて熱伝導フィルム20が露出するように熱伝導フィルム20を保持可能な形状であれば、例えば、楕円、台形、円、多角形状等であっても良い。
【0097】
第1傾斜面18および第2傾斜面28は、上述の各実施形態では平板である。しかし、湾曲した板でも良い。その場合、湾曲した各傾斜面の傾斜角度は、湾曲した頂点に接する面の傾斜角度となる。
【0098】
また、熱源は、バッテリーセル30のみならず、回路基板や電子機器本体などの熱を発する対象物を全て含む。例えば、熱源は、キャパシタおよびICチップ等の電子部品であっても良い。また、熱伝導部材等は、バッテリー90以外の構造物、例えば、電子機器、家電、発電装置等に配置されていても良い。
【符号の説明】
【0099】
1,1a,1b,1c,1d・・・熱伝導部材、10・・・弾性シート、11,11a,11b,11c,11d・・・シート片、12,12b,12c,12d・・・傾斜部位、18・・・第1傾斜面、20・・・熱伝導フィルム、28・・・第2傾斜面、30・・・バッテリーセル(熱源の一例)、90・・・バッテリー、91・・・筐体(冷却部材の一例)、92・・・底部(冷却部材の一例)、C・・・中央の位置(第1の位置および第2の位置の一例)、G・・・隙間(非接着部位の一例)、H・・・水平面。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17