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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】回転慣性質量ダンパー
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20241018BHJP
   F16H 25/20 20060101ALI20241018BHJP
   F16H 25/22 20060101ALI20241018BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
F16F15/02 C
F16H25/20 E
F16H25/22 Z
E04H9/02 341A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021084546
(22)【出願日】2021-05-19
(65)【公開番号】P2022178042
(43)【公開日】2022-12-02
【審査請求日】2024-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】宮本 皓
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 宏一
【審査官】正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-153423(JP,A)
【文献】特開2016-050593(JP,A)
【文献】特開2013-245723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
F16H 25/20
F16H 25/22
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに近接離反する方向に相対変位する第1部材と第2部材との間に設置され、前記第1部材と前記第2部材との相対変位を低減させる回転慣性質量ダンパーにおいて、
前記第1部材に固定されるボールねじと、
前記第2部材に支持され、前記ボールねじに螺合し、前記ボールねじと前記ボールねじの軸線回りに相対回転して、前記ボールねじと前記ボールねじの軸線方向に相対変位可能なボールねじナットと、
前記第2部材に支持され、前記軸線回りに回転可能な回転慣性質量と、
前記ボールねじナットと前記回転慣性質量との間に設けられ、前記ボールねじナットの回転を前記回転慣性質量に伝達させて前記ボールねじナットと前記回転慣性質量とを一体に回転させる回転伝達機構と、を有し、
前記回転伝達機構は、
前記ボールねじと前記ボールねじナットとの前記軸線方向の相対変位量の値が第1設定値未満であると前記ボールねじナットの回転を前記回転慣性質量に伝達させない第1回転伝達制限機構と、
前記ボールねじと前記ボールねじナットとの前記軸線方向の相対加速度の値が第2設定値を超えると、前記ボールねじナットの回転を前記回転慣性質量に伝達させない第2回転伝達制限機構と、を有し、
前記第1回転伝達制限機構は、
前記ボールねじナットに設けられ前記回転伝達機構側に突出する第1突出部と、
前記回転伝達機構に設けられ前記ボールねじナット側に突出し、前記第1突出部の回転軌道上に配置される第2突出部と、を有し、
初期状態では、前記第1突出部と前記第2突出部とは離れて配置され、
前記ボールねじと前記ボールねじナットとの前記軸線方向の相対加速度の値が前記第2設定値以下であり、かつ前記ボールねじと前記ボールねじナットとが、前記軸線方向の相対変位量の値が前記第1設定値以上となる位置まで相対回転すると、前記第1突出部と前記第2突出部とが互いに係合し、前記ボールねじナットの回転が前記回転伝達機構を介して前記回転慣性質量に伝達し、
前記第1突出部は、前記ボールねじネットに固定されている回転慣性質量ダンパー。
【請求項2】
前記第1突出部は、前記ボールねじナットに周方向に間隔をあけて複数設けられ、
前記第2突出部は、前記回転伝達機構に周方向に間隔をあけて複数設けられる請求項1に記載の回転慣性質量ダンパー。
【請求項3】
互いに近接離反する方向に相対変位する第1部材と第2部材との間に設置され、前記第1部材と前記第2部材との相対変位を低減させる回転慣性質量ダンパーにおいて、
前記第1部材に固定されるボールねじと、
前記第2部材に支持され、前記ボールねじに螺合し、前記ボールねじと前記ボールねじの軸線回りに相対回転して、前記ボールねじと前記ボールねじの軸線方向に相対変位可能なボールねじナットと、
前記第2部材に支持され、前記軸線回りに回転可能な回転慣性質量と、
前記ボールねじナットと前記回転慣性質量との間に設けられ、前記ボールねじナットの回転を前記回転慣性質量に伝達させて前記ボールねじナットと前記回転慣性質量とを一体に回転させる回転伝達機構と、を有し、
前記回転伝達機構は、
前記ボールねじと前記ボールねじナットとの前記軸線方向の相対変位量の値が第1設定値未満であると前記ボールねじナットの回転を前記回転慣性質量に伝達させない第1回転伝達制限機構と、
前記ボールねじと前記ボールねじナットとの前記軸線方向の相対加速度の値が第2設定値を超えると、前記ボールねじナットの回転を前記回転慣性質量に伝達させない第2回転伝達制限機構と、を有し、
前記第1回転伝達制限機構は、
前記ボールねじナットに設けられ前記回転伝達機構側に突出する第1突出部と、
前記回転伝達機構に設けられ前記ボールねじナット側に突出し、前記第1突出部の回転軌道上に配置される第2突出部と、を有し、
前記第1突出部は、前記ボールねじナットに周方向に間隔をあけて複数設けられ、
前記第2突出部は、前記回転伝達機構に周方向に間隔をあけて複数設けられる回転慣性質量ダンパー。
【請求項4】
前記第1設定値は、5mm以上40mm以下とする請求項1から3のいずれか1項に記載の回転慣性質量ダンパー。
【請求項5】
前記第2回転伝達制限機構は、
前記回転伝達機構における前記回転慣性質量の端面と対向する位置に設けられた摩擦板と、
前記摩擦板を前記回転慣性質量の端面に押し付けるバネ部と、を有し、
前記ボールねじと前記ボールねじナットとの前記軸線方向の相対変位量の値が第1設定値以上であり、かつ前記ボールねじと前記ボールねじナットとの前記軸線方向の相対加速度が前記第2設定値以下であると、前記摩擦板と前記回転慣性質量との間に摩擦力によって前記ボールねじナットの回転が前記回転伝達機構を介して前記回転慣性質量に伝達し、
前記ボールねじと前記ボールねじナットとの前記軸線方向の相対加速度が前記第2設定値を超えると、前記回転伝達機構と前記回転慣性質量とが相対回転し、前記ボールねじナットの回転が前記回転慣性質量に伝達しないことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の回転慣性質量ダンパー。
【請求項6】
前記第2設定値は、0.5m/s/s以上1.5m/s/s以下とする請求項1から5のいずれか一項に記載の回転慣性質量ダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転慣性質量ダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
大きな質量を付加することにより揺れを低減する同調マスダンパー(TMD)が多くの構造物(建築物)に適用されている。同調マスダンパーは、付加した質量が、制御対象と逆方向に揺れることで振動を相殺し、即座に揺れを収束させることが可能である。同調マスダンパーは、付加する質量が大きくなるほど、より高い振動制御効果を得られることが知られている。近年、錘を回転させることで大質量を付加した時と同様の効果を得る回転慣性質量ダンパーが開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-189104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
長周期パルス状の地震波が生じた場合に、回転慣性質量ダンパーの制御力が瞬間的に大きくなるため、構造物の応答加速度が増大する虞がある。また、低振幅の高周波数の地震波が生じた場合に、回転慣性質量ダンパーが低振幅の高周波数の地震波を伝達させることによって、構造物が小刻みに揺れ、構造物の居住性に悪影響をもたらす虞がある。
【0005】
本発明は、長周期パルス状の地震波が生じた場合に制御力が瞬間的に大きくなることを防止することができるとともに、低振幅の高周波数の地震波の伝達を遮断することができる回転慣性質量ダンパーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る回転慣性質量ダンパーは、互いに近接離反する方向に相対変位する第1部材と第2部材との間に設置され、前記第1部材と前記第2部材との相対変位を低減させる回転慣性質量ダンパーにおいて、前記第1部材に固定されるボールねじと、前記第2部材に支持され、前記ボールねじに螺合し、前記ボールねじと前記ボールねじの軸線回りに相対回転して、前記ボールねじと前記ボールねじの軸線方向に相対変位可能なボールねじナットと、前記第2部材に支持され、前記軸線回りに回転可能な回転慣性質量と、前記ボールねじナットと前記回転慣性質量との間に設けられ、前記ボールねじナットの回転を前記回転慣性質量に伝達させて前記ボールねじナットと前記回転慣性質量とを一体に回転させる回転伝達機構と、を有し、前記回転伝達機構は、前記ボールねじと前記ボールねじナットとの前記軸線方向の相対変位量の値が第1設定値未満であると前記ボールねじナットの回転を前記回転慣性質量に伝達させない第1回転伝達制限機構と、前記ボールねじと前記ボールねじナットとの前記軸線方向の相対加速度の値が第2設定値を超えると、前記ボールねじナットの回転を前記回転慣性質量に伝達させない第2回転伝達制限機構と、を有する。
【0007】
本発明では、第1設定値を低振幅の高周波数の地震波が生じた場合のボールねじとボールねじナットとの相対変位量よりも大きい値に設定することにより、低振幅の高周波数の地震波が生じた場合にボールねじナットの回転が回転慣性質量に伝達しないため、低振幅の高周波数の地震波の伝達を遮断することができる。
第2設定値を長周期パルス状の地震波が生じた場合のボールねじとボールねじナットとの軸線方向の相対加速度の値に設定することにより、長周期パルス状の地震波が生じた場合にボールねじナットの回転が回転慣性質量に伝達しないため、長周期パルス状の地震波が生じた場合に制御力が瞬間的に大きくなることを防止することができる。
【0008】
また、本発明に係る回転慣性質量ダンパーでは、前記第1回転伝達制限機構は、前記ボールねじナットに設けられ前記回転伝達機構側に突出する第1突出部と、前記回転伝達機構に設けられ前記ボールねじナット側に突出し、前記第1突出部の回転軌道上に配置される第2突出部と、を有し、初期状態では、前記第1突出部と前記第2突出部とは離れて配置され、前記ボールねじと前記ボールねじナットとの前記軸線方向の相対加速度の値が前記第2設定値以下であり、かつ前記ボールねじと前記ボールねじナットとが、前記軸線方向の相対変位量の値が前記第1設定値以上となる位置まで相対回転すると、前記第1突出部と前記第2突出部とが互いに係合し、前記ボールねじナットの回転が前記回転伝達機構を介して前記回転慣性質量に伝達するようにしてもよい。
【0009】
このような構成とすることにより、第1設定値に応じて第1突出部および第2突出部を設ける位置を調整することで第1回転伝達制限機構を容易に設けることができる。第1回転伝達制限機構を簡便な構造とすることができる。
【0010】
また、本発明に係る回転慣性質量ダンパーでは、前記第1突出部は、前記ボールねじナットに周方向に間隔をあけて複数設けられ、前記第2突出部は、前記回転伝達機構に周方向に間隔をあけて複数設けられていてもよい。
【0011】
このような構成とすることにより、第1突出部および第2突出部の数を調整することにより、第1突出部および第2突出部を第1設定値に応じた位置に容易に設置することができる。また、第1突出部および第2突出部がそれぞれ複数設けられていることにより、ボールねじナットの回転を回転伝達機構へ安定した状態で伝達することができる。
【0012】
また、本発明に係る回転慣性質量ダンパーでは、前記第1設定値は、5mm以上40mm以下としてもよい。
【0013】
このような構成とすることにより、低振幅の高周波数の地震波が生じた場合にボールねじナットの回転が回転慣性質量に伝達しないため、低振幅の高周波数の地震波の伝達を遮断することができる。
【0014】
また、本発明に係る回転慣性質量ダンパーでは、前記第2回転伝達制限機構は、前記回転伝達機構における前記回転慣性質量の端面と対向する位置に設けられた摩擦板と、前記摩擦板を前記回転慣性質量の端面に押し付けるバネ部と、を有し、前記ボールねじと前記ボールねじナットとの前記軸線方向の相対変位量が第1設定値以上であり、かつ前記ボールねじと前記ボールねじナットとの前記軸線方向の相対加速度が前記第2設定値以下であると、前記摩擦板と前記回転慣性質量との間に摩擦力によって前記ボールねじナットの回転が前記回転伝達機構を介して前記回転慣性質量に伝達し、前記ボールねじと前記ボールねじナットとの前記軸線方向の相対加速度が前記第2設定値を超えると、前記回転伝達機構と前記回転慣性質量とが相対回転し、前記ボールねじナットの回転が前記回転慣性質量に伝達しないようにしてもよい。
【0015】
このような構成とすることにより、摩擦板およびバネ部の形態や数を調整することで第2回転伝達制限機構を容易に設けることができる。第2回転伝達制限機構を簡便な構造とすることができる。
【0016】
また、本発明に係る回転慣性質量ダンパーでは、前記第2設定値は、0.5m/s/s以上1.5m/s/s以下としてもよい。
【0017】
このような構成とすることにより、長周期パルス状の地震波が生じた場合にボールねじナットの回転が回転慣性質量に伝達しないため、長周期パルス状の地震波が生じた場合に制御力が瞬間的に大きくなることを防止することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、長周期パルス状の地震波が生じた場合に制御力が瞬間的に大きくなることを防止することができるとともに、低振幅の高周波数の地震波の伝達を遮断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態による回転慣性質量ダンパーの一例を示す図で図2のA-A線断面図である。
図2図1のB-B線断面図である。
図3図2のC-C線断面図である。
図4図1のD-D線断面図である。
図5】第1突出部と第2突出部とが接触している様子を示す図である。
図6】解析における入力波形(JMA Kobe波)を示すグラフである。
図7】解析における応答加速度を示すグラフである。
図8】リミッター加速度およびギャップ量と、最大相対変位との比較を示すコンター図である。
図9】リミッター加速度およびギャップ量と、最大加速度との比較を示すコンター図である。
図10】回転伝達機構の第1突出部および第2突出部が2つずつ設けられた回転慣性質量ダンパーを示す図である。
図11】回転伝達機構の第1突出部および第2突出部が4つずつ設けられた回転慣性質量ダンパーを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態による回転慣性質量ダンパーについて、図1図7に基づいて説明する。
図1に示す本実施形態による回転慣性質量ダンパー1は、建築物などの構造物に設けられた相対変位可能な柱と梁などの第1部材と第2部材との間に設けられている。回転慣性質量ダンパー1は、第1部材と第2部材との相対変位を低減するために設けられている。
【0021】
図1-4に示すように、回転慣性質量ダンパー1は、ボールねじ2と、ボールねじ2に螺合するボールねじナット3と、回転慣性質量4と、ボールねじナット3の回転を回転慣性質量4に伝達させる回転伝達機構5と、ボールねじ2、ボールねじナット3、回転慣性質量4および回転伝達機構5を収容しボールねじナット3および回転慣性質量4を回転可能に支持する支持部6と、を有している。
【0022】
回転慣性質量4は、円筒状の部材で、ボールねじ2が貫通している。回転慣性質量4とボールねじ2とは接触していない。ボールねじ2、ボールねじナット3および回転慣性質量4は、同軸に配置されている。これらの軸線1aが延びる方向を軸線方向(図の矢印Aの方向)とする。ボールねじナット3および回転慣性質量4は、支持部6に軸線回りに回転可能に支持されている。ボールねじ2は、第1部材に固定され、支持部6は第2部材に固定されている。ボールねじナット3および回転慣性質量4は、支持部6を介して第2部材に軸線回りに回転可能に支持されている。
【0023】
ボールねじ2とボールねじナット3とは、軸線方向に相対変位可能である。ボールねじ2とボールねじナット3とは、軸線方向に相対変位すると、ボールねじナット3がボールねじ2に対して軸線回りに回転する。すなわち、ボールねじ2とボールねじナット3とは、軸線回りに相対回転可能である。
【0024】
支持部6は、例えばボールねじ2、ボールねじナット3、回転慣性質量4および回転伝達機構5を収容する円筒状の部材である。支持部6は、ボールねじ2、ボールねじナット3および回転慣性質量4と同軸に配置されている。支持部6の内周面61は、回転慣性質量4の外周面41と間隔をあけて対向している。支持部6の内周面61には、複数のボールキャスター62が取り付けられている。ボールキャスター62は、回転慣性質量4の外周面41と接触している。回転慣性質量4は、ボールキャスター62のボールが回転することで、支持部6の内部で軸線回りにスムーズに回転することができる。
【0025】
ボールねじナット3と回転慣性質量4とは、軸線方向に配列されている。回転慣性質量4に対してボールねじナット3が配置されている側を軸線方向の一方側とし、ボールねじナット3に対して回転慣性質量4が配置されている側を軸線方向の他方側とする。回転慣性質量4は、ボールねじナット3よりも径が大きい。ボールねじナット3と回転慣性質量4とは、軸線回りに相対回転可能に構成されている。回転慣性質量4の軸線方向の他方側の端面は、支持部6に設けられたボールキャスター62に接触している。
【0026】
図1図2に示すように、回転伝達機構5は、円環板状の円環板部51と、円環板部51に取り付けられた摩擦板52およびバネ部53と、ボールねじナット3に設けられた第1突出部54と、円環板部51に設けられた第2突出部55と、を有している。
【0027】
円環板部51は、ボールねじナット3を囲むとともに回転慣性質量4の軸線方向の一方側となる位置に、ボールねじ2、ボールねじナット3および回転慣性質量4と同軸に配置されている。本実施形態では、円環板部51は、軸線方向の他方側の端部の外周を囲むように配置されている。円環板部51の内周面511とボールねじナット3の外周面31との間には隙間が設けられている。円環板部51の軸線方向の他方側の面512は、回転慣性質量4の軸線方向の一方側の端面42と対向している。
【0028】
円環板部51の外周面513は、支持部6の内周面61と間隔をあけて対向している。円環板部51の外周面513は、支持部6の内周面61に取り付けられた複数のボールキャスター62と接触している。円環板部51は、ボールキャスター62のボールが回転することで、支持部6の内部で軸線回りにスムーズに回転することができる。円環板部51の軸線方向の一方側の端面は、支持部6に設けられたボールキャスター62に接触している。円環板部51は、ボールねじナット3および回転慣性質量4と連結されていない。
【0029】
円環板部51には、軸線方向の他方側(回転慣性質量4側)に開口する凹部514が周方向に間隔をあけて複数設けられている。複数の凹部514それぞれには、複数の皿ばねなどで構成されたバネ部53が配置されている。複数のバネ部53それぞれの軸線方向の他方側には、摩擦板52が設けられている。摩擦板52は、板面が軸線方向を向く向きに配置されている。摩擦板52は、バネ部53と回転慣性質量4の軸線方向の一方側の端面42との間に配置され、回転慣性質量4の軸線方向の一方側の端面42にバネ部53によって押し付けられる。
【0030】
第1突出部54は、ボールねじナット3の外周面31から外側に突出している。第1突出部54の先端541は、円環板部51の内周面511と離れている。第2突出部55は、円環板部51の内周面511から内側に突出している。第2突出部55の先端551は、ボールねじナット3の外周面31と離れている。第1突出部54と第2突出部55とは、ボールねじナット3および円環板部51の軸線を中心とする同一の円周上に配置されている。このため、第1突出部54と、第2突出部55とは、ボールねじナット3と円環板部51とが軸線回りに相対回転すると、それぞれの周方向を向く側面542,552が接触するように配置されている。第2突出部55には、周方向を向く側面552(第1突出部54と接触する面)に、衝撃吸収材553が設けられている。第2突出部55に衝撃吸収材553が設けられていることにより、第1突出部54と第2突出部55とが接触した際の衝撃が吸収される。衝撃吸収材553は、粘性材料や弾性材料で製作されている。なお、衝撃吸収材は、第2突出部55に代わって第1突出部54に設けられていてもよいし、第1突出部54および第2突出部55の両方に設けられていてもよい。
【0031】
摩擦板52、バネ部53および第2突出部55は、円環板部51に設けられている。第1突出部54は、ボールねじナット3に設けられている。回転伝達機構5のうち、円環板部51、摩擦板52、バネ部53および第2突出部55を回転伝達機構本体部56とする。
【0032】
本実施形態では、第1突出部54および第2突出部55がそれぞれ1つずつ設けられている。
図2に示すように、初期状態では、第1突出部54と第2突出部55とは軸線回りに180°離れた位置に配置されている。この初期状態から第1部材と第2部材とが軸線方向に相対変位すると、ボールねじ2に対してボールねじナット3が軸線回りに回転し、ボールねじナット3と回転伝達機構本体部56とが相対回転する。初期状態から図5に示すように第1突出部54が第2突出部55に対して軸線回りに180°近く回転すると、第1突出部54と第2突出部55とが接触する。これにより、ボールねじナット3の回転が第1突出部54を介して回転伝達機構本体部56に伝達され、ボールねじナット3と回転伝達機構本体部56とが一体となって回転する。
【0033】
初期状態から第1突出部54が第2突出部55に対して軸線回りに180°近く回転して第1突出部54と第2突出部55とを接触させるためのボールねじ2とボールねじナット3との軸線方向の相対変位量の値を第1設定値とする。ボールねじ2とボールねじナット3との軸線方向の相対変位量は、第1部材と第2部材との軸線方向の相対変位量と同じ値である。
【0034】
図1図3に示す回転伝達機構本体部56と回転慣性質量4とは、回転伝達機構本体部56の摩擦板52が回転慣性質量4に押し付けられているため、摩擦板52と回転慣性質量4との摩擦力によって回転伝達機構本体部56のトルクが回転慣性質量4に伝達される。これにより、回転伝達機構本体部56と回転慣性質量4とが一体となって回転する。回転伝達機構本体部56のトルクが所定値を超えると、回転伝達機構本体部56の摩擦板52が回転慣性質量4に対してスリップし、回転伝達機構本体部56のトルクが回転慣性質量4に伝達されない。これにより、回転伝達機構本体部56が回転しても回転慣性質量4は回転しない。
【0035】
回転伝達機構本体部56が回転するには、ボールねじナット3の第1突出部54と回転伝達機構本体部56の第2突出部55とが接触している必要があるため、ボールねじ2とボールねじナット3との軸線方向の相対変位量の値は第1設定値以上である。回転伝達機構本体部56の摩擦板52が回転慣性質量4に対してスリップするトルクが生じるためのボールねじ2とボールねじナット3との軸線方向の相対加速度の値を第2設定値とする。ボールねじ2とボールねじナット3との軸線方向の相対加速度は、第1部材と第2部材との軸線方向の相対加速度と同じ値である。
【0036】
本実施形態の第1突出部54および第2突出部55は、ボールねじ2とボールねじナット3との軸線方向の相対変位量の値が第1設定値未満であるとボールねじナット3の回転を回転慣性質量4に伝達させず、ボールねじ2とボールねじナット3との軸線方向の相対変位量の値が第1設定値以上であるとボールねじナット3の回転を回転慣性質量4に伝達させる第1回転伝達制限機構7に相当する。本実施形態のバネ部53および摩擦板52は、ボールねじ2とボールねじナット3との軸線方向の相対加速度の値が第2設定値以下であると、ボールねじナット3の回転を回転慣性質量4に伝達させ、ボールねじ2とボールねじナット3との軸線方向の相対加速度の値が第2設定値を超えると、ボールねじナット3の回転を回転慣性質量4に伝達させない第2回転伝達制限機構8に相当する。
【0037】
次に、上記の実施形態による回転慣性質量ダンパー1の作用・効果について説明する。
本実施形態による回転慣性質量ダンパー1では、第1設定値を低振幅の高周波数の地震波が生じた場合のボールねじ2とボールねじナット3との相対変位量よりも大きい値に設定することにより、低振幅の高周波数の地震波が生じた場合にボールねじナット3の回転が回転慣性質量4に伝達しないため、低振幅の高周波数の地震波の伝達を遮断することができる。例えば、第1設定値を5mm以上40mm以下に設定することにより、低振幅の高周波数の地震波の伝達を遮断することができる。
第2設定値を長周期パルス状の地震波が生じた場合のボールねじ2とボールねじナット3との軸線方向の相対加速度の値に設定することにより、長周期パルス状の地震波が生じた場合にボールねじナット3の回転が回転慣性質量4に伝達しないため、長周期パルス状の地震波が生じた場合に制御力が瞬間的に大きくなることを防止することができる。
【0038】
また、本実施形態による回転慣性質量ダンパー1では、第1回転伝達制限機構7は、ボールねじナット3に設けられ回転伝達機構5側に突出する第1突出部54と、回転伝達機構5に設けられボールねじナット3側に突出し、第1突出部54の回転軌道上に配置される第2突出部55と、を有し、初期状態では、第1突出部54と第2突出部55とは離れて配置され、ボールねじ2とボールねじナット3との軸線方向の相対加速度の値が第2設定値以下であり、かつボールねじ2とボールねじナット3とが、軸線方向の相対変位量の値が第1設定値以上となる位置まで相対回転すると、第1突出部54と第2突出部55とが互いに係合し、ボールねじナット3の回転が回転伝達機構5を介して回転慣性質量4に伝達するように構成されている。
【0039】
このような構成とすることにより、第1設定値に応じて第1突出部54および第2突出部55を設ける位置を調整することで第1回転伝達制限機構7を容易に設けることができる。第1回転伝達制限機構7を簡便な構造とすることができる。
【0040】
また、本実施形態による回転慣性質量ダンパー1では、第2回転伝達制限機構8は、回転伝達機構5における回転慣性質量4の端面と対向する位置に設けられた摩擦板52と、摩擦板52を回転慣性質量4の端面に押し付けるバネ部53と、を有し、ボールねじ2とボールねじナット3との軸線方向の相対変位量が第1設定値以上であり、かつボールねじ2とボールねじナット3との軸線方向の相対加速度が第2所定値以下であると、摩擦板52と回転慣性質量4との間に摩擦力によってボールねじナット3の回転が回転伝達機構5を介して回転慣性質量4に伝達し、ボールねじ2とボールねじナット3との軸線方向の相対加速度が第2所定値を超えると、回転伝達機構5と回転慣性質量4とが相対回転し、ボールねじナット3の回転が回転慣性質量4に伝達しないよう構成されている。
【0041】
このような構成とすることにより、摩擦板52およびバネ部53の形態や数を調整することで第2回転伝達制限機構8を容易に設けることができる。第2回転伝達制限機構8を簡便な構造とすることができる。
【0042】
次に、上記の本発明による回転慣性質量ダンパー1の妥当性を、解析を行い検証する。
解析では、固有周期3.3s、減衰定数10%となる免震構造物を対象として、(1)従来の回転慣性質量ダンパー1、(2)本発明による回転慣性質量ダンパー1の2つに対して検討した。解析では、特に、高周波数での影響に着目するため、図6に示す兵庫県南部地震の観測波形(JMA Kobe波)を入力した際の応答の比較を行う。
【0043】
図7に示す応答解析結果により、本発明による回転慣性質量ダンパー1は、第1回転伝達制限機構7および第2回転伝達制限機構8を有することにより、加速度波形のうち、小刻みに揺れる成分(高周波成分)を取り除き、さらに、応答加速度の値を低減できていることが分かる。
【0044】
続いて、振動低減効果に対して有効となる第1設定値および第2設定値の検証を行う。
図8図9のコンター図に、第1設定値(ギャップ量)および第2設定値(リミッター加速度)と、最大変位(最大相対変位量)および最大加速度(最大相対加速度)との相関を示す。本解析では、目標となる最大変位を0.3m未満、目標となる最大加速度を2.5m/s/s未満とし、図中の白部分がそれぞれの応答で許容できる部分を示す。
【0045】
図8図9より、第1設定値(ギャップ量)は0.02~0.04m、第2設定値(リミッター加速度)は0.5m/s/s~1.5m/s/sの範囲が、目標とする性能を満たす組みあわせであることが分かる。したがって、第1回転伝達制限機構7および第2回転伝達制限機構8のいずれか一方のみを有する回転慣性質量ダンパー1では、目標となる振動制御性能は得られない可能性があり、これら2つを適切な量に設定することにより、絶対加速度および、変位に対して、適切な振動制御性能が得られることがわかる。
【0046】
第2設定値の範囲が0.5m/s/s~1.5m/s/sということにより、第2回転伝達制限機構8の力の下限値f、上限値fは、以下のように示される。mは、回転慣性質量ダンパー1を取り付ける構造物の重量を示す。
=0.5m
=1.5m
【0047】
上記の0.5および1.5は、応答加速度の下限値0.5m/s/sおよび上限値1.5m/s/sに対応する数値となっている。すなわち、図8図9の横軸(リミッター加速度)の数字に、回転慣性質量ダンパー1を取り付ける構造物の重量mを乗じた値がそのまま力となる。
なお、ここで、図8は色の濃い部分は、応答変位が大きいケースを示し、図9においては、色が濃い部分は応答加速度が大きいケースを示している。図9より、リミッター加速度(つまり横軸の数字をm倍した数字はそのままリミッター力になる)が小さければ、小さい領域は白色となり、応答加速度は小さくなる。しかし、一方で、図8より、リミッター加速度が小さければ小さいほど、色は黒色となり、応答変位は増加する。したがって、単にリミッター加速度が小さければ小さいほど良い性能が得られというわけではなく、両者の兼ね合いを考慮することで、変位および加速度を許容範囲に収めることができることがわかる。
【0048】
以上、本発明による回転慣性質量ダンパーの実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記の実施形態では、第1回転伝達制限機構7は、ボールねじナット3に設けられ回転伝達機構5側に突出する第1突出部54と、回転伝達機構5に設けられボールねじナット3側に突出し、第1突出部54の回転軌道上に配置される第2突出部55と、が1つずつ設けられている。これに対し、第1突出部54をボールねじナット3に周方向に等間隔をあけて複数設け、第2突出部55を回転伝達機構5に周方向に等間隔をあけて複数設けてもよい。図10には、第1突出部54および第2突出部55がそれぞれ2つずつ設けられた回転慣性質量ダンパー1を示し、図11には、第1突出部54および第2突出部55がそれぞれ4つずつ設けられた回転慣性質量ダンパー1を示す。
【0049】
このような構成とすることにより、第1突出部54および第2突出部55の数を調整することにより、第1突出部54および第2突出部55を第1設定値に応じた位置に容易に設置することができる。また、第1突出部54および第2突出部55がそれぞれ複数設けられていることにより、ボールねじナット3の回転を回転伝達機構5へ安定した状態で伝達することができる。
【0050】
また、本実施形態による回転慣性質量ダンパー1では、第2回転伝達制限機構8のバネ部53は皿ばねであるが、皿ばね以外のばねで構成されていてもよい。
【0051】
また、本実施形態による回転慣性質量ダンパー1では、第1設定値は、5mm以上40mm以下とし、第2設定値は、0.5m/s/s以上1.5m/s/s以下としているが、これ以外の値に設定されていてもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 回転慣性質量ダンパー
2 ボールねじ
3 ボールねじナット
4 回転慣性質量
5 回転伝達機構
7 第1回転伝達制限機構
8 第2回転伝達制限機構
42 端面
52 摩擦板
53 バネ部
54 第1突出部
55 第2突出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11