(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】トンネル覆工方法及び覆工構造
(51)【国際特許分類】
E21D 11/08 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
E21D11/08
(21)【出願番号】P 2021121308
(22)【出願日】2021-07-26
【審査請求日】2024-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000198307
【氏名又は名称】株式会社IHI建材工業
(74)【代理人】
【識別番号】110001863
【氏名又は名称】弁理士法人アテンダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内藤 泰文
(72)【発明者】
【氏名】夏目 岳洋
(72)【発明者】
【氏名】村野 知弥
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-67136(JP,A)
【文献】特開2001-280091(JP,A)
【文献】特開2000-54796(JP,A)
【文献】特開平10-306697(JP,A)
【文献】特開平10-115195(JP,A)
【文献】米国特許第04730427(US,A)
【文献】中国特許出願公開第112943296(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/00-19/06
E21D 23/00-23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル内に複数のプレキャスト版をトンネル軸方向に配列し、トンネル断面が徐々に変化する覆工版を構築するトンネル覆工方法において、
トンネル周方向に沿ってアーチ状に延びる複数の支保工を互いにトンネル軸方向に間隔をおいて設置し、
トンネル軸方向に隣り合うプレキャスト版のトンネル軸方向端面が互いにプレキャスト版の厚さ寸法の範囲内でトンネル径方向にずれるようにプレキャスト版を支保工で支持することにより、トンネル断面が徐々に変化する覆工版を構築する
ことを特徴とするトンネル覆工方法。
【請求項2】
前記支保工は、トンネル軸方向に隣り合うプレキャスト版のうち一方のプレキャスト版のトンネル軸方向端部を支持する支持部材と他方のプレキャスト版のトンネル軸方向端部を支持する支持部材とが互いにトンネル径方向にずらして連結される
ことを特徴とする請求項1記載のトンネル覆工方法。
【請求項3】
前記プレキャスト版のトンネル径方向外側の面に設けられた回動可能な係止部材をプレキャスト版のトンネル径方向内側から回動して前記支持部材に係止することにより、プレキャスト版を支持部材に取り付ける
ことを特徴とする請求項2記載のトンネル覆工方法。
【請求項4】
トンネル内周面側に固定された固定部材のトンネル軸方向両側に前記支持部材をそれぞれ配置し、固定部材と各支持部材とを連結する
ことを特徴とする請求項2または3記載のトンネル覆工方法。
【請求項5】
トンネル内にトンネル軸方向に配列された複数のプレキャスト版によってトンネル断面が徐々に変化する覆工版が構築されるトンネル覆工構造において、
互いにトンネル軸方向に間隔をおいて設置され、トンネル周方向に沿ってアーチ状に延びる複数の支保工を備え、
トンネル軸方向に隣り合うプレキャスト版のトンネル軸方向端面が互いにプレキャスト版の厚さ寸法の範囲内でトンネル径方向にずれるようにプレキャスト版を支保工で支持することにより、トンネル断面が徐々に変化する覆工版が構築されている
ことを特徴とするトンネル覆工構造。
【請求項6】
前記支保工は、トンネル軸方向に隣り合うプレキャスト版のうち一方のプレキャスト版のトンネル軸方向端部を支持する支持部材と他方のプレキャスト版のトンネル軸方向端部を支持する支持部材とを有し、
各支持部材は互いにトンネル径方向にずれるように連結されている
ことを特徴とする請求項5記載のトンネル覆工構造。
【請求項7】
前記プレキャスト版のトンネル径方向外側の面に設けられた回動可能な係止部材を備え、
係止部材をプレキャスト版のトンネル径方向内側から回動して前記支持部材に係止することにより、プレキャスト版が支持部材に取り付けられている
ことを特徴とする請求項6記載のトンネル覆工構造。
【請求項8】
トンネル内周面側に固定された固定部材を備え、
固定部材のトンネル軸方向両側に前記支持部材がそれぞれ配置されるとともに、固定部材と各支持部材とが連結されている
ことを特徴とする請求項6または7記載のトンネル覆工構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断面形状が徐々に変化するトンネルの覆工版の施工に用いるトンネル覆工方法及び覆工構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、道路、鉄道または水路のトンネルにおいては、トンネル軸方向に沿って一様な断面形状を有するものが通常であるが、例えばトンネル内に分岐部が存在する場合は、分岐により幅員が大きくなるにしたがってトンネル断面が徐々に拡大する。
【0003】
トンネル内の覆工版は現場でコンクリートを打設することにより構築されるが、このようなコンクリート打設作業には、鋼材からなる骨組に鋼製のパネルを取り付けた、いわゆるスライドセントル型枠が用いられる(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記スライドセントル型枠を用いた覆工版の施工は、トンネル断面の形状が変化しない標準断面区間では型枠の繰り返し使用が可能であるため、効率の高い施工が可能であるが、断面変化区間では、コンクリート打設ごとにセントルを分解し、次に打設を行うトンネル断面形状に対応するようにセントルを再度組み立て直す作業が必要となる。このような組立作業はトンネル内でのクレーンによる難易度の高い作業になるため、作業効率が大幅に低下するという問題点があった。
【0006】
本発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、断面形状が徐々に変化するトンネルにおいても覆工版を効率よく構築することのできるトンネル覆工方法及び覆工構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は前記目的を達成するために、トンネル内に複数のプレキャスト版をトンネル軸方向に配列し、トンネル断面が徐々に変化する覆工版を構築するトンネル覆工方法において、トンネル周方向に沿ってアーチ状に延びる複数の支保工を互いにトンネル軸方向に間隔をおいて設置し、トンネル軸方向に隣り合うプレキャスト版のトンネル軸方向端面が互いにプレキャスト版の厚さ寸法の範囲内でトンネル径方向にずれるようにプレキャスト版を支保工で支持することにより、トンネル断面が徐々に変化する覆工版を構築するようにしている。
【0008】
また、本発明は前記目的を達成するために、トンネル内にトンネル軸方向に配列された複数のプレキャスト版によってトンネル断面が徐々に変化する覆工版が構築されるトンネル覆工構造において、互いにトンネル軸方向に間隔をおいて設置され、トンネル周方向に沿ってアーチ状に延びる複数の支保工を備え、トンネル軸方向に隣り合うプレキャスト版のトンネル軸方向端面が互いにプレキャスト版の厚さ寸法の範囲内でトンネル径方向にずれるようにプレキャスト版を支保工で支持することにより、トンネル断面が徐々に変化する覆工版を構築している。
【0009】
これにより、トンネル断面が徐々に変化する覆工版がプレキャスト版を用いて構築されることから、従来のように断面変化区間の覆工版をスライドセントル型枠を用いて施工する場合のようにトンネル断面形状の異なる部分ごとにセントルの分解及び再組み立てを行う必要がない。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来のように断面変化区間の覆工版をスライドセントル型枠を用いて施工する場合のようにトンネル断面形状の異なる部分ごとにセントルの分解及び再組み立てを行う必要がないので、工期の大幅な短縮及び施工安全性の確保を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態を示すトンネルの概略平面図
【
図6】プレキャスト版の取付工程を示す要部側面断面図
【
図7】プレキャスト版の取付工程を示す要部側面断面図
【
図8】プレキャスト版の取付工程を示す要部平面断面図
【
図9】プレキャスト版の取付工程を示す要部平面断面図
【
図10】本発明の一実施形態を示す固定部材の斜視図
【
図12】固定部材への支保工の取り付け状態を示す側面断面図
【
図13】支保工へのプレキャスト版の取付状態を示す側面断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1乃至
図9は本発明の一実施形態を示すもので、断面形状が徐々に変化するトンネルの覆工版の施工に用いるトンネル覆工方法及び覆工構造を示すものである。
【0013】
同図に示すトンネル1は、例えば山岳部の道路や鉄道、或いは水路用のトンネルにおいて、トンネル断面が徐々に変化する区間に設けられるもので、同区間のトンネル軸方向一端の幅W1 及び高さH1 よりもトンネル軸方向他端の幅W2 及び高さH2 が徐々に大きくなるように断面形状が変化する覆工版2によって形成される。
【0014】
覆工版2は、トンネル周方向に沿ってアーチ状に延びる複数の支保工10と、各支保工10に支持されるプレキャスト版20とからなり、トンネル軸方向に隣り合うプレキャスト版20のトンネル軸方向端面が互いにプレキャスト版20の厚さ寸法の範囲内でトンネル径方向にずれるようにプレキャスト版20を支保工10で支持することにより、トンネル断面が徐々に変化するように形成される。
【0015】
支保工10は、トンネル軸方向一対の支持部材11からなり、互いにトンネル軸方向に間隔をおいて設置される。各支持部材11は、一対のフランジ11aとウェブ11bとからなる断面コ字状の軽溝形鋼によって形成され、ウェブ11aをトンネル軸方向と直交する向きにしてトンネル周方向に沿ってアーチ状に湾曲するように形成されている。各支持部材11はウェブ11bの背面(各フランジ11aが突出していない側の面)同士が対向するように互いに反対向きで配置されるとともに、ウェブ11b同士をボルト12及びナット13によって締結することにより互いに連結されるようになっている。
【0016】
プレキャスト版20は、工場等で製造される板状のコンクリートからなり、支保工10に沿う円弧状をなすように形成されている。プレキャスト版20は、トンネル径方向外側の面に設けた係止部材としての係止板21を支持部材11のトンネル径方向内側のフランジ11aに係止することにより支持部材11に取り付けられるようになっている。係止板21は長方形状の板状部材からなり、プレキャスト版20を貫通するボルト22の一端(頭部側)に固定されている。係止板21はボルト22を中心に回動することにより、その長手方向一端側を支持部材11のフランジ11aに係止するようになっている。この場合、ボルト22は治具30によってプレキャスト版20のトンネル径方向内側から回動操作可能になっている。また、係止板21はボルト22に螺合するナット23によりプレキャスト版20に固定される。
【0017】
ここで、本実施形態による覆工版2の構築方法について説明する。
【0018】
まず、支保工10の各支持部材11を互いにトンネル径方向に所定の偏位量Dだけずらして連結する。この場合、偏位量Dはプレキャスト版20の厚さ寸法tの範囲内とする。次に、各支保工10を互いにトンネル軸方向に間隔をおいて設置する。その際、各支保工10の間隔Sはプレキャスト版20のトンネル軸方向の長さ寸法と等しい間隔とする。続いて、各支保工10にプレキャスト版20を取り付ける。その際、プレキャスト版20はトンネル軸方向の両端側をそれぞれ支保工10の支持部材11に係止板21によって取り付けられる。即ち、
図6及び
図8に示すように係止板21を長手方向がトンネル軸方向に直交する向きにしてプレキャスト版20を支持部材11のフランジ11aに当接させるとともに、
図7及び
図9に示すように係止板21を治具30で長手方向がトンネル軸方向になるように回動することにより、係止板21を支持部材11のフランジ11aに係止させた後、ナット23を締め付けて係止板21を固定することにより、プレキャスト版20を支持部材11に取り付ける。その際、支保工10の各支持部材11が互いにトンネル径方向に偏位量Dだけずれているので、トンネル軸方向に隣り合うプレキャスト版20が互いにトンネル径方向に偏位量Dだけずれるように配置される。このようにして各支保工10に各プレキャスト版20を取り付けることにより、
図4に示すように断面形状がプレキャスト版20ごとに偏位量Dずつトンネル径方向に変化する覆工版2が構築される。
【0019】
このように、本実施形態によれば、トンネル周方向に沿ってアーチ状に延びる複数の支保工10を互いにトンネル軸方向に間隔をおいて設置し、トンネル軸方向に隣り合うプレキャスト版20のトンネル軸方向端面を互いにプレキャスト版20の厚さ寸法tの範囲内でトンネル径方向に偏位量Dだけずらしてプレキャスト版20を支保工10によって支持するようにしたので、トンネル断面が徐々に変化する覆工版2を工場加工製品であるプレキャスト版20を用いて構築することができる。これにより、従来のように断面変化区間の覆工版をスライドセントル型枠を用いて施工する場合のようにトンネル断面形状の異なる部分ごとにセントルの分解及び再組み立てを行う必要がなく、工期の大幅な短縮及び施工安全性の確保を図ることができる。
【0020】
また、トンネル軸方向に隣り合うプレキャスト版20のうち一方のプレキャスト版20のトンネル軸方向端部を支持する支持部材11と他方のプレキャスト版20のトンネル軸方向端部を支持する支持部材11とを互いにトンネル径方向に所定の偏位量Dだけずらして連結した後、支持部材11にプレキャスト版20をトンネル径方向内側から取り付けるようにしたので、各プレキャスト版20を互いにトンネル径方向にずれた位置に容易且つ正確に取り付けることができ、プレキャスト版20の取付作業を効率よく行うことができる。
【0021】
この場合、プレキャスト版20のトンネル径方向外側の面に設けられた回動可能な係止板21をプレキャスト版20のトンネル径方向内側から回動して支持部材11に係止することにより、プレキャスト版20を支持部材11に取り付けるようにしたので、プレキャスト版20の取付作業をより効率的に行うことができる。
【0022】
尚、前記実施形態では支持部材11を断面コ字状の軽溝形鋼によって形成したものを示したが、例えば断面L字状の鋼材等、支持部材を他の形状の部材によって形成するようにしてもよい。
【0023】
図10乃至
図13は本発明の他の実施形態を示すもので、前記実施形態と同一の構成部分には同一の符号を付して示す。
【0024】
本実施形態では、トンネル内周面側に固定される固定部材40によって前記支保工10を支持するようにしている。
【0025】
固定部材40は、トンネル内周面に固定される基板41と、基板41からトンネル径方向内側に向かって延びる取付板42と、取付板42の幅方向両面からそれぞれトンネル軸方向に延びる一対の位置決め板43とからなり、基板41にはアンカー44を挿通する複数の孔41aが設けられている。取付板42は厚さ方向がトンネル軸方向となる向きで基板41に接合され、各支持部材11を連結するための複数のボルト挿通孔42aを有している。各位置決め板43は厚さ方向がトンネル径方向となる向きで取付板42に接合され、各支持部材11を連結するための複数のボルト挿通孔43aを有している。また、各位置決め板43は互いに前記偏位量Dだけトンネル径方向に位置がずれるように配置されている。
【0026】
本実施形態において覆工版2を構築する場合には、
図11に示すように地山Yに吹き付けられた吹付コンクリートCに固定部材40を複数のアンカー44によって固定する。次に、
図12に示すように固定部材40に支保工10の各支持部材11を取り付ける。その際、各支持部材11のトンネル径方向外側のフランジ11aを各位置決め板43に当接させてボルト45及びナット46によって各位置決め板43にそれぞれ締結するとともに、各支持部材11のウェブ11bを取付板42にボルト47及びナット48によってそれぞれ締結する。この後、前記実施形態と同様、
図13に示すように係止板21によってプレキャスト版20を支持部材11に取り付ける。
【0027】
このように、本実施形態によれば、トンネル内周面側に固定された固定部材40のトンネル軸方向両側に支保工10の各支持部材11をそれぞれ配置し、固定部材40と各支持部材11とを連結するようにしたので、支保工10をトンネル内周面側に確実に保持することができる。
【0028】
この場合、固定部材40に互いに偏位量Dだけトンネル径方向に位置がずれた一対の位置決め板43にそれぞれ各支持部材11を当接させて各支持部材11を固定部材40に連結するようにしたので、各支持部材11を現場で正確な位置に容易に取り付けることができ、現場での作業を効率よく行うことができる。
【0029】
尚、本実施形態では、吹付コンクリートCに固定部材40を固定するようにしたものを示したが、例えばNATM工法で用いられる鋼製支保工(H形鋼)に固定部材40を固定するようにしてもよい。
【0030】
また、前記各実施形態は本発明の一実施例であり、本発明は前記各実施形態に記載されたものに限定されない。
【符号の説明】
【0031】
1…トンネル、2…覆工版、10…支保工、11…支持部材、20…プレキャスト版、21…係止板、40…固定部材。