(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】複層型処理槽
(51)【国際特許分類】
C02F 3/34 20230101AFI20241018BHJP
【FI】
C02F3/34 101B
C02F3/34 101C
(21)【出願番号】P 2021143811
(22)【出願日】2021-09-03
【審査請求日】2023-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】矢次 壮一郎
(72)【発明者】
【氏名】永江 信也
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-054980(JP,A)
【文献】特開2003-053378(JP,A)
【文献】特開2007-245002(JP,A)
【文献】実開昭60-013300(JP,U)
【文献】特開2008-155080(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110386666(CN,A)
【文献】米国特許第06086765(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/28 - 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上層に設けられた好気槽と、下層に設けられた無酸素槽と、を備え、前記好気槽と前記無酸素槽とが連通している複層型処理槽であって、
前記無酸素槽の底部に設けられた散気装置と、
前記無酸素槽の上面から下方に延出する堰部材と、を備え、
前記堰部材は、気体が滞留可能な滞留域を画定し、
前記滞留域の少なくとも一部は、前記散気装置の上方に設けられて
おり、
気体を昇圧可能な昇圧装置をさらに備え、
前記昇圧装置の一次側は、前記滞留域と連通しており、
前記昇圧装置の二次側は、前記散気装置と連通しており、
空気圧縮機をさらに備え、
前記空気圧縮機の二次側は、前記滞留域と連通しており、
前記滞留域に設けられた液位計と、
前記液位計の指示値を入力可能であるとともに、前記空気圧縮機の運転を制御可能な制御装置と、をさらに備え、
前記制御装置は、
前記液位計の指示値が所定の上限値を上回ったときに、前記空気圧縮機を運転させ、
前記液位計の指示値が所定の下限値を下回ったときに、前記空気圧縮機を停止させる運転制御機能を実行可能に構成されている複層型処理槽。
【請求項2】
前記滞留域に、散水可能なノズルが設けられている請求項
1に記載の複層型処理槽。
【請求項3】
前記散気装置は、平均気泡径が1~5mmの気泡を吐出可能に構成されている請求項
1又は2に記載の複層型処理槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複層型処理槽に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、活性汚泥を利用して生活排水などの被処理水を処理する方法として、複数の生物処理を複合して利用する方法が採用されている。この類の方法では、活性を発現する環境が異なる複数の微生物を利用するべく、環境が異なる複数の槽(好気槽、無酸素槽、嫌気槽など)を設け、これらの複数の槽の間で被処理水を循環させながら、各槽における生物処理を適用する、という手法が汎用される。すなわち、汚水の生物処理においては、複数の処理槽が設けられることが一般的である。
【0003】
複数の処理槽を設けるための必要面積を低減するための試みとして、特開2020-54980号公報(特許文献1)には、好気槽と無酸素槽とを上下に配置した有機性排水処理装置が開示されている。この技術では、好気槽と無酸素槽とを上下に配置することによって、これらの二つの処理槽を設置するための必要面積を低減することに成功している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
無酸素槽における生物処理を好適に実施するためには、無酸素槽において汚泥を適切に撹拌する必要があり、特許文献1の装置では、モータ駆動する攪拌翼が採用されている。ここで、特許文献1の装置では、上側に配置された好気槽よりさらに上に配置されたモータと、好気槽より下側に配置された無酸素槽に配置された攪拌翼と、を接続するために、少なくとも好気槽の水深より長い接続部材が使用されている。そのため、メンテナンス等の目的で攪拌翼を無酸素槽から引き上げる場合は、攪拌翼および接続部材を槽の上方に大きく引き上げる必要があり、作業性が悪かった。
【0006】
そこで、複層型処理槽において、無酸素槽を攪拌する手段のメンテナンス性を向上することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る複層型処理槽は、上層に設けられた好気槽と、下層に設けられた無酸素槽と、を備え、前記好気槽と前記無酸素槽とが連通している複層型処理槽であって、
前記無酸素槽の底部に設けられた散気装置と、
前記無酸素槽の上面から下方に延出する堰部材と、を備え、
前記堰部材は、気体が滞留可能な滞留域を画定し、
前記滞留域の少なくとも一部は、前記散気装置の上方に設けられており、
気体を昇圧可能な昇圧装置をさらに備え、
前記昇圧装置の一次側は、前記滞留域と連通しており、
前記昇圧装置の二次側は、前記散気装置と連通しており、
空気圧縮機をさらに備え、
前記空気圧縮機の二次側は、前記滞留域と連通しており、
前記滞留域に設けられた液位計と、
前記液位計の指示値を入力可能であるとともに、前記空気圧縮機の運転を制御可能な制御装置と、をさらに備え、
前記制御装置は、
前記液位計の指示値が所定の上限値を上回ったときに、前記空気圧縮機を運転させ、
前記液位計の指示値が所定の下限値を下回ったときに、前記空気圧縮機を停止させる運転制御機能を実行可能に構成されていることを特徴とする。
【0008】
この構成では、散気装置から吐出された気体の上昇に伴って、無酸素槽の槽内の流体が上方に移動し、これを駆動力として流体の撹拌がなされる。この構成によれば、無酸素槽を撹拌するための設備が従来技術に比べて簡単であるので、メンテナンス性の向上が図れる。
またこの構成によれば、無酸素槽の攪拌に寄与する気体を循環させて用いることができるので、酸素を含む外気の導入量を低減でき、これによって無酸素槽の溶存酸素濃度の上昇を抑制しうる。
またこの構成によれば、無酸素槽の攪拌に寄与する気体を滞留域に直接供給できる。
またこの構成によれば、無酸素槽内の液体が昇圧装置および空気圧縮機に流入することを防ぎうる。
【0009】
以下、本発明の好適な態様について説明する。ただし、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定されるわけではない。
【0016】
本発明に係る複層型処理槽は、一態様として、前記滞留域に、散水可能なノズルが設けられていることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、滞留域にスカムが蓄積することを好適に防止しうる。
【0018】
本発明に係る複層型処理槽は、一態様として、前記散気装置は、平均気泡径が1~5mmの気泡を吐出可能に構成されていることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、従来のガス撹拌設備を複層型処理槽に適用する場合に比べて、曝気に必要となる昇圧量を軽減できるため、気泡を形成するために入力する動力を低減しうる。
【0020】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施形態に係る複層型処理槽の構成を示す図である。
【
図2】
図1中に一点鎖線IIで示した領域の拡大図である。
【
図3】実施形態に係る無酸素槽の底面の上面図である。
【
図4】変形例に係る複層型処理槽の構成を示す図である。
【
図5】変形例に係る無酸素槽の底面の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る複層型処理槽の実施形態について、図面を参照して説明する。以下では、本発明に係る複層型処理槽を、循環式硝化脱窒法による活性汚泥処理に供される汚水処理システムに組み込まれた複層型処理槽1に適用した例について説明する。
【0023】
〔複層型処理槽の構成〕
本実施形態に係る複層型処理槽1は、上層に設けられた好気槽2と、下層に設けられた無酸素槽3と、を備える二層型の汚水処理槽である(
図1)。好気槽2では、処理水が曝気されて、硝化菌によってアンモニア性窒素および有機性窒素が硝酸性窒素に酸化される。無酸素槽3では、脱窒菌によって硝酸性窒素が窒素ガスに還元される。このように、複層型処理槽1は、好気槽2におけるアンモニア性窒素および有機性窒素の酸化反応と、無酸素槽3における硝酸性窒素の還元反応と、を組み合わせて、原水W1(生活排水など)に含まれるアンモニア性窒素および有機性窒素を除去する設備である。なお、複層型処理槽1の各部の動作を制御するための制御装置10が設けられている(
図1)。制御装置10は、具体的には、制御盤内に配置されたCPUとして実装されており、たとえば複層型処理槽1が設けられた下水処理場の中央制御室に設置されたモニタ端末Tを通じて操作および監視される。
【0024】
本実施形態では、一例として、ある複層型処理槽1の無酸素槽3において脱窒処理を受けた脱窒水W3が、隣接する他の複層型処理槽の好気槽(不図示)に移送され、ある複層型処理槽1の好気槽2において硝化処理を受けた硝化液W4が、同じ複層型処理槽1の無酸素槽3に移送される、という構成を示している(
図1)。このように、複数の複層型処理槽1が接続された循環系が形成されており、循環式硝化脱窒法による活性汚泥処理に供される汚水処理システムが実現されている。
【0025】
(好気槽の構成)
好気槽2は、複層型処理槽1の上層部分に設けられた槽である。好気槽2には、複数の膜分離装置21が設けられている。したがって複層型処理槽1は、膜分離活性汚泥法(MBR)に供される。膜分離装置21を通過した処理水W2は、次工程に送られる。好気槽2には、複層型処理槽1の正常な運転状態における液位である標準液位が設定されており、膜分離装置21は標準液位より下側に設けられている。
図1では、標準液位を直線Hで表している。好気槽2には、上流側に配置される別の複層型処理槽1で処理された脱窒水W3が流入し、硝化菌によるアンモニア性窒素の酸化が行われる。なお、好気槽2には、曝気装置(不図示)が設けられている。
【0026】
好気槽2の底面22と無酸素槽3の上面31とにわたって、貫通孔4が設けられている。貫通孔4によって、好気槽2と無酸素槽3とが連通している。貫通孔4は、好気槽2において硝化処理を受けた硝化液W4が無酸素槽3に移送される際の経路として機能する。
【0027】
(無酸素槽の構成)
無酸素槽3は、複層型処理槽1の下層部分に設けられた槽であり、複層型処理槽1に流入した原水W1を受け入れる槽である。無酸素槽3には、原水W1と、好気槽2から移送された硝化液W4と、が流入し、脱窒菌によって硝酸性窒素が還元されて窒素ガスが発生する。
【0028】
無酸素槽3には、底部32に設けられた散気装置5と、上面31から下方に延出する堰部材61と、が設けられており、堰部材61によって、気体が滞留可能な滞留域6が画定されている(
図1および
図2)。滞留域6は、散気装置5の直上の領域に画定されており、これによって、散気装置5から吐出された気体の大部分が、無酸素槽3の槽内を上昇して滞留域6に滞留する。散気装置5から吐出された気体の上昇に伴って、無酸素槽3の槽内の流体が上方に移動し、これを駆動力として旋回流Fが発生して、流体の撹拌がなされる。
【0029】
無酸素槽3の底部32の上面図を
図3に示す。
図3に示すように、散気装置5は、底部32の一辺に沿って設けられている。なお、散気装置5の長手方向(
図3における上下方向)は、
図1および
図2では紙面奥行き方向である。
【0030】
散気装置5は、平均気泡径が1~5mmの気泡を吐出可能に構成されている。なお、散気装置5から吐出される気泡の大きさは、清水中で散気装置5を試運転した際に吐出される気泡の大きさを目視等で観察して決定される。これを実現する散気装置5の具体的な構成として、本実施形態では、散気装置5の上面に、長さ1mmのスリット51が複数設けられたメンブレンが配されている。なお、上記の平均気泡径を実現しうる散気装置5の他の態様としては、たとえば、直径約0.1mmの吐出口が複数設けられたノズルヘッド、プラスチック焼結体、などの態様が例示されるが、これらに限定されない。
【0031】
滞留域6には、液位計62および消泡ノズル63(ノズルの例である。)が設けられている。液位計62は、公知の方式(たとえば電極式など)の液位計として実装されており、その指示値が制御装置10に入力されるように構成されている。また、消泡ノズル63から液面に向けて水を噴射することによって、滞留域6にスカムが蓄積することを好適に防止しうる。
【0032】
また、気体を昇圧可能なブロワ7(昇圧装置の例である。)が設けられている。ブロワ7の一次側は、滞留域6と連通しており、ブロワ7の二次側は、散気装置5と連通している。これによって、ブロワ7を運転すると、滞留域6に滞留している気体がブロワ7に吸引され、昇圧されたのちに散気装置5から吐出される。すなわち、気体が、散気装置5、滞留域6、ブロワ7の順に経由する循環経路Cが形成される(
図2)。なお、ブロワ7は制御装置10と電気的に接続されており、制御装置10によってブロワ7の運転を制御可能である。
【0033】
さらに、空気圧縮機8が設けられており、当該空気圧縮機8の二次側は滞留域6と連通している。これによって、空気圧縮機8を運転すると、滞留域6に空気が供給される。なお、空気圧縮機8は制御装置10と電気的に接続されており、制御装置10によって空気圧縮機8の運転を制御可能である。
【0034】
なお、無酸素槽3には脱窒水流路9が接続されている。脱窒水流路9の下流側は、隣接する他の複層型処理槽の好気槽(不図示)に接続されており、脱窒水流路9は、無酸素槽3において脱窒処理を受けた脱窒水W3が移送される際の経路として機能する。また、脱窒水流路9には曝気装置(不図示)が設けられており、脱窒水流路9においてエアリフト効果が生じるように構成されている。かかるエアリフト効果によって、脱窒水W3を移送するための駆動力が供給されている。さらに、好気槽2では、脱窒水W3が流入することによって、硝化液W4が無酸素槽3に押しだされる。すなわち、脱窒水流路9におけるエアリフト効果は、汚水処理システム全体において被処理水を循環させる駆動力を与えている。
【0035】
〔無酸素槽における流体の撹拌〕
本実施形態に係る複層型処理槽1では、散気装置5から吐出された気体の移動に伴って、流体の撹拌がなされる、いわゆるガス撹拌型の撹拌機構が採用されている。以下では、このガス撹拌の詳細について説明する。
【0036】
無酸素槽3の撹拌を担う気体は、空気圧縮機8を通じて外部から供給される空気と、無酸素槽3内における脱窒処理によって生じる窒素ガスと、を含む。このうち、空気に含まれる酸素は、水への溶解によって循環経路Cを循環するうちに少しずつ減少する。一方、窒素ガスは、無酸素槽3内における反応の進行によって増加する。また、散気装置5から吐出された気体は、主として循環経路Cを循環するが、散気装置5から吐出された気体の一部は無酸素槽3の槽内を上昇して滞留域6の域外に至り(
図2において矢印Eで示す。)、やがて脱窒水流路9を経由して槽外に排出される。
【0037】
上記のように、無酸素槽3の撹拌を担う気体には、減少要因および増加要因の双方があり、その総量は一定ではないが、無酸素槽3の槽内の流体を好適に撹拌するためには、散気装置5から一定水準以上の量の気体を吐出する必要がある。そこで、空気圧縮機8を適宜運転して滞留域6に空気を供給し、空気の量を一定水準以上に保つことになる。ただし、無酸素槽3の槽内における溶存酸素量(DO)が上昇すると、脱窒菌の活性が低下するおそれがあるので、無酸素槽3への空気の過度な導入を避ける必要がある。
【0038】
以上の事情を考慮して、本実施形態では、制御装置10が実行する運転制御機能が、以下のように設定されている。第一に、液位計62の指示値が所定の上限値(
図2において符号Uで示している。)を上回ったときに、空気圧縮機8を運転させる制御を実行する。液位計62の指示値が上限値Uを上回ることは、滞留域6に滞留する気体の量が減少していることを示すため、空気圧縮機8を運転して気体(空気)を補充するのである。なお、上限値Uは、ブロワ7の一次側に連通する開口および空気圧縮機8の二次側に連通する開口より低い位置に設定されており、これによって、ブロワ7および空気圧縮機8に液体が流入することを防いでいる。
【0039】
第二に、液位計62の指示値が所定の下限値(
図2において符号Lで示している。)を下回ったときに、空気圧縮機8を停止させる制御を実行する。液位計62の指示値が下限値Lを下回ることは、滞留域6に十分な量の気体が滞留していることを示すため、空気圧縮機8を停止して、過度な空気(酸素)が供給されることを防ぐのである。このように、空気の供給が間欠的に行われるため、散気装置5から吐出される気体の酸素濃度を抑制できる。
【0040】
従来、無酸素槽にガス撹拌を採用する場合、酸素の溶け込みを抑制するため、比較的大きな気泡(たとえば平均気泡径20mm程度)が形成される装置が汎用されている。しかし、これを複層型処理槽の下層に配置される無酸素槽に適用しようとすると、従来の無酸素槽より水深が深いため、上記のような比較的大きな気泡を形成するためには大きな動力が必要になる。また、水深が深いことによって、従来の無酸素槽に比べて酸素の溶け込みが生じやすいことも問題になりうる。そこで本実施形態では、散気装置5から吐出される気体の酸素濃度を抑制しているので、散気装置5から吐出される気体を比較的小さな気泡(たとえば平均気泡径2mm程度)としても、酸素の溶け込みが問題になりにくい。そして、小さい気泡を採用できることから、従来のガス撹拌設備を複層型処理槽に適用する場合に比べて、気泡を形成するために入力する動力を低減しうる。
【0041】
以上のように、本実施形態では、散気装置5、滞留域6、ブロワ7の順に経由する循環経路Cを気体が循環するように構成することによって、曝気に必要な昇圧量と、無酸素タンクへの酸素供給量を抑制しながら効率よくガス撹拌を実現している。
【0042】
〔変形例〕
図4および
図5に示すように、散気装置5および滞留域6を複数設けてもよい。なお、この場合、散気装置5と滞留域6とは一対一対応で設けられている必要はなく、たとえば複数の散気装置5に対して一つの滞留域6が設けられてもよい(
図4)。ただし、貫通孔4(好気槽2と無酸素槽3との連通路)の直下には、散気装置5を設けないことが好ましい。貫通孔4の直下に散気装置5を設けると、散気装置5から上昇する気体が貫通孔を逆流して、硝化液W4の移送を妨げるおそれがあるためである。
【0043】
なお、貫通孔4の無酸素槽3側の開口の周囲に堰部材61を設けると、貫通孔4への気体の流入を阻害できるため、好ましい。このことは、当変形例に限らず、上記の実施形態でも同様である。
【0044】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明に係る複層型処理槽のその他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0045】
上記の実施形態では、好気槽2に複数の膜分離装置21が設けられている構成を例として説明した。しかし、本発明における好気槽は、膜分離装置を用いる構成に限定されず、当分野で公知の方式の好気槽が採用されうる。
【0046】
上記の実施形態では、ある複層型処理槽1の無酸素槽3において脱窒処理を受けた脱窒水W3が、隣接する他の複層型処理槽の好気槽に移送され、ある複層型処理槽1の好気槽2において硝化処理を受けた硝化液W4が、同じ複層型処理槽1の無酸素槽3に移送される、という構成を例として説明した。しかし、本発明に係る複層型処理槽において、処理水の循環方向は、上記の実施形態の逆でもよい。すなわち、ある複層型処理槽の無酸素槽において脱窒処理を受けた脱窒水が、当該複層型処理槽の好気槽に移送されてもよい。
【0047】
上記の実施形態では、四基の複層型処理槽を備える汚水処理システムにおける一基の複層型処理槽1を例として説明した。しかし、本発明に係る複層型処理槽は、単独で用いられてもよい。この場合、好気槽から無酸素槽に硝化液を移送する経路と、無酸素槽から好気槽に脱窒水を移送する経路と、を設ければ、単一の複層型処理槽内で完結する循環系が形成される。
【0048】
上記の実施形態では、複層型処理槽1が好気槽2と無酸素槽3を備え、循環式硝化脱窒法による活性汚泥処理に供される構成を例として説明した。しかし、複層型処理槽1が適用される汚水処理方式は特に限定されない。なお、他の汚水処理方式に適用される場合、当該汚水処理方式において必要とされる他の槽(たとえば嫌気槽)が、本発明に係る複層型処理槽と一体に、または別個に、設けられうる。
【0049】
上記の実施形態では、好気槽2に複数の膜分離装置21が設けられ、複層型処理槽1が膜分離活性汚泥法(MBR)に供される構成を例として説明した。しかし、本発明に係る複層型処理槽が供される汚水処理方式は特に限定されない。なお、他の汚水処理方式に適用される場合、当該汚水処理方式において必要とされる機器や設備などが、本発明に係る複層型処理槽と一体に、または別個に、設けられうる。
【0050】
上記の実施形態では、滞留域6は、散気装置5の直上の領域に画定されている構成を例として説明した。しかし、本発明に係る複層型処理槽において、散気装置と滞留域との位置関係が、滞留域の少なくとも一部が散気装置の上方に設けられている位置関係にあれば十分である。ただし、散気装置の上方の全域に滞留域が設けられていると、散気装置から吐出されたのち滞留域の域外に至る気体を減らすことができるため好ましい。
【0051】
上記の実施形態では、ブロワ7が設けられ、ブロワ7の一次側が滞留域6と、二次側が散気装置5と、それぞれ連通している構成を例として説明した。しかし、本発明に係る複層型処理槽は、昇圧装置を有さなくてもよい。
【0052】
上記の実施形態では、空気圧縮機8が設けられ、空気圧縮機8の二次側が滞留域6と連通している構成を例として説明した。しかし、本発明に係る複層型処理槽は、空気圧縮機を有さなくてもよい。
【0053】
上記の実施形態では、液位計62が設けられている構成を例として説明した。しかし、本発明に係る複層型処理槽は、液位計を有さなくてもよい。
【0054】
上記の実施形態では、消泡ノズル63が設けられている構成を例として説明した。しかし、本発明に係る複層型処理槽は、ノズルを有さなくてもよい。
【0055】
上記の実施形態では、散気装置5が、平均気泡径が1~5mmの気泡を吐出可能に構成されている例について説明した。しかし、本発明に係る複層型処理槽において、散気装置から吐出される気体の気泡径は限定されない。
【0056】
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、たとえば、循環式硝化脱窒法による活性汚泥処理に供される処理槽に利用できる。
【符号の説明】
【0058】
1 :複層型処理槽
2 :好気槽
21 :膜分離装置
22 :好気槽の底面
3 :無酸素槽
31 :無酸素槽の上面
32 :無酸素槽の底部
4 :貫通孔
5 :散気装置
51 :スリット
6 :滞留域
61 :堰部材
62 :液位計
63 :消泡ノズル
7 :ブロワ
8 :空気圧縮機
9 :脱窒水流路
10 :制御装置
C :循環経路
F :旋回流
W1 :原水
W2 :処理水
W3 :脱窒水
W4 :硝化液