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特許7573523工業的規模でテレフタル酸を製造するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】工業的規模でテレフタル酸を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/44 20060101AFI20241018BHJP
   C08J 11/10 20060101ALI20241018BHJP
   C12M 1/40 20060101ALI20241018BHJP
   C12N 15/55 20060101ALN20241018BHJP
【FI】
C12P7/44 ZNA
C08J11/10
C12M1/40 A
C12N15/55
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2021523470
(86)(22)【出願日】2019-11-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(86)【国際出願番号】 EP2019080277
(87)【国際公開番号】W WO2020094661
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-11-01
(31)【優先権主張番号】1860220
(32)【優先日】2018-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514245373
【氏名又は名称】キャルビオス
【氏名又は名称原語表記】CARBIOS
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】シャトー,ミシェル
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/198786(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/099018(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0261465(US,A1)
【文献】Sulaima et al.,Isolation of a Novel Cutinase Homolog with Polyethylene Terephthalate-Degrading Activity from Leaf-Branch Compost by Using a Metagenomic Approach,Applied and Environmental Microbiology,78(5),2012年02月14日,1556-1562,DOI: https://doi.org/10.1128/AEM.06725-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00-41/00
C12M 1/00- 3/10
C12N 1/00-15/90
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのテレフタル酸(TA)単位を含む、少なくとも1種の目的のポリエステルからテレフタル酸(TA)を製造するための方法であって、
前記ポリエステルを、撹拌した反応器中で前記ポリエステルを脱重合可能な少なくとも1種の酵素と接触させる、該ポリエステルを酵素的脱重合させる工程と、
可溶化された形態にあるTA塩を回収する工程と
を含む、方法であって、
反応器中に含まれる目的のポリエステルの量は、初期反応媒体の総重量に基づいて15重量%~30%重量%含まれ総重量に基づいて塩基濃度が20重量%~50重量%±1重量%である塩基性溶液の添加によってpHを該脱重合工程中に6.5~9に制御し、最終反応媒体の液相中のTA濃度が、40kg/t超である、
方法。
【請求項2】
含まれる目的のポリエステルの量に対する含まれる酵素の量の重量比が、0.01:1000~3:1000に含まれる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
目的のポリエステルが、PTT、PBAT、PBT、PCT、PETG、PEIT、及びPETから選択される、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
反応器中に含まれる目的のポリエステルの量が、初期反応媒体の総重量に基づいて、11重量%~20重量%に含まれる、請求項1~3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
反応器中に含まれる目的のポリエステルの量が、初期反応媒体の総重量に基づいて、15重量%±2重量%に等しい、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
反応器中に含まれる目的のポリエステルの量が、初期反応媒体の総重量に基づいて、15重量%以上である、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
最終反応媒体の液相中のTA濃度が、50kg/t超、60kg/t超、70kg/t超、80kg/t超、100kg/t超、又は120kg/t超である、請求項1~6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
目的のポリエステルが、粉末形態にある、請求項1~7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
目的のポリエステルが、2mm未満の粒径を有する粉末形態にある、請求項1~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
脱重合工程の間に、pHを6.5~8.5に制御する、請求項1~9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
脱重合工程を長くて150時間続ける、請求項1~10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
TA塩中に含まれるTAを沈殿させることによりTAを回収する追加の工程を含む、請求項1~11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
TA塩を分離する工程に加えて、沈殿によりTAを回収する工程を含む、請求項1~12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
TAの沈殿が、前記媒体の酸性化により達成される、請求項13記載の方法。
【請求項15】
分離工程から得られたTA塩を含む液相を、沈殿の前に、濃縮工程及び/又は精製工程に供する、請求項14記載の方法。
【請求項16】
精製工程が、分離工程から得られた液相を、限外ろ過、炭素上での脱色、イオン交換体上の通過及びクロマトグラフィーから選択される1つ以上の工程に供することにより行われる、請求項15記載の方法。
【請求項17】
TA塩を含有する分離された液相を、下記工程のうちの一部又は全部に供する、請求項1-12記載のいずれか一項記載の方法:
1.限外ろ過、炭素上での脱色、イオン交換体上の通過及びクロマトグラフィーから選択される1つ以上の工程に溶液を供することによる、ろ液の精製;及び/又は
2.溶液を鉱酸又は有機酸単独又は混合物で酸性化することによる、ろ液、洗浄水又は精製溶液に含まれるテレフタル酸の沈殿;及び/又は
3.沈殿したテレフタル酸を含有する溶液をろ過して、固体形態にあるテレフタル酸を回収;及び/又は
4.精製水でテレフタル酸を洗浄し、乾燥させて、精製されたTAを得る。
【請求項18】
目的のポリエステルが、PETであり、酵素が、PETを脱重合可能なクチナーゼである、請求項1~17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
酵素が、配列番号:1と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を有する酵素から選択される、請求項18記載の方法。
【請求項20】
反応器中に含まれる目的のポリエステルの量が、初期反応媒体の総重量に基づいて、15重量%~25重量%に含まれ、pHを、脱重合工程の間に7.5~8.5に制御し、最終反応媒体の液相中のTA濃度が、100kg/t超である、請求項1~3及び6~19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
温度を60~80℃に制御する、請求項1~20のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
容量が1000L超の反応器中で行われる、請求項1~21のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
反応器中で、少なくとも1つのテレフタル酸(TA)単位を含む目的のポリエステルの酵素的脱重合の少なくとも1つの工程が実施される、少なくとも1000Lの容量を有する反応器であって、
反応器中に含まれる目的のポリエステルの量は、初期反応媒体の総重量に基づいて15重量%~30%重量%に含まれ、最終反応媒体の液相中のTA濃度は、40kg/t超である、
反応器。
【請求項24】
反応器中に含まれる目的のポリエステルの量が、初期反応媒体の総重量に基づいて、15重量%~25重量%に含まれ、反応器中のpH及び温度を、脱重合工程の間に、それぞれ7.5~8.5及び60℃~80℃に制御し、最終反応媒体の液相中のTA濃度が、100kg/t超である、請求項23記載の反応器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、工業的規模又は半工業的規模で、目的のポリエステルから酵素的手段によりテレフタル酸を製造するための方法に関する。
【0002】
背景技術
プラスチック製品は耐久性があり、安価な材料であり、種々の用途(食品包装、衣類織物等)のための広い各種の製品を製造するのに使用することができる。その結果、プラスチックの製造は、ここ数十年で劇的に増加している。大部分は、短期間の用途に使用され、これにより、プラスチック廃棄物の蓄積およびその処理の必要性が生じる。これらのプラスチックを構成する種々のポリマーは、ポリエチレンテレフタレラート(PET)、テレフタル酸およびエチレングリコールから製造される芳香族ポリエステルを含む。これらは、多くの用途、例えば、食品包装(ボトル、フラスコ、ジャー、トレイ、パウチ)に使用されるが、衣類、装飾(カーペット)、家庭用リネン等のための織物の製造にも使用される。
【0003】
廃棄物の蓄積の環境的および経済的問題に対処するために、リサイクル又はエネルギー回収技術が開発されてきた。機械的リサイクルプロセスが未だに、今日最も一般的に使用されているが、多くの欠点を有する。実際、機械的リサイクルプロセスを行うには、複雑で費用のかかる選別が必要であり、より低い価値の用途を意図した品質の低下したリサイクルプラスチック(より低い分子量、添加剤の管理されない存在)の製造につながる。さらに、これらの再生プラスチックは、石油由来の未使用プラスチックと競合しない。
【0004】
近年、プラスチック製品の酵素的リサイクルのための革新的な方法が開発され、特に、特許出願WO第2014/079844号、同第2015/097104号、同第2015/173265号及び同第2017/198786号に記載されている。従来の機械的リサイクルプロセスとは異なり、これらの酵素的プロセスでは、プラスチックに含まれるポリマーの酵素的脱重合により、ポリマーの主成分(モノマー)に戻すことが可能となる。ついで、得られたモノマーを精製し、新たなポリマーを再重合するのに使用することができる。これらの酵素的プロセスでは、酵素の特異性により、プラスチックの費用のかかる選別を回避することが可能となるだけでなく、石油由来のポリマーと同等の品質の再生ポリマーをもたらす無限のリサイクルを提案することも可能となる。特に、これらのプロセスにより、PETからテレフタル酸およびエチレングリコールを製造することが可能となる。
【0005】
脱重合により得られるモノマーの製造に関連する問題の1つは、前記モノマーを回収する工程である。実際、固体形態にあるモノマー、例えば、テレフタル酸などを、反応器中に存在する固体廃棄物の残り部分及び特に未だ脱重合されていないポリエステルから分離することは困難である。このような回収工程は、複雑で、費用がかかり、工業的規模での使用との適合性が不十分である。
【0006】
これらの問題に取り組むことにより、本出願人は、テレフタル酸、特に、PETを含むポリエステルを含有するプラスチック及び/又は織物からテレフタル酸を工業的規模で製造するのを可能にするのに最適化された酵素的プロセスを開発した。
【0007】
発明の概要
本発明者らは、テレフタル酸の高濃度製造をもたらし、それにより、工業的規模での製造の技術的及び経済的制約に対処する、テレフタル酸を含む少なくとも1種のポリエステルからテレフタル酸を製造する方法を開発した。より正確には、本発明者らは、工業的実行可能性に適合する前記ポリエステルの脱重合速度を維持しながら、高濃度のポリエステルを反応器に導入するための方法を開発した。特に、本発明者らは、撹拌下での反応器中でpHを6.5~9に制御することにより、生成されたテレフタル酸のかなりの部分を可溶性形態に維持することが可能であることを確認した。高濃度の可溶性テレフタル酸は、これらのモノマーの回収工程を単純化し、このため、製造コストを下げるため、特に有利である。
【0008】
さらに、本発明者により開発された方法により、工業的規模での実行に適合する反応器内部での脱重合速度を維持することが可能となる。例として、本発明者らは、テレフタル酸を含有する目的のポリエステルの90%超をわずか24時間で脱重合することに成功し、目的のポリエステルに存在するテレフタル酸の90%超の回収がもたらされた。本発明の目的である方法を、テレフタル酸を含むポリエステルを含有する任意のプラスチック廃棄物について実施することができる。プラスチック廃棄物を複雑な選別又は複雑な前処理なしに、反応器に直接供給することができる。有利には、本発明の方法は、プラスチックの脱重合及び/又はリサイクルのために実施することができる。本発明の方法は、少なくとも1つのテレフタル酸単位を含むポリエステルのリサイクルのために、主に、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンテレフタラートグリコール(PETG)、ポリエチレンコイソソルビドテレフタラート(PEIT)、ポリトリメチレンテレフタラート(PTT)、ポリブチレンアジパートテレフタラート(PBAT)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタラート(PCT)及びポリブチレンテレフタラート(PBT)から特に選択される半芳香族ポリエステルのリサイクルのために実施することができる。
【0009】
したがって、本発明は、少なくとも1つのTA単位を含む、少なくとも1種の目的のポリエステルからテレフタル酸(TA)を製造するための方法であって、前記ポリエステルを、撹拌反応器中で前記ポリエステルを脱重合可能な少なくとも1種の酵素と接触させる、ポリエステルを酵素脱重合させる工程と、
可溶化形態にあるTA塩を回収する工程とを含み、
反応器中に導入されるポリエステルの量が、初期反応媒体の総重量に基づいて、10重量%超であり、pHを脱重合工程中に、6.5~9に制御し、最終反応媒体の液相中のTA濃度が、40kg/t超であることを特徴とする、方法をその目的として有する。
【0010】
好ましくは、可溶化されたTA塩を回収する工程は、TA塩を含有する液相を最終反応媒体の残り部分から分離する工程を含む。
【0011】
好ましくは、目的のポリエステルは、PTT、PBAT、PBT、PET、PETG、PEIT、PCTから選択される。より好ましくは、目的のポリエステルは、PETである。
【0012】
有利には、目的のポリエステルは、反応器内に粉末及び/又は顆粒状、特に、2mm未満、好ましくは、1mm未満の粒径を有する粉末及び/又は顆粒状で導入される。
【0013】
有利には、本発明の方法の脱重合工程を長くて150時間、より好ましくは、長くて48時間続ける。さらに、本発明の方法を工業サイズの反応器、特に、数リットル、数十リットル、数百リットルの有用な容量を有する反応器において実施することができる。
【0014】
好ましくは、pHを脱重合工程の間に、少なくとも10%±1%に濃縮された塩基性溶液を反応媒体に加えることにより制御する。
【0015】
また、本発明は、少なくとも1つのTA単位を含む目的のポリエステル、とりわけ、PETをリサイクルするための方法であって、前記目的のポリエステルを、前記ポリエステルを脱重合可能な少なくとも1種の酵素と接触させることにより、ポリエステルを酵素脱重合させる工程であって、前記脱重合工程を、撹拌反応器中で行い、反応器は、初期反応媒体の総重量に基づいて、10重量%超 含有ポリエステルの量を収容し、pHを脱重合工程中に、6.5~9に制御する工程と、
テレフタル酸塩を可溶化形態で回収する工程とを含む、方法もその目的として有する。
【0016】
また、本発明は、少なくとも1つのTA単位を含む目的のポリエステルをリサイクルするための方法であって、前記目的のポリエステルを、前記ポリエステルを脱重合可能な少なくとも1種の酵素と接触させることにより、ポリエステルを酵素脱重合させる工程であって、前記脱重合工程を、撹拌下での反応器中で行い、反応器は、初期反応媒体の総重量に基づいて、15重量%~25重量%で含まれる量のポリエステルを収容し、pHを脱重合工程中に、少なくとも15%±1%に濃縮された塩基性溶液を反応媒体に加えることにより、7.5~8.5に制御し、最終反応媒体の液相中のTA濃度は、100kg/t超である工程を含む、方法もその目的として有する。
【0017】
有利には、回収されたTA塩をTAの形態で、特に、新たなポリエステルの製造のため再利用することができる。
【0018】
本発明の別の目的は、上記された方法を実施するための、1L超、好ましくは、10L超、100L超、1000L超の容量を有する反応器の使用である。
【0019】
発明の詳細な説明
定義
本発明の文脈において、「プラスチック材料」という表現は、プラスチック製品(例えば、シート、トレイ、フィルム、チューブ、ブロック、繊維、布地等)及びプラスチック製品を製造するのに使用されるプラスチック組成物を指す。好ましくは、プラスチック材料は、非晶性及び/又は半結晶性ポリマーから構成される。プラスチック材料は、ポリマーに加えて、追加の物質又は添加剤、例えば、可塑剤、無機又は有機充填剤、染料等を含有することができる。このため、本発明の文脈において、プラスチック材料は、半結晶性及び/又は非晶政形態の少なくとも1種のポリマー、とりわけ、少なくとも1種のポリエステルを含む任意のプラスチック製品及び/又はプラスチック組成物を指す。
【0020】
プラスチック製品は、製造されたプラスチック製品、例えば、硬質又は可撓性の包装(フィルム、ボトル、トレイ)、農業用フィルム、バッグ、使い捨て物品、織物、布地、不織布、床カバー、プラスチック廃棄物又は繊維廃棄物等を指す。
【0021】
「ポリマー」という用語は、その構造が化学的共有結合により連結された複数の繰り返し単位(すなわち、「モノマー」)からなる化合物を指す。本発明の文脈において、「ポリマー」という用語は、より具体的には、プラスチック材料の組成に使用されるような化合物を指す。
【0022】
「ポリエステル」という用語は、その構造の主鎖にエステル官能基を含有するポリマーを指す。エステル官能基は、炭素と3つの他の原子との間の結合:別の炭素原子との単結合、酸素との二重結合及びもう1つの酸素原子との単結合との間の結合を特徴とする。単結合により炭素に結合している酸素は、それ自体が単結合により別の炭素に結合している。ポリエステルは、1種類のモノマー(すなわち、ホモポリマー)のみから又は少なくとも2種類のモノマー(すなわち、コポリマー)から形成することができる。ポリエステルは、芳香族、脂肪族又は半芳香族であることができる。例として、ポリエチレンテレフタラートは、2つのモノマーであるテレフタル酸及びエチレングリコールから構成される半芳香族コポリマーである。本発明の文脈において、「目的のポリエステル」は、少なくとも1つのテレフタル酸単位をモノマーとして含むポリエステルを指す。
【0023】
本発明の文脈において、「半結晶性ポリマー」という用語は、結晶性及び非晶性領域が共存する部分結晶性ポリマーを指す。半結晶性ポリマーの結晶化度は、種々の分析方法により推定することができ、一般的には、10%~90%に含まれる。10%未満の結晶化度を有するポリマーは、非晶性と考えることができる。本願において、結晶化度は、示差走査熱量測定(DSC)により測定される。X線回折を使用して、結晶化度を測定することもできる。
【0024】
ポリマー又はポリマーを含有するプラスチック材料に関する「脱重合」という用語は、ポリマー又は前記プラスチック材料の少なくとも1種のポリマーがより小さい分子、例えば、モノマー及び/又はオリゴマーに脱重合されるプロセスを指す。
【0025】
本願で使用する場合、「可溶化された」又は「可溶化形態にある」という用語は、未溶解の固体形態とは対照的に、液体に溶解された化合物を指す。
【0026】
「テレフタル酸」又は「TA」という用語は、テレフタル酸分子単独、すなわち、その酸形態にあるテレフタル酸に対応するCを指す。「テレフタル酸塩」、「テレフタラート塩」又は「TA塩」という用語は、カチオン、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウムと会合したテレフタル酸分子を含む化合物を指す。本発明の文脈において、TA塩は、テレフタラート二ナトリウムCNa、テレフタラート二カリウムC、テレフタラート二アンモニウムC12、テレフタラート一ナトリウムCNaO、テレフタラート一カリウムCKO及び/又はテレフタラート一アンモニウムC10NOを含むことができる。
【0027】
本発明によれば、最終反応媒体の液相中のテレフタル酸の濃度は、その形態、すなわち、可溶化形態又は塩形態を含む可溶化又は非可溶化形態のTAにかかわらず、脱重合工程の終わりに測定されるTAの量に相当する。テレフタル酸の濃度は、当業者に公知の任意の手段、特に、HPLCにより決定することができる。
【0028】
本発明の文脈において、「含有量」は、ポリエステル脱重合工程の開始時(時間t=0)に反応器に供給される化合物の量、例えば、目的のポリエステルの量又は酵素の量を指す。ポリエステル、特に、PETの含有量は、プラスチック材料中に存在する場合がある他の化合物に関わらず、そのポリエステルの量を指す。このため、ポリエステルが、プラスチック廃棄物中に含まれる場合、前記ポリエステルの含有量は、前記プラスチック廃棄物が前記ポリエステルに加えて他の化合物を含有する場合があるため、プラスチック廃棄物の含有量とは異なる。
【0029】
「反応媒体」は、脱重合工程中に反応器中に存在する全ての材料(特に、液体、酵素、目的のポリエステル及び/又は前記ポリエステルの脱重合により生じるモノマーを含む)、すなわち、反応器の内容物を意味する。「初期反応媒体」及び「最終反応媒体」はそれぞれ、脱重合工程の開始時及び終了時における反応媒体を意味する。本発明の文脈において、反応器の総容量は、有利には、最終反応媒体の体積より少なくとも10%大きい。
【0030】
「最終反応媒体の液相」は、脱重合工程の終了時に得られ、固体粒子及び/又は懸濁粒子を含まない反応媒体を意味する。前記液相は、液体及びこの液体に溶解している全ての化合物(酵素、モノマー、塩等を含む)を含む。この液相は、当業者に公知の従来技術、例えば、ろ過、遠心分離等を使用して、反応媒体の固相から分離することにより得ることができる。本発明の文脈において、液相は、特に、残留ポリエステルを含まない、すなわち、脱重合工程の終了時には分解されない。
【0031】
脱重合プロセス
本発明のテレフタル酸を製造するための方法は、少なくとも1つのテレフタル酸単位をその構成成分中に含有する少なくとも1種の目的のポリエステルを、前記ポリエステルを脱重合可能な少なくとも1種の酵素と前記対象のポリエステルを接触させることにより、酵素により脱重合することに基づく。とりわけ、本発明者らは、比較的短い反応時間で、容易に精製可能な形態で大量のテレフタル酸を製造するための方法を開発した。実際、本発明者らは、撹拌下で、pHを6.5~9で維持しながら、多量の目的のポリエステル及びそれを脱重合可能な少なくとも1種の酵素を反応器に供給し、工業的及び半工業的規模で完全に許容される時間で、反応媒体の液相中に40kg/t超 テレフタル酸濃度をもたらす特に速い脱重合速度を得ることが可能であることを予想外にも発見した。また、本発明の方法により、可溶化形態、すなわち、容易に精製可能なTA塩の形態でテレフタル酸を得ることが可能となる。これにより、本発明の方法は、工業的規模で特に有利である。
【0032】
このため、本発明のテレフタル酸(TA)を製造するための方法は、
- 前記ポリエステルを、撹拌下での反応器中で前記ポリエステルを脱重合可能な少なくとも1種の酵素と接触させる、目的のポリエステルを酵素脱重合させる工程と、
可溶化形態にあるTA塩を回収する工程とを含み、
脱重合工程の開始時に、反応器は、初期反応媒体の総重量に基づいて、10重量%超 含有ポリエステルの量を含有し、pHを脱重合工程中に、6.5~9に制御し、脱重合工程の終了時に、反応器中のTA濃度が、最終反応媒体の液相中で40kg/t超であることを特徴とする。
【0033】
有利には、得られるテレフタル酸塩の類型は、pHを制御するのに使用される塩基に関連する。好ましくは、脱重合工程中に生成されるテレフタラート塩は、テレフタル酸ナトリウム、テレフタル酸カリウム及び/又はテレフタル酸アンモニウムの形態にある。
【0034】
本発明によれば、6.5以上に制御されたpHにより、脱重合工程の終了時に、TA塩は、反応媒体の液相中において、可溶化形態で回収される。
【0035】
本発明の方法は、500ミリリットル(mL)超、1リットル(L)超、好ましくは、2L超、5L超、10L超の容量を有する反応器中で実施することができる。特定の実施態様では、本発明の方法は、工業的規模及び半工業的規模で実施することができる。このため、容量が100L超、150L超、1000L超、10000L超、100000L超、400000L超である反応器を使用可能である。好ましくは、この方法は、1000L超の容量を有する反応器中で実施される。
【0036】
反応器の内容物
反応器中の初期反応媒体は、場合により、プラスチック材料中に含まれ、特に、プラスチック製品又はプラスチック廃棄物に含まれる目的のポリエステル、前記ポリエステルを分解する酵素及び液体を少なくとも含む。脱重合工程が進行することにつれて、反応媒体には、モノマー、特に、TA塩が多くなり、目的のポリエステルの量が少なくなる。
【0037】
好ましくは、反応器中の液体は、水性溶媒、好ましくは、水を含む。好ましい場合には、反応器中の液体は、非水性溶媒を含まず、特に、有機溶媒を含まない。実施態様において、反応器中の液体は、水のみを含む。
【0038】
本発明によれば、目的のポリエステルは、モノマーとして少なくとも1つのテレフタル酸単位を含む。有利には、目的のポリエステルは、ポリトリメチレンテレフタラート(PTT)、ポリブチレンアジパートテレフタラート(PBAT)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリ(エチレンコイソソルビドテレフタラート)PEIT、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタラート(PCT)及び/又はこれらのコポリマーから選択される。好ましくは、目的のポリエステルは、PETである。特定の場合には、目的のポリエステルは、改質ポリエステルから選択され、好ましくは、目的のポリエステルは、改質PET、例えば、PETグリコール(PETG)である。
【0039】
有利には、反応器中の目的のポリエステルの含有量は、初期反応媒体の総重量に基づいて、11重量%以上、好ましくは、15重量%以上、好ましくは、20重量%以上である。特に、反応器中の目的のポリエステルの含有量は、初期反応媒体の総重量に基づいて、60重量%未満、好ましくは、50重量%未満である。別の特定の場合には、反応器中のポリエステルの含有量は、初期反応媒体の総重量に基づいて、15重量%~25重量%、好ましくは、20%±2%に含まれる。別の特定の場合には、反応器中のポリエステルの含有量は、初期反応媒体の総重量に基づいて、11重量%~20重量%、好ましくは、15%±2%に含まれる。実施態様において、反応器中の目的のポリエステルの含有量は、初期反応媒体の総重量に基づいて、11重量%~60重量%、好ましくは、15%~50%、より好ましくは、15%~40%、15%~30%、15%~25%、20%~30%、20%~25%に含まれる。少なくとも1つのテレフタル酸単位を含有する複数のポリエステルが反応器中で使用される場合、使用されるポリエステルの量は、各ポリエステルの累積量を指す。
【0040】
本発明によれば、目的のポリエステルは、非晶性及び/又は半結晶性ポリエステルである。好ましくは、目的のポリエステルは、30%未満、好ましくは、25%未満、より好ましくは、20%未満の結晶化度を有する。特に、目的のポリエステルは、30%±10%未満、好ましくは、25%±10%未満、より好ましくは、20%±10%未満の結晶化度を有する。別の好ましい場合には、目的のポリエステルは、非晶性ポリエステルである。本発明によれば、当業者に公知の任意の手段により、脱重合工程の前に目的のポリエステルのアモルファス化工程を行うことが可能である。このようなアモルファス化工程は、特に、WO第2017/198786号に記載されている。特定の実施態様では、反応器中に含まれる目的のポリエステル又は目的のポリエステルを含有するプラスチック材料は、5mm未満のサイズ、好ましくは、3mm未満の粒径、より好ましくは、2mm未満の粒径の顆粒又は微小顆粒の形態にある。本発明によれば、ポリエステル脱重合工程の前に、目的のポリエステルの前処理工程、特に、目的のポリエステル又は目的のポリエステルを含有するプラスチック材料を粉砕する工程を行うことが可能である。好ましい実施態様では、目的のポリエステル又は目的のポリエステルを含有するプラスチック材料は、当業者に公知の任意の適切な手段により粉末形態にされる。この特定の場合には、目的のポリエステル又は目的のポリエステルを含有するプラスチック材料は、有利には、粉末形態に変換されるように微細化される。
【0041】
特定の実施態様では、この製造方法は、目的のポリエステルをアモルファス化する工程と、続けて、ポリエステル脱重合工程の前に、目的のポリエステル又は目的のポリエステルを含有するプラスチック材料を粉砕しかつ/又は微細化する工程とを含む。
【0042】
特定の実施態様では、反応器中に含まれる目的のポリエステル又は目的のポリエステルを含有するプラスチック材料は、2mm未満の平均粒径(d50)、好ましくは、1mm未満の粒径を有する粉末及び/又は顆粒の形態にある。別の実施態様では、反応器中に含まれる目的のポリエステル又は目的のポリエステルを含有するプラスチック材料は、500μm未満の平均粒径(d50)を有する粉末の形態にある。
【0043】
好ましくは、目的のポリエステルは、25%±10%未満の結晶化度を有し、2mm未満、好ましくは、1mm未満のサイズの粉末及び/又は顆粒の形態で、反応器中に含まれる。本発明によれば、目的のポリエステル又は目的のポリエステルを少なくとも含有するプラスチック材料を反応器に直接装填することが可能である。
【0044】
本発明によれば、反応器中に含まれるプラスチック材料は、複数のポリマー、特に、複数のポリエステルの混合物を含有することができる。特定の実施態様では、本発明の脱重合方法は、少なくともPETを含むプラスチック材料で実施される。好ましい実施態様では、PETは、前記プラスチック材料の総重量に基づいて、少なくとも80重量%、好ましくは、少なくとも85%、90%、95%を表わす。特定の実施態様では、プラスチック材料は、PETとポリ乳酸(PLA)との混合物、PETとポリエチレン(PE)との混合物、PETとポリトリメチレンテレフタラート(PTT)との混合物、PETとポリアミド(PA)との混合物又はPETと綿との混合物を含む。有利には、反応器中で使用されるプラスチック材料は、プラスチック廃棄物又は繊維廃棄物である。これらの廃棄材料は、リサイクルを意図した収集チャネルからのものであることができるが、生産チャネル又はリサイクルチャネルからの廃棄材料であることもでき、このため、廃プラスチック以外の化合物を含有する場合がある。これは、目的のポリエステルがこれらの流れに存在する他の要素(例えば、紙、ボール紙、アルミニウム、のり等)と組み合わさって反応器中に含まれる場合があることを意味する。特定の実施態様では、反応器には、少なくとも目的のポリエステル、好ましくは、少なくともPET、より好ましくは、少なくとも80% PETを含有する複数のプラスチック材料が充填される。別の特定の実施態様では、プラスチック材料は、1種以上の繊維及び/又は織物廃棄物から選択され、PETは、前記プラスチック材料の総重量に基づいて、少なくとも60重量%、好ましくは、少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%を表わす。
【0045】
有利には、目的のポリエステルを分解する酵素は、前記ポリエステルを分解するクチナーゼ、リパーゼ及びエステラーゼから選択される。特に、前記酵素は、前記目的のポリエステルを分解するエステラーゼから選択される。特定の実施態様では、前記ポリエステルは、PETであり、酵素は、PET分解性クチナーゼである。とりわけ、酵素は、好ましくは、Thermobifida cellulosityca、Thermobifida halotolerans、Thermobifida fusca、Thermobifida alba、Bacillus subtilis、Fusarium solani pisi、Humicola insolens(例えば、UniProtデータベースにおける登録番号A0A075B5G4のもの)、Sirococcus conigenus、Pseudomonas mendocina及びThielavia terrestris由来のクチナーゼ又はそれらの変異体である。別の場合には、クチナーゼは、メタゲノムライブラリー由来のクチナーゼ、例えば、Sulaiman et al., 2012に記載されているLC-クチナーゼ又はその変異体から選択される。別の場合には、酵素は、好ましくは、Ideonella sakaiensis由来のリパーゼである。代替的な場合には、酵素は、市販の酵素、例えば、Novozym 51032又はその変異体から選択される。当然、反応器に複数の酵素、特に、上記言及された酵素のうちの少なくとも2種の酵素を充填することが可能である。
【0046】
特定の場合には、1種以上の酵素は、配列番号:1及び/又は配列番号:2及び/又は配列番号:3及び/又は配列番号:4及び/又は配列番号:5と少なくとも75%の同一性を有し、少なくとも1つのテレフタル酸単位を含むポリエステルを脱重合する活性を有するアミノ酸配列を有する酵素から選択される。特定の場合には、酵素は、配列番号:1と少なくとも75%の同一性及びPET脱重合活性を有するアミノ酸配列を有する酵素から選択される。
【0047】
特定の実施態様では、酵素は、ポリマーをオリゴマーに脱重合可能であり、この場合、酵素は、前記オリゴマーをモノマーに脱重合可能な酵素と有利に関連付けられる。このため、特定の例では、2つの酵素が、配列番号:4及び/又は配列番号:5と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列を有する酵素から選択される。
【0048】
本発明者らは、選択された酵素が配列番号:1と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を有し、目的のポリエステルが好ましくは、PET及び/又はPBATから選択される特定の場合に、本発明の方法が特に適切であることを特定した。これは、特に、配列番号:1又は配列番号:2のアミノ酸配列を有する酵素の場合である。ポリエステルを脱重合することが公知の他の酵素とは異なり、これらの酵素は、本発明の方法の条件下で生成されるモノマーによるそれらの活性の阻害が限定的である。
【0049】
したがって、本発明の目的は、上記されたテレフタル酸を製造するための方法を提案することであり、前記ポリエステルを脱重合可能な酵素は、配列番号:1と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列及び少なくとも1つのテレフタル酸単位を含むポリエステルを脱重合する活性、とりわけ、PET脱重合活性を有する酵素から選択されることを特徴とする。
【0050】
好ましくは、本発明のテレフタル酸を製造するための方法は、上記されたように、PETと、クチナーゼから選択される前記PETを脱重合可能な少なくとも1つの酵素とを使用して実施される。
【0051】
本発明によれば、反応器中に含まれる目的のポリエステルを分解する酵素の量は、有利には、工業的規模での実施に適合する反応時間において、前記ポリエステルの全脱重合又は準全脱重合(すなわち、前記含まれるポリエステルの重量に基づいて、少なくとも80重量%まで)を可能にするのに十分である。実施態様において、含まれるポリエステルの量に対する含まれる酵素の量の重量比は、0.01:1000~3:1000に含まれる。好ましくは、含まれるポリエステルの量に対する含まれる酵素の量の比は、0.5:1000~2.5:1000、より好ましくは、1:1000~2:1000に含まれる。特定の場合には、含まれる酵素の量は、飽和酵素濃度、すなわち、それを超えると酵素の添加により反応速度が改善されなくなる濃度に達するのに必要な酵素の量以上である。特定の場合には、酵素は、酵素賦形剤に加えて、生化学、保存剤及び/又は安定化剤に一般的に使用されるバッファーから選択することができるものを含む組成物の形態で含ませることができる。ついで、酵素の量は、有利には、任意の賦形剤を含まない酵素の量を指す。
【0052】
本発明によれば、反応器の内容物は、脱重合工程の間に、撹拌下に維持される。攪拌速度は、反応器中に含まれるプラスチック/ポリエステル材料の懸濁、温度の均一性及びpH制御の精度を可能にするのに十分であるように、当業者により制御される。特に、撹拌は、50~500rpmに含まれる速度、例えば、80rpm、100rpm、150rpm、200rpm、250rpm、300rpm、350rpm、400rpm、450rpm、500rpmの速度で維持される。特定の実施態様では、1000L超の容量を有する反応器について、撹拌は、300rpm以上である。特定の実施態様では、1000L超の容量を有する反応器について、撹拌は、100rpm以上である。
【0053】
目的のポリエステルの脱重合は、反応器の内容物のpHの低下を引き起こす場合がある酸性モノマーを生成する。生成された酸を中和し、pHを制御するために、塩基の添加を使用することができる。本発明の場合、pHは、特に、当業者に公知の任意の塩基の添加により制御することができる。特に、pHは、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)及び/又はアンモニア(NHOH)から選択される塩基の添加により制御される。塩基の添加によるpH制御の場合には、生成されたTAは、使用される塩基と会合して、TA塩を形成し、その溶解度は、TAに対して向上するであろう。有利には、pHを脱重合工程の間に、塩基性溶液(本質的には、塩基及び水を含む)の総重量に基づいて、少なくとも10重量%±1重量% 塩基に濃縮された塩基性溶液を反応媒体に加えることにより制御する。好ましくは、塩基性溶液は、少なくとも15%±1%、最高で50%±1%、より好ましくは、少なくとも20%±1%に濃縮される。特定の場合には、塩基性溶液は、20%~50%±1%、より好ましくは、20%~30%±1%、さらにより好ましくは、20%~25%±1%に濃縮される。好ましくは、塩基は、水酸化ナトリウム(NaOH)及び水酸化カリウム(KOH)から選択され、塩基性溶液は、少なくとも15%、最高で50%に濃縮される。
【0054】
このため、pHを6.5~9に維持されるように制御し、その結果、生成されるテレフタル酸が、主に、可溶化されたTA塩の形態にありかつ/又は酵素の最適pHであるように制御する。特定の実施態様では、pHを脱重合工程の間に、6.5~8.5、好ましくは、7~8に制御する。別の特定の場合には、pHを7.5~8.5に制御する。好ましくは、pHを8±0.2に制御する。
【0055】
有利には、反応器内の温度、このため、反応媒体中の温度を脱重合工程中に、35℃~90℃、好ましくは、45℃~80℃に制御する。本発明の好ましい実施態様では、温度を55℃~80℃、より好ましくは、60℃~80℃に制御する。特定の実施態様では、温度を60℃~66℃に制御する。
【0056】
特定の場合には、目的のポリエステルは、30℃超のガラス転移点(Tg)を有し、反応器内の温度を目的のポリエステルのTg以下の温度に制御する。代替的に又は付加的には、温度を使用される酵素の最適温度に制御する。特定の実施態様では、目的のポリエステルは、約70℃±5℃のTgを有するPETであり、反応器内の温度は、60℃±5℃で維持される。
【0057】
本発明によれば、脱重合工程を最長150時間の反応時間で行う。反応時間は、とりわけ、目的のポリエステル/脱重合酵素のペア及びポリエステルの所望の脱重合速度により決まる。当業者であれば、上記言及された基準の関数として、脱重合工程の反応時間をどのように適応させるかを知っていであろう。有利には、脱重合工程を1時間~120時間、1時間~100時間、1時間~72時間、1時間~48時間、1時間~36時間、1時間~24時間、1時間~12時間、1時間~10時間、1時間~6時間続ける。好ましい実施態様では、脱重合工程の時間は、24時間以内である。
【0058】
好ましい実施態様では、上記反応時間により、少なくとも80%、好ましくは、少なくとも85%、90%、95% 目的のポリエステルの脱重合が達成される。好ましくは、脱重合をモノマーまで行う、すなわち、80%の脱重合により、モノマーの80%の生成がもたらされる(かつオリゴマーは全く又はほとんど存在しない)。
【0059】
特定の実施態様では、TAを製造するための方法を、PETを含むプラスチック材料と、そのアミノ酸配列が少なくとも配列番号:1を含む酵素とから実施し、前記方法により、72時間以内の時間で、少なくとも80% PETの脱重合が可能となり、好ましくは、72時間以内の時間で、少なくとも90% PETの脱重合が得られる。別の好ましい実施態様では、前記方法により、48時間より短い時間で、少なくとも80% PETの脱重合が可能となる。
【0060】
本発明によれば、脱重合工程を化学工業において又は生物学的生産において通常使用される任意の反応器、例えば、発酵槽中で行うことができる。一般的には、本発明によれば、脱重合工程は、温度及びpHを制御することができ、媒体を均質化するための撹拌手段を備えることができる任意のタンク又は反応器中で行うことができる。
【0061】
テレフタル酸の製造
本発明の方法によれば、工業的制約に完全に適合する反応時間で高濃度のテレフタル酸を製造することが可能となる。
【0062】
とりわけ、本発明の方法により、脱重合工程の終了時に、最終反応媒体の液相の総重量に基づいて、少なくとも40kg/t テレフタル酸濃度を得ることが可能となる。有利には、脱重合工程は、目的のポリエステルの脱重合率が少なくとも80%、好ましくは、少なくとも90%に達した時点で完了したと考えられる。特定の実施態様では、到達した収率が工業的制約に適合する場合、すなわち、目的のポリエステルの脱重合率が80%±10%、好ましくは、90%±5%に達する場合、当業者は、脱重合工程を停止させることができる。このため、本発明の文脈において、脱重合工程の終了は、ポリエステルの脱重合が停止する瞬間及び/又は目的のポリエステルの脱重合率が少なくとも80%、好ましくは、少なくとも90%に達する瞬間及び/又はTA塩を回収する工程が開始する瞬間に相当する。
【0063】
好ましくは、脱重合工程後に目的のポリエステルから得られるテレフタル酸の濃度は、最終反応媒体の液相の総重量に基づいて、50kg/t超、60kg/t超、70kg/t超、80kg/t超、90kg/t超、100kg/t超、110kg/t超、120kg/t超である。好ましい場合には、脱重合工程後に目的のポリエステルから得られるテレフタル酸の濃度は、100kg/t~115kg/t±10%に含まれる。
【0064】
特定の場合には、脱重合工程の終了時に目的のポリエステルから得られる総テレフタル酸(可溶性及び非可溶性)の濃度は、最終反応媒体(液相及び固相)の総重量に基づいて、50kg/t超、60kg/t超、70kg/t超、80kg/t超、90kg/t超、100kg/t超、110kg/t超、120kg/t超、130kg/t超、140kg/t超、150kg/t超である。
【0065】
別の特定の場合には、脱重合工程の終了時に目的のポリエステルから得られる総テレフタル酸(可溶性及び非可溶性)の濃度は、最終反応媒体の液相+非可溶性TAの総重量に基づいて、50kg/t超、60kg/t超、70kg/t超、80kg/t超、90kg/t超、100kg/t超、110kg/t超、120kg/t超、130kg/t超、140kg/t超、150kg/t超である。
【0066】
有利には、本発明によれば、脱重合工程の間に生成されるTA塩の少なくとも80重量%、好ましくは、少なくとも85%、90%、95%が可溶化形態にある。
【0067】
特定の場合には、反応器中に含まれる目的のポリエステルの量は、初期反応媒体の総重量に基づいて、15重量%以上であり、脱重合工程の間に、pHを7~8に制御し、温度を60℃±5℃に制御する。24時間後の最終反応媒体の液相中のTA濃度は、有利には、54kg/tより高い。別の特定の場合には、反応器中に含まれる目的のポリエステルの量は、初期反応媒体の総重量に基づいて、15重量%以上であり、脱重合工程の間に、pHを7.5~8.5に制御し、温度を60℃±5℃で制御し、24時間後の最終反応媒体の液相中のTA濃度は、有利には、77kg/t超であり、48時間後に有利には、84kg/t超である。
【0068】
別の特定の場合には、反応器中に含まれる目的のポリエステルの量は、初期反応媒体の総重量に基づいて、20重量%以上であり、脱重合工程の間に、pHを7~8に制御し、温度を60℃±5℃に制御する。最終反応媒体の液相中のTA濃度は、有利には、24時間後に90kg/t超である。別の特定の場合には、反応器中に含まれる目的のポリエステルの量は、初期反応媒体の総重量に基づいて、20重量%以上であり、脱重合工程の間に、pHを7.5~8.5に制御し、温度を60℃±5℃で制御する。最終反応媒体の液相中のTA濃度は、有利には、24時間後に95kg/t超であり、有利には、48時間後に100kg/t超である。
【0069】
別の特定の場合には、反応器中に含まれる目的のポリエステルの量は、初期反応媒体の総重量に基づいて、20重量%以上であり、脱重合工程の間に、pHを7~8に制御し、温度を50℃~60℃に制御する。48時間後の対応する最終反応媒体の液相中のTA濃度は、有利には、90kg/t超である。好ましい場合には、温度を60℃に制御し、48時間後の最終反応媒体の液相中のTA濃度は、100kg/t超である。
【0070】
別の特定の場合には、反応器中で使用される目的のポリエステルの量は、初期反応媒体の総重量に基づいて、20重量%以上であり、脱重合工程の間に、pHを7~8に制御し、温度を60℃に制御し、使用される反応器は、150L超の容量を有し、48時間後の最終反応媒体の液相中のTA濃度は、75kg/t超である。
【0071】
別の特定の場合には、反応器中で使用される目的のポリエステルの量は、初期反応媒体の総重量に基づいて、25重量%以上であり、脱重合工程の間に、pHを7~8に制御し、温度を60℃に制御し、使用される反応器は、1000L超の容量を有し、48時間後の最終反応媒体の液相中のTA濃度は、120kg/t超である。
【0072】
別の特定の場合には、本発明の少なくとも1つのPETからテレフタル酸(TA)を製造するための方法は、PETを含有するプラスチック材料を、撹拌反応器中で前記PETを脱重合可能な少なくとも1種のクチナーゼと接触させる、48時間未満持続するPET脱重合工程と、可溶化形態にあるTA塩を回収する工程とを含み、反応器は、脱重合工程の開始時に、初期反応媒体の総重量に基づいて、20重量%以上 含まれるPETの量を含有し、脱重合工程の間に、pHを7~8.5に制御し、温度を60℃~80℃に制御し、脱重合工程の終了時の反応器中のTA濃度は、最終反応媒体の液相中で100kg/t超である。
【0073】
別の特定の場合には、本発明のPETを含有する少なくとも1つのプラスチック材料からテレフタル酸(TA)を製造するための方法は、PETを含有するプラスチック材料を、撹拌反応器中で前記PETを脱重合可能な少なくとも1種のクチナーゼと接触させる、48時間未満持続するPET脱重合工程と、可溶化形態にあるTA塩を回収する工程とを含み、反応器は、脱重合工程の開始時に、初期反応媒体の総重量に基づいて、15重量%~25重量%で含まれるPETの量を含有し、脱重合工程の間に、pHを7.5~8.5に制御し、温度を60℃~80℃に制御し、脱重合工程の終了時の反応器中の最終反応媒体の液相中のTA濃度は、100kg/t超である。
【0074】
別の特定の場合には、反応器中に含まれる目的のポリエステルの量は、初期反応媒体の総重量に基づいて、5重量%~25重量%で含まれ、使用される塩基性溶液は、15%±1%に濃縮され、48時間後の最終反応媒体の液相中のTA濃度は、80kg/t超、好ましくは、100kg/t超である。好ましくは、反応器中に含まれる目的のポリエステルの量は、初期反応媒体の総重量に基づいて、20重量%±2%超であり、48時間後の最終反応媒体の液相中のTA濃度は、110kg/t超である。好ましくは、pHを7.5~8.5に制御する。
【0075】
別の特定の場合には、反応器中に含まれる目的のポリエステルの量は、初期反応媒体の総重量に基づいて、15重量%~25重量%で含まれ、使用される塩基性溶液は、20%±1%に濃縮され、48時間後の最終反応媒体の液相中のTA濃度は、85kg/t超、好ましくは、110kg/t超である。好ましくは、反応器中に含まれる目的のポリエステルの量は、20%±2%超であり、48時間後の最終反応媒体の液相中のTA濃度は、110kg/t超である。有利には、pHを7.5~8.5に制御する。
【0076】
別の特定の場合には、反応器中に含まれる目的のポリエステルの量は、初期反応媒体の総重量に基づいて、15重量%~25重量%で含まれ、使用される塩基性溶液は、25%±1%に濃縮され、48時間後の最終反応媒体の液相中のTA濃度は、90kg/t超、好ましくは、110kg/t超である。好ましくは、反応器中に含まれる目的のポリエステルの量は、20%±2%超であり、48時間後の最終反応媒体の液相中のTA濃度は、110kg/t超である。有利には、pHを7.5~8.5に制御する。別の特定の場合には、プラスチック材料は、繊維及び/もしくは繊維廃棄物並びに/又は織物から選択され、反応器中に含まれる目的のポリエステルの量は、初期反応媒体の総重量に基づいて、15重量%~25重量%で含まれ、使用される塩基性溶液は、20%±1%に濃縮され、48時間後の最終反応媒体の液相中のTA濃度は、80kg/t超、好ましくは、90kg/t超である。有利には、pHを7.5~8.5に制御する。
【0077】
本発明によれば、反応器の内容物から最終反応媒体の液相中の可溶化テレフタラート塩(及び/又はテレフタル酸)を容易に回収することができる。特定の実施態様では、可溶化されたTA塩を回収する工程は、特に、TA塩を含有する液相を反応媒体の残り部分から分離することを含む。特定の場合には、液相中の可溶化されたテレフタラート塩を分離するこの工程を、可溶化形態にあるテレフタラート塩の溶液中での回収を可能にする反応媒体のろ過により行う。ろ過カットオフは、当業者により適合させることができる。また、分離工程を遠心分離又は当業者に公知の任意の他の技術により行うことができる。
【0078】
分離残留物(「残留物」、すなわち、特に残留非分解ポリエステル及び/又はプラスチック材料に含まれる他のポリマー並びに/又は非可溶化TA及びTA塩を含む固相)を、新たな脱重合工程を受けるために、反応器に再循環させることができる。非可溶化TA塩の液相への溶解を可能にし、このため、洗浄水中における可溶化形態でのそれらの回収を可能にするために、水で洗浄することもできる。
【0079】
有利には、回収されたTA塩をTAの形態で、特に、新たなポリエステルの製造のために再使用することができる。本発明によれば、この方法は、前記塩に含まれるTAの沈殿によるTA回収の追加の工程を含む。
【0080】
特定の実施態様では、このTAの沈殿は、媒体の酸性化により達成される。例えば、可溶化されたテレフタラート塩を含有するろ液(すなわち、最終反応媒体の液相)を下記工程の一部又は全てに供することができる(この一連の工程は、上記言及された洗浄水にも適している):
1.限外ろ過、炭素上での脱色、イオン交換体上の通過及びクロマトグラフィーから選択される1つ以上の工程に溶液を供することによる、ろ液(及び/又は洗浄水)の精製;及び/又は
2.溶液を鉱酸(例えば、下記酸:硫酸、塩酸、リン酸又は硝酸から選択することができる)又は有機酸(酢酸種)の単独又は混合物で酸性化することによる、ろ液、洗浄水又は精製溶液に含まれるテレフタル酸の沈殿。この溶液をCO過圧によっても酸性化することができる。また、この工程により、TAの沈殿と同時に、生成された塩の可溶化も誘引され;及び/又は
3.沈殿したテレフタル酸を含有する溶液をろ過して、固体形態にあるテレフタル酸を回収し;及び/又は
4.精製水でテレフタル酸を洗浄し(好ましくは、複数回連続洗浄)、乾燥させて、精製TA(「CTA」)を得る。
【0081】
ついで、得られたCTAを当業者に公知の任意の技術により、結晶化させ、場合により、さらに精製して、精製及び結晶化TA(「PTA」)を得ることができる。
【0082】
本発明の方法により得られるCTA及び/又はPTAは、単独で又は混合物として再利用することができる。特に、それらは、単独で又は混合物として、反応器中に含まれる目的のポリエステルと同一又は異なる、少なくとも1つのテレフタル酸単位を含有するポリエステルの合成のために、再重合させることができる。
【0083】
工程3からのろ液中に得られる塩及び他のモノマーを再利用しかつ/又は回収するために、当業者に公知の技術により、抽出し、精製することができる。
【0084】
別の実施態様では、可溶化されたテレフタラート塩を含有するろ液(すなわち、最終反応媒体の液相)を濃縮工程に供する。濃縮工程を、溶液に含まれる水の除去を可能にし、このため、固体形態にあるテレフタラート塩の沈殿をもたらす任意の方法(例えば、蒸発)により行うことができる。固体形態にあるTA塩をろ過により回収し、ついで、溶液に戻し、その後、酸(鉱酸又は有機酸)により溶液を酸性化して、テレフタル酸を沈殿させる。この濃縮工程を精製プロセスの間であればいつでも行うことができ、媒体の酸性化工程を続けるであろう。ついで、上記言及された工程4を行って、CTAを得ることができる。
【0085】
本発明によれば、目的のポリエステルの脱重合により、少なくとも1種の他のモノマーを回収することが可能である。このため、本発明の方法は、目的のポリエステルを構成する少なくとも1種の他のモノマーを回収する追加の工程を含む。実施態様において、目的のポリエステルは、PETであり、エチレングリコールモノマーをテレフタル酸に加えて、脱重合工程の終了時に回収する。別の実施態様では、目的のポリエステルは、PTTであり、プロパンジオール(又はプロピレングリコール)モノマーをテレフタル酸に加えて、脱重合工程により回収する。別の実施態様では、目的のポリエステルは、PBTであり、ブタンジオールモノマーをテレフタル酸に加えて、脱重合工程により回収する。別の実施態様では、目的のポリエステルは、PBATであり、ブタンジオール及び/又はアジピン酸モノマーをテレフタル酸に加えて、脱重合工程により回収する。別の実施態様では、目的のポリエステルは、PCTであり、シクロヘキサンジメタノールモノマーをテレフタル酸に加えて、脱重合工程により回収する。別の実施態様では、目的のポリエステルは、PEITであり、エチレングリコール及び/又はイソソルビドモノマーをテレフタル酸に加えて、脱重合工程により回収する。
【0086】
本発明によれば、テレフタル酸に加えて、オリゴマー、すなわち、少なくとも1つのテレフタル酸単位を含む2~20個のモノマーを含む分子を回収することも可能である。特定の場合には、目的のポリエステルは、PETであり、オリゴマー、例えば、メチル-2-ヒドロキシエチルテレフタラート(MHET)、ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタラート(BHET)及びジメチルテレフタラート(DMT)をテレフタル酸に加えて、脱重合工程の終了時に回収する。
【0087】
また、本発明は、テレフタル酸(TA)を製造するための方法を実施するための、1L超の容量を有する反応器の使用に関する。この製造方法は、前記ポリエステルを、前記ポリエステルを脱重合可能な少なくとも1種の酵素と接触させ、前記反応器中で行う、目的のポリエステルを脱重合させる工程と、可溶化形態にあるTA塩を回収する工程とを含む。
【0088】
好ましくは、本発明の目的は、上記されたテレフタル酸(TA)を製造するための方法を実施するための、2L超、5L超、10L超、100L超、1000L超、10000L超、100000L超、400000L超の容量を有する反応器を使用することである。
【0089】
また、本発明は、少なくとも1つのTA単位を含む少なくとも1種の目的のポリエステル及び前記目的のポリエステルを脱重合可能な少なくとも1種の酵素を含有し、少なくとも1000リットルの容量を有する反応器であって、前記目的のポリエステルの酵素的脱重合の少なくとも1つの工程を行い、反応器中に含まれるポリエステルの量は、初期反応媒体の総重量に基づいて、10重量%超であり、最終反応媒体の液相中のTA濃度は、40kg/t超である、反応器をその目的として有する。有利には、反応器中に含まれるポリエステルの量は、初期反応媒体の総重量に基づいて、15重量%~25重量%に含まれ、最終反応媒体の液相中のTA濃度は、100kg/t超であり、pHを脱重合工程の間に、塩基性溶液の総重量に基づいて、15重量%~50重量% 塩基に濃縮された塩基性溶液を加えることにより、好ましくは、15%~25%に濃縮された塩基性溶液を加えることにより、7.5~8.5に制御する。
【0090】
本発明によれば、この方法をバッチ処理の形態で不連続的に実施する。このため、一般的には、この方法は、所定容量の初期反応媒体から所定時間行われる脱重合工程、続けて、生成されたTA塩を回収する工程を含む。脱重合工程の最後に、反応媒体全体を回収するように、反応器から排出させることができ、ついで、可溶化されたテレフタラート塩を反応媒体の残り部分から分離し、それらを精製し、TAを回収するように、上記された種々の工程を受けることができる。
【0091】
上記された本発明のテレフタル酸を製造するための方法の全ての特徴をテレフタル酸に近いモノマーの製造するための方法、特に、ポリエチレンフラノアート(PEF)から2,5-フランジカルボン酸(FDCA)を製造するための方法にも適用することができる。
【0092】
実施例
実施例1:初期反応媒体の総重量に基づいて10重量%超 含まれるPETの量を含む反応器中でのテレフタル酸の製造
この実験設計について、テレフタル酸製造を総容量500mLの平底撹拌反応器(MiniBioreactors, Global Process Concept)中で行った。各反応器は、温度プローブ及びpHプローブ(Hamilton, EasyFerm HB BioArc 120)を備えた。設定値でのこれら2つのパラメータの制御を、C-bioソフトウェア(Global Process Concept)における内部PIDコントローラにより保証した。300、400又は450rpmで回転する中心シャフトに取り付けられた直径3cmのマリンパドルにより、反応媒体の撹拌を提供した。複数の塩基性溶液 :6M NaOH(すなわち、19.4%に濃縮)又は6M NHOH(17.4%に濃縮)又は6M KOH(25%に濃縮)をpHの制御に使用した。
【0093】
実験A~Cについて、テレフタル酸(TA)製造を100% 非晶性PETから構成され、低温粉砕(D50=850μm)により微粉末にされた無色ボトルプリフォームから行った。
【0094】
実験D~Kについて、テレフタル酸製造を、親切に寄付してくださった、PET廃棄物リサイクルストリーム由来の、着色洗浄されたプラスチックフレークを使用して行った。98%m/m PETから構成されるこれらのプラスチック材料を押出工程を供し、続けて、急速な冷却して、廃棄物中に含まれるPETをアモルファス化させた。アモルファス化に使用された押出機はLeistritz ZSE 18 MAXX二軸押出機だった。加熱ゾーンの温度を最初の4ゾーンで260℃、後続の6ゾーンで250℃に設定し、スクリュー回転速度を200rpmに設定した。ついで、押出機ヘッドに到達したロッドを直ちに10℃の水浴に浸漬させる。このアモルファス化工程後のPETの結晶化度を約19%(DSCによる)で評価した。得られたロッドを造粒し、ついで、マイクロナイザー(1mmグリッド)を使用して微粉末にした。ついで、粉末を500μmのふるいにかけて、このサイズより小さい粉末のみを回収した。
【0095】
使用された酵素を、PETを脱重合することが公知の酵素であるLC-クチナーゼ(配列番号:1、Sulaiman et al., Appl Environ Microbiol. 2012 Marに記載されている配列のアミノ酸36~293に対応する)とした。LC-クチナーゼは、液体培地中でのリコンビナント微生物の発酵により産生された。PET分解酵素を含まれるPETの量当たりに、1:1000又は2:1000の重量比で加えた。
【0096】
これらのプラスチック材料又は廃プラスチックを、脱重合工程の開始時に含まれるPETの量が初期反応媒体の総重量に基づいて5%~40%で含まれる反応器内に供給した。リン酸バッファーをプラスチック材料及び酵素に加えて、初期反応媒体の総重量に達しさせる。
【0097】
試験した種々の方法の脱重合工程に関連する全てのパラメータを以下の表1A及び1Bに示す。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
テレフタル酸産生の反応速度をモニターするために、定期的なサンプリングを使用した。固相(分解されていないプラスチック材料を含む)を最初に、遠心分離(D100-DragonLab)により、可溶性形態にあるテレフタラート塩を含有する液相から分離した。
【0101】
TAの濃度をクロマトグラフィー(UHPLC)により測定した。この目的で、メタノール 1mL及び6M HCl 100μLを希釈サンプルに加えて、TA塩を脱錯体化した。必要に応じて、RO水でサンプルを希釈した。調製されたサンプルを0.22μmのセルロースフィルターでろ過し、20μLをクロマトグラフィーカラムに注入した。使用されたHPLCシステムをポンプ、自動サンプリングシステム、25℃に温度調節されたカラム及び240nmのUV検出器を含むモデル3000 UHPLCシステム(Thermo Fisher Scientific, Inc., Waltham, MA, USA)とした。3つの溶出液:10mM HSO(溶出液A);超純水(溶出液B)及びメタノール(溶出液C)を使用した。テレフタル酸をこれら3つの溶媒間の勾配により他の分子から分離した。テレフタル酸を市販のテレフタル酸(Acros Organics)から調製された標準に従って測定する。
【0102】
種々の試験について24時間後に生成されたテレフタル酸の濃度を以下の表2A及び表2Bに示す。
【0103】
【表3】
【0104】
このようにして、本発明のテレフタル酸を製造するための方法により、脱重合工程の開始時に、初期反応媒体の総重量に基づいて、それぞれ15重量%及び20重量%に等しい量の含まれるポリエステルを含有する反応器において、24時間後に54kg/t及び69kg/t超のTA濃度に達することが可能となり、pHを脱重合工程の間に、7に制御する。
【0105】
【表4】
【0106】
このようにして、本発明のテレフタル酸を製造するための方法により、脱重合工程の開始時に、初期反応媒体の総重量に基づいて、それぞれ10重量%、20重量%、25重量%、30重量%及び40重量%に等しい量の含まれるポリエステルを含有する反応器において、24時間後に57kg/t超、77kg/t超、106kg/t超、95kg/t超及び118kg/t超のTA濃度に達することが可能となり、pHを脱重合工程の間に、8に制御する。
【0107】
実施例2:初期反応媒体の総重量に基づいて20重量%に等しい量の含まれるPETを含む反応器中でのテレフタル酸の製造、pH及び温度を脱重合工程の間に、それぞれ7~8及び40℃~60℃に固定された値に制御する。
この第2の実験計画について、全ての試験を実施例1に記載されたのと同じ撹拌反応器中で、脱重合工程の間に300rpmで撹拌しながら行った。pH制御に使用した塩基性溶液を19.4% NaOH(6M)とした。
【0108】
テレフタル酸(TA)の製造を、最終ふるい分けを除いて、実施例1における実験D~Hで使用されたものと同一のPET廃棄物リサイクルストリームからの着色され、洗浄されたプラスチックフレークを使用して行った。したがって、得られる粉末は、1mm未満の粒径を有する。この廃プラスチックのPET部分は、初期反応媒体の総重量に基づいて、PET脱重合工程の開始時に含まれる質量の20%を構成した。
【0109】
使用された酵素は、実施例1で使用されたものと同一である。これを、使用されたPETの量当たりに2:1000の重量比で加えた。
【0110】
リン酸バッファー(100mM、pH8)をプラスチック材料及び酵素に加えて、初期反応媒体の総重量に達しさせる。
【0111】
3つの設定温度及び3つのpH値を試験した。主な情報を下記表3にまとめる。
【0112】
【表5】
【0113】
テレフタル酸産生の反応速度をモニターするために、定期的なサンプリングを使用した。TA濃度を実施例1と類似する方法で測定した。
【0114】
上記された条件について、下記結果を48時間又は72時間で得た。
【0115】
【表6】
【0116】
脱重合工程の開始時に、含まれるポリエステルをそれぞれ20%に等しい量で含有する反応器中で行った本発明のテレフタル酸を製造するための方法により、48時間及び72時間後に、40kg/t超のTA濃度に達することが可能となる。60℃では、この方法により、48時間後に、7~8のpHについて、90kg/t超の濃度に達することが可能となる。50℃では、この方法により、72時間後に、7~8のpHについて、90kg/t超の濃度に達することが可能となる。
【0117】
実施例3:顆粒形態にあるプラスチック材料に含まれる、20重量%に等しい量 含まれるPETを含む反応器中でのテレフタル酸の製造
この第3の実験計画について、全ての試験を実施例1に記載されたのと同じ撹拌反応器中で行った。温度セットポイントを60℃に固定し、pHを、塩基性溶液として19.4% NaOH(6M)を使用して、8.0に制御した。
【0118】
テレフタル酸(TA)の製造を、Resinex製のPET Lighter C93を使用して行った。PETを押出し、続けて、急速冷却することによりアモルファス化した。アモルファス化に使用された押出機を、加熱ゾーンを285℃~304℃に設定したLeistritz ZSE 18 MAXX二軸スクリュー押出機とした。このアモルファス化工程後に顆粒形態で得られたPETの結晶化度は、約13%(DSCによる)と推定された。
【0119】
顆粒を初期反応媒体の重量に基づいて、20重量%で反応器内に供給した。使用された酵素は、実施例1で使用されたものと同一とした。酵素を含まれるPETと1:1000の重量比で加えた。10mM リン酸カリウムバッファーpH8をプラスチック材料及び酵素に加えて、初期反応媒体の総重量に達しさせる。
【0120】
テレフタル酸産生の反応速度をモニターするために、実施例1に記載された定期的なサンプリングを使用した。生成されたテレフタル酸を実施例1に記載されたプロトコールに従って、HPLCにより測定した。88時間後、最終反応媒体の液相の総重量に基づいて、62kg/t TAを得る。結果から、目的のポリエステルを含有するプラスチック材料を顆粒形態で導入する場合に、本願において特許請求された性能を達成することも可能であることを示す。
【0121】
実施例4:異なる反応器規模でのテレフタル酸製造
この実施例では、異なる撹拌反応器を使用して、テレフタル酸を製造した。大きなサイズのこれらの反応器を使用して、プロセスのスケールアップ及び工業的規模又は半工業的規模でのその使用を検証した。
【0122】
これらの試験について、2種類のプラスチック材料を使用した。試験A、B、C、E及びFでは、プラスチック材料を実施例1に記載された洗浄され、着色されたフレーク(98% 非晶性PET、微細化<500μm)とし、一方、実施例Dについて、プラスチック材料を実施例1にも記載されたボトルプリフォーム(100% PET、微細化<1mm)とする。これらのプラスチック材料を初期反応媒体の重量に基づいて、20重量% 含まれるPETの量を得るような方法で含ませる。温度セットポイントを60℃に設定し、pHを、19.4% NaOH(試験A~D)又は25%m/m NaOH(試験E及びF)を使用して、8.0又は7.0に制御した。試験A、B、C、D及びEについて、使用された酵素は、実施例1で使用されたものと同一である。試験Fについて、酵素は、リコンビナント微生物の発酵により得られた実施例1の酵素の変異体(下記突然変異配列番号:1+F208I+D203C+S248C+V170I+Y92Gを有する)である。これらを、試験A~Dについて、含まれるPETの重量当たりに1:1000の重量比で、試験E及びFについて、2:1000の重量比で加えた。
【0123】
試験Aについて、実施例1に記載された500mLの平底反応器を使用した。撹拌を中央シャフトに取り付けられた直径3cmのマリンパドルにより提供した。撹拌速度を300rpmに設定した。56.3g プラスチック材料を含ませた。
【0124】
試験Bについて、全容量5Lの皿底反応器(Global Process Concept)を使用した。反応器は、温度プローブ及びpHプローブを備えた(Hamilton, EasyFerm HB BioArc 325)。設定値でのこれら2つのパラメータの制御を、C-bioソフトウェア(Global Process Concept)における内部PIDコントローラにより保証した。200rpmで回転する中心シャフトに取り付けられた直径5.5cmのマリンパドルにより、反応媒体の撹拌を提供した。375g プラスチック材料を含ませた。
【0125】
試験Cについて、全容量40Lの皿底反応器を使用した。反応器は、温度プローブ及びpHプローブ備えた(Rosemount analytical HX338-05)。150rpmで回転する中心シャフトに取り付けられた直径14cmのマリンパドルを使用して、反応媒体を撹拌した。4kg プラスチック材料を使用した。
【0126】
試験Dについて、全容量150Lの皿底反応器を使用した。反応器は、温度プローブ及びpHプローブ備えた(EasyFerm BioArc 120, Hamilton)。80rpmで回転する中心シャフトに取り付けられた直径25cmのマリンパドルを使用して、反応媒体を撹拌した。14kg プラスチック材料を使用した。
【0127】
試験E及びFについて、全容量1000Lの平底反応器を使用した。反応器は、温度プローブ及びpHプローブ備えた(In Pro3100/SG/325, Mettler Toledo)。可変半径のマリンパドルを使用して、反応媒体を撹拌した。75kg プラスチック材料を使用した。
【0128】
反応器の底部の湾曲形状又は平坦形状はプロセスに影響を及ぼさず、底部の形状は交換可能であることが理解される。
【0129】
主な情報を下記表5にまとめた。
【0130】
【表7】
【0131】
テレフタル酸産生の反応速度をモニターするために、実施例1に記載されるような定期的なサンプリングを使用した。TA濃度をUHPLCにより測定した(実施例1に記載)。
【0132】
このため、異なる反応について、得られた結果を表6に詳述する。
【0133】
【表8】
【0134】
このようにして、最終反応媒体の液相の総重量に基づいて、78kg/tより高い濃度のテレフタル酸が、記載された各条件下で得られる。特に、最終反応媒体の液相の総重量に基づいて、110kg/t超の濃度のテレフタル酸が、1000Lの反応器において得られる。
【0135】
実施例5:織物廃棄物からのPETを含有する反応器中でのテレフタル酸の製造
これらの実験について、テレフタル酸製造を、総容量5Lの皿底反応器(Global Process Concept)中で行った(実施例4に記載)。
【0136】
実験Aについて、テレフタル酸製造を使用済みの、細断された、金属及び硬質点(ボタン、ジッパー等)の無い布地から行った。細断された織物片は5×5cmのサイズを有し、約83% PETを含有する。
【0137】
実験Bについて、TAをウォータージェット織りプロセスからの生産スクラップから製造した。この材料は連続糸集合の形態にあり、約100% PETを含有する。
【0138】
これらの織物材料を60℃で16時間乾燥工程に供し、ついで、押出工程に供し、続けて、急速冷却して、廃棄物中に含まれるPETをアモルファス化させた。実施例1と同じ押出機を使用した。加熱ゾーンの温度を下記プロファイルに従って調節した。
265℃-265℃-265℃-255℃-255℃-250℃-250℃-245℃-245℃-245℃
【0139】
スクリュー速度を150rpmに設定した。押出機への材料の導入は手作業で行った。冷却工程及び微細化工程は、実施例1で使用されたものと同一とした。サンプルの結晶化度は、実験Aにおけるサンプルについて約18%であり、実験Bにおけるサンプルについて10%未満であると推定された。
【0140】
使用された酵素は、試験Fについて、実施例4で使用されたものと同一である。これらのプラスチック製品又は廃プラスチックを、脱重合工程の開始時に含まれるPETの量が初期反応媒体の総重量に基づいて16.6%~20%に含まれるように反応器内に供給した。リン酸バッファーをプラスチック材料及び酵素に加えて、初期反応媒体の総重量に達しさせる。
【0141】
実験A及びBの脱重合工程に関連するパラメータのセットを表7に示す。
【0142】
【表9】
【0143】
テレフタル酸産生の反応速度をモニターするために、実施例1に記載された定期的なサンプリングを使用した。生成されたテレフタル酸を実施例1に記載されたプロトコールに従ってHPLCにより測定した。
【0144】
異なる試験について24時間及び48時間後に生成されたテレフタル酸の濃度を以下の表8に示す。
【0145】
【表10】
【0146】
このようにして、記載された各条件において、最終反応媒体の液相の総重量に基づいて、75kg/tより高い濃度のテレフタル酸が得られる。
【配列表】
0007573523000001.app