(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】インスリンの変動を改善するためのコーヒー生豆ベースの組成物の使用
(51)【国際特許分類】
A23L 33/105 20160101AFI20241018BHJP
A23F 5/02 20060101ALI20241018BHJP
A23F 5/24 20060101ALI20241018BHJP
A23F 5/28 20060101ALI20241018BHJP
A61K 36/74 20060101ALI20241018BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
A23L33/105
A23F5/02
A23F5/24
A23F5/28
A61K36/74
A61P3/10
(21)【出願番号】P 2021557009
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 EP2020058696
(87)【国際公開番号】W WO2020193752
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-03-07
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【氏名又は名称】戸津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】アクティス ゴレッタ, ルーカス
(72)【発明者】
【氏名】チェン, ジャクリーン, ルイリン
(72)【発明者】
【氏名】ベル-リリッド, ラシッド
(72)【発明者】
【氏名】ウィローズ, ロビン
(72)【発明者】
【氏名】クラウス, マリン
(72)【発明者】
【氏名】シャベール, クリスチャン
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-520429(JP,A)
【文献】特開2018-035073(JP,A)
【文献】特開2005-333927(JP,A)
【文献】特表2013-533280(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0112098(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/105
A23F 5/02
A23F 5/24
A23F 5/28
A61K 36/74
A61P 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における食後の血漿インスリンの増加に関連する疾患の処置又は予防に使用するための、エステラーゼ処理した脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物(HDGCE)を含むコーヒー生豆ベースの組成物であって、前記対象には、エステラーゼ処理した脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物が、40~200mg/日の量を有効量として投与される、コーヒー生豆ベースの組成物。
【請求項2】
骨格筋細胞によるグルコースの取り込み速度が、対象において増加する、請求項1に記載の使用のための、エステラーゼ処理した脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物(HDGCE)を含むコーヒー生豆ベースの組成物。
【請求項3】
膵臓ベータ細胞のグルコース感受性が、対象において改善される、請求項1に記載の使用のための、エステラーゼ処理した脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物(HDGCE)を含むコーヒー生豆ベースの組成物。
【請求項4】
前記疾患が、糖尿病例えば妊娠糖尿病、グルコース代謝異常、高インスリン血症又はインスリン抵抗性からなる群から選択される、請求項1~3に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
前記対象が、糖尿病患者又は前糖尿病患者である、請求項1~4に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
前記組成物が、液体飲料組成物又は粉末又はスナックバーである、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
コーヒー酸及びフェルラ酸の総含有量が10~60mgであり、前記組成物が、熱処理された組成物であり得る、請求項6に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
コーヒー酸:フェルラ酸の比が少なくとも2:1よりも大きい、請求項7に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
コーヒー酸:フェルラ酸の比が3:1~10:1の範囲である、請求項8に記載の使用のための組成物。
【請求項10】
前記対象が、HDGCEの投与に加えて、少なくとも200kcalの食事を更に補充される、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記対象が、ヒトである、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物を調製するための方法であって、
(i)コーヒー生豆を、水、蒸気、有機溶媒、超臨界CO
2及び/又はこれらの混合物と接触させることによって、脱カフェイン処理したコーヒー生豆抽出物を調製する工程と、
(ii)任意選択的に、前記脱カフェイン処理したコーヒー生豆抽出物を乾燥させる工程と、
(iii)前記得られた脱カフェイン処理したコーヒー生豆抽出物を、エステラーゼ酵素と、4~7の範囲のpH及び20~50℃の範囲の温度で、1~6時間の範囲のインキュベーション時間にわたり接触させる工程と、
(iv)前記酵素処理されたコーヒー生豆抽出物を、80~120℃の範囲の温度で1~30分間加熱して、前記酵素を不活性化させ、前記抽出物を低温殺菌する工程と、
(v)任意選択的に、前記抽出物を乾燥させて、前記エステラーゼ処理した脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物(HDGCE)を得る工程と、
を含む、方法。
【請求項13】
前記乾燥工程(ii)が、噴霧乾燥又は凍結乾燥である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記エステラーゼ酵素が、1mLの水又は緩衝液中に溶解したコーヒー生豆抽出物200mgあたり1~20Uの範囲のW/W濃度のクロロゲネートエステラーゼである、請求項12及び13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象における食後の血漿インスリンの増加に関連する疾患の処置又は予防に使用するための、加水分解したクロロゲン酸(HDGCE)を含むコーヒー生豆ベースの組成物に関し、対象には、HDGCEが、40~200mg/日の範囲の量を有効量として投与される。
【背景技術】
【0002】
全世界において、約2億8000万人の人々が2型糖尿病であると推定されている。発病率は世界の異なる地域において大きく異なるが、2型糖尿病はほぼ間違いなく、遺伝、栄養、環境、及び生活様式の要因によるものである。米国においては、概算で2100万人の患者が糖尿病であると診断され、その90%が2型糖尿病であり、更に810万人の人々が診断未確定の糖尿病罹患者であると推定されている。糖尿病は、米国における死因の第7位である。2012年に米国において糖尿病にかけられた費用の総額は2450億ドルであった。従来では、成人の疾患であると考えられてきた2型糖尿病であるが、小児での診断が増えている。この増加は、食事構成並びに生活習慣の変化に起因する小児の肥満率の上昇と同時に生じている。
【0003】
糖尿病の発症初期(early development)は、主に、食事に対するインスリンの応答、すなわち、より具体的には、第1相のインスリン放出が異常なものになり(Gerich JE,2002,Diabetes,51:S117-S121)、長時間にわたる高血糖が不可避となったときに見ることができる。続いて、慢性高血糖によってインスリン要求量が増加し、最終的にはベータ細胞が分泌機能不全となり、膵臓のベータ細胞が枯渇する(Porte DJ,2001,Diabetes Metab Res Rev,17(3):181-188)。インスリン分泌の機能不全は、肝臓及び抹消のインスリン作用の機能不全と並行して出現するものと考えられており、空腹時高血中インスリンを誘発するインスリン抵抗性として確認されている。インスリン分泌及びインスリン抵抗性が高まると、両者が協働して血中インスリンを上昇させ、2型糖尿病の発症に好都合な状態となる。結果として、食後インスリン血症の低減、及び適切な応答は、健康な対象又は前糖尿病患者の身体によってインスリンが適切に分泌され、適切に利用されていることの表示となり得る。この食後インスリン血症の低減により、膵臓の機能が保全され、同時にインスリン感受性が改善される。長期的には、食後のインスリン要求量を低減することにより、(1)前糖尿病患者における2型糖尿病発症のリスク、及び(2)2型糖尿病における血糖調節の悪化を低減することができる。
【0004】
Mengらは、Evidence-based complementary and alternatively medicine,vol:2013,articles ID 801457として掲載されたレビュー論文において、グルコース及び脂質の代謝の調節におけるクロロゲン酸の役割について考察している。
【0005】
国際公開第2009/132887号は、加水分解されたクロロゲン酸を含むコーヒー飲料を調製するための組成物に関する。
【0006】
米国特許出願公開第2015/0258055号は、コーヒー生豆抽出物を使用してコルチゾール値を調節するための方法に関する。
【0007】
米国特許出願公開第2015/0209399号は、コーヒー生豆抽出物を使用したデヒドロエピアンドロステロンの増強方法に関する。
【0008】
食品業界では、糖尿病患者、糖尿病発症のリスクがある対象、及びグルコース代謝に障害がある対象に提供する栄養学的解決策の更なる改善が依然として必要とされている。
【0009】
本発明の目的は、最新技術を改善し、患者、特に糖尿病患者又は前糖尿病患者における食後のインスリン変動(profile)を改善するための、新規のより良い栄養学的解決策を提供することである。
【0010】
本発明の更なる目的は、最新技術を改善し、かつ対象、特に、糖尿病患者又は前糖尿病患者の骨格筋細胞におけるグルコース取り込みを誘導するための、新規のより良い栄養溶液を提供することである。
【0011】
本発明の更なる目的は、最新技術を改善し、対象、特に、糖尿病患者又は前糖尿病患者対象におけるグルコース刺激に対するヒト膵臓ベータ細胞の感受性を改善するための新規のより良い栄養学的解決策を提供することである。
【0012】
本発明の目的は、独立請求項の主題によって達成される。従属請求項は、本発明の着想を更に展開するものである。
【0013】
「インスリン」は、食事に反応して膵臓のβ細胞によって分泌されるホルモンである。インスリンは、生体における炭水化物及び脂肪代謝制御の中核である。
【0014】
インスリン分泌促進性が高い栄養物は、β細胞を慢性的に刺激し、細胞の適応的な肥大及び進行性の調節異常を誘発し、その結果、食後高インスリン血症をもたらす。食後高インスリン血症は体重増加、脂肪沈着、並びにインスリン抵抗性、メタボリックシンドローム、グルコース不耐性、及び2型糖尿病の発症を促進し得る(Kopp W.,Metabolism.2003,Jul;52(7):840-844)。
【0015】
[発明の概要]
一態様では、本発明は、対象における食後の血漿インスリンの増加に関連する疾患の処置又は予防に使用するための、エステラーゼ処理した脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物(HDGCE)を含むコーヒー生豆ベースの組成物に関し、当該対象には、エステラーゼ処理した脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物が、40~200mg/日の量を有効量として投与される。
【0016】
更なる態様では、本発明は、骨格筋におけるグルコース取り込みの増強に使用するための、エステラーゼ処理した脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物(HDGCE)を含むコーヒー生豆ベースの組成物に関し、当該対象には、エステラーゼ処理した脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物が、40~200mg/日の量を有効量として投与される。
【0017】
更なる態様では、本発明は、膵臓ベータ細胞のグルコース感受性の改善に使用するための、エステラーゼ処理した脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物(HDGCE)を含むコーヒー生豆ベースの組成物に関し、当該対象には、エステラーゼ処理した脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物が、40~200mg/日の量を有効量として投与される。
【0018】
本発明の一実施形態では、対象は、HDGCEの投与に加えて、少なくとも200kcalの食事を更に補充される。
【0019】
本発明者らは、驚くべきことに、HDGCEを含む組成物の摂取により、HDGCEを含まない組成物を摂取する対照群と比較して、対象における食後血漿インスリン応答が低減することを見出した。無作為化、二重盲検、クロスオーバー臨床試験の結果を、実施例の項に開示する。過去の研究では、対象の腸に依存するクロロゲン酸を使用して、クロロゲン酸を活性形態に変換してHDGCEを模倣することを実証した。標準的な食物負荷後にHDGCEを投与すると、無処置と比較して、血液中のインスリン値が有意に減少することが観察された。インスリンの有意な低減(約20%)は血糖値には影響していないことから、HDGCEはインスリン感受性のみを変化させていることが示唆される。
【0020】
臨床試験において被験者にHDGCEを投与した後に検出された血漿中代謝物の、in vitroでのグルコース取り込みに対する効果が、分化したマウスC2C12骨格筋筋管で試験されている。各血漿代謝産物により筋管を処理したところ、対照処置群と比較して、グルコース取り込みにおいて倍率変化の増強が得られた。このデータは、ヒト患者にDHGCE抽出物を投与すると、臨床試験で観察されたインスリンレベルの低減に寄与し得る又はそれを部分的に説明し得る、骨格筋細胞における増強されたグルコース取り込みを誘発する能力を有する、血漿代謝産物の生成が起きることを示唆している。
【0021】
したがって、本発明は、第1の態様では、HDGCE(加水分解され脱カフェイン処理されたコーヒー生豆抽出物)を少なくとも40mg含む組成物を提供する。
【0022】
更なる態様では、本発明は、少なくとも40mgのHDGCEを含む組成物の非治療目的の使用(non-therapeutic use)に関する。
【0023】
更に別の態様では、本発明は、
コーヒー生豆を水、蒸気、有機溶媒、超臨界CO2、及び/又はこれらの混合物と接触させることによって、脱カフェイン処理したコーヒー生豆抽出物を調製する工程と、
任意選択的に、脱カフェイン処理したコーヒー生豆抽出物を乾燥させる(噴霧乾燥又は凍結乾燥)工程と、
得られた脱カフェイン処理したコーヒー生豆抽出物を、1mLの水又は緩衝液に溶解したコーヒー生豆抽出物200mgあたり1~20Uの範囲のW/W濃度のエステラーゼ酵素(クロロゲネートエステラーゼ)と、4~7の範囲のpH、20~50℃の範囲の温度で、1~6時間の範囲のインキュベーション時間にわたり接触させる工程と、
上記の酵素処理したコーヒー生豆抽出物を、80~120℃の範囲の温度で1~30分間加熱して、酵素を不活性化させ、抽出物を低温殺菌する工程と、
任意選択的に、抽出物を乾燥させて、エステラーゼ処理した脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物(HDGCE)を得る工程と、を含む、HDGCEを製造するための方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】処置による曲線下面積(AUC)、最大濃度(Cmax)、及び最大濃度までの時間(tmax)についての箱ひげ図を示す。
【
図2】ラクトバチルス・ジョンソニ(L.johnsonii)エステラーゼ活性に対するpHの影響を示す。
【
図3】ラクトバチルス・ジョンソニ(L.johnsonii)エステラーゼ活性に対するpHの影響を示す。
【
図4】ラクトバチルス・ジョンソニ(L.johnsonii)エステラーゼの基質特異性を示している。4-ニトロフェニルブチレート(黒丸)、4-ニトロフェニルアセテート(黒ひし形)、4-ニトロフェニルデカノエート(黒三角)、4-ニトロフェニルテトラデカノエート(黒四角)、4-ニトロフェニルドデカノエート(横棒)。
【
図5】時間経過に対応させて、ラクトバチルス・ジョンソニ(L.johnsonii)エステラーゼ(16.5U/mL)による、脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物(200g/L)からの、CQAs(黒丸)、FQAs(黒四角)、及びジ-CQAs(横棒)の変換速度(Kinetic transformation)、並びにコーヒー酸(黒三角)及びフェルラ酸(黒ひし形)の形成を示す。反応体積は1mLとした。反応は2連で実施した。
【
図6】マウスC2C12骨格筋筋管におけるグルコース取り込みにおいて、HDGCE投与後に特定された、個々の血漿代謝産物の効果を示す。値は、対照ウェルに対する倍率変化として示し、2連又は3連の測定によって行われた少なくとも2つの独立した実験の平均である。エラーバーは、範囲又は標準誤差を示す。
【
図7】ヒト擬似膵島におけるグルコース刺激によるインスリン分泌に関し、HDGCE投与後に特定された個々の血漿代謝産物が示す効果を示す。個々のヒト擬似膵島は、DMSO 0.1%、100nMのExendin-4(陽性対照)又は1μMの代謝産物のいずれかと組み合わせて、高グルコース溶液(16.7mM)に2時間曝露した。効果を、それぞれによるインスリン分泌に関する効果を対照(DMSO 0.1%)と比較した効果(%)として表す。6回の実験の平均(平均±SEM)を示している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、対象における食後の血漿インスリンの増加に関連する疾患の処置又は予防に使用するための、エステラーゼ処理した脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物(HDGCE)を含むコーヒー生豆ベースの組成物を含む組成物に関し、当該対象には、エステラーゼ処理した脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物が、40~200mg/日の量を有効量として投与される。
【0026】
本発明は、更に、対象における骨格筋細胞におけるグルコース取り込みの誘導に使用するためのエステラーゼ処理した脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物(HDGCE)を含むコーヒー生豆ベースの組成物を含む組成物に関し、当該対象には、エステラーゼ処理した脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物が、40~200mg/日の量を有効量として投与される。
【0027】
本発明は、更に、対象における膵臓ベータ細胞のグルコース感受性の改善に使用するための、エステラーゼ処理した脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物(HDGCE)を含むコーヒー生豆ベースの組成物を含む組成物に関し、当該対象には、エステラーゼ処理した脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物が、40~200mg/日の量を有効量として投与される。
【0028】
一実施形態では、組成物は液体飲料組成物である。
【0029】
用語「疾患」は、糖尿病、例えば、妊娠糖尿病グルコース代謝異常、高インスリン血症又はインスリン抵抗性からなる群から選択される。一実施形態では、対象は糖尿病患者又は前糖尿病患者である。
【0030】
本発明の一実施形態では、HDGCE組成物のコーヒー酸及びフェルラ酸の総含有量は10~60mgの範囲である。組成物は、熱処理された組成物であってもよい。本発明の別の実施形態では、HDGCE組成物が有するコーヒー酸:フェルラ酸比は、少なくとも2:1を超える。本発明の別の実施形態では、HDGCE組成物は、コーヒー酸:フェルラ酸比は、3:1~10:1の範囲である。
【0031】
用語「機能性食品製品」は、少なくとも40~200mgのHDGCEを含む飲料又は食品組成物を意味する。食品組成物は、チョコレート又は麦芽ベースの組成物などの粉末形態であり得る。食品組成物はまた、HDGCEを含むシリアルバーなどのスナックでもあり得る。
【0032】
用語「エステラーゼ処理された」は、脱カフェイン処理したコーヒー生豆抽出物を、精製されたクロロゲネートエステラーゼ又はこのようなエステラーゼを含有する微生物と共にインキュベーションすることを指す。例えば、クロロゲネートエステラーゼは、米国特許第8,481,028号、又は、例えば、Bel-Rhlid et al.:Biotranformation of caffeoyl quinic acids from green coffee extracts by Lactobacillus johnsonii NCC 533(2013):AMB express vol 3:28に記載されている。
【0033】
エステラーゼは、加水分解と呼ばれる水との化学反応によりエステルを酸及びアルコールへと分解する加水分解酵素である。インキュベーション時間は、脱カフェイン処理したコーヒー生豆抽出物中に存在するクロロゲン酸全体の少なくとも80%で加水分解が達成されるよう、酵素の濃度に関連して20~50℃の範囲の温度で30分~6時間とすることができる。一実施形態では、エステラーゼは、ラクトバチルス・ジョンソニ(L.johnsonii)由来である。
【0034】
用語「脱カフェイン処理したコーヒー生豆抽出物/脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物」は、例えば、熱湯により、又は当業者に良く知られている有機溶媒若しくは超臨界CO2を用いた抽出により脱カフェイン処理されたコーヒー生豆を指す。カフェイン含有量は5%未満であり、2~3%W/Wであり得る。
【0035】
用語「40~200mg/日の量」は、乾燥重量で40~200mgの、エステラーゼ処理した脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物を指し、この量の抽出物は、例えば、水に溶解させることができ、あるいは摂取可能な食品製品に、例えば、シリアル、可溶性コーヒー、チョコレート、若しくは食時を補完するもの(food complement)、例えば、対象による摂取に適したカプセル若しくは錠剤に、組み込むことができる。一実施形態では、エステラーゼ処理した脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物は、乾燥重量で40~200mgの量で水に溶解される。
【0036】
典型的には、食後高インスリン血症は、インスリン抵抗性、メタボリックシンドローム、グルコース不耐性、及び2型糖尿病の発症を促進し得る[Kopp W.,Metabolism.2003,Jul;52(7):840-844]。しかしながら、食後に要求されるインスリンを低減させることで、2型糖尿病の血糖管理の悪化を低減することができる他、素因のある対象において2型糖尿病が発症するリスクを低減できる。したがって、好都合なことに、上記したコーヒー生豆ベースの組成物は、糖尿病(例えば、2型糖尿病又は妊娠糖尿病)、グルコース代謝異常、高インスリン血症、又はインスリン抵抗性の処置又は予防に使用される。
【0037】
本発明の一実施形態では、コーヒー生豆ベースの組成物は、糖尿病患者又は前糖尿病患者に使用される。前糖尿病患者は、インスリン抵抗性又はグルコース代謝障害を示している患者であり、後年に糖尿病を発症する、例えば、家族歴、生活習慣、又は遺伝的特徴などの素因がある。インスリン分泌の低減は、長期的には膵臓が疲弊するリスクを低下させることから、前糖尿病の患者又は代謝疾患を有する患者における膵臓の管理にとって有益である。コーヒー生豆ベースの成分、特に、エステラーゼ処理した脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物を40~200mg/日の量で含む組成物を使用すると、結果として、対象における糖尿病、グルコース代謝障害、高インスリン血症又はインスリン抵抗性のリスク及び/又は発症が低減されることになる。
【0038】
糖尿病、インスリン抵抗性、又はグルコース不耐性の罹患は主として成人において認められる。しかしながら、小児の罹患が増加しており、又は罹患しやすくなっており、若しくはこのような疾患を後年になって発症するリスクを有するようになっている。したがって、有利には、これらの障害の予防及び/又は処置は、若年齢で開始されるべきである。あるいは、ヒトにおいて観察されるのと同様に、糖尿病、高インスリン血症、又はインスリン抵抗性は、動物、特にペットとして飼育される動物においてもますます広がっている。したがって、本発明はまた、ネコ及びイヌにも関連する。
【0039】
本発明により使用するための組成物は、任意の好適なフォーマットであってよく、例えば、組成物は、液体組成物の形態、飲料の形態、例えば、液体飲料、シェイクドリンク、栄養組成物又は置換用流動食の形態であり得る。
【0040】
食品の衛生リスクを管理する重要な方法は、食物病原体又は腐敗生物が潜んでいる可能性のある食用組成物を熱処理することである。このような熱処理の良く知られている例には、例えば食用材料を、70℃に2分間、又は75℃に26秒間、又は80℃に5秒間加熱する低温殺菌、並びに例えば、食用材料を135℃超に少なくとも2秒間加熱する超高温(UHT)処理がある。
【0041】
本発明により使用するための組成物は、個体に対し1日あたり乾燥重量で40mg~200mgのHDGCEを提供する1日用量で投与することができる。これらの用量は、少なくとも中期間の間、所望の効果を確実に提供するのに十分な1日用量でなくてはならない。
【0042】
本発明により使用するための組成物は、通常の食事の前、食事の一部として、又は通常の食事の終わりに提供され得る。例えば、組成物は、食事の前、食事の一部として、又は食事の終わりに提供することができ、この食事と組み合わせてインスリンの食後反応を低減することによる利益をもたらす。組成物を食事の終わりに、例えばデザートの一部として提供することにより、効果の改善が期待できる。
【0043】
本発明の更なる態様は、食後の血漿インスリン濃度を低減減少させるために、エステラーゼ処理した脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物を40~200mg/日の量で含むコーヒー生豆ベースの組成物を、非治療的に使用することであり、コーヒー酸及びフェルラ酸の量は、コーヒー酸:フェルラ酸の比が、少なくとも2:1を超える、例えば、3:1、4:1、5:1、6:1、7:1,8:1、9:1又は10:1となる量である。
【0044】
エステラーゼ処理した脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物を40~200mg/日の量で含むコーヒー生豆ベースの組成物を、対象、例えば、それ以降のある時点で2型糖尿病、インスリン抵抗性、又はグルコース不耐性を発症するリスクがあり得る健康な対象に対して、投与できることも有益である。コーヒー生豆を含む組成物は、本明細書に開示のとおり、摂取後にインスリン値を低下させる。
【0045】
本発明の別の態様は、(i)コーヒー生豆を水、蒸気、有機溶媒、超臨界CO2、及び/又はこれらの混合物と接触させることによって、脱カフェイン処理したコーヒー生豆抽出物を調製する工程と、(ii)任意選択的に、脱カフェイン処理したコーヒー生豆抽出物を乾燥させる工程と、(iii)得られた脱カフェイン処理したコーヒー生豆抽出物を、エステラーゼ酵素と、4~7の範囲のpH及び20~50℃の範囲の温度で、1~6時間の範囲のインキュベーション時間にわたり接触させる工程と、(iv)上記の酵素処理されたコーヒー生豆抽出物を、80~120℃の範囲の温度で1~30分間加熱して、酵素を不活性化させ、抽出物を低温殺菌する工程と、(v)その抽出物を乾燥させて、エステラーゼ処理した脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物(HDGCE)を得る工程と、を含む、HDGCE組成物を形成するための方法を提供する。一実施形態では、乾燥工程(ii)は、噴霧乾燥又は凍結乾燥である。別の実施形態では、エステラーゼ酵素は、1mLの水又は緩衝液中に溶解したコーヒー生豆抽出物200mgあたり1~20Uの範囲のW/W濃度のクロロゲネートエステラーゼである。
【0046】
当業者であれば、本明細書に開示される本発明の全ての特徴を自由に組み合わせることができることを理解されたい。特に、組成物の治療的使用について記載された特徴を非治療的使用と組み合わせることができ、逆もまた同様である。更に、本発明の異なる実施形態について記載された特徴を組み合わせてもよい。本発明の更なる利点及び特徴は、図面及び実施例から明らかである。
【実施例】
【0047】
実施例1
ラクトバチルス・ジョンソニ(L.johnsonii)(NCC 533)からのエステラーゼの精製、特性評価及びクローニング
ラクトバチルス・ジョンソニ(Lactobacillus johnsonii)の全細胞においてエステラーゼ活性があることが確認された。酵素を精製し、特性評価した。遺伝子にアノテーションを行った(LJ-1228、遺伝子=1158601 1159347 逆転写産物=アルファ/ベータ加水分解酵素(以下の配列を参照されたい)。次に、この遺伝子を食品グレードの大腸菌において過剰発現させ、HPLCによって酵素を精製した(HICカラム TSKゲル フェニル-5PW、NaPO4(50mM)pH7.0+1mM EDTA中の1~0mol(NH4)2SO4/Lの直線勾配。
流量0.8mL/分)。
【0048】
DNA配列/ヌクレオチド配列
Atggagactacaattaaacgtgatggtctaaacttacatggtttacttgaaggaaccgataagattgaaaatgatacgattgctattttaatgcatggttttaaaggtgatttgggttatgatgacagcaagattttgtatgctctctctcactacttaaatgatcaaggcctcccaacaattcgttttgactttgatggatgcggaaaaagtgatggtaaatttgaagatatgactgtctatagcgaaatcctagatgggataaaaatattagattatgttcgtaatactgttaaggcaaaacatatctatttagtgggacactcccaaggtggagtagtagcgtcaatgctggctggatattatcgagatgttattgaaaaattggctttactctctcctgcagcaactcttaagtctgatgctttagatggagtttgtcagggtagtacttatgatccaacgcatatccctgaaactgtcaatgttagtggctttgaagtaggaggagcttactttagaacggctcaattattgcctatttatcaaacagcggaacattataatagggaaactttattgattcatggcttagcagataaagtcgtgtcacctaatgcttcaagaaaatttcatacacttttgcctaaaagtgagctccatttaattccagatgagggtcacatgtttaacggaaaaaatagacctgaagtattaaaattagttggtgagtttttaataaaataa
アミノ酸配列
1 mettikrdgl nlhgllegtd kiendtiail mhgfkgdldy ddskilyals hylndqglpt
61 irfdfdgcgk sdgkfedmtv yseildgiki ldyvrntvka khiylvghsq ggvvasmlag
121 yyrdviekla llspaatlks daldgvcqgs tydpthipet vnvsgfevgg ayfrtaqllp
181 iyqtaehynr etllihglad kvvspnasrk fhtllpksel hlipdeghmf ngknrpevlk
241 lvgeflik
【0049】
ラクトバチルス・ジョンソニ(L.johnsonii)エステラーゼの最適pHの特定
最適pHは、グリシン緩衝液、酢酸緩衝液、トリス緩衝液、リン酸緩衝液及び水を使用することによって決定した。5-CQAを基質として使用した(50μmol/mL)。
図2に見ることができるように、酵素の最適pHは4.0~6.0であった。この反応は、精製したエステラーゼ(0.01U/mg基質)を使用して37℃で30分間実施した。
【0050】
ラクトバチルス・ジョンソニ(L.johnsonii)のエステラーゼの最適温度の特定
最適温度は、10℃~90℃の様々な温度で、基質として5-CQA(50μmol/mL)を使用することによって決定した。
図3に見ることができるように、酵素の最適温度は30℃~40℃であった。反応は、精製されたエステラーゼ(0.01U/mg基質)を使用してpH5.0で30分間実施した。
【0051】
基質特異性
様々な4-ニトロフェニル誘導体を使用して、ラクトバチルス・ジョンソニ(L.johnsonii)のエステラーゼの基質特異性を試験した。
図4に見ることができるように、4-ニトロフェニルブチレートが最良の基質である一方で、4-ニトロフェニルドデカノエートの変換は観察されなかった。反応は、pH6.0のリン酸ナトリウム緩衝液で37℃で10分間実施した。基質は0.2mMの濃度で使用し、酵素は基質1mg当たり0.01Uで使用した。測定は30秒ごとにモニターした。吸光度は410nmに設定した。
【0052】
ラクトバチルス・ジョンソニ(L.johnsonii)エステラーゼによる脱カフェイン処理したコーヒー生豆抽出物の処理
反応速度論:実験室規模での試験
脱カフェイン処理したコーヒー生豆抽出物(200mg/mL)に対して、ラクトバチルス・ジョンソニ(L.johnsonii)エステラーゼを様々な濃度(1.65、3.3、4.95、8.25及び16.25U/mL)で使用して反応速度試験を実施した。反応は、pH4.5及び37℃で1mLの体積で実施した。結果を以下の表に要約する。各化合物の濃度はmg/mL単位である。
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
時間経過と反応速度との対応
脱カフェイン処理したコーヒー生豆抽出物(200mg/mL)に対して、ラクトバチルス・ジョンソニ(L.johnsonii)エステラーゼを、16.25U/mLの濃度で使用して反応速度試験を実施した。反応は、1mLの反応体積でpH4.5及び37℃で実施した。反応速度試験は1、2、3及び4時間実施した。各化合物の濃度はmg/mL単位である。
【0059】
酵素濃度と反応速度との対応
脱カフェイン処理したコーヒー生豆抽出物(200mg/mL)に対して、ラクトバチルス・ジョンソニ(L.johnsonii)のエステラーゼを様々な濃度(5、10、15、25及び50μl/mLがそれぞれ1.65、3.3、4.95、8.25及び16.5U/mLに対応)で使用して反応速度試験を実施した。反応は、1mLの体積でpH4.5及び37℃で実施した(
図5を参照されたい)。反応時間は4時間とした。各化合物の濃度はmg/mL単位である。
【0060】
パイロットプラント試験
脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物の、ラクトバチルス・ジョンソニ(L.johnsonii)エステラーゼによる処理
脱カフェイン処理したコーヒー生豆抽出物(1.76Kg)を、撹拌下で水(8.8Kg)に溶解した。次に、塩酸(HCl、0.36Kg)を添加してpH4.5に調整した。この溶液に、0.024kgの酵素(ラクトバチルス・ジョンソニ(L.johnsonii)由来のエストラーゼ)を2回に分けて添加した。すなわち、T=0hの時点で0.016kgの酵素を添加し、及び3時間反応させた後に0.008kgの酵素を添加した。反応を37℃で6時間行った。次に、混合物を98℃で10分間加熱して、酵素を不活性化した。遠心分離(5000gで2分)及び濾過(0.45μm)後に、混合物を凍結乾燥した。得られた粉末を、臨床試験に使用する飲料の調製に使用した。
【0061】
UPLC分析
試料の分析には、焙煎豆又は生豆のいずれかから抽出された、コーヒー抽出液及びピュア(pure)な可溶性コーヒー中のコーヒー酸、クロロゲン酸異性体(5-CQA、4-CQA、3-CQA、4-FQA、5-FQA、3,4-ジCQA、3,5-ジCQA及び4,5-ジCQA)及びカフェインを定量的に測定することができる方法を使用した。試料を15℃で5分間遠心分離した(5000g)。得られた上清100μLを900μLのメタノール/水(80:20)に加え、分析前に0.2μmで濾過した。分析は、ポンプ、脱気システム、5μLを超える注入ループを有する試料インジェクタ、フォトダイオードアレイ検出器(波長325nm及び275nm)及び適切なデータソフトウェアを備えたUPLCで行った。分子の分離は、ACQUITY UPLC BEH Shield RP 18カラム、1.7μm、2.1x100mm(Waters)で行った。移動相Aは、0.1%リン酸を添加した5%アセトニトリル水溶液とし、移動相Bは、0.1%リン酸を添加した100%アセトニトリルとした。流量0.4mL/分、カラム温度35℃、注入量2μLとした。
【0062】
臨床試験
HDGCEを、プラセボ(交差、ランダム化、単一盲検)と比較して、グルコース応答(GR)及びインスリン応答(IR)について試験した。合計12人の被験者が試験に参加した。各被験者は、10~14時間一晩絶食した後、2日に分けて午前7時30分から午後3時の間に研究施設を訪問した。
【0063】
両日の訪問において以下を行った:
被験者には、試験セッション全体を通して静かに着座した状態を維持させた。被験者は、試験前の24時間に、喫煙、飲酒、コーヒー(いかなる形態でも)の摂取を行わなかった、又は普段行わない激しい身体活動に一切参加しなかった。被験者(ボランティア)が研究施設に到着したところで、採血のためにカニューレを静脈内に挿入した。空腹状態で5mLの全血を採取した。次に、被験者は標準化された食物負荷試験を受けた。最近では、Stroeveら(13)による栄養調査において、経口グルコース負荷試験(OGTT)と同様の最適な栄養ストレッサーとして、混合主要栄養素負荷試験の使用が提案されている。食物負荷試験は、研究スタッフが2つの市販製品により準備した。簡潔に述べると、237.5mLの栄養飲料と100mLのホイップクリームとを撹拌し、グラス/ボトルで提供した。被験者には、食物負荷の摂取後、15分の時間枠内で処置を受けるよう求めた。食物負荷の摂取後、15分、30分、45分、60分(1時間)、90分(1.5時間)、120分(2時間)、180分(3時間)、240分(4時間)、300分(5時間)及び360分(6時間)の時点で更なる静脈血試料(3mL)を採取した。処置の投与の間には最低2日間のウォッシュアウト期間を取った。
【0064】
0分、15分、30分、45分、60分(1時間)、90分(1.5時間)、120分(2時間)、180分(3時間)、240分(4時間)、300分(5時間)及び360分(6時間)の時点で採取した血液試料を、血糖及びインスリンについて分析した。グルコース及びラクテート分析器である、較正したYSI 2300 Stat Plusを使用して血糖を分析し、Insulin(human)AlphaLISA Detection Kitによってインスリンを測定し、EnSpire Alpha Plate Readerによって読み取った。グルコース値及びインスリン値を時間に対してプロットして、曲線下増分面積(Incremental Area Under Curve,IAUC)を測定した。
【0065】
統計的考察
全てのデータを対数変換して、モデルにおける残差の正規化を達成した。したがって、全ての処置効果は、幾何平均の比として表される。幾何平均は中央値の推定値である。表2では、モデルベースの処置効果が1未満の場合、推定値(AUC又はCmax)はプラセボ群の方が高い。比が1より大きい場合、推定値は、コーヒー抽出物群の方が高い。AUC及びCmaxは、それぞれ、増分AUC及び増分Cmaxを指す。
【0066】
tmaxでの処置効果は、ノンパラメトリック統計検定であるウィルコクソンの符号順位検定を使用して推定した。表2に示したtmaxの推定値は、処置群間で中央値の差を推定するホッジス・レーマン推定値である。
インスリン
【0067】
【0068】
表2:95%CIでモデルベースで推定される処置効果
AUC及びCmaxでは、報告された推定値は、プラセボに対するコーヒー抽出物の幾何平均の比である。tmaxでは、コーヒー抽出物とプラセボとの間の中央値の差に関する推定値を報告された。
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
本発明者らによる発見により、12人の被験者において、栄養学的食物負荷試験後に、HDGCEの単回摂取が血漿中のインスリン濃度を有意に約20%低下させたことが示された(p=0.02)(表1、表2、及び表3を参照されたい)。血漿中グルコース濃度は、加水分解された脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物、又はプラセボの単回摂取の間で、なんら差はなかった(表4)。しかしながら、in vitroのデータでは、代謝産物が骨格筋細胞のグルコース取り込みを増加させることが示されている。したがって、本発明者らは、加水分解された脱カフェイン処理後コーヒー生豆抽出物は、ヒトにおいてインスリン感受性を改善すると結論付けた。結果はまた、HDGCEとプラセボとを比較して、インスリンAUC(mmol*分/L)(p=0.07)においてほぼ統計的に有意な差があることを示した(
図1、表2参照)。
【0073】
In vitro試験:グルコース取り込み
マウスC2C12筋芽細胞を、20%ウシ胎児血清(vol/vol)、50μMパルミテート、0.3%ウシ血清アルブミン、並びに100U/mLペニシリンG及び100μg/mLストレプトマイシンを補充してGlutaMAXを添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(4.5g/Lグルコース)で増殖させ、5%二酸化炭素下、37℃で維持した。細胞を播種し、1%ウマ血清(vol/vol)、50μMパルミテート、0.3%ウシ血清アルブミン、並びに100U/mLペニシリンG及び100μg/mLストレプトマイシンを補充してGlutaMAXを添加したDMEM (4.5g/Lグルコース)中で分化させて筋管を形成した。分化した筋管は、GlutaMAX、50μMパルミテート、0.3%ウシ血清アルブミンを添加した無血清DMEM(4.5g/Lグルコース中)において、10μMの個々の血漿代謝産物及び0.1%(vol/vol)ジメチルスルホキシドで、5%二酸化炭素と共に37℃で18時間、処理した。細胞を、2mMピルビン酸ナトリウム、50μMパルミテート、10μMの0.3%ウシ血清アルブミン及び化合物並びに0.1%(vol/vol)ジメチルスルホキシドを添加したkrebs-ringers-hepes緩衝液(140mM塩化ナトリウム、4.7mM塩化カリウム、2.5mM塩化カルシウム、1.25mM硫酸マグネシウム、1.2mM二水素リン酸カリウム、10mMの4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-エタンスルホン酸 pH7.4)に移し、5%二酸化炭素下で37℃で4時間置いた。次に、[3H]2-デオキシグルコースを含有する50μMの2-デオキシグルコースを、5%二酸化炭素下、37℃で5分間、細胞に添加した。25mMのグルコースを添加して反応を停止させた。この筋管を、リン酸緩衝生理食塩水で十分に洗浄し、0.1M水酸化ナトリウム中で溶解させ、取り込まれていた放射線標識の量を、液体シンチレーション計数によって検出した。取り込まれていた[3H]2-デオキシグルコースの量の変化を、対照ウェルと比較して求め、倍率変化として示した。十分に知られているAMPK活性化因子(本明細書では「a1」として示される)による陽性対照処理を、全処理期間にわたって5μMで実施した。インスリンを10nMでKRH緩衝液に添加して4時間置いた。
【0074】
In vitro試験:インスリン分泌
3D InSight(商標)ヒト膵島マイクロティッシュは、InSphero AG(Switzerland)から入手した。受領時に、グルコース刺激によるインスリン分泌の測定のため擬似膵島を製造業者の指示に従って処理した。簡単に説明すると、分離している(isolated)擬似膵島を注意深く2回洗浄し、131mM NaCl、4.8mM KCl、1.3mM CaCl2、1.2mM KH2PO4、1.2mM MgSO4、5mM NaHCO3、25mM HEPES、2.8mM グルコース及び0.5%BSAを含有する改変Krebs-Ringer緩衝液(KRB)中で、低グルコースで1時間インキュベートした。この溶液をLGS(低グルコース溶液、2.8mM)と呼ぶ。次に、単離した膵島を、LGSで慎重に洗浄し、最終濃度1μmの試験物質の存在下、16.7mMのグルコース、0.5%のBSAを含有する新鮮なKRB中で2時間インキュベートした。上清及び細胞抽出物[酸エタノール(70%(v/v)エタノール中1.5%(v/v)HCl)により抽出]中のインスリン濃度の測定を、高感度化学発光酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA;AlPCO,Salem,NH 03079)を使用して実施した。ヒト膵島を用いた全ての実験は、ヒト研究法における倫理委員会(Ethical Commission of the Human Research Act)(スイス)によって承認を受けている。
【0075】
【配列表】