(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】ロータ支持体及びこのようなロータ支持体を備えた真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 19/04 20060101AFI20241018BHJP
F04D 29/056 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
F04D19/04 A
F04D19/04 Z
F04D29/056 B
(21)【出願番号】P 2021573398
(86)(22)【出願日】2020-06-02
(86)【国際出願番号】 EP2020065222
(87)【国際公開番号】W WO2020249431
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2023-06-02
(32)【優先日】2019-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】507261364
【氏名又は名称】エドワーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100171675
【氏名又は名称】丹澤 一成
(72)【発明者】
【氏名】ショフィールド ナイジェル ポール
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-542628(JP,A)
【文献】実開平02-001493(JP,U)
【文献】国際公開第2006/117515(WO,A1)
【文献】特開2015-190331(JP,A)
【文献】特表2010-516972(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
F04D 29/04-29/059
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空ポンプにおいてロータシャフトを回転可能に取り付けるように構成されたロータ支持体であって、
前記
ロータシャフトを回転可能に支持する転がり軸受と、
前記転がり軸受を取り囲んでいる、インサート及び少なくとも1つの弾性減衰部材と、
を備え、
前記インサートは、複数の可撓性部材によって接続された内側及び外側環状部分を備え、前記複数の可撓性部材は、半径方向面で撓み、軸方向面での動きを抑制するように構成され、これにより前記
ロータシャフトの半径方向の動きを吸収し、
前記少なくとも1つの弾性減衰部材は、半径方向及び軸方向の両方で撓むように構成されたエラストマー材料で形成されており、
前記少なくとも1つの弾性減衰部材は、前記インサートを支持するように構成され、前記インサートと直列に配置され、
前記少なくとも1つの弾性減衰部材の少なくとも1つは、前記インサートと前記転がり軸受との間に配置されている、
ことを特徴とするロータ支持体。
【請求項2】
前記インサートは、剛性材料で形成され、前記可撓性部材は幅よりも軸方向に長く、これにより軸方向の剛性と半径方向の可撓性を提供する、
請求項1に記載のロータ支持体。
【請求項3】
前記剛性材料は、金属材料又はプラスチック材料を含む、
請求項
2に記載のロータ支持体。
【請求項4】
i)前記可撓性部材の各々が、前記内側及び外側環状部分と実質的に同心の細長い弓状部材を含む、及び/又は
ii)前記可撓性部材が、半径方向の可撓性を提供する複数の一体型リーフスプリングを含む、
請求項1~
3の何れか1項に記載のロータ支持体。
【請求項5】
前記インサートは、前記転がり軸受と前記少なくとも1つの弾性減衰部材の少なくとも1つとの間に配置されている、
請求項1から
4の何れか1項に記載のロータ支持体。
【請求項6】
エラストマー材料で形成された少なくとも1つの弾性軸方向減衰部材であって、前記転がり軸受の軸方向の動きが、前記少なくとも1つの弾性軸方向減衰
部材の圧縮を変化させるように取り付けられた少なくとも1つの弾性軸方向減衰部材をさらに備える、
請求項1から
5の何れか1項に記載のロータ支持体。
【請求項7】
前記少なくとも1つの弾性軸方向減衰部材の少なくとも1つが、半径方向面に延びる前記ロータ支持体の外側面に取り付けられる、
請求項
6に記載のロータ支持体。
【請求項8】
前記インサートは、前記内側環状
部分の端部から半径方向内側に延びる延長部を備え、前記
延長部が前記転がり軸受上に延びており、前記少なくとも1つの弾性軸方向
減衰部材のうちの少なくとも1つは、前記延長部に面する前記転がり軸受の面と前記転がり軸受に面する前記延長部の面との間に取り付けられる、
請求項
5を引用する請求項
6に記載のロータ支持体。
【請求項9】
前記少なくとも1つの弾性減衰部材は、前記弾性軸方向減衰
部材よりも軸方向に可撓性である、
請求項
6又は7に記載のロータ支持体。
【請求項10】
前記弾性軸方向減衰部材と前記弾性減衰部材が単一の部材を構成する、
請求項
6から8の何れか1項に記載のロータ支持体。
【請求項11】
前記単一の部材は、L字型部材を含む、
請求項
10に記載のロータ支持体。
【請求項12】
真空ポンプであって、ロータ支持体上でポンプ本体内に回転可能に取り付けられたシャフトを含むロータを備え、
前記ロータ支持体が、請求項1から
11の何れか1項に記載のロータ支持体を含む、真空ポンプ。
【請求項13】
i)前記少なくとも1つの弾性減衰部材又は前記インサートの外側のものが、前記ポンプ本体に接合されている、又は
ii)前記少なくとも1つの弾性減衰部材は少なくとも1つのOリングを含み、前記少なくとも1つのOリングが、前記ポンプ本体の少なくとも1つの凹部に取り付けられる、
請求項
12に記載の真空ポンプ。
【請求項14】
前記真空ポンプが、ターボ分子ポンプを含む、
請求項
12又は13に記載の真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、真空ポンプ、及び真空ポンプの回転シャフトを支持するためのロータ支持体又は取付手段に関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ分子ポンプのような真空ポンプは、典型的には、本体と、本体に対して回転支持されたロータとを備える。回転時のロータは、ポンプの入口に接続されたツールからガスを吸引する。ロータは、軸受機構により支持されている。一部の事例では、上側軸受が磁気軸受の形態で、下側軸受が転がり軸受の形態である、2つの軸受がある。
【0003】
このようなポンプでは、ロータが軸方向に剛性のある状態で取り付けられ、ロータ構成要素とステータ構成要素間のクリアランスが維持されて、磁気軸受が効果的に動作するようにすることが重要である。しかしながら、一部の用途では、ロータの回転に起因して生じる振動がポンプ本体から隔離され、入口に接続されたツールにこれらの振動が伝達されるのを阻止することも重要である。これは、電子顕微鏡などの科学計器では特に当てはまる。
【0004】
ポンプが点検を受けて軸受の交換が必要になるときに、シャフトの取り付けに関する別の問題が生じる。このようなポンプ内で新しい軸受を使用するには、従来は、ポンプのバランスを再調整する必要があるが、半径方向に十分な可撓性を有し、軸方向にはまた剛性を有する軸受を使用すれば、このバランス再調整ステップが不要となり、現場でポンプを保守整備することが可能となる。
【0005】
これらの問題の幾つかは、欧州特許第2126365号にて開示されているように、軸受をポンプの本体に取り付けるために使用され、軸方向剛性及び半径方向の可撓性を提供するインサート又はコンパクトな金属製スプリングダンパーを使用して対処されている。
【0006】
しかしながら、ポンプ本体に伝達される振動の量は、一部の用途では依然として過度に大きい。これは特に、転がり軸受が摩耗して、ロータとポンプ本体との間で高周波振動が伝達される可能性がある場合に当てはまる。
【0007】
回転するロータに起因する振動からの隔離を改善したポンプを提供することが望ましいであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【0009】
第1の態様は、真空ポンプにおいてロータシャフトを回転可能に取り付けるように構成されたロータ支持体であって、上記ロータ支持体は、上記シャフトを回転可能に支持する転がり軸受と、上記転がり軸受を取り囲む、インサート及び少なくとも1つの弾性減衰部材と、を備え、上記インサートは、複数の可撓性部材によって接続された内側及び外側環状部分を含み、上記複数の可撓性部材は、半径方向面で撓み、軸方向面での動きを抑制するように構成され、これにより上記シャフトの半径方向の動きを吸収し、上記少なくとも1つの弾性減衰部材は、半径方向及び軸方向の両方で撓むように構成されたエラストマー材料で形成されており、上記少なくとも1つの弾性減衰部材は、上記インサートを支持するように構成され、上記インサートと直列に配置されている、ロータ支持体が提供される。
【0010】
本発明の発明者は、ロータの正確な軸方向の位置決めと低振動の両方が重要である真空ポンプにおいてロータを取り付けるときには、軸方向の剛性と幾らかの半径方向可撓性が望ましいが、軸方向の剛性が高すぎるインサートを使用すると、ロータ、軸受、及びポンプ本体の間を振動が伝わる経路を提供する可能性があることを見出した。
【0011】
軸受とポンプ本体の間に幾らかの更なる隔離を設けることで、許容可能な軸方向位置決めを依然として可能にしながらこの問題を軽減するのに役立つことができる。特に、軸方向と半径方向の両方の可撓性を有してインサートを支持し、これと直列に配置されたエラストマー材料を提供することは、振動の隔離と減衰を提供する。
【0012】
弾性減衰部材は、ロータ支持体がポンプにおいてロータを支持しているときに、ボール軸受とインサートとの間に位置することができ、及び/又はポンプハウジングとインサートの外側環状部分との間に位置するようにインサートの外側面の周りに位置することができる、ようにインサートと直列に配置されている。実際には、ロータを取り付ける際にインサートと直列に弾性減衰部材を設けることで、ロータ支持体が、インサートの軸方向剛性の機能を提供しながら、ボール軸受とポンプハウジングとの間で減衰部材の追加の可撓性に起因する振動からの隔離を改善することができる。
【0013】
エラストマー材料は、軸方向と半径方向の両方の可撓性と、振動からの良好な隔離を提供するが、エラストマーの可撓性が高いほど、半径方向と軸方向の両方の可撓性が大きくなり、各々の独立した制御がある程度失われることになる点に留意されたい。しかしながら、エラストマー材料で形成された弾性部材を半径方向の可撓性と軸方向の剛性を提供するように構成されたインサートと組み合わせて使用することで、減衰部材によって振動伝達を低減する追加の隔離を提供しながら、インサートの設計によって軸方向と半径方向の剛性の量をある程度独立して制御することができる。
【0014】
幾つかの実施形態では、上記弾性減衰部材は、以下の構成:上記少なくとも1つの弾性減衰部材の少なくとも1つは、上記インサートと上記転がり軸受の間に配置されている、上記インサートの上記外側環状部分は、上記少なくとも1つの弾性減衰部材の少なくとも1つと上記転がり軸受の間に配置されている、のうちの少なくとも1つで上記インサートと直列に配置されている。
【0015】
幾つかの実施形態では、上記インサートは、剛性材料で形成され、上記可撓性部材は、幅よりも軸方向に長く、これにより軸方向の剛性と半径方向の可撓性を提供する。
【0016】
軸方向の剛性と半径方向の可撓性は、インサートを金属材料又はプラスチック材料などの剛性材料で作り、可撓性部材を軸方向に長くして軸方向の曲げを抑制する一方で、比較的薄くして半径方向に撓むことができるようにすることにより提供することができる。このようにして、各方向への可撓性の程度は、可撓性部材の材質と寸法で設計に組み込まれる。
【0017】
インサートが金属材料で作られている場合、インサートとポンプ本体、インサートと転がり軸受の間の金属と金属の接合部は振動経路を提供し、エラストマー材料を用いて経路を遮断する場合に効果的に振動を抑制することができる。プラスチック材料自体は、振動の伝達をある程度低減することができるが、更なる弾性部材を使用することで、振動をより一層抑制することができる。
【0018】
可撓性部材は、多くの方法で形成することができるが、幾つかの実施形態では、可撓性部材の各々は、内側及び外側環状部分と実質的に同心の細長い円弧状(弓状)部材を備える。
【0019】
幾つかの実施形態では、可撓性部材は、半径方向の可撓性を提供する複数の一体型リーフスプリングを提供する。
【0020】
幾つかの実施形態では、上記転がり軸受は、内側レース、外側レース、及びレース間に配置された複数の転動体を含み、上記外側レースは上記インサートに接合されている。
【0021】
弾性減衰部材は、ロータをポンプに取り付ける際にインサートとポンプ本体の間、又はインサートと転がり軸受の間に配置することができる点に留意されたい。インサートが転がり軸受に接合されている場合には、弾性減衰部材はこれらに直接接合することができ、又は弾性減衰部材が転がり軸受とインサートの間にある場合は、弾性減衰部材を転がり軸受に、インサートを弾性減衰部材に接合することができる。インサートを転がり軸受に接着することで、両者を互いに対して軸方向に正確で一貫して配置することができる。
【0022】
幾つかの実施形態では、上記少なくとも1つの弾性減衰部材は、上記インサートと上記転がり軸受との間に配置される。
【0023】
代替的又は追加的に、上記インサートは、上記転がり軸受と上記弾性減衰部材との間に配置される。
【0024】
インサートが転がり軸受に隣接して配置されている場合、インサートの転がり軸受への接合は、より容易で効果的に行うことができる。エラストマー材料の接合はより困難であり、幾つかの実施形態では接合されないことになる。
【0025】
幾つかの実施形態では、ロータ支持体は更に、エラストマー材料で形成され、上記転がり軸受の軸方向の動きが上記弾性軸方向減衰移動に対する圧縮を変化させるように取り付けられた少なくとも1つの弾性軸方向減衰部材を備える。
【0026】
上述したように、軸方向の可撓性がほとんどない剛性材料で形成されたインサートを使用すると、ポンプ本体に幾らかの振動ノイズが伝達可能になる可能性がある。これは、幾らかの軸方向及び半径方向可撓性を提供する弾性減衰手段によって低減される。しかしながら、軸方向の可撓性は制限されるべきであり、軸方向の動きが材料を圧縮又は押しつぶして、軸方向の動きに対して効果的な抑制を提供するように構成された弾性軸方向減衰部材を用いて更に制限することができる。半径方向支持を提供する弾性減衰部材は、軸方向の力によって剪断され、軸方向変位に対してより少ない抑制を提供することができる。
【0027】
幾つかの実施形態では、上記少なくとも1つの弾性軸方向減衰部材は、上記ロータ支持体の半径方向平面における外側面に取り付けられる。
【0028】
幾つかの実施形態では、追加の軸方向の安定性を提供するために、弾性軸方向減衰部材は、シャフトの軸に垂直な半径方向面に位置する面に取り付けることができ、ポンプに取り付けられたときに、ポンプ上の同様に半径方向に延びる面と協働するように構成され、弾性軸方向減衰部材が2つの面の間に取り付けられ、互いに向かう面の相対的軸方向の動きが減衰部材を異なる量だけ圧縮するようになる。
【0029】
幾つかの実施形態において、上記インサートは、上記内側環状部材の端部から内側に延びる延長部を備え、上記表面は上記転がり軸受上に延び、上記弾性軸方向部材は、上記延長部に面する上記転がり軸受の面と、上記転がり軸受に面する上記延長部の面との間に取り付けられる。
【0030】
半径方向面内の面は、弾性軸方向部材が延在面と転がり軸受面との間に取り付けられるように、転がり軸受の端面から半径方向に横切って軸方向に変位して延在するインサートの内側環状部材の延長部とすることができる。
【0031】
幾つかの実施形態において、上記少なくとも1つの弾性減衰部材は、上記弾性軸方向減衰手段よりも軸方向により可撓性がある。
【0032】
弾性軸方向減衰部材は、少なくとも1つの弾性減衰部材よりも高い軸方向の剛性を与えるように設けられており、少なくとも1つの弾性減衰部材は上記弾性軸方向減衰部材と比較して、1.5倍を上回って軸方向に可撓性とすることができる。これは、その形状及び/又は軸方向の動きが圧縮されるように半径方向面内の2つの面間に取り付けられていることに起因することができ、及び/又はこれが形成されている材料に起因することができる。
【0033】
幾つかの実施形態において、上記弾性軸方向減衰部材は、圧縮されていないときに実質的に矩形断面を有する部材を備える。
【0034】
弾性軸方向減衰部材は、フラットタイプの形状で矩形断面を有するガスケットとすることができる。
【0035】
幾つかの実施形態では、上記弾性軸方向減衰部材及び上記少なくとも1つの弾性減衰部材は、単一の部材を構成する。
【0036】
幾つかの実施形態では、これらは単一のL字型の部材を含む。
【0037】
2又は3以上の減衰部材は、別々に形成されてもよいが、幾つかの実施形態では、これらは、構成要素間の半径方向経路及び構成要素間の軸方向経路の両方でエラストマー要素を提供するように動作可能な単一部品、恐らくはL字型部材として形成することができる。
【0038】
幾つかの実施形態において、上記少なくとも1つの弾性減衰部材は、少なくとも1つのOリングを備える。
【0039】
少なくとも1つの弾性減衰部材は、ローラ軸受及びインサートをポンプ内の所定位置にスライドさせることができる1又は2以上のOリングとすることができる。
【0040】
第2の態様は、ポンプ本体内で回転可能にロータ支持体に取り付けられたシャフトを含むロータを備え、上記ロータ支持体が第1の態様によるロータ支持体を含む、真空ポンプを提供する。
【0041】
幾つかの実施形態では、上記少なくとも1つの弾性減衰部材又は上記インサートの外側のものは、上記ポンプ本体に接合される。
【0042】
ロータ支持体は、ポンプに接合することができ、これにより、更なる軸方向安定性が提供され、このような場合には、弾性軸方向減衰部材は使用されなくてもよい。
【0043】
幾つかの実施形態において、上記Oリングは、上記ポンプ本体の凹部に取り付けられる。
【0044】
上記1又は複数のOリングは、上記ポンプ本体の凹部内に取り付けることができ、ロータ支持体を所定位置にスライドすることができる。
【0045】
幾つかの実施形態において、上記真空ポンプは、ターボ分子ポンプを含む。
【0046】
ターボ分子ポンプは、多くの場合、幾つかの科学的分析に必要な高真空を提供するのに使用され、このような場合、低振動環境が要求される可能性がある。これは、例えば、電子顕微鏡の場合である。従って、これらのポンプにポンプ本体からロータを隔離する手段を備えることで、ポンプ性能を向上させることができる。
【0047】
幾つかの実施形態では、上記真空ポンプは、更なる軸受を含み、更なる軸受は、磁気軸受を含み、上記転がり軸受は、上記シャフトの一端に向かって取り付けられ、上記磁気軸受は、反対側の端部に向かって取り付けられる。
【0048】
ターボ分子ポンプなどの多くのポンプは、摩擦力を低減し、ポンプ入口に近接して使用できるクリーンな軸受を提供する磁気軸受を有する。これらの磁気軸受は、磁気軸受を有効にするためにシャフトの軸方向位置決めを正確に制御する必要があり、同時にシャフトに軸方向荷重をかけ、シャフトを軸受に向けて付勢する。この付勢は、特に1つがロータ支持体に関連し1つがポンプ本体に関連した2つの半径方向に伸びる面の間に配置された弾性軸方向減衰部材と併用して使用する際に、シャフトを所定位置に保持することができる。
【0049】
更なる特定の好ましい態様は、添付の独立請求項及び従属請求項に記載されている。従属請求項の特徴は、適宜、独立請求項の特徴と組み合わせることができ、また、請求項に明示的に記載されている以外の特徴と組み合わせることもできる。
【0050】
装置の特徴がある機能を提供するように動作可能であると記載されている場合、これは、その機能を提供するか、又はその機能を提供するように適応又は構成された装置の特徴を含むことを理解されたい。
【0051】
ここで、本発明の実施形態について、添付図面を参照して更に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】第1の実施形態によるロータ支持手段を通る断面を示す図である。
【
図2】
図1のロータ支持手段のインサートを示す図である。
【
図3】更なる実施形態によるロータ支持手段の一方側を通る断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
実施形態をより詳細に説明する前に、まず概要を説明する。
【0054】
真空ポンプ、特に小型の金属又はプラスチック製スプリングダンパーの形態のインサートを有するターボポンプの振動レベルを改善するために、エラストマー要素が、小型の金属製スプリングダンパーCMSD又はインサートと直列に追加される。
【0055】
電子顕微鏡のポンピングなどの用途では、ターボポンプにより引き起こされる振動のレベルが顕微鏡の解像度に大きく影響する。ポンプによって引き起こされる振動レベルを低減するために、小型の金属製スプリングダンパーを使用して、ボール軸受を取り付けることができる。これは、円周方向のスプリング要素を用いて、半径方向の低い剛性と、軸方向の高い剛性をもたらすので、アンバランスに起因するシャフトの半径方向の移動を吸収しながら、ロータ良好な軸方向位置を維持する。これにより、高いレベルの隔離と良好な振動性能を実現しているが、最も厳しい用途では依然として改善の余地がある。
【0056】
実施形態では、エラストマー要素を使用してインサートを支持し、ある程度の軸方向及び半径方向のコンプライアンスを与え、更に軸受ノイズ及び振動をメインポンプハウジングから隔離することにより、このようなインサートの性能を向上させようとしている。
【0057】
コンプライアント要素は、半径方向位置において1又は2以上のOリング及び軸方向位置において平坦なエラストマー「ワッシャー」など、1又は2以上の構成要素で構成することができる。或いは、「L」字型のエラストマー構成要素は、軸方向及び半径方向の両方の位置を提供することができる。
【0058】
一実施形態では、エラストマー要素は、インサートとポンプハウジングの間に取り付けられ、代替的に又は追加的に、軸受とインサートの間に取り付けられている。
【0059】
この配置は、単一のボール軸受とパッシブ磁気軸受を備えたポンプ、又はシャフトを支持する2つのボール軸受を備えたポンプで使用される。
【0060】
図1は、一実施形態によるロータシャフト支持体5によって支持されるロータシャフト20を通る断面を示す。ロータシャフト支持体5は、コンパクトな金属製スプリングダンパー又はインサート70によって所定位置に保持される転がり軸受10を備える。インサート70は、この実施形態では、接着剤で軸受10に接着されている。インサート70は、軸受10に軸方向の剛性と幾らかの半径方向の可撓性を与え、軸受10を所定位置に維持しながら、半径方向の動きを許容して振動を吸収するのに役立つ。ロータシャフト20は、ターボ分子ポンプのシャフトである。
【0061】
インサート70は、インサート70とポンプ本体30との間に取り付けられたエラストマー材料で形成された弾性減衰部材40を介して、ポンプ本体30に取り付けられている。この弾性減衰部材40は、幾らかの軸方向及び半径方向の可撓性を有し、振動を更に低減するのに役立つ。幾つかの実施形態では、シャフトは、ロータ支持体をポンプ本体30に接着することによって所定位置に保持されるが、この実施形態では、ロータ支持体は、更なる弾性減衰部材(この場合は、軸方向弾性減衰部材42)によって所定位置に保持される。
【0062】
軸方向弾性減衰部材42は、ポンプハウジング30の突出部とインサート70の上面との間に取り付けられている。この実施形態では、軸方向弾性減衰部材42は、リング状のガスケットである。弾性減衰部材40は、環状の形態を有しており、平坦なガスケット42よりも厚肉で、より多くの軸方向の動きを可能にしている。ガスケット42は、軸受の軸方向の動きがガスケットを圧縮するように配置されているので、軸方向の動きが抑制される。
【0063】
シャフト20は、ポンプの出口端部に向かって位置する転がり軸受10上と、ポンプの入口端部に向かって位置する磁気軸受(図示せず)上に取り付けられている。これらの磁気軸受は、インサート70をガスケット42に対して保持するための付勢力を提供する。このようにして、ガスケット42は、ロータシャフト20の軸方向の位置合わせを提供すると共に、その弾性により、軸方向経路に沿って転がり軸受10からポンプ本体30への振動伝達を低減するのに役立つ。ガスケット42の弾性は、軸方向の動きが抑制され、軸方向の位置合わせが許容限度内に維持されるように、比較的低く選択される。弾性部材40の弾性は、これよりも高いように選択され、特にインサート70とポンプ本体30との間の半径方向経路においてより可撓性を提供して振動伝達を低減する。
【0064】
図2は、インサート70をより詳細に示している。インサート70は、軸方向の剛性と半径方向の可撓性があるように転がり軸受内にシャフトを取り付けるために設けられている。この実施形態では、インサート70は、金属材料で形成されているが、他の実施形態では、プラスチックで形成することができる。インサート70は、複数の可撓性部材58によって共に接続された一体型の内側及び外側環状部分54,56を有する。この実施形態では、これらは、インサート70にスロット60を機械加工することにより形成されている。各可撓性部材58は、第1の弾性ヒンジ62によって内側部分54に接続され、第2の弾性ヒンジ64によって外側部分56に接続されている。各可撓性部材58は、内側及び外側環状部分54,56と実質的に同心の細長い円弧状(弓状)部材の形態であり、
図2に示されているように、可撓性部材58は、好ましくは円周方向に整列している。従って、弾性支持体52の可撓性部材58は、弾性支持体又はインサート70の一体型リーフスプリングを提供する。理解できるように、半径方向及び軸方向の各々におけるインサート70の弾性は、インサートの材料と可撓性部材58の厚さ及び形状とに依存し、また、これらのヒンジ付き部分64,62に依存する。このように、インサートは、要求に応じて、所望の軸方向及び半径方向特性を有して設計することができる。
【0065】
図3は、ポンプ本体30内の真空ポンプロータのシャフト20を支持するように構成されたロータ支持体5の片側を通る断面の代替の実施形態を示す。ロータ支持体5は、インサート70、転がり軸受10、及び弾性部材40、42、43を備える。
【0066】
この実施形態では、シャフト20は、ポンプの出口端部に向けてロータ支持体5を介して取り付けられ、ポンプの入口端部に向けて磁気軸受(図示せず)に取り付けられている。磁気軸受は、軸方向弾性部材42及び弾性部材43の一部に対してシャフト20を付勢する付勢力80を提供する。
【0067】
可撓性弾性部材は、転がり軸受10とインサート70との間、及び/又はインサート70とポンプ本体30との間の何れかに配置することができることを理解されたい。この実施形態では、弾性部材は両方の間に取り付けられているが、幾つかの実施形態では、可撓性弾性部材40及び42又は可撓性弾性部材43のみが存在する。
【0068】
弾性部材は、転がり軸受10とインサート70、及びポンプ本体壁30に接合することができるが、一般的には、これらは、弾性によって所定位置に保持されている。
【0069】
図3の実施形態では、転がり軸受10は、シャフト20に接着される。インサート70は、ポンプ本体30と転がり軸受10の間にあり、転がり軸受10とインサート70の間にはL字型の弾性部材43がある。L字型の弾性部材は、エラストマー材料で形成され、軸方向に延びる部分に沿ってよりも、半径方向に延びる部分に沿ってより狭い断面幅を有する。インサート70とポンプ本体30の間には、別の弾性部材がある。これらは、ポンプ本体壁の凹部32に配置されたOリング40と、軸方向弾性部材42を備える。他の実施形態では、L字型弾性部材43は、転がり軸受10の上面に位置するように配置されたリングガスケットと、軸受10の外側面の周りでインサート70の内面に隣接して位置するように配置された環状エラストマー減衰部材の2つの別個の弾性部材で置き換えられてもよい。
【0070】
インサート70は、転がり軸受10上に延在し、転がり軸受10の軸方向端面上に延在するL字型弾性部材43の一部が当接して追加の軸方向安定性をもたらす表面を提供する軸方向端部にて半径方向内側に延在する部分を備えた内側環状部材54を有する。インサートは更に、外側環状部材56から内側環状部材54まで延びて、半径方向の可撓性を提供すると同時に、転がり軸受を中央位置に向かって付勢する中央可撓部材58を有する。外側環状部材56は、半径方向内側に延びる部分に対して軸方向の他方の端部にて半径方向外側に延びる部分を有し、これは、ポンプ壁本体30の突出部34に平行な表面を提供する。ガスケットの形態である軸方向弾性部材42は、2つの平行な半径方向に延びる表面の間に位置し、追加の軸方向安定性を提供する。この実施形態では、付勢力80は、軸受をL字型部材43に対して付勢し、インサート70を弾性部材42に対して付勢して、支持体を軸方向の所定位置に保持し、付勢力80は、下向き方向の軸方向移動に抗し、2つの弾性部材42,43が、上向き方向の軸方向移動に抗して、何れかの軸方向振動を減衰させるように作用する。
【0071】
Oリング40及びL字型の弾性部材43の軸方向に延びる部分は、シャフト及び軸受からポンプ本体30に向かって半径方向に伝達される振動を減衰させる。Oリング40は、ポンプ本体壁30の凹部32に取り付けられており、これにより、インサート、シャフト及び軸受が所定位置にスライドされる間、Oリングを所定位置に保持することができる。
【0072】
転がり軸受10を交換する必要がある場合、ロータ支持体5の配置は、シャフトを半径方向及び軸方向に正確に位置決めするのに役立ち、バランス再調整を必要とせずに現場で軸受を交換することができる。
【0073】
本発明の例示的な実施形態について、添付図面を参照して詳細に開示されたが、本発明は、この厳密な実施形態に限定されず、当業者であれば、添付の特許請求の範囲及びこれらの均等物によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく様々な変更及び修正を行い得ることは理解される。
【符号の説明】
【0074】
5 ロータ支持体
10 転がり軸受
20 シャフト
30 ポンプ本体
32 ポンプ壁凹部
34 ポンプ壁突出部
40 O-リング
42 ガスケット
43 L字型弾性部材
54 内側環状部材
56 外側環状部材
58 フレキシブル部材
60 スロット
62、64 ヒンジ
70 インサート
80 付勢力