(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】研磨パッド、研磨パッドの製造方法及びウェハ研磨方法
(51)【国際特許分類】
B24D 11/00 20060101AFI20241018BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20241018BHJP
B24D 3/32 20060101ALI20241018BHJP
B24D 3/00 20060101ALI20241018BHJP
B24B 37/24 20120101ALI20241018BHJP
【FI】
B24D11/00 E
H01L21/304 622F
B24D11/00 Q
B24D3/32
B24D3/00 340
B24B37/24 B
(21)【出願番号】P 2022009205
(22)【出願日】2022-01-25
【審査請求日】2023-09-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】弁理士法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 綾真
(72)【発明者】
【氏名】黒部 久徳
(72)【発明者】
【氏名】岸本 正俊
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/012468(WO,A1)
【文献】再公表特許第2017/072919(JP,A1)
【文献】特開2008-068390(JP,A)
【文献】特開2015-120220(JP,A)
【文献】特開2004-281685(JP,A)
【文献】特開2013-141716(JP,A)
【文献】特表2006-519115(JP,A)
【文献】特開2008-021340(JP,A)
【文献】特開2017-013149(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0036861(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D3/00-99/00
B24B37/00-37/34
H01L21/304;21/463
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心と直交する方向に延びる固定面を有し、前記軸心周りに回転される定盤と、前記定盤に対して平板状のウェハを相対回転可能に保持するキャリヤとを備えたウェハ研磨装置に用いられ、
前記固定面に固定され、前記ウェハを研磨液の存在下、所定の面圧の下で研磨する研磨パッドにおいて、
母材樹脂からなり、複数の気孔が形成された母材と、前記母材又は前記気孔内に保持された研磨粒子とを有し、
前記母材樹脂はポリエーテルサルフォンであり、
前記母材は、任意の前記気孔を特定気孔とし、前記特定気孔に隣り合う前記気孔を隣接気孔とした場合、前記特定気孔の中心と前記隣接気孔の中心との間には、前記母材樹脂からなり、1.89~9.88μmの太さをなし、前記太さの平均値が4.05~5.89μmをなすネットワークを有し
、
前記特定気孔において、最も短い内径である短径と、最も長い内径である長径とを定義し、
前記短径と前記長径と円周率と1/4とを乗じた値である気孔径は7.01~258.72μmであり、
前記気孔径の平均値は19.84~67.10μmであること特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
母材樹脂と、研磨粒子と、溶剤とを含むペーストを用意する第1工程と、
前記ペーストをシート状の成形体に成形する第2工程と、
前記成形体を置換液中に浸漬し、前記成形体中の前記溶剤を前記置換液で置換して置換体を得る第3工程と、
前記置換体から前記置換液を除去し、前記母材樹脂からなり、複数の気孔が形成された母材と、前記母材又は前記気孔内に保持された研磨粒子とを有する研磨パッドを得る第4工程とを備え、
前記母材樹脂はポリエーテルサルフォンであり、
前記母材は、任意の前記気孔を特定気孔とし、前記特定気孔に隣り合う前記気孔を隣接気孔とし、前記特定気孔の中心と前記隣接気孔の中心との間には、前記母材樹脂からなり、1.89~9.88μmの太さをなし、前記太さの平均値が4.05~5.89μmをなすネットワークを有し
、
前記特定気孔において、最も短い内径である短径と、最も長い内径である長径とを定義し、
前記短径と前記長径と円周率と1/4とを乗じた値である気孔径は7.01~258.72μmであり、
前記気孔径の平均値は19.84~67.10μmであるように、前記第1工程で前記母材樹脂と前記研磨粒子と前記溶剤との割合を調整することを特徴とする研磨パッドの製造方法。
【請求項3】
平板状のウェハと平板状の研磨パッドとを研磨液の存在下、所定の面圧の下で当接しつつ、前記ウェハの厚さ方向に延びる軸心周りに前記ウェハと前記研磨パッドとを相対回転し、前記ウェハを研磨するウェハ研磨方法において、
前記研磨パッドは、母材樹脂からなり、複数の気孔が形成された母材と、前記母材又は前記気孔内に保持された研磨粒子とを有し、
前記母材樹脂はポリエーテルサルフォンであり、
前記母材は、任意の前記気孔を特定気孔とし、前記特定気孔に隣り合う前記気孔を隣接気孔とし、前記特定気孔の中心と前記隣接気孔の中心との間には、前記母材樹脂からなり、1.89~9.88μmの太さをなし、前記太さの平均値が4.05~5.89μmをなすネットワークを有し
、
前記特定気孔において、最も短い内径である短径と、最も長い内径である長径とを定義し、
前記短径と前記長径と円周率と1/4とを乗じた値である気孔径は7.01~258.72μmであり、
前記気孔径の平均値は19.84~67.10μmであること特徴とするウェハ研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨パッドと、研磨パッドの製造方法と、ウェハ研磨方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
定盤とキャリヤとを備えたウェハ研磨装置が知られている。定盤は、第1軸心と直交する方向に延びる第1固定面を有し、第1軸心周りに回転される。キャリヤは、第1軸心と平行な第2軸心と直交する方向に延びて第1固定面と対面する第2固定面を有し、第2軸心周りに回転される。
【0003】
このウェハ研磨装置によりSi、SiC、GaN等の平板状のウェハを研磨する場合、定盤の第1固定面に研磨パッドが固定され、キャリヤの第2固定面にウェハが固定される。そして、研磨液の存在下で研磨パッドとウェハとを所定の面圧の下で当接しながら、定盤とキャリヤとを回転させる。研磨液がアルカリ等の薬剤を含む場合には、CMP(Chemical Mechanical Polishing:化学的機械的研磨)工程でウェハが研磨される。
【0004】
研磨パッドが一般的な不織布や硬質ウレタン等、研磨粒子を有さない場合には、研磨液が研磨粒子を含んでいる。この場合、研磨液の管理が必要であるとともに、研磨後のウェハに対して洗浄を行なうことが必要になる。また、研磨液が高価なものとなるため、研磨後の研磨液を回収し、所定の状態に再調整した後で再利用する必要もある。さらに、研磨後の研磨液や洗浄液を廃棄する場合には、それらが環境を犯さないように複雑な処理を行なわなければならない。このため、この場合には、半導体デバイスの製造コストの高騰化を生じるとともに、環境負荷が大きい。
【0005】
一方、研磨パッドが特許文献1~3に開示されているように、母材樹脂からなり、複数の気孔が形成された母材と、母材又は気孔内に保持された研磨粒子とを有しているものである場合には、研磨粒子を含まない研磨液を採用できる。この場合、水のみを研磨液とすれば、研磨液の管理が不要であるとともに、研磨後のウェハが研磨液で既に洗浄されたものとなり、別個の洗浄工程を省略又は簡素化できる。また、研磨液が安価なものとなるため、研磨後の研磨液を必ずしも回収して再利用する必要がない。さらに、研磨後の研磨液を廃棄する場合にも、さほどの処理が必要ではない。このため、この場合には、半導体デバイスの製造コストの低廉化を実現できるとともに、環境負荷を軽減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4266579号公報
【文献】特許第5511266号公報
【文献】特許第6636634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、ウェハの研磨工程では、消費電力の低廉化の要求も大きい。
【0008】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、研磨液の管理が容易であり、研磨後のウェハの洗浄工程を省略又は簡素化でき、かつ研磨後の研磨液の処理が面倒でないとともに、消費電力の低廉化も実現可能な研磨パッドを提供することを解決すべき課題としている。また、本発明はそのような研磨パッドの製造方法を提供することを解決すべき課題としている。さらに、本発明はそのようなウェハ研磨方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の研磨パッドは、軸心と直交する方向に延びる固定面を有し、前記軸心周りに回転される定盤と、前記定盤に対して平板状のウェハを相対回転可能に保持するキャリヤとを備えたウェハ研磨装置に用いられ、
前記固定面に固定され、前記ウェハを研磨液の存在下、所定の面圧の下で研磨する研磨パッドにおいて、
母材樹脂からなり、複数の気孔が形成された母材と、前記母材又は前記気孔内に保持された研磨粒子とを有し、
前記母材樹脂はポリエーテルサルフォンであり、
前記母材は、任意の前記気孔を特定気孔とし、前記特定気孔に隣り合う前記気孔を隣接気孔とした場合、前記特定気孔の中心と前記隣接気孔の中心との間には、前記母材樹脂からなり、1.89~9.88μmの太さをなし、前記太さの平均値が4.05~5.89μmをなすネットワークを有し、
前記特定気孔において、最も短い内径である短径と、最も長い内径である長径とを定義し、
前記短径と前記長径と円周率と1/4とを乗じた値である気孔径は7.01~258.72μmであり、
前記気孔径の平均値は19.84~67.10μmであること特徴とする。
【0010】
本発明の研磨パッドは、母材樹脂からなり、複数の気孔が形成された母材と、母材又は気孔内に保持された研磨粒子とを有している。このため、研磨粒子を含まない研磨液を採用できる。このため、研磨液の管理が容易であるとともに、研磨後のウェハの洗浄工程を省略又は簡素化できる。また、研磨液が安価なものとなるため、研磨後の研磨液を必ずしも回収して再利用する必要がない。さらに、研磨後の研磨液を廃棄する場合にも、さほどの処理が必要ではない。
【0011】
そして、発明者らは、消費電力を抑制するためには、研磨パッドに内在する気孔の割合を高めることが効果的であると考えた。気孔率を高めることにより、ウェハと研磨パッドとの接触面積率を抑制でき、抵抗力が低減されると考えられるからである。しかしながら、単に気孔率を高めるだけでは、研磨パッドの構造が不安定になり、安定した研磨の実現が難しいことが推察される。このため、発明者らは、母材樹脂と研磨粒子と溶剤との割合を種々調整することにより最適な研磨パッドを得て、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、研磨パッドの母材が母材樹脂からなる特有のネットワークを有している。発明者らの試験によれば、本発明の研磨パッドでは、このネットワークは、任意の気孔を特定気孔とし、特定気孔に隣り合う気孔を隣接気孔とした場合、特定気孔の中心と隣接気孔の中心との間において、1.89~9.88μmの太さをなし、太さの平均値が4.05~5.89μmをなす。この場合、消費電力の低廉化を実現できる。
【0013】
より詳細には、ネットワークの太さが1.89μm未満であれば、研磨パッドの構造が不安定になり易い。ネットワークの太さが9.88μmを超えておれば、消費電力を低廉化し難い。ネットワークの太さの平均値が4.05μm未満であれば、研磨パッドの構造が不安定になり易い。ネットワークの太さの平均値が5.89μmを超えておれば、消費電力を低廉化し難い。
【0014】
したがって、上記ウェハ研磨装置に本発明の研磨パッドを用いれば、研磨液の管理が容易であり、別個の洗浄工程を省略又は簡素化でき、かつ研磨後の研磨液の処理が面倒でないとともに、消費電力の低廉化も実現できる。このため、半導体デバイスの製造コストをより低廉化できるとともに、環境負荷を軽減することができる。
【0015】
本発明の研磨パッドの製造方法は、母材樹脂と、研磨粒子と、溶剤とを含むペーストを用意する第1工程と、
前記ペーストをシート状の成形体に成形する第2工程と、
前記成形体を置換液中に浸漬し、前記成形体中の前記溶剤を前記置換液で置換して置換体を得る第3工程と、
前記置換体から前記置換液を除去し、前記母材樹脂からなり、複数の気孔が形成された母材と、前記母材又は前記気孔内に保持された研磨粒子とを有する研磨パッドを得る第4工程とを備え、
前記母材樹脂はポリエーテルサルフォンであり、
前記母材は、任意の前記気孔を特定気孔とし、前記特定気孔に隣り合う前記気孔を隣接気孔とし、前記特定気孔の中心と前記隣接気孔の中心との間には、前記母材樹脂からなり、1.89~9.88μmの太さをなし、前記太さの平均値が4.05~5.89μmをなすネットワークを有し、
前記特定気孔において、最も短い内径である短径と、最も長い内径である長径とを定義し、
前記短径と前記長径と円周率と1/4とを乗じた値である気孔径は7.01~258.72μmであり、
前記気孔径の平均値は19.84~67.10μmであるように、前記第1工程で前記母材樹脂と前記研磨粒子と前記溶剤との割合を調整することを特徴とする。
【0016】
本発明の製造方法により、本発明の研磨パッドを製造することができる。発明者らは、溶剤をN-メチル-2-ピロリドンとし、置換液を水として、本発明の製造方法で本発明の研磨パッドを製造できることを確認した。
【0017】
本発明のウェハ研磨方法は、平板状のウェハと平板状の研磨パッドとを研磨液の存在下、所定の面圧の下で当接しつつ、前記ウェハの厚さ方向に延びる軸心周りに前記ウェハと前記研磨パッドとを相対回転し、前記ウェハを研磨するウェハ研磨方法において、
前記研磨パッドは、母材樹脂からなり、複数の気孔が形成された母材と、前記母材又は前記気孔内に保持された研磨粒子とを有し、
前記母材樹脂はポリエーテルサルフォンであり、
前記母材は、任意の前記気孔を特定気孔とし、前記特定気孔に隣り合う前記気孔を隣接気孔とし、前記特定気孔の中心と前記隣接気孔の中心との間には、前記母材樹脂からなり、1.89~9.88μmの太さをなし、前記太さの平均値が4.05~5.89μmをなすネットワークを有し、
前記特定気孔において、最も短い内径である短径と、最も長い内径である長径とを定義し、
前記短径と前記長径と円周率と1/4とを乗じた値である気孔径は7.01~258.72μmであり、
前記気孔径の平均値は19.84~67.10μmであること特徴とする。
【0018】
本発明のウェハ研磨方法は、本発明の研磨パッドを用いていることから、半導体デバイスの製造コストをより低廉化できるとともに、環境負荷を軽減することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の研磨パッドを用いれば、研磨液の管理が容易であり、別個の洗浄工程を省略又は簡素化でき、かつ研磨後の研磨液の処理が面倒でないとともに、消費電力の低廉化も実現できる。本発明の製造方法によれば、本発明の研磨パッドを製造できる。本発明のウェハ研磨方法によれば、半導体デバイスの製造コストをより低廉化できるとともに、環境負荷を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、実施例1~3及び比較例1、2の研磨パッドの模式拡大断面図である。
【
図2】
図2は、実施例1~3の研磨パッドの研磨面の2000倍のSEM写真から研磨粒子を省略するとともに、各気孔のみを表示した模式平面図である。
【
図3】
図3は、比較例1、2の研磨パッドの研磨面の2000倍のSEM写真から研磨粒子を省略するとともに、各気孔のみを表示した模式平面図である。
【
図4】
図4は、ウェハ研磨方法で用いたウェハ研磨装置の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
発明者らの試験によれば、特定気孔において、最も短い内径である短径と、最も長い内径である長径とを定義した場合、短径と長径と円周率と1/4とを乗じた値である気孔径は7.01~258.72μmであり、気孔径の平均値は19.84~67.10μmであることが好ましい。
【0022】
上記で定義された気孔径が7.01μm未満であれば、研磨パッドの構造が不安定になり易い。この気孔径が258.72μmを超えれば、消費電力を低廉化し難い。この気孔径の平均値が19.84μm未満であれば、研磨パッドの構造が不安定になり易い。この気孔径の平均値が67.10μmを超えれば、消費電力を低廉化し難い。
【0023】
研磨パッドを製造するために用いる母材樹脂としては、ポリエーテルサルフォン(PES)を採用することが可能である。発明者らは、母材樹脂をPESとした場合に効果を確認している。
【0024】
研磨パッドを製造するために用いる溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-エチル-2-ピロリドン(NEP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、酢酸エチル、メチルエチルケトン等を採用することができる。これらは1種でもよく、2種以上が混合されていてもよい。溶剤は、母材樹脂に応じて種々選択される。
【0025】
研磨パッドを製造したり、研磨液に含有され得る研磨粒子としては、シリカ、セリア、アルミナ、ジルコニア、チタニア、ダイヤモンド、マンガン酸化物、炭酸バリウム、酸化クロム、酸化鉄等を採用することが可能である。これらは1種でもよく、2種以上が混合されていてもよい。
【0026】
研磨パッドを製造するために用いるペーストは、母材樹脂と研磨粒子と溶剤とを含む他、炭酸ナトリウム、ピペラジン、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、酸化カルシウム、炭酸カリウム、酸化マグネシウム等のアルカリ微粒子を含んでいてもよい。また、ペーストは、フッ素系撥水剤、シリコン系撥水剤、炭化水素系撥水剤及び金属化合物系撥水剤等の撥水剤を含んでもよい。さらに、ペーストは、二酸化チタン、炭酸カルシウム、カーボンブラック等の無機顔料、アゾ顔料、多環顔料等の有機顔料等の顔料を含んでもよい。これらは1種でもよく、2種以上が混合されていてもよい。
【0027】
研磨パッドの製造方法において、溶剤と置換される置換液としては、油性の溶剤を採用した場合には、水道水等の水性の液体を採用することができる。
【0028】
研磨液を用いる場合、研磨液は純水であってもよく、油性であってもよく、酸性又はアルカリ性の薬品を含むものであってもよい。
【0029】
(実施例・比較例)
以下、本発明を具体化した実施例1~3と、比較例1、2とを説明する。
【0030】
まず、第1工程として、以下の母材樹脂と、研磨粒子と、溶剤とを準備した。
(母材樹脂)
PES
(研磨粒子)
シリカ(SiO2)(平均粒径:0.3μm)
(溶剤)
NMP
【0031】
これらを表1に示す体積%で混合し、実施例1~3及び比較例1、2のペーストを得た。実施例1~3及び比較例1、2では、溶剤の添加量にかかわらず、母材樹脂と研磨粒子との体積%が等しくなるようにしている。
【0032】
【0033】
第2工程として、上記第1工程で得られた各ペーストを用い、Tダイ等の成形装置を用いてシート状の成形体に成形する。この成形方法についてはある程度厚みを揃えることができればこれに限られない。
【0034】
第3工程として、各成形体を置換液としての水道水に浸漬させ、所定時間経過後に水道水からそれぞれを取り出し、乾燥させ、各固化体を得た。各固化体の表面を所定の厚みまで研削し、直径30cmの研磨パッド10を得た。各研磨パッド10には溝パターンを設けていない。
【0035】
図1に示すように、各研磨パッド10は、母材樹脂からなり、複数の気孔14が形成された母材12と、母材12又は気孔14内に保持された研磨粒子16とを有している。各気孔14及び各研磨粒子16は研磨パッド10の表面に位置する研磨面10aに一部が剥き出しになっている。
【0036】
設計比重を計算するとともに、実比重を測定した。設計比重は、表1に示す体積%で母材樹脂、研磨粒子及び溶剤を混合した場合の比重である。実比重は各研磨パッド10の実際の比重である。次いで、設計比重を実比重で除して比の値を求めた。樹脂の設計比率をその比の値で除して樹脂比率を求めた。また、研磨粒子の設計比率をその比の値で除して研磨粒子比率を求めた。そして、100から樹脂比率及び研磨粒子比率を減じ、気孔率(体積%)を求めた。各研磨パッドの気孔率も表1に示す。
【0037】
実施例1~3及び比較例1、2の研磨パッド10の研磨面10aの2000倍のSEM写真を得、各SEM写真からネットワークの太さ(μm)や気孔径(μm)を測定した。
【0038】
実施例1~3の研磨パッド10の研磨面10aのSEM写真から研磨粒子16を省略するとともに、各気孔14のみを表示した模式平面図を
図2に示す。また、比較例1、2の研磨パッド10の研磨面10aのSEM写真から研磨粒子16を省略するとともに、各気孔14のみを表示した模式平面図を
図3に示す。
【0039】
図2及び
図3に示すように、SEM写真において、任意の気孔14を特定気孔14sとし、特定気孔14sに隣り合う気孔14を隣接気孔14nとする。特定気孔14sの中心Osと他の気孔14の中心Oとを直線Lで接続し、直線Lが既に規定したいずれかの隣接気孔14nを横切る場合には、その気孔14は隣接気孔14nとしない。こうして、いくつかの隣接気孔14nが規定される。特定気孔14sに対して隣接気孔14nは複数存在し得る。そして、特定気孔14sの中心Osと隣接気孔14nの中心Onとの間の太さPを測定した。
【0040】
実施例1~3及び比較例1、2の研磨パッド10の研磨面10aにおいて、20個の特定気孔14sを特定し、各太さPを測定した。各研磨パッド10の研磨面10aにおける太さPの最大値、最小値及び平均値を表2に示す。
【0041】
【0042】
表2に示すように、実施例1~3の研磨パッド10の研磨面10aでは、1.89~9.88μmの太さをなし、太さの平均値が4.05~5.89μmをなすネットワークNが存在している。このネットワークNは母材樹脂からなる。一方、比較例1、2の研磨パッド10では、同じく母材樹脂からなるネットワークNは存在するものの、各ネットワークNは、0.47~3.06μmの太さをなし、太さの平均値が1.31~1.87μmをなしているに過ぎない。
【0043】
また、実施例1~3及び比較例1、2の研磨パッド10の研磨面10aにおいて、20個の特定気孔14sを特定し、最も短い内径である短径a(μm)と、最も長い内径である長径b(μm)とを定義し、短径aと長径bと円周率πと1/4とを乗じることにより、気孔径(μm)を求めた。各研磨パッド10の気孔径の最大値、最小値及び平均値を表3に示す。
【0044】
【0045】
表3に示すように、実施例1~3の研磨パッド10の研磨面10aでは、気孔径が7.01~258.72μmであり、気孔径の平均値は19.84~67.10μmである。一方、比較例1、2の研磨パッド10では、気孔径が1.57~26.09μmであり、気孔径の平均値は8.94~11.45μmに過ぎない。
【0046】
図4に示すように、ウェハ1を被研磨体とするウェハ研磨装置(Engis EJW-380)を用意し、実施例1~3及び比較例1、2の研磨パッド10によってウェハ1の研磨を行った。ウェハ研磨装置は、複数のキャリヤ5と、定盤7と、駆動装置9と、研磨液供給装置11とを備えている。
図4には単一のキャリヤ5だけを図示しているが、ウェハ研磨装置は複数のキャリヤ5を有している。各キャリヤ5は水平な円板状をなしている。各キャリヤ5の下面には第2固定面5aが凹設されており、第2固定面5aにはウェハ1が固定されるようになっている。各キャリヤ5の上面にはキャリヤ回転軸5bが垂直に突設されている。各ウェハ1は、直径4inchの4H-SiC単結晶である。各ウェハ1のSi面である被研磨面1aは下方を向いている。
【0047】
定盤7は、全てのキャリヤ5を内包する水平な円板状をなしている。定盤7の下面には定盤回転軸7aが垂直に突設されている。定盤7の上面は第1固定面7bとされている。第1固定面7bには、各ウェハ1と対面するように円板状の研磨パッド10が接着剤によって固定されている。研磨パッド10の中心線Oは第1軸心O1と一致されている。
【0048】
駆動装置9は、主駆動装置9aと、副駆動装置9bと、加圧装置9cとを有している。主駆動装置9aは定盤回転軸7aを第1軸心O1周りで所定速度で回転駆動する。副駆動装置9bは各キャリヤ回転軸5bを第2軸心O2周りで所定速度で回転駆動する。加圧装置9cは各キャリヤ回転軸5b及び副駆動装置9bを定盤7に向けて所定荷重で加圧する。
【0049】
研磨液供給装置11は定盤7の上方に設けられている。研磨液供給装置11は各ウェハ1と研磨パッド41との間に研磨液11aを介在させる。実施例1~3及び比較例1、2の研磨方法においては、過マンガン酸カリウム水溶液からなり、研磨粒子を含まない研磨液11aを用いた。
【0050】
このウェハ研磨装置において、以下の条件で各ウェハ1を研磨した。
研磨液11aの流量:10mL/分
荷重:30kPa
定盤7の回転数:60rpm
キャリア5の回転数:60rpm
加工時間:60分
【0051】
研磨後のウェハ1の面粗度Sa(nm)と、消費電力(W)とを評価した。面粗度Saの測定にはNikon社製BW-D501を用いた。結果を表4に示す。
【0052】
【0053】
表4より、実施例1~3の研磨パッド10は、比較例1、2の研磨パッド10と比較し、ウェハ1を同程度の面粗度Saまで研磨するまでの消費電力を低廉化できることがわかる。この理由は、実施例1~3の研磨パッド10では、母材12が母材樹脂からなる特有のネットワークNを有しているからである。これらの研磨パッド10では、これらのネットワークNによって気孔率を高めることができ、ウェハ1と研磨パッド10との接触面積率を抑制でき、抵抗力が低減されると考えられる。
【0054】
また、実施例1~3の研磨パッド10は、母材樹脂からなり、複数の気孔14が形成された母材12と、母材12又は気孔14内に保持された研磨粒子16とを有しているため、研磨粒子を含まない研磨液11aを採用できている。このため、研磨液11aの管理が容易であるとともに、研磨後のウェハ1の洗浄工程を省略又は簡素化できる。また、研磨液11aが安価なものとなるため、研磨後の研磨液11aを必ずしも回収して再利用する必要がない。さらに、研磨後の研磨液11aを廃棄する場合にも、さほどの処理が必要ではない。
【0055】
したがって、上記ウェハ研磨装置に実施例1~3の研磨パッド10を用いれば、研磨液11aの管理が容易であり、別個の洗浄工程を省略又は簡素化でき、かつ研磨後の研磨液11aの処理が面倒でないとともに、消費電力の低廉化も実現できる。このため、半導体デバイスの製造コストをより低廉化できるとともに、環境負荷を軽減することができる。
【0056】
また、実施例1~3の製造方法によれば、実施例1~3の研磨パッド10を製造できる。さらに、実施例1~3のウェハ研磨方法によれば、半導体デバイスの製造コストをより低廉化できるとともに、環境負荷を軽減することができる。
【0057】
以上において、本発明を実施例1~3に即して説明したが、本発明は上記実施例1~3に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0058】
例えば、実施例1~3の研磨パッド10は、母材樹脂をPESとし、溶剤をNMPとしたが、母材樹脂からなるネットワークNの太さが1.89~9.88μm、太さの平均値が4.05~5.89μmとなるように、第1工程で母材樹脂と研磨粒子16と溶剤との割合を調整すれば、母材樹脂をPVDFとしたり、溶剤をNMPとしたりする変更は可能である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は半導体製造装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0060】
O1…第1軸心
7b…第1固定面
7…定盤
O2…第2軸心
5a…第2固定面
5…キャリヤ
1…ウェハ
10…研磨パッド
11a…研磨液
12…母材
14…気孔
16…研磨粒子
N…ネットワーク