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  • 特許-導電性ペースト及びその利用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】導電性ペースト及びその利用
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/22 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
H01B1/22 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022051469
(22)【出願日】2022-03-28
(65)【公開番号】P2023144480
(43)【公開日】2023-10-11
【審査請求日】2023-11-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】久野 潤也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 夕子
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-051272(JP,A)
【文献】特開2018-172493(JP,A)
【文献】特開2001-338529(JP,A)
【文献】特開2010-077382(JP,A)
【文献】国際公開第2018/016526(WO,A1)
【文献】特開2021-099912(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粉末と、樹脂成分と、酸化防止剤と、有機溶剤とを含む導電性ペーストであって、
前記樹脂成分は、ポリイミド樹脂を含み、
前記樹脂成分の含有割合が、前記導電性粉末100質量部に対して、4質量部以上36質量部以下であり、
前記酸化防止剤の含有割合が、前記樹脂成分100質量部に対して、0.4質量部以上10.5質量部以下であり、
前記酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤およびホスファイト系酸化防止剤のうち少なくとも一方を含み、
前記酸化防止剤の融点が、120℃以上である、
導電性ペースト。
【請求項2】
前記酸化防止剤の含有割合が、前記樹脂成分100質量部に対して、1質量部以上7質量部以下である、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項3】
前記酸化防止剤の融点が、200℃以上である、請求項1または2に記載の導電性ペースト。
【請求項4】
前記樹脂成分の含有割合が、前記導電性粉末100質量部に対して、8質量部以上25質量部以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の導電性ペースト。
【請求項5】
前記酸化防止剤が少なくとも前記ホスファイト系酸化防止剤を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の導電性ペースト。
【請求項6】
前記酸化防止剤が、前記フェノール系酸化防止剤および前記ホスファイト系酸化防止剤のいずれも含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の導電性ペースト。
【請求項7】
質量基準において、前記ホスファイト系酸化防止剤:前記フェノール系酸化防止剤の比率が、1:4~4:1である、請求項6に記載の導電性ペースト。
【請求項8】
セラミック電子部品の外部電極を形成するために用いられる、請求項1~7のいずれか一項に記載の導電性ペースト。
【請求項9】
セラミック素地と前記セラミック素地内に配設された内部電極とを含む部品本体と、
前記部品本体の表面に備えられる外部電極と、
を備え、
前記外部電極は、請求項8に記載の導電性ペーストの乾燥膜を少なくとも一部に含む、セラミック電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ペーストに関する。また、導電性ペーストの利用に関する。詳細には、導電性ペーストの乾燥膜(導電性膜)を有するセラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化や高性能化に伴い、電子機器に実装される電子部品にも小型化および高性能化が求められている。電子部品では、基材上に電極、電気配線等を形成するために、導電性膜を用いることが広く知られている。導電性膜は、例えば、導電性ペーストを乾燥することによって形成される。導電性ペーストは、典型的には、導電性粉末と、樹脂成分とを含む。例えば、特許文献1には、エポキシ樹脂を含む導電性接着剤が開示されている。また、特許文献2には、樹脂成分を含まない導電性組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-108625号公報
【文献】特開2018-147658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年では、電子機器に更なる高出力化が望まれており、導電性膜に更なる高耐熱性が求められている。従来の導電性膜では、エポキシ樹脂やポリエステル樹脂等の樹脂成分が広く用いられているが、このような樹脂成分を含む導電性膜よりも、さらに耐熱性のある導電性膜の開発が望まれている。
【0005】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、大気雰囲気下(即ち酸素存在下)における耐熱性に優れた導電性膜を形成可能な導電性ペーストを提供することにある。また、他の目的は、当該導電性ペーストの乾燥膜(導電性膜)を備えるセラミック電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、従来使用されている樹脂成分の代わりに、大気中高温下でも分解し難いポリイミド樹脂の採用を検討している。しかしながら、本発明者の検討によれば、ポリイミド樹脂と導電性粉末(例えば銀粉末)とが共存することで、ポリイミド樹脂の酸化分解反応が促進されてしまうという問題点が見出された。これにより、導電性ペーストを乾燥させて形成された導電性膜では、大気雰囲気高温下において、ポリイミド樹脂の酸化が進行することで導電性膜の接着性が低下し、剥離し易くなってしまう(即ち、耐熱性が低下し易くなる)。そこで、本発明者は、ポリイミド樹脂の酸化分解反応を抑制すべく、多種多様な酸化防止剤の使用を検討し、ここで開示される技術を完成させた。
【0007】
即ち、ここで開示される導電性ペーストは、導電性粉末と、樹脂成分と、酸化防止剤と、有機溶剤とを含む。上記樹脂成分は、ポリイミド樹脂を含み、上記樹脂成分の含有割合が、上記導電性粉末100質量部に対して、4質量部以上36質量部以下である。上記酸化防止剤の含有割合は、上記樹脂成分100質量部に対して、0.4質量部以上10.5質量部以下である。そして、上記酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤およびホスファイト系酸化防止剤のうち少なくとも一方を含み、上記酸化防止剤の融点が、120℃以上である。
かかる構成によれば、ここで開示される導電性ペーストから形成される導電性膜(導電性ペーストの乾燥膜)において、ポリイミド樹脂の酸化が好適に抑制されるため、大気雰囲気下における耐熱性に優れた導電性膜を形成可能な導電性ペーストが提供される。
【0008】
また、ここで開示される導電性ペーストの好適な一態様では、上記酸化防止剤の含有割合が、上記樹脂成分100質量部に対して、1質量部以上7質量部以下である。これにより、より耐熱性の高い導電性膜を形成可能な導電性ペーストが提供される。
【0009】
また、ここで開示される導電性ペーストの好適な一態様では、上記酸化防止剤の融点が、200℃以上である。これにより、ポリイミド樹脂の酸化がより好適に抑制され、より耐熱性の高い導電性膜を形成可能な導電性ペーストが提供される。
【0010】
また、ここで開示される導電性ペーストの好適な一態様では、上記樹脂成分の含有割合が、上記導電性粉末100質量部に対して、8質量部以上25質量部以下である。これにより、より耐熱性の高い導電性膜を形成可能な導電性ペーストが提供される。
【0011】
また、ここで開示される導電性ペーストの好適な一態様では、上記酸化防止剤が少なくとも上記ホスファイト系酸化防止剤を含む。ホスファイト系酸化防止剤はポリイミド樹脂の酸化抑制効果が高いため、より耐熱性の高い導電性膜を形成可能な導電性ペーストが提供される。
【0012】
また、ここで開示される導電性ペーストの好適な一態様では、上記酸化防止剤が、上記フェノール系酸化防止剤および上記ホスファイト系酸化防止剤のいずれも含む。フェノール系酸化防止剤とホスファイト系酸化防止剤では、酸化を抑制する反応機構が異なるため、これらを併用することで、ポリイミド樹脂の酸化を効果的に抑制することができる。
【0013】
また、ここで開示される導電性ペーストの好適な一態様では、質量基準において、上記ホスファイト系酸化防止剤:上記フェノール系酸化防止剤の比率が、1:4~4:1である。これにより、ポリイミド樹脂の酸化が好適に抑制され、より耐熱性の高い導電性膜を形成可能な導電性ペーストが提供される。
【0014】
上述のとおり、ここで開示される導電性ペーストにより、高い耐熱性を発揮する導電性膜を形成することができる。このような特性は、例えば、高温環境下で使用されるセラミック電子部品の外部電極に含まれる樹脂電極層や、ボンディング用導電性樹脂を形成するために用いることで、その利点を遺憾無く発揮させることができる。そのため、ここで開示される導電性ペーストの好ましい一態様では、セラミック電子部品の外部電極の樹脂電極層を形成するために用いられる。
【0015】
他の観点から、ここで開示されるセラミック電子部品は、セラミック素地と上記セラミック素地内に配設された内部電極とを含む部品本体と、上記部品本体の表面に備えられる外部電極と、を備える。そして上記外部電極は、上記のいずれかに記載の導電性ペーストから形成される導電性膜(典型的には乾燥膜)を少なくとも一部に含む。これにより、高温環境においても、剥離や破損が生じにくい高い信頼性を有するセラミック電子部品が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】一実施形態に係るセラミック電子部品を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本技術の好適な実施形態について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、導電性ペーストの構成)以外の事柄であって本技術の実施に必要な事柄(例えば、導電性ペーストの調製方法や、ペーストの付加に関する具体的な手法、電子部品の構成等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。また、本技術は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において、数値範囲を「A~B(ここでA、Bは任意の数値)」と記載している場合は、「A以上B以下」を意味すると共に、「Aを超えてB未満」、「Aを超えてB以下」、および「A以上B未満」の意味を包含する。
【0018】
≪導電性ペースト≫
ここで開示される導電性ペーストは、導電性粉末(A)と、樹脂成分(B)と、酸化防止剤(C)と、有機溶剤(D)と、を含んでいる。また、この導電性ペーストを乾燥することで、導電性膜を形成することができる。導電性膜は、導電性粉末(A)と、樹脂成分(B)と、酸化防止剤(C)とを含んでいる。なお、本明細書において「ペースト」とは、組成物、インク、スラリー、サスペンション等を包含する用語である。以下、各成分について順に説明する。
【0019】
(A)導電性粉末
導電性粉末は、導電性ペーストから製造される導電性膜に電気伝導性を付与する成分である。導電性粉末の種類等については特に限定されず、一般的に使用される各種の導電性粉末の中から用途等に応じて1種または2種以上を適宜用いることができる。導電性粉末としては、導電性金属粉末が好ましい例として挙げられる。導電性金属粉末としては、例えば、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、アルミニウム(Al)、タングステン(W)等の金属の単体、およびこれらの混合物や合金等が例示される。このなかでも、化学的に安定で耐熱性に優れている銀や銀合金を好適に用いることができる。
【0020】
導電性粉末を構成する粒子(以下、「導電性粒子」ともいう)の性状、例えば粒子のサイズや形状等は、所望の導電性膜の断面における最小寸法(典型的には、導電性膜の厚みおよび/または幅)に収まる限りにおいて、特に限定されない。導電性粉末の平均粒子径は、例えば10nm~100μmであって、好ましくは1μm~10μmである。なお、本明細書において「平均粒子径」とは、レーザ回折式の粒度分布測定装置により求められる体積基準の粒度分布において、小粒径側から累積50%に相当する粒子径(D50粒子径)のことをいう。
【0021】
導電性粉末のタップ密度は、特に限定されるものではないが、例えば、0.1g/cm~10g/cmであって、好ましくは3g/cm~5g/cmである。かかる範囲であれば、導電性粒子間に適切量の樹脂成分が配置可能となるため、高い電気伝導性と、高い接着性との両立が実現される。なお、タップ密度の測定は、JIS Z2512:2012に規定される金属粉-タップ密度測定方法に準じて測定することができる。
【0022】
導電性粒子の形状は、例えば、球形あるいは非球形であってよい。非球形としては、例えば、板状、鱗片状、フレーク状、不定形状等が挙げられる。導電性粉末は、導電性粉末の密度を向上させる観点等からは、球状であるとよい。また、導電性粉末は、電気伝導性を向上する観点等からは、フレーク状であるとよい。なお、本明細書において「球状」とは、全体として概ね球体(ボール)と見なせる形態を示し、楕円状、多角体状、円盤球状等をも包含する用語である。本明細書において「球状」とは、例えば平均アスペクト比が1.0~2.0、好ましくは1.5以下であることをいう。また、本明細書において「フレーク状」とは、鱗片状、板状等をも包含する用語であり、平均アスペクト比が、概ね2以上、典型的には3以上、例えば5~50、8~40、さらには10~30であることをいう。なお、平均アスペクト比は、電子顕微鏡観察に基づき、無作為に選択した100個の導電性粒子の最小外接長方形の(長辺÷短辺)により算出される値の算術平均として求めることができる。
【0023】
導電性粉末の含有割合は特に限定されないが、導電性ペーストの全体を100質量%としたときに、概ね30質量%以上、典型的には40~95質量%、例えば50~85質量%であるとよい。上記範囲を満たすことで、電気伝導性や緻密性の高い導電性膜を好適に実現することができる。また、ペーストのハンドリング性や、成膜時の作業性を向上することができる。
【0024】
(B)樹脂成分
樹脂成分は、導電性膜と基材との接着性を向上させる成分である。樹脂成分は、ポリイミド樹脂を含む。ポリイミド樹脂は、繰返し単位にイミド結合を含む高分子である。高分子とは、分子量が大きい(例えば、重量平均分子量が1000以上の)分子で、分子量が小さい(例えば、重量平均分子量が500以下の)分子から実質的または概念的に得られる単位(繰返し単位と同意)の多数回(例えば5回以上)の繰り返しで構成した構造を有する。ポリイミド樹脂は、典型的には、以下の式(1)で表される繰り返し単位構造を含む。ここで、式中のRは任意の有機官能基または有機構造であり得る。また、R’は任意の有機官能基、有機構造、または酸素原子であり得る。なお、本明細書において、「ポリイミド樹脂」の記載は、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂等の繰り返し単位にイミド結合を含む高分子を包含し得る。
【0025】
【化1】
【0026】
ポリイミド樹脂は、典型的にはイミド結合を含む繰り返し単位が主鎖を構成する結晶性または非結晶性の高分子である。より接着性の高い導電性膜を形成するとの観点からは、結晶性の高分子であってよい。また、より高い耐熱性を備えるとの観点からは、非結晶性の高分子であってよい。さらに、ポリイミド樹脂は、ホモポリマーの状態で、耐熱温度が250℃以上であるとよく、例えばガラス転移温度については200℃以上であってよく、好ましくは230℃以上、より好ましくは250℃以上であり得る。ポリイミド樹脂において、全繰返し単位のモル数に占める、イミド結合を含む繰り返し単位のモル数の割合は、通常は50%以上(例えば50%~95%)であり、好ましくは65%以上、より好ましくは75%以上、例えば85%以上である。例えば、全繰返し単位が脂肪族又は環状脂肪族を含む単位から構成されていてもよい。
【0027】
ポリイミド樹脂において、イミド結合の繰返し単位の種類は特に限定されない。イミド結合を含む単位としては、これに限定されるものではないが、例えば、s-ODPA、i-ODPA、a-ODPA、2,2’-BAPB、4,4’-BAPB、1,5-NBOA、2,3-NBOA、3,3’-ODA、4,4’-ODA、PMDA、BPDA、BPADA、BTDA、BAFL、2,2-TFMB、1,3,3-APB、1,3,4-APB、DDS等が例示される。これらはいずれか1種が単独であってもよいし、2種以上の任意の組み合わせであってもよい。
【0028】
ポリイミド樹脂は、5%の重量が減少する熱分解温度(TD5)が300℃以上であることが好ましく、より好ましくは350℃以上、さらに好ましくは400℃以上、特に好ましくは450℃以上である。熱分解温度(TD5)が高いほど、導電性膜により高い耐熱性を付与することができる。
【0029】
ポリイミド樹脂は、例えば、JFEケミカル株式会社製、京セラケミカル株式会社製、サビック社製、PI技術研究所製のポリイミド材料のなかから、所望の用途に応じて上記特徴を満たすものを適宜選択して入手することができる。
【0030】
樹脂成分全体を100質量%としたとき、ポリイミド樹脂が占める割合は、例えば50質量%以上であって、好ましくは75質量%以上であり、90質量%以上、95質量%以上、さらには100質量%であり得る。ポリイミド樹脂の割合が高いことで、導電性膜に高い耐熱性を付与することができる。
【0031】
導電性ペーストにおける樹脂成分の含有割合は、導電性粉末100質量部に対して、例えば、4質量部以上であって、好ましくは5質量部以上、より好ましくは8質量部以上、さらに好ましくは10質量部以上、特に好ましくは12質量部以上である。樹脂成分の上記含有割合が低すぎる場合(例えば3質量部以下)には、導電性膜の耐熱性が不十分になる。また、樹脂成分の上記含有割合は、例えば、36質量部以下であって、好ましくは35質量部以下、より好ましくは25質量部以下、さらに好ましくは20質量部以下、特に好ましくは16質量部以下である。樹脂成分の上記含有割合が高すぎる場合(例えば37質量部以上)には、導電性膜の抵抗が高くなりすぎるため、導電性が低下してしまう。
【0032】
樹脂成分は、ポリイミド樹脂に加え、さらにシリコーン樹脂を含み得る。好適には、シリコーン樹脂とポリイミド樹脂とがそれぞれ単体の状態でブレンドして使用される。これにより、導電性膜の耐熱性に加え、導電性膜の接着性をより向上させることができ得る。ポリイミド樹脂とシリコーン樹脂との割合は、例えば、質量基準で95:5~50:50であって、好ましくは90:10~75:25である。
【0033】
また、ここで開示される導電性ペーストは、本技術の効果を著しく損なわない範囲において、他の樹脂成分を含んでいてもよい。そのような樹脂成分としては、ゴム系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリアミド系樹脂、フッ素系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)系樹脂、アクリル系樹脂等の公知の各種の樹脂成分の1種または2種以上であり得る。これら他の樹脂成分が樹脂成分全体に占める割合は、例えば、10質量%以下(好ましくは5質量%以下)であるとよい。
【0034】
(C)酸化防止剤
酸化防止剤は、樹脂成分の酸化による分解を抑制する成分である。ここで開示される導電性ペーストは、導電性膜の耐熱性を向上させるため、従来使用されている樹脂成分(例えばエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂等)よりも耐熱性の高いポリイミド樹脂を含んでいる。しかしながら、ポリイミド樹脂は、導電性粉末と共存することにより、酸化による分解反応が促進されてしまう。そのため、大気雰囲気(酸素存在下)の高温環境下では、ポリイミド樹脂の分解が促進され、導電性膜の接着性が低下する傾向があった。そこで、ここで開示される導電性ペーストは、ポリイミド樹脂と共に、融点が120℃以上のフェノール系酸化防止剤およびホスファイト系酸化防止剤のうち少なくとも一方を含んでいる。これにより、ポリイミド樹脂の酸化が効果的に抑制され、導電性の接着性を維持することができる。即ち、導電性膜に高い耐熱性を付与することができる。
【0035】
詳細なメカニズムは不明だが、融点が120℃以上の酸化防止剤であれば、導電性膜を高温環境下(例えば200℃~300℃)に晒した場合でも、酸化防止剤の流動性が高くなり過ぎないと推定される。これにより、導電性膜内での酸化防止剤の移動(典型的には重力方向への移動)が抑制され、酸化防止剤の導電性膜中における分布が比較的均一に維持されるため、ポリイミド樹脂の酸化を効果的に抑制できると推定される。また、本発明者の検討により、120℃以上の融点を有する酸化防止剤の中でも、フェノール系酸化防止剤およびホスファイト系酸化防止剤が特に効果的にポリイミド樹脂の酸化を抑制することができることが見出された。
【0036】
ここで開示される導電性ペーストで用いられる酸化防止剤の融点は、その値が高いほど、ポリイミド樹脂の酸化を抑制効果が高くなり、導電性膜の耐熱性を向上させることができる。そのため、酸化防止剤の融点は、例えば、120℃以上であって、140℃以上が好ましく、180℃以上がより好ましく、200℃以上がさらに好ましく、230℃以上が特に好ましい。
【0037】
フェノール系酸化防止剤は、芳香族置換基上にヒドロキシ基を持つ構造を有する酸化防止剤である。フェノール系酸化防止剤は、いわゆる一次酸化防止剤として使用され得る。フェノール系酸化防止剤は、ポリイミド樹脂の酸化の連鎖反応の過程で生成されるペルオキシラジカル(ROO・)を捕捉することで、ポリイミド樹脂の酸化を防止することができる。
【0038】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、1,3,5-トリス(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)イソシアヌル酸、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、ブチリデンビス(メチル-ブチルフェノール)、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン等の融点が120℃以上のものが使用され得る。特に、融点が200℃以上であるフェノール系酸化防止剤が好ましく採用され、例えば、1,3,5-トリス(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)イソシアヌル酸、ブチリデンビス(メチル-ブチルフェノール)、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼンが好ましく採用される。
【0039】
ホスファイト系酸化防止剤(リン系酸化防止剤ともいう)は、リン(P)を含む酸化防止剤であり、典型的には、リン(P)に酸素(O)が3つ結合したPOの構造を有している。ホスファイト系酸化防止剤は、いわゆる二次酸化防止剤として使用され得る。ホスファイト系酸化防止剤は、ポリイミド樹脂の酸化の連鎖反応の過程で生成されるヒドロペルオキシド(ROOH)を分解することで、ポリイミド樹脂の酸化を防止することができる。
【0040】
ホスファイト系酸化防止剤としては、例えば、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、2,4,8,10-テトラ-tert-ブチル-6-[(2-エチルヘキサン-1-イル)オキシ]-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、ジエチル(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ホスホネート等の融点が120℃以上のものが使用される。特に、融点が200℃以上のホスファイト系酸化防止剤が好ましく採用され、例えば、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカンが好ましく採用される。
【0041】
導電性ペーストにおける酸化防止剤の含有割合は、樹脂成分100質量部に対して、例えば、0.4質量部以上であって、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは1.5質量部以上である。かかる範囲であれば、樹脂成分の酸化を好適に抑制でき、導電性膜の耐熱性を向上させることができる。また、酸化防止剤の上記含有割合は、例えば、10.5質量部以下であって、好ましくは10質量部以下、より好ましくは7質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下である。酸化防止剤の含有割合が高すぎる場合には、酸化防止剤の樹脂成分に対する相溶性が低下し得るため、酸化防止剤が均一に存在できなくなる場合(所謂、樹脂のブルーム現象が生じる場合)がある。そのため、かかる上限の範囲内であれば、導電性膜の耐熱性を好適に向上させることができる。
【0042】
ここで開示される導電性ペーストは、フェノール系酸化防止剤およびホスファイト系酸化防止剤のうち少なくとも一方を含むが、少なくともホスファイト系酸化防止剤を含むことが好ましい。本発明者の検討によれば、ホスファイト系酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤よりも、ポリイミド樹脂の酸化防止効果が高く、導電性膜の耐熱性をより向上させることができる。
【0043】
また、ここで開示される導電性ペーストは、フェノール系酸化防止剤およびホスファイト系酸化防止剤のいずれも含むことが好ましい。上述のとおり、フェノール系酸化防止剤とホスファイト系酸化防止剤では、酸化を防止する反応機構が異なるので、これらを併用することで、ポリイミド樹脂の酸化を効果的に抑制することができ、導電性膜の耐熱性を向上させることができる。ホスファイト系酸化防止剤とフェノール系酸化防止剤との比率(ホスファイト系酸化防止剤:フェノール系酸化防止剤)は、特に限定されるものではないが、質量基準において、例えば、1:4~4:1であって、1:1~3:1であってよく、1:1~2:1であり得る。
【0044】
(D)有機溶剤
有機溶剤としては、上記のポリイミド樹脂に相溶性を示す溶剤を特に制限なく用いることができる。有機溶剤は、成膜時の作業性や保存安定性等の観点からは、沸点が概ね200℃以上、例えば200~300℃の高沸点有機溶剤を主成分(50体積%以上を占める成分。)とするとよい。有機溶剤の一好適例としては、ターピネオール、テキサノール、ジヒドロターピネオール、ベンジルアルコール等の、-OH基を有するアルコール系溶剤;エチレングリコール、ジエチレングリコール等の、グリコール系溶剤;ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ブチルカルビトール(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)、トリエチレングリコールジメチルエーテル等の、グリコールエーテル系溶剤;イソボルニルアセテート、エチルジグリコールアセテート、ブチルグリコールアセテート、ブチルジグリコールアセテート、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート(ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート)、γ-ブチロラクトン、安息香酸メチル等の、エステル結合基(R-C(=O)-O-R’)を有するエステル系溶剤;トルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤;N-メチルピロリドン(NMP)等の非プロトン性極性溶媒、ミネラルスピリット等が挙げられる。なかでも、上記樹脂成分を好適に溶解するとの観点から、NMPやγ-ブチロラクトン等の有機溶剤を好ましく用いることができる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を適宜混合して用いることができる。
【0045】
有機溶剤(D)の含有割合は特に限定されないが、導電性ペーストの全体を100質量%としたときに、概ね70質量%以下、典型的には5~60質量%、例えば10~50質量%程度であるとよい。上記範囲を満たすことで、ペーストに適度な流動性を付与することができ、成膜時の作業性を向上することができる。また、ペーストのセルフレベリング性を高めて、より滑らかな表面の導電性膜を実現することができる。
【0046】
(E)その他の成分
ここで開示されるペーストは、上記(A)~(D)の成分のみで構成されていてもよく、上記(A)~(D)の成分に加えて、必要に応じて種々の添加成分を含んでいてもよい。添加成分としては、ここで開示される技術の効果を著しく損なわない限りにおいて、一般的な導電性ペーストに使用し得ることが知られているものを適宜用いることができる。その他成分としては、例えば、レベリング剤、消泡剤、増粘剤、可塑剤、pH調整剤、安定剤、分散剤、防腐剤、着色剤(顔料、染料等)、焼結助剤等が挙げられる。
【0047】
導電性ペーストは、上述した材料を所定の含有割合(質量比)となるよう秤量し、均質に撹拌混合することで調製し得る。材料の撹拌混合は、従来公知の種々の攪拌混合装置、例えばロールミル、マグネチックスターラー、プラネタリーミキサー、ディスパー等を用いて行うことができる。また、基材へのペーストの付与は、例えば、チップインディップ法や、ディスペンサー供給法、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷およびインクジェット印刷等の印刷法、スプレー塗布法等を用いて行うことができる。積層セラミック電子部品の外部電極の樹脂電極層を形成する用途では、例えば、ディップ法が好適である。また、積層セラミック電子部品を基板に実装する際のボンディング用途では、例えば、ディスペンサー供給法が好適である。
【0048】
<ペーストの用途>
ここで開示される導電性ペーストによれば、任意の基材上に耐熱性に優れた導電性膜(乾燥膜)を形成することができる。この導電性膜は、導電性ペーストを乾燥によって硬化させ、未焼成の状態で形成され得る。かかる導電性膜は耐熱性が高いため、ここで開示される導電性ペーストは、例えば、従来、焼成などの温度変化に弱いセラミック電子部品の樹脂電極層等を形成するために好適に使用される。また、ここで開示される導電性ペーストは、例えば、セラミック電子部品を基板に実装する際に、ハンダに代わる接着のためのボンディング用導電性樹脂を形成するために用いることもできる。
【0049】
なお、本明細書において、「セラミック電子部品」とは、非晶質のセラミック基材(ガラスセラミック基材)あるいは結晶質(すなわち非ガラス)のセラミック基材を有する電子部品一般を指す用語である。例えば、セラミック製の基材を有するチップインダクタ、高周波フィルター、セラミックコンデンサ、低温焼成積層セラミック基材(Low Temperature Co-fired Ceramics Substrate:LTCC基材)、高温焼成積層セラミック基材(High Temperature Co-fired Ceramics Substrate:HTCC基材)等は、ここでいう「セラミック電子部品」に包含される典型例である。
【0050】
図1は、セラミック電子部品1としての積層セラミックコンデンサ(multi-layer ceramic capacitor:MLCC)の構成を模式的に示す断面図である。セラミック電子部品1は、典型的には、部品本体10と、部品本体10の対向する一対の端面に形成されている外部電極30とを備えている。
【0051】
部品本体10は、複数の内部電極20が誘電体層12を介して積層されている。各誘電体層12は、例えばセラミック誘電体を含むセラミックグリーンシートの積層焼結体(セラミック素地)から構成される。実際のMLCCにおいては、誘電体層12の間の接合境界が視認できない程度に一体化されている。ここで、内部電極20の一部は、部品本体10の端面(図1では左右の端部)に露出されている。
【0052】
外部電極30は、部品本体10の外表面上に配設されている。外部電極30は、部品本体10の対向する一対の端面(図1では左右の端部)のそれぞれに形成されている。外部電極30は、第1の金属電極層32と、導電性膜(樹脂電極層)34と、第2の金属電極層36と、第3の金属電極層38とを有している。
【0053】
第1の金属電極層32は、卑金属である銅(Cu)を主成分として含有し得る。第1の金属電極層32は、内部電極20と物理的且つ電気的に接続されている。第1の金属電極層32は、部品本体10の左右の一対の端面と、そこに連なる4つの側面の外表面に連続して形成されている。第1の金属電極層32は、Cu粉末を含有する導電性ペーストを、部品本体10の一対の端面およびそこに連なる4つの側面の外表面に、塗布して焼き付けることによって形成されている。第1の金属電極層32の厚みは、例えば、10μm~30μmである。
【0054】
導電性膜34は、導電性粉末としての金属粉末(例えば銀粉末)と、ポリイミド樹脂を含む樹脂成分とを含有しており、ここで開示される導電性ペーストを乾燥により硬化させてなる層である。導電性膜34は、第1の金属電極層32の周縁を残して、部品本体10の一対の端面およびそこに連なる4つの側面の外表面に、ここで開示される導電性ペーストを塗布して乾燥させることによって形成されている。ここで、乾燥の温度は、使用するポリイミド樹脂およびその他樹脂成分によって変わり得るものの、おおよそ100℃以上300℃以下である。導電性膜34の厚みは、例えば、20μm~100μmである。これにより、ここで開示される導電性ペーストを硬化させて、外部電極30の一部としての導電性膜34を形成することができる。
【0055】
第2の金属電極層36は、NiあるいはNi合金を主成分として含み得る。第2の金属電極層36は、例えば第1の金属電極層32および導電性膜34の表面をNiめっきすることによって形成されている。第2の金属電極層36の厚みは、例えば、1μm~5μmである。
第3の金属電極層38は、SnあるいはSn合金を主成分として含み得る。第3の金属電極層38は、第2の金属電極層36の表面をSnまたはSn合金でめっき処理することによって形成されている。第3の金属電極層38の厚みは、例えば、1μm~5μmである。
【0056】
以上のようにして、セラミック電子部品1を製造することができる。ここで、外部電極30は、部品本体10の両方の端面に露出された内部電極20に電気的に接続されている。これにより、外部から、一方の外部電極30を通じて内部電極20に送られた電流を、そのまま他方の外部電極30に送ることなく、MLCC内に蓄えて絶縁することができる。また、外部負荷に電流を流すときは、MLCC内に蓄えられた電荷が、順次、外部電極30を通じて外部回路に送られる。このとき、MLCCがあることによって、電源電圧が不安定な場合であっても、安定して外部回路に電荷を供給することができる。このようなMLCCは、外部電極30に耐熱性に優れた導電性膜34を含む。このことにより、MLCCが搭載された電子機器が、高温環境に晒された場合であっても、導電性膜34に含まれるポリイミド樹脂の劣化が抑制されるため、第1の金属電極層32と第2の金属電極層36との接着性を維持し、部品本体10との電気的接続を安定して維持することができる。これにより、高温環境においても高い信頼性を有するセラミック電子部品1が提供される。なお、具体的には示さないが、かかる導電性ペーストは、セラミック電子部品1を基板に実装する場合のボンディングペーストとしても利用できる。
【0057】
以下、本技術に関するいくつかの実施例を説明するが、本技術を係る実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0058】
<試験1:樹脂成分および酸化防止剤の種類の検討>
[導電性ペーストの調製]
表1に示す配合で、導電性粒子と、樹脂成分と、溶剤と、酸化防止剤とを混合し、三本ローラーで混錬することで、例1~11で使用する導電性ペーストを調製した。なお、表1の配合比は、導電性粒子を100質量部としたときの割合(質量部)を示す。ただし、酸化防止剤は樹脂成分量を100質量部としたときの割合も併せて示している。
導電性粒子としては、平均粒子径が4.6μmのフレーク状のAg粉末(タップ密度4.3g/cm)を用いた。有機溶剤としては、γ-ブチロラクトンを用いた。なお、具体的には示さないが、導電性粒子および有機溶剤の種類を変更しても、後述する耐熱性評価および導電性評価に大幅な違いは見られないことを確認している。
【0059】
樹脂成分としては、以下の3種類を準備し、各例において表1に示す通りに用いた。なお、下記のTD1,TD5は、それぞれ1%,5%重量減少温度を、Tgはガラス転移温度を、意味する。
「ポリイミド樹脂」:溶剤可溶性ポリエーテルイミド樹脂(Tg:260℃、TD1:400℃、TD5:450℃)
「エポキシ樹脂」:液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂
「シリコーン樹脂」:1液型熱硬化性シリコーン樹脂
【0060】
酸化防止剤としては、以下の8種類を準備し、各例において表1に示す通りに用いた。
「フェノール系酸化防止剤A」:融点:52℃、分子量:531
「フェノール系酸化防止剤B」:融点:244℃、分子量:755
「ホスファイト系酸化防止剤A」:融点:56℃、分子量:733
「ホスファイト系酸化防止剤B」:融点:122℃、分子量:356
「ホスファイト系酸化防止剤C」:融点:147℃、分子量:583
「ホスファイト系酸化防止剤D」:融点:237℃、分子量:633
「チオエーテル系酸化防止剤A」:融点:237℃、分子量:633
「チオエーテル系酸化防止剤B」:融点:140℃、分子量:471
【0061】
[導電性膜の耐熱性の評価]
調製した各例の導電性ペーストを、基板に塗膜した後、130℃で15分間乾燥させ、さらに280℃で90分間乾燥させることで、導電性膜を形成した。導電性膜を基板から剥離させ、1cm×4cmの幅広面を有する試験片として切り出し、かかる試験片の重量(初期重量)を測定した。その後、かかる試験片を大気雰囲気下、250℃の加熱炉で100時間加熱した。そして、加熱後の試験片の重量(加熱後重量)を測定した。初期重量と加熱後重量の差を樹脂成分が分解した量と仮定し、以下の式により、樹脂成分の減少率を算出した。
式:試験片中の樹脂成分の減少率(%)=((初期重量-加熱後重量)/初期重量×導電性膜の樹脂成分比率)×100
そして、試験片中の樹脂成分の減少率を以下のように評価し、その結果を表1に示す。
評価「◎」:3%未満
評価「〇」:3%以上10%未満
評価「△」:10%以上15%未満
評価「×」:15%以上
【0062】
[導電性膜の導電性の評価]
調製した各例の導電性ペーストをガラス板に厚さ20μm、2cm×2cmの大きさになるように塗膜した。その後、130℃で15分間乾燥させ、さらに280℃で90分間乾燥させることで、導電性膜を形成した。そして、形成した導電性膜の体積抵抗率(Ω・cm)を四探針法により測定した。導電性を以下のように評価し、その結果を表1に示す。
評価「〇」:1×10-4Ω・cm以下
評価「×」:1×10-4Ω・cmより大きい
【0063】
[総合評価]
各例において、耐熱性の評価が「◎」かつ導電性の評価が「〇」の場合を総合評価「◎」、耐熱性および導電性の評価がいずれも「〇」の場合を総合評価「〇」、耐熱性および導電性の評価のいずれかが「△」または「×」である場合を総合評価「×」として、結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示すように、例1~5では、樹脂成分としてポリイミド樹脂を使用し、酸化防止剤として、融点120℃以上のフェノール系酸化防止剤またはホスファイト系酸化防止剤を含む導電性ペーストを使用することで、優れた耐熱性を有した導電性膜を製造することができた。特に、例4、5で特に優れた耐熱性を示したことから、融点の高い酸化防止剤が耐熱性をより向上させることがわかる。また、例1と例4を比較すると、耐熱性向上の観点から、フェノール系酸化防止剤よりもホスファイト系酸化防止剤の方がより好適であることがわかる。また、例5に示すように、樹脂成分としてポリイミド樹脂とシリコーン樹脂を併用する場合でも優れた耐熱性を示すことがわかる。
【0066】
一方で、酸化防止剤を含まない例6、フェノール系酸化防止剤またはホスファイト系酸化防止剤であるが融点が120℃未満である酸化防止剤を使用した例7、8では耐熱性が不十分であった。これにより、フェノール系酸化防止剤またはホスファイト系酸化防止剤の融点が120℃以上であることで、耐熱性を向上させることができることがわかる。
【0067】
また、チオエーテル系酸化防止剤を使用した例9、10では、チオエーテル系酸化防止剤の融点に関わらず、耐熱性が不十分であった。これにより、酸化防止剤としてフェノール系酸化防止剤またはホスファイト系酸化防止剤を使用することが、耐熱性の向上に好適であることがわかる。
【0068】
また、樹脂成分としてエポキシ樹脂を使用した例11では、耐熱性が不十分であった。これにより、ポリイミド樹脂が耐熱性向上に好適に用いられることがわかる。
【0069】
なお、試験1では、例1~11いずれも導電性評価は良好であった。
【0070】
<試験2:酸化防止剤の含有割合の検討>
好適な酸化防止剤の一例として、ホスファイト系酸化防止剤Dを用いて、酸化防止剤の含有割合と耐熱性との相関について検討した。試験2では、例4で用いた導電性ペーストの調製のうち、樹脂成分100質量部に対するホスファイト系酸化防止剤Dの割合を変更し、例12~17で用いる導電性ペーストを調製した。例12~17で用いる導電性ペーストのホスファイト系酸化防止剤Dの割合は表2のとおりである。なお、ホスファイト系酸化防止剤Dの割合を変更した以外は、例4と同様にして例12~17で用いる導電性ペーストを調製した。また、試験1と同様にして、耐熱性および導電性を評価した。結果を表2に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
表2に示すとおり、酸化防止剤の含有割合が、樹脂成分100質量部に対して、0.3質量部と少なすぎる場合(例12)や、11質量部と多すぎる場合(例17)には、耐熱性が不十分であった。これにより、酸化防止剤の含有割合は、樹脂成分を100質量部としたとき、0.4質量部以上10.5質量部以下の範囲であることで、好適に導電性膜の耐熱性を向上させることができることがわかる。また、例4、14、15で、特に優れた耐熱性が確認されたことから、酸化防止剤の含有割合は、樹脂成分を100質量部としたとき、1質量部以上7質量部以下の範囲がより好適であることがわかる。なお、酸化防止剤の含有割合に関わらず、導電性は良好であることがわかる。
【0073】
<試験3:ポリイミド樹脂の含有割合の検討>
ポリイミド樹脂の含有割合と耐熱性および導電性との相関について検討した。試験3では、例4で用いた導電性ペーストの調製のうち、導電性粒子100質量部に対するポリイミド樹脂の含有割合を変更し、例18~21で用いる導電性ペーストを調製した。例18~21で用いる導電性ペーストのポリイミド樹脂の含有割合は表3のとおりである。また、酸化防止剤の含有割合は、各例において樹脂成分100質量部に対して約1.5質量部となるように調整した。なお、これら以外は、例4と同様にして、例18~21で用いる導電性ペーストを調製した。そして、試験1と同様にして、耐熱性および導電性を評価した。結果を表3に示す。
【0074】
【表3】
【0075】
表3に示すとおり、ポリイミド樹脂の含有割合が、導電性粒子100質量部に対して、3質量部と少なすぎる場合(例18)には、耐熱性が不十分であることがわかる。一方で、ポリイミド樹脂の含有割合が、導電性粒子100質量部に対して、37質量部と多すぎる場合(例21)には、耐熱性は良好である一方で、導電性が低下することがわかる。これにより、ポリイミド樹脂の含有割合は、導電性粒子100質量部に対して、4質量部以上36質量部以下が好適であることがわかる。また、例4が特に優れた耐熱性を示したことから、ポリイミド樹脂の含有割合は、導電性粒子100質量部に対して、概ね8質量部以上25質量部以下がより好適であることがわかる。
【0076】
<試験4:フェノール系酸化防止剤およびホスファイト系酸化防止剤の併用の検討>
試験1で耐熱性向上の効果が見られたフェノール系酸化防止剤Bと、ホスファイト系酸化防止剤Dとを併用した導電性ペーストを調製し、例22および例23に用いた。各例の配合比は表4の通りである。なお、酸化防止剤の配合比以外は、例4と同様にして、例22、23で用いる導電性ペーストを調製した。そして、試験1と同様にして、耐熱性および導電性を評価した。結果を表4に示す。
【0077】
【表4】
【0078】
表4に示すとおり、フェノール系酸化防止剤とホスファイト系酸化防止剤とを併用した場合に、フェノール系酸化防止剤を単独で使用した場合よりもさらに優れた耐熱性が実現されることがわかる。また、質量基準において、フェノール系酸化防止剤:ホスファイト系酸化防止剤の比率が少なくとも1:1~1:2の範囲であるとき、優れた耐熱性が実現されることがわかる。
【0079】
以上、ここで開示される技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0080】
1 セラミック電子部品
10 部品本体
20 内部電極
30 外部電極
32 第1の金属電極層
34 導電性膜
36 第2の金属電極層
38 第3の金属電極層
図1