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特許7573565表示を有するフィルムコーティング錠及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】表示を有するフィルムコーティング錠及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/04 20060101AFI20241018BHJP
   A61K 9/44 20060101ALI20241018BHJP
   B41M 3/06 20060101ALN20241018BHJP
   B41J 2/01 20060101ALN20241018BHJP
【FI】
A61K47/04
A61K9/44
B41M3/06 Z
B41J2/01 501
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022079624
(22)【出願日】2022-05-13
(65)【公開番号】P2022177811
(43)【公開日】2022-12-01
【審査請求日】2023-08-01
(31)【優先権主張番号】P 2021083687
(32)【優先日】2021-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000209049
【氏名又は名称】沢井製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】菊岡 広晃
(72)【発明者】
【氏名】山上 哲史
(72)【発明者】
【氏名】前田 和亮
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠馬
(72)【発明者】
【氏名】菅田 光涼
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-200366(JP,A)
【文献】特開2005-220014(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素錠と、前記素錠の少なくとも一部を覆うフィルムと、を備え、
前記フィルムはフィルム基剤とシリカとを含み、
前記フィルムは、可食性の顔料若しくは染料を含む印字又は模様を表面に有し、
前記シリカは、多孔性のシリカであり、且つ嵩密度が0.145g/cm 以下のシリカ微粒子であり、
前記フィルム基剤に対して、0重量%より多く、10重量%以下のシリカを含む、錠剤。
【請求項2】
素錠の少なくとも一部に、フィルム基剤とシリカとを含むフィルムコーティング液を付着させて、固化してフィルムを形成し、
前記フィルムの表面に可食性の顔料若しくは染料を含むインクを吐出して、印字又は模様を形成する、ことを含み、
前記シリカは、多孔性のシリカであり、且つ嵩密度が0.145g/cm 以下のシリカ微粒子であり、
前記フィルム基剤に対して、0重量%より多く、10重量%以下のシリカを含む、
錠剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、表示を有するフィルムコーティング錠に関する、または、本発明の一実施形態は、表示を有するフィルムコーティング錠の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品のコンプライアンス向上や医療過誤防止のため、表面に薬効成分名やその含有量などの情報が直接表示された錠剤が広く用いられている。錠剤の表面に情報を表示させる方法としては、レーザー印刷やインク印刷が挙げられる。インク印刷は、視認性やインクの色が調整可能である点でレーザー印刷より優れている。従来は、ロール式のグラビア・オフセット印刷法が主流であったが、インクのにじみ・かすれ・転写汚れ不良などの問題から歩留まりに課題があり、精細な文字を印字可能なインクジェット印刷が、近年多用されている。
【0003】
インクジェット印刷に用いられるインクには染料系と顔料系の2種がある。染料系インクは色を重ねて多彩な色を表現できるが、にじみやすい欠点がある。一方、顔料系インクはにじみが比較的生じにくいが、色の重ね合わせができず、外的衝撃や指の油分等によって印字が擦れるという問題があった(特許文献1及び非特許文献1)。
【0004】
上記の課題を解決するための試みとして、例えば、特許文献1では、コーティング層にビニルアルコールユニットを主鎖、または側鎖に有する高分子を含むことにより印字の擦れを抑制する方法が提案されている。また、特許文献2においては、フィルムコーティング錠の表面に施される印刷の印刷性および耐摩耗性を改善するために、印刷前に表面をポリエチレングリコール含有水溶液で処理することが提案されている。
【0005】
一方で、特許文献1に記載されたポリビニルアルコール系基剤は、曳糸性や粘着性が強いために、コーティング中にノズルが詰まる問題や、コーティングした錠剤表面が平滑にならずに外観が劣る問題、コーティング中に固形製剤同士が付着してしまうといった問題が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2020-132600号公報
【文献】特許第4999329号公報
【文献】特開2013-253030号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】北村 雅弘ら、「錠剤印刷技術の進化(前編)」、PHARMATECH JAPAN、株式会社じほう、2013年、第29巻、9号、p.50~53
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題を解決するものであって、顔料系インクを用いたインクジェット印刷の擦れの抑制又は染料系インクを用いたインクジェット印刷のにじみを改善したフィルムコーティング錠を提供することを目的の一つとする。または、一実施形態において、顔料系インクを用いたインクジェット印刷の擦れの抑制又は染料系インクを用いたインクジェット印刷のにじみを改善したフィルムコーティング錠の製造方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態によると、素錠と、前記素錠の少なくとも一部を覆うフィルムと、を備え、前記フィルムはフィルム基剤とシリカとを含み、前記フィルムは、可食性の顔料若しくは染料を含む印字又は模様を表面に有する、錠剤が提供される。
【0010】
前記シリカは、多孔性のシリカであってもよい。
【0011】
前記シリカは、嵩密度が0.145g/cm以下のシリカ微粒子であってもよい。
【0012】
前記フィルム基剤に対して、0重量%より多く、10重量%以下のシリカを含んでもよい。
【0013】
前記フィルム基剤に対して、0重量%より多く、50重量%以下のシリカを含んでもよい。
【0014】
本発明の一実施形態によると、素錠の少なくとも一部に、フィルム基剤とシリカとを含むフィルムコーティング液を付着させて、固化してフィルムを形成し、前記フィルムの表面に可食性の顔料若しくは染料を含むインクを吐出して、印字又は模様を形成する、錠剤の製造方法が提供される。
【0015】
前記シリカは、多孔性のシリカであってもよい。
【0016】
前記シリカは、嵩密度が0.145g/cm以下のシリカ微粒子であってもよい。
【0017】
前記フィルム基剤に対して、0重量%より多く、10重量%以下のシリカを含んでもよい。
【0018】
前記フィルム基剤に対して、0重量%より多く、50重量%以下のシリカを含んでもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一実施形態によると、顔料系インクを用いたインクジェット印刷の擦れの抑制又は染料系インクを用いたインクジェット印刷のにじみを改善したフィルムコーティング錠が提供される。または、一実施形態によると、顔料系インクを用いたインクジェット印刷の擦れの抑制又は染料系インクを用いたインクジェット印刷のにじみを改善したフィルムコーティング錠の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】(a)は本発明の一実施形態に係る錠剤10を示す斜視図であり、(b)は錠剤10の上面図であり、(c)は(b)の線分AA’における錠剤10の断面端図である。
図2】(a)は本発明の一実施形態に係る錠剤20を示す斜視図であり、(b)は錠剤20の上面図であり、(c)は(b)の線分AA’における錠剤20の断面端図である。
図3】(a)は印刷直後の比較例1の錠剤であり、(b)は保存後の比較例1の錠剤であり、(c)は印刷直後の実施例1の錠剤であり、(d)は保存後の実施例1の錠剤である。
図4】(a)は印刷直後の比較例2の錠剤であり、(b)は指で5回擦った比較例2の錠剤であり、(c)は印刷直後の実施例2の錠剤であり、(d)は指で5回擦った実施例2の錠剤である。
図5】(a)は印刷直後の実施例3の錠剤であり、(b)は指で5回擦った後の実施例3の錠剤であり、(c)は印刷直後の実施例4の錠剤であり、(d)は指で5回擦った後の実施例4の錠剤であり、(e)は印刷直後の実施例5の錠剤であり、(f)は指で5回擦った後の実施例5の錠剤である。
図6】(a)は印刷直後の実施例6の錠剤であり、(b)は指で5回擦った後の実施例6の錠剤であり、(c)は印刷直後の実施例7の錠剤であり、(d)は指で5回擦った後の実施例7の錠剤である。
図7】(a)は印刷直後の比較例3の錠剤であり、(b)は指で5回擦った後の比較例3の錠剤であり、(c)は印刷直後の比較例4の錠剤であり、(d)は指で5回擦った後の比較例4の錠剤であり、(e)は印刷直後の比較例5の錠剤であり、(f)は指で5回擦った後の比較例5の錠剤である。
図8】(a)は印刷直後の比較例6の錠剤であり、(b)は指で5回擦った後の比較例6の錠剤であり、(c)は印刷直後の比較例7の錠剤であり、(d)は指で5回擦った後の比較例7の錠剤であり、(e)は印刷直後の比較例8の錠剤であり、(f)は指で5回擦った後の比較例8の錠剤である。
図9】(a)は印刷直後の比較例9の錠剤であり、(b)は指で5回擦った後の比較例9の錠剤である。
図10】(a)は印刷直後の実施例8の錠剤であり、(b)は指で5回擦った後の実施例8の錠剤であり、(c)は印刷直後の実施例9の錠剤であり、(d)は指で5回擦った後の実施例9の錠剤である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明者らが検討した結果、錠剤の表面(印字面)にシリカ、特に多孔性のシリカを配置することにより、顔料系インクを用いたインクジェット印刷での印字の擦れを抑制し、染料系インクを用いたインクジェット印刷での印字のにじみを改善できることが明らかとなった。フィルムにシリカを含有することによる印字の擦れを抑制、又は印字のにじみの改善は、本願発明により初めて提案されたものであり、従来にない新規なアプローチである。
【0022】
以下、本発明に係る印字を有する錠剤及びその製造方法について詳細に説明する。ただし、本発明の印字を有する錠剤及びその製造方法は、以下に示す実施形態及び実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0023】
図1(a)は、本発明の一実施形態に係る錠剤10を示す斜視図である。図1(b)は、錠剤10の上面図である。図1(c)は、図1(b)の線分AA’における錠剤10の断面端図である。表示を有する錠剤10は、錠剤11と、錠剤11の表面13に配置された表示15を有する。錠剤11は、素錠1と、素錠1の少なくとも一部を覆うフィルム3を含む。フィルム3は、好ましくは、素錠1の全体を覆う。フィルム3の表面には、印字15a又は模様15bが配置される。
【0024】
[素錠]
本実施形態において、素錠1は、公知の円盤状、楕円形又は長方形の錠剤であってもよく、特には限定されない。また、素錠1にフィルム3を配置可能な範囲であれば、素錠1の大きさは、特には限定されない。素錠1に含まれる活性成分及び添加剤も公知の活性成分及び医薬的に許容される添加剤であってもよく、特には限定されない。また、素錠1は、即放性錠剤、腸溶性錠剤、口腔内崩壊錠、チュアブル錠、発泡錠、分散錠、溶解錠、トローチ錠、舌下錠又はバッカル錠を用いることができる。素錠1は、二層錠や三層以上の多層錠であってもよく、有核錠であってもよい。
【0025】
さらに、素錠1は、医薬品に限定されず、ビタミン等を含む栄養補助食品や、ラムネ等のタブレット状の菓子であってもよい。または、素錠1は、タブレット状の入浴剤であってもよい。
【0026】
素錠1の製造方法は特には限定されず、公知の錠剤の製造方法を用いることができる。素錠1の製造方法として、湿式造粒法、乾式造粒法及び直打法の何れを用いてもよい。
【0027】
[フィルム]
本実施形態に係るフィルム3は、フィルム基剤とシリカとを含む。また、フィルム3は、可塑剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味剤及び着色剤等から選択される1つ以上の添加剤をさらに含んでもよい。また、フィルム3を形成するために用いるコーティング液には、これらの添加剤を溶解又は分散させるための溶剤を含むことができる。
【0028】
フィルム3が含むシリカとしては、多孔性のシリカが好ましい。本明細書において、「多孔性のシリカ」とは、嵩密度が0.25g/cm以下のシリカ微粒子を意味するものとする。フィルム3が含む多孔性のシリカは、0.05g/cm以上0.145g/cm以下のシリカ微粒子が好ましく、より好ましくは、0.05g/cm以上0.06g/cm以下のシリカ微粒子である。多孔性のシリカとしては、例えば、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム及びメタケイ酸アルミン酸マグネシウムが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
フィルム3が含むフィルム基剤は、フィルム3に含まれるシリカにインクが吸着するのを妨げない限り、特には限定されない。フィルム3が含むフィルム基剤としては、例えば、乳糖水和物、白糖、マルトース、果糖、ブドウ糖、麦芽糖、トレハロース及びデキストリン、プルラン等の糖類、マンニトール、マルチトール、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール及びラクチトール等の糖アルコール、デンプン、アルファ化デンプン及び部分アルファ化デンプン等のデンプン類、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、エチルセルロース、カルメロース及び結晶セルロース等のセルロース類、ポリビニルアルコール、部分けん化ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマー及び部分けん化された酢酸ビニルとアクリル酸とメタクリル酸エステルの共重合体、及び、無水リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウム及び硫酸カルシウムなどの無機化合物等から選択される少なくとも1つを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
フィルム3が含む可塑剤としては、例えば、クエン酸トリエチル、グリセリン脂肪酸エステル、トリアセチン、プロピレングリコール及びモノステアリン酸グリセリン等の低分子化合物、及び、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びエチレングリコールとラクチドとの共重合体等の高分子等から選択される少なくとも1つを用いることができる。
【0031】
フィルム3が含む崩壊剤としては、例えば、クロスポビドン、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスカルメロースナトリウム及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等から選択される少なくとも1つを用いることができる。
【0032】
フィルム3が含む滑沢剤としては、例えば、タルク、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、ホウ酸、パラフィン、ココアバター、ポリエチレングリコール、ロイシン及び安息香酸ナトリウム等から選択される少なくとも1つを用いることができる。
【0033】
フィルム3が含む矯味剤としては、例えば、エリスリトール、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、ステビア、タウマチン及びクエン酸等から選択される少なくとも1つを用いることができる。
【0034】
フィルム3が含む着色剤としては、例えば、三二酸化鉄や黄色三二酸化鉄、アルミニウムレーキ及びタール色素等から選択される少なくとも1つを用いることができる。
【0035】
フィルム3が含有する上記の添加剤の含有量は、特には限定されず、所望の特性を有するコーティングを形成できる範囲で任意に設定可能である。なお、フィルム3は、シリカを所望の特性を有するコーティングを形成できる範囲、且つ印字15a又は模様15bが安定して配置可能な範囲の量で含むことができる。一実施形態において、フィルム3のフィルム基剤に対して、0重量%より多く、50重量%以下、好ましくは10重量%以下のシリカを含むことができる。フィルム3のフィルム基剤に対して、100重量%以上のシリカを含む場合、フィルム3が素錠1から剥離し、表示15を配置することができない。
【0036】
フィルム3を形成するために用いるコーティング液が含む溶剤としては、例えば、水、あるいはエタノールやエチレングリコールなどのアルコール、又は水とアルコールの混合溶剤を用いることができる。
【0037】
コーティング液の調製方法は、特には限定されず、溶剤に上記の添加剤を溶解又は分散させて、コーティング液を調製することができる。また、素錠1の少なくとも一部に、シリカを含むフィルムコーティング液を付着させて、固化してフィルム3を形成することができる。
【0038】
[インク]
印字15a又は模様15bを配置するために用いるインクは、インクジェット印刷用のインクであり、医薬品用途若しくは食品用途に用いることが可能な顔料系インク又は染料系インクである。印字15a又は模様15bを配置するために用いるインクは、可食性の顔料若しくは染料を含む。したがって、印字15a又は模様15bは、可食性の顔料若しくは染料を含む。
【0039】
顔料系インクは、例えば、可食性顔料、水、低級アルコール、分散剤及び可塑剤を含有することができる。
【0040】
可食性顔料としては、例えば、カーボンブラック、食用赤色2号アルミニウムレーキ、食用赤色3号アルミニウムレーキ、食用赤色40号アルミニウムレーキ、食用黄色4号アルミニウムレーキ、食用黄色5号アルミニウムレーキ、食用青色1号アルミニウムレーキ、食用青色2号アルミニウムレーキ、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄及び黒酸化鉄等から選択される少なくとも1つを用いることができる。
【0041】
低級アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ブタノール及び2-ブタノール等から選択される少なくとも1つを用いることができる。
【0042】
分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコールポリエチレングリコールグラフトコポリマー及びアクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー分散液等から選択される少なくとも1つを用いることができる。
【0043】
可塑剤としては、例えば、ゴマ油、ヒマシ油、綿実油、ダイズ油、オリブ油、ナタネ油、オレイン酸、ジメチルポリシロキサン・二酸化ケイ素混合物、中鎖脂肪酸トリグリセリド、クエン酸トリエチル、トリアセチン、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル及びブチルフタリルブチルグリコレート等から選択される少なくとも1つを用いることができる。
【0044】
顔料系インクが含む可食性顔料及び上記の添加剤の含有量は、インクジェット印刷が可能な範囲で任意に調整可能である。
【0045】
染料系インクは、例えば、可食性染料、水、表面張力調整剤、湿潤剤、水溶性樹脂、有機アミン、界面活性剤、pH調整剤、キレート化剤、防腐剤、粘度調整剤及び消泡剤等を含む。
【0046】
可食性染料としては、例えば、アゾ系染料、トリフェニルメタン系染料、キサンテン系染料及びインジゴイド系染料等の食用合成色素、及び、コチニール色素、銅クロロフィリンナトリウム及びカカオ色素及びカラメル色素等の食用天然色素等から選択される少なくとも1つを用いることができる。
【0047】
表面張力調整剤としては、例えば、カプリル酸デカグリセリル、ラウリン酸ヘキサグリセリンエステル、オレイン酸ヘキサグリセリンエステル、縮合リノレン酸テトラグリセリンエステル、脂肪酸エステルヤシパーム、及び、HLBが15以下のラウリン酸デカグリセリル及びHLBが13未満のオレイン酸デカグリセリル等から選択される少なくとも1つを用いることができる。
【0048】
湿潤剤としては、例えば、プロピレングリコール及びグリセリン等から選択される少なくとも1つを用いることができる。
【0049】
染料系インクが含む可食性染料及び上記の添加剤の含有量は、インクジェット印刷が可能な範囲で任意に調整可能である。
【0050】
本実施形態において、フィルム3の表面に印字15a又は模様15bを配置する方法としては、インクジェット印刷法を用いることができる。フィルム3の表面に可食性の顔料若しくは染料を含むインクを吐出して、印字15a又は模様15bを形成することができる。本発明においては、錠剤1を覆うフィルム3にシリカ、特に多孔性のシリカを含むことにより、可食性の顔料系インクを用いたインクジェット印刷での印字の定着性を向上させ、外的衝撃や指の油分等による印字の擦れを抑制することができる。また、可食性の染料がシリカに吸着することにより、フィルム3での可食性の染料の拡散を防止することにより、可食性の染料系インクを用いたインクジェット印刷での印字のにじみを改善することができる。
【0051】
インクの定着性の改善の目的として、インクジェット印刷用の用紙の表面に多孔性粒子を含むコート層を配置する技術は知られている。しかし、医薬品や食品などへ印刷を施すときは可食性のインクを用いる必要があるが、可食性のインクを用いたインクジェット印刷での印字の定着性や印字のにじみについての検討はあまり多くはなく、インクに結着剤を配合するなどのインクについてのみの検討が殆どである。医薬品や食品として用いる錠剤において、フィルムの特性の観点から、フィルムにシリカを添加する例は殆どなく、さらに、フィルムにシリカを添加していたとしても、コーティング中の流動性改善や錠剤同士の付着防止のために用いられるのが通常であって、インクジェット印刷で生じる問題点を解決するために可食性インクと錠剤をコートするフィルムに含むシリカとを組合せることは、本願発明において、初めて見出したものである。
【0052】
[錠剤の変形例]
上述した実施形態においては、素錠を覆うフィルムにシリカを含む例を説明したが、素錠にシリカを含むことにより、印字の定着性を向上させ、印字のにじみを改善させることも可能である。
【0053】
図2(a)は、本発明の一変形例に係る錠剤20を示す斜視図である。図2(b)は、錠剤20の上面図である。図2(c)は、図2(b)の線分AA’における錠剤20の断面端図である。表示を有する錠剤20は、錠剤21と、錠剤21の表面23に配置された表示25を有する。錠剤21の表面には、印字25a又は模様25bが配置される。
【0054】
一実施形態において、錠剤21はシリカを含み、多孔性のシリカを含むことが好ましい。「多孔性のシリカ」の定義は上述したとおりである。一実施形態において、錠剤21は1錠に対して0重量%よりも多く、5重量%以下のシリカを含むことができる。シリカは、錠剤21の全体に配置されていてもよく、錠剤21の表面に多く配置されるような濃度分布を有してもよい。錠剤21はシリカを含むことにより、錠剤の硬度を高めることもできる。また、多孔性のシリカを担体として用いた薬物固体分散体粒子を形成して、打錠した錠剤21を用いることもできる。
【実施例
【0055】
[素錠]
以下の実施例で用いた素錠は、公知の方法で製造した。
【0056】
[実施例1]
実施例1として、ヒプロメロース(TC-5(登録商標)E、信越化学工業株式会社)41.5g、マクロゴール6000(日油株式会社)5.5g、酸化チタン(NA61、東邦チタニウム株式会社)4g、タルク(クラウンタルク、松村産業株式会社)4g、軽質無水ケイ酸(アドソリダー(登録商標)101、フロイント産業株式会社、嵩密度:0.056g/cm)4g、三二酸化鉄及び黄色三二酸化鉄を各微量、水に分散させて、実施例1のコーティング液を調製した。コーティング機(HC-LABO20、フロイント産業株式会社)を用いて、270mgの素錠にコーティング液をコーティングして、1錠あたりシリカが0.8mg含まれる281.8mgの実施例1のフィルムコート錠を得た。なお、実施例1においては、フィルム基剤に対して、10重量%のシリカを含有する。
【0057】
[比較例1]
軽質無水ケイ酸を添加しなかったこと以外は実施例1と同様に、比較例1のコーティング液を調製した。実施例1と同様に、270mgの素錠にコーティング液をコーティングして、281.0mgの比較例1のフィルムコート錠を得た。
【0058】
実施例1及び比較例1のフィルムコート錠に、染料系インク(Black No.1、クオリカプス株式会社)を用いて、インクジェット印刷を行った。印刷直後の比較例1の錠剤を図3(a)に示し、実施例1の錠剤を図3(c)に示す。実施例1及び比較例1の錠剤を25℃、75%RHで2週間保存した。保存後の比較例1の錠剤を図3(b)に示し、実施例1の錠剤を図3(d)に示す。
【0059】
比較例1の錠剤では、多湿条件下での保存により印字の滲みが認められた。一方、フィルムにシリカを含む実施例1の錠剤においては、保存後でも顕著な印字の滲みは認められず、シリカが滲みの抑制効果を示すことが明らかとなった。
【0060】
[実施例2]
実施例2として、ヒプロメロース(TC-5(登録商標)E、信越化学工業株式会社)52.5g、マクロゴール6000(日油株式会社)5g、酸化チタン(NA61、東邦チタニウム株式会社)5g、タルク(クラウンタルク、松村産業株式会社)5g、軽質無水ケイ酸(アドソリダー(登録商標)101、フロイント産業株式会社、嵩密度:0.056g/cm)2.5gを水に分散させて、実施例2のコーティング液を調製した。コーティング機(HC-LABO20、フロイント産業株式会社)を用いて、366mgの素錠にコーティング液をコーティングして、1錠あたりシリカが0.5mg含まれる380.0mgの実施例2のフィルムコート錠を得た。なお、実施例2においては、フィルム基剤に対して、5重量%のシリカを含有する。
【0061】
[比較例2]
軽質無水ケイ酸を添加せずに、ヒプロメロースを55gに変更したこと以外は実施例2と同様に、比較例2のコーティング液を調製した。実施例2と同様に、366mgの素錠にコーティング液をコーティングして、380.0mgの比較例2のフィルムコート錠を得た。
【0062】
実施例2及び比較例2のフィルムコート錠に、顔料系インク(No.101・黒、クオリカプス株式会社)を用いて、インクジェット印刷を行った。印刷直後の比較例2の錠剤を図4(a)に示し、実施例2の錠剤を図4(c)に示す。実施例2及び比較例2の錠剤を指で5回擦った。指で擦った比較例2の錠剤を図4(b)に示し、実施例2の錠剤を図4(d)に示す。
【0063】
比較例2の錠剤では、指で擦ったことにより印字の大部分が消えたことが認められた。一方、フィルムにシリカを含む実施例2の錠剤においては、指で擦っても判読可能な程度に印字が残ることが認められ、シリカが印字の定着性を向上させることが明らかとなった。
【0064】
[実施例3]
実施例3として、シリカをコロイド状シリカに変更した。ヒプロメロース(TC-5(登録商標)E、信越化学工業株式会社)54.5g、マクロゴール6000(日油株式会社)5g、酸化チタン(NA61、東邦チタニウム株式会社)5g、タルク(クラウンタルク、松村産業株式会社)5g、コロイド状シリカ(サイリシア(登録商標)320、富士シリシア化学株式会社、嵩密度:0.056g/cm)0.5gを水に分散させて、実施例2のコーティング液を調製した。コーティング機(HC-LABO20、フロイント産業株式会社)を用いて、366mgの素錠にコーティング液をコーティングして、1錠あたりシリカが0.1mg含まれる380.0mgの実施例3のフィルムコート錠を得た。なお、実施例3においては、フィルム基剤に対して、1重量%のシリカを含有する。
【0065】
[実施例4]
ヒプロメロースを52.5gに変更し、コロイド状シリカを2.5gに変更したこと以外は実施例3と同様に、実施例4のコーティング液を調製した。実施例3と同様に、366mgの素錠にコーティング液をコーティングして、1錠あたりシリカが0.5mg含まれる380.0mgの実施例4のフィルムコート錠を得た。なお、実施例4においては、フィルム基剤に対して、5重量%のシリカを含有する。
【0066】
[実施例5]
ヒプロメロースを50gに変更し、コロイド状シリカを5gに変更したこと以外は実施例3と同様に、実施例5のコーティング液を調製した。実施例3と同様に、366mgの素錠にコーティング液をコーティングして、1錠あたりシリカが1.0mg含まれる380.0mgの実施例5のフィルムコート錠を得た。なお、実施例5においては、フィルム基剤に対して、10重量%のシリカを含有する。
【0067】
[実施例6]
実施例6として、シリカを湿式シリカに変更した。ヒプロメロース(TC-5(登録商標)E、信越化学工業株式会社)52,5g、マクロゴール6000(日油株式会社)5g、酸化チタン(NA61、東邦チタニウム株式会社)5g、タルク(クラウンタルク、松村産業株式会社)5g、湿式シリカ(カープレックス(登録商標)#80、エボニックジャパン株式会社、嵩密度:0.145g/cm)2.5gを水に分散させて、実施例6のコーティング液を調製した。コーティング機(HC-LABO20、フロイント産業株式会社)を用いて、366mgの素錠にコーティング液をコーティングして、1錠あたりシリカが0.5mg含まれる380.0mgの実施例6のフィルムコート錠を得た。なお、実施例6においては、フィルム基剤に対して、5重量%のシリカを含有する。
【0068】
[実施例7]
実施例7として、シリカを親水性フュームドシリカに変更した。ヒプロメロース(TC-5(登録商標)E、信越化学工業株式会社)52.5g、マクロゴール6000(日油株式会社)5g、酸化チタン(NA61、東邦チタニウム株式会社)5g、タルク(クラウンタルク、松村産業株式会社)5g、親水性フュームドシリカ(アエロジル(登録商標)200、日本アエロジル株式会社、嵩密度:0.05g/cm)2.5gを水に分散させて、実施例7のコーティング液を調製した。コーティング機(HC-LABO20、フロイント産業株式会社)を用いて、366mgの素錠にコーティング液をコーティングして、1錠あたりシリカが0.5mg含まれる380.0mgの実施例7のフィルムコート錠を得た。なお、実施例7においては、フィルム基剤に対して、5重量%のシリカを含有する。
【0069】
実施例3~7のフィルムコート錠について、実施例2と同様に顔料系インク(No.101・クオリカプス株式会社)でインクジェット印刷を行った。図5(a)は印刷直後の実施例3の錠剤を示し、図5(b)は指で5回擦った後の実施例3の錠剤を示す。図5(c)は印刷直後の実施例4の錠剤を示し、図5(d)は指で5回擦った後の実施例4の錠剤を示す。図5(e)は印刷直後の実施例5の錠剤を示し、図5(f)は指で5回擦った後の実施例5の錠剤を示す。図6(a)は印刷直後の実施例6の錠剤を示し、図6(b)は指で5回擦った後の実施例6の錠剤を示す。図6(c)は印刷直後の実施例7の錠剤を示し、図6(d)は指で5回擦った後の実施例7の錠剤を示す。何れの実施例においても、指で擦っても判読可能な程度に印字が残ることが認められ、何れのシリカも印字の定着性を向上させることが明らかとなった。
【0070】
[実施例8]
実施例8として、シリカを含水二酸化ケイ素に変更した。ヒプロメロース(TC-5(登録商標)E、信越化学工業株式会社)14.7g、マクロゴール6000(日油株式会社)1.4g、酸化チタン(NA61、東邦チタニウム株式会社)1.4g、タルク(クラウンタルク、松村産業株式会社)1.4g、含水二酸化ケイ素(アドソリダー(登録商標)102、フロイント産業株式会社、嵩密度:0.25g/cm)0.7gを水に分散させて、実施例8のコーティング液を調製した。コーティング機(HC-LABO20、フロイント産業株式会社)を用いて、366mgの素錠にコーティング液をコーティングして、1錠あたりシリカが0.5mg含まれる380.0mgの実施例8のフィルムコート錠を得た。なお、実施例8においては、フィルム基剤に対して、5重量%のシリカを含有する。
【0071】
[実施例9]
実施例9として、実施例3のコロイド状シリカの含有量をフィルム基剤に対して、50重量%に変更した。ヒプロメロース(TC-5(登録商標)E、信越化学工業株式会社)10.22g、マクロゴール6000(日油株式会社)1.4g、酸化チタン(NA61、東邦チタニウム株式会社)1.4g、タルク(クラウンタルク、松村産業株式会社)1.4g、コロイド状シリカ(サイリシア(登録商標)320、富士シリシア化学株式会社、嵩密度:0.056g/cm)5.18gを水に分散させて、実施例9のコーティング液を調製した。コーティング機(HC-LABO20、フロイント産業株式会社)を用いて、366mgの素錠にコーティング液をコーティングして、1錠あたりシリカが3.7mg含まれる380.0mgの実施例9のフィルムコート錠を得た。
【0072】
実施例8~9のフィルムコート錠について、実施例2と同様に顔料系インク(No.101・クオリカプス株式会社)でインクジェット印刷を行った。図10(a)は印刷直後の実施例8の錠剤を示し、図10(b)は指で5回擦った後の実施例8の錠剤を示す。図10(c)は印刷直後の実施例9の錠剤を示し、図10(d)は指で5回擦った後の実施例9の錠剤を示す。何れの実施例においても、指で擦っても判読可能な程度に印字が残ることが認められ、何れのシリカも印字の定着性を向上させることが明らかとなった。一方、実施例8フィルムコート錠は、他の実施例のフィルムコート錠と比較すると、印字の定着性が弱いことが確認された。また、実施例9のフィルムコート錠は、他の実施例のフィルムコート錠と比較すると、フィルムの膜性の低下が認められた。
【0073】
[比較例3]
比較例3として、ヒプロメロース(TC-5(登録商標)E、信越化学工業株式会社)30g、マクロゴール6000(日油株式会社)2g、酸化チタン(NA61、東邦チタニウム株式会社)8gを水に分散させて、比較例3のコーティング液を調製した。コーティング機(HC-LABO20、フロイント産業株式会社)を用いて、236mgの素錠にコーティング液をコーティングして244mgのフィルムコート錠を得た。さらにマクロゴール6000(日油株式会社)0.2gを水50gに溶解させて、比較例3のオーバーコーティング液を調製し、コーティング機(HC-LABO20、フロイント産業株式会社)を用いて、244mgのコーティング錠にオーバーコーティングして、1錠あたりマクロゴール6000が微量含まれる244mgの比較例3のフィルムコート錠を得た。
【0074】
[比較例4]
比較例4として、オーバーコーティング液のマクロゴール6000をプロピレングリコールに変更したこと以外は比較例3と同様の方法により、1錠あたりプロピレングリコールが微量含まれる244mgの比較例4のフィルムコート錠を得た。
【0075】
[比較例5]
比較例5として、オーバーコーティング液のマクロゴール6000をポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコール(PEP101、フロイント産業株式会社)に変更したこと以外は比較例3と同様の方法により、1錠あたりプロピレングリコールが微量含まれる244mgの比較例5のフィルムコート錠を得た。
【0076】
[比較例6]
比較例6として、オーバーコーティング液のマクロゴール6000をD-マンニトール(マンニットP、三菱ライフサイエンス株式会社)に変更したこと以外は比較例3と同様の方法により、1錠あたりプロピレングリコールが微量含まれる244mgの比較例6のフィルムコート錠を得た。
【0077】
[比較例7]
比較例7として、オーバーコーティング液のマクロゴール6000を乳糖水和物(Pharmatose(200M)、DMV)に変更したこと以外は比較例3と同様の方法により、1錠あたりプロピレングリコールが微量含まれる244mgの比較例7のフィルムコート錠を得た。
【0078】
[比較例8]
比較例8として、オーバーコーティング液のマクロゴール6000をヒドロキシプロピルセルロース(HPC-SSL、日本曹達)に変更したこと以外は実施例3と同様の方法により、1錠あたりプロピレングリコールが微量含まれる244mgの比較例8のフィルムコート錠を得た。
【0079】
[比較例9]
比較例9として、ヒプロメロース(TC-5(登録商標)E、信越化学工業株式会社)30g、マクロゴール6000(日油株式会社)2g、酸化チタン(NA61、東邦チタニウム株式会社)8gを水に分散させて、比較例8のコーティング液を調製した。コーティング機(HC-LABO20、フロイント産業株式会社)を用いて、236mgの素錠にコーティング液をコーティングして、オーバーコーティングしなかったこと以外は比較例3~8と同様の方法により、244mgのフィルムコート錠を得た。
【0080】
比較例3~8で行ったオーバーコーティングは、特許文献2に記載されたような従来のロール式錠剤印刷機を用いる際に行われる作業で、インクの定着性を向上させる効果もある。比較例3~9では、印刷前下掛けとして種々の添加剤をフィルムコート錠に微量噴霧し、インクジェット印刷機の顔料インク(No.101・クオリカプス株式会社)で印刷を行い、その定着性を評価した。図7(a)は印刷直後の比較例3の錠剤を示し、図7(b)は指で5回擦った後の比較例3の錠剤を示す。図7(c)は印刷直後の比較例4の錠剤を示し、図7(d)は指で5回擦った後の比較例4の錠剤を示す。図7(e)は印刷直後の比較例5の錠剤を示し、図7(f)は指で5回擦った後の比較例5の錠剤を示す。図8(a)は印刷直後の比較例6の錠剤を示し、図8(b)は指で5回擦った後の比較例6の錠剤を示す。図8(c)は印刷直後の比較例7の錠剤を示し、図8(d)は指で5回擦った後の比較例7の錠剤を示す。図8(e)は印刷直後の比較例8の錠剤を示し、図8(f)は指で5回擦った後の比較例8の錠剤を示す。図9(a)は印刷直後の比較例9の錠剤を示し、図9(b)は指で5回擦った後の比較例9の錠剤を示す。何れの比較例においても、指で5回擦ると印字が掠れ、文字は判別不可能な状態になった。すなわち、オーバーコーティングではインクジェット印刷機における顔料インクの擦れを抑制することはできないことが明らかとなった。
【0081】
[比較例10]
比較例10として、実施例3のシリカをコロイド状シリカの含有量をフィルム基剤に対して、100重量%に変更した。ヒプロメロース(TC-5(登録商標)E、信越化学工業株式会社)7.7g、マクロゴール6000(日油株式会社)1.4g、酸化チタン(NA61、東邦チタニウム株式会社)1.4g、タルク(クラウンタルク、松村産業株式会社)1.4g、コロイド状シリカ(サイリシア(登録商標)320、富士シリシア化学株式会社、嵩密度:0.056g/cm)7.7gを水に分散させて、比較例10のコーティング液を調製した。コーティング機(HC-LABO20、フロイント産業株式会社)を用いて、366mgの素錠にコーティング液をコーティングして、1錠あたりシリカが5.5mg含まれる380.0mgの比較例10のフィルムコート錠を得た。
【0082】
比較例10のフィルムコート錠について、実施例2と同様に顔料系インク(No.101・クオリカプス株式会社)でインクジェット印刷を試みたが、フィルムが素錠から剥離するものが多数発生し、印字することができなかった。
【0083】
[官能試験]
上述した実施例1のフィルムコート錠及び比較例1のフィルムコート錠について、3名の試験者による目視による官能試験により、インクの滲みの有無を評価した。具体的には、試験者がインクの滲みがないと判断したフィルムコート錠に1ポイントを付与し、3名の合計3ポイントを満点として評価した。評価結果を表1に示す。
【表1】
【0084】
表1の結果より、官能試験の結果からも、比較例1の錠剤では印字の滲みが認められたのに対して、フィルムにシリカを含む実施例1の錠剤においては、印字の滲みは認められず、シリカが滲みの抑制効果を示すことが明らかとなった。
【0085】
また、上述した実施例2~8のフィルムコート錠及び比較例2~9のフィルムコート錠について、3名の試験者による目視による官能試験により、印字した文字の識別率を評価した。具体的には、識別できなかった文字数の試験者3名の平均を求め、印字された文字数から、識別できた文字の識別率を算出した。評価結果を表2に示す。
【表2】
【0086】
表2の結果より、官能試験の結果からも、フィルムにシリカを含む実施例2~9のフィルムコート錠においては、何れのシリカも印字の定着性を向上させることが明らかとなった。一方、比較例2のフィルムコート錠及び比較例3~9のオーバーコーティングでは、インクジェット印刷機における顔料インクの擦れを抑制することはできないことが官能試験の結果からも明らかとなった。
【符号の説明】
【0087】
1 素錠、3 フィルム、10 錠剤、11 錠剤、13 表面、15 表示、15a 印字、15b 模様、20 錠剤、21 錠剤、23 表面、25 表示、25a 印字、25b 模様
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10