(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/31 20060101AFI20241018BHJP
H01L 21/316 20060101ALI20241018BHJP
H01L 21/318 20060101ALI20241018BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20241018BHJP
C23C 14/58 20060101ALI20241018BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
H01L21/31 D
H01L21/316 Y
H01L21/318 B
H01L21/318 C
H01L21/316 C
C23C14/34 S
C23C14/58 Z
H05H1/46 L
(21)【出願番号】P 2022133845
(22)【出願日】2022-08-25
(62)【分割の表示】P 2018008444の分割
【原出願日】2018-01-22
【審査請求日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2017073032
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002428
【氏名又は名称】芝浦メカトロニクス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川又 由雄
(72)【発明者】
【氏名】小野 大祐
【審査官】桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-220293(JP,A)
【文献】特開2016-092026(JP,A)
【文献】国際公開第2004/108981(WO,A1)
【文献】特開2013-089972(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/31
H01L 21/316
H01L 21/318
C23C 14/34
C23C 14/58
H05H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を真空とすることが可能な真空容器と、
前記真空容器内に設けられ、ワークを搭載して回転する回転体を有し、前記回転体を回転させることにより前記ワークを円周の搬送経路で循環搬送させる搬送部と、
一端の開口が、前記真空容器の内部の前記搬送経路に向かう方向に延在した筒部と、
前記筒部に設けられ、前記筒部の内部と前記回転体との間のプロセスガスが導入されるガス空間と前記ガス空間の外部との間を仕切る窓部と、
前記ガス空間に、前記筒部の内壁に沿って複数個所に設けられた供給口から前記プロセスガスを供給する供給部と、
前記ガス空間の外部であって前記窓部の近傍に配置され、電力が印加されることにより、前記ガス空間のプロセスガスに、前記搬送経路を通過するワークをプラズマ処理するための誘導結合プラズマを発生させるアンテナと、
を有し、
前記供給部は、前記回転体の表面が、前記プラズマ処理を行う処理領域を通過する時間が異なる箇所の前記供給口から、2種類
の前記プロセスガスを供給し、
前記供給口毎に供給されるプロセスガスの種類毎の単位時間当たりの供給量を、前記通過する時間に応じて個別に調節する調節部を有することを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記供給部から供給される前記プロセスガスは、窒素と酸素であり、
前記調
節部は、前記供給口から供給される前記窒素及び前記酸素の供給量を、前記通過する時間に応じて個別に調整することを特徴とする請求項1のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記搬送経路を循環搬送されるワークに対向する位置に設けられ、スパッタリングにより前記ワークに成膜材料を堆積させて膜を形成する成膜部を有し、
前記プラズマ処理は、前記成膜部によりワークに堆積した成膜材料の膜に対して、前記誘導結合プラズマによる膜処理を行うことを特徴とする請求項1記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記供給口は、前記成膜部が膜を形成する領域に対応し、前記搬送経路に沿った円環状の成膜領域に設けられるとともに、前記成膜領域外にも設けられ、
前記成膜領域外に設けられた前記供給口は、前記調節部による前記プロセスガスの供給量の調節対象から外れていることを特徴とする
請求項3に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記供給口は、前記ガス空間を挟んで対向する位置であって、前記搬送経路に沿う方向に配設されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記調節部は、前記ワークに形成する膜厚及び前記通過する時間に応じて、各供給口から供給するプロセスガスの供給量を調節することを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載のプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置や液晶ディスプレイあるいは光ディスクなど各種の製品の製造工程において、例えばウェーハやガラス基板等のワーク上に光学膜等の薄膜を成膜することがある。薄膜は、ワークに対して金属等の膜を形成する成膜や、形成した膜に対してエッチング、酸化又は窒化等の膜処理を行う等によって、作成することができる。
【0003】
成膜あるいは膜処理は様々な方法で行うことができるが、その一つとして、プラズマを用いた方法がある。成膜では、ターゲットを配置したチャンバに不活性ガスを導入し、直流電圧を印加する。プラズマ化した不活性ガスのイオンをターゲットに衝突させ、ターゲットから叩き出された材料をワークに堆積させて成膜を行う。膜処理では、電極を配置したチャンバにプロセスガスを導入し、電極に高周波電圧を印加する。プラズマ化したプロセスガスのイオン、ラジカル等の活性種をワーク上の膜に衝突させることによって、膜処理を行う。
【0004】
このような成膜と膜処理を連続して行えるように、一つのチャンバの内部に回転体である回転テーブルを取り付け、回転テーブル上方の周方向に、成膜用のユニットと膜処理用のユニットを複数配置したプラズマ処理装置がある(例えば、特許文献1参照)。このようにワークを回転テーブル上に保持して搬送し、成膜ユニットと膜処理ユニットの直下を通過させることで、光学膜等が形成される。
【0005】
回転テーブルを用いたプラズマ処理装置において、膜処理ユニットとして、上端が塞がれ、下端に開口部を有する筒形の電極(以下、「筒形電極」と称する。)を用いることがある。筒形電極を用いる場合には、チャンバの上部に開口部を設け、この開口部に、筒形電極の上端を、絶縁物を介して取り付ける。筒形電極の側壁がチャンバの内部に延在し、下端の開口部が回転テーブルにわずかな隙間を介して面する。チャンバは接地され、筒形電極がアノード、チャンバと回転テーブルがカソードとして機能する。筒形電極の内部にプロセスガスを導入して高周波電圧を印加し、プラズマを発生させる。発生したプラズマに含まれる電子は、カソードである回転テーブル側に流れ込む。回転テーブルに保持されたワークを筒形電極の開口部の下を通過させることによって、プラズマにより生成されたイオン、ラジカル等の活性種がワークに衝突して膜処理がなされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4428873号公報
【文献】特許第3586198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、処理対象となるワークが大型化し、また、処理効率の向上も要請されているため、プラズマを発生させて成膜、膜処理を行う領域が拡大する傾向にある。しかし、筒形電極に電圧を印加してプラズマを発生させる場合、広範囲、高密度なプラズマを発生させることが困難な場合がある。
【0008】
そこで、比較的広範囲、高密度なプラズマを発生させて、大型のワークに対して膜処理を行うことができるプラズマ処理装置が開発されている(例えば、特許文献2参照)。このようなプラズマ処理装置は、アンテナが、プロセスガスが導入されるガス空間との間に誘電体等の窓部材を介して、チャンバ外に配置される。そして、アンテナに高周波電圧を印加することにより、ガス空間に誘導結合によるプラズマを発生させて膜処理を行う。
【0009】
上記のような回転テーブルを用いたプラズマ処理装置において、膜処理ユニットとして、誘導結合プラズマによる膜処理部を用いた場合を考える。この場合、誘電体等の窓における重量の増加を抑えるために、回転テーブルの周方向における誘電体等の窓の幅を一定とすることが考えられる。これに伴い、回転テーブルの周方向における膜処理が行われる範囲、つまり処理領域の幅が、回転テーブルの径方向に沿う方向において平行に形成されることも考えられる。ところで、回転テーブルの内周側と外周側とでは、回転テーブルの表面の処理領域を通過する速度に相違が生じる。つまり、同一距離内の通過速度が、回転テーブルの外周側が速く、内周側が遅くなる。上記のように処理領域の幅が回転テーブルの径方向に沿う方向において平行に形成される場合、回転テーブルの表面は、内周側よりも外周側の方が処理領域を短時間で通り過ぎてしまうことになる。このため、一定時間処理した後の膜処理レートは、外周側が少なく、内周側が多くなる。
【0010】
すると、例えば、成膜部で形成されたニオブやシリコンの膜に、膜処理として酸化又は窒化処理を行い、化合物膜を生成する場合、回転テーブルの内周側と外周側とでニオブやシリコンの膜の酸化や窒化の程度が大きく相違してしまう。従って、ワークの全体に均一に処理を行いたい場合や、ワークの所望の位置における処理の程度を変えることが困難となる。
【0011】
この問題は、例えば、ワークとして半導体等のウェーハを、回転テーブル上で周方向に1列に並べてプラズマ処理を行う場合にも発生する。さらに、処理の効率化等の観点から、径方向にも複数並べてプラズマ処理を行えるようにした場合には、より顕著な問題となる。具体的には、回転テーブルの半径が1.0mを超え、回転テーブルの半径方向における処理領域の幅が0.5mに達する程度に大きくなると、内周側と外周側の処理レートの差が非常に大きくなってしまう。
【0012】
本発明は、回転体により循環搬送されるワークに対して、回転体の表面の通過速度が異なる位置に応じて所望のプラズマ処理を行うことができるプラズマ処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明のプラズマ処理装置は、内部を真空とすることが可能な真空容器と、前記真空容器内に設けられ、ワークを搭載して回転する回転体を有し、前記回転体を回転させることにより前記ワークを円周の搬送経路で循環搬送させる搬送部と、一端の開口が、前記真空容器の内部の前記搬送経路に向かう方向に延在した筒部と、前記筒部に設けられ、前記筒部の内部と前記回転体との間のプロセスガスが導入されるガス空間と前記ガス空間の外部との間を仕切る窓部と、前記ガス空間に、前記筒部の内壁に沿って複数個所に設けられた供給口から前記プロセスガスを供給する供給部と、前記ガス空間の外部であって前記窓部の近傍に配置され、電力が印加されることにより、前記ガス空間のプロセスガスに、前記搬送経路を通過するワークをプラズマ処理するための誘導結合プラズマを発生させるアンテナと、を有し、前記供給部は、前記回転体の表面が、前記プラズマ処理を行う処理領域を通過する時間が異なる箇所の前記供給口から、2種類の前記プロセスガスを供給し、前記供給口毎に供給されるプロセスガスの種類毎の単位
時間当たりの供給量を、前記通過する時間に応じて個別に調節する調節部を有する。
【0014】
前記供給部がプロセスガスを供給する複数箇所に対応して設けられた複数の供給口と、前記供給口に対向する位置に間隔を空けて配置され、前記供給口から供給される前記プロセスガスを分散させて、前記ガス空間に流入させる分散板と、を有してもよい。
【0015】
前記分散板と前記供給口との間の前記プロセスガスの流路は、前記回転体側が閉塞されるとともに、前記窓部側が前記ガス空間に連通していてもよい。
【0016】
前記調節部は、前記搬送経路に交差する方向の位置に応じて、各供給口から導入するプロセスガスの供給量を調節してもよい。
【0017】
前記搬送経路を循環搬送されるワークに対向する位置に設けられ、スパッタリングにより前記ワークに成膜材料を堆積させて膜を形成する成膜部を有し、前記成膜部によりワークに堆積した成膜材料の膜に対して、前記誘導結合プラズマによる膜処理を行ってもよい。
【0018】
前記供給口は、前記成膜部が膜を形成する領域に対応し、前記搬送経路に沿った円環状の成膜領域に設けられるとともに、前記成膜領域外にも設けられ、前記成膜領域外に設けられた前記供給口は、前記調節部による前記プロセスガスの供給量の調節対象から外れていてもよい。
【0019】
前記供給口は、前記ガス空間を挟んで対向する位置であって、前記搬送経路に沿う方向に配設されていてもよい。
【0020】
前記調節部は、前記ワークに形成する膜厚及び前記通過する時間に応じて、各ガス導入口から導入するプロセスガスの供給量を調節してもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、回転体により循環搬送されるワークに対して、回転体の表面の通過速度が異なる位置に応じて所望のプラズマ処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施形態のプラズマ処理装置の透視斜視図である。
【
図2】実施形態のプラズマ処理装置の透視平面図である。
【
図6】実施形態の処理ユニットを示す分解斜視図である。
【
図7】実施形態の処理ユニットを示す透視平面図である。
【
図10】実施形態の制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図11】比較例及び実施例の試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態(以下、本実施形態と呼ぶ)について、図面を参照して具体的に説明する。
[概要]
図1に示すプラズマ処理装置100は、個々のワークWの表面に、プラズマを利用して化合物膜を形成する装置である。つまり、プラズマ処理装置100は、
図1~
図3に示すように、回転体31が回転すると、保持部33に保持されたトレイ34上のワークWが円周の軌跡で移動する。この移動により、ワークWは、成膜部40A、40B又は40Cに対向する位置を繰り返し通過する。この通過毎に、スパッタリングによりターゲット41A~41Cの粒子をワークWの表面に付着させる。また、ワークWは、膜処理部50A又は50Bに対向する位置を繰り返し通過する。この通過毎に、ワークWの表面に付着した粒子は、導入されたプロセスガスG2中の物質と化合して化合物膜となる。
【0024】
[構成]
このようなプラズマ処理装置100は、
図1~
図3に示すように、真空容器20、搬送部30、成膜部40A、40B、40C、膜処理部50A、50B、ロードロック部60、制御装置70を有する。
【0025】
[真空容器]
真空容器20は、内部を真空とすることが可能な容器、所謂、チャンバである。真空容器20は、内部に真空室21が形成される。真空室21は、真空容器20の内部の天井20a、内底面20b及び内周面20cにより囲まれて形成される円柱形状の密閉空間である。真空室21は、気密性があり、減圧により真空とすることができる。なお、真空容器20の天井20aは、開閉可能に構成されている。
【0026】
真空室21の内部の所定の領域には、反応ガスGが導入される。反応ガスGは、成膜用のスパッタガスG1、膜処理用のプロセスガスG2を含む(
図3参照)。以下の説明では、スパッタガスG1、プロセスガスG2を区別しない場合には、反応ガスGと呼ぶ場合がある。スパッタガスG1は、電力の印加により生じるプラズマにより、発生するイオンをターゲット41A~41Cに衝突させて、ターゲット41A~41Cの材料をワークWの表面に堆積させるためのガスである。例えば、アルゴンガス等の不活性ガスを、スパッタガスG1として用いることができる。
【0027】
プロセスガスG2は、誘導結合により生じるプラズマにより発生する活性種を、ワークWの表面に堆積された膜に浸透させて、化合物膜を形成するためのガスである。以下、このようなプラズマを利用した表面処理であって、ターゲット41A~41Cを用いない処理を、逆スパッタと呼ぶ場合がある。プロセスガスG2は、処理の目的によって適宜変更可能である。例えば、膜の酸窒化を行う場合には、酸素O2と窒素N2の混合ガスを用いる。
【0028】
真空容器20は、
図3に示すように、排気口22、導入口24を有する。排気口22は、真空室21と外部との間で気体の流通を確保して、排気Eを行うための開口である。この排気口22は、例えば、真空容器20の底部に形成されている。排気口22には、排気部23が接続されている。排気部23は、配管及び図示しないポンプ、バルブ等を有する。この排気部23による排気処理により、真空室21内は減圧される。
【0029】
導入口24は、各成膜部40A、40B、40CにスパッタガスG1を導入するための開口である。この導入口24は、例えば、真空容器20の上部に設けられている。この導入口24には、ガス供給部25が接続されている。ガス供給部25は、配管の他、図示しない反応ガスGのガス供給源、ポンプ、バルブ等を有する。このガス供給部25によって、導入口24から真空室21内にスパッタガスG1が導入される。なお、真空容器20の上部には、後述するように、膜処理部50A、50Bが挿入される開口21aが設けられている。
【0030】
[搬送部]
搬送部30の概略を説明する。搬送部30は、真空容器20内に設けられた回転体31を有する。回転体31は、ワークWを搭載する。搬送部30は、回転体31を回転させることによりワークWを円周の搬送経路Tで循環搬送させる装置である。循環搬送は、ワークWを円周の軌跡で繰り返し周回移動させることをいう。搬送経路Tは、搬送部30によってワークW又は後述するトレイ34が移動する軌跡であり、ドーナツ状の幅のある円環である。以下、搬送部30の詳細を説明する。
【0031】
回転体31は、円形の板状の回転テーブルである。回転体31は、例えば、ステンレス鋼の板状部材の表面に酸化アルミニウムを溶射したものとしても良い。以降、単に「周方向」という場合には、「回転体31の周方向」を意味し、単に「半径方向」という場合には、「回転体31の半径方向」を意味する。また、本実施形態では、ワークWの例として、平板状の基板を用いているが、プラズマ処理を行うワークWの種類、形状及び材料は特定のものに限定されない。例えば、中心に凹部あるいは凸部を有する湾曲した基板を用いても良い。また、金属、カーボン等の導電性材料を含むもの、ガラスやゴム等の絶縁物を含むもの、シリコン等の半導体を含むものを用いても良い。また、プラズマ処理を行うワークWの数も、特定の数には限定されない。
【0032】
搬送部30は、回転体31に加えて、モータ32、保持部33を有する。モータ32は、回転体31に駆動力を与え、円の中心を軸として回転させる駆動源である。保持部33は、搬送部30により搬送されるトレイ34を保持する構成部である。回転体31の表面に、複数の保持部33が円周等配位置に配設されている。本実施形態でいう回転体31の表面は、回転体31が水平方向である場合に上方を向く面、つまり天面である。例えば、各保持部33がトレイ34を保持する領域は、回転体31の周方向の円の接線に平行な向きで形成され、かつ、周方向において等間隔に設けられている。より具体的には、保持部33は、トレイ34を保持する溝、穴、突起、治具、ホルダ等であり、メカチャック、粘着チャック等によって構成することができる。
【0033】
トレイ34は、方形状の平板の一方に、ワークWを搭載する平坦な載置面を有する部材である。トレイ34の材質としては、熱伝導性の高い材質、例えば、金属とすることが好ましい。本実施形態では、トレイ34の材質をSUSとする。なお、トレイ34の材質は、例えば、熱伝導性の良いセラミクスや樹脂、または、それらの複合材としてもよい。ワークWは、トレイ34の載置面に対して直接搭載されてもよいし、粘着シートを有するフレーム等を介して間接的に搭載されていてもよい。トレイ34毎に単数のワークWが搭載されてもよいし、複数のワークWが搭載されてもよい。
【0034】
本実施形態では、保持部33は6つ設けられているため、回転体31上には60°間隔で6つのトレイ34が保持される。但し、保持部33は、一つであっても、複数であってもよい。回転体31は、ワークWを搭載したトレイ34を循環搬送して成膜部40A、40B、40C、膜処理部50A、50Bに対向する位置を繰り返し通過させる。
【0035】
[成膜部]
成膜部40A、40B、40Cは、搬送経路Tを循環搬送されるワークWに対向する位置に設けられ、スパッタリングによりワークWに成膜材料を堆積させて膜を形成する処理部である。以下、複数の成膜部40A、40B、40Cを区別しない場合には、成膜部40として説明する。成膜部40は、
図3に示すように、スパッタ源4、区切部44、電源部6を有する。
【0036】
(スパッタ源)
スパッタ源4は、ワークWにスパッタリングにより成膜材料を堆積させて成膜する成膜材料の供給源である。スパッタ源4は、
図2及び
図3に示すように、ターゲット41A、41B、41C、バッキングプレート42、電極43を有する。ターゲット41A、41B、41Cは、ワークWに堆積されて膜となる成膜材料によって形成され、搬送経路Tに離隔して対向する位置に配置されている。
【0037】
本実施形態では、3つのターゲット41A、41B、41Cが、平面視で三角形の頂点上に並ぶ位置に設けられている。回転体31の回転中心に近い方から外周に向かって、ターゲット41A、41B、41Cの順で配置されている。以下、ターゲット41A、41B、41Cを区別しない場合には、ターゲット41として説明する。ターゲット41の表面は、搬送部30により移動するワークWに、離隔して対向する。なお、3つのターゲット41A、41B、41Cによって、成膜材料を付着させることができる領域は、半径方向におけるトレイ34の大きさよりも大きい。このように、成膜部40で成膜させる領域に対応し、搬送経路Tに沿った円環状の領域を成膜領域F(
図2の点線で示す)とする。成膜領域Fの半径方向の幅は、半径方向におけるトレイ34の幅よりも長い。また、本実施形態では、3つのターゲット41A~41Cは、成膜領域Fの半径方向の幅全域で隙間なく成膜材料を付着させることができるように配置されている。
【0038】
成膜材料としては、例えば、ニオブ、シリコン、などを使用する。但し、スパッタリングにより成膜される材料であれば、種々の材料を適用可能である。また、ターゲット41は、例えば、円柱形状である。但し、長円柱形状、角柱形状等、他の形状であってもよい。
【0039】
バッキングプレート42は、各ターゲット41A、41B、41Cを個別に保持する部材である。電極43は、真空容器20の外部から各ターゲット41A、41B、41Cに個別に電力を印加するための導電性の部材である。各ターゲット41A、41B、41Cに印加する電力は、個別に変えることができる。なお、スパッタ源4には、必要に応じてマグネット、冷却機構などが適宜具備されている。
【0040】
(区切部)
区切部44は、スパッタ源4によりワークWが成膜される成膜ポジションM2、M4、M5、膜処理を行う膜処理ポジションM1、M3を仕切る部材である。区切部44は、
図2に示すように、搬送部30の回転体31の回転中心から、放射状に配設された方形の壁板である。区切部44は、例えば、
図1に示すように、真空室21の天井20aの膜処理部50A、成膜部40A、膜処理部50B、成膜部40B、成膜部40Cの間に設けられている。区切部44の下端は、ワークWが通過する隙間を空けて、回転体31に対向している。この区切部44があることによって、成膜ポジションM2、M4、M5の反応ガスG及び成膜材料が真空室21に拡散することを抑制できる。
【0041】
成膜ポジションM2、M4、M5の水平方向の範囲は、一対の区切部44によって区切られた領域となる。なお、回転体31により循環搬送されるワークWが、成膜ポジションM2、M4、M5のターゲット41に対向する位置を繰り返し通過することにより、ワークWの表面に成膜材料が膜として堆積する。この成膜ポジションM2、M4、M5は、成膜の大半が行われる領域であるが、この領域から外れる領域であっても成膜材料の漏れはあるため、全く膜の堆積がないわけではない。つまり、成膜が行われる領域は、各成膜ポジションM2、M4、M5よりもやや広い領域となる。
【0042】
(電源部)
電源部6は、ターゲット41に電力を印加する構成部である。この電源部6によってターゲット41に電力を印加することにより、プラズマ化したスパッタガスG1が生じる。そして、プラズマにより生じたイオンがターゲット41に衝突することで、ターゲットから叩き出された成膜材料をワークWに堆積させることができる。各ターゲット41A、41B、41Cに印加する電力は、個別に変えることができる。本実施形態においては、電源部6は、例えば、高電圧を印加するDC電源である。なお、高周波スパッタを行う装置の場合には、RF電源とすることもできる。また、電源部6は、成膜部40A、40B、40C毎に設けてもよいし、複数の成膜部40A、40B、40Cに対して1つだけ設けてもよい。1つだけ電源部6を設ける場合、電力の印加は、切換えて使用する。回転体31は、接地された真空容器20と同電位であり、ターゲット41側に高電圧を印加することにより、電位差を発生させている。
【0043】
複数の成膜部40A、40B、40Cは、同じ成膜材料を用いて同時に成膜することにより、一定時間内における成膜量つまり、成膜レートを上げることができる。また、成膜部40A、40B、40Cが、互いに異なる種類の成膜材料を用いることにより、複数の成膜材料の層から成る膜を形成することもできる。
【0044】
本実施形態では、
図2に示すように、搬送経路Tの搬送方向で、膜処理部50A、50Bとの間に、3つの成膜部40A、40B、40Cが配設されている。3つの成膜部40A、40B、40Cに、成膜ポジションM2、M4、M5が対応している。2つの膜処理部50A、50Bに、膜処理ポジションM1、M3が対応している。
【0045】
[膜処理部]
膜処理部50A、50Bは、搬送部30により搬送されるワークWに堆積した材料に対して膜処理を行う処理部である。この膜処理は、ターゲット41を用いない逆スパッタである。以下、膜処理部50A、50Bを区別しない場合には、膜処理部50として説明する。膜処理部50は、処理ユニット5を有する。この処理ユニット5の構成例を
図3~
図6を参照して説明する。
【0046】
処理ユニット5は、
図3及び
図4に示すように、筒部H、窓部52、供給部53、調節部54(
図8参照)、アンテナ55を有する。筒部Hは、一端の開口Hоが、真空容器20の内部の搬送経路Tに向かう方向に延在した筒状の構成部である。筒部Hは、筒状体51、冷却部56、分散部57を有する。これらの筒部Hを構成する部材のうち、まず、筒状体51について説明し、冷却部56、分散部57については後述する。筒状体51は、水平断面が角丸長方形状の筒である。ここでいう角丸長方形状とは、陸上競技におけるトラック形状である。トラック形状とは、一対の部分円を凸側を相反する方向として離隔して対向させ、それぞれの両端を互いに平行な直線で結んだ形状である。筒状体51は、回転体31と同様の材質とする。筒状体51は、開口51aが回転体31側に離隔して向かうように、真空容器20の天井20aに設けられた開口21aに挿入されている。これにより、筒状体51の側壁の大半は、真空室21内に収容されている。筒状体51は、その長径方向が回転体31の半径方向と平行となるように配置されている。なお、厳密な平行である必要はなく、多少の傾きがあってもよい。また、プラズマ処理、つまり膜処理される領域である処理領域は、筒状体51の開口51aと相似形状の角丸長方形状である。つまり、処理領域の回転方向の幅は、半径方向において同じである。
【0047】
筒状体51の一端には、
図4及び
図5に示すように、全周に亘って内フランジ511が形成されている。内フランジ511は、外周に直交する垂直断面がL字形となるように筒状体51の一端の内縁が全周に亘って突出した肉厚部である。この内フランジ511の最内縁が、筒状体51の断面と略相似形の角丸長方形の開口51aである。内フランジ511は、筒状体51の内壁から開口51aに行くにしたがって低くなる棚面511a、511b、511cを有することにより、階段状となっている。
【0048】
内フランジ511には、
図7及び
図8に示すように、複数の供給口512A~D、512a~dが形成されている。以下、各供給口512A~D、512a~dを区別しない場合には、供給口512として説明する。供給口512は、
図4及び
図5に示すように、プロセスガスG2を筒状体51内に供給する穴である。各供給口512は、
図5に示すようにL字形となるように棚面511aから開口51aまで貫通している。
【0049】
ここで、回転体31上に搭載されたワークWの回転体31における中心側(内周側)と外周側とを比べると、一定距離を通過する速度に差が生じる。つまり、本実施形態において筒状体51は、長径方向が回転体31の半径方向と平行になるように配置されている。しかも、複数の供給口512が形成された開口51aの直線部分が半径方向において互いに平行となっている。このような構成である場合、筒状体51の下部の一定距離をワークWが通過する時間は、回転体31における内周側よりも外周側が短い。このため、複数の供給口512は、回転体31の表面が、プラズマ処理を行う処理領域を通過する時間が異なる複数箇所に設けられている。複数の供給口512が並設された方向は、搬送経路Tに交差している。さらに、供給口512は、ガス空間Rを挟んで対向する位置に配設されている。ガス空間Rを挟んで対向する供給口512の並び方向は、搬送経路Tに沿っている。
【0050】
より具体的には、
図8に示すように、供給口512A~Dは、筒状体51の長手方向、 つまり長径の方向の一方の内壁に沿って等間隔で並設されている。また、供給口512a~dは、筒状体51の長手方向の他方の内壁に沿って等間隔で並設されている。供給口512A~Dは、内周側から外周側に向かって供給口512A、供給口512B、供給口512C、供給口512Dの順で並んでいる。同様に、供給口512a~dは、供給口512a、供給口512b、供給口512c、供給口512dの順で並んでいる。供給口512A~Dは、搬送経路Tの下流側、供給口512a~dは、搬送経路Tの上流側に配置される。そして、供給口512Aと供給口512a、供給口512Bと供給口512b、供給口512Cと供給口512c、供給口512Dと供給口512dがそれぞれ下流側と上流側とで対向している。
【0051】
さらに、
図4に示すように、筒状体51における開口51aとは反対側の端部には、外フランジ51bが形成されている。外フランジ51bの下面と真空容器20の天面との間には、全周に亘るOリング21bが配設され、開口21aが気密に封止されている。
【0052】
窓部52は、筒部Hに設けられ、真空容器20内のプロセスガスG2が導入されるガス空間Rと外部との間を仕切る部材である。本実施形態では、窓部52は、筒部Hを構成する筒状体51に設けられている。ガス空間Rは、膜処理部50において、回転体31と筒部Hの内部との間に形成される空間であり、回転体31によって循環搬送されるワークWが繰り返し通過する。窓部52は、筒状体51の内部に収まり、筒状体51の水平断面と略相似形の誘電体の平板である。窓部52は、棚面511bに周状に形成された溝にはめ込まれたOリング21b上に載置され、開口51aを気密に封止している。なお、窓部52は、アルミナ等の誘電体であってもよいし、シリコン等の半導体であってもよい。
【0053】
供給部53は、
図4、
図6及び
図8に示すように、ガス空間RにプロセスガスG2を供給する。供給部53は、回転体31の表面が、処理領域を通過する時間が異なる複数箇所から、プロセスガスG2を供給する装置である。この複数箇所は、筒状体51の長手方向における上記の供給口512の配設位置に対応している。具体的には、供給部53は、図示しないボンベ等のプロセスガスG2の供給源とこれに接続された配管53a、53b、53cを有している。プロセスガスG2は、例えば、酸素及び窒素である。配管53aは、それぞれのプロセスガスG2の供給源からの一対の経路である。つまり、酸素の供給源に接続された経路と、窒素の供給源に接続された経路から成る。配管53aは、供給口512の配置位置に対応して4セット設けられる。配管53bは、一対の経路である配管53aが接続された一つの経路である。各配管53bは、一方の列の各供給口512A~Dにそれぞれ接続されている。また、各配管53bから分岐した配管53cは、他方の列の各供給口512a~dにそれぞれ接続されている。
【0054】
分岐した配管53cの先端は、それぞれ外フランジ51b側から筒状体51の内壁に沿って開口51a側に延び、供給口512の棚面511a側の端部に接続されている。配管53bも同様に、供給口512の棚面511a側の端部に接続されている。これにより、供給部53は、上記のように並設された供給口512A~D、供給口512a~dを介して、ワークWが通過する速度が異なる複数箇所から、ガス空間RにプロセスガスG2を供給する。つまり、供給口512A~D、供給口512a~dは、供給部53がプロセスガスG2を供給する複数箇所に対応して設けられている。なお、本実施形態では、最内周の供給口512A、512a、最外周の供給口512D、512dは、成膜領域F外に位置している。
【0055】
調節部54は、
図8に示すように、搬送経路Tに交差する方向の位置に応じて、各供給口512から導入するプロセスガスG2の供給量を調節する。つまり、調節部54は、供給部53の複数箇所の単位時間当たりのプロセスガスG2の供給量を、回転体31の表面が処理領域を通過する時間に応じて個別に調節する。調節部54は、配管53aの一対の経路にそれぞれ設けられたマスフローコントローラ(MFC)54aを有する。MFC54aは、流体の流量を計測する質量流量計と流量を制御する電磁弁を有する部材である。
【0056】
アンテナ55は、
図4、
図7及び
図9に示すように、搬送経路Tを通過するワークWを処理するための誘導結合プラズマを発生させる部材である。アンテナ55は、ガス空間Rの外部であって窓部52の近傍に配置される。アンテナ55に電力が印加されることにより、アンテナ電流がつくる磁界に誘導された電界が発生し、ガス空間RのプロセスガスG2をプラズマ化する。アンテナ55は、その形状により、発生する誘導結合プラズマの分布形状を変えることができる。言い換えれば、誘導結合プラズマの分布形状は、アンテナ55の形状によって定めることができる。本実施形態においては、アンテナ55を以下に示す形状とすることにより、ガス空間Rの水平断面と略相似する形状の誘導結合プラズマを発生させることができる。
【0057】
アンテナ55は、複数の導体551a~551d及びコンデンサ552を有する。複数の導体551は、それぞれ帯状の導電性部材であり、互いにコンデンサ552を介して接続されることにより、平面方向から見て角丸長方形の電路を形成する。このアンテナ55の外形は、開口51a以下の大きさである。
【0058】
各コンデンサ552は、略円柱形状であり、導体551a、551b、551c、551dの間に直列に接続されている。アンテナ55を導体のみで構成すると、電圧振幅が電源側の端部で過大となってしまい、窓部52が局所的に削られてしまう。そこで、導体を分割してコンデンサ552を接続することにより、各導体551a、551b、551c、551dの端部で小さな電圧振幅が生じるようにして、窓部52の削れを抑えている。
【0059】
但し、コンデンサ552部分では導体551a、551b、551c、551dの連続性が断たれて、プラズマ密度が低下する。このため、窓部52に対向する導体551a、551b、551c、551dの端部は、互いに平面方向に重なりを生じさせて、コンデンサ552を上下方向から挟むように構成されている。より具体的には、コンデンサ552に対する導体551a、551b、551c、551dの接続端は、
図9に示すように、断面が逆L字形となるように屈曲されている。隣接する導体551a、551bの端部の水平面は、コンデンサ552を上下方向から挟持する間隙が設けられている。同様に、導体551b、551cの端部の水平面、導体551c、551dの端部の水平面には、それぞれコンデンサ552を上下方向から挟持する間隙が設けられている。
【0060】
アンテナ55には、高周波電力を印加するためのRF電源55aが接続されている。RF電源55aの出力側には整合回路であるマッチングボックス55bが直列に接続されている。例えば、導体551dの一端とRF電源55aとが接続されている。この例では、導体551aが接地側である。RF電源55aと導体551dの一端との間には、マッチングボックス55bが接続されている。マッチングボックス55bは、入力側及び出力側のインピーダンスを整合させることで、プラズマの放電を安定化させる。
【0061】
冷却部56は、
図4~
図6に示すように、筒状体51と外形の大きさが略同一の角丸長方形状の筒形部材であり、その上面が筒状体51の底面に接して合致する位置に設けられている。冷却部56の内部には、図示はしないが、冷却水が流通するキャビティが設けられている。キャビティには、冷却水を循環供給する冷却水循環装置であるチラーに接続された供給口と排水口が連通している。このチラーにより冷却された冷却水が供給口から供給され、キャビティ内を流通して排水口から排出されることを繰り返すことにより、冷却部56が冷却され、筒状体51及び分散部57の加熱が抑制される。
【0062】
分散部57は、筒状体51、冷却部56と外形の大きさが略同一の角丸長方形状の筒形部材であり、その上面が冷却部56の底面に接して合致する位置に設けられ、その底面に筒部Hの開口Hоが設けられている。分散部57には、分散板57aが設けられている。分散板57aは、供給口512と間隔を空け、且つ、供給口512に対向する位置に配置され、供給口512から導入されるプロセスガスG2を分散させて、ガス空間Rに流入させる。この分散板57aが内側に設けられている分だけ、分散部57は、環状部分の水平方向の幅が、筒状体51よりも大きくなっている。
【0063】
より具体的には、分散板57aは、分散部57の内縁から全周に亘って立ち上げられ、冷却部56を超え、窓部52の底面に近接する位置まで延設されている。分散板57aと供給口512との間のプロセスガスG2の流路は、
図5に示すように、回転体31側が閉塞されるとともに、窓部52側がガス空間Rに連通している。つまり、内フランジ511と分散板57aとの間は、上方が窓部52の下面に沿って、窓部52の下方のガス空間Rに連通した環状の隙間を形成している。
【0064】
なお、分散部57の底面と回転体31の表面との垂直方向の間隔は、搬送経路TにおけるワークWが通過可能な長さを有する。また、分散板57aは、筒状体51内のガス空間Rに入り込むため、ガス空間Rにおけるプラズマの発生領域は、分散板57aの内側の空間となる。なお、分散板57aと窓部52との距離は、例えば、1mmから5mmとする。この距離を5mm以下とすると、隙間に異常放電が発生することを防止できる。
【0065】
供給部53から供給口512を介して、ガス空間RにプロセスガスG2を導入し、RF電源55aからアンテナ55に高周波電圧を印加する。すると、窓部52を介して、ガス空間Rに電界が発生し、プロセスガスG2がプラズマ化される。これにより、電子、イオン及びラジカル等の活性種が発生する。
【0066】
[ロードロック部]
ロードロック部60は、真空室21の真空を維持した状態で、図示しない搬送手段によって、外部から未処理のワークWを搭載したトレイ34を、真空室21に搬入し、処理済みのワークWを搭載したトレイ34を真空室21の外部へ搬出する装置である。このロードロック部60は、周知の構造のものを適用することができるため、説明を省略する。
【0067】
[制御装置]
制御装置70は、プラズマ処理装置100の各部を制御する装置である。この制御装置70は、例えば、専用の電子回路若しくは所定のプログラムで動作するコンピュータ等によって構成できる。つまり、真空室21へのスパッタガスG1及びプロセスガスG2の導入および排気に関する制御、電源部6、RF電源55aの制御、回転体31の回転の制御などに関しては、その制御内容がプログラムされている。制御装置70は、このプログラムがPLCやCPUなどの処理装置により実行されるものであり、多種多様なプラズマ処理の仕様に対応可能である。
【0068】
具体的に制御される対象を挙げると以下の通りである。すなわち、モータ32の回転速度、プラズマ処理装置100の初期排気圧力、スパッタ源4の選択、ターゲット41及びアンテナ55への印加電力、スパッタガスG1及びプロセスガスG2の流量、種類、導入時間及び排気時間、成膜及び膜処理の時間などである。
【0069】
特に、本実施形態では、制御装置70は、成膜部40のターゲット41への電力の印加、ガス供給部25からのスパッタガスG1の供給量を制御することにより、成膜レートを制御する。また、制御装置70は、アンテナ55への電力の印加、供給部53からのプロセスガスG2の供給量を制御することにより、膜処理レートを制御する。
【0070】
上記のように各部の動作を実行させるための制御装置70の構成を、仮想的な機能ブロック図である
図10を参照して説明する。すなわち、制御装置70は、機構制御部71、電源制御部72、ガス制御部73、記憶部74、設定部75、入出力制御部76を有する。
【0071】
機構制御部71は、排気部23、ガス供給部25、供給部53、調節部54、モータ32、ロードロック部60等の駆動源、電磁弁、スイッチ、電源等を制御する処理部である。電源制御部72は、電源部6、RF電源55aを制御する処理部である。例えば、電源制御部72は、ターゲット41A、41B、41Cに印加する電力を、個別に制御する。成膜レートをワークWの全体で均一にしたい場合には、上記の内周側と外周側の速度差を考慮して、ターゲット41A<ターゲット41B<ターゲット41Cというように、順次電力を高くする。つまり、内周側と外周側の速度に比例させて、電力を決定すればよい。但し、比例させる制御は一例であって、速度が大きくなるほど電力を高くし、処理レートが均一になるように設定すればよい。また、ワークWに形成する膜厚を厚くしたい箇所については、ターゲット41への印加電力を高くして、膜厚を薄くしたい箇所については、ターゲット41への印加電力を低くすればよい。
【0072】
ガス制御部73は、調節部54によるプロセスガスG2の導入量を制御する処理部である。例えば、各供給口512からのプロセスガスG2の単位時間当たりの供給量を、個別に制御する。膜処理レートをワークWの全体で均一にしたい場合には、上記の内周側と外周側の速度差を考慮して各供給口512からの供給量を内周側から外周側に向けて、順次多くする。具体的には、供給量を供給口512A<供給口512B<供給口512C<供給口512D、供給口512a<供給口512b<供給口512c<供給口512dとする。つまり、内周側と外周側の速度に比例させて、供給量を決定すればよい。また、ワークWに形成する膜厚に応じて、各供給口512から供給するプロセスガスG2の供給量を調節する。つまり、膜厚を厚くする箇所については、膜処理の量が多くなるようにプロセスガスG2の供給量を多くする。そして、膜厚を薄くする箇所については、膜処理の量が少なくなるようにプロセスガスG2の供給量を少なくする。また、例えば、内周側ほど膜厚が厚くなるように形成された膜に対する膜処理の場合には、内周側ほどプロセスガスG2の供給量が多くなるように設定することもできる。これにより、上述の速度との関係とも合わさって、結果的には、各供給口512からの供給量が均一になる場合もある。つまり、調節部54は、ワークWに形成する膜厚及び回転体31が処理領域を通過する時間に応じて、各供給口512から供給するプロセスガスG2の供給量を調節してもよい。なお、ガス制御部73は、スパッタガスG1の導入量も制御する。
【0073】
記憶部74は、本実施形態の制御に必要な情報を記憶する構成部である。記憶部74に記憶される情報としては、排気部23の排気量、各ターゲット41へ印加する電力、スパッタガスG1の供給量、アンテナ55へ印加する電力、供給口512毎のプロセスガスG2の供給量を含む。設定部75は、外部から入力された情報を、記憶部74に設定する処理部である。なお、アンテナ55に印加する電力は、例えば、回転体31が1回転する間に成膜される所望の膜厚と回転体31の回転速度(rpm)によって決まる。
【0074】
さらに、ターゲット41A、41B、41Cに印加する電力と、供給口512A~D、512a~dからのプロセスガスG2の供給量をリンクさせてもよい。つまり、回転体31の回転速度(rpm)を一定として、ターゲット41A、41B、41Cに印加する電力が設定部によって設定された場合、これに比例させて各供給口512A~D、512a~dからの供給量が設定されるようにしてもよい。また、回転体31の回転速度(rpm)を一定として、各供給口512A~D、512a~dからの供給量が設定部によって設定された場合、これに比例させて各ターゲット41A、41B、41Cに印加する電力が設定されるようにしてもよい。
【0075】
このような設定は、例えば、以下のように行うことができる。まず、あらかじめ実験等により、膜厚とこれに応じた印加電力又はプロセスガスG2の供給量との関係、印加電力とこれに応じたプロセスガスG2の供給量との関係を求めておく。そして、これらのうち少なくとも1つをテーブル化して記憶部74に記憶しておく。そして、入力された膜厚、印加電力又は供給量に応じて、設定部75がテーブルを参照して印加電力や供給量を決定する。
【0076】
入出力制御部76は、制御対象となる各部との間での信号の変換や入出力を制御するインタフェースである。さらに、制御装置70には、入力装置77、出力装置78が接続されている。入力装置77は、オペレータが、制御装置70を介してプラズマ処理装置100を操作するためのスイッチ、タッチパネル、キーボード、マウス等の入力手段である。例えば、使用する成膜部40、膜処理部50の選択、所望の膜厚、各ターゲット41A~41Cの印加電力、各供給口512A~D、512a~dからのプロセスガスG2の供給量等を入力手段により入力することができる。
【0077】
出力装置78は、装置の状態を確認するための情報を、オペレータが視認可能な状態とするディスプレイ、ランプ、メータ等の出力手段である。例えば、出力装置78は、入力装置77からの情報の入力画面を表示することができる。この場合、ターゲット41A、41B、41C、各供給口512A~D、512a~dを模式図で表示させて、それぞれの位置を選択して数値を入力できるようにしてもよい。さらに、ターゲット41A、41B、41C、各供給口512A~D、512a~dを模式図で表示させて、それぞれに設定された値を数値で表示してもよい。
【0078】
[動作]
以上のような本実施形態の動作を、上記の
図1~
図10を参照して以下に説明する。なお、図示はしないが、プラズマ処理装置100には、コンベア、ロボットアーム等の搬送手段によって、ワークWを搭載したトレイ34の搬入、搬送、搬出が行われる。
【0079】
複数のトレイ34は、ロードロック部60の搬送手段により、真空容器20内に順次搬入される。回転体31は、空の保持部33を、順次、ロードロック部60からの搬入箇所に移動させる。保持部33は、搬送手段により搬入されたトレイ34を、それぞれ個別に保持する。このようにして、
図2及び
図3に示すように、成膜対象となるワークWを搭載したトレイ34が、回転体31上に全て載置される。
【0080】
以上のようにプラズマ処理装置100に導入されたワークWに対する膜を形成する処理は、以下のように行われる。なお、以下の動作は、成膜部40Aのみおよび膜処理部50Aのみといったように、成膜部40と膜処理部50の中からそれぞれ一つを稼働させて成膜及び膜処理を行う例である。但し、複数組の成膜部40、膜処理部50を稼働させて処理レートを高めてもよい。また、成膜部40及び膜処理部50による成膜及び膜処理の例は、酸窒化シリコンの膜を形成する処理である。酸窒化シリコンの膜を形成することは、ワークWに原子レベルでシリコンを付着させる毎に、酸素イオン及び窒素イオンを浸透させる処理を、ワークWを循環搬送させながら繰り返すことで行う。
【0081】
まず、真空室21は、排気部23によって常に排気され減圧されている。そして、真空室21が所定の圧力に到達すると、
図2及び
図3に示すように、回転体31が回転する。これにより、保持部33に保持されたワークWは、搬送経路Tに沿って移動し、成膜部40A、40B、40Cおよび膜処理部50A、50Bの下を通過する。回転体31が所定の回転速度に達すると、次に、成膜部40のガス供給部25は、スパッタガスG1を、ターゲット41の周囲に供給する。このとき、膜処理部50の供給部53も、プロセスガスG2をガス空間Rに供給する。
【0082】
成膜部40では、電源部6が各ターゲット41A、41B、41Cに電力を印加する。これにより、スパッタガスG1がプラズマ化する。スパッタ源4において、プラズマにより発生したイオン等の活性種は、ターゲット41に衝突して成膜材料の粒子を飛ばす。このため、成膜部40を通過するワークWの表面には、その通過毎に成膜材料の粒子が堆積されて、膜が生成される。この例では、シリコンの層が形成される。
【0083】
電源部6により各ターゲット41A、41B、41Cに印加する電力は、回転体31の内周側から外周側に行くに従って順次大きくなるように記憶部74に設定されている。電源制御部72は、この記憶部74に設定された電力に従って、電源部6が各ターゲット41に印加する電力を制御するように指示を出力する。この制御のため、スパッタリングによる単位時間当たりの成膜量は、内周側から外周側に行くほど多くなるが、内周側から外周側に行くほど回転体31の通過速度は、速くなる。結果として、ワークWの全体の膜厚は均一となる。
【0084】
なお、ワークWは、稼働していない成膜部40や膜処理部50を通過しても、成膜や膜処理は行われないため、加熱されない。この加熱されない領域において、ワークWは熱を放出する。なお、稼働していない成膜部40とは、例えば成膜ポジションM4、M5である。また、稼働していない膜処理部50とは、例えば、膜処理ポジションM3である。
【0085】
一方、成膜されたワークWは、処理ユニット5における筒部Hの開口Hоに対向する位置を通過する。処理ユニット5では、
図8に示すように、供給部53から供給口512を介して、ガス空間R内にプロセスガスG2である酸素及び窒素が供給され、RF電源55aからアンテナ55に高周波電圧が印加される。高周波電圧の印加によって、窓部52を介して、ガス空間Rに電界がかかり、プラズマが生成される。生成されたプラズマによって発生した酸素イオン及び窒素イオンが、成膜されたワークWの表面に衝突することにより、膜材料に浸透する。
【0086】
供給口512から導入されるプロセスガスG2の単位時間当たりの流量は、回転体31の内周側ほど少なく、外周側ほど多くなるように、記憶部74に設定されている。ガス制御部73は、この記憶部74に設定された流量に従って、調節部54が各配管53aを流通するプロセスガスG2の流量を制御するように指示を出力する。このため、ガス空間Rに発生する単位体積当たりのイオン等の活性種の量は、内周側よりも外周側が多くなる。従って、活性種の量により左右される膜処理量は、内周側から外周側に行くほど多くなる。しかし、膜処理される処理領域は、筒状体51の開口51aと相似形状の角丸長方形状である。このため、処理領域の幅、つまり回転方向の幅が半径方向において同じである。つまり、処理領域は、半径方向に一定幅である。一方、ワークWは、内周側から外周側に行くほど処理領域を通過する速度が速い。このため、ワークWは、内周側から外周側に行くほど、処理領域を通過する時間が短くなる。プロセスガスG2の供給量を外周側ほど多くすることで、外周側ほど膜処理量が多くなるので処理領域の通過時間の短さを補うことができる。結果として、ワークWの全体の膜処理量は均一となる。
【0087】
また、酸窒化処理のように、二種類以上のプロセスガスG2を使って膜処理を行う場合、成膜部40で成膜された膜を回転体が1回転する間に、完全に化合物膜にすると同時に、膜の組成も成膜面全体で均一にする必要がある。本実施形態は、二種類以上のプロセスガスG2を使って、膜処理を行うプラズマ処理装置100に適している。例えば、酸窒化シリコン(SiOxNy)のxとyの比を1:1とした膜が欲しいとする。すると、成膜された膜が十分に化合物膜となる活性種の量と、その活性種中に含まれる酸素と窒素の割合の両方をコントロールする必要がある。本実施形態では、プロセスガスG2の供給箇所を複数とするとともに、各供給箇所におけるプロセスガスG2の供給量を、プロセスガスG2の種類毎に調節することができるので、量と割合の両方をコントロールしやすい。
【0088】
また、
図5に示すように、供給口512から供給されるプロセスガスG2は、分散板57aに衝突することによって分散板57aの垂直面に沿って水平に広がるとともに、分散板57aの上縁からガス空間Rに流入する。このように、プロセスガスG2が分散するので、供給口512の近傍のプロセスガスG2の流量のみが、極端に増大することがない。つまり、内周側から外周側にかけてのガス流量の分布は、局所的に多くなる箇所が生じることが防止され、線形に近い勾配で上昇する。これにより、膜処理レートが部分的に上昇又は下降して、処理にばらつきが生じることが防止される。
【0089】
以上のような膜を形成する処理の間、回転体31は回転を継続しワークWを搭載したトレイ34を循環搬送し続ける。このように、ワークWを循環させて成膜と膜処理を繰り返すことにより、化合物膜を形成する。本実施形態では、化合物膜として、ワークWの表面に酸窒化シリコンの膜が形成される。
【0090】
酸窒化シリコンの膜が所望の膜厚となる所定の処理時間が経過したら、成膜部40及び膜処理部50を停止する。つまり、電源部6によるターゲット41への電力の印加、供給口512からのプロセスガスG2の供給、RF電源55aによる電圧の印加等を停止する。
【0091】
このように、膜を形成する処理が完了した後、ワークWを搭載したトレイ34は、回転体31の回転により、順次、ロードロック部60に位置決めされ、搬送手段により、外部へ搬出される。
【0092】
[成膜試験結果]
本実施形態に対応する実施例と、比較例の成膜試験結果を、
図11のグラフを参照して説明する。実施例1~3は、複数の供給口512からの酸素及び窒素の単位時間当たりの流量を、内周側から外周側にかけて段階的に多くした試験結果である。実施例1、3は分散板57aを用いた例、実施例2は分散板57aを用いずに、供給口512からガス空間に直接ガスを供給した例である。
【0093】
但し、実施例2、3では、成膜領域F外にある最外周の供給口512D、512dのプロセスガスG2の流量を、最大とせずに、供給口512B、C、512b、cよりも少なくしている。つまり、供給口512A<供給口512D<供給口512B<供給口512C、供給口512a<供給口512d<供給口512b<供給口512cとなるように流量を設定している。
【0094】
成膜領域Fから外れた位置にはワークWが通過しないため、プロセスガスG2を供給する必要が無い。しかし、
図7のように、筒状体51が成膜領域Fの外に余裕を持って形成されている場合には、成膜領域Fの外側にプロセスガスG2をまったく供給しないと、成膜領域Fの内周端近傍や外周端近傍で、プロセスガスG2の成膜領域F外への拡散が生じる。結果的に成膜領域Fの内周端近傍や外周端近傍で処理レートが低下することになる。このため、成膜領域F外にも、予備的にプロセスガスG2を供給するとよい。このときのプロセスガスG2は、拡散による減少分を補える分でよいので、前述の余裕分となる領域の大きさとの関係で、拡散が防止できる程度の量であればよい。但し、供給口512C、512cよりも、供給量を多くする必要が生じる場合もある。このように、成膜領域F外に位置している供給口512A、512a、512D、512dについては、通過時間に応じた調節部54によるプロセスガスG2の調節対象から外れていてもよい。
【0095】
また、比較例は、一か所からプロセスガスG2を供給している。その他の条件は、実施例1~3、比較例で共通である。例えば、成膜部40によりワークW上に形成される膜の膜厚は均一となるように、ターゲット41への印加電圧を制御した。
【0096】
図11のグラフは、横軸が回転体31の回転中心から外周へ向かう半径方向の距離[mm]、縦軸が成膜された膜の屈折率Nfである。膜処理の程度に応じて、膜の屈折率が変化するため、屈折率を測定することによって膜処理の程度がわかる。このグラフから明らかなように、比較例は内周側と外周側の屈折率のばらつきが大きく±4.17%であった。一方、実施例1は±1.21%、実施例2は±1.40%であった。実施例3は±1.00%と最もばらつきが小さかった。
【0097】
この試験結果から、各供給口512からのプロセスガスG2の流量を調節することにより、内周側から外周側にかけて膜処理のばらつきを抑えることができることが分かる。また、分散板57aを設けることにより、全体の膜処理の程度をより均一に近づけることができることがわかる。
【0098】
さらに、成膜領域F外にある供給口512D、512dは、膜処理に関与する程度は低く、プロセスガスG2の流量を最大にする必要はないが、少量であってもプロセスガスG2を供給させることにより、膜処理の程度をさらに均一にすることができることがわかる。これは、内周側の供給口512A、512aについても同様と考えられる。つまり、成膜領域F外に供給口512を設けることによっても、膜処理の程度を均一化する等の効果を得ることができる。
【0099】
[作用効果]
(1)本実施形態は、内部を真空とすることが可能な真空容器20と、真空容器20内に設けられ、ワークWを搭載して回転する回転体31を有し、回転体31を回転させることによりワークWを円周の搬送経路Tで循環搬送させる搬送部30と、一端の開口Hoが真空容器20の内部の搬送経路Tに向かう方向に延在した筒部Hと、筒部Hに設けられ、筒部Hの内部と回転体31との間のプロセスガスG2が導入されるガス空間Rとガス空間Rの外部との間を仕切る窓部52と、ガス空間Rに、プロセスガスG2を供給する供給部53と、ガス空間Rの外部であって窓部52の近傍に配置され、電力が印加されることにより、ガス空間RのプロセスガスG2に、搬送経路Tを通過するワークWをプラズマ処理するための誘導結合プラズマを発生させるアンテナ55とを有する。そして、供給部53は、回転体31の表面が、プラズマ処理を行う処理領域を通過する時間が異なる複数箇所から、プロセスガスG2を供給し、供給部53の複数箇所の単位時間当たりのプロセスガスG2の供給量を、処理領域を通過する時間に応じて個別に調節する調節部54を有する。
【0100】
このため、回転体31により循環搬送されるワークWに対するプラズマ処理の程度を、回転体31の表面の通過速度が異なる位置に応じて調節することができる。このため、ワークWに対する処理の程度を均一化させたり、所望の位置の処理の程度を変える等、所望のプラズマ処理を行うことができる。これは、回転体31の径が大きく、かつ、成膜領域Fの幅が大きい程、つまり、成膜領域Fの内周側と外周側での周速の差が大きい程有効である。なお、本実施形態では、プロセスガスG2が導入される筒状体51の開口51aの形状を、アンテナ55と同様の角丸長方形状としているため、アンテナ55近傍のガス空間Rに、より的確にプロセスガスG2を供給でき、高効率プラズマを得ることができる。
【0101】
(2)また、本実施形態は、供給部53がプロセスガスG2を供給する複数箇所に対応して設けられ、ガス空間RにプロセスガスG2を供給する複数の供給口512と、供給口512と間隔を空け、且つ、供給口512に対向する位置に配置され、供給口512から供給されるプロセスガスG2を分散させて、ガス空間Rに流入させる分散板57aとを有する。
【0102】
このため、分散板57aによってプロセスガスG2が分散し、局所的にガス流が集中することがなく、処理のばらつきが生じることが防止される。また、分散板57aによって、供給口512においてホローカソード放電が発生することを防止できる。例えば、分散板57aが無く、供給口512がガス空間Rに晒された状態では、供給口512でホローカソード放電が発生するおそれがある。ホローカソード放電が発生すると、誘導結合によるプラズマと干渉して均一なプラズマを形成することができない。本実施形態では、分散板57aが供給口512と間隔を空け、且つ、供給口512に対向する位置に配置されることで、分散板57aと供給口512との間でホローカソード放電が発生することを防止している。さらに、供給口512から分散板57aを介して、窓部52の近傍のガス空間RにプロセスガスG2が導入される。このため、アンテナ55近傍のガス空間RにプロセスガスG2をより的確に供給でき、高効率プラズマを得ることができる。
【0103】
(3)分散板57aと供給口512との間のプロセスガスG2の流路は、回転体31側が閉塞されるとともに、窓部52側がガス空間Rに連通している。
【0104】
このため、電界が発生する窓部52の近傍に、窓部52の下面に沿って、プロセスガスG2が供給されるので、密度が濃いプラズマが形成され、処理効率が向上する。さらに、分散板57aと供給口512との間のプロセスガスG2の流路は、回転体31側が閉塞されているので、プロセスガスG2が流路の下側に溜まる。溜まったプロセスガスG2を介して、冷却部56により分散板57aが冷却される。このように分散板57aが冷却されると、プラズマが失活することが抑制されるので、高効率にプラズマを生成できる。このような効果は、分散部57の上面が冷却部56の底面に接して冷却されることにより一層高まる。
【0105】
(4)調節部54は、回転体31の搬送経路Tに交差する方向の位置に応じて、各供給口512から導入するプロセスガスG2の供給量を調節する。
【0106】
このため、複数の供給口512のプロセスガスG2の供給量を、回転体31の表面の通過速度が異なる位置に応じて個別に調節することができる。
【0107】
(5)搬送経路Tを循環搬送されるワークWに対向する位置に設けられ、スパッタリングによりワークWに成膜材料を堆積させて膜を形成する成膜部40を有し、成膜部40によりワークWに堆積した成膜材料の膜に対して、誘導結合プラズマによる膜処理を行う。
【0108】
このため、成膜した膜に対する膜処理の程度についても、回転体31の表面の通過速度が異なる位置に応じて調節することができる。
【0109】
(6)供給口512は、成膜部40が膜を形成する領域に対応し、搬送経路Tに沿った円環状の領域である成膜領域F内に設けられるとともに、成膜領域F外にも設けられ、成膜領域F外に設けられた供給口512は、調節部54によるプロセスガスG2の供給量の調節対象から外れている。
【0110】
このように、成膜領域F外であっても、プロセスガスG2を供給することにより、成膜領域Fの端部におけるプロセスガスG2の流量不足を防止できる。例えば、最外周の供給口512や最内周の供給口512が、成膜領域F外であっても、プロセスガスG2を供給させることにより、膜処理の均一化を図ることができる。但し、最外周の成膜領域F外については、最大の流量としなくても成膜領域F内の流量不足とはならないため、流量を節約できる。つまり、成膜領域F外のプロセスガスG2の供給箇所は、成膜領域F内のプロセスガスG2の流量を補う補助供給箇所、補助供給口として機能する。
【0111】
(7)供給口512は、ガス空間Rを挟んで対向する位置であって、搬送経路Tに沿う方向に配設されている。このため、ガス空間R内に、短時間にプロセスガスG2を行き渡らせることができる。
【0112】
(8)調節部54は、ワークWに形成する膜厚及び回転体31が処理領域を通過する時間に応じて、各供給口512から導入するプロセスガスG2の供給量を調節する。このため、膜厚に適した膜処理を行うことができる。
【0113】
(9)筒状体51に配管53b、53cを接続して、筒状体51からプロセスガスG2を吐出するようにしたので、プラズマ処理装置100からの筒部Hの取り外しが容易となる。つまり、筒状体51に配管53b、53cを接続したまま、筒部Hを取り外すことができる。例えば、配管53b、53cを真空容器20の側面から真空室21内に導入して、それぞれを筒状体51と接続した場合、筒部Hをプラズマ処理装置100から取り外す際に、配管53b、53cと筒状体51との接続を解除する作業を行う必要がある。また、筒部Hをプラズマ処理装置100に取り付ける際に、配管53b、53cと筒状体51とを再び接続しなければならないので、作業が煩雑となる。あるいは、配管53b、53cを真空容器20の側面から真空室21内に導入した場合、筒部Hに配管53b、53cを避けるための切り欠けを設けることも考えられる。この場合、筒部Hをプラズマ処理装置100から取り外すことは容易となるが、分散板57aで分散されたプロセスガスG2の大半が切り欠け部分から漏れてしまう。このため、アンテナ55近傍のガス空間RにプロセスガスG2を導入できないので、高効率プラズマを得ることができない。また、漏れたプロセスガスG2は、成膜部40へと流れ、スパッタガスG1と混合するおそれがある。プロセスガスG2とスパッタガスG1とが混合すると、成膜部40の成膜レートが低下してしまうおそれがある。成膜部40の成膜レートが低下してしまうと、生産性が落ちるだけでなく、事前に求めた最適供給量が最適ではなくなるので、膜質の均一性が悪くなるおそれがある。これに対して、本実施形態の筒部Hは、分散部57の底面と回転体31の表面との垂直方向の間隔をワークWが通過可能な長さまで狭めている。このため、プロセスガスG2がガス空間Rから漏れることが抑制される。また、ごくわずかに漏れたとしても、区切部44によって、成膜部40へと流れこむことが抑制される。
【0114】
(10)特定の条件を前提として、複数箇所からのプロセスガスG2の供給量を演算により求めることができる。このため、プロセスガスG2の供給量を演算する供給量演算部を、制御装置70が有していてもよい。供給量演算部は、例えば、入力装置77から入力された条件又は記憶部74に記憶された条件に基づいて、プロセスガスG2の供給量を演算する。演算された供給量は、記憶部74に設定される。設定された供給量に基づいて、調節部54が各供給口512から供給するプロセスガスG2の供給量を調節する。より具体的な例を、以下に説明する。
【0115】
(構成)
プラズマ処理装置100の基本的な構成は、上記の態様と同様である。制御装置70は供給量演算部を有し、記憶部74は、最内周又は最外周の膜厚、その膜厚に対する最適な供給量、各供給口512の回転体31の回転中心からの距離(各供給口512の中心を通る円の半径)を保持している。
【0116】
(演算処理)
均一な膜厚で、かつ均一な膜質の膜を大面積で形成したい場合、プロセスガスG2の供給量を調節するときに、考慮しなければならない条件は、以下の4つである。
[1]回転体が1回転する間に成膜部で成膜される膜厚
[2]回転体の半径方向における成膜した膜の膜厚分布
[3]回転体の内周と外周の速度差
[4]プラズマの発生領域の幅(処理領域の幅)
【0117】
ここで、[2]の条件は、成膜部40の各ターゲット41A、41B、41Cに個別に 電力を印加して、均一な膜厚とすれば、条件から除くことができる。また、上記の態様のように、アンテナ55およびガス空間Rを平面方向から見て角丸長方形状の外形とすることにより、処理領域の幅が、成膜領域Fの最内周から最外周にかけて同じとなる。このため、その幅の範囲で、同じプラズマ密度とすることができるので、[4]の条件も条件から除くことができる。
【0118】
従って、[1]、[3]の条件から、各供給口512の供給量を決定できる。つまり、[1]の条件として、事前の実験等により、成膜領域Fの最内周または最外周の膜厚のいずれか一方と、その膜厚に適した最適供給量を求めておく。そして、[3]の内周と外周の速度差は、内周と外周の半径と関係(比例)するので、複数の供給口512の半径方向の位置(回転中心からの距離)と、上記の膜厚及び最適供給量から、複数の供給口512の各々の供給量を決定することができる。なお、成膜領域Fの最内周における回転体31が1回転する間に成膜される膜の膜厚、成膜領域Fの最外周における回転体31が1回転する間に成膜される膜の膜厚、上記の膜厚に適した最適供給量、各供給口512の半径方向の位置については、記憶部74に記憶される情報に含まれる。
【0119】
例えば、成膜部40で成膜される膜の所定の膜厚に対する最内周の供給口512の最適供給量をa、最内周の半径をLin、最外周の半径をLоu、最外周の供給口512の最適供給量をAとする。まず、最内周の供給口512の最適供給量aが分かっている場合について説明する。供給量演算部は、最内周の最適供給量a、最内周の供給口512を通る円の半径Lin、最外周の供給口512を通る円の半径Lоuを、記憶部74から取得して、以下の式に基づいて、最外周の最適供給量Aを求める。
A=a×Lоu/Lin
同様に、その他の供給口512の最適供給量も、半径の比に応じて求めることができる。つまり、供給口512の最適供給量をAx、その供給口512を通る円の半径をPxとすると、以下の式に基づいて、最適供給量Axを求めることができる。
Ax=a×Px/Lin
これとは逆に、最外周の供給口512の最適供給量Aが分かっている場合には、各供給口512の最適供給量axを、その供給口512を通る円の半径pxから、以下の式に基づいて、求めることができる。
ax=A×px/Lоu
【0120】
(効果)
以上のように、[1]回転体が1回転する間に成膜部40で成膜される膜の膜厚が分かれば、複数の供給口512からの供給量が自動で決まる。このため、各供給口512からの供給量の想定されるパターンとして、多数のデータを保持する場合に比べて、記憶部74で保持するデータ量を少なくすることができる。例えば、SiONのように、組成によって屈折率が変化する膜の場合、成膜領域Fの最内周または最外周の膜厚から各供給口512の供給量が自動で決まるので、N2とO2の混合比率を調整すれば、所望の屈折率の膜を得ることができる。
【0121】
[他の実施形態]
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、以下のような態様も含む。
(1)成膜材料については、スパッタリングにより成膜可能な種々の材料を適用可能である。例えば、タンタル、チタン、アルミニウム等を適用できる。化合物とするための材料についても、種々の材料を適用可能である。
【0122】
(2)成膜部におけるターゲットの数は、3つには限定されない。ターゲットを1つとしても、2つとしても、4つ以上としてもよい。ターゲットの数を多くして、印加電力を調節することによって、より細かい膜厚の制御が可能となる。また、成膜部を1つとしても、2つとしても、4つ以上としてもよい。成膜部の数を多くして、成膜レートを向上させることができる。これに応じて、膜処理部の数も多くして、膜処理レートを向上させることができる。
【0123】
(3)成膜部による成膜は必ずしも行わなくてもよく、成膜部を有していなくてもよい。つまり、本発明は、膜処理を行うプラズマ処理装置には限定されず、プラズマによって発生させた活性種を利用して、処理対象に処理を行うプラズマ処理装置に適用できる。例えば、処理ユニットにおいて、ガス空間内にプラズマを発生させて、エッチング、アッシング等の表面改質、クリーニング等を行うプラズマ処理装置として構成してもよい。この場合、例えば、アルゴン等の不活性ガスをプロセスガスとすることが考えられる。
【0124】
(4)プロセスガスの供給口は、筒状体に設けられていなくてもよい。例えば、供給部における各配管を筒状体内に延設させて、それぞれの配管の先端を供給口としてもよい。配管の先端を、径を小さくしてノズル状としてもよい。この場合も、成膜領域のみならず、成膜領域外にも配管を配設して、成膜領域のプロセスガスの流量を補う補助供給口、補助ノズルとして機能させてもよい。
【0125】
(5)供給部がプロセスガスを供給する箇所の数、供給口の数は、回転体の表面の通過速度が異なる複数箇所であればよく、上記の実施形態で例示した数には限定されない。成膜領域内に一列に3つ以上設けることにより、処理位置に応じたより細かい流量制御を行うことができる。また、供給箇所、供給口の数を増やすほどガス流量の分布を線形に近づけて、局所的な処理のばらつきを防止できる。供給口を、筒状体の対向する2列に設けずに、いずれかの1列としてもよい。また、供給口を、直線上に並べなくても、高さ方向にずれた位置に並べてもよい。
【0126】
(6)調節部の構成は、上記の例には限定されない。各配管に手動のバルブを設けて、手動により調節する態様であってもよい。ガスの供給量を調節できればよいので、圧力を一定として、バルブの開閉によって調節してもよいし、圧力を昇降させてもよい。調節部を供給口によって実現してもよい。例えば、回転体の表面の通過速度が異なる位置に応じて、異なる径の供給口を設けて、プロセスガスの供給量を調節してもよい。供給口を径の異なるノズルに交換可能としてもよい。また、シャッタ等により供給口の径を変更可能としてもよい。
【0127】
(7)速度は、単位時間あたりに移動する距離であるから、径方向において処理領域を通過するのに要する時間との関係から、各供給口からのプロセスガスの供給量を設定するようにしてもよい。
【0128】
(8)筒状体、窓部、アンテナの形状も、上記の実施形態で例示したものには限定されない。水平断面が方形、円形、楕円形であってもよい。但し、内周側と外周側の間隔が等しい形状の方が、内周側と外周側とのワークWの通過時間が異なるため、処理時間の差に応じたプロセスガスの供給量の調節がし易い。また、内周側と外周側の間隔が等しい形状とすると、例えば、成膜部40を区切る区切部44と膜処理部50との間に空間を作れる。このため、成膜部40へ酸素や窒素等のプロセスガスG2が流入するのを防ぐ効果が高くなる。さらに、例えば、アンテナを扇形等に形成して、処理領域が扇形になるようにしてもよい。この場合には、外周側になる程速度が速くなっても処理領域の通過に要する時間は同じ或いはほぼ同じになるので、プロセスガスの供給量は同じでよい。
【0129】
(9)搬送部により同時搬送されるトレイ、ワークの数、これを保持する保持部の数は、少なくとも1つであればよく、上記の実施形態で例示した数には限定されない。つまり、1つのワークが循環搬送される態様でもよく、2つ以上のワークが循環搬送される態様でもよい。ワークを径方向に2列以上並べて循環搬送する態様でもよい。
【0130】
(10)上記の実施形態では、回転体を回転テーブルとしているが、回転体はテーブル形状には限定されない。回転中心から放射状に延びたアームにトレイやワークを保持して回転する回転体であってもよい。成膜部および膜処理部が真空容器の底面側にあり、成膜部および膜処理部と回転体との上下関係が逆となっていてもよい。この場合、保持部が配設される回転体の表面は、回転体が水平方向である場合に下方を向く面、つまり下面となる。
【0131】
(11)以上、本発明の実施形態及び各部の変形例を説明したが、この実施形態や各部の変形例は、一例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。上述したこれら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明に含まれる。
【符号の説明】
【0132】
100 プラズマ処理装置
20 真空容器
20a 天井
20b 内底面
20c 内周面
21 真空室
21a 開口
21b Oリング
22 排気口
23 排気部
24 導入口
25 ガス供給部
30 搬送部
31 回転体
32 モータ
33 保持部
34 トレイ
40、40A、40B、40C 成膜部
4 スパッタ源
41、41A、41B、41C ターゲット
42 バッキングプレート
43 電極
44 区切部
5 処理ユニット
50、50A、50B 膜処理部
51 筒状体
51a 開口
51b 外フランジ
511 内フランジ
511a、511b、511c 棚面
512、512A~D、512a~d 供給口
52 窓部
53 供給部
53a、53b、53c 配管
54 調節部
54a MFC
55 アンテナ
55a RF電源
55b マッチングボックス
551、551a~d 導体
552 コンデンサ
56 冷却部
57 分散部
57a 分散板
6 電源部
60 ロードロック部
70 制御装置
71 機構制御部
72 電源制御部
73 ガス制御部
74 記憶部
75 設定部
76 入出力制御部
77 入力装置
78 出力装置
E 排気
T 搬送経路
M1、M3 膜処理ポジション
M2、M4、M5 成膜ポジション
G 反応ガス
G1 スパッタガス
G2 プロセスガス
H 筒部
Hо 開口
F 成膜領域
R ガス空間