(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】電子源及びその製造方法、並びにエミッター及びこれを備える装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/06 20060101AFI20241018BHJP
H01J 9/04 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
H01J37/06 A
H01J9/04
(21)【出願番号】P 2022516997
(86)(22)【出願日】2021-04-14
(86)【国際出願番号】 JP2021015465
(87)【国際公開番号】W WO2021215330
(87)【国際公開日】2021-10-28
【審査請求日】2023-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2020075321
(32)【優先日】2020-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】塚田 大
(72)【発明者】
【氏名】茶谷 洋光
(72)【発明者】
【氏名】石川 大介
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-246917(JP,A)
【文献】特許第5525104(JP,B2)
【文献】特開昭63-032846(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 9/04
H01J 37/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)電子放出特性を有する第一材料で構成されている柱状部をそれぞれ備える複数の第一部材を準備する工程と、
(B)前記第一材料よりも大きい仕事関数をそれぞれ有するとともに、一方の端面から他方の端面の方向に延びている孔がそれぞれ形成されている複数の第二部材を準備する工程と、
(C)複数の前記第一部材から一つの前記第一部材を選択するとともに、複数の前記第二部材から一つの前記第二部材を選択する工程と、
(D)選択された前記第二部材の前記孔に対し、選択された前記第一部材の前記柱状部を押し込む工程と、
を含み、
前記複数の第一部材の前記柱状部は略四角形の断面形状をそれぞれ有し、
前記複数の第二部材の前記孔は、略円形の断面形状をそれぞれ有し、
(C)工程において、複数の前記第一部材及び複数の前記第二部材から、以下の条件を満たす一組の第一部材及び第二部材を選択し、
(D)工程において、当該第二部材の前記孔に対して当該柱状部を押し込むことによって、当該柱状部の側面の一部が当該第二部材の前記孔の内面に当接した状態となって当該柱状部が当該第二部材に対して固定されるとともに、当該柱状部の側面であって前記孔に挿入された部分の全体が前記第二部材で覆われる、電子源の製造方法
(ただし、前記孔内において前記柱状部の周辺部に、炭素粉体と有機接着剤の混合物を充填する工程を含む電子源の製造方法を除く。)。
<条件>
L
1/R
1>1…(1)
不等式(1)において、L
1は前記略四角形の二本の対角線のうち長い方の対角線の長さを示し、R
1は前記孔の直径を示す。
【請求項2】
(A)電子放出特性を有する第一材料で構成されている柱状部をそれぞれ備える複数の第一部材を準備する工程と、
(B)前記第一材料よりも大きい仕事関数をそれぞれ有するとともに、一方の端面から他方の端面の方向に延びている孔がそれぞれ形成されている複数の第二部材を準備する工程と、
(C)複数の前記第一部材から一つの前記第一部材を選択するとともに、複数の前記第二部材から一つの前記第二部材を選択する工程と、
(D)選択された前記第二部材の前記孔に対し、選択された前記第一部材の前記柱状部を押し込む工程と、
を含み、
前記複数の第一部材の前記柱状部は略三角形の断面形状をそれぞれ有し、
前記複数の第二部材の前記孔は、略円形の断面形状をそれぞれ有し、
(C)工程において、複数の前記第一部材及び複数の前記第二部材から、以下の条件を満たす一組の第一部材及び第二部材を選択し、
(D)工程において、当該第二部材の前記孔に対して当該柱状部を押し込むことによって、当該柱状部の側面の一部が当該第二部材の前記孔の内面に当接した状態となって当該柱状部が当該第二部材に対して固定されるとともに、当該柱状部の側面であって前記孔に挿入された部分の全体が前記第二部材で覆われる、電子源の製造方法
(ただし、前記孔内において前記柱状部の周辺部に、炭素粉体と有機接着剤の混合物を充填する工程を含む電子源の製造方法を除く。)。
<条件>
前記略三角形の外接円の直径R
2が前記孔の直径R
1よりも大きく且つ前記孔の直径R
1と同じ直径の円の中に前記略三角形を配置したとき、前記略三角形の少なくとも二つの角が当該円に接する。
【請求項3】
前記第一材料がホウ化ランタン及びホウ化セリウムのいずれか一方である、請求項1又は2に記載の電子源の製造方法。
【請求項4】
前記第二部材が黒鉛で構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の電子源の製造方法。
【請求項5】
前記第二部材がガラス状カーボンで構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の電子源の製造方法。
【請求項6】
電子放出特性を有する第一材料で構成されている柱状部と、
前記柱状部を囲うように配置されており、前記第一材料よりも仕事関数が大きい第二材料で構成されている筒状部と、
を備える電子源であって、
前記筒状部は、一方の端面から他方の端面の方向に延びており且つ略円形の断面形状を有する孔が形成されており、
前記柱状部は、略三角形又は略四角形の断面形状を有し、前記孔の内面に当接した状態で前記筒状部に固定されており、
前記柱状部の側面であって前記筒状部に囲われている部分の全体が前記筒状部で覆われている、電子源
(ただし、前記孔内において前記柱状部の周辺部に、炭素粉体と有機接着剤の混合物が充填されている電子源を除く。)。
【請求項7】
前記第一材料がホウ化ランタン及びホウ化セリウムのいずれか一方である、請求項6に記載の電子源。
【請求項8】
前記第二材料が黒鉛である、請求項6又は7に記載の電子源。
【請求項9】
前記第二材料がガラス状カーボンである、請求項6又は7に記載の電子源。
【請求項10】
請求項6~9のいずれか一項に記載の電子源を備えるエミッター。
【請求項11】
請求項10に記載のエミッターを備える装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子源及びその製造方法、並びにエミッター及びこれを備える装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子源を備えるエミッターは、例えば、電子顕微鏡及び半導体検査装置に使用されている。特許文献1に開示されたエミッターは、電子放射特性を有する第1の部材と、これを被覆する第2の部材とを有し、第1の部材と第2の部材との間に所定のサイズの溝が設けられている。特許文献2に開示された電子銃は、電子銃陰極と、これを保持する保持具とを含み、電子銃陰極はその先端に四角形の平坦面を有し、先端部が露出して保持具から突出している(特許文献2の
図6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-69364号公報
【文献】特許第5525104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電子源は極めて微細である。特許文献2の段落[0055]には電子銃陰極の大きさが50μm×50μm×100μmであることが記載されている。このような微細な部品からなる電子源(電子銃)を製造するには熟練の技術が求められる。
【0005】
本開示は、微細な電子源を効率的に製造するのに有用な電子源の製造方法を提供する。また、本開示は、電子を放出する部材がこれを保持する部材から抜け落ちることを十分に抑制できる電子源及びこれを備えるエミッターを提供する。更に、本開示は上記エミッターを備える装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る電子源の製造方法は、(A)電子放出特性を有する第一材料で構成されている柱状部をそれぞれ備える複数の第一部材を準備する工程と、(B)第一材料よりも大きい仕事関数をそれぞれ有するとともに、一方の端面から他方の端面の方向に延びている孔がそれぞれ形成されている複数の第二部材を準備する工程と、(C)複数の第一部材から一つの第一部材を選択するとともに、複数の第二部材から一つの第二部材を選択する工程と、(D)選択された第二部材の孔に対し、選択された第一部材の前記柱状部を押し込む工程とを含み、複数の第一部材の柱状部は略四角形の断面形状をそれぞれ有し、複数の第二部材の孔は、略円形の断面形状をそれぞれ有し、(C)工程において、複数の第一部材及び複数の第二部材から、以下の条件を満たす一組の第一部材及び第二部材を選択し、(D)工程において、当該第二部材の孔に対して当該柱状部を押し込むことによって、当該柱状部の側面の一部が当該第二部材の孔の内面に当接した状態となって当該柱状部が当該第二部材に対して固定される。
<条件>
L1/R1>1…(1)
不等式(1)において、L1は略四角形の二本の対角線のうち長い方の対角線の長さを示し、R1は孔の直径を示す。
【0007】
上記製造方法によれば、(C)工程において、複数の部材のうちから、サイズが合う第一部材及び第二部材を選択し、これらを使用して(D)工程を実施することで、上記のとおり、柱状部の側面の一部が第二部材の孔の内面に当接した状態となり、柱状部を第二部材に対して固定することができる。このため、電子源を製造するにあたり、部材のロスを十分に低減できる。すなわち、柱状部及び孔のサイズが合わないことに起因する製造上の不具合を十分に低減できる。かかる不具合として、例えば、第一部材の柱状部が第二部材の孔に入らないこと、柱状部が孔の内面に当接しないために孔から脱落することなどが挙げられる。
【0008】
第一部材の柱状部の断面形状は略四角形に限定されず、略三角形であってもよい。この場合、上記(C)工程において、複数の第一部材及び複数の第二部材から、以下の条件を満たす一組の第一部材及び第二部材を選択すればよい。
<条件>
略三角形の外接円の直径R2が孔の直径R1よりも大きく且つ孔の直径R1と同じ直径の円の中に略三角形を配置したとき、略三角形の少なくとも二つの角が当該円に接する。
【0009】
本開示の一側面に係る電子源は、電子放出特性を有する第一材料で構成されている柱状部と、柱状部を囲うように配置されており、第一材料よりも仕事関数が大きい第二材料で構成されている筒状部とを備え、筒状部は、一方の端面から他方の端面の方向に延びており且つ略円形の断面形状を有する孔が形成されており、柱状部は、略三角形又は略四角形の断面形状を有し、孔の内面に当接した状態で筒状部に固定されている。
【0010】
上記電子源によれば、電子を放出する部材(柱状部)がこれを保持する部材(筒状部)から抜け落ちることを十分に抑制できる。当該電子源の先端部において、柱状部の電子放出面と筒状部の端面とによって平坦面が形成されていることが好ましい。かかる平坦面が形成されていることで、側方に電子が放出されることを十分に抑制することができる。
【0011】
本開示の一側面に係るエミッターは上記電子源を備える。本開示の一側面に係る装置は上記エミッターを備える。エミッターを備える装置として、例えば、電子顕微鏡及び半導体製造装置及び検査装置が挙げられる。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、微細な電子源を効率的に製造するのに有用な電子源の製造方法が提供される。また、本開示によれば、電子を放出する部材がこれを保持する部材から抜け落ちることを十分に抑制できる電子源及びこれを備えるエミッターが提供される。更に、本開示によれば、上記エミッターを備える装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は本開示に係る電子源の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は
図1に示す電子源の先端の構成を示す平面図である。
【
図3】
図3(a)は柱状部を備える第一部材を模式的に示す断面図であり、
図3(b)は
図3(a)に示す第一部材の先端部を示す平面図であり、
図3(c)は孔が形成されている第二部材を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4(a)~
図4(c)は
図1に示す電子源を製造する過程を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図5は第一部材の柱状部(断面形状:略正方形)と第二部材の孔の大小関係を示す平面図である。
【
図6】
図6は本開示に係るエミッターの一実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図7】
図7は第一部材の柱状部(断面形状:略三角形)と第二部材の孔の大小関係を示す平面図である。
【
図8】
図8(a)は本開示に係る電子源の他の実施形態を模式的に示す断面図であり、
図8(b)は
図8(a)のb-b線における拡大断面図であり、
図8(c)は
図8(a)のc-c線における拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態について説明する。以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
<電子源>
図1は本実施形態に係る電子源を模式的に示す断面図である。
図2は
図1に示す電子源10の先端の構成を示す平面図である。電子源10は、柱状部1と、柱状部1を囲うように配置された電子放出制限部材2とを備える。柱状部1は、電子放出特性を有する第一材料(電子放出材料)で構成されている。柱状部1の端面1aが電子放出面であり、その法線が電子の放出方向である。他方、電子放出制限部材2は、第一材料よりも仕事関数が大きい第二材料(電子放出制限材料)で構成されている。電子放出制限部材2は、孔3が形成されている筒状部2aと、孔3が形成されていない基端部2bとを有する。基端部2bは孔3の底3aをなしている。孔3は、電子放出制限部材2の端面2cから他方の端面2dの方向に延びている。本実施形態において、孔3の開口面積は端面2cから端面2dに向けて一定である。
【0016】
図2に示すように、柱状部1は、電子放出制限部材2の孔3の断面形状と非相似の断面形状を有し、孔3の内面に当接した状態で電子放出制限部材2に固定されている。本実施形態においては、柱状部1の長手方向に直交する断面において、柱状部1の形状は略正方形であり、孔3の形状は略円形である。本実施形態は、柱状部1の強度が筒状部2aの強度よりも高い場合を想定したものであり、柱状部1の側面の一部が筒状部2aに食い込んだ状態で固定されている。電子源10によれば、柱状部1が電子放出制限部材2から抜け落ちることを十分に抑制できる。なお、柱状部1の強度が筒状部2aの強度よりも低い場合、第一部材11の角部が削られて丸みを帯び、この角部が孔13の内面に当接して柱状部1が電子放出制限部材2に固定される。
【0017】
電子源10の先端面において、柱状部1の端面1a(電子放出面)と電子放出制限部材2の端面2cとによって平坦面が形成されている。また、柱状部1の側面の全体が筒状部2aで覆われている。このように、柱状部1が筒状部2aから突出していないことで、不要な電子の放出、すなわち、側方への電子の放出を十分に抑制することができる。例えば、より大電流の電子を得るためには電子源10の先端部を1550℃程度の高温に加熱し且つ電子源10に数kVの高電界を印加する。このような高電界をかけると電子源の先端部分以外からも余剰な電子が発生し得る。この余剰電子は空間電荷効果により、先端部分からの電子ビームの輝度を低下させたり、周辺の電極部品の不要な加熱を引き起こしたりする可能性がある。これを防ぐために電子源10の電子放出部(柱状部1の端面1a)のみを露出させ、それ以外の面を筒状部2aで覆うことで、先端部分からの高輝度な電子ビームのみを得ることができる。なお、ここでいう「平坦面」は端面1aと端面2cの段差が2μm未満であることを意味する。この段差が2μm未満である限り、柱状部1が筒状部2aから突出していてもよく、端面1aが端面2cに対して凹んでいてもよい。この段差は1.5μm未満又は1.0μm未満であってもよい。
【0018】
柱状部1の側面の全体を筒状部2aで覆うことで、微小放電と称される現象が起こることを抑制できるという効果も奏される。すなわち、熱電子放出では電子源を高温に加熱することで電子が放出される。それに伴って電子放出材料が蒸発すると周辺の電極部品に付着し、ウィスカーと呼ばれる繊維状の結晶となる。このウィスカーに電荷が蓄積されると微小放電を引き起こされる。微小放電は電子ビームを不安定にさせ、装置性能を低下させる要因となる。柱状部1の側面の全体を筒状部2aで覆うことで、昇華した電子放出材料が筒状部2aにトラップされ、周辺電極部品への付着量を減らし、微小放電を起こしにくくすることができる。なお、筒状部2aは、周方向の一部に切れ目を有するものではなく、柱状部1の側面の全体を覆っている。筒状部2aが切れ目を有しないため、側方への電子の放出を十分に抑制することができる。
【0019】
(電子放出材料)
柱状部1は電子放出材料(第一材料)で構成されている。電子放出材料は、加熱によって電子を放出する材料である。電子放出材料は、仕事関数が電子放出制限材料よりも小さく且つ強度が電子放出制限材料よりも高い。電子放出材料の例として、ホウ化ランタン(LaB6)、ホウ化セリウム(CeB6)などの希土類ホウ化物;タングステン、タンタル、ハフニウムなどの高融点金属ならびにその酸化物、炭化物及び窒化物;イリジウムセリウムなどの貴金属-希土類系合金が挙げられる。これらの材料の仕事関数は以下のとおりである。
・ホウ化ランタン(LaB6):2.8eV
・ホウ化セリウム(CeB6):2.8eV
・炭化タンタル:3.2eV
・炭化ハフニウム:3.3eV
【0020】
電子放出特性、強度及び加工性の観点から、柱状部1を構成する電子放出材料は希土類ホウ化物であることが好ましい。柱状部1が希土類ホウ化物からなる場合、柱状部1は仕事関数が低く電子を放出しやすい<100>方位が電子放出方向に一致するよう加工された単結晶体であることが好ましい。柱状部1は放電加工などによって所望の形状にすることができる。柱状部1の側面は、蒸発速度が遅くなると考えられることから、(100)面の結晶面であることが好ましい。
【0021】
本実施形態において、柱状部1の形状は四角柱状である(
図1,2参照)。柱状部1の長さは、好ましくは0.1~1mmであり、より好ましくは0.2~0.6mmであり、更に好ましくは0.3mm程度である。長さが0.1mm以上であることでハンドリングが良好となる傾向にあり、1mm以下であることでクラック等が入りにくくなる傾向にある。柱状部1の断面形状は略正方形である。その辺の長さは、好ましくは20~300μmであり、より好ましくは50~150μmであり、更に好ましくは100μm程度である。
【0022】
(電子放出制限材料)
電子放出制限部材2は電子放出制限材料で構成されている。電子放出制限材料は、仕事関数が電子放出材料よりも大きい。電子放出制限部材2で柱状部1の側面を覆うことによって柱状部1の側面からの電子の放出が抑制される。
【0023】
電子放出制限部材2の仕事関数W2と柱状部1の仕事関数W1の差(△W=W2-W1)は、好ましくは0.5eV以上であり、より好ましくは1.0eV以上であり、更に好ましくは1.6eV以上である。
【0024】
電子放出制限材料は、高融点金属又はその炭化物を含むことが好ましく、金属タンタル、金属チタン、金属ジルコニウム、金属タングステン、金属モリブデン、金属レニウム、炭化タンタル、炭化チタン及び炭化ジルコニウムから少なくとも一つ以上を含むことが好ましい。また、電子放出制限材料は、炭化ホウ素と黒鉛(炭素材料)のうちの少なくとも一つ以上を含んでもよい。また、電子放出制限材料は、ニオブ、ハフニウム、バナジウムのうちの少なくとも一つ以上を含んでもよい。電子放出制限材料として、ガラス状カーボン(例えば、グラッシーカーボン(商品名、株式会社レイホー製作所製))を使用してもよい。これらの材料の仕事関数は以下のとおりである。
・金属レニウム:4.9eV
・炭化ホウ素:5.2eV
・黒鉛:5.0eV
【0025】
本実施形態では、電子放出制限材料の強度は、上述のとおり、電子放出材料の強度よりも低い。両材料の強度は、例えば、ビッカース硬度で評価することができる。適度な強度を有すること且つ加工性の観点から、電子放出制限部材2を構成する材料はビッカース硬度が100HVから1900HV程度であることが好ましい。例えば、ガラス状カーボン(ビッカース硬度:230HV程度)は適度な強度を有する点で電子放出制限材料に適している。電子放出制限部材2の先端部2e(筒状部2aの一部)はテーパ状に加工され、残りの部分(筒状部2aの残りの部分及び基端部2b)は四角柱状に加工されている。電子放出制限部材2の先端部2eをテーパ状に加工することで、電界集中させやすく電子放出効率を高めることができるという効果が奏される。なお、電子放出制限部材2の周囲に支持部材(不図示)を設けてもよい。
【0026】
電子放出材料と電子放出制限材料は、例えば、両者の仕事関数及び強度の点から適宜選択し、組み合わせて使用すればよい。電子放出材料の好適な例として、ホウ化ランタン(LaB6)、ホウ化セリウム(CeB6)、炭化ハフニウム及びイリジウムセリウムが挙げられる。電子放出制限材料の好適な例として、金属レニウム、炭化ホウ素及び黒鉛(ガラス状カーボン含む)が挙げられる。なお、電子放出材料として使用可能な材料の一部は電子放出制限材料としても使用し得る。例えば、仕事関数が3.2~4.5eV程度の材料は電子放出材料及び電子放出制限材料の両方に使用し得る。かかる材料として、金属タングステン(仕事関数:4.5eV)、金属タンタル(仕事関数:3.2eV)、炭化ハフニウム(仕事関数:3.3eV)が挙げられる。
【0027】
<電子源の製造方法>
次に、電子源10の製造方法について説明する。電子源10は以下の工程を経て製造される。
(A)柱状の第一部材11を複数準備する工程。
(B)第一部材11よりも大きい仕事関数をそれぞれ有するとともに、一方の端面12aから他方の端面12bの方向に延びている孔13がそれぞれ形成されている複数の第二部材12を準備する工程。
(C)複数の第一部材11から一つの第一部材11を選択するとともに、複数の第二部材12から一つの第二部材12を選択する工程。
(D)選択された第二部材12の孔13に対し、選択された第一部材11を押し込む工程。
上記(C)工程において、複数の第一部材11及び複数の第二部材12から、以下の条件を満たす一組の第一部材11及び第二部材12を選択する。上記(D)工程において、選択した第二部材12の孔13に対し、選択した第一部材11を押し込むことによって、第一部材11の側面の一部が第二部材12の孔13の内面に当接した状態となって第一部材11が第二部材12に対して固定される。
<条件>
L
1/R
1>1…(1)
第一部材11の強度が第二部材12の強度よりも高い場合、第二部材12の孔13に対して第一部材11を押し込むことによって、第一部材11の側面の一部が孔13の内面を削り且つ第二部材12に食い込んだ状態となって第一部材11が第二部材12に対して固定される(
図5参照)。他方、第一部材11の強度が第二部材12の強度よりも低い場合、第二部材12の孔13に対して第一部材11を押し込むことによって、第一部材11の角部が削られて丸みを帯び、この角部が孔13の内面に当接して第一部材11が第二部材12に対して固定される。なお、第一部材11及び第二部材12の強度は、例えば、ビッカース強度で評価することができる。
【0028】
図3(a)及び
図3(b)に示す第一部材11は電子放出材料からなる。第一部材11は電子放出材料のブロックから放電加工などによって得ることができる。第一部材11は電子源10の柱状部1となる部分である。
【0029】
図3(c)に示す第二部材12は電子放出制限材料からなる。第二部材12は電子放出制限材料のブロックから放電加工などによって得ることができる。第二部材12の孔13は電子源10の孔3となる部分である。孔13の開口面積は端面12aから端面12bに向けて一定である。
【0030】
図4(a)は、第二部材12の孔13に対して第一部材11が押し込まれた状態を模式的に示す断面図である。
図5は、第一部材11の第一部材11と第二部材12の孔13の大小関係を示す平面図である。第一部材11の側面の一部(四つの角部11c)が第二部材12に食い込んでいる。なお、
図4(a)には第一部材11が孔13の奥にまで達している状態を図示したが、第一部材11は孔13の奥にまで達していなくてもよい。
【0031】
(C)工程において、以下の条件を満たす第一部材11及び孔13を有する第二部材12を選択する。
<条件>
L1/R1>1…(1)
不等式(1)において、L1は第一部材11の断面(略正方形)の対角線の長さを示し、R1は孔13の直径を示す。
【0032】
L1/R1の値は不等式(1a)を満たすことがより好ましく、不等式(1b)を満たすことが更に好ましく、不等式(1c)を満たすことが特に好ましい。
1<L1/R1<1.2…(1a)
1<L1/R1<1.1…(1b)
1<L1/R1<1.05…(1c)
【0033】
図4(b)に示された構造体15Aは、
図4(a)において破線の四角で囲った部分を切り出すことによって得られたものである。構造体15Aにおいては、端面12aから第一部材11が突出している。第一部材11の突出部11aを例えば研磨紙で削ることによって端面1a(電子放出面)を形成するとともに、第二部材12の外側を四角柱状に加工する。これにより、
図4(c)に示された四角柱体15Bが得られる。四角柱体15Bの一方の端部をテーパ状に加工することで、
図1に示された電子源10が得られる。なお、加工の順序はこれに限定されず、例えば、
図4(a)に示された状態から、まず、突出部11aを削って平坦面を形成し、その後、
図4(a)の破線の四角で囲った部分を切り出してもよい。また、加工後の第二部材12の形状は四角柱状に限定されず、例えば、略円柱状の電子源において、ヒーターで挟む部分のみが平坦に加工されている形状であってもよい(
図6参照)。
【0034】
上記製造方法によれば、(C)工程において、複数の部材のうちから、サイズが合う第一部材11及び第二部材12を選択し、これらを使用して(D)工程を実施することで、これらの部材のロスを十分に低減できる。すなわち、第一部材11及び孔13のサイズが合わないことに起因する製造上の不具合を十分に低減できる。かかる不具合として、例えば、第一部材11が孔13に入らないこと、第一部材11が孔13の内面に当接しないために孔13から脱落することなどが挙げられる。
【0035】
上記製造方法によれば、第一部材11の突出部11aを削る工程を経ることで、電子源10の先端部において、柱状部1の端面1a(電子放出面)と筒状部2aの端面2cとによって平坦面が形成される。筒状部2aから柱状部1が突出していないことで、上述のとおり、不要な電子の放出、すなわち、側方への電子の放出を十分に抑制することができるとともに、ウィスカーの生成に起因する微小放電も抑制できる。
【0036】
<エミッター>
図6はエミッターの一例を模式的に示す断面図である。
図6に示すエミッター20は、電子源10と、電子源10の周囲に配置されたカーボンヒーター16と、電極ピン17a,17bと、碍子18と、サプレッサー19とを備える。カーボンヒーター16は電子源10を加熱するためのものである。電極ピン17a,17bはカーボンヒーター16に通電するためのものである。サプレッサー19は余剰電流を抑制するためのものである。なお、カーボンヒーター16の他の手段によって電子源10が加熱される構成であってもよい。
【0037】
エミッター20を備える装置として、電子顕微鏡、半導体製造装置、検査装置及び加工装置が挙げられる。
【0038】
以上、本開示の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、断面形状が略正方形の柱状部1を例示したが(
図1,2参照)、柱状部1の断面形状は略正方形以外の略四角形であってもよく、例えば、略長方形、略ひし形、略平行四辺形であってもよい。
【0039】
第一部材11の断面形状が略正方形以外の略四角形である場合、上記のL1/R1は以下の値を示す。
L1:略四角形の二本の対角線のうち長い方の対角線の長さ
R1:孔13の直径
【0040】
柱状部1の断面形状が略三角形の電子源を製造する場合、(C)工程において、以下の条件を満たす第一部材11及び孔13(第二部材12)を選択する。
<条件>
略三角形の外接円の直径R
2が孔の直径R
1よりも大きく且つ孔13の直径R
1と同じ直径の円の中に略三角形を配置したとき、略三角形の少なくとも二つの角が当該円に接する。
図7において、実線の円Rは直径R
1の円であり、一点鎖線の円R
Tは略三角形Tの外接円である。
【0041】
上記実施形態においては、孔3の開口面積がこれらの延在方向において一定である場合を例示したが、電子放出制限部材2の孔は端面2cから端面2d側に向けて開口面積が小さくなる縮径部を有してもよい。
図8(a)に示す電子源10Aは、孔の形状以外は電子源10と同様の構成である。電子源10Aにおける孔4は、端面2c側の孔4aと、端面2d側の孔4bと、これらを間のテーパ部4c(縮径部)とによって構成されている。孔4bの内径は孔4aの内径よりも小さい。この場合、
図8(b)に示すように、柱状部1が孔4bの内面を削って電子放出制限部材2に食い込んだ状態となって十分に固定されていれば、
図8(c)に示すように、孔4a内においては柱状部1が電子放出制限部材2に食い込んでいない状態であってもよい。なお、ここでは縮径部として内径が連続的に小さくなるテーパ部4cを例示したが、縮径部は内径が段階的に小さくなるものであってもよい。第二部材12の孔もこれと同様に縮径部を有するものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本開示によれば、微細な電子源を効率的に製造するのに有用な電子源の製造方法が提供される。また、本開示によれば、電子を放出する部材がこれを保持する部材から抜け落ちることを十分に抑制できる電子源及びこれを備えるエミッターが提供される。更に、本開示によれば、上記エミッターを備える装置が提供される。
【符号の説明】
【0043】
1…柱状部、1a…端面(電子放出面)、2…電子放出制限部材、2a…筒状部、2b…基端部、2c…一方の端面、2d…他方の端面、3,4,13…孔、4c…テーパ部(縮径部)、10,10A…電子源、11…第一部材(柱状部)、11a…突出部、11c…角部、12…第二部材、20…エミッター