(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】ヤロウイア属変異体及びそれを用いた脂肪の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20241018BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20241018BHJP
C12N 1/16 20060101ALI20241018BHJP
C12P 7/6445 20220101ALI20241018BHJP
C12P 7/64 20220101ALI20241018BHJP
A23L 31/10 20160101ALI20241018BHJP
A23L 31/15 20160101ALI20241018BHJP
A61K 36/062 20060101ALI20241018BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20241018BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20241018BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241018BHJP
A61Q 1/00 20060101ALI20241018BHJP
A61K 8/9728 20170101ALI20241018BHJP
A23K 10/16 20160101ALI20241018BHJP
【FI】
C12N15/09
C12N1/19
C12N1/16 G ZNA
C12N1/16 F
C12P7/6445
C12P7/64
A23L31/10
A23L31/15
A61K36/062
A61K35/74 D
A61K35/74 G
A61K48/00
A61P43/00 111
A61Q1/00
A61K8/9728
A61K35/74 C
A23K10/16
(21)【出願番号】P 2022547918
(86)(22)【出願日】2021-03-05
(86)【国際出願番号】 KR2021002774
(87)【国際公開番号】W WO2021182808
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-08-05
(31)【優先権主張番号】10-2020-0029137
(32)【優先日】2020-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【微生物の受託番号】KCCM KCCM12671P
【微生物の受託番号】KCCM KCCM12672P
【微生物の受託番号】KCCM KCCM12673P
(73)【特許権者】
【識別番号】513178894
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】チャン, ジリャン
(72)【発明者】
【氏名】イ, ペドロ
(72)【発明者】
【氏名】ペ, ジ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム, ジュ-ヨン
(72)【発明者】
【氏名】パク, ヘ ミン
(72)【発明者】
【氏名】キム, ヒョン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】パク, サン ミン
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/075543(WO,A1)
【文献】特表2017-518747(JP,A)
【文献】特表2012-530182(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0191073(US,A1)
【文献】Eng. Life Sci.,2017年,Vol.17,p.292-302,doi:10.1002/elsc.201600040
【文献】DATABASE GenBank, accession no.XM_503613 [0nline],[2023年8月1日検索],2017年06月06日,https://www.ncbi.nim.nih.gov/nuccore/XM_503613.1/
【文献】DATABASE GenBank, accession no.XM_503863 [0nline],[2023年8月1日検索],2017年06月06日,https://www.ncbi.nim.nih.gov/nuccore/XM_503863.2/
【文献】Molecular Biology of the Cell,2006年,Vol.17,p.1006-1017
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
C12N 1/19
C12P 7/64
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼ(phosphatidylethanolamine N-methyltransferase,PEMT)またはホスホリピドメチルトランスフェラーゼ(Phospholipid methyltransferase)の活性が不活性化された、ヤロウイア属変異型菌株であって、
前記ホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼはcho2遺伝子によりコードされ、前記ホスホリピドメチルトランスフェラーゼはopi3遺伝子によりコードされ、
前記ヤロウイア属変異型菌株は、野生型に比べて増加した脂肪含量を有する、
ヤロウイア属変異型菌株。
【請求項2】
前記cho2遺伝子は配列番号1のポリヌクレオチド配列からなる、請求項1に記載のヤロウイア属変異型菌株。
【請求項3】
前記cho2遺伝子は欠損した、請求項2に記載のヤロウイア属変異型菌株。
【請求項4】
前記opi3遺伝子は配列番号11のポリヌクレオチド配列からなる、請求項1に記載のヤロウイア属変異型菌株。
【請求項5】
前記opi3遺伝子は欠損した、請求項4に記載のヤロウイア属変異型菌株。
【請求項6】
前記ヤロウイア属変異型菌株はヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)を含む、請求項1に記載のヤロウイア属変異型菌株。
【請求項7】
前記ヤロウイア属変異型菌株は、コリン(choline)栄養要求株である、請求項1に記載のヤロウイア属変異型菌株。
【請求項8】
前記脂肪は、トリアシルグリセロール(Triacylglycerol;TAG)を含む、請求項1に記載のヤロウイア属変異型菌株。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のヤロウイア属変異型菌株、前記菌株の培養物、前記菌株の抽出物、前記菌株の乾燥物、
及び前記菌株の破砕
物の少なくとも一つを含む、化粧用組成物。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載のヤロウイア属変異型菌株、前記菌株の培養物、前記菌株の抽出物、前記菌株の乾燥物、
及び前記菌株の破砕
物の少なくとも一つを含む、食品用組成物。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか一項に記載のヤロウイア属変異型菌株、前記菌株の培養物、前記菌株の抽出物、前記菌株の乾燥物、
及び前記菌株の破砕
物の少なくとも一つを含む、飼料用組成物。
【請求項12】
請求項1~8のいずれか一項に記載のヤロウイア属変異型菌株、前記菌株の培養物、前記菌株の抽出物、前記菌株の乾燥物、
及び前記菌株の破砕
物の少なくとも一つを含む、医薬組成物。
【請求項13】
ホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼ(phosphatidylethanolamine N-methyltransferase,PEMT)またはホスホリピドメチルトランスフェラーゼ(Phospholipid methyltransferase)の活性が不活性化されたヤロウイア属変異型菌株を培養する段階を含む、菌株内脂肪を増加させる方法であって、
前記ホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼはcho2遺伝子によりコードされ、前記ホスホリピドメチルトランスフェラーゼはopi3遺伝子によりコードされ、
前記ヤロウイア属変異型菌株は、野生型に比べて増加した脂肪含量を有する、
方法。
【請求項14】
前記菌株を培養する段階は、コリン(choline)が含まれた培地で
前記菌株を培養するものである、請求項13に記載の菌株内脂肪を増加させる方法。
【請求項15】
前記培地内前記コリン(choline)の濃度は0.05~5mMである、請求項14に記載の菌株内脂肪を増加させる方法。
【請求項16】
前記培地内C/N ratioは40~80である、請求項14に記載の菌株内脂肪を増加させる方法。
【請求項17】
前記脂肪はトリアシルグリセロール(TAG)を含む、請求項13に記載の菌株内脂肪を増加させる方法。
【請求項18】
ホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼ(phosphatidylethanolamine N-methyltransferase,PEMT)またはホスホリピドメチルトランスフェラーゼ(Phospholipid methyltransferase)の活性が不活性化された、ヤロウイア属変異型菌株を培養する段階を含む脂肪の製造方法であって、
前記ホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼはcho2遺伝子によりコードされ、前記ホスホリピドメチルトランスフェラーゼはopi3遺伝子によりコードされ、
前記ヤロウイア属変異型菌株は、野生型に比べて増加した脂肪含量を有する、
製造方法。
【請求項19】
前記菌株を培養する段階以後、前記菌株、その培養物、その抽出物、その乾燥物またはその破砕物から脂肪を回収する段階をさらに含む、請求項18に記載の脂肪の製造方法。
【請求項20】
前記菌株を培養する段階は、コリン(choline)が含まれた培地で
前記菌株を培養するものである、請求項18に記載の脂肪の製造方法。
【請求項21】
前記培地内C/N ratioは40~80である、請求項20に記載の脂肪の製造方法。
【請求項22】
ホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼ(phosphatidylethanolamine N-methyltransferase,PEMT)またはホスホリピドメチルトランスフェラーゼ(Phospholipid methyltransferase)の活性が不活性化された、ヤロウイア属変異型菌株
;前記菌株の培養物;前記菌株の抽出物;前記菌株の乾燥物;前記菌株の破砕物;前記菌株、培養物、抽出物、乾燥物及び破砕物及び前記菌株、培養物、抽出物、乾燥物及び破砕物の少なくとも一つから回収された脂肪の少なくとも一つを含む、化粧用組成物、食品用組成物、飼料用組成物、または医薬組成物の脂肪製造のための使用であって、
前記ホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼはcho2遺伝子によりコードされ、前記ホスホリピドメチルトランスフェラーゼはopi3遺伝子によりコードされ、
前記ヤロウイア属変異型菌株は、野生型に比べて増加した脂肪含量を有する、
使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、脂肪含量改善のための酵母の改良及びその製造方法に関し、具体的には、ホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼ(phosphatidylethanolamine N-methyltransferase,PEMT)またはホスホリピドメチルトランスフェラーゼ(Phospholipid methyltransferase)の活性が不活性化され、脂肪含量が増加したヤロウイア属変異型菌株、及び前記ヤロウイア属変異型菌株をコリン(choline)が含まれた培地で培養して菌株内脂肪を増加させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遊離脂肪酸、脂肪アルコール、脂肪酸エチルエステル、アルカンなど脂肪酸誘導体を生産する油性酵母(oleaginous yeast)はエネルギー、化粧品、食品、飼料など種々の分野で関心を受けており、それに関連して多様な研究がなされている。その中でも脂肪酸誘導体の前駆体であるとともに長期保管が可能な脂肪形態であるトリアシルグリセロール(triacylglycerol;TAG)を多量に合成しようとする研究が多く行われている。
【0003】
多くの研究者らは、油性酵母内TAGの含量を改善させる方法としてTAG生合成経路の強化(例えば、dga1-2,slc1,acl1-2,acc1,sct1,lro1)、TAG分解抑制(例えば、tgl1-4,faa1,pxa1-2)及びベータ酸化(beta-oxidation)抑制戦略(例えば、pox1-6,mfe1,pex1-32,pot1)を主に用いている(US 2013-0344548 A1)。
【0004】
最近は、多様な戦略で酵母内脂肪含量を改善させるために努力しているが、注目すべき脂肪含量の増加が見られないところ、酵母の生育低下を防止しながらも脂肪生成の程度を向上させるための代案が必要な実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Scheit,Nucleotide Analogs,John Wiley,New York(1980)
【文献】Uhlman及びPeyman,Chemical Reviews,90:543-584(1990)
【文献】J. Sambrook et al.,Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2nd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory press,Cold Spring Harbor,New York,1989
【文献】F.M. Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,Inc.,New York
【文献】Pearson et al(1988)[Proc.Natl. Acad.Sci.USA 85]:2444
【文献】Rice et al.,2000,Trends Genet. 16: 276-277
【文献】Needleman and Wunsch,1970,J. Mol. Biol. 48: 443-453
【文献】Devereux,J.,et al,Nucleic Acids Research 12: 387 (1984)
【文献】Atschul,[S.] [F.,] [ET AL,J MOLEC BIOL 215]: 403 (1990)
【文献】Guide to Huge Computers,Martin J. Bishop,[ED.,] Academic Press,San Diego,1994
【文献】[CARILLO ETA/.](1988) SIAM J Applied Math 48: 1073
【文献】Smith and Waterman、Adv.Appl.Math(1981)2:482
【文献】Schwartz and Dayhoff、eds.、Atlas Of Protein Sequence And Structure、National Biomedical Research Foundation、pp.353-358(1979)
【文献】Gribskov et al(1986)Nucl. Acids Res.14:6745
【文献】Nakashima N et al.,Bacterial cellular engineering by genome editing and gene silencing. Int J Mol Sci. 2014;15(2):2773-2793
【文献】Sambrook et al. Molecular Cloning 2012
【文献】AIMS Bioengineering 2016. 3(4):493-514
【文献】Biochim. Biophys. Acta. 2018. 1863(1):81-90
【文献】Nat. Commun. 2014. 5:3131
【文献】METAB ENG 2015. 29:56-65
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、ホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼまたはホスホリピドメチルトランスフェラーゼの活性が不活性化された変異型菌株の脂肪生産量が増加することを確認することにより、本出願を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本出願の一つの目的は、ホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼ(phosphatidylethanolamine N-methyltransferase,PEMT)またはホスホリピドメチルト
ランスフェラーゼ(Phospholipid methyltransferase)の活性が不活性化された、ヤロウ
イア属変異型菌株を提供することにある。
本発明の実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
ホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼ(phosphatidylethanolamine N-methyltransferase,PEMT)またはホスホリピドメチルトランスフェラーゼ(Phospholipid methyltransferase)の活性が不活性化された、ヤロウイア属変異型菌株。
(項目2)
前記ホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼはcho2遺伝子によりコードされ、前記cho2遺伝子は配列番号1のポリヌクレオチド配列からなる、項目1に記載のヤロウイア属変異型菌株。
(項目3)
前記cho2遺伝子は欠損した、項目2に記載のヤロウイア属変異型菌株。
(項目4)
前記ホスホリピドメチルトランスフェラーゼはopi3遺伝子によりコードされ、前記opi3遺伝子は配列番号11のポリヌクレオチド配列からなる、項目1に記載のヤロウイア属変異型菌株。
(項目5)
前記opi3遺伝子は欠損した、項目4に記載のヤロウイア属変異型菌株。
(項目6)
前記ヤロウイア属菌株はヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)を含む、項目1に記載のヤロウイア属変異型菌株。
(項目7)
前記ヤロウイア属変異型菌株は、コリン(choline)栄養要求株である、項目1に記載
のヤロウイア属変異型菌株。
(項目8)
前記ヤロウイア属変異型菌株は、野生型に比べて増加した脂肪含量を有する、項目1に記載のヤロウイア属変異型菌株。
(項目9)
前記脂肪は、トリアシルグリセロール(Triacylglycerol;TAG)を含む、項目8に記載のヤロウイア属変異型菌株。
(項目10)
項目1~9のいずれか一項に記載のヤロウイア属変異型菌株、前記菌株の培養物、前記菌株の抽出物、前記菌株の乾燥物、前記菌株の破砕物及び前記菌株、培養物、抽出物、乾燥物及び破砕物の少なくとも一つから回収された脂肪の少なくとも一つを含む、化粧用組成物。
(項目11)
項目1~9のいずれか一項に記載のヤロウイア属変異型菌株、前記菌株の培養物、前記菌株の抽出物、前記菌株の乾燥物、前記菌株の破砕物及び前記菌株、培養物、抽出物、乾燥物及び破砕物の少なくとも一つから回収された脂肪の少なくとも一つを含む、食品用組成物。
(項目12)
項目1~9のいずれか一項に記載のヤロウイア属変異型菌株、前記菌株の培養物、前記菌株の抽出物、前記菌株の乾燥物、前記菌株の破砕物及び前記菌株、培養物、抽出物、乾燥物及び破砕物の少なくとも一つから回収された脂肪の少なくとも一つを含む、飼料用組成物。
(項目13)
項目1~9のいずれか一項に記載のヤロウイア属変異型菌株、前記菌株の培養物、前記菌株の抽出物、前記菌株の乾燥物、前記菌株の破砕物及び前記菌株、培養物、抽出物、乾燥物及び破砕物の少なくとも一つから回収された脂肪の少なくとも一つを含む、医薬組成物。
(項目14)
ホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼ(phosphatidylethanolamine N-methyltransferase,PEMT)またはホスホリピドメチルトランスフェラーゼ(Phospholipid methyltransferase)の活性が不活性化されたヤロウイア属変異型菌株を培養する段階を含む、菌株内脂肪を増加させる方法。
(項目15)
前記菌株を培養する段階は、コリン(choline)が含まれた培地で培養するものである、
項目14に記載の菌株内脂肪を増加させる方法。
(項目16)
前記培地内前記コリン(choline)の濃度は0.05~5mMである、項目15に記載
の菌株内脂肪を増加させる方法。
(項目17)
前記培地内C/N ratioは40~80である、項目15に記載の菌株内脂肪を増加させる方法。
(項目18)
前記脂肪はトリアシルグリセロール(TAG)を含む、項目14に記載の菌株内脂肪を増加させる方法。
(項目19)
ホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼ(phosphatidylethanolamine N-methyltransferase,PEMT)またはホスホリピドメチルトランスフェラーゼ(Phospholipid methyltransferase)の活性が不活性化された、ヤロウイア属変異型菌株を培養する段階を含む脂肪の製造方法。
(項目20)
前記菌株を培養する段階以後、前記菌株、その培養物、その抽出物、その乾燥物またはその破砕物から脂肪を回収する段階をさらに含む、項目19に記載の脂肪の製造方法。
(項目21)
前記菌株を培養する段階は、コリン(choline)が含まれた培地で培養するものである、
項目19に記載の脂肪の製造方法。
(項目22)
前記培地内C/N ratioは40~80である、項目21に記載の脂肪の製造方法。
(項目23)
ホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼ(phosphatidylethanolamine N-methyltransferase,PEMT)またはホスホリピドメチルトランスフェラーゼ(Phospholipid methyltransferase)の活性が不活性化された、ヤロウイア属変異型菌株;または
前記菌株の培養物;前記菌株の抽出物;前記菌株の乾燥物;前記菌株の破砕物;前記菌株、培養物、抽出物、乾燥物及び破砕物及び前記菌株、培養物、抽出物、乾燥物及び破砕物の少なくとも一つから回収された脂肪の少なくとも一つを含む、化粧用組成物、食品用組成物、飼料用組成物、または医薬組成物の脂肪製造のための使用。
【0009】
本出願のもう一つの目的は、前記ヤロウイア属変異型菌株、前記菌株の培養物、前記菌株の抽出物、前記菌株の乾燥物、前記菌株の破砕物及び前記菌株、培養物、抽出物、乾燥物及び破砕物の少なくとも一つから回収された脂肪の少なくとも一つを含む、化粧用組成物、食品用組成物、飼料用組成物、または医薬組成物を提供することにある。
【0010】
本出願の更に他の一つの目的は、前記ヤロウイア属変異型菌株を培養する段階を含む、菌株内脂肪を増加させる方法を提供することにある。
【0011】
本出願の更に他の一つの目的は、前記ヤロウイア属変異型菌株を培養する段階を含む、脂肪製造方法を提供することにある。
【0012】
本出願の更に他の一つの目的は、前記ヤロウイア属変異型菌株、前記菌株の培養物、前記菌株の抽出物、前記菌株の乾燥物、前記菌株の破砕物、前記化粧用組成物、前記食品用組成物、前記飼料用組成物、前記医薬組成物、または前記ヤロウイア属変異型菌株の培養物の脂肪製造のための使用を提供することにある。
【発明の効果】
【0013】
本出願のヤロウイア属変異型菌株は、ホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼ(phosphatidylethanolamine N-methyltransferase,PEMT)またはホスホリピドメチルトランスフェラーゼ(Phospholipid methyltransferase)の活性の不活性化により細胞内脂肪生成を増加させることができる。
【0014】
本出願の菌株内脂肪を増加させる方法及び脂肪の製造方法は、前記菌株の生育阻害を防止すると共に効果的に脂肪生産性を増加させることができる。
【0015】
本出願の化粧用組成物、食品用組成物、飼料用組成物、及び医薬組成物は脂肪含有量が増加して改善された機能性を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
これを具体的に説明すると、次の通りである。一方、本出願で開示されたそれぞれの説明及び実施形態は、それぞれの異なる説明及び実施形態にも適用され得る。即ち、本出願で開示された多様な要素の全ての組合わせが本出願の範疇に属する。また、下記記述された具体的な記述により本出願の範疇が制限されるとは見られない。
【0017】
また、当該技術分野における通常の知識を有する者は、通常の実験のみを使用し、本出願に記載された本出願の特定様態に対する多数の等価物を認知したり確認することができる。また、このような等価物は本出願に含まれることが意図される。
【0018】
前記目的を達成するための本出願の一つの様態は、ホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼまたはホスホリピドメチルトランスフェラーゼの活性が不活性化された、ヤロウイア属変異型菌株を提供する。
【0019】
本出願の「ホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼ(phosphatidylethanolamine N-methyltransferase,PEMT)」は、ホスファチジルエタノールアミン(PE)をホスファチジルコリン(PC)に転換させるトランスフェラーゼ酵素である。前記PEMTを通じて製造されたホスファチジルコリンは、コリンの合成、膜構造、VLDL分泌に活用されて多様な生理学的役割をすることができる。本出願において前記ホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼはPEMTと混用され得る。本出願において前記ホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼはcho2遺伝子によりコードされるものであってもよい。
【0020】
本出願の「ホスホリピドメチルトランスフェラーゼ(Phospholipid methyltransferase)」は、ホスファチジルエタノールアミン(PE)のメチル化反応を触媒する酵素であり、ホスファチジルコリン(PC)を合成する役割をすることができる。本出願において前記ホスホリピドメチルトランスフェラーゼはopi3遺伝子によりコードされるものであってもよい。
【0021】
本出願のホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼまたはホスホリピドメチルトランスフェラーゼの活性の不活性化は、前記2酵素の活性がそれぞれ不活性化されたり、またはこれらの組合わせが不活性化されたことを意味する。
【0022】
本出願の目的上、前記2酵素の活性がそれぞれ不活性化されたり、いずれも不活性化されたヤロウイア属変異型菌株は、野生型に比べて菌株内脂肪含量が増加するものであってもよいが、これに制限されない。
【0023】
前記「ホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼ」または「ホスホリピドメチルトランスフェラーゼ」は、公知のデータベースから配列が得られ、公知のデータベースの例としてNCBIのGenBankなどがある。一例として、ヤロウイア属(Yarrowia sp.)由来のホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼ及び/又はホスホリピドメチルトランスフェラーゼであってもよく、具体的には、ホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼは配列番号2のアミノ酸配列を含み、ホスホリピドメチルトランスフェラーゼは配列番号12のアミノ酸配列を含むポリペプチドであってもよいが、これに制限されない。前記配列番号2のアミノ酸配列を含むポリペプチドは配列番号2のアミノ酸配列を有するポリペプチド、配列番号2のアミノ酸配列で構成されるポリペプチドと混用され得、前記配列番号12のアミノ酸配列を含むポリペプチドは配列番号12のアミノ酸配列を有するポリペプチド、配列番号12のアミノ酸配列で構成されるポリペプチドと混用され得る。また、前記アミノ酸配列と同一の活性を有するポリペプチドの配列は制限なく含まれ得る。
【0024】
また、ホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼの配列番号2のアミノ酸配列及び/又はホスホリピドメチルトランスフェラーゼの配列番号12のアミノ酸配列またはこれと30%以上の相同性(homology)または同一性(identity)を有するアミノ酸配列を含んでもよいが、これに制限されるものではない。具体的には、前記ポリペプチドはホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼの配列番号2及び/又はホスホリピドメチルトランスフェラーゼの配列番号12と少なくとも30%、60%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%以上の相同性または同一性を有するポリペプチドアミノ酸を含んでもよい。また、このような相同性または同一性を有し、前記ポリペプチドに対応する効能を示すアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、変形、置換または付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドも本出願の範囲内に含まれることは自明である。
【0025】
即ち、本出願において「特定配列番号で記載されたアミノ酸配列からなるタンパク質またはポリペプチド」と記載されているとしても、当該配列番号のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同一あるいは対応する活性を有する場合であれば、一部の配列が欠失、変形、置換または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドも本出願で用いられることは自明である。例えば、「配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチド」は、これと同一あるいは対応する活性を有する場合であれば、「配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチド」に属し得ることは自明である。
【0026】
本出願において、前記ホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼ及びホスホリピドメチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子は、それぞれcho2及びopi3遺伝子であってもよい。本出願の前記アミノ酸をコードする遺伝子配列はホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼ及び/又はホスホリピドメチルトランスフェラーゼをコードする配列番号1及び/又は配列番号11のポリヌクレオチド配列であってもよいが、これに制限されない。また、前記ポリヌクレオチド配列と同一の活性を有する配列は制限なく含まれてもよい。前記cho2遺伝子は配列番号2のアミノ酸配列をコードする塩基配列であってもよく、より具体的には配列番号1の塩基配列を含む配列であってもよいが、これに制限されない。前記配列番号1の塩基配列を含む配列及び前記配列番号1の塩基配列を含むポリヌクレオチドは配列番号1の塩基配列を有するポリヌクレオチド、配列番号1の塩基配列で構成されるポリヌクレオチド、及び配列番号1のポリヌクレオチド配列からなる遺伝子と混用され得る。
【0027】
前記opi3遺伝子は配列番号12のアミノ酸配列をコードする塩基配列であってもよく、より具体的には配列番号11の塩基配列を含む配列であってもよいが、これに制限されない。前記配列番号11の塩基配列を含む配列及び前記配列番号11の塩基配列を含むポリヌクレオチドは、配列番号11の塩基配列を有するポリヌクレオチド、配列番号11の塩基配列で構成されるポリヌクレオチド、及び前記opi3遺伝子は配列番号11のポリヌクレオチド配列からなる遺伝子と混用され得る。
【0028】
本出願において用語「ポリヌクレオチド」はヌクレオチド単位体(monomer)が共有結合により長く鎖状につながったヌクレオチドの重合体(polymer)であり、DNAまたはRNA分子を包括的に含む意味を有し、ポリヌクレオチドにおいて基本構成単位であるヌクレオチドは天然ヌクレオチドだけでなく、糖または塩基部位が変形された類似体も含み得る(Scheit,Nucleotide Analogs,John Wiley,New York(1980);Uhlman及びPeyman,Chemical Reviews,90:543-584(1990)を参照)。
【0029】
前記ポリヌクレオチドは、本出願のホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼ及び/又はホスホリピドメチルトランスフェラーゼポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたは本出願のホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼ及び/又はホスホリピドメチルトランスフェラーゼポリペプチドと少なくとも30%、60%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%以上の相同性または同一性を有するポリヌクレオチド配列を含んでもよい。また、このような相同性または同一性を有し、前記ポリペプチドをコードする遺伝子配列であれば、一部の配列が欠失、変形、置換または付加されたポリヌクレオチド配列も本出願の範囲内に含まれることは自明である。
【0030】
また、コドン縮退性(codon degeneracy)により配列番号2及び/又は12または配列番号2及び/又は12と30%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドまたはこれと相同性または同一性を有するポリペプチドに翻訳され得るポリヌクレオチドも含まれ得ることは自明である。または公知の遺伝子配列から調製され得るプローブ、例えば、前記ポリヌクレオチド配列の全体または一部に対する相補配列とストリンジェントな条件下にハイブリダイズし、配列番号2のアミノ酸配列と30%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするボリヌクレオチド配列であれば制限なく含まれてもよい。前記「ストリンジェントな条件」とは、ポリヌクレオチド間の特異的ハイブリダイゼーションを可能にする条件を意味する。このような条件は文献(例えば、J. Sambrook et al.,Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2nd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory press,Cold Spring Harbor,New York,1989;F.M. Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,Inc.,New York)に具体的に記載されている。例えば、相同性または同一性が高い遺伝子同士、30%以上、70%以上、80%以上、具体的には85%以上、具体的には90%以上、より具体的には95%以上、さらに具体的には97%以上、特に具体的には99%以上の相同性または同一性を有する遺伝子同士をハイブリダイズし、それより相同性または同一性が低い遺伝子同士をハイブリダイズしない条件、または通常のサザンハイブリダイゼーションの洗浄条件である60℃、1XSSC、0.1% SDS、具体的には、60℃、0.1XSSC、0.1% SDS、より具体的には68℃、0.1XSSC、0.1% SDSに相当する塩濃度及び温度で、1回、具体的には2回~3回洗浄する条件を列挙できる。
【0031】
ハイブリダイゼーションは、たとえハイブリダイゼーションのストリンジェンシーにより塩基間のミスマッチ(mismatch)が可能であっても、2つのポリヌクレオチドが相補的配列を有することを要求する。用語「相補的」は互いにハイブリダイゼーションが可能なヌクレオチド塩基間の関係を記述するのに用いられる。例えば、DNAについて、アデニンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。従って、本出願は、また、実質的に類似のポリヌクレオチド配列だけでなく、全体配列に相補的な単離されたポリヌクレオチド断片を含んでもよい。
【0032】
具体的には、相同性または同一性を有するポリヌクレオチドは55℃のTm値でハイブリダイゼーション段階を含むハイブリダイゼーション条件を用い、上述した条件を用いて探知できる。また、前記Tm値は60℃、63℃または65℃であってもよいが、これに制限されるものではなく、その目的に応じて当業者により適宜調節されてもよい。
【0033】
ポリヌクレオチドをハイブリダイズする適切なストリンジェンシーは、ポリヌクレオチドの長さ及び相補性程度に依存し、変数は当該技術分野によく知られている(例えば、J. Sambrook et al.,同上)。
【0034】
本出願において用語、「相同性(homology)」または「同一性(identity)」は2つの与えられたアミノ酸配列または塩基配列と互いに関連した程度を意味し、百分率で表することができる。用語、相同性及び同一性は、しばしば相互交換的に用いられ得る。
【0035】
保存された(conserved)ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの配列相同性または同一性は標準配列アルゴリズムにより決定され、用いられるプログラムにより確立したデフォルトギャップペナルティが共に用いられてもよい。実質的に、相同性を有したり(homologous)または同一の(identical)配列は、中間または高いストリンジェントな条件(stringent conditions)で一般に配列全体または全長の少なくとも約50%、60% 70%、80%または90%以上にハイブリダイズすることができる。ハイブリダイゼーションは、ポリヌクレオチドにおいてコドンの代わりに縮退コドンを含有するポリヌクレオチドも考慮される。
【0036】
任意の二つのポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列が相同性、類似性または同一性を有するかどうかは、例えば、Pearson et al(1988)[Proc.Natl. Acad.Sci.USA 85]:2444でのようなデフォルトパラメータを用いて「FASTA」プログラムのような公知のコンピュータアルゴリズムを用いて決定することができる。または、EMBOSSパッケージのニードルマンプログラム(EMBOSS: The European Molecular Biology Open Software Suite,Rice et al.,2000,Trends Genet. 16: 276-277)(バージョン5.0または以降のバージョン)で行われるような、ニードルマン-ウンシュ(Needleman-Wunsch)アルゴリズム(Needleman and Wunsch,1970,J. Mol. Biol. 48: 443-453)を使用して決定することができる(GCGプログラムパッケージ(Devereux,J.,et al,Nucleic Acids Research 12: 387 (1984)),BLASTP,BLASTN,FASTA (Atschul,[S.] [F.,] [ET AL,J MOLEC BIOL 215]: 403 (1990);Guide to Huge Computers,Martin J. Bishop,[ED.,] Academic Press,San Diego,1994,及び[CARILLO ETA/.](1988) SIAM J Applied Math 48: 1073を含む)。例えば、国立生物工学情報データベースセンターのBLAST、またはClustalWを用いて相同性、類似性または同一性を決定することができる。
【0037】
ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの相同性、類似性または同一性は、例えば、Smith and Waterman、Adv.Appl.Math(1981)2:482に公知となった通り、例えば、Needleman et al.(1970)、J Mol Biol.48:443のようなGAPコンピュータプログラムを用いて配列情報を比較することにより決定することができる。要約すると、GAPプログラムは、二配列中、より短いものにおける記号の総数であり、類似の配列された記号(すなわち、ヌクレオチドまたはアミノ酸)の数を除した値と定義する。GAPプログラムのためのデフォルトパラメータは、(1)一進法比較マトリックス(同一性のために1、そして非同一性のために0の値を含有する)及びSchwartz and Dayhoff、eds.、Atlas Of Protein Sequence And Structure、National Biomedical Research Foundation、pp.353-358(1979)により開示された通り、Gribskov et al(1986)Nucl. Acids Res.14:6745の加重比較マトリックス(またはEDNAFULL(NCBI NUC4.4のEMBOSSバージョン)置換マトリックス);(2)各ギャップのための3.0のペナルティ及び各ギャップにおいて各記号のための追加の0.10ペナルティ(またはギャップ開放ペナルティ10、ギャップ延長ペナルティ0.5);及び(3)末端ギャップのための無ペナルティを含むことができる。したがって、本願で使用されたものとして、用語「相同性」または「同一性」は配列間の関連性(relevance)を示す。
【0038】
本出願のポリペプチドまたはタンパク質活性の「不活性化」は、前記ポリペプチドまたはタンパク質の発現が天然の野生型菌株、母菌株または当該ポリペプチドまたはタンパク質が変形されない菌株に比べて全く発現されなかったり、または発現されてもその活性がなかったり減少したことを意味する。前記不活性化は、弱化、下向調節(down-regulation)、減少(decrease)、低下(reduce)などの用語と混用されてもよい。この時、前記不活性化は、前記ポリペプチドをコードする遺伝子の変異、発現調節配列の変形、遺伝子の一部または全体の欠損などによりポリペプチドの活性が本来微生物が有しているポリペプチドの活性に比べて減少または除去された場合と、これをコードする遺伝子の発現阻害または翻訳(translation)阻害などにより細胞内で全体的なポリペプチドの活性程度が天然型菌株または変形前の菌株に比べて低い場合、前記遺伝子の発現が全くなされていない場合、及び発現されても活性がない場合、及びこれらの組合わせも含む概念である。
【0039】
本出願において、前記不活性化はこれに制限されるものではなく、当該分野においてよく知られている多様な方法の適用により達成されてもよい(Nakashima N et al.,Bacterial cellular engineering by genome editing and gene silencing. Int J Mol Sci. 2014;15(2):2773-2793,Sambrook et al. Molecular Cloning 2012など)。前記方法の例として、前記ポリペプチドをコードする染色体上の遺伝子の全体または一部を欠失させる方法;前記酵素の活性が減少するように突然変異された遺伝子で、染色体上の前記ポリペプチドをコードする遺伝子を交換する方法;前記ポリペプチドをコードする染色体上の遺伝子の発現調節配列に変異を導入する方法;前記ポリペプチドをコードする遺伝子の発現調節配列を活性が弱かったり、ない配列で交換する方法(例えば、前記遺伝子のプロモーターを内在的プロモーターより弱いプロモーターで交換する方法);前記ポリペプチドをコードする染色体上の遺伝子の全体または一部を欠失させる方法;前記ポリペプチドをコードする染色体上の遺伝子の転写体に相補的に結合して前記mRNAからタンパク質またはポリペプチドへの翻訳を阻害するアンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスRNA)を導入する方法;前記ポリペプチドをコードする遺伝子のSD配列の前段にSD配列と相補的な配列を人為的に付加して2次構造物を形成させてリボソーム(ribosome)の付着を不可能にさせる方法;及び前記ポリペプチドをコードする前記遺伝子のポリヌクレオチド配列のORF(open reading frame)の3’末端に逆転写されるようにプロモーターを付加するRTE(Reverse transcription engineering)方法などがあり、これらの組合わせでも達成できるが、前記例により特に制限されるのではない。
【0040】
具体的には、タンパク質またはポリペプチドをコードする遺伝子の一部または全体を欠失する方法は、微生物内染色体挿入用ベクターを通じて染色体内内在的目的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを一部の核酸配列が欠失したポリヌクレオチドまたはマーカー遺伝子で交換することにより行われてもよい。その一例として、相同組換えにより遺伝子を欠失させる方法を用いることができるが、これに限定されない。また、前記において「一部」とは、ポリヌクレオチドの種類に応じて異なり、当業者が適宜決定できるが、具体的には1~300個、より具体的には1~100個、より具体的には1~50個であってもよい。しかし、特にこれに制限されるものではない。
【0041】
前記遺伝子の一部または全体を欠損させる方法は、紫外線のような光または化学物質を用いて突然変異を誘発し、得られた突然変異体から目的遺伝子が欠損した菌株を選別して行われてもよい。前記遺伝子欠損方法にはDNA組換え技術による方法が含まれる。前記DNA組換え技術には、例えば、目的遺伝子と相同性のあるヌクレオチド配列を含むヌクレオチド配列またはベクターを前記微生物に注入して相同組換え(homologous recombination)が起こるようにしてなされる。また、前記注入されるヌクレオチド配列またはベクターには、優性選別マーカーを含んでもよいが、これに制限されるものではない。
【0042】
また、発現調節配列を変形する方法は、前記発現調節配列の活性をさらに弱化するように核酸配列を欠失、挿入、非保存的または保存的置換またはこれらの組合わせで発現調節配列上の変異を誘導して行ったり、さらに弱い活性を有する核酸配列で交換することにより行うことができる。前記発現調節配列には、プロモーター、オペレータ配列、リボソーム結合部位をコードする配列、及び転写と解読の終結を調節する配列を含んでもよいが、これに限定されない。
【0043】
併せて、染色体上の遺伝子配列を変形する方法は、前記ポリペプチドの活性をさらに弱化するように遺伝子配列を欠失、挿入、非保存的または保存的置換またはこれらの組合わせで配列上の変異を誘導して行ったり、さらに弱い活性を有するように改良された遺伝子配列または活性がないように改良された遺伝子配列で交換して行うことができるが、これに限定されるものではない。
【0044】
ただし、前記のような記載は一例に過ぎず、これに制限されず、多様な公知の脂肪含量を増加させる生合成経路の酵素をコードする遺伝子の発現を増進させたり、関連した経路の酵素を不活性化させたり、脂肪生合成経路上の中間体、補助因子、またはエネルギー源を消耗する経路上の酵素を不活性化させた微生物であってもよい。前記脂肪含量を増加させた微生物は、公知の多様な方法を適用して製造されてもよい。
【0045】
本出願の目的上、本出願の微生物は、前記ホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフフェラーゼ(phosphatidylethanolamine N-methyltransferase,PEMT)またはホスホリピドメチルトランスフェラーゼ(Phospholipid methyltransferase)の活性が不活性化され、不変型微生物または野生型に比べて増加した脂肪含量を有する微生物であれば、いずれも可能である。
【0046】
本出願において「非変形微生物」は、天然型菌株そのものであるか、ホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼまたはホスホリピドメチルトランスフェラーゼの活性が低下または不活性化されない微生物を意味してもよいが、これに制限されない。前記「非変形微生物」は「変形前菌株」、「変形前微生物」、「非変異菌株」、「非変形菌株」、「非変異微生物」、「非変形微生物」または「基準微生物」と混用され得る。
【0047】
本出願の「野生型」は、遺伝形質において突然変異により新たな変異型を種内で見られる時、本来有していた普遍的な表現型を意味する。
【0048】
本出願の野生型菌株は、ヤロウイア属菌株であってもよい。前記「ヤロウイア属」はディポダスカセエ(Dipodascaceae)系統の真菌属であり、前記属は、炭化水素のような非正常な炭素源を用いることができる酵母であり、単型(monotypic)であってもよい。前記ヤロウイア属菌株は、具体的には、ヤロウイア・ブブラ(Yarrowia bubula)、ヤロウイア・デフォルマンス(Yarrowia deformans)、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、ヤロウイア・ポルシナ(Yarrowia porcina)、ヤロウイア・ヤクシメンシス(Yarrowia yakushimensis)であってもよく、より具体的には、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)であってもよいが、これに制限されない。
【0049】
本出願の「変異型菌株」は、遺伝形質において突然変異により新たな変異型を微生物菌株内で見られる時に有する新たな表現型を有する菌株を意味する。
【0050】
本出願の「ヤロウイア属変異型菌株」は、ホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼ活性が不活性化されたり、ホスホリピドメチルトランスフェラーゼの活性が不活性化されたり、ホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼ及びホスホリピドメチルトランスフェラーゼの活性が不活性化されたヤロウイア属菌株であってもよい。
【0051】
また、前記ホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼをコードするcho2遺伝子、前記ホスホリピドメチルトランスフェラーゼをコードするopi3遺伝子またはこれらの組合わせが欠損したヤロウイア属菌株であってもよいが、これに制限されない。
【0052】
具体的には、本出願の目的上、前記ヤロウイア属変異型菌株は、ホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼまたはホスホリピドメチルトランスフェラーゼの活性が不活性化され、野生型に比べて菌株内脂肪含量が増加したものであれば、制限されない。
【0053】
本出願において前記「野生型に比べて増加した脂肪含量を有する微生物」は、「脂肪を生産する微生物」、「脂肪生産能を有する微生物」、「脂肪生産用微生物」、「トリアシルグリセロール(TAG)を生産する微生物」、「トリアシルグリセロール(TAG)生産能を有する微生物」、「トリアシルグリセロール(TAG)生産用微生物」と混用され得る。
【0054】
前記ヤロウイア属変異型菌株は、コリン(choline)要求性が付与されるコリン栄養要求株であってもよい。前記「コリン(choline)」は無色の強塩基性であり、リン脂質、アセチルコリン、ビタミンB群などの構成成分である。生物体内でセリン、エタノールアミンを経てコリンの経路で合成され、トリメチルアミンとエチレンオキシドで化学合成されることもある。
【0055】
本出願の目的上、前記菌株はコリン要求性栄養要求株であり、コリンが含まれた培地で培養させる場合、菌株の生長回復が可能であると共に菌株内脂肪含量が増加されてもよい。
【0056】
本出願の「脂肪」は、脂質の一種で3つの脂肪酸が一つのグリセロールと結合したエステルであり、代表的な有機物である。生物体内に含まれており、エネルギー源として用いられる。具体的には、前記脂肪は、トリアシルグリセロール(triacylglycerol(TAG))であってもよいが、これに制限されない。
【0057】
前記「トリアシルグリセロール(TAG)」は脂質の一種であり、グリセリン1分子に脂肪酸3分子がエステル(ester)結合をする構造を有している中性脂肪である。前記TAG含量を増加させるためにTAG生合成経路の強化、TAG分解の抑制及びベータ酸化(beta-oxidation)抑制戦略が用いられる。前記用語「脂肪」は「TAG」、「トリアシルグリセロール」、または「triacylglycerol」と混用され得る。また、TAGは脂肪酸誘導体の前駆体であるとともに長期保管が可能な脂肪の形態であってもよい。
【0058】
本出願のもう一つの様態は、本出願のヤロウイア属変異型菌株;前記菌株の培養物;前記菌株の抽出物;前記菌株の乾燥物;前記菌株の破砕物;及び前記菌株、培養物、抽出物、乾燥物及び破砕物の少なくとも一つから回収された脂肪;の少なくとも一つを含む化粧用組成物、食品用組成物、飼料用組成物、または医薬組成物を提供する。
【0059】
本出願の「ヤロウイア属」、及び「ヤロウイア属変異型菌株」は前記の通りである。
【0060】
本出願の目的上、前記組成物は、ホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼまたはホスホリピドメチルトランスフェラーゼの活性が不活性化された野生型に比べて菌株内に増加した脂肪含量を有するヤロウイア属変異型菌株そのものを含むこともでき、前記菌株の培養物、乾燥物、抽出物または破砕物を含み得る。それだけでなく、前記組成物は、本出願の菌株、前記菌株の培養物、乾燥物、抽出物、破砕物の少なくともいずれか一つから回収された脂肪を含んでもよい。しかし、前記組成物は、本出願の目的を逸脱しない範囲内で目的とするTAGの含量を増加させることができる限り、如何なる形態でも、制限なく含み得る。
【0061】
本出願の「化粧用組成物」は、溶液、外用軟膏、クリーム、フォーム、栄養化粧水、柔軟化粧水、パック、柔軟水、乳液、メイクアップベース、エッセンス、石鹸、液体洗浄料、入浴剤、サンスクリーンクリーム、サンオイル、懸濁液、乳濁液、ペースト、ゲル、ローション、パウダー、石鹸、界面活性剤含有クレンジング、オイル、粉末ファウンデーション、乳濁液ファウンデーション、ワックスファウンデーション、パッチ及びスプレーで構成された群から選択される剤形で製造できるが、これに制限されない。
【0062】
前記化粧用組成物は、一般の皮膚化粧料に配合される化粧品学的に許容可能な担体を1種以上さらに含んでもよく、通常の成分として、例えば、油分、水、界面活性剤、保湿剤、低級アルコール、増粘剤、キレート剤、色素、防腐剤、香料などを適宜配合できるが、これに制限されるものではない。本出願の化粧用組成物に含まれる化粧品学的に許容可能な担体は、化粧料組成物の剤形によって多様である。
【0063】
本出願の化粧用組成物は、前記ヤロウイア属変異型菌株;前記菌株の培養物;前記菌株の抽出物;前記菌株の乾燥物;前記菌株の破砕物;及び前記菌株、培養物、抽出物、乾燥物及び破砕物の少なくとも一つから回収された脂肪;の少なくとも一つを含み増大した脂肪含量を含んでもよい。
【0064】
本出願の「食品用組成物」は、機能性食品(functional food)、栄養補助剤(nutritional supplement)、健康食品(health food)及び食品添加剤(food additives)などの全ての形態を含み、前記類型の食品用組成物は、当業界において公知となった常法により多様な形態で製造できる。
【0065】
本出願の食品用組成物は、丸剤、粉末、顆粒、浸剤、錠剤、カプセルまたは液剤などの形態を含み、本出願の組成物を添加できる食品としては、例えば、各種食品類、例えば、飲料、ガム、茶、ビタミン複合剤、健康補助食品類などがある。
【0066】
本出願の食品用組成物において含み得る成分として通常の食品のように様々な生薬抽出物、食品補助添加剤または天然炭水化物などを追加成分として含有し得る。また、前記食品補助添加剤は、当業界において通常の食品補助添加剤、例えば、香味剤、風味剤、着色剤、充填剤、安定化剤などを含む。
【0067】
前記天然炭水化物の例は、モノサッカライド、例えば、ブドウ糖、果糖など;ジサッカライド、例えば、マルトース、スクロースなど;及びポリサッカライド、例えば、デキストリン、シクロデキストリンなどのような通常の糖、及びキシリトール、ソルビトール、エリスリトールなどの糖アルコールである。上述した以外に、香味剤として天然香味剤(例えば、レバウジオシドA、グリチルリチンなど)及び合成香味剤(サッカリン、アスパルテームなど)を有利に用いることができる。
【0068】
前記以外に本出願の食品用組成物は、様々な栄養剤、ビタミン、鉱物(電解質)、合成風味剤及び天然風味剤などの風味剤、着色剤及び充填剤(チーズ、チョコレートなど)、ペクチン酸及びその塩、アルギン酸及びその塩、有機酸、保護性コロイド増粘剤、pH調節剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に用いられる炭酸化剤などを含有してもよい。その他に天然果物ジュース及び果物ジュース飲料及び野菜飲料の製造のための果肉を含有してもよい。このような成分は、独立にまたは組み合わせて用いることができる。
【0069】
本出願の食品用組成物の製造時には、当業界において通常に添加する原料及び成分を添加して製造できる。また、前記食品の剤形も食品として認められる剤形であれば、制限なく製造されてもよい。本出願の食品組成物は多様な形態の剤形で製造されてもよく、一般の薬品とは異なって食品を原料として薬品の長期服用時に発生し得る副作用などがない長所があり、携帯性に優れ、本出願の食品は補助剤として摂取が可能である。
【0070】
本出願の食品用組成物は、前記ヤロウイア属変異型菌株;前記菌株の培養物;前記菌株の抽出物;前記菌株の乾燥物;前記菌株の破砕物;及び前記菌株、培養物、抽出物、乾燥物及び破砕物の少なくとも一つから回収された脂肪;の少なくとも一つを含み増大した脂肪含量を含んでもよい。
【0071】
本出願の「飼料用組成物」は、動物が食べて、摂取し、消化させるための、またはこれに適当な任意の天然または人工規定食、一食などまたは前記一食の成分としては当業界の公知となった多様な形態の飼料に製造可能であり、具体的には、濃厚飼料、粗飼料及び/又は特殊飼料が含まれてもよい。
【0072】
前記飼料の種類は特に制限されず、当該技術分野において通常に用いられる飼料が用いられる。前記飼料の非制限的な例としては、穀物類、根果類、食品加工副産物類、藻類、繊維質類、製薬副産物類、油脂類、澱粉類、ウリ類、穀物副産物類などのような植物性飼料;タンパク質類、無機物類、油脂類、鉱物性類、油脂類、単細胞タンバク質類、動物性プランクトン類または飲食物などのような動物性飼料を挙げることができる。これらは単独で用いられたり、2種以上を混合して用いてもよい。
【0073】
本出願の飼料用組成物は、前記ヤロウイア属変異型菌株;前記菌株の培養物;前記菌株の抽出物;前記菌株の乾燥物;前記菌株の破砕物;及び前記菌株、培養物、抽出物、乾燥物及び破砕物の少なくとも一つから回収された脂肪;の少なくとも一つを含み増大した脂肪含量を含んでもよい。
【0074】
本出願の「医薬組成物」は、疾病の予防または治療を目的として製造されたことを意味し、それぞれ常法により多様な形態に剤形化して用いられる。例えば、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップなどの経口型剤形に剤形化でき、外用剤、坐剤及び滅菌注射溶液の形態に剤形化して用いられる。
【0075】
また、それぞれの剤形により薬学的に許容可能な担体、例えば、緩衝剤、保存剤、無痛化剤、可溶化剤、等張剤、安定化剤、基剤、賦形剤、潤滑剤など当業界において公知となった担体をさらに含めて製造できる。
【0076】
一方、本出願の医薬組成物は、薬剤学的に有効な量で投与する。本出願の用語「薬学的に有効な量」は、医学的治療に適用可能な合理的な受恵/リスクの比率で疾患を治療するのに十分であり、副作用を引き起こさない程度の量を意味し、有効用量の水準は、患者の健康状態、重症度、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与方法、投与時間、投与経路及び排出比率、治療期間、配合または同時に用いられる薬物を含む要素及びその他医学分野によく知られている要素により決定されてもよい。
【0077】
本出願の医薬組成物は、前記ヤロウイア属変異型菌株;前記菌株の培養物;前記菌株の抽出物;前記菌株の乾燥物;前記菌株の破砕物;及び前記菌株、培養物、抽出物、乾燥物及び破砕物の少なくとも一つから回収された脂肪;の少なくとも一つを含み増大した脂肪含量を含んでもよい。
【0078】
本出願の目的上、菌株内脂肪含量の増加はTAGが増加したことであってもよいが、これに制限されない。
【0079】
本出願の更に他の一つの様態は、本出願のヤロウイア属変異型菌株を培養する段階を含む、菌株内脂肪を増加させる方法を提供する。
【0080】
本出願の「ヤロウイア属」、「ヤロウイア属変異型菌株」、及び「脂肪」は前記の通りである。
【0081】
本出願の「培養」は前記ヤロウイア属変異型菌株を適宜調節された環境条件で生育させることを意味する。本出願の培養過程は、当業界に知られた適切な培地と培養条件に応じて行われる。このような培養過程は、選択される菌株により当業者が容易に調整して用いることができる。
【0082】
上記菌株を培養する段階は、特に制限されないが、公知となった回分式培養方法、連続式培養方法、流加式培養方法などにより行うことができる。この時、培養条件は、特にこれに制限されないが、塩基性化合物(例:水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたはアンモニア)または酸性化合物(例:リン酸または硫酸)を使用して適正pH(例えば、pH5~9、具体的にはpH6~8、最も具体的にはpH6.8)を調節することができ、酸素または酸素含有ガス混合物を培養物に導入させて好気性条件を維持することができる。培養温度は20~45℃、具体的には25~40℃を維持することができ、約10~160時間培養できるが、これに制限されるものではない。
【0083】
本出願の「培地」は、前記ヤロウイア属変異型菌株を培養するために必要とする栄養物質を主成分として混合した物質を含む培養培地及び/又は培養した後に得られた産物を意味する。本出願の微生物の培養に用いられる培地及びその他培養条件は、通常の微生物の培養に用いられる培地であれば、特別な制限なくいずれのものでも用いられるが、本出願の微生物を適当な炭素源、窒素源、リン源、無機化合物、アミノ酸及び/又はビタミンなどを含有した通常の培地内で好気性条件下で温度、pHなどを調節しながら培養できる。
【0084】
本出願で用いられる培養用培地は、炭素源としては、糖及び炭水化物(例:グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、マルトース、アラビノース、キシロース、モラセス、澱粉及びセルロース)、油脂及び脂肪(例:大豆油、ひまわり種子油、ピーナッツ油及びココナッツ油)、脂肪酸(例:パルミチン酸、ステアリン酸及びリノール酸)、アルコール(例:グリセロール及びエタノール)及び有機酸(例:酢酸)などを個別に用いたり、または混合して用いることができ、具体的には、前記炭素源は、グルコース、フルクトース、マルトース、ガラクトース、マンノース、スクロース、アラビノース、キシロース及びグリセロールからなる群から選択される1種以上であってもよいが、これに制限されない。また、本出願で用いられる培養用培地は、炭素源として10~50g/L、10~40g/L、20~50g/L、20~40g/Lまたは25~35g/Lの濃度のグルコースが含まれてもよいが、これに制限されない。
【0085】
本出願で用いられる培養用培地の窒素源は、有機窒素源または無機窒素源に区別され得るが、有機窒素源または無機窒素源を個別に用いたりまたは混合して用いることができる。具体的には、前記窒素源は、酵母抽出物、牛肉抽出物(beef extract)、ペプトン(peptone)及びトリプトン(tryptone)からなる群から選択される有機窒素源またはアンモニウムアセテート、アンモニウムニトラート、アンモニウムクロリド、アンモニウムサルフェート、ナトリウムニトラート、ウレア及びMSG(Monosodium glutamate)からなる群から選択される無機窒素源であってもよい。また、本出願で用いられる培養用培地には、窒素源の一例として酵母抽出物、アンモニウムサルフェート、ナトリウムニトラート及びMSGを含んでもよいが、これに制限されない。
【0086】
前記酵母抽出物は、培地内に0.1~10g/L、0.5~10g/L、0.5~7g/L、0.5~5g/L、0.5~3g/L、0.5~2g/Lまたは0.5~1.5g/Lの濃度で含まれてもよく、前記アンモニウムサルフェートは培地内に1~5g/L、1~4g/L、2~5g/L、2~4g/Lの濃度で含まれてもよく、前記ナトリウムニトラートは培地内に0.1~10g/L、0.5~9g/L、1~9g/L、2~9g/L、3~9g/L、5~9g/Lまたは7~9g/Lの濃度で含まれてもよく、前記MSGは培地内に0.1~2g/L、0.1~1.5g/L、0.5~2g/L、0.5~1.5g/Lの濃度で含まれてもよいが、これに制限されるものではない。
【0087】
本出願のヤロウイア属変異型菌株を培養する段階は、コリン(choline)が含まれた培地で培養するものであってもよい。具体的には、本出願のコリンが含まれた培地内におけるコリンの濃度は0.05~5mM、0.1~5mM、0.1~3mM、0.1~2mM、0.1~1mMの濃度で含まれてもよいが、これに制限されない。
【0088】
本出願の目的上、前記菌株はコリン要求性栄養要求株であり、コリンが含まれた培地で培養させる場合、菌株の生長回復が可能であると共に菌株内脂肪含量が増加されてもよい。
【0089】
本出願の目的上、前記培地は菌株内脂肪含量の増加のために最適なC/N ratioを含んでもよい。
【0090】
本出願の「C/N ratio(炭素対窒素比率;炭窒率)」は、培地内窒素質量に対する炭素質量の比率を意味する。前記比率が高いほど培地内窒素供給源が減少し、これにより生育阻害により細胞濃度が減少する。
【0091】
本出願の培地内C/N ratioが増加するにつれてOD値は減少でき、細胞内脂肪含量は増加する。よって、脂肪の最大生産性のために培地内における好ましいC/N ratioが重要である。
【0092】
本出願の菌株内脂肪の最大生産性を示すC/N ratioはOD*脂肪含量値で計算でき、前記培地内C/N ratioは10~120であってもよく、具体的に30~90であってもよく、より具体的に40~80であってもよく、さらに具体的に50~70であってもよいが、これに制限されない。
【0093】
前記培地内における好ましいC/N ratioは、本出願の菌株の生育阻害を防止すると共に脂肪の生産性を効果的に増加させることができる。
【0094】
本出願の更に他の一つの様態は、ホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼ(phosphatidylethanolamine N-methyltransferase,PEMT)またはホスホリピドメチルトランスフェラーゼ(Phospholipid methyltransferase)の活性が不活性化された、本出願のヤロウイア属変異型菌株を培養する段階を含む脂肪の製造方法を提供する。
【0095】
本出願の「ヤロウイア属」、「ヤロウイア属変異型菌株」、「培養」、及び「脂肪」は前記の通りである。
【0096】
前記菌株を培養する段階は、コリンが含まれた培地で培養することであってもよい。
【0097】
本出願のコリンが含まれた培地内コリンの濃度は0.05~5mM、0.1~5mM、0.1~3mM、0.1~2mM、0.1~1mMの濃度で含まれてもよい。
【0098】
前記培地内C/N ratioは10~120であってもよく、具体的に30~90であってもよく、より具体的に40~80であってもよく、さらに具体的に50~70であってもよいが、これに制限されない。
【0099】
本出願の目的上、前記菌株はコリン要求性栄養要求株であり、コリンが含まれた培地で培養させる場合、菌株の生長回復が可能であると共に菌株内脂肪含量が増加して脂肪の製造に容易である。
【0100】
本出願の脂肪の製造方法は、本出願の微生物を準備する段階、前記菌株を培養するための培地を準備する段階、またはこれらの組合わせ(順序に無関係、in any order)を、例えば、前記培養する段階以前に、さらに含んでもよい。
【0101】
本出願の脂肪製造方法は、前記ヤロウイア属変異型菌株を培養した以後、前記菌株、その培養物、その抽出物、その乾燥物またはその破砕物から脂肪を回収する段階をさらに含んでもよい。即ち、本出願の前記培養段階で生産された菌株自体またはその培養物から脂肪を収集できる。例えば、遠心分離、濾過、アニオン交換クロマトグラフィ、結晶化及びHPLCなどが用いられ、当該分野において公知となった適した方法を用いて培養された前記菌株またはその培養物、その乾燥物またはその破砕物から目的とする脂肪を回収できる。
【0102】
また、前記脂肪を回収する段階は、分離工程及び/又は精製段階をさらに含んでもよく、当該分野において公知となった適した方法を用いて行われてもよい。従って、前記回収される脂肪は、精製された形態または脂肪を含有した微生物発酵液であってもよい。
【0103】
本出願の更に他の一つの様態は、ホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼまたはホスホリピドメチルトランスフェラーゼの活性が不活性化された、ヤロウイア属変異型菌株;または前記菌株の培養物;前記菌株の抽出物;前記菌株の乾燥物;前記菌株の破砕物;前記菌株、培養物、抽出物、乾燥物及び破砕物及び前記菌株、培養物、抽出物、乾燥物及び破砕物の少なくとも一つから回収された脂肪の少なくとも一つを含む、化粧用組成物、食品用組成物、飼料用組成物、または医薬組成物の脂肪製造のための使用を提供する。
【0104】
本出願の「ホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼ」、「ホスホリピドメチルトランスフェラーゼ」、「ヤロウイア属」、「ヤロウイア属変異型菌株」、「培養」、「脂肪」、「化粧用組成物」、「食品用組成物」、「飼料用組成物」、及び「医薬組成物」などは前記の通りである。
【0105】
以下、実施例を通じて本出願をより詳細に説明する。これら実施例は、専ら本出願をより具体的に説明するためのものであり、本出願の要旨により本出願の範囲がこれら実施例により制限されないということは当業界における通常の知識を有する者にとって自明である。
【実施例】
【0106】
実施例1.野生型酵母基盤欠損株の製作
エタノールアミン(Ethanolamine)またはコリン(choline)に対する栄養要求株の製作のために野生型酵母であるヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica) POlf(ATCC MYA-2613)でCHO2またはOPI3をコードする遺伝子が欠損した菌株を製作した。
【0107】
1-1. cho2欠損株(「CC08-0162」)の製作
ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)染色体上でcho2遺伝子を欠損させるcassetteの製作のために、KEGG(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes)に登録されている塩基配列に基づいてcho2 (YALI0E06061g)の配列番号1のポリヌクレオチド及び配列番号2のアミノ酸配列を確保した。
【0108】
Yarrowia lipolytica PO1fゲノムDNAを鋳型として配列番号3と4、配列番号7と8、配列番号9と10のプライマーを用いてそれぞれPCRを行った。そしてURA3 auxotrophic markerを鋳型として配列番号5と6のプライマーを用いてPCRを行った。PCR条件は、変性95℃ 1分間;アニーリング55℃、1分間;及び重合反応72℃、1分30秒間を35回反復して行った。
【0109】
その結果、1055bpの5’UTR,638bpの5’UTR_RP,1050bp の3’UTRそして1569bpのURA3を得た。PCRで増幅されたDNA断片はoverlap extension PCRを通じて一つのcho2欠損cassetteに製作され、cassette designは5’UTR-URA3-5’UTR_RP-3’UTRの順に行われた。
【0110】
cho2欠損cassetteをYarrowia lipolytica PO1fに熱衝撃法(heat-shock)で形質転換し、uracilが含まれていない固体培地で選別した。選別された1次菌株は再度2次交差を経て最終的にcho2遺伝子が欠損した菌株を製作した。このように製作された欠損株をCC08-0162と命名し、ブダペスト条約下の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(Korean CultureCenter of Microorganisms,KCCM)に2020年2月20日付で寄託し、寄託番号KCCM12672Pの付与を受けた。
【0111】
【0112】
1-2.opi3欠損株(「CC08-0123」)の製作
Yarrowia lipolytica染色体上でopi3遺伝子を欠損させるcassetteの製作のために、KEGG(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes)に登録されている塩基配列に基づいてopi3(YALI0E12441g)の配列番号11のポリヌクレオチド及び配列番号12のアミノ酸配列を確保した。
【0113】
Yarrowia lipolytica PO1fゲノムDNAを鋳型として配列番号13と14、配列番号17と18、配列番号19と20のプライマーを用いてそれぞれPCRを行った。そしてURA3 auxotrophic markerを鋳型として配列番号15、16のプライマーを用いてPCRを行った。PCR条件は変性95℃、1分間;アニーリング55℃、1分間;及び重合反応72℃1分30秒間を35回繰り返した。
【0114】
その結果、980bpの5’UTR、730bpの5’UTR_RP、1001bpの3’UTRそして1569bpのURA3を得た。PCRで増幅されたDNA断片はoverlap extension PCRを通じて一つのopi3欠損cassetteに製作され、cassette designは5’UTR-URA3-5’UTR_RP-3’UTRの順に行われた。
【0115】
opi3欠損cassetteをYarrowia lipolytica PO1fに熱衝撃法(heat-shock)で形質転換し、uracilが含まれていない固体培地で選別した。選別された1次菌株は再度2次交差を経て最終的にopi3遺伝子が欠損した菌株を製作した。このように製作された欠損株をCC08-0123と命名し、ブダペスト条約下の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(Korean CultureCenter of Microorganisms,KCCM)に2020年2月20日付で寄託し、寄託番号KCCM12673Pの付与を受けた。
【0116】
【0117】
1-3.cho2、opi3同時欠損株(「CC08-0183」)の製作
Yarrowia lipolytica PO1fにおいてcho2、opi3遺伝子の同時欠損効果を確認するためにcho2、opi3遺伝子が同時に欠損した菌株を前記実施例1-1、1-2と同様の方法で製作し、各遺伝子を組み合わせて欠損させた菌株をCC08-0183と命名し、ブダペスト条約下の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(Korean CultureCenter of Microorganisms,KCCM)に2020年2月20日付で寄託し、寄託番号KCCM12671Pの付与を受けた。
【0118】
実施例2.野生株基盤欠損株の生育及び脂肪蓄積の評価
実施例1で製作された欠損株CC08-0162、CC08-0123及びCC08-0183の生育及び脂肪蓄積の評価を進行した。
【0119】
2-1.培地による評価
前記2種の菌株と対照群PO1fをYPDあるいはYLMM1(Yarrowia lipolytica minimal media 1)50mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに初期ODが0.01になるように接種し、30℃で72時間、250rpmで振盪培養した。YLMM1の場合、必要に応じて0.3mM choline chloride(CL)が添加された。前記YPD及び脂肪培地1(YLMM1)の組成は下記の通りである。
【0120】
<YPD>
ブドウ糖20g/L、酵母抽出物(BD社製Bacto yeast extract,Bacto yeast extract内にCholine 0.38%を含む)10g/L、ウラシル(Uracil)0.5g/L、バクトペプトン(Bacto peptone)20g/L
【0121】
<YLMM1(pH7.2)>
【0122】
ブドウ糖40g/L、アミノ酸及びアンモニウムサルフェートがない酵母窒素塩基(Yeast nitrogen base without amino acids and Ammonium sulfate)1.7g/L、ウラシル(Uracil)0.5g/L、アンモニウムサルフェート(Ammonium sulfate)2.5g/Lを0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(sodium phosphate buffer)(pH 7.2)に溶かす。
【0123】
培養を終了した後、培養液を遠心分離して上澄液を除去し、下層部に残っているセルは60℃のドライオーブンで24時間乾燥した後、粗脂肪抽出を行った。粗脂肪抽出は飼料標準分析方法により行われ(飼料標準分析方法。2001。農村振興庁畜産技術研究所)、分析されたOD及び細胞内粗脂肪含量を下記表3に示した。表3の結果は3回繰り返して実験した結果値であり、平均値で粗脂肪含量の増加を評価した。
【0124】
【0125】
表3で示された通り、母菌株であるPO1fからcho2あるいはopi3遺伝子が個別または同時欠損した菌株で培地に関係なく粗脂肪含量が増加することを確認した。また、同一菌株をYPDで培養した時よりYLMM1で培養した場合、粗脂肪含量が増加することを示した。その増加幅がYPD培地ではPO1f比cho2欠損株が17%、opi3欠損株が14%程度であったのに対し、YLMM1ではPO1f比cho2欠損株が28%、opi3欠損株が25%でYLMM1における脂肪量の増加幅がYPDよりも大きいことを確認した。さらに、cho2、opi3遺伝子が同時欠損した菌株ではcho2欠損株と類似した脂肪量増加幅が確認された。
【0126】
しかし、YPDとは異なってYLMM1内にはコリン(choline)が含まれておらず、ホスファチジルエタノールアミンからファスファチジルコリンを合成する経路が遮断され、コリン(choline)要求性が付与されたcho2欠損株、opi3欠損株及びcho2、opi3同時欠損株はYLMM1において生長の低下を示した。
【0127】
これについて、生長の回復のために0.3mMのコリン(choline)を培地内に添加し、これを通じて培地内コリン(choline)を添加すれば、コリン(choline)要求株の生長が対照群程度に回復するだけでなく、菌株内の粗脂肪含量もコリン(choline)未添加と比較して約10%増加することを確認した。
【0128】
Yarrowia lipolytica PO1f酵母基盤で製作されたcho2及びopi3欠損株の生育と脂肪の蓄積は出芽酵母であるSaccharomyces cerevisiaeと類似の傾向を示したが、コリン(choline)を添加時に生育が回復するだけでなく、脂肪含量も増加するという点はSaccharomyces cerevisiaeと異なり、これは、油性酵母(oleaginous yeast)であるYarrowia lipolyticaのみの特徴である。
【0129】
2-2.C/N ratioによる生育及び脂肪蓄積の評価
実施例2-1においてC/N ratioが1未満であるYPD比C/N ratioが30であるYLMM1で培養を行った時、菌株内脂肪含量が増加することを確認した。これに、実施例1で製作された3種の菌株と対照群であるPO1fを互いに異なるC/N ratioを有するCN評価培地で培養することにより、C/N ratioによる生育及び脂肪蓄積の評価を進行した。互いに異なる濃度のアンモニウムサルフェート(ammonium sulfate)が添加されたCN評価培地50mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに初期ODが0.01になるように接種し、30℃で72時間、250rpmで振盪培養した。前記C/N ratioによるCN評価培地の組成は、下記の通りである。
【0130】
<CN評価培地(pH7.2)>
ブドウ糖40g/L、アミノ酸及びアンモニウムサルフェートがない酵母窒素塩基(Yeast nitrogen base without amino acids and Ammonium sulfate)1.7g/L、ウラシル(Uracil)0.5g/L、コリンクロリド(Choline chloride)0.3mM、アンモニウムサルフェート(Ammonium sulfate)2.5g/L(C/N ratio30)、1.25g/L(C/N ratio 60)、0.83g/L(C/N ratio 90)あるいは0.63g/L(C/N ratio 120)を0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(sodium phosphate buffer)(pH 7.2)に溶かす。
【0131】
培養を終了した後、培養液を遠心分離して上澄液を除去し、下層部に残っているセルは60℃のドライオーブンで24時間乾燥した後、脂肪抽出を行った。粗脂肪抽出は飼料標準分析方法により行われ(飼料標準分析方法。2001。農村振興庁畜産技術研究所)、分析されたOD及び細胞内脂肪含量を下記表4に示した。表4の結果は3回繰り返して実験した結果値であり、平均値で脂肪含量の増加を評価した。
【0132】
【0133】
表4で示された通り、実施例2-1と同様に母菌株であるPO1fからcho2あるいはopi3遺伝子が個別または同時欠損した菌株においていずれも培地のC/N ratioに関係なく脂肪量が増加することが確認された。また、その増加幅はC/N ratioに関係なく約43%程度と類似することが確認された。
【0134】
しかし、培地内C/N ratioが増加するにつれて窒素供給源が減りながらODは減少する傾向が示され、反対に細胞内脂肪含量は増加する傾向が示された。最大生産性を示すC/N ratioを求めるためにOD*脂肪含量値を計算し、全ての菌株でC/N ratio 60の場合にOD*脂肪含量値が最大で示された。従ってC/N ratio 60の場合が最適なC/N ratioであると評価された。
【0135】
実施例3.脂肪蓄積菌株SCO023基盤欠損株の製作及び評価
3-1.脂肪蓄積菌株SCO023の製作
CHO2またはOPI3をコードする遺伝子の欠損が脂肪の蓄積株では如何なる影響があるかを調べるために高脂肪酵母生産株を製作した。
【0136】
高脂肪酵母生産株を製作するために、優先的に、TAGの分解経路を遮断した。TAGが分解される経路は次の通りである。TAGは、TGL3、4によりfatty acids(FA)に変化し、このFAはacyl-CoA binding proteinsの助けによりperoxisome内に流入する。このように流入したFAは2つのperoxisomal acyl-CoA Synthases(pxa1,2)によりacylationされ、acylated FAはacyl-CoA oxidases(pox1-6)によりvinyl positionがdesaturateにされる。Desaturated FA-CoA esterはmulti-function enzyme 2(MFE2-C domain,mfe1)により二重結合部分が水和され、3-hydroxyacyl-CoA中間体が形成される。これにMFE2 enzymeのA/B domainが作用して3-hydroxyacyl-CoA中間体を3-ketoacyl-CoA中間体で酸化させ、3-ketoacyl-CoA中間体はperoxisomal 3-oxyacyl-thiolase(pot1)によりalpha carbon部分が切り取られ、acetyl-CoAとfatty acyl-CoAを生産する。pox反応からpot1による反応までのcycleが繰り返されながらFA分解が起きる(AIMS Bioengineering 2016. 3(4):493-514)。
【0137】
Yarrowia lipolytica PO1fに前記遺伝子中、pox2(YALI0F10857)、mfe1(YALI0E15378)及びpot1(YALI0E18568)を欠損させて各酵素が発現されないようにした。また、このようなbeta-oxidationが起こる場所であるペルオキシソーム(peroxisome)の数を減らすためにペルオキシソーム(peroxisome)の形成に関与する遺伝子であるpex10(YALIOCO1023)を欠損させ酵素が発現されないようにした(AIMS Bioengineering 2016. 3(4):493-514)。最後にはmorphology関連の遺伝子であるmhy1(YALIOB21582)を欠損させたが、mhy1遺伝子を欠損させると、アミノ酸生合成へのcarbon fluxが減り、脂肪生合成へのcarbon fluxが増えながら細胞内粗脂肪含量が増加する(Biochim. Biophys. Acta. 2018. 1863(1):81-90)。
【0138】
各遺伝子を欠損させるcassetteの製作のために、KEGGに登録されている塩基配列に基づいてpox2の配列番号21のポリヌクレオチド及び配列番号22のアミノ酸配列、mfelの配列番号23のポリヌクレオチド及び配列番号24のアミノ酸配列、pex10の配列番号25のポリヌクレオチド及び配列番号26のアミノ酸配列、pot1の配列番号27のポリヌクレオチド及び配列番号28のアミノ酸配列及びmhy1の配列番号29のポリヌクレオチド及び配列番号30のアミノ酸配列を確保した。
【0139】
各遺伝子の欠損cassette designは5’UTR-URA3-5’UTR_RP-3’UTRの順に行われており、5’UTR,5’UTR_RP及び3’UTRはYarrowia lipolytica PO1fゲノムDNAを鋳型として次のプライマーを用いてそれぞれPCRを行った;pox2欠損cassetteの製作のためには配列番号31と32、配列番号35と36、配列番号37と38のプライマーを、mfel欠損cassetteの製作のためには配列番号39と40、配列番号43と44、配列番号45と46のプライマーを、pex10欠損cassetteの製作のためには配列番号47と48、配列番号51と52、配列番号53と54のプライマーを、pot1欠損cassetteの製作のためには配列番号55と56、配列番号59と60、配列番号61と62のプライマーを、mhy1欠損cassetteの製作のためには配列番号63と64、配列番号67と68、配列番号69と70のプライマーを用いた。そしてURA3はURA3 auxotrophic markerを鋳型としてpox2欠損cassetteの製作のためには配列番号33と34のプライマーを、mfel欠損cassetteの製作のためには配列番号41と42のプライマーを、pex10欠損cassetteの製作のためには配列番号49と50のプライマーを、pot1欠損cassetteの製作のためには配列番号57と58のプライマーを、mhy1欠損cassetteの製作のためには配列番号65と66のプライマーを用いてPCRを行った。
【0140】
PCR条件は、変性95℃、1分間;アニーリング55℃、1分間及び重合反応72℃、1分30秒間を35回繰り返して行った。その結果、1035bpのpox2_5’UTR,720bpのpox2_5’UTR_RP,1010bpのpox2_3’UTR,1569bpのpox2_URA3,1003bpのmfe1_5’UTR,709bpのmfe1_5’UTR_RP,1036bpのmfe1_3’UTR,1569bpのmfe1_URA3,1032bpのpex10_5’UTR,735bpのpex10_5’UTR_RP,1033bpのpex10_3’UTR,1569bpのpex10_URA3,1036bpのpot1_5’UTR,735bpのpot1_5’UTR_RP,1010bpのpot1_3’UTR,1569bpのpot1_URA3,921bpのmhy1_5’UTR,526bpのmhy1_5’UTR_RP,1029bpのmhy1_3’UTR及び1569bpのmhy1_URA3を得た。PCRで増幅されたDNA断片はoverlap extension PCRを通じてそれぞれpox2,mfe1,pex10,pot1,mhy1欠損cassetteに製作された。
【0141】
第一に、pox2欠損cassetteをYarrowia lipolytica PO1fに熱衝撃法(heat-shock)で形質転換し、ウラシル(uracil)が含まれていない固体培地で選別した。選別された1次菌株は、再度2次交差を経て最終的にpox2遺伝子が欠損した菌株を製作した。同様の方法でmfe1、pex10、pot1,mhy1欠損cassetteを用いてmfe1、pex10、pot1そしてmhy1が順次欠損した菌株を製作した。このように製作された欠損株を「SCO023」と命名した。
【0142】
【0143】
3-2.SCO023基盤cho2欠損株(「SCO079」)の製作
前記実施例3-1で製作された高脂肪酵母生産株SCO023を基盤としてcho2遺伝子欠損株を製作した。前記実施例1-1で製作されたcho2欠損cassetteをSCO023に熱衝撃法(heat-shock)で形質転換してuracilが含まれていない固体培地で選別した。選別された1次菌株は再度2次交差を経て最終的にcho2遺伝子が欠損した菌株を製作した。このように製作された欠損株を「SCO079」と命名した。
【0144】
3-3.SCO023基盤opi3欠損株(「SCO163」)の製作
前記実施例3-1で製作された高脂肪酵母生産株SCO023を基盤としてopi3遺伝子欠損株を製作した。前記実施例1-2で製作されたopi3欠損cassetteをSCO023に熱衝撃法(heat-shock)で形質転換し、ウラシル(uracil)が含まれていない固体培地で選別した。選別された1次菌株は再度2次交差を経て最終的にopi3遺伝子が欠損した菌株を製作した。このように製作された欠損株を「SCO163」と命名した。
【0145】
3-4.フラスコの評価
前記実施例3-2、3-3で製作された菌株SCO079及びSCO163のフラスコテストを行った。
【0146】
前記2種の菌株と対照群を多様な濃度のコリン(choline)を含むYLMM2 50mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに初期ODが0.01になるように接種し、30℃で72時間、250rpmで振盪培養した。前記YLMM2の組成は下記の通りである。
【0147】
<YLMM2(pH7.2)>
ブドウ糖40g/L、アミノ酸及びアンモニウムサルフェートがない酵母窒素塩基(Yeast nitrogen base without amino acids and Ammonium sulfate)1.7g/L、ウラシル(Uracil)0.5g/L、アンモニウムサルフェート(Ammonium sulfate)1.25g/Lを0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(sodium phosphate buffer)(pH 7.2)に溶かす。
【0148】
培養を終了した後、培養液を遠心分離して上澄液を除去し、下層部に残っているセルは60℃のドライオーブンで24時間乾燥した後、脂肪抽出を行った。粗脂肪抽出は飼料標準分析方法により行われ(飼料標準分析方法。2001。農村振興庁畜産技術研究所)、分析されたOD及び細胞内脂肪含量を下記表6に示した。表6の結果は3回繰り返して実験した結果値であり、平均値で脂肪含量の増加を評価した。
【0149】
【0150】
表6で示された通り、親株SCO023からcho2あるいはopi3遺伝子が欠損した菌株培地内コリン(choline)濃度が0または0.055mMの場合、親株SCO023と比較時に脂肪量は同等または類似水準であるが、ODが非常に減少した。培地に0.1mM濃度以上のコリン(choline)を培地に添加時にODが対照群の水準に回復しながら菌株内脂肪含量の増加効果も見られた。培地内に0.1~1mMのコリン(choline)を添加した場合、SCO023比SCO079は16~22%、SCO163は14~18%の粗脂肪含量の増加を示した。しかし、PEMT pathwayが残っているSCO023菌株では培地内のコリン(choline)の濃度と関係なく粗脂肪含量に変化がなかった。
【0151】
結果的に、PEMT pathway上のcho2やopi3遺伝子が欠損した菌株に適正量のコリン(choline)を入れると、菌株の生長が回復しながら、同時に菌株内脂肪含量が増加することを確認した。しかし、野生型菌株基盤でcho2及びopi3遺伝子を欠損した場合より脂肪蓄積菌株であるSCO023基盤でcho2及びopi3遺伝子を欠損した後、コリン(choline)を添加培養した時に脂肪含量の増加幅が相対的に小さいことが確認された。
【0152】
実施例4.脂肪蓄積菌株SCO028基盤欠損株の製作及び評価
4-1.脂肪蓄積菌株SCO028の製作
実施例3-1で製作された菌株より脂肪含量が高い生産株でCHO2またはOPI3をコードする遺伝子の欠損が如何なる影響があるかを調べるために、更に他の高脂肪酵母生産株を製作した。
【0153】
mfelとpex10を欠損させた菌株を基盤に脂肪生合成経路の末端酵素であるacyl-CoA:diacylglycerol acyltransferase isozyme I(DGA1)を過発現(overexpression)させると、脂肪含量が増大することが知られている(Nat. Commun. 2014. 5:3131)。従って、前記実施例3-1で製作された脂肪分解経路が遮断され、脂肪生合成へのcarbon fluxが増えたSCO023菌株を基盤にdga1(YALI0E32769)のプロモーターをTEFINtプロモーターで交換した(METAB ENG 2015. 29:56-65)。プロモーターの交換のためのcassetteの製作過程は次の通りである。
【0154】
dga1遺伝子のプロモーターを交換させることができるcassetteの製作のためにKEGGに登録されている塩基配列に基づいてdga1の配列番号71のポリヌクレオチド及び配列番号72のアミノ酸配列を確保した。dga1プロモーター交換cassette designは5’UTR-TEFINt1-URA3-TEFINt2-gene(dga1)の順に行われており、5’UTR,TEFINt1,TEFINt2及びgeneはYarrowia lipolytica PO1fゲノムDNAを鋳型として配列番号73と74、配列番号75と76、配列番号79と80、配列番号81と82のブライマーを用いてそれぞれPCRを行った。そしてURA3 auxotrophic markerを鋳型として配列番号77と78のプライマーを用いてPCRを行った。PCR条件は、変性95℃で1分間;アニーリング55℃で1分間;及び重合反応72℃で1分30秒間を35回繰り返して行った。その結果、1539bpのdga1_5’UTR、573bpのdga1_TEFINt1、571bpのdga1_TEFINt2、1539bpのdga1_gene及び1574bpのdga1_URA3を得た。PCRで増幅されたDNA断片はoverlap extension PCRを通じてdga1プロモーター交換cassetteに製作された。
【0155】
dga1プロモーター交換cassetteをSCO023に熱衝撃法(heat-shock)で形質転換し、ウラシル(uracil)が含まれていない固体培地で選別した。選別された1次菌株は再度2次交差を経て最終的にdga1プロモーターがTEFINtプロモーターで交換された菌株を製作した。このように製作された欠損株を「SCO028」と命名した。
【0156】
【0157】
4-2.SCO028基盤cho2欠損株(「SCO048」)の製作
前記実施例4-1で製作された高脂肪酵母生産株SCO028を基盤としてcho2遺伝子欠損株を製作した。前記実施例1-1で製作されたcho2欠損cassetteをSCO028に熱衝撃法(heat-shock)で形質転換し、ウラシル(uracil)が含まれていない固体培地で選別した。選別された1次菌株は再度2次交差を経て最終的にcho2遺伝子が欠損した菌株を製作した。このように製作された欠損株を「SCO048」と命名した。
【0158】
4-3.SCO028基盤 opi3欠損株(「SCO067」)の製作
前記実施例4-1で製作された高脂肪酵母生産株SCO028を基盤としてopi3遺伝子欠損株を製作した。前記実施例1-2で製作されたopi3欠損cassetteをSCO028に熱衝撃法(heat-shock)で形質転換し、uracilが含まれていない固体培地で選別した。選別された1次菌株は再度2次交差を経て最終的にopi3遺伝子が欠損した菌株を製作した。このように製作された欠損株を「SCO067」と命名した。
【0159】
4-4.フラスコの評価
前記実施例4-2、4-3で製作された菌株SCO048及びSCO067のフラスコテストを進めた。
【0160】
前記2種の菌株とSCO028を、コリンを含まないか、または0.3mMコリン(choline)を含むYLMM2 50mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに初期ODが0.01になるように接種し、30℃で72時間、250rpmで振盪培養した。前記YLMM2の組成は実施例3-4に示された通りである。
【0161】
培養を終了した後、培養液を遠心分離して上澄液を除去し、下層部に残っているセルは60℃のドライオーブンで一晩中乾燥した後、脂肪抽出を行った。粗脂肪抽出は飼料標準分析方法により行われ(飼料標準分析方法。2001。農村振興庁畜産技術研究所)、分析されたOD及び細胞内脂肪含量を下記表8に示した。表8の結果は3回繰り返して実験した結果値であり、平均値で脂肪含量の増加を評価した。
【表8】
【0162】
表8で示された通り、親株SCO028からcho2あるいはopi3遺伝子が欠損した菌株培地内にコリンが含まれていない場合、脂肪量は同等または類似水準であるが、ODが非常に減少した。
【0163】
しかし、0.3mMのコリン(choline)を培地に添加時に、実施例3-4と同様にODが対照群の水準に回復しながら菌株内脂肪含量の増加効果が観察された。培地内に0.3mMのコリン(choline)を添加した場合、SCO028比SCO048は14%、SCO067は10%の脂肪含量の増加を示した。
【0164】
従って、cho2やopi3遺伝子が欠損した菌株に適正量のコリン(choline)を入れると、菌株の生長が回復しながら、同時に菌株内脂肪含量が増加することを再度確認した。そして実施例3-4での記述と同様に、基盤菌株内の脂肪含量が増加するほどcho2及びopi3遺伝子を欠損した場合の脂肪含量の増加幅は減少することが分かった。
【0165】
以上の説明から、本発明が属する技術分野の当業者であれば、本出願がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施されうることが理解できるだろう。これに関連し、以上で記述した実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本出願の範囲は上記詳細な説明よりは、後述する特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導かれるあらゆる変更または変形された形態が本出願の範囲に含まれるものと解釈すべきである。
【0166】
【0167】
【0168】
【配列表】