(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】防汚塗料組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 183/07 20060101AFI20241018BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20241018BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20241018BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20241018BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20241018BHJP
C09J 7/29 20180101ALI20241018BHJP
【FI】
C09D183/07
C09D5/16
C09D7/65
C09D7/63
C09J7/38
C09J7/29
(21)【出願番号】P 2022553830
(86)(22)【出願日】2021-09-17
(86)【国際出願番号】 JP2021034244
(87)【国際公開番号】W WO2022070978
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2020163841
(32)【優先日】2020-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390033628
【氏名又は名称】中国塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷野 聡一郎
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-505166(JP,A)
【文献】特開2006-274267(JP,A)
【文献】特開2016-203039(JP,A)
【文献】特開2001-002515(JP,A)
【文献】特開2019-199600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
C09J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化性オルガノポリシロキサン(A)、滑り剤(B)、及び光重合開始剤(C)を含有する防汚塗料組成物であり、
防汚塗料組成物の固形分中の光硬化性オルガノポリシロキサン(A)の含有量が50質量%以上98質量%以下であ
り、
前記光硬化性オルガノポリシロキサン(A)が、(メタ)アクリロイル基を有し、
更に、シランカップリング剤(D)である、下記式(D1)で表される化合物、その部分縮合物、及び光重合性モノマー(M)の少なくともいずれかを含有する、防汚塗料組成物。
【化1】
(式(D1)中、R
21
及びR
22
はそれぞれ独立に、炭素原子数1以上10以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基、ハロゲン化アルキル基を示し、R
23
はアミノ基(-NR-、Rは水素原子又は炭素数1以上10以下の炭化水素基を表す)、エーテル基(-O-)、チオエーテル基(-S-)、エステル基(-C(=O)-O-)、又はアミド基(-C(=O)-NR-、Rは水素原子又は炭素数1以上10以下の炭化水素基を表す)が介在してもよい炭素原子数1以上20以下の二価炭化水素基であり、Zは(メタ)アクリロイルオキシ基であり、wは2又は3の整数である。)
【請求項2】
前記光硬化性オルガノポリシロキサン(A)が、下記式(I)で表される、請求項
1に記載の防汚塗料組成物。
X
pR
1
(3-p)SiO(SiR
1
2O)
m(SiX
qR
1
(2-q)O)
nSiX
pR
1
(3-p) (I)
(式(I)中、R
1はそれぞれ独立に、炭素数1以上10以下のアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン化アルキル基を示し、Xはそれぞれ独立に、1以上の(メタ)アクリロイル基を有し、ケイ素原子を含有しない一価の有機基であり、mは10以上10,000以下を示し、nは0以上50以下を示し、pはそれぞれ独立に、0以上2以下の整数であり、qはそれぞれ独立に、1又は2であり、p及びnの少なくとも1つが1以上である。)
【請求項3】
前記光硬化性オルガノポリシロキサン(A)の重量平均分子量(Mw)が10,000以上100,000以下である、請求項1
又は2に記載の防汚塗料組成物。
【請求項4】
前記光硬化性オルガノポリシロキサン(A)の官能基当量が300g/mol以上50,000g/mol以下である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物。
【請求項5】
前記滑り剤(B)が、フェニル変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、及び親水性基を有するアクリル系ポリマーからなる群より選択される1種以上である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物。
【請求項6】
防汚塗料組成物の固形分中の前記滑り剤(B)の含有量が、0.1質量%以上40質量%以下である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物。
【請求項7】
防汚塗料組成物の固形分中の前記光硬化性オルガノポリシロキサン(A)及び前記滑り剤(B)の合計含有量が、70質量%以上99質量%以下である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物。
【請求項8】
光重合性モノマー(M)を含有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物から形成された、防汚塗膜。
【請求項10】
下塗り塗膜及び請求項
9に記載の防汚塗膜を含む、積層防汚塗膜。
【請求項11】
請求項
9に記載の防汚塗膜又は請求項
10に記載の積層防汚塗膜、及び粘着層を有する、防汚テープ。
【請求項12】
請求項
9に記載の防汚塗膜、請求項
10に記載の積層防汚塗膜、又は請求項
11に記載の防汚テープを基材上に有する、防汚塗膜付き基材。
【請求項13】
前記基材が船舶、水中構造物、漁業資材、及びケーブル類からなる群より選択される1種である、請求項
12に記載の防汚塗膜付き基材。
【請求項14】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物を基材に塗布する工程、及び塗布塗膜に活性エネルギー線を照射する工程を含む、防汚塗膜付き基材の製造方法。
【請求項15】
請求項
9に記載の防汚塗膜、請求項
10に記載の積層防汚塗膜、又は請求項
11に記載の防汚テープを使用する、防汚方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚塗料組成物、これを用いた防汚塗膜、積層防汚塗膜、防汚テープ、防汚塗膜付き基材及びその製造方法、並びに防汚方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オルガノポリシロキサン系防汚塗膜は、船舶、水中構造物、漁業資材等への水生生物の付着を防止するために広く用いられている。該防汚塗膜は、その低表面自由エネルギー、低弾性率等の特性により、フジツボ、イガイ等のマクロ生物の付着や定着を防止することができる上、従来の環境中に塗膜成分が放出される水和分解型、加水分解型等の防汚塗膜に比べ、環境への負荷も低いといった優れた利点を有している。
【0003】
例えば、特許文献1には硬化性ポリシロキサン組成物から形成された防汚塗膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
オルガノポリシロキサン系防汚塗膜は、水生生物への付着を低減できる反面、下地への付着性も低く、下地への強固な付着を得られにくいという欠点がある。特に、低温環境(例えば、5℃)でその傾向が顕著となり、前述の特許文献1のように、特殊な下塗り塗膜等が必要となり、それを用いても下塗りの塗装から防汚塗料組成物を塗装するまで、長い塗装インターバルを要する等の難点がある。
本発明の目的は、低温環境でも下地(基材)への付着性に優れるとともに、防汚性にも優れる防汚塗膜を形成できる防汚塗料組成物を提供することである。また、本発明の他の目的は、前記防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜、積層防汚塗膜、防汚テープ、防汚塗膜付き基材及びその製造方法、並びに防汚方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上述の課題に鑑み鋭意研究したところ、光硬化性オルガノポリシロキサン(A)、滑り剤(B)、及び光重合開始剤(C)を含有する防汚塗料組成物により形成された塗膜は、低温でも下地への良好な付着性を有し、防汚性にも優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明は、以下の[1]~[16]に関する。
[1] 光硬化性オルガノポリシロキサン(A)、滑り剤(B)、及び光重合開始剤(C)を含有する防汚塗料組成物であり、防汚塗料組成物の固形分中の光硬化性オルガノポリシロキサン(A)の含有量が50質量%以上98質量%以下である、防汚塗料組成物。
[2] 前記光硬化性オルガノポリシロキサン(A)が、(メタ)アクリロイル基を有する、[1]に記載の防汚塗料組成物。
[3] 前記光硬化性オルガノポリシロキサン(A)が、下記式(I)で表される、[1]又は[2]に記載の防汚塗料組成物。
【0008】
XpR1
(3-p)SiO(SiR1
2O)m(SiXqR1
(2-q)O)nSiXpR1
(3-p) (I)
(式(I)中、R1はそれぞれ独立に、炭素数1以上10以下のアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン化アルキル基を示し、Xはそれぞれ独立に、1以上の(メタ)アクリロイル基を有し、ケイ素原子を含有しない一価の有機基であり、mは10以上10,000以下を示し、nは0以上50以下を示し、pはそれぞれ独立に、0以上2以下の整数であり、qはそれぞれ独立に、1又は2であり、p及びnの少なくとも1つが1以上である。)
【0009】
[4] 前記光硬化性オルガノポリシロキサン(A)の重量平均分子量(Mw)が10,000以上100,000以下である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の防汚塗料組成物。
[5] 前記光硬化性オルガノポリシロキサン(A)の官能基当量が300g/mol以上50,000g/mol以下である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の防汚塗料組成物。
[6] 前記滑り剤(B)が、フェニル変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、及び親水性基を有するアクリル系ポリマーからなる群より選択される1種以上である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の防汚塗料組成物。
[7] 防汚塗料組成物の固形分中の前記滑り剤(B)の含有量が、0.1質量%以上40質量%以下である、[1]~[6]のいずれか1つに記載の防汚塗料組成物。
[8] 防汚塗料組成物の固形分中の前記光硬化性オルガノポリシロキサン(A)及び前記滑り剤(B)の合計含有量が、70質量%以上99質量%以下である、[1]~[7]のいずれか1つに記載の防汚塗料組成物。
[9] 更にシランカップリング剤(D)を含有する、[1]~[8]のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物。
[10] [1]~[9]のいずれか1つに記載の防汚塗料組成物から形成された、防汚塗膜。
[11] 下塗り塗膜及び[10]に記載の防汚塗膜を含む、積層防汚塗膜。
[12] [10]に記載の防汚塗膜又は[11]に記載の積層防汚塗膜、及び粘着層を有する、防汚テープ。
[13] [10]に記載の防汚塗膜、[11]に記載の積層防汚塗膜、又は[12]に記載の防汚テープを基材上に有する、防汚塗膜付き基材。
[14] 前記基材が船舶、水中構造物、漁業資材、及びケーブル類からなる群より選択される1種である、[13]に記載の防汚塗膜付き基材。
[15] [1]~[9]のいずれか1つに記載の防汚塗料組成物を基材に塗布する工程、及び塗布塗膜に活性エネルギー線を照射する工程を含む、防汚塗膜付き基材の製造方法。
[16] [10]に記載の防汚塗膜、[11]に記載の積層防汚塗膜、又は[12]に記載の防汚テープを使用する、防汚方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低温環境でも下地(基材)への付着性に優れるとともに、防汚性にも優れる防汚塗膜を形成できる防汚塗料組成物を提供することができる。また、本発明によれば、前記防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜、積層防汚塗膜、防汚テープ、防汚塗膜付き基材及びその製造方法、並びに、防汚方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る防汚塗料組成物、これを用いた防汚塗膜、積層防汚塗膜、防汚テープ、防汚塗膜付き基材及びその製造方法、並びに防汚方法について詳細に説明する。
なお、以下の説明において、「(メタ)アクリロイル」、「(メタ)アクリレート」、「(メタ)アクリル酸」及び「(メタ)アクリル」は、それぞれ「アクリロイル及び/又はメタクリロイル」、「アクリレート及び/又はメタクリレート」、「アクリル酸及び/又はメタクリル酸」、及び「アクリル及び/又はメタクリル」を意味する。
【0012】
[防汚塗料組成物]
本発明の防汚塗料組成物(以下、単に「本組成物」、「塗料組成物」ともいう。)は、光硬化性オルガノポリシロキサン(A)、滑り剤(B)、及び光重合開始剤(C)を含有し、防汚塗料組成物の固形分中の光硬化性オルガノポリシロキサン(A)の含有量が50質量%以上98質量%以下であることを特徴とする。
本発明によれば、低温環境でも下地(基材)との付着性に優れ、更に防汚性にも優れる防汚塗膜を形成できる防汚塗料組成物を提供できる。更に、本発明の防汚塗料を用いると、防汚塗膜の形成を含む防汚施工を短時間で完成させることができる。特に、船舶の施工作業では、作業に係る時間に応じて必要となるドック費用等の経済的な負担を軽減することができる点に大きな利点がある。
なお、上記の効果が得られる詳細な作用機序は必ずしも明らかではないが、一部は以下のように推定される。すなわち、従来のオルガノポリシロキサン系防汚塗膜が水中で生物付着を抑制するためには、塗膜表面で水生生物が接触時、並びに接触後に表面で成長する段階において、基材が水中を移動する際に生じる水流、又は水中で発生する水流によって水生生物が表面から滑り落ちることを促す、滑り剤を配合する必要がある。一方、この滑り剤は、通常、常温(以下、25℃)で液状、又は外部環境の水との相互作用により液状となるものであり、更に、滑り剤として機能するためには、併用される硬化性オルガノポリシロキサンの極性と、一定の差異を持つ必要がある。よって、塗料組成物を塗装する前の混合操作により、硬化性オルガノポリシロキサンと滑り剤が、一定の混和状態又はミクロな分離状態になっていたとしても、塗布された塗料組成物が乾燥硬化するまでの間に相分離が進んでしまい、液状の滑り剤が下地(基材)の近傍に偏在し、最悪の場合、液体の層を形成してしまうことで、下地(基材)との付着性を阻害する現象が起こることがある。特に、低温環境下では、極性に差異のある成分の相溶性が低下し、相分離が進みやすくなることから、上記現象による影響が顕著になるものと考えられる。
しかし、本組成物では、光硬化性オルガノポリシロキサン(A)を使用することにより、乾燥硬化時間を大きく短縮することができ、これにより、上記相分離現象の発生が抑制され、下地(基材)との良好な付着性を発揮できるものと考えられる。
【0013】
<光硬化性オルガノポリシロキサン(A)>
本組成物は、形成される防汚塗膜の低温環境における下地付着性(以下、単に「低温付着性」ともいう。)及び防汚性を高めることを目的として、光硬化性オルガノポリシロキサン(A)を含有する。
前記光硬化性オルガノポリシロキサン(A)は、活性エネルギー線を照射することで、後述する光重合開始剤(C)より生じたラジカル等の活性種によって、重合を開始するオルガノポロシロキサン化合物である。光硬化性オルガノポリシロキサン(A)の分子内に占めるオルガノポリシロキサンの割合は、形成される防汚塗膜が良好な防汚性を有する等の点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。
【0014】
光硬化性オルガノポリシロキサン(A)としては、重合を開始するための活性エネルギー線照射によって生じる活性種がラジカルである光ラジカル硬化性オルガノポリシロキサン、前記活性種がカチオンである光カチオン硬化性オルガノポリシロキサン、前記活性種がアニオンである光アニオン硬化性オルガノポリシロキサンが挙げられる。塗料組成物の硬化性、形成される塗膜の強度及び耐久性に優れる点、環境負荷が低い点等からは、光ラジカル硬化性オルガノポリシロキサンが好ましく、一方、下地への付着性により優れる点、酸素による硬化阻害を受けにくい点等からは、光カチオン硬化性オルガノポリシロキサン及び光アニオン硬化性オルガノポリシロキサンが好ましい。
【0015】
光硬化性オルガノポリシロキサン(A)が光ラジカル硬化性オルガノポリシロキサンである場合、防汚塗料組成物が好適な貯蔵安定性、ポットライフ及び硬化性を有する点、並びに形成される防汚塗膜が良好な低温付着性及び防汚性を示す観点から、(メタ)アクリロイル基を有するオルガノポリシロキサンであることが好ましく、例えば、下記式(I)で表される化合物であることが好ましい。
なお、光ラジカル重合性基としては、ビニル基、アリル基等も例示されるが、硬化性の観点から、光ラジカル重合性基としては、(メタ)アクリロイル基が好ましい。また、ケイ素原子に直接結合したビニル基は、ラジカル重合性が低く、本発明では、ケイ素原子に直接結合したビニル基は、光ラジカル重合性基に該当するものではない。
【0016】
XpR1
(3-p)SiO(SiR1
2O)m(SiXqR1
(2-q)O)nSiXpR1
(3-p) (I)
(式(I)中、R1はそれぞれ独立に、炭素数1以上10以下のアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン化アルキル基を示し、Xはそれぞれ独立に、1以上の(メタ)アクリロイル基を有し、ケイ素原子を含有しない一価の有機基であり、mは10以上10,000以下を示し、nは0以上50以下を示し、pはそれぞれ独立に、0以上2以下の整数であり、qはそれぞれ独立に、1又は2であり、p及びnの少なくとも1つが1以上である。)
【0017】
式(I)中、R1はそれぞれ独立に、炭素数1以上10以下のアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン化アルキル基である。
R1におけるアルキル基は炭素原子数1以上10以下であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、及びヘプチル基等が挙げられる。
R1におけるアリール基は炭素原子数6以上10以下であり、芳香環上にアルキル基等の置換基を有していてもよく、例えば、フェニル基、トリル基(メチルフェニル基)、キシリル基(ジメチルフェニル基)、及びナフチル基等が挙げられる。
R1におけるアラルキル基は炭素原子数7以上10以下であり、例えば、ベンジル基、2-フェニルエチル基、2-ナフチルエチル基、及びジフェニルメチル基等が挙げられる。
R1におけるハロゲン化アルキル基は炭素原子数1以上10以下であり、例えば、前記アルキル基に含まれる水素原子の一部又は全部がフッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子等のハロゲン原子に置き換えられた基が挙げられる。
これらの中でも、式(I)におけるR1は、アルキル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン化アルキル基が好ましく、アルキル基、アリール基がより好ましく、メチル基が更に好ましい。
なお、本明細書においてR1のように同じ基が複数存在する場合、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0018】
式(I)中、Xはそれぞれ独立に、1以上の(メタ)アクリロイル基を有し、ケイ素原子を含有しない一価の有機基を表し、塗料組成物の硬化性が良好となる点からアクリロイル基を有する基であることが好ましく、アクリロイルオキシ基を有する基であることがより好ましい。
【0019】
Xは、好ましくは以下の式(II)で表される基である。
【0020】
【化1】
(式(II)中、R
2はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表し、R
3は炭素数2以上100以下の(1+x)価の炭化水素基を表し、R
3は、任意のメチレン基がエーテル結合、エステル結合、チオエーテル結合、ウレタン結合、又はアミド結合で置換されていてもよく、該炭化水素基は、水素原子の一部が水酸基又はハロゲン原子で置換されていてもよく、xは1以上10以下の整数を表す。)
【0021】
式(II)中、R2は水素原子又はメチル基であり、水素原子であることが好ましい。
R3は炭素数2以上100以下の(1+x)価の炭化水素基を表し、炭素数は、好ましくは2以上50以下、より好ましくは2以上30以下、更に好ましくは2以上10以下である。
R3は、任意のメチレン基がエーテル結合、エステル結合、チオエーテル結合、又はアミド結合で置換されていてもよく、エーテル結合又はエステル結合で置換されていることが好ましく、エーテル結合で置換されていることがより好ましい。
xは、1以上10以下の整数であり、1又は2であることが好ましい。
【0022】
Xとして、例えば、下記(IIa)~(IIg)が例示される。
【0023】
【0024】
【0025】
これらの中でも、(IIa)~(IIf)が好ましく、(IIb)、(IId)がより好ましい。
【0026】
なお、本明細書において、2以上の異なる繰り返し単位を[ ]間に並列記載している場合、それらの繰り返し単位が、それぞれランダム状、交互状又はブロック状のいずれの形及び順序で繰り返されていてもよいことを示す。つまり、例えば、式-[X3-Y3]-(ただしX、Yは繰り返し単位を示す)では、-XXYXYY-のようなランダム状でも、-XYXYXY-のような交互状でも、-XXXYYY-又は-YYYXXX-のようなブロック状でもよい。
【0027】
式(I)中、mは10以上10,000以下であり、形成される防汚塗膜の柔軟性や伸び性、下地追随性、強度、耐衝撃性等の物性及び防汚性が良好となる観点から、好ましくは100以上、より好ましくは200以上であり、そして、好ましくは1,000以下、より好ましくは500以下である。
式(I)中、nは0以上50以下を示す。ただし、後述のpがいずれも0である場合、nは1以上50以下である。上記と同様の理由から、nは2以上20以下であることが好ましく、また、n/mが0以上1/5以下であることが好ましく、0以上1/20以下であることがより好ましく、0以上1/50以下であることが更に好ましい。
なお、m、nは、それぞれ対応する部分構造の平均繰り返し数を意味し、下記重量平均分子量を満たすよう、適宜調整することができる。
式(I)中、pはそれぞれ独立に、0以上2以下の整数であり、前述のnが0であるときは、少なくとも1以上のpが1又は2である。
【0028】
一方、光硬化性オルガノポリシロキサン(A)が、光カチオン硬化性オルガノポリシロキサンである場合、分子内にグリシジル基を有するオルガノポリシロキサンを用いることでき、他方、光アニオン硬化性オルガノポリシロキサンである場合、分子内にグリシジル基又はシアノアクリレート基を有するオルガノポリシロキサンを用いることできる。
【0029】
光硬化性オルガノポリシロキサン(A)の重量平均分子量(Mw)は、通常5,000以上200,000以下であり、塗料組成物の製造作業性、塗装作業性、硬化性、及び形成される防汚塗膜の強度を向上させる観点から、好ましくは10,000以上、より好ましくは12,000以上、更に好ましくは15,000以上であり、そして、好ましくは100,000以下、より好ましくは70,000以下、更に好ましくは50,000以下である。
また、光硬化性オルガノポリシロキサン(A)の数平均分子量は、塗料組成物の製造作業性、塗装作業性、硬化性、及び形成される防汚塗膜の強度を向上させる観点から、好ましくは3,000以上、より好ましくは4,000以上、更に好ましくは5,000以上であり、そして、好ましくは50,000以下、より好ましくは30,000以下、更に好ましくは20,000以下である。
本発明において、光硬化性オルガノポリシロキサン(A)や、後述するその他のオリゴマー・ポリマー(N)等の「重量平均分子量(Mw)」及び「数平均分子量(Mn)」は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)を用いて測定し、分子量既知の標準ポリスチレンで換算して算出される。
【0030】
光硬化性オルガノポリシロキサン(A)の官能基当量(1モルの硬化性官能基当たりの質量)は、硬化性、及び形成される防汚塗膜の強度及び防汚性を向上させる観点から、好ましくは300g/mol以上、より好ましくは500g/mol以上、更に好ましくは700g/mol以上、より更に好ましくは1,000g/mol以上であり、そして、好ましくは50,000g/mol以下、より好ましくは30,000g/mol以下、更に好ましくは20,000g/mol以下、より更に好ましくは15,000g/mol以下、特に好ましくは10,000g/mol以下である。
なお、2種以上の光硬化性オルガノポリシロキサン(A)を使用する場合には、光硬化性オルガノポリシロキサン(A)の全体として、官能基当量が上記の範囲となることが好ましい。
前記官能基当量は、数平均分子量を1分子当たりの官能基数で除した値で近似してもよい。
【0031】
また、光硬化性オルガノポリシロキサン(A)の23℃における粘度は、塗料組成物の製造作業性、塗装作業性、硬化性、及び形成される防汚塗膜の強度を向上させる観点から、好ましくは100mPa・s以上、より好ましくは200mPa・s以上であり、そして、好ましくは50,000mPa・s以下、より好ましくは2,000mPa・s以下ある。
なお、本明細書において光硬化性オルガノポリシロキサン(A)の23℃における粘度は、B型回転粘度計(例えば、型式BM、株式会社東京計器製)により測定した粘度を指す。
【0032】
光硬化性オルガノポリシロキサン(A)は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なお、以下の説明において、2種以上を併用している場合には、好ましい含有量は、当該成分の合計量としての好ましい範囲である。
塗料組成物中の光硬化性オルガノポリシロキサン(A)の含有量は、形成される防汚塗膜の防汚性及び強度を良好とする観点から、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上であり、そして、好ましくは98質量%以下、より好ましくは95質量%以下、更に好ましくは90質量%以下である。
また、防汚塗料組成物の固形分中の光硬化性オルガノポリシロキサン(A)の含有量は、50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上であり、そして、98質量%以下、好ましくは97質量%以下、より好ましくは95質量%以下である。
なお、本明細書において「塗料組成物の固形分」とは、後述する非反応性溶剤(E)及び各成分に溶剤として含まれる揮発成分を除いた成分を指し、「塗料組成物の固形分中の含有量」は、塗料組成物を125℃の熱風乾燥機中で1時間乾燥させて得られた残留物中の含有量として算出することができる。
従って、「塗料組成物の固形分」は、必ずしも固体状であることを意味するものではなく、液状であってもよい。
【0033】
また、本発明の防汚塗料組成物の固形分中の光硬化性オルガノポリシロキサン(A)及び後述の滑り剤(B)の合計含有量は、形成される防汚塗膜の防汚性及び強度を良好とする観点から、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上であり、そして、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下である。
【0034】
光硬化性オルガノポリシロキサン(A)としては、市販品を使用してもよい。該市販品としては、例えばEvonik Industries AG社製「TEGO Rad 2650」(式(I)において、R1がメチル基であり、全てのpが1であり、nが0であり、Xが式(IId)で表される基(a=3)であり、Mw:17,000、粘度(23℃):380mPa・sである)、Siltech社製「SILMER OH ACR C50」(R1がメチル基であり、全てのpが0であり、qが1であり、nが3であり、Xが式(IIb)で表される基(a=3)であり、Mw:24,000、粘度(23℃):550mPa・sである)、「SILMER OH ACR Di-400」(R1がメチル基であり、全てのpが1であり、nが0であり、Xが式(IIb)で表される基(a=3)であり、Mw:31,000、粘度(23℃):1,030mPa・sである)等が挙げられる。
【0035】
<滑り剤(B)>
本組成物は、滑り剤(B)を含有する。
滑り剤(B)は、形成される防汚塗膜に滑り性を付与することで、水生生物の付着阻害性(防汚性)を向上させることができる。更に、本組成物が滑り剤(B)を含有することで、水中において、防汚塗膜の表面を滑りやすくすることで、該防汚塗膜によって被覆された基材が漂流物等と接触した際のダメージを低減したり、基材(水中で使用されるケーブル類の防汚被覆等)の設置時の作業性を向上させたりすることができる。
【0036】
防汚塗料組成物の固形分中の前記滑り剤(B)の含有量は、形成される防汚塗膜の防汚性を向上させる観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上であり、好ましくは40質量%以下、より好ましくはである30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下である。
【0037】
滑り剤(B)は、25℃において流動性を有するものであることが好ましく、液状であることがより好ましい。滑り剤(B)が流動性を有することで、防汚塗膜内の移動性が高く、表面に滑りやすくする効果(滑り性)を高めることができると考えられる。また、後述の防汚塗料組成物の粘度を低減して塗布性も良好にできる。
滑り剤(B)としては、油類及び親水性基を有するポリマーから選ばれる1種以上が好ましい。
【0038】
前記油類としては、光硬化性オルガノポリシロキサン(A)以外のシリコーン油、パラフィン油、油脂等が挙げられ、中でもシリコーン油が好ましい。
パラフィン油としては、流動パラフィン等が挙げられる。
油脂としては、脂肪酸とグリセリンのエステルであり、動物性油脂、植物性油脂等が挙げられる。
【0039】
前記親水性基を有するポリマーとしては、形成される防汚塗膜の防汚性、付着性の観点では、親水性基を有するアクリル系ポリマー、ポリアルキレングリコール等が挙げられ、親水性基を有するアクリル系ポリマーが好ましい。
ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体及びそれらのアルキルエーテル等が挙げられる。
【0040】
すなわち、滑り剤(B)は、シリコーン油、パラフィン油、油脂、親水性基を有するアクリル系ポリマー及びポリアルキレングリコールから選ばれる1種以上であることが好ましく、シリコーン油及び親水性基を有するアクリル系ポリマーから選ばれる1種以上であることがより好ましく、フェニル変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン及び親水性基を有するアクリル系ポリマーからなる群より選択される1種以上であることが更に好ましい。また、塗装作業性に優れ、形成される防汚塗膜の防汚性及び耐ダメージ性を良好とする塗装等の観点から、シリコーン油及び親水性基を有するアクリル系ポリマーの両方を含むことも好ましい。
以下に好適な滑り剤(B)である、シリコーン油と親水性基を有するアクリル系ポリマーについて、詳細に説明する。
【0041】
〔シリコーン油(B1)〕
本発明の防汚塗料組成物に用いられるシリコーン油(B1)としては、ジメチルシリコーン(ポリジメチルシロキサン、未変性シリコーン)、変性シリコーンが挙げられる。変性シリコーンはジメチルシリコーンの一部のメチル基が、メチル基以外の有機基で置換されたものであり、前述の光硬化性オルガノポリシロキサン(A)のような光硬化反応性基を実質的に含有しないものである。
シリコーン油は界面張力が低く、低温環境下でも性質が変化しにくいため、防汚塗膜の表面に移動しやすく、効率的に水生生物の付着防止性(防汚性)や耐ダメージ性を改善することができる。
【0042】
シリコーン油(B1)の25℃における粘度は、防汚塗料組成物の塗布性を向上させ、形成される防汚塗膜に滑り性を付与し、防汚性を向上させることができる観点から、好ましくは10mPa・s以上、より好ましくは20mPa・s以上、更に好ましくは40mPa・s以上、より更に好ましくは60mPa・s以上、より更に好ましくは80mPa・s以上であり、そして、好ましくは50,000mPa・s以下、より好ましくは20,000mPa・s以下、更に好ましくは10,000mPa・s以下である。
なお、本明細書において、シリコーン油(B1)の25℃における粘度は、B型回転粘度計により測定した粘度を指す。
【0043】
また、シリコーン油(B1)の25℃における動粘度は、防汚塗料組成物の塗布性を向上させ、形成される防汚塗膜に滑り性を付与し、防汚性を向上させることができる観点から、好ましくは10mm2/秒以上、より好ましくは20mm2/秒以上、更に好ましくは40mm2/秒以上、より更に好ましくは60mm2/秒以上、より更に好ましくは80mm2/秒以上であり、そして、好ましくは50,000mm2/秒以下、より好ましくは20,000mm2/秒以下、更に好ましくは10,000mmm2/秒以下である。
なお、本明細書において、シリコーン油(B1)の25℃における動粘度は、JIS Z 8803:2011に準拠して、ウベローデ粘度計により測定した粘度を指す。
【0044】
変性シリコーンとしては、フェニル変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、長鎖アルキル変性シリコーン、高級脂肪酸エステル変性シリコーン、フッ化アルキル変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、フェノール変性シリコーン等が挙げられる。
このような変性シリコーンの内、防汚塗料組成物に適度な搖変性を付与し、その塗工性を良好とし、また、形成される防汚塗膜の防汚性及び耐ダメージ性を良好とする観点から、シリコーン油(B1)としては、フェニル変性シリコーン及びポリエーテル変性シリコーンから選ばれる1種以上が好ましく、ポリエーテル変性シリコーンがより好ましく、フェニル変性シリコーン及びポリエーテル変性シリコーンを併用することも好ましい。
【0045】
変性シリコーンの構造としては、側鎖変性型、両末端変性型、片末端変性型、ブロック型、側鎖及び両末端変性型が挙げられる。
【0046】
前記ジメチルシリコーンとしては、市販品を使用してもよい。該市販品としては、「KF-96-1,000cs」(信越化学工業株式会社製、動粘度(25℃):1,000mm2/秒)等が挙げられる。
【0047】
フェニル変性シリコーンのフェニル変性率は、防汚塗膜の形成を容易とし、形成される防汚塗膜の防汚性を良好とする観点から、好ましくは3%以上、より好ましくは4%以上であり、そして、好ましくは50%以下、より好ましくは20%以下、更に好ましくは10%以下である。フェニル変性率は、ケイ素に結合したフェニル基とメチル基の総数に対するフェニル基の数を百分率で表したものである。
フェニル変性シリコーンの25℃における動粘度は、防汚塗料組成物の塗工作業性、形成される防汚塗膜の防汚性を良好とする等の観点から、好ましくは10mm2/秒以上、より好ましくは30mm2/秒以上、更に好ましくは50mm2/秒以上であり、そして、好ましくは50,000mm2/秒以下、より好ましくは10,000mm2/秒以下、更に好ましくは6,000mm2/秒以下である。
フェニル変性シリコーンとしては、市販品を使用してもよい。該市販品としては、「KF-50-1,000cs」(信越化学工業株式会社製、フェニル変性率=5%、動粘度(25℃):1,000mm2/秒)、「KF-50-100cs」(信越化学工業株式会社製、フェニル変性率=5%、動粘度(25℃):100mm2/秒)等が挙げられる。
【0048】
本組成物がフェニル変性シリコーンを含有する場合、防汚塗料組成物の固形分中の含有量は、防汚塗膜の防汚性、形成効率、耐ダメージ性を良好とする観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
【0049】
ポリエーテル変性シリコーンの構造としては、側鎖変性型、両末端変性型、ブロック型、側鎖及び両末端変性型が挙げられ、側鎖変性型及び両末端変性型が好ましい。
ポリエーテル変性シリコーンのポリエーテル基(ポリアルキレングリコール基)を構成するポリエーテル(ポリアルキレングリコール)は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体が挙げられ、ポリエチレングリコールが好ましい。
ポリエーテル変性シリコーンは、防汚塗膜の形成を容易とし、形成される防汚塗膜の防汚性を良好とする観点から、その構造中に占めるポリエーテル部分構造の割合は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
【0050】
前記防汚塗料組成物がポリエーテル変性シリコーンを含有する場合、防汚塗料組成物の固形分中の含有量は、防汚塗膜の形成を容易とし、形成される防汚塗膜の防汚性を向上させる観点等から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは7質量%以下である。
【0051】
本組成物がエチレンオキシ(-C2H4O-)構造単位を含有するポリエーテル変性シリコーン及び/又は後述のエチレンオキシ(-C2H4O-)構造を有する親水性基を有するアクリル系ポリマー(B2)を含有する場合、形成される防汚塗膜に良好な防汚性及び耐ダメージ性を付与する観点から、防汚塗膜中のジメチルシロキサン部分構造(-(CH3)2Si-O-)100質量部に対して、エチレンオキシ(-C2H4O-)部分構造の合計質量は、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上であり、そして、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。
なお、前記ジメチルシロキサン部分構造は、前述した光硬化性オルガノポリシロキサン(A)、シリコーン油(B1)、後述するオルガノポリシロキサン(N1)及びその他の光硬化性オリゴマー・ポリマー(N2)に由来するジメチルシロキサン部分構造を含むものである。
【0052】
ポリエーテル変性シリコーンの25℃における動粘度は、防汚塗料組成物の塗工作業性、形成される防汚塗膜の防汚性を良好とする等の観点から、好ましくは10mm2/秒以上、好ましくは50mm2/秒以上、更に好ましくは100mm2/秒以上であり、そして、好ましくは5000mm2/秒以下、より好ましくは2000mm2/秒以下、更に好ましくは500mm2/秒以下である。
ポリエーテル変性シリコーンとしては、市販品を使用してもよい。該市販品としては、「X-22-4272」(信越化学工業株式会社製、両末端型、動粘度(25℃):270mm2/秒)、「KF-6020」(信越化学工業株式会社製、側鎖型、ポリエーテル部分構造の割合=20質量%、動粘度(25℃):180mm2/秒)、「FZ-2203」(東レ・ダウコーニング株式会社製、側鎖型)、「FZ-2160」(東レ・ダウコーニング株式会社製、ブロック型)等が挙げられる。
【0053】
本組成物がシリコーン油(B1)を含有する場合、防汚塗料組成物の固形分中宇の含有量は、防汚塗膜の形成を容易とし、形成される防汚塗膜の防汚性を向上させる等の観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下である。
【0054】
〔親水性基を有するアクリル系ポリマー(B2)〕
本組成物に用いられる親水性基を有するアクリル系ポリマー(B2)としては、親水性基を有するモノマーに由来する構成単位を含有することが好ましく、親水性基を有するモノマーに由来する構成単位と疎水性モノマーに由来する構成単位を含有することがより好ましく、親水性基を有するモノマーに由来する構成単位と疎水性モノマーに由来する構成単位からなることが更に好ましい。
親水性基を有するアクリル系ポリマー(B2)中の親水性基を有するモノマーに由来する構成単位の含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは5質量%以上、より更に好ましくは10質量%以上、特に好ましくは20質量%以上であり、そして、100質量%以下、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下、より更に好ましくは50質量%以下である。
アクリル系ポリマーが親水性基を有することで、形成される防汚塗膜が水中に設置された際に、アクリル系ポリマーの親水性部位が溶解あるいは膨潤し、徐々に防汚塗膜表面に移行することで、水生生物の付着を効率的に防止できるものと考えられる。また、アクリル構造を有するため、ゆるやかに加水分解し、水への親和性が変化することで、徐々にアクリル系ポリマーが防汚塗膜表面に移行するため、長期間にわたって防汚性を維持できると考えられる。
前記親水性基を有するモノマーの親水性基としては、形成される防汚塗膜の防汚性及び耐ダメージ性を良好とする等の観点からエーテル基、水酸基が好ましく、エーテル基がより好ましく、ポリエーテル基が更に好ましく、ポリエチレンオキシ基がより更に好ましい。
【0055】
また、親水性基を有するアクリル系ポリマー(B2)中の疎水性モノマーに由来する構成単位の含有量は、好ましくは99質量%以下、より好ましくは97質量%以下、更に好ましくは95質量%以下、より更に好ましくは90質量%以下、特に好ましくは80質量%以下であり、そして、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上、より更に好ましくは50質量%以上である。
アクリル系ポリマーが疎水性モノマーを有することで、防汚塗料組成物の他の成分である光硬化性オルガノポリシロキサン(A)等と高い親和性を有し、防汚塗膜表面に均一に滑り性を発現することができるものと考えられる。
【0056】
前記親水性基を有するモノマーとしては、形成される防汚塗膜の防汚性及び耐ダメージ性を良好とする等の観点から、ポリアルキレングリコール基を有するモノマー及び水酸基を有するモノマーが好ましく、ポリアルキレングリコール基を有するモノマーがより好ましい。
具体的には、防汚性を向上させる観点から、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、4-(メタ)アクリロイルモルフォリン及びビニルピロリドンから選ばれる1種以上が好ましく、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上がより好ましく、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートが更に好ましい。
【0057】
ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートとしては、ポリアルキレングリコールの片末端が(メタ)アクリル酸と直接エステル結合又は連結基を介して結合し、残りの片末端が水酸基又はアルコキシ基であるものが挙げられ、アルコキシ基であるものが好ましい。
中でも、ポリアルキレングリコールの片末端が(メタ)アクリル酸と直接エステル結合しているものが好ましく、残りの片末端がアルコキシ基であるものがより好ましい。
末端の(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及びメタクリル酸が好ましく、アクリル酸がより好ましい。
末端のアルコキシ基は、メトキシ基、フェノキシ基、オクトキシ基等が挙げられ、メトキシ基、フェノキシ基が好ましく、メトキシ基がより好ましい。
【0058】
ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートを構成するポリアルキレングリコールは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体が好ましく、ポリエチレングリコールがより好ましい。
ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート中のポリアルキレングリコールを構成する平均アルキレングリコール単位数は、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは5以上であり、そして、好ましくは25以下、より好ましくは15以下、更に好ましくは12以下である。
【0059】
ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートの具体例としては、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール-プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール-ブチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリロキシポリ(エチレングリコール-プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、フェノキシポリ(エチレングリコール-プロピレングリコール)メタクリレート、オクトキシポリ(エチレングリコール-プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ドデシロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、オクタデシロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコールアクリレート等が挙げられ、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0060】
ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートとしては、市販品を使用してもよい。該市販品としては、新中村化学工業株式会社製のNKエステル AM-90G(メトキシポリエチレングリコール#400アクリレート)、NKエステル AM-130G(メトキシポリエチレングリコール#550アクリレート)、NKエステル M-90G(メトキシポリエチレングリコール#400メタクリレート)、NKエステル M-230G(メトキシポリエチレングリコール#1000メタクリレート);共栄社化学株式会社製のライトアクリレートMTG-A(メトキシ-トリエチレングリコールアクリレート)、ライトアクリレートEC-A(エトキシ-ジエチレングリコールアクリレート)、ライトアクリレートEHDG-AT(2-エチルヘキシル-ジエチレングリコールアクリレート)、ライトエステル041MA(メトキシポリエチレングリコールメタクリレート);日油株式会社製のブレンマーANP-300(ノニルフェノキシポリプロピレングリコールアクリレート)、ブレンマーAP-400(ポリプロピレングリコールモノアクリレート)、ブレンマー70PEP-350B(ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノメタクリレート)、ブレンマー55PET-800(ポリエチレングリコールテトラメチレングリコールモノメタクリレート)、ブレンマー50POEP-800B(オクトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールメタクリレート);大阪有機化学工業株式会社製のビスコート#MTG(メトキシポリエチレングリコールアクリレート)等が挙げられる。
【0061】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、市販品を使用してもよい。該市販品としては、共栄社化学株式会社製のライトエステルHOA(N)(2-ヒドロキシエチルアクリレート)、ライトエステルHO-250(N)(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、ライトエステルHOP(N)(2-ヒドロキシプロピルメタクリレート)等が挙げられる。
【0062】
アルコキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、メトキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0063】
テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレートとしては、テトラヒドロフルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレートが好ましく、テトラヒドロフルフリルアクリレートがより好ましい。
4-(メタ)アクリロイルモルフォリンとしては、4-アクリロイルモルフォリン、4-メタクリロイルモルフォリンが好ましく、4-アクリロイルモルフォリンがより好ましい。
ビニルピロリドンとしては、1-ビニル-2-ピロリドン(N-ビニル-2-ピロリドン)、3-アセチル-1-ビニルピロリジン-2-オン、3-ベンゾイル-1-ビニルピロリジン-2-オン等が挙げられ、1-ビニル-2-ピロリドンが好ましい。
【0064】
また、前記親水性基を有するモノマーとしては、その他に(メタ)アクリル酸が挙げられる。
【0065】
前記疎水性モノマーとしては、炭素数1以上30以下の分岐、直鎖又は環状のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、炭素数6以上10以下の芳香族基を有するアリール(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル基含有シリコーンが挙げられ、アルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル基含有シリコーンが好ましく、アルキル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0066】
アルキル(メタ)アクリレートのアルキル基の炭素数は、1以上30以下が好ましく、4以上18以下がより好ましく、4以上8以下が更に好ましく、4以上6以下がより更に好ましい。
また、前記アルキル基は、分岐、直鎖又は環状であり、分岐又は直鎖が好ましく、分岐がより好ましい。
【0067】
アルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、3,5,5-トリメチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、及びベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらの中でも、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート及び2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0068】
アリール(メタ)アクリレートの芳香族基の炭素数は、6以上10以下が好ましく、6以上7以下がより好ましい。
アリール(メタ)アクリレートの具体例としては、フェニル(メタ)アクリレート及びベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0069】
(メタ)アクリル基含有シリコーンとしては、メタクリル基含有シリコーン及びアクリル基含有シリコーンが挙げられ、メタクリル基含有シリコーンが好ましい。
(メタ)アクリル基含有シリコーンは、(メタ)アクリル基がシリコーン主鎖の片末端に連結基を介して結合するもの、及び(メタ)アクリル基がシリコーン主鎖の片末端に直接結合するものが好ましく、(メタ)アクリル基がシリコーン主鎖の片末端に連結基を介して結合するものが好ましい。
前記連結基はトリメチレン基であることが好ましい。
上記シリコーン主鎖は、直鎖又は分岐のジメチルシリコーン(ポリジメチルシロキサン)からなることが好ましく、直鎖のジメチルシリコーンからなることがより好ましい。
また、(メタ)アクリル基とは反対側の末端には、炭素数1以上6以下のアルキル基が存在することがより好ましく、ブチル基が存在することが好ましい。
(メタ)アクリル基含有シリコーンとしては、市販品を使用してもよい。該市販品としては、JNC株式会社製のサイラプレーンTM-0701T(トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレート)、サイラプレーンFM-0711(メタクリル基含有ジメチルポリシロキサン、数平均分子量1,000)、及びサイラプレーンFM-0721(メタクリル基含有ジメチルポリシロキサン、数平均分子量5,000)等が挙げられる。
(メタ)アクリル基含有シリコーンを含むことで、形成される防汚塗膜の防汚性を向上させることができる。
【0070】
親水性基を有するアクリルポリマー(B2)は、上述した親水性モノマーと疎水性モノマーとを重合することにより得られ、重合方法としては、重合開始剤を用いた公知の方法が採用できる。
【0071】
親水性基を有するアクリル系ポリマー(B2)の重量平均分子量(Mw)は、防汚塗料組成物の粘度や形成される防汚塗膜の防汚性を良好とする観点から、好ましくは1,000以上、より好ましくは3,000以上、更に好ましくは5,000以上、より更に好ましくは7,000以上、そして、好ましくは30,000以下、より好ましくは15,000以下である。
親水性基を有するアクリル系ポリマー(B2)の重量平均分子量(Mw)が上記範囲にあると、形成される防汚塗膜に良好な防汚性及び耐ダメージ性を付与できる点で好ましい。
【0072】
本組成物が、親水性基を有するアクリル系ポリマー(B2)を含有する場合、防汚塗料組成物の固形分中の含有量は、形成される防汚塗膜の防汚性及び耐ダメージ性の観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、より更に好ましくは5質量%以下である。
【0073】
<光重合開始剤(C)>
本組成物は光重合開始剤(C)を含有する。光重合開始剤(C)は、活性エネルギー線照射によりラジカル等の活性種を生じる開始剤であればよい。
活性エネルギー線照射によりラジカルを生じる開始剤としては、例えば、ホスフィンオキシド系重合開始剤、アセトフェノン系重合開始剤、ベンゾイン系重合開始剤、ベンゾフェノン系重合開始剤、チオキサントン系重合開始剤等の従来公知の光重合開始剤を用いることができ、中でも塗料組成物が比較的長波長の紫外光によっても硬化性が良好となる観点から、ホスフィンオキシド系重合開始剤を用いることが好ましい。
【0074】
ホスフィンオキシド系重合開始剤としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシド等のものアシルホスフィンオキシド;
ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-(2,4-ビス-ペンチルオキシフェニル)ホスフィンオキシド等のビスアシルホスフィンオキシド等が挙げられる。
アセトフェノン系重合開始剤としては、例えば、ベンジルジメチルケタール(別名、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン)、ジエトキシアセトフェノン、4-フェノキシジクロロアセトフェノン、4-tert-ブチル-ジクロロアセトフェノン、4-tert-ブチル-トリクロロアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1-(4-ドデシルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン等が挙げられる。
【0075】
ベンゾイン系重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オンが挙げられる。
ベンゾフェノン系重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、[4-(メチルフェニルチオ)フェニル]フェニルメタノン、4-ヒドロキシベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、3,3',4,4'-テトラ(tert-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノンが挙げられる。
チオキサントン系重合開始剤としては、例えば、チオキサントン、2-クロルチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン等が挙げられる。
【0076】
一方、活性エネルギー線照射によりカチオンを生じる開始剤としては、例えばスルホニウム塩化合物やヨードニウム塩化合物が挙げられ、アニオンを生じる開始剤としては、例えば2-(9-オキソキサンテン-2-イル)プロピオン酸1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン等が挙げられる。
【0077】
光重合開始剤(C)は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
本組成物において、防汚塗料組成物の固形分中の光重合開始剤(C)の含有量は、成分(A)及び(B)の固形分の合計100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1.0質量部以上、更に好ましくは1.5質量部以上であり、そして、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。
【0078】
<任意成分>
本組成物は、光硬化性オルガノポリシロキサン(A)、滑り剤(B)、及び光重合開始剤(C)の他に、本発明の効果を損なわない範囲で必要に応じて、シランカップリング剤(D)、非反応性溶剤(E)、重合禁止剤(F)、消泡剤(G)、光安定剤(H)、紫外線吸収剤(I)、無機充填剤(J)、有機着色顔料(K)、光増感剤(L)、光重合性モノマー(M)、その他のオリゴマー・ポリマー(N)、生物忌避剤(O)、脱水剤(P)、タレ止め-沈降防止剤(Q)、硬化触媒(R)、有機ケイ素架橋剤(S)、帯電防止剤(T)、酵素(U)、難燃剤(V)、熱伝導改良剤(W)及び防曇剤(X)等を含有していてもよい。
【0079】
〔シランカップリング剤(D)〕
本組成物は、形成される防汚塗膜と基材や下地との付着性を向上させる目的として、シランカップリング剤(D)を含有してもよい。
シランカップリング剤(D)は加水分解性基が結合したシランと反応性基を有する化合物又はその部分縮合物であって、例えば、下記式(D1)で表される化合物又はその部分縮合物を用いることが好ましい。
【0080】
【0081】
式(D1)中、R21及びR22はそれぞれ独立に、炭素原子数1以上10以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基、ハロゲン化アルキル基を示し、メチル基又はエチル基が好ましい。
式(D1)中、R23はアミノ基(-NR-、Rは水素原子又は炭素数1以上10以下の炭化水素基を表す)、エーテル基(-O-)、チオエーテル基(-S-)、エステル基(-C(=O)-O-)、又はアミド基(-C(=O)-NR-、Rは水素原子又は炭素数1以上10以下の炭化水素基を表す)が介在してもよい炭素原子数1以上20以下の二価炭化水素基であり、好ましくはプロピレン基である。
式(D1)中、Zは反応性基であり、中でも形成される塗膜の防汚性が良好となる観点から、好ましくは(メタ)アクリロイルオキシ基であり、より好ましくはアクリロイルオキシ基である。
式(D1)中、wは2又は3の整数であり、好ましくは3である。
【0082】
このようなシランカップリング剤(D)としては、例えば、3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられ、3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを用いることが好ましい。
シランカップリング剤(D)は市販のものを用いてもよく、例えば、信越化学工業株式会社製「KBM-5103」(3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン)等を用いることができる。
【0083】
これらのシランカップリング剤(D)は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
本組成物がシランカップリング剤(D)を含有する場合、該塗料組成物の固形分中のシランカップリング剤(D)の含有量は、形成される防汚塗膜の基材や下塗り塗膜に対する付着性を向上させる観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
【0084】
〔非反応性溶剤(E)〕
本組成物は、該組成物の製造作業性及び塗装作業性を向上させることを目的として、非反応性溶剤(E)を含有してもよい。
非反応性溶剤(E)としては、例えば、芳香族炭化水素系有機溶剤、脂肪族炭化水素系有機溶剤、脂環族炭化水素系有機溶剤、ケトン系有機溶剤、及びエステル系有機溶剤を挙げることができ、これらの中でも芳香族系炭化水素系有機溶剤、脂肪族炭化水素系有機溶剤、脂環族炭化水素系有機溶剤が好ましい。
芳香族炭化水素系有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、及びメシチレン等が挙げられる。
脂肪族炭化水素系有機溶剤としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン及びミネラルスピリット等が挙げられる。
脂環族炭化水素系有機溶剤としては、例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、及びエチルシクロヘキサン等が挙げられる。
ケトン系有機溶剤としては、例えば、アセチルアセトン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン(別名:2-ヘプタノン)及び炭酸ジメチル等が挙げられる。
エステル系有機溶剤としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられる。
【0085】
これらの非反応性溶剤(E)は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
本組成物が非反応性溶剤(E)を含有する場合、該塗料組成物中の非反応性溶剤(E)の含有量は、該塗料組成物の粘度に応じて適宜調整することができるが、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であり、そして、塗装時のタレを抑制する観点から、好ましくは40質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは15質量%以下である。
非反応性溶剤は、防汚塗料組成物の調製時に添加してもよく、他の成分に予め混合されていてもよい。
本発明において、非反応性溶剤(E)の含有量を低く抑えることにより、乾燥工程を行うことなく光硬化工程を行うことが可能となり、より短時間で防汚塗膜を形成することができるため、好ましい。
【0086】
〔重合禁止剤(F)〕
本組成物は、該塗料組成物の貯蔵安定性及び製造作業性及び塗装作業性を向上させることを目的として、重合禁止剤(F)を含有してもよい。
重合禁止剤(F)としては例えば、p-ベンゾキノン、ナフトキノン、トルキノン、2,5-ジフェニル-p-ベンゾキノン、ハイドロキノン、2,5-ジ-tert-ブチルハイドロキノン、メチルハイドロキノン、モノ-tert-ブチルハイドロキノン等のキノン類、4-メトキシフェノール、2,6-ジ-tert-ブチルクレゾール(別称:ジブチルヒドロキシトルエン、BHT)等の芳香族類、p-tert-ブチルカテコール等を挙げることができる。中でも、芳香族類が好ましく、4-メトキシフェノール、2,6-ジ-tert-ブチルクレゾールが特に好ましい。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0087】
本組成物が重合禁止剤(F)を含有する場合、該塗料組成物の固形分中の重合禁止剤(F)の含有量は、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上であり、そして、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下である。
【0088】
〔消泡剤(G)〕
本組成物は、該組成物の製造作業性及び塗装作業性を向上させること、及び形成される防汚塗膜の強度、防汚性を向上させることを目的として、消泡剤(G)を含有してもよい。
消泡剤(G)としては、フッ素系、シリコーン系、アクリル系の消泡剤を用いることができ、特にフッ素系消泡剤が好ましい。また、消泡剤(G)は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
消泡剤(G)としては、市販品を用いることができ、例えば、ビックケミー・ジャパン株式会社製「BYK-066N」(フッ素系消泡剤)等が挙げられる。
本組成物が消泡剤(G)を含有する場合、該塗料組成物の固形分中の消泡剤(G)の含有量は、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上であり、そして、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。
【0089】
〔光安定剤(H)〕
本組成物は、太陽光等の紫外線による防汚塗膜の黄変を更に抑制することを目的として、光安定剤(H)を含有してもよい。
光安定剤(H)としては、ヒンダードアミン系光安定剤が挙げられ、これを変性したものや、オリゴマー化したものでもよい。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ヒンダードアミン系光安定剤としては、市販品を用いることができ、例えば、BASFジャパン株式会社製「TINUVIN 123」(デカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)-4-ピペリジニル)エステル、1,1-ジメチルエチルヒドロペルオキシドとオクタンの反応生成物と、コハク酸ジメチルと4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジンエタノールの重合物の混合物)、「TINUVIN 111FDL」(N,N’,N’’,N’’’-テトラキス-(4,6-ビス-(ブチル-(N-メチル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)アミノ)-トリアジン-2-イル)-4,7-ジアザデカン-1,10-ジアミン)、「TINUVIN144」(ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート)、「TINUVIN292」(ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケートと、メチル1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルセバケートの混合物)、株式会社ADEKA製「アデカスタブLA-82」(メタクリル酸1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン-4-イル)、「アデカスタブLA-87」(メタクリル酸2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン-4-イル)、クラリアントジャパン株式会社製「HOSTAVIN 3058」(1-(1-アセチル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)-3-ドデシルピロリジン-2,5-ジオン)等が挙げられる。
光安定剤(H)を用いる場合、その含有量は特に限定されないが、塗料組成物の固形分中に、好ましくは0.1質量%以上5質量%以下である。
【0090】
〔紫外線吸収剤(I)〕
本組成物は、形成される防汚塗膜の防汚性、基材や下地との付着を良好に維持することを目的として、紫外線吸収剤(I)を含有してもよい。
紫外線吸収剤(I)としては、例えば、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3,5-ジ-tert-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;
2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤;
ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤;
フェニルサリチレート、4-tert-ブチルフェニルサリチレート等のサリチレート系紫外線吸収剤;
2-シアノ-3,3-ジフェニルシアノアクリル酸エチル、2-シアノ-3,3-ジフェニルシアノアクリル酸2-エチルヘキシル等のシアノアクリレート系紫外線吸収剤が挙げられる。
また、紫外線吸収剤(I)としては、活性エネルギー線照射時に塗料組成物中の他の成分と反応する官能基を有するものであってもよい。
紫外線吸収剤(I)は1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0091】
紫外線吸収剤(I)としては、市販品を用いることができる。ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、大塚化学株式会社製「RUVA-93」(2-[2-ヒドロキシ-5-[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール)、大和化成株式会社製「DAINSORBT-84」(2-(4-アリルオキシ-2-ヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール)、BASFジャパン株式会社製「Tinuvin928」(2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(1-メチル-1-フェニルエチル)-4-(1,1,3,3,-テトラメチルブチル)フェノール)、
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、例えば、BASFジャパン株式会社製「Chimassorb81」(2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン)、ドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤としては、BASFジャパン株式会社製「Tinuvin400」(2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-ドデシロキシプロピル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジンと2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-トリデシロキシプロピル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジンの混合物)、「Tinuvin460」(2,4-ビス(2-ヒドロキシ-4-ブチロキシフェニル)-6-(2,4-ビス-ブチロキシフェニル)-1,3,5-トリアジン)、「Tinuvin405」(2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-(2-エチルヘキシロキシ)プロピル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン)、「Tinuvin479」(2-(2-ヒドロキシ-4-(イソオクチロキシカルボニルエトキシ)フェニル)-4,6-ビス(4-フェニルフェニル)-1,3,5-トリアジン)等が挙げられる。
【0092】
本組成物が紫外線吸収剤(I)を含有する場合、該塗料組成物の固形分中の紫外線吸収剤(I)の含有量は、10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0093】
〔無機充填剤(J)〕
本組成物は、形成される防汚塗膜の強度や防汚性、視認性を良好とすることを目的として、無機充填剤(J)を含有してもよい。
無機充填剤(J)としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化インジウム、酸化バナジウム、酸化セリウム、酸化アンチモン、タルク、炭化タングステン、炭化チタン、炭化ケイ素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、ガラスファイバー、ガラスフレーク等が挙げられ、中でもシリカを含有することが好ましい。
【0094】
無機充填剤(J)の内、シリカ等の活性エネルギー線の透過率が高いものは、塗料組成物の硬化性及び形成される防汚塗膜と基材や下と地の付着性を良好とする観点から、その平均粒子径が1nm以上200nm以下である微粒子を用いることが好ましく、10nm以上100nm以下であることがより好ましい。なお、平均粒子径は、動的光散乱法によって測定される体積基準粒度分布のメジアン径(d50)であって、例えばレーザー回折式粒子径分布測定装置(株式会社島津製作所製「SALD-2200」)を用いて測定することができる。又は、硬化被膜を走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡を用いて観測した際の微粒子の直径の平均値として算出することもできる。
【0095】
本組成物がシリカを含有する場合、表面未処理の親水性のシリカを用いてもよく、表面処理したシリカを用いてもよい。表面処理したシリカとしては、例えばメチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、カップリング剤又はポリマーとの反応により表面処理したシリカ挙げられ、このような表面処理を行うとシリカを疎水化することで防汚塗料組成物中での凝集を防ぎ、貯蔵安定性を高めることができる。表面処理したシリカとしては、例えば、シリカ表面に(メタ)アクリロイル基を有する反応性シリカを用いてもよい。前記反応性シリカは、例えば、シリカと、分子内に(メタ)アクリロイル基、及びメトキシ基、エトキシ基等の加水分解性基を有する加水分解性シランとを反応させることで得ることができる。このような態様であると、活性エネルギー線の照射によって本組成物を硬化させる際、反応性シリカが成分(A)と反応して塗膜に組み込まれることで形成される塗膜の強度等を向上させることができる。
【0096】
無機充填剤(J)としては、粉末状のものを用いてもよく、無機充填剤の微粒子を分散媒に分散された無機微粒子ゾルを用いてもよい。
無機微粒子ゾルの分散媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、イソブタノール、n-ブタノール等の一価アルコール溶剤;エチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等の多価アルコール誘導体;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、シクロヘキサノン等のケトン溶剤が挙げられる。これらの中でも、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルが、塗料組成物の製造容易性等の点から好ましい。
なお、本組成物中に占める無機充填剤(J)の含有量には、前記分散媒は含めない。
このような無機充填剤(J)は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0097】
無機充填剤(J)としては、市販品を用いることができる。粉末状の形態のものとしては、例えば、日本アエロジル株式会社製、「Aerosil 50」(平均一次粒子径30nm、表面処理なしシリカ)、「Aerosil 300」(平均一次粒子径7nm、表面処理なしシリカ)、「Aerosil R972」(平均一次粒子径7nm、ジメチルジクロロシラン表面処理シリカ)、「Aerosil R202」(平均一次粒子径14nm、ジメチルシリコーンオイル表面処理シリカ)等、「AluC」(平均一次粒子径13nm、アルミナ)、「TiO2 P25」(平均一次粒子径21nm、酸化チタン)等が挙げられる。
無機微粒子ゾルとしては、例えば、日産化学株式会社製「MIBK-SD」(メチルイソブチルケトン分散シリカゾル、シリカ分30%、粒子径10~15nm)、「PGM-AC-4130Y」(プロピレングリコールモノメチルエーテル分散シリカゾル、シリカ分30%、粒子径40~50nm)、「MEK-ST-ZL」(メチルエチルケトン分散シリカゾル、シリカ分30%、粒子径70~100nm)、CIKナノテック株式会社製「SIRMIBK30WT%-H24」(メチルイソブチルケトン分散シリカゾル、シリカ分30%)、「SIRPA15WT%-H10」(メチルイソブチルケトン分散シリカゾル、シリカ分15%)、「SIRPGM30WT%-E80」(プロピレングリコールモノメチルエーテル分散シリカゾル、シリカ分30%)、「RTTMIBK20WT%-H36」(メチルイソブチルケトン分散酸化チタンゾル、酸化チタン分15%)、「ZNMIBK15WT%-E05」(メチルイソブチルケトン分散酸化亜鉛ゾル、酸化亜鉛分15%)等が挙げられる。
【0098】
本組成物が無機充填剤(J)を含有する場合、該塗料組成物の固形分中の無機充填剤(J)の含有量は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0099】
〔有機着色顔料(K)〕
本組成物は、防汚塗料組成物及び形成される防汚塗膜の視認性を高めることで、製造時や塗装作業性を良好とすることを目的として、有機着色顔料(K)を含有してもよい。
有機着色顔料(K)の具体例としては、レーキレッドC、ブリリアントカーミン6B等の溶性アゾ顔料、トルイジンレッド、パーマネントカーミンFB、ファストイエローG、ジスアゾイエローAAA、ジスアゾオレンジPMP等の不溶性アゾ顔料、クロモフタルエロー3G等の縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン顔料、インダントロンブルー、キナクリドンレッド、ジオキサジンバイオレッド等の縮合多環式顔料、アルカリブルー、アニリンブラック、昼光蛍光顔料、ニトロ顔料、ニトロソ顔料等の有機顔料、カーボンブラック等が挙げられる。
【0100】
有機着色顔料(K)は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
本組成物が有機着色顔料(K)を含有する場合、該塗料組成物の固形分中の有機着色顔料(K)の含有量は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上であり、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0101】
〔光増感剤(L)〕
本組成物は、防汚塗料組成物の硬化性を良好とすることを目的として、光増感剤(L)を含有してもよい。
本組成物は、光増感剤(L)を前記光重合開始剤(C)と併用することができる。光増感剤(L)の具体例としては、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、4-ジメチルアミノ安息香酸メチル、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、4,4-ジメチルアミノベンゾフェノン及び4,4-ジエチルアミノベンゾフェノン等が挙げられる。
【0102】
光増感剤(L)は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
本組成物が光増感剤(L)を含有する場合、該塗料組成物の固形分中の光増感剤(L)の含有量は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上であり、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0103】
〔光重合性モノマー(M)〕
本組成物は、防汚塗料組成物の製造作業性及び塗装作業性、形成される塗膜の防汚性及び基材や下地との付着性を良好とすること、並びに他の成分の希釈剤とすることを目的として、前項までに記載の成分以外の光重合性モノマー(M)を含有してもよい。
光重合性モノマー(M)としては、前記アクリル系ポリマー(B2)の由来となるモノマーとして挙げたような単官能性モノマー;
2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート等のイソシアナト基含有単官能性モノマー;
1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールのエチレンオキシド付加物のジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールのプロピレンオキシド付加物のジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物のジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのエチレンオキシド付加物のテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのε-カプロラクトン付加物のヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのエチレンオキシド付加物のヘキサ(メタ)アクリレート等の多官能性モノマーが挙げられる。
これらの中でも、硬化(活性エネルギー線照射)から短時間での付着性を良好とする観点から、極性基を有する光重合性モノマーが好ましく、カルボン酸、イソシアナト基、ヒドロキシ基及びアミノ基の少なくともいずれかを有する光重合性モノマーがより好ましく、アクリル酸が更に好ましい。
【0104】
光重合性モノマー(M)は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
本組成物が光重合性モノマー(M)を含有する場合、該塗料組成物の固形分中の光重合性モノマー(M)の含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは15質量%以下である。
【0105】
〔その他のオリゴマー・ポリマー(N)〕
本組成物は、形成される防汚塗膜の強度及び基材や下地との付着性を良好とすることを目的として、成分(A)及び(B)以外のその他のオリゴマー・ポリマー(N)を含有してもよい。
成分(A)及び(B)以外のその他のオリゴマー・ポリマー(N)は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
その他のオリゴマー・ポリマー(N)としては、光硬化性を有さないオルガノポリシロキサン(N1)(以下、単に「オルガノポリシロキサン(N1)」ともいう)が挙げられる。該オルガノポリシロキサン(N1)の分子内に占めるオルガノポリシロキサンの割合は、好ましくは50質量%以上である。
このようなオルガノポリシロキサン(N1)としては、例えば、分子中に反応性基を有し、該反応性基が互いに反応するか、又は該反応性基と前記光硬化性オルガノポリシロキサン(A)や、後述する有機ケイ素架橋剤(S)の反応性基とが反応することにより三次元架橋構造を形成して硬化するものが挙げられる。なお、これらの反応性基の反応としては、例えば、縮合反応及び付加反応が挙げられ、縮合反応としては、脱アルコール反応、脱オキシム反応、及び脱アセトン反応等が挙げられる。
このようなオルガノポリシロキサン(N1)としては、市販品を用いることができ、例えば、GELEST社製「DMS-S35」、及び信越化学工業株式会社製「KE-441」、「KE-445」等が挙げられる。
本組成物がオルガノポリシロキサン(N1)を含有する場合、該塗料組成物の固形分中のオルガノポリシロキサン(N1)の含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。
【0106】
その他のオリゴマー・ポリマー(N)としては、活性エネルギー線照射によって光重合開始剤(C)より生じたラジカル等の活性種に起因して重合を開始する化合物の内、光硬化性オルガノポリシロキサン(A)以外のその他の光硬化性オリゴマー・ポリマー(N2)も挙げられる。該その他の光硬化性オリゴマー・ポリマー(N2)の分子内に占めるオルガノポリシロキサンの割合は、50質量%未満である。
このようなその他の光硬化性オリゴマー・ポリマー(N2)としては、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
ウレタン(メタ)アクリレートは、分子内に1以上の(メタ)アクリロイルオキシ基とウレタン結合を有するオリゴマー・ポリマーであり、例えば、分子内に水酸基を有する(メタ)アクリレートとポリイソシアネートとの反応や、水酸基含有ポリエステルとイソシアナト基を有する(メタ)アクリレートの反応等から得られる。
その他の光硬化性オリゴマー・ポリマー(N2)としては、市販品を用いることができ、例えば、Sartomer社製「CN991」(脂肪族ウレタンアクリレート、官能基数2、重量平均分子量1,500)、ダイセル・オルネクス株式会社製「KRM8200」(脂肪族ウレタンアクリレート、官能基数6、重量平均分子量1,000)、「EBECRYL220」(芳香族ウレタンアクリレート、官能基数6、重量平均分子量1,000)、東亜合成株式会社製「アロニクスM-8560」(ポリエステルアクリレート)、昭和電工株式会社製「VR-77」(エポキシアクリレート、官能基数1.9、重量平均分子量510)等が挙げられる。
本組成物がその他の光硬化性オリゴマー・ポリマー(N2)を含有する場合、該塗料組成物の固形分中の光硬化性オリゴマー・ポリマー(N2)の含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下である。
【0107】
その他のオリゴマー・ポリマー(N)としては、前記オルガノポリシロキサン(N1)及びその他の光硬化性オリゴマー・ポリマー(N2)以外のその他のオリゴマー・ポリマー(N3)も挙げられる。
このようなその他のオリゴマー・ポリマー(N3)としては、例えば、成分(B)以外の、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、ポリブテン樹脂、ウレタン樹脂(ゴム)、ポリアミド樹脂、塩化ビニル系共重合樹脂、塩化ゴム(樹脂)、塩素化オレフィン樹脂、スチレン・ブタジエン共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニル樹脂、アルキッド樹脂、クマロン樹脂、及び石油樹脂等の難水溶性又は非水溶性樹脂が挙げられる。
【0108】
〔生物忌避剤(O)〕
本組成物は、形成される防汚塗膜の防汚性を更に向上させることを目的として、生物忌避剤(O)を含有してもよい。
生物忌避剤(O)としては、例えば、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン(別名:DCOIT)、(+/-)-4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾール(別名:メデトミジン)、4-ブロモ-2-(4-クロロフェニル)-5-(トリフルオロメチル)-1H-ピロール-3-カルボニトリル(別名:トラロピリル)、ボラン-窒素系塩基付加物(ピリジントリフェニルボラン、4-イソプロピルピリジンジフェニルメチルボラン等)、N,N-ジメチル-N’-(3,4-ジクロロフェニル)尿素(別名:DCMU)、N-(2,4,6-トリクロロフェニル)マレイミド、2-メチルチオ-4-tert-ブチルアミノ-6-シクロプロピルアミノ-1,3,5-トリアジン、2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリル、クロロメチル-n-オクチルジスルフィド、N,N-ジメチル-N'-フェニル-(N'-フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、テトラアルキルチウラムジスルフィド、2,3-ジクロロ-N-(2',6'-ジエチルフェニル)マレイミド、2,3-ジクロロ-N-(2'-エチル-6'-メチルフェニル)マレイミド等の有機系生物忌避剤;
亜酸化銅、ロダン銅、銅等の無機系生物忌避剤;
銅ピリチオン、亜鉛ピリチオン、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート、ジンクジメチルジチオカーバメート、ジンクエチレンビスジチオカーバメート、等の有機無機複合系生物忌避剤が挙げられ、防汚塗料組成物の硬化性や形成される防汚塗膜の下地への付着性が良好となる観点から有機系生物忌避剤を用いることが好ましく、DCOIT及びメデトミジンを用いることがより好ましい。
生物忌避剤(O)は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
生物忌避剤(O)として無機系生物忌避剤又は有機無機複合系生物忌避剤を用いる場合は、微粒子を用いることが好ましい。
本組成物が生物忌避剤(O)を含有する場合、該塗料組成物の固形分中の生物忌避剤(O)の含有量は、形成される防汚塗膜の防汚性を向上させる観点から、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0109】
〔脱水剤(P)〕
本組成物は、該塗料組成物の貯蔵安定性を向上させることを目的として、脱水剤(P)を含有してもよい。
脱水剤(P)としては、例えば、「モレキュラーシーブ」の一般名称で知られるゼオライト、多孔質アルミナ、及びオルトギ酸アルキルエステル等のオルトエステル、オルトホウ酸、イソシアネート等を用いることができる。これらの脱水剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
本組成物が脱水剤(P)を含有する場合、該塗料組成物の固形分中の脱水剤(P)の含有量は、該塗料組成物の貯蔵安定性を向上させる観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0110】
〔タレ止め-沈降防止剤(Q)〕
本組成物は、タレ止め-沈降防止剤(Q)を含有してもよい。
タレ止め-沈降防止剤(Q)としては、有機粘土系ワックス(Al、Ca、Znのステアレート塩、レシチン塩、アルキルスルホン酸塩等)、有機系ワックス(ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、アマイドワックス、ポリアマイドワックス、水添ヒマシ油ワックス等)、有機粘土系ワックスと有機系ワックスの混合物等が挙げられる。
タレ止め-沈降防止剤(Q)としては、市販品を使用することができ、例えば、楠本化成株式会社製「ディスパロン305」、「ディスパロン4200-20」、及び「ディスパロンA630-20X」等が挙げられる。
本組成物がタレ止め-沈降防止剤(Q)を含有する場合、該塗料組成物の固形分中のタレ止め-沈降防止剤(Q)の含有量は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。
【0111】
〔硬化触媒(R)〕
本組成物は、該組成物の硬化性及び形成される防汚塗膜の塗膜強度を向上させることを目的として、硬化触媒(R)を含有してもよい。
特に、本組成物が前記成分(N1)を含有する場合、硬化触媒(R)を含有することが好ましい。
硬化触媒(R)としては、例えば、成分(N1)として縮合反応硬化性オルガノポリシロキサンを含有する場合、ジブチル錫ジラウレート等の錫触媒等が挙げられ、成分(N1)として付加反応硬化性オルガノポリシロキサンを含有する場合、白金触媒等が挙げられる。
【0112】
〔有機ケイ素架橋剤(S)〕
本組成物は、該組成物の硬化性及び形成される防汚塗膜の塗膜強度を向上させることを目的として、前項までに記載の成分以外の有機ケイ素架橋剤(S)を含有してもよい。
有機ケイ素架橋剤(S)は、下記式(S1)で表される化合物、及び/又はその部分縮合物であることが好ましい。
【0113】
R51
dSiY(4-d) (S1)
(式(S1)中、R51は、炭素原子数1以上6以下の炭化水素基を示し、Yは、それぞれ独立に加水分解性基を示し、dは0以上2以下の整数を示す。)
【0114】
式(S1)中、R51は、それぞれ独立に、炭素原子数1以上6以下の炭化水素基を示し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等の直鎖状又は分枝状アルキル基、シクロヘキシル基等の環状アルキル基、ビニル基等のアルケニル基、又はフェニル基等のアリール基が挙げられる。これらの中でも、メチル基、及びエチル基が好ましい。
なお、dが2であるとき、複数存在するR51は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
式(S1)において、Yは、それぞれ独立に加水分解性基を示し、加水分解性基としてはメトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、エチルメチルケトオキシム基等のオキシム基等が挙げられる。
dは0以上2以下の整数を示し、防汚塗膜の硬化性及び膜強度を向上させる観点から、0が好ましい。
【0115】
有機ケイ素架橋剤(S)としては、市販品を使用することができ、例えば、コルコート社製「エチルシリケート28」(テトラエチルオルトシリケート)、旭化成ワッカーシリコーン株式会社製「WACKER SILICATE TES 40 WN」(テトラエチルオルトシリケートの縮合物)、信越化学工業株式会社製「KBM-13」(トリメトキシメチルシラン)等が挙げられる。
【0116】
有機ケイ素架橋剤(S)は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の防汚塗料組成物が有機ケイ素架橋剤(S)を含有する場合、該塗料組成物の固形分中の有機ケイ素架橋剤(S)の含有量は、該組成物の硬化速度を調整する観点、及び形成される防汚塗膜の塗膜強度を向上させる観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上であり、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0117】
〔帯電防止剤(T)〕
本組成物は、帯電防止剤(T)を含有してもよい。
帯電防止剤の具体例としては、アミジニウム塩、グアニジニウム塩及び四級アンモニウム塩等のカチオン性帯電防止剤、スルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルコールのアルキレンオキシド付加物硫酸エステル塩、高級アルコールリン酸エステル塩、高級アルコールのアルキレンオキシド付加物リン酸エステル塩等のアニオン性帯電防止剤、高級アルコールのアルキレンオキシド付加物、多価アルコールの脂肪酸エステル等の非イオン性帯電防止剤等が挙げられる。帯電防止剤(T)は1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
本組成物が帯電防止剤(T)を含有する場合、該組成物の固形分中の帯電防止剤(T)の含有量は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0118】
〔酵素(U)〕
本組成物は、形成される防汚塗膜の防汚性を向上させることを目的として、酵素(U)を含有してもよい。
酵素(U)としては、例えばセリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、メタロプロテイナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、及びグリコシダーゼ等が挙げられる。
本組成物が酵素(U)を含有する場合、該塗料組成物の固形分中の酵素(U)の含有量は、好ましくは0.0005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上であり、そして、好ましくは5質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下である。
【0119】
〔難燃剤(V)〕
本組成物は難燃剤(V)を含有してもよい。難燃剤(V)としては、酸化アンチモン、及び酸化パラフィン等が挙げられる。
難燃剤(V)は1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
本組成物が難燃剤(V)を含有する場合、該塗料組成物の固形分中の難燃剤(V)の含有量は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。
【0120】
〔熱伝導改良剤(W)〕
本組成物は、熱伝導改良剤(W)を含有してもよい。熱伝導性改良剤(W)としては、窒化ホウ素等が挙げられる。
熱伝導性改良剤(W)は1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
本組成物が熱伝導改良剤(W)を含有する場合、該塗料組成物の固形分中の熱伝導改良剤の含有量は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。
【0121】
〔防曇剤(X)〕
本組成物は防曇剤(X)を含有していてもよい。防曇剤(X)としては、多価アルコールの脂肪酸エステル類、高級脂肪酸のアミン類、高級脂肪酸のアマイド類、ショ糖脂肪酸エステル類、高級脂肪酸のアミンやアマイドのエチレンオキシド付加物等の非イオン系の界面活性剤が挙げられる。
防曇剤(X)は1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
本組成物が防曇剤(X)を含有する場合、該塗料組成物の固形分中の防曇剤(X)の含有量は、好ましくは0.1質量%以上10質量%以下である。
【0122】
[防汚塗料組成物の調製方法]
本組成物は、各成分を所定の割合で混合し、必要に応じて互いの成分を溶解又は分散させることで調製することができる。
本組成物は、1つのコンポーネントからなる1液型塗料としてもよく、また、2つ以上のコンポーネントからなる多液型塗料としてもよい。
多液型の塗料とする場合、各コンポーネント(各液)は、それぞれ1種以上の成分を含有しており、別個に包装された後、缶等の容器に入れられた状態で貯蔵保管されることが好ましく、各コンポーネントの内容物を塗装時に混合することにより防汚塗料組成物を調製することができる。
【0123】
[防汚塗膜及びその形成方法]
本発明の防汚塗膜は、本発明の防汚塗料組成物を硬化させたものである。
本組成物により形成される防汚塗膜は、水中での基材の汚損防止の目的で使用されることが好ましい。すなわち、本組成物は、水中での基材の汚損防止用の防汚塗料組成物であることが好ましい。
基材の汚損としては、水生生物による汚損が例示され、本組成物は、水生生物からの汚損防止を目的として使用される防汚塗膜を形成するための塗料組成物であることが好ましい。
【0124】
本発明の防汚塗膜は、具体的には、例えば、本組成物を基材等に塗布する塗装工程、及び塗布塗膜(本組成物)に活性エネルギー線を照射することで硬化させる硬化工程を含み、その他必要に応じて、乾燥工程及び、カバーフィルム等の貼付工程等を組み合わせることで防汚塗膜を得ることができる。
【0125】
<塗装工程>
本組成物を塗布する方法としては、刷毛塗装、ローラー塗装、スプレー等、ロールコーター塗装、フローコーター塗装、スリットコーター塗装、グラビアコーター塗装、スピンコーター塗装、カーテンロールコーター塗装、静電塗装、浸漬塗装、シルク印刷、スピン塗装等の公知の方法を挙げることができる。
本発明の防汚塗膜の厚さは、最終的に形成される防汚塗膜が後述する厚さを有するように設定される。塗膜は、1回の塗装で形成してもよいし、2回以上の塗装(2回以上塗り)で形成してもよい。
本発明の防汚塗膜の厚さは、特に限定されないが、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、更に好ましくは50μm以上であり、そして、好ましくは1,000μm以下、より好ましくは500μm以下、更に好ましくは300μm以下である。本発明の防汚塗膜がこのような態様であると、防汚性に優れた防汚塗膜となる。
【0126】
<硬化工程>
本組成物は、活性エネルギー線を照射することにより、硬化して防汚塗膜を形成することができる。前記活性エネルギー線は、前記光重合開始剤(C)に作用してラジカル等の活性種を発生させ得るならば、いかなる活性エネルギー線であってもよい。
【0127】
前記活性エネルギー線としては、遠紫外線、紫外線、近紫外線、赤外線等の光線に加えて、X線、γ線等の電磁波、電子線、プロトン線、中性子線等が挙げられ、光線が好ましく、中でも、硬化速度、照射装置の入手の容易性、価格等の面から、紫外線が好ましい。
一実施態様において光線照射に用いられる光源としては、例えば、LEDランプ、超高圧、高圧、中圧又は低圧の水銀灯、メタルハライド灯、キセノン灯、カーボンアーク灯、蛍光灯、タングステン灯、ケミカルランプ、無電極ランプ、太陽光が挙げられる。
活性エネルギー線の照射強度は通常10mW/cm2以上10,000mW/cm2以下であり、積算照射量は、通常は50mJ/cm2以上10,000mJ/cm2以下である。
硬化工程は、活性エネルギー線により生じた活性種の酸素による硬化阻害の影響を抑えるため、窒素等の不活性ガス雰囲気下や、後述のようなカバーフィルムやセパレーター等の貼付を行った状態で活性エネルギー線を照射することが好ましい。
【0128】
<乾燥工程>
本組成物が非反応性溶剤(E)等の揮発性成分を含有する場合、防汚塗膜の形成にあたって、塗布された塗料組成物中の揮発性成分を揮発させる目的で乾燥工程を含んでいてもよい。
乾燥工程は、揮発性成分を揮発できる条件であればどのような条件で行ってもよく、例えば30℃以上120℃以下の温度で加温して乾燥してもよい。
乾燥工程は、硬化工程の前に行ってもよく後で行ってもよい。また、硬化工程の前に部分的に乾燥工程を行い、硬化工程の後に乾燥工程を行ってもよい。
【0129】
<貼付工程>
防汚塗膜の形成にあたっては、硬化工程における硬化性を良好とすることや、防汚塗膜の保護や表面形状形成を目的として、カバーフィルムやセパレーター(離形フィルム、離型紙)、鋳型フィルム等を塗布された塗料組成物のウェット塗膜や硬化した防汚塗膜に貼り付ける工程を含んでいてもよい。
【0130】
<表面微細構造を有する防汚塗膜>
本発明の防汚塗膜は、水流抵抗等を向上する目的で表面微細構造を有してもよい。
表面微細構造を有する防汚塗膜は、例えば、塗料組成物を基材等に塗布した後に、形成する表面微細構造の反転構造を有する鋳型フィルムや鋳型ロールを接触させ、その状態で活性エネルギー線を照射して硬化反応を行うこと形成することができる。
このような表面凹凸構造としては、国際公開第2019/189412号に記載のようなリブレット構造が好ましい。
このような表面微細構造を有する防汚塗膜の形成は、ライン製造されることが多いが、本組成物は、非常に速い硬化性を有するため、より高速でライン製造できる点で好ましい。また、本組成物は、非反応性溶剤(E)等の揮発性成分の含有量を少なく設計することができるため、鋳型フィルムを接触させた密閉条件での硬化反応であっても、揮発性成分の揮発による塗膜内気泡の発生等の不具合が起こりにくい点で好ましい。
【0131】
[積層防汚塗膜]
本発明の積層防汚塗膜は、前述の防汚塗膜と、該防汚塗膜の少なくとも一部において接している下塗り塗膜を含んでなる。本発明の下塗り塗膜は下塗り塗料組成物を硬化させて形成することができる。
【0132】
<下塗り塗料組成物>
本発明の下塗り塗料組成物は、活性エネルギー線硬化型の組成物であっても、縮合反応硬化型や付加反応硬化型等のその他の硬化型の組成物であってもよい。
本発明の下塗り塗料組成物として活性エネルギー線硬化型の組成物を用いる場合、その組成は本発明の防汚塗膜と同様の態様であってもよく、例えば、防汚性や耐候性等よりも付着性を重視するために成分を調整した組成であってもよい。このような下塗り塗料組成物を用いた積層防汚塗膜とすることで、防汚塗膜と下塗り塗膜で特長を補完し、バランスのよい積層防汚塗膜とすることできる。
下塗り塗膜は単一の層であっても、同一又は異なる2層以上の複層であってもよい。
【0133】
本発明の下塗り塗料組成物としては、縮合反応硬化型や付加反応硬化型等のその他の硬化型の組成物を用いてもよい。このような下塗り塗料組成物を用いた積層防汚塗膜とすると、光硬化性塗膜では活性エネルギー線の遮蔽等による硬化不良等に起因し、付与することが難しい機能を備えた積層防汚塗膜とすることできる。このような下塗り塗料組成物としては、例えば、前記無機充填剤(J)の内、活性エネルギー線の透過率が低いものを含有すれば、防汚塗膜単独では得られなかった耐光性や隠ぺい性を付与した積層防汚塗膜を形成することできる。
このような下塗り塗料組成物は、防汚塗膜と下塗り塗膜との付着性が良好となる観点から、前記光硬化性を有さないオルガノポリシロキサン(N1)を含有することが好ましく、防汚塗膜を徐々に透過することで、長期的に高い防汚性を発揮できる観点から、生物忌避剤(O)を含有することも好ましい。
【0134】
[防汚テープ]
本発明の防汚テープは、前述の防汚塗膜又は積層防汚塗膜及び粘着層(v)を有し、防汚塗膜の一面又は積層防汚塗膜の下塗り塗膜の防汚塗膜に接する面と反対の面に、任意に中間層(w)を介して粘着層(v)を有する。防汚塗膜又は積層防汚塗膜の下塗り塗膜と粘着層(v)が直接積層された構成を有していてもよく、防汚塗膜又は積層防汚塗膜の下塗り塗膜と粘着層(v)が中間層(w)を介して積層された構成を有していてもよい。
【0135】
<中間層(w)>
中間層(w)としては、結合層、バリア層及び基材層からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。結合層は該中間層の上層と下層の結合力を高める機能、バリア層は該中間層を透過した水やその他の液状物の移動を低減する機能、基材層は積層防汚塗膜の強度を高める機能を有する。中間層(w)は、単一の層がこれらの機能の2以上を有していてもよい。
中間層(w)は、防汚塗膜又は積層防汚塗膜の下塗り塗膜と粘着層(v)の間に設けられていれば1層でも2層以上でもよく、2層以上積層される場合、それぞれ同一でも異なっていてもよく、いずれの順に積層されていてもよい。
【0136】
中間層(w)として、結合層としての機能を有するものは、該中間層の上層及び下層との付着性に優れるものであれば制限なく用いることができ、例えば市販のタイコートやプライマーを乾燥、硬化させたものを挙げることができる。特に、該中間層が上層に硬化性オルガノポリシロキサンを含有する防汚塗膜と接する場合、シリコーン樹脂系タイコートやシリコーン用プライマーを用いることが好ましい。
【0137】
中間層(w)として、バリア層としての機能を有するものは、該中間層を透過した水やその他の液状物の移動を低減する機能に優れるものであれば制限なく用いることができ、例えば市販の防食塗料や、特開2015-224334号公報において水蒸気バリア層として記載されているもの等を挙げることができる。
【0138】
中間層(w)として、基材層としての機能を有するものは、積層防汚塗膜の強度を高める機能を有するものであれば制限なく用いることができ、例えば、特開2013-194124号公報に記載のようなものを用いることができる。
上記の中間層(w)は、例えば、樹脂、金属、紙、不織布、布、ガラス等の材質、あるいはこれらを組み合わせた複合材で構成された塗膜、フィルム、シートが挙げられる。
【0139】
中間層(w)の材質に用いられる樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂;アクリル樹脂;ポリオレフィン樹脂;ポリビニル樹脂;ポリスチレン等の不飽単量体の(共)重合物;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリウレタン樹脂;エポキシ樹脂;ポリアセタール;ポリカーボネート;アセチルセルロース;及びこれらの複合物が挙げられる。
中間層(w)を構成する金属としては、例えば、鉄、アルミ、チタン、銅等の群より選ばれる1種以上の各種の金属元素で構成されたものが挙げられる。
中間層(w)を構成する紙としては、例えば、上質紙、中質紙等の非塗工印刷用紙やアート紙、コート紙等の塗工紙が挙げられ、和紙や薄葉紙と呼ばれるもの等も挙げられる。
【0140】
これらの中でも、主に結合層としての機能を有する中間層(w)では、付着性や製造容易性の観点から樹脂を材質とすることが好ましく、シリコーン樹脂や不飽和単量体の(共)重合物を材質とすることが好ましく、主にバリア層としての機能を有する中間層(w)では、耐水性や製造容易性の観点から、樹脂を材質とするものが好ましく、シリコーン樹脂、不飽和単量体の(共)重合物、エポキシ樹脂を材質とすることが好ましく、主に基材層としての機能を有する中間層(w)では、樹脂や金属、紙を材質とするものが好ましく、樹脂を基材とする場合、不飽和単量体の(共)重合物、ポリウレタン樹脂が好ましい。
【0141】
<粘着層(v)>
粘着層(v)としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な粘着層を採用することができ、例えば、特開2013-194124号公報に記載のような粘着層を用いることができる。このような粘着層(v)の材料としては、例えば、アクリル樹脂系粘着剤、エポキシ樹脂系粘着剤、アミノ樹脂系粘着剤、ビニル樹脂(酢酸ビニル系重合体等)系粘着剤、硬化型アクリル樹脂系粘着剤、シリコーン樹脂系粘着剤等が挙げられる。粘着層の材料は、1種でも、又は2種以上であってもよい。
また、前記粘着層(v)としては、基材レステープの市販品を用いることができ、例えば、ニッパ株式会社製の基材レスシリコーンテープ「NSD-100」が挙げられる。
前記粘着層(v)の厚さは、粘着力及び取扱性の観点から、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上であり、そして、好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下である。
【0142】
本発明の防汚テープにおける粘着層(v)の粘着力は、5N/25mm以上30N/25mm以下であることが好ましい。前記粘着層の粘着力は、上記の粘着力は、JIS Z0237:2009に準拠する剥離角度180°における被着体SUS304に対する粘着力である。
【0143】
防汚テープとしては、例えば、特開2013-194124号公報や特開2016-124994号公報に記載の構成のものを用いてもよい。
【0144】
本発明の防汚テープは、中間層(w)と粘着層(v)が予め形成された粘着テープに本組成物を塗布、硬化させて製造してもよい。このような粘着テープとしては、市販品を用いることができ、例えば、株式会社寺岡製作所製「ポリエステルフィルム粘着テープ631S#100」(厚み0.1mmのポリエステルフィルムとアクリル系粘着層で構成される総厚0.15mmのテープ)、「ガラスクロス粘着テープ540S 0.18」(厚み0.13mmのガラスクロスとシリコーン粘着層で構成されるテープ)、「カプトン(登録商標)粘着テープ650S#50」(厚み0.05mmのポリイミドフィルムとシリコーン系粘着層で構成される総厚0.08mmのテープ)、「シリコーンゴム粘着テープ9013 0.1」(シリコーンゴムとポリエステルフィルムとアクリル系粘着剤がこの順で積層された総厚0.1mmのテープ)等が挙げられる。
【0145】
本発明の防汚テープは、本組成物が光硬化性であるため硬化時間が短く、ライン製造する場合、高速で製造できるため、非常に経済的に有利である。
【0146】
[防汚塗膜付き基材、及びその製造方法]
本発明の防汚塗膜付き基材は、本発明の防汚塗膜、積層防汚塗膜又は防汚テープを基材上に有するものである。
本発明の防汚塗膜付き基材の製造方法は特に限定されないが、例えば、本組成物を基材に塗布し、硬化させて直接得る方法や、予め形成した防汚塗膜又は積層防汚塗膜を基材に接着する方法や、防汚テープを基材に貼り付ける方法により得ることができる。
【0147】
前記基材は、水中で使用されるものであることが好ましく、船舶、漁業、水中構造物等の広範な産業分野において、基材を長期間にわたって防汚する等のために利用することがより好ましいため、例えば、船舶(コンテナ船、タンカー等の大型鋼鉄船、漁船、FRP船、木船、及びヨット等の船体外板。新造船又は修繕船のいずれも含む。)、漁業資材(ロープ、漁網、漁具、浮き子、及びブイ等)、石油パイプライン、導水配管、循環水管、ダイバースーツ、水中メガネ、酸素ボンベ、水着、魚雷、火力・原子力発電所の給排水口等の構造物、海底ケーブル、送電ケーブル、海水利用機器類(海水ポンプ等)、メガフロート、湾岸道路、海底トンネル、港湾設備、及び運河・水路等における各種海洋土木工事用構造物等の水中構造物が挙げられる。
これらの中でも、船舶、水中構造物、及び漁業資材が好ましく、船舶及び水中構造物より好ましい。
【0148】
前記基材の素材としては、特に制限はなく、PET(ポリエチレンテレフタレート)やPEN(ポリエチレンナフタレート)等のポリエステル樹脂、ポリエチレンや塩素化ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ABS樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリウレタン、アクリル樹脂等を主体としたプラスチックや、天然ゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロスルフォン化ポリエチレン、エピクロロヒドリンゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、ふっ素ゴム、ウレタンゴム、ガラス、セラミック素材、ガラス繊維強化プラスチック等の複合素材、木材、紙等が挙げられる。
【0149】
前記基材及び下塗り塗膜に対する付着性を良好とするため、本発明の塗料組成物を塗装する前に被塗物を表面処理してもよく、このような表面処理としては、コロナ放電処理、プラズマ処理、紫外線やエキシマレーザー等の電子線処理、光洗浄処理、火炎処理、オゾン処理、水や有機溶剤を用いた洗浄処理、酸・アルカリ処理、研磨処理等が挙げられる。
【0150】
[防汚方法]
本発明の防汚方法は、上述した防汚塗膜、積層防汚塗膜、又は防汚テープを使用するものである。防汚対象となる各種基材に、防汚塗膜、積層防汚塗膜、又は防汚テープを設けることにより、防汚する方法である。
【実施例】
【0151】
以下、本発明を実施例により、更に具体的に説明するが、本発明は係る実施例により何ら制限されない。以下では、特にその趣旨に反しない限り、「部」は質量部の意味である。
なお、本明細書における各成分又は本組成物の「固形分」とは、各成分又は本組成物に溶剤として含まれる揮発成分を除いた成分を指し、各成分又は本組成物を125℃の熱風乾燥機中で1時間乾燥させて得られたものと同義である。
【0152】
[防汚塗料組成物の成分]
塗料組成物に用いた成分を表1に示す。
【0153】
【0154】
<親水性基を有するアクリル系ポリマー(B2)>
(合成例1ポリマー(B21)の合成)
撹拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管、滴下ロートを備えた反応容器に、メチルアミルケトン42.9質量部を仕込み、常圧、窒素雰囲気下で撹拌しながら液温100℃になるまで加熱した。反応混合物の温度を100±5℃に保ちながら、NKエステル AM-90G(メトキシポリエチレングリコールアクリレート、平均ポリエチレングリコール単位数9、新中村化学工業株式会社製)40.0質量部、イソブチルアクリレート60.0質量部、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)4.0質量部からなる混合物を4時間かけて反応容器内に滴下した。その後、100±5℃を保ちながら2時間撹拌し、ポリマー(B21)の溶液を得た。得られた溶液の固形分は70.3質量%、粘度109mPa・sであり、ポリマー(B21)の重量平均分子量(Mw)は9,100であった。
【0155】
(合成例2ポリマー(B22)の合成)
撹拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管、滴下ロートを備えた反応容器に、メチルアミルケトン42.9質量部を仕込み、常圧、窒素雰囲気下で撹拌しながら液温100℃になるまで加熱した。反応混合物の温度を100±5℃に保ちながら、ビスコート#MTG(メトキシポリエチレングリコールアクリレート、平均ポリエチレングリコール単位数3、大阪有機化学工業株式会社製)30.0質量部、サイラプレーンFM-0711(JNC株式会社製、メタクリレート基含有ジメチルポリシロキサン、数平均分子量1,000)70.0質量部、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)4.0質量部からなる混合物を4時間かけて反応容器内に滴下した。その後、100±5℃を保ちながら2時間撹拌し、ポリマー(B22)の溶液を得た。得られた溶液の固形分は69.0質量%、粘度35mPa・sであり、ポリマー(B22)の重量平均分子量(Mw)は11,100であった。
【0156】
(ポリマー溶液の固形分)
ポリマー溶液を、125℃1気圧で1時間乾燥して得られた固形分の質量を乾燥前のポリマー溶液の質量で除して固形分(質量%)を求めた。
【0157】
(ポリマー溶液の粘度)
E型粘度計(TV-25、東機産業株式会社製)を用いて、液温25℃のポリマー溶液の粘度(mPa・s)を測定した。
【0158】
(ポリマーの平均分子量)
ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、下記条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した。
(GPC条件)
装置:「HLC-8320GPC」(東ソー株式会社製)
カラム:「TSKgel guardcolumn SuperMPHZ-M」(東ソー株式会社製)×1本+「TSKgel SuperMultiporeHZ-M」(東ソー株式会社製)×2本
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:0.35ml/min
検出器:RI
カラム恒温槽温度:40℃
標準物質:ポリスチレン
サンプル調製法:得られた各ポリマー溶液に溶離液を加えた後、メンブレンフィルターでろ過して得られたろ液をGPC測定サンプルとした。
【0159】
[実施例1~16、及び比較例1、2]
<防汚塗料組成物の製造>
表2に記載された配合量(質量部)に従って各成分を混合撹拌し、防汚塗料組成物を調製した。
【0160】
<塗膜付き試験板の作製>
サンドブラスト処理鋼板(縦100mm×横70mm×厚み2.3mm)に、エポキシ系防食下塗り塗料(「バンノー500」、中国塗料株式会社製)を、その乾燥膜厚が約100μmとなるように塗布し、1日乾燥させて下塗り塗膜を形成した。その後、5℃下で、シリコーン系中塗り塗料(「CMP バイオクリン R」、)を、その乾燥膜厚が100μmとなるように塗布し、5℃下で2時間乾燥させて中塗り塗膜を形成した。次いで、この中塗り塗膜上に実施例1~16及び比較例1、2の防汚塗料組成物を、5℃下で、硬化後の膜厚が200μmとなるようにフィルムアプリケーターを用いて塗布し、セパレーターを貼り付けて、紫外線照射(波長365nmのLED-UV、照射強度約500mW/cm2、照射時間3秒)して、塗膜付き試験板とした。
【0161】
<付着性評価>
前記試験板を作製してから12時間後に、実施例1~10、比較例1、2の防汚塗料組成物を用いて作製された試験板の塗膜表面にJIS K5600-5-6に規定されている単一刃を用いて、下塗り塗膜に達する一文字の切り込みを付けた。その後、紙ウエスを用いて、該切込みに対して垂直方向に10回擦り、下塗り・中塗り塗膜との層間剥離の発生状況を、以下の基準に従って付着性(標準)を評価した。
(評価点)
3:切り込みから1mm未満の範囲で層間剥離が発生した
2:切り込みから1mm以上、3mm未満の範囲で層間剥離が発生した
1:切り込みから3mm以上の範囲にわたって連続的に層間剥離が発生した
0:既に剥離して塗膜が存在しなかった
【0162】
<防汚性評価>
実施例1~16及び比較例1、2の防汚塗料組成物を用いて前記試験板を作製してから24時間後に、海面からの深さ1mの海中(広島湾、瀬戸内海)に該試験板の試験面(防汚塗膜)が海底に向く向きで浸漬されるように設置し、3ヶ月後の試験面全体に占めるフジツボの付着面積の比率を、下記の評価基準に従って目視観察で評価した。
(評価点)
5:フジツボの付着がなかった
4:フジツボの付着面積が、試験面全体の10%未満
3:フジツボの付着面積が、試験面全体の10%以上30%未満
2:フジツボの付着面積が、試験面全体の30%以上80%未満
1:フジツボの付着面積が、試験面全体の80%以上
【0163】
<付着性評価(照射直後)>
サンドブラスト処理鋼板(縦100mm×横70mm×厚み2.3mm)に、エポキシ系防食下塗り塗料(「バンノー500」、中国塗料株式会社製)を、その乾燥膜厚が約100μmとなるように塗布し、1日乾燥させて下塗り塗膜を形成した。その後、この塗膜上に実施例11~16の防汚塗料組成物を、5℃下で、硬化後の膜厚が200μmとなるようにフィルムアプリケーターを用いて塗布し、セパレーターを貼り付けて、紫外線照射(波長365nmのLED-UV、照射強度約500mW/cm2、照射時間3秒)して、直後付着性評価用の試験板とした。
前記試験板を作製してから10秒後に、該試験板の塗膜表面にJIS K5600-5-6に規定されている単一刃を用いて、下塗り塗膜に達する一文字の切り込みを付けた。その後、紙ウエスを用いて、該切込みに対して垂直方向に10回擦り、下塗り塗膜との層間剥離の発生状況を、以下の基準に従って付着性(標準)を評価した。
(評価点)
3:切り込みから1mm未満の範囲で層間剥離が発生した
2:切り込みから1mm以上、3mm未満の範囲で層間剥離が発生した
1:切り込みから3mm以上の範囲にわたって連続的に層間剥離が発生した
0:既に剥離して塗膜が存在しなかった
【0164】
【0165】
【0166】
実施例及び比較例の結果より明らかなように、本組成物によれば、低温付着性及び防汚性に優れる防汚塗膜を形成することができる。