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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】シャットダウンセパレータ
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/449 20210101AFI20241018BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241018BHJP
   H01M 50/403 20210101ALI20241018BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20241018BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20241018BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20241018BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20241018BHJP
【FI】
H01M50/449
H01M10/052
H01M50/403 D
H01M50/414
H01M50/417
H01M50/443 C
H01M50/443 E
H01M50/489
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022558504
(86)(22)【出願日】2020-04-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-21
(86)【国際出願番号】 CN2020087777
(87)【国際公開番号】W WO2021217496
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2023-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【弁理士】
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147212
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 直樹
(72)【発明者】
【氏名】カオ、ポン
(72)【発明者】
【氏名】マロツキー、デイヴィッド エル.
(72)【発明者】
【氏名】クオ、ユンロン
(72)【発明者】
【氏名】デルモディ、ダニエル エル.
(72)【発明者】
【氏名】ユイ、ハイヤン
(72)【発明者】
【氏名】マー、ワンフー
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2016-0011531(KR,A)
【文献】国際公開第2017/061489(WO,A1)
【文献】特開2019-192340(JP,A)
【文献】特開平11-086881(JP,A)
【文献】特開2000-208122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/449
H01M 10/052
H01M 50/403
H01M 50/414
H01M 50/417
H01M 50/443
H01M 50/489
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セパレータを含む電気化学セルであって、
前記セパレータが、
(A)130℃を超える融点Tmを有するオレフィン系ポリマーから構成された多孔質基材と、
(B)前記基材上の多孔質コーティング層であって、80℃~110℃の溶融温度を有し、複数の微粒子を含む、多孔質コーティング層と、を含み、前記微粒子が、0.3マイクロメートル~1.5マイクロメートルの平均粒子径を有し、前記微粒子が、
(i)エチレン系ポリマーであって、

(a)0.910g/cc~0.930g/ccの密度と、
(b)105℃~115℃のTmと、
(c)40g/10分~70g/10分のメルトインデックスと、を有する低密度ポリエチレンであるか、または、
(a)0.900g/cc~0.935g/cc未満の密度と、
(b)30g/10分~600g/10分のメルトインデックスと、
(c)90℃~120℃のTmと、を有するエチレン/C4~C8 α-オレフィンコポリマーである、
エチレン系ポリマー、及び
(ii)C14~C40脂肪族脂肪酸から構成された分散剤から構成される、電気化学セル。
【請求項2】
前記多孔質基材が、高密度ポリエチレンから構成される、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記微粒子が(iii)酸官能性ワックスをさらに含む、請求項1又は2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記微粒子が、前記エチレン系ポリマー、前記分散剤、及び前記酸官能性ワックスを含む、請求項に記載の電気化学セル。
【請求項5】
前記酸官能性ワックスが、無水マレイン酸変性ポリエチレンワックスである、請求項に記載の電気化学セル。
【請求項6】
前記多孔質コーティング層が、結合剤をさらに含む、請求項に記載の電気化学セル。
【請求項7】
前記結合剤が、スチレン/ブテンゴムである、請求項に記載の電気化学セル。
【請求項8】
前記多孔質コーティング層が、25.4μm(1ミル254μm(10ミルの厚さを有する、請求項1~のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項9】
前記セパレータがアノードカソードとの間に配置されている、請求項1~のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項10】
前記セパレータが80℃~110℃の温度に曝露される場合、前記多孔質コーティング層が合体して、前記多孔質基材上に非多孔質コーティング層を形成する、請求項1~のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
リチウムイオン電池及び他のリチウム系電池などの電気化学セルによる、熱暴走及び他の熱関連の安全性の問題が知られている。熱暴走の比較的低い開始温度及び急速な発熱性のため、リチウムの融点179℃、及びこの同じ温度範囲周辺での有機電解質溶媒が急速に気化する温度を大きく下回る温度で、リチウム電池の熱によるシャットダウンが必要である。
【0002】
リチウム系電池が、よりエネルギー性が高まり、例えば、ハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle、HEV)などのハイパワー用途にますます利用されているため、リチウム系電池の需要が拡大している。その結果、当該技術分野は、135℃以下の温度で電気化学セル内における熱暴走を急速にシャットダウンすることができる改善された電極セパレータの必要性を認識している。
【発明の概要】
【0003】
本開示は、電気化学セルを提供する。一実施形態では、電気化学セルは、任意選択的なアノードと任意選択的なカソードとの間に配置されたセパレータを含む。セパレータは、(A)多孔質基材及び(B)基材上の多孔質コーティング層を含む。多孔質基材(A)は、130℃を超える溶融温度Tmを有するオレフィン系ポリマーから構成される。多孔質コーティング層(B)は、80℃~110℃のTmを有する。多孔質コーティング層(B)は、複数の微粒子及び任意選択的な結合剤から構成される。微粒子は、0.3マイクロメートル~1.5マイクロメートルの平均粒子径を有する。微粒子は、(i)(a)0.90g/cc~0.94g/cc未満の密度、(b)90℃~120℃のTm、(c)30g/10分~600g/10分のメルトインデックスを有するエチレン系ポリマーから構成される。微粒子はまた、(ii)C14~C40脂肪族脂肪酸から構成された分散剤も含む。微粒子はまた、(iii)任意選択的な酸官能性ワックスも含む。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1】本開示の一実施形態による電気化学セルの概略図である。
図2】本開示の一実施形態による電気化学セルの概略図である。
図3a】それぞれの発明例1、2、及び3の多孔質コーティング層の走査型電子顕微鏡写真(scanning electron micrograph、SEM)である。
図3b】それぞれの発明例1、2、及び3の多孔質コーティング層の走査型電子顕微鏡写真(scanning electron micrograph、SEM)である。
図3c】それぞれの発明例1、2、及び3の多孔質コーティング層の走査型電子顕微鏡写真(scanning electron micrograph、SEM)である。
図4】本開示の実施形態による、セパレータのガス透過性を示す温度-時間のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0005】
定義
元素周期表への任意の参照は、CRC Press,Inc.,1990-1991によって出版されたものへの参照である。この表での元素群への参照は、群に番号を付けるための新しい表記法によるものである。
【0006】
米国特許実務の目的のために、任意の参照される特許、特許出願、又は公開の内容は、特に定義の開示(具体的に本開示で提供されるいずれの定義とも矛盾しない範囲)及び当該技術分野での一般知識に関して、参照によりそれらの全体が組み込まれる(か、又はその同等の米国版がそのように参照により組み込まれる)。
【0007】
本明細書に開示される数値範囲は、下限値及び上限値を含む、下限値及び上限値のすべての値を含む。明示的な値(例えば、1又は2、又は3~5、又は6、又は7)を含有する範囲の場合、任意の2つの明示的な値の間のあらゆるサブ範囲(例えば、上記の1~7の範囲には、1~2、2~6、5~7、3~7、5~6など)が含まれる。
【0008】
別段その逆が記載されるか、文脈から暗示されるか、又は当該技術分野での慣習ではない限り、すべての部及びパーセントは、重量に基づき、すべての試験方法は、本開示の出願日時点で最新のものである。
【0009】
本明細書で使用される「ブレンド」又は「ポリマーブレンド」という用語は、2つ以上のポリマーのブレンドである。そのようなブレンドは、混和性(分子レベルで相分離しない)であってもなくてもよい。そのようなブレンドは、相分離していても、していなくてもよい。そのようなブレンドは、透過電子分光法、光散乱、X線散乱、及び当技術分野において既知の他の方法から決定される、1つ以上のドメイン構成を含んでいても、いなくてもよい。
【0010】
「組成物」という用語は、組成物を含む材料の混合物、並びに組成物の材料から形成された反応生成物及び分解生成物を指す。
【0011】
「含む(comprising)」」、「含む(including)」、「有する」という用語、及びそれらの派生語は、それが具体的に開示されているかどうかに関わらず、任意の追加の成分、ステップ、又は手順の存在を除外することを意図しない。疑義を回避するために、「含む(comprising)」という用語の使用を通じて特許請求されるすべての組成物は、反対の記載がない限り、ポリマーであろうとなかろうと、任意の追加の添加剤、アジュバント、又は化合物を含み得る。対照的に、「から本質的になる」という用語は、操作性に必須ではないものを除き、あらゆる続く記述の範囲からあらゆる他の成分、ステップ、又は手順を除く。「からなる」という用語は、明確に描写又は列挙されていない任意の成分、ステップ、又は手順を除外する。「又は」という用語は、特に明記しない限り、列挙されたメンバーを個別に、並びに任意の組み合わせで指す。単数形の使用は複数形の使用を含み、その逆もまた同様である。
【0012】
「エチレン系ポリマー」は、(重合性モノマーの総量に基づいて)50重量パーセント(重量%)を超える重合エチレンモノマーを含有し、任意選択的に、少なくとも1つのコモノマーを含有し得るポリマーである。エチレン系ポリマーは、エチレンホモポリマー、及びエチレンコポリマー(エチレン及び1つ以上のコモノマーに由来する単位を意味する)を含む。「エチレン系ポリマー」及び「ポリエチレン」という用語は、交換可能に使用され得る。エチレン系ポリマー(ポリエチレン)の非限定的な例としては、低密度ポリエチレン(low density polyethylene、LDPE)及び線状ポリエチレンが挙げられる。線状ポリエチレンの非限定的な例としては、線状低密度ポリエチレン(linear low density polyethylene、LLDPE)、超低密度ポリエチレン(ultra low density polyethylene、ULDPE)、極低密度ポリエチレン(very low density polyethylene、VLDPE)、多成分エチレン系コポリマー(multi-component ethylene-based copolymer、EPE)、エチレン/α-オレフィンマルチブロックコポリマー(オレフィンブロックコポリマー(olefin block copolymer、OBC)としても知られている)、実質的に線状又は線状のプラストマー/エラストマー、及び高密度ポリエチレン(high density polyethylene、HDPE)が挙げられる。一般に、ポリエチレンは、チーグラー・ナッタ触媒などの不均質触媒系、4族遷移金属、及びメタロセン、非メタロセン金属中心、ヘテロアリール、ヘテロバレントアリールオキシエーテル、ホスフィンイミンなどの配位子構造を含む均質触媒系、及びその他を使用して、気相流動床反応器、液相スラリープロセス反応器、又は液相溶液プロセス反応器で生成され得る。不均質触媒及び/又は均質触媒の組み合わせもまた、単一反応器又は二重反応器の構成のいずれかにおいて使用され得る。
【0013】
「エチレンプラストマー/エラストマー」とは、エチレンに由来する単位及び少なくとも1つのC~C10 α-オレフィンコモノマーに由来する単位を含む均質な短鎖分岐分布を含有する、実質的に線状又は線状エチレン/α-オレフィンコポリマーのことである。エチレンプラストマー/エラストマーは、0.870g/cc~0.917g/ccの密度を有する。エチレンプラストマー/エラストマーの非限定的な例としては、AFFINITY(商標)プラストマー及びエラストマー(The Dow Chemical Companyから入手可能)、EXACT(商標)プラストマー(ExxonMobil Chemicalから入手可能)、Tafmer(商標)(Mitsuiから入手可能)、Nexlene(商標)(SK Chemicals Co.から入手可能)、及びLucene(商標)(LG Chem Ltd.から入手可能)が挙げられる。
【0014】
「高密度ポリエチレン」(又は「HDPE」)とは、エチレンホモポリマー、又は少なくとも1つのC~C10 α-オレフィンコモノマー若しくはC~C α-オレフィンコモノマーを含むエチレン/α-オレフィンコポリマーで、0.940g/cc、又は0.945g/cc、又は0.950g/cc、又は0.953g/cc~0.955g/cc、又は0.960g/cc、又は0.965g/cc、又は0.970g/cc、又は0.975g/cc、又は0.980g/ccの密度を有するものでる。HDPEとは、単峰性コポリマー又は多峰性コポリマーのことであり得る。「単峰性エチレンコポリマー」とは、分子量分布を示すゲル浸透クロマトグラフィー(gel permeation chromatography、GPC)において1つの明確なピークを有するエチレン/C~C10 α-オレフィンコポリマーのことである。「多峰性エチレンコポリマー」とは、分子量分布を示すGPCにおいて少なくとも2つの明確なピークを有するエチレン/C~C10 α-オレフィンコポリマーのことである。多峰性としては、2つのピークを有する(二峰性)コポリマー、並びに3つ以上のピークを有するコポリマーが挙げられる。HDPEの非限定的な例としては、DOW(商標)高密度ポリエチレン(HDPE)樹脂(Dow Chemical Companyから入手可能)、ELITE(商標)強化ポリエチレン樹脂(Dow Chemical Companyから入手可能)、CONTINUUM(商標)二峰性ポリエチレン樹脂(Dow Chemical Companyから入手可能)、LUPOLEN(商標)(LyondellBasellから入手可能)、並びにBorealis、Ineos、及びExxonMobilからのHDPE製品が挙げられる。
【0015】
「低密度ポリエチレン」(又は「LDPE」)は、エチレンホモポリマー、又は少なくとも1つのC~C10 α-オレフィンを含むエチレン/α-オレフィンコポリマーからなり、0.915g/cc~0.940g/cc未満の密度を有し、広いMWDを有する長鎖分岐を含有する。LDPEは、典型的には、高圧フリーラジカル重合(フリーラジカル開始剤を用いる管状反応器又はオートクレーブ)によって生成される。LDPEの非限定的な例としては、MarFlex(商標)(Chevron Phillips)、LUPOLEN(商標)(LyondellBasell)、並びにBorealis、Ineos、ExxonMobilなどからのLDPE製品が挙げられる。
【0016】
「線状低密度ポリエチレン」(又は「LLDPE」)とは、エチレンに由来する単位及び少なくとも1つのC~C10 α-オレフィンコモノマーに由来する単位を含む均質な短鎖分岐分布を含有する、線状エチレン/α-オレフィンコポリマーのことである。LLDPEは、従来のLDPEとは対照的に、長鎖分岐があるとしてもわずかであることを特徴とする。LLDPEは、0.910g/cc~0.940g/cc未満の密度を有する。LLDPEの非限定的な例としては、TUFLIN(商標)線状低密度ポリエチレン樹脂(The Dow Chemical Companyから入手可能)、DOWLEX(商標)ポリエチレン樹脂(The Dow Chemical Companyから入手可能)、及びMARLEX(商標)ポリエチレン(Chevron Phillipsから入手可能)が挙げられる。
【0017】
「オレフィン系ポリマー」又は「ポリオレフィン」は、(重合性モノマーの総量に基づいて)50重量パーセントを超える重合オレフィンモノマーを含有するポリマーであり、任意選択的に、少なくとも1つのコモノマーを含み得る。オレフィン系ポリマーの非限定的な例としては、エチレン系ポリマー及びプロピレン系ポリマーが挙げられる。
【0018】
「ポリマー」は、同一のタイプ又は異なるタイプであるかに関わらず、重合形態でポリマーを構成する複数の及び/若しくは繰り返しの「単位」又は「mer単位」を提供するモノマーを重合することによって調製される化合物である。したがって、一般的なポリマーという用語は、ただ1つのタイプのモノマーのみから調製されるポリマーを指すために通常使用されるホモポリマーという用語と、少なくとも2つのタイプのモノマーから調製されるポリマーを指すために通常使用されるコポリマーという用語と、を包含する。それはまた、例えば、ランダム、ブロックなどのすべての形態のコポリマーを包含する。「エチレン/α-オレフィンポリマー」及び「プロピレン/α-オレフィンポリマー」という用語は、それぞれ、エチレン又はプロピレンと、1つ以上の追加の重合性α-オレフィンモノマーとを重合することから調製された上述のコポリマーを示す。ポリマーは、多くの場合、1つ以上の特定のモノマー「で作製され」、特定のモノマー又はモノマータイプに「基づいて」、特定のモノマー含有量を「含有する」などと称されるが、この文脈では、「モノマー」という用語は、特定のモノマーの重合残基を指し、非重合種を指すものではないと理解されることに留意されたい。一般に、本明細書におけるポリマーは、対応するモノマーの重合形態である「単位」に基づくものを指す。
【0019】
「プロピレン系ポリマー」とは、(重合性モノマーの総量に基づいて)50重量パーセントを超える重合プロピレンモノマーを含有するポリマーのことであり、任意選択的に、少なくとも1つのコモノマーを含有し得る。プロピレン系ポリマーには、プロピレンホモポリマー、及びプロピレンコポリマー(プロピレン及び1つ以上のコモノマーに由来する単位を意味する)が含まれる。「プロピレン系ポリマー」及び「ポリプロピレン」という用語は、交換可能に使用され得る。好適なプロピレンコポリマーの非限定的な例としては、プロピレンインパクトコポリマー及びプロピレンランダムコポリマーが挙げられる。
【0020】
「超低密度ポリエチレン」(又は「ULDPE」)、及び「極低密度ポリエチレン」(又は「VLDPE」)とは各々、エチレンに由来する単位及び少なくとも1つのC~C10 α-オレフィンコモノマーに由来する単位を含む均質な短鎖分岐分布を含有する、線状エチレン/α-オレフィンコポリマーのことである。ULDPE及びVLDPEは各々、0.885g/cc~0.915g/ccの密度を有する。ULDPE及びVLDPEの非限定的な例としては、ATTANE(商標)超低密度ポリエチレン樹脂(The Dow Chemical Companyから入手可能)、及びFLEXOMER(商標)極低密度ポリエチレン樹脂(The Dow Chemical Companyから入手可能)が挙げられる。
【0021】
試験方法
酸価(acid value)(又は酸価(acid number))は、ASTM D 1386/7に従って測定される。酸価は、最終組成物中に存在するカルボン酸の量の尺度である。酸価は、物質(例えば、分散剤)1グラム中に存在する遊離カルボン酸の中和に必要な水酸化カリウムのミリグラム数である。酸価の単位は、mg KOH/gである。
【0022】
平均粒子径は、Malvern Zetasize NanoZS光散乱粒子径測定器を使用して測定される場合の体積平均粒子径を指し、結果は、マイクロメートル(又はミクロン)で報告される。
【0023】
密度を、ASTM D792、方法Bに従い測定する。結果を、1立方センチメートル当たりのグラム単位(g/cc)で記録する。
【0024】
示差走査熱量測定(Differential Scanning Calorimetry、DSC)
示差走査熱量測定(DSC)を使用して、広範囲にわたる温度のポリマーの溶融、結晶化、及びガラス転移挙動を測定し得る。例えば、RCS(冷蔵冷却システム)及びオートサンプラを備えたTA Instruments Q1000DSCを使用して、この分析を実行する。試験中、50ml/分の窒素パージガス流量を使用する。各試料を約175℃で薄膜に溶融加圧し、次いで、溶融した試料を室温(約25℃)まで空冷する。3~10mg、直径6mmの試験片を冷却したポリマーから抽出し、秤量し、軽量アルミニウムパン(約50mg)内に置き、圧着して閉じる。次いで、その熱特性を決定するために分析を行う。
【0025】
試料の熱挙動は、試料温度を昇降して熱流対温度のプロファイルを作成することにより決定される。まず、試料を、180℃に急速に加熱し、その熱履歴を除去するために3分間等温に保持する。次に、試料を、10℃/分の冷却速度で-40℃に冷却し、-40℃で3分間等温に保持する。次いで、試料を、10℃/分の加熱速度で180℃に加熱する(これは「第2の加熱」ランプである)。冷却曲線及び第2の加熱曲線を記録する。冷却曲線は、結晶化の開始~-20℃にベースラインエンドポイントを設定することによって分析される。加熱曲線は、-20℃~融解終了にベースラインエンドポイントを設定することによって分析される。決定された値は、外挿溶融開始点Tm、及び外挿結晶化開始点Tcである。(1グラム当たりのジュール単位の)融解熱(H)、及び以下の等式を使用して計算されたポリエチレン試料の結晶化度%:結晶化度%=((H)/292J/g)×100
【0026】
融解熱(H)(融解エンタルピーとしても知られている)及びピーク溶融温度は、第2の加熱曲線から報告される。
【0027】
融点Tmは、まず溶融転移の開始と終了との間にベースラインを引くことによって、DSC加熱曲線から決定される。次いで、接線を、溶融ピークの低温側のデータに引く。この線がベースラインと交差する場所が、外挿溶融開始点(Tm)である。これは、Bernhard Wunderlich,The Basis of Thermal Analysis,in Thermal Characterization of Polymeric Materials 92,277-278(Edith A.Turi ed.,2d ed.1997)に記載されている通りである。
【0028】
ガラス転移温度Tgは、Bernhard Wunderlich,The Basis of Thermal Analysis,in Thermal Characterization of Polymeric Materials 92,278-279(Edith A.Turi ed.,2d ed.1997)に記載されている通り、試料の半分が液体の熱容量を獲得したDSC加熱曲線から決定される。ガラス転移領域の下及び上からベースラインを引き、Tg領域を通して外挿する。試料の熱容量がこれらのベースラインの中間となる温度が、Tgである。
【0029】
ドロップポイントは、ASTM D3954に従って測定される。
【0030】
ガス透過性。セパレータのガス透過性は、ASTM D-726-58に従って、Genuine Gurley(商標)4110自動デンソメータを使用しての試験を使用して測定される。コーティングされたセパレータ試料を、室温~120℃の範囲の異なる温度で30秒間オーブンに入れた。コーティングされたセパレータ試料を、オーブンから取り出し、室温に冷却した。ガス透過性を測定して、多孔質コーティング層が溶融したかどうかを決定した。多孔質コーティング層が溶融しなかった場合、ガス透過性は変化しなかった。多孔質コーティング層が溶融した場合、ガス透過性は変化した。コーティングされたセパレータ試料を、1平方インチの面積を有するチューブテスターヘッドに入れた。100mlの空気を、36.26psiのコーティングされたセパレータの片側から7.25psiの反対側に通過させた。すべての100mlのガス輸送の時間(秒単位)を記録して、セパレータ透過性を評価した。ガス透過性の値が高いほど、ガス透過/浸透の時間が長いことを示す。ガス透過性の値が低いほど、ガス透過/浸透の時間が短いことを示し、これは、コーティングされたセパレータ上の細孔が遮断されていることを示す。
【0031】
ASTM D1238(190℃/2.16kg)を使用してg/10分でのメルトインデックス(MI)(I2)を測定する。
【0032】
ASTM D1238(230℃/2.16kg)を使用してg/10分でのメルトフローレート(melt flow rate、MFR)を測定する。
【0033】
溶融粘度は、Brookfield粘度計モデル、及びBrookfield RV-DV-II-Pro粘度計スピンドル31を使用して、177℃で測定される。試料をチャンバに注入し、次にこれをBrookfield Thermoselに挿入し、所定の位置に固定する。試料チャンバの底部上には、Brookfield Thermoselの底部に適合するノッチがあり、スピンドルを挿入して回転させた場合に、チャンバが回転しないことを確実にする。試料(およそ8~10グラムの樹脂)を、溶融した試料が試料チャンバ上部の約1インチ下になるまで必要な温度まで加熱する。粘度計装置を下降させ、スピンドルを試料チャンバに沈める。粘度計のブラケットがThermosel上に並ぶまで、下降を続けた。粘度計の電源を入れ、粘度計のrpm出力に基づいて、合計トルク容量の40~60パーセントの範囲内のトルク読み取りをもたらす剪断率で動作するように設定する。15分の間、毎分読み取り値を取得するか、又は値が安定するまで読み取り値を取得し、その時点での最終読み取り値を記録する。
【0034】
多孔率をASTM D6583に従って測定する。
詳細な説明
【0035】
本開示は、電気化学セルに関する。一実施形態では、電気化学セルは、セパレータを含む。セパレータは、任意選択的なアノードと任意選択的なカソードとの間に配置される。セパレータは、(A)多孔質基材及び(B)多孔質基材上の多孔質コーティング層を含む。多孔質基材(A)は、130℃を超える融点Tmを有するオレフィン系ポリマーから構成される。多孔質コーティング層(B)は、80℃~110℃の溶融温度を有し、多孔質コーティング層は、複数の微粒子及び任意選択的な結合剤から構成される。微粒子は、0.3マイクロメートル~1.5マイクロメートルの平均粒子径を有する。微粒子は、(i)エチレン系ポリマー、(ii)分散剤、及び(iii)任意選択的な酸官能性ワックスから構成される。エチレン系ポリマーは、(a)0.90g/cc~0.94g/cc未満の密度、(b)90℃~120℃のTm、及び(c)30g/10分~600g/10分のメルトインデックスを有する。分散剤は、C14~C40脂肪族脂肪酸から構成される。
【0036】
A.多孔質基材
セパレータは、(A)多孔質基材(「ブランクセパレータ」と互換的に称される)を含む。多孔質基材は、130℃を超える、又は130℃超~160℃の融点Tmを有するオレフィン系ポリマーから構成される。オレフィン系ポリマーは、例えば、リチウムイオンなどのイオン種が、多孔質基材を通して拡散、浸透、又はさもなければ蒸散することを可能にする多孔率を定義する空隙又は細孔を有する。オレフィン系ポリマーの細孔径は、1~100マイクロメートル、又は1マイクロメートル~50マイクロメートル、又は1マイクロメートル~25マイクロメートル、又は1マイクロメートル~10マイクロメートルである。オレフィン系ポリマーは、30%、又は40%~50%、又は60%の多孔率を有する。多孔質基材は、0.1ミル、又は0.2ミル、0.5ミル、又は1.0ミル、又は1.5ミル~2.0ミル、又は2.5ミル、又は3.0ミルの厚さを有する。多孔質基材は、それを通るイオン輸送を可能にする。好適なオレフィン系ポリマーの非限定的な例としては、130℃を超えるTmを有するプロピレン系ポリマー、及び130℃を超えるTmを有するHDPEが挙げられる。
【0037】
本発明における使用に好適な市販の微多孔質フィルムの非限定的な例としては、例えば、約41%の空隙容積を有する1ミル厚さのCELGARD(登録商標)2325ポリエチレンフィルム、約35%の空隙容積を有する1ミル厚さのCELGARD(登録商標)2400ポリエチレンフィルム、約45%の空隙容積を有する1ミル厚さのCELGARD(登録商標)2500ポリエチレンフィルムが挙げられ、各々は、Celanese Corporationから入手可能である。本発明に従って利用され得る他の市販の多孔質材料としては、Asahi Kasei Corporation(Tokyo、Japan)から入手可能なHIPORE(商標)ポリオレフィンフラットフィルム膜が挙げられ、例えば、約37%の空隙容積を有する1ミル厚さのHIPORE(商標)720微多孔質高密度ポリエチレン、約41%の空隙容積を有する0.64ミル厚さのHIPORE(商標)8416微多孔質高密度ポリエチレン、約41%の空隙容積を有する1ミル厚さのHIPORE(商標)9420微多孔質高密度ポリエチレン、約50%の空隙容積を有する1ミル厚さのHIPORE(商標)6022微多孔質高密度ポリエチレンが挙げられる。
【0038】
B.多孔質コーティング層
セパレータは、多孔質コーティング層(B)を含む。多孔質コーティング層は、多孔質基材に直接接触する。本明細書で使用される「直接接触する」という用語は、第1の層が、第2の層のすぐ隣に位置し、第1の層と第2の層との間に介在層又は介在構造が存在しない層構成を指す。多孔質基材は、反対側の表面層を有する。多孔質コーティング層は、多孔質基材の一方又は両方の表面層に直接接触する。一実施形態では、多孔質コーティング層は、多孔質基材の一方(又は両方)の表面層に直接接触し、同一の広がりを有する。
【0039】
多孔質コーティング層は、複数の微粒子及び任意選択的な結合剤から構成される。微粒子は、エチレン系ポリマー、(ii)分散剤、及び(iii)任意選択的に酸官能性ワックスから構成される。多孔質コーティング層は、多孔質セパレータの表面層と同一の広がり又は実質的に同一の広がりを有する。しかしながら、微粒子は、合体して連続フィルムを形成しておらず、それによって、コーティング層に多孔性が付与されている。微粒子の非合体に起因して、多孔質コーティング層に微細孔が存在する。コーティング層に多孔性を引き起こす非合体微粒子は、例えば、リチウムイオンなどのイオン種が、多孔質コーティング層を通して拡散、浸透、又はさもなければ蒸散することを可能にする。
【0040】
多孔質コーティング層が、80℃、又は80℃超、又は80℃~110℃の温度に曝露される場合(例えば、電気化学セルにおける熱暴走の結果として)、エチレン系ポリマー微粒子は、軟化し始め、かつ/又は溶融し始めるか、又はさもなければ合体する。軟化し、溶融して、微粒子が合体すると、微粒子は、多孔質基材上に連続的又は実質的に連続的な、同一の広がりを有するコーティングを形成する。したがって、溶融及び/又は微粒子が合体すると、多孔質コーティング層は、多孔質層から非多孔質コーティング層に変換する。このようにして、多孔質コーティング層は、80℃~110℃の溶融温度を有する。DSC融点Tmは、多孔質コーティング層の溶融温度とは異なることが理解される。多孔質コーティング層は、溶融及び/又は微粒子が合体すると、効果的に多孔質コーティング層を実質的にイオン不透過性とし、それによって、任意の更なる電気化学反応を防止又は抑制するのに十分な量の微粒子/ポリマー材料を提供する厚さを有する。このようにして、多孔質コーティング層の非多孔質及び連続コーティング層への変換は、電気化学セルにおける熱暴走を中止するか、又はさもなければ防止する。
【0041】
一実施形態では、多孔質コーティング層は、1マイクロメートル~10マイクロメートル、又は1マイクロメートル~5マイクロメートルの厚さを有する。
【0042】
一実施形態では、多孔質コーティング層は、1ミル~10ミル、1ミル~5ミルの厚さを有する。
【0043】
i.微粒子
多孔質コーティング層は、微粒子から構成される。微粒子は、(i)エチレン系ポリマー、(ii)分散剤、及び(iii)任意選択的に酸官能性ワックスから構成される。エチレン系ポリマーは、0.90g/cc~0.94g/cc未満の密度、及び30g/10分~600g/10分のメルトインデックス(MI)を有するエチレンホモポリマー又はエチレン/α-オレフィンコポリマーである。好適なエチレン系ポリマーの非限定的な例としては、LDPE、LLDPE、ULDPE、VLDPE、EPE、実質的に線状、又は線状のプラストマー/エラストマー、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0044】
一実施形態では、微粒子は、LDPEホモポリマーであるエチレン系ポリマーから構成される。LDPEプロピレンホモポリマーは、以下の特性:
(i)0.910g/cc~0.930g/cc、若しくは0.915g/cc~0.925g/ccの密度、及び/又は
(ii)40g/10分~70g/10分、若しくは50g/10分~60のMI、及び/又は
(iii)105℃~115℃、若しくは107℃~113℃のTmのうちの1つ、いくつか、又はすべてを有し、
LDPEホモポリマー(及び分散剤、及び任意選択的な酸官能性ワックス)から構成された微粒子は、以下の特性:
(iv)0.910g/cc~0.930g/cc、若しくは0.915g/cc~0.925g/ccの密度、及び/又は
(v)40g/10分~70g/10分、若しくは50g/10分~60のMI、及び/又は
(vi)80℃~110℃、若しくは90℃~110℃の溶融温度、及び/又は
(vii)0.3~1.5マイクロメートル、若しくは0.5マイクロメートル~1.4マイクロメートルの平均粒子径のうちの1つ、いくつか、又はすべてを有する。
【0045】
一実施形態では、エチレン系ポリマーは、エチレン/C~C α-オレフィンコモノマーであるエチレン/α-オレフィンコポリマーである。エチレン/C~C α-オレフィンコモノマーは、重合形態のエチレン、及び1つの共重合性C~C α-オレフィンコモノマーから構成されるか、又はさもなければそれらからなるエチレン/C~C α-オレフィンコポリマーである。C~C α-オレフィンは、プロピレン、ブテン、ヘキセン、及びオクテンから選択される。
【0046】
一実施形態では、エチレン/α-オレフィンコポリマーは、エチレン/プロピレンコポリマーである。
【0047】
一実施形態では、エチレン/α-オレフィンコポリマーは、エチレン/C~C α-オレフィンコポリマーである。エチレン/C~C α-オレフィンコモノマーは、重合形態のエチレン、及び1つの共重合性C~C α-オレフィンコモノマーから構成されるか、又はさもなければそれらからなるエチレン/C~C α-オレフィンコポリマーである。C~C α-オレフィンコモノマーは、ブテン、ヘキセン、及びオクテンから選択される。エチレン/C~C α-オレフィンコモノマーは、エチレン/ブテンコポリマー、エチレン/ヘキセンコポリマー、又はエチレン/オクテンコポリマーである。
【0048】
一実施形態では、微粒子は、エチレン/C~C α-オレフィンコポリマーである、エチレン/α-オレフィンコポリマーから構成される。
【0049】
一実施形態では、微粒子は、エチレン/C~C α-オレフィンコポリマー(及び分散剤、及び任意選択的な酸官能性ワックス)である、エチレン系ポリマーから構成される。エチレン/C~C α-オレフィンコポリマーは、以下の特性:
(i)0.900g/cc~0.935g/cc、若しくは0.900g/cc~0.910g/cc、若しくは0.925g/cc~0.935g/ccの密度、及び/又は
(ii)30g/10分~600g/10分、若しくは30g/10分~40g/10分、若しくは400g/10分~600g/10分のMI、及び/又は
(iii)90℃~120℃、若しくは93℃~98℃、若しくは113℃~118℃のTmのうちの1つ、いくつか、又はすべてを有し、
エチレン/C~C α-オレフィンコポリマーから構成された微粒子は、以下の特性:
(iv)0.900g/cc~0.935g/cc、若しくは0.900g/cc~0.910g/cc、若しくは0.925g/cc~0.935g/ccの密度、及び/又は
(v)30g/10分~600g/10分、若しくは30g/10分~40g/10分、若しくは400g/10分~600g/10分のMI、及び/又は
(vi)80℃~110℃、若しくは90℃~110℃の溶融温度、及び/又は
(vii)0.3~1.5マイクロメートル、若しくは0.5マイクロメートル~1.4マイクロメートルの平均粒子径のうちの1つ、いくつか、又はすべてを有する。
【0050】
微粒子はまた、(ii)分散剤、及び(iii)任意選択的な酸官能化ワックスも含む。微粒子は、安定した水性配合処方によって形成される。安定した水性配合処方は、微粒子(エチレン系ポリマー、分散剤、任意選択的な酸官能性ワックス)、及び(iv)任意選択的な結合剤(レオロジー調整剤及び湿潤剤を含む)、及び水から構成され、多孔質基材に塗布される。多孔質基材に塗布されると、安定した水性配合処方は、乾燥されて、多孔質コーティング層を形成する。「安定した水性配合処方」とは、本明細書で使用される場合、固体粒子が連続水相中に均一に懸濁しているエマルジョンである。配合処方の固体粒子は、固形分を有する。「固形分」とは、(i)微粒子と任意選択的な結合剤との合計重量である。
【0051】
一実施形態では、多孔質基材に塗布される安定した水性配合処方は、固形分の総重量に基づいて、(i)50重量%、又は60重量%、又は70重量%~90重量%、又は95重量%の微粒子と、(ii)1重量%、又は2重量%、又は5重量%~15重量%、又は20重量%、又は40重量%の分散剤と、(iii)0重量%、又は1重量%、又は5重量%~15重量%、又は20重量%の酸官能化ワックスと、(iv)0重量%、又は0.05重量%~2重量%、又は5重量%の結合剤と、を含有する。
【0052】
分散剤は、安定した水性配合処方中に固体のコロイド安定性を提供する。分散剤は、14~40個の炭素原子又は16~36個の炭素原子を有する長鎖脂肪酸である。分散剤に好適な長鎖脂肪酸の非限定的な例としては、Unicid(商標)350分散剤ベヘン(C22)酸が挙げられる。
【0053】
微粒子は、任意選択的に、酸官能化ワックスを含む。酸官能化ワックスが微粒子中に存在する場合、好適な酸官能化ワックスの非限定的な例としては、酸官能性変性ポリオレフィンワックス、無水マレイン酸ポリオレフィンコポリマー、ワックス、及び無水マレイン酸変性ポリエチレンワックスが挙げられる。微粒子が作製されるエチレン系ポリマーは、ワックスではなく、酸官能化ワックスでもないことが理解される。
【0054】
一実施形態では、酸官能化ワックスは、微粒子中に存在し、酸官能化ワックスは、無水マレイン酸変性ポリエチレンワックスである。
【0055】
多孔質コーティング層は、任意選択的に結合剤を含む。結合剤は、微粒子と多孔質セパレータの表面との間の接着性を提供する。結合剤が多孔質コーティング層(及び安定した水性配合処方中に存在する結合剤)中に存在する場合、好適な結合剤の非限定的な例としては、例えば、スチレン/ブテンゴム(styrene/butene rubber、SBR)ラテックス、及び例えばブチルアクリレートエマルジョンなどのアクリルエマルジョンが挙げられる。
【0056】
一実施形態では、結合剤は、多孔質コーティング層中に存在し、結合剤は、スチレン/ブテンゴムである。結合剤はまた、湿潤剤及びレオロジー調整剤も含む。
【0057】
C.電気化学セル
電気化学セルは、任意選択的なアノードと任意選択的なカソードとの間に配置されたセパレータを含む。セパレータは、(上に開示されているような)多孔質基材、及び(上に開示されているような)多孔質基材上の多孔質コーティング層から構成される。
【0058】
図1は、セパレータ12を有し、アノード14が存在し、カソード16が存在する、電気化学セル10を示す。セパレータ12は、アノード14とカソード16との間に配置されるか、さもなければその間に延在する。セパレータ12は、多孔質基材18及び多孔質コーティング層20を含む。多孔質基材18は、上に開示されているような任意の多孔質基材であり得、多孔質基材18は、オレフィン系ポリマーから構成され、オレフィン系ポリマーは、130℃を超えるTmを有する。
【0059】
セパレータ12はまた、多孔質コーティング層20も含む。図1に示されるように、多孔質コーティング層20は、多孔質基材18の表面と同一の広がりを有し、それに直接接触する。多孔質コーティング層20は、(i)複数の微粒子(エチレン系ポリマー、分散剤、本明細書で先に開示されているような任意選択的な酸官能性ワックス)、及び(iv)任意選択的な結合剤(本明細書で先に開示されているような)から構成され、以下「多孔質コーティング材料」と称される。多孔質コーティング材料は、微粒子のサイズ及び形状(及び存在する場合、結合剤の形状)をとる。微粒子及び結合剤は、本明細書で先に開示されているような任意の微粒子及び結合剤であり得る。微粒子は、エチレン系ポリマーから構成され、本明細書で先に開示されているように、エチレン系ポリマーは、(i)0.90g/cc~0.94g/cc未満の密度、(ii)90℃~120℃のTm、(iii)30g/10分~600g/10分のメルトインデックスを有し、(iv)微粒子は、0.5マイクロメートル~1.5マイクロメートルの平均粒子径を有する。
【0060】
多孔質コーティング材料22は、図1に示されるように、多孔質基材18上に不連続な層を形成し、多孔質コーティング層20の「多孔性」を引き起こす。電気化学セル10は、電解質を含み、それによって、図1のフロー矢印Aによって示されるように、カソード16からセパレータ12を通りアノード14へのイオン流を可能にするか、又はさもなければ、イオン輸送を可能にする。
【0061】
電気化学セル10の他の非限定的な構成要素(図示せず)としては、充電/放電電気化学セル10の負端子、正端子が挙げられる。
【0062】
図1における矢印Bは、電気化学セル10における急速な温度上昇の開始又は「熱暴走」を示す。温度の急速な上昇は、内部短絡、外部短絡、電気化学セルの過充電、電気化学セルの充電又は放電時の過剰電流、電気化学セル内の材料欠陥、及びそれらの任意の組み合わせの結果であり得る。熱暴走の場合、温度は、周囲温度から80℃又は80℃超までミリ秒以内に急速に上昇し得る。
【0063】
熱暴走の開始時に、温度上昇が80℃に達するか、又はそれを超える場合、多孔質コーティング材料22は合体するか、さもなければ溶融して、図2に示されるように、多孔質基板18の一部分に沿って、コーティング材料の連続層24を形成する。セパレータ18が80℃以上の温度に曝露される場合、多孔質コーティング層22は合体し、多孔質基材上に非多孔質コーティング層24を形成する。特定の理論に束縛されないが、多孔質コーティング層の微粒子中のエチレン系ポリマーは、80℃~110℃、又は81℃~110℃、又は90℃~110℃、又は90℃~100℃の温度で軟化し始め、溶融し始めると考えられる。この温度範囲では、軟化し溶融するエチレン系ポリマー微粒子は合体して、微粒子中のエチレン系ポリマーが完全に溶融し得ない場合であっても、多孔質基材を通る流れを遮断する。言い換えれば、エチレン系ポリマーは、軟化し溶融し始め、微粒子は、セパレータの温度(及び/又は多孔質コーティング層の温度)がエチレン系ポリマーのTmに達する前に合体する。
【0064】
連続層24は、非多孔質である。連続層24はまた、多孔質基材18内の細孔を充填するか、又はさもなければ塞ぐ。図2は、多孔質コーティング層20の一部が(非多孔質で連続的な層24として)合体していることを示しているが、深刻な熱暴走の場合、多孔質層20全体が多孔質基板18の表面と同一の広がりを有する、又は実質的に同一の広がりを有する連続的な非多孔質層に合体し得ることが理解される。
【0065】
連続層24(多孔質コーティング材料22から構成された)の形成は、イオン輸送を遮断し、それによって、図2における表示「X」によって示されるような熱暴走が突然停止する。このようにして、本セパレータ12は、電気化学セル10のための熱シャットダウン安全デバイスである。
【0066】
一実施形態では、電気化学セル10は、リチウムイオン電池である。
【0067】
限定ではなく例として、ここで、本開示のいくつかの実施形態を、以下の実施例で詳細に説明する。
【実施例
【0068】
実施例において使用される材料を、下記表1に提供する。
【0069】
【表1】
【0070】
1.分散物調製プロセス
水性分散物試料を、Dow Inc.の機械的分散技術を使用して調製した。エチレン系ポリマー樹脂及び分散剤を、約2MPaの背圧で特別に設計された二軸スクリュー押出機(twin-screw extruder、TSE)に充填した。エチレン系ポリマー樹脂、分散剤、及び酸官能性ワックス(存在する場合)を溶融し、ブレンドし、続いて、150℃の温度及び600rpmのスクリュー回転で、KOH溶液及び少量の初期水をTSE中に注入した。このプロセス中に高内相エマルジョン(high internal phase emulsion、HIPE)を形成し、次いで、背圧バルブの前に40~60重量%に希釈した。エマルジョンを100℃未満に冷却した後、生産物を、エチレン系ポリマー樹脂から構成された微粒子の分散物を収集するための容器に移した。プロセス条件及び成分を以下の表2に示す。
【0071】
2.多孔質コーティング層の調製
その後、微粒子の安定した水性分散物を、SBRバインダ及び他の添加剤と共に配合して、液体コーティング材料を形成した。液体コーティング材料を、HKC-1ロッドバーを備えた自動フィルムアプリケータ、TQC-020(Sheen Company)を使用して、HDPE多孔質基材(「HDPEブランクセパレータ」)上に塗布した。コーティングされたHDPE多孔質基材を、60℃のオーブンに移し、5分間の乾燥時間を設けた。
【0072】
各分散物コーティング配合処方(dispersion coating formulation、DCF)、IE1~IE5を、10~15g/mのロッドバーを使用して、それぞれの個別のかつ別個の多孔質基材(ブランクセパレータ)上にコーティングし、乾燥させて、(i)多孔質基材及び(ii)多孔質コーティング層(1mmの厚さを有する多孔質コーティング層)から構成されたセパレータを形成した。
【0073】
各セパレータ((i)多孔質基材及び(ii)多孔質コーティング層から構成された)を、SEMによって特徴付けた。図3は、以下の多孔質コーティング層の表面SEM画像を示す:3(a)IE1 959S-Unicid微粒子、3(b)IE2 8420-ベヘン酸微粒子、及び3(c)IE3 8402-Unicid微粒子。
【0074】
表2(以下)は、IE1~IE5の各々における微粒子の平均粒子径を提供する。図3(a)、図3(b)、及び図3(c)のSEMにより示されるように、各多孔質コーティング層は、球状形状を有する(多孔質コーティング材料の)微粒子から構成され、IE1 959S-Unicid微粒子は、IE2及びIE3の微粒子よりも大きい。IE1~IE5の微粒子材料は、HDPEセパレータに結合するための結合剤であるSBRラテックスと、多孔質基材上に均一なコーティングを塗布するための湿潤剤と、分散物中で配合処方を安定化させるためのレオロジー調整剤と、を含む。多孔質基材上に薄い多孔質コーティング層を印刷するために、液体コーティングは、液体コーティング材料の総重量に基づいて16.6重量%の固形分を含有する。液体コーティング材料の固形分は、エチレン系ポリマー、分散剤、結合剤、湿潤剤、レオロジー調整剤、及び水を含む。
【0075】
【表2】
分散物の総重量に基づく重量パーセント
【0076】
3.溶媒抵抗性試験
リチウムイオン電池用途の場合、セパレータ((i)多孔質基材及び(ii)多孔質コーティング層から構成された)は、電解質中で安定である必要があり、さもなければ電池性能が低下する。電解質溶媒抵抗性をIE1~IE5について評価した。IE1~IE5の各々のDCFをペトリ皿に鋳造し、室温で乾燥させ、次いで、温度90℃で乾燥させて、1mmの厚さを有する多孔質コーティング層の乾燥固体フィルム(多孔質基材なし)を形成する。各フィルムをダンベル形状に切断し、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、及びエチルメチルカーボネートの重量比1:1:1の電解質溶媒の混合物を含有するガラス製バイアル中に浸した。ガラス製バイアルをオーブン内で50℃に2日間加熱し、次いで、多孔質コーティング層試料のフィルムを取り出し、拭き取って重量を得た。IE1~IE5フィルムの重量変化結果を以下の表3に列挙する。多孔質コーティング層試料のフィルムは、電解質中で安定であることが既に証明されているエチレン系ポリマー及びSBRから作製され、各IE1~IE5試料は、電解質溶媒を1重量%未満しか吸収していなかった。この結果は、多孔質コーティング層の材料が電解質溶媒に耐性があったことを立証する。
【0077】
【表3】
【0078】
4.熱応答特性
IE1~IE5の各々についてのDCFを、10~15g/mのロッドバーを使用して、別個で個別のHDPEセパレータブランク上にコーティングした。コーティングされたセパレータブランクをオーブンに入れて、60℃で5分間乾燥させて、(i)多孔質HDPE基材及び(ii)IE1~IE5の微粒子材料を含む多孔質コーティング層から構成されたセパレータIE1~IE5を形成した(以下、「セパレータIE1~IE5」)。各セパレータIE1~IE5を異なる温度で加熱して、多孔質コーティング層のガス透過性能及び細孔閉鎖の影響を評価した。セパレータを横切るガス輸送の時間が長いほど、セパレータのガス透過性が低い。
【0079】
図4は、異なる温度でのセパレータIE1~IE5のガス透過性を示す。
【0080】
コーティングされたセパレータIE1~IE5のガス透過性を、上に開示されているガス透過性試験に従って、室温~120℃の温度範囲で評価した。ベースラインHDPEセパレータブランクは、温度が室温から120℃に上昇するにつれて有意に変化しなかったガス透過性を示した。異なる温度でコーティングされたセパレータ試料を試験した後、ガス透過性-温度をプロットして、熱応答性温度を特定した。
【0081】
セパレータIE1(959S-Unicidを含む微粒子材料)のガス透過性は、約110℃で急激に低下し、IE1が110℃で溶融及び/又は軟化することを示す。
【0082】
セパレータIE2のガス透過性は、90℃から100℃で急激に低下し、IE2が90℃、又は90℃~100℃で溶融及び/又は軟化することを示す。
【0083】
IE3のガス透過性は、80℃~90℃で急激に低下し、IE3が80℃、又は80℃~90℃で溶融及び/又は軟化することを示す。
【0084】
セパレータIE4~IE5のガス透過性は、100℃~110℃の温度で急激に低下し、IE4~IE5が100℃、又は100℃~110℃で溶融及び/又は軟化することを示す。
【0085】
これらのガス透過性の結果は、IE1~5の多孔質コーティング層材料が、80℃~110℃、又は81℃~110℃の温度で、及び特に90℃~110℃、又は90℃~100℃の温度で、多孔質基材の細孔を溶融及び封止することを実証する。ガス透過性試験は、IE1~5の多孔質コーティング材料のうちのいずれかから構成された多孔質コーティング層の細孔閉鎖の影響を実証する。特定の理論に束縛されないが、多孔質コーティング層の微粒子中のエチレン系ポリマーが、80℃~110℃、又は81℃~110℃、又は90℃~110℃の温度で軟化し始めかつ溶融し始めると考えられ、この温度範囲では、軟化し溶融するエチレン系ポリマー微粒子は合体して、微粒子中のエチレン系ポリマーが完全に溶融し得ない場合であっても、多孔質基材を通る流れを遮断する。ガス透過性結果は、IE1~5のうちのいずれかから構成された多孔質コーティング層が、電気化学セルにおける熱暴走を防止するために効果的なシャットダウンセパレータとして機能することを実証する。
【0086】
本開示は、本明細書に含まれる実施形態及び例示に限定されず、実施形態の一部、及び異なる実施形態の要素の組み合わせを含むそれらの実施形態の変更された形態を、以下の特許請求の範囲に該当する範囲で含むことが特に意図されている。
(態様)
(態様1)
任意選択的なアノードと任意選択的なカソードとの間に配置されたセパレータを含む電気化学セルであって、
前記セパレータが、
(A)130℃を超える融点Tmを有するオレフィン系ポリマーから構成された多孔質基材と、
(B)前記基材上の多孔質コーティング層であって、80℃~110℃の溶融温度を有し、複数の微粒子及び任意選択的な結合剤を含む、多孔質コーティング層と、を含み、前記微粒子が、0.3マイクロメートル~1.5マイクロメートルの平均粒子径を有し、前記微粒子が、
(i)エチレン系ポリマーであって、
(a)0.90g/cc~0.94g/cc未満の密度と、
(b)90℃~120℃のTmと、
(c)30g/10分~600g/10分のメルトインデックスと、を有する、エチレン系ポリマー、
(ii)C14~C40脂肪族脂肪酸から構成された分散剤、及び
(iii)任意選択的な酸官能性ワックスから構成される、電気化学セル。
(態様2)
前記多孔質基材が、高密度ポリエチレンから構成される、態様1に記載の電気化学セル。
(態様3)
前記複数の微粒子が、
(a)0.910g/cc~0.930g/ccの密度と、
(b)105℃~115℃のTmと、
(c)40g/10分~70g/10分のメルトインデックスと、を有する低密度ポリエチレンから構成され、
(d)前記微粒子が、0.5マイクロメートル~1.4マイクロメートルの平均粒子径を有する、態様1又は2に記載の電気化学セル。
(態様4)
前記複数の微粒子が、
(a)0.900g/cc~0.935g/cc未満の密度と、
(b)30g/10分~600g/10分のメルトインデックスと、
(c)90℃~120℃のTmと、を有するエチレン/C4~C8 α-オレフィンコポリマーから構成され、
(d)前記微粒子が、0.5マイクロメートル~1.4マイクロメートルの平均粒子径を有する、態様1又は2に記載の電気化学セル。
(態様5)
前記微粒子が、前記エチレン系ポリマー、前記分散剤、及び前記酸官能性ワックスを含む、態様1~4のいずれか一項に記載の電気化学セル。
(態様6)
前記酸官能性ワックスが、無水マレイン酸変性ポリエチレンワックスである、態様5に記載の電気化学セル。
(態様7)
前記多孔質コーティング層が、前記結合剤を含む、態様6に記載の電気化学セル。
(態様8)
前記結合剤が、スチレン/ブテンゴムである、態様7に記載の電気化学セル。
(態様9)
前記多孔質コーティング層が、1ミル~10ミルの厚さを有する、態様1~8のいずれか一項に記載の電気化学セル。
(態様10)
前記任意選択的なアノード及び前記任意選択的なカソードのうちの少なくとも1つが、前記電気化学セル内に存在する、態様1~9のいずれか一項に記載の電気化学セル。
(態様11)
前記セパレータが80℃以上の温度に曝露される場合、前記多孔質コーティング層が合体して、前記多孔質基材上に非多孔質コーティング層を形成する、態様1~10のいずれか一項に記載の電気化学セル。
図1
図2
図3a
図3b
図3c
図4