(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】吸引デバイス
(51)【国際特許分類】
A61B 17/94 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
A61B17/94
(21)【出願番号】P 2023058442
(22)【出願日】2023-03-31
【審査請求日】2023-08-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構による医療機器製造販売届出に係る添付文書の公開(公開日は令和4年11月12日(資料1)) 〔刊行物等〕 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構による医療機器製造販売届出に係る添付文書の公開(公開日は令和4年12月5日(資料2)) 〔刊行物等〕 第35回日本内視鏡外科学会総会(令和4年12月8日~12月10日にポートメッセなごやにて開催)における展示(資料3) 〔刊行物等〕 製品評価試験のための大阪大学への貸出(貸出日は2022年10月23日(資料4)) 〔刊行物等〕 製品評価試験のためのJR札幌病院への貸出(貸出日は2023年2月21日(資料5)) 〔刊行物等〕 製品評価試験のための群馬大学への貸出(貸出日は2023年3月8日(資料6))
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】523121093
【氏名又は名称】岡本 哲
(73)【特許権者】
【識別番号】399032031
【氏名又は名称】森元 孝
(73)【特許権者】
【識別番号】523121107
【氏名又は名称】齋藤 将崇
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【氏名又は名称】井上 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100179729
【氏名又は名称】金井 一美
(72)【発明者】
【氏名】岡本 哲
(72)【発明者】
【氏名】森元 孝
【審査官】菊地 康彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-341066(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/00-17/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
手術において、少なくとも、発生する不要物を体外へ吸引する吸引デバイスであって、
先端と、基端と、第1の内空を有し、手術器具を挿通可能な管体と、
前記第1の内空と連通する第2の内空を有し、前記基端に取り付けられる環状体と、
前記第1及び第2の内空と連通する第3の内空を有するロック部と、
前記環状体に設けられ、前記第2の内空に開口して前記第1及び第2の内空から、少なくとも前記不要物を吸引する管路を備え、
前記ロック部は、前記環状体の近位端に取り付けられる環状の支持部材と、前記第3の内空を有し、前記支持部材の内部に挿入されてこの支持部材に支持される留め部材を備え、
前記支持部材は、その内周面の遠位端に、この内周面の直径を縮小するように突出する突出リングが形成されるとともに、前記内周面の近位端にめねじ部が刻設され、
前記留め部材は、
その外周面に前記めねじ部に螺合するおねじ部が刻設されるとともに、前記留め部材の遠位端に、前記手術器具の表面と、前記環状体との間隙に差し込み可能な差込部が形成され、
前記留め部材が、前記支持部材の長手方向に沿って進退移動することで、
前記差込部が、前記第1乃至第3の内空に挿通された前記手術器具の
前記表面を圧接又は圧接解除するとともに、
前記間隙を閉止又は閉止解除することを特徴とする吸引デバイス。
【請求項2】
前記環状体は、前記近位端において、その径方向の外方へ突出するフランジが突設され、
前記支持部材は、その外周面の遠位端に、前記フランジを嵌合する空間を有する嵌合部が形成され、
前記フランジの外端面と、前記嵌合部の前記空間を構成する内面のうち、前記外端面に対向する対向面との間に、離隔距離が設けられることを特徴とする請求項
1に記載の吸引デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手術において発生するスモークやミストの吸引や、手術の対象箇所への送液や送気に用いられる吸引デバイスに係り、特に、スモークやミスト等が発生した直後に、このスモークやミスト等を素早く吸引できる吸引デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、開腹手術や開胸手術とともに、体内にカメラを挿入してその画像を見ながら対象箇所の切除を行うといった鏡視下手術が実施されている。対象箇所の切除は、例えば、高エネルギーデバイスを用いてこの対象箇所を焼灼することによる。
しかし、このような処置を行うと、対象箇所、脂肪、体液等からスモークやミストが発生するため、観察可能な術野が阻害されるという課題があった。
この課題を解決するため、近年、発生したスモーク等を吸引して体外へ排出することができる技術が開発されており、それに関して既にいくつかの発明が開示されている。
【0003】
特許文献1には「循環排煙システム」という名称で、シースを用いて気体を送吸気する循環排煙システムに関する発明が開示されている。
特許文献1に開示された発明は、被検体内で発生した煙を被検体内の気体とともに吸引し循環排煙する循環排煙部と、一端が被検体の腹壁に刺入され基端側に逆止弁がそれぞれ設けられた第1及び第2のトラカールと、第1のトラカールに挿通される内視鏡に装着され気体を送気する第1のシース、及び/又は、第2のトラカールに挿通される処置具に装着され気体を吸引する第2のシースと、第1のシース、及び/又は、第2のシースが、第1のトラカール、及び/又は、第2のトラカールに挿入されているか否かを検知する検知部と、検知部の検知結果に基づき、循環排煙部の動作を制御する制御部と、を有することを特徴とする。
このような構成の発明においては、循環排煙部が、第2のシースを介して被検体内で発生した煙を吸引し循環排煙する。そして、第2のシースは、第2のトラカールに挿通される処置具に装着されている。具体的には、第2のシースは、処置具である電気メスと機械的に一体化している。
そのため、電気メスで患部を焼灼する時、この電気メスを動かしても第2のシースは常に電気メス先端近傍に配置されるため、効率良く排煙することができる。
【0004】
次に、特許文献2には「内視鏡装置及び内視鏡システム」という名称で、内視鏡の先端面の観察窓の位置と、吸引管路の吸入口の位置とを一定とする内視鏡装置等に関する発明が開示されている。
特許文献2に開示された発明は、先端部を有する内視鏡差込部と、少なくとも内視鏡差込部の先端部の外周を覆い先端部に保持される先端被覆部(オーバーチューブ)と、先端被覆部に開口が設けられ、吸引装置に接続される第1の管路と、先端被覆部が内視鏡差込部の先端部に保持されたときに、内視鏡差込部の長軸を中心とする回転方向における第1の管路の開口の位置を規定する位置決め部と、を有し、内視鏡差込部は、その基端側と先端側とを連通し、被検体内に処置具を挿通させる第2の管路(処置具チャンネル)を有し、位置決め部は、内視鏡差込部の先端部に対する第1の管路の開口の位置を位置決めすることを特徴とする。
このような構成の発明において、第1の管路の開口は、具体的には、位置決め部により、第2の管路の先端開口から一定距離離れた位置に配置されている。よって、第2の管路に挿入された処置具(例えば、電気メス)によって発生する霧状の液滴等は、直ちに第1の管路によって吸引される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-80170号公報
【文献】特許第6165387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された発明においては、第2のシースは、処置具である電気メスと機械的に一体化しているため、電気メス以外の処置具を使用する場合や、処置具を使用しない場合に用いることができず、汎用性に欠けるおそれがある。
【0007】
また、特許文献2に開示された発明においては、第1の管路の開口と、第2の管路に挿入された処置具との位置関係は一定である。そのため、治療中に、内視鏡の中心軸を中心として処置具を回動させる操作をすると、第1の管路が接続される吸引チューブも同様に回動することになる。よって、上記の回動操作に伴う吸引チューブの取り回しをすることが必要になり、操作性が不良になるおそれがある。
また、先端被覆部には、第1の管路や位置決め部が形成される複雑な構成であるため、製造コストが嵩むおそれもある。
【0008】
本発明は、このような従来の事情に対処してなされたものであり、手術において発生するスモーク等を素早く吸引できることに加え、良好な操作性や汎用性を発揮する吸引デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、第1の発明は、手術において、少なくとも、発生する不要物を体外へ吸引する吸引デバイスであって、先端と、基端と、第1の内空を有し、手術器具を挿通可能な管体と、第1の内空と連通する第2の内空を有し、基端に取り付けられる環状体と、第1及び第2の内空と連通する第3の内空を有するロック部と、環状体に設けられ、第2の内空に開口して第1及び第2の内空から、少なくとも不要物を吸引する管路を備え、ロック部は、環状体の近位端に取り付けられる環状の支持部材と、第3の内空を有し、支持部材の内部に挿入されてこの支持部材に支持される留め部材を備え、留め部材は、支持部材の長手方向に沿って進退移動することで、第1乃至第3の内空に挿通された手術器具の表面を圧接又は圧接解除するとともに、この表面と、環状体との間隙を閉止又は閉止解除することを特徴とする。
【0010】
このような構成の発明において、「少なくとも、発生する不要物を吸引する」とは、吸引デバイスが、不要物を体外へ排出するほかにも、手術の対象箇所等、体内への送液や送気をする用途を有していることをいう。
また、手術器具として、例えば、長尺の焼灼装置や、同じく長尺の鉗子等が想定されている。吸引デバイスは、これらの手術器具を、管体の第1の内空と、環状体の第2の内空と、ロック部の第3の内空を貫通させることで保持する。詳細には、吸引デバイスは、この吸引デバイスに対する手術器具の位置を調整して保持することができる。
【0011】
さらに、ロック部を構成する支持部材として、例えば、その内部が、環状体寄りになるほど内径が減少するテーパー型をなしている構成が考えられる。この場合、留め部材も、その外形状が支持部材の内部に嵌合するテーパー型をなしており、支持部材の長手方向に沿った移動が可能である。
【0012】
上記構成の発明においては、管路に例えば吸引装置が接続される場合、不要物は、管体の先端から第1の内空に移送され、次いで、第2の内空を通過して、管路に移送される。
また、管路に例えば送液装置や送気装置が接続される場合、液体や気体が、管体から第2の内空に移送され、次いで、第1の内空を通過して、管体の先端から放出される。
【0013】
さらに、支持部材と、留め部材が、ともにテーパー型をなす場合、手術器具が、上記のように第1乃至第3の内空を貫通して吸引デバイスに保持されるとき、留め部材が支持部材の長手方向に沿って環状体へ近づく方向へ進行することで、手術器具の表面に圧接する。これにより、手術器具が留め部材に対して移動不能に固定される。
これと同時に、留め部材は、手術器具の表面と、環状体との間隙を閉止するから、第2の内空を通過する不要物が、第3の内空ではなく、管路に移送されることや、管路に送給された液体や気体が、第3の内空ではなく、第2の内空に移送されることを可能とする。
これに対し、留め部材が、支持部材の長手方向に沿って環状体から遠ざかる方向へ後退することで、手術器具の表面を圧接解除するから、手術器具が留め部材に対して移動可能になる。これと同時に、留め部材は、閉止されている間隙の閉止を解除する。
【0014】
第2の発明は、第1の発明において、支持部材は、その内周面の遠位端に、この内周面の直径を縮小するように突出する突出リングが形成されるとともに、内周面の近位端にめねじ部が刻設され、留め部材は、その外周面にめねじ部に螺合するおねじ部が刻設されるとともに、留め部材の遠位端に、間隙に差し込み可能な差込部が形成されることを特徴とする。
このような構成の発明においては、第1の発明の作用に加えて、留め部材に刻設されるおねじ部が、支持部材に刻設されるめねじ部に螺合した後、留め部材が支持部材の長手方向に沿って環状体へ近づく方向へ進行すると、差込部が、手術器具の表面を圧接しながら、手術器具の表面と、環状体との間隙に入り込む。また、支持部材の内周面の遠位端には突出リングが形成されているから、差込部は、突出リングに接することで手術器具の表面に向かって屈曲する。
【0015】
差込部が手術器具の表面に向かって屈曲すると、手術器具が差込部に対して移動不能に固定されるとともに、差込部が間隙を閉止する。
これに対し、留め部材が、支持部材の長手方向に沿って環状体から遠ざかる方向へ後退することで、手術器具の表面を圧接解除するから、手術器具が差込部に対して移動可能になる。これと同時に、差込部は間隙の閉止を解除する。
【0016】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、環状体は、近位端において、その径方向の外方へ突出するフランジが突設され、支持部材は、その外周面の遠位端に、フランジを嵌合する空間を有する嵌合部が形成され、フランジの外端面と、嵌合部の空間を構成する内面のうち、外端面に対向する対向面との間に、離隔距離が設けられることを特徴とする。
【0017】
このような構成の発明においては、第1及び第2の発明の作用に加えて、フランジの外端面と、嵌合部の対向面との間に、離隔距離が設けられるため、留め部材が手術器具の表面を圧接しているか否かに関わらず、環状体は手術器具の表面とは独立に、環状体の中心軸を中心として回動可能になる。
なお、留め部材が手術器具の表面を圧接している場合、前述したように、手術器具が留め部材に対して移動不能に固定されるとともに、不要物が管路に移送されることや、管路に送り込まれた液体や気体が第2の内空に移送されることを可能とする。
したがって、上記の不要物が管路に移送される等の場合において、環状体に設けられる管路も、手術器具の表面とは独立に、環状体の中心軸を中心として回動可能になる。
【発明の効果】
【0018】
第1の発明によれば、手術器具の位置を調整して保持することができるので、管体の先端が、手術器具の先端、すなわち不要物の発生源や送液対象等に近づくように、手術器具を保持することができる。よって、第1の発明は、発生直後のスモーク等を素早く吸引できる。
また、第1の発明によれば、焼灼装置や鉗子といった異なる種類の手術器具を保持できるため、汎用性を発揮することができる。
【0019】
第2の発明によれば、第1の発明の効果に加えて、めねじ部に対するおねじ部の螺合により、留め部材の進退移動を可能とすることから、留め部材が予期せず支持部材に対して移動する可能性が低い。よって、第2の発明によれば、手術器具を所定の位置に確実に固定することができる。
【0020】
第3の発明によれば、第1又は第2の発明の効果に加えて、不要物が管路に移送される等の場合において、環状体に設けられる管路は、手術器具の表面とは独立に、環状体の中心軸を中心として回動可能になるため、例えば、手術器具を所望の姿勢に変化させる際に、管路と吸引装置等を接続しているチューブの接続端を、環状体の中心軸を中心として回動させ、手術器具の姿勢に対応する適切な位置に配置することができる。
よって、手術器具の姿勢変化に伴うチューブ全体の取り回しをすることが不要になるから、第3の発明は良好な操作性を発揮可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】(a)は実施例に係る吸引デバイスの側面外観図であり、(b)は本吸引デバイスに手術器具を装着した場合の側面外観図である。
【
図2】実施例に係る吸引デバイスの長手方向に沿った中心軸における断面図であって、手術器具が留め部材に対して移動可能な場合を示すものである。
【
図3】実施例に係る吸引デバイスの長手方向に沿った中心軸における断面図であって、手術器具が留め部材に対して移動不能に固定されている場合を示すものである。
【
図4】実施例に係る吸引デバイスの作用を説明するための説明図であって、
図3におけるA-A線矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0022】
本発明の実施の形態に係る吸引デバイスについて、
図1乃至
図4を用いて詳細に説明する。
図1(a)は実施例に係る吸引デバイスの側面外観図であり、
図1(b)は本吸引デバイスに手術器具を装着した場合の側面外観図である。
図2は、実施例に係る吸引デバイスの長手方向に沿った中心軸(図中一点鎖線)における断面図であって、手術器具が留め部材に対して移動可能な場合を示すものである。
図1に示すように、実施例に係る吸引デバイス1は、手術において、少なくとも、発生する不要物を体外へ吸引する吸引デバイスであって、管体2と、環状体3と、ロック部4と、管路5を備える。
管体2は、先端2aと、基端2bと、第1の内空2cを有し、この第1の内空2cに長尺の手術器具50を挿通可能な、例えば、ステンレス製の円筒体である。また、管体2を形成する材料は、ステンレス以外に、チタン、アルミニウムなどの金属、樹脂であってもよい。このほか、管体2は、絶縁性が必要な場合を考慮して、絶縁体で形成されたり、絶縁コーティングが施されたりしてもよい。なお、
図1(b)に図示されている手術器具50は、鉗子である。
【0023】
図2に示すように、環状体3は、遠位端3aと、近位端3bと、第1の内空2cと連通する第2の内空3cを有し、遠位端3aが管体2の基端2bに取り付けられる略円筒体である。環状体3も、管体2と同様に、上記各種の材料で形成される。
また、環状体3は、近位端3bにおいて、その径方向の外方へ突出するフランジ8が突設される。
【0024】
次に、ロック部4は、吸引デバイス1の長手方向Xに対する手術器具50の移動を阻止又は許容するための部材であって、第1の内空2c及び第2の内空3cと連通する第3の内空4aを有する。また、ロック部4は、支持部材6と、留め部材7を備える。
このうち、支持部材6は、環状をなし、環状体3の近位端3bに取り付けられる。
詳細には、支持部材6は、その内周面6cの遠位端6aに、この内周面6cの直径を縮小するように突出する突出リング6dが形成されるとともに、内周面6cの近位端6bにめねじ部6eが刻設される。
また、支持部材6は、その外周面6fの遠位端6gに、フランジ8を嵌合する空間S6を有する嵌合部9が形成される。
さらに、フランジ8の外端面8aと、嵌合部9の空間S6を構成する内面のうち、外端面8aに対向する対向面9aとの間に、離隔距離dが設けられる。
【0025】
留め部材7は、支持部材6の内部に挿入されてこの支持部材6に支持される。なお、支持部材6の内部とは、周囲を内周面6cによって囲まれる空間である。
詳細には、留め部材7は、支持部材6の内部に、支持部材6寄りの一部が挿入される挿入部10と、挿入部10に連なる、円形や楕円形、または多角形をなす板状のつまみ部11を備える。
【0026】
また、留め部材7は、挿入部10の外周面10bに、支持部材6のめねじ部6eに螺合するおねじ部10cが刻設される。よって、つまみ部11を吸引デバイス1の中心軸A1を中心として回動すると、留め部材7が支持部材6の長手方向に沿って進退移動を行う。
【0027】
さらに、留め部材7は、つまみ部11の近位端11aが開放構造となっている。よって、ロック部4の第3の内空4aとは、留め部材7に形成される、挿入部10の遠位端10aからつまみ部11の近位端11aまでの空間である。
加えて、留め部材7は、挿入部10の遠位端10aに、手術器具50の表面50aと、環状体3との間隙Sに差し込み可能な先細形状をなす差込部12が形成される。詳細には、間隙Sとは、手術器具50を第1の内空2c乃至第3の内空4aに挿通した場合に、手術器具50の表面50aと、環状体3の近位端3bとの間に出現する間隙である。
【0028】
上記の構成においては、おねじ部10cがめねじ部6eに螺合している長さが一定以下であり、挿入部10の差込部12が支持部材6の突出リング6dに接触しない場合では、差込部12は手術器具50の表面50aにも接触していないため、手術器具50は、吸引デバイス1の長手方向Xに沿って移動可能である。これと同時に、手術器具50の表面50aと、環状体3との間隙Sは、差込部12によって閉止されていない状態にある。
【0029】
また、管路5は、環状体3の周面に、第2の内空3cに開口して設けられる。そして、管路5にチューブ51の接続端51aを介して吸引装置が接続される場合、第1の内空2c及び第2の内空3cから、スモークやミスト、血液や洗浄に使用された洗浄用液の廃液等の不要物が吸引される。
一方、管路5に接続端51aを介して送液装置又は送気装置が接続される場合、液体又は気体が、第1の内空2c及び第2の内空3cへ送液又は送気される。なお、液体として、例えば、血液、血液以外の体液、洗浄用生理食塩水、人口髄液が挙げられ、気体として、例えば、二酸化炭素が挙げられる。
【0030】
次に、実施例に係る吸引デバイスを構成するロック部の作用について、
図3を用いて説明する。
図3は、実施例に係る吸引デバイスの長手方向に沿った中心軸(図中一点鎖線)における断面図であって、手術器具が留め部材に対して移動不能に固定されている場合を示すものである。なお、
図1及び
図2で示した構成要素については、
図3においても同一の符号を付して、その説明を省略する。
図3に示すように、つまみ部11を吸引デバイス1の長手方向に沿った中心軸A
1を中心として回動し、留め部材7を管体2へ近づく方向に進行させると、挿入部10の差込部12が、支持部材6の突出リング6dに接触する。
ここで、突出リング6dは、支持部材6の内周面6cの直径を縮小するように突出しているとともに、差込部12は、ある程度の可撓性を有しているように、材料や形状が選択される。そのため、留め部材7を管体2へ近づく方向にそのまま進行させると、差込部12が突出リング6dに強く当接するから、差込部12が、吸引デバイス1の長手方向Xに沿った中心軸A
1の方へ屈曲して縮径する。これにより、差込部12が、手術器具50の表面50aと、環状体3との間隙Sに入り込むことになる。
【0031】
よって、縮径した差込部12が手術器具50の表面50aに圧接するので、手術器具50は、吸引デバイス1の長手方向Xに沿った移動が不能となり、かつ吸引デバイス1の中心軸A
1を中心とする回動が不能になる。これと同時に、差込部12は、間隙Sを閉止する。なお、縮径した差込部12の一部は、環状体3の近位端3bにも接触するが、手術器具50の表面50aと突出リング6dによって、過度に差込部12が管体2へ近づく方向に進行することが抑制されるため、環状体3の近位端3bに対する差込部12の接触は、環状体3が中心軸A
3(
図4参照)を中心として回動することを阻止する程度に強いものにはならない。
これにより、第1の内空2cと、第2の内空3cを通過する不要物が、第3の内空4aではなく、管路5に移送されることや、管路5に送給された液体や気体が、第3の内空4aではなく、第2の内空3cに移送されることが可能になる。
【0032】
これに対し、つまみ部11を上記と逆に回動して留め部材7を管体2から遠ざかる方向に後退させると、
図2に示すように、挿入部10の差込部12が、支持部材6の突出リング6dに接触しなくなるため、差込部12が屈曲しない状態に戻るとともに、手術器具50の表面50aと、環状体3との間隙Sから抜き出されることになる。
よって、差込部12は、手術器具50の表面50aへの圧接を解除するので、手術器具50は、吸引デバイス1の長手方向Xに沿った移動が可能となり、かつ吸引デバイス1の中心軸A
1を中心とする回動が可能になる。これと同時に、差込部12は、間隙Sの閉止を解除する。
したがって、留め部材7が、支持部材6の長手方向、すなわち、吸引デバイス1の長手方向Xに沿って進退移動することで、差込部12が、第1の内空2cと、第2の内空3cと、第3の内空4aに挿通された手術器具50の表面50aを圧接又は圧接解除するとともに、この表面50aと、環状体3との間隙Sを閉止又は閉止解除する。
【0033】
また、フランジ8の外端面8aと、嵌合部9の対向面9aとの間に、離隔距離dが設けられることから、差込部12が手術器具50の表面50aを圧接していない場合(
図2参照)と、圧接している場合のいずれにおいても、対向面9aが外端面8aに圧接することが防止される。
さらに、環状体3は、差込部12が手術器具50の表面50aを圧接していない場合と、圧接している場合のいずれにおいても、手術器具50の表面50aに接触していない。
【0034】
続いて、実施例に係る吸引デバイスを構成するロック部に設けられる離隔距離の作用について、
図4を用いて説明する。
図4は、実施例に係る吸引デバイスの作用を説明するための説明図であって、
図3におけるA-A線矢視断面図である。なお、
図1乃至
図3で示した構成要素については、
図4においても同一の符号を付して、その説明を省略する。
図4に示すように、環状体3は、手術器具50の表面50aに接触していないため、手術器具50の表面50aとは独立に、環状体3の中心軸A
3を中心として回動可能である。これにより、管路5の中心軸A
5は、環状体3の中心軸A
3を中心として、角度θ
1で正逆方向(図中矢印方向)に回動可能である。同様に、中心軸A
5は、中心軸A
3を中心として、角度θ
2で正逆方向(図中矢印方向)に回動可能である。ここで、環状体3の中心軸A
3は、吸引デバイス1の長手方向Xに沿った中心軸A
1(
図2,3参照)と同一である。
上記の環状体3の回動は、
図3を用いて説明したとおり、差込部12が手術器具50の表面50aを圧接しているか否かに関わらず、対向面9aが外端面8aに圧接することが防止されるとともに、環状体3が手術器具50の表面50aに接触していないことによって可能となる。
【0035】
なお、角度θ1は、管路5の中心軸A5が環状体3の中心軸A3の鉛直下方の位置Y1にある場合に0度であり、中心軸A5が中心軸A3の鉛直上方の位置Y2にある場合に絶対値で180度であって、0度から180度の間で任意の値をとる。
また、角度θ2も、中心軸A5が位置Y1にある場合に0度であり、中心軸A5が位置Y2にある場合に絶対値で180度であって、0度から180度の間で任意の値をとる。
【0036】
以上説明したように、吸引デバイス1によれば、挿入部10の差込部12が、支持部材6の突出リング6dに接触しない場合に、手術器具50が吸引デバイス1の長手方向Xに沿って移動可能である。そのため、吸引デバイス1は、その長手方向Xに対する手術器具50の位置を調整して保持することができる。
よって、管体2の先端2aが、手術器具50の先端、すなわち不要物の発生源や送液対象等に近づくように、手術器具50を保持することができる。したがって、吸引デバイス1は、先端2aから、発生直後のスモーク等を素早く吸引できるから、術野をクリアに維持できる。
【0037】
また、吸引デバイス1によれば、手術器具と機械的に一体化しておらず、鉗子といった様々な種類の手術器具を保持できるため、汎用性を発揮することができる。
さらに、吸引デバイス1によれば、留め部材7が吸引デバイス1の長手方向Xに沿って進退移動することで、留め部材7に対する手術器具50の移動や、不要物や液体等の移送が制御されるため、一種類の操作で二種類の作用を同時に発揮させることができ、効率的に操作することが可能である。
【0038】
加えて、吸引デバイス1によれば、めねじ部6eに対するおねじ部10cの螺合により、留め部材7の進退移動を可能とすることから、直感的な操作が可能である。また、上記の螺合では、留め部材7が予期せず支持部材6に対して移動する可能性が低いので、手術器具50を所定の位置に確実に固定することができる。
【0039】
そして、吸引デバイス1によれば、環状体3は、手術器具50の表面50aとは独立に、環状体3の中心軸A3を中心として回動可能になるため、例えば、手術器具50を所望の姿勢に変化させる際に、管路5と吸引装置等を接続しているチューブ51の接続端51aを、環状体3の中心軸A3を中心として回動させ、手術器具50の姿勢に対応する適切な位置に配置することができる。
特に、管路5の中心軸A5は、環状体3の中心軸A3を中心として、角度θ1及び角度θ2で、それぞれ正逆方向に回動可能であるから、管路5に接続されるチューブ51の接続端51aを、手術器具50の姿勢に応じて回動することができる。したがって、手術器具50の姿勢変化に伴うチューブ51全体の取り回しをすることが不要になるとともに、チューブ51とほかの手術器具との干渉を回避できる。このように、吸引デバイス1は良好な操作性を発揮可能である。
【0040】
なお、本発明に係る吸引デバイス1は、実施例に示すものに限定されない。例えば、管体2の長さや外径、第1の内空2c乃至第3の内空4aの直径は、手術器具50の長さや直径に応じて設計変更可能である。
また、管体2、環状体3、ロック部4及び管路5は、ステンレス、ステンレス以外の金属、樹脂のいずれで構成されてもよく、金属や樹脂の種類は特に限定されない。
さらに、つまみ部11の近位端11aを一時的に閉止する閉止部材が設けられてもよい。これにより、第1の内空2c乃至第3の内空4aに手術器具50を挿通しない場合に、管路5を介し、不要物や液体等を移送することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、手術において発生するスモークやミスト等を吸引等する吸引デバイスとして利用可能である。
【符号の説明】
【0042】
1…吸引デバイス 2…管体 2a…先端 2b…基端 2c…第1の内空 3…環状体 3a…遠位端 3b…近位端 3c…第2の内空 4…ロック部 4a…第3の内空 5…管路 6…支持部材 6a…遠位端 6b…近位端 6c…内周面 6d…突出リング 6e…めねじ部 6f…外周面 6g…遠位端 7…留め部材 8…フランジ 8a…外端面 9…嵌合部 9a…対向面 10…挿入部 10a…遠位端 10b…外周面 10c…おねじ部 11…つまみ部 11a…近位端 12…差込部 50…手術器具 50a…表面 51…チューブ 51a…接続端