IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ジェンセルメッド インコーポレイテッドの特許一覧

特許7573726再標的化のための修飾された糖タンパク質GHを含む組換えヘルペスシンプルレックスウイルス及びその用途
<>
  • 特許-再標的化のための修飾された糖タンパク質GHを含む組換えヘルペスシンプルレックスウイルス及びその用途 図1
  • 特許-再標的化のための修飾された糖タンパク質GHを含む組換えヘルペスシンプルレックスウイルス及びその用途 図2
  • 特許-再標的化のための修飾された糖タンパク質GHを含む組換えヘルペスシンプルレックスウイルス及びその用途 図3
  • 特許-再標的化のための修飾された糖タンパク質GHを含む組換えヘルペスシンプルレックスウイルス及びその用途 図4
  • 特許-再標的化のための修飾された糖タンパク質GHを含む組換えヘルペスシンプルレックスウイルス及びその用途 図5
  • 特許-再標的化のための修飾された糖タンパク質GHを含む組換えヘルペスシンプルレックスウイルス及びその用途 図6
  • 特許-再標的化のための修飾された糖タンパク質GHを含む組換えヘルペスシンプルレックスウイルス及びその用途 図7
  • 特許-再標的化のための修飾された糖タンパク質GHを含む組換えヘルペスシンプルレックスウイルス及びその用途 図8
  • 特許-再標的化のための修飾された糖タンパク質GHを含む組換えヘルペスシンプルレックスウイルス及びその用途 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】再標的化のための修飾された糖タンパク質GHを含む組換えヘルペスシンプルレックスウイルス及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/01 20060101AFI20241018BHJP
   C12N 15/869 20060101ALI20241018BHJP
   C12N 15/24 20060101ALI20241018BHJP
   C12N 15/26 20060101ALI20241018BHJP
   C12N 15/19 20060101ALI20241018BHJP
   C12N 15/21 20060101ALI20241018BHJP
   C12N 15/22 20060101ALI20241018BHJP
   C12N 15/23 20060101ALI20241018BHJP
   C12N 15/20 20060101ALI20241018BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20241018BHJP
   C12N 15/56 20060101ALI20241018BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20241018BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20241018BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20241018BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241018BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20241018BHJP
   A61K 35/763 20150101ALI20241018BHJP
   A61K 39/245 20060101ALI20241018BHJP
   C12N 15/38 20060101ALN20241018BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20241018BHJP
【FI】
C12N7/01 ZNA
C12N15/869 Z
C12N15/24
C12N15/26
C12N15/19
C12N15/21
C12N15/22
C12N15/23
C12N15/20
C12N15/12
C12N15/56
C12N15/53
C12N15/54
C12N15/55
A61P35/00
A61P35/02
A61K35/763
A61K39/245
C12N15/38
C12N15/13
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2023509358
(86)(22)【出願日】2021-02-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-01
(86)【国際出願番号】 KR2021002154
(87)【国際公開番号】W WO2021251588
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2022-10-25
(31)【優先権主張番号】10-2020-0072979
(32)【優先日】2020-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0071873
(32)【優先日】2020-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522418495
【氏名又は名称】ジェンセルメッド インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クウォン、ヒチョン
(72)【発明者】
【氏名】ベク、ヒョンジョン
【審査官】井関 めぐみ
(56)【参考文献】
【文献】Viruses,2018年,Vol.10, No.7:352,pp.1-29
【文献】Journal of Virology,2012年,Vol.86, No.23,pp.12891-12902
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 7/01
C12N 15/869
C12N 15/24
C12N 15/26
C12N 15/19
C12N 15/21
C12N 15/22
C12N 15/23
C12N 15/20
C12N 15/12
C12N 15/56
C12N 15/53
C12N 15/54
C12N 15/55
A61P 35/00
A61P 35/02
A61K 35/763
A61K 39/245
C12N 15/38
C12N 15/13
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖タンパク質gHに、標的細胞の標的分子を特異的に認識して結合する細胞標的化領域が挿入されて融合した組換えヘルペスシンプルレックスウイルスであって、前記細胞標的化領域が、配列番号1のgH糖タンパク質のアミノ酸配列においてアミノ酸29番と30番間の位置に挿入されて融合している、上記組換えヘルペスシンプルレックスウイルス
【請求項2】
前記組換えヘルペスシンプルレックスウイルスは、gB、gC又はgDに追加の細胞標的化領域が挿入されていることを特徴とする、請求項1に記載の組換えヘルペスシンプルレックスウイルス。
【請求項3】
前記細胞標的化領域が挿入されて融合する場合にその細胞標的化領域のN末端とC末端にはリンカーペプチドが存在し、
前記リンカーペプチドのアミノ酸は、Ser、Gly、Ala及びThrのうち一つ以上のアミノ酸からなることを特徴とする、請求項1に記載の組換えヘルペスシンプルレックスウイルス。
【請求項4】
前記標的細胞は、疾患細胞であり、
前記標的分子は、疾患細胞の表面に存在する抗原又は受容体であることを特徴とする、請求項1に記載の組換えヘルペスシンプルレックスウイルス。
【請求項5】
前記標的細胞は、癌細胞であり、
前記標的分子は、癌細胞の表面に存在する抗原又は受容体であることを特徴とする、請求項1に記載の組換えヘルペスシンプルレックスウイルス。
【請求項6】
前記抗原又は受容体は、EGFRvIII、EGFR、メタスチン受容体(Metastin receptor)、受容体チロシンキナーゼ(Receptor tyrosine kinases)、HER2(Human epidermal growth factor receptor 2)、チロシンキナーゼ-18-受容体(c-Kit)、HGF受容体c-Met、CXCR4、CCR7、エンドテリン-A受容体、PPAR-δ(peroxisome proliferator activated receptor δ)、PDGFR-α(Platelet-derived growth factor receptor α)、CD133、CEA(carcinoembryonic antigen)、EpCAM(Epithelial cell adhesion molecule)、MSLN(Mesothelin)、GD2(disialoganglioside)、GPC3(Glypican 3)、PSMA(Prostate Specific Membrane Antigen)、TAG-72(tumor-associated glycoprotein 72)、GD3(disialoganglioside)、HLA-DR(human leukocyte antigen-DR)、MUC1(Mucin 1)、NY-ESO-1(New York esophageal squamous cell carcinoma 1)、LMP1(Latent membrane protein 1)、TRAILR2(tumor-necrosis factor-related apoptosis-inducing ligand receptor)、VEGFR2(vascular endothelial growth factor receptor 2)、HGFR(hepatocyte growth factor receptor)、CD44又はCD166であることを特徴とする、請求項に記載の組換えヘルペスシンプルレックスウイルス。
【請求項7】
前記標的分子は、HER2であり、
前記標的化領域は、配列番号4のVHと配列番号5のVLがリンカーペプチドを媒介にしてVH、リンカーペプチド、VLの順に連結された、HER2に対するscFvであることを特徴とする、請求項1に記載の組換えヘルペスシンプルレックスウイルス。
【請求項8】
前記標的分子は、EpCAMであり、
前記標的化領域は、配列番号6のVLと配列番号7のVHがリンカーペプチドを媒介にしてVL、リンカーペプチド、VHの順に連結された、EpCAMに対するscFvであることを特徴とする、請求項1に記載の組換えヘルペスシンプルレックスウイルス。
【請求項9】
前記標的分子は、CEAであり、
前記標的化領域は、配列番号8のVLと配列番号9のVHがリンカーペプチドを媒介にしてVL、リンカーペプチド、VHの順に連結された、CEAに対するscFvであることを特徴とする、請求項1に記載の組換えヘルペスシンプルレックスウイルス。
【請求項10】
前記scFvのN末端に配列番号19のリンカーペプチドが連結されており、前記scFvのC末端に配列番号20のリンカーペプチドが連結されていることを特徴とする、請求項に記載の組換えヘルペスシンプルレックスウイルス。
【請求項11】
前記scFvのN末端に配列番号22のリンカーペプチドが連結されており、前記scFvのC末端に配列番号23のリンカーペプチドが連結されていることを特徴とする、請求項に記載の組換えヘルペスシンプルレックスウイルス。
【請求項12】
前記scFvのN末端に配列番号25のリンカーペプチドが連結されており、前記scFvのC末端に配列番号26のリンカーペプチドが連結されていることを特徴とする、請求項に記載の組換えヘルペスシンプルレックスウイルス。
【請求項13】
前記組換えヘルペスシンプルレックスウイルスは、配列番号16のgD(glycoprotein D)アミノ酸配列222番位置のアルギニン(arginine,R)と223番位置のフェニルアラニン(phenylalanime,F)がそれぞれアスパラギン(asparagine,N)とイソロイシン(isoleucine,I)に置換されたことを特徴とする、請求項1に記載の組換えヘルペスシンプルレックスウイルス。
【請求項14】
前記組換えヘルペスシンプルレックスウイルスは、組換えHSV-1ウイルス、組換えHSV-2ウイルス、又はHSV-1及びHSV-2キメラウイルスであることを特徴とする、請求項1に記載の組換えヘルペスシンプルレックスウイルス。
【請求項15】
前記組換えヘルペスシンプルレックスウイルスは、HSV-1KOS菌株に由来する組換えHSV-1であることを特徴とする、請求項1に記載の組換えヘルペスシンプルレックスウイルス。
【請求項16】
前記組換えヘルペスシンプルレックスウイルスには、ヘルペスシンプルレックスウイルスの増殖を阻害することなくそのゲノムに、(i)サイトカイン、(ii)ケモカイン、(iii)免疫関門(immune checkpoint)に対する拮抗剤、(iv)免疫細胞の活性化を誘導可能な補助刺激因子(co-stimulatory factor)、(v)癌細胞に対する免疫反応を抑制するTGFβに対する拮抗剤、(vi)固形癌腫瘍微細環境を構成するヘパランサルフェートプロテオグリカン(heparan sulfate proteoglycan)を分解できるヘパラナーゼ(heparanase)、(vii)血管新生因子受容体であるVEGFR-2(VEGF receptor-2)の機能を阻害可能な拮抗剤、及び(viii)プロドラッグ(prodrug)を癌細胞に毒性を示す薬物(drug)に転換させるプロドラッグ活性化酵素(prodrug-activating enzymes)から選ばれるものを発現する発現カセットが挿入されていることを特徴とする、請求項1に記載の組換えヘルペスシンプルレックスウイルス。
【請求項17】
前記サイトカインは、IL-2、IL-4、IL-7、IL-10、IL-12、IL-15、IL-18、IL-24などのインターロイキン、IFNα、IFNβ、IFNγなどのインターフェロン、TNFαなどの腫瘍壊死因子、GM-CSF、G-CSF及びFLT3Lのうち一つ以上であり、
前記ケモカインは、CCL2、RANTES、CCL7、CCL9、CCL10、CCL12、CCL15、CCL19、CCL21、CCL20及びXCL-1のうち一つ以上であり、
前記免疫関門は、PD-1(programmed cell death-1)、PD-L1(programmed cell deathligand 1)、PD-L2(programmed cell death-ligand 2)、CD27(cluster of differentiation 27)、CD28(cluster of differentiation 28)、CD70(cluster of differentiation 70)、CD80(cluster of differentiation 80)、CD86(cluster of differentiation 86)、CD137(cluster of differentiation 137)、CD276(cluster of differentiation 276)、KIRs(killer-cell immunoglobulin-like receptors)、LAG3(lymphocyte-activation gene 3)、GITR(glucocorticoid-induced TNFR-related protein)、GITRL(glucocorticoid-induced TNFR-related protein ligand)及びCTLA-4(cytolytic T lymphocyte associated antign-4)のうち一つ以上であり、
前記補助刺激因子は、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、LFA-1(リンパ球機能関連抗原-1)、ICOS(誘導性T細胞共同刺激因子)、CD3γ、CD3δ及びCD3εのうち一つ以上であり、
前記プロドラッグ活性化酵素(prodrug-activating enzymes)は、シトシンデアミナーゼ(Cytosine deaminase)、ラットシトクロムP450(rat cytochrome P450,CYP2B1)、カルボキシルエステラーゼ(carboxylesterase)、細菌ニトロリダクターゼ(bacterial nitroreductase)及び大腸菌から分離されたPNP(purine nucleoside phosphorylase)のうち一つ以上であることを特徴とする、請求項16に記載の組換えヘルペスシンプルレックスウイルス。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一項に記載の組換えヘルペスシンプルレックスウイルスを有効成分として含む抗癌用薬剤学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再標的化のための修飾された糖タンパク質gHを有する組換えヘルペスシンプルレックスウイルス及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
癌の治療には、現在まで、手術療法、抗癌化学療法、放射線療法などが広く用いられているが、その大部分が副作用を伴い、不完全な治療効果、癌の再発及び転移などの問題点を抱えている。このため、新しくて効果的な癌治療法の開発への要求が続いており、ここ数年、抗癌ウイルス、CAR-T細胞治療法(chimeric antigen receptor T cell therapy)などの抗癌免疫療法において急速な発展があった。
【0003】
抗癌免疫療法のうち、抗癌ウイルスは、生きているウイルスの遺伝子を操作して癌細胞で選択的に増殖して癌細胞を溶解する特性を有するウイルスであり、正常細胞での増殖は制限的である。癌細胞を溶解して放出されたウイルスは、周辺の癌細胞を継続して感染させるので、持続的で相乗的な治療効果を奏することができる。また、抗癌ウイルスは、癌細胞を溶解する過程で免疫原性を持つ腫瘍抗原が放出され、人体の免疫反応を刺激して抗癌効果を高めることができ、また、このような抗癌効果は、サイトカイン、ケモカインなどを発現するように人為的に操作することによって増進してもよい。
【0004】
現在、開発されている抗癌ウイルスは、アデノウイルスとヘルペスシンプルレックスウイルス(Herpes Simplex Virus,HSV)、ワクシニアウイルスを含めて10種以上に分類され、このうち、HSVは、152kbサイズの線状の二本鎖DNAを含む多面体性ウイルス(enveloped icosahedral virion)であり、HSV-1型とHSV-2型に分けられる。HSVは、多くの非必須遺伝子(non-essential genes)を有しており、ゲノムのサイズが大きいので、外部遺伝子の操作や運搬が容易であり、複製周期が短く、感染効率が高く、細胞付着と感染に関与する糖タンパク質の操作が容易であることにより、癌細胞に対する標的化を改善させることができる。
【0005】
HSVは、外皮(envelope)を持つウイルスであり、HSVの細胞進入は、外皮に存在する糖タンパク質gD、gB、gH/gL及びgCの複雑な相互作用によってなされる。まず、gBとgCが細胞表面の3-O-S HS(3-O-sulfated heparan sulfate)に付着すると、gDが細胞受容体であるHVEM(herpesvirus entry mediator,HveA)、ネクチン-1(nectin-1,HveC)、ネクチン-2(nectin-2,HveB)のうち少なくとも一つの受容体に結合してウイルスと細胞膜間の融合を誘導することによってHSVが細胞に進入する(Hiroaki Uchida et al.,Generation of Herpesvirus Entry Mediator(HVEM)-restricted Herpes Simplex Virus Type 1 Mutant Viruses:Resistance of HVEM-expressing Cells and Identification of Mutations That Rescue nectin-1 Recognition.J Virol.2009 Apr;83(7):2951-61)。
【0006】
2015年10月に米国FDAの承認を受けたT-VEC(Talimogene Laherparepvec,製品名:イムリジック)は、HSV-1を用いた悪性黒色腫に対する抗癌ウイルス治療剤である。T-VECは、病原性を弱化させるためにICP34.5とICP47遺伝子が欠失しており、人体免疫反応を促進させるためのGM-CSF(granulocyte-macrophage colony stimulating factor)を発現する弱化した(attenuated)HSV-1型ウイルスである。しかし、T-VECは、一部の遺伝子が消失することにより、ウイルス増殖が制限され、治療効能が低いという限界点がある。
【0007】
このような限界を克服するために、ウイルスを弱化させることなくHSVの細胞進入に関与する外皮糖タンパク質gD、gB、gH、gCを操作して癌細胞を特異的に標的化するための再標的化(retargeting)が試みられた。このような再標的化は、癌細胞標的分子に対する標的化ドメインを暗号化する外因性配列を糖タンパク質gD、gB、gH、gC配列に導入することであり、野生型糖タンパク質に代えて、糖タンパク質に外因性配列の標的化ドメイン(リガンドともいう。)が挿入されているキメラ糖タンパク質を有する組換えウイルスを用いる方法である。このような組換えウイルスは、標的化領域が特異的に認識して結合する標的分子を有する癌細胞への進入が可能である。このような標的化領域は、一般に、scFv(single-chain variable fragment)が使用され、現在、再標的化が試みられた標的分子は、EpCAM(Epithelial cell adhesion molecule)、HER2(Human epidermal growth factor receptor 2)などであり、糖タンパク質としてgB、gH、gCなどの修飾がなされた。
【0008】
本発明は、再標的化のために糖タンパク質gHを修飾した組換えHSVを開示する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、再標的化のために修飾された糖タンパク質gHを有する組換えHSVを提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、前記組換えHSVを有効成分として含む抗癌治療用薬剤学的組成物を提供することにある。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、前記薬剤学的組成物を有効量で患者などの対象体に投与する癌予防又は治療方法を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的又は具体的な目的は、以下に提示されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、下の実施例から確認されるように、糖タンパク質gHに、癌細胞などの標的細胞の標的分子であるHER2、EpCAM又はCEA(carcinoembryonic antigen)を特異的に認識して結合する細胞標的化領域(標的細胞の標的分子に特異的に結合する外因性リガンドである。)であるscFvが挿入されて融合した組換えHSVが、HER2、EpCAM又はCEAを発現する標的細胞を標的化して(retargeting)感染させることを確認することによって完成した。
【0014】
したがって、本発明は、糖タンパク質gHに、標的細胞の標的分子を特異的に認識して結合する細胞標的化領域が挿入されて融合した組換えHSVに関するものと把握されてよい。
【0015】
一般に、組換えHSVは、野生型HSVウイルスと比較して、人為的な突然変異が導入されることにより(すなわち、一部の核酸配列が欠失、置換又は挿入されることにより)、一定機能が喪失又は変更されるか或いは意図した目的タンパク質を発現できるように遺伝的に操作されたHSVを意味するが、本発明において、組換えHSVは、標的細胞の標的化のために糖タンパク質gHに細胞標的化領域を有するHSVを意味する。
【0016】
このようなウイルスの遺伝子操作とビリオンの生産などの組換えウイルス製造技術は、当業界によく公知されており、具体的には、文献[Sandri-Goldin RM et al,Alpha Herpesviruses:Molecular and Cellular Biology,Caister Academic Press,2006]、文献[Robin H Lachmann,Herpes simplex virus-based vectors,Int J Exp Pathol.2004 Aug;85(4):177-190]などを参照できる。当該文献を含めて本明細書で引用される文献はいずれも本明細書の一部として見なされる。
【0017】
本発明の組換えHSVは、特に、糖タンパク質gHに標的細胞標的分子に対する標的化ドメインが導入される他に、進入受容体(entry receptor)としてネクチン-1(nectin-1)を通して細胞内に進入できず、単にHVEM受容体を通してのみ細胞内に進入するようにさらに操作されてよい。本発明は、下の実施例においてHSV糖タンパク質(envelope glycoprotein)gDの配列を操作して、HVEM受容体を通してのみHSVが細胞内に進入するようにした。具体的には、gDの222番位置のアルギニン(arginine,R)と223番位置のフェニルアラニン(phenylalanime,F)をそれぞれアスパラギン(asparagine,N)とイソロイシン(isoleucine,I)に置換させてgDの機能が変更されるように操作し、このようなgD機能が変更された組換えHSVは、単にHVEM(HveA)受容体を通してのみ宿主細胞内に入ることができる(Hiroaki Uchida et al.Generation of Herpesvirus Entry Mediator(HVEM)-restricted Herpes Simplex Virus Type1Mutant Viruses:Resistance of HVEM-expressing Cells and Identification of Mutations That Rescue nectin-1Recognition.J Virol.2009 Apr;83(7):2951-61)。HVEM(HveA)受容体は、正常細胞にはほとんど存在しなく、リンパ腫などにのみ存在するのに対し、ネクチン-1は大部分が正常細胞に存在するので、HVEM受容体を通してのみ細胞進入が可能で、ネクチン-1受容体を通しては細胞進入が不可能な、前記gD機能が変更された組換えHSVは、正常細胞を感染させることができず、抗癌治療において安全性側面で有利な特性を有する。
【0018】
本発明の組換えHSVは、その糖タンパク質gH遺伝子が一部欠失する或いは欠失しなく、そのgH遺伝子に前記細胞標的化領域に対する遺伝子がオープンリーディングフレーム(open reading frame)として挿入されることによって製造され得る。このような糖タンパク質gH遺伝子に細胞標的化領域の遺伝子が挿入される場合に、細胞標的化領域は、糖タンパク質gHに融合した形態で、組換えHSVが細胞内で生産される際にビリオンの外皮に統合される。
【0019】
gH糖タンパク質に細胞標的化領域が挿入されて融合する場合に、挿入・融合する位置は、gH N末端(N-terminus)、そのH1AドメインのN末端などを含む任意の位置であるが、HSV-1において好ましい位置は、gHのアミノ酸配列(配列番号1,GenBank Accession No.ASM47773)において、アミノ酸12番~88番領域内の位置、アミノ酸116番~137番領域内の位置、又はアミノ酸209番~839番領域内の位置であってよい。また、好ましい位置は、アミノ酸12番~49番領域内の位置又はアミノ酸116番~137番領域内の位置であってよい。また、好ましい位置は、12番アミノ酸の次の位置、22番アミノ酸の次の位置、23番アミノ酸の次の位置、29番アミノ酸の次の位置、83番アミノ酸の次の位置、116番アミノ酸の次の位置、209番アミノ酸の次の位置、215番アミノ酸の次の位置、225番アミノ酸の次の位置、277番アミノ酸の次の位置、386番アミノ酸の次の位置、437番アミノ酸の次の位置、447番アミノ酸の次の位置、472番アミノ酸の次の位置、636番アミノ酸の次の位置、637番アミノ酸の次の位置、666番アミノ酸の次の位置、731番アミノ酸の次の位置、763番アミノ酸の次の位置、764番アミノ酸の次の位置、775番アミノ酸の次の位置、806番アミノ酸の次の位置、824番アミノ酸の次の位置、838番アミノ酸の次の位置であってよい。前記位置は、gHの配列番号1のアミノ酸配列を基準にしたがうものであるが、gHの配列において一部相違がある変異菌株においてはそれに相応する相同配列(homologous sequence)を基準にする。
【0020】
また、本発明の組換えHSVは、糖タンパク質gHの修飾の他に、HSVの他の糖タンパク質(glycoprotein)の修飾によって追加の標的化が可能なように操作されてよい。このような追加の標的化は、特に、抗癌治療において癌細胞の感染効率などに有利であり得、このような追加の標的化に使用可能な糖タンパク質としては、gB、gC、gDなどを挙げることができる、
【0021】
追加の標的化のために、このような糖タンパク質に細胞標的化領域がさらに挿入されて融合する場合に、糖タンパク質のN末端(N-terminus)を含む任意の位置であってよく、HSV-1において好ましい位置は、gBのアミノ酸配列(配列番号2,GenBank Accession No.ASM47779)において、アミノ酸9番~896番領域内の任意の位置であってよい。また、好ましい位置は、アミノ酸31番~78番領域内の任意の位置、アミノ酸80番~363番領域内の任意の位置、又はアミノ酸408番~896番領域内の任意の位置であってよい。また、好ましい位置は、gBの43番アミノ酸の次の位置、52番アミノ酸の次の位置、70番アミノ酸の次の位置、76番アミノ酸の次の位置、80番アミノ酸の次の位置、81番アミノ酸の次の位置、95番アミノ酸の次の位置、100番アミノ酸の次の位置、137番アミノ酸の次の位置、185番アミノ酸の次の位置、187番アミノ酸の次の位置、241番アミノ酸の次の位置、261番アミノ酸の次の位置、265番アミノ酸の次の位置、304番アミノ酸の次の位置、334番アミノ酸の次の位置、361番アミノ酸の次の位置、408番アミノ酸の次の位置、419番アミノ酸の次の位置、430番アミノ酸の次の位置、458番アミノ酸の次の位置、470番アミノ酸の次の位置、481番アミノ酸の次の位置、495番アミノ酸の次の位置、497番アミノ酸の次の位置、546番アミノ酸の次の位置、608番アミノ酸の次の位置、630番アミノ酸の次の位置、663番アミノ酸の次の位置、664番アミノ酸の次の位置、665番アミノ酸の次の位置、671番アミノ酸の次の位置、673番アミノ酸の次の位置、690番アミノ酸の次の位置、725番アミノ酸の次の位置、730番アミノ酸の次の位置、732番アミノ酸の次の位置、742番アミノ酸の次の位置、772番アミノ酸の次の位置、868番アミノ酸の次の位置、869番アミノ酸の次の位置、886番アミノ酸の次の位置、893番アミノ酸の次の位置、894番アミノ酸の次の位置、895番アミノ酸の次の位置であってよい。前記位置はgBの配列番号2のアミノ酸配列を基準にしたが、gBの配列において一部相違がある変異菌株においてはそれに相応する相同配列(homologous sequence)を基準にする。
【0022】
gC糖タンパク質に細胞標的化領域がさらに挿入されて融合する場合も、そのN末端(N-terminus)を含む任意の位置であってよく、HSV-1において好ましい位置は、gCのアミノ酸配列(配列番号3,GenBank Accession No.ASM47796)において、アミノ酸1番~442番領域内の任意の位置、より好ましい位置は、アミノ酸33番~154番領域内の任意の位置であってよい。さらに好ましい位置は、、gCの33番アミノ酸の次の位置、82番アミノ酸の次の位置、148番アミノ酸の次の位置、149番アミノ酸の次の位置、153番アミノ酸の次の位置であってよい。前記位置は、gCの配列番号3のアミノ酸配列を基準にしたが、gCの配列において一部相違がある変異菌株においてはそれに相応する相同配列(homologous sequence)を基準にする。
【0023】
糖タンパク質の好ましい挿入位置に関連するより詳細は、文献[JOHN R.GALLAGHER et al.,Functional Fluorescent Protein Insertions in Herpes Simplex Virus gB Report on gB Conformation before and after Execution of Membrane Fusion,PLoS Pathog,2014,Sep 18,10(9):e1004373]、文献[Gatta V et al,The Engineering of a Novel Ligand in gH Confers to HSV an Expanded Tropism Independent of gD Activation by Its Receptors,PLoS Pathog.2015 May 21;11(5):e1004907]、文献[Tina M.Cairns et al.,Structure-Function Analysis of Herpes Simplex Virus Type 1 gD and gH-gL:Clues from gDgH Chimeras,JOURNAL OF VIROLOGY,June 2003,p.6731-6742]、文献[E.U.Lorentzen et al.,Replication-Competent Herpes simplex Virus Type 1 Mutant Expressing an Autofluorescent Glycoprotein H Fusion Protein,Intervirology 2001;44:232-242]、文献[Qing Fan et al.,Differential Effects on Cell Fusion Activity of Mutations in Herpes Simplex Virus 1 Glycoprotein B(gB)Dependent on Whether a gD Receptor or a gB Receptor Is Overexpressed,JOURNAL OF VIROLOGY,Aug.2009,83(15):7384-7390]、文献[Erick Lin et al.,Random linker-insertion mutagenesis to identify functional domains of herpes simplex virus type 1 glycoprotein B,Proc Natl Acad Sci U S A.Aug.2007,104(32):13140-13145]、文献[Julia O.Jackson et al.,Insertion Mutations in Herpes Simplex Virus 1 Glycoprotein H Reduce Cell Surface Expression,Slow the Rate of Cell Fusion,or Abrogate Functions in Cell Fusion and Viral Entry,JOURNAL OF VIROLOGY,Feb.2010,84(4):2038-2046]、文献[Guoying Zhou et al.,Engineered herpes simplex virus 1 is dependent on IL13R*2 receptor for cell entry and independent of glycoprotein D receptor interaction,Proc Natl Acad Sci U S A.Nov.2002,99(23):15124-15129]、文献[AR Frampton Jr et al.,HSV trafficking and development of gene therapy vectors with applications in the nervous system,Gene Therapy,2005,12:891-901]、文献[Paola Grandi et al.,HSV-1Virions Engineered for Specific Binding to Cell Surface Receptors,MOLECULAR THERAPY,Mar.2004,9(3):419-427]、文献[William F Goins et al.,Retargeting of Herpes Simplex Virus(HSV)Vectors,Curr Opin Virol,2016Dec,21:93-101]、文献[Xiaodan Wang et al.,Targeted gene transfer to nigrostriatal neurons in the rat brain by helper virus-free HSV-1 vector particles that contain either a chimeric HSV-1 glycoprotein C-GDNF or a gC-BDNF protein,Brain Res Mol Brain Res.2005 Sep,139(1):88-102]などを参照できる。
【0024】
糖タンパク質に細胞標的化領域が挿入されて融合する場合にその細胞標的化領域のN末端とC末端にはリンカーペプチドが存在してよい。このようなリンカーペプチドは、糖タンパク質に融合する細胞標的化領域が糖タンパク質と融合することによってその固有3次元構造を形成する上で妨害を受けないように、細胞標的化領域と糖タンパク質との間に距離を置くためのものであり、それの標的細胞の標的分子との特異的な結合能力を有させる限り、任意の長さ、任意の配列のリンカーペプチドであってよい。リンカーは、柔軟性(flexibility)、溶解性(solubility)、蛋白分解に対する抵抗性などの側面で、Ser、Gly、Ala、Thrなどのアミノ酸のうち1種以上のアミノ酸からなることが好ましく、長さは、1~30個アミノ酸、好ましくは3~25個アミノ酸、より好ましくは8~20個アミノ酸であってよい。
【0025】
本発明の組換えHSVは、HSVの増殖(すなわち、生存と複製)に不要な非必須遺伝子(non-essential genes)が欠失する或いは機能を発揮しないように(すなわち、転写や翻訳が妨害を受けるように)突然変異(mutation)されてもよい。具体的には、そのような非必須遺伝子は、UL3遺伝子(例えば、Genbank Accession No.AFE62830.1参照)、UL4遺伝子(例えば、Genbank Accession No.AFE62831.1参照)、UL14遺伝子(例えば、Genbank Accession No.AFE62841.1)、UL16遺伝子(例えば、Genbank Accession No.AFE62843.1参照)、UL21遺伝子(例えば、Genbank Accession No.AFE62848.1参照)、UL24遺伝子(例えば、Genbank Accession No.AFE62851.1参照)、UL31遺伝子(例えば、Genbank Accession No.AFE62859.1参照)、UL32遺伝子(例えば、Genbank Accession No.AFE62860.1参照)、US3遺伝子(例えば、Genbank Accession No.AFE62891.1参照)、UL51遺伝子(例えば、Genbank Accession No.AFE62880.1参照)、UL55遺伝子(例えば、Genbank Accession No.AFE62884.1参照)、UL56遺伝子(例えば、Genbank Accession No.AFE62885.1参照)、US2遺伝子(例えば、Genbank Accession No.AFE62890.1)、US12遺伝子(例えば、Genbank Accession No.AFE62901.1;すなわち、ICP47遺伝子参照)、LAT遺伝子(例えば、Genbank Accession No.JQ673480.1参照)、gB遺伝子(例えば、Genbank Accession No.GU734771.1の52996と55710との間の配列)、gL遺伝子(例えば、Genbank Accession No.AFE62828.1参照)、gH遺伝子(例えば、Genbank Accession No.AFE62849.1参照)、gD遺伝子(例えば、Genbank Accession No.AFE62894.1参照)などを挙げることができる。
【0026】
HSVウイルスの非必須遺伝子に関連するより詳細は、文献[DM Knipe and PM Howley(ed.)Fields virology(vol.2)Lippincot Williams & Wilkins,Philadelphia,Pa.2001.p.2399-2460)]、文献[Subak-Sharpe J H,Dargan D J HSV molecular biology:general aspects of herpes simplex virus molecular biology Virus Genes,1998,16(3):239-251]、文献[Travis J.Taylor and David M.Knipe,Proteomics of Herpes Simplex Virus Replication Compartments:Association of Cellular DNA Replication,Repair,Recombination,and Chromatin Remodeling Proteins with ICP8,J Virol.2004 Jun;78(11):5856-5866]などを参照できる。
【0027】
本発明の組換えHSVは、組換えHSV-1ウイルス、組換えHSV-2ウイルス、又はHSV-1/HSV-2キメラウイルス(すなわち、ゲノムがHSV-1に由来するDNA及びHSV-2に由来するDNAの両方を含む組換えHSVウイルス)であってよく、好ましくは組換えHSV-1ウイルス、より好ましくはHSV-1KOS菌株に由来する組換えHSV-1である。HSV-1KOS菌株はATCC(Cat No VR-1493TM)から購入可能であり、その菌株のゲノム配列は全体配列分析が完了してGenBank Accession No.JQ673480.1に提示されている(Stuart J Macdonald et al.Genome Sequence of Herpes Simplex Virus 1 Strain KOS.J Virol.2012 Jun;86(11):6371-2)。
【0028】
HSV-1ウイルスのゲノムは、総84個の遺伝子を暗号化する152kbの二本鎖の線形DNAで構成されており、これは、互いに連結された2つの断片、すなわち、長い断片(L領域)と短い断片(S領域)で構成される。長い断片(L領域)はゲノムの約82%を占め、短い断片(S領域)はゲノムの約18%を占め、長い断片と短い断片は、接合領域である2個のIRL((intermediate inverted repeat sequence)によって結合し、各断片の末端にはTRL(terminal inverted repeat segment)が存在する。L領域(UL)には、56個のUL1~UL56遺伝子と10個の遺伝子(UL8.5、9.5、10.5、12.5、15.5、20.5、26.5、27.5、43.5、49.5)が存在し、S領域(US)には、12個のUS1~US12遺伝子と2個の遺伝子(US1.5、8.5)が存在し、接合領域である2個のIRLに4個の遺伝子(ICP4、ICP34.5、ICP0及びLAT)が含まれている。
【0029】
本発明の組換えHSVにおいて、細胞標的化領域は、標的細胞の標的分子を特異的に認識して結合し、標的細胞に本発明の組換えHSVの進入を誘導する働きをするが、ここで、標的細胞は、任意の非正常細胞である。非正常細胞は、疾患の原因として作用する疾患細胞と言い換えることができる。
【0030】
標的細胞である非正常細胞は、代表的には癌細胞であり、癌細胞であれば、食道癌、胃癌、大腸癌、直膓癌、口腔癌、咽頭癌、喉頭癌、肺癌、結腸癌、乳癌、子宮頸癌、子宮内膜体癌、卵巣癌、前立腺癌、精巣癌、黒色腫、膀胱癌、腎臓癌、肝癌、膵癌、骨癌、結合組織癌、皮膚癌、脳癌、甲状腺癌、白血病、ホジキン(Hodgkin)疾患、リンパ腫、多発性骨髄腫、血液癌など、癌腫を問わない。
【0031】
本発明の組換えHSVがこのような癌細胞を標的細胞とする場合に、本発明の組換えHSVは、癌細胞溶解性ウイルス(oncolytic virus)を働かせて癌細胞を破壊することによって抗癌効果を奏する。
【0032】
本発明の組換えHSVが標的化する標的細胞は、癌細胞の他にも、遺伝子治療の対象となる任意の疾患細胞も可能である。ここで、遺伝子治療の対象となる疾患細胞とは、疾患の原因になる非正常遺伝子を有している或いはある遺伝子が異常に発現又は作動している細胞であって、本発明の組換えHSVによって前記非正常遺伝子に対応する正常遺伝子などの遺伝物質がその非正常細胞に伝達され、非正常遺伝子などを正常に発現又は作動させることによって、当該疾患の治療につながり得る疾患細胞のことを指す。
【0033】
このような疾患は、アルツハイマー病(Alzheimer’s disease)、筋萎縮性軸索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis,ALS)、ルゲリック病(Lou Gehrig’s Disease)、骨関節炎(osteoarthritis)、粥状動脈硬化症(atherosclerosis)、シャルコーマリートゥース病(Charcot Marie Tooth disease,CMT)、慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease,COPD)、慢性外傷性脳病症(chronic traumatic encephalopathy)、糖尿病(diabete)、エーラスダンロス症候群(ehlers-danlos syndrome)、本態性振戦(essential tremor)、フリードライヒ失調症(Friedreich’s ataxia)、ハンチントン病(huntington’s disease)、炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease,IBD)、円錐角膜(keratoconus)、球状角膜(keratoglobus)、黄斑変性(macular degeneration)、マルファン症候群(marfan’s syndrome)、多発性硬化症(multiple sclerosis)、多系統萎縮症(multiple system atrophy)、筋萎縮症(muscular dystrophy)、ニーマンピック病(Niemann Pick disease)、骨多孔症(osteoporosis)、パーキンソン病(Parkinson’s Disease)、進行性核上麻痺(progressive supranuclear palsy)、前立腺炎(prostatitis)、網膜色素変性症(retinitis pigmentosa)、関節リウマチ(rheumatoid arthritis)又はテイサックス病(Tay-Sachs disease)であってよい。
【0034】
本発明の組換えHSVがこのような遺伝子治療の対象となる疾病細胞を標的細胞とする場合に、本発明の組換えHSVは、その増殖に必須な遺伝子、例えば、ICP27遺伝子、ICP4遺伝子などは不活性化されてその細胞溶解性(lysis)が除去された後に利用される。
【0035】
本発明の組換えHSVにおいて、細胞標的化領域が標的細胞特異的に認識して結合する標的分子は、非正常細胞である疾患細胞の表面に存在する任意の抗原又は任意の受容体である。
【0036】
特に、本発明の組換えHSVは抗癌治療目的の抗癌ウイルス(oncolytic virus)として有用に使用可能であるが、この場合、標的分子は、癌細胞の表面に存在する任意の抗原又は任意の受容体を標的分子とする。標的分子である癌細胞の抗原又は受容体は、癌細胞でのみ発現する或いは正常細胞に比べて癌細胞で過発現する抗原又は受容体であることが好ましい。
【0037】
このような癌細胞表面の抗原又は受容体は、例えば、膠芽細胞腫(glioblastoma)で発現するEGFRvIII(epidermal growth factor receptor variantIII)、未分化甲状腺癌や乳癌、肺癌、神経膠腫(glioma)などに過発現するEGFR(Epidermal growth factor receptor)、乳頭性甲状腺癌(papillary thyroid cancer)などで過発現するタスチン受容体(Metastin receptor)、乳癌などで過発現するErbB系列の受容体チロシンキナーゼ(Receptor tyrosine kinases)、乳癌、膀胱癌、胆嚢癌(Gallbladder cancers)、胆管癌(Cholangiocarcinomas)、胃食道接合部癌(esophagogastric junction cancers)などで過発現するHER2(Human epidermal growth factor receptor 2)、肉腫様腎癌などで過発現するチロシンキナーゼ-18-受容体(c-Kit)、食道腺癌などで過発現するHGF受容体c-Met、乳癌などで過発現するCXCR4又はCCR7、前立腺癌で過発現するエンドテリン-A受容体、直膓癌などで過発現するPPAR-δ(peroxisome proliferator activated receptor δ)、卵巣癌などで過発現するPDGFR-α(Platelet-derived growth factor receptor α)、肝癌、多発性骨髄腫などで過発現するCD133、肺癌、大腸癌、胃癌、膵癌、乳癌、直膓癌、結腸癌、甲状腺髄質癌などで過発現するCEA(carcinoembryonic antigen)、肝癌、胃癌、大腸癌、膵癌、乳癌などで過発現するEpCAM(Epithelial cell adhesion molecule)、肺癌、乳癌、膵癌、卵巣癌などで過発現するMSLN(Mesothelin)、神経芽細胞腫などで過発現するGD2(disialoganglioside)、肝細胞癌などで過発現するGPC3(Glypican 3)、前立腺癌などで過発現するPSMA(Prostate Specific Membrane Antigen)、卵巣癌、乳癌、結腸癌、肺癌、膵癌などで過発現するTAG-72(tumor-associated glycoprotein 72)、黒色腫などで過発現するGD3(disialoganglioside)、血液癌、固形癌などで過発現するHLA-DR(human leukocyte antigen-DR)、進行性固形癌などで過発現するMUC1(Mucin 1)、進行性肺癌(advanced non-small-cell lung cancer)などで過発現するNY-ESO-1(New York esophageal squamous cell carcinoma 1)、鼻咽頭腫瘍(Nasopharyngeal neoplasms)などで過発現するLMP1(Latent membrane protein 1)、肺癌、非ホジキンリンパ腫、卵巣癌、結腸癌、大腸癌、膵癌などで過発現するTRAILR2(tumor-necrosis factor-related apoptosis-inducing ligand receptor)、血管新生因子受容体であるVEGFR2(vascular endothelial growth factor receptor 2)、肝細胞癌などで過発現するHGFR(hepatocyte growth factor receptor)などが標的分子であってよく、また、癌幹細胞の表面抗原であるCD44、CD166なども標的分子であってよい。当業界には正常細胞に比べて癌細胞で過発現する多くの標的分子が知られており、前記例示された標的分子以外のものに関連するより詳細は、文献[Anne T Collins et al.Prospective Identification of Tumorigenic Prostate Cancer Stem Cells.Cancer Res.2005 Dec 1;65(23):10946-51]、文献[Chenwei Li et al.Identification of Pancreatic Cancer Stem Cells.Cancer Res.2007 Feb 1;67(3):1030-7]、文献[Shuo Ma et al.Current Progress in CAR-T Cell Therapy for Solid Tumors.Int J Biol Sci.2019 Sep 7;15(12):2548-2560]、文献[Dhaval S Sanchala et al.Oncolytic Herpes Simplex Viral Therapy:A Stride Toward Selective Targeting of Cancer Cells.Front Pharmacol.2017 May 16;8:270]などを参照できる。
【0038】
特に、本発明において、標的分子は、好ましくはHER2、EpCAM又はCEAである。
【0039】
本発明において、細胞標的化領域は、標的分子と特異的結合能を有する完全な抗体の他にも、抗体誘導体、抗体類似体であってよい。抗体誘導体は、標的分子と特異的結合能を有する抗体可変領域を少なくとも一つ含む完全な抗体の断片又は修飾抗体を意味する。このような抗体誘導体としては、Fab、scFv、Fv、VhH、VH、VLなどの抗体断片、Fab2、Fab3、ミニボディ、ジアボディ、トリボディ、テトラボディ、ビス-scFvなどの多価性又は多重特異的修飾抗体などを挙げることができる。抗体類似体は、抗体と同様に、標的分子と特異的結合能を有するが、構造上抗体とは違っており、一般的に抗体に比べて低い分子量を有する人為的ペプチド又はポリペプチドを意味する。このような抗体類似体として、ABD、アディロン(adhiron)、アフィボディ(affibody)、アフィリン(affilin)、アフィマー(affimer)、アルファボディ(alphabody)、アンチカリン(anticalin)、アルマジロ(armadillo)反復タンパク質、センチリン(centyrin)、ダルピン(DARPin)、フィノマー(fynomer)、Kunitz領域、プロネクチン(pronectin)、リピボディ(repebody)などを挙げることができる。
【0040】
このような抗体、抗体誘導体、抗体類似体、その製造と関連しては当業界に相当多い文献が蓄積されており、それらの文献としては、例えば、文献[Renate Kunert & David Reinhart,Advances in recombinant antibody manufacturing.Appl Microbiol Biotechnol.2016 Apr;100(8):3451-61]、文献[Holliger P1,Hudson PJ.,Engineered antibody fragments and the rise of single domains,Nat Biotechnol.2005 Sep;23(9):1126-36]、文献[Xiaowen Yu et al.,Beyond Antibodies as Binding Partners:The Role of Antibody Mimetics in Bioanalysis,Annual Review of Analytical Chemistry,2017,10:293-320]、文献[Abdul Rasheed Baloch et al.,Antibody mimetics:promising complementary agents to animal-sourced antibodies,Critical Reviews in Biotechnology,2016,36:268-275]などを挙げることができる。
【0041】
本発明において、細胞標的化領域は、標的分子に対する完全抗体や抗体誘導体、抗体類似体だけでなく、天然ポリペプチドリガンドであってよい。天然ポリペプチドリガンドは、このリガンドが特異的に結合する標的細胞の受容体が標的分子である場合であり、このようなリガンドとしては、サイトカイン、ケモカイン、成長因子などを挙げることができ、特に、EPO(erythropoietin)、EGF(epidermal growth factor)、IL-13などであってよい。
【0042】
本発明において、細胞標的化領域は、好ましくはscFv(Single-chain variable fragment)である。scFvは、免疫グロブリンの重鎖(VH)の可変領域と軽鎖(VL)の可変領域の短いリンカーペプチドを媒介にして連結された一本鎖抗体のことを指す。scFvでVHのC末端は、VLのN末端と連結されるか、又はVLのC末端はVHのN末端と連結される。scFvでリンカーペプチドは重鎖と軽鎖の固有3次元構造を妨害しないとともにそれら重鎖と軽鎖が空間的に隣接して標的分子との特異的な結合能力を有させる限り、任意の長さ、任意の配列のリンカーペプチドであってよい。好ましくは、リンカーは柔軟性(flexibility)、溶解性(solubility)、蛋白分解に対する抵抗性などの側面で、Ser、Gly、Ala、Thrなどのアミノ酸のうち1種以上のアミノ酸からなることが好ましく、長さは1~30個アミノ酸、好ましくは3~25個アミノ酸、より好ましくは8~20個アミノ酸であってよい。
【0043】
本発明において、特に、scFvは、標的分子をHER2、EpCAM又はCEAとし、HER2に対するscFvは配列番号4のVHと配列番号5のVLがリンカーペプチドを媒介にしてVH、リンカーペプチドVLの順に連結されたこと(すなわち、VHのC末端がVLのN末端とリンカーペプチドを媒介にして連結されたこと)が好ましく、EpCAMに対するscFvは、配列番号6のVLと配列番号7のVHがリンカーペプチドを媒介にしてVL、リンカーペプチド、VHの順に結合したこと(すなわち、VLのC末端がVHのN末端とリンカーペプチドを媒介にして連結されたこと)が好ましく、CEAに対するscFvは、配列番号8のVLと配列番号9のVHがリンカーペプチドを媒介にしてVL、リンカーペプチド、VHの順に結合したこと(すなわち、VLのC末端がVHのN末端とリンカーペプチドを媒介にして連結されたこと)が好ましい。
【0044】
また、本発明において、細胞標的化領域に細胞標的分子に対するscFvを使用する場合に、そのscFvのVH及びVLと糖タンパク質の隣接部位に、scFvのVHとVLとの間に、scFvのVHとVLとの間にリンカーペプチドが媒介される場合は、VH又はVLとリンカーペプチドとの間に、クローニングを容易にするために、任意の制限酵素作用部位に該当するアミノ酸が介在されてよい。例えば、制限酵素EcoRIが作用するEF(塩基配列:GAATTC)、BamHIが作用するGS((塩基配列:GGATCC)などが介在されてよい。
【0045】
本発明において、組換えHSVが抗癌治療のための抗癌ウイルス(oncolytic virus)として使用される場合に、癌細胞に対する免疫反応を誘導又は増進させるための因子を単独で又は任意の組合せで発現するように当該因子に対する遺伝子がHSVゲノムに挿入されてよい。それらの因子は、サイトカイン、ケモカイン、免疫関門(immune checkpoint)に対する拮抗剤(例えば、抗体、抗体誘導体又は抗体類似体、特に、scFv)、免疫細胞(T細胞又はNK細胞)の活性化を誘導できる補助刺激因子(co-stimulatory factor)、癌細胞に対する免疫反応を抑制するTGFβの機能を阻害できる拮抗剤(例えば、抗体、抗体誘導体又は抗体類似体、特にscFv)、固形癌腫瘍微細環境を構成するヘパランサルフェートプロテオグリカン(heparan sulfate proteoglycan)を分解できるヘパラナーゼ(heparanase)、血管新生因子受容体であるVEGFR-2(VEGF receptor-2)の機能を阻害できる拮抗剤(例えば、抗体、抗体誘導体又は抗体類似体、特にscFv)などを発現するように操作されてよい。
【0046】
サイトカインは、例えば、IL-2、IL-4、IL-7、IL-10、IL-12、IL-15、IL-18、IL-24などのインターロイキン、IFNα、IFNβ、IFNγなどのインターフェロン、TNFαなどの腫瘍壊死因子、GM-CSF、G-CSF、FLT3Lなどのコロニー刺激因子などが単独で又は2以上の任意の組合せで組換えHSVで発現するように使用されてよい。
【0047】
ケモカインは、例えば、CCL2(C-C Motif Chemokine Ligand 2)、CCL5(RANTES)、CCL7、CCL9、CCL10、CCL12、CCL15、CCL19、CCL21、CCL20、XCL-1((X-C Motif Chemokine Ligand1))などが単独で又は組合せで組換えHSVで発現するように使用されてよい。
【0048】
免疫関門に対する抗体は、PD-1(programmed cell death-1)、PD-L1(programmed cell deathligand 1)、PD-L2(programmed cell death-ligand 2)、CD27(cluster of differentiation 27)、CD28(cluster of differentiation 28)、CD70(cluster of differentiation 70)、CD80(cluster of differentiation 80)、CD86(cluster of differentiation 86)、CD137(cluster of differentiation 137)、CD276(cluster of differentiation 276)、KIRs(killer-cell immunoglobulin-like receptors)、LAG3(lymphocyte-activation gene 3)、GITR(glucocorticoid-induced TNFR-related protein)、GITRL(glucocorticoid-induced TNFR-related protein ligand)、CTLA-4(cytolytic T lymphocyte associated antign-4)などに対する拮抗剤が単独で又は組合せで組換えHSVで発現するように使用されてよい。
【0049】
補助刺激因子は、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、LFA-1(リンパ球機能関連抗原-1)、ICOS(誘導性T細胞共同刺激因子)、CD3γ、CD3δ、CD3εなどが単独で又は組合せで組換えHSVで発現するように使用されてよい。
【0050】
本発明において、組換えHSVは、プロドラッグ(prodrug)を癌細胞に毒性を示す薬物(drug)に転換させるプロドラッグ活性化酵素(prodrug-activating enzymes)を発現するように操作されてよい。このようなプロドラッグ活性化酵素としては、プロドラッグである5-FC(5-fluorocytosine)を5-FU(5-fluorouracil)である薬物に転換させるシトシンデアミナーゼ(Cytosine deaminase)、プロドラッグであるCPA(cyclophosphamide)をPM(phosphoramide mustard)である薬物に転換させるラットシトクロムP450(rat cytochrome P450,CYP2B1)、プロドラッグであるイリノテカン(irinotecan,SN-38150)をSN-38である薬物に転換させるカルボキシルエステラーゼ(carboxylesterase)、プロドラッグであるBC1954をDNA交差結合剤である4-ヒドロキシアミン151(4-hydroxylamine 151)に転換させる細菌ニトロリダクターゼ(bacterial nitroreductase)、プロドラッグである6-メチルプリン-2’-デオキシリボシド(6-methypurine-2’-deoxyriboside)を6-メチルプリン(6-methylpurine)に転換させる大腸菌から分離されたPNP(purine nucleoside phosphorylase)などを挙げることができる。
【0051】
また、本発明において、組換えHSVは、TRAIL(TNF-Related Apoptosis Inducing Ligand)を発現するように操作されてよい。TRAILは、癌細胞で過発現するそれの受容体に結合して癌細胞の死滅を誘導すると知られている(Kaoru Tamura et al.Multimechanistic Tumor Targeted Oncolytic Virus Overcomes Resistance in Brain Tumors.Mol Ther.20 13 Jan;21(1):68-77)。
【0052】
このような免疫反応を誘導又は増進させるための因子やプロドラッグ活性化酵素の使用に関連するより詳細は、文献[Michele Ardolino et al.,Cytokine treatment in cancer immunotherapy,J.Oncotarget,Oncotarget.2015 Aug 14;6(23):]、文献Bernhard Homey et al.Chemokines:Agents for the Immunotherapy of Cancer.Nat Rev Immunol.2002 Mar;2(3):175-84]、文献[Marianela Candolfi et al,Evaluation of proapototic transgenes to use in combination with Flt3L in an immune-stimulatory gene therapy approach for Glioblastoma multiforme(GBM)、J.FASEB J,2008,22:107713]、文献[Danny N Khalil et al.The Future of Cancer Treatment:Immunomodulation,CARs and Combination Immunotherapy.Nat Rev Clin Oncol.2016 May;13(5):273-90]、文献[Paul E Hughes et al.Targeted Therapy and Checkpoint Immunotherapy Combinations for the Treatment of Cancer.Trends Immunol.2016 Jul;37(7):462-476]、文献[Cole Peters 1,Samuel D Rabkin,Designing herpes viruses as oncolytics,Mol Ther Oncolytics.2015;2:15010]などを参照できる。
【0053】
本発明において、免疫反応を誘導又は増進させるための因子やプロドラッグ活性化酵素は、その遺伝子の発現カセット(すなわち、その遺伝子がその発現を可能にするプロモーター配列及びポリアデニル化シグナル配列と作動可能に連結された構成体)がHSVの増殖を阻害しないでHSVゲノムに挿入されるが、そのような挿入は、HSVゲノムの欠失無しで、又はHSVゲノムのうち非必須遺伝子が一部又は全部欠失し、その欠失した位置に挿入されてよい。このとき、HSVゲノムの欠失無しで挿入される場合に、各遺伝子間に挿入されてよく、好ましい挿入位置は、例えば、UL3とUL4遺伝子の間、UL26とUL27遺伝子の間、UL37とUL38遺伝子の間、UL48とUL49遺伝子の間、UL53とUL54遺伝子の間、US1とUS2の間などを挙げることができる。非必須遺伝子が欠失し、その欠失した位置に挿入されるか或いは非必須遺伝子の欠失無しでその遺伝子中に挿入される場合に、そのような非必須遺伝子は、前述した任意の非必須遺伝子から選択されてよい。
【0054】
本発明において、前記免疫反応を誘導・増進させるための因子の遺伝子発現カセットは、その目的遺伝子がそれの発現を可能にするためのプロモーター配列と転写終結信号配列であるポリアデニル化シグナル(polyadenylation signal)配列と作動可能に連結されて構成される。ここで、“作動可能に連結される”ということは、発現する目的遺伝子の転写及び/又は翻訳が可能なように連結されるという意味である。例えば、あるプロモーターがそれに連結された目的遺伝子の転写に影響を与えるとすれば、そのプロモーターはその目的遺伝子に作動可能に連結されたものである。
【0055】
一般に、プロモーターは、ある遺伝子の転写開始点を基準に上位(5’側)に位置し、DNA依存RNA重合酵素に対する結合部位、転写開始点、転写因子結合部位などを含む、一つ以上の遺伝子の転写を制御する機能を有する核酸配列を意味する。このようなプロモーターは、真核生物由来の場合は、転写開始点上位にあるTATAボックス(通常、転写開始点(+1)-20~-30位置に存在)、CAATボックス(通常、転写開始部位と比較して略-75位置に存在)、エンハンサー、転写因子結合部位などを含む。
【0056】
プロモーターはそれに連結された目的遺伝子を発現し得るプロモーターであれば、構成的プロモーター(常時的に遺伝子の発現を誘導するプロモーター)、誘導性プロモーター(特定外部刺激に反応して目的遺伝子の発現を誘導するプロモーター)、組織特異性プロモーター(特徴組織や細胞で遺伝子の発現を誘導するプロモーター)、組織非特異的プロモーター(全ての組織や細胞で遺伝子の発現を誘導するプロモーター)、内人性プロモーター(ウイルスが感染される細胞に由来するプロモーター)、外因性プロモーター(ウイルスが感染される細胞以外の細胞に由来するプロモーター)のいずれも使用可能である。このようなプロモーターは、当業界に多数が公知されており、公知のものからいずれかを適切に選択して使用することができる。例えば、CMV(cytomegalovirus)プロモーター、RauSE肉腫ウイルス(RSV,rous sarcoma virus)プロモーター、HSV(herpes simplex virus)TK(thymidine kinase)プロモーター、アデノウイルス後期プロモーター、ワクシニアウイルス75Kプロモーター、SV40プロモーター、メタロチオニン(metallothionein)プロモーター、CD45プロモーター(造血母細胞特異的プロモーター)、CD14プロモーター(単核球細胞特異的プロモーター)、サバイビン(Survivin)、ミドカイン(Midkine)、TERT、CXCR4などの癌細胞特異的プロモーター(tumor specific promoter)などを使用することができる。特に、癌細胞特異的プロモーターを使用する場合に、癌細胞でのみ目的遺伝子の発現を誘導することによって、目的遺伝子が正常細胞で発現することを抑制し、本発明の組換えHSVの安全性を高めることができる。
【0057】
前記発現カセットは、プロモーターの他にも転写終結信号配列を含んで構成されるが、転写終結信号配列は、poly(A)添加信号(polyadenylation signal)として作用する配列であり、転写の完結性及び効率性を高めるためのものである。多くの転写終結信号配列が当業界に公知されており、この中から適切なもの、一例えば、SV40転写終結信号配列、HSV TK(Herpes simplex virus thymidine kinase)の転写終結信号配列などを選択して使用することができる。
【0058】
他の側面において、本発明は、前述した組換えHSVを有効成分として含む抗癌用薬剤学的組成物に関する。
【0059】
本発明の薬剤学的組成物は、本発明の組換えHSVのgHに挿入されて融合した細胞標的化領域が特異的に結合する標的分子を発現する癌腫に対して抗癌用途を有する。このような癌腫は、先に標的分子と関連して説明した通りである。
【0060】
特に、本発明の組成物は、HER2、EpCAM又はCEAを発現する腫瘍細胞を有する癌腫に対して抗癌用途を有することが好ましい。例えば、HER2を発現する腫瘍細胞は、乳癌細胞、卵巣癌細胞、胃癌細胞、肺癌細胞、頭頸部癌細胞、骨肉腫細胞、多形成神経膠芽腫細胞(glioblastoma multiforme)、唾液腺腫瘍(salivary gland tumor)細胞などを挙げることができる。また、例えば、EpCAMを発現する腫瘍細胞は、肝癌細胞、前立腺癌細胞、乳癌細胞、大腸癌細胞、肺癌細胞、胆嚢癌細胞、膵癌細胞、胃癌細胞などを挙げることができる。また、例えば、CEAを発現する腫瘍細胞は、大腸癌細胞、胃癌細胞、肺癌細胞、乳癌細胞、直膓癌細胞、結腸癌細胞、肝癌細胞などを挙げることができる。
【0061】
本発明において、抗癌は、癌細胞の死滅、癌細胞の生存能低下、癌細胞の増殖抑制による癌が有する病理的症状の抑制や遅延、そのような病理的症状の発病抑制や遅延、癌転移抑制、癌再発抑制を含む意味である。
【0062】
また、本発明の薬剤学的組成物は、許可された抗癌剤と併用又は混合して使用されてよい。そのような抗癌剤には、代謝拮抗剤、アルキル化剤、トポイソメラーゼ拮抗剤、微小管拮抗剤、植物由来アルカロイドなど、癌細胞に細胞毒性を示す任意の抗癌剤、任意のサイトカイン医薬品、任意の抗体医薬品、任意の免疫関門抑制剤医薬品、任意の細胞治療剤(car-T cell therarpy,car-NK cell therapy)医薬品などを含む。具体的には、タキソール、ナイトロジェンマスタード、イマチニブ、オキサリプラチン、ゼピチニブ、ボルテゾミブ、スニチニブ、カルボプラチン、シスプラチン、リツキシマブ、エロチニブ、ソラフェニブ、IL-2医薬品、INF-α医薬品、INF-γ医薬品、トラスツズマブ、ブリナツモマブ、イフィリムマブ、ペプブロリズマブ、ニボリズマブ、アテゾリズマブ(Atezolizumab)、デュルバルマブ(Durvalumab)、ベバシズマブ、セツキシマブ、チサゲンレクロイセル(Tisagenlecleucel,キムリア)、アキシカブタゲンシロルユーセル(Tisagenlecleucel Axicabtagene Ciloleucel,イエスカルタ)などが例示されてよく、これらの例示された抗癌剤の他にも当業界に公知のいかなる抗癌剤も本発明の薬剤学的組成物と混合又は併用で使用されてよい。
【0063】
本発明の薬剤学的組成物は、薬剤学的に許容される担体又は賦形剤を含み、投与経路によって、当業界に公知の通常の方法で経口用剤形又は非経口用剤形とすることができる。
【0064】
そのような薬剤学的に許容可能な担体又は賦形剤は、人体に特に毒性を有しないと共に、薬物の活性や特性を阻害しないものであり、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、澱粉、アカシアガム、リン酸カルシウム、アルジネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水(例えば、、食塩水及び滅菌水)、シロップ、メチルセルロース、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、滑石、ステアリン酸マグネシウム、ミネラルオイル、リンゲル液、緩衝剤、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール、デキストラン、アルブミン、又はこれらの任意の組合せであってよい。特に、本発明の薬剤学的組成物が液状溶液として製剤化される場合に、適切な担体又は賦形剤としては、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、アルブミン注射溶液、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノールなどの成分から一つ以上の成分を単独又は混合して使用することができ、必要によって、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤などの他の通常の医薬品添加剤などを添加して使用することもできる。
【0065】
本発明の薬剤学的組成物が経口投与剤として製剤される場合には、錠剤、トローチ、カプセル、エリクサー、サスペンション、シロップ、ウエハーなどの形態で製造でき、非経口投与剤、特に注射剤として製剤化する場合には、単位投薬アンプル又は多回投薬の形態で製造できる。本発明の薬剤学的組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、丸薬、カプセル、徐放性製剤などの形態にも製造化可能である。
【0066】
本発明の薬剤学的組成物は、薬剤学的分野において通常の方法によって患者の身体内投与に適合な単位投与型の製剤形態に剤形化させ、当業界で通常使用する投与方法を用いて経口投与経路、又は、皮膚、病変内(intralesional)、静脈内、筋肉内、動脈内、骨髄内、髄膜腔、心室内、肺、経皮、皮下、腹内、鼻腔内、消化管内、局所、舌下、膣内、直腸経路などの非経口投与経路によって投与されてよい。
【0067】
本発明の薬剤学的組成物の投与量(有効量)は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性別、病的状態、食べ物、投与時間、投与経路、排泄速度及び反応感応性のような要因によって様々に処方されてよく、当業者であれば、これらの要因を考慮して投与量を適切に決定できる。好ましい態様において、本発明の薬剤学的組成物は、単位容量形態の注射剤として製造され、単位容量形態の注射剤として製造される場合に、本発明の薬剤学的組成物の単位容量当たりに含まれる組換えHSVウイルスの量は、10~1014pfuの範囲、特に10~1011pfuの範囲であってよい。
【0068】
他の態様において、本発明は、前述した組換えHSVを含む薬剤学的組成物を有効量で患者などの対象体に投与する段階を含む癌治療又は予防方法(すなわち、腫瘍治療又は予防方法)に関する。
【0069】
このような癌治療方法は、本発明の組換えHSVのgHに挿入されて融合した細胞標的化領域が特異的に結合する標的分子を持つ癌細胞を溶解して死滅させることによって可能になる。したがって、本発明の治療方法は、そのような標的分子を持つ任意の癌腫に対して適用可能である。特に、本発明の治療方法は、HER2、EpCAM又はCEAを発現する癌腫に適用されることが好ましい。
【0070】
本発明の治療方法は、前記他の癌治療法と制限なく併用されてよい。例えば、先に例示された細胞毒性抗癌剤、サイトカイン医薬品、抗体医薬品、免疫関門抑制剤医薬品、細胞治療剤(car-T cell therarpy,car-NK cell therapy)医薬品、放射線治療療法、手術療法などが、本発明の薬剤学的組成物の投与前後や同時投与方式で併用されてよい。
【0071】
本発明の治療方法において、有効量は、その適用対象である患者などに医療専門家などの提言による投与期間に本発明の薬剤学的組成物が投与されるとき、癌治療又は予防効果などの意図した医学的効果を示し得る、本発明の薬剤学的組成物が投与される量のことを指す。このような有効量は、前述したように、患者の年齢、体重、性別、病的状態などによって医療専門家などの当業者が適切に決定できる。
【0072】
本発明の治療方法において、その薬剤学的組成物は、好ましくは、患者などに注射剤で、非経口投与経路によって、例えば病変内(intralesional、腫瘍内)、静脈内、筋肉内、動脈内などに投与されてよい。
【発明の効果】
【0073】
前述したように、本発明によれば、再標的化のために修飾された糖タンパク質gHを有する組換えHSVとその用途を提供することができる。
【0074】
本発明の組換えHSVは、その糖タンパク質であるgHに存在する細胞標的化領域によって、標的化領域が特異的に認識して結合する標的分子を持つ標的細胞を感染させることができるので、抗癌治療目的又は遺伝子治療目的に有用に使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
図1】KOS-37BACゲノム構造の概要図である。
【0076】
図2】HVEM-制限HSV-1ウイルスのゲノム構造の概要図である。
【0077】
図3】EmGFPを発現するHVEM-制限HSV-1ウイルスのゲノム構造の概要図である。
【0078】
図4】EmGFPを発現するHVEM-制限HSV-1ウイルスの蛍光発現及びHVEM受容体を有する細胞への特異点感染を示す結果である。
【0079】
図5】HER2標的化修飾された糖タンパク質gHを有するHSV-1、EpCAM標的化修飾された糖タンパク質gHを有するHSV-1、及びCEA標的化修飾された糖タンパク質gHを有するHSV-1ウイルスのゲノム構造の概要図である。
【0080】
図6】gH糖タンパク質に挿入されるHER2scFv、gH-EpCAM2scFv、及びgH-CEAscFvリガンドの全体アミノ酸配列と当該配列の構成を示す図である。
【0081】
図7】HER2標的化修飾された糖タンパク質gHを有するHSV-1ウイルスによるHER2発現癌細胞の特異的感染と細胞死滅を示す結果である。
【0082】
図8】EpCAM標的化修飾された糖タンパク質gHを有するHSV-1ウイルスによるEpCAM発現癌細胞の特異的感染と細胞死滅を示す結果である。
【0083】
図9】CEA標的化修飾された糖タンパク質gHを有するHSV-1ウイルスによるCEA発現癌細胞の特異的感染を示す結果である。
【発明を実施するための形態】
【0084】
以下、本発明を実施例を参照して説明する。
【0085】
ただし、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0086】
<実施例1>HVEM制限HSV-1(HVEM-restricted HSV-1)ウイルス作製
【0087】
HSV-1遺伝子は約152kbにも至る大きな遺伝子で構成されており、外来遺伝子を挿入する又は特定位置での変異を挿入するためにKOS-37/BAC(Genbank Accession No.MF156583)(Gierasch WW et al.,Construction and characterization of bacterial artificial chromosomes containing HSV-1 strains 17 and KOS,J.Virol Methods.2006.135:197~206)を使用した。HSV-1KOSストレイン(HSV-1KOS strain)はその特性がよく知られており、遺伝子の機能及び病因調査に有用で、実験室で主に使用されるHSV-1ストレインの一種である(Smith KO.Proc.Soc.Exp.Biol.Med.1964.115:814-816)。KOSゲノムにBACプラスミド挿入によって作製されたKOS-37/BACは、DH10Bバクテリア(Invitrogen)に形質転換(transformation)によってバクテリアレベルでクローニングを可能にする(Gierasch WW et al.,Construction and characterization of bacterial artificial chromosomes containing HSV-1 strains 17 and KOS,J.Virol Methods.2006.135:197~206)。KOS-37/BACは、HSV-1KOSゲノムのUL37とUL38間の位置にBAC(bacterial artificial chromosomes)が両側にLoxPサイトと一緒に挿入されている。将来、Cre-Loxシステムを用いてBAC遺伝子を除去できるように作製された。その概要図を図1に示す。
【0088】
HVEM細胞受容体を通してのみ細胞進入するHVEM制限HSV-1を作製するために、HSV-1gDアミノ酸配列(GenBank Accession No.ASM47818、配列番号10)の222番位置のアルギニン(arginine,R)と223番位置のフェニルアラニン(phenylalanime,F)をそれぞれアスパラギン(asparagine,N)とイソロイシン(isoleucine,I)に置換したgD-R222N/F223I HSV-1ウイルスを作製した。
【0089】
このような突然変異によって作られたgD-R222N/F223I HSV-1ウイルスは、細胞感染受容体(entry receptor)としてネクチン-1(nectin-1)を使用できず、単にHVEM(HveA)を通してのみ宿主細胞内に感染が可能なので(Uchida H et al.,Generation of herpesvirus entry mediator(HVEM)-restricted herpes simplex virus type 1 mutant viruses:resistance of HVEM-expressing cells and identification of mutations that rescue nectin-1recognition,J Virol.2009.83(7):2951-2961)、ネクチン-1(nectin-1)受容体を有する正常細胞を感染させることがなく、安全性においても有利である。
【0090】
HVEM制限KOS-gD-R222N/F223Iウイルスのゲノム構造の概要図を図2に示す。
【0091】
KOS-gD-R222N/F223I HSV-1ウイルスをの作製のために、カウンターセレクションBAC修飾キット(Counter selection BAC modification kit;GeneBridges,Inc.)を用いてメーカーのプロトコルにしたがってKOS-37/BACのgD部分にR222N/F223I突然変異を導入した。
【0092】
具体的には、KOS-37/BACが入っているE.coliクローンに、相同組換え(homologous recombination)機能を果たし得るRecEとRecTを発現できるpRed/ETプラスミドを形質転換した(Muyrers JP et al.,Rapid modification of bacterial artificial chromosomes by ET-recombination,Nucleic Acids Res.1999.27(6):1555-1557)。gDに突然変異を導入しようとする位置を含む相同領域のプライマー(homologous region primer)セット(正方向プライマーgD-rpsL For:配列番号11、逆方向プライマーgD-rpsL Rev:配列番号12)を用いてgD-rpsL-neo/kanカセット(cassette)を作製した。gD-rpsL-neo/kanカセットは、挿入する位置のgD相同領域とストレプトマイシン(streptomycin)に敏感性を有させる選別マーカー(selective marker)であるrpsL遺伝子と、カナマイシン(kanamycin)抵抗性を有させるneo/kan遺伝子で構成される。gD-rpsL-neo/kanカセットが挿入されると、rpsL遺伝子によってストレプトマイシン抗生剤に敏感になり、neo/kan遺伝子によってカナマイシン抵抗性を有するE.coliが作られる。KOS-37/BACとpRed/ETが入っているE.coliクローンにL-アラビノース(L-arabinose;Sigma-Aldrich)を添加してpRed/ETの機能を活性化させ、相同組換えが可能なようにRecEとRecTの発現を誘導した後(Muyrers JP et al.,Rapid modification of bacterial artificial chromosomes by ET-recombination,Nucleic Acids Res.1999.27(6):1555-1557)、作製したgD-rpsL-neo/kanカセット200ngを形質転換(transformation)した。相同組換えによってgD-rpsL-neo/kanカセットがKOS-37/BACのgD位置に挿入される。KOS-37/BACにgD-rpsL-neo/kanが挿入されたE.coliは、カナマイシン抵抗性を有しているが、ストレプトマイシン抵抗性はrpsL遺伝子によって遮断された状態である。カナマイシン培地から選別されたE.coliはgD-rpsL-neo/kanが挿入されたと判断し、最終的な遺伝子を挿入する段階に進行した。KOS37-BAC gD-rpsL-neo/kanクローンがあるE.coliにL-アラビノース(L-arabinose;Sigma-Aldrich)を添加してpRed/ETの機能を活性化させ、相同組換えが可能なようにRecEとRecTの発現を誘導した後、gDにおいて222番位置のR及び223番位置のFでそれぞれN及びIを置換したオリゴヌクレオチドであるR222N_F223I_mutant(配列番号13)を100pmol入れて形質転換した。既存gD-rpsL-neo/kanカセットと挿入されたオリゴヌクレオチドが交替されながらrpsLによって遮断されたストレプトマイシン抵抗性が活性化される原理を用いて、候補群をストレプトマイシン培地から選別した(Heermann,R et al.,Simple generation of site-directed point mutations in the Escherichia coli chromosome using Red/ET Recombination.Microb Cell Fact 7,14,2008)。選別された候補群は、DNA prep方法を用いてDNA分離をし(Horsburgh BC et al.,Genetic manipulation of herpes simplex virus using bacterial artificial chromosomes,Methods enzymol.1999.306:337-352)、gDにおいて222番位置及び223番位置でそれぞれN及びIが導入されたか否かをPCR(ploymerase chain recation)とDNAシーケンシングによって確認した。
【0093】
次に、ウイルス作製は、前記完成されたKOS-37/BAC-gD-R222N/F223I DNAをラージコンストラクトDNA分離キット(Large construct DNA purification kit,Macherey-Nagel)を用いて抽出した後、2×10のCre-Vero-HVEM細胞にリポフェクタミン2000試薬(Lipofectamine 2000 reagent,Invitrogen)を用いてDNA 1ugを形質注入(transfection)した。DMEM培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium(Welgene)に100U/mlペニシリン(penicillin)/100μg/mlストレプトマイシン(Welgene)と10% FBS(fetal bovine serum,Wellgen)を用いて細胞培養をした。前記Cre-Vero-HVEM細胞株は、Cre-Vero細胞株(Gierasch WW et al.,Construction and characterization of bacterial artificial chromosomes containing HSV-1 strains 17 and KOS,J.Virol Methods.2006.135:197~206)にHVEM遺伝子を挿入させてHVEMタンパク質発現を誘導した細胞株である。Cre-Vero-HVEMを使用した理由は、細胞のCre組換え酵素(recombinase)を用いてKOS-37/BAC-gD-R222N/F223IのBAC遺伝子を除去することができ、またHVEM過発現によるKOS-gD-R222N/F223Iウイルスの感染が効果的である点から、将来、ウイルス大量生産がしやすいためである。遺伝子導入3~4日経過後に、プラーク(plaque)の形成を確認した後、ウイルスが含まれた細胞を取り入れて3回のfreeze-thaw方法(Gierasch WW et al.,Construction and characterization of bacterial artificial chromosomes containing HSV-1 strains 17 and KOS,J.Virol Methods.2006.135:197~206)と超音波破砕(sonication)によって最終的にKOS-gD-R222N/F223Iウイルスを獲得した。
【0094】
<実施例2>EmGFPを発現するHVEM-制限HSV-1ウイルス作製
【0095】
EmGFPを発現するHVEM-制限HSV-1の作製のために、前記実施例1で作製されたKOS-37/BAC-gD-R222N/F223I DNAのUL26/UL27位置に、EmGFP(Emerald Green Fluorescent Protein)を発現できる発現カセット(expression cassette)を挿入した(Tiffany A et al.,Engineering herpes simplex viruses by infection-transfection methods including recombination site targeting by CRISPR/Cas9nucleases,J Virol Methods.2015.231:18-25)。これは、マーカーとしてEmGFPを用いてウイルスの生産と感染程度の観察を容易にするためである。EmGFPカセット作製には、pCDNA6.2-GW/EmGFP-miRプラスミド(Invitrogen)を用いた。
【0096】
EmGFPを発現するKOS-EmGFP-gD-R222N/F223Iのゲノム概要図は図3に示した。
【0097】
EmGFP発現のために、サイトメガロウイルス(cytomegalovirus)の遺伝子プロモーターであるpCMVとHSV TK(Herpes simplex virus thymidine kinase)のポリアデニレーションシグナル(polyadenylation signal)であるtkpAを用いてpCMV-EmGFP-tkpAをKOS-37/BAC-gD-R222N/F223I DNAに挿入した。
【0098】
全ての挿入方法は、前記実施例1のように、カウンターセレクションBAC修飾キット(counter selection BAC modification kit;GeneBridges.Inc)を用いてメーカーのプロトコルにしたがって進行した。
【0099】
具体的には、KOS-37/BAC-gD-R222N/F223Iが入っているクローンに相同組換え(homologous recombination)機能を果たし得るRecEとRecTを発現できるpRed/ETプラスミドを形質転換した(Muyrers JP et al.,Rapid modification of bacterial artificial chromosomes by ET-recombination,Nucleic Acids Res.1999.27(6):1555-1557)。UL26とUL27間にターゲット遺伝子を導入しようとする位置を含む相同領域のプライマー(homologous region primer)セット(正方向プライマーUL26/27-rpsL_For:配列番号14、逆方向プライマーUL26/27-rpsL_Rev:配列番号15)を用いてUL26/27-rpsL-neo/kanカセット(cassette)を作製した。KOS-37/BAC-gD-R222N/F223I DNAとpRed/ETが入っているクローンにL-アラビノース(L-arabinose;Sigma-Aldrich)を添加して相同組換え(homologous recombination)が可能なように誘導した後、作製したUL26/27-rpsL-neo/kanカセット200ngを形質転換した。このような相同組換えによってUL26/27-rpsL-neo/kanカセットがKOS-37/BACのUL26/27位置に挿入される。UL26/27-rpsL-neo/kanが挿入されたE.coliは、カナマイシン抵抗性を有しているが、ストレプトマイシン抵抗性はrpsL遺伝子によって遮断された状態である。カナマイシン培地から選別されたE.coliはUL26/27-rpsL-neo/kanが挿入されたと判断し、最後の段階であるターゲット遺伝子を挿入する段階に進行した。
【0100】
UL26/27-rpsL-neo/kanカセットがあるE.coliにpRed/ETの機能を活性化させるL-アラビノース(L-arabinose;Sigma-Aldrich)を添加して相同組換え(homologous recombination)が可能なように誘導し、その後、UL26/27-tkpA-EmGFP-pCMVカセット200ngを形質転換した。UL26/27-tkpA-EmGFP-pCMVカセットはpCDNA6.2-GW/EmGFP-miRプラスミド(Invitrogen)を鋳型(Template)として使用し、正方向プライマーUL26/27-tkpA_For(配列番号16)と逆方向プライマーUL26/27-pCMV_Rev(配列番号17)を用いて作製したものである。
【0101】
既存UL26/27-rpsL-neo/kanカセットと挿入されたUL26/27-tkpA-EmGFP-pCMVが交替されながらrpsLによって遮断されたストレプトマイシン抵抗性が活性化される原理を用いて、候補群をストレプトマイシン培地から選別した(Heermann,R et al.,Simple generation of site-directed point mutations in the Escherichia coli chromosome using Red/ET Recombination.Microb Cell Fact 7,14,2008)。選別された候補群は、DNA prep方法を用いてDNA分離をし(Horsburgh BC et al.,Genetic manipulation of herpes simplex virus using bacterial artificial chromosomes,Methods enzymol.1999.306:337-352)、UL26/27でtkpA-EmGFP-pCMVの導入されたか否かを、制限酵素EcoRI、XhoI処理とPCR(ploymerase chain recation)によって確認し、PCR産物をシーケンシングして正確な遺伝子配列を確認した。
【0102】
蛍光タンパク質の正常な発現とウイルスの生産のために実験を行った。完成されたKOS-37/BAC-EmGFP-gD-R222N/F223I DNAをラージコンストラクトDNA分離キット(Large construct DNA purification kit,Macherey-Nagel)を用いて抽出した後、Cre組換え酵素(recombinase)を用いてBAC遺伝子を除去するために2×10のCre-Vero-HVEM細胞にリポフェクタミン2000試薬(Lipofectamine 2000 reagent,Invitrogen)を用いてDNA 1ugを形質注入した。形質注入3日後、EmGFPタンパク質の発現を蛍光顕微鏡を用いて観察し、Cre-Vero-HVEM細胞のプラーク(plaqe)形成によってウイルス生産を観察した。プラークの形成を確認した後、ウイルスが含まれた細胞を取り入れて3回のfreeze-thaw方法(Gierasch WW et al.,Construction and characterization of bacterial artificial chromosomes containing HSV-1 strains 17 and KOS,J.Virol Methods.2006.135:197~206)と超音波破砕(sonication)を用いてKOS-EmGFP-gD-R222N/F223Iウイルス(gDm)獲得した。
【0103】
KOS-EmGFP-gD-R222N/F223Iウイルスの感染と蛍光発現は、HVEMがない細胞株(J1及びJ-Nectin)とHVEMが発現する細胞株(J-HVEM)を使用した。J1細胞は、仔ハムスター腎臓細胞株であり、ウイルスHSV-1レセプターであるHVEMとNectin-1が欠乏している細胞株である(Petrovic B et al.,Insertion of a ligand to HER2 in gB retargets HSV tropism and obviates the need for activation of the other entry glycoproteins.2017.PLoS Pathog.13(4):e1006352)。J-Nectin、J-HVEM細胞株は、J1細胞にそれぞれNectin-1とHVEMを過発現する細胞株である(Petrovic B et al.,Insertion of a ligand to HER2 in gB retargets HSV tropism and obviates the need for activation of the other entry glycoproteins.2017.PLoS Pathog.13(4):e1006352)。各細胞株は、DMEM培地(Welgene)に100U/mlペニシリン/100μg/mlストレプトマイシン(Welgene)と10% FBS(fetal bovine serum)を用いて培養した。1×10の細胞に、前記得られたKOS-EmGFP-gD-R222N/F223Iウイルスを10MOI(multiplicity of infection)で感染させ、24時間後に、蛍光タンパク質発現及びウイルス感染程度を蛍光顕微鏡を用いて観察した(BaeK HJ et al.,Bispecific Adapter-Mediated Retargeting of a Receptor-Restricted HSV-1Vector to CEA-Bearing Tumor Cells,Mol Ther.2011.19(3):507-514)。
【0104】
その結果として、図4に、蛍光顕微鏡モードで撮影した写真と光学顕微鏡モードで撮影した写真をそれぞれ上下に示した。図4の上の蛍光顕微鏡写真を参照すると、JI細胞株とJ-Nectin細胞株は感染されず、J-HVEM細胞株のみが感染されたことが分かる。
【0105】
このような結果から、意図した通り、KOS-EmGFP-gD-R222N/F223Iウイルス(gDm)が蛍光タンパク質の発現によってウイルス増殖の観察が容易であり、進入経路としてNectin-1を使用できず、HVEMを通してのみ進入することを確認した。
【0106】
<実施例3>HER2標的化修飾された糖タンパク質gHを有するHSV-1、EpCAM標的化修飾された糖タンパク質gHを有するHSV-1、及びCEA標的化修飾された糖タンパク質gHを有するHSV-1ウイルス作製
【0107】
特定癌で発現する標的分子を標的化できる再標的化HSVの作製のために、HSV-1の糖タンパク質であるgHアミノ酸配列(GenBank Accession No.ASM47773、配列番号1)の29番と30番のアミノ酸の間に、癌細胞に特異的に発現するHER2とEpCAM、そしてCEAを認知するリガンド(scFv)を挿入した。前記実施例2で作製された、EmGFP発現カセット(pCMV-EmGFP-tkpA)が挿入されたKOS-37/BAC-EmGFP-gD-R222N/F223I DNAにある糖タンパク質gHのアミノ酸29番と30番間の位置に、HER2scFv、EpCAMscFv、CEAscFvを発現できる遺伝子を挿入した。
【0108】
HSV-1のgHにHER2scFv、EpCAMscFv、CEAscFvリガンドが挿入された、KOS-gH/HER2scFv-EmGFP-gD/R222N/F223Iウイルス、KOS-gH/EpCAMscFv-EmGFP-gD/R222N/F223Iウイルス、及びKOS-gH/CEAscFv-EmGFP-gD/R222N/F223Iウイルスゲノム概要図を図5に示し、また、図6に、gH糖タンパク質に挿入されるHER2scFv、gH-EpCAM2scFv及びgH-CEAscFvリガンドの全体アミノ酸配列と当該配列の構成を示した。
【0109】
ここで、HER2に対するscFvは、配列番号4のVHと配列番号5のVLが配列番号18のリンカーペプチドを媒介にして連結された構成であり、このHER2scFvのN末端とC末端にはそれぞれ配列番号19のリンカーペプチドと配列番号20のリンカーペプチド連結されている。また、EpCAMに対するscFvは、配列番号6のVLと配列番号7のVHが配列番号21のリンカーペプチドを媒介にして連結された構成であり、このEpCAM scFvのN末端とC末端にはそれぞれ配列番号22のリンカーペプチドと配列番号23のリンカーペプチドが連結されている。CEAに対するscFvは、配列番号8のVLと配列番号9のVHが配列番号24のリンカーペプチドを媒介にして連結された構成であり、このCEA scFvのN末端とC末端にはそれぞれ配列番号25のリンカーペプチドと配列番号26のリンカーペプチドが連結されている。
【0110】
本実施例で使用されたHER2scFvの全長のアミノ酸配列と遺伝子配列はそれぞれ、配列番号27と配列番号28に開示されており、EpCAM2scFvの全長のアミノ酸配列と遺伝子配列はそれぞれ、配列番号29と配列番号30に開示されており、CEAscFvの全長のアミノ酸配列と遺伝子配列はそれぞれ、配列番号31と配列番号32に開示されている。
【0111】
gHにHER2scFv、EpCAMscFv、CEAscFvリガンド挿入は、前記実施例1及び2と同様に、カウンターセレクションBAC修飾キット(counter selection BAC modification kit;GeneBridges.Inc)を用いてメーカーのプロトコルにしたがって進行した。
【0112】
具体的には、前記実施例2で作製されたKOS-37/BAC-EmGFP-gD-R222N/F223I DNAが入っているE.coliクローンに、相同組換え(homologous recombination)機能を行うRecEとRecTを発現するpRed/ETプラスミドを形質転換した(Muyrers JP et al.,Rapid modification of bacterial artificial chromosomes by ET-recombination,Nucleic Acids Res.1999.27(6):1555-1557)。gHのアミノ酸29番と30番の間にターゲット遺伝子を導入しようとする位置を含む相同領域のプライマー(homologous region primer)セット(正方向プライマーgH29/30-rpsL-neo_for:配列番号33、逆方向プライマーgH29/30-rpsL-neo_rev:配列番号34)を用いてgH29/30-rpsL-neo/kanカセット(cassette)を作製した。KOS37-EmGFP-gD-R222N/F223I DNAとpRed/ETが入っているクローンにL-アラビノース(L-arabinose;Sigma-Aldrich)を添加して相同組換え(homologous recombination)が可能なように誘導した後、前記作製したgH29/30-rpsL-neo/kanカセット200ngを形質転換する。このような相同組換えによってgH29/30-rpsL-neo/kanカセットがKOS-37/BAC-EmGFP-gD-R222N/F223I DNAのgH29番と30番アミノ酸間の位置に挿入される。gH29/30-rpsL-neo/kanが挿入されたE.coliは、カナマイシン抵抗性を有しているが、ストレプトマイシン抵抗性はrpsL遺伝子によって遮断される。カナマイシン培地から選別されたE.coliはgH29/30-rpsL-neo/kanが挿入されたと判断し、最後の段階であるターゲット遺伝子を挿入する段階に進行した。
【0113】
gH29/30-rpsL-neo/kanカセットがあるE.coliに、pRed/ETの機能を活性化させるL-アラビノース(L-arabinose;Sigma-Aldrich)を添加して相同組換え(homologous recombination)が可能なように誘導した後、それぞれ、gH29/30-HER2scFv、gH29/30-EpCAM、gH29/30-CEAscFvリガンド200ngを形質転換させた。前記gH29/30-HER2scFvリガンドはpCAGGSMCS-gH-HER2scFvプラスミドを、gH29/30-EpCAMscFvリガンドはpCAGGSMCS-gH-EpCAMscFvプラスミドを、gH29/30-CEAscFvリガンドはpCAGGSMCS-gH-CEAscFvプラスミドを鋳型とし、正方向プライマーgH29/30_scFv_For(配列番号35)と逆方向プライマーgH29/30_scFv_Rev(配列番号36)を用いて作製した。前記pCAGGSMCS-gH-HER2scFvプラスミド、pCAGGSMCS-gH-EpCAMscFvプラスミド、pCAGGSMCS-gH-CEAscFvプラスミドは、pCAGGSMCSプラスミド(Atanasiu D,et al.,Dual split protein-based fusion assay reveals that mutations to herpes simplex virus(HSV)glycoprotein gB alter the kinetics of cell-cell fusion induced by HSV entry glycoproteins.J.Virol.2013,Nov.87(21):11332-11345)のMCSに各scFvの遺伝子を挿入して作製したものである。
【0114】
既存挿入されたgH29/30-rpsL-neo/kanカセットと先に挿入されたgH29/30-Target scFvが交替されながらrpsLによって遮断されたストレプトマイシン抵抗性が活性化される原理を用いて、候補群をストレプトマイシン培地から選別した(Heermann,R et al.,Simple generation of site-directed point mutations in the Escherichia coli chromosome using Red/ET Recombination.Microb Cell Fact 7,14,2008)。選別された候補群は、DNA prep方法を用いてDNA分離をし(Horsburgh BC et al.,Genetic manipulation of herpes simplex virus using bacterial artificial chromosomes,Methods enzymol.1999.306:337-352)、gH29/30で各scFvの導入されたか否かを制限酵素EcoRI、XhoI処理とPCR(ploymerase chain recation)によって確認し、PCR産物をシーケンシングして正確な遺伝子配列を確認した。
【0115】
完成されたKOS-37/BAC-gH/HER2scFv-EmGFP-gD-R222N/F223I DNA、KOS-37/BAC-gH/EpCAMscFv-EmGFP-gD-R222N/F223I DNA、KOS-37/BAC-gH/CEAscFv-EmGFP-gD-R222N/F223I DNAを、ラージコンストラクトDNA分離キット(Large construct DNA purification kit,Macherey0-Nagel)を用いて抽出した後、Cre組換え酵素(recombinase)を用いてBAC遺伝子を除去するために、2×10のCre-Vero-HVEM細胞にリポフェクタミン2000試薬(Lipofectamine 2000 reagent,Invitrogen)を用いてDNA 1ugを形質注入した。形質注入3日後、蛍光顕微鏡を用いてEmGFPタンパク質の蛍光発現と細胞のプラーク(plaque)形成を観察した。プラークの形成を確認した後、ウイルスが含まれた細胞を取り入れて3回のfreeze-thaw方法(Gierasch WW et al.,Construction and characterization of bacterial artificial chromosomes containing HSV-1 strains 17 and KOS,J.Virol Methods.2006.135:197~206)と超音波破砕(sonication)を用いてKOS-gH/HER2scFv-EmGFP-gD-R222N/F223Iウイルス(gH-scHER2)、KOS-gH/EpCAMscFv-EmGFP-gD-R222N/F223Iウイルス(gH-scEpCAM)、KOS-gH/CEAscFv-EmGFP-gD-R222N/F223Iウイルス(gH-scCEA)を獲得した。
【0116】
<実施例4>HER2標的化修飾された糖タンパク質gHを有するHSV-1ウイルスを用いたHER2発現癌細胞の感染及び細胞毒性
【0117】
前記実施例3で作製されたKOS-gH/HER2scFv-EmGFP-gD-R222N/F223Iウイルス(gH-scHER2)が、糖タンパク質gHに発現するHER2scFvリガンドによって、周辺の癌細胞にウイルスの感染を誘導するか否か、また感染後細胞死滅を誘導するか否かを確認するために、次のように実験を行った。
【0118】
実験に使用された細胞株は、HER2を発現しない細胞株(MDA-MB-231)とHER2を発現する細胞株(SK-OV-3、MCF7、MDA-MB-231)である。乳癌細胞株であるMDA-MB-231(ATCC,HTB-26)MCF-7(ATCC,HTB-22)、卵巣癌細胞株であるSK-OV-3(ATCC,HTB-77)は、DMEM培地に100U/mlペニシリン/100μg/mlストレプトマイシン(Welgene)と10% FBSを用いて培養した。乳癌細胞株であるMDA-MB-453(ATCC,HTB-131)は、RPMI1640(Welgene)培地に100U/mlペニシリン/100μg/mlストレプトマイシン(Welgene)と10% FBSを用いて培養した。
【0119】
HER2特異的ウイルス感染のために、1×10のSK-OV-3とMDA-MB-231細胞株は2MOIで、前記実施例3で作製されたgHにHER2scFvリガンドを発現するウイルス(gH-scHER2)と対照群であるHER2scFvリガンドを発現しないウイルス(gDm)を感染させた。90分後、残留する初期ウイルスを除去するために新しい培地に交替した。感染2日後、蛍光発現によって、それぞれの細胞株へのウイルス感染を蛍光顕微鏡で観察した。5日間、細胞死滅を測定するためにEZ-Cytox(dogen)試薬を処理し、それぞれのウイルスによる癌細胞株の細胞毒性を蛍光顕微鏡で観察した。また、感染後に、4日間、細胞毒性を測定するためにEZ-Cytox(DoGenBio)試薬を使用し、生きている細胞でのみ形成される発色物質であるホルマザン(formazan)の発色程度を、ELISAリーダ機を用いて吸光度450nmで測定した。吸光度を数値化してそれぞれのウイルスによる癌細胞株の細胞毒性を測定した。
【0120】
結果を、図14に示した。図7から確認されるように、HER2を発現しないMDA-MB-231では、gHにHER2scFvリガンドを発現するgH-scHER2ウイルスとHER2scFvリガンドを発現しないgDmウイルスがいずれも感染されず、蛍光が観察されなかった。しかし、HER2を発現する細胞株であるSK-OV-3、MDA-MB-453、MCF-7は、特異的にHER2scFvリガンドを発現するgH-scHER2ウイルスでのみ感染され、蛍光が観察されることが確認できる。
【0121】
図7に、感染後5日間、ウイルスによる癌細胞の細胞毒性を観察した結果を示した。HER2を発現しないMDA-MB-231では、HER2scFvリガンドを発現するgH-scHER2ウイルスとHER2scFvリガンドを発現しないgDmウイルスとも細胞死滅が起きなかったが、HER2を発現する細胞株であるSK-OV-3、MDA-MB-453、MCF-7は、特異的にgHにHER2scFvリガンドを発現するgH-scHER2ウイルスによってのみ、それぞれ41%、61%、49%の細胞生存率を観察した。結論的に、gHにHER2scFvリガンドを発現するgH-scHER2ウイルスは、HER2を発現する癌細胞の特異的感染及び細胞毒性を効果的に誘導することを確認した。
【0122】
<実施例5>EpCAM標的化修飾された糖タンパク質gHを有するHSV-1ウイルスを用いたEpCAM発現癌細胞の感染及び細胞毒性
【0123】
前記実施例3で作製されたKOS-gH/EpCAMscFv-EmGFP-gD-R222N/F223Iウイルス(gH-scEpCAM)が、糖タンパク質gHに発現するEpCAMscFvリガンドによって、周辺の癌細胞にウイルスの感染を誘導するか否か、また感染後細胞死滅を誘導するか否かを確認するために、次のように実験を行った。
【0124】
実験に使用された細胞株は、EpCAMを発現しない細胞株(Mia-PaCa-2)とEpCAMを発現する細胞株(MCF-7、MDA-MB-453、BT-474)である。乳癌細胞株であるMCF-7(ATCC,HTB-22)、BT-474(ATCC,HTB-20)、膵癌細胞株であるMia-PaCa-2(ATCC,CRL-1420)は、DMEM培地に100U/mlペニシリン/100μg/mlストレプトマイシン(Welgene))と10% FBSを用いて培養し、乳癌細胞株であるMDA-MB-453(ATCC,HTB-131)は、RPMI培地に100U/mlペニシリン/100μg/mlストレプトマイシン(Welgene)と10% FBSを用いて培養した。
【0125】
EpCAM特異的ウイルス感染のために、4.0×10のMCF-7、8.0×10のMDA-MB-453、7.0×10のBT-474細胞株は2MOIで、前記実施例3で作製されたgHにEpCAMscFvリガンドを発現するウイルス(gH-scEpCAM)と対照群であるEpCAMscFvリガンドを発現しないウイルス(gDm)を感染させた。90分後、残留する初期ウイルスを除去するために新しい培地に交替した。感染2日後、蛍光発現によって、それぞれの細胞株にウイルス感染を蛍光顕微鏡で観察した(BaeK HJ et al.,Bispecific Adapter-Mediated Retargeting of a Receptor-Restricted HSV-1Vector to CEA-Bearing Tumor Cells,Mol Ther.2011.19(3):507-514)。感染後5日間、細胞毒性を測定するために、EZ-Cytox(DoGenBio)試薬を使用し、生きている細胞でのみ形成される発色物質であるホルマザン(formazan)の発色程度を、ELISAリーダ機を用いて吸光度450nmで測定した。吸光度を数値化してそれぞれのウイルスによる癌細胞株の細胞毒性を測定した。
【0126】
結果を図8に示した。図8から確認されるように、EpCAMを発現しないMia-PaCa-2では、EpCAMscFvリガンドを発現するウイルス(gH-scEpCAM)と対照群であるEpCAMscFvリガンドを発現しないウイルス(gDm)とも感染されず、蛍光が観察されなかった。しかし、EpCAMを発現する細胞株であるSK-OV-3、MDA-MB-453、MCF-7は、特異的にEpCAMscFvリガンドを発現するウイルス(gH-scEpCAM)でのみ感染され、蛍光が観察されることが確認できる。
【0127】
図8に、感染後5日間、ウイルスによる癌細胞の細胞毒性を観察した結果を示した。EpCAMを発現しないMia-PaCa-2では、EpCAMscFvリガンドを発現するウイルス(gH-scEpCAM)と対照群であるEpCAMscFvリガンドを発現しないウイルス(gDm)とも細胞死滅が起きなかったが、EpCAMを発現する細胞株であるBT-474、MDA-MB-453、MCF-7は、特異的にEpCAMscFvリガンドを発現するウイルス(gH-scEpCAM)によってのみそれぞれ35%、22%、36%の細胞生存率を観察した。結論的に、gHにEpCAMscFvリガンドを発現するウイルスは、EpCAMを発現する癌細胞の特異的感染及び細胞死滅を効果的に誘導することを確認した。
【0128】
<実施例6>CEA標的化修飾された糖タンパク質gHを有するHSV-1ウイルスを用いたCEA発現癌細胞の感染及び細胞毒性
【0129】
前記実施例3で作製されたKOS-gH/CEAscFv-EmGFP-gD-R222N/F223Iウイルス(gH-scCEA)が、糖タンパク質gHに発現するECEAscFvリガンドによって、周辺の癌細胞にウイルスの感染を誘導するか否かを確認するために、次のように実験を行った。
【0130】
実験に使用された細胞株は、CEAを発現しない細胞株(CHO-K1)とCEAを発現する細胞株(CHO-CEA)である。中国ハムスター卵巣細胞株であるCHO-K1、CHO-CEA(Kuroki M et al.,J Biol Chem.1991.74:10132-10141)は、HaM’s F-12K培地(Welgene)に100U/mlペニシリン/100μg/mlストレプトマイシン(Welgene)と10% FBS(fetal bovine serum)を用いて培養した。
【0131】
EpCAM特異的ウイルス感染のために、2.5×10のCHO-K1とCHO-CEA細胞株に20MOIで、前記実施例3で作製されたgHにCEAscFvリガンドを発現するウイルス(gH-scCEA)と対照群であるEpCAMscFvリガンドを発現しないウイルス(gDm)を感染させた。90分後、残留する初期ウイルスを除去するために新しい培地に交替した。感染2日後、蛍光発現によって、それぞれの細胞株にウイルス感染を蛍光顕微鏡で観察した(BaeK HJ et al.,Bispecific Adapter-Mediated Retargeting of a Receptor-Restricted HSV-1Vector to CEA-Bearing Tumor Cells,Mol Ther.2011.19(3):507-514)。
【0132】
結果を図9に示した。図9から確認されるように、CEAを発現しないCHO-K1では、gHにCEAscFvリガンドを発現するウイルス(gH-scCEA)と対照群であるEpCAMscFvリガンドを発現しないウイルス(gDm)とも感染されず、蛍光が観察されなかった。しかし、CEAを発現する細胞株であるCHO-CEAでは、特異的にCEAscFvリガンドを発現するウイルス(gH-scCEA)でのみ感染され、蛍光が観察されることが確認できる。結論的に、gHにCEAscFvリガンドを発現するウイルスは、CEAを発現する細胞の特異的感染を効果的に誘導することを確認した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
0007573726000001.app