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特許7573752熱分解油を混合金属酸化物触媒で軽質芳香族化合物にアップグレードするためのシステムおよび方法
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  • 特許-熱分解油を混合金属酸化物触媒で軽質芳香族化合物にアップグレードするためのシステムおよび方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】熱分解油を混合金属酸化物触媒で軽質芳香族化合物にアップグレードするためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 4/00 20060101AFI20241018BHJP
   C07C 15/04 20060101ALI20241018BHJP
   C07C 15/06 20060101ALI20241018BHJP
   C07C 15/073 20060101ALI20241018BHJP
   C07C 15/08 20060101ALI20241018BHJP
   B01J 23/83 20060101ALI20241018BHJP
   C10G 47/04 20060101ALI20241018BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20241018BHJP
【FI】
C07C4/00
C07C15/04
C07C15/06
C07C15/073
C07C15/08
B01J23/83 M
C10G47/04
C07B61/00 300
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023534314
(86)(22)【出願日】2022-01-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-21
(86)【国際出願番号】 US2022013686
(87)【国際公開番号】W WO2022169637
(87)【国際公開日】2022-08-11
【審査請求日】2023-12-18
(31)【優先権主張番号】17/167,489
(32)【優先日】2021-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】316017181
【氏名又は名称】サウジ アラビアン オイル カンパニー
【氏名又は名称原語表記】Saudi Arabian Oil Company
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100163050
【弁理士】
【氏名又は名称】小栗 眞由美
(74)【代理人】
【識別番号】100224775
【弁理士】
【氏名又は名称】南 毅
(72)【発明者】
【氏名】スゥン,ミャオ
(72)【発明者】
【氏名】アル-マナ,ヌール
(72)【発明者】
【氏名】シャイフ,ソエル ケー
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,ジョンリン
(72)【発明者】
【氏名】アルマルキ,ファハド エー
【審査官】石田 傑
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-144094(JP,A)
【文献】特開平3-131685(JP,A)
【文献】特表2020-506270(JP,A)
【文献】特開2011-178919(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0001318(US,A1)
【文献】特表2017-511827(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C10G
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱分解油をアップグレードする方法において、
軽質芳香族化合物を含む反応流出物を生成する反応条件で、混合金属酸化物触媒の存在下で前記熱分解油を水素と接触させる工程、
を含み、
前記熱分解油は、多環芳香族化合物を含み、
前記混合金属酸化物触媒は
60質量%から95質量%の酸化鉄、
1質量%から20質量%の酸化ジルコニウム、
0.1質量%から10質量%の酸化セリウム、および
1質量%から20質量%の酸化アルミニウム、
を含み、
これらの質量百分率は、前記混合金属酸化物触媒の総質量に基づくものであり、
前記反応条件で、前記混合金属酸化物触媒の存在下で前記熱分解油を水素と接触させると、該熱分解油中の前記多環芳香族化合物の少なくとも一部が前記軽質芳香族化合物に変換される、方法。
【請求項2】
前記熱分解油が、該熱分解油の総質量に基づいて、16以上の炭素原子を有する多環芳香族化合物を30質量パーセント(質量%)以上含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
セ氏300度(℃)から500℃の温度で、1メガパスカル(MPa)(10バール)から20MPa(200バール)の圧力で、またはその両方で、前記混合金属酸化物触媒の存在下で前記熱分解油を水素と接触させる工程を含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記軽質芳香族化合物が、6から13の炭素原子を有する芳香族炭化水素を含む、もしくは
前記軽質芳香族化合物が、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、またはこれらの組合せを含む、請求項1から3いずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記混合金属酸化物触媒の存在下で前記熱分解油を水素と接触させる前に、該熱分解油をトルエンと混合する工程をさらに含む、請求項1から4いずれか1項記載の方法。
【請求項6】
95/5から63/35の熱分解油対トルエンの質量比で前記熱分解油とトルエンを混合する工程を含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記混合金属酸化物触媒の存在下で前記熱分解油を水素と接触させた後、前記反応流出物からガス状成分を分離して、該反応流出物の液体部分を生成する工程をさらに含む、請求項1から6いずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記反応流出物を分離して、使用済み混合金属酸化物触媒および軽質芳香族化合物を含む反応生成物を生成する工程をさらに含む、請求項1から7いずれか1項記載の方法。
【請求項9】
分離ユニット内で前記反応流出物を分離して、前記使用済み混合金属酸化物触媒および前記反応生成物を生成する工程を含み、該分離ユニットが遠心分離機を含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記反応条件で、前記混合金属酸化物触媒の存在下で前記熱分解油を水素と接触させることにより、該混合金属酸化物触媒上に堆積された凝縮物が生成されて、使用済み混合金属酸化物触媒が生成され、前記方法は、該使用済み混合金属酸化物触媒をトルエンで洗浄して、該使用済み混合金属酸化物触媒から前記凝縮物の少なくとも一部を除去する工程をさらに含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
第1に20℃から30℃の温度で、第2に80℃超の温度で前記使用済み混合金属酸化物触媒を真空乾燥させる工程を含む、請求項9または10記載の方法。
【請求項12】
前記反応条件で、前記混合金属酸化物触媒の存在下で前記熱分解油を水素と接触させると、その後の化学反応工程を行わずに、一工程で、該熱分解油中の前記多環芳香族化合物の前記一部が前記軽質芳香族化合物に変換される、請求項1から11いずれか1項記載の方法。
【請求項13】
熱分解油をアップグレードするためのシステムにおいて、
混合金属酸化物触媒を含む熱分解アップグレードユニットであって、
前記混合金属酸化物触媒は
60質量%から95質量%の酸化鉄、
1質量%から20質量%の酸化ジルコニウム、
0.1質量%から10質量%の酸化セリウム、および
1質量%から20質量%の酸化アルミニウム、
を含み、
これらの質量百分率は、前記混合金属酸化物触媒の総質量に基づくものであり、
前記熱分解アップグレードユニットは、前記混合金属酸化物触媒の存在下で前記熱分解油を水素と接触させて、反応流出物を生成する働きをする、熱分解アップグレードユニット、および
前記熱分解アップグレードユニットの下流に配置され、前記反応流出物から使用済み混合金属酸化物触媒を分離して、軽質芳香族化合物を含む反応生成物を生成する働きをする分離ユニット、
を備えたシステム。
【請求項14】
前記分離ユニットが、前記熱分解アップグレードユニットの直接下流にあり、該分離ユニットが遠心分離機を含む、請求項13記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、本開示に全てが引用される、「Systems and Methods for Upgrading Pyrolysis Oil to Light Aromatics Over Mixed Metal Oxide Catalysts」と題する、2021年2月4日に出願された米国特許出願第17/167489号に優先権を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本開示は、広く、炭化水素をアップグレードするためのシステムおよび方法に関し、より詳しくは、熱分解油を混合金属酸化物触媒で軽質芳香族化合物にアップグレードするためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
原油は、1つ以上の水素化処理過程によって価値のある化学中間体と生成物に変換することができる。水素化処理過程は、原油中のより大きい炭化水素が分解されて、より小さい炭化水素を形成する水蒸気分解を含み得る。水蒸気分解ユニットは底部流を生成し、これは、熱分解油と称される。この熱分解油は、原油原料と比べて濃度の増加した芳香族化合物を含むことがある。多くの原油処理施設では、この熱分解油が燃料として燃やされる。しかしながら、熱分解油中の芳香族化合物は、より価値のある化学生成物および中間体に変換することができ、これらは、化学合成過程において構成要素として使用することができる。例えば、熱分解油からの芳香族化合物は、キシレンに変換することができ、これは、テレフタル酸を生成するための初期構成要素であり得、これは、次に、ポリエステルを生成するために使用することができる。熱分解油中の芳香族化合物は、多くの他のより価値のある芳香族生成物および中間体にアップグレードすることができる。これらのより価値のある芳香族化合物の市場の需要は、成長し続けている。
【発明の概要】
【0004】
水蒸気分解過程からの熱分解油は、熱分解油中の多環芳香族化合物を1種類以上の軽質芳香族化合物に変換する働きをする触媒と熱分解油を接触させることによりアップグレードして、より価値のある生成物と中間体を生成することができる。その軽質芳香族化合物としては、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、他の芳香族化合物、またはこれらの組合せが挙げられる。熱分解油をアップグレードする働きをする既存の触媒は、触媒担体上に担持された2種類以上の金属を有する多金属水素化分解触媒を含み得る。これらの多金属水素化分解触媒は、典型的に、微孔性触媒担体上に含浸された金属水素化物、金属硝酸塩、および他の従来の金属前駆体など、従来の金属前駆体から調製される。
【0005】
これらの従来の多金属水素化分解触媒は、ゼオライト担体を使用して調製されることがある。このゼオライト担体は、一般に、約2ナノメートル(nm)未満の平均細孔径を有し、微孔性であることがある。しかしながら、熱分解油中に存在する多環芳香族化合物は、これらの従来の多金属触媒を調製するために使用されるゼオライト担体の平均細孔径よりも大きい分子サイズを有することがある。それゆえ、ナノ多孔性ゼオライトの平均細孔径が小さいために、より大きい多環芳香族化合物のゼオライト担体の細孔内にある反応部位へのアクセスが制限され、それゆえ、これらの既存の多金属水素化分解触媒で達成できる収率と転化率が低下してしまうであろう。
【0006】
したがって、熱分解油をアップグレードして、軽質芳香族化合物を生成するための改良触媒が、引き続き必要とされている。本開示は、混合金属酸化物触媒を含む、熱分解油をアップグレードするためのシステムに関する。本開示は、混合金属酸化物触媒を使用して、熱分解油をアップグレードする方法にも関する。本開示の混合金属酸化物触媒は、複数の触媒粒子を含むことがあり、その複数の触媒粒子の各々は、複数の金属酸化物を有することがある。本開示の混合金属酸化物触媒は、その後の化学反応工程を行わずに、単一工程で熱分解油中の多環芳香族化合物の一部を軽質芳香族化合物に変換することができる。このシステムおよび方法は、既存の多金属水素化分解触媒を使用した熱分解油のアップグレードと比べて、より高い収率で、熱分解油のアップグレードによる軽質芳香族化合物を生成することもできる。
【0007】
本開示の1つ以上の態様によれば、熱分解油をアップグレードする方法は、軽質芳香族化合物を含む反応流出物を生成する反応条件で、混合金属酸化物触媒の存在下で熱分解油を水素と接触させる工程を含むことがある。熱分解油は、多環芳香族化合物を含むことがある。混合金属酸化物触媒は、複数の触媒粒子を含むことがあり、その複数の触媒粒子の各々は、複数の金属酸化物を含むことがある。上記反応条件で、混合金属酸化物触媒の存在下で熱分解油を水素と接触させる工程により、熱分解油中の多環芳香族化合物の少なくとも一部が軽質芳香族化合物に変換することができる。
【0008】
本開示の1つ以上の他の態様によれば、熱分解油をアップグレードするためのシステムは、熱分解アップグレードユニットおよび分離ユニットを備えることがある。熱分解アップグレードユニットは、混合金属酸化物触媒を含むことがある。混合金属酸化物触媒は、複数の触媒粒子を含むことがあり、その複数の触媒粒子の各々は、複数の金属酸化物を含むことがある。熱分解アップグレードユニットは、混合金属酸化物触媒の存在下で熱分解油を水素と接触させて、反応流出物を生成する働きをすることができる。分離ユニットは、熱分解アップグレードユニットの下流に配置されることがあり、反応流出物から使用済み混合金属酸化物触媒を分離して、軽質芳香族化合物を含む反応生成物を生成する働きをすることができる。
【0009】
本開示に記載された技術の追加の特徴と利点は、以下の詳細な説明に述べられており、一部は、その説明から当業者に容易に明白となるか、または以下の詳細な説明、特許請求の範囲、並びに添付図面を含む、本開示に記載されたような技術を実施することによって、認識されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本開示の特定の実施の形態の以下の詳細な説明は、同様の構造に同様に参照番号が振られている、添付図面と共に読まれたときに、最もよく理解することができる。
図1】本開示に示され、記載された1つ以上の実施の形態による、熱分解油をアップグレードするためのシステムの一般化フローチャート
図2】本開示に示され、記載された1つ以上の実施の形態による、水蒸気分解により生成された熱分解油中に存在する様々な成分(X軸)の質量百分率(Y軸)を示すグラフ
図3】本開示に示され、記載された1つ以上の実施の形態による、使用済み混合金属酸化物触媒の洗浄を含む、熱分解油をアップグレードするための別のシステムの一般化フローチャート 図1および3の単純化された概略図および記載を説明する目的のために、使用することができ、特定の化学処理操作の当業者に周知の多数の弁、温度センサ、電子制御装置などは、含まれていない。さらに、例えば、吸気口、熱交換器、サージタンク、触媒ホッパー、または他の関連システムなど、化学処理操作に大抵含まれる付随の構成部材は、示されていない。これらの構成要素は、開示された本実施の形態の精神および範囲に含まれることが分かるであろう。しかしながら、本開示に記載されたものなどの操作構成要素は、本開示に記載された実施の形態に加えられてもよい。
【0011】
さらに、図面中の矢印は、プロセスの流れを指すことにさらに留意されたい。しかしながら、その矢印は、等価的に、2つ以上のシステム構成要素間でプロセス蒸気を移送する働きをし得る移送ラインを指すことがある。さらに、システム構成要素に接続する矢印は、各所定のシステム構成要素における入口または出口を定義する。矢印の方向は、一般に、矢印によって示される物理的な移送ライン内に収容される流れの材料の主要な移動方向と一致する。さらに、2つ以上のシステム構成要素を接続しない矢印は、描かれたシステムから出る生成物の流れ、または描かれたシステムに入るシステム入口流を意味する。生成物の流れは、付随する化学処理システムでさらに処理されても、最終生成物として商業化されてもよい。システム入口流は、付随する化学処理システムから移送される流れであっても、処理されていない原料流であってもよい。いくつかの矢印は、システム構成要素の流出流であり、システムに再循環される再循環流を表すことがある。しかしながら、いくつかの実施の形態において、表された再循環流のいずれも、同じ材料のシステム入口流で置き換えられてもよく、再循環流の一部はシステム生成物としてシステムから出てもよいことを理解すべきである。
【0012】
さらに、図面中の矢印は、あるシステム構成要素からの流れを別のシステム構成要素に輸送するプロセス工程を概略的に描写することがある。例えば、あるシステム構成要素から別のシステム構成要素を指す矢印は、システム構成要素の流出物を別のシステム構成要素に「通過させる」ことを表す場合があり、これは、プロセス流の内容物が、あるシステム構成要素から「出る」または「除去」され、その生成物流の内容物を別のシステム構成要素に「導入」することを含む場合がある。
【0013】
図1および3の概略流れ図において2つ以上の線が交差する場合、2つ以上のプロセス流は「混合され」または「組み合わされ」ることを理解すべきである。混合または組合せは、両方の流れを同様の反応器、分離装置、または他のシステム構成要素に直接導入することによる混合も含むことがある。例えば、2つの流れが分離ユニットまたは反応器に入る前に直接組み合わされるように描かれている場合、いくつかの実施の形態において、流れは、等価的に分離ユニットまたは反応器に導入され、反応器で混合され得ることを理解すべきである。
【0014】
ここで、そのいくつかの実施の形態が添付図面に示されている、本開示の様々な実施の形態を詳しく参照する。できるときはいつでも、図面に亘り、同じまたは同様の部分を称するために、同じ参照番号が使用される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示の実施の形態は、熱分解油をアップグレードするためのシステムおよび方法に関する。ここで図1を参照すると、熱分解油102をアップグレードするための本開示のシステム100の1つの実施の形態が、概略示されている。熱分解油102をアップグレードするためのシステム100は、熱分解アップグレードユニット110およびこの熱分解アップグレードユニット110の下流に配置された分離ユニット120を備えることがある。熱分解アップグレードユニット110は、複数の触媒粒子を含む混合金属酸化物触媒106を含むことがあり、その複数の触媒粒子の各々は複数の金属酸化物を含む。熱分解アップグレードユニット110は、混合金属酸化物触媒106の存在下で熱分解油102を水素104と接触させて、反応流出物114を生成する働きをすることができる。熱分解アップグレードユニット110の下流に配置された分離ユニット120は、反応流出物114から使用済み混合金属酸化物触媒124を分離して、軽質芳香族化合物を含む反応生成物流出物122を生成する働きをすることができる。本開示は、熱分解油102をアップグレードする方法にも関する。詳しくは、この方法は、軽質芳香族化合物を含む反応流出物114を生成する反応条件で、混合金属酸化物触媒106の存在下で熱分解油102を水素104と接触させる工程を含むことがある。
【0016】
熱分解油をアップグレードするための本開示の様々なシステムおよび方法は、単一工程で熱分解油を軽質芳香族化合物に変換することができる。従来、熱分解油は、従来の多金属水素化分解触媒などの従来の触媒で、単一工程で軽質芳香族化合物にアップグレードできていない。本開示のシステムおよび方法において、熱分解油は、混合金属酸化物触媒の存在下で水素と接触させられて、単一工程で熱分解油中の多環芳香族化合物を軽質芳香族化合物に変換することができる。
【0017】
本開示に使用されるように、「触媒」は、特定の化学反応の速度を増加させる任意の物質を称することがある。本開示に記載された触媒および触媒成分は、以下に限られないが、水素化、開環、不均化、脱アルキル化、トランスアルキル化、分解、芳香族分解、またはこれらの組合せなどの様々な反応を促進するために利用されることがある。
【0018】
本開示に使用されるように、「分解(cracking)」は、炭素-炭素結合を有する分子が、この炭素-炭素結合の1つ以上の分解(breaking)により複数の分子に分解される;芳香族化合物などの環状部分を含む化合物が、環状部分を含まない化合物に変換される;または炭素-炭素二重結合を有する分子が、炭素-炭素単結合になる、化学反応を称することができる。ある触媒は、多数の形態の触媒活性を有することがあり、1つの特定の機能で触媒を呼ぶことは、その触媒が、他の機能性について触媒的に活性ではなくなることにはならない。
【0019】
本開示に使用されるように、「芳香族化合物」という用語は、1つ以上の芳香環構造を有する1種類以上の化合物を称することができる。「軽質芳香族化合物」という用語は、置換の有無にかかわらずに、芳香環、および6から8の炭素原子を有する1種類以上の化合物を称することができる。「BTEX」という用語は、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、パラ-キシレン、メタ-キシレン、およびオルト-キシレンの任意の組合せを称することができる。
【0020】
本開示の全体に亘り使用されるように、「原油」または「全原油(whole crude oil)」という用語は、油田から、または蒸留によってどの画分も分離されていない脱塩ユニットから直接受け取った原油を称することができる。
【0021】
本開示の全体に亘り使用されるように、「上流」および「下流」という用語は、プロセス流の流れ方向に関するユニット操作の相対的な位置付けを称することができる。システムの第1のユニット操作は、システムを流れるプロセス流が第2のユニット操作に遭遇する前に第1のユニット操作に遭遇する場合、第2のユニット操作の「上流」であると考えられる。同様に、第2のユニット操作は、システムを流れるプロセス流が第2のユニット操作に遭遇する前に第1のユニット操作に遭遇する場合、第1のユニット操作の「下流」であると考えられる。
【0022】
本開示に使用されるように、流れまたは流出物をあるユニットから別のユニットに「直接」通過させることは、その流れまたは流出物の組成を実質的に変える介在する反応システムまたは分離システムに流れまたは流出物を通さずに、第1のユニットから第2のユニットに流れまたは流出物を通過させることを称することができる。熱交換器、予熱器、冷却機、凝縮器、または他の熱伝導設備などの熱伝導装置、およびポンプ、圧力調整器、圧縮機、または他の圧力装置などの圧力装置は、流れまたは流出物の組成を変える介在するシステムであると考えられない。プロセスユニットの上流で2つの流れまたは流出物を互いに組み合わせることも、組み合わされている流れまたは流出物の一方または両方の組成を変える介在するシステムを構成すると考えられない。ある流れを、同じ組成を有する2つの流れに単に分けることは、流れの組成を変える介在システムを含むとは考えられない。
【0023】
本開示に使用されるように、「分離ユニット」は、互いからのプロセス流中で混合されている1種類以上の化学物質を少なくともある程度分離する任意の分離装置を称する。例えば、分離ユニットは、互いからの異なる化学種を選択的に分離して、1つ以上の化学分画を形成することができる。分離ユニットの例としては、制限なく、蒸留塔、フラッシュドラム、ノックアウトドラム、ノックアウトポット、遠心分離機、濾過装置、トラップ、気体洗浄装置、膨張装置、膜、溶媒抽出装置などが挙げられる。本開示に記載された分離過程は、1種類の化学成分の全てを別の化学成分の全てから完全に分離しなくてよいことを理解すべきである。本開示に記載された分離過程は、互いから異なる化学成分を「少なくともある程度」分離することを理解すべきであり、明白に記載されていなくとも、分離は部分的分離のみを含んでもよいことを理解すべきである。本開示に使用されるように、1種類以上の化学成分は、プロセス流から「分離」されて、新たなプロセス流を形成することがある。一般に、プロセス流は、分離ユニットに入り、所望の組成の2つ以上のプロセス流に分けられる、または分離されることがある。さらに、ある分離過程では、「軽質分画」および「重質分画」が、分離ユニットから別々に出ることがある。一般に、軽質分画流は、重質分画流よりも沸点が低い。分離ユニットが1つだけ図面に示されている、または記載されている場合、同一のまたは実質的に同一の分離を行うために、2つ以上の分離ユニットを用いてもよいことをさらに理解すべきである。例えば、多数の出口を有する蒸留塔が記載されている場合、直列に配列されたいくつかの分離器が供給流を等しく分離することがあり、そのような実施の形態は、現在記載されている実施の形態の範囲に入ると考えられる。
【0024】
本開示に使用されるように、「流出物」という用語は、特定の反応または分離過程の後に反応器、反応区域、もしくは分離ユニットから排出される流れを称することができる。一般に、流出物は、分離ユニット、反応器、または反応区域に入った流れと異なる組成を有する。流出物が別のシステムユニットに通過させられる場合、そのシステム流の一部だけが通過させられることがあることを理解すべきである。例えば、スリップ流(同じ組成を有する)は、流出物のいくらかを運び去ることがあり、これは、流出物の一部だけが下流のシステムユニットに入ることがあるのを意味する。「反応流出物」という用語は、反応器または反応区域から排出される流れを称するために、より具体的に使用することができる。
【0025】
流れは、その流れの成分について命名されることがあり、流れが命名されたその成分は、流れの主成分(例えば、流れの含有量の50質量パーセント(質量%)から、70質量%から、90質量%から、95質量%から、99質量%から、99.5質量%から、またさらには99.9質量%から、流れの含有量の100質量%までを含む)であることがあるのをさらに理解すべきである。流れの成分は、その成分を含む流れがあるシステム構成要素から別の構成要素に通過させられると開示されている場合、そのシステム構成要素から別の構成要素に通過させられると開示されることも理解すべきである。例えば、第1のシステム構成要素に、または第1のシステム構成要素から第2のシステム構成要素に通過すると開示された「水素流」は、その第1のシステム構成要素に、または第1のシステム構成要素から第2のシステム構成要素に通過する「水素」を等価的に開示するものとする。
【0026】
再び図1を参照すると、熱分解油102をアップグレードするためのシステム100が概略示されている。熱分解油102をアップグレードするためのシステム100は、熱分解アップグレードユニット110およびこの熱分解アップグレードユニット110の下流にある分離ユニット120を備えることがある。熱分解アップグレードユニット110は、1つまたは複数の反応器を備えることがあり、触媒の存在下で熱分解油102を水素104と接触させて、反応流出物114を生成する働きをすることがある。その触媒は、本開示の混合金属酸化物触媒106である。反応流出物114を分離ユニット120に通過させることがあり、この分離ユニットは、1つまたは複数の分離過程または単位操作を含むことがある。分離ユニット120は、反応流出物114から使用済み混合金属酸化物触媒を分離して、反応生成物流出物122および使用済み混合金属酸化物触媒124を生成する働きをすることがある。反応生成物流出物122は、軽質芳香族化合物を含むことがある。詳しくは、反応生成物流出物122は、トルエン、ベンゼン、エチルベンゼン、キシレン、またはこれらの組合せを含むことがある。
【0027】
熱分解油102は、多環芳香族化合物などの芳香族化合物が豊富な炭化水素処理設備からの流れであることがある。実施の形態において、熱分解油102は、水蒸気分解過程からの底部流であることがある。本開示に使用されるように、「底部流」は、凝縮蒸気として別々に捕捉されていない揮発性の最も低い成分を含む残滓または供給物(水蒸気分解過程への供給物など)の分画を称することがある。熱分解油102は、非芳香族化合物および多環芳香族化合物を含むことがある。多環芳香族化合物としては、2、3、4、5、6、7、8、または8超の芳香環構造を有する芳香族化合物が挙げられるであろう。熱分解油102は、以下に限られないが、飽和炭化水素などの他の成分も含むことがある。図2を参照すると、サウジアラビア国からの原油を水蒸気分解することにより生じた典型的な熱分解油102の組成が、グラフで示されている。図2に示されるように、熱分解油102は、単環芳香族化合物、二環芳香族化合物、三環芳香族化合物、四環芳香族化合物、五環芳香族化合物、六環芳香族化合物、および7以上の芳香環を有する芳香族化合物(図2では、七環以上の芳香族化合物)を含むことがある。熱分解油102は、図2に示されるように、二環芳香族化合物および7以上の芳香環を有する芳香族化合物を高濃度で含むことがある。実施の形態において、多環芳香族化合物が豊富な熱分解油102は、熱分解油102の単位質量に基づいて、50質量%以上の多環芳香族化合物、例えば、60質量%以上、65質量%以上、70質量%以上、75質量%以上、またさらには80質量%以上の多環芳香族化合物を含むことがある。熱分解油102は、熱分解油102の単位質量に基づいて、16以上の炭素原子を有する多環芳香族化合物を30質量%以上、例えば、16以上の炭素原子を有する多環芳香族化合物を35質量%以上、40質量%以上、45質量%以上、50質量%以上、またさらには55質量%以上含むことがある。熱分解油102は、低濃度の硫黄および硫黄化合物も有することがある。熱分解油102は、500質量百万分率(ppmw)、例えば、400ppmw以下、またさらには300ppmw以下の濃度の硫黄および硫黄含有化合物を有することがある。
【0028】
本開示のシステム100および方法は、相当な濃度の多環芳香族化合物を有することがある、処理することが難しい他の炭素質資源または他の重質油をアップグレードする働きもすることができる。他の重質油としては、以下に限られないが、オイルサンドビチューメンおよび重質油残留物が挙げられるであろう。
【0029】
実施の形態において、熱分解油102は、熱分解アップグレードユニット110に送られる前に、トルエン103で希釈されることがある。熱分解油102は粘度が高いために、熱分解油102の流動性を増加させるために、トルエン103が希釈剤として添加されることがある。トルエン103を熱分解油102に添加することにより、熱分解油102が混合金属酸化物触媒106の表面と接触するのを増すことができる。熱分解油102およびトルエン103は、95/5から65/35の熱分解油102対トルエン103の質量比で混合されることがある。
【0030】
再び図1を参照すると、熱分解油102は、熱分解アップグレードユニット110に送られることがある。熱分解アップグレードユニット110は、混合金属酸化物触媒106の存在下で熱分解油102を水素104と接触させて、反応流出物114を生成する働きをすることができる。混合金属酸化物触媒106の存在下で熱分解油102を水素104と接触させると、熱分解油102中の16以上の炭素原子を有する多環芳香族化合物を軽質芳香族化合物に変換することができる。水素104は、製油所の装置の境界内または外の外部水素源からの補給水素または再循環水素流を含むことがある。水素104は、熱分解アップグレードユニット110に直接送られても、または熱分解アップグレードユニット110の上流で熱分解油102と混ぜ合わされてもよい。水素104は、熱分解アップグレードユニット110を作動圧力まで加圧するために使用されることがある。
【0031】
熱分解アップグレードユニット110は、混合金属酸化物触媒106の存在下で熱分解油102を水素104と接触させるのに適したどのタイプの反応器を含んでもよい。適切な反応器としては、以下に限られないが、回分反応器、固定床反応器、移動床反応器、連続撹拌槽型反応器、栓流反応器、シック・リキッド・アティチュード・ベッド反応器(thick liquid attitude bed reactor)、沸騰床反応器、または反応器の組合せが挙げられるであろう。実施の形態において、熱分解アップグレードユニット110は、1つまたは複数の回分反応器を含む。
【0032】
混合金属酸化物触媒106は、熱分解油102中の16以上の炭素原子を有する多環芳香族化合物を軽質芳香族化合物に変換する働きをすることができる。混合金属酸化物触媒106は、複数の触媒粒子を含むことがある。複数の触媒粒子の各々は、複数の金属酸化物を含むことがある。混合金属酸化物触媒106の複数の金属酸化物は、国際純正応用化学連合(IUPAC)周期表の第3族~第13族の金属の酸化物を含むことがある。実施の形態において、混合金属酸化物触媒106の複数の金属酸化物は、鉄、ジルコニウム、セリウム、アルミニウム、タングステン、モリブデン、チタン、またはこれらの組合せの酸化物を含むことがある。混合金属酸化物触媒106は、ケイ素の酸化物など、半金属の酸化物も含むことがある。混合金属酸化物触媒106は、酸化鉄(Fe)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化セリウム(CeO)、酸化アルミニウム(アルミナ)(Al)、シリカ(SiO)、酸化タングステン(WO)、酸化モリブデン(MoO)、酸化チタン(TiO)、およびこれらの組合せからなる群より選択される金属または半金属の酸化物を含むことがある。
【0033】
混合金属酸化物触媒106は、複数の金属酸化物の内の1つとして酸化鉄を含むことがある。実施の形態において、混合金属酸化物触媒106は、60質量%から95質量%の酸化鉄、例えば、70質量%から90質量%、75質量%から85質量%、または80質量%から85質量%の酸化鉄を含むことがある。混合金属酸化物触媒106は、複数の金属酸化物の内の1つとして酸化ジルコニウムを含むことがある。実施の形態において、混合金属酸化物触媒106は、1質量%から20質量%の酸化ジルコニウム、例えば、1質量%から15質量%、2.5質量%から12.5質量%、または5質量%から10質量%の酸化ジルコニウムを含むことがある。混合金属酸化物触媒106は、複数の金属酸化物の内の1つとして酸化セリウムを含むことがある。実施の形態において、混合金属酸化物触媒106は、0.1質量%から10質量%の酸化セリウム、例えば、0.5質量%から7.5質量%、0.5質量%から5質量%、または1質量%から5質量%の酸化セリウムを含むことがある。混合金属酸化物触媒106は、複数の金属酸化物の内の1つとして酸化アルミニウム(アルミナ)を含むことがある。実施の形態において、混合金属酸化物触媒106は、1質量%から20質量%の酸化アルミニウム(アルミナ)、例えば、2.5質量%から15質量%、3質量%から12.5質量%、または5質量%から10質量%の酸化アルミニウム(アルミナ)を含むことがある。混合金属酸化物触媒106の複数の金属酸化物の質量百分率は、混合金属酸化物触媒106の総質量に基づく。混合金属酸化物触媒106は、60質量%から95質量%の酸化鉄、1質量%から20質量%の酸化ジルコニウム、0.1質量%から10質量%の酸化セリウム、および1質量%から20質量%の酸化アルミニウム(アルミナ)を含む、それからなる、またはそれから実質的になることがある。実施の形態において、混合金属酸化物触媒106は、83質量%の酸化鉄、7.5質量%の酸化ジルコニウム、2.5質量%の酸化セリウム、および7.0質量%の酸化アルミニウム(アルミナ)を含むことがある。
【0034】
前記反応条件で、混合金属酸化物触媒106の存在下で熱分解油102を水素104と接触させることにより、後で化学反応工程を行わずに単一工程で、熱分解油102中の多環芳香族化合物の少なくとも一部を軽質芳香族化合物に変換することができる。二環芳香族および多環芳香族化合物を、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、およびキシレンなどの軽質芳香族化合物に変換することは、多数の同時反応と選択反応を含む複雑な反応スキームである。これらの反応としては、1種類の化合物の全てではなく1つの芳香環の選択的水素変換、その後の飽和ナフテン環のその後の開環、水素化脱アルキル化、トランスアルキル化、および不均化反応が挙げられるであろう。どの特定の理論で束縛する意図もないが、熱分解油102をアップグレードする工程は、少なくとも1つの芳香環構造または多環芳香族化合物を選択的に水素化して、1つ以上の芳香環および少なくとも1つの飽和環を有する分子を生成する工程を含むであろうと考えられる。次に、飽和環部分は、開環を経て、置換芳香族化合物を生成することができる。置換芳香族化合物は、次に、ヒドロアルキル化、トランスアルキル化、または不均化の1つ以上を経て、軽質芳香族化合物を生成することができる。これらの反応、並びに他の化学反応の多数のバリエーションと組合せが、このアップグレード過程中に生じるかもしれないことが理解されよう。熱分解油102をアップグレードするためのこの複雑な一連の同時反応は、混合金属酸化物触媒106を使用して触媒することができる。
【0035】
熱分解アップグレードユニット110は、熱分解油102中の多環芳香族化合物の少なくとも一部をアップグレードして、反応流出物114を生成するのに十分な作動条件で、混合金属酸化物触媒106の存在下で熱分解油102を水素104と接触させることができ、この反応流出物114は、軽質芳香族化合物を含む。熱分解アップグレードユニット110は、セ氏300度(℃)から500℃、例えば、350℃から500℃、400℃から500℃、450℃から500℃、350℃から450℃、または400℃から450℃の範囲内の作動温度、および1メガパスカル(MPa)(10バール)から20MPa(200バール)、例えば、3MPa(30バール)から18MPa(180バール)、または5MPa(50バール)から16MPa(160バール)の作動圧力で作動させることができる。反応器内の混合金属酸化物触媒106対熱分解油102の質量比は、0.1から1、例えば、0.1から0.6、0.3から1.0、または0.3から0.6に及ぶことがある。
【0036】
熱分解アップグレードユニット110の作動条件で、混合金属酸化物触媒106の存在下で熱分解油102を水素104と接触させると、熱分解油102中の多環芳香族化合物の少なくとも一部が多数の同時反応と選択反応を経て、軽質芳香族化合物を形成することができる。混合金属酸化物触媒106の存在下で熱分解油102を水素104と接触させると、反応流出物114の総質量に基づいて、30質量%以上の軽質芳香族化合物、例えば、35質量%以上、40質量%以上、45質量%以上、または50質量%以上の軽質芳香族化合物の収率がもたらされることがある。
【0037】
熱分解アップグレードユニット110は、ガス状成分流出物112として熱分解アップグレードユニット110からガス状成分を通過させるように作動する1つ以上の蒸気出口を備えることがある。この1つ以上の蒸気出口は、混合金属酸化物触媒106の存在下で熱分解油102を水素104と接触させた後に、反応流出物114からガス状成分流出物112を分離する働きをすることができる。ガス状成分流出物112のガス状成分としては、以下に限られないが、過剰な水素104、軽質炭化水素(例えば、メタン、エタンなど)、硫黄成分(例えば、硫化水素(HS))、またはこれらの組合せが挙げられるであろう。ガス状成分流出物112は、熱分解油102をアップグレードした後に熱分解アップグレードユニット110中で生成されるガス状成分の少なくとも90質量%、少なくとも95質量%、少なくとも98質量%、少なくとも99質量%、またさらには少なくとも99.9質量%を含み、そのガス状成分は、概して、熱分解アップグレードユニット110中に前記反応条件で気体である化合物を称する。ガス状成分流出物112は、過剰な水素104も含むことがある。ガス状成分流出物112は、以下に限られないが、ガス状成分流出物112から任意の軽質芳香族化合物を回収するための過程、過剰な水素の分離、1種類以上の汚染物質の除去、または他の過程など、1つ以上の下流の処理過程に送られることがある。
【0038】
熱分解アップグレードユニット110は、反応流出物114を熱分解アップグレードユニット110から分離ユニット120に通過させるために分離ユニット120と流体連通していることがある。反応流出物114は、軽質芳香族化合物を含むことがある。軽質芳香族化合物としては、6から13の炭素原子を有する芳香族炭化水素を含むことがある。例えば、軽質芳香族化合物としては、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、またはこれらの組合せが挙げられるであろう。反応流出物114は、熱分解アップグレードユニット110中で生成された軽質芳香族化合物の少なくとも90質量%、少なくとも95質量%、少なくとも98質量%、少なくとも99質量%、またさらには少なくとも99.9質量%を含むことがある。反応流出物114は、混合金属酸化物触媒106および未反応の重質芳香族化合物などの熱分解油102の任意の未反応成分も含むことがある。
【0039】
再び図1を参照すると、反応流出物114は、分離ユニット120に送られることがある。分離ユニット120は、どの介在反応器または単位操作も通過せずに、反応流出物114を熱分解アップグレードユニット110から分離ユニット120に直接通過させられるように、熱分解アップグレードユニット110の直接下流にあることがある。分離ユニット120は、1つまたは複数の分離ユニットを含むことがある。分離ユニット120は、反応流出物114を少なくとも反応生成物流出物122および使用済み混合金属酸化物触媒124に分離する働きをすることができる。分離ユニット120は、反応流出物114を少なくとも1つの反応生成物流出物122および使用済み混合金属酸化物触媒124に分離する働きをする固液分離装置を含むことがある。実施の形態において、分離ユニット120は、遠心分離機を含むことがある。分離ユニット120は、少なくとも反応生成物流出物122および使用済み混合金属酸化物触媒124に遠心分離することによって、反応流出物114を分離する働きをすることができる。
【0040】
分離ユニット120は、反応流出物114を、軽質芳香族化合物を含む反応生成物流出物122および使用済み混合金属酸化物触媒124に分離するものとして図1に示されているが、分離ユニット120は、反応流出物114を、その内の1つ以上が軽質芳香族化合物を含むことがある、複数の反応生成物流出物に分離する働きをしてもよいことが理解されよう。実施の形態において、分離ユニット120は、固液分離装置の下流に蒸留ユニットまたは分別ユニットを備えることがある。その蒸留ユニットまたは分別ユニットは、反応生成物流出物122を複数の反応生成物流出物に分離する働きをすることがある。その反応生成物流出物122は、さらなる分離、処理、または加工のために、1つ以上の下流プロセスに送られることがある。
【0041】
ここで図3を参照すると、システム100は、分離ユニット120の下流に使用済み触媒処理ユニット230を備えることがある。前記反応条件で、混合金属酸化物触媒106の存在下で熱分解油102を水素104と接触させると、混合金属酸化物触媒106上に堆積されることがある凝縮物が生成されることがある。使用済み混合金属酸化物触媒124は、混合金属酸化物触媒106上にこの凝縮物が堆積されるときに生じることがある。使用済み触媒処理ユニット230は、使用済み混合金属酸化物触媒124を再生する働きをすることができる。使用済み触媒処理ユニット230は、使用済み混合金属酸化物触媒124をトルエン228で洗浄して、使用済み混合金属酸化物触媒124から凝縮物の少なくとも一部を除去する働きをすることができる。使用済み触媒処理ユニット230からの過剰なトルエン234は、使用済み触媒処理ユニット230から排出されて、反応生成物流出物122と混ぜ合わされることがある。
【0042】
使用済み触媒処理ユニット230は、洗浄後に使用済み混合金属酸化物触媒124を真空乾燥させる働きをすることもできる。使用済み触媒処理ユニット230は、第1に20℃から30℃の温度で、第2に80℃超の温度で使用済み混合金属酸化物触媒124を真空乾燥させる働きをすることができる。使用済み触媒処理ユニット230は、使用済み混合金属酸化物触媒124をか焼して、処理済み混合金属酸化物触媒232を生成する働きもすることができる。実施の形態において、使用済み触媒処理ユニット230は、6時間以上に亘り400℃超の温度で空気中において使用済み混合金属酸化物触媒124をか焼することがある。処理済み混合金属酸化物触媒232は、使用済み触媒処理ユニット230から排出されて、混合金属酸化物触媒106として熱分解アップグレードユニット110中に戻して使用されることがある。
【0043】
再び図1を参照すると、熱分解油102をアップグレードする方法は、軽質芳香族化合物を含む反応流出物114を生成する反応条件で、混合金属酸化物触媒106の存在下で熱分解油102を水素104と接触させる工程を含むことがある。本開示に先に述べたように、上記反応条件で、混合金属酸化物触媒106の存在下で熱分解油102を水素104と接触させると、熱分解油102中の多環芳香族化合物の少なくとも一部を軽質芳香族化合物に変換することができる。その反応条件としては、200℃から500℃の温度、1MPa(10バール)から20MPa(200バール)の圧力、0.1から1の範囲の反応器内の混合金属酸化物触媒106対熱分解油102の質量比、またはこれらの反応条件の組合せが挙げられる。
【0044】
前記方法は、熱分解アップグレードユニット110内で混合金属酸化物触媒106の存在下で熱分解油102を水素104と接触させて、反応流出物114を生成する工程を含むことがある。熱分解アップグレードユニット110は、熱分解アップグレードユニット110について本開示に先に述べた特徴、触媒、または作動条件のいずれを有していてもよい。この方法は、分離ユニット120内で反応流出物114を分離して、少なくとも1つの反応生成物流出物122および使用済み混合金属酸化物触媒124を生成する工程も含むことがある。分離ユニット120は、分離ユニット120について本開示に先に述べた特徴、触媒、または作動条件のいずれを有していてもよい。
【0045】
前記方法は、使用済み混合金属酸化物触媒124を洗浄し、乾燥させる工程を含むことがある。使用済み混合金属酸化物触媒124をトルエン228で洗浄して、使用済み混合金属酸化物触媒124から凝縮物の少なくとも一部を除去することができる。使用済み混合金属酸化物触媒124は、それに加え、またはそれに代えて、以下に限られないが、ベンゼン、エチルベンゼン、またはキシレンなどの他の溶媒で洗浄して、使用済み混合金属酸化物触媒124から凝縮物の少なくとも一部を除去してもよい。使用済み混合金属酸化物触媒124を洗浄し、乾燥させる工程は、使用済み触媒処理ユニット230内で行われることがある。使用済み触媒処理ユニット230は、使用済み触媒処理ユニット230について本開示に先に述べた特徴、触媒、または作動条件のいずれを有していてもよい。
【実施例
【0046】
重質油を処理するための方法およびシステムの様々な実施の形態が、以下の実施例によりさらに明白となるであろう。実施例は、本質的に説明であり、本開示の主題を限定すると理解すべきではない。
【0047】
実施例1:混合金属酸化物触媒の調製
酸化鉄、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、および酸化アルミニウムを含む混合金属酸化物触媒を調製するために、50グラムの硝酸鉄(III)九水和物(Fe(NO・9HO)を800mLの蒸留水に溶かして、溶液Aを生成した。次に、他の金属酸化物前駆体を溶液Aに加えた。詳しくは、4.906グラムの硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO・9HO)、1.549グラムのオキシ硝酸ジルコニウム(IV)水和物(ZrO(NO:3HO)、および0.601グラムの硝酸セリウム(III)六水和物(Ce(NO・6HO)を溶液Aに加えて、溶液Bを形成した。次に、溶液Bを30分間に亘り撹拌した。
【0048】
60mLの蒸留水に40mLの水酸化アンモニウム(NHOH)(28~30%のNH基準)を加えることによって、アンモニア溶液の溶液Cを調製した。溶液Cを溶液Bにゆっくりと加えて、溶液Dを生成した。溶液Cは、溶液DのpH値がおおよそ7に達するまで加えた。次に、溶液Dをさらに1時間に亘り撹拌した。
【0049】
溶液Dを調製し、さらに1時間撹拌した後、溶液Dから沈殿物を分離し、一晩(すなわち、約12時間)、炉内で乾燥させた。次に、乾燥した沈殿物を2時間に亘り500℃で空気中においてか焼した。か焼後、乾燥し、か焼した沈殿物を粉砕して、最終的な混合金属酸化物触媒を得た。
【0050】
実施例2:混合金属酸化物触媒の存在下での熱分解油のアップグレード
実施例2では、熱分解油をアップグレードするための実施例1の混合金属酸化物触媒の性能を評価した。16.74グラムの熱分解油と12.17グラムの実施例1の混合金属酸化物触媒を回分反応器に加え、混合した。熱分解油を加える前に、熱分解油が混合金属酸化物触媒の表面と完全に接触できるように、熱分解油を4.37グラムの希釈剤としてのトルエンと混合して、熱分解油の流動性を増加させた。
【0051】
大気圧下で室温において熱分解油(トルエンを含む)と混合金属酸化物触媒を回分反応器に加えた後、回分反応器を密封した。回分反応器を純粋な水素ガスで3回パージした。次に、室温で純粋な水素ガスを導入することによって、圧力を140バール(14MPa)に上昇させた。次に、熱分解油(トルエンを含む)と混合金属酸化物触媒を400℃に加熱し、4時間に亘り継続的に撹拌した。
【0052】
反応後、回分反応器を室温に冷却した。次に、気体混合物を放出させ、ガス袋中に収集した。ガスクロマトグラフィーを使用して、気体混合物を分析した。反応流出物を分離ユニット(遠心分離機)に移送した。反応流出物を20分に亘り10,000の毎分回転数(rpm)で遠心分離した。遠心分離後、2つの層を得た。上層は反応生成物を含み、下層は使用済み混合金属酸化物触媒を含んだ。次に、使用済み混合金属酸化物触媒をトルエンで洗浄して、どの凝縮物も除去し、真空乾燥させた。使用済み混合金属酸化物触媒を、最初に室温で、次に、100℃で真空乾燥させた。反応生成物流出物を、模擬蒸留(SIMDIS)ガスクロマトグラフィー、パラフィン、イソパラフィン、オレフィン、ナフテン、および芳香族化合物(PIONA)ガスクロマトグラフィー、および高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。
【0053】
表1には、反応条件、熱分解油の特徴、および反応流出物の特徴が与えられている。
【0054】
【表1】
【0055】
表1から分かるように、混合金属酸化物触媒は、単一工程で、熱分解油中の四環芳香族化合物(C16およびC16+炭化水素)の98.8パーセントを、単環芳香族化合物、二環芳香族化合物、または三環芳香族化合物に変換するのに効果的であった。特に、液体産出高は、41.3質量%の単環芳香族化合物および40.8質量%の二環芳香族化合物を含む。
【0056】
本開示の1つ以上の態様が、ここに記載されている。本開示の第1の態様は、軽質芳香族化合物を含む反応流出物を生成する反応条件で、混合金属酸化物触媒の存在下で熱分解油を水素と接触させる工程を含む、熱分解油をアップグレードする方法を含むことがある。熱分解油は、多環芳香族化合物を含むことがある。混合金属酸化物触媒は、複数の触媒粒子を含むことがあり、複数の触媒粒子の各々は、複数の金属酸化物を含むことがある。上記反応条件で、混合金属酸化物触媒の存在下で熱分解油を水素と接触させると、熱分解油中の多環芳香族化合物の少なくとも一部が軽質芳香族化合物に変換されることがある。
【0057】
本開示の第2の態様は、熱分解油が、熱分解油の総質量に基づいて、16以上の炭素原子を有する多環芳香族化合物を30質量パーセント(質量%)以上含むことがある、第1の態様を含むことがある。
【0058】
本開示の第3の態様は、熱分解アップグレードユニット内で、混合金属酸化物触媒の存在下で熱分解油を水素と接触させて、反応流出物を生成する工程を含む、第1の態様または第2の態様いずれかを含むことがある。
【0059】
本開示の第4の態様は、セ氏300度(℃)から500℃の温度で、混合金属酸化物触媒の存在下で熱分解油を水素と接触させる工程を含む、第1から第3の態様のいずれか1つを含むことがある。
【0060】
本開示の第5の態様は、1MPa(10バール)から20MPa(200バール)の圧力で、混合金属酸化物触媒の存在下で熱分解油を水素と接触させる工程を含む、第1から第4の態様のいずれか1つを含むことがある。
【0061】
本開示の第6の態様は、混合金属酸化物触媒の複数の金属酸化物が、IUPAC周期表の第3族~第13族の金属の酸化物を含む、第1から第5の態様のいずれか1つを含むことがある。
【0062】
本開示の第7の態様は、混合金属酸化物触媒の複数の金属酸化物が、鉄、ジルコニウム、セリウム、アルミニウム、タングステン、モリブデン、チタン、またはこれらの組合せの酸化物を含むことがある、第1から第6の態様のいずれか1つを含むことがある。
【0063】
本開示の第8の態様は、混合金属酸化物触媒が、60質量%から95質量%の酸化鉄、1質量%から20質量%の酸化ジルコニウム、0.1質量%から10質量%の酸化セリウム、および1質量%から20質量%の酸化アルミニウムを含むことがある、第7の態様を含むことがある。
【0064】
本開示の第9の態様は、軽質芳香族化合物が、6から13の炭素原子を有する芳香族炭化水素を含むことがある、第1から第8の態様のいずれか1つを含むことがある。
【0065】
本開示の第10の態様は、軽質芳香族化合物が、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、またはこれらの組合せを含むことがある、第1から第9の態様のいずれか1つを含むことがある。
【0066】
本開示の第11の態様は、前記反応条件で、混合金属酸化物触媒の存在下で熱分解油を水素と接触させることにより、後で化学反応工程を行わずに単一工程で、熱分解油中の多環芳香族化合物の少なくとも一部が軽質芳香族化合物に変換されることがある、第1から第10の態様のいずれか1つを含むことがある。
【0067】
本開示の第12の態様は、混合金属酸化物触媒の存在下で熱分解油を水素と接触させることにより、反応流出物の総質量に基づいて、30質量%以上の収率で軽質芳香族化合物が得られることがある、第1から第11の態様のいずれか1つを含むことがある。
【0068】
本開示の第13の態様は、混合金属酸化物触媒の存在下で熱分解油を水素と接触させる前に、熱分解油をトルエンと混合する工程をさらに含む、第1から第12の態様のいずれか1つを含むことがある。
【0069】
本開示の第14の態様は、95/5から63/35の熱分解油対トルエンの質量比で熱分解油とトルエンを混合する工程を含む、第13の態様を含むことがある。
【0070】
本開示の第15の態様は、混合金属酸化物触媒の存在下で熱分解油を水素と接触させた後、反応流出物からガス状成分を分離して、反応流出物の液体部分を生成する工程をさらに含む、第1から第14の態様のいずれか1つを含むことがある。
【0071】
本開示の第16の態様は、反応流出物の液体部分中の使用済み混合金属酸化物触媒を分離して、軽質芳香族化合物を含む反応生成物を生成する工程をさらに含む、第1から第15の態様のいずれか1つを含むことがある。
【0072】
本開示の第17の態様は、分離ユニット内で反応流出物の液体部分中の使用済み混合金属酸化物触媒を分離して、反応生成物を生成する工程を含む、第16の態様を含むことがある。
【0073】
本開示の第18の態様は、分離ユニットが遠心分離機を含むことがある、第16の態様または第17の態様のいずれかを含むことがある。
【0074】
本開示の第19の態様は、使用済み混合金属酸化物触媒を洗浄し、乾燥させる工程をさらに含む、第1から第18の態様のいずれか1つを含むことがある。
【0075】
本開示の第20の態様は、前記反応条件で、混合金属酸化物触媒の存在下で熱分解油を水素と接触させることにより、混合金属酸化物触媒上に堆積されることのある凝縮物が生成されて、使用済み混合金属酸化物触媒が生成されることがあり、前記方法は、使用済み混合金属酸化物触媒をトルエンで洗浄して、使用済み混合金属酸化物触媒から凝縮物の少なくとも一部を除去する工程をさらに含むことがある、第19の態様を含むことがある。
【0076】
本開示の第21の態様は、第1に20℃から30℃の温度で、第2に80℃超の温度で使用済み混合金属酸化物触媒を真空乾燥させる工程を含む、第19の態様または第20の態様のいずれかを含むことがある。
【0077】
本開示の第22の態様は、混合金属酸化物触媒を含む熱分解アップグレードユニットを備えた、熱分解油をアップグレードするためのシステムを含むことがある。混合金属酸化物触媒は、複数の触媒粒子を含むことがあり、複数の触媒粒子の各々は、複数の金属酸化物を含むことがある。熱分解アップグレードユニットは、混合金属酸化物触媒の存在下で熱分解油を水素と接触させて、反応流出物を生成する働きをすることができる。このシステムは、熱分解アップグレードユニットの下流に配置された分離ユニットも備えることがある。この分離ユニットは、反応流出物から使用済み混合金属酸化物触媒を分離して、軽質芳香族化合物を含む反応生成物を生成する働きをすることができる。
【0078】
本開示の第23の態様は、熱分解アップグレードユニットが、300℃から500℃の温度、および1MPa(10バール)から20MPa(200バール)の圧力で、混合金属酸化物触媒の存在下で熱分解油を水素と接触させて、反応流出物を生成する働きをすることができる、第22の態様を含むことがある。
【0079】
本開示の第24の態様は、分離ユニットが、熱分解アップグレードユニットの直接下流にある、第22の態様または第23の態様のいずれかを含むことがある。
【0080】
本開示の第25の態様は、分離ユニットが遠心分離機を含む、第22から第24の態様のいずれか1つを含むことがある。
【0081】
本明細書および付随の特許請求の範囲で使用される場合、名詞は、文脈上明らかにそうでないことが示されない限り、複数の対象を含む。動詞「含む(comprises)」およびその活用形は、非排他的な方法で要素、成分または工程に言及するものと解釈されるべきである。言及された要素、成分または工程は、明示的に言及されていない他の要素、成分または工程と共に存在しても、利用されても、または組み合わされてもよい。本技術を定義する目的で、「からなる(consisting of)」という移行句は、請求項の範囲を、列挙された成分または工程および天然に存在する不純物に限定する閉じたプリアンブル用語として請求項に導入されることがある。本技術を定義する目的で、「から実質的になる(consisting essentially of)」という移行句は、1つ以上の請求項の範囲を、列挙された要素、成分、材料、または方法の工程、並びに請求項の主題の新規の特徴に重大な影響を与えない、列挙されていない要素、成分、材料、または方法の工程に限定するために、請求項に導入されることがある。移行句「からなる」および「から実質的になる」は、「含む(comprising)」および「含む(including)」などの制限のない移行句の一部であると解釈することができ、よって、一連の要素、成分、材料、または工程の列挙を導入するための制限のない語句の使用は、「からなる」および「から実質的になる」という閉じた用語を使用する一連の要素、成分、材料、または工程の列挙も開示すると解釈すべきである。例えば、成分A、B、およびCを「含む」組成物の記載は、成分A、B、およびC「からなる」組成物、並びに成分A、B、およびC「から実質的になる」組成物も開示するものと解釈されるべきである。本出願において表現されるどの定量値も、「含む(comprising)」および「含む(including)」という移行句と一致する制限のない実施の形態、並びに「からなる」および「から実質的になる」という移行句と一致する閉じたまたは部分的に閉じた実施の形態を含むと考えられる。
【0082】
以下の請求項の1つ以上に、移行句として「ここで」が利用されることに留意のこと。本技術を定義する目的のために、この用語は、構造の一連の特徴の列挙を導入するために使用される制約のない移行句として請求項に導入され、より一般に使用されている制約のない後書きの「含む」と同様に解釈されるべきであることに留意されたい。
【0083】
性質に与えられた任意の2つの定量値は、その性質の範囲を構成することがあり、所定の性質の全ての挙げられた定量値から形成される範囲の全ての組合せが、本開示に考えられることを理解すべきである。
【0084】
本開示の主題を詳細に、かつ特定の実施の形態を参照して説明してきたが、本開示に記載された様々な詳細は、特定の要素が本記載に伴う図面の各々に図示されている場合であっても、これらの詳細が、本開示に記載された様々な実施の形態の必須構成要素である要素に関連することを暗示するものと解釈すべきではないことに留意されたい。むしろ、本明細書に添付された特許請求の範囲は、本開示の広さおよび本開示に記載された様々な実施の形態の対応する範囲を唯一表すものとみなされるべきである。さらに、添付の特許請求の範囲から逸脱せずに、改変および変更が可能であることが明らかであろう。
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
実施形態1
熱分解油をアップグレードする方法において、
軽質芳香族化合物を含む反応流出物を生成する反応条件で、混合金属酸化物触媒の存在下で前記熱分解油を水素と接触させる工程、
を含み、
前記熱分解油は、多環芳香族化合物を含み、
前記混合金属酸化物触媒は複数の触媒粒子を含み、該複数の触媒粒子の各々は複数の金属酸化物を含み、
前記反応条件で、前記混合金属酸化物触媒の存在下で前記熱分解油を水素と接触させると、該熱分解油中の前記多環芳香族化合物の少なくとも一部が前記軽質芳香族化合物に変換される、方法。
実施形態2
前記熱分解油が、該熱分解油の総質量に基づいて、16以上の炭素原子を有する多環芳香族化合物を30質量パーセント(質量%)以上含む、実施形態1に記載の方法。
実施形態3
セ氏300度(℃)から500℃の温度で、1メガパスカル(MPa)(10バール)から20MPa(200バール)の圧力で、またはその両方で、前記混合金属酸化物触媒の存在下で前記熱分解油を水素と接触させる工程を含む、実施形態1または2に記載の方法。
実施形態4
前記混合金属酸化物触媒の前記複数の金属酸化物が、IUPAC周期表の第3族~第13族の金属の酸化物を含む、実施形態1から3いずれか1つに記載の方法。
実施形態5
前記混合金属酸化物触媒の前記複数の金属酸化物が、鉄、ジルコニウム、セリウム、アルミニウム、タングステン、モリブデン、チタン、またはこれらの組合せの酸化物を含む、実施形態1から4いずれか1つに記載の方法。
実施形態6
前記混合金属酸化物触媒が、
60質量%から95質量%の酸化鉄、
1質量%から20質量%の酸化ジルコニウム、
0.1質量%から10質量%の酸化セリウム、および
1質量%から20質量%の酸化アルミニウム、
を含み、
これらの質量百分率が、前記混合金属酸化物触媒の総質量に基づくものである、実施形態1から5いずれか1つに記載の方法。
実施形態7
前記軽質芳香族化合物が、6から13の炭素原子を有する芳香族炭化水素を含む、もしくは
前記軽質芳香族化合物が、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、またはこれらの組合せを含む、実施形態1から6いずれか1つに記載の方法。
実施形態8
前記混合金属酸化物触媒の存在下で前記熱分解油を水素と接触させる前に、該熱分解油をトルエンと混合する工程をさらに含む、実施形態1から7いずれか1つに記載の方法。
実施形態9
95/5から63/35の熱分解油対トルエンの質量比で前記熱分解油とトルエンを混合する工程を含む、実施形態8に記載の方法。
実施形態10
前記混合金属酸化物触媒の存在下で前記熱分解油を水素と接触させた後、前記反応流出物からガス状成分を分離して、該反応流出物の液体部分を生成する工程をさらに含む、実施形態1から9いずれか1つに記載の方法。
実施形態11
前記反応流出物を分離して、使用済み混合金属酸化物触媒および軽質芳香族化合物を含む反応生成物を生成する工程をさらに含む、実施形態1から10いずれか1つに記載の方法。
実施形態12
分離ユニット内で前記反応流出物を分離して、前記使用済み混合金属酸化物触媒および前記反応生成物を生成する工程を含み、該分離ユニットが遠心分離機を含む、実施形態11に記載の方法。
実施形態13
前記反応条件で、前記混合金属酸化物触媒の存在下で前記熱分解油を水素と接触させることにより、該混合金属酸化物触媒上に堆積された凝縮物が生成されて、使用済み混合金属酸化物触媒が生成され、前記方法は、該使用済み混合金属酸化物触媒をトルエンで洗浄して、該使用済み混合金属酸化物触媒から前記凝縮物の少なくとも一部を除去する工程をさらに含む、実施形態1から12いずれか1つに記載の方法。
実施形態14
熱分解油をアップグレードするためのシステムにおいて、
混合金属酸化物触媒を含む熱分解アップグレードユニットであって、
前記混合金属酸化物触媒は複数の触媒粒子を含み、該複数の触媒粒子の各々は複数の金属酸化物を含み、
前記熱分解アップグレードユニットは、前記混合金属酸化物触媒の存在下で前記熱分解油を水素と接触させて、反応流出物を生成する働きをする、熱分解アップグレードユニット、および
前記熱分解アップグレードユニットの下流に配置され、前記反応流出物から使用済み混合金属酸化物触媒を分離して、軽質芳香族化合物を含む反応生成物を生成する働きをする分離ユニット、
を備えたシステム。
実施形態15
前記分離ユニットが、前記熱分解アップグレードユニットの直接下流にあり、該分離ユニットが遠心分離機を含む、実施形態14に記載のシステム。

【符号の説明】
【0085】
100 システム
102 熱分解油
104 水素
106 混合金属酸化物触媒
110 熱分解アップグレードユニット
112 ガス状成分流出物
114 反応流出物
120 分離ユニット
122 反応生成物流出物
124 使用済み混合金属酸化物触媒
図1
図2
図3