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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 1/08 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
H02M1/08 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023563410
(86)(22)【出願日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 JP2021043201
(87)【国際公開番号】W WO2023095244
(87)【国際公開日】2023-06-01
【審査請求日】2024-01-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】地道 拓志
(72)【発明者】
【氏名】檜垣 優介
(72)【発明者】
【氏名】小柳 公之
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 純一
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-124781(JP,A)
【文献】特開2004-215416(JP,A)
【文献】特開2008-043003(JP,A)
【文献】特開2003-018820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準端子を含む2つの主端子とゲート端子とをそれぞれ有する複数のスイッチング素子が直列接続されて成るアームと、
前記ゲート端子に接続されるゲート配線と前記基準端子に接続される基準配線とから成る2配線により前記各スイッチング素子と接続され、前記各スイッチング素子に駆動電圧を供給するゲート駆動回路と、
前記アーム内で直列接続された前記複数のスイッチング素子における前記2配線の一方同士が互いに磁気結合された磁気結合リアクトルと、
前記各スイッチング素子の前記ゲート端子と前記基準端子との間に設けられて、前記ゲート端子と前記基準端子との間のインピーダンスを低減するインピーダンス低減回路と、
を備え、
前記磁気結合リアクトルは、前記複数のスイッチング素子間で、供給される前記駆動電圧の差を抑制するように、前記複数のスイッチング素子における前記2配線の一方同士が互いに磁気結合され、
前記インピーダンス低減回路は、ノーマリオンスイッチにて構成されて、前記ゲート駆動回路の電源電圧が設定値を超えるまでの間、前記ゲート端子と前記基準端子との間のインピーダンスを低減する、
電力変換装置。
【請求項2】
基準端子を含む2つの主端子とゲート端子とをそれぞれ有する複数のスイッチング素子が直列接続されて成るアームと、
前記ゲート端子に接続されるゲート配線と前記基準端子に接続される基準配線とから成る2配線により前記各スイッチング素子と接続され、前記各スイッチング素子に駆動電圧を供給するゲート駆動回路と、
前記アーム内で直列接続された前記複数のスイッチング素子における前記2配線の一方同士が互いに磁気結合された磁気結合リアクトルと、
前記各スイッチング素子の前記ゲート端子と前記基準端子との間に設けられて、前記ゲート端子と前記基準端子との間のインピーダンスを低減するインピーダンス低減回路と、
を備え、
前記磁気結合リアクトルは、前記複数のスイッチング素子間で、供給される前記駆動電圧の差を抑制するように、前記複数のスイッチング素子における前記2配線の一方同士が互いに磁気結合され、
前記インピーダンス低減回路は、ノーマリオンスイッチと抵抗との直列回路にて構成されて、前記ゲート駆動回路の電源電圧が設定値を超えるまでの間、前記ゲート端子と前記基準端子との間のインピーダンスを低減する、
電力変換装置。
【請求項3】
前記ノーマリオンスイッチは、前記ゲート駆動回路の電源が前記設定値を超えるとオフする、
請求項または請求項に記載の電力変換装置。
【請求項4】
基準端子を含む2つの主端子とゲート端子とをそれぞれ有する複数のスイッチング素子が直列接続されて成るアームと、
前記ゲート端子に接続されるゲート配線と前記基準端子に接続される基準配線とから成る2配線により前記各スイッチング素子と接続され、前記各スイッチング素子に駆動電圧を供給するゲート駆動回路と、
前記アーム内で直列接続された前記複数のスイッチング素子における前記2配線の一方同士が互いに磁気結合された磁気結合リアクトルと、
前記各スイッチング素子の前記ゲート端子と前記基準端子との間に設けられて、前記ゲート端子と前記基準端子との間のインピーダンスを低減するインピーダンス低減回路と、
を備え、
前記アーム内の前記各スイッチング素子は、それぞれ複数の第1スイッチング素子を並列接続して成り、
前記ゲート駆動回路は、並列接続された前記複数の第1スイッチング素子に前記2配線を介して接続されて駆動電圧を供給し、
前記各第1スイッチング素子毎にそれぞれ前記インピーダンス低減回路を設けて、当該第1スイッチング素子の前記ゲート端子および前記基準端子の間のインピーダンスを低減する、
電力変換装置。
【請求項5】
前記磁気結合リアクトルは、前記複数のスイッチング素子間で、供給される前記駆動電圧の差を抑制するように、前記複数のスイッチング素子における前記2配線の一方同士が互いに磁気結合され、
前記インピーダンス低減回路は、前記ゲート駆動回路の電源電圧が設定値を超えるまでの間、前記ゲート端子と前記基準端子との間のインピーダンスを低減する、
請求項4に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記アーム内の前記各スイッチング素子は、それぞれ複数の第1スイッチング素子を並列接続して成り、
前記ゲート駆動回路は、並列接続された前記複数の第1スイッチング素子に前記2配線を介して接続されて駆動電圧を供給し、
前記各第1スイッチング素子毎にそれぞれ前記インピーダンス低減回路を設けて、当該第1スイッチング素子の前記ゲート端子および前記基準端子の間のインピーダンスを低減する、
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記ゲート駆動回路は、並列接続された前記複数の第1スイッチング素子の各々に、それぞれバランス抵抗を介して接続される、
請求項4から請求項6のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項8】
並列接続された前記複数の第1スイッチング素子の各々に接続され、前記複数の第1スイッチング素子間の前記2配線を介する横流を抑制する横流抑制回路を備える、
請求項4から請求項7のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記各第1スイッチング素子に接続される前記横流抑制回路は、当該第1スイッチング素子に接続される前記ゲート配線と前記基準配線とが巻回されたコモンモードリアクトルである、
請求項8に記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記各スイッチング素子は半導体モジュール内に収納され、前記インピーダンス低減回路は、前記半導体モジュール上に配置された基板に実装される、
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項11】
前記各第1スイッチング素子は半導体モジュール内に収納され、前記インピーダンス低減回路および前記横流抑制回路は、前記半導体モジュール上に配置された基板に実装される、
請求項8または請求項9に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スイッチング回路などのアームを、複数の半導体スイッチング素子を直列接続して構成する場合、特定の素子への電圧集中を防ぐために、スイッチングを同時に行う必要があり、ゲート電流を揃えることが有効である。
従来の電力変換装置として、特許文献1に記載される半導体スイッチ回路は、直列接続された複数個の電圧駆動型半導体素子と、これらの電圧駆動型半導体素子をオン・オフするために当該電圧駆動型半導体素子のゲート端子にゲート信号を供給するゲート駆動回路とからなる。そして、ゲート駆動回路と電圧駆動型半導体素子のゲート端子を接続するゲート線を互いに磁気結合させる。これにより、ゲート電流のアンバランスに応じて自動的にゲート線のインピーダンスが変化して、ゲート電流が一致するように動作する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-204578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1記載の従来の技術では、ゲート配線を互いに磁気結合させるため、ゲート配線のインピーダンスが増加する。インピーダンスの増加は、ゲート駆動回路が出力するゲート電圧に対して不安定要因であり、スイッチング素子が誤動作する可能性がある。特に、ゲート電源が確立されていない状態で、主回路への電圧印加によりゲート配線側に電流が回り込みゲート電圧が増加すると、スイッチング素子がオフを維持すべき期間に、誤動作によりオンする可能性がある。
【0005】
本願は、上記のような課題を解決するための技術を開示するものであり、アーム内で直列接続される複数のスイッチング素子が、互いにゲート電流が一致して同時スイッチングし、かつ、各スイッチング素子の誤動作を確実に防止できる信頼性の高い電力変換装置を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願に開示される電力変換装置は、基準端子を含む2つの主端子とゲート端子とをそれぞれ有する複数のスイッチング素子が直列接続されて成るアームと、前記ゲート端子に接続されるゲート配線と前記基準端子に接続される基準配線とから成る2配線により前記各スイッチング素子と接続され、前記各スイッチング素子に駆動電圧を供給するゲート駆動回路と、前記アーム内で直列接続された前記複数のスイッチング素子における前記2配線の一方同士が互いに磁気結合された磁気結合リアクトルと、前記各スイッチング素子の前記ゲート端子と前記基準端子との間に設けられて、前記ゲート端子と前記基準端子との間のインピーダンスを低減するインピーダンス低減回路と、を備える。前記磁気結合リアクトルは、前記複数のスイッチング素子間で、供給される前記駆動電圧の差を抑制するように、前記複数のスイッチング素子における前記2配線の一方同士が互いに磁気結合され、前記インピーダンス低減回路は、ノーマリオンスイッチにて構成されて、前記ゲート駆動回路の電源電圧が設定値を超えるまでの間、前記ゲート端子と前記基準端子との間のインピーダンスを低減する。
また、本願に開示される電力変換装置は、基準端子を含む2つの主端子とゲート端子とをそれぞれ有する複数のスイッチング素子が直列接続されて成るアームと、前記ゲート端子に接続されるゲート配線と前記基準端子に接続される基準配線とから成る2配線により前記各スイッチング素子と接続され、前記各スイッチング素子に駆動電圧を供給するゲート駆動回路と、前記アーム内で直列接続された前記複数のスイッチング素子における前記2配線の一方同士が互いに磁気結合された磁気結合リアクトルと、前記各スイッチング素子の前記ゲート端子と前記基準端子との間に設けられて、前記ゲート端子と前記基準端子との間のインピーダンスを低減するインピーダンス低減回路と、を備える。前記磁気結合リアクトルは、前記複数のスイッチング素子間で、供給される前記駆動電圧の差を抑制するように、前記複数のスイッチング素子における前記2配線の一方同士が互いに磁気結合され、前記インピーダンス低減回路は、ノーマリオンスイッチと抵抗との直列回路にて構成されて、前記ゲート駆動回路の電源電圧が設定値を超えるまでの間、前記ゲート端子と前記基準端子との間のインピーダンスを低減する。
また、本願に開示される電力変換装置は、基準端子を含む2つの主端子とゲート端子とをそれぞれ有する複数のスイッチング素子が直列接続されて成るアームと、前記ゲート端子に接続されるゲート配線と前記基準端子に接続される基準配線とから成る2配線により前記各スイッチング素子と接続され、前記各スイッチング素子に駆動電圧を供給するゲート駆動回路と、前記アーム内で直列接続された前記複数のスイッチング素子における前記2配線の一方同士が互いに磁気結合された磁気結合リアクトルと、前記各スイッチング素子の前記ゲート端子と前記基準端子との間に設けられて、前記ゲート端子と前記基準端子との間のインピーダンスを低減するインピーダンス低減回路と、を備える。前記アーム内の前記各スイッチング素子は、それぞれ複数の第1スイッチング素子を並列接続して成り、前記ゲート駆動回路は、並列接続された前記複数の第1スイッチング素子に前記2配線を介して接続されて駆動電圧を供給し、前記各第1スイッチング素子毎にそれぞれ前記インピーダンス低減回路を設けて、当該第1スイッチング素子の前記ゲート端子および前記基準端子の間のインピーダンスを低減する。
【発明の効果】
【0007】
本願に開示される電力変換装置によれば、アーム内で直列接続される複数のスイッチング素子が、互いにゲート電流が一致して同時スイッチングし、かつ、各スイッチング素子の誤動作を確実に防止でき、信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態1によるスイッチング回路の構成を示す回路図である。
図2】実施の形態1によるゲート駆動回路の構成を示す回路図である。
図3図3Aは実施の形態1による半導体モジュールの構成を示す図であり、図3Bは半導体モジュールおよび各部の配置を示す平面図である。
図4図4Aおよび図4Bは、実施の形態1の別例によるインピーダンス低減回路の構成を示す図である。
図5】実施の形態1による三相インバータの主回路構成を示す回路図である。
図6】実施の形態2によるスイッチング回路の構成を示す回路図である。
図7】実施の形態2の別例によるスイッチング回路の構成を示す回路図である。
図8図8Aは実施の形態2による半導体モジュールの構成を示す図であり、図8Bおよび図8Cは半導体モジュールおよび各部の配置を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、実施の形態1によるスイッチング回路の構成を示す回路図である。この場合、電力変換装置として、2レベル変換器の1相分のスイッチング回路50を示す。
図1に示すように、スイッチング回路50は、直流母線(正側母線2Pおよび負側母線2N)間で、レグ回路40が直流電源1に並列接続されている。レグ回路40は、正極側アーム41と負極側アーム42との2つのアーム41、42の直列体から構成され、2つのアーム41、42の接続点に交流端子5が接続される。
【0010】
正極側アーム41は2つの半導体スイッチング素子(以下、単にスイッチング素子)41A、41Bの直列体で構成され、負極側アーム42は2つのスイッチング素子42A、42Bの直列体で構成される。すなわち、各アーム41、42は、2つのスイッチング素子41A、41B(42A、42B)が直列接続された構成であり、1つのスイッチング素子でアームを構成する場合に比べ、より高電圧の電力変換が可能となる。
なお、アーム41、42内でスイッチング素子41A、41B(42A、42B)を2直列した場合を説明するが、3以上の複数のスイッチング素子の直列体でアーム41、42を構成しても、同様に適用できる。
また、直流電源1として電圧源を図示しているが、コンデンサなどのエネルギ蓄積源でも良い。
【0011】
各スイッチング素子41A、41B、42A、42Bは、還流ダイオードが逆並列に接続され、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)、あるいはIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などが用いられる。
各スイッチング素子41A、41B、42A、42Bは、基準端子を含む2つの主端子とゲート端子(以下、単にゲート)とをそれぞれ有する。以下では、図示されたMOSFETを想定して、2つの主端子であるソース、ドレインを用い、ソースを基準端子として説明する。
なお、IGBTの場合は、ソース、ドレインをそれぞれエミッタ、コレクタに読み替えることができる。
【0012】
また、スイッチング回路50は、各スイッチング素子41A、41B、42A、42Bに駆動電圧を供給するゲート駆動回路11A、11B、12A、12Bと、アーム41、42内で直列接続された2つのスイッチング素子41A、41B(42A、42B)におけるゲート配線3A、3B同士が互いに磁気結合された磁気結合リアクトル20と、各スイッチング素子41A、41B、42A、42Bにおけるゲート-ソース間のインピーダンスを低減するインピーダンス低減回路30と、を備える。
【0013】
ゲート駆動回路11A、11B、12A、12Bは、スイッチング素子41A、41B、42A、42B毎に設けられて、対応するスイッチング素子41A、41B、42A、42Bに駆動電圧を供給する。
ゲート駆動回路11A、11B、12A、12Bは、ゲートに接続されるゲート配線3A、3Bとソースに接続される基準配線としてのソース配線4A、4Bとから成る2配線により、スイッチング素子41A、41B、42A、42Bと接続されて、ゲート-ソース間に駆動電圧を供給する。
【0014】
磁気結合リアクトル20は、フェライトなどの磁性材料から成るコアに、2直列のスイッチング素子41A、41B(42A、42B)の双方のゲート配線3A、3Bを巻回して磁気結合されて成る。この磁気結合リアクトル20は、アーム41(42)内で直列接続されたスイッチング素子41A、41B(42A、42B)のゲート電流iA、iBを一致させるように動作する。
なお、この場合、直列接続されたスイッチング素子41A、41B(42A、42B)におけるゲート配線3A、3B同士が互いに磁気結合された磁気結合リアクトル20を示したが、ソース配線4A、4B同士が互いに磁気結合されたものでも良い。
【0015】
インピーダンス低減回路30は、各スイッチング素子41A、41B、42A、42B毎に、それぞれ設けられる。また、インピーダンス低減回路30は、抵抗RとノーマリオンスイッチSWとの直列回路にて構成される。そして、各スイッチング素子41A、41B、42A、42Bのゲート-ソース間、即ち、ゲート配線3A、3Bとソース配線4A、4Bとの間に接続され、ゲート-ソース間のインピーダンスを低減する。
【0016】
図2は、ゲート駆動回路の構成を示す回路図である。この場合、ゲート駆動回路11Aの場合を説明するが、ゲート駆動回路11B、12A、12Bについても同様である。
図2に示すように、ゲート駆動回路11Aは、フォトカプラ13と、電源14A、14Bと、NPNトランジスタQ1と、PNPトランジスタQ2と、正極側のゲート抵抗Rg1と、負極側のゲート抵抗Rg2とを備える。
ゲート駆動回路11Aでは、ゲート信号Gsがフォトカプラ13を介してNPNトランジスタQ1およびPNPトランジスタQ2のベースに入力される。そして、入力されるゲート信号Gsに応じて、電源14Aからの正極電圧(+Vgp)、電源14Bからの負極電圧(-Vgn)のいずれかが駆動電圧としてゲート-ソース間に供給される。
【0017】
ゲート駆動回路11Aは、ゲート信号GsがHiの場合、ゲート-ソース間に正極電圧(+Vgp)を供給し、ゲート信号GsがLoの場合、ゲート-ソース間に負極電圧(-Vgn)を供給する。例えば、電源14Aからの正極電圧(+Vgp)は+15V、電源14Bからの負極電圧(-Vgn)は-9Vとなる。
【0018】
アーム41、42内で直列接続されたスイッチング素子41A、41B(42A、42B)には、スイッチングタイミングが一致されるように同じゲート信号Gsが与えられる。
以下、正極側アーム41について、スイッチング素子41A、41Bのゲート駆動について説明するが、負極側アーム42についても同様である。
【0019】
アーム41内の2つのゲート駆動回路11A、11Bは、内在するフォトカプラ13などの遅延バラつきにより、駆動電圧を出力するタイミングにずれが生じることがある。その場合、スイッチング素子41A、41Bの各ゲートに入力されるゲート電流iA、iBには偏差が生じる。
磁気結合リアクトル20のコアには、スイッチング素子41A、41Bの双方のゲート配線3A、3Bが巻回されている。ゲート配線3A、3Bの巻回方向は、ゲート配線3A、3Bを流れるゲート電流iA、iBが異なる場合に電圧差が生じる方向である。
ゲート配線3A、3Bを流れるゲート電流iA、iBが同等である場合は、ゲート電流iA、iBにより発生する磁束が互いに打ち消し合い0になる。
【0020】
上述したように、ゲート駆動回路11A、11Bのタイミングずれによりゲート配線3A、3Bを流れるゲート電流iA、iBに偏差が生じると、磁気結合リアクトル20は、偏差を抑制するように動作する。即ち、磁気結合リアクトル20によってゲート電流iA、iBの偏差は抑制され、最終的にゲート-ソース間電圧の偏差も抑制される。
仮に、ゲート駆動回路11A、11Bのタイミングずれが生じた状態で、スイッチング素子41A、41Bをターンオフした場合、早くターンオフした素子のドレイン-ソース間に直流電源1の電圧集中を招く、と言う不具合が生じる。
【0021】
また、ゲート配線3A、3Bが巻回された磁気結合リアクトル20を設ける事により、ゲート配線3A、3Bのインピーダンスが増加する。ゲート配線3A、3Bのインピーダンスが増加する事は、駆動電圧の不安定要因となる。
この実施の形態では、各スイッチング素子41A、41Bのゲート-ソース間にインピーダンス低減回路30が接続されている。このため、ゲート-ソース間のインピーダンスは低減されて、ゲート-ソース間電圧、即ち駆動電圧は安定化される。このように、磁気結合リアクトル20に起因して駆動電圧が不安定になることを防止して、スイッチング素子41A、41Bの誤動作を防止できる。
【0022】
この場合、インピーダンス低減回路30は、抵抗RとノーマリオンスイッチSWとの直列回路にて構成される。ノーマリオンスイッチSWは、機械式スイッチでも半導体式スイッチでもよく、通常オンで、ゲート駆動回路11A、11Bの電源電圧((+Vgp)、(-Vgn))が設定値を超えて確立されると、オフするように動作する。即ち、インピーダンス低減回路30は、ゲート駆動回路11A、11Bの電源電圧((+Vgp)、(-Vgn))が設定値を超えるまでの間、ゲート-ソース間のインピーダンスを低減する。
【0023】
この場合、ノーマリオンスイッチSWは、例えば設定値として負極電圧(-Vgn)の定格電圧の8割程度の大きさを設定し、負極電圧(-Vgn)の大きさが設定値を超えるとオフするものとする。
なお、別途、駆動電源が不要であるノーマリオンスイッチSWをインピーダンス低減回路30に用いるのは、ゲート駆動に係る電力低減の観点から望ましいが、それに限るものでは無い。
【0024】
上述したように、磁気結合リアクトル20を設ける事により、ゲート配線3A、3Bのインピーダンスが増加し、駆動電圧の不安定化の要因となるが、インピーダンス低減回路30の作用によりゲート-ソース間電圧は安定化される。インピーダンス低減回路30の作用および効果について、以下に説明する。
【0025】
スイッチング素子41A、41Bがオンするための閾値電圧Vthは、通常3V程度である。
負極電圧(-Vgn)が確立されていない条件では、(-Vgn)は0Vであり、オフ時のゲート-ソース間電圧は0Vとなり、閾値電圧Vthまでの電圧余裕が小さい。このとき、インピーダンス低減回路30のノーマリオンスイッチSWはオン状態で、ゲート-ソース間は抵抗Rを介して接続されて低インピーダンスとなり、ゲート-ソース間電圧は安定化される。このため、ノイズ電流などが、インピーダンスが増加したゲート配線3A、3Bに混入しても、スイッチング素子41A、41Bのゲート-ソース間電圧が上昇して不安定になることが抑制される。これにより、スイッチング素子41A、41Bが、オフすべき時に誤動作によりオンする誤オン現象を防止できる。
【0026】
スイッチング素子41A、41Bの誤オン現象は、2つのアーム41、42による直流電源1の短絡を引き起こし、過大な短絡電流がスイッチング素子41A、41B、42A、42Bに流れ、信頼性上の大きな懸念となる。このような誤オン現象を、インピーダンス低減回路30を設けることで防止することが出来る。
【0027】
なお、ゲート駆動回路11A、11Bの電源電圧である負極電圧(-Vgn)が確立されている条件では、オフ時のゲート-ソース間電圧は、例えば(-9V)で負バイアスされる。このとき、インピーダンス低減回路30は、ノーマリオンスイッチSWがオフ状態でインピーダンスを低減する動作をしない。しかし、ゲート配線3A、3Bのインピーダンス増加によりゲート-ソース間電圧が不安定となっても、閾値電圧Vthまでの電圧余裕が大きいので、スイッチング素子41A、41Bの誤オン現象を引き起こしにくい。
【0028】
また、インピーダンス低減回路30は、ノーマリオンスイッチSWがオン状態のときスイッチング素子41A、41Bのゲート-ソース間を低インピーダンスに保つものであるが、その状態でもゲート駆動回路11A、11Bからゲート-ソース間に電圧を印加できる。このため、ノーマリオンスイッチSWのオフ動作が遅れても、スイッチング素子41A、41Bのスイッチング制御に問題が無く、スイッチングにおけるタイミング制御に自由度を有する。
【0029】
以上のように、この実施の形態によるスイッチング回路50は、アーム41、42内で直列接続された複数のスイッチング素子41A、41B(42A、42B)におけるゲート配線3A、3B同士が互いに磁気結合された磁気結合リアクトル20と、各スイッチング素子41A、41B(42A、42B)のゲート-ソース間に設けられて、ゲート-ソース間のインピーダンスを低減するインピーダンス低減回路30とを備える。
これにより、アーム41、42内で直列接続される複数のスイッチング素子41A、41B(42A、42B)が、互いにゲート電流iA、iBが一致して同時スイッチングし、かつ、各スイッチング素子41A、41B(42A、42B)の誤動作を確実に防止でき、信頼性が向上する。
【0030】
なお、磁気結合リアクトル20を、ソース配線4A、4Bをコアに巻回して磁気結合して構成した場合も、磁気結合リアクトル20は、アーム41、42内で直列接続されたスイッチング素子41A、41B(42A、42B)のゲート電流iA、iBを一致させるように動作する。この場合も、磁気結合リアクトル20を設ける事により、ソース配線4A、4Bのインピーダンスが増加し、駆動電圧の不安定化の要因となるが、インピーダンス低減回路30の作用によりゲート-ソース間電圧は安定化される。これにより、各スイッチング素子41A、41B(42A、42B)の誤動作を確実に防止できる。
【0031】
また、各スイッチング素子41A、41B、42A、42Bは、半導体モジュールに収納されて用いられる。アーム41、42内で直列接続される2つのスイッチング素子41A、41B(42A、42B)が1つの半導体モジュールに収納される例を、以下に示す。この場合、アーム41について示すが、アーム42内のスイッチング素子42A、42Bについても、同様である。
なお、1つのモジュールに収納されるスイッチング素子の個数は2個に限るものではない。
【0032】
図3Aは、半導体モジュールの構成を示す図である。
図3Bは、半導体モジュールおよび各部の配置を示す平面図である。
図3Aに示すように、アーム41内のスイッチング素子41A、41Bが1つの半導体モジュール(以下、単にモジュール6)に収納される。そして、図3Bに示すように、モジュール6の直上に基板7が配置され、スイッチング素子41A、41Bに対応する2つのインピーダンス低減回路30が基板7に実装される。このように、スイッチング素子41A、41Bのゲート-ソース間のインピーダンスを低減するインピーダンス低減回路30を、各スイッチング素子41A、41Bの直近に実装することで、確実にインピーダンス低減効果が得られる。
【0033】
上記実施の形態1では、抵抗RとノーマリオンスイッチSWとの直列回路にてインピーダンス低減回路30を構成したが、他の構成でも良く、以下に示す。
図4Aおよび図4Bは、それぞれ別例によるインピーダンス低減回路の構成を示す図である。
図4Aに示すインピーダンス低減回路30Aは、ノーマリオンスイッチSWにて構成される。ノーマリオンスイッチSWは、上述したインピーダンス低減回路30内の場合と同様であり、通常オンで、ゲート駆動回路11A、11Bの電源電圧((+Vgp)、(-Vgn))が設定値を超えて確立されると、オフするように動作する。即ち、インピーダンス低減回路30Aは、ゲート駆動回路11A、11Bの電源電圧((+Vgp)、(-Vgn))が設定値を超えるまでの間、ゲート-ソース間のインピーダンスを低減する。
【0034】
この場合も、インピーダンス低減回路30Aの作用によりゲート-ソース間電圧は安定化され、各スイッチング素子41A、41Bの誤動作を確実に防止できる。
この場合、スイッチング素子41A、41Bのゲート-ソース間がノーマリオンスイッチSWにより接続されるため、ノーマリオンスイッチSWがオン状態のとき、ゲート-ソース間に駆動電圧が印加されない。
また、別途、駆動電源が不要であるノーマリオンスイッチSWをインピーダンス低減回路30Aに用いるのは、ゲート駆動に係る電力低減の観点から望ましいが、それに限るものでは無い。
【0035】
図4Bに示すインピーダンス低減回路30Bは、抵抗Rにて構成される。
この場合も、インピーダンス低減回路30Bの作用によりゲート-ソース間電圧は安定化され、各スイッチング素子41A、41Bの誤動作を確実に防止できる。
この場合、スイッチング素子41A、41Bのゲート-ソース間が常に抵抗Rを介して接続される。このため、ゲート駆動回路11A、11Bの電源電圧((+Vgp)、(-Vgn))に拘わらず、スイッチング素子41A、41Bのゲート-ソース間のインピーダンスが低減されるが、ゲート駆動に係わる消費電力が増加する。
【0036】
以上、スイッチング回路50の正極側アーム41について、主に説明したが、負極側アーム42についても同様に構成でき、同様の効果が得られる。
また、上記実施の形態1は、2レベル変換器の1相分のスイッチング回路50に適用したものを示したが、例えば、三相構成の電力変換装置にも同様に適用できる。
【0037】
図5は、三相インバータの主回路構成を示す回路図である。
図5に示すように、電力変換装置としての三相インバータ100は、直流母線(正側母線2Pおよび負側母線2N)間で、各相(U相、V相、W相)のレグ回路40が直流電源1に並列接続されている。各相レグ回路40は、正極側アーム41と負極側アーム42との2つのアーム41、42の直列体から構成され、2つのアーム41、42の接続点に各相交流端子5U、5V、5Wが接続される。
【0038】
なお、図5では図示省略したが、各相レグ回路40には、上述したスイッチング回路50の場合と同様に、各スイッチング素子41A、41B、42A、42Bに駆動電圧を供給するゲート駆動回路11A、11B、12A、12Bと、アーム41、42内で直列接続された2つのスイッチング素子41A、41B(42A、42B)におけるゲート配線3A、3B同士が互いに磁気結合された磁気結合リアクトル20と、各スイッチング素子41A、41B、42A、42Bにおけるゲート-ソース間のインピーダンスを低減するインピーダンス低減回路30と、を備える。
【0039】
このような三相インバータ100においても、各相レグ回路40のアーム41、42内で直列接続される複数のスイッチング素子41A、41B(42A、42B)が、互いにゲート電流iA、iBが一致して同時スイッチングし、かつ、各スイッチング素子41A、41B(42A、42B)の誤動作を確実に防止でき、信頼性が向上する。
【0040】
実施の形態2.
上記実施の形態1のスイッチング素子41A、41B、42A、42Bは、それぞれ並列構成にしても良く、この実施の形態2では、各アーム内で複数のスイッチング素子が直列および並列に接続された電力変換装置について説明する。
図6は、実施の形態2によるスイッチング回路の構成を示す回路図である。この場合、電力変換装置として、2レベル変換器の1相分のスイッチング回路50Aを示す。
図6に示すように、スイッチング回路50Aは、直流母線(正側母線2Pおよび負側母線2N)間で、レグ回路40が直流電源1に並列接続されている。レグ回路40は、正極側アーム41と負極側アーム42との2つのアーム41、42の直列体から構成され、2つのアーム41、42の接続点に交流端子5が接続される。
直流電源1として電圧源を図示しているが、コンデンサなどのエネルギ蓄積源でも良い。
【0041】
正極側アーム41は、2つの第1スイッチング素子41AA、41ABが並列接続された並列回路と、2つの第1スイッチング素子41BA、41BBが並列接続された並列回路とが直列接続された直列体で構成される。なお、第1スイッチング素子41AAと第1スイッチング素子41BAとが直列接続され、第1スイッチング素子41ABと第1スイッチング素子41BBとが直列接続され、これらが並列接続されるのと同じである。
負極側アーム42は、2つの第1スイッチング素子42AA、42ABが並列接続された並列回路と、2つの第1スイッチング素子42BA、42BBが並列接続された並列回路とが直列接続された直列体で構成される。なお、第1スイッチング素子42AAと第1スイッチング素子42BAとが直列接続され、第1スイッチング素子42ABと第1スイッチング素子42BBとが直列接続され、これらが並列接続されるのと同じである。
【0042】
各アーム41、42は、4つの第1スイッチング素子41AA、41AB、41BA、41BB(42AA、42AB、42BA、42BB)が2直列2並列に接続された構成である。このため、スイッチング素子を直列に接続しない場合と比較して、より高電圧の電力変換が可能となる。また、スイッチング素子を並列に接続しない場合と比較して、より大電流の電力変換が可能となる。
なお、第1スイッチング素子41AA、41AB、41BA、41BB(42AA、42AB、42BA、42BB)の直列数または並列数は、それぞれ3以上でも良く同様に適用できる。
【0043】
各第1スイッチング素子41AA、41AB、41BA、41BB、42AA、42AB、42BA、42BBは、還流ダイオードが逆並列に接続され、MOSFETあるいはIGBTなどが用いられる。
各第1スイッチング素子41AA、41AB、41BA、41BB、42AA、42AB、42BA、42BBは、基準端子を含む2つの主端子とゲート(ゲート端子)とをそれぞれ有する。以下では、図示されたMOSFETを想定して、2つの主端子であるソース、ドレインを用い、ソースを基準端子として説明する。なお、IGBTの場合は、ソース、ドレインをそれぞれエミッタ、コレクタに読み替えることができる。
【0044】
また、スイッチング回路50Aは、各第1スイッチング素子41AA、41AB、41BA、41BB、42AA、42AB、42BA、42BBに駆動電圧を供給するゲート駆動回路11A、11B、12A、12Bと、各アーム41、42内の2つのゲート駆動回路11A、11B(12A、12B)に接続されるゲート配線3A、3B同士が互いに磁気結合された磁気結合リアクトル20と、各第1スイッチング素子41AA、41AB、41BA、41BB、42AA、42AB、42BA、42BBにおけるゲート-ソース間のインピーダンスを低減するインピーダンス低減回路30と、を備える。
【0045】
さらに、第1スイッチング素子41AA、41AB、41BA、41BB、42AA、42AB、42BA、42BBのそれぞれに接続される2配線(ゲート配線3A、3Bおよびソース配線4A、4B)に横流抑制回路60が接続される。横流抑制回路60には、コモンモードリアクトルが用いられる。
さらに、第1スイッチング素子41AA、41AB、41BA、41BB、42AA、42AB、42BA、42BBのそれぞれに接続されるゲート配線3A、3Bにバランス抵抗70が接続される。
【0046】
ゲート駆動回路11A、11B、12A、12Bは、上記実施の形態1と同様に構成される。この場合、ゲート駆動回路11A、11B、12A、12Bは、2並列の第1スイッチング素子(41AA、41AB)、(41BA、41BB)、(42AA、42AB)、(42BA、42BB)に対応して設けられる。
ゲート駆動回路11A、11B、12A、12Bは、ゲート配線3A、3Bとソース配線4A、4Bとから成る2配線により、2並列の第1スイッチング素子(41AA、41AB)、(41BA、41BB)、(42AA、42AB)、(42BA、42BB)と接続されて、各第1スイッチング素子41AA、41AB、41BA、41BB、42AA、42AB、42BA、42BBのゲート-ソース間に駆動電圧を供給する。
【0047】
この場合、1つのゲート駆動回路、例えば、ゲート駆動回路11Aは、並列接続された2つの第1スイッチング素子41AA、41ABのゲート-ソース間に同じ駆動電圧を供給する。このため、ゲート駆動回路11Aに接続されるゲート配線3Aおよびソース配線4Aは、2つに分岐して各第1スイッチング素子41AA、41ABのゲートおよびソースに接続される。
【0048】
ゲート駆動回路11A、11B、12A、12Bは、ゲート信号GsがHiの場合、ゲート-ソース間に正極電圧(+Vgp)を供給し、ゲート信号GsがLoの場合、ゲート-ソース間に負極電圧(-Vgn)を供給する。例えば、正極電圧(+Vgp)は+15V、電源14Bからの負極電圧(-Vgn)は-9Vとなる。
【0049】
以下、正極側アーム41について、スイッチング素子41A、41Bのゲート駆動について説明するが、負極側アーム42についても同様である。
アーム41内で直列接続された2並列の第1スイッチング素子(41AA、41AB)、(41BA、41BB)には、スイッチングタイミングが一致されるように同じゲート信号Gsが与えられる。
【0050】
アーム41内の2つのゲート駆動回路11A、11Bは、内在するフォトカプラ13などの遅延バラつきにより、駆動電圧を出力するタイミングにずれが生じることがある。その場合、2つのゲート駆動回路11A、11Bからゲート配線3A、3Bを介して、第1スイッチング素子41AA、41ABおよび第1スイッチング素子41BA、41BBのゲートに流れるゲート電流iA、iBには偏差が生じる。
【0051】
磁気結合リアクトル20は、フェライトなどの磁性材料から成るコアに、2つのゲート駆動回路11A、11Bからの双方のゲート配線3A、3Bを巻回して磁気結合されて成る。ゲート配線3A、3Bの巻回方向は、ゲート配線3A、3Bを流れるゲート電流iA、iBが異なる場合に電圧差が生じる方向であり、磁気結合リアクトル20は、ゲート電流iA、iBを一致させるように動作する。
ゲート配線3A、3Bを流れるゲート電流iA、iBが同等である場合は、ゲート電流iA、iBにより発生する磁束が互いに打ち消し合い0になる。
【0052】
なお、この場合、ゲート配線3A、3B同士が互いに磁気結合された磁気結合リアクトル20を示したが、ソース配線4A、4B同士が互いに磁気結合されたものでも良い。
【0053】
上述したように、ゲート駆動回路11A、11Bのタイミングずれによりゲート配線3A、3Bを流れるゲート電流iA、iBに偏差が生じると、磁気結合リアクトル20は、偏差を抑制するように動作する。即ち、磁気結合リアクトル20によってゲート電流iA、iBの偏差は抑制され、最終的にゲート-ソース間電圧の偏差も抑制される。
仮に、ゲート駆動回路11A、11Bのタイミングずれが生じた状態で、第1スイッチング素子41AA、41AB、41BA、41BBをターンオフした場合、早くターンオフした素子のドレイン-ソース間に直流電源1の電圧集中を招く、と言う不具合が生じる。
【0054】
また、ゲート配線3A、3Bが巻回された磁気結合リアクトル20を設ける事により、ゲート配線3A、3Bのインピーダンスが増加する。ゲート配線3A、3Bのインピーダンスが増加する事は、駆動電圧の不安定要因となる。
この実施の形態では、アーム41内の各第1スイッチング素子41AA、41AB、41BA、41BBのゲート-ソース間に、インピーダンスを低減するインピーダンス低減回路30が接続されている。このため、各第1スイッチング素子41AA、41AB、41BA、41BBのゲート-ソース間のインピーダンスは低減されて、ゲート-ソース間電圧、即ち駆動電圧は安定化される。
【0055】
このように、磁気結合リアクトル20に起因して駆動電圧が不安定になることを防止して、第1スイッチング素子41AA、41AB、41BA、41BBの誤動作を防止できる。特に、ゲート駆動回路11A、11Bの電源電圧が確立されていない状態で、各第1スイッチング素子41AA、41AB、41BA、41BBがオフすべき時に誤動作によりオンする誤オン現象を防止できる。
【0056】
インピーダンス低減回路30は、上記実施の形態1と同様に、抵抗RとノーマリオンスイッチSWとの直列回路にて構成され、同様に動作して同様の効果が得られる。
なお、インピーダンス低減回路30に替わり、図4A図4Bで示したインピーダンス低減回路30A、30Bを用いても良い。
【0057】
また、この実施の形態では、第1スイッチング素子41AA、41AB、41BA、41BB、42AA、42AB、42BA、42BBのそれぞれに接続される2配線(ゲート配線3A、3Bおよびソース配線4A、4B)にコモンモードリアクトルから成る横流抑制回路60が接続される。
横流抑制回路60は、各アーム41、42内で並列接続された第1スイッチング素子41AA、41AB、41BA、41BB、42AA、42AB、42BA、42BB間において、主回路を流れる電流が、2配線(ゲート配線3A、3Bおよびソース配線4A、4B)に流れること、すなわち横流することを防止する。例えば、並列接続された第1スイッチング素子41AA、41AB間において、横流を防止する。
【0058】
横流抑制回路60は、各第1スイッチング素子41AA、41AB、41BA、41BB、42AA、42AB、42BA、42BBの2配線(ゲート配線3A、3Bおよびソース配線4A、4B)に、合計して零にならない電流が発生すると、その電流に対してインピーダンスを持つ。横流抑制回路60によるインピーダンスの増加により、ソース配線4A、4Bに主電流が混入するのを防止して、ゲート駆動の信頼性が向上する。
【0059】
また、第1スイッチング素子41AA、41AB、41BA、41BB、42AA、42AB、42BA、42BBの各ゲート配線3A、3Bに、バランス抵抗70が接続される。バランス抵抗70は、各アーム41、42内で並列接続された第1スイッチング素子41AA、41AB、41BA、41BB、42AA、42AB、42BA、42BBにおいて、ゲート-ソース間の浮遊容量などでの共振を抑制する。例えば、並列接続された第1スイッチング素子41AA、41ABにおいて、ゲート-ソース間の浮遊容量などで共振が発生することを抑制する。これにより、ゲート駆動の信頼性が向上する。
【0060】
横流抑制回路60およびバランス抵抗70は、これらを接続することによりゲート駆動回路11A、11B、12A、12Bから引き出されるゲート配線3A、3Bあるいはソース配線4A、4Bのインピーダンスが増加する。
このようなインピーダンスの増加は、上述したように駆動電圧の不安定要因となるが、各第1スイッチング素子41AA、41AB、41BA、41BB、42AA、42AB、42BA、42BBのゲート-ソース間にインピーダンス低減回路30が接続されているため、ゲート-ソース間のインピーダンスは低減されて、ゲート-ソース間電圧、即ち駆動電圧は安定化される。
【0061】
このように、各第1スイッチング素子41AA、41AB、41BA、41BB、42AA、42AB、42BA、42BBのゲート-ソース間に接続されるインピーダンス低減回路30は、磁気結合リアクトル20、横流抑制回路60およびバランス抵抗70に起因して駆動電圧が不安定になることを防止して、第1スイッチング素子41AA、41AB、41BA、41BB、42AA、42AB、42BA、42BBの誤動作を防止できる。
【0062】
なお、上記実施の形態2では、コモンモードリアクトルを横流抑制回路60に用いたが、これに限らない。
図7は、実施の形態2の別例によるスイッチング回路の構成を示す回路図である。
図7に示すように、横流抑制回路60Aとして、ソース配線4A、4Bに挿入する抵抗Raが用いられる。その他の構成は、図6で示した例と同様である。
この場合、横流抑制回路60Aにより、ソース配線4A、4Bの抵抗値が増加し、ソース配線4A、4Bに主電流が混入する横流を防止して、ゲート駆動の信頼性が向上する。
【0063】
そして、この場合も、インピーダンス低減回路30は、磁気結合リアクトル20、横流抑制回路60Aおよびバランス抵抗70に起因したインピーダンス増加により駆動電圧が不安定になることを防止して、第1スイッチング素子41AA、41AB、41BA、41BB、42AA、42AB、42BA、42BBの誤動作を防止できる。
【0064】
また、各第1スイッチング素子41AA、41AB、41BA、41BB、42AA、42AB、42BA、42BBは、半導体モジュールに収納されて用いられる。アーム41、42内で直列接続される2つの第1スイッチング素子(41AA、41BA)、(41AB、41BB)、(42AA、42BA)、(42AB、42BB)、(42A、42B)が1つの半導体モジュールに収納される例を、以下に示す。この場合、アーム41について示すが、アーム42についても、同様である。
なお、1つのモジュールに収納されるスイッチング素子の個数は2個に限るものではない。
【0065】
図8Aは、半導体モジュールの構成を示す図である。
図8Bおよび図8Cは、半導体モジュールおよび各部の配置を示す平面図である。
図8Aに示すように、アーム41内の第1スイッチング素子41AA、41BAと第1スイッチング素子41AB、41BBとが、それぞれ1つの半導体モジュール(以下、単にモジュール)6A、6Bに収納される。そして、図8Bに示すように、2つのモジュール6A、6Bの直上に基板7Aが配置され、第1スイッチング素子41AA、41AB、41BA、41BBに対応して、4つのインピーダンス低減回路30、4つの横流抑制回路60および4つのバランス抵抗70が、基板7Aに実装される。
また、図8Cに示すように、2つのモジュール6A、6Bの直上に基板7B、7Cがそれぞれ配置され、各基板7B、7Cに、2つのインピーダンス低減回路30、2つの横流抑制回路60および2つのバランス抵抗70が、それぞれ実装されるものでも良い。
【0066】
このように、第1スイッチング素子41AA、41AB、41BA、41BBのゲート-ソース間のインピーダンスを低減するインピーダンス低減回路30を、各第1スイッチング素子41AA、41AB、41BA、41BBの直近に実装することで、確実にインピーダンス低減効果が得られる。
また、インピーダンス低減回路30が実装された基板7A、7B、7Cに、横流抑制回路60およびバランス抵抗70を実装することにより、実装面積を小さくでき、小型化、高密度化が可能になる。
【0067】
また、上記実施の形態2は、2レベル変換器の1相分のスイッチング回路50Aに適用したものを示したが、例えば、三相構成の電力変換装置にも同様に適用できる。
【0068】
本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
従って、例示されていない無数の変形例が、本願に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0069】
3A,3B ゲート配線、4A,4B ソース配線、6,6A,6B モジュール、7,7A,7B,7C 基板、11A,11B,12A,12B ゲート駆動回路、20 磁気結合リアクトル、30,30A,30B インピーダンス低減回路、41,42 アーム、41A,41B,42A,42B スイッチング素子、41AA,41AB,41BA,41BB,42AA,42AB,42BA,42BB 第1スイッチング素子、50,50A スイッチング回路、60,60A 横流抑制回路、70 バランス抵抗、100 三相インバータ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8