(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】蒸気タービン設備の運転方法
(51)【国際特許分類】
F01K 7/16 20060101AFI20241018BHJP
F01D 25/32 20060101ALI20241018BHJP
F01K 7/22 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
F01K7/16 A
F01D25/32 B
F01K7/22 A
(21)【出願番号】P 2024133980
(22)【出願日】2024-08-09
【審査請求日】2024-08-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】望月 吉和
(72)【発明者】
【氏名】中村 建樹
(72)【発明者】
【氏名】藤田 一作
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第113389606(CN,A)
【文献】中国実用新案第201897210(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01K 7/00
F01K 13/00
F01D 25/00
G21D 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉で発生した熱を利用して生成された蒸気が供給される高圧タービンと、前記高圧タービンから排出された蒸気が供給される低圧タービンと、含む蒸気タービン設備の運転方法であって、
前記高圧タービンの入口圧力と前記低圧タービンの出口圧力との差に対する前記低圧タービンの入口圧力と前記低圧タービンの出口圧力との差の比が0.16以下となる蒸気条件で、かつ、500MW以下の出力条件で前記高圧タービン及び前記低圧タービンを駆動するステップを備える
蒸気タービン設備の運転方法。
【請求項2】
前記低圧タービンの入口圧力が0.4MPa(a)以上0.7MPa(a)以下となる蒸気条件で、前記高圧タービン及び前記低圧タービンを駆動する
請求項1に記載の蒸気タービン設備の運転方法。
【請求項3】
前記低圧タービンの入口温度が220℃以上280℃以下となる蒸気条件で、前記高圧タービン及び前記低圧タービンを駆動する
請求項1又は2に記載の蒸気タービン設備の運転方法。
【請求項4】
前記低圧タービンは、軸方向に並ぶ複数段の静翼を含み、
前記複数段の静翼は、
湿分回収構造を有しない前方段静翼と、
軸方向にて前記前方段静翼の下流側に設けられ、湿分回収構造を有する後方段静翼と、
を含み、
前記湿分回収構造により、前記低圧タービン内のドレンを回収するステップを備える
請求項1又は2に記載の蒸気タービン設備の運転方法。
【請求項5】
前記高圧タービンと前記低圧タービンとの間に設けられるとともに50インチ以上の直径を有する配管を介して、前記高圧タービンからの蒸気を前記低圧タービンに導入するステップを備える
請求項1又は2に記載の蒸気タービン設備の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、蒸気タービン設備の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、原子力プラント向けの蒸気タービンは、火力プラント向けの蒸気タービンに比べて、低圧タービンの入口における蒸気の温度及び圧力が低く、低圧タービンに入ってから早い段階で湿り蒸気になり、低圧タービン出口における湿り度が高い。蒸気タービンにおいて蒸気の湿り度が高いことは、湿り損失の増大や水滴によるエロージョンの発生につながるため、対策を取ることが求められる。
【0003】
特許文献1には、高圧タービンと低圧タービンとの間に従来よりも大径の蒸気配管が設けられた原子力発電プラントが開示されている。このように従来よりも大径の蒸気配管を用いることにより、低圧タービン入口圧力を従来よりも低下させて蒸気流速を遅くし、該蒸気配管に設けられる湿分分離加熱器における蒸気の滞留時間を長くすることで、湿分分離加熱器の性能を向上するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
原子力プラント向けの蒸気タービンにおいて、蒸気の湿り度が高いことによる影響(湿り損失やエロージョン)を抑制しようとする場合、特許文献1記載のように低圧タービン入口の蒸気圧力を下げるか、又は、低圧タービン入口の蒸気温度を高くすることが考えられる。
【0006】
しかし、低圧タービン入口の蒸気の温度は、高圧タービンから低圧タービンに向かう蒸気を再熱するための熱源の温度等によって制限されるため、高くするにも限界がある。また、特許文献1に記載されるように、高圧タービンと低圧タービンとの間の配管の径を拡大することで低圧タービン入口の蒸気圧力を低下させることができるが、配管径が大きくなると、該配管に合う大容量の弁を作製することが困難となるため、低圧タービン入口の蒸気圧力を低くするにも限界がある。
【0007】
このため、従来の原子力プラントでは、蒸気タービンにおける蒸気の湿り度がある程度高い運転条件で蒸気タービン設備の運転を行っている。また、蒸気タービンにおける湿り対策として、低圧タービンの初段側からドレンキャッチャーを設ける構造が採用されている。なお、ドレンキャッチャーは、車室の壁面に設けられるくぼみを含み、動翼の遠心力で径方向外側に飛ばされる水滴を受けて溜めることが可能な構造を有する。
【0008】
ところで、従来の原子炉よりも小型で低出力向けの小型モジュール炉(Small Modular Reactor;SMR)の需要が高まってきている。SMR等を用いた低出力帯の原子力プラントにおいて、蒸気の湿りによる影響(湿り損失やエロージョン)を抑制できるような条件で蒸気タービンを運転することが望まれる。
【0009】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、低出力帯の蒸気タービン設備において、蒸気の湿りによる損失やエロージョンのリスクを低減可能な蒸気タービン設備の運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の少なくとも一実施形態に係る蒸気タービン設備の運転方法は、
原子炉で発生した熱を利用して生成された蒸気が供給される高圧タービンと、前記高圧タービンから排出された蒸気が供給される低圧タービンと、含む蒸気タービン設備の運転方法であって、
前記高圧タービンの入口圧力と前記低圧タービンの出口圧力との差に対する前記低圧タービンの入口圧力と前記低圧タービンの出口圧力との差の比が0.16以下となる蒸気条件で、かつ、500MW以下の出力条件で前記高圧タービン及び前記低圧タービンを駆動するステップを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、低出力帯の蒸気タービン設備において、蒸気の湿りによる損失やエロージョンのリスクを低減可能な蒸気タービン設備の運転方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施形態に係る蒸気タービン設備を示す概略図である。
【
図2】一実施形態に係る原子炉の構成を示す概略図である。
【
図3】一実施形態に係る蒸気タービンのタービン翼の構成を示す概略図である。
【
図4】幾つかの低圧タービンにおける作動流体(蒸気)の膨張時の比エンタルピと比エントロピとの関係を示すi-s線図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0014】
(蒸気タービン設備の構成)
図1は、幾つかの実施形態に係る運転方法が適用される蒸気タービン設備の一例を示す概略図である。
図2は、一実施形態に係る原子炉の構成を示す概略図である。
図3は、一実施形態に係る蒸気タービンのタービン翼の構成を示す概略図である。
【0015】
図1に示すように、一実施形態に係る蒸気タービン設備1は、原子炉100(
図2)で発生した熱を利用して蒸気を生成するための蒸気発生部2と、蒸気発生部2からの蒸気(主蒸気)が供給される高圧タービン6と、高圧タービン6から排出された蒸気が供給された低圧タービン10と、を含む。
【0016】
蒸気発生部2で生成された蒸気(主蒸気)は、高圧蒸気ライン4を介して高圧タービン6に導かれる。高圧蒸気ライン4には、高圧タービン6に供給される蒸気の流量を調節するための弁5が設けられていてもよい。高圧タービン6で仕事をして温度および圧力が低下した蒸気は、高圧タービン6から排出され、低圧蒸気ライン8を介して低圧タービン10に導かれる。低圧蒸気ライン8には、低圧タービン10に供給される蒸気の流量を調節するための弁9が設けられていてもよい。
【0017】
低圧蒸気ライン8には、高圧タービン6の出口から低圧タービン10の入口に向かう蒸気を再熱するための再熱部20が設けられている。再熱部20は、蒸気に含まれる湿分を除去するとともに加熱するように構成された湿分分離加熱器を含んでいてもよい。
図1に示すように、再熱部20は、蒸気発生部2で生成された蒸気を熱源として、低圧蒸気ライン8を加熱するように構成されていてもよい。なお、
図1に示す例示的な実施形態では、高圧蒸気ライン4から分岐する分岐ライン18を介して、蒸気発生部2からの主蒸気が再熱部20に供給されるようになっている。
【0018】
低圧タービン10で仕事をして温度および圧力が低下した蒸気は、低圧タービン10から排出されて復水器16に導かれる。復水器16では、冷却材(海水等)との熱交換により蒸気が凝縮され、復水が生成される。復水器16で生成した復水は、復水ライン14を介して蒸気発生部2に戻される。
【0019】
図1に示すように、蒸気タービン設備1は、高圧タービン6及び低圧タービン10の回転シャフトに接続され、高圧タービン6及び低圧タービン10によって回転駆動されるように構成された発電機12を含んでいてもよい。すなわち、蒸気タービン設備1は発電プラントであってもよい。
【0020】
図2に示すように、原子炉100は、一次冷却水(一次冷却材)が流れる一次冷却ループ30と、一次冷却ループ30に設けられる圧力容器(原子炉容器)32、加圧器34、蒸気発生部(蒸気発生器)2及び一次冷却材ポンプ(冷却材ポンプ)38と、を含む。一次冷却材ポンプ38は、一次冷却ループ30において一次冷却水を循環させるように構成される。また、加圧器34は、一次冷却ループ30において、一次冷却水が沸騰しないように、一次冷却水を加圧するように構成される。圧力容器32、加圧器34、蒸気発生部2及び一次冷却材ポンプ38は、原子炉格納容器40に格納される。
【0021】
圧力容器32には、ペレット状の核燃料(例えばウラン燃料やMOX燃料等)を含む燃料棒が収容されており、この燃料の核分裂反応で発生する熱エネルギーにより、圧力容器32の中の一次冷却水が加熱される。圧力容器32には、原子炉出力を制御するために、核燃料を含む炉心で生成される中性子数を吸収して調整するための制御棒が設けられている。圧力容器32内で加熱された一次冷却水は蒸気発生部2に送られ、熱交換により、高圧蒸気ライン4,低圧蒸気ライン8及び復水ライン14を含む二次冷却ループを流れる二次冷却水(二次冷却材)を加熱して蒸気を発生させるようになっている。
【0022】
幾つかの実施形態では、原子炉100は、小型モジュール炉(SMR:Small Modular Reactor)を含んでいてもよい。小型モジュール炉は、製造後に設置場所まで輸送可能な小型の原子炉であり、一般的な原子力発電所で用いられる原子炉(出力:約1000MW以上)に比べ出力が低く、小型モジュール炉を利用した発電プラントの出力は約500MW以下である。
【0023】
小型モジュール炉は、軽水炉、溶融塩炉又は高温ガス炉を用いた小型モジュール炉であってもよい。小型モジュール炉としての軽水炉は、従来の加圧水型原子炉(PWR:Pressurized Water Reactor)又は沸騰水型原子炉(BWR:Boiling Water Reactor)を小型化したもの、あるいは、蒸気発生器と炉内構造物を一体化した一体型加圧水型原子炉(iPWR:Integral Pressurized Water Reactor)であってもよい。なお、
図2に示す原子炉100は、加圧水型原子炉(PWR)の一例である。
【0024】
図3は、一実施形態に係る低圧タービン10の部分的な概略図である。
図3に示すように、低圧タービン10は、静翼101(101A,101B)、外輪102、内輪103、動翼104(104A,104B)及びディスク105を備えている。
【0025】
内輪103は、タービンロータの周方向に沿って設けられた環状部材である。内輪103は内部に中空部115を備えている。外輪102は、内輪103の径方向外側にタービンロータの周方向に沿って設けられた環状部材である。静翼101は、外輪102を介して車室110に支持されている。外輪102と内輪103との間にタービンロータの周方向に沿って複数の静翼101が固設されている。ディスク105の外周部にタービンロータの周方向に沿って複数の動翼104が取り付けられている。
【0026】
典型的な低圧タービン10は、軸方向に沿って配列される複数段の静翼列及び動翼列を備える。
図3に示す低圧タービン10は、前方段静翼101A、前方段動翼104A、後方段静翼101B及び後方段動翼104Bを含む。後方段静翼101B及び後方段動翼104Bは、軸方向にて前方段静翼10Aおよび前方段動翼104Aの下流側に位置する。
【0027】
複数段の静翼101のうち、少なくとも幾つかには、湿分回収構造106が設けられる。
図3に示す例示的な実施形態では、後方段静翼101Bは、湿分回収構造106としてのドレンキャッチャ107を含む。ドレンキャッチャ107は、外輪102の上流側端部から径方向外側に突出する突出部108を含む。
【0028】
蒸気タービン設備1の運転中、低圧タービン10を流れる作動流体が湿り蒸気であると、蒸気に含まれる湿分(水滴)120が前方段動翼104Aの回転によって径方向外側に飛散される。ドレンキャッチャ107により、このように飛散した湿分が捕捉されるため、後方段静翼101Bに水滴が流入するのを抑制することができる。これにより低圧タービン10の後方段における湿分を低減することができる。
【0029】
(蒸気タービン設備の運転方法)
次に、幾つかの実施形態に係る蒸気タービン設備1の運転方法について説明する。幾つかの実施形態では、高圧タービン6の入口圧力PH1と低圧タービン10の出口圧力PL2との差(PH1-PL2)に対する低圧タービン10の入口圧力PL1と低圧タービン10の出口圧力PL2との差(PL1-PL2)の比(PL1-PL2)/(PH1-PL2)が0.16以下となる蒸気条件で、かつ、500MW以下の出力条件で高圧タービン6及び低圧タービン10を駆動する。幾つかの実施形態では、上述の比(PL1-PL2)/(PH1-PL2)が0.15以下又は0.14以下となる蒸気条件で、かつ、500MW以下の出力条件で高圧タービン6及び低圧タービン10を駆動する。
【0030】
図4は、幾つかの低圧タービンにおける作動流体(蒸気)の膨張時の比エンタルピ(縦軸)と比エントロピ(横軸)との関係を示すi-s線図である。なお、
図4のグラフには、等温線LT1(250℃)、及びT2(350℃)、等圧線LP1(0.005MPa(a))、LP2(0.5MPa(a))及びLP3(1.0MPa(a))、ならびに、等湿り度線LM0(飽和線)、LM1(10%)及びLM2(15%)が含まれる。なお、圧力の単位の表記における(a)は絶対圧を意味する。
【0031】
図4のグラフにおける曲線A~Cは、それぞれ、低圧タービンの入口(点A1~C1)から出口(点A2~C2)に至るまでの膨張線(蒸気の状態量の変化を示す曲線)である。曲線Aは、上述の実施形態に係る蒸気タービン設備1(SMR等の低出力の原子力プラント)の低圧タービン10の膨張線であり、曲線Bは、従来の比較的高出力の従来の原子力プラント(一例)における蒸気タービン設備の低圧タービンの膨張線であり、曲線Cは、従来の火力プラント(一例)における蒸気タービン設備の低圧タービンの膨張線である。
【0032】
図4のグラフに示すように、従来の原子力プラント(曲線B)では、低圧タービンの入口(グラフ中の点B1)において、蒸気の温度(入口温度T
L1)は約250℃である。また、従来の原子力プラント(曲線B)では、低圧タービンの蒸気の圧力は、入口圧力(約1.0MPa(a))から出口圧力(約0.005MPa(a))まで変化する。また、低圧タービンの出口において、蒸気の湿り度は約15%である。
【0033】
また、従来の火力プラント(曲線Cでは)、低圧タービンの入口(グラフ中の点C1)において、蒸気の温度は約350℃である。また、従来の火力プラント(曲線C)では、低圧タービンの蒸気の圧力は、入口圧力(約1.0MPa(a))から出口圧力(約0.005MPa(a))まで変化する。また、低圧タービンの出口において、蒸気の湿り度は約10%である。
【0034】
ここで、従来の原子力プラントでは、高圧タービンの入口圧力PH1は5.5MPa(a)程度であるから、従来の原子力プラントでは、上述の圧力比(PL1-PL2)/(PH1-PL2)は、0.18程度である。なお、従来の原子力プラントにおける高圧タービンの入口温度TH1は、270℃程度である。
【0035】
これに対し、上述の実施形態に係る方法によれば、上述の圧力比(PL1-PL2)/(PH1-PL2)が0.16以下、0.15以下又は0.14以下となる蒸気条件で蒸気タービン設備1を運転するので、従来の原子力プラントに比べて低圧タービン10の入口圧力を低く設定でき、例えば0.4MPa(a)以上0.7MPa(a)以下とすることができる。そして、低圧タービンの入口の温度TL1を従来の原子力プラントと同等(例えば250℃程度)とした場合の膨張線(曲線A)は、従来の原子力プラントに係る曲線Bを等温線に沿って平行移動した形に近いものとなり、低圧タービンの入口における蒸気の乾き度/過熱度を高くし、低圧タービンの出口における蒸気の湿り度を低くすることができる。すなわち、低圧タービンにおける湿り度を、従来の火力プラントと同等にすることができる。
【0036】
また、上述の実施形態では、小型モジュール炉等の低出力向けの原子炉を用い、500MW以下の低出力条件で運転するので、低圧タービン10の入口圧力を上述のように低くしても、蒸気の体積流量が大きくなり過ぎず、低圧タービン10の入口に接続される配管(低圧蒸気ライン8を構成する配管)の直径が過大とならない。このため、該配管に設けられる弁9のサイズを現実的に製造可能な範囲のものとすることができる。
【0037】
このように、上述の実施形態に係る方法によれば、原子力プラント向けの蒸気タービン設備1において、高圧タービン6の入口圧力PH1と低圧タービン10の出口圧力PL2との差に対する低圧タービン10の入口圧力PL1と低圧タービン10の出口圧力PL2との差の比(圧力差の比)(PL1-PL2)/(PH1-PL2)が0.16以下、0.15以下又は0.14以下となる蒸気条件で、かつ、500MW以下の出力条件で高圧タービン6及び低圧タービン10を駆動する。したがって、従来の原子力プラント向けの高出力帯(例えば1000MW超)の蒸気タービンと比べて、低圧タービンにおける湿り度を低くすることができる。よって、低出力帯の原子力プラントの蒸気タービン設備1において、蒸気の湿りに起因する湿り損失やエロージョンのリスクを低減することができる。
また、上述の実施形態に係る方法では、低圧タービン10における湿り度が、従来の火力プラント向けの低圧タービンと同程度となるため、火力プラント向けの低圧タービンと同様の設計思想を流用することができる。例えば、湿分回収構造の設置位置について、火力プラント向けの低圧タービンに倣った設計を採用することができる。このため、低出力帯の原子力プラント用の低圧タービンの開発コストを省略することができる。
【0038】
幾つかの実施形態では、低圧タービン10の入口圧力PL1が0.4MPa(a)以上0.7MPa(a)以下となる蒸気条件で、高圧タービン6及び低圧タービン10を駆動するようにしてもよい。あるいは、幾つかの実施形態では、低圧タービン10の入口圧力PL1が0.5MPa(a)以上0.6MPa(a)以下となる蒸気条件で、高圧タービン6及び低圧タービン10を駆動するようにしてもよい。
【0039】
上述の実施形態では、低圧タービン10の入口圧力PL1が0.5MPa(a)以上又は0.4MPa(a)以上となる蒸気条件で高圧タービン6及び低圧タービン10を駆動するようにしたので、低圧タービン10の入口配管(低圧蒸気ライン8を構成する配管)に設けられる弁9における蒸気の流速を適切な範囲内にしながら、プラントの性能を良好なものとすることができる。また、上述の実施形態に係る方法では、低圧タービン10の入口圧力PL1が0.7MPa(a)以下又は0.6MPa(a)以下となる蒸気条件で高圧タービン6及び低圧タービン10を駆動するようにしたので、小型モジュール炉等を用いた出力500MW以下の蒸気タービン設備1において、上述の圧力差の比を0.16以下、0.15以下又は0.14以下にしやすくなる。よって、上述の実施形態に係る方法によれば、低出力帯の原子力プラントの蒸気タービン設備1において、プラントの性能を良好なものとしながら、蒸気の湿りに起因する湿り損失やエロージョンのリスクを低減することができる。
【0040】
幾つかの実施形態では、低圧タービン10の入口温度TL1が220℃以上280℃以下となる蒸気条件で、高圧タービン6及び低圧タービン10を駆動する。
【0041】
上述の実施形態によれば、低圧タービン10の入口温度TL1が従来の原子力プラントと同程度であるので、高圧タービン6の出口から低圧タービン10の入口に向かう蒸気を再熱するための構成として、従来と同様の構成を採用することができる。よって、上述の実施形態によれば、比較的容易に、上述したように蒸気の湿りに起因する湿り損失やエロージョンのリスクを低減することができる。
【0042】
幾つかの実施形態では、低圧タービン10は、例えば
図3に示すように、湿分回収構造(ドレンキャッチャ等)を有しない前方段静翼101Aと、前方段静翼101Aの下流側に設けられ、湿分回収構造106(
図3ではドレンキャッチャ107)を有する後方段静翼101Bと、を含む。そして、低圧タービン10の後方段静翼101Bに設けられた湿分回収機構106により、低圧タービン10内のドレン(水滴等の湿分)を回収する。
【0043】
なお、前方段静翼101Aは、複数段の静翼101のうち、1段目の静翼101を含む上流側の静翼101であり、後方段静翼101Aは、複数段の静翼101のうち、最終段の静翼101を含む下流側の静翼101である。幾つかの実施形態では、低圧タービン10の複数段の静翼101のうち、1段目の静翼101を含む前方段静翼101Aには湿分回収構造(ドレンキャッチャ等)が設けられておらず、最終段の静翼101を含む後方段静翼101Bに湿分回収構造(ドレンキャッチャ等)が設けられていてもよい。
【0044】
上述の実施形態に係る方法では、低圧タービン10における湿り度が、従来の火力プラント向けの低圧タービンと同程度となるため、火力プラント向けの低圧タービンと同様の設計思想を流用することができる。例えば上述のように、湿分回収構造106(ドレンキャッチャ107等)を、典型的な火力プラント向けの低圧タービンと同様に、前方段静翼101Aには設けず後方段静翼101Bのみに設けた構成を採用することができる。このため、低出力帯の原子力プラント用の低圧タービンの開発コストを省略することができる。よって、低出力帯の原子力プラントの蒸気タービン設備1において、低コストで、蒸気の湿りに起因する湿り損失やエロージョンのリスクを低減することができる。
【0045】
幾つかの実施形態では、高圧タービン6と低圧タービン10との間に設けられるとともに50インチ以上の直径を有する配管を介して、高圧タービン6からの蒸気を低圧タービン10に導入する。すなわち、高圧タービン6と低圧タービン10との間に設けられる低圧蒸気ライン8を構成する配管の直径が50インチ以上であってもよい。
【0046】
上述の実施形態によれば、高圧タービン6からの蒸気を低圧タービン10に導くための配管の直径が50インチ以上であるので、出力が500MW以下の蒸気タービン設備1において、上述の圧力差の比(PL1-PL2)/(PH1-PL2)を0.16以下、0.15以下又は0.14以下にしやすくなる。よって、上述の実施形態によれば、低出力帯の原子力プラントの蒸気タービン設備1において、蒸気の湿りに起因する湿り損失やエロージョンのリスクを低減することができる。
【0047】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0048】
[1]本発明の少なくとも一実施形態に係る蒸気タービン設備(1)の運転方法は、
原子炉(100)で発生した熱を利用して生成された蒸気が供給される高圧タービン(6)と、前記高圧タービンから排出された蒸気が供給される低圧タービン(10)と、含む蒸気タービン設備の運転方法であって、
前記高圧タービンの入口圧力(PH1)と前記低圧タービンの出口圧力(PL2)との差に対する前記低圧タービンの入口圧力(PL1)と前記低圧タービンの出口圧力(PL2)との差の比(PH1-PL2)/(PL1-PL2)が0.16以下となる蒸気条件で、かつ、500MW以下の出力条件で前記高圧タービン及び前記低圧タービンを駆動するステップを備える。
【0049】
上記[1]の方法によれば、原子力プラント向けの蒸気タービン設備において、高圧タービンの入口圧力と低圧タービンの出口圧力との差に対する低圧タービンの入口圧力と低圧タービンの出口圧力との差の比(圧力差の比)が0.16以下となる蒸気条件で、かつ、500MW以下の出力条件で高圧タービン及び低圧タービンを駆動する。したがって、従来の原子力プラント向けの高出力帯(例えば1000MW超)の蒸気タービンと比べて、低圧タービンにおける湿り度を低くすることができる。よって、低出力帯の原子力プラントの蒸気タービン設備において、蒸気の湿りに起因する湿り損失やエロージョンのリスクを低減することができる。
また、上記[1]の方法では、低圧タービンにおける湿り度が、従来の火力プラント向けの低圧タービンと同程度となるため、火力プラント向けの低圧タービンの湿分除去機構をそのまま使用可能である。よって、原子力プラントにおいて従来の火力プラント向けの低圧タービンを流用することができるため、低出力帯の原子力プラント用の低圧タービンの開発コストを省略することができる。
【0050】
[2]幾つかの実施形態では、上記[1]の方法において、
前記低圧タービンの入口圧力が0.4MPa(a)以上0.7MPa(a)以下となる蒸気条件で、前記高圧タービン及び前記低圧タービンを駆動する。
【0051】
上記[2]の方法では、低圧タービンの入口圧力が0.4MPa(a)以上となる蒸気条件で高圧タービン及び低圧タービンを駆動するようにしたので、低圧タービン入口配管の弁における蒸気の流速を適切な範囲内にしながら、プラントの性能を良好なものとすることができる。また、上記[2]の方法では、低圧タービンの入口圧力が0.7MPa(a)以下となる蒸気条件で高圧タービン及び低圧タービンを駆動するようにしたので、出力が500MW以下の蒸気タービン設備において、上述の圧力差の比を0.16以下にしやすくなる。よって、上記[2]の方法によれば、低出力帯の原子力プラントの蒸気タービン設備において、プラントの性能を良好なものとしながら、蒸気の湿りに起因する湿り損失やエロージョンのリスクを低減することができる。
【0052】
[3]幾つかの実施形態では、上記[1]又は[2]の方法において、
前記低圧タービンの入口温度(TL1)が220℃以上280℃以下となる蒸気条件で、前記高圧タービン及び前記低圧タービンを駆動する。
【0053】
上記[3]の方法によれば、低圧タービンの入口温度が従来の原子力プラントと同程度であるので、高圧タービンの出口から低圧タービンの入口に向かう蒸気を再熱するための構成として、従来と同様の構成を採用することができる。よって、上記[3]の構成によれば、比較的容易に、上記[1]で述べたように蒸気の湿りに起因する湿り損失やエロージョンのリスクを低減することができる。
【0054】
[4]幾つかの実施形態では、上記[1]乃至[3]の何れかの方法において、
前記低圧タービンは、軸方向に並ぶ複数段の静翼(101A,101B)を含み、
前記複数段の静翼は、
湿分回収構造(106)を有しない前方段静翼(101A)と、
軸方向にて前記前方段静翼の下流側に設けられ、湿分回収構造(106)を有する後方段静翼(101B)と、
を含み、
前記蒸気タービン設備の運転方法は、
前記湿分回収構造により、前記低圧タービン内のドレンを回収するステップを備える。
【0055】
上記[4]の方法によれば、従来の火力プラント向けの低圧タービンと同様に、静翼に設けられたスリットを介して低圧タービン内の湿分を除去するようにしたので、原子力プラントにおいて従来の火力プラント向けの低圧タービンを流用することができる。よって、低出力帯の原子力プラント用の低圧タービンの開発コストを省略することができるため、低出力帯の原子力プラントの蒸気タービン設備において、低コストで、蒸気の湿りに起因する湿り損失やエロージョンのリスクを低減することができる。
【0056】
[5]幾つかの実施形態では、上記[1]乃至[4]の何れかの方法において、
前記蒸気タービンの運転方法は、
前記高圧タービンと前記低圧タービンとの間に設けられるとともに50インチ以上の直径を有する配管を介して、前記高圧タービンからの蒸気を前記低圧タービンに導入するステップを備える。
【0057】
上記[5]の方法によれば、高圧タービンからの蒸気を低圧タービンに導くための配管の直径が50インチ以上であるので、出力が500MW以下の蒸気タービン設備において、上述の圧力差の比を0.16以下にしやすくなる。よって、上記[5]の方法によれば、低出力帯の原子力プラントの蒸気タービン設備において、蒸気の湿りに起因する湿り損失やエロージョンのリスクを低減することができる。
【0058】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0059】
本明細書において、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
また、本明細書において、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
また、本明細書において、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【符号の説明】
【0060】
1 蒸気タービン設備
2 蒸気発生部
4 高圧蒸気ライン
5 弁
6 高圧タービン
8 低圧蒸気ライン
9 弁
10 低圧タービン
12 発電機
14 復水ライン
16 復水器
18 分岐ライン
20 再熱部
30 一次冷却ループ
32 圧力容器
34 加圧器
38 一次冷却材ポンプ
40 原子炉格納容器
100 原子炉
101 静翼
102 外輪
103 内輪
104 動翼
105 ディスク
106 湿分回収構造
107 ドレンキャッチャ
108 突出部
110 車室
120 湿分(水滴)
【要約】
【課題】低出力帯の蒸気タービン設備において、蒸気の湿りによる損失やエロージョンのリスクを低減可能な蒸気タービン設備の運転方法を提供する。
【解決手段】蒸気タービン設備の運転方法は、原子炉で発生した熱を利用して生成された蒸気が供給される高圧タービンと、前記高圧タービンから排出された蒸気が供給される低圧タービンと、含む蒸気タービン設備の運転方法であって、前記高圧タービンの入口圧力と前記低圧タービンの出口圧力との差に対する前記低圧タービンの入口圧力と前記低圧タービンの出口圧力との差の比が0.16以下となる蒸気条件で、かつ、500MW以下の出力条件で前記高圧タービン及び前記低圧タービンを駆動するステップを備える。
【選択図】
図4