(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】Auスパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
C23C14/34 A
(21)【出願番号】P 2024533934
(86)(22)【出願日】2023-09-19
(86)【国際出願番号】 JP2023033946
(87)【国際公開番号】W WO2024084878
(87)【国際公開日】2024-04-25
【審査請求日】2024-06-05
(31)【優先権主張番号】P 2022166509
(32)【優先日】2022-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596133201
【氏名又は名称】松田産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 汰一
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/038796(WO,A1)
【文献】特開2022-128463(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104561639(CN,A)
【文献】国際公開第2019/111945(WO,A1)
【文献】特開2009-191323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Auスパッタリングターゲットであって、
スパッタ面の表面粗さRaの平均値が0.1μm以上、50.0μm以下であり、最大値と最小値との差が10.0μm以下であり、かつ、
スパッタ面の表面粗さRzの平均値が80.0μm以下であり、最大値と最小値との差が10.0μm以下であ
り、かつ、
スパッタ面におけるX線回折により測定される(220)結晶面の半値幅の平均値が1.0以下である、
Auスパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記表面粗さRaの平均値が1.0μm超である、請求項1に記載のAuスパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記表面粗さRaの平均値が10.0μm超である、請求項2に記載のAuスパッタリングターゲット。
【請求項4】
前記表面粗さRzの最大値と最小値との差が5.0μm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のAuスパッタリングターゲット
【請求項5】
前記表面粗さRzの最大値と最小値との差が3.0μm以下である、請求項4に記載のAuスパッタリングターゲット。
【請求項6】
スパッタ面におけるX線回折により測定される(220)結晶面の半値幅のばらつきが±0.1以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のAuスパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Auスパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタリング法は、半導体分野における微細配線、MEMS、光デバイス、LED、又は有機EL等に用いられている。スパッタリングとは、真空中でArガスなどを導入し、ターゲットと呼ばれる成膜材料に負の電圧を印加し、イオン化したArガスを高速でターゲット表面(スパッタ面)に衝突させて、成膜材料の粒子(原子及び/又は分子)を激しく弾き出し、対向する基板表面に堆積させて薄膜を形成する技術である。スパッタリング法では、高融点の金属や合金など、真空蒸着法では困難な材料でも、成膜が可能で、広範囲な成膜材料に対応できる。
【0003】
スパッタリングターゲットの材料の開発は幅広く行われており、貴金属を用いた開発も行われている。貴金属のスパッタリングターゲットを用いて成膜された貴金属膜は、貴金属自体の優れた化学的安定性と電気特性のために様々な分野で用いられている。例えば、水晶振動子デバイスにおいては、水晶チップの両面に形成する励振電極等として貴金属膜が用いられている。水晶振動子デバイスでは、貴金属膜の膜厚により振動周波数を調整すること等から、スパッタリング時に均一な膜厚分布で貴金属膜を成膜することが可能な貴金属スパッタリングターゲットが求められている。
【0004】
スパッタリングターゲットは、様々な方法で製造されているが、その製造の最終工程では、一般的にターゲットの表面を研削及び/又は研磨する工程が設けられる。
例えば、特許文献1には、Agを含む原料を溶解炉中で溶解させ、冷却固化して得られたAg合金インゴットを冷間圧延し、熱処理した後、耐水紙での研磨、およびバフ研磨を行い、スパッタリングターゲットを得る技術が開示されている。
また、特許文献2には、金属のインゴットを用いて繰り返し圧延加工を行い、フライス盤による機械加工を行った後、バフ研磨を行い、スパッタリングターゲットを得る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-031503号公報
【文献】特開2002-146521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、従来のスパッタリングターゲットの製造方法の最終段階では、様々な研磨等の操作が行われるが、最終的に得られるターゲットのスパッタ面の状態、特にAuスパッタリングターゲットのスパッタ面の状態の検討は十分なものとはいえず、改善の余地が残されていた。
【0007】
かかる問題に鑑み、本発明は、スパッタリング初期に成膜されるスパッタリング膜の膜厚分布の安定性に優れ、また、スパッタリング初期におけるデポレートの安定化を図ることができる、Auスパッタリングターゲットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討の結果、スパッタリングターゲットの表面粗さRa、Rzを特定の数値範囲とし、かつ、表面粗さの面内ばらつきを小さくすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
[1] Auスパッタリングターゲットであって、
スパッタ面における表面粗さRaの平均値が0.1μm以上、50.0μm以下であり、最大値と最小値との差が10.0μm以下であり、かつ、
スパッタ面における表面粗さRzの平均値が80.0μm以下であり、最大値と最小値との差が10.0μm以下である、
Auスパッタリングターゲット。
[2] 前記表面粗さRaの平均値が1.0μm超である、[1]に記載のAuスパッタリングターゲット。
[3] 前記表面粗さRaの平均値が10.0μm超である、[2]に記載のAuスパッタリングターゲット。
[4] 前記表面粗さRzの最大値と最小値との差が5.0μm以下である、[1]~[3]のいずれかに記載のAuスパッタリングターゲット。
[5] 前記表面粗さRzの最大値と最小値との差が3.0μm以下である、[4]に記載のAuスパッタリングターゲット。
[6] スパッタ面におけるX線回折により測定される(220)結晶面の半値幅の平均値が1.0以下である、[1]~[5]のいずれかに記載のAuスパッタリングターゲット。
[7] スパッタ面におけるX線回折により測定される(220)結晶面の半値幅のばらつきが±0.1以下である、[1]~[6]のいずれかに記載のAuスパッタリングターゲット。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、スパッタリング初期に成膜されるスパッタリング膜の膜厚分布の安定性に優れ、また、スパッタリング初期におけるデポレートの安定化を図ることができる、Auスパッタリングターゲットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】Auスパッタリングターゲットのスパッタ面における測定点A~Eを説明するための図である。
【
図2】Auスパッタリングターゲットのスパッタ面における領域Iを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、これらの説明は本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限りこれらの内容に限定されない。
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
また、図面について、本実施形態に記載されている構成要素の寸法、形状、それらの相対的な配置等は一例である。
また、本明細書では複数の実施形態を説明するが、これらは可能な範囲で組み合わせることができる。
また、本明細書において「A又はB」の表現は、「A及びBからなる群から選択される少なくとも1つ」と読み替えることができる。
【0013】
<Auスパッタリングターゲット>
本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲット(以下、単に「ターゲット」とも称する。)は、
Auスパッタリングターゲットであって、
前記ターゲットの表面で測定される表面粗さRaについて、平均値が0.1μm以上、50.0μm以下であり、最大値と最小値との差が10.0μm以下であり、また、
前記ターゲットの表面で測定される表面粗さRzについて、平均値が80.0μm以下であり、最大値と最小値との差が10.0μm以下である、
Auスパッタリングターゲットである。
【0014】
本開示の表面粗さRaの平均値とは、下記の測定点A~Eで示される5つの各測定点において測定されるターゲットの表面粗さRaの平均値であり、本開示の表面粗さRaの最大値と最小値との差とは、下記5つの各測定点において測定されるターゲットの表面粗さRaのうち、最大値と最小値との差である。これは、Rzについても同様である。
(測定点)
測定点A:前記ターゲットのスパッタ面の中心点。
測定点B:前記測定点Aと前記ターゲットのスパッタ面の縁上の任意の点bとを結ぶ第1の仮想的な線分を引いた場合において、前記点bから5mmの長さに位置する前記第1の仮想的な線分上の点。
測定点C:前記測定点Aと前記測定点Bとを結ぶ第2の仮想的な線分の中点。
測定点D:前記測定点Aを通り、前記第1の仮想的な線分に直交する前記ターゲットのスパッタ面上に仮想的な直線Dを引き、前記直線Dと交わる前記ターゲットのスパッタ面の縁上の2点のうちの少なくとも一方の点を点dとし、前記測定点Aと前記点dとを結ぶ第3の仮想的な線分を引いた場合において、前記点dから前記測定点Aに向かって5mmの長さに位置する前記第3の仮想的な線分上の点。
測定点E:前記測定点Aと前記測定点Dとを結ぶ第4の仮想的な線分の中点。
【0015】
上記の測定点A~Eを説明するための図を
図1に示す。
図1(a)は、ターゲットの平面図であり、ターゲットのスパッタされる面(スパッタ面)の形状が丸形状である場合の測定点A~Eを示し、
図1(b)は、ターゲットのスパッタ面の形状が四角形状である場合の測定点A~Eを示す。なお、
図1における測定点A~Eの位置は一例であり、点Bを設定するためのターゲットのスパッタ面の縁上の任意の点Bの位置が変化すれば、点C~Eの位置も変化する。なお、
図1では、上記の点bおよび点dの図示を省略している。
【0016】
表面粗さRa、及び後述するRz、並びにそれらの各表面粗さの最大値と最小値との差を評価する測定点は、上記の測定点A~Eで示される5つの各測定点であればよいが、前記ターゲットのスパッタ面の縁から5mmの長さの位置までに含まれる領域以外の前記ターゲットのスパッタ面の領域(測定領域I)から任意に選択される5つの各測定であることが好ましい。この測定領域Iを説明するための図を
図2に示す。
図2中の斜線の領域が測定領域Iである。
なお、特定の測定点で測定を行う場合、測定箇所が点である測定であれば、対象の測定点で測定を行えばよく、測定箇所が一定の領域を占める測定であれば、対象の測定点がその領域に含まれるように測定を行えばよい。
【0017】
従来、Auスパッタリングターゲットでは、製造工程の最終段階において、スパッタリングを実施する側のターゲットの表面(スパッタ面)を研磨する工程が設けられていた。従来のターゲットの製造における研磨の工程では、最終的に得られるターゲットのスパッタ面における表面粗さをできるだけ小さくする方向で研磨等の処理が行われてきた。
しかし、スパッタリングターゲットのスパッタ面の状態は、初期スパッタにより成膜される膜の膜厚分布や、初期のスパッタにおけるデポレートに影響を及ぼす要因であるが、これらの関係性についての検討は十分ではなかった。スパッタリング初期におけるスパッタ膜の特性や初期スパッタの特性が不安定な傾向にあると、この傾向はその後のスパッタリングに影響を及ぼすことなる。また、これらの特性が不安定であると、プレ・スパッタリング時間が長くなってしまう傾向にあった。
そこで、本発明者らは鋭意検討した結果、表面粗さの平均値を評価するRaについて、ターゲット各所で測定されたRaを0.1μm以上という比較的粗化した状態としつつ、表面粗さRaの最大値と最小値の差を小さくする、すなわち、面内の分布(ばらつき)を小さくすることにより、スパッタリング初期に成膜されるスパッタリング膜の膜厚分布の安定性に優れ、また、スパッタリング初期におけるデポレート(堆積速度)の安定化を図ることができるAuスパッタリングターゲットを得ることができること見出した。
【0018】
一方で、表面粗さRaは算術平均粗さであり、凹凸の平均を見ているため、1つの突出したキズの影響を受けにくい。Raが小さいことは、表面粗さでの平均からの凸凹が小さいことを表す。本発明者らのさらなる鋭意検討により、これらの条件のみでは不十分であり、μmレベルでの局所的な凸部を少なくし、さらに、ターゲット各所でのその局所的な凸部の少なさのばらつきを小さくすることにより、十分なデポレート及び膜厚分布の特性を確保できることが分かった。
そこで本発明者らは、ターゲット表面上の局所的な凸部の有無を評価するRzについて検討し、Auスパッタリングターゲット各所で測定されたRzを特定値以下としつつ、これらのRzの平均値の差を小さくすることにより、スパッタリング初期のデポレート及び膜厚分布の特性に優れるターゲットを得ることができた。μmレベルでの局所的な凸部が存在するターゲットを用いた場合、スパッタリング時において、ターゲット表面の電圧分布のばらつきが大きくなるために放電のばらつきが生じてスパッタリング初期のデポレート及び膜厚分布の特性が低下する、特に、ターゲット表面に突出した凸部があると最初に該凸部でのスパッタが進みスパッタリング初期のデポレート及び膜厚分布の特性が低下する、と本発明者らは推測している。
さらに、本発明者は、本願実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行った場合、成膜速度が速くなり生産性向上につながると本発明者は推測している。
【0019】
本明細書において、「スパッタリング膜」とは、スパッタリングにより成膜される膜を意味する。
また、本明細書において、「スパッタリング膜の膜厚分布が安定化する」とは、スパッタリング膜の表面の複数点で膜厚を測定した場合に、得られた複数の膜厚から算出される標準偏差が小さいことを意味する。例えば、後述するスパッタリング膜の9つの測定点で得られる膜厚の標準偏差が100Å以下であることが好ましい。
また、本明細書において、「スパッタリングにおけるデポレートが安定化する」とは、複数回スパッタリングを行った場合において、各スパッタリングにおけるスパッタリング膜の成膜速度のばらつきが小さいことを意味する。例えば、30枚のスパッタリング膜を成膜した場合において、30回のスパッタリングのデポレートの変動幅が5Å/秒以内であることが好ましく、2Å/秒以内であることがより好ましい。
以下、スパッタリング初期に成膜されたスパッタリング膜の膜厚分布が安定化すること、及び初期のスパッタリングにおけるデポレートが安定化することを、まとめて「スパッタリング初期特性が安定化する」と表現する。
【0020】
スパッタリングターゲットの材質は、金(Au)であり、不可避不純物をその他の成分として含んでいてもよい。
スパッタリングターゲット中の不可避不純物の含有量は、1000wtppm以下であることが好ましく、100wtppm以下であることがより好ましく、20wtppm以下であることがさらに好ましい。
【0021】
スパッタリングターゲットの形状は特段制限されず、板形状であってもよく、円筒形状であってもよい。なお、本明細書において、ターゲットのスパッタ面とは、スパッタを実施する面を意味する。
また、スパッタリングターゲットのスパッタ面の形状は特段制限されず、円形状であってもよく、四角形状、五角形状、又は六角形状等の多角形状であってもよいが、円形状又は四角形状であることが好ましい。
スパッタリングターゲットのスパッタ面の面積は特段制限されないが、現状多く使用されているターゲットの大きさから、装置の大きさにもよるが、10cm2以上、5000cm2以下であってよく、50cm2以上、2000cm2以下であってもよい。また、ターゲットが円盤状である場合、直径100mm以上であってもよく、ターゲットが板形状である場合、短いほうの一辺が5cm以上であってもよく、ターゲットが円筒形状である場合、外径10cm以上である。また、ターゲットがどの形状であっても、スパッタ面が、使用効率の観点から1cm超の長さの線分を取り得る形状であることが好ましい。
【0022】
(表面粗さRa)
表面粗さRaについて、スパッタリングターゲット各所で測定されたRaを0.1μm以上と粗化面としつつ、Raの面内分布と均一にする(最大値と最小値の差を小さくする)ことにより、スパッタリング初期のデポレート及び膜厚分布の特性に優れるAuスパッタリングターゲットを得ることができる。
測定点A~Eで示される5つの各測定点において測定される表面粗さRaの平均値は、スパッタリング初期特性が安定化する観点から、0.1μm以上、50.0μm以下であればよく、0.1μm超、50.0μm以下であってもよく、1μm以上、50.0μm以下であってもよく、1μm超、50.0μm以下であってもよく、5μm以上、50.0μm以下であってもよく、5μm超、50.0μm以下であってもよく、10μm以上、50.0μm以下であってもよく、10μm超、50.0μm以下であってもよく、15μm以上、50.0μm以下であってもよく、15μm超、50.0μm以下であってもよい。表面粗さが大きいと、表面積が大きくなりスパッタ面積が大きくなることから成膜速度が速くなる傾向がある。
【0023】
表面粗さRaを上記の範囲とする方法は、どのような方法でもよく、例えば、研磨紙を用いる場合には、研磨紙の目の粗さを調整する方法が挙げられ、旋盤等の機械を用いた自動旋盤を行う場合には、研磨速度を調整したり、研磨対象の送り速度を調整したりする方法が挙げられる。旋盤等の機械を用いる場合、例えば、送り速度を大きくすることでRaを増加させることができ、送り速度を小さくすることでRaを減少させることができる。
また、ターゲットの研磨においては、1回の研磨で所望のRaの平均値が得られない場合には、研磨後の表面粗さRaの確認を行いつつ、複数回研磨を行い、所望の範囲にする必要がある。
【0024】
研磨の操作は、表面粗さRaを所望の範囲に調整する操作だけでなく、後述するRaのばらつきを減少させる操作、Rz(最大高さ)を所望の範囲に調整する操作、及びRzのばらつきを減少させる操作を考慮して、最終的に得られるターゲットが所望の表面の条件を満たすように研磨することが好ましい。
【0025】
表面粗さRa及び後述するRzの測定方法は特段制限されず、一般的な表面粗さ測定装置(例えば、Mitutoyo製の接触式表面粗さ測定器 小型表面粗さ測定器SJ-210)を用いて測定することができる。
【0026】
測定点A~Eで示される5つの各測定点において測定される表面粗さRaの最大値と最小値との差(ばらつき)は、スパッタリング初期特性が安定化する観点から、10.0μm以下であればよく、10.0μm以下であることが好ましく、5μm以下であってもよく、3μm以下であってもよく、1μm以下であってもよく、0.5μm以下であってもよく、0.1μm以下であってもよく、下限については、0.0μm以上であってもよく、0.01μm以上であってもよく、0.5μmであってもよく、1.0μmであってもよく、3μmであってもよい。
【0027】
表面粗さRaのばらつきを上記の範囲とする方法は、ばらつきを減少させることができる研磨が行われれば特段制限されず、例えば、所望の範囲までばらつきを減少させるよう繰り返し研磨を行うことで達成することができるが、製造効率の観点から、上記のRaの平均値を所望の範囲と方法を考慮しつつ、旋盤等の自動回転する機械を用いて、研磨痕が同心円状を形成するように研磨する方法が好ましい。また、旋盤等の機械を用いる場合、例えば、送り速度を一定にして、かつ、送り速度を小さくすることでRaのばらつきを小さくすることができる。
また、手作業による表面粗さのばらつきをできるだけ省き、自動研磨できる機械を用いることが好ましい。ただし、自動研磨を行った後、ターゲットのスパッタ面の一部で研磨が不足しているために所望のRaのばらつきの条件が満たされない場合、該条件が満たされるように一部分だけ手作業又は機械作業で研磨を行ってもよい。
また、ターゲットの研磨においては、1回の研磨で所望のRaのばらつきが得られない場合には、研磨後の表面粗さRaの確認を行いつつ、複数回研磨を行い所望の範囲にすることができる。この場合、Raの最大値が大きい箇所を部分的に研磨して、全体のばらつきが小さくするように研磨してもよい。
【0028】
(表面粗さRz)
μmレベルでの局所的な凸部を少なくする、つまり、上記5つの各測定点において測定されるRzの平均値を小さくし、さらに、ターゲット各所でのその局所的な凹凸の少なさのばらつきを小さくする、つまり上記5つの各測定点において測定される表面粗さRzの最大値と最小値との差を小さくすることにより、十分なスパッタリング初期のデポレート及び膜厚分布の特性を確保できるAuスパッタリングターゲットを得ることができる。
測定点A~Eで示される5つの各測定点において測定される表面粗さRzの平均値は、スパッタリング初期特性が安定化する観点から、80μm以下であればよく、該平均値は小さい方が好ましく、70μm以下であってもよく、50μm以下であってもよく、30以下であってもよく、また、下限の設定は特段要しないが、0.1μm以上であればよく、0.1μm超であってもよく、1μm以上であってもよく、1μm超であってもよく、5μm以上であってもよく、5μm超であってもよく、10μm以上であってもよく、10μm超であってもよく、15μm以上であってもよく、15μm超であってもよい。
【0029】
表面粗さRz(最大高さ)は算術平均粗さであり、粗さ計等で測定した粗さ曲線の一部を基準長さで抜き出し、もっとも高い部分ともっとも深い部分の和の値により求められ、突出したキズの有無を確認する場合などに用いられる。Rzが大きいことは、部分的に悪い箇所があること、具体的にはターゲット表面の局所的なばらつきが大きいことを表す。
表面粗さRzの平均値を上記の範囲とする方法は、どのような方法でもよく、例えば、研磨紙を用いる場合には、研磨紙の目の粗さを調整する方法が挙げられ、旋盤等の機械を用いた自動旋盤を行う場合には、研磨速度を調整したり、研磨対象の送り速度を調整したりする方法が挙げられる。旋盤等の機械を用いる場合、例えば、旋盤の刃の切込み量を深くいれることでRzを増加させることができ、旋盤の刃の切込み量を少なくすることでRzを減少させることができる。
また、ターゲットの研磨においては、1回の研磨で所望のRzの平均値が得られない場合には、研磨後の表面粗さRzの確認を行いつつ、複数回研磨を行い所望の範囲にすることができる。この場合、まずは上述したRaの条件を所望の範囲になるように先に調整し、その後、Rzを小さくするように、つまり、局所的な凸部を小さくするように研磨を行うことが好ましい。
【0030】
測定点A~Eで示される5つの各測定点において測定される表面粗さRzの最大値と最小値との差(ばらつき)は、スパッタリング初期特性が安定化する観点から、10.0μm以下であればよく、5.0μm以下であることがより好ましく、3.0μm以下であることがより好ましく、1.0μm以下であることがさらに好ましく、0.5μm以下であってもよく、0.1μm以下であってもよい。また、スパッタリング膜の膜厚分布の観点からは、表面粗さRzの最大値と最小値との差は小さければ小さいほど好ましく下限を設定することは要しないが、0.0μm以上であってもよく、0.01μm以上であってもよい。
【0031】
表面粗さRzのばらつきを上記の範囲とする方法は、ばらつきを減少させることができる研磨が行われれば特段制限されず、例えば、所望の範囲までばらつきを減少させるよう繰り返し研磨を行うことで達成することができるが、製造効率の観点から、上記のRzの平均値を所望の範囲と方法を考慮しつつ、旋盤等の自動回転する機械を用いて、研磨痕が同心円状を形成するように研磨する方法が好ましい。また、旋盤等の機械を用いる場合、例えば、刃の切込み量を一定にし、かつ、送り速度を一定にして、かつ、送り速度を小さくすることでRzのばらつきを小さくすることができる。
また、手作業による表面粗さのばらつきをできるだけ省き、自動研磨できる機械を用いることが好ましい。ただし、自動研磨を行った後、ターゲットのスパッタ面の一部で研磨が不足しているために所望のRaのばらつきの条件が満たされない場合、該条件が満たされるように一部分だけ手作業又は機械作業で研磨を行ってもよい。
また、ターゲットの研磨においては、1回の研磨で所望のRzのばらつきが得られない場合には、研磨後の表面粗さRzの確認を行いつつ、複数回研磨を行い所望の範囲にすることができる。この場合、まずは上述したRaの条件を所望の範囲になるように先に調整し、その後、Rzの最大値が大きい箇所、つまり、局所的な凸部を小さくするように部分的な研磨を行い、全体のばらつきが小さくするように研磨することが好ましい。
【0032】
(半値幅)
ターゲットは、研磨等の加工により表面に歪(加工歪)が生じる。この加工歪の程度が大きいということは、残留応力が大きいことを意味し、スパッタリング初期のデポレートや膜厚分布の均一性も悪くなるというデメリットがある。よって、ターゲット表面の加工歪は小さいことが好ましい。加工歪は、研磨の際にターゲットにかかる負荷の程度に影響され、負荷の程度が小さいほど加工歪が小さくなる。よって、ターゲットを押し付けるように研磨を行うと加工歪が大きくなってしまうため、この押し付けを小さくするように研磨を行うことが好ましい。本実施形態では、上記の表面粗さを所望の範囲にすることが必要であるが、表面粗さの最大値と最小値との差を小さくするため、研磨の回数が多くなり加工歪が大きくなる傾向がある。表面粗さの条件を所望の範囲に維持しつつ加工歪を所望の範囲にするためには、例えば、できるだけ負荷をかけずに表面粗さを調整したり、研磨に用いる研磨紙の番手を調整したりすること等が挙げられる。加工歪が所望の範囲に含まれない場合には、所望の範囲に含まれるように繰り返し研磨を行ってもよい。
【0033】
加工歪は、例えばX線回折により測定される結晶面の半値幅により評価することができ、半値幅が小さいほど加工歪が小さいことを表し、半値幅が小さいことが好ましい。具体的には、測定点A~Eで示される5つの各測定点においてターゲットにおけるX線回折により測定される(220)結晶面の半値幅の平均値が、1.0以下であることが好ましく、0.6以下であることがより好まし好ましい。また、該半値幅の下限の設定は要しないが、0.01以上であってもよく、0.05以上であってもよい。
【0034】
また、測定点A~Eで示される5つの各測定点においてターゲットにおけるX線回折により測定される(220)結晶面の半値幅のばらつきが、±0.1以下であることが好ましく、±0.06以下であることがより好ましく、また、該半値幅のばらつきの下限の設定は要しないが、±0.005以上であってもよく、±0.01以上であってもよい。
本明細書において、半値幅のばらつきとは、半値幅の平均値からのずれの範囲を示す。具体的には、半値幅のばらつきが±0.1以下であるとは、5つの半値幅の測定値がいずれも、(平均値-0.1)~(平均値+0.1)の範囲に含まれることを意味する。
【0035】
上記の半値幅は、X線回折装置(リガク製RINTULTIMA IV 等 管球Cu-Kα)で測定することができる。
【0036】
上記の2つの半値幅の評価パラメータについて、少なくとも1つの評価パラメータが好ましい範囲に入ることが好ましく、両方の評価パラメータが好ましい範囲に入ることがより好ましい。
【0037】
また、上記の2つの加工歪の評価パラメータは、上述した表面粗さと同様に、上述した5つの各測定点において測定し、その平均値として算出する。
【0038】
前記ターゲットを用いることにより、スパッタリング初期に成膜されるスパッタリング膜の膜厚の安定性に優れるスパッタリング膜を得ることができる。このスパッタ膜の評価方法は特段制限されないが、例えば、前記ターゲットのスパッタ面に対して、投入電力:DC 1kW、スパッリングタ到達圧力:9.5×10-5Pa、及びスパッタリング時間:42秒の条件でAuをスパッタリングしてスパッタリング膜を得るという操作を少なくとも30回行い、得られた各スパッタリング膜の膜厚を測定することで評価することができる。
また、スパッタリング初期におけるデポレートは、上記のスパッタリングにおいて成膜されたスパッタリング膜の厚さをスパッタ時間(42秒)で除することで評価することができる。
【0039】
上記のスパッタリング膜の膜厚のばらつき(膜厚分布)は特段制限されないが、下記の(測定点)に示す9つの測定点で膜厚を測定して得られる膜厚の標準偏差(標準偏差σ)が、100Å以下であることが好ましく、50Å以下であることがより好ましい。これは、上記の少なくとも30回のスパッタリングにより得られた少なくとも30枚のスパッタリング膜のそれぞれにおいて満たされることが好ましい。
膜厚の測定において、触針型の装置を用いる場合、各点における抵抗値の測定は、対象の点に抵抗を測定するための探針を当てて行う。
(測定点)
前記スパッタリング膜の表面において該表面の中心を通る任意の仮想的な直線と、前記スパッタリング膜の表面の縁との2つの交点で結ばれる仮想的な線分において、該線分を10等分するように配置される該線分上の9つの点。
【0040】
ターゲットのスパッタ面における平均結晶粒径は特段制限されず、例えば、1μm以上、500μm以下であってよく、10μm以上、200μm以下であってもよく、10μm以上、100μm以下であってもよい。平均結晶粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてターゲットのスパッタ面を観察することにより評価することができる。
【0041】
ターゲットのスパッタ面における結晶の結晶方位は特段制限されず、例えば、(111)、(100)((200))、又は(110)(220)等であってもよい。結晶方位は、X線源としてCuを用いて、X線回折装置により評価することができる。
【0042】
ターゲットは、上述のAu部材を支持するためのバッキングプレートを設けて用いてもよい。バッキングプレートの態様は特段制限されず、用途に応じて形状や材料を選定することができる。本明細書では、バッキングプレートを用いる場合、該バッキングプレートはターゲットを構成するものとして扱い、上述したAu部材をターゲット部材とも称する。この場合、上述したターゲット部材の説明における「ターゲット」の文言を「ターゲット部材」に置換して読み替える。
バッキングプレートの形状は、例えば、表面の形状が、四角形、五角形、もしくは六角形等の多角形状、又は円形状の表面を有する板形状とすることができる。バッキングプレートの面積は特段制限されず、例えば、上記のターゲットの面積と同様の範囲を採用することができ、より具体的には、ターゲット部材とバッキングプレートとが接着される側のバッキングプレートの面の形状を、該接着側のバッキングプレートの面の形状と同様としてもよい。
【0043】
<スパッタリングターゲットの製造方法>
上記のスパッタリングターゲットの製造方法は特段制限されず、公知の方法により、また、公知の方法を組み合わせて製造することができる。例えば、貴を含む原料を鋳造してインゴットを得る鋳造工程、前記インゴットを加工して所望の形状を有する加工物を得る加工工程、前記加工物を熱処理して焼結体を得る加熱工程、及び前記焼結体を研磨する研磨工程を含む製造方法により、ターゲットを製造することができる。以下、各工程について説明する。
【0044】
[鋳造工程]
鋳造工程は特段制限されないが、例えば、Auを含む原料を準備し、大気中、真空雰囲気または不活性雰囲気中にて黒鉛るつぼ又はセラミックスるつぼ等の容器内で溶解し、この溶解した原料を所望の形状を有する鋳型内に注湯した後に冷却固化して鋳造し、インゴットを得ることができる。溶融の条件は特段制限されず、原料が溶融する条件であればよい。
原料としては、金の純度が、好ましくは99.9重量%以上、より好ましくは99.95重量%以上、さらに好ましくは99.99重量%以上の高純度のものを用いる。
【0045】
[加工工程]
加工工程は特段制限されないが、例えば、上記の鋳造工程で得られたインゴットを所望の形状(板形状又は円筒形状等)に切削してビレットとした後に、鍛造して加工する。
板形状のターゲットを作製する場合には、例えば板形状に成形したインゴットの外周面の表面欠陥を研削除去することによって、所望の形状のビレットを作製する。円筒形状のターゲットを作製する場合には、円柱形状に成形したインゴットの外周面の表面欠陥を研削除去すると共に、内部をくり抜き加工することによって、円筒形状のビレットを作製する。
次いで、ビレットを所望の形状に鍛造する。鍛造の条件は特段制限されず、例えば、100~800℃の範囲の熱間で実施することが好ましい。また、鍛造に代えて、又は鍛造に加えて圧延により所望の形状に加工してもよい。鍛造や圧延は、複数回実施してもよい。
【0046】
[加熱工程]
加熱工程は特段制限されないが、例えば、電気炉等を用いて、加熱温度について、好ましくは100~800℃、より好ましくは300~700℃、また、加熱時間について、好ましくは10~500分、より好ましくは50~250分の条件で加工物を加熱して一定の結晶組織を有するターゲット材を得ることができる。加熱処理を行うことにより、加工時に生じた内部歪を十分に除去することができる。また、加熱処理の回数は、1回でもよく、複数回であってもよい。
【0047】
[研磨工程]
研磨工程は特段制限されないが、上述の表面粗さRa及びRz、並びにこれらのばらつきの説明で述べた研磨の操作を行うことにより、上述した表面粗さRaが所望の範囲となるように、好ましくは、Raのばらつき、Rz、及びRzのばらつきが所望の範囲となるように研磨を行う。例えば、加熱工程により得られたターゲット材を自動研磨機、又は回転ろくろ等の自動回転体により表面研磨を行う。自動研磨機として旋盤での研磨を行う場合、研磨の態様は特段制限されないが、スパッタリング初期特性をより安定させる観点から、円状に研磨する際の中心位置を変えずに行うこと、つまり、研磨痕が同心円状を形成するように行うことが好ましい。
また、スパッタリング初期特性を安定させるため、できるだけ手作業による研磨は適用しないことが好ましい。さらに、ターゲットの表面上の異物混入を抑制するため、バフ研磨等の研磨剤を用いる研磨は適用しないことが好ましい。
なお、研磨工程において、上記の自動回転体等を用いた研磨等により表面研磨を用いた加工を行った後に化学的機械研磨(CMP)を行うと、表面粗さRaの平均値が所望の範囲より小さくなり得るため、自動回転体等を用いた研磨等にCMP研磨を行うことは好ましくない。
【0048】
また、バッキングプレートおよび/又はボンディング層を設ける場合、これらを設ける方法は特段制限されず、上記の方法で製造されたターゲット(ターゲット部材)に、バッキングプレートおよび/又はボンディング層を設けることができる。
【0049】
また、上述したように、研磨により生じるターゲットの表面の加工歪の深さ及び量を小さくする観点から、研磨の際はターゲットへの負荷を小さくするようにして行うことが好ましい。
【0050】
本明細書における各特性の測定では、特段言及されていない場合には、測定前に、測定する環境と同様の環境に測定サンプルを48時間以上保持する。また、測定温度、測定湿度、及び測定圧力については、特段言及されていない場合には、常温(20±10℃)、常湿(40±20%RH)、及び常圧(大気圧)とする。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0052】
[ターゲットの特性の評価]
(表面粗さRa及びRz)
ターゲットを用いて、
図1に示すようにターゲットのスパッタ面において下記の測定点A~Eを決定し、表面粗さ測定装置(Mitutoyo製の接触式表面粗さ測定器 小型表面粗さ測定器SJ-210)を用いて表面粗さRa及びRzを測定した。測定点A~Eにおける表面粗さRa及びRzのそれぞれの平均値、最大値、最小値、及び最大値と最小値との差を表1に示す。表1において、「大」が最大値、「小」が最小値、「差」が最大値と最小値との差を意味する。
(測定点)
測定点A:前記ターゲットのスパッタ面の中心点。
測定点B:前記測定点Aと前記ターゲットのスパッタ面の縁上の任意の点bとを結ぶ第1の仮想的な線分を引いた場合において、前記点bから5mmの長さに位置する前記第1の仮想的な線分上の点。
測定点C:前記測定点Aと前記測定点Bとを結ぶ第2の仮想的な線分の中点。
測定点D:前記測定点Aを通り、前記第1の仮想的な線分に直交する前記ターゲットのスパッタ面上に仮想的な直線Dを引き、前記直線Dと交わる前記ターゲットのスパッタ面の縁上の2点のうちの少なくとも一方の点を点dとし、前記測定点Aと前記点dとを結ぶ第3の仮想的な線分を引いた場合において、前記点dから前記測定点Aに向かって5mmの長さに位置する前記第3の仮想的な線分上の点。
測定点E:前記測定点Aと前記測定点Dとを結ぶ第4の仮想的な線分の中点。
【0053】
(半値幅)
上記の測定点A~Eの5つの測定点において、X線回折装置を用いて、ターゲット表面の(220)面の半値幅を測定した。その平均値及びばらつきを表1に示す。
【0054】
[スパッタリング膜の特性の評価]
ターゲットをスパッタリング装置(神港精機製SRV-4320)に取り付け、装置内を9.5×10-5Pa以下まで真空排気した後、投入電力:DC 1kW、ターゲット-基板間距離:50mm、スパッタ時間:42秒の条件でスパッタを行い、6インチSi基板(ウエハ)上にAu膜を成膜し、スパッタリング膜(厚さ:約1100Å)を作製した。同じターゲットを用いてこのスパッタリングを30回繰り返し行い、30枚のスパッタリング膜を得た。この30枚のうち、1枚目、15枚目、及び30枚目に得られたスパッタリング膜を用いて、後述する方法で膜厚分布の評価を行った。また、30回のスパッタリングのうち、1回目、15回目、30回目のスパッタリングにおいて、後述する方法でデポレートを評価した。
【0055】
(デポレート)
スパッタリングにおけるデポレートは、上記のスパッタリングにおいて成膜されたスパッタリング膜の厚さをスパッタ時間(42秒)で除することで評価した。この評価結果を表2に示す。
【0056】
(膜厚)
スパッタリング膜の表面において該表面の中心を通る任意の仮想的な線分(該中心を通る直線とスパッタリング膜の縁との2つの交点で結ばれる線分)について、該線分を10等分するように該線分上に9つの点を打った場合に、これらの9つの各点において、株式会社Mitutoyo製の触針式表面形状測定機小型表面粗さ測定器 SJ-210を用いて、スパッタリング膜の膜厚を測定し、これらの膜厚から、膜厚の平均値と、膜厚の標準偏差の平均値(標準偏差σ)を算出した。これらの算出した結果を表3に示す。各点における膜厚の測定は、対象の点に抵抗を測定するための探針を当てて行った。
【0057】
[スパッタリングターゲットの製造]
(実施例1)
まず、Au塊(純度99.99重量%)を高周波溶解炉に入れて1200℃の温度で溶解させてAu溶湯を得た後、該Au溶湯を鋳型に注湯しAuインゴットを得た。次いで、Auインゴットを切削してビレットを得た後、500℃で熱間鍛造して、直径300mm、高さ7mmの円盤状の加工物を得た。次いで、表面の酸化物を取り除くため、フライス盤で表面切削しさらにロータリテーブルに取り付け回転させながら表面を研磨紙2000番で表面を均一にヘアライン研磨した。研磨について、具体的には、まずは、研磨後の表面の表面粗さRaの確認を繰り返すことにより、表面粗さRaが表1に示す数値に近づくように研磨紙2000番で表面を研磨し、その後、研磨後の表面の表面粗さRzの確認を繰り返すことにより、表面粗さRzが大きい部分を研磨し、最終的に、上記の5つの測定点において測定されるスパッタリングターゲットの表面粗さRa、Rzが表1に示す数値となるように、スパッタリングターゲットを製造した。ロータリーテーブル(ターンテーブル)を用いた研磨の際、円状に研磨する際の中心位置を変えずに研磨を行った。
【0058】
得られたターゲットの形状は、円盤状であり、直径290mm、高さ6mmであった。また、ICP-MS分析装置(島津製作所製の誘導結合プラズマ発光分析ICPS-8100)を用いた元素分析を行った結果、ターゲットの組成比率は、Auの純度が99.99重量%であった。Raの平均値が約0.3μm、Rzの平均値が約3.6μmであり、Ra及びRzのばらつきが小さく、デポレートは23Å/秒程度であり、膜厚分布は1000Å程度で標準偏差が小さかった。
【0059】
(実施例2)
加工物を得た後、フライス盤をNC自動旋盤に変更し、バイトによる1回の切込み深さを0.05mm程度、回転数100rpm、送り量0.01mm/revとし、研磨を行った。研磨について、具体的には、実施例1と同様に、まずは、研磨後の表面の表面粗さRaの確認を繰り返すことにより、表面粗さRaが表1に示す数値に近づくようにNC自動旋盤での研磨を行い、その後、研磨後の表面の表面粗さRzの確認を繰り返すことにより、表面粗さRzが大きい部分を研磨し、最終的に上記の5つの測定点において測定されるスパッタリングターゲットの表面粗さRa、Rzが表1に示す数値となるようにしたこと以外は、実施例1と同様の方法でスパッタリングターゲットを製造した。最終的に得られたターゲットのサイズ及びAuの純度も実施例1と同様であった。Raの平均値が約3.0μm、Rzの平均値が約15μmであり、Ra及びRzのばらつきが非常に小さく、デポレートは29Å/秒程度であり、膜厚分布は1200Å程度で標準偏差が小さかった。
【0060】
(実施例3)
加工物を得た後、フライス盤をNC自動旋盤に変更し、バイトによる1回の切込み深さを0.1mm程度、回転数200rpm、送り量0.1mm/revとし、研磨を行った。研磨について、具体的には、実施例1と同様に、まずは、研磨後の表面の表面粗さRaの確認を繰り返すことにより、表面粗さRaが表1に示す数値に近づくようにNC自動旋盤での研磨を行い、その後、研磨後の表面の表面粗さRzの確認を繰り返すことにより、表面粗さRzが大きい部分を研磨し、最終的に上記の5つの測定点において測定されるスパッタリングターゲットの表面粗さRa、Rzが表1に示す数値となるようにしたこと以外は、実施例1と同様の方法でスパッタリングターゲットを製造した。最終的に得られたターゲットのサイズ及びAuの純度も実施例1と同様であった。Raの平均値が約10μm、Rzの平均値が約45μmであり、Ra及びRzのばらつきが小さく、デポレートは30Å/秒程度であり、膜厚分布は1250Å程度で標準偏差が小さかった。
【0061】
(実施例4)
加工物を得た後、フライス盤をNC自動旋盤に変更し、バイトによる1回の切込み深さを0.5mm程度、回転数500rpm/min、送り量0.2mm/revとし、研磨を行った。研磨について、具体的には、実施例1と同様に、まずは、研磨後の表面の表面粗さRaの確認を繰り返すことにより、表面粗さRaが表1に示す数値に近づくようにNC自動旋盤での研磨を行い、その後、研磨後の表面の表面粗さRzの確認を繰り返すことにより、表面粗さRzが大きい部分を研磨し、最終的に上記の5つの測定点において測定されるスパッタリングターゲットの表面粗さRa、Rzが表1に示す数値となるようにしたこと以外は、実施例1と同様の方法でスパッタリングターゲットを製造した。最終的に得られたターゲットのサイズ及びAuの純度も実施例1と同様であった。Raの平均値が約35μm、Rzの平均値が約75μmであり、Ra及びRzのばらつきが小さく、デポレートは32Å/秒程度であり、膜厚分布は1350Å程度で標準偏差が小さかった。
【0062】
(実施例5)
上述した実施例1における研磨において、ターゲットへの研磨紙の押し付けの程度を小さくすることにより、最終的に上記の5つの測定点において測定されるスパッタリングターゲットの表面粗さRa、Rzが表1に示す数値となるようにしつつ、さらに、表1に記載の半値幅となるように研磨を行ったこと以外は、実施例1と同様の方法で実施例1と同様の方法でスパッタリングターゲットを製造した。最終的に得られたターゲットのサイズ及びAuの純度も実施例1と同様であった。Raの平均値が約0.71μm、Rzの平均値が約3.3μmであり、Ra及びRzのばらつきが小さく、デポレートは25Å/秒程度であり、膜厚分布は1200Å程度で標準偏差が小さく、実施例1におけるターゲットよりも良好であった。
【0063】
(比較例1)
加工物を得た後、自動立型フライス盤の正面フライス加工で、円筒形で複数の刃がついた切削工具を回転させて切削する方法に変更し、回転数300rpmm、送り速度45mm/minで研磨を行い上記の5つの測定点において測定されるスパッタリングターゲットの表面粗さRa、Rzが表1に示す数値となるようにしたこと以外は、実施例1と同様の方法でスパッタリングターゲットを製造した。最終的に得られたターゲットのサイズ及びAuの純度も実施例1と同様であった。その結果、Raの平均値が約5μm、Rzの平均値が約22.5μmであったが、ばらつきが大きく、デポレートは20~23Å/秒程度であり、膜厚分布は850~970Åで標準偏差が非常に大きかった。
【0064】
(比較例2)
加工物を得た後、比較例1で用いたフライス盤の条件で表面切削加工したのち、CMPにより表面研磨した。上記の5つの測定点において測定されるスパッタリングターゲットの表面粗さRa、Rzが表1に示す数値となるように、実施例1と同様の方法でスパッタリングターゲットを製造した。最終的に得られたターゲットのサイズ及びAuの純度も実施例1と同様であった。その結果、Raの平均値およびRzの平均値がともに0.1μm未満であり、Ra及びRzのばらつきが非常に小さく、膜厚分布は良好であったが、デポレートは非常に遅くそのばらつきが大きかった。
【0065】
(比較例3)
加工物を得た後、手動での旋盤で、切削速度0.05~0.5m/min、切込み量0.1mm、送り量0.1~1.0mm/revの範囲でばらつきながら切削に変更し、上記の5つの測定点において測定されるスパッタリングターゲットの表面粗さRa、Rzが表1に示す数値となるようにしたこと以外は、実施例1と同様の方法でスパッタリングターゲットを製造した。最終的に得られたターゲットのサイズ及びAuの純度も実施例1と同様であった。Raの平均値およびRzの平均値が12.5μm、32.4μm程度であり、Ra及びRzのばらつきが非常に大きく、デポレートは22Å/秒程度であり、膜厚分布も910~960Å程度で標準偏差が大きかった。
【0066】
(比較例4)
加工物を得た後、NC自動旋盤に変更し、バイトによる1回の切込み深さを1.0mm程度、回転数600rpm/min、送り量0.2mm/revに設定し、上記の5つの測定点において測定されるスパッタリングターゲットの表面粗さRa、Rzが表1に示す数値となるようにしたこと以外は、実施例1と同様の方法でスパッタリングターゲットを製造した。最終的に得られたターゲットのサイズ及びAuの純度も実施例1と同様であった。Raの平均値が61μm程度およびRzの平均値が83μm程度であり、Ra及びRzのばらつきが大きく、デポレートは19.5Å/秒程度であり、膜厚分布は790~850Å程度で標準偏差が大きかった。
【0067】
(比較例5)
加工物を得た後、研磨紙800番を用いて手動で表面を均一に研磨し、上記の5つの測定点において測定されるスパッタリングターゲットの表面粗さRa、Rzが表1に示す数値となるようにしたこと以外は、実施例1と同様の方法でスパッタリングターゲットを製造した。最終的に得られたターゲットのサイズ及びAuの純度も実施例1と同様であった。Raの平均値が1.5μm程度およびRzの平均値が10.6μm程度であり、Raのばらつきが小さい一方で、Rzのばらつきが大きく、デポレートは19~22Å/秒程度であり、膜厚分布は760~820Å程度で標準偏差が大きかった。
【0068】
(比較例6)
加工物を得た後、研磨紙120番を用いて手動で表面を均一に研磨し、上記の5つの測定点において測定されるスパッタリングターゲットの表面粗さRa、Rzが表1に示す数値となるようにしたこと以外は、実施例1と同様の方法でスパッタリングターゲットを製造した。最終的に得られたターゲットのサイズ及びAuの純度も実施例1と同様であった。Raの平均値が42μm程度およびRzの平均値が85.1μm程度であり、Raのばらつきが小さい一方で、Rzのばらつきが大きく、デポレートは10~16Å/秒程度であり、膜厚分布は370~680Å程度で標準偏差が大きかった。
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
表1から、上記の測定により得られたターゲットのスパッタ面の表面粗さRaの平均値を0.1μm以上、50μm以下とし、Raのばらつきを10μm以下とし、Rzの平均値を80μm以下とし、かつ、表面粗さRzのばらつきを10μm以下とすることにより、スパッタリング初期に成膜されるスパッタリング膜が膜厚分布の安定性に優れ、かつ、スパッタリング初期におけるデポレートの安定化を図ることができることが分かった。Raの平均値が小さすぎる比較例2では、凹凸の平均が小さすぎるためにスパッタリング初期におけるデポレートが小さくなったと推測される。また、Rzが大きい、又はRzのばらつきが大きい比較例1、3~6では、局所的な凸部が存在する、又はターゲット表面でその局所的な凸部の高さの程度のばらつきが存在する、等の理由によりスパッタリング膜の膜厚分布のばらつきが大きくなったと推測される。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、スパッタリング初期に成膜されるスパッタリング膜が膜厚分布の安定性に優れ、また、スパッタリング初期におけるデポレートの安定化を図ることができるAuスパッタリングターゲットを提供することができる。本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットは、スパッタ法を用いた、電子部品、半導体デバイス、光学薄膜、磁気デバイス、LED、有機EL、又はLCD等における素子の形成に広く利用することができる。