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  • 特許-強誘電性組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】強誘電性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/12 20060101AFI20241021BHJP
   C08L 1/08 20060101ALI20241021BHJP
   C08L 27/16 20060101ALI20241021BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20241021BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
C08L101/12
C08L1/08
C08L27/16
C08L77/00
C08K9/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020024496
(22)【出願日】2020-02-17
(65)【公開番号】P2021127425
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】508046362
【氏名又は名称】西岡 昭博
(73)【特許権者】
【識別番号】509003977
【氏名又は名称】香田 智則
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西岡 昭博
(72)【発明者】
【氏名】香田 智則
(72)【発明者】
【氏名】安江 慧斗
(72)【発明者】
【氏名】金野 晴男
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/192634(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/116527(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/116393(WO,A1)
【文献】特開2019-143113(JP,A)
【文献】国際公開第2018/198139(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/14
C08K 3/00 - 13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A):強誘電性高分子と、
成分(B):アニオン変性セルロースナノファイバーと、を含有し、
成分(B)が、カルボキシ基量が1.0~2.0mmol/gである酸化セルロースナノファイバーを含み、
成分(A)が、
(a)ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン-三フッ化エチレン共重合体(P(VDF-TrFE))、フッ化ビニリデン-四フルオロエチレン共重合体、シアン化ビニリデン-酢酸ビニル共重合体、シアノエチルセルロース、シアノエチルヒドロキシサッカロース、シアノエチルヒドロキシセルロース、シアノエチルヒドロキシプルラン、シアノエチルメタクリレート重合体、シアノエチルアクリレート重合体、シアノエチルヒドロキシエチルセルロース、シアノエチルアミロース、シアノエチルヒドロキシプロピルセルロース、シアノエチルジヒドロキシプロピルセルロース、シアノエチルヒドロキシプロピルアミロースシアノエチルプルラン、シアノエチルポリヒドロキシメチレン、シアノエチルグリシドールプルラン、シアノエチルサッカロース、シアノエチルソルビトール、ナイロン11、及びナイロン7からなる群より選ばれる1以上のポリマー、並びに、
(b)前記(a)のポリマー無機物とのナノコンポジット
のいずれか又は両方である、
強誘電性組成物。
【請求項2】
前記成分(A)が、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンと有機化粘土のナノコンポジット、ポリフッ化ビニリデン-三フッ化エチレン共重合体、ナイロン11、及びナイロン7からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の強誘電性組成物。
【請求項3】
前記成分(B)の含有割合が、成分(A)に対して、0.1~50質量%である、請求項1又は2に記載の強誘電性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強誘電性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、強誘電性材料としては、PbTiO、LiTaO、BaTiO、PbZrTiO(PZT)等のような金属酸化物系材料、ポリフッ化ビニリデン及びフッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンとの共重合体に代表されるフッ化ビニリデン系ポリマー、シアン化ビニリデンと酢酸ビニルの共重合体、といった高分子系材料が知られている。
【0003】
このうち、高分子系材料は、焦電性及び圧電性は、金属酸化物系材料に比べて低く、分極を反転するための抗電界の値は高い。一方、高分子系材料は、比熱が小さく、誘電率も小さいため性能指数も良好である。加えて、抗電界の値も安定している。そのため、高分子系材料は、アクチュエータ、メモリ材料等への応用が検討されている。
【0004】
高分子系材料は、一般に、強誘電性を発現させるために、機械的に一軸延伸、二軸延伸を行うなどして、高分子中の双極子の向きを一方向にそろえる必要がある。この双極子配向によって残留分極が形成され、強誘電性が発現される。
しかしながら、延伸処理は、処理工程の増加によるコストの増大や、材料の形状に制限をもたらすというデメリットがある。
【0005】
高分子系材料であるポリフッ化ビニリデンについて、延伸処理せずに強誘電性を発現させることが知られている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】E. Yamada, A. Nishioka, H. Suzuki, T. Koda, and S. Ikeda, “Test of Ferroelectricity in Non-stretched Poly(vinylidene fluoride)/Clay Nanocomposites”, Japanese Journal of Applied Physics, 2007年, Vol.46, No.11, pp.7371-7374
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1によれば、高分子系材料であるポリフッ化ビニリデンを用いた場合であっても、延伸処理せずに強誘電性を発現させることできる。しかしながら、自発分極が低下する。
【0008】
本発明の課題は、自発分極を向上させることができる強誘電性組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、強誘電性高分子とアニオン変性セルロースナノファイバーを併用することにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明者らは、下記の〔1〕~〔4〕を提供する。
〔1〕成分(A):強誘電性高分子と、成分(B):アニオン変性セルロースナノファイバーと、を含有する、強誘電性組成物。
〔2〕前記成分(A)が、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンと有機化粘土のナノコンポジット、ポリフッ化ビニリデン-三フッ化エチレン共重合体、ナイロン11、及びナイロン7からなる群から選択される少なくとも1種である、上記〔1〕に記載の強誘電性組成物。
〔3〕前記成分(B)が、酸化セルロースナノファイバー、カルボキシメチル化セルロースナノファイバー、及びエステル化セルロースナノファイバーからなる群から選択される少なくとも1種である、上記〔1〕又は〔2〕に記載の強誘電性組成物。
〔4〕前記成分(B)の含有割合が、成分(A)に対して、0.1~50質量%である、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の強誘電性組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、自発分極を向上させることができる強誘電性組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例1、2及び比較例で製造した強誘電性組成物を用いて作製したD-E測定用試験片のD-Eヒステリシス測定結果を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。なお、本明細書中、「AA~BB」との表記は、AA以上BB以下であることを意味する。
【0013】
本発明の強誘電性組成物は、成分(A):強誘電性高分子と、成分(B):アニオン変性セルロースナノファイバーと、を含有する。
本発明の強誘電性組成物が、成分(B)を含有することで自発分極を向上させることができる理由は以下のとおり推察される。成分(B)を含有すると、成分(A)の結晶間の面間隔が広がる。そのため、成分(A)の結晶間の相互作用が弱まり、自発分極を向上させることができると推察される。
【0014】
(成分(A))
成分(A)は、強誘電性高分子である。強誘電性高分子としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン-三フッ化エチレン共重合体共重合体(P(VDF-TrFE))、フッ化ビニリデン-四フルオロエチレン共重合体等のフッ素原子を有するポリマー;シアン化ビニリデン-酢酸ビニル共重合体、シアノエチルセルロース、シアノエチルヒドロキシサッカロース、シアノエチルヒドロキシセルロース、シアノエチルヒドロキシプルラン、シアノエチルメタクリレート重合体、シアノエチルアクリレート重合体、シアノエチルヒドロキシエチルセルロース、シアノエチルアミロース、シアノエチルヒドロキシプロピルセルロース、シアノエチルジヒドロキシプロピルセルロース、シアノエチルヒドロキシプロピルアミロース、シアノエチルポリアクリルアミド、シアノエチルポリアクリレート、シアノエチルプルラン、シアノエチルポリヒドロキシメチレン、シアノエチルグリシドールプルラン、シアノエチルサッカロース及びシアノエチルソルビトール等のシアノ基又はシアノエチル基を有するポリマー;ナイロン11及びナイロン7等の奇数番号のナイロン;これらポリマー又はナイロンと、有機化粘土やマイカ等に代表される無機物と、のナノコンポジットが挙げられる。
PVDFと有機化粘土のナノコンポジットにおける有機化粘土としては、Clolisite(登録商標)20A(Southern Clay Industries社製)が挙げられる。
【0015】
強誘電性高分子としては、PVDF、PVDFと有機化粘土のナノコンポジット、PVDF-TrFE、ナイロン11、及びナイロン7からなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、PVDFと有機化粘土のナノコンポジット、又はPVDF-TrFEがより好ましい。
なお、成分(A)は、市販品を用いてもよい。
【0016】
(成分(B))
成分(B)は、アニオン変性セルロースナノファイバーである。「アニオン変性セルロースナノファイバー」とは、セルロース分子鎖にアニオン性基を導入したアニオン変性セルロース繊維を、ナノスケールの繊維径となるまで解繊して得た微細繊維である。以下、「セルロースナノファイバー」を「CNF」と略すことがある。
アニオン変性セルロース繊維としては、例えば、カルボキシ化(酸化)セルロース繊維、カルボキシメチル化セルロース繊維、リン酸エステル化セルロース繊維、亜リン酸エステル化セルロース繊維が挙げられる。これらを解繊することで、それぞれ酸化セルロースナノファイバー、カルボキシメチル化セルロースナノファイバー、リン酸エステル化セルロースナノファイバー、亜リン酸エステル化セルロースナノファイバーが得られる。中でも、カルボキシ化(酸化)セルロースナノファイバー、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーが好ましく、カルボキシ化(酸化)セルロースナノファイバーがより好ましい。
【0017】
本明細書中、「CNF」は、セルロース原料であるパルプ等がナノメートルレベルまで微細化されたものであり、繊維径が3~500nm程度の微細繊維をいう。セルロースナノファイバーの平均繊維径及び平均繊維長は、原子間力顕微鏡(AFM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、各繊維を観察した結果から得られる繊維径及び繊維長を平均することによって得ることができる。セルロースナノファイバーは、パルプに機械的な力を加えて微細化することで得られ、あるいは、カルボキシ化セルロース繊維(以下、「酸化セルロース繊維」ともいう)、カルボキシメチル化セルロース繊維、リン酸エステル化セルロース繊維、亜リン酸エステル化セルロース繊維のようなアニオン変性セルロース繊維を解繊することによって得ることができる。微細繊維の平均繊維長と平均繊維径は、酸化処理、解繊処理により調整することができる。
アニオン変性セルロースナノファイバーの平均繊維長は、50μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、1μm以下がさらに好ましい。また、アニオン変性セルロースナノファイバーの平均繊維径は、2~500nmが好ましく、2~250nmがより好ましく、2~50nmがさらに好ましい。
【0018】
アニオン変性セルロースナノファイバーの平均アスペクト比は、通常50以上である。上限は特に限定されないが、通常、1000以下である。平均アスペクト比は、下記の式により算出することができる:
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
【0019】
アニオン変性セルロースナノファイバーの原料となるセルロース(以下、「セルロース原料」ともいう)の種類は特に限定されず、例えば、植物(例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、溶解パルプ(DKP)、古紙等)、動物(例えば、ホヤ類)、藻類、微生物(例えば、酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等を起源とするセルロースを使用することができる。好ましくは、植物又は微生物由来のセルロース繊維であり、より好ましくは、植物由来のセルロース繊維である。
【0020】
セルロース原料の数平均繊維径は特に制限されない。一般的なパルプである針葉樹クラフトパルプの場合は30~60μm程度、広葉樹クラフトパルプの場合は10~30μm程度である。その他のパルプの場合、一般的な精製を経たものは50μm程度である。例えばチップ等の数cm大のものを精製したものである場合、リファイナー、ビーター等の離解機で機械的処理を行い、50μm程度に調整することが好ましい。
【0021】
(化学変性)
上述のセルロース原料に対し、アニオン性基を導入することで、アニオン変性セルロース繊維とする。アニオン性基の導入方法は特に限定されないが、例えば、酸化又は置換反応によってセルロースのピラノース環にアニオン性基を導入する方法が挙げられる。具体的には、ピラノース環の水酸基を酸化してカルボキシ基へと変換する反応や、ピラノース環に対して置換反応により、カルボキシメチル基やリン酸エステル基、亜リン酸のエステル基を導入する反応を挙げることができる。
【0022】
(カルボキシ化(酸化))
アニオン変性の一例としてカルボキシ化(酸化とも呼ぶ。)を挙げることができる。カルボキシ化とは、セルロースのピラノース環の水酸基を酸化してカルボキシ基(-COOH(酸型)又は-COOM(金属塩型)をいう(Mは金属イオンである。))に変換する反応をいう。本明細書において、カルボキシ化により得られるアニオン変性セルロース繊維を、カルボキシ化セルロース繊維又は酸化セルロース繊維とも呼ぶ。
カルボキシ化セルロース繊維は、上記のセルロース原料を公知の方法でカルボキシ化(酸化)することにより得ることができる。
【0023】
カルボキシ化セルロース繊維におけるカルボキシ基量は、特に限定されるものではないが、カルボキシ化セルロース繊維の絶乾質量に対して、0.6~3.0mmol/gとなるように調整することが好ましく、1.0~2.0mmol/gになるように調整することがさらに好ましい。カルボキシ基量は、酸化剤の種類や量、酸化反応の際の温度や時間などを制御することで、調整することができる。
カルボキシ化セルロース繊維のカルボキシ基量は、カルボキシ化セルロースナノファイバーのカルボキシ基量と同値である。
【0024】
カルボキシ化セルロース繊維のカルボキシ基量は、以下の方法で測定することができる:
カルボキシ化セルロース繊維の0.5質量%スラリー(媒体:水)60mlを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とする。0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出する:
カルボキシ基量〔mmol/gカルボキシ化セルロース繊維〕=a〔ml〕×0.05/カルボキシ化セルロース繊維の質量〔g〕。
【0025】
カルボキシ化(酸化)方法の一例として、セルロース原料を、N-オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物及びこれらの混合物からなる群から選択される化合物と、の存在下で酸化剤を用いて水中で酸化する方法を挙げることができる。この酸化反応により、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、表面にアルデヒド基と、カルボキシ基(-COOH)又はカルボキシレート基(-COO)とを有するセルロース繊維を得ることができる。反応時のセルロース原料の水中での濃度は特に限定されないが、5質量%以下とすることが好ましい。
【0026】
N-オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。N-オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル(TEMPO)及びその誘導体(例えば、4-ヒドロキシTEMPO)が挙げられる。N-オキシル化合物の使用量は、セルロース原料を酸化できる触媒量であればよく、特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロース原料に対して、0.01~10mmolが好ましく、0.01~1mmolがより好ましく、0.05~0.5mmolがさらに好ましい。また、反応液全体に対し、0.1~4mmol/L程度がよい。
【0027】
臭化物とは臭素を含む化合物であり、その例には、水中で解離してイオン化可能なアルカリ金属の臭化物が含まれる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、その例には、アルカリ金属のヨウ化物が含まれる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。臭化物及びヨウ化物の合計量は、例えば、絶乾1gのセルロース原料に対して、0.1~100mmolが好ましく、0.1~10mmolがより好ましい。
【0028】
酸化剤としては、公知のものを使用でき、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸又はそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物を使用できる。中でも、安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。酸化剤の適切な使用量は、例えば、絶乾1gのセルロース原料に対して、0.5~500mmolが好ましく、0.5~50mmolがより好ましく、1~25mmolがさらに好ましく、3~10mmolがさらにより好ましい。また、例えば、N-オキシル化合物1molに対して、1~40molが好ましい。
【0029】
セルロース原料の酸化は、比較的温和な条件下であっても反応が効率よく進行しやすい。よって、反応温度は4~40℃であってもよく、また、15~30℃程度の室温であってもよい。反応の進行に伴ってセルロース鎖にカルボキシ基が生成するため、反応液のpHの低下が認められる。酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを8~12、好ましくは10~11程度に維持することが好ましい。反応液における媒体は、取扱い性の容易さや、副反応が生じにくいこと等から、水が好ましい。
酸化反応における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常、0.5~6時間であり、好ましくは、0.5~4時間程度である。
【0030】
酸化反応は、2段階に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後に濾別して得られた酸化セルロース繊維を、再度、同一又は異なる反応条件で酸化することにより、1段目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、効率よく酸化を進行させることができる。
【0031】
カルボキシ化(酸化)の方法の別の例として、オゾンを含む気体とセルロース原料とを接触させることにより酸化する方法を挙げることができる。この酸化反応により、グルコピラノース環の少なくとも2位及び6位の水酸基がカルボキシ基へと酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。
オゾンを含む気体中のオゾン濃度は、50~250g/mが好ましく、50~220g/mがより好ましい。セルロース原料に対するオゾン添加量は、セルロース原料の固形分を100質量部とした際に、0.1~30質量部が好ましく、5~30質量部がより好ましい。オゾン処理温度は、0~50℃が好ましく、20~50℃がより好ましい。オゾン処理時間は、特に限定されないが、1~360分程度であり、30~360分程度が好ましい。オゾン処理の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度に酸化及び分解されることを防ぐことができ、酸化セルロース繊維の収率が良好となる。
【0032】
オゾン処理を施した後に、酸化剤を用いて、追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理に用いる酸化剤は、特に限定されないが、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物や、酸素、過酸化水素、過硫酸、過酢酸等が挙げられる。例えば、これらの酸化剤を水又はアルコール等の極性有機溶媒中に溶解して酸化剤溶液を作製し、溶液中にセルロース原料を浸漬させることにより追酸化処理を行うことができる。
【0033】
(カルボキシメチル化)
前述の通りアニオン変性の一例として、カルボキシメチル化を挙げることができる。アニオン変性セルロース繊維の一例であるカルボキシメチル化セルロース繊維は、上記のセルロース原料を公知の方法でカルボキシメチル化することにより得てもよく、また、市販品であってもよい。いずれの場合も、セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は、0.01~0.50であり、0.01~0.44が好ましく、0.02~0.40がより好ましく、0.10~0.30がさらに好ましい。
なお、カルボキシメチル置換度が0.50を超えると、水などの媒体に溶解するようになり、繊維状の形状を維持することができなくなる場合がある。
カルボキシメチル化セルロース繊維のカルボキシメチル置換度は、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーのカルボキシメチル置換度と同値である。
【0034】
カルボキシメチル化セルロース繊維のカルボキシメチル置換度は、以下の方法で測定することができる:
カルボキシメチル化セルロース繊維(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。硝酸メタノール(メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液)100mLを加え、3時間振とうして、塩の形態のカルボキシメチル化セルロース繊維(以下、「CM化セルロース繊維」ともいう)を酸型CM化セルロース繊維に変換する。酸型CM化セルロース繊維(絶乾)を1.5~2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。80質量%メタノール15mLで酸型CM化セルロース繊維を湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのHSOで過剰のNaOHを逆滴定する。カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する:
A=[(100×F’-(0.1NのHSO)(mL)×F)×0.1]/(酸型CM化セルロース繊維の絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
A:酸型CM化セルロース繊維1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F:0.1NのHSOのファクター
F’:0.1NのNaOHのファクター。
【0035】
カルボキシメチル化セルロース繊維を製造する方法の一例として次のような方法を挙げることができる:
セルロース原料に、溶媒として、重量換算で3~20倍の水及び/又は低級アルコール(例えば、水、メタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、第3級ブチルアルコール)を、単独で又は2種以上の混合媒体として加える。なお、溶媒に低級アルコールを混合して用いる場合の低級アルコールの混合割合は、60~95質量%であることが好ましい。
ここに、マーセル化剤として、セルロース原料の無水グルコース残基当たり、モル換算で、0.5~20倍のアルカリ金属の水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)を添加する。セルロース原料と溶媒、マーセル化剤を混合し、反応温度0~70℃(好ましくは、10~60℃)、かつ反応時間15分~8時間(好ましくは、30分~7時間)、マーセル化処理を行う。その後、カルボキシメチル化剤、(例えば、モノクロロ酢酸又はその塩)をグルコース残基当たり、モル換算で0.05~10.0倍添加し、反応温度30~90℃(好ましくは、40~80℃)、かつ反応時間30分~10時間(好ましくは、1~4時間)、エーテル化反応を行う。
【0036】
アニオン変性CNFの調製に用いるアニオン変性セルロースの一種である「カルボキシメチル化セルロース繊維」は、水に分散した際にも繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるものをいう。したがって、水溶性高分子の一種であるカルボキシメチルセルロースとは区別される。「カルボキシメチル化セルロース繊維」の水分散液を電子顕微鏡で観察すると、繊維状の物質を観察することができる。一方、水溶性高分子の一種であるカルボキシメチルセルロースの水分散液を観察しても、繊維状の物質は観察されない。また、「カルボキシメチル化セルロース繊維」はX線回折で測定した際にセルロースI型結晶のピークを観測することができるが、水溶性高分子のカルボキシメチルセルロースではセルロースI型結晶はみられない。
【0037】
(エステル化)
アニオン変性の一例として、エステル化を挙げることができる。エステル化の一例として、セルロース原料へのリン酸基又は亜リン酸基の導入を挙げることができる。本明細書において、リン酸基の導入により得られるアニオン変性セルロース繊維をリン酸エステル化セルロース繊維、亜リン酸基の導入により得られるアニオン変性セルロース繊維を亜リン酸エステル化セルロース繊維と呼び、両者を総称してエステル化セルロース繊維と呼ぶ。
【0038】
リン酸エステル化セルロース繊維の製造方法としては、セルロース原料又はそのスラリーに、リン酸基を有する化合物の粉末や水溶液を混合する方法を挙げることができる。リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウム等を挙げることができ、これらを単独で、或いは2種以上混合して用いてもよい。
【0039】
セルロース原料に対するリン酸基を有する化合物の添加割合は、セルロース原料の固形分100質量部に対して、リン元素に換算した添加量で、0.1~500質量部が好ましく、1~400質量部がより好ましく、2~200質量部がさらに好ましい。反応温度は0~95℃が好ましく、30~90℃がより好ましい。反応時間は特に限定されないが、1~600分程度であり、30~480分がより好ましい。得られたリン酸エステル化セルロース繊維の懸濁液は、セルロースの加水分解を抑える観点から、脱水した後、100~170℃で加熱処理することが好ましい。リン酸エステル化セルロース繊維のグルコース単位当たりのリン酸基置換度は、0.001以上0.40未満が好ましい。
【0040】
亜リン酸エステル化セルロース繊維の製造方法としては、セルロース原料又はそのスラリーに、アルカリ金属イオン含有物並びに亜リン酸類及び亜リン酸金属塩類の少なくともいずれか一方からなる添加物(A)を添加(好ましくは、亜リン酸水素ナトリウム)し、加熱してセルロース繊維に無機物からなる陽イオンを含む亜リン酸のエステル基を導入する方法を挙げることができる。なお、尿素及び尿素誘導体の少なくともいずれか一方からなる添加物(B)を添加し、加熱してセルロース繊維に無機物からなる陽イオンを含む亜リン酸のエステル基及びカルバメート基を導入することがより好ましい。
アルカリ金属イオン含有物としては、例えば、水酸化物、硫酸金属塩類、硝酸金属塩類、塩化金属塩類、リン酸金属塩類、亜リン酸金属塩類、炭酸金属塩類を使用することができる。ただし、添加物(A)をも兼ねる亜リン酸金属塩類が好ましく、亜リン酸水素ナトリウムがより好ましい。
【0041】
添加物(A)は、亜リン酸類及び亜リン酸金属塩類の少なくともいずれか一方からなる。添加物(A)としては、例えば、亜リン酸、亜リン酸水素ナトリウム、亜リン酸水素アンモニウム、亜リン酸水素カリウム、亜リン酸二水素ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸リチウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル、ピロ亜リン酸等の亜リン酸化合物を使用することができる。これらの亜リン酸類又は亜リン酸金属塩類は、それぞれを単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。ただし、アルカリ金属イオン含有物をも兼ねる亜リン酸水素ナトリウムが好ましい。
添加物(A)の添加量は、セルロース原料1kgに対して、好ましくは1~10,000gであり、より好ましくは100~5,000gであり、さらに好ましくは300~1,500gである。
【0042】
添加物(B)は、尿素及び尿素誘導体の少なくともいずれか一方からなる。添加物(B)としては、例えば、尿素、チオ尿素、ビウレット、フェニル尿素、ベンジル尿素、ジメチル尿素、ジエチル尿素、テトラメチル尿素を使用することができる。これらの尿素又は尿素誘導体は、それぞれを単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。ただし、尿素を使用するのが好ましい。
添加物(B)の添加量は、添加物(A)1molに対して、好ましくは0.01~100molであり、より好ましくは0.2~20molであり、さらに好ましくは0.5~10molである。
【0043】
反応温度は100~200℃が好ましく、100~180℃がより好ましい。反応時間は特に限定されないが、10~180分程度であり、30~120分がより好ましい。
亜リン酸のエステル基等を導入したセルロース繊維は、解繊するに先立って、洗浄することが好ましい。亜リン酸エステル化セルロース繊維のグルコース単位当たりの亜リン酸基の置換度は、0.01以上0.23未満が好ましい。
【0044】
(解繊)
アニオン変性セルロース繊維を解繊する装置は特に限定されないが、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式等の装置を用いて、アニオン変性セルロース繊維の分散体に強力なせん断力を印加することが好ましい。効率よく解繊するには、アニオン変性セルロース繊維の分散体に、50MPa以上の圧力を印加でき、かつ強力なせん断力を印加できる、湿式の高圧又は超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。圧力は、100MPa以上がより好ましく、140MPa以上がさらに好ましい。
解繊装置での処理(パス)回数は、1回でもよいし2回以上でもよく、2回以上が好ましい。
【0045】
分散処理においては通常、溶媒にアニオン変性セルロース繊維を分散する。溶媒は、アニオン変性セルロース繊維を分散できるものであれば特に限定されないが、例えば、水、有機溶媒(例えば、メタノール等の親水性の有機溶媒)、それらの混合溶媒が挙げられる。アニオン変性セルロース繊維が親水性であることから、溶媒は、水が好ましい。
【0046】
分散体中のアニオン変性セルロース繊維の固形分濃度は、通常、0.1重量%以上であり、0.2重量%以上が好ましく、0.3重量%以上がより好ましい。これにより、アニオン変性セルロース繊維の量に対する液量が適量となり効率的である。上限は、通常、10重量%以下であり、6重量%以下が好ましい。これにより、流動性を保持することができる。
【0047】
また、高圧ホモジナイザーでの解繊・分散処理に先立って、必要に応じて、アニオン変性セルロース繊維に予備処理を施すことも可能である。予備処理は、高速せん断ミキサーなどの混合、攪拌、乳化、分散装置を用いて行えばよい。
【0048】
アニオン変性セルロース繊維は、製造後に得られる水分散体の状態であってもよく、必要に応じて後処理を経てもよい。後処理としては、例えば、乾燥(例、凍結乾燥法、噴霧乾燥法、棚段式乾燥法、ドラム乾燥法、ベルト乾燥法、ガラス板等に薄く伸展し乾燥する方法、流動床乾燥法、マイクロウェーブ乾燥法、起熱ファン式減圧乾燥法)、水への再分散(分散装置は限定されない)、粉砕(例えば、カッターミル、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミル等の機器を使用した粉砕)が挙げられるが、特に限定されない。
【0049】
成分(B)は、1種単独であってもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0050】
(比率)
本発明の強誘電性組成物中、成分(B)の含有割合は、成分(A)100質量%に対して、0.1~50質量%が好ましく、0.1~20質量%がより好ましく、0.1~10質量%がさらに好ましく、0.1~4質量%、0.1~2質量%、0.1~1質量%がさらにより好ましい。
なお、各成分が水溶液の形態である場合、各成分の比率は固形分換算の値で算出する。
【0051】
(任意成分)
本発明の強誘電性組成物は、本発明の効果を阻害しない限り、公知の任意成分を含有してもよい。任意成分としては、例えば、強誘電性酸化物、他の添加元素、焼結助剤、酸化防止剤、滑剤など、が挙げられる。
【0052】
(調製方法)
本発明の強誘電性組成物は、成分(A)と成分(B)、必要に応じて任意成分を混合することで調製することができる。混合に際しては、成分(B)が成分(A)に分散すればよく、例えば、成分(A)及び成分(B)を溶媒に溶解又は分散した状態で行う、或いは溶媒を用いずにメルトブレンドで行うことができる。
溶媒は、水、有機溶媒のいずれをも用いることができる。有機溶媒としては、N.N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホアミド、アセトン、グリセリン、ジエチレングリコール、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤が挙げられる。これらの中でも、N.N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホアミド、アセトン、が好ましく、N.N-ジメチルホルムアミドがより好ましい。
【0053】
撹拌は、成分(B)を均一に分散させることができる限り、特に制限はない。例えば、ホモジナイザーで30分撹拌することで行うことができる。
【0054】
(用途)
本発明の強誘電性組成物は、調製後、乾燥して使用することができる。乾燥条件は特に限定されるものではなく、通常、真空下で加熱して乾燥する。本発明の強誘電性組成物は、乾燥後、結晶化度を上昇させる目的で、延伸処理、アニール処理、ポーリング処理等の公知の処理を行ってもよい。
【0055】
本発明の強誘電性組成物は、自発分極を向上させることができるので、焦電体や圧電体の材料として利用することができる。例えば、本発明の強誘電性組成物を圧電体や焦電体として用いた場合に、圧力変化や温度変化が生じた場合に生じる自発分極の変化に起因する信号出力を増加させることができる。従って、強誘電体メモリ、タッチパネルを始めとした圧電センサーや焦電センサー等に好適に用いることができる。
【実施例
【0056】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。以下の実施例は、本発明を好適に説明するためのものであって、本発明を限定するものではない。
【0057】
[カルボキシ基量]:カルボキシ基量は以下のようにして測定した。酸化セルロース繊維の0.5質量%スラリー(水分散液)60mlを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした。0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまでの電気伝導度を測定した。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いてカルボキシ基量を算出した。
カルボキシ基量〔mmol/g酸化セルロース繊維〕=a〔ml〕×0.05/酸化セルロース質量〔g〕
なお、明細書に記載した通り、酸化セルロース繊維のカルボキシ基量と酸化セルロースナノファイバーのカルボキシ基量は同値である
【0058】
[平均繊維径(nm)]:酸化セルロースナノファイバーの濃度が0.001質量%となるように希釈した酸化セルロースナノファイバー水分散液を調製した。この希釈分散液をマイカ製試料台に薄く延ばし、50℃で加熱乾燥させて観察用試料を作製した。原子間力顕微鏡(AFM)にて観察した形状像の断面高さを計測し、加重平均繊維径を算出した。
【0059】
[平均繊維長(nm)]:酸化セルロースナノファイバーをマイカ切片上に固定し、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて200本の繊維の繊維長を測定し、長さ(加重)平均繊維長を算出した。なお、繊維長の測定は、画像解析ソフトWinROOF(三谷商事社製)を用いて行った。
【0060】
[アスペクト比]:平均繊維長を平均繊維径で割ることで算出した。
【0061】
(製造例:酸化セルロースナノファイバーの製造)
漂白済み針葉樹由来DKP(バッカイ社製)5g(絶乾)を、TEMPO(Sigma Aldrich社)78mg(0.5mmol)と臭化ナトリウム755mg(7.4mmol)を溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。
反応系に2M次亜塩素酸ナトリウム水溶液16ml添加した後、0.5N塩酸水溶液でpHを10.3に調整し、酸化反応を開始した(酸化処理)。反応中は系内のpHは低下するので、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。2時間反応させた後、ガラスフィルターで濾過し、十分に水洗することで酸化セルロース繊維を得た。得られた酸化セルロース繊維のカルボキシ基量は、1.7mmol/gであった。これを水で1.0%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、140MPa)で10回処理し(解繊及び分散処理)、酸化セルロースナノファイバーの分散液を得た。平均繊維径は3nm、平均繊維長は350nmであった。
【0062】
得られた酸化セルロースナノファイバー分散液に対して5倍量のN,N-ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」と記載する)を添加し、遠心分離機を用いて酸化セルロースナノファイバーを沈殿させ、上澄みを除去するという工程を3回繰り返した後、CNFの濃度が5重量%濃度になるようにDMFを添加し、超高圧ホモジナイザー(140MPa)で処理することにより酸化セルロースナノファイバーのN,N-ジメチルホルムアミド分散液(以下、「DMF/CNF分散液」と記載する)を作製した。
【0063】
(実施例1)
DMF溶媒(関東化学社製)に、ポリフッ化ビニリデン-三フッ化エチレン共重合体(以下、「P(VDF-TrFE)」と記載する)を加えてホモジナイザーで30分間撹拌し、DMF/P(VDF-TrFE)溶液を作製した。作製したDMF/P(VDF-TrFE)溶液に、製造例1で調製したDMF/CNF分散液を添加した後、ホモジナイザーで30分間撹拌し分散させて、強誘電性組成物を製造した。なお、DMF/CNF分散液の添加量は、CNFの添加量が、0.1wt%となるように調整した。
製造した強誘電性組成物を、温度90℃の真空下で、24時間乾燥させて、P(VDF-TrFE)フィルムを作製した。
【0064】
(実施例2)
CNFの添加量が1.0wt%となるように変更したこと以外は、実施例1と同様にして強誘電性組成物を製造し、P(VDF-TrFE)フィルムを作製した。
【0065】
(比較例)
DMF/CNF分散液を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして強誘電性組成物を製造し、P(VDF-TrFE)フィルムを作製した。
【0066】
実施例1、2及び比較例で作製したP(VDF-TrFE)フィルムを、140℃でアニール処理を行った。電圧を加える電極として、P(VDF-TrFE)/CNFの上下にイオンコーターを用いて金蒸着した。金蒸着部に銀ペーストを用いてアルミホイルを接着し電圧を加えてD-E測定用試験片を作製した。作製したD-E測定用試験片に対し、下記の条件でD-Eヒステリシス測定を行った。測定結果を図1に示す。
【0067】
[D-Eヒステリシス測定]: 測定は、ファンクションジェネレーターWF1941 (NF回路設計ブロック社製)を用いて交流電圧を加えた。電圧は、高電圧アンプ609C-6 (TREK社製)を用いて1000倍に増加させた。これをSawyer-Tower bridge回路を用いて試料に加えた。データは、収録ボードCB-68LP (national instruments社製)で収録した。波形は、三角波、周波数は0.25Hz、電圧は2000Vとした。
【0068】
図1から明らかなように、成分(B)を加えることで、自発分極が向上した。よって、成分(A)と成分(B)を含有する本発明の強誘電性組成物は、自発分極を向上させることができる。
図1