(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末および酸化亜鉛焼結体、ならびに、これらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/453 20060101AFI20241021BHJP
H01C 7/02 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
C04B35/453
H01C7/02
(21)【出願番号】P 2022157289
(22)【出願日】2022-09-30
(62)【分割の表示】P 2020558071の分割
【原出願日】2020-08-12
【審査請求日】2023-04-10
(31)【優先権主張番号】P 2019149136
(32)【優先日】2019-08-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】五味 洋二
(72)【発明者】
【氏名】中田 圭美
(72)【発明者】
【氏名】宇田川 悦郎
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-135560(JP,A)
【文献】特開2018-093143(JP,A)
【文献】特開2011-035117(JP,A)
【文献】特開2011-040734(JP,A)
【文献】特開2008-218749(JP,A)
【文献】特開昭63-224303(JP,A)
【文献】特開昭58-225604(JP,A)
【文献】特表平05-502011(JP,A)
【文献】特公昭60-049148(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2011/0136631(US,A1)
【文献】米国特許第05039452(US,A)
【文献】国際公開第2020/105699(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/092165(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/010979(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/044469(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/041694(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
C01G 9/00
H01C 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属元素Mを含有し、下記条件1を満たし、
前記金属元素MのEPMAマッピング測定から求める変動係数C.V.値が30%以下であ
る酸化亜鉛粉末が焼結
してなる酸化亜鉛焼結体からなるバリスタ。
条件1
前記金属元素Mが、
条件1a:Biである、もしくは、Biと、Co、Cr、Cu、In、Ni、MnおよびSbからなる群から選ばれる少なくとも1種との組み合わせである金属元素M1-1、または、
条件1b:前記金属元素M1-1と、AlおよびGaからなる群から選ばれる少なくとも1種である金属元素M2との組み合わせ、
であり、
下記式(I)で表される前記金属元素Mの含有量が、10モルppm以上、4モル%以下であり、
前記条件1bにおいて、前記金属元素M2の含有量が、2000モルppm以下であり、前記金属元素M1-1の含有量は前記金属元素M2の含有量よりも多い。
{n
M/(n
Zn+n
M)} (I)
ただし、式(I)中、n
Mは前記酸化亜鉛粉末中の前記金属元素Mの物質量を表し、n
Znは前記酸化亜鉛粉末中のZnの物質量を表し、n
Znおよびn
Mの単位はいずれもモルである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末および酸化亜鉛焼結体、ならびに、これらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の方法により製造された酸化亜鉛粉末が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
酸化亜鉛粉末を、任意で成形した後に、焼成する。これにより、酸化亜鉛粉末が焼結した酸化亜鉛焼結体が得られる。
酸化亜鉛粉末を、焼成(とりわけ、高温大気雰囲気、低酸素分圧雰囲気などの雰囲気中で焼成)するときに、質量減少が生じる場合がある。
質量減少が大きいと、得られる酸化亜鉛焼結体において、強度低下、電気特性の変化、光学特性の変化などが生じる場合がある。また、質量減少が大きいと、亜鉛の蒸発によって、焼成に用いた炉の内部が亜鉛汚染される懸念もある。
【0005】
そこで、本発明は、焼成されるときの質量減少が抑制された酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末を用いて得られる酸化亜鉛焼結体を提供することも目的とする。
また、本発明は、上記酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末および上記酸化亜鉛焼結体を製造する方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが、鋭意検討した結果、下記構成を採用することにより、上記目的が達成されることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[8]を提供する。
[1]酸化亜鉛焼結体の作製に用いる酸化亜鉛粉末であって、金属元素Mを含有し、下記条件1または条件2を満たす、酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末。
条件1
上記金属元素Mが、Bi、Co、Cr、Cu、In、Ni、MnおよびSbからなる群から選ばれる少なくとも1種である金属元素M1-1、または、上記金属元素M1-1と、AlおよびGaからなる群から選ばれる少なくとも1種である金属元素M2との組み合わせ、であり、下記式(I)で表される上記金属元素Mの含有量が、10モルppm以上、10モル%以下である。
条件2
上記金属元素Mが、Ba、Ce、La、Nb、PrおよびSrからなる群から選ばれる少なくとも1種である金属元素M1-2、または、上記金属元素M1-2と、AlおよびGaからなる群から選ばれる少なくとも1種である金属元素M2との組み合わせ、であり、下記式(I)で表される上記金属元素Mの含有量が、10モルppm以上、2モル%以下である。
{nM/(nZn+nM)} (I)
ただし、式(I)中、nMは上記酸化亜鉛粉末中の上記金属元素Mの物質量を表し、nZnは上記酸化亜鉛粉末中のZnの物質量を表し、nZnおよびnMの単位はいずれもモルである。
[2]上記金属元素MのEPMAマッピング測定から求める変動係数C.V.値が30%以下である、上記[1]に記載の酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末。
[3]上記金属元素MのEPMAマッピング測定から求める積算強度比率が0.1%以下である、上記[1]に記載の酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末。
[4]上記金属元素Mの塩と、亜鉛塩、炭酸塩およびアルカリとの沈殿物生成反応によって生成する、上記金属元素Mを含有する塩基性炭酸亜鉛を、熱処理することにより得られる、上記[1]~[3]のいずれかに記載の酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末。
[5]上記[1]~[4]のいずれかに記載の酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末が焼結した、酸化亜鉛焼結体。
[6]スパッタターゲット、ガスセンサ、バリスタまたは高温炉のセラミック構造体である、上記[5]に記載の酸化亜鉛焼結体。
[7]上記金属元素Mの塩と、亜鉛塩、炭酸塩およびアルカリとの沈殿物生成反応によって、上記金属元素Mを含有する塩基性炭酸亜鉛を生成させ、上記塩基性炭酸亜鉛を熱処理することにより、上記[1]~[4]のいずれかに記載の酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末を得る、酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末の製造方法。
[8]上記[1]~[4]のいずれかに記載の酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末を、800℃以上の高温大気雰囲気、または、1.0×10-3MPa以下の低酸素分圧雰囲気中で焼成することにより、上記酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末が焼結した酸化亜鉛焼結体を得る、酸化亜鉛焼結体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、焼成されるときの質量減少が抑制された酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末を提供することができる。
また、本発明によれば、上記酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末を用いて得られる酸化亜鉛焼結体を提供することもできる。
また、本発明によれば、上記酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末および上記酸化亜鉛焼結体を製造する方法を提供することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[酸化亜鉛粉末]
本発明の酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末(以下、単に「本発明の酸化亜鉛粉末」ともいう)は、酸化亜鉛焼結体の作製に用いる酸化亜鉛粉末であって、金属元素Mを含有し、下記条件1または条件2を満たす。
【0010】
(条件1)
金属元素Mが、Bi、Co、Cr、Cu、In、Ni、MnおよびSbからなる群から選ばれる少なくとも1種である金属元素M1-1、または、金属元素M1-1と、AlおよびGaからなる群から選ばれる少なくとも1種である金属元素M2との組み合わせ、である。
下記式(I)で表される金属元素Mの含有量(金属元素Mの物質量の比率)が、10モルppm以上、10モル%以下である。
【0011】
(条件2)
金属元素Mが、Ba、Ce、La、Nb、PrおよびSrからなる群から選ばれる少なくとも1種である金属元素M1-2、または、金属元素M1-2と、AlおよびGaからなる群から選ばれる少なくとも1種である金属元素M2との組み合わせ、である。
下記式(I)で表される金属元素Mの含有量(金属元素Mの物質量の比率)が、10モルppm以上、2モル%以下である。
【0012】
{nM/(nZn+nM)} (I)
ただし、式(I)中、nMは酸化亜鉛粉末中の金属元素Mの物質量を表し、nZnは酸化亜鉛粉末中のZnの物質量を表し、nZnおよびnMの単位はいずれもモルである。
【0013】
金属元素M1-1は、Znに対する原子半径またはイオン半径の差が、30%以下である。金属元素M1-2は、Znに対する原子半径またはイオン半径の差が、30%超である。
【0014】
後述するように、本発明の酸化亜鉛粉末を焼成することにより、酸化亜鉛焼結体が得られる。
このとき、本発明の酸化亜鉛粉末は、800℃以上の高温大気雰囲気、または、1.0×10-3MPa以下の低酸素分圧雰囲気(以下、便宜的に「特定雰囲気」ともいう)中で焼成される場合がある。
本発明の酸化亜鉛粉末は、上述した条件1または条件2を満たすことにより、特定雰囲気中で焼成される場合であっても、質量減少が抑制される。
これは、適量の金属元素Mが、亜鉛と酸素との結合強度の向上に寄与するためと推測されるが、これ以外の理由であっても、本発明の範囲内であるとする。
【0015】
高温大気雰囲気における温度は、800℃以上であり、1000℃以上であってもよく、1200℃以上であってもよい。上限は特に限定されないが、例えば、2000℃以下であり、1800℃以下であってもよい。
【0016】
低酸素分圧雰囲気における酸素分圧は、1.0×10-3MPa以下であり、1.0×10-4MPa以下であってもよく、1.0×10-5MPa以下であってもよく、1.0×10-8MPa以下であってもよく、1.0×10-9MPa以下であってもよい。下限は特に限定されないが、例えば、1.0×10-13MPa以上であり、1.0×10-12MPa以上であってもよい。
【0017】
質量減少をより抑制できるという理由から、金属元素Mの含有量は、20モルppm以上が好ましく、50モルppm以上がより好ましく、100モルppm以上が更に好ましく、200モルppm以上が特に好ましい。
【0018】
上述した条件1を満たす場合、質量減少をより抑制できるという理由から、金属元素Mの含有量は、8モル%以下が好ましく、6モル%以下がより好ましく、4モル%以下が更に好ましく、2モル%以下が特に好ましい。
【0019】
同様に、上述した条件2を満たす場合、質量減少をより抑制できるという理由から、金属元素Mの含有量は、1.5モル%以下が好ましく、1モル%以下がより好ましく、0.5モル%以下が更に好ましく、0.2モル%以下が特に好ましい。
【0020】
金属元素Mとして金属元素M2を更に含有することにより、導電性が優れる。これは、AlおよびGaがキャリアとして作用するためと推測される。
【0021】
導電性がより優れるという理由から、金属元素M2の含有量は、10モルppm以上が好ましく、50モルppm以上がより好ましく、100モルppm以上が更に好ましく、150モルppm以上が特に好ましい。
異相の析出が抑制され導電性がより優れるという理由から、金属元素M2の含有量は、2000モルppm以下が好ましく、1200モルppm以下がより好ましく、800モルppm以下が更に好ましく、300モルppm以下が特に好ましい。
【0022】
本発明の酸化亜鉛粉末は、X線回折によって求められる結晶子サイズ(以下、単に「結晶子サイズ」ともいう)が20~300nmであり、BET法によって求められる粒子径(以下、「BET径」ともいう)が20~350nmであり、軽装かさ密度(以下、単に「かさ密度」ともいう)が0.20g/cm3以上であり、タップ密度が0.60g/cm3以上であることが好ましい。
【0023】
軽装かさ密度は、JIS R 9301-2-3で定められた方法を用いて求める。すなわち、静置した容積100mLの容器中に、酸化亜鉛粉末を自由に落下させて集めた酸化亜鉛粉末の質量を求める。この質量を容器の体積で割った値を、軽装かさ密度とする。
【0024】
タップ密度は、次のように求める。まず、上記と同じ容器内に酸化亜鉛粉末を入れ、タッピング装置を用い、酸化亜鉛粉末の体積がそれ以上減少しないところまでタップする。酸化亜鉛粉末の質量を、タップ後の酸化亜鉛粉末の体積で除し、得られる値をタップ密度とする。
【0025】
〈変動係数C.V.値〉
本発明の酸化亜鉛粉末において、金属元素MのEPMAマッピング測定から求める変動係数C.V.値は、30%以下が好ましく、25%以下がより好ましい。変動係数C.V.値がこの範囲であれば、酸化亜鉛粉末中において、金属元素Mが均一に分散しており、質量減少をより抑制できる。
【0026】
変動係数C.V.値は、次のように求める。
まず、酸化亜鉛粉末の試料を加圧成形して、直径10mmのペレットを作製する。
作製したペレットにPt-Pd蒸着を施してから、金属元素Mについて、EPMA(電子線マイクロアナライザ)マッピング測定を行なう。
測定条件は、加速電圧が15kV、ビーム電流が200nA、ビーム径が2μmφ、ステップサイズが2μm、測定点数が150×330点、分析領域が300μm×660μm、積算時間が50ミリ秒である。
EPMAによる金属元素Mマッピングの全測定点について、平均強度および標準偏差を求める。標準偏差を平均強度で割って百分率で表したものを、変動係数C.V.値(単位:%)とする。
【0027】
〈積算強度比率〉
本発明の酸化亜鉛粉末において、金属元素MのEPMAマッピング測定から求める積算強度比率は、0.1%以下が好ましく、0.05%以下がより好ましい。積算強度比率がこの範囲であれば、酸化亜鉛粉末中において、金属元素Mが均一に分散しており、質量減少をより抑制できる。
【0028】
積算強度比率は、次のように求める。
まず、変動係数C.V.値を求める場合と同様にして、金属元素Mについて、EPMAマッピング測定を行なう。
EPMAによる金属元素Mマッピングの各測定点における強度を用いて、横軸が各測定点の強度、縦軸が頻度を表すヒストグラムを作成する。最頻値の強度に、その最頻値の強度の平方根の10倍値を加算した値を閾値とする。この閾値以上の領域の全体強度(全域積算)に対する積算強度比率(単位:%)を算出する。
【0029】
〈酸化亜鉛粉末の製造方法〉
本発明の酸化亜鉛粉末を製造する方法としては、金属元素Mの塩と、亜鉛塩、炭酸塩およびアルカリとの沈殿物生成反応によって、金属元素Mを含有する塩基性炭酸亜鉛を生成させ、生成した塩基性炭酸亜鉛を熱処理することにより、本発明の酸化亜鉛粉末を得る方法(以下、便宜的に「本発明の粉末製造方法」ともいう)が好ましい。
【0030】
本発明の粉末製造方法により得られる酸化亜鉛粉末は、固相法(酸化亜鉛粉末に金属元素Mの酸化物粉末を添加し、混合する方法)などの他の方法によって得られた酸化亜鉛粉末と比較して、金属元素Mの含有量が同じであれば、亜鉛の蒸発が少なく、特定雰囲気中で焼成されるときの質量減少が抑制される。
【0031】
本発明の粉末製造方法により上記効果が得られる理由としては、例えば、金属元素Mを含有する塩基性炭酸亜鉛(前駆体)を経由することにより、得られる酸化亜鉛粉末において、金属元素Mが、分子レベルで均一に存在し、亜鉛と酸素との結合強度の向上に寄与する等の理由が考えられる。
【0032】
本発明の粉末製造方法において、金属元素Mの塩、亜鉛塩、炭酸塩およびアルカリは、いずれも、水溶液の態様で用いられることが好ましい。
【0033】
沈殿物生成反応は、具体的には、例えば、亜鉛塩の水溶液および金属元素Mの塩の水溶液(好ましくは、亜鉛塩および金属元素Mの塩の混合水溶液)を、炭酸塩の水溶液に滴下して行なうことが好ましい。この滴下中、炭酸塩の水溶液に、アルカリの水溶液を送液して、炭酸塩の水溶液のpHを一定値に保つことが好ましい。
一定値に保たれるpHは、6.0以上が好ましく、7.0以上がより好ましい。一方、10.0以下が好ましく、9.0以下がより好ましく、8.0以下が更に好ましい。
【0034】
沈殿物生成反応によって、塩基性炭酸亜鉛は、沈殿物の形態で得られる。沈殿物は、撹拌養生することが好ましい。
撹拌養生の時間は、1時間以上が好ましく、5時間以上がより好ましく、10時間以上が更に好ましく、15時間以上が特に好ましい。撹拌養生の時間が長い場合、撹拌養生の時間が短い場合と比較して、金属元素Mの含有量が同じであれば、得られる酸化亜鉛粉末の軽装かさ密度およびタップ密度が高くなる。また、得られる酸化亜鉛粉末を用いることにより、成形体および焼結体の密度が高くなる。
撹拌養生の時間が短い場合、一次粒子どうしが、層状水酸化物の特徴的な形状であるフレーク状に連結しやすいと考えられる。これに対し、撹拌養生の時間が長くなることにより、一次粒子どうしが、撹拌によって衝突を繰り返してフレーク形状が消失し、顆粒状になりやすいと考えられる。
なお、撹拌養生の時間は、溶液の濃度や攪拌力によるが、上限は、特に限定されず、例えば、32時間以下であり、24時間以下が好ましい。
【0035】
沈殿物生成反応および攪拌養生において、炭酸塩の水溶液の温度は、45℃未満に保持することが好ましく、25℃以下に保持することがより好ましい。
【0036】
金属元素Mの塩としては、水溶性が良好な塩が好適に挙げられ、例えば、金属元素Mの硝酸塩、金属元素Mの塩化物、金属元素Mの硫酸塩、これらの水和物などが好ましい。
亜鉛塩としては、水溶性が良好な塩が好適に挙げられ、例えば、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、これらの水和物などが好ましい。
アルカリとしては、特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが好適に挙げられる。水溶液の態様である場合、アンモニウム水であってもよい。
炭酸塩としては、例えば、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム(重曹)などが挙げられる。
【0037】
得られる本発明の酸化亜鉛粉末が上述した条件1を満たす場合、沈殿物生成反応によって生成する塩基性炭酸亜鉛は、下記式(1)で表される塩基性炭酸亜鉛を含有することが好ましい。
(Zn1-xMx)4~6(CO3)1~3(OH)6~7・nH2O (1)
ただし、式(1)中、xは、1×10-5~0.1の数を表し、nは、0~2の数を表す。
【0038】
得られる本発明の酸化亜鉛粉末が上述した条件2を満たす場合、沈殿物生成反応によって生成する塩基性炭酸亜鉛は、下記式(2)で表される塩基性炭酸亜鉛を含有することが好ましい。
(Zn1-xMx)4~6(CO3)1~3(OH)6~7・nH2O (2)
ただし、式(2)中、xは、1×10-5~0.02の数を表し、nは、0~2の数を表す。
【0039】
上記式(1)または(2)で表される塩基性炭酸亜鉛は、ハイドロジンカイト(Zn5(CO3)2(OH)6・2H2O)の亜鉛の一部を金属元素Mで置き換え、分子サイズで均一に金属元素Mを含有する塩基性炭酸亜鉛であると言える。このような塩基性炭酸亜鉛も、以下では、便宜的に、ハイドロジンカイトと呼ぶ場合がある。ただし、金属元素Mを過剰に含有する場合は、ハイドロジンカイトとは異なる複水酸化物となる場合もある。
沈殿物生成反応によって生成する塩基性炭酸亜鉛は、このようなハイドロジンカイトを主成分とすることが好ましい。主成分とは、構成物質中最も多い成分をいい、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上の成分をいう。
【0040】
沈殿物生成反応により得られた塩基性炭酸亜鉛は、熱処理されることにより、脱炭酸、脱水され、酸化亜鉛粉末が得られる。
熱処理の温度が低すぎると、酸化亜鉛焼結体を得る際の焼成時の脱炭酸、脱水が多くなり、焼結が阻害される場合がある。
熱処理の温度が高くなることにより、一次粒子のネッキングによって緻密な二次粒子が形成され、高い軽装かさ密度およびタップ密度が得られる。
一方、熱処理の温度が高すぎると、一次粒子が結合した連結粒が増えるおそれがある。大きな連結粒は、粒成長が早く、より大きな焼結粒子となることは、オストワルド成長として知られた現象であり、焼結体の粒子サイズが不均一になり得る。
このような観点から、熱処理の温度は、250℃以上が好ましく、320℃以上がより好ましい。一方、熱処理の温度は、700℃以下が好ましく、600℃以下がより好ましい。
【0041】
[酸化亜鉛焼結体]
本発明の酸化亜鉛焼結体は、上述した本発明の酸化亜鉛粉末が焼結した、酸化亜鉛焼結体である。このため、本発明の酸化亜鉛焼結体は、金属元素Mを含有する。
本発明の酸化亜鉛焼結体は、金属元素Mを含有する固溶体であることが好ましい。
もっとも、金属元素Mは、その含有量および/または焼成温度によっては、酸化物などの化合物を形成し、副相として酸化亜鉛の粒界に存在することもある。
【0042】
本発明の酸化亜鉛焼結体は、本発明の酸化亜鉛粉末を焼成(とりわけ、上述した特定雰囲気中で焼成)することにより得られる。
具体的には、例えば、本発明の酸化亜鉛粉末を、そのまま、または、ビーズミルによる解砕、もしくは、スプレードライヤーによる造粒などを行なった後、成形し、得られた成形体を、特定雰囲気中で焼成する。こうして、本発明の酸化亜鉛焼結体が得られる。
【0043】
本発明の酸化亜鉛焼結体は、セラミックスからなる部材として用いられる。
具体的には、例えば、本発明の酸化亜鉛焼結体は、スパッタターゲット、バリスタなどの組成の均一さが要求される部材;繰り返しの熱履歴を受ける厚膜ガスセンサなどのガスセンサ;大腸菌などの増殖を防止する抗菌性フィルタなどのフィルタ;繰り返し加熱される高温炉のセラミック構造物;等として好適に使用できる。
【実施例】
【0044】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0045】
[実施例1~実施例6および比較例1]
〈塩基性炭酸亜鉛の調製〉
亜鉛塩として硝酸亜鉛6水和物(キシダ化学社製)、金属元素Mの塩として金属元素Mの硝酸塩または塩化物(いずれもキシダ化学社製)、炭酸塩として炭酸アンモニウム(キシダ化学社製)、および、アルカリとして7.4モル/Lアンモニア水(キシダ化学社製)を用いた。
【0046】
硝酸塩または塩化物に含まれる金属元素Mは、金属元素M1-1(Bi、Co、Cr、Cu、In、Ni、MnまたはSb)、または、金属元素M1-2(Ba、Ce、La、Nb、PrまたはSr)とした。
より詳細には、金属元素M1-1の塩(硝酸塩または塩化物)として、硝酸ビスマス(III)5水和物、硝酸コバルト(II)6水和物、硝酸クロム(III)9水和物、硝酸銅(II)3水和物、硝酸インジウム(III)3水和物、硝酸ニッケル(II)6水和物、硝酸マンガン(II)6水和物、または、塩化アンチモン(III)を用いた。
また、金属元素M1-2の塩(硝酸塩または塩化物)として、硝酸バリウム、硝酸セリウム(III)6水和物、硝酸ランタン6水和物、塩化ニオブ(V)、硝酸プラセオジム(III)6水和物、または、硝酸ストロンチウムを用いた。
【0047】
純水1Lに、硝酸亜鉛および金属元素Mの塩の合計量が1.0モルとなるように秤量したものを溶解させて、硝酸亜鉛および金属元素Mの塩の混合水溶液を調製した。
実施例1~実施例6では、金属元素Mの含有量が下記表1に示す値となるように、硝酸亜鉛と金属元素Mの塩とのモル比(仕込み量)を調整した。
比較例1は、金属元素Mの塩を添加しないブランク材とした。
【0048】
2Lのビーカーに、0.8Mの炭酸アンモニウム水溶液0.5Lを準備した。
炭酸アンモニウム水溶液にはpHコントロール用pH電極を装入した。硝酸亜鉛および金属元素Mの塩の混合水溶液を、1L/hの速度で、700rpmに回転速度を設定した回転子によって攪拌されている炭酸アンモニウム水溶液に滴下した。
【0049】
酸性である硝酸亜鉛および金属元素Mの塩の混合水溶液の滴下によって炭酸アンモニウム水溶液のpHが低下することを防ぐため、pHコントローラー(東興化学研究所社製TDP-51)によってon/off制御する送液ポンプによって、7.4モル/Lアンモニア水を炭酸アンモニウム水溶液に滴下した。これにより、炭酸アンモニウム水溶液のpHを、硝酸亜鉛および金属元素Mの塩の混合水溶液の滴下中、7.5の一定値に保った。こうして、沈殿物生成反応による沈殿物を生成させた。
沈殿物生成反応による沈殿物の生成が終了した後、沈殿物に対して、沈殿物生成反応中と同じ700rpmに回転速度を設定した回転子を用いて20時間の攪拌養生を行ない、金属元素Mを含有する塩基性炭酸亜鉛のスラリーを得た。
沈殿物生成反応および攪拌養生の間、冷却装置を用いて、炭酸アンモニウム水溶液の温度は常に30℃未満となるようした。
【0050】
撹拌養生後のスラリーは、吸引ろ過法にて固液分離し、固形分を得た。得られた固形分については、不用なアンモニア、硝酸、ナトリウムなどを除去するため、洗浄した。具体的には、固形分を適量の純水を用いて再びスラリー化した後、得られたスラリーを吸引ろ過法にて固液分離した。この洗浄の作業は4回繰り返した。
洗浄後の固形分について、真空乾燥機を用いて、40℃、20時間の真空乾燥を行なった。こうして、酸化亜鉛粉末の前駆体である、金属元素Mを含有する塩基性炭酸亜鉛の乾燥粉を得た。
【0051】
得られた塩基性炭酸亜鉛について、X線回折装置(ブルッカー社製 D8ADVANCE)を用いて、X線回折した。これにより、結晶相を同定した。
また、TG-DTA装置(日立ハイテクノロジーズ社製 TG/DTA6300)による熱減量の測定、分析装置(LECO社製 CS844)を用いた燃焼法によるカーボン分析、ならびに、ICP発光分析装置(島津製作所社製ICP-9000)によるZnおよび金属元素Mの分析を行なった。
X線回折、および、成分分析の結果から、比較例1および実施例1~実施例6において、ハイドロジンカイトを主成分とする塩基性炭酸亜鉛が得られたことが分かった。
また、ろ液の分析をしたところ、沈殿物の歩留まりは90質量%以上であった。
【0052】
〈熱処理:酸化亜鉛粉末の製造〉
得られた塩基性炭酸亜鉛をアルミナるつぼに入れ、420℃、大気雰囲気中で、脱炭酸および脱水のための熱処理を行なった。昇温速度は5℃/min、420℃での保持時間は6時間、冷却は自然冷却とした。こうして、酸化亜鉛粉末を得た。
【0053】
得られた酸化亜鉛粉末について、ICP発光分析装置(島津製作所社製ICP-9000)によるZnおよび金属元素Mの分析を行なった。その結果、金属元素Mの含有量として下記表1に示す値が得られたことが確認できた。
【0054】
〈成形体の作製〉
得られた酸化亜鉛粉末を、0.6mmの篩いを通して、簡単に解砕した。解砕した酸化亜鉛粉末を2g秤量して、60MPaの圧力でプレス成形し、φ20mm×2mmの円板状の成形体を作製した。
【0055】
〈焼成:焼結体の作製〉
作製した円板状の成形体を、大気雰囲気中で焼成した。焼成温度(最高温度)は、1300℃とした。焼成温度での保持時間は6時間、昇温速度は5℃/分、冷却は炉内放置とした。こうして、円板状の焼結体を得た。
【0056】
〈評価〉
各例の成形体(酸化亜鉛粉末)および焼結体を用いて、以下の評価を行なった。結果を下記表1~表2に示す。
【0057】
《質量減少抑制率A》
各例の成形体および焼結体の質量を、電子天秤を用いて、小数点以下4桁まで測定し、下記式(II)に基づいて、質量減少率ΔW(単位:%)を求めた。
△W={(成形体の質量-焼結体の質量)/成形体の質量}×100 (II)
次いで、金属元素Mを添加しなかった比較例1の質量減少率ΔW(単位:%)を「ΔW0」、金属元素Mを添加した各例の質量減少率ΔW(単位:%)を「ΔWM」としたとき、下記式(III)に基づいて、各例の質量減少抑制率A(単位:%)を求めた。
A={(△W0-△WM)/△W0}×100 (III)
質量減少抑制率Aの値が大きいほど、酸化亜鉛粉末(成形体)を焼成するときの質量減少を抑制する効果に優れると評価できる。具体的には、質量減少抑制率Aは、0%より大きければ質量減少を抑制する効果があるものとし、5%以上が好ましく、20%以上がより好ましく、60%以上が更に好ましい。
【0058】
《体積抵抗率》
各例の焼結体の体積抵抗率(単位:Ω・cm)を、抵抗率計(三菱ケミカル社製ロレスタA-GX)を用いて、4探針法により測定した。体積抵抗率の値が低いほど、導電性に優れると評価できる。
【0059】
【0060】
【0061】
〈評価結果まとめ〉
上記表1に示すように、実施例1~実施例6の酸化亜鉛粉末は、質量減少抑制率Aの値が大きく、質量減少を抑制する効果に優れることが分かった。
【0062】
実施例1~実施例3においては、金属元素Mの含有量が10モルppmである実施例1と比較して、同含有量が20モルppmである実施例2の方がより効果に優れ、同含有量が200モルppmである実施例3の方が更に効果に優れていた。
金属元素Mとして金属元素M1-1を含有する場合、金属元素Mの含有量が10モル%である実施例6と比較して、同含有量が2モル%である実施例5の方がより効果に優れる傾向が見られた。
金属元素Mとして金属元素M1-2を含有する場合、金属元素Mの含有量が2モル%である実施例5と比較して、同含有量が0.2モル%である実施例4の方がより効果に優れる傾向が見られた。
【0063】
また、上記表2に示すように、一部の実施例では体積抵抗率の低下が見られたが、多く実施例では、金属元素Mの含有量が増加するに従い体積抵抗率が増加する傾向が見られた。この傾向は、金属元素Mとして金属元素M1-2を含有する場合に顕著であった。
【0064】
[実施例7および実施例8]
金属元素Mの塩として、更に、硝酸アルミニウム9水和物(キシダ化学社製)または硝酸ガリウム8水和物(キシダ化学社製)を用いて、硝酸亜鉛との混合水溶液を調製し、これを、炭酸アンモニウム水溶液に滴下した。
それ以外は、実施例4と同様にして、塩基性炭酸亜鉛の乾燥粉を得た。
実施例7および実施例8では、金属元素M1-1または金属元素M1-2の含有量を1800モルppm(0.18モル%)、金属元素M2(AlまたはGa)の含有量を200モルppmとした。
X線回折、および、成分分析の結果から、実施例7および実施例8においては、ハイドロジンカイトを主成分とする塩基性炭酸亜鉛が得られたことが分かった。
【0065】
得られた塩基性炭酸亜鉛について、実施例4と同様にして、420℃、大気雰囲気中で、熱処理を行ない、酸化亜鉛粉末を得た。得られた酸化亜鉛粉末は、X線回折により、酸化亜鉛の単相と認められた。
更に、得られた酸化亜鉛粉末について、実施例4と同様にして、成形体の作製、焼結体の作製(1300℃、大気雰囲気中での焼成)、および、評価を行なった。結果を下記表3~表4に示す。
【0066】
【0067】
【0068】
上記表3に示すように、実施例7および実施例8の質量減少抑制率Aは、実施例4とほぼ同等であった。
一方、上記表4に示すように、実施例7および実施例8は、実施例4よりも体積抵抗率の値が低下し、導電性が良好になる傾向が見られた。これは、AlおよびGaが導電キャリアとして作用したためと推測される。
【0069】
[実施例9および実施例10]
〈実施例9〉
500mLのポリ容器に、JIS2級相当の酸化亜鉛の粉末100gと、酸化コバルト(II、III)の粉末とを入れた。酸化コバルトの量は、得られる酸化亜鉛粉末において、金属元素MであるCoが200ppmとなる量とした。純水250gと、φ5mmのジルコニアボール250gとを加え、回転数100rpmで、ボールミル混合を24時間行なった。混合後、ジルコニアボールを分離した。得られた混合物を、乾燥してから、目開き300μmの篩を用いて分級し、粉末を得た。これを実施例9の酸化亜鉛粉末とした。
【0070】
〈実施例10〉
酸化コバルトの量を、金属元素MであるCoが2000ppmとなる量にした以外は、実施例9と同様にして、実施例10の酸化亜鉛粉末を得た。
【0071】
〈変動係数C.V.値および積算強度比率〉
実施例9および実施例10の酸化亜鉛粉末について、上述した方法に従って、それぞれ、変動係数C.V.値および積算強度比率を求めた。結果を下記表5に示す。
併せて、実施例3および実施例4の酸化亜鉛粉末(ただし、金属元素MはCo)についても、同様にして、変動係数C.V.値および積算強度比率を求めた。結果を下記表5に示す。
【0072】
〈質量減少抑制率A〉
JIS2級酸化亜鉛の質量減少率ΔW(単位:%)を「ΔWJIS」、各例の質量減少率ΔW(単位:%)を「ΔWM」としたとき、下記式(IV)に基づいて、実施例9および実施例10の質量減少抑制率A(単位:%)を求めた。結果を下記表5に示す。
A={(△WJIS-△WM)/△WJIS}×100 (IV)
質量減少率ΔWの求め方などは、上述した方法と同じである。
実施例3および実施例4の酸化亜鉛粉末(ただし、金属元素MはCo)の質量減少抑制率A(単位:%)についても、併せて、下記表5に示す。
【0073】
【0074】
〈評価結果まとめ〉
上記表に示すように、実施例3および実施例4の酸化亜鉛粉末は、変動係数C.V.値が30%以下であり、かつ、積算強度比率が0.1%以下であった。
一方、実施例9および実施例10の酸化亜鉛粉末は、変動係数C.V.値が30%超であり、かつ、積算強度比率が0.1%超であった。
実施例3および実施例4の酸化亜鉛粉末は、実施例9および実施例10の酸化亜鉛粉末と比較して、質量減少抑制率Aの値が大きく、質量減少を抑制する効果に優れることが分かった。