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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】炭素粉末用分散剤及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C09K 23/52 20220101AFI20241021BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20241021BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20241021BHJP
   C08L 39/00 20060101ALI20241021BHJP
   H01M 4/62 20060101ALN20241021BHJP
【FI】
C09K23/52
C01B32/05
C08K3/04
C08L39/00
H01M4/62 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021022599
(22)【出願日】2021-02-16
(65)【公開番号】P2022124769
(43)【公開日】2022-08-26
【審査請求日】2023-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 晃司
(72)【発明者】
【氏名】瀧下 俊平
(72)【発明者】
【氏名】照内 洋子
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-241668(JP,A)
【文献】特開2019-119815(JP,A)
【文献】特開2014-159345(JP,A)
【文献】特開2016-037531(JP,A)
【文献】特開2003-276314(JP,A)
【文献】特開2021-088643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K23/52
C01B32/05
C08L 1/00-101/14
H01M 4/62
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアリルアミン(共)重合体(α)を含有する、炭素粉末用分散剤であって、
ジアリルアミン(共)重合体(α)が、
下記の構造式(Ia)、若しくは(Ib)で示される構造、又はその無機酸塩、若しくは有機酸塩である構造、又は下記の構造式(IIa)、若しくは(IIb)で示される構造、を有するジアリルアミン系構成単位(ア)少なくとも1種
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

(但し、上記式(Ia)、及び(Ib)中、R は、水素原子、炭素数1から10のアルキル基、炭素数5から10のシクロアルキル基、又は炭素数7から10のアラルキル基であり、上記式(IIa)、及び(IIb)中、R 及びR は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1から10のアルキル基、炭素数5から10のシクロアルキル基、又は炭素数7から10のアラルキル基であり、X はカウンターイオンである。)、並びに
アニオン性構成単位(イ)及び/又はノニオン性構成単位(ウ)少なくとも1種
を有する、
上記炭素粉末用分散剤
【請求項2】
水系溶媒中の炭素粉末に対して用いられる、請求項1に記載の炭素粉末用分散剤。
【請求項3】
ジアリルアミン(共)重合体(α)が、上記の構造式(Ia)、若しくは(Ib)で示される構造の塩酸塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩、若しくはアルキルサルフェート塩である構造、及び/又は、上記の構造式(IIa)、若しくは(IIb)で示される構造であってカウンターイオンXが塩素イオン、カルボン酸イオン、スルホン酸イオン、若しくはアルキルサルフェートイオンである構造、を有する請求項1又は2に記載の炭素粉末用分散剤。
【請求項4】
請求項1からのいずれか一項に記載の炭素粉末用分散剤、炭素粉末、及び水系溶媒を含有する、炭素粉末分散体。
【請求項5】
前記炭素粉末の凝集物の平均分散粒子径が50~1000nmである、請求項に記載の炭素粉末分散体。
【請求項6】
前記炭素粉末が、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、天然黒鉛、人造黒鉛、非晶質炭素、ハードカーボン、ソフトカーボン、活性炭、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノコイル、カーボンナノホーン、及びフラーレンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項又はに記載の炭素粉末分散体。
【請求項7】
電子材料、印刷材料、導電性電子材料、又は誘電性電子材料、に用いられる、請求項からのいずれか一項に記載の炭素粉末分散体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素粉末用分散剤及びその用途に関し、より具体的には、水系溶媒等に炭素粉末を分散させる性能に優れるとともに、生産性やコスト等にも優れる、炭素粉末用分散剤及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素粉末はゴム製品の充填補強材用途を中心に、プラスチック、繊維、塗料などの着色顔料として用いられている。またプラスチックに練りこむことで、導電性を付与することが出来るため、ICトレーや電子部品などへの利用も図られている。
炭素粉末は一般的に一次粒子が小さく、凝集力も強いため、均一分散が難しい材料である。炭素粉末の溶媒(分散媒)としては炭素粉末の均一性に優れ、高い密着力を示し、乾燥が容易である非水系(有機溶媒系)が従来広く用いられてきたが、非水系の有機溶剤は揮発性で環境への負荷が大きいばかりでなく、安全性、作業性において課題があるため、水系への転換が求められている。
水系溶媒(分散媒)への炭素粉末の均一分散はさらに困難であり、水系溶媒(分散媒)においても炭素粉末のより均一な分散を可能とする分散剤が求められ検討されている。
例えば特許文献1においては、蓄電デバイス用樹脂等の用途を念頭に、ポリアリルアミンを分散剤としてカーボンブラックおよび黒鉛粒子を水に分散させることが記載されている。
【0003】
ポリアリルアミン等のアリルアミン系重合体の製造にあたっては、製造コスト等の観点からは、HCl等の付加塩を有する付加塩型のアリルアミンモノマーを用いることが好ましい。しかしながら、炭素粉末用の分散剤や固着剤に付加塩型のアリルアミン系ポリマーを用いると、分散性能等が低下する場合があった。重合体からHCl等の付加塩を除去するプロセスは煩雑であり、コスト増大の原因ともなることから、その様なプロセスを要さずして製造可能であり、遊離のアリルアミン系重合体と同様の優れた分散性能を有する分散剤として使用できる重合体が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-230884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述当業界における要求及び従来技術の限界に鑑み、本発明は、水系溶媒等に炭素粉末を分散させる性能に優れるとともに、製造にあたって付加塩を除去するプロセスを必要とせず、生産性やコスト等にも優れる、炭素粉末用分散剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討の結果、ジアリルアミン(共)重合体を炭素粉末用分散剤に使用したとき、当該(共)重合体がHCl等の付加塩やCl等のカウンターイオンを有する場合であっても、遊離の(共)重合体と同様の良好な分散性等を維持できるかむしろ向上することを見出し、本発明を完成するに至った
すなわち本発明は、
[1]
ジアリルアミン(共)重合体(α)を含有する、炭素粉末用分散剤、
に関する。
【0007】
以下、[2]から[9]は、いずれも本発明の好ましい一態様又は一実施形態である。
[2]
水系溶媒中の炭素粉末に対して用いられる、[1]に記載の炭素粉末用分散剤。
[3]
ジアリルアミン(共)重合体(α)が、下記の構造式(Ia)、若しくは(Ib)で示される構造、又はその無機酸塩、若しくは有機酸塩である構造、又は下記の構造式(IIa)、若しくは(IIb)で示される構造、を有するジアリルアミン系構成単位(ア)少なくとも1種
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

(但し、上記式(Ia)、及び(Ib)中、Rは、水素原子、炭素数1から10のアルキル基、炭素数5から10のシクロアルキル基、又は炭素数7から10のアラルキル基であり、上記式(IIa)、及び(IIb)中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、炭素数1から10のアルキル基、炭素数5から10のシクロアルキル基、又は炭素数7から10のアラルキル基であり、Xはカウンターイオンである。)を有する、[1]又は[2]に記載の炭素粉末用分散剤。
[4]
ジアリルアミン(共)重合体(α)が、上記の構造式(Ia)、若しくは(Ib)で示される構造の塩酸塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩、若しくはアルキルサルフェート塩である構造、及び/又は、上記の構造式(IIa)、若しくは(IIb)で示される構造であってカウンターイオンXが塩素イオン、カルボン酸イオン、スルホン酸イオン、若しくはアルキルサルフェートイオンである構造、を有する[3]に記載の炭素粉末用分散剤。
[5]
ジアリルアミン(共)重合体(α)が、更にアニオン性構成単位(イ)及び/又はノニオン性構成単位(ウ)少なくとも1種を有する、[3]又は[4]に記載の炭素粉末用分散剤。
[6]
[1]から[5]のいずれか一項に記載の炭素粉末用分散剤、炭素粉末、及び水系溶媒を含有する、炭素粉末分散体。
[7]
前記炭素粉末の凝集物の平均分散粒子径が50~1000nmである、[6]に記載の炭素粉末分散体。
[8]
前記炭素粉末が、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、天然黒鉛、人造黒鉛、非晶質炭素、ハードカーボン、ソフトカーボン、活性炭、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノコイル、カーボンナノホーン、及びフラーレンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、[6]又は[7]に記載の炭素粉末分散体。
[9]
電子材料、印刷材料、導電性電子材料、又は誘電性電子材料、に用いられる、[6]から[8]のいずれか一項に記載の炭素粉末分散体。
【発明の効果】
【0008】
本発明の炭素粉末用分散剤は、水系溶媒等に炭素粉末を分散させる性能に優れるとともに、製造にあたって付加塩等を除去するプロセスを必要とせず、生産性やコスト等にも優れるという実用上高い価値を有する技術的効果を実現するものであり、これを用いた炭素粉末分散体は性能及びコストに優れ、電子材料、印刷材料、導電性電子材料、誘電性電子材料等の用途において好適に使用される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ジアリルアミン(共)重合体(α)
本発明の炭素粉末用分散剤は、ジアリルアミン(共)重合体(α)を含有する。
ジアリルアミン(共)重合体(α)は、重合体であって、ジアリルアミン構造を有する単量体から導かれる構成単位を有する(共)重合体である。ここで「(共)重合体」とは、単独重合体及び共重合体の双方を包含する趣旨であり、したがってジアリルアミン(共)重合体(α)は、ジアリルアミン構造を有する単量体の単独重合体であってもよく、ジアリルアミン構造を有する単量体、及びジアリルアミン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体の共重合体であってもよい。
ジアリルアミン(共)重合体(α)の分子量には特に制限はなく、炭素粉末用分散剤としての使用形態等に応じて適宜設定すればよいが、例えば重量平均分子量で500~10000000であることが好ましく、1000~1000000であることがより好ましく、2000~500000特に好ましい。
【0010】
ジアリルアミン系構成単位(ア)
ジアリルアミン(共)重合体(α)の構造は、ジアリルアミン構造を有する単量体から導かれる構成単位を有する限りにおいて特に限定されないが、下記の構造式(Ia)、若しくは(Ib)で示される構造、又はその無機酸塩、若しくは有機酸塩である構造、又は下記の構造式(IIa)、若しくは(IIb)で示される構造、を有するジアリルアミン系構成単位(ア)少なくとも1種を有することが好ましい。
【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

上記式(Ia)、及び(Ib)中、Rは、水素原子、炭素数1から10のアルキル基、炭素数5から10のシクロアルキル基、又は炭素数7から10のアラルキル基であり、上記式(IIa)、及び(IIb)中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、炭素数1から10のアルキル基、炭素数5から10のシクロアルキル基、又は炭素数7から10のアラルキル基であり、Xはカウンターイオンである。
【0011】
上記式(Ia)、及び(Ib)中、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、又はベンジル基であることが好ましく、水素原子、又はメチル基であることが特に好ましい。
上記式(IIa)、及び(IIb)中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、又はベンジル基であることが好ましく、水素原子、又はメチル基であることが特に好ましい。
【0012】
ジアリルアミン(共)重合体(α)は、ジアリルアミン系構成単位(ア)として、上記の構造式(Ia)、又は(Ib)で示される構造の構成単位、すなわち遊離の構造の構成単位、を有していてもよいが、上記の構造式(Ia)、又は(Ib)で示される構造の無機酸塩、若しくは有機酸塩である構造、すなわち付加塩を有する構造、又は上記の構造式(IIa)、若しくは(IIb)で示される構造、すなわちカウンターイオンを有する構造、の構成単位を有することが好ましい。
ジアリルアミン(共)重合体(α)の製造にあたっては、製造コスト等の観点からは、付加塩やカウンターイオンを有するジアリルアミンモノマーを用いることが好ましい。重合体からHCl等の付加塩やカウンターイオンを除去するプロセスは煩雑であり、コスト増大の原因ともなることから、その様なプロセスを要さずして製造可能である、付加塩型やカウンターイオン型のジアリルアミン(共)重合体(α)を用いることは、特に好ましい実施形態である。
入手の容易さや反応の制御性等の観点から、上記の構造式(Ia)、又は(Ib)で示される構造の無機酸塩、又は有機酸塩は、塩酸塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩、又はアルキルサルフェート塩であることが好ましく、塩酸塩であることが特に好ましい。
【0013】
ジアリルアミン(共)重合体(α)がジアリルアミン系構成単位(ア)として上記の構造式(IIa)、若しくは(IIb)で示される構造を有する場合の、カウンターイオンXには特に限定はないが、入手の容易さや反応の制御性等の観点から、塩素イオン、カルボン酸イオン、スルホン酸イオン、又はアルキルサルフェートイオンであることが好ましく、塩素イオン、又はエチルサルフェートイオンであることが特に好ましい。
【0014】
ジアリルアミン(共)重合体(α)においては、1種類のみのジアリルアミン系構成単位(ア)を単独で用いてもよいし、複数種類の互いに異なる構造のジアリルアミン系構成単位(ア)を組み合わせて用いてもよい。
複数種類の互いに異なるジアリルアミン系構成単位(ア)を用いる場合、それぞれのジアリルアミン系構成単位は、同一の一般構造式(Ia)、(Ib)、(IIa)、又は(IIb)で表される範囲内において互いに異なる構造を有していてもよいし、異なる一般構造式で表される互いに異なる構造を有していてもよい。前者の場合、例えば、一般構造式(Ia)で表されるが、Rの構造が互いに異なることによって構造が互いに異なる、複数種類のジアリルアミン系構成単位(ア)を用いてもよい。後者の場合、例えば、構造式(Ia)で表される構造を有する1のジアリルアミン系構成単位(ア)と、構造式(IIa)で表される構造を有する他のジアリルアミン系構成単位(ア)とを用いてもよい。
ジアリルアミン(共)重合体(α)におけるジアリルアミン系構成単位(ア)の含有量には特に制限はないが、ジアリルアミン(共)重合体(α)の全構成単位の1モル%以上を占めることが好ましく10~100モル%を占めることがより好ましい。
【0015】
それ以外の構成単位
本発明において用いられるジアリルアミン(共)重合体(α)は、ジアリルアミン系構成単位(ア)等のジアリルアミン構造を有する単量体から導かれる構成単位以外の構成単位を有していてもよい。
ジアリルアミン構造を有する単量体から導かれる構成単位以外の構成単位には特に限定はないが、アニオン性物質との混和性、親水性、保存安定性等の観点から、アニオン性構成単位(イ)や、ノニオン性構成単位(ウ)であることが好ましい。
【0016】
アニオン性構成単位(イ)
本実施形態においては、アニオン性構成単位(イ)を有することで、ジアリルアミン(共)重合体(α)がいわゆる両性高分子となり、アニオン性物質との混和性、親水性、保存安定性等の有利な効果を実現することができる。
本発明実施形態におけるアニオン性構成単位(イ)は、下記の構造式(III)、(IV)、又は(V)で示される構造を有することが好ましい。
【化9】

【化10】

【化11】

但し上記式(III)中、Rは、水素又はメチル基であり、(III)、(IV)、及び(V)中、Yは、結合するカルボキシ基ごとにそれぞれ独立に水素、Na、K、NH、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、又は1/3Feである。
アニオン性構成単位(イ)は、カルボキシル基等のアニオン性基を有する限りにおいて、上記の構造式(III)、(IV)、及び(V)のいずれにも該当しない構造を有していてもよく、例えばメタクリル酸、アクリル酸等から導かれる構成単位であってもよい。
【0017】
ジアリルアミン(共)重合体(α)がアニオン性構成単位(イ)を有する場合には、1種類のみのアニオン性構成単位(イ)を単独で用いてもよいし、複数種類の互いに異なる構造のアニオン性構成単位(イ)を組み合わせて用いてもよい。
複数種類の互いに異なるアニオン性構成単位(イ)を用いる場合、それぞれのアニオン性構成単位は、同一の一般構造式(III)、(IV)、又は(V)で表される範囲内において互いに異なる構造を有していてもよいし、異なる一般構造式で表される互いに異なる構造を有していてもよい。前者の場合、例えば、一般構造式(III)で表されるが、Yの元素が互いに異なることによって構造が互いに異なる、複数種類のアニオン性構成単位(イ)を用いてもよい。後者の場合、例えば、構造式(III)で表される構造を有する1のアニオン性構成単位(イ)と、構造式(IV)で表される構造を有する他のアニオン性構成単位(イ)とを用いてもよい。
【0018】
アニオン性構成単位(イ)の少なくとも一部は、マレイン酸から導かれるものであることが好ましく、このとき当該アニオン性構成単位(イ)は、上記式(IV)で表される構造を有することとなり、Yはいずれも水素となる。
ジアリルアミン(共)重合体(α)がアニオン性構成単位(イ)を有する場合のアニオン性構成単位(イ)の含有量には特に制限はないが、アニオン性構成単位(イ)が不飽和ジカルボン酸から導かれる場合には、ジアリルアミン系構成単位(ア)等のジアリルアミン構造を有する単量体から導かれる構成単位とのモル比が、ジアリルアミン構造を有する単量体から導かれる構成単位/アニオン性構成単位(イ)=1/0.1~1/1であることが好ましく、1/0.2~1/1であることが特に好ましい。
アニオン性構成単位(イ)の少なくとも一部は、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和モノカルボン酸から導かれるものであってもよい。アニオン性構成単位(イ)が不飽和モノカルボン酸から導かれる場合には、上記ジアリルアミン構造を有する単量体から導かれる構成単位/アニオン性構成単位(イ)の比率は1/100~100/1であることが好ましく、1/10~10/1であることが特に好ましい。
【0019】
ノニオン性構成単位(ウ)
本実施形態においては、ノニオン性構成単位(ウ)を有することで、ジアリルアミン(共)重合体(α)に、アニオン性物質との混和性、親水性、保存安定性等の特性を付与することができる。
本発明実施形態におけるノニオン性構成単位(ウ)は、非イオン性の単量体から導かれる構成単位であればよく、特にそれ以外の制限はないが、メタクリル酸エステル系単量体、アクリル酸エステル系単量体、メタクリルアミド系単量体、アクリルアミド系単量体、二酸化硫黄等から導かれる構成単位を、好ましく用いることができる。より具体的な例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、N-(3-ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミド、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩、アクリロイルモルフォリン、イソプロピルアクリルアミド、4-t-ブチルシクロヘキシルアクリレート、又は二酸化硫黄から導かれる構成単位を挙げることができる。
ノニオン性構成単位(ウ)は、通常、単量体として非イオン性の単量体を用いることで、高分子中に導入することができる。ジアリルアミン(共)重合体(α)がノニオン性構成単位(ウ)を有する場合の構成単位(ウ)の含有量には特に制限はなく、またノニオン性構成単位(ウ)の種類によってもその好適な量は異なるが、ジアリルアミン系構成単位(ア)等のジアリルアミン構造を有する単量体から導かれる構成単位とのモル比が、ジアリルアミン構造を有する単量体から導かれる構成単位/構成単位(ウ)=1/100~100/1であることが好ましく、1/10~10/1であることが特に好ましい。
ノニオン性構成単位(ウ)がメタクリル酸エステル系単量体、アクリル酸エステル系単量体、メタクリルアミド系単量体、又はアクリルアミド系単量体から導かれる場合には、上記比率は1/100~100/1であることが好ましく、1/10~10/1であることが特に好ましい。
ノニオン性構成単位(ウ)が二酸化硫黄から導かれる場合には、上記比率は1/0.1~1/1であることが好ましく、1/0.2~1/1であることが特に好ましい。
【0020】
ジアリルアミン(共)重合体(α)の製造方法
ジアリルアミン(共)重合体(α)の製造方法には特に制限はなく、従来当該技術分野において公知の方法で製造することができるが、例えば後述のジアリルアミン系単量体を単独重合し、又は所望により他の単量体と共重合することにより製造することができる。
【0021】
ジアリルアミン系単量体
本発明で用いるジアリルアミン(共)重合体(α)の製造においては、ジアリルアミン系構成単位(ア)を導入するために、下記の特定の構造を有するジアリルアミン系単量体を用いることができる。
ジアリルアミン系単量体は、下記の構造式(VII)で示される構造、又はその無機酸塩、若しくは有機酸塩である構造、又は下記の構造式(VIII)で示される構造、を有することが好ましい。
【化12】

【化13】

(但し、上記式(VII)中、Rは、水素原子、炭素数1から10のアルキル基、炭素数5から10のシクロアルキル基、又は炭素数7から10のアラルキル基であり、式(VIII)中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、炭素数1から10のアルキル基、炭素数5から10のシクロアルキル基、又は炭素数7から10のアラルキル基であり、Zはカウンターイオンである。)
【0022】
より具体的には、ジアリルアミン系単量体としては、ジアリルアミン、N-炭化水素基置換ジアリルアミン類、ジアリルジアルキルアンモニウム塩等のジアリルアミン類(すなわちジアリルアミン骨格を有する化合物)が例示できるが、入手の容易さや反応の制御性等の観点から、ジアリルアミン、ジアリルメチルアミン、又はその無機酸塩、若しくは有機酸塩、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジアリルメチルエチルアンモニウムエチルサルフェートが好ましい。
【0023】
上記製造方法に用いるN-炭化水素基置換ジアリルアミン類としては、N-メチルジアリルアミン、N-エチルジアリルアミン、N-ベンジルジアリルアミン等が例示できる。
ジアリルアミン系単量体としてジアリルアミンやN-炭化水素基置換ジアリルアミン類の場合、夫々のアミン類の塩酸塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩などの無機酸塩、又はアルキルサルフェート塩などの有機酸塩等を重合用の出発モノマーとして用いてもよい。
【0024】
他の単量体
ジアリルアミン(共)重合体(α)が共重合体である場合、上記のジアリルアミン系単量体を他の単量体と共重合することにより製造することができる。
ここで該共重合体がアニオン性構成単位(イ)を有するときは、アニオン性構成単位(イ)を導入するために、アニオン性単量体を用いることができる。
アニオン性単量体は、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、マレイン酸、フマル酸、メチレンマロン酸、メタクリル酸、及びアクリル酸、並びにこれらのカルボキシル基中の水素の全部又は一部が、Na、K、NH、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、及び1/3Feから選ばれる少なくとも1種で置換された化合物からなる群から選ばれる単量体であることが好ましい。
より好ましくは、アニオン系単量体としては、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸又はそれらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等を用いることができる。
製造時のジアリルアミン系単量体/アニオン性単量体のモル比には特に制限は無いが、アニオン性単量体が不飽和ジカルボン酸である場合には、1/0.1~1/1であることが好ましく、1/0.2~1/1であることが特に好ましい。
一方、アニオン性単量体がアクリル酸、メタクリル酸等の不飽和モノカルボン酸である場合には、製造時のジアリルアミン系単量体/アニオン性単量体のモル比は、1/100~100/1であることが好ましく、1/10~10/1であることが特に好ましい。
【0025】
ジアリルアミン(共)重合体(α)がノニオン性構成単位(ウ)を有する場合、ノニオン性構成単位(ウ)を導入するため、出発原料として好ましいノニオン性構成単位(ウ)に対応する非イオン性の単量体、例えばメタクリル酸エステル系単量体、アクリル酸エステル系単量体、メタクリルアミド系単量体、アクリルアミド系単量体、二酸化硫黄等を用いることができる。より具体的な例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、N-(3-ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミド、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩、アクリロイルモルフォリン、イソプロピルアクリルアミド、4-t-ブチルシクロヘキシルアクリレート、二酸化硫黄等を挙げることができる。
製造時のジアリルアミン系単量体/ノニオン性構成単位(ウ)に対応する単量体のモル比は、1/100~100/1であることが好ましく、1/10~10/1であることが特に好ましい。
ノニオン性構成単位(ウ)がメタクリル酸エステル系単量体、アクリル酸エステル系単量体、メタクリルアミド系単量体、又はアクリルアミド系単量体から導かれる場合には、上記単量体比率は1/100~100/1であることが好ましく、1/10~10/1であることが特に好ましい。
ノニオン性構成単位(ウ)が二酸化硫黄から導かれる場合には、上記単量体比率は1/0.1~1/1であることが好ましく、1/0.2~1/1であることが特に好ましい。
【0026】
なお、本発明に用いるジアリルアミン(共)重合体(α)の製造においては、本発明の効果を損なわない限り、ジアリルアミン系単量体、アニオン性単量体、及び非イオン性の単量体のいずれにも該当しない単量体、例えば、モノアリルアミン等の単量体を使用してもよい。ジアリルアミン系単量体、アニオン性単量体、及び非イオン性の単量体のいずれにも該当しない単量体は、ジアリルアミン(共)重合体(α)の製造にもちいられる全単量体に対し、例えば100モル%以下、好ましくは50モル%以下、用いることができる。
【0027】
ジアリルアミン系単量体を単独重合し、又は他の単量体と共重合する場合の溶媒は特に限定されず、水系の溶媒であっても、アルコール、エーテル、スルホキシド、アミド等の有機系の溶媒であってもよいが、水系の溶媒であることが好ましい。
ジアリルアミン系単量体を単独重合し、又は他の単量体と共重合する場合の単量体濃度は単量体の種類により、また(共)重合を行う溶媒の種類により、異なるが、水系の溶媒の場合通常10~75質量%である。この(共)重合反応は、通常、ラジカル重合反応であり、ラジカル重合触媒の存在下に行なわれる。ラジカル重合触媒の種類は特に限定されるものでなく、その好ましい例として、t-ブチルハイドロパーオキサイドなどの過酸化物、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩、アゾビス系、ジアゾ系などの水溶性アゾ化合物が挙げられる。
【0028】
ラジカル重合触媒の添加量は、一般的には全モノマーに対して0.1~20モル%、好ましくは1.0~10モル%である。重合温度は一般的には0~100℃、好ましくは5~80℃であり、重合時間は一般的には1~150時間、好ましくは5~100時間である。重合雰囲気は、大気中でも重合性に大きな問題を生じないが、窒素などの不活性ガスの雰囲気で行なうこともできる。
【0029】
炭素粉末用分散剤
本発明の炭素粉末用分散剤は、上記のジアリルアミン(共)重合体(α)を含有する。 ジアリルアミン(共)重合体(α)は、各種溶媒中、特に水系溶媒中に炭素粉末をよく分散させる性質を有し、これにより本発明の炭素粉末用分散剤が実現される。
本発明の炭素粉末用分散剤は、ジアリルアミン(共)重合体(α)のみからなっていてもよいが、本発明の目的に反しない限りにおいて、他の成分を含有していてもよい。
【0030】
例えば、本発明の炭素粉末用分散剤は、炭素粉末を分散させようとする溶媒、好ましくは水系溶媒、と同一または類似の溶媒を含んでいてもよく、その様な溶媒に上記のジアリルアミン(共)重合体(α)が溶解又は分散された形態であってもよい。本発明の炭素粉末用分散剤がこのような形態であるときのジアリルアミン(共)重合体(α)の濃度又は含有量には特に限定はないが、例えば0.01~40質量%であることが好ましく、0.1~20質量%であることがより好ましい。
本発明の炭素粉末用分散剤は、本発明の目的に反しない限りにおいて、それ以外の成分、例えばジアリルアミン(共)重合体(α)以外の分散剤成分、界面活性剤、消泡剤、分散媒体、導電性ポリマー、ジアリルアミン(共)重合体(α)以外の高分子化合物、塩基性化合物、シランカップリング剤、オルガノポリシロキサン、コロイダルシリカ、可塑剤、調整剤、流動性調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保存安定剤、接着助剤、増粘剤、導電性物質、バインダ樹脂、レべリング剤、乾燥剤、硬化剤、乳化剤、殺虫殺菌剤、顔料等を含有していてもよい。
【0031】
本発明の炭素粉末用分散剤により分散される炭素粉末は、炭素成分を含有する粉末であれば特に制限はなく、例えばカーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、天然黒鉛、人造黒鉛、非晶質炭素、ハードカーボン、ソフトカーボン、活性炭、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノコイル、カーボンナノホーン、フラーレン等の分散に好適に使用することができる。中でも、カーボンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラックの分散に特に好適に使用することができる。
【0032】
本発明の炭素粉末用分散剤により分散される炭素粉末の性状にも特に制限はないが、入手の容易さや操作性等の観点から、その平均粒径(一次粒子径)が、1~1000nmであることが好ましく、5~500nmであることがより好ましく、10~100nmであることが特に好ましい。
炭素粉末の一次粒子径は、当該技術分野において公知の方法によって測定することができ、例えば走査型電子顕微鏡によって測定することができる。
【0033】
本発明の炭素粉末用分散剤は、炭素粉末とそれ以外の粉末との混合物の分散にも好適に使用することができる。
このときの炭素粉末以外の粉末には特に制限はないが、各種無機顔料、シリカ、アルミナ、チタン酸バリウム、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、ドロマイト、焼成ドロマイト、消火ドロマイト、ハイドロタルサイト、二酸化ケイ素、ガラス粒子、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化鉄、フェライト、ストロンチウムフェライト、バリウムフェライト、カーボン粒子、カーボンナノチューブ、フラーレン、グラフェン、磁性体(例えばサマリウムコバルト、ネオジウム鉄ホウ素、プラセオジムコバルト、サマリウム鉄窒素等)、ダイヤモンド等の各種無機粒子、各種有機顔料、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリエステル、ポリスチレン、シリコーン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ABS、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホン、エポキシ樹脂等からなる各種有機粒子等を挙げることができる。
【0034】
本発明の炭素粉末用分散剤の使用量にも特に限定はないが、分散される炭素粉末100質量部に対して、ジアリルアミン(共)重合体(α)が例えば0.1~200質量部となる様な量で使用することができ、1~100質量部となる様な量で使用することが特に好ましい。
あるいは、炭素粉末が分散された分散体中に、ジアリルアミン(共)重合体(α)が0.1~40質量%存在する様な量で使用することができ、1.0~20質量部となる様な量で使用することが特に好ましい。
【0035】
炭素粉末分散体
炭素粉末用分散剤を使用することで、炭素粉末が水系溶媒に良好な分散状態で分散された炭素粉末分散体を形成することができる。
すなわち、本実施形態の炭素粉末分散体は、炭素粉末用分散剤(したがってそれに含有されるジアリルアミン(共)重合体(α))、上記炭素粉末、及び水系溶媒(分散媒であってもよい)を含有する、
本実施形態の炭素粉末分散体におけるジアリルアミン(共)重合体(α)の含有量には特に制限はないが、0.1~40質量%であることが好ましく、1.0~20質量%であることが特に好ましい。
本実施形態の炭素粉末分散体における炭素粉末の含有量にも特に制限はないが、0.01~40質量%であることが好ましく、0.1~20質量%であることが特に好ましい。
【0036】
本実施形態の炭素粉末分散体を構成する水系溶媒の種類にも特に限定はなく、水、及び水と混和可能な有機溶媒と水との混合溶媒をその好ましい例として挙げることができるが、水を用いることが特に好ましい。
水と混和可能な有機溶媒と水との混合溶媒も好適に用いられる。水と混和可能な有機溶
媒としては、従来公知のものが使用できる。例えば、メチルアルコール、エチルアルコー
ル、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール(IPA)、n-ブチルアルコー
ル、s-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、t-ブチルアルコールなどのアルコ
ール類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチ
ル、酢酸イソブチル、酢酸メトキシブチル、酢酸セロソルブ、酢酸アミル、乳酸メチル、
乳酸エチル、乳酸ブチルなどのエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソ
ブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、N-メチル-2
-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミドなどのア
ミド類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類などが挙げられる。なかでも、アル
コール類が好適に用いられ、IPAが特に好適に用いられる。これらの水と混和可能な有
機溶媒は単独で用いても混合して用いてもよい。
【0037】
本発明の炭素粉末用分散剤の優れた分散性能により、本実施形態の炭素粉末分散体においては、炭素粉末が良好な分散状態で分散している。
炭素粉末の分散状態は、炭素粉末の凝集物(通常二次粒子であるが、三次粒子等である場合もある。)の平均分散粒子径を測定し、これを炭素粉末の一次粒子径と比較することで評価することができる。
炭素粉末の分散状態が良好であれば、炭素粉末が凝集物を形成する傾向が小さく、凝集物の平均分散粒子径/一次粒子径の比はより小さなものとなる。炭素粉末の分散状態が良好でなく炭素粉末が凝集し易ければ、凝集物の平均分散粒子径/一次粒子径の比はより大きなものとなる。
前記炭素粉末の凝集物の平均分散粒子径は、当該技術分野において公知の方法で測定することができ、例えば、炭素粉末分散体を水等で適当な濃度に希釈した後、レーザ光を用いた動的光散乱法により測定することができる。より具体的には、本願実施例に記載の方法により測定することができる。
【0038】
炭素粉末の凝集物の平均分散粒子径/一次粒子径の比は、1~200であることが好ましく、1~100であることがより好ましく、1~50であることが特に好ましい。
炭素粉末の凝集物の平均分散粒子径は、50~1000nmであることが好ましく、100~800nmであることがより好ましく、200~600nmであることが特に好ましい。
【0039】
本発明の炭素粉末用分散剤の優れた分散性能により、本実施形態の炭素粉末分散体においては、炭素粉末の良好な分散状態が長期間にわたって維持できる。
本発明においては、炭素粉末の良好な分散状態が1日間以上維持されることが好ましく、3日間以上維持されることがより好ましく、7日間以上維持されることが特に好ましい。
分散状態の維持については、例えば初期(分散体調製直後)の炭素粉末の凝集物の平均分散粒子径と、長期保管後、例えば7日間保管後の炭素粉末の凝集物の平均分散粒子径とを比較することで評価することができる。
7日間保管後の炭素粉末の凝集物の平均分散粒子径/初期の炭素粉末の凝集物の平均分散粒子径の比は、3以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましく、1.5以下であることが特に好ましい。
【0040】
本実施形態の炭素粉末分散体における、凝集物の分散粒子径の多分散指数は、0.9以下であることが好ましく、0.7以下であることがより好ましく、0.5以下であることが特に好ましい。
多分散指数が0.9以下であると、凝集物の分散粒子径の分布が十分に単分散となり、保存安定性等の点で好ましい。
多分散指数は、粒子径分布の広がりを示す無次元の指数であり、レーザ光を用いた動的光散乱法により得られる散乱光の一次(光電場)の自己相関関数から、下式により定義される。多分散指数の数値が低い方が粒子径分布はより単分散であり、より分散性に優れる。
【数1】

式中、g(τ)は、散乱光の一次(光電場)の自己相関関数であり、τは時間であり、ABは定数であり、<Γ>は平均の減衰定数であり、多分散指数はμ/<Γ>として計算される。したがって、g(τ)の対数について2次関数フィッティングを行うことにより、多分散指数を求めることができる。
【0041】
本発明の炭素粉末用分散剤の優れた分散性能により、本実施形態の炭素粉末分散体においては沈殿物が発生しないか、あるいは沈殿物の量が顕著に低減される。
例えば、炭素粉末分散体を調製から7日間静置後に外観を観察した際に沈殿物が観察されないことが好ましく、スパチュラを用いて沈殿物の有無を確認した際に沈殿物が掬えないことが好ましい。
【0042】
本発明の炭素粉末用分散剤の優れた分散性能により、本実施形態の炭素粉末分散体は優れた減粘性を有し、すなわち流動性が高い。
例えば、炭素粉末分散体を調製から7日間静置後にミキサーを用いて混合したサンプルを目視で観察した際に、流動性が認められることが好ましく、さらにその際粘度が低いことが特に好ましい。
【0043】
本発明の炭素粉末用分散剤による炭素粉末の処理や分散の方法や、上記実施形態の炭素粉末分散体の製造方法には特に制限はなく、例えば、ヘンシェルミキサー、ビーズミル、ボールミル、プラネタリーミキサー、ペイントシェーカー、アトマイザーコロイドミル、バンバリミキサ等を用いた方法、乾式法、湿式法、インテグラルブレンド法等を適宜採用することができる。
先に炭素粉末の表面を分散剤で処理し、その後に溶剤、樹脂やゴム等と配合することもでき、炭素粉末を溶剤、樹脂やゴム等と配合する際に分散剤を添加する方法であってもよい。
【0044】
本発明の炭素粉末用分散剤の優れた分散性能により、上記実施形態の炭素粉末分散体は炭素粉末の凝集が抑制され、良好な分散状態で分散しているので、炭素粉末を溶媒等の液体や樹脂等の固体材料中に均一に分散させることができるので、各種用途、例えば電子材料、印刷材料、導電性電子材料、誘電性電子材料等に好適に使用することができる。
【0045】
上記実施形態の炭素粉末分散体、及びこれを用いた上記各種材料は、本発明の炭素粉末用分散剤、炭素粉末、及び水系溶媒のみからなっていてもよいが、本発明の目的を損なわない限りにおいて、他の材料を含有していてもよい。
他の材料としては、樹脂、ゴム、有機溶剤、安定剤、酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、分散助剤等を挙げることができるが、これらには限定されない。
【実施例
【0046】
以下、実施例/比較例を参照しながら、本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明の範囲は、いかなる意味においても、これらの実施例/比較例により限定されるものではない。
【0047】
下記実施例/比較例においては、以下の方法にしたがって特性の測定、評価を行った。
(沈殿物)
炭素粉末分散液を7日間静置後、外観を観察した後スパチュラを用いて沈殿物の有無を確認した。沈殿物が掬えないものを〇、一部分散しているが沈殿物があるものを△、分散しておらず沈殿物があるものを×と評価した。
【0048】
(平均分散粒子径)
炭素粉末分散液の一部を純水により100倍に希釈し、粒径測定システムELSZ-1000(大塚電子製)を用いて粒径(平均分散粒子径)を測定した。また、該分散液を7日間静置後、再度ミキサーを用いて混合したサンプルの一部を純水により100倍に希釈し、同様にして粒径を測定した。
当該測定システムの機能により、多分散指数を併せて評価した。
【0049】
以下実施例/比較例において、使用した重合体の詳細は以下のとおりである。

・付加塩型アリルアミン(共)重合体1
アリルアミン塩酸塩単独重合体
重量平均分子量:15,000

・遊離型アリルアミン(共)重合体1
アリルアミン単独重合体
重量平均分子量:15,000

・付加塩型ジアリルアミン(共)重合体1
ジアリルアミン塩酸塩単独重合体
重量平均分子量:50,000

・遊離型ジアリルアミン(共)重合体1
ジアリルアミン単独重合体
重量平均分子量:5,000

・付加塩型ジアリルアミン(共)重合体2
ジアリルメチルアミン塩酸塩単独重合体
重量平均分子量:20,000

・カウンターイオン型ジアリルアミン(共)重合体1
ジアリルジメチルアンモニウムクロリド単独重合体
重量平均分子量:30,000

・付加塩型ジアリルアミン(共)重合体3
ジアリルアミン塩酸塩アクリルアミド共重合体
重量平均分子量:10,000

・カウンターイオン型ジアリルアミン(共)重合体2
ジアリルジメチルアンモニウムクロリドアクリルアミド共重合体
重量平均分子量:180,000

・付加塩型ジアリルアミン(共)重合体4
ジアリルアミン塩酸塩マレイン酸共重合体
重量平均分子量:推定20,000以上
(付加塩型ジアリルアミン(共)重合体4の重量平均分子量自体は測定できなかったが、より粘度が低く従ってより低分子量である同種の重合体の重量平均分子量の測定結果が16,000であったことから、付加塩型ジアリルアミン(共)重合体4の重量平均分子量は20,000以上であると推定される。)

・遊離型ジアリルアミン(共)重合体2
ジアリルジメチルアンモニウムクロリドマレイン酸共重合体
重量平均分子量:25,000

・カウンターイオン型ジアリルアミン(共)重合体3
ジアリルジメチルアンモニウムクロリド二酸化硫黄マレイン酸共重合体
重量平均分子量:20,000
【0050】
実施例/比較例において、使用したカーボンブラックの詳細は以下のとおりである。
・カーボンブラック1
三菱ケミカル株式会社製、銘柄名:#40
一次粒子径:24nm
・カーボンブラック2
三菱ケミカル製株式会社製、銘柄名:MA100
一次粒子径:24nm
・カーボンブラック3
三菱ケミカル株式会社製、銘柄名:3230B
一次粒子径:23nm
・カーボンブラック4
デンカ株式会社製 デンカブラックLi400
一次粒子径:48nm
【0051】
1.カーボンブラック1の分散試験
(比較例1-1)
カーボンブラック1を20質量部、付加塩型アリルアミン(共)重合体1を5質量部、水75質量部をサンプル瓶に計り取り、混合した。その後ミキサーで1分程度混合し、炭素粉末分散液を得た。
当該炭素粉末分散液について、上記方法にしたがい、沈殿物、並びに初期及び7日後の分散性(平均分散粒子径、及び多分散指数)を評価した。結果を表1に示す。
【0052】
(実施例1-1~1-9、比較例1-2)
付加塩型アリルアミン(共)重合体1を、それぞれ表1に示す重合体に変更したことを除くほか、比較例1-1と同様にして炭素粉末分散液を得て、評価した。
結果を表1に示す。
【0053】
(ブランク)
付加塩型アリルアミン(共)重合体1を使用しなかったことを除くほか、比較例1-1と同様にして炭素粉末分散液を得て、評価した。
結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
比較例1-1及び1-2の結果から、付加塩型アリルアミン(共)重合体を分散剤として使用すると、遊離型アリルアミン(共)重合体を使用した場合と比較してカーボンブラックの粒径が大きく、分散性能に劣ることが確認できた。
一方、実施例1-1から1-9の結果から、本発明に従いジアリルアミン(共)重合体を分散剤として使用した場合、付加塩型やカウンターイオン型のジアリルアミン(共)重合体であっても、遊離型のジアリルアミン(共)重合体と同等の分散性能が実現できることが分かった。
また、本試験の各実施例から、本発明に従いジアリルアミン(共)重合体を分散剤として使用した場合、当該ジアリルアミン(共)重合体が、マレイン酸単位等のアニオン性構成単位やアクリルアミド単位等のノニオン性構成単位を有するものであっても良好な分散性が得られ、またジアリルアミン単位が2級アミン、3級アミン、及び4級アミンのいずれを有するものであっても良好な分散性が得られることが分かった。
【0056】
2.カーボンブラック2の分散試験
(比較例2-1)
カーボンブラック2を20質量部、付加塩型アリルアミン(共)重合体1を5質量部、水75質量部をサンプル瓶に計り取り、混合した。その後ミキサーで1分程度混合し、炭素粉末分散液を得た。
当該炭素粉末分散液について、上記方法にしたがい、沈殿物、並びに初期及び7日後の分散性(平均分散粒子径、及び多分散指数)を評価した。結果を表2に示す。
【0057】
(実施例2-1~2-9、比較例2-2)
付加塩型アリルアミン(共)重合体1を、それぞれ表2に示す重合体に変更したことを除くほか、比較例2-1と同様にして炭素粉末分散液を得て、評価した。
結果を表2に示す。
【0058】
(ブランク)
付加塩型アリルアミン(共)重合体1を使用しなかったことを除くほか、比較例2-1と同様にして炭素粉末分散液を得て、評価した。
結果を表2に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
比較例2-1及び2-2の結果から、カーボンブラック2についても、付加塩型アリルアミン(共)重合体を分散剤として使用すると、遊離型アリルアミン(共)重合体を使用した場合と比較して分散性能に劣ることが確認できた。
また、実施例2-1~2-9の結果から、カーボンブラック2についても、本発明に従いジアリルアミン(共)重合体を分散剤として使用した場合、付加塩型やカウンターイオン型のジアリルアミン(共)重合体であっても、遊離型のジアリルアミン(共)重合体と同等の分散性能が実現できることが分かった。
また、本試験の各実施例から、カーボンブラック2についても、本発明に従いジアリルアミン(共)重合体を分散剤として使用した場合、当該ジアリルアミン(共)重合体が、マレイン酸単位等のアニオン性構成単位やアクリルアミド単位等のノニオン性構成単位を有するものであっても良好な分散性が得られ、またジアリルアミン単位が2級アミン、3級アミン、及び4級アミンのいずれを有するものであっても良好な分散性が得られることが分かった。
【0061】
3.カーボンブラック3の分散試験
(比較例3-1)
カーボンブラック3を20質量部、付加塩型アリルアミン(共)重合体1を5質量部、水75質量部をサンプル瓶に計り取り、混合した。その後ミキサーで1分程度混合し、炭素粉末分散液を得た。
当該炭素粉末分散液について、上記方法にしたがい、沈殿物、並びに初期及び7日後の分散性(平均分散粒子径、及び多分散指数)を評価した。結果を表3に示す。
【0062】
(実施例3-1~3-9、比較例3-2)
付加塩型アリルアミン(共)重合体1を、それぞれ表3に示す重合体に変更したことを除くほか、比較例3-1と同様にして炭素粉末分散液を得て、評価した。
結果を表3に示す。
【0063】
(ブランク)
付加塩型アリルアミン(共)重合体1を使用しなかったことを除くほか、比較例3-1と同様にして炭素粉末分散液を得て、評価した。
結果を表3に示す。
【表3】
【0064】
比較例3-1及び3-2の結果から、カーボンブラック3についても、付加塩型アリルアミン(共)重合体を分散剤として使用すると、遊離型アリルアミン(共)重合体を使用した場合と比較して分散性能に劣ることが確認できた。
また、実施例3-1~3-9の結果から、カーボンブラック3についても、本発明に従いジアリルアミン(共)重合体を分散剤として使用した場合、付加塩型やカウンターイオン型のジアリルアミン(共)重合体であっても、遊離型のジアリルアミン(共)重合体と同等の分散性能が実現できることが分かった。
また、本試験の各実施例から、カーボンブラック3についても、本発明に従いジアリルアミン(共)重合体を分散剤として使用した場合、当該ジアリルアミン(共)重合体が、マレイン酸単位等のアニオン性構成単位やアクリルアミド単位等のノニオン性構成単位を有するものであっても良好な分散性が得られ、またジアリルアミン単位が2級アミン、3級アミン、及び4級アミンのいずれを有するものであっても良好な分散性が得られることが分かった。
【0065】
4.カーボンブラック4の分散試験
(比較例4-1)
カーボンブラック4を10質量部、付加塩型アリルアミン(共)重合体1を5質量部、水85質量部をサンプル瓶に計り取り、混合した。その後ミキサーで1分程度混合し、炭素粉末分散液を得た。
当該炭素粉末分散液について、上記方法にしたがい、沈殿物、並びに初期及び7日後の分散性(平均分散粒子径、及び多分散指数)を評価した。結果を表4に示す。
【0066】
(実施例4-1~4-9、比較例4-2)
付加塩型アリルアミン(共)重合体1を、それぞれ表4に示す重合体に変更したことを除くほか、比較例4-1と同様にして炭素粉末分散液を得て、評価した。
結果を表1に示す。
【0067】
(ブランク)
付加塩型アリルアミン(共)重合体1を使用しなかったことを除くほか、比較例4-1と同様にして炭素粉末分散液を得て、評価した。
結果を表4に示す。
【表4】

【0068】
比較例4-1及び4-2の結果から、カーボンブラック4についても、付加塩型アリルアミン(共)重合体を分散剤として使用すると、遊離型アリルアミン(共)重合体を使用した場合と比較して分散性能に劣ることが確認できた。
また、実施例4-1~4-9の結果等から、カーボンブラック4についても、本発明に従いジアリルアミン(共)重合体を分散剤として使用した場合、付加塩型やカウンターイオン型のジアリルアミン(共)重合体であっても、遊離型のジアリルアミン(共)重合体と同等の分散性能が実現できることが分かった。
また、本試験の各実施例から、カーボンブラック4についても、本発明に従いジアリルアミン(共)重合体を分散剤として使用した場合、当該ジアリルアミン(共)重合体が、マレイン酸単位等のアニオン性構成単位やアクリルアミド単位等のノニオン性構成単位を有するものであっても良好な分散性が得られ、またジアリルアミン単位が2級アミン、3級アミン、及び4級アミンのいずれを有するものであっても良好な分散性が得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の炭素粉末用分散剤は、水系溶媒等に炭素粉末を分散させる性能に優れるとともに、製造にあたって付加塩等を除去するプロセスを必要とせず、生産性やコスト等にも優れるという実用上高い価値を有する技術的効果を実現するものであり、性能及びコストに優れた炭素粉末分散体を、電子材料、印刷材料、導電性電子材料、誘電性電子材料等の用途に提供できるので、電気電子産業、印刷産業、部品産業等の各種の産業において、高い利用価値、及び高い利用可能性を有する。